説明

装飾用薄物

【課題】変化に富みかつ自然で多様な表現を可能にすることによって多様な趣味嗜好に応えるもの作りを可能にすることができる装飾用薄物を提供する。
【解決手段】装飾用薄物1によれば、受理層2に対する入射光の方向、1/fゆらぎを付与した厚み変化のある受理層2に対する視点、及び受理層2の位置の少なくとも1つを相対的に変化することにより、生成される反射輝度に、木漏れ日に似た不規則に変化する明暗パターンを生じせることができる。従って、装飾が必要なパネル(図示せず)に接着層6によって接着することにより、変化に富んだ見栄えの良い光装飾が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のプラスチック成形品、家具用のプラスチック成形品、及び携帯電話用のプラスチック成形品などに使用される装飾用薄物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金型内にインサートされるシートにホログラムを予め形成し、複合された多彩な色彩が見る角度や光の状態により変化する方法で、三次元的形状を有する成形品の意匠性、高級感、上質感を向上させる試みが行われている。
このインサート成形法に関し、特許文献1には、金型に基材をインサートして溶融した樹脂を射出充填し、これら基材と樹脂との一体化により得られる基材付き成形品が開示されている。その基材は、光透過性の本体層と、この本体層に対向して樹脂と一体化する耐熱性のバックアップ層と、これら本体層とバックアップ層との間に介在されかつ光回析用の凹凸の形成された、見る角度や光の状態により可変するホログラム装飾層とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−240213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたような基材付き成形品に含まれても、単に光回析用の凹凸の形成されたホログラム装飾層は、模様に自然な深みが欠け、また表現における自由度が乏しい。従って、変化に富みかつ自然で多様な表現を可能にすることによって多様な趣味嗜好に応えるもの作りを可能にすることができない。
【0005】
以上の従来技術における問題に鑑み、本発明の目的は、変化に富みかつ自然で多様な表現を可能にすることによって多様な趣味嗜好に応えるもの作りを可能にすることができる装飾用薄物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本発明の装飾用薄物は、厚みを変化させることによって1/f波を利用したゆらぎ面を少なくとも片面の少なくとも一部に形成した受理層を1層以上有してなることを特徴とする。
【0007】
前記受理層のうちの少なくとも一の層の前記1/f波を利用したゆらぎ面が波状起伏面であるようにすることができる。
【0008】
前記受理層のうちの少なくとも一の層を透明としてもよい。
【0009】
前記受理層のうちの少なくとも一の層が有色であってもよい。
【0010】
前記受理層のうちの少なくとも一の層をガラス層としてもよい。
【0011】
前記受理層のうちの少なくとも一の層を樹脂層とすることができる。
【0012】
前記受理層のうちの少なくとも一の層がPET樹脂層及びPMMA樹脂層及びPC樹脂層及びUV硬化樹脂層のうちのいずれか一の層とすることができる。
【0013】
前記受理層のうちの少なくとも一の層が厚みt=10〜250μmであるようにするのが望ましい。
【0014】
前記受理層のうちの少なくとも一の層の波状起伏の起伏差を3〜240μmとしてもよい。
【0015】
前記1/f波を利用したゆらぎ面がスタンプ工法及びロール圧縮転写工法の転写の少なくともいずれか一により形成することができる。
【0016】
前記1/f波を利用したゆらぎ面に深さ1〜100μmのヘアライン模様及びスピン模様及びチェック柄模様のうちの少なくともいずれか一を形成してもよい。
【0017】
前記ヘアライン模様及びスピン模様及びチェック柄模様のうちの少なくともいずれか一を1/fゆらぎが付与された不規則模様とすることができる。
【0018】
前記受理層のうちの少なくとも一の層に蒸着及び印刷及び塗装のうちの少なくともいずれか一により加飾を行ってなるようにしてもよい。
【0019】
さらに以上の各種装飾用薄物に蒸着及び印刷及び塗装のうちの少なくともいずれか一により加飾を行って本発明の装飾用薄物とすることができる。
【0020】
また、以上の各種装飾用薄物にさらにPMMA樹脂層及びPC樹脂層及びハードコート層及びABS樹脂層のうちの少なくともいずれか一を一体的に積層したものを装飾用薄物としてもよい。
【0021】
本発明の装飾用薄物は、それ自体が機械的機能を有する必要はなく、機械的機能を担う基材に付加されて機械的機能を損なうことなく加飾することができる程度の薄物である。従って、多くの場合は光透過性を備え、代表的には柔軟性を有するフィルム又はシートとすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の装飾用薄物によれば、変化に富みかつ自然で多様な表現を可能にすることによって多様な趣味嗜好に応えるもの作りを可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第一の実施の形態における装飾用薄物の断面模式図である。
【図2】第一の実施の形態における装飾用薄物の外観を示す写真である。
【図3】本発明の第二の実施の形態における装飾用薄物の断面模式図である。
【図4】第二の実施の形態における装飾用薄物の外観を示す写真である。
【図5】本発明の第三の実施の形態における装飾用薄物の断面模式図である。
【図6】第三の実施の形態における装飾用薄物の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第一の実施の形態)
次に、本発明にかかる装飾用薄物の第一の実施の形態について図1を参照して説明する。
この第一の実施の形態に示す装飾用薄物1はPET樹脂層である受理層2を有する。この受理層2はPET樹脂層に代えてPMMA樹脂層又はPC樹脂層又はUV硬化樹脂層とすることもできる。受理層2の光入射側には無色透明の接着層3が積層され、その接着層3の光入射側に無色透明のPET樹脂であるベースフィルム4が積層される。ベースフィルム4はPET樹脂に代えてPMMA樹脂又はPC樹脂とすることもできる。また、接着層3及びベースフィルム4は有色としても良い。受理層2の接着層3に対する反対側の側面には蒸着層5が設けられ、その蒸着層5に型材料に接合するための透明な接着層6が設けられる。蒸着層5を印刷層や塗装層に代替し、若しくは併用することは実施の態様によって適宜行うことができる。
【0025】
各層の厚みは、受理層2が10〜250μm、蒸着層5が、蒸着層であれば約0.4μm、印刷層であれば約10μm、接着層3及び接着層6が約5μm、ベースフィルム4が25〜150μmとする。したがって、装飾用薄物1全体は38.2〜381μmの厚みを有する。
【0026】
受理層2は厚み10〜250μmの範囲で厚みの大なる部分2aと厚みの小なる部分2bとを有するようにその厚みに変化が設けられている。その結果、受理層2の蒸着層5側の側面は波の高さが3〜240μmの範囲で変化する波状の変化を有する境界面2cとなる。
【0027】
またその受理層2の厚み変化には1/fゆらぎを付与することにより、光反射による輝度にランダムに変化する明暗を生じさせる。すなわち受理層2の厚み変化は数1に示す1/fゆらぎ関数f(x)より決定される。
【0028】
【数1】

この1/f波を利用したゆらぎ面はスタンプ工法及び/又はロール圧縮転写工法の転写により形成することができる。なお、受理層2の厚み変化及び厚み変化の1/f波を利用したゆらぎ面は、必ずしも受理層2の片面の全表面に形成される必要はなく、その所要の一部に形成される様にすることもできる。さらに受理層2の厚み変化及び厚み変化の1/f波を利用したゆらぎ面は必ずしも受理層2の片面にのみ形成される態様には限らず、受理層2の両面に形成しても良い。
【0029】
以上の実施の形態の装飾用薄物1によれば、ベースフィルム4に対する入射光の方向又はベースフィルム4に対する視点を相対的に変化することにより、生成される反射輝度に、木漏れ日に似た不規則に変化する明暗パターンを生じせることができる。従って、装飾が必要なパネル(図示せず)に接着層6によって接着することにより、変化に富んだ見栄えの良い光装飾が可能になる。
【0030】
しかも、接着する対象となるパネルは特には限定されないことから一の装飾用薄物1を情報機器(ノートパソコン、パソコン、携帯電話、スマートフォン等)、家電製品(冷蔵庫、洗濯機、エアコン等)、自動車用内装部品(センターパネル、ドアモール等)、及びAV機器(TV、DVD/HDDデッキ等)等のパネルの何れにも適用することができる。従って、汎用性が高く量産効果によるコストダウンを図ることができる。
図2は以上の本実施の形態の装飾用薄物1をベースフィルム4側から撮影した写真である。
【0031】
この写真に示すように受理層2からの反射光は波状の変化を有する木漏れ日に似た不規則に変化する明暗パターンを生じさせる。
なお、以上の第一の実施の形態の装飾用薄物1を複数積層して一の装飾用薄物(図示せず)とすることができる。その場合に積層される各装飾用薄物1のうちの一の受理層2を有色透明とし、他を無色透明とするなどの多様なアレンジは実施の態様に応じて適宜行うことができる。
【0032】
また、実施の態様によってはベースフィルム4にさらにPMMA樹脂層及びPC樹脂層及びハードコート層及びABS樹脂層のうちの少なくともいずれか一を一体的に積層したものを装飾用薄物1とすることもできる。
【0033】
(第二の実施の形態)
次に、本発明にかかる装飾用薄物の第二の実施の形態について図3を参照して説明する。
この第二の実施の形態に示す装飾用薄物10は受理層11の印刷層5側の波状の起伏を有する境界面11cに、さらに髪状若しくは針状の一様な多数の切り欠き溝12を形成し、1〜100μmのヘアライン模様を形成する。第二の実施の形態はこの髪状若しくは針状の一様な多数の切り欠き溝12を形成し、1〜100μmのヘアライン模様を形成する点で第一の実施の形態と異なるが、それ以外は、第一の実施の形態と同様である。なお、このヘアライン模様は実施の態様によってスピン模様若しくはチェック柄模様等とすることができる。
【0034】
図4は以上の本実施の形態の装飾用薄物10をベースフィルム4側から撮影した写真である。
この写真に示すように受理層11からの反射光は波状の変化を有する明暗に加えてさらに多数の切り欠き溝12によって形成されたヘアライン模様によって光の散乱が強調された変化を含む。
(第三の実施の形態)
次に、本発明にかかる装飾用薄物の第三の実施の形態について図5を参照して説明する。
この第三の実施の形態に示す装飾用薄物20は、受理層21の印刷層5側の波状の起伏を有する境界面21cに形成される髪状若しくは針状の多数の切り欠き溝22の切り欠き深さや幅に数1に示す1/fゆらぎ変化を付与する。この髪状若しくは針状の多数の切り欠き溝22の切り欠き深さや幅に数1に示す1/fゆらぎ変化を付与する点で、第三の実施の形態は第二の実施の形態と異なるが、他は第二の実施の形態と同様である。この第三の実施の形態では1/fゆらぎ変化を付与することによってヘアライン模様にさらに趣の深い変化を生じさせる。なお、一部をヘアライン模様とし、実施の態様によってはスピン模様の領域やチェック柄模様の領域を設ける様にしてもよい。
【0035】
図6は以上の本実施の形態の装飾用薄物20をベースフィルム4側から撮影した写真である。
この写真に示すように受理層21からの反射光は波状の変化を有する明暗に加えて切り欠き溝22によって形成されたヘアライン模様によって強調された光の散乱に1/fゆらぎ変化が付与された趣の深い変化を含む。
【0036】
なお、本発明にかかる装飾用薄物の切り欠き溝22の切り欠き深さや幅に数1に示す1/fゆらぎ変化を付与する態様は、上記第三の実施の形態に示したものに限らず、境界面21cでの反射光の輝度に不規則に変化する明暗を生じさせることができれば、どのような形状のものでも良い。
【0037】
また、第一の実施の形態〜第三の実施の形態の装飾用薄物を積層して本発明の装飾用薄物(図示せず)を形成することができる。その場合にいずれかの受理層をガラス層とすることも実施の態様に応じ適宜可能である。
【符号の説明】
【0038】
1,10,20・・・装飾用薄物、2,11,21・・・受理層、3・・・接着層、4・・・ベースフィルム、5・・・蒸着層、6・・・接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みを変化させることによって1/f波を利用したゆらぎ面を少なくとも片面の少なくとも一部に形成した受理層を1層以上有してなることを特徴とする装飾用薄物。
【請求項2】
前記受理層のうちの少なくとも一の層の前記1/f波を利用したゆらぎ面が波状起伏面である請求項1に記載の装飾用薄物。
【請求項3】
前記受理層のうちの少なくとも一の層が透明であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の装飾用薄物。
【請求項4】
前記受理層のうちの少なくとも一の層が有色であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一に記載の装飾用薄物。
【請求項5】
前記受理層のうちの少なくとも一の層がガラス層であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一に記載の装飾用薄物。
【請求項6】
前記受理層のうちの少なくとも一の層が樹脂層であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一に記載の装飾用薄物。
【請求項7】
前記受理層のうちの少なくとも一の層がPET樹脂層及びPMMA樹脂層及びPC樹脂層及びUV硬化樹脂層のうちのいずれか一の層であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一に記載の装飾用薄物。
【請求項8】
前記受理層のうちの少なくとも一の層が厚みt=10〜250μmであることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一に記載の装飾用薄物。
【請求項9】
前記受理層のうちの少なくとも一の層の波状起伏の起伏差が3〜240μmであることを特徴とする請求項2〜請求項8のいずれか一に記載の装飾用薄物。
【請求項10】
前記1/f波を利用したゆらぎ面がスタンプ工法及びロール圧縮転写工法の転写の少なくともいずれか一により形成されることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一に記載の装飾用薄物。
【請求項11】
前記1/f波を利用したゆらぎ面に深さ1〜100μmのヘアライン模様及びスピン模様及びチェック柄模様のうちの少なくともいずれか一を形成したことを特徴とするフ請求項1〜請求項10のいずれか一に記載の装飾用薄物。
【請求項12】
前記ヘアライン模様及びスピン模様及びチェック柄模様のうちの少なくともいずれか一が1/fゆらぎが付与された不規則模様であることを特徴とする請求項11に記載の装飾用薄物。
【請求項13】
前記受理層のうちの少なくとも一の層に蒸着及び印刷及び塗装のうちの少なくともいずれか一により加飾を行ってなることを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか一に記載の装飾用薄物。
【請求項14】
請求項1〜請求項13のいずれか一に記載の装飾用薄物に蒸着及び印刷及び塗装のうちの少なくともいずれか一により加飾を行ってなることを特徴とする装飾用薄物。
【請求項15】
請求項1〜請求項14のいずれか一に記載の装飾用薄物にさらにPMMA樹脂層及びPC樹脂層及びハードコート層及びABS樹脂層のうちの少なくともいずれか一を積層して一体化してなることを特徴とする装飾用薄物。
【請求項16】
柔軟性を有するフィルム及びシートのいずれか一であることを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれか一に記載の装飾用薄物。


【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−173370(P2011−173370A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40291(P2010−40291)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(391006083)三光合成株式会社 (67)
【Fターム(参考)】