説明

被験物質のスクリーニング方法

【課題】 リガンドと相互作用する被験物質のスクリーニング方法であって、希薄な検体化合物溶液を用いたい場合、あるいは結合速度定数の小さい化合物まで選別したい場合でも、短時間に数多くの被験物質をスクリーニングできる方法を提供すること。
【解決手段】 リガンドと被験物質の相互作用に基づき一群の化合物から特定の物質を選別するスクリーニング方法において、該リガンドが固相化されており、リガンド固相化表面に該被験物質溶液を一定時間接触させた後、その状態を基準点として、該被験物質溶液から該被験物質を含まない溶液に置換して一定時間後の信号変化を測定し、その信号変化量に基づいて被験物質を選別するスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リガンドと相互作用する被験物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品は生体内において蛋白質と相互作用し機能することが多い。例えば、阻害剤は酵素に結合し酵素反応を阻害することで生体内の生化学反応を変化させ、薬理作用を発現する。このため、医薬品探索において蛋白質と医薬品候補化合物の結合の強さを知ることが重要となる。
【0003】
近年、蛋白と化学物質の相互作用を手法として表面プラズモン共鳴法が注目されている。この手法では金などの金属表面に蛋白を固相化し、化学物質をここに供与したときの共鳴の変化を用いて相互作用を定量する。化学物質である被解析分子は金属表面に固定化された蛋白質などの被解析分子と相互作用する分子へ時間とともに吸着する。このときの吸着量すなわちSPR信号の変化は下式に従って変化する。
dR/dt = ka・Cs・(Rmax - R) - kd・R 式(1)
(式中、RはSPR信号であり、Rmaxは最大SPR信号である。また、kaは結合速度定数、kdは解離速度定数、Csは金属表面近傍の被解析分子の濃度を表す。)
【0004】
ここで、金属表面を定常的に新鮮な液に置換しつづけられる理想的な条件ではCsは一定となり、簡素な微分方程式を解くことで測定結果からka、kdを求めることが可能である。結合定数(KD)は結合と解離の比を示すものであり、kd/kaで表される。
【0005】
低分子医薬の探索においては、通常、ひとつのターゲット蛋白質に対して、少なくとも10000個以上の低分子化合物のスクリーニングを行う。その結果得られたヒット化合物群について、さらに詳細な評価を実施し、ひとつのリード化合物に絞り込んでいく。
【0006】
表面プラズモン共鳴法による蛋白質と被験化合物との相互作用の測定は、非特許文献1に記載されているように、医薬探索のプロセスに用いられているが、1日あたりの測定数は100サンプル程度であり、その処理能力の低さから前述のような大規模なスクリーニングに使われることはなかった。大規模スクリーニングは、FRET(fluorescense resonance energytransfer)法に代表される蛍光標識法、SPA(scintillation proximity assay)法に代表される放射線標識法が主に用いられているが、両者ともリガンドの標識が必要である。前者では標識による結合阻害が原因で測定系が組めないことがしばしばあり、また後者は、放射線物質の取り扱いの問題があった。また、近年、ゲノム科学の進歩によりリガンド不明のターゲット蛋白質が多く見出されている。これらの背景から、無標識の大規模スクリーニング法が強く望まれるようになってきた。
【0007】
さらに、表面プラズモン共鳴法では、通常、BUNSEKI KAGAKU vol.51, No.6, pp.461-468 (2002)に記載されているように、蛋白を固相化したチップ表面に検体化合物を含有しないバッファーを接触させておき、その状態を基準点として、検体化合物を含有するバッファーと置換した時に生じる結合曲線を得、さらに一定時間後再び検体化合物を含有しないバッファーに置換し、解離曲線を得ることで、速度定数、結合定数を算出する。しかし、この方法では、希薄な検体化合物溶液を用いたい場合、あるいは結合速度定数の小さい化合物まで選別したい場合には、検出可能な信号変化を得るのに数分〜数十分、場合によっては数時間の反応時間が必要であり、数多くの測定に対応することができなかった。
【0008】
【非特許文献1】BUNSEKI KAGAKU vol.51, No.6, pp.461-468 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、リガンドと相互作用する被験物質のスクリーニング方法であって、希薄な検体化合物溶液を用いたい場合、あるいは結合速度定数の小さい化合物まで選別したい場合でも、短時間に数多くの被験物質をスクリーニングできる方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、リガンド固相化表面に該被験物質溶液を一定時間接触させた後、その状態を基準点として、該被験物質溶液から該被験物質を含まない溶液に置換して一定時間後の信号変化を測定し、その信号変化量に基づいて被験物質を選別することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、リガンドと被験物質の相互作用に基づき一群の化合物から特定の物質を選別するスクリーニング方法において、該リガンドが固相化されており、リガンド固相化表面に該被験物質溶液を一定時間接触させた後、その状態を基準点として、該被験物質溶液から該被験物質を含まない溶液に置換して一定時間後の信号変化を測定し、その信号変化量に基づいて被験物質を選別するスクリーニング方法が提供される。
【0012】
好ましくは、リガンド固相化表面に被験物質溶液を一定時間接触させるユニットと、信号変化量の測定を行うユニットとが分離されているスクリーニング装置を用いてスクリーニングを行う。
【0013】
好ましくは、スクリーニングにかける全被験物質の分子量が予めスクリーニング装置に入力されており、結合量が各被験物質の分子量で規格化されている。
好ましくは、予め装置に入力された信号変化量の範囲に入る被験物質が自動選別される。
【0014】
好ましくは、リガンドおよび被験物質は未標識である。
好ましくは、表面プラズモン共鳴装置により測定を行う。
【0015】
好ましくは、リガンドの固相化を行うユニットと、信号変化量の測定を行うユニットが分離されている。
好ましくは、一群の被験物質数は1000以上である。
好ましくは、自動選別された化合物が表示装置上で視覚的に区別される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、希薄な検体化合物溶液を用いたい場合、あるいは結合速度定数の小さい化合物まで選別したい場合でも、短時間に数多くの被験物質をスクリーニングすることが可能である。また、本発明の方法によれば、従来のFRET法などで選別できない解離定数の大きな化合物が選別でき、副作用の点で医薬には不適当である解離定数の小さな化合物(リガンドに結合後、解離しない化合物)を除外することができる。また従来の大規模スクリーニング法に比べ、希薄な検体化合物溶液を用いることで、必要なサンプル量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のスクリーニング方法は、リガンドと被験物質の相互作用に基づき一群の化合物から特定の物質を選別するスクリーニング方法であって、該リガンドが固相化されており、リガンド固相化表面に該被験物質溶液を一定時間接触させた後、その状態を基準点として、該被験物質溶液から該被験物質を含まない溶液に置換して一定時間後の信号変化を測定し、その信号変化量に基づいて被験物質を選別することを特徴とするものである。
【0018】
本発明の測定は、リガンドを固相化したセンサーチップを用いて表面プラズモン共鳴測定装置により求めることが好ましい。表面プラズモン共鳴法では、リガンド及び被験物質ともに無標識で両者の相互作用を測定することができる。
【0019】
本発明においては、リガンドが固相化されており、まずリガンド固相化表面に被験物質溶液を一定時間接触させる。接触時間は、必要に応じて任意に設定することができるが、好ましくは、リガンドに対する被験物質の結合が平衡に達する時間以上に設定することが好ましい。
【0020】
また本発明では、リガンド固相化表面に被験物質溶液を一定時間接触させるユニットと、信号変化量の測定を行うユニットが分離されていることが好ましい。これにより、リガンド固相化表面と被験物質溶液を接触させる時間が長くても、相互作用測定処理能力に実質的に影響を与えることなく大規模なスクリーニングへの対応が可能となる。
【0021】
本発明において、リガンドと被験物質が結合するか否かの選別は以下のように行われる。
(a)リガンドに結合しない被験物質
リガンド固相化表面に被験物質溶液を一定時間接触させても被験物質の結合は起こらない。その状態から被験物質を含まない溶液に置換しても、被験物質の解離は起こらないため、信号変化は観測されない。
(b)リガンドに結合する被験物質
リガンド固相化表面に被験物質溶液を一定時間接触させると、平衡結合量に近い被験物質の結合が起こる。その状態から被験物質を含まない溶液に置換すると、結合していた被験物質の解離に伴う信号変化が観測される。
【0022】
また、上記(b)の場合、一定時間後の信号変化量を比較することで、解離速度の順位付けが可能となる。10000個の被験物質群に対する本発明の好ましいスクリーニングプロセスの一例を以下に示す。
【0023】
(1)表面プラズモン共鳴スクリーニング装置(以下、スクリーニング装置と略)に、スクリーニングをかける全被験物質の分子量、および選別したい信号量変化の範囲を入力する。
(2)表面プラズモン共鳴センサチップ(以下、センサチップと略)に、リガンドを固相化し、スクリーニング装置にセットする。リガンドを固相化したセンサチップは、スクリーニングにかける被験物質数10000個分を用意する。
(3)スクリーニングをかける全被験物質について10μM溶液を調製し、各々をリガンドを固相化したセンサチップに16時間接触、その後、それらのセンサチップをスクリーニング装置にセットする。
(4)スクリーニング装置の表面プラズモン共鳴測定部に、センサチップが自動的に搬送される。そのセンサチップ表面にバッファー溶液を20秒間接触させ、信号変化量を記録する。この操作を、10000個の被験物質について行う。
(5)予め入力してある信号変化量の範囲にあてはまった被験物質が自動的に選別される。
【0024】
本発明においては、信号変化量の測定時間は1分未満であることが好ましく、30秒以下であることがより好ましく、15秒以下であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明においては、スクリーニングにかける全被験物質の分子量が予めスクリーニング装置に入力されていることが好ましい。各被験物質の結合量は、結合量/分子量で表されるように、各々の分子量で規格化して表示されることが好ましい。
【0026】
本発明においては、スクリーニング装置に予め、選択したい範囲の信号変化量を入力しておき、その範囲に入る被験物質が自動選別されることが好ましい。選別された被験物質は、表示装置に視覚的に区別されるように表示されることが好ましい。視覚的な区別の方法は特に限定されないが、例えば、文字の大きさ、色、文字の点滅、文字の色、アンダーライン、枠で囲む、などの方法が挙げられる。
【0027】
本発明においては、リガンドが固相化されていることが好ましい。固相化の方法としては、公知の方法が用いられる。また、リガンドの固相化を行うユニットと、固相化したリガンドと被験物質の相互作用測定を行うユニットが分離されていることが好ましい。装置構成の一例を図1に示す。リガンドの固相化を行うユニットと、相互作用測定を行うユニットを分離することにより、測定処理能力が大幅に向上する。
【0028】
本発明における一群の被験物質数は、1000個以上であることが好ましく、10000個以上であることがより好ましく、100000個以上であることがさらに好ましい。
【0029】
被験物質は、単一の物質でもよいし、複数の物質の混合物でもよい。本発明で用いる被験物質としては例えば、本明細書中以下に記載するような生理活性物質(リガンド)と相互作用する物質であれば特に限定されないが、低分子有機化合物、高分子化合物、DNA等の核酸、蛋白質(抗体などを含む)、ペプチド又はその断片、糖、アミノ酸などが挙げられる。
【0030】
本発明では、リガンド固相化表面に該被験物質溶液を一定時間接触させた後、その状態を基準点として、該被験物質溶液から該被験物質を含まない溶液に置換して一定時間後の信号変化を測定するが、その測定は、非標識検出法で測定することが好ましい。非標識検出法としては、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した測定技術などが挙げられ、中でも表面プラズモン共鳴装置を用いて表面プラズモン共鳴測定を行うことが特に好ましい。
【0031】
次に、表面プラズモン共鳴装置で用いるバイオセンサーについて説明する。バイオセンサーの基板は、金属表面又は金属膜であることが好ましい。金属表面あるいは金属膜を構成する金属としては、表面プラズモン共鳴が生じ得るようなものであれば特に限定されない。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、特に金が好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記基板への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。
【0032】
金属膜の膜厚は任意であるが、例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、1オングストローム以上5000オングストローム以下であるのが好ましく、特に10オングストローム以上2000オングストローム以下であるのが好ましい。5000オングストロームを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、1オングストローム以上、100オングストローム以下であるのが好ましい。
【0033】
金属膜の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
【0034】
金属膜は好ましくは基板上に配置されている。ここで、「基板上に配置される」とは、金属膜が基板上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が基板に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む意味である。本発明で使用することができる基板としては例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、一般的にはBK7等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
【0035】
基板は、基板の最表面に生理活性物質を固定化することができる官能基を有することが好ましい。ここで言う「基板の最表面」とは、「基板から最も遠い側」という意味である。
【0036】
好ましい官能基としては−OH、−SH、−COOH、−NR12(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR12(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基などが挙げられる。ここで、低級アルキル基における炭素数は特に限定されないが、一般的にはC1〜C10程度であり、好ましくはC1〜C6である。
【0037】
最表面にそれらの官能基を導入する方法としては、それらの官能基の前駆体を含有する高分子を金属表面あるいは金属膜上にコーティングした後、化学処理により最表面に位置する前駆体からそれらの官能基を生成させる方法が挙げられる。例えば−COOCH3基を含有するポリメチルメタクリレートを金属膜上にコーティングした後、その表面をNaOH水溶液(1N)に40℃16時間接触させると、最表面に−COOH基が生成する。
【0038】
上記のようにして得られたバイオセンサー用表面において、上記の官能基を介して生理活性物質(リガンド)を共有結合させることによって、金属表面又は金属膜に生理活性物質を固定化することができる。
【0039】
バイオセンサー用表面上に固定される生理活性物質(リガンド)としては、測定対象物と相互作用するものであれば特に限定されず、例えば免疫蛋白質、酵素、微生物、核酸、低分子有機化合物、非免疫蛋白質、免疫グロブリン結合性蛋白質、糖結合性蛋白質、糖を認識する糖鎖、脂肪酸もしくは脂肪酸エステル、あるいはリガンド結合能を有するポリペプチドもしくはオリゴペプチドなどが挙げられる。
【0040】
免疫蛋白質としては、測定対象物を抗原とする抗体やハプテンなどを例示することができる。抗体としては、種々の免疫グロブリン、即ちIgG、IgM、IgA、IgE、IgDを使用することができる。具体的には、測定対象物がヒト血清アルブミンであれば、抗体として抗ヒト血清アルブミン抗体を使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を抗原とする場合には、例えば抗アトラジン抗体、抗カナマイシン抗体、抗メタンフェタミン抗体、あるいは病原性大腸菌の中でO抗原26、86、55、111 、157 などに対する抗体等を使用することができる。
【0041】
酵素としては、測定対象物又は測定対象物から代謝される物質に対して活性を示すものであれば、特に限定されることなく、種々の酵素、例えば酸化還元酵素、加水分解酵素、異性化酵素、脱離酵素、合成酵素等を使用することができる。具体的には、測定対象物がグルコースであれば、グルコースオキシダーゼを、測定対象物がコレステロールであれば、コレステロールオキシダーゼを使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を測定対象物とする場合には、それらから代謝される物質と特異的反応を示す、例えばアセチルコリンエステラーゼ、カテコールアミンエステラーゼ、ノルアドレナリンエステラーゼ、ドーパミンエステラーゼ等の酵素を使用することができる。
【0042】
微生物としては、特に限定されることなく、大腸菌をはじめとする種々の微生物を使用することができる。
核酸としては、測定の対象とする核酸と相補的にハイブリダイズするものを使用することができる。核酸は、DNA(cDNAを含む)、RNAのいずれも使用できる。DNAの種類は特に限定されず、天然由来のDNA、遺伝子組換え技術により調製した組換えDNA、又は化学合成DNAの何れでもよい。
低分子有機化合物としては通常の有機化学合成の方法で合成することができる任意の化合物が挙げられる。
【0043】
非免疫蛋白質としては、特に限定されることなく、例えばアビジン(ストレプトアビジン)、ビオチン又はレセプターなどを使用できる。
免疫グロブリン結合性蛋白質としては、例えばプロテインAあるいはプロテインG、リウマチ因子(RF)等を使用することができる。
糖結合性蛋白質としては、レクチン等が挙げられる。
脂肪酸あるいは脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ステアリン酸エチル、アラキジン酸エチル、ベヘン酸エチル等が挙げられる。
【0044】
生理活性物質が抗体や酵素などの蛋白質又は核酸である場合、その固定化は、生理活性物質のアミノ基、チオール基等を利用し、金属表面の官能基に共有結合させることで行うことができる。
【0045】
上記のようにして生理活性物質を固定化したバイオセンサーは、当該生理活性物質と相互作用する物質の検出及び/又は測定のために使用することができる。
【0046】
表面プラズモン共鳴用バイオセンサーとは、表面プラズモン共鳴バイオセンサーに使用されるバイオセンサーであって、該センサーより照射された光を透過及び反射する部分、並びに生理活性物質を固定する部分とを含む部材を言い、該センサーの本体に固着されるものであってもよく、また脱着可能なものであってもよい。
【0047】
表面プラズモン共鳴の現象は、ガラス等の光学的に透明な物質と金属薄膜層との境界から反射された単色光の強度が、金属の出射側にある試料の屈折率に依存することによるものであり、従って、反射された単色光の強度を測定することにより、試料を分析することができる。
【0048】
表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、被測定物質の特性を分析する表面プラズモン測定装置としては、Kretschmann配置と称される系を用いるものが挙げられる(例えば特開平6−167443号公報参照)。上記の系を用いる表面プラズモン測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料液などの被測定物質に接触させられる金属膜と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態、つまり全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
【0049】
なお上述のように種々の入射角を得るためには、比較的細い光ビームを入射角を変化させて上記界面に入射させてもよいし、あるいは光ビームに種々の角度で入射する成分が含まれるように、比較的太い光ビームを上記界面に収束光状態であるいは発散光状態で入射させてもよい。前者の場合は、入射した光ビームの入射角の変化に従って、反射角が変化する光ビームを、上記反射角の変化に同期して移動する小さな光検出器によって検出したり、反射角の変化方向に沿って延びるエリアセンサによって検出することができる。一方後者の場合は、種々の反射角で反射した各光ビームを全て受光できる方向に延びるエリアセンサによって検出することができる。
【0050】
上記構成の表面プラズモン測定装置において、光ビームを金属膜に対して全反射角以上の特定入射角で入射させると、該金属膜に接している被測定物質中に電界分布をもつエバネッセント波が生じ、このエバネッセント波によって金属膜と被測定物質との界面に表面プラズモンが励起される。エバネッセント光の波数ベクトルが表面プラズモンの波数と等しくて波数整合が成立しているとき、両者は共鳴状態となり、光のエネルギーが表面プラズモンに移行するので、誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射した光の強度が鋭く低下する。この光強度の低下は、一般に上記光検出手段により暗線として検出される。なお上記の共鳴は、入射ビームがp偏光のときにだけ生じる。したがって、光ビームがp偏光で入射するように予め設定しておく必要がある。
【0051】
この全反射減衰(ATR)が生じる入射角、すなわち全反射減衰角(θSP)より表面プラズモンの波数が分かると、被測定物質の誘電率が求められる。この種の表面プラズモン測定装置においては、全反射減衰角(θSP)を精度良く、しかも大きなダイナミックレンジで測定することを目的として、特開平11−326194号公報に示されるように、アレイ状の光検出手段を用いることが考えられている。この光検出手段は、複数の受光素子が所定方向に配設されてなり、前記界面において種々の反射角で全反射した光ビームの成分をそれぞれ異なる受光素子が受光する向きにして配設されたものである。
【0052】
そしてその場合は、上記アレイ状の光検出手段の各受光素子が出力する光検出信号を、該受光素子の配設方向に関して微分する微分手段が設けられ、この微分手段が出力する微分値に基づいて全反射減衰角(θSP)を特定し、被測定物質の屈折率に関連する特性を求めることが多い。
【0053】
また、全反射減衰(ATR)を利用する類似の測定装置として、例えば「分光研究」第47巻 第1号(1998)の第21〜23頁および第26〜27頁に記載がある漏洩モード測定装置も知られている。この漏洩モード測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されたクラッド層と、このクラッド層の上に形成されて、試料液に接触させられる光導波層と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを上記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックとクラッド層との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して導波モードの励起状態、つまり全反射減衰状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
【0054】
上記構成の漏洩モード測定装置において、光ビームを誘電体ブロックを通してクラッド層に対して全反射角以上の入射角で入射させると、このクラッド層を透過した後に光導波層においては、ある特定の波数を有する特定入射角の光のみが導波モードで伝搬するようになる。こうして導波モードが励起されると、入射光のほとんどが光導波層に取り込まれるので、上記界面で全反射する光の強度が鋭く低下する全反射減衰が生じる。そして導波光の波数は光導波層の上の被測定物質の屈折率に依存するので、全反射減衰が生じる上記特定入射角を知ることによって、被測定物質の屈折率や、それに関連する被測定物質の特性を分析することができる。
【0055】
なおこの漏洩モード測定装置においても、全反射減衰によって反射光に生じる暗線の位置を検出するために、前述したアレイ状の光検出手段を用いることができ、またそれと併せて前述の微分手段が適用されることも多い。
【0056】
また、上述した表面プラズモン測定装置や漏洩モード測定装置は、創薬研究分野等において、所望のセンシング物質に結合する特定物質を見いだすランダムスクリーニングへ使用されることがあり、この場合には前記薄膜層(表面プラズモン測定装置の場合は金属膜であり、漏洩モード測定装置の場合はクラッド層および光導波層)上に上記被測定物質としてセンシング物質を固定し、該センシング物質上に種々の被検体が溶媒に溶かされた試料液を添加し、所定時間が経過する毎に前述の全反射減衰角(θSP)の角度を測定している。
【0057】
試料液中の被検体が、センシング物質と結合するものであれば、この結合によりセンシング物質の屈折率が時間経過に伴って変化する。したがって、所定時間経過毎に上記全反射減衰角(θSP)を測定し、該全反射減衰角(θSP)の角度に変化が生じているか否か測定することにより、被検体とセンシング物質の結合状態を測定し、その結果に基づいて被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを判定することができる。このような特定物質とセンシング物質との組み合わせとしては、例えば抗原と抗体、あるいは抗体と抗体が挙げられる。具体的には、ウサギ抗ヒトIgG抗体をセンシング物質として薄膜層の表面に固定し、ヒトIgG抗体を特定物質として用いることができる。
【0058】
なお、被検体とセンシング物質の結合状態を測定するためには、全反射減衰角(θSP)の角度そのものを必ずしも検出する必要はない。例えばセンシング物質に試料液を添加し、その後の全反射減衰角(θSP)の角度変化量を測定して、その角度変化量の大小に基づいて結合状態を測定することもできる。前述したアレイ状の光検出手段と微分手段を全反射減衰を利用した測定装置に適用する場合であれば、微分値の変化量は、全反射減衰角(θSP)の角度変化量を反映しているため、微分値の変化量に基づいて、センシング物質と被検体との結合状態を測定することができる(本出願人による特願2000−398309号参照)。このような全反射減衰を利用した測定方法および装置においては、底面に予め成された薄膜層上にセンシング物質が固定されたカップ状あるいはシャーレ状の測定チップに、溶媒と被検体からなる試料液を滴下供給して、上述した全反射減衰角(θSP)の角度変化量の測定を行っている。
【0059】
さらに、ターンテーブル等に搭載された複数個の測定チップの測定を順次行うことにより、多数の試料についての測定を短時間で行うことができる全反射減衰を利用した測定装置が、特開2001−330560号公報に記載されている。
【0060】
本発明の一実施態様においては、表面プラズモン共鳴測定装置の流路系内の液体を、被験物質を含まない溶液から被験物質を含む溶液へと交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定することができる。このような測定により、測定時間内における参照セルの信号変化のノイズ幅、及びベースライン変動を抑制することができ、これにより信頼性の高い結合検出データを取得することができる。液の流れを停止させる時間は特に限定されないが、例えば、1秒以上30分以下であり、好ましくは10秒以上20分以下であり、さらに好ましくは1分以上20分以下程度である。
【0061】
本発明においては好ましくは、被験物質と相互作用する物質を結合していない参照セルと、被験物質と相互作用する物質を結合した検出セルとを直列に連結して流路系内に設置し、該参照セルと該検出セルに液体を流すことにより、表面プラズモン共鳴の変化を測定することができる。
【0062】
また、本発明においては、測定に用いるセルの体積(Vs ml)(上記した参照セルと検出セルを用いる場合はそれらのセルの合計体積)に対し、1回の測定あたりの液交換量(Ve ml)の比率(Ve/Vs)を、例えば、1以上100以下とすることができる。Ve/Vsは、より好ましくは1以上50以下であり、特に好ましくは1以上20以下である。測定に用いるセルの体積(Vs ml)は特に限定されないが、好ましくは1×10-6〜1.0ml、特に好ましくは1×10-5〜1×10-1ml程度である。また、液体の交換にかける時間としては、0.01秒以上100秒以下が好ましく、0.1秒以上10秒以下がより好ましい。
【0063】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
実施例1
(1)リガンド固定条件の決定
SPRリーダーと下記のセンサチップを用いて、リガンド固定量が最大となる固定条件を決定する。
【0065】
センサチップ: 金膜の厚さが500オングストロームになるように金を蒸着した1cm(1cmのカバーガラスをModel-208UV−オゾンクリーニングシステム(TECHNOVISION INC.)で30分処理した後、スピンコート機(MODEL ASS-303、ABLE製)にセットし1000rpmにて回転させ、金蒸着カバーガラス中央にポリメチルメタクリレート(PMMA)のメチルエチルケトン溶液(2mg/ml)を50μl滴下し、2分後に回転を止めた。エリプソメトリー法(In-Situ Ellipsometer MAUS-101、Five Lab製)により膜厚を測定したところ、ポリメタクリル酸メチル膜の厚さは200オングストロームであった。このサンプルをPMMA表面チップと呼ぶ。このPMMA表面チップをNaOH水溶液(1N)に40℃16時間浸漬した後、水で3回洗浄した。このサンプルをPMMA/COOH表面チップと呼ぶ。このPMMA/COOH表面チップを1−エチル−2,3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(400mM)とN−ヒドロキシスクシンイミド(100mM)との混合液2mlに60分浸漬した後、α-アミノ-ポリエチレンオキシ-ω-カルボン酸(平均分子量5000)水溶液(10mM)2mlに16時間浸漬した。最後に水で5回洗浄した。
【0066】
リガンドの固定は以下の手順で行う。
リガンド溶液の調製: 表1に記載の濃度になるようにトリプシンを表1に記載の酢酸バッファーで溶解。
センサチップ表面の活性化: NHS(0.1M)/EDC(0.4M)=1/1、25℃、30分
リガンドの固定: 上記のリガンド溶液、25℃、30分
ブロッキング: 1Mエタノールアミン溶液(pH8.5)、25℃、30分
トリプシン固定量を表1に示す。
トリプシン濃度は0.5mg/ml、固定化バッファーはpH5.5酢酸バッファーと決定した。
【0067】
【表1】

【0068】
(2)化合物の解離測定と選別
図1に記載のスクリーニング用SPRシステムを用いて、リガンドの固定、化合物の解離測定および化合物の選別を行った。
【0069】
(2−1)リガンドの固定
化合物解離測定用のセンサチップを、図1に記載のタンパク固定機を用いて、上記(1)で決定した固定条件で5個作成した。
【0070】
(2−2)化合物の結合反応
上記(2−1)で作成した蛋白固定センサチップに以下の条件で化合物を結合させた。
化合物: 表2に記載の化合物
温度: 25℃
反応バッファー: リン酸バッファー(pH7.4、DMSO5%含有)
化合物濃度: 20μM(DMSO 5% PBSバッファー)
反応時間: 16時間
【0071】
【表2】

【0072】
(2−3)化合物の解離測定
上記(2−2)で作成した化合物を結合させたセンサチップを用いて、以下の条件で化合物の解離量を測定した。
温度: 25℃
ランニングバッファー: リン酸バッファー(pH7.4、DMSO5%含有)
測定時間: 20秒
解離量: 解離量(RU)=(バッファー添加前のRU値)−(バッファー添加から20秒後のRU値)
測定結果を表2に示す。
【0073】
(2−4)化合物の選別
以下の前提より、各化合物の理論最大結合量(Rmax)を計算し表2に示した。
Rmax=蛋白結合量×化合物分子量×結合価数/蛋白分子量
蛋白結合量: 上記(1)の実験より1560RUとする。
化合物分子量: 表2に記載
結合価数: 1
蛋白分子量: 23800
解離量がRmaxの1/4〜1である化合物(Leupeptin)を選別した。
【0074】
実施例2
PMMAの代わりに下記化合物F-1を用いること以外は実施例1と同様に作製したセンサチップを用いて、実施例1と同様に実験を行った。その結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0075】
【化1】

【0076】
実施例3
図1に記載のスクリーニング用SPRシステムと実施例2で作成したセンサチップを用いて、リガンドの固定、多数の化合物のスクリーニングを自動的に行う。
(1)リガンドの固定
リガンドの固定は以下の手順で行う。
リガンド溶液の調製: トリプシン0.5mgを酢酸バッファー(pH5.5) 1mlに溶解。
センサチップ表面の活性化: NHS(0.1M)/EDC(0.4M)=1/1、25℃、30分
リガンドの固定: 上記のリガンド溶液、25℃、30分
ブロッキング: 1Mエタノールアミン溶液(pH8.5)、25℃、30分
【0077】
(2)化合物の結合反応
化合物: 任意の一群の化合物10000個
化合物濃度: 20μM
反応バッファー: リン酸バッファー(pH7.4、DMSO5%含有)
温度: 25℃
反応時間: 16時間
【0078】
(3)化合物の選別
温度: 25℃
ランニングバッファー: リン酸バッファー(pH7.4、DMSO5%含有)
測定時間: 20秒
解離量: 解離量(RU)=(バッファー添加前のRU値)−(バッファー添加から20秒後のRU値)
化合物の選別: 解離量が、Rmax(蛋白結合量×化合物分子量×結合価数/蛋白分子量)の1/4〜1の値を示す化合物を自動選別
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、本発明のスクリーニング方法を行うためのSPRシステムの一例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リガンドと被験物質の相互作用に基づき一群の化合物から特定の物質を選別するスクリーニング方法において、該リガンドが固相化されており、リガンド固相化表面に該被験物質溶液を一定時間接触させた後、その状態を基準点として、該被験物質溶液から該被験物質を含まない溶液に置換して一定時間後の信号変化を測定し、その信号変化量に基づいて被験物質を選別するスクリーニング方法。
【請求項2】
リガンド固相化表面に被験物質溶液を一定時間接触させるユニットと、信号変化量の測定を行うユニットとが分離されているスクリーニング装置を用いてスクリーニングを行う、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
スクリーニングにかける全被験物質の分子量が予めスクリーニング装置に入力されており、結合量が各被験物質の分子量で規格化されている、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
予め装置に入力された信号変化量の範囲に入る被験物質が自動選別される、請求項1から3の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
リガンドおよび被験物質が未標識である、請求項1から4の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
表面プラズモン共鳴装置により測定を行う、請求項1から5の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
リガンドの固相化を行うユニットと、信号変化量の測定を行うユニットが分離されている、請求項1から6の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
一群の被験物質数が1000以上である、請求項1から7の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
自動選別された化合物が表示装置上で視覚的に区別される、請求項1から8の何れかに記載のスクリーニング方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−78211(P2006−78211A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259662(P2004−259662)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】