説明

被記録媒体排出装置および記録装置

【課題】被記録媒体が媒体受け面上に確実に排出される媒体排出装置およびこの媒体排出装置を備えた記録装置を提供する。
【解決手段】シートSTを被記録面SPと反対側の面に当接することで支持するとともに水平に対して傾斜角αで傾斜する媒体支持面52が設けられ、シートを媒体支持面に沿って重力方向側に排出する排出部15と、排出部から重力方向側に離れた位置に設けられた媒体受け面82により排出部から排出されるシートを受ける媒体受け部18と、を備え、排出部から排出されたシートが、その排出方向の先端縁を媒体受け面に接触させたのち、被記録面と媒体受け面とが対向する状態に湾曲して媒体受け面上に排出される被記録媒体排出装置100であって、排出部に設けられる媒体支持面の傾斜角を水平に対して相対的に大きく傾斜した傾斜角αと水平に対して相対的に小さく傾斜した傾斜角との間で変更する媒体支持面変更手段17を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録が施される被記録媒体を排出する被記録媒体排出装置およびこの被記録媒体排出装置を備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、記録装置の一種として、ロール状に巻かれた状態から巻き出されて記録部を通過するように搬送される被記録媒体に対して、記録部に備えられた記録ヘッドから液体を噴射して記録を施したのち、その被記録媒体を所定の長さに切断して排出するインクジェット式のプリンターが広く知られている。この種のプリンターは、例えば特許文献1に開示されているように、通常、大型プリンターであり、鉛直方向上側に被記録媒体に対して記録を施す印刷部(記録部)を有するプリンター本体(装置本体)と、その下側に装置本体と離れて配設された排紙スタック部(媒体受け面)とを備えている。
【0003】
このような大型プリンターでは、同じく特許文献1に開示されたように、作業性や水平方向における省スペース化のため、装置本体において搬送される被記録媒体の搬送方向を水平方向に対して傾斜させるとともに、搬送方向の下流側において記録後の被記録媒体を媒体受け面に向けて排出する媒体支持面が、搬送方向と同様に傾斜して設けられている。そして、記録が施された後に切断された被記録媒体については、傾斜する媒体支持面に沿って移動(落下)させることにより装置本体から排出する際に、その排出方向の先端縁を、媒体受け面によって接触して受け止めるとともに、その被記録媒体において記録が施された被記録面を媒体受け面と対向させるように湾曲させている。この湾曲によって被記録媒体の排出方向の先端縁は媒体受け面との接触角が小さな鋭角となり、媒体受け面に沿って移動して、被記録面が下側になるフェイスダウン状態で媒体受け面上に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−71535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された大型プリンターにおいて、排出された被記録媒体の排出方向の先端縁が媒体受け面と接触する際の接触角が直角に近い角度である場合は、被記録媒体の排出方向の先端縁が媒体受け面に沿って円滑に移動しない状態が発生する。このため、切断された被記録媒体が媒体受け面上に折り重なった状態となって媒体受け面を塞いでしまうことが起こり得る。すると、続いて記録が施された被記録媒体が、先に排出された被記録媒体によって塞がれた媒体受け面を移動できなくなり、ひいては記録部において適切に搬送されない状態となって記録が正しく行われなくなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主な目的は被記録媒体が媒体受け面上に適切に排出される媒体排出装置およびこの媒体排出装置を備えた記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の被記録媒体排出装置は、排出される被記録媒体を当該被記録媒体の被記録面とは反対側の面に当接することで支持するとともに水平に対して前記被記録媒体の排出方向の下流側が下方となるように傾斜する媒体支持面が設けられ、前記被記録媒体を前記媒体支持面に沿って重力方向側に排出する媒体排出部と、前記媒体排出部から重力方向側に離れた位置に前記媒体支持面の延長線と交差するように設けられた媒体受け面により前記媒体排出部から排出される前記被記録媒体を受ける媒体受け部と、を備え、前記媒体排出部から排出された前記被記録媒体が、その排出方向の先端縁を前記媒体受け面に接触させたのち、前記被記録面と前記媒体受け面とが対向する状態に湾曲して前記媒体受け面上に排出される被記録媒体排出装置であって、前記媒体排出部に設けられる前記媒体支持面の傾斜角を水平に対して傾斜した第1傾斜角と、水平に対して前記第1傾斜角よりも小さく傾斜した第2傾斜角との間で変更する媒体支持面変更手段を備える。
【0008】
この構成によれば、媒体支持面の傾斜角を変更すると、媒体支持面に沿って媒体排出部から排出される被記録媒体の排出方向が変更される。すると、基端側が媒体支持面に支持されつつ先端側が媒体排出部から突出した状態にある排出途中の被記録媒体に対して、その被記録媒体を被記録面と前記媒体受け面とが対向する状態に湾曲させるように作用する曲げ力を変更することができる。例えば、媒体支持面の傾斜角を第1傾斜角から第2傾斜角に変更した場合には、被記録媒体の排出方向が水平方向に近づく方向に変更される。すると、媒体排出部から排出途中の被記録媒体に対して湾曲させるように作用する曲げ力が大きくなる方向に変更される。その結果、そのように変更した曲げ力によって被記録媒体は被記録面側が凸面となるように確実に湾曲させられ、媒体受け面に接触した被記録媒体の排出方向の先端縁と媒体受け面とがなす内角すなわち接触角が容易に小さい角度となる。これにより、排出方向の先端縁が媒体受け面に接触したあとの被記録媒体は、その排出方向の先端縁が媒体受け面に沿って円滑に移動して被記録面を媒体受け面に対向させた状態で媒体受け面上に適切に排出される。
【0009】
本発明の被記録媒体排出装置において、前記媒体受け面は、水平に対して前記媒体支持面が傾斜する方向と反対方向に第3傾斜角で傾斜する。
この構成によれば、媒体排出部から排出された被記録媒体は、その排出方向の先端縁が媒体受け面に接触したあと、媒体受け面に沿って重力方向に移動しやすくなる。この結果、被記録面が媒体受け面と対向する状態つまりフェイスダウン状態で適切に媒体受け面上に排出される。
【0010】
本発明の被記録媒体排出装置において、前記媒体支持面の前記第1傾斜角と前記媒体受け面の前記第3傾斜角とを加算した角度は、90度より大きい角度であり、前記媒体支持面の前記第2傾斜角と前記媒体受け面の前記第3傾斜角とを加算した角度は、90度より小さい角度である。
【0011】
この構成によれば、第1傾斜角の媒体支持面に沿って排出された被記録媒体は、その被記録媒体において媒体受け面に接触する排出方向の先端縁と媒体受け面とがなす内角すなわち接触角が鋭角となるので、媒体受け面に接触したあとの被記録媒体の排出方向先端部が媒体受け面に沿って移動し易くなる。一方、第2傾斜角の媒体支持面に沿って排出された後に媒体受け面に接触した被記録媒体に対しては、被記録媒体を被記録面側が凸面となるように湾曲させる力を作用させるので、被記録媒体は確実に湾曲して媒体受け面との接触角が容易に小さくなる。
【0012】
本発明の被記録媒体排出装置において、前記媒体支持面変更手段は、前記被記録媒体の曲げ剛性に応じて前記媒体支持面の傾斜角を変更する。
この構成によれば、被記録媒体の曲げ剛性すなわち腰の強さが異なる各種の被記録媒体を、適切に媒体受け面上に排出できる。
【0013】
本発明の被記録媒体排出装置において、前記第2傾斜角の媒体支持面の排出方向側端部と前記媒体受け面との間の重力方向に沿う距離は、前記第1傾斜角の媒体支持面の排出方向側端部と前記媒体受け面との間の重力方向に沿う距離以上である。
【0014】
この構成によれば、第2傾斜角の媒体支持面に沿って排出される被記録媒体に対して、第1傾斜角の媒体支持面に沿って排出される被記録媒体よりも大きな曲げ力を作用させることができる。
【0015】
本発明の記録装置は、被記録媒体に対して媒体排出部から排出される前に前記被記録媒体の被記録面に液体を噴射して記録を施す記録部と、上記構成の被記録媒体排出装置と、を備える。
【0016】
この構成によれば、被記録面に記録が施された被記録媒体の排出方向を変更することによって媒体受け面に接触した被記録媒体に対して当該被記録媒体を被記録面と前記媒体受け面とが対向する状態に湾曲させるように作用する曲げ力を変更することができる。そして変更した曲げ力によって被記録媒体を確実に湾曲させ、媒体受け面に接触した被記録媒体の排出方向先端部と媒体受け面とがなす内角すなわち接触角を鋭角にすることができる。この結果、媒体受け面に接触したあとの被記録媒体が、その排出方向先端部が媒体受け面に沿って移動して被記録面を媒体受け面に対向させた状態で適切に媒体受け面上に排出される記録装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施形態の記録装置の概略構成を一部断面で示す側面図。
【図2】実施形態の被記録媒体排出装置において、媒体支持面の傾斜が緩やかになるように変更した状態を示す側面図。
【図3】剛性の高いシートが傾斜角変更前の媒体支持面に沿って排出される図で、(a)はシートの先端縁が媒体受け面に接触した直後の状態図、(b)は(a)の状態から更にシートが排出された状態図、(c)はシートが切断されカットシートとなって排出される状態図。
【図4】剛性の低いシートが傾斜角変更前の媒体支持面に沿って排出される図で、(a)はシートの先端縁がシート受け面に接触した直後の状態図、(b)は(a)の状態から更にシートが排出された状態図、(c)はシートが切断されカットシートとなって排出される状態図。
【図5】剛性の低いシートが傾斜角変更後の傾斜の緩い媒体支持面に沿って排出される図で、(a)はシートの先端縁がシート受け面に接触した直後の状態図、(b)は(a)の状態から更にシートが排出された状態図、(c)はシートが切断されカットシートとなって排出される状態図。
【図6】変形例の媒体支持面変更手段の概略構造図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施形態である、液体の一例としてのインクを噴射する液体噴射ヘッドを記録ヘッドとして有し、ロール状に巻かれたロール紙から給送される長尺の被記録媒体としてのシート(例えば用紙)の被記録面に対して、記録ヘッドからインクを噴射して画像を記録する記録装置について、図を参照して説明する。なお、以降の説明を容易にするため、図1に示したように、反重力方向を上方向、重力方向を下方向とする。また、これと交差する方向であって、画像が記録されるシートSTに対して、記録ヘッド42が位置する側の方向を前方向、その反対方向を後方向とする。さらに上下方向および前後方向の双方と交差する方向であってシートSTの幅方向を、前方から見て、それぞれ右方向、左方向とする。
【0019】
図1に示すように、記録装置11は、シートSTの被記録面SPに記録を施したのちシートSTを切断してカットシートCS(図3(c)参照)として排出する装置本体部12と、その重力方向となる下方に、排出されるカットシートCSを被記録面SPを下側にして積み重ねた状態で受ける(スタックする)媒体受け部18と、を備えている。装置本体部12はシートSTの排出方向と交差するシートSTの幅方向を長手方向とした略直方体形状を有し、装置本体部12の長手方向の両側端部に設けられた板状の結合部材19によって媒体受け部18と連結固定されている。なお、図1では装置本体部12について一部断面で示している。
【0020】
まず装置本体部12について説明する。装置本体部12は、複数の部材で構成されたケース体21で構成され、長尺のシートSTを収容した媒体収容部13、シートSTに記録を施す記録部14、シートSTを装置本体部12から媒体受け部18へ向けて排出する媒体排出部としての排出部15を備える。また、シートSTの排出方向を変更する媒体支持面変更手段17、および排出されるシートSTを切断する切断手段16を備える。
【0021】
媒体収容部13は、回転軸32を中心に回動するカバー部材31によって開蓋および閉蓋される収容空間を有し、この収容空間にロール状に巻かれてロール体RTとされた長尺のシートSTを収容する。なお、ロール体RTを交換したり収容空間に収容したりする際には、カバー部材31を図中実線で示した閉蓋状態から図中二点鎖線で示した開蓋状態に回転させる。
【0022】
記録部14は、シートSTに対して被記録面SP側の方向(前方向)に位置し、不図示の駆動手段(モーターなど)によってシートSTの幅方向となる装置本体部12の長手方向に往復移動するキャリッジ41を備えている。キャリッジ41には、シートSTの被記録面SPと対向する位置に記録ヘッド42が設けられている。また、図示しないが、記録装置11はシートSTを記録ヘッド42とは反対側(後方側)から支持する支持台やシートSTを搬送する搬送ローラーを備え、シートSTを搬送方向下流側となる排出部15側へ搬送するとともに、往復移動するキャリッジ41の記録ヘッド42からシートSTの被記録面SPにインクを噴射してシートSTに記録を施す。
【0023】
排出部15は、記録部14から搬送されるシートSTを被記録面SPとは反対側の面に当接することで支持する媒体支持面51が形成された支持面形成部材51mと、この媒体支持面51とシートSTの搬送方向下流側に繋がる媒体支持面52が形成された支持面形成部材52mと、を有している。媒体支持面51,52は、装置本体部12の長手方向沿う平面であってシートSTの幅寸法よりも広い幅を有している。そして、媒体支持面52は、水平から所定の傾斜角α(第1傾斜角)で傾いた前方下がりの傾斜面になっている。ちなみに、本実施形態ではα=60度である。また、支持面形成部材51mは、支持面形成部材52mに対して記録部14側すなわちシートSTの搬送方向上流側に設けられ、媒体支持面51は媒体支持面52よりも水平方向に近い傾斜角の傾斜面とされている。
【0024】
シートSTは、媒体支持面51に支持されて媒体支持面52へ移動した後、媒体支持面52における排出方向側端部となる傾斜方向の下端52aから、装置本体部12の下方(重力方向側)に位置する媒体受け部18に向けて排出される。なお、媒体支持面51と媒体支持面52との繋ぎ目は、媒体支持面52に垂直となる方向において媒体支持面51が前側になる段差53が形成されている。
【0025】
装置本体部12における媒体支持面51,52の左右両端となる位置には、前後上下方向に延設されたケース側壁22(図1では左側のみ図示)が装置本体部12のケース体21の一部材として配設されている。従って、媒体支持面51,52の前方は、ケース体21で覆われない大気開放された開放空間となっている。
【0026】
媒体支持面変更手段17は、この媒体支持面51,52の前方の開放空間に位置するように配設されている。そして、媒体支持面変更手段17は、媒体支持面52に垂直となる方向へのスライド移動可能に設けられた移動体71と、その移動体71に固定され、シートSTを支持する媒体支持面72が形成された支持面形成部材72mと、ケース側壁22に固定され、移動体71がスライド移動する際にその移動を案内する案内部材25と、を備えている。移動体71には、排出部15とは反対側に、移動体71をスライド移動させる際に把持する把持部73が形成され、その排出部15側に、案内部材25と係合する係合部75が形成されている。そして、係合部75が案内部材25と係合状態を保ちながら摺動することによって、移動体71は排出部15の媒体支持面52に対して近づくように前方上側から後方下側(図中白抜き矢印で示す方向)にスライド移動する。なお、媒体支持面72は媒体支持面52と同様に長手方向に沿う平面であって、水平から傾いた前方下がりの傾斜面である。
【0027】
切断手段16は、記録部14と排出部15との間に設けられ、不図示の駆動手段によって回転されるとともに、シートSTの幅方向に移動する回転カッター61を備えている。この回転カッター61が、シートSTの厚さ方向に切り込みを入れつつシートSTの幅方向に移動することによってシートSTを切断して、シートSTを所定長さのシートすなわちカットシートCSに切り分ける。
【0028】
装置本体部12では、媒体収容部13が装置本体部12の上方後側に配設され、排出部15が装置本体部12の下方前側に配設されている。そして、ロール体RTから巻きだされたシートSTは、記録部14に設けられた搬送ローラーを含め、装置本体部12内に形成された不図示の搬送手段によって、斜め上方後側から斜め下方前側に移動して排出部15に搬送される。この斜め方向に搬送されるシートSTの被記録面SPに記録部14において記録が施されたのち、搬送方向の下流側に搬送されて排出部15から排出されたシートSTは、その排出途中において切断手段16によって所定の長さに切断され、カットシートCSとなって排出部15から排出される。
【0029】
次に媒体受け部18について説明する。媒体受け部18は、装置本体部12の下方に設けられ、装置本体部12と結合部材19を介して連結された基台部81と、装置本体部12の排出部15から排出されたシートST(及びカットシートCS)を受けるための受け面形成部材82m,83mとを有している。各受け面形成部材82m,83mは、基台部81によってその前後方向の両端縁がそれぞれ固定されることによって、基台部81において装置本体部12に対して近い後側に媒体受け面82を、遠い前側に媒体受け面83をそれぞれ形成する。なお、後側の媒体受け面82は、排出部15から下方へ離れた位置に、排出部15における排出方向側の媒体支持面52の延長線と交差するように設けられる。本実施形態では、媒体受け面82,83を形成する受け面形成部材82m,83mは、布などのシート材料で形成される。また、受け面形成部材82mと受け面形成部材83mとは、材料が繋がった一枚のシート材料で形成されていてもよい。
【0030】
受け面形成部材82mは、その後端縁が基台部81に固定された固定部材86の後端部86aによって左右方向に沿った直線状に固定され、その前端縁が基台部81の前端部の左右両側から上方に向けて立設された一対の支柱部材81bの上部間に架設された棒状部材85によって左右方向に沿った直線状に固定される。そして、受け面形成部材82mは、その前端縁および後端縁がそれぞれ離れる方向に張力が加えられ、全体が張られた状態になっている。また、棒状部材85は固定部材86の後端部86aよりも上方に位置するように配設されている。この結果、媒体受け面82は、ほぼ平坦面であって、水平から傾斜角β(第3傾斜角)で傾いた後方下がりの傾斜面とされている。従って、媒体受け面82は、水平から前方下がりの傾斜面である装置本体部12の媒体支持面52とは逆の方向に傾斜する傾斜面である。なお、本実施形態では、媒体受け面82の傾斜角βは、これに媒体支持面52の傾斜角αを加算した角度が90度よりも大きい鈍角になる角度で設定されている。
【0031】
このように張られて平坦面になっている媒体受け面82の途中には、シートSTが媒体受け面82に沿う後方に向けて移動するのを規制する規制部84が設けられている。規制部84は、基台部81を構成する固定部材81aに一方の端部88aが固定された規制部材88によって形成される。本実施形態では、規制部材88はワイヤー部材であり、その一部が規制部84として機能する構成とされている。
【0032】
また、受け面形成部材83mは、その前端縁が基台部81に固定されたアーム状の固定部材87の前端部87aによって、左右方向に沿った直線状に固定され、その後端縁が基台部81の両支柱部材81bの上部間に架設された棒状部材85によって左右方向に沿った直線状に固定される。そして、固定部材87の前端部87aと棒状部材85とは、受け面形成部材83mが撓んだ状態になるように所定の間隔を有して配置されることによって、媒体受け面83は下側に湾曲した凹面形状になっている。
【0033】
このように受け面形成部材82m,83mが固定された媒体受け部18は、媒体受け面82と媒体受け面83とによって、媒体支持面52に沿って排出部15から排出されたシートST(カットシートCS)を、被記録面SPを媒体受け面82,83と対向する下側(フェイスダウン)にしてスタックする。このため、媒体受け面82,83は、左右方向における幅寸法がシートST(カットシートCS)の幅寸法よりも大きく設定されている。また、排出部15からの排出方向を媒体支持面52に沿う方向に維持したままシートSTが排出されても、シートSTにおける排出方向の先端縁SFが媒体受け面82に接触するように、棒状部材85は、排出部15の媒体支持面52の延長面から媒体支持面52に垂直な方向において記録部14側へ寸法L1だけ離れて配置されている。
【0034】
このように、媒体受け部18は排出部15から排出されるシートSTを受けてスタックする機能を有することから、排出部15との間で被記録媒体排出装置100を構成する。なお、媒体受け部18の基台部81は、記録装置11の全体の基台としても機能する。
【0035】
さて、このような被記録媒体排出装置100を備える記録装置11は、媒体支持面変更手段17によって、排出部15から排出されるシートSTの排出方向を、媒体支持面52に沿う方向から異なる方向へ変更可能である。すなわち、図1に示すように、媒体支持面変更手段17において記録装置11の使用者が把持部73を把持して移動体71を排出部15における媒体支持面52側(図中白抜き矢印方向)に押し込んでスライド移動させる。
【0036】
移動体71がスライド移動した状態を、図2を参照して説明する。図2に示すように、媒体支持面72が形成された支持面形成部材72mを固定した移動体71が媒体支持面52側にスライド移動すると、媒体支持面72の傾斜方向の上端72bが、媒体支持面51と媒体支持面52との間の段差53内に位置するように挿入される。このため、上方に位置する記録部14側から下方に位置する排出部15側に搬送されて移動するシートSTは、媒体支持面51に続いて媒体支持面72によって被記録面SPの反対側の面が支持される。従って、排出部15から排出されるシートSTは、媒体支持面72の排出方向側端部である傾斜方向の下端72aから、媒体支持面72に沿う方向を排出方向として排出される。
【0037】
前述するように媒体支持面72は媒体支持面52と同様に装置本体部12の長手方向(左右方向)に沿う平面である。そして、本実施形態では、媒体支持面72は、水平からの傾斜角が媒体支持面52の傾斜角αよりも水平に近い緩やかな前方下がりの傾斜角γ(第2傾斜角)になっている。なお、本実施形態では、媒体支持面72の傾斜角γは、媒体受け面82の傾斜角βを加算した値が90度よりも小さい鋭角になる角度で設定されている。ちなみに、本実施形態ではγ=5度である。
【0038】
従って、記録装置11では、シートSTの排出方向が、媒体支持面変更手段17によって水平に近い方向へ変更される。もとより、移動体71はスライド移動によって媒体支持面52から離れる方向つまり後方から前方への移動が可能であり、この前方への移動によって、媒体支持面72が前方に移動するため、排出部15において再び媒体支持面51に続いて媒体支持面52がシートSTを支持する状態になる。
【0039】
なお、記録装置11において、図1に示すように、媒体支持面52の下端52aと媒体受け面82との間は、鉛直方向において距離La離れている。また、図2に示すように、媒体支持面72の下端72aと媒体受け面82との間は、鉛直方向において距離Lb離れている。そして本実施形態では、距離Laと距離Lbとは、ほぼ等しい寸法に設定されている。
【0040】
本実施形態の記録装置11では、シートSTは剛性の異なる複数種のシートSTが用いられる。そして、用いられるシートSTの剛性に応じて、そのシートSTを排出させる際に使用する媒体支持面を、使用者が媒体支持面変更手段17により媒体支持面52から媒体支持面72へ、またはその逆に、媒体支持面72から媒体支持面52へ変更する。この変更によって被記録媒体排出装置100におけるシートSTの排出時の作用が異なる。以下この異なる作用について説明する。
【0041】
最初に、被記録媒体排出装置100において、比較的剛性の高いシートSTが媒体支持面52に沿って排出部15から排出される場合の作用について、図3(a),(b),(c)を参照して説明する。
【0042】
図3(a)に示すように、記録部14によって被記録面SPに記録が施されて搬送されたシートSTは、この搬送に伴って媒体支持面52に沿う方向(図中白抜き矢印H1)を排出方向として排出部15から排出される。そして、排出方向先端側の所定の長さが排出された時点で、シートSTの排出方向の先端縁SFが媒体受け面82に接触する。この接触状態では、シートSTは媒体収容部13においてロール体RTとされていたために、シートSTの剛性によって巻き癖が残り、媒体支持面52の下端52aの近傍から先端縁SFまでの先端部分において被記録面SP側が凸面となるように曲がった湾曲部R1を形成する。
【0043】
この状態から、さらにシートSTが排出部15から媒体支持面52に沿って(図中白抜き矢印H1)排出されると、先に排出されたシートSTにおける先端縁SF側の部分に対して後から続けて排出されるシートSTの部分が排出方向に力を加える。このとき、本実施形態では、媒体受け面82と接触したシートSTの先端縁SFにおいて、シートSTと媒体受け面82とがなす内角すなわち接触角θが大きいため、媒体受け面82と先端縁SFとの間に作用する摩擦力によって、先端縁SFは媒体受け面82に接触した位置に留まるものとする。従って、排出方向に加わる力は、排出されたシートSTに対して、その先端縁SFを支点にしてシートSTを回転させて湾曲させる曲げ力(図中矢印F1)として作用する。
【0044】
すると、図3(b)に示すように、この曲げ力の作用の結果、排出されたシートSTは先端部分が曲げられて湾曲部R1よりも小さい曲率半径の湾曲部R2が形成され、先端縁SFにおいてシートSTと媒体受け面82とがなす接触角θがさらに小さくなる。従って、先端縁SFは媒体受け面82と接触した位置から規制部84側へ媒体受け面82に沿って移動する状態になる。
【0045】
またシートSTには、先端部分に湾曲部R2が形成されるのに伴って、媒体支持面52の下端52aの近傍に、湾曲部R2と逆方向に曲がった湾曲部R3が形成される。この湾曲部R3は、シートSTの剛性が高いので、湾曲部R2よりも大きな曲率を有する。
【0046】
この状態において、さらにシートSTが排出部15から媒体支持面52に沿って(図中白抜き矢印H1に沿って)排出されると、図3(c)に示すように、シートSTの先端縁SFが媒体受け面82に沿って移動して規制部84に当接した状態になる。この先端縁SFの規制部84への移動によって、湾曲部R2および湾曲部R3はそれぞれ曲がりが戻され、被記録面SP側を凸面とする全体に曲率半径が大きい湾曲部R4が形成された状態になる。
【0047】
その後、シートSTは所定の長さが排出部15から排出された時点で切断され、被記録面SPに施された記録範囲に応じた長さのカットシートCSに切り分けられる。切り分けられたカットシートCSは、その先端縁SFが媒体受け面82における規制部84と当接する一方、カットシートCSの後端縁SEが媒体支持面52(51)に沿って移動する。この結果、カットシートCSに対して、その先端縁SFを支点に、排出されたカットシートCSを反転するように回転させて曲げようとする曲げ力(図中矢印F2)が発生する。
【0048】
そして、カットシートCSの後端縁SEが装置本体部12から排出部15の開放空間に到達すると、後端縁SEが媒体支持面52(51)に支持されない自由な状態になるため、図中矢印F2で示した曲げ力によってカットシートCSの後端縁SE近傍の後端部分は前方に移動させられる。従って、図中太い破線で示したように、カットシートCSの後端部分は被記録面SPを下側にして媒体受け面83に排出される。この結果、比較的剛性の高いシートSTは、傾斜角αの媒体支持面52に沿って排出部15から排出され、被記録面SPを媒体受け面82,83と対向させて媒体受け部18に排出される。
【0049】
次に、被記録媒体排出装置100において、比較的剛性の低いシートSTが、傾斜角αの媒体支持面52に沿って排出部15から排出される場合の作用について、図4(a),(b),(c)を参照して説明する。
【0050】
図4(a)に示すように、記録部14によって被記録面SPに記録が施されたシートSTは、排出部15から媒体支持面52に沿って移動し(図中白抜き矢印H1)、排出方向先端側の所定の長さが排出された時点で、その先端縁SFが媒体受け面82に接触する。この接触状態では、シートSTは、その剛性が低いために媒体支持面52の下端52aにおいて曲率半径の小さい湾曲部R5を形成して曲がった状態になる。そして湾曲部R5からシートSTの先端縁SF側の先端部分は、ロール体RTとされていたときの巻き癖が残り難いことから殆ど曲がりのない平面状態で垂れ下がりながら鉛直方向に沿って下方に移動する(図中白抜き矢印H3)。そして、所定の長さが排出された時点で先端縁SFが媒体受け面82に接触する。
【0051】
この接触によって形成される、シートSTの先端縁SFにおけるシートSTと媒体受け面82とがなす接触角θは、剛性の高いシートSTの場合よりも曲がりが少ない分大きくなる。従って、ここでも剛性の高いシートSTと同様、先端縁SFは媒体受け面82に接触した位置にそのまま留まるものとする。従って、その後に続けて排出部15から媒体支持面52に沿って排出されるシートSTの部分は、先に排出されたシートSTにおける先端縁SF側の部分に対して排出方向に力を加え、その先端縁SFを支点にしてシートSTを回転させて湾曲させようとする曲げ力(図中矢印F3)を発生させる。
【0052】
ところで、シートSTの先端部分は、剛性が低くかつ平面状態になっているため、こうした曲げ力(F3)が加わると、シートSTの幅方向(左右方向)に沿って凹凸が生じた状態(波打ち状態)になりやすい。従って、この矢印F3で示す曲げ力が作用する剛性の低いシートSTは、その先端部分が幅方向の波打ち状態によって排出方向(上下方向)における曲がりが発生し難くなり平面状態のまま回転する。従って、この曲げ力の作用の結果、シートSTは、湾曲部R5が形成されていた部分が、排出部15から媒体支持面52に沿って排出されるシートSTによって前方に押し出されるように先端縁SFを支点に回転する。
【0053】
この回転により、シートSTは、図4(b)に示すように、太い破線で示した形状から太い実線で示した形状に変位する。すなわち、湾曲部R5が前方に押し出されて湾曲部R5よりも小さい曲率半径の湾曲部R5aとして形成される。同時に、媒体支持面52の下端52aの近傍には、この湾曲部R5の前方への移動方向とシートSTの排出方向との方向の差異に起因して、湾曲部R5aと逆方向に曲がる湾曲部R6が形成される。また、この回転により、シートSTの先端縁SFにおける接触角θが小さくなるので、シートSTの先端縁SFは媒体受け面82に沿って規制部84に向かって移動する状態となる(図中白抜き矢印H2)。
【0054】
この状態において、さらにシートSTが排出部15から媒体支持面52に沿って(図中白抜き矢印H1)排出されると、図4(c)に示すように、シートSTは、太い破線で示した形状から太い実線で示した形状に変位する。すなわち、シートSTの先端縁SFが媒体受け面82に沿って規制部84に当接するべく移動する。この先端縁SFの後方への移動に伴って、前方に押し出されて形成された湾曲部R5aは後方へ移動しようとするが、湾曲部R5aと逆方向に曲がる湾曲部R6によってその移動が抑制され、逆に、その形成位置を、シートSTの排出に伴って先端縁SFとは反対側に移動させられる。このため湾曲部R5aは、曲率半径のさらに小さい湾曲部R5bとなって、媒体受け面82の前方に形成された状態になる。同時に、逆方向に曲がる湾曲部R6に対しても、排出部15から媒体支持面52に沿ってさらに排出されるシートSTの部分によって曲げ力が加わるために、湾曲部R6は後端縁SE側の排出方向に沿って下側に押し下げられ、さらに曲率半径の小さい湾曲部R6aが形成される。つまり、シートSTは先端縁SFに連なる部分が複数の小さい湾曲部R5b,R6aを介して曲げられることにより折り重なった状態になる。
【0055】
その後、シートSTは所定の長さが排出部15から排出された時点で切断され、被記録面に施された記録範囲に応じた長さのカットシートCSに切り分けられる。切り分けられたカットシートCSは、媒体支持面52に沿って移動する後端縁SEおよびその近傍部分である後端部分が、媒体支持面52の下端52aから離れて支持されない状態になると、カットシートCSの後端部分が下方(重力方向)に落下する。このため、図中矢印F4で示したようにカットシートCSの後端部分を後方に移動させる方向の力がカットシートCSに対して作用する。この結果、剛性の低いカットシートCSは、後端部分が媒体受け面83に排出されず、媒体受け面82に被記録面SPの後端側を上側にして折り重なった不適切な姿勢で排出される。
【0056】
そこで、本実施形態では、剛性の低いシートSTが用いられる場合、被記録媒体排出装置100の媒体支持面変更手段17において、移動体71をスライド移動させ、排出部15からシートSTを排出させる媒体支持面を、媒体支持面52から媒体支持面72に変更することによって、シートSTを傾斜角γの媒体支持面に沿って排出させる。以下、比較的剛性の低いシートSTが媒体支持面72に沿って排出される場合の作用について、図5(a),(b),(c)を参照して説明する。
【0057】
図5(a)に示すように、記録部14によって被記録面SPに記録が施されたシートSTは、排出部15から媒体支持面72に沿って(図中白抜き矢印H1)移動し、排出方向先端側の所定の長さが排出された時点で、その先端縁SFが媒体受け面82に接触する。この接触状態では、シートSTは、その剛性が低いために媒体支持面72の下端72aにおいて小さな曲率半径で曲がった湾曲部R5になる。そして、シートSTの先端縁SF側はロール体RTとされていたときの巻き癖が残らない殆ど曲がりのない平面状態で垂れ下がりながら鉛直方向に沿って下方に移動して(図中白抜き矢印H3)、シートSTの先端縁SFが媒体受け面82に接触する。
【0058】
この接触によって形成される、シートSTの先端縁SFにおけるシートSTと媒体受け面82とがなす接触角θは、図4(a)での説明と同様に大きく、先端縁SFは媒体受け面82に接触した位置にそのまま留まるものとする。従って、その後に続けて排出部15から媒体支持面72に沿って排出されるシートSTの部分は、先に排出されたシートSTにおける先端縁SF側の部分に対して排出方向に力を加え、その先端縁SFを支点にしてシートSTを回転させて曲げようとする曲げ力(図中矢印F5)を発生させる。なお、この矢印F5で示す曲げ力が作用する剛性の低いシートSTは、同じく図4(a)における説明と同様、その先端部分が曲がることなく平面状態で回転する。
【0059】
このとき、媒体支持面72の傾斜角γは媒体支持面52の傾斜角αよりも水平方向に近く、また距離La=距離Lbであることから、媒体支持面72に沿って排出されるシートSTに対して作用する先端縁SFを支点とする回転トルク(モーメント力)は、媒体支持面52に沿って排出される場合よりも大きくなる。従って、排出されたシートST部分を、先端縁SFを支点として前方に回転させようとする力が大きくなるので、排出されたシートSTに対して被記録面SP側を凸面にして湾曲させるように作用する曲げ力(矢印F5)も大きくなる。
【0060】
従って、この曲げ力の作用の結果、排出部15から媒体支持面72に沿って排出されるシートSTの後続部分によって湾曲部R7が前方に押し出されるようにシートSTにおける先端縁SFに連なる部分が先端縁SFを支点にして回転する。この回転の結果、シートSTは、図5(b)に示すように、太い破線で示した形状から太い実線で示した形状に変位する。すなわち、湾曲部R7は前方に押し出されて湾曲部R7aとして形成される。また、この回転によって、シートSTの先端縁SFにおいてシートSTと媒体受け面82とがなす接触角θが小さくなる。この結果、シートSTの先端縁SFは媒体受け面82に沿って規制部84に向けて移動する状態となる(図中白抜き矢印H2)。
【0061】
一方、湾曲部R7aの形成に伴って、媒体支持面72の下端72aの近傍には湾曲部R7aと逆方向に曲がる湾曲部R8が発生する場合がある。なお、媒体支持面52に比べて傾斜が緩い媒体支持面72に沿ってシートSTが排出されるため、被記録面SP側を凹面にして湾曲させる曲げ力は小さく、従って、この逆方向の湾曲部R8は発生した場合でも大きな曲率半径になる。
【0062】
この状態において、さらにシートSTが排出部15から媒体支持面52に沿って(図中白抜き矢印H1)排出されると、図5(c)に示すように、シートSTは太い破線で示した形状から太い実線で示した形状に変位する。すなわち、シートSTの先端縁SFが媒体受け面82に沿って移動して規制部84に当接した状態になる。この先端縁SFの移動に伴って、湾曲部R7aは曲率半径が大きい湾曲部R7bへ変化しながら後方へ移動するとともに湾曲部R8を湾曲方向が逆になるように曲げて湾曲部R8aにする。また、媒体支持面72の下端72a近傍に、湾曲部R9が形成される。この結果、全体に被記録面SP側を凸面にした湾曲形状が形成される。そして、シートSTは排出方向先端側の所定の長さが排出部15から排出された時点で切断され、被記録面SPに施された記録範囲に応じたカットシートCSに切り分けられる。切り分けられたカットシートCSは、後端縁SEが媒体支持面72に沿って移動する(図中白抜き矢印H1)。
【0063】
この結果、カットシートCSは、後端縁SEが排出される時点で、ともに被記録面SP側を凸面にして湾曲する湾曲部R7b,R8a,R9が形成された状態になる。従って、カットシートCSの後端縁SEが媒体支持面72の下端72aから離れて支持されない状態になると、カットシートCSの後端部分は、媒体支持面72に沿って前方へ移動することによって、図中矢印F6で示したようにカットシートCSの後端部分は前方に移動する。この結果、剛性の低いシートSTは、被記録面SPを下側にして、その後端部分の受け面である媒体受け面83上に、また前端部分を媒体受け面82上にそれぞれ排出される。
【0064】
上記説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)媒体支持面の傾斜角を変更すると、媒体支持面に沿って排出されるシートSTの排出方向が変更される。すると、基端側が媒体支持面に支持されつつ先端側が排出部15から突出した状態にある排出途中のシートSTに対して、そのシートSTを被記録面SPと媒体受け面82とが対向する状態に湾曲させるように作用する曲げ力を変更することができる。例えば、排出部15からシートSTを排出させる媒体支持面の傾斜角を、傾斜角α(第1傾斜角)から傾斜角γ(第2傾斜角)に変更した場合には、シートSTの排出方向が水平方向に近づく方向に変更される。すると、排出部15から排出途中のシートSTに対して湾曲させるように作用する曲げ力が大きくなる方向に変更される。その結果、そのように変更した曲げ力によってシートSTは被記録面SP側が凸面となるように確実に湾曲させられ、媒体受け面82に接触したシートSTの排出方向の先端縁SFと媒体受け面82とがなす内角すなわち接触角θが容易に小さい角度である鋭角になる。これにより、排出方向の先端縁SFが媒体受け面82に接触したあとのシートSTは、その排出方向の先端縁SFが媒体受け面82に沿って移動するとともに被記録面SPを媒体受け面82に対向させた状態で媒体受け面82上に適切に排出される。
【0065】
(2)媒体受け面82は媒体支持面52,72と反対方向に傾斜するので、排出部15から排出されるシートSTは、その排出方向の先端縁SFが媒体受け面82に接触したあと、媒体受け面82に沿って重力方向側の規制部84に移動しやすくなる。この結果、被記録面SPが媒体受け面82と対向する状態つまりフェイスダウン状態で適切に媒体受け面82上に排出される。
【0066】
(3)傾斜角αの媒体支持面52に沿って排出されたシートSTは、そのシートSTにおいて媒体受け面82に接触する排出方向の先端縁SFと媒体受け面82とがなす内角すなわち接触角θが鋭角となるので、媒体受け面82に接触したあとのシートSTの排出方向の先端縁SFが媒体受け面82に沿って容易に移動し易くなる。一方、傾斜角γの媒体支持面72に沿って排出された後に媒体受け面82に接触したシートSTに対しては、シートSTを被記録面SP側が凸面となるように湾曲させる力を作用させるので、シートSTは確実に湾曲して媒体受け面82との接触角θが容易に小さな角度である鋭角となる。従って、媒体受け面82に接触したあとシートSTの排出方向の先端縁SFが媒体受け面82に沿って重力方向側の規制部84に移動しやすくなる。この結果、被記録面SPが媒体受け面82と対向する状態つまりフェイスダウン状態で確実に媒体受け面82上に排出される。
【0067】
(4)シートSTの曲げ剛性すなわち腰の強さが異なる各種のシートSTを、適切に媒体受け面82上に排出できる。
(5)媒体支持面52,72の排出方向側端部となる下端52a,72aと媒体受け面82との間の重力方向に沿う距離はほぼ等しいので、傾斜角γの媒体支持面72に沿って排出されるシートSTに対して、傾斜角αの媒体支持面52に沿って排出されるシートSTよりも大きな曲げ力を作用させることができる。
【0068】
(6)被記録面SPに記録が施されたシートSTの排出方向を変更することによって媒体受け面82に接触したシートSTに対して当該シートSTを被記録面SPと媒体受け面82とが対向する状態に湾曲させるように作用する曲げ力を変更することができる。そして変更した曲げ力によってシートSTを確実に被記録面SP側が凸面となるように湾曲させ、媒体受け面82に接触したシートSTの排出方向の先端縁SFと媒体受け面82とがなす内角すなわち接触角θを鋭角にすることができる。この結果、媒体受け面82に接触したあとのシートSTが、その排出方向の先端縁SFが媒体受け面82に沿って移動して被記録面SPを媒体受け面82に対向させた状態で適切に媒体受け面82上に排出される記録装置11を提供できる。
【0069】
なお、上記実施形態は、以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態において、媒体支持面変更手段17は、支持面形成部材52mを変位させて媒体支持面52の傾斜角αを変更することによって、媒体支持面52を媒体支持面72として機能させる構成であってもよい。本変形例について図6を参照して説明する。
【0070】
図6に示すように、本変形例の媒体支持面変更手段17は、媒体支持面52が形成された支持面形成部材52mを回転させることを通じて、媒体支持面52を媒体支持面72に変更する。すなわち、支持面形成部材52mは、その排出方向上流側の端部に、シートSTの幅方向(左右方向)が軸線方向であって装置本体部12に軸の両端が回動可能に取り付けられた回転軸56を有する回転部55が設けられている。そして、媒体支持面変更手段17は、この回転部55を回転させる回転手段として、支持面形成部材52mに固定され、外周に歯車が形成された円弧形状のラック57と、装置本体部12に回転自在に固定され、ラック57と噛み合うピニオン58と、を備えている。従って、使用者は、ピニオン58を回転させることによって回転軸56を中心に回転部55を回転させることによって支持面形成部材52mを回転させ、例えば、媒体支持面52を図中二点鎖線で示した媒体支持面52の位置に変更する。これによって、媒体支持面52は上記実施形態における媒体支持面72として機能する。
【0071】
本変形例によれば、上記実施形態における効果(1)〜(6)に加えて、次の効果を奏する。
(7)媒体支持面52の傾斜角を支持面形成部材52mの回転変位によって連続的に変更することができるので、排出部15から排出されるシートSTの排出方向を、シートSTの剛性に応じて最適な方向とすることができる。また、媒体支持面72を形成する部材の増加を抑制することができる。
【0072】
・上記実施形態において、被記録媒体排出装置100は、媒体支持面52と媒体支持面72以外に少なくとも一つ、水平からの傾斜角の異なる媒体支持面を備え、媒体支持面変更手段17は、これらの媒体支持面間で変更するようにしてもよい。こうすれば、剛性の異なる複数のシートSTに応じて排出部15から適切な排出方向でシートSTを排出させ、被記録面を媒体受け面に対向させた状態で媒体受け部18上に適切な状態でカットシートCSを排出させてスタックすることができる。
【0073】
・上記実施形態において、媒体支持面72の下端72aと媒体受け面82との間の鉛直方向に沿う距離Lbは、媒体支持面52の下端52aと媒体受け面82との間の鉛直方向に沿う距離Laよりも大きいことが好ましい。こうすれば、媒体支持面72に沿って排出されるシートSTに対して、媒体支持面52に沿って排出されるシートSTよりも、先端縁SFを支点として回転させる回転トルクを大きくすることができる。従って、被記録面SPと媒体受け面82とが対向する状態にシートSTを湾曲させるように作用する曲げ力を確実に発生させることができる。
【0074】
・上記実施形態において、媒体受け面82は水平であってもよい。要するに、シートSTが排出方向の先端縁SFを媒体受け面82に接触させた状態を維持しながら、被記録面SP側を凸面にして湾曲することが可能な角度であれば、必ずしも媒体受け面82は傾斜していなくてもよい。
【0075】
・上記実施形態において、媒体支持面52の傾斜角αと媒体受け面82の傾斜角βとを加算した角度は、90度よりも小さい角度であってもよい。媒体受け面82に接触した状態を維持しながら、被記録面SPを外側にして湾曲することが可能な角度であれば、必ずしも90度以上に限定されない。
【0076】
・上記実施形態において、被記録媒体排出装置100は必ずしも記録部14を有する記録装置11に備えられなくてもよい。例えば既に被記録面に記録が施されたシートを、被記録面を重力方向側にして受ける被記録媒体排出装置であれば本発明を適用可能である。
【0077】
・上記実施形態では、記録装置を、液体の一例としてのインクを噴射する液体噴射ヘッドを記録ヘッドとして有する記録装置11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に具体化してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状体、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置がある。あるいは、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサー等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
11…記録装置、14…記録部、15…媒体排出部としての排出部、17…媒体支持面変更手段、18…媒体受け部、51,52,72…媒体支持面、82,83…媒体受け面、100…被記録媒体排出装置、CS…被記録媒体としてのカットシート、SF…先端縁、ST…被記録媒体としてのシート、SP…被記録面、La,Lb…距離、α…傾斜角(第1傾斜角)、β…傾斜角(第3傾斜角)、γ…傾斜角(第2傾斜角)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出される被記録媒体を当該被記録媒体の被記録面とは反対側の面に当接することで支持するとともに水平に対して前記被記録媒体の排出方向の下流側が下方となるように傾斜する媒体支持面が設けられ、前記被記録媒体を前記媒体支持面に沿って重力方向側に排出する媒体排出部と、
前記媒体排出部から重力方向側に離れた位置に前記媒体支持面の延長線と交差するように設けられた媒体受け面により前記媒体排出部から排出される前記被記録媒体を受ける媒体受け部と、を備え、
前記媒体排出部から排出された前記被記録媒体が、その排出方向の先端縁を前記媒体受け面に接触させたのち、前記被記録面と前記媒体受け面とが対向する状態に湾曲して前記媒体受け面上に排出される被記録媒体排出装置であって、
前記媒体排出部に設けられる前記媒体支持面の傾斜角を水平に対して傾斜した第1傾斜角と、水平に対して前記第1傾斜角よりも小さく傾斜した第2傾斜角との間で変更する媒体支持面変更手段を備えることを特徴とする被記録媒体排出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の被記録媒体排出装置において、
前記媒体受け面は、水平に対して前記媒体支持面が傾斜する方向と反対方向に第3傾斜角で傾斜することを特徴とする被記録媒体排出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の被記録媒体排出装置において、
前記媒体支持面の前記第1傾斜角と前記媒体受け面の前記第3傾斜角とを加算した角度は、90度より大きい角度であり、前記媒体支持面の前記第2傾斜角と前記媒体受け面の前記第3傾斜角とを加算した角度は、90度より小さい角度であることを特徴とする被記録媒体排出装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の被記録媒体排出装置において、
前記媒体支持面変更手段は、前記被記録媒体の曲げ剛性に応じて前記媒体支持面の傾斜角を変更することを特徴とする被記録媒体排出装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の被記録媒体排出装置において、
前記第2傾斜角の媒体支持面の排出方向側端部と前記媒体受け面との間の重力方向に沿う距離は、前記第1傾斜角の媒体支持面の排出方向側端部と前記媒体受け面との間の重力方向に沿う距離以上であることを特徴とする被記録媒体排出装置。
【請求項6】
被記録媒体に対して媒体排出部から排出される前に前記被記録媒体の被記録面に液体を噴射して記録を施す記録部と、
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の被記録媒体排出装置と、
を備える記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−71822(P2013−71822A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212656(P2011−212656)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】