説明

被験試料中のDNAの定量方法

【課題】定量検出のレンジが広範であり且つ高い信頼性を実現し得るDNAの定量方法を提供する。
【解決手段】本発明のDNAの定量方法は、目的DNAを含む被験試料中に内部標準プラスミドを含有させ、前記試料中の内部標準プラスミドと目的DNAとをそれぞれPCR法により検出し、内部標準プラスミドの検出結果を指標として前記試料中の目的DNAを定量する方法であって、(i) 内部標準プラスミドの検出に用いるプライマーは、目的DNAの検出に用いるプライマーとは塩基配列が異なるものであり、(ii) 内部標準プラスミドは、当該プラスミドに対するプライマーのアニーリング効率と目的DNAに対するプライマーのアニーリング効率とが実質的に同じとなるように、プライマー結合領域の塩基配列が設計されたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR法を用いて被験試料中の所望のDNAを定量する方法に関する。
詳しくは、目的DNAを含む被験試料中に内部標準プラスミドを含有させて、内部標準プラスミドと目的DNAとをPCR法により検出し、内部標準プラスミドの検出結果を指標として被験試料中の目的DNAを定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCR法の中でもより増幅感度の高い方法として、ネスティド(nested)PCR法がよく知られている(例えば、非特許文献1及び2参照)。ネスティドPCR法とは、目的DNAに対し、外側のプライマーと内側のプライマーとを使用して2段階のPCRを行う方法であり、第1段階目では、外側のプライマーを用いてPCRを行い、第2段階目では、上記外側のプライマー位置より内側に設計したプライマーを用い、第1段階目のPCR産物を鋳型としてPCRを行う(図1参照)。従って、このネスティドPCR法によれば、目的DNAを2回増幅させ、増幅感度を格段に向上させ得るため、被験試料中の微量のDNAであっても容易に検出することができる。
【0003】
しかしながら、ネスティドPCR法は、目的DNAを正確に定量する方法としては有効なものではなく、専らDNAの存在の有無を検出することを目的とするものであり、定性的な方法として利用されるものであった。
これに対し、被験試料中に微量に存在するDNAであっても、それを容易かつ正確に定量検出することができる方法として、近年、内部標準プラスミドを用いて補正を加える“定量的Nested real-time PCR法(QNRT-PCR法:Quantitative nested real-time PCR assay)”が新たに開発された(非特許文献3参照)。このQNRT-PCR法は、ネスティドPCR法における第2段階目のPCRに、特定のPCR法、すなわちDNAの定量的検出が可能なリアルタイム(real-time)PCR法を適用した方法であり、ネスティドPCR法の高検出性(高感度)とリアルタイムPCR法の定量性とを兼ね備えた画期的な方法である。
【0004】
QNRT-PCR法は、塗沫・培養やSingle PCR法のような従来法では困難とされる、髄液中の微量の結核菌DNAの定量検出等に極めて有用であった。
そのため、結核性髄膜炎(TBM)等の微量DNAの定量検出が必要とされる疾患に関し、さらに迅速な診断及び薬効判定を可能にするため、上記QNRT-PCR法の改良及び広い臨床応用が期待されている。
【0005】
【非特許文献1】Liu PYF, Shi ZY, Lau YJ, et al., Rapid diagnosis of tuberculous meningitis by a simplified nested amplification protocol., Neurology, vol.44, p.1161-1164, 1994
【非特許文献2】Takahashi T, Nakayama T, Tamura M, et al., Nested polymerase chain reaction for assessing the clinical course of tuberculous meningitis. Neurology, vol.64, p.1789-1793, 2005
【非特許文献3】Teruyuki Takahashi and Tomohiro Nakayama, Novel Technique of Quantitative Nested Real-Time PCR Assay for Mycobacterium tuberculosis DNA., Journal of Clinical Microbiology, vol.44, No.3, p.1029-1039, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、QNRT-PCR法の原理を用いた被験試料中の目的DNAの定量方法であって、より定量性に優れた方法、具体的には定量検出のレンジが広範であり且つ高い信頼性を実現し得るDNAの定量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、QNRT-PCR法において使用していた内部標準プラスミド及びその検出用プライマーの塩基配列を、アニーリング効率を実質的に変えることなく改変することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
(1) 定量の目的DNAを含む被験試料中に内部標準プラスミドを含有させ、前記試料中の内部標準プラスミドと目的DNAとをそれぞれPCR法により検出し、内部標準プラスミドの検出結果を指標として前記試料中の目的DNAを定量する方法であって、
内部標準プラスミドの検出に用いるプライマーの塩基配列は、目的DNAの検出に用いるプライマーの塩基配列とは異なるものであり、
内部標準プラスミドのプライマー結合領域の塩基配列は、当該プラスミドに対するプライマーのアニーリング効率と目的DNAに対するプライマーのアニーリング効率とが実質的に同じとなるように設計されたものである
ことを特徴とする、前記方法。
【0009】
本発明の定量方法において、前記PCR法としては、例えば、外側プライマーセットを用いた第1段階目のPCRと内側プライマーセットを用いた第2段階目のPCRとを行うネスティドPCR法において第2段階目のPCRとしてリアルタイムPCR法を用いる方法が挙げられる。この際、第1段階目のPCRのサイクル数は、例えば、10〜30サイクルとすることができる。また、上記リアルタイムPCR法としては、例えば、TaqManプローブ法が挙げられる。
【0010】
本発明の定量方法において、上記のようにTaqManプローブ法が適用される場合、内部標準プラスミドの検出に用いるTaqManプローブの塩基配列としては、例えば、目的DNAの検出に用いるTaqManプローブの塩基配列とは異なるものとすることができ、内部標準プラスミドのプローブ結合領域の塩基配列としては、例えば、当該プラスミドに対するTaqManプローブのアニーリング効率と目的DNAに対するTaqManプローブのアニーリング効率とが実質的に同じとなるように設計されたものとすることができる。
本発明の定量方法において、被験試料中の内部標準プラスミドの含有量は、例えば、1×102〜1×104コピーとすることができる。また、被験試料としては、例えば、ヒトの髄液を含有するものが挙げられる。さらに、目的DNAとしては、結核菌DNAが挙げられる。
【0011】
本発明の定量方法において、上記のように目的DNAが結核菌DNAである場合は、内部標準プラスミドとして、例えば、配列番号2に示される塩基配列からなるDNAを含むプラスミドを用いることができ、かつ、結核菌DNAの検出用の外側プライマーセットとして、例えば、配列番号4及び5に示される塩基配列からなり、内側プライマーセットが配列番号8及び9に示される塩基配列からなるものを用いることができ、かつ、内部標準プラスミドの検出用の外側プライマーセットとして、例えば、配列番号6及び7に示される塩基配列からなり、内側プライマーセットが配列番号10及び11に示される塩基配列からなるものを用いることができる。また、この方法においてTaqManプローブ法を適用する場合は、結核菌DNAの検出用のTaqManプローブとして、例えば、配列番号12に示される塩基配列に蛍光色素が結合されたものを用いることができ、内部標準プラスミドの検出用のTaqManプローブとして、例えば、配列番号13に示される塩基配列に蛍光色素が結合されたものを用いることができる。
【0012】
(2) 被験者から髄液を採取し、上記(1)記載の方法(但し、目的DNAが結核菌DNAである。)を用いて、当該髄液中の結核菌DNAを検出することを特徴とする、結核性髄膜炎の診断方法。
(3) 結核性髄膜炎に罹患している被験者から髄液を採取し、上記(1)記載の方法(但し、目的DNAが結核菌DNAである。)を用いて、当該髄液中の結核菌DNAの量をモニタリングする方法。
【0013】
(4) 下記(i)〜(vii)を含む、結核菌DNAの定量用キット。
(i) 配列番号2に示される塩基配列からなるDNAを含む内部標準プラスミド
(ii) 配列番号4及び5に示される塩基配列からなる結核菌DNAの検出用の外側プライマーセット
(iii) 配列番号8及び9に示される塩基配列からなる結核菌DNAの検出用の内側プライマーセット
(iv) 配列番号6及び7に示される塩基配列からなる内部標準プラスミドの検出用の外側プライマーセット
(v) 配列番号10及び11に示される塩基配列からなる内部標準プラスミドの検出用の内側プライマーセット
(vi) 配列番号12に示される塩基配列に蛍光色素が結合してなる結核菌DNAの検出用のTaqManプローブ
(vii) 配列番号13に示される塩基配列に蛍光色素が結合してなる内部標準プラスミドの検出用のTaqManプローブ
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被験試料中に存在する所望のDNAについて、その定量的検出を従来よりも広範な検出レンジで、かつ高い信頼性をもって容易に行うことができる方法を提供することができる。
また本発明は、結核性髄膜炎の診断方法、及び、結核性髄膜炎に罹患している被験者から採取した髄液中の結核菌DNAの量をモニタリングする方法を提供することができ、さらには、結核菌DNAの定量的検出用キットを提供することもできる点で極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0016】
1.本発明の概要
本発明は、定量的Nested real-time PCR法(以下、QNRT-PCR法)という公知のDNA定量方法を改良した方法であり、より一層広範な定量検出レンジと高い信頼性(正確性)を容易に実現し得る方法である。そのため、本発明の定量方法は、Wide range QNRT-PCR法(以下、WR-QNRT-PCR法)と称することができる。
【0017】
従来法であるQNRT-PCR法は、被験試料中の微量DNAであっても極めて高感度に検出することが可能なネスティドPCR法と、PCR産物の増加を蛍光の検出によりモニタリングすることでDNAの正確な定量検出が可能なリアルタイムPCR法とを組み合せた方法である。具体的には、ネスティドPCR法における2段階のPCRのうち、第2段階目のPCRにおいてリアルタイムPCR法を適用した方法である。なお、QNRT-PCR法では、蛍光量に基づく正確な定量を可能とするため、被験試料中にコントロールとなる内部標準プラスミドを所定量含有させる。そして、定量目的のDNA(以下、目的DNA)と内部標準プラスミドとを、同じプライマー及びプローブ(以下、プライマー等)を用いて増幅及び検出し、内部標準プラスミドの検出結果を指標として被験試料中の目的DNAを定量する。但し、検出する蛍光物質は、目的DNAと内部標準プラスミドで異なるようにしている。
【0018】
これに対し、本発明の定量方法であるWR-QNRT-PCR法は、QNRT-PCR法における内部標準プラスミド並びにそのプライマー等の塩基配列を改良して使用する方法である。そのため、本発明の定量方法では、内部標準プラスミド検出用のプライマー等、並びに目的DNA検出用のプライマー等としては、QNRT-PCR法のように共通のものを用いず、互いに塩基配列が異なる別のものを用いる。また、WR-QNRT-PCR法では、上述した塩基配列の改良の仕方、特に内部標準プラスミド中のプライマー等の結合配列の改良の仕方が重要である。具体的には、内部標準プラスミドに対するプライマー等のアニーリング効率と、目的DNAに対するプライマー等のアニーリング効率とが実質的に同じとなるように、内部標準プラスミド中のプライマー等の結合配列を改良設計する。本発明では、このように改良した内部標準プラスミドと、当該プラスミドに対するプライマー等とを用いることにより、内部標準プラスミドと目的DNAとを、それぞれ独立に且つ同じ効率で増幅及び検出することができる。そのため、例えば、被験試料中の内部標準プラスミドと目的DNAとの存在量の差が大きく、従来のQNRT-PCR法では両方を正確に増幅し検出できない場合であっても、本発明の定量方法によれば、両方を正確かつ容易に増幅し検出することができる。そのため、本発明の定量方法は、被験試料中の目的DNAを従来に比べてより広範なレンジで正確に定量することを可能とする方法である。
【0019】
2.DNAの定量方法
本発明の定量方法は、先に述べた通り、目的DNAを含む被験試料中に内部標準プラスミドを含有させ、被験試料中の内部標準プラスミドと目的DNAとをそれぞれPCR法により検出し、内部標準プラスミドの検出結果を指標として被験試料中の目的DNAを定量する方法である。そして、当該方法において、(i) 内部標準プラスミドの検出に用いるプライマー等が、目的DNAの検出に用いるプライマー等とは塩基配列が異なるものであること、並びに (ii) 内部標準プラスミドは、当該プラスミドに対するプライマー等のアニーリング効率と目的DNAに対するプライマー等のアニーリング効率とが実質的に同じとなるように、プライマー等の結合配列が設計されたものであること、を特徴とする。
【0020】
(1) 被験試料及び目的DNA
本発明の定量方法において、検出対象となる目的DNAを含む被験試料、又は含む可能性がある被験試料としては、限定はされず、例えば、ヒト、マウス等の各種哺乳動物由来の生体試料のほか、魚類、鳥類、昆虫、植物等由来の試料等が採用できる。なお、各種動物由来の被験試料としては、その動物に由来する限り特に限定はされず、いかなる組織由来の細胞、血液、体液であってもよく、例えば、脳、心臓、肺、脾臓、腎臓、肝臓、膵臓、胆嚢、食道、胃、腸、膀胱、骨格筋等の各種組織由来の細胞、血液、体液を使用することができる。より具体的には、例えば、血液、髄液、尿、喀痰、胸水、腹水、胃液、水疱内体液等が挙げられる。また、目的DNAについても、特に限定はされず、例えば、各種哺乳動物、魚類、鳥類、昆虫、植物等のゲノム由来のDNAのほか、各種細菌、ウイルス、真菌等の病原体又は非病原体に由来するDNA挙げることができる。ここで、細菌としては、例えば、結核菌、肺炎球菌、大腸菌、ブドウ球菌、緑膿菌、破傷風菌、リステリア菌、インフルエンザ桿菌、髄膜炎等が挙げられ、ウイルスとしては、例えば、単純ヘルペスウイルス、帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、エコーウイルス、Epstein-Barr (EB)ウイルス、麻疹ウイルス、アデノウイルス、ポリオウイルス、フラビウイルス(日本脳炎ウイルス、西ナイル脳炎ウイルス)、インフルエンザウイルス等が挙げられ、真菌としては、例えば、クリプトコッカス、アスペルギルス、カンジダ、ムコール等が挙げられる。本発明において、目的DNAとしては、上記列挙した中でも結核菌DNAが好適である。結核菌DNAの塩基配列としては、例えば、Mycobacterium tuberculosis H37Rvのゲノム塩基配列が、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ からアクセス可能)に「Accession number:NC 000962」で公表されている(ゲノム全長:4,411,532 bp)。当該ゲノム塩基配列のうち、本発明の定量方法においてPCRにより増幅し検出する領域としては、限定はされないが、例えば MPB64 蛋白のコード領域 (MPT64) のうちの第458番目〜第696番目の塩基からなる領域(239 bp,配列番号1)、及び当該領域に含まれる任意の塩基配列領域(例えば、第491番目〜第567番目の塩基からなる領域)が好適であり(Shankar, P. et al., Lancet, vol.337, p.5-7, 1991;Lee BW et al., J. Neurol. Sci., vol.123, p.173-179, 1994 を参照)、中でも、配列番号1で示される塩基配列からなる領域が最も好適である。
【0021】
被験試料は、各種動物及び植物から常法に従って採取することができ、また、各種動物の血液や体液は、蚊やヌカカ等の吸血昆虫材料から常法に従って採取することもできる。
被験試料は、後述するPCRを行う前に、当該PCRに用い得る試料として(すなわちDNA含有試料として)調製及び精製しておく必要があるが、常法に従って行うことができる。例えば、各種動物又は植物由来の細胞等を破砕し、可溶化剤によって可溶化した後、変性剤によってタンパク質を除去し、エタノール等によって沈殿させることによって、目的DNAを抽出し、適当な溶媒に溶解させる等して、各種動物又は植物由来のDNA含有試料として調製することができる。
【0022】
(2) 内部標準プラスミド
本発明の定量方法では、目的DNAの検出結果から被験試料中の目的DNA量を正確に定量するため、コントロールとして内部標準プラスミドを被験試料中に含有させる。内部標準プラスミドは、既知の所定量を被験試料中に含有させておき、その後、目的DNAと同様にして検出する。そして、当該プラスミド及び目的DNAの検出結果をそれぞれ得た後、当該プラスミドの検出結果を指標とすることにより被験試料中の目的DNAの存在量を定量することができる。
本発明で用いる内部標準プラスミドは、当該プラスミドに対するプライマー等のアニーリング効率と目的DNAに対するプライマー等のアニーリング効率とが実質的に同じとなるように、プライマー等の結合配列が設計されたものであり、好ましくは、当該プライマー等の結合配列が目的DNAの塩基配列に基づいてランダムに改変して設計されたものである。
【0023】
ここで、プライマー等のアニーリング効率とは、プライマー等が鋳型DNAに結合する効率(結合のし易さ)を意味し、通常は、プライマー等が結合する領域の塩基組成及び塩基配列の長さに依存する。よって、本発明で用いる内部標準プラスミドは、プライマー等の結合配列が、目的DNA中のプライマー等の結合配列と比較して、塩基組成及び塩基配列の長さが実質的に同じであることが好ましい。ここで、塩基組成及び塩基配列の長さが実質的に同じであるとは、完全同一であることには限定されず、アニーリング効率が実質的に同じとなる範囲で適宜相違していてもよい。相違の程度は、例えば、塩基組成については、互いのCG含量(%)の差が 10 %以下であることが好ましく、より好ましくは 5 %以下、さらに好ましくは 2 %以下である。塩基配列の長さについては、互いの塩基数の差が 5 個以下であることが好ましく、より好ましくは 2 個以下、さらに好ましくは 1 個以下である。
【0024】
内部標準プラスミドの調製方法は、限定はされず、例えば、目的DNA中のPCR増幅領域の断片を予め単離調製し、公知の各種プラスミドベクター(例えば、pCR2.1ベクター等)に挿入した後、プライマー等の結合配列にあたる部分に変異導入等をして当該部分の塩基配列を改変することにより構築してもよいし、あるいは、予め目的DNA中のプライマー等の結合配列にあたる部分に変異導入等をして当該部分の塩基配列を改変した後、PCR増幅領域の断片を単離調製して、公知の各種プラスミドベクター(例えば、pCR2.1ベクター等)に挿入することにより構築してもよい。ここで、上記変異導入等やプラスミドベクターへの挿入は、例えばGenBank等のデータベースに公表されている塩基配列情報を基にし、当業者において周知の遺伝子組換え技術(例えば、Molecular cloning 2nd ed., Sambrook, J., et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press U.S.A.,1989を参照)や、公知の部位特異的突然変異誘発法(例えば、Quick-changeキット(Strategene社製、型番:200523))等を適宜採用して行うことができる。
【0025】
また、内部標準プラスミドのサイズ(全長)は、限定はされないが、例えば2,000〜5,000bpが好ましく、より好ましくは 3,000〜4,000bpである。
本発明においては、定量する目的DNAが結核菌DNAである場合に、内部標準プラスミドとして、例えば、配列番号2に示される塩基配列(239 bp)からなるDNAを含むプラスミドが好ましく用いられる。また、このようなプラスミドとしては、具体的には、pCR2.1ベクターに、配列番号2に示される塩基配列からなるDNA断片を挿入して構築されたプラスミド(配列番号3)が好ましく挙げられる。
【0026】
(3) プライマー等
本発明の定量方法で使用される各種プライマー及びプローブは、目的DNAの及び上述した内部標準プラスミドの塩基配列情報に基づいて、当業者において周知の技術及び手段により、適宜作製することができる。
【0027】
(4) PCR法
本発明の定量方法において、被験試料中の各種DNAの検出に利用するPCR法については、その種類及び反応条件等は限定されず、公知の各種PCR法を適宜採用することができる。なお、本発明の定量方法では、前述したように、目的DNA及び内部標準プラスミドはそれぞれ異なるプライマー等を用いて増幅及び検出を行う。そのため、上記PCR法による検出は、目的DNAを対象とする反応系と、内部標準プラスミドを対象とする反応系とで、それぞれ別個に行うことが好ましい。
上記PCR法としては、例えば、外側プライマーセットを用いた第1段階目のPCRと、内側プライマーセットを用いた第2段階目のPCRとを行うネスティドPCR法において、第2段階目のPCRとしてリアルタイムPCR法を用いる方法が特に好ましい。以下に、当該方法について説明する。
【0028】
(4-1) 第1段階目のPCR
第1段階目のPCRは、被験試料中の目的DNA又は内部標準プラスミドを鋳型(テンプレート)とし、当該鋳型に特異的に結合するプライマー(外側のプライマーセット)を用いて行う。
第1段階目のPCRにおける反応液組成(DNAポリメラーゼ、プライマー、dNTP、バッファ、テンプレート等)及び反応条件(熱変性、アニーリング、伸長等の温度及び時間)は、限定はされず、例えばテンプレート及びプライマーの種類等を考慮して、常法により適宜設定することができる。本発明においては、例えば、第1段階目のPCRのサイクル数を10〜30サイクルとすることが好ましく、より好ましくは20〜30サイクル、さらに好ましくは20〜25サイクル、特に好ましくは25サイクルである。第1段階目のPCRのサイクル数を上記範囲に設定することにより、例えば、目的DNAの少コピー数時の弁別能、初期濃度勾配の保存性、及びDNA増幅率の均一性を、従来法に比べて格段に向上させることができる等の優れた効果が得られる。
【0029】
(4-2) 第2段階目のPCR
第2段階目のPCRは、第1段階目のPCRの増幅産物を鋳型とし、当該鋳型に特異的に結合するプライマー(内側のプライマーセット)を用いて、リアルタイムPCRを行う。
第2段階目のPCRで使用するプライマーは、第1段階目のPCRで使用したプライマー(外側のプライマーセット)の結合位置より内側の塩基配列に結合し得るように適宜設計されたものを用いる。詳しくは、第2段階目のPCRで使用する内側プライマーの結合位置の最も外側の塩基の位置が、第1段階目のPCRで使用する外側プライマーの結合位置の最も外側の塩基の位置より、例えば、10塩基以上内側であることが好ましく、より好ましくは15塩基以上、さらに好ましくは20塩基以上である。
【0030】
ここで、目的DNAとして結核菌DNA(前述したGenBankに公表のもの)を検出する場合を例に挙げると、第1段階目のPCRに用いるプライマー(外側プライマーセット)として配列番号4及び5に示される塩基配列からなるものを用い、第2段階目のPCRに用いるプライマー(内側プライマーセット)として配列番号8及び9に示される塩基配列からなるものを用いることが好ましい。また、内部標準プラスミドとして、前述した配列番号2に示される塩基配列からなるDNAを含むプラスミドを検出する場合は、第1段階目のPCRに用いるプライマー(外側プライマーセット)として配列番号6及び7に示される塩基配列からなるものを用い、第2段階目のPCRに用いるプライマー(内側プライマーセット)として配列番号10及び11に示される塩基配列からなるものを用いることが好ましい。
【0031】
リアルタイムPCR法とは、一本鎖テンプレートDNA及びdNTPを基質とし、Fプライマー、Rプライマーと呼ばれる2つのPCRプライマー(プライマーセット)を用いて二本鎖DNAの合成反応を行う際に、蛍光物質を作用させることで、当該合成反応が起こると蛍光シグナルが発生するようにしたPCR法である。この方法によれば、PCR反応を続けながらホモジニアスな系でリアルタイムにPCR産物の生成量をモニタリングでき、テンプレートの定量が可能となる。本発明において、リアルタイムPCR法としては、例えば、TaqManプローブ法及びインターカレーション法等が好ましく挙げられ、なかでもTaqManプローブ法がより好ましい。
【0032】
TaqManプローブ法とは、PCRを行うに際し、2つのPCRプライマー(プライマーセット)とともに、さらにこれらプライマーに囲まれた増幅配列の一部とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドプローブ(TaqManプローブ)も併用する方法である。このTaqManプローブには、5'末端及び3'末端にそれぞれ別の蛍光色素が結合されている。具体的には、5'末端にはレポーター色素(例えば、VIC、FAM、HEX、TET、フルオレセイン、FITC、TAMRA、Cy3、Texas red、Yakima Yellow等)を、3'末端にはクエンチャー色素(例えば、TAMRA、ローダミン、Dabcyl、BHQ1、BHQ2等)を、常法に従い、適宜有効な組合せで結合させておく。テンプレートDNAにハイブリダイズしたTaqManプローブは、PCR反応に伴い、DNAポリメラーゼがもつ5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって5'末端から分解される。そうすると、5'末端にあるレポーター色素が遊離し、クエンチャー色素の影響下から脱するため、FRETの効果が無くなり、レポーター色素の蛍光が検出されることになる。結果として、テンプレートの増幅量に依存して蛍光量(蛍光強度)も増大することとなる。
【0033】
ここで、目的DNAとして結核菌DNA(前述したGenBankに公表のもの)を検出する場合を例に挙げると、TaqManプローブとしては、配列番号12に示される塩基配列に蛍光色素(例えば、5'末端にVIC、3'末端にTAMRA)が結合したものを用いることが好ましい。また、内部標準プラスミドとして、前述した配列番号2に示される塩基配列からなるDNAを含むプラスミドを検出する場合は、TaqManプローブとしては、配列番号13に示される塩基配列に蛍光色素(例えば、5'末端にFAM、3'末端にTAMRA)が結合したものを用いることが好ましい。
【0034】
一方、インターカレーション法とは、合成された二本鎖DNAに結合し蛍光を発する色素(例えば、SYBR Green I、エチジウムブロマイド等)を取り込ませることにより、PCR反応に応じた(すなわち増幅産物の量に応じた)蛍光を検出する方法である。
リアルタイムPCR法は、公知の各種機器及びシステムを使用して実施することができる。例えば、Applied Biosystems 7900HT Fast、Applied Biosystems 7500 Fast、Applied Biosystems 7500、Applied Biosystems 7300、ABI PRISM 7700及びABI PRISM 7000 (いずれもApplied Biosystems製);LightCycler (Roche Diagnostics);iCycler iQ (Bio-Rad Laboratories) 等の機器及びシステムが好ましく利用できる。
【0035】
なお、第2段階目のPCRにおいては、その反応液組成(DNAポリメラーゼ、プライマー、プローブ、dNTP、バッファ、テンプレート等)及び反応条件(熱変性、アニーリング、伸長等の温度及び時間)は、限定はされず、例えばテンプレート及びプライマーの種類等を考慮して、常法により適宜設定することができる。本発明においては、例えば、第2段階目のPCRに用いるプライマー(内側のプライマーセット)の濃度を0.5〜2.0μMとすることが好ましく、より好ましくは0.6〜1.8μM、さらに好ましくは0.8〜1.2μMであり、最も好ましくは0.9μMである。第2段階目のPCRのプライマー濃度を上記範囲に設定することにより、例えば、最適な増幅効率でのDNA増幅が可能となり、目的DNAの定量性がより一層向上する等の優れた効果が得られる。
【0036】
(5) DNAの検出及び定量
本発明の定量方法では、まず被験試料中の目的DNA及び内部標準プラスミドについて、それぞれ所定の塩基配列領域を増幅し検出する。
具体的には、予め目的DNAを含む被験試料に所定量の内部標準プラスミドを含有させて、PCRに用いるテンプレートを調製する。内部標準プラスミドの含有量(使用量)は、例えば、被験試料に対して1×102〜1×105コピーとすることが好ましく、より好ましくは1×103〜1×105コピー、さらに好ましくは1×103〜1×104コピー、特に好ましくは1×103コピーである。内部標準プラスミドの含有量を上記範囲とすることにより、目的DNAの定量の再現性や確度が向上し、特に少量の目的DNAの定量に際して弁別性が鋭敏となる等の効果が得られる。
【0037】
テンプレートの調製は、目的DNA及び内部標準プラスミドを、共に被験試料中から抽出して精製する。その後、当該テンプレートを用いて、目的DNAの増幅断片のみを得るPCRを行い、その増幅断片量を検出する。別途、同様のテンプレートを用いて、内部標準プラスミドの増幅断片のみを得るPCRを行い、その増幅断片量を検出する。つまり、目的DNAと内部標準プラスミドとを、それぞれ異なるプライマー等を用いて別々の反応系で増幅し検出する。増幅断片量の検出には、前述したようにTaqManプローブ法などのリアルタイムPCR法を用いることができる。TaqManプローブ法は、目的DNAと内部標準プラスミドとをそれぞれ異なる蛍光色素で検出できるように調製したTaqManプローブを用いて行ってもよい。
【0038】
目的DNA及び内部標準プラスミドの検出結果がそれぞれ得られたら、初めに被験試料中に含有させた内部標準プラスミドの量とそれに対する検出結果(検出値)との相関関係に基づいて、目的DNAに関する検出結果(検出値)から、被験試料中の目的DNAの量を推定的に定量することができる。例えば、予め被験試料中に含有させた内部標準プラスミドの量がaであり、内部標準プラスミドの検出値がAであるとき、目的DNAに関する検出値がBであれば、当初被験試料中に含まれる目的DNAの量bは、b=(B/A)a の式より求めることができる。
【0039】
3.結核性髄膜炎の診断方法
本発明の結核性髄膜炎の診断方法は、先に述べた通り、被験者から髄液を採取し、前述した本発明の定量方法を用いて、当該髄液中の結核菌DNAを検出することを特徴とする。また本発明は、上記のごとく結核菌DNAを検出する、結核性髄膜炎の検出方法を含むものでもある。
【0040】
(1) 被験者からの髄液の採取等
本発明の診断方法は、被験者から採取した髄液を対象として行うものである。髄液の採取方法は、限定はされず、医学的に公知の方法を適宜採用すればよいが、具体的には、最も一般的な手法として腰椎穿刺が挙げられる。その穿刺部位には、Jacoby線(左右の腸骨稜の最上端を結ぶ線)が第4腰椎棘突起に相当するので、その頭測、つまり第3〜4腰椎間腔を選択するのが最も好ましい。穿刺には腰椎穿刺用の19〜20ゲージの長い針を用いる。穿刺は被験者を側臥位として施行するのが原則であり、被験者の背面を消毒した後、穿刺針を慎重に刺入し、髄液圧を測定しつつ適量(2〜5 ml)の髄液を採取する。また、上記の操作は滅菌済みの手袋を装着し、すべて清潔操作で施行する。
被験者から採取した髄液は、滅菌済みの試験管やチューブ等に入れ、本発明の定量方法を用いて診断するまでは、約-20℃〜-80℃で冷蔵保存しておくことが好ましい。
【0041】
(2) 診断方法
本発明の診断方法では、採取した髄液を被験試料とし、本発明の定量方法を用いて結核菌DNAの有無を検出することを目的とするが、ここで、本発明の定量方法の詳細については、前述した説明を同様に適用することができる。
まず被験試料となる髄液からDNAを抽出する必要があるが、この際用いる髄液の量は、本発明の診断方法を実施1回あたり、200μl〜1,000μlであることが好ましく、より好ましくは500μlである。
【0042】
本発明の診断方法によれば、従来のネスティドPCR法やQNRT-PCR法を用いた場合と比べて、同様又はそれ以上の検出効率(陽性率)を達成することができ、しかも陰性の場合も極めて高い精度で判定することができるため擬陽性の割合を格段に低く抑えることができる。また、陽性の場合は、髄液中に含まれる結核菌DNAの量(コピー数)を広範な検出レンジで正確に定量することができるため、結核性髄膜炎の進行状況や治療薬の効果等を容易に判断することができる。
【0043】
4.結核菌DNA量のモニタリング方法
本発明の結核菌DNA量のモニタリング方法は、先に述べた通り、結核性髄膜炎に罹患している被験者から髄液を採取し、前述した本発明の定量方法を用いて、当該髄液中の結核菌DNAの量をモニタリングすることを特徴とする。
本発明のモニタリング方法を用いれば、結核性髄膜炎の進行状況等、特に所望の治療を施した後(治療薬投与後など)の病状の経時的な推移を、容易に把握することができるため、より一層効果的かつ効率的な治療方法の選択及びアドバイス等が可能となるほか、患者にとっては精神的な安心感が得られ、早期回復に良い影響を与え得る点でも非常に有用である。
なお、被験者からの髄液の採取等について、及び、本発明の定量方法の詳細については、前述した説明を同様に適用することができる。
【0044】
本発明のモニタリング方法では、髄液の経時的な採取を行うにあたり、その採取間隔は、限定はされず、患者の病状(進行状況)のほか、年齢、性別、身長、体重、血圧及び心拍数等の各種身体的状況を考慮して適宜設定すればよいが、例えば、重症の髄膜炎で状況が切迫している場合には2〜3日おきに採取するのが病状の変化を効率的に把握することができ好ましく、また、病状が落ち着いてきた場合には1週間に1回程度、慢性安定期には2〜3週間あるいは1ヵ月に1回程度の割合で採取するのが好ましい。さらに、採取期間(合計期間)についても、限定はされず、上記採取間隔と同様に病状等を考慮して適宜設定すればよい。例えば、2〜4ヵ月は経時的に髄液を採取しつつ経過観察をすべきであり、より好ましくは約半年間である。
【0045】
5.結核菌DNAの定量用キット
本発明の結核菌DNAの定量的検出用キットは、先に述べた通り、構成要素として、(i) 配列番号2に示される塩基配列からなるDNAを含む内部標準プラスミド、(ii) 配列番号4及び5に示される塩基配列からなる結核菌DNAの検出用の外側プライマーセット、(iii) 配列番号8及び9に示される塩基配列からなる結核菌DNAの検出用の内側プライマーセット、(iv) 配列番号6及び7に示される塩基配列からなる内部標準プラスミドの検出用の外側プライマーセット、(v) 配列番号10及び11に示される塩基配列からなる内部標準プラスミドの検出用の内側プライマーセット、(vi) 配列番号12に示される塩基配列に蛍光色素が結合してなる結核菌DNAの検出用のTaqManプローブ、並びに (vii) 配列番号13に示される塩基配列に蛍光色素が結合してなる内部標準プラスミドの検出用のTaqManプローブを含むことを特徴とする。
【0046】
本発明のキットは、前述した本発明の定量方法、本発明の診断方法、及び本発明のモニタリング方法等のいずれにも有効に用いることができる。
本発明のキットは、上記各構成要素以外に他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、例えば、DNAポリメラーゼ、各種バッファ、滅菌水、エッペンドルフチューブ、マルチウェルプラスチックプレート、フェノールクロロホルム、クロロホルム、エタノール、核酸共沈剤、実験操作マニュアル(説明書)等のほか、必要に応じ、PCRや蛍光検出等を行うことができる実験機器等も挙げることができる。
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
1.新規の内部標準プラスミドの開発
本実施例の記載中で引用している表1及び表2について、先に以下に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
(1) “Wild (W)”プラスミドの作製
結核菌 DNA の MPB64 領域 (MPT64) の塩基配列の一部 (239 塩基対(bp))を含むプラスミド ("Wild (W)" プラスミド) を TA クローニングTM 法にて作製した。即ち,プライマー WF1/WF2 (表1:配列番号4及び5) を用いた PCR 産物 (239 bp) を Microcon 100 カラムにて精製し,pCR2.1 ベクター (プラスミド) に インサートした。この 239 bp のDNA 断片を含む pCR2.1 ベクター(= W-プラスミド)を、TA クローニングTM キット (Invitrogen Corp, San Diego, CA, USA) を用いてサブクローニングした。抽出・精製した W-プラスミド は,インサートした DNA 断片の配列をABI PRISM 310 Genetic AnalyzerTM (Perkin Elmer Applied Biosystems, Foster City, CA, USA) を用いて確認した。
【0052】
(2) 新規の内部標準プラスミド ("new mutation (NM)" プラスミド) の作製
上記の W-プラスミド を元に,インサートした DNA 断片の一部を人工的配列に置換した "new mutation (NM)" プラスミドを新規に作製し,これを内部標準として用いた。NM-プラスミドでは,外側と内側の フォワード/リバース プライマー と TaqMan プローブ の アニーリング 部位の計5カ所を全て人工的配列に置換した。この人工的配列への組み換え操作は,5'末端に人工的配列と制限酵素サイトを付加した 5 組のプライマー(表1及び下記を参照)を用いて段階的に行った (図1)。
【0053】
Nhe1 random forward primer (Nhe1-F) (配列番号14)/Nhe1 random reverse primer (Nhe1-R) (配列番号15)
Avr2 random forward primer-1 (Avr2-F1) (配列番号16)/Avr2 random reverse primer-1 (Avr2-R1) (配列番号17)
Avr2 random forward primer-2 (Avr2-F2) (配列番号18)/Avr2 random reverse primer-2 (Avr2-R2) (配列番号19)
Mlu1 random forward primer (Mlu1-F) (配列番号20)/Sal1 random reverse primer (Sal1-R) (配列番号21)
Sal1 random forward primer (Sal1-F) (配列番号22)/Mlu1 random reverse primer (Mlu1-R) (配列番号23)
【0054】
これら 5 組の プライマーに含まれる 4 種の制限酵素サイト (Nhe1,Avr2,Mlu1,Sal1) は,何れも pCR2.1 ベクター (プラスミド) 本体には含まれておらず,従って,PCR 産物の両断端のみが制限酵素により切断される。
【0055】
第一段階として,primer Nhe1-F (配列番号14)/Nhe1-R (配列番号15)を用いて TaqMan プローブ の アニーリング 部位の人工的配列への組み替えを行った (図1中のI)。即ち,PCR 反応液 18μl (10×LA PCRTM Buffer II (Mg2+ free) 2μl, 2.5 mM MgCl2, 200μM each dNTP mix, 0.2μM プライマー (Nhe1-F/Nhe1-R), Taq DNA polymerase 0.5U (TaKaRa LA TaqTM ;TaKaRa, Otsu, Shiga,Japan)) に106 コピー/2μl に調製した W-プラスミド 2μlをテンプレートとして加え合計 20μl とし,表2(b)に示す条件下で増幅を行った。その際,Nhe1-F/Nhe1-R PCR 産物の全長は約 4 kb に及ぶので,各サイクル毎の伸長時間は 72℃, 8分と長めに設定した。この PCR 産物を精製し,制限酵素 Nhe1 で 消化後,ライゲーションを行った。この Nhe1 処理産物,即ち"Nhe1 restriction product (Nhe1-RP)"を W-プラスミド と同様に TA クローニングTM キット にてサブクローニングし,オートシークエンサー (ABI PRISM 310 Genetic AnalyzerTM ) にて組み替えた人工的配列を確認した。
【0056】
次いで,第二段階として,2 組の プライマー:Avr2-F1 (配列番号16)/Avr2-R1 (配列番号17) と Avr2-F2 (配列番号18)/Avr2-R2 (配列番号19) を用いて外側と内側の フォワード プライマー の アニーリング 部位の人工的配列への組み替えを一括して行った (図1中のII)。まず,106 コピー/2μl に調製したNhe1-RP 2μl を テンプレートとし,Avr2-F1(配列番号16)/Avr2-R1 (配列番号17) を用いて第一段階と同じ条件下で増幅を行った。さらに,この Avr2-F1/Avr2-R1 PCR 産物を 100 倍希釈した後, 2μl を テンプレート として Avr2-F2 (配列番号18)/Avr2-R2 (配列番号19) により"外側方向の"nested PCR を同様の条件下で行った。Avr2-F2/Avr2-R2 PCR 産物を精製し,制限酵素 Avr2 で 消化 後,ライゲーション を行った。この Avr2 処理産物,即ち"Avr2 restriction product (Avr2-RP)"を同様に TA クローニングTM キットにてサブクローニングし,オートシークエンサーにて組み替えた人工的配列を確認した。
【0057】
最後に,第三段階として,2 組の プライマー:Mlu1-F (配列番号20)/Sal1-R (配列番号21) と Sal1-F (配列番号22)/Mlu1-R (配列番号23) を用いて外側と内側のリバースプライマーのアニーリング 部位の人工的配列への組み替えを一括して行った (図1中のIII)。106 コピー/2μl に調製したAvr2-RP 2μl を テンプレート とし,Mlu1-F (配列番号20)/Sal1-R (配列番号21) と Sal1-F (配列番号22)/Mlu1-R (配列番号23) を用いて,各サイクル毎の伸長時間をそれぞれ 72℃, 8分と 1分に設定して増幅を行った。Mlu1-F/Sal1-R PCR 産物 (4048 bp) を ベクター側,Sal1-F/Mlu1-R PCR 産物 (136 bp) を インサート 側として両者を精製し,制限酵素 Mlu1 と Sal1 とで消化後,ライゲーション を行った。この Mlu1/Sal1 処理産物,即ち"NM-プラスミド"を同様に TA クローニングTM キット にてサブクローニングし,オートシークエンサーにて組み替えた人工的配列を確認した。
【0058】
作製した W-プラスミド 及び NM-プラスミド は吸光度計にて濃度を測定した後,1-1010 コピー ( /2μl) まで 10 倍希釈毎に濃度を調節し,4 ℃で保存した。これらの 10 倍希釈毎に濃度調整した W-プラスミド 及び NM-プラスミド は,WR-QNRT-PCR 法 において,結核菌 DNA 及び内部標準の定量的検出に必要な 2 本の特異的 標準曲線を構築するための標準テンプレートとして使用した。さらに 103 コピー/2μl に調整した NM-プラスミドを内部標準として使用した。このコピー数は後述する予備実験の結果に基づき決定した。
【0059】
2.髄液からの核酸の抽出・精製
まず,-80 ℃ で保存した患者髄液 500μl に独自に調製した細胞溶解 Buffer 500μl[20mM Tris-HCI (pH 8.0), 300mM NaCl, 0.8% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS), Proteinase-K 0.5mg]を加え,65 ℃ の恒温槽で一晩インキュベートした。その後,この混合液 1,000μl を 500μl ずつ 2 本に分注し,一方をストック分として-20 ℃ で保存した。
【0060】
残る 500μl に内部標準 (NM-プラスミド 103 コピー) を加え,フェノールクロロホルム法により DNA を抽出した。その際,髄液中の極少量の DNA を効率的に回収・精製するために,DNA 抽出液にDNA の高分子キャリアーである Ethachinmate (Nippon Gene, Tokyo, Japan) 3μl を共沈剤として添加した後,エタノール沈殿した。さらに,これを完全に真空乾燥した後,20μl のミリQ水に溶解し,2μl を テンプレート として使用した。 残りのDNA 抽出液は-20 ℃ で保存した。
【0061】
3.プライマー 及び プローブ の設定
従来,結核菌 DNA に特異的な塩基配列領域として,IS6110 insertion element (IS6110),65kDa heat shock protein (HSP) antigen (65kDa),MPB64 protein cording gene (MBT64),16S ribosomal RNA gene (16S rRNA) の 4 領域が知られており,この中で最も PCR 等で汎用されているのは IS6110 と 16S rRNA である。特に 16S rRNA は COBAS AMPLICOR M. tuberculosis detection Kit (Roche Diagnostic System Inc.) の標的配列として使用されている。
【0062】
しかし,これらの領域を比較し,MPT64 が検出感度・特異性ともに最も良好であるとの報告が既にあるため(Lee BW et al., J. Neurol. Sci., vol.123, p.173-179, 1994 を参照),MPT 64 に特異的な プライマー 及び プローブ を設定した。
本実施例において,MPT64 に設定した プライマー 及び プローブ の配列と位置は,全て 表1と図1に示した。結核菌 DNA を増幅するための 2 組の プライマー は,外側が Outer wild forward primer (WF1) (配列番号4) と Outer wild reverse primer (WR1) (配列番号5)であり,内側が TaqMan inner wild forward primer (TqMn-WF2) (配列番号8)と TaqMan inner wild reverse primer (TqMn-WR2) (配列番号9)である。また,結核菌 DNA を検出するための TaqMan プローブ は,蛍光色素 VIC で標識されたTaqMan probe-wild-VIC (TqMn-W-VIC) (配列番号12) であり,内側の プライマー の間に設定されている。一方,内部標準である NM-プラスミド を増幅するための 2 組の プライマー は,外側が Outer mutation forward primer (MF1) (配列番号6) と Outer mutation reverse primer (MR1) (配列番号7) であり,内側が TaqMan inner mutation forward primer (TqMn-MF2) (配列番号10) と TaqMan inner mutation reverse primer (TqMn-MR2) (配列番号11) である。また,内部標準を検出するための TaqMan プローブ は,蛍光色素 6-carboxyfluorescein (FAM) で標識された TaqMan probe-mutation-FAM (TqMn-M-FAM) (配列番号13)であり,内側の プライマー の間に設定されている。結核菌 DNA と内部標準に対する プライマー と プローブ は,全て互いに塩基数,塩基組成は完全に同じであるが,配列のみが異なる様に設定されており,従って,結核菌 DNA と内部標準に対する 全ての プライマー と プローブ の アニーリング 効率は互いに等しいものと見なす事ができる。
【0063】
4.WR-QNRT-PCR法の反応条件
first step PCR は,上述の内部標準を加えた髄液からの抽出産物 2μl を テンプレート として用い,外側の プライマー:WF1(配列番号4)/WR1(配列番号5) と MF1(配列番号6)/MR1(配列番号7) により,結核菌 DNA と内部標準の増幅をそれぞれ別々のチューブで行う。PCR 反応液の組成は,10×LA PCRTM Buffer II (Mg2+ free) 2μl, 2.5mM MgCl2, 200μM each dNTP mix, 0.2μM プライマー, Taq DNA polymerase 0.5U に テンプレート 2μl を加えた合計20μl とし,表2(a)に示す条件下で増幅を行った。
【0064】
second step PCR (リアルタイムPCR (TaqMan PCR)) は,それぞれの first step PCR 産物 2μl をテンプレートとして用い,内側の プライマー:TqMn-WF2(配列番号8)/TqMn-WR2(配列番号9)と TqMn-MF2(配列番号10)/TqMn-MR2(配列番号11) により増幅を行い,2 種類の TaqMan プローブ:TqMn-W-VIC (配列番号12)と TqMn-M-FAM (配列番号13)により結核菌 DNA と内部標準をそれぞれ定量的に検出した。PCR 反応液の組成は,Taq Man Universal PCR Master Mix 12.5μl, 0.9μM プライマー, 0.2μM TaqMan プローブにテンプレート 2μlを加えた合計25μl とし,表2(a)に示す条件下で,ABI PRISM 7700 sequence detector systemTM (PE Applied Biosystems, Foster City, Calif, USA) を用いて増幅・検出を行った。結核菌 DNA と内部標準は,それぞれ別々のウェルで増幅・検出されるが,全ての PCR反応は ABI PRISM 7700 sequence detector systemTM により,同一の条件下で,同時に,且つ duplicate で行った。また,表2(a)に示した反応条件は,後述する予備実験の結果に基づき最適化を図った条件である。
【0065】
5.PCR 産物の検出と解析:WR-QNRT-PCR 法による結核菌 DNA 量の算定
WR-QNRT-PCR 法における,標的 (結核菌) DNA の算定の原理を図2 に示す。WR-QNRT-PCR 法では,上記の如く,あらかじめコピー数を測定した内部標準 (NM-プラスミド:103 コピー) を加えた髄液から,内部標準と共に結核菌 DNA を抽出・精製し,この抽出産物 (2μl) を first step PCR で増幅した後,second step PCR を リアルタイムPCR (TaqMan PCR) とし,定量的解析を行う。この 2 段階の PCR の過程で,結核菌 DNA と内部標準は,アニーリング 効率が等しいと見なされる 2 組の プライマー により同一の反応条件下で増幅され,さらに,同様にアニーリング 効率が等しいと見なされる 2つのTaqManプローブ により同時に検出・解析される。従って,結核菌 DNA と内部標準に対する抽出効率,増幅効率,検出効率は全て等しいものと見なすことができる。
【0066】
ここで,2 段階の PCR 増幅を経て測定された結核菌 DNA と内部標準のコピー数をそれぞれ"W"と"M"とすると,抽出と2 段階の PCR 増幅を経る前の髄液中の結核菌 DNA のコピー数 "X" は,最初の内部標準のコピー数 (103コピー) との比から以下の式で算定され得る。
X : W = 103 : M ∴ X = W×(103/M)
【0067】
6.WR-QNRT-PCR 法における 標準曲線 の信頼性の検証
リアルタイムPCR (TaqMan PCR) を用いた DNA の定量的検出において最も重要なのは,その標準曲線の正確性である。ABI PRISM 7700 sequence detector systemTM では,標準曲線 は,対数表示された標準テンプレートのコピー数(初期コピー数 (starting copy number))に対応してプロットされた threshold cycle number (=Ct値) から自動的に構築される。
WR-QNRT-PCR 法では,結核菌 DNA と内部標準を検出するための 2 本の特異的な標準曲線 が必要である。そこで,この 2 本の 標準曲線 の信頼性をそれぞれ検証するために以下の予備実験を行った。即ち,104-1010 コピー/2μl まで10 倍希釈毎に濃度調整したW-プラスミド とNM-プラスミド 2μlを標準テンプレート として用い,リアルタイム PCR を試行した。その際,全ての試行は duplicate で,且つ同一の反応条件下で5 回行った。
【0068】
標準テンプレートである W-プラスミド と NM-プラスミド は,蛍光色素 VIC と FAM によりそれぞれ検出され,全ての Ct 値データは,初期コピー数 を X軸,Ct値を Y軸とする片対数グラフ上にプロットされる (図3A (VIC),図3B (FAM)).W-プラスミド と NM-プラスミドのそれぞれについて,全てのプロットされた Ct値データを単回帰分析したところ,初期コピー数 (X軸) とCt 値 (Y軸) の間には,有意な直線的相関が認められた (r = 0.997と0.998) (図3A,図3B)。また,単回帰分析で得られた 2 本の近似曲線 = 標準曲線 の傾きは,それぞれ -3.33 と -3.28 であり,PCR は 2 の n 乗で表現される系なので,両者共に 10 倍毎の対数で表示された X 軸との極めて良好な相関が示された (図3A,図3B)。加えて,duplicate で 5 回の全ての試行を,有意水準 1 % で分散分析 (two-factor factorial ANONA) したところ,5 回の試行の全てで有意差は認められず,その分散は極めて均一であった (F = 1.007とF = 1.015) (図3A,図3B)。
以上より,VIC,FAM 両方に対する 標準曲線 の信頼性は十分であり,実験中の各 プラスミド の希釈段階における誤差等は無視 (棄却) し得るものと判断した。
【0069】
7.WR-QNRT-PCR 法における反応条件の最適化
より広範(Wide)な検出レンジ(range)で,且つ,安定的に髄液中の微量の結核菌 DNA を定量的に検出するのに最適な反応条件を決定するために,以下の予備実験を行った。この予備実験では,結核菌 DNA の代用として既知の濃度の W-プラスミド を テンプレート として用い,内部標準である NM-プラスミド と共に様々に反応条件を変化させて PCR を行った (図4A)。また,全ての試行は duplicate で 5 回行った。この予備実験で測定したCt値データを統計解析する事で,反応条件の最適化を図った (図4A)。
【0070】
(1) First step PCR での最適な 増幅サイクル数の設定
1-105 コピー/2μl に 10 倍希釈毎に濃度を調製した W-プラスミド 2μl を テンプレート とし以下の予備実験を行った。
まず,first step PCR を施行せず,直接 リアルタイムPCR (TaqMan PCR) を行った場合について,少ないコピー数でも定量的検出が可能であるかどうかを検討した。この場合,増幅サイクル数を 60 まで上げたところ,W-プラスミド 1コピーでも定性的検出は可能であった (図4B)。ただし,1, 10, 100 コピー の間で,Ct値に殆ど差が無く (表3A),従って,増幅サイクル数を上げたとしても定量的検出は困難であった。
【0071】
次いで,増幅サイクル数を 20,25,30,35 として,それぞれ first step PCR を施行した。各 first step PCR 産物 2μl を テンプレート とし,second step PCR (TaqMan PCR) を施行した。その結果得られた,各サイクル数 (20,25,30,35) 毎の W-プラスミドのコピー数 (1-105 コピー)に対する全ての Ct値データ (VIC) を表3Aに示す。
【0072】
【表3A】

【0073】
これらの Ct値データをそれぞれ有意水準 1 % で多重比較検定 (Tukey-Kramer test)したところ,全ての W-プラスミド のコピー数 (1-105 コピー)で Ct 値に有意差が認められたのは,first step PCR を 25サイクルに設定した場合のみであった (図4C, 図4D)。さらに,各サイクル数毎に得られた Ct値データを W-プラスミドの初期コピー数 に対して単回帰分析したところ,first step PCR を 25 サイクルに設定した場合で,両者の間に最も優位な直線的相関 (r =0.996) を認め,且つ duplicate で 5 回の施行の全てで,極めて均一な分散 (F =1.026) を示した (図4E)。また,この 25サイクル時の単回帰分析で得られた近似曲線の傾き (-3.33) (図4E) は,前述した 標準曲線 の傾き (図3A) と完全に一致した。この結果は,first step PCR を 25サイクルに設定した場合,最初の 10 倍希釈毎の W-プラスミド の濃度勾配 (初期濃度勾配) が,増幅後もほぼ完全に保存されている事を示している。
以上の結果から,first step PCR での最適な増幅サイクル数として,25サイクルを設定した。
【0074】
(2) 内部標準 (NM-プラスミド) の最適なコピー数の設定
1-105 コピー/2μl まで10 倍希釈毎に濃度を調製した W-プラスミド 2μl に加えて,それぞれ内部標準として 103,104,105 コピー/2μl の NM-プラスミド 2μl を テンプレート として用い,first step PCR を 25サイクルで施行した。各 first step PCR 産物2μl を テンプレート とし,second step PCR (TaqMan PCR) を施行した。その結果得られた,各コピー数 (103,104,105 コピー) 毎のNM-プラスミド に対する全ての Ct値データ (FAM) を表3Bに示す。
【0075】
【表3B】

【0076】
これらの Ct値データをそれぞれ W-プラスミドのコピー数 (1-105 コピー) に対して有意水準 1 % で分散分析 (One-factor ANOVA) したところ,内部標準 (NM-プラスミド) を 103 コピー に設定して場合で,最も均一な分散 (F = 1.086,p = 0.774) を示した (図4G)。また,その際の実際の増幅曲線を図4F に示す。コピー数の異なる W-プラスミド と共に増幅しても,内部標準は常に一定の増幅曲線を描く事が示されている。
以上の結果から,内部標準の最適なコピー数として,NM-プラスミド 103 コピーを設定した。
【0077】
8.WR-QNRT-PCR 法の改良点:原法との比較
WR-QNRT-PCR 法は,より広範な検出レンジで,且つ,安定的に髄液中の微量の結核菌 DNA を定量的に検出する事を目的としているため,結核菌 DNA と内部標準の両者がバランス良く増幅される事が必要である。従って,上記の予備実験では,W-プラスミド は少ないコピー数でも Ct値に有意差が在り,濃度勾配を保存しつつ増幅され,一方,内部標準である NM-プラスミド は,W-プラスミドのコピー数に影響されず,常に一定の Ct値をとる様に均一な増幅を示す事が要求される。上記の予備実験では,これらの要件をほぼ満たす様な,反応条件の最適化が図られ,原法より広い検出レンジ (1-105 コピー) での安定的な定量的検出を可能とする結果が得られた。これは,新規の内部標準プラスミド (NM-プラスミド) の導入により初めて実現し得た。WR-QNRT-PCR 法では,結核菌 DNA と NM-プラスミド は,アニーリング 効率は等しいが配列の全く異なる 2 組の プライマー により,別々のチューブもしくはウェルで増幅されるので,両者が増幅の過程で互いに干渉する事は全くない。従って,WR-QNRT-PCR 法では,first step PCR の最適サイクル数は 25サイクルと原法のそれ (35サイクル) より短く,それでいて,W-プラスミド (結核菌 DNA) の少コピー数時の弁別能 (表3A,図4C, 図4D) や初期濃度勾配の保存性 (図4E),加えて内部標準 (NM-プラスミド) 増幅時の均一性 (図4F, 図4G) は原法より格段に進歩・改善が得られている。
【0078】
一方,原法では,結核菌 DNA と内部標準 (M-プラスミド) は 2 組の共通の プライマー により同一のチューブで増幅されるため,両者が互いに干渉し合い,例えば,両者の濃度差が大きい場合には,低濃度 (少コピー数) の方の増幅が不良となる可能性があった。従って,両者のバランスを巧くとる様に反応条件を設定しなければならないがために,必然的にその検出レンジ は狭くなり,且つまた,臨床検査に必要な反応系全体の安定性が損なわれてしまうきらいがあった。例えば原法では,臨床的に重要な小コピー数の結核菌 DNA の検出に重点を置くため,first step PCR を 35 サイクルに,内部標準を 103 コピーに設定したが,その結果,予備実験にて大コピー数 (104-105 コピー) の W-プラスミド の検出に際しては,内部標準の増幅が不良となり,定量的検出が困難になるという欠点を抱えていた。しかし,WR-QNRT-PCR 法は,これらの原法の欠点をほぼ完全に克服しているといえる。
【実施例2】
【0079】
WR-QNRT-PCR 法の臨床応用
(1) 対象
臨床的に高度にTBM の疑われた 23 症例 から治療前に採取した,23 髄液サンプルを対象とした。加えて,このうちの 9 症例から経時的に採取し得た 36 髄液サンプルを抗結核薬治療の効果判定のために用いた。
一方,陰性コントロールとして,非TBM 29 症例 (細菌性髄膜炎 4 例,真菌性髄膜炎 3 例,ウィルス性髄膜炎 12 例,多発性硬化症 6 例,CNS ループス 1 例,中枢性悪性リンパ腫 1 例,肝不全 1 例,神経ベーチェット(Behcet's)病 1 例) から採取した 29 髄液サンプルを用いた。
【0080】
(2) TBM の臨床的診断基準と症例の分類
本実施例において採用した TBM の臨床的診断基準は以下に示す通りである。
【0081】
主項目(A):一週間以上続く発熱・頭痛・項部硬直
副項目(B):
(i) 髄液所見の異常 (リンパ球優位の細胞増多,糖低値 (<50 mg/dl),蛋白上昇 (<100 mg/dl),ADA 活性の上昇 (>10.0 IU/l),一般細菌の塗沫・培養陰性)。
(ii) 頭部 MRI 所見の異常 (脳底部髄膜の癒着・肥厚,水頭症,ガドリニウム増強効果を認める頭蓋内腫瘤 (結核腫) 等)。
(iii) 中枢神経系以外の臓器の結核症,或いは結核症の既往。
(iv) 抗結核薬治療が奏功。
【0082】
上記の臨床的診断基準を基づき,症例を以下の 3つのカテゴリーに分類した。
(I) TBM 診断確定例:髄液の結核菌塗沫 又は 培養が陽性の症例。
(II) TBM 高度疑い例:髄液の結核菌塗沫・培養は陰性であるが,臨床的診断基準の主項目 (A) 全てと副項目 (B) を 3つ以上を満たす場合。
(III) TBM 低可能性例:上記の (I),(II) 以外の症例。
【0083】
(3) 症例の臨床像の特徴と WR-QNRT-PCR 法の結果
表4に全症例 (症例 1〜23) の臨床像の特徴,入院時 (治療前) の髄液所見,頭部 MRI 所見,治療内容,転帰をまとめて記載した。
上記の臨床的診断基準に基づき,全 23 症例を、7 例の TBM 診断確定例 (confirmed cases) と、16 例の TBM 高度疑い例 (highly probable cases)とに分類した。また,WR-QNRT-PCR 法で算定し得た髄液中の結核菌 DNA のコピー数 ( /250μl髄液) も、表4に全て記載した。
【0084】
【表4】






【0085】
(4) 入院時 (治療前) に採取した髄液に対する,各検査法の成績と評価
入院時 (治療前) に採取した髄液に対する,培養,Single PCR 法,Nested PCR 法及び WR-QNRT-PCR 法の成績を、表5に示す。
【0086】
【表5】

【0087】
結核菌培養は診断確定例の 7 例で陽性であり,その感度は 30.4% であった。従来の Single PCR 法の陽性例は,僅かに 4 例と培養の成績を下回り,その感度は 17.4% であった。一方,Nested PCR 法は 19 例で陽性を示し,その感度は 82.6% と高値を示した。WR-QNRT-PCR 法は Nested PCR 法を上回る 21 例で陽性を示し,その感度は 91.3% と最も良好であった。陰性コントロール群 29 例に対する培養,Single PCR 法,Nested PCR 法,WR-QNRT-PCR 法は全て陰性であった。従って,特異度は何れの検査法も 100% であり,且つ陽性反応適中率も全て 100% であった。一方,陰性反応適中率は,培養と Single PCR 法が共に 60% 台であったのに対し,Nested PCR 法は 87.9%,WR-QNRT-PCR 法は 93.5% と高水準であった。
【0088】
以上の結果から,WR-QNRT-PCR 法は従来の Nested PCR 法と同等以上の鋭敏且つ特異的であり,従って偽陰性が少ない (見逃しが少ない) 優れて安定的な手法といえる。さらに,WR-QNRT-PCR 法では,結核菌DNA の増幅過程をリアルタイムで検証できる事に加え,そのコピー数を数値で表現することが可能なので,従来の Nested PCR 法より格段に優れた方法である。そして,これらの WR-QNRT-PCR 法の利点は,新規の内部標準プラスミド (NM-プラスミド) の導入に負う所が大きい。
【0089】
(5) WR-QNRT-PCR 法を用いた経時的検討による治療効果の判定
9 症例[図5A:症例8,図5B:症例9,図5C:症例10,図5D:症例11,図5E:症例12,図5F:症例13,図5G:症例14,図5H:症例15,図5I:症例20](全て TBM 高度疑い例) に対する経時的検討の結果のまとめを図5A〜Iに示す。抗結核薬治療中に採取した連続 36 髄液サンプルに対する結核菌培養,及び従来の Single PCR 法の結果は全て陰性であった。一方,Nested PCR 法と WR-QNRT-PCR 法の結果は,9 症例の全てで著明な経時的変化を示し,連続 36 髄液サンプル中,Nested PCR 法は 13 サンプル (36.1%) で,WR-QNRT-PCR 法は 19 サンプル (52.8%) でそれぞれ陽性を示した。
【0090】
抗結核薬治療が奏功した 8 症例 (症例 8,9,10,11,12,13,15,20) (図5A, 図5B, 図5C, 図5D, 図5E, 図5F, 図5H, 図5I) では,Nested PCR 法の陽性バンド (194 bp) は治療経過中の何れかの時点で陰性化した。また,この 8 症例では,WR-QNRT-PCR 法で算定した結核菌 DNA のコピー数 ( /250μl 髄液) も治療の奏功に伴って漸減し,陰性化した。特に症例 12,13,15 (図5E, 図5F, 図5H)では,Nested PCR 法の陽性バンドの濃度が次第に薄くなるのと相関して,結核菌 DNA のコピー数も漸減している現象がはっきりと見て取れる。また,症例 8 (図5A) では,治療開始後 1-2 週間で,Nested PCR 法の陽性バンドの濃度と結核菌 DNA のコピー数の両方の増加が認められる。この結果は,当該患者の臨床症状や一般髄所見の悪化をよく反映しており,通常の抗結核薬投与のみでは治療が困難である事を示している。加えて,イソニアジド (100mg) の髄注を開始したところ,Nested PCR 法の陽性バンドは速やかに陰性化し,それと相関して結核菌 DNA のコピー数も漸減し陰性化した。この結果は,イソニアジド髄注の奏功による臨床症状の改善と極めて良く相関している。一方,基礎疾患 (成人T-Cell白血病) の増悪により死亡した症例 14 (図5G) では,その臨床経過中に,結核菌 DNA のコピー数は高い水準で推移し,また,Nested PCR 法の陽性バンドも最後まで陽性のままであった。
【0091】
本実施例における経時的検討の結果は,従来の結核菌培養や Single PCR 法が抗結核薬治療の効果判定には全く不適当であることを示している。一方,Nested PCR 法や WR-QNRT-PCR 法の結果は,臨床症状や治療効果と極めて良く相関することが明らかとなった。加えて,WR-QNRT-PCR 法は,髄液中の結核菌 DNA のコピー数を数値で表現することが可能なので,抗結核薬治療の効果判定に際して,従来法よりも格段に有力な手法といえる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】結核菌DNAのMPT64に設定したプライマー及びプローブの位置関係を示す概略図である。また、内部標準として使用するNM-プラスミド の構築手順と、その際に使用したプライマーの位置関係も併せて図示した。
【図2】WR-QNRT-PCR法の原理を示す概略図である。
【0093】
【図3A】レポーター色素VICを用いた、W-プラスミド及び結核菌DNAを定量的に検出するための標準曲線を示すグラフである。この標準曲線は、duplicate で 5 回の試行により得られた Ct 値データを単回帰分析した結果得られたものである。
【図3B】レポーター色素FAMを用いた、内部標準であるNM-プラスミドを定量的に検出するための標準曲線を示すグラフである。この標準曲線は,duplicate で 5 回の試行により得られた Ct 値データを単回帰分析した結果得られたものである。
【0094】
【図4A】WR-QNRT-PCR 法における反応条件の最適化を図るための予備実験のプロトコールを示す概略図である。
【図4B】first step PCR を施行せず、直接 リアルタイムPCR (TaqMan PCR) を60サイクルで行った際の、レポーター色素VICで検出した W-プラスミド の増幅結果を示すグラフである。
【図4C】レポーター色素VICで検出した、first step PCR を 25 サイクルに設定した場合の second step PCR (リアルタイム PCR) での W-プラスミド の増幅結果を示すグラフである。
【0095】
【図4D】first step PCR を 25サイクルに設定した際に得られた W-プラスミド の Ct 値データを、有意水準 1 % で多重比較検定 (Tukey-Kramer test)した結果を示すグラフである。全ての W-プラスミド のコピー数 (1-105 コピー)で Ct値に有意差が認められる。
【図4E】first step PCR を25サイクルに設定した際に得られた W-プラスミド の Ct値データを単回帰分析した結果を示すグラフである。この単回帰分析で得られた近似曲線は優位な直線的相関 (r =0.996) を示すと共に、その傾き (-3.33) は、図3Aに示した標準曲線の傾きと完全に一致している。
【0096】
【図4F】内部標準を103コピーの NM-プラスミド に設定し、first step PCR を25サイクルで行った際の、レポーター色素FAMで検出した NM-プラスミド の増幅結果を示すグラフである。コピー数の異なる W-プラスミド と共に増幅しても、内部標準は常に一定の増幅曲線を描く事が示されている。
【図4G】内部標準を103コピーの NM-プラスミド に設定した際に得られたCt値データを有意水準 1 % で分散分析 (One-factor ANOVA) した結果を示すグラフである。コピー数の異なる W-プラスミド と共に増幅しても、内部標準は均一な分散 (F=1.086,p=0.774) を示している。
【0097】
【図5A】症例8に対する経時的検討の結果を示す図であり、上から順に、細胞数・蛋白・糖を含む一般髄液所見と髄液の結核菌培養と Single PCR 法の結果を示す表、経時的に連続施行した Nested PCR 法の結果を示す写真、WR-QNRT-PCR 法で算定した髄液サンプル中の結核菌 DNA のコピー数の経時的推移を示すグラフ、同症例に対する治療内容を示す概略図である。
【図5B】症例9に対する経時的検討の結果を示す図であり、上から順に、細胞数・蛋白・糖を含む一般髄液所見と髄液の結核菌培養と Single PCR 法の結果を示す表、経時的に連続施行した Nested PCR 法の結果を示す写真、WR-QNRT-PCR 法で算定した髄液サンプル中の結核菌 DNA のコピー数の経時的推移を示すグラフ、同症例に対する治療内容を示す概略図である。
【0098】
【図5C】症例10 に対する経時的検討の結果を示す図であり、上から順に、細胞数・蛋白・糖を含む一般髄液所見と髄液の結核菌培養と Single PCR 法の結果を示す表、経時的に連続施行した Nested PCR 法の結果を示す写真、WR-QNRT-PCR 法で算定した髄液サンプル中の結核菌 DNA のコピー数の経時的推移を示すグラフ、同症例に対する治療内容を示す概略図である。
【図5D】症例11 に対する経時的検討の結果を示す図であり、上から順に、細胞数・蛋白・糖を含む一般髄液所見と髄液の結核菌培養と Single PCR 法の結果を示す表、経時的に連続施行した Nested PCR 法の結果を示す写真、WR-QNRT-PCR 法で算定した髄液サンプル中の結核菌 DNA のコピー数の経時的推移を示すグラフ、同症例に対する治療内容を示す概略図である。
【0099】
【図5E】症例12 に対する経時的検討の結果を示す図であり、上から順に、細胞数・蛋白・糖を含む一般髄液所見と髄液の結核菌培養と Single PCR 法の結果を示す表、経時的に連続施行した Nested PCR 法の結果を示す写真、WR-QNRT-PCR 法で算定した髄液サンプル中の結核菌 DNA のコピー数の経時的推移を示すグラフ、同症例に対する治療内容を示す概略図である。
【図5F】症例13 に対する経時的検討の結果を示す図であり、上から順に、細胞数・蛋白・糖を含む一般髄液所見と髄液の結核菌培養と Single PCR 法の結果を示す表、経時的に連続施行した Nested PCR 法の結果を示す写真、WR-QNRT-PCR 法で算定した髄液サンプル中の結核菌 DNA のコピー数の経時的推移を示すグラフ、同症例に対する治療内容を示す概略図である。
【0100】
【図5G】症例14 に対する経時的検討の結果を示す図であり、上から順に、細胞数・蛋白・糖を含む一般髄液所見と髄液の結核菌培養と Single PCR 法の結果を示す表、経時的に連続施行した Nested PCR 法の結果を示す写真、WR-QNRT-PCR 法で算定した髄液サンプル中の結核菌 DNA のコピー数の経時的推移を示すグラフ、同症例に対する治療内容を示す概略図である。
【図5H】症例15 に対する経時的検討の結果を示す図であり、上から順に、細胞数・蛋白・糖を含む一般髄液所見と髄液の結核菌培養と Single PCR 法の結果を示す表、経時的に連続施行した Nested PCR 法の結果を示す写真、WR-QNRT-PCR 法で算定した髄液サンプル中の結核菌 DNA のコピー数の経時的推移を示すグラフ、同症例に対する治療内容を示す概略図である。
【0101】
【図5I】症例20 に対する経時的検討の結果を示す図であり、上から順に、細胞数・蛋白・糖を含む一般髄液所見と髄液の結核菌培養と Single PCR 法の結果を示す表、経時的に連続施行した Nested PCR 法の結果を示す写真、WR-QNRT-PCR 法で算定した髄液サンプル中の結核菌 DNA のコピー数の経時的推移を示すグラフ、同症例に対する治療内容を示す概略図である。
【配列表フリーテキスト】
【0102】
配列番号2:合成DNA
配列番号3:合成DNA
配列番号4:合成DNA
配列番号5:合成DNA
配列番号6:合成DNA
配列番号7:合成DNA
配列番号8:合成DNA
配列番号9:合成DNA
配列番号10:合成DNA
配列番号11:合成DNA
配列番号12:合成DNA
配列番号13:合成DNA
配列番号14:合成DNA
配列番号15:合成DNA
配列番号16:合成DNA
配列番号17:合成DNA
配列番号18:合成DNA
配列番号19:合成DNA
配列番号20:合成DNA
配列番号21:合成DNA
配列番号22:合成DNA
配列番号23:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定量の目的DNAを含む被験試料中に内部標準プラスミドを含有させ、前記試料中の内部標準プラスミドと目的DNAとをそれぞれPCR法により検出し、内部標準プラスミドの検出結果を指標として前記試料中の目的DNAを定量する方法であって、
内部標準プラスミドの検出に用いるプライマーの塩基配列は、目的DNAの検出に用いるプライマーの塩基配列とは異なるものであり、
内部標準プラスミドのプライマー結合領域の塩基配列は、当該プラスミドに対するプライマーのアニーリング効率と目的DNAに対するプライマーのアニーリング効率とが実質的に同じとなるように設計されたものである
ことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記PCR法が、外側プライマーセットを用いた第1段階目のPCRと内側プライマーセットを用いた第2段階目のPCRとを行うネスティドPCR法において第2段階目のPCRとしてリアルタイムPCR法を用いる方法である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
リアルタイムPCR法がTaqManプローブ法である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
内部標準プラスミドの検出に用いるTaqManプローブの塩基配列は、目的DNAの検出に用いるTaqManプローブの塩基配列とは異なるものであり、
内部標準プラスミドのプローブ結合領域の塩基配列は、当該プラスミドに対するTaqManプローブのアニーリング効率と目的DNAに対するTaqManプローブのアニーリング効率とが実質的に同じとなるように設計されたものである、
請求項3記載の方法。
【請求項5】
被験試料中の内部標準プラスミドの含有量が1×102〜1×104コピーである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第1段階目のPCRのサイクル数が10〜30サイクルである、請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
被験試料がヒトの髄液を含有するものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
目的DNAが結核菌DNAである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
内部標準プラスミドが配列番号2に示される塩基配列からなるDNAを含むプラスミドであり、
結核菌DNAの検出用の外側プライマーセットが配列番号4及び5に示される塩基配列からなり、内側プライマーセットが配列番号8及び9に示される塩基配列からなるものであり、
内部標準プラスミドの検出用の外側プライマーセットが配列番号6及び7に示される塩基配列からなり、内側プライマーセットが配列番号10及び11に示される塩基配列からなるものである、
請求項8記載の方法。
【請求項10】
結核菌DNAの検出用のTaqManプローブが配列番号12に示される塩基配列に蛍光色素が結合されたものであり、
内部標準プラスミドの検出用のTaqManプローブが配列番号13に示される塩基配列に蛍光色素が結合されたものである、
請求項9記載の方法。
【請求項11】
被験者から髄液を採取し、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法を用いて、当該髄液中の結核菌DNAを検出することを特徴とする、結核性髄膜炎の診断方法。
【請求項12】
結核性髄膜炎に罹患している被験者から髄液を採取し、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法を用いて、当該髄液中の結核菌DNAの量をモニタリングする方法。
【請求項13】
配列番号2に示される塩基配列からなるDNAを含む内部標準プラスミド、
配列番号4及び5に示される塩基配列からなる結核菌DNAの検出用の外側プライマーセット、配列番号8及び9に示される塩基配列からなる結核菌DNAの検出用の内側プライマーセット、
配列番号6及び7に示される塩基配列からなる内部標準プラスミドの検出用の外側プライマーセット、配列番号10及び11に示される塩基配列からなる内部標準プラスミドの検出用の内側プライマーセット、
配列番号12に示される塩基配列に蛍光色素が結合してなる結核菌DNAの検出用のTaqManプローブ、並びに
配列番号13に示される塩基配列に蛍光色素が結合してなる内部標準プラスミドの検出用のTaqManプローブ
を含む、結核菌DNAの定量用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図5I】
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【公開番号】特開2008−92826(P2008−92826A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276329(P2006−276329)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】