説明

補償光学系、画像生成装置

【課題】コンパクトなサイズの補償光学系を提供すること。
【解決手段】補償光学系は、光源から被検物に向けて照射された光の反射光を受け、被検物の波面を検出する波面センサと、波面センサに対して光学的に共役な位置に配置され、波面センサで検出された波面の検出結果に基づいて求められた波面収差を補正する波面補正器と、光源から照射され、集光された第1の中間像からの光を第1の光路で伝搬させ、伝搬した光を波面補正器に入射させ、波面補正器で反射された光を第1の光路とは異なる第2の光路で伝搬させ、第1の中間像とは異なる第2の中間像として集光させる共通光学系と、を有する。共通光学系の入射瞳の位置に波面補正器が配置され、入射瞳の位置を基準とした共通光学系の像面に第1の中間像と第2の中間像とが集光される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は補償光学系、補償光学系を用いた画像生成装置に関し、特に、被検物で発生する波面収差を補正する補償光学系、その補償光学系を有する画像生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アクティブに光学特性を補正することが可能な光学素子を用いた補償光学系により、高次の波面収差まで補正する補償光学の技術(補償光学技術)が実用化され、様々な分野で適用されている。これは、測定対象自身が持つ特性や測定環境の変動などで発生する、プローブ光や信号光の波面収差を波面センサで逐次測定し、形状可変ミラーや空間光変調器などの波面収差補正器で高次の波面収差を補正するものである。当初は天体観測時の大気の揺らぎによる波面の乱れを補正して解像度を改善する目的で上記の光学素子は用いられていたが、天体観測の分野の他、特に導入の効果の大きい適用分野として注目されているのが、眼の網膜の検査システムである。
【0003】
眼科機器としては、眼底カメラの他に、網膜を面としての2次元像として取得するSLO(Scanning Laser Ophthalmoscope)が知られている。眼底カメラ、SLOの他に網膜の断層像を非侵襲で取得するOCT(Optical Coherence Tomography:光学的干渉断層計)も知られており、眼底カメラ、SLO及びOCTは、既に実用化されて久しい。
【0004】
SLOとOCTは、光ビームを偏向器によって網膜上に2次元走査し、反射・後方散乱光を同期計測して、網膜の2次元画像や3次元画像を取得するものである。取得された画像の、網膜の面内方向(横方向)の空間分解能(以下、「横分解能」と記す)は、基本的に網膜上で走査されるビームスポット径で決まる。網膜上に集光されたビームスポット径を小さくするためには、眼に入射するビームの径を太くすればよい。しかし、眼球で主に屈折の作用を受け持つ角膜や水晶体の曲面形状や屈折率の一様性は不完全なものである。これらは透過光の波面に高次の収差を発生させるため、太いビームを入射しても、網膜上のスポットは所望の径には集光できずに、むしろ広がってしまう。この結果、得られる画像の横分解能は低下し、共焦点光学系では取得する画像信号のS/Nも悪化する。従って、従来は眼光学系の持つ収差の影響を受けにくい1mm程度の細いビームを入射させ、網膜上には20μm程度のスポットを形成するのが一般的であった。
【0005】
一方、補償光学技術を用いて7mm程度の太いビームを眼球に入射しても、波面補償により網膜上で回折限界に近い3μm程度にまで集光でき、高解像度のSLOやOCTの画像を取得した例が、報告されている。
【0006】
補償光学系は、基本的には図4に示したような構成をとる。ここではSLOの共焦点光学系を例としており、コリメータレンズ30、凹面ミラー31a、32、33、34で構成された補償光学系と、凹面ミラー35、36で構成された接眼光学系とからなる。図示されていない照明光源から光ファイバ9の端部を経て照射されたビームは、補償光学系と接眼光学系とによって眼球6に導かれ、角膜などの前眼部によって、網膜61上に集光される。網膜61からの反射・後方散乱光は、逆の光路を伝搬して再び光ファイバ9に結合され、図示されていないファイバカプラーで分岐されて光検出器に導かれて、その強度が検出される。このビームをさらに2次元スキャナミラー51、52によって網膜61上を走査することにより、2次元の網膜像が得られる。
【0007】
このとき補償光学系は波面補正器1と波面センサ2を含み、波面補正器1と波面センサ2とは共に眼球6の前眼部(正確には眼球瞳62)の位置と、光学的に共役な関係に配置されている。これにより、眼球の光学系によって発生する波面収差を、定性的、定量的に等価な状態で検出し、補正することを可能にしている。
【0008】
網膜61からの反射・後方散乱光は、前眼部が持つ特性の影響を受け、乱れた波面となって接眼光学系、補償光学系を伝搬し、ビーム分岐部材41で一部が反射され、波面センサ2に入射する。ここで検出された信号は計算機8に送られ、算出された波面収差を相殺するような駆動信号が生成され、波面補正器1が制御される。こうして乱れていた波面は波面補正器1によって補正され、収差の少ない波面となって、光ファイバ9に良好に結合される。尚、全体に偏心反射光学系の構成とされているのは、レンズを用いた共軸光学系の場合には、レンズ表面からの反射光が、網膜からの戻り光と同時に波面センサ2に入射するのを防ぐためである。
【0009】
補償光学系をSLOに適用した特許文献1では、形状可変ミラーに入射する平行ビームを形成する凹面ミラーと、形状可変ミラーからの反射光を受ける凹面ミラーを隣接させることで、ミラーへの入射角を極力小さくして、光学系の収差の低減を図っている。
【0010】
非特許文献1においても、このような偏心反射光学系を採用した補償光学OCTの構成としているが、波面補正器としては形状可変ミラーが採用されている。ここでは低次で補正量の大きい収差と、高次で補正量の小さい収差の各々を、1台ずつ2台の形状可変ミラーを用いて補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4157839号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】A.Roorda et.al. "Adaptive optics scanning laser ophthalmoscopy"OPTICS EXPRESS / Vol. 10, No. 9/ 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
補償光学系の問題点として第一に挙げられるのは、光学系のサイズが大きくなってしまうことである。これは、波面補正器1や波面センサ2を光学的に共役になるように配置しつつ、光学系の収差を抑えて設計する必要があるためである。光学系の残収差が大きいと、この分も波面補正器1で補正しなければならず、眼の収差も含めて補正すると、波面補正器1の補正量を定める補正ストロークが不足してしまう場合がある。特に、図4のような偏心反射光学系では、凹面ミラー32、33への入射角が大きいほど非点収差をはじめとする収差が大きくなる。凹面ミラー32、33の径は波面補正器1のサイズで決まるため、入射角を小さくするほど、凹面ミラー32、33の焦点距離は長くしなければならない。
【0014】
波面補正器1の径が小さければ、入射ビーム71の径も小さくでき、凹面ミラー32の焦点距離も短く出来る。しかし、波面補正器1として用いられるのは、前述の形状可変ミラーか、液晶を用いた空間光変調器が殆どである。これらの径はφ10mmを超えるものが多く、φ5mmを下回るものは僅かで、しかも補正ストロークが小さい。ビームが細ければ凹面ミラーの焦点距離を短く出来るため、大きい径の波面補正器1に細い径のビームを入射させる方法も考えられるが、補正時の有効なセグメント数(画素数)が少なくなり、特に高次の収差の補正能力が低下する。
【0015】
特許文献1では、隣同士の凹面ミラーの間のスペースをなくすことで入射角を小さくしているが、これ以上凹面ミラー同士は近づけられないため、入射角もこれ以上小さくすることはできない。また、波面補正器1への入射角をゼロにする、すなわち入射角と反射角を同軸にし、光学系もミラーではなくレンズ系を用いる方法も考えられるが、その場合にはハーフミラーなどで入射光と反射光を分岐する必要がある。このときは少なくとも効率が1/4にまで低下してしまうので、網膜のように反射率の著しく低いサンプルを検査する機器においては、十分な信号光強度を確保できなくなるため、採用が難しい。
【0016】
従って現状では、補償光学系としては数十cm四方の大きな面積を必要とせざるを得ないために、商用機器として適当なサイズを実現することが困難な状況となっている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、コンパクトなサイズの補償光学系を提供することにある。
【0018】
また、本発明の他の目的は、有効面積の広い波面補正器を用いた場合においても、複雑な構成を必要とせずに、光学系の残収差を抑えつつ、コンパクトなサイズの補償光学系を提供することにある。
【0019】
本発明にかかる補償光学系は、光源から被検物に向けて照射された光の反射光を受け、前記被検物の波面を検出する波面センサと、
前記波面センサに対して光学的に共役な位置に配置され、前記波面センサで検出された前記波面の検出結果に基づいて求められた波面収差を補正する反射型波面補正手段と、
前記光源から照射され、集光された第1の中間像からの光を第1の光路で伝搬させ、前記伝搬した光を前記波面補正手段に入射させ、前記波面補正手段で反射された光を前記第1の光路とは異なる第2の光路で伝搬させ、前記第1の中間像とは異なる第2の中間像として集光させる共通光学系と、を有し、
前記共通光学系の入射瞳の位置に前記波面補正手段が配置され、前記入射瞳の位置を基準とした前記共通光学系の像面に前記第1の中間像と前記第2の中間像とが集光されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、複雑な構成を必要とせず、コンパクトなサイズの補償光学系を提供することができる。
【0021】
また、有効面積の広い反射型波面補正器を用いた場合においても、複雑な構成を必要とせずに、光学系の残収差を抑えつつ、コンパクトなサイズの補償光学系を提供することことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態にかかる補償光学系の基本概念図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る補償光学系の構成図。
【図3】本発明の第1実施形態に係る補償光学系の構成図。
【図4】従来の補償光学系の構成図。
【図5】本発明の第1実施形態に係る補償光学系の波面収差を説明する図。
【図6】本発明の第2実施形態に係る補償光学系の構成図。
【図7】本発明の第3実施形態に係る補償光学系の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
図1の参照により本発明の実施形態にかかる補償光学系を説明する。図1において、実線は光ファイバ9から照射されたレーザビームの結像関係を示した光線を示し、破線は光学系の瞳の結像関係を示した光線を示すものとする。補償光学系100は、レーザビームを照射する光ファイバ9の端部(ファイバ端)を含む平面を物体面91、眼球6の網膜61の面を像面とし、補償光学系と接眼光学系とで構成された共焦点光学系である。
【0024】
図示されていない光源から光ファイバ9を伝播した光は、ファイバ端から発散光として照射され、コリメータレンズ30で平行化された後に、平行化された平行ビームはビーム分岐部材41を透過し、光学素子31によって第1の中間像73の位置に集光される。共通光学系10に対して入射側に集光された第1の中間像73の位置から広がったビームは、共通光学系10を第1の光路で透過し、共通光学系10によって平行化され、水平方向に対して入射角度θを持って反射型波面補正器1に入射される。
【0025】
波面補正器1は、共通光学系10により平行化された光の入射を受け、受け付けた光を共通光学系10に向けて反射する反射面を有する。波面補正器1の反射面の形状は可変であり、被検物の波面収差を相殺するように、反射面の形状を変化させて補正することが可能である。反射面の形状を変化させるための波面補正器1の駆動量の算出については後に説明する。波面補正器1の反射面で反射された反射ビーム72は、再度、共通光学系10を第2の光路で透過し、第2の中間像74の位置に集光される。共通光学系10から射出された側(反射側)に集光された第2の中間像74の位置から広がった光は光学素子34により平行化され、偏向素子5に入射されて2次元方向に偏向される。ここでは図4に示した従来技術における凹面ミラー32、33が共通の共通光学系10として構成されている。これにより、共通光学系10上において入射ビーム71と反射ビーム72は、光学系内において完全に分離する必要がないため、この観点において入射角θの制限は生じない。従って波面補正器1への入射角を小さくすることができ、同時に共通光学系10への入射角も小さくできるため、波面補正器1による補正残差を小さくでき、かつ共通光学系10による非点収差等の各収差も抑えることができる。
【0026】
偏向素子5で2次元方向に偏向されたビームは、その後、接眼光学系3によって、予め定められた所望の径のビームに変換されて、検査対象である眼球6に入射され、網膜61に結像され、網膜61の所定範囲を走査される。この後、網膜61上にビーム集光された点から反射・散乱された戻り光は眼球瞳62を通過する際に、眼球が持つ収差の影響を受けて、乱れた波面となって接眼光学系3から光学素子31までを、逆に伝播する。光学素子31で略平行化された戻り光は、光学素子31とコリメータレンズ30との間に配置されているビーム分岐部材41により分割される。ビーム分岐部材41により分割された戻り光の一部はビーム分岐部材41で反射されて波面センサ2に入射し、残りはビーム分岐部材41を透過してコリメータレンズ30を介して光ファイバ9に入射、結合される。
【0027】
波面センサ2としては、例えば、Shack-Hartmann方式が用いられている。波面センサ2の方式としては、Shack-Hartmann方式に限定されるものではなく、他の方式のものを用いてもよい。波面センサ2は、戻り光が持つ波面をHartmann像として検出する。波面センサ2によって検出された検出結果は情報処理装置150に送られる。情報処理装置150は、波面収差と波面収差を補正するための波面補正器1の駆動値を算出する。情報処理装置150によって算出された駆動値に基づいて波面補正器1が駆動されて、波面収差が補正される。これにより光ファイバ9への戻り光の結合効率を、回折限界の場合に近い良好なものとすることができる。ここで波面補正器1としては、反射面の形状を可変する形状可変ミラーであっても、空間光変調器であってもよい。
【0028】
前眼部で発生する波面収差を精度よく検出して補正し、かつ波面収差が良好に補正された状態で、光ファイバ9への結合効率も同時に良好であるためには、光学的に次のような位置関係であることが必要になる。すなわち、波面補正器1と、波面センサ2(波面センサ2の検出面であるマイクロレンズアレイ面(コリメータレンズの射出瞳21))とが光学的に共役な位置関係になければならない。また、波面補正器1と波面センサ2とは共に、眼球6の前眼部(正確には眼球瞳62)の位置と光学的に共役な位置関係になるように接眼光学系3及びあご受台(不図示)等が配置されている。第1の中間像73は入射瞳の位置をコリメータレンズの射出瞳21とした光学素子31により集光された像である。第1の中間像73の位置と、入射瞳の位置を偏向素子5とした光学素子34の第2の中間像74の位置とが、入射瞳の位置を波面補正器1の位置と一致させた共通光学系10の像面12の位置に一致することが、共役な位置関係の必要条件になる。共通光学系10の入射瞳の位置に波面補正器が配置され、入射瞳の位置を基準とした共通光学系10の像面12に第1の中間像73と第2の中間像74とが集光される。
【0029】
さらに、各光学系(補償光学系、接眼光学系)からの光線の像面への入射光線の角度は一致していなければならないが、これは各光学系が像側テレセントリックであるように設計されていればよい。もし共通光学系10が像側テレセントリックでない場合には、コリメータレンズ30や光学素子34は偏心させる必要がある。
【0030】
次に、図1の補償光学系の具体的な構成を図2により説明する。図2は、光ファイバ9のファイバ端から偏向素子5(スキャナ)までの補償光学系101と、ビームの主光線とマージナル光線が描画されており、図1に示した接眼光学系3以降は省略されている。基本的な構成は図1と同様であり、各素子の符号も同様である。
【0031】
図示されていない光源から、波長840nm、波長幅50nmで照射された光源光は、光ファイバ9(シングルモードファイバ)を伝搬し、光ファイバ9の端面から発散光として照射される。光ファイバ9から照射された光はコリメータレンズ30で平行化される。光ファイバ9のコア径は5μmであり、コリメータレンズ30の焦点距離は15mmであるので、平行ビームの相対強度1/e2におけるビーム径は約3.2mmとなる。波面補正器1への入射ビームの主光線と波面補正器1からの反射ビームの主光線の距離dkと、共通光学系を構成する光学素子のビーム径Dkとの関係は、dk≦2・Dkの関係を満たす。
【0032】
この平行ビームはビーム分岐部材41(ビームスプリッタ)を透過した後に焦点距離60mmの光学素子31(球面ミラー)によって第1の中間像73の位置に集光される。この後、2枚の球面レンズで構成された共通光学系10を透過し、平行化された平行ビームは波面補正器1に、水平方向に対して約3度の入射角度で入射される。波面補正器1は、共通光学系10により平行化された平行ビームが入射され、入射された光を共通光学系10に向けて反射する。反射された光は、再度、共通光学系10を経て第2の中間像74の位置に集光される。共通光学系10の焦点距離は100mmで、入射するビーム径は約5.6mmになる。ここで、波面補正器1は共通光学系10の入射瞳の位置に設置されており、2つの中間像の位置(第1の中間像73の位置と第2の中間像74の位置)は、共通光学系10の像面12(図1参照)上に設定されている。また、波面補正器1への入射ビーム71と、波面補正器1からの反射ビーム72は、共通光学系10の光軸に対して対称に伝搬される。共通光学系10を構成する2枚のレンズ(10a、10b)は、波面補正器1の反射面の中心(入射される光の主光線の反射点)を通り、波面補正器1の反射面に垂直な軸を光軸とした共軸光学系として配置されている。2枚のレンズ(10a、10b)は、色収差を含む各収差を低減するようにその材質や形状が設定されている。また、2つの球面レンズ(10a、10b)を組み合わせることで、波面補正器1から第1の中間像73の位置、第2の中間像74の位置までの距離を更に短くしている。共通光学系10の収差をより低減するためには、レンズの枚数を増やすか、非球面レンズを用いることが考えられるが、共通光学系10の透過率を維持するためには、極力、レンズ枚数は少ない方が好ましい。また非球面レンズを用いる際には、入射ビームと反射ビームとが共通光学系10のレンズ面上でオーバーラップすることを考慮すると、極値を複数持つような複雑な形状ではなく、単一の極値を持つような非球面形状を採用する必要がある。
【0033】
第2の中間像74の位置から広がった光は、その後、焦点距離50mmの光学素子34(球面ミラー)により再度平行化されて、偏向素子5(スキャナ)に入射される。このときのビーム径は約2.7mmとなっており、偏向素子5(スキャナ)で2次元方向に偏向される。図2では示されていない接眼光学系3(図1)により所望のビーム径に変換されて、図2では示されていない検査対象(眼球)に入射され、網膜61に結像され、網膜61の所定範囲を走査される。網膜61上のビーム照射点からの反射・後方散乱光は、戻り光として逆の光路を伝搬し、ビーム分岐部材41(ビームスプリッタ)で反射された戻り光の一部は波面センサ2に入射する。
【0034】
波面センサ2によって検出された戻り光は情報処理装置150に送られる。情報処理装置150は、ビーム分岐部材41で反射された戻り光により波面収差を検出し、検出された波面収差を相殺するように波面補正器1を駆動するための補正量を算出する。算出された補正量に基づいて波面補正器1が駆動される。波面補正器1の駆動により戻り光の波面は良好に補正され、ビーム分岐部材41(ビームスプリッタ)を透過した光は、コリメータレンズ30を介して、光ファイバ9の端面に良好に結像される。そして、不図示のセンサにより戻り光の強度が検知され、この検知結果は情報処理装置150に入力される。情報処理装置150は、センサ(不図示)の検知結果に基づき、戻り光の強度に基づいた2次元あるいは3次元画像を生成する。
【0035】
図3により、波面センサ2に相当する位置、波面補正器1、偏向素子5(スキャナ)の3つの瞳共役位置間の結像関係を示した光路図を説明する。偏向素子5(スキャナ)は、接眼光学系3(図1)によって、眼球瞳62(図1)と共役になっており、波面センサ2に相当する位置、波面補正器1の位置も眼球瞳62(図1)と共役関係となっているため、波面測定、波面補正を精度よく行うことができる。
【0036】
以下に、補償光学系101の光学データを示す。ここで、XYZ座標系の原点は、光ファイバ9の出射端面の中心を示し、Z軸は光ファイバ9からの射出光の伝搬方向、X、Y軸は絞り面上でZ軸に垂直な方向である。また、ガラス材質のn、νは、それぞれd線における屈折率とアッベ数である。
【0037】
面番号 曲率半径 X位置 Y位置 Z位置 X軸回転 ガラス(n,ν)
1 ∞ 0.000 0.000 0.000 0.000
2 ∞ 0.000 0.000 0.000 0.000
絞り ∞ 0.000 0.000 15.000 0.000
4 ∞ 0.000 0.000 15.000 0.000
5 -120.000 0.000 0.000 75.000 4.000 (反射)
6 ∞ 0.000 0.000 75.000 8.000
7 ∞ 0.000 -8.350 15.584 8.000
8 ∞ 0.000 -8.350 15.584 8.000
9 ∞ 0.000 -8.350 15.584 7.766
10 ∞ 0.000 -13.536 16.291 7.766
11 94.008 0.000 -16.957 -8.791 7.766 1.48749 70.41
12 38.211 0.000 -17.633 -13.745 7.766
13 -118.598 0.000 -30.214 -105.993 7.766 1.72889 46.08
14 458.614 0.000 -30.754 -109.956 7.766
15 ∞ 0.000 -30.754 -109.956 7.766
16 ∞ 0.000 -33.749 -131.917 7.766 (反射)
17 ∞ 0.000 -33.749 -131.917 7.766
18 458.614 0.000 -30.754 -109.956 7.766 1.72889 46.08
19 -118.598 0.000 -30.214 -105.993 7.766
20 38.211 0.000 -17.633 -13.745 7.766 1.48749 70.41
21 94.008 0.000 -16.957 -8.791 7.766
22 ∞ 0.000 -13.541 16.256 7.766
23 ∞ 0.000 -18.727 16.963 7.766
24 ∞ 0.000 -18.727 16.963 7.766
25 -100.000 0.000 -11.971 66.504 11.766 (反射)
26 ∞ 0.000 -11.971 66.504 15.766
27 ∞ 0.000 -11.998 66.408 15.766
28 ∞ 0.000 -25.584 18.289 15.766
IMG ∞ 0.000 -31.018 -0.958 15.766
このときの補償光学系101の波面収差を図5に示す。従来の図4のように、共通光学系10を個別の2枚の凹面ミラー32、33で構成すると、図5の波面収差の量を満足するためには、球面レンズの焦点距離は2倍の200mm程度にする必要があり、光学系の面積としては2倍程度大きくなってしまう。
【0038】
本実施形態によれば、焦点距離を短くすることや光学素子の使用数を少なくすることができ、また、極値を複数持つような複雑な形状の光学系を用いる必要がない。従って、複雑な構成の光学系を必要とせず、コンパクトなサイズの補償光学系を実現することができる。
【0039】
また、径の大きい波面補正器を用いた場合であっても、コストの上昇や複雑な構成を必要とせず、光学系の残収差を十分に抑え、効率も維持したままで、非常にコンパクトなサイズの補償光学系を実現することができる。
【0040】
(第2実施形態)
図6の参照により第2実施形態に係る補償光学系102の構成を説明する。本実施形態の補償光学系では2つの波面補正器として2つの形状可変ミラー1a、1bを用いて波面収差を補正する。形状を変化させるための変位セグメント数が多いタイプの形状可変ミラーでは、その変位量は数μm程度に留まる場合が殆どである。逆に数十μmと変位量の大きいタイプの形状可変ミラーでは、セグメント数が少なく、高次の関数の形状を再現することができない。そのため、変位量の大きいタイプの形状可変ミラーのみでは高次の収差を補正することができない。本実施形態の補償光学系102は、異なる2つのタイプの形状可変ミラー1a、1bを併設し、前者のタイプで高次の波面収差を補正し、後者のタイプで低次の波面収差を補正する構成となっている。図6において、2つの共通光学系110a(第1の共通光学系)、110b(第2の共通光学系)は、それぞれ図1の共通光学系10に対応するものである。その他、図1、2と同様の構成には同じ参照番号を付している。共通光学系110aは光源から照射され、集光された第1の中間像からの光を第1の光路で伝搬させ、伝搬した光を第1の波面補正器1aに入射させる。そして、第1の波面補正器1aで反射された光を第1の光路とは異なる第2の光路で伝搬させ、第1の中間像とは異なる第2の中間像として集光させる。共通光学系110bは第2の中間像からの光を第3の光路で伝搬させ、伝搬した光を第2の波面補正器1bに入射させ、第2の波面補正器1bで反射された光を第3の光路とは異なる第4の光路で伝搬させ、第2の中間像とは異なる第3の中間像として集光させる。
【0041】
図示されていない光源から光ファイバを介しコリメータレンズで平行化されたビームは、光学素子31(球面ミラー)で反射されて第1の中間像73を形成する。その後、ビームは共通光学系110aで平行化されて、第1の波面補正器1aに入射する。第1の波面補正器1aで反射されたビームは、再度、共通光学系110aを透過して第2の中間像74を形成する。その後、ビームは共通光学系110bに入射する。ビームは共通光学系110bで再度平行化されて、第2の波面補正器1bに入射する。第2の波面補正器1bで反射された反射光は、再度、共通光学系110bを透過して第3の中間像75を形成する。その後、ビームは光学素子34で平行化されて、偏向素子5(スキャナ)に導かれる。このとき、波面センサ2の相当位置、波面補正器1a、波面補正器1b、偏向素子5(スキャナ)は、眼球瞳62(図1)と光学的に共役な位置関係にある。また、網膜61(図1)と共役な位置関係にある第1の中間像73と第2の中間像74は、波面補正器1aの位置を瞳とする共通光学系110aの像面上に結像される。また、第2の中間像74と第3の中間像75は、波面補正器1bの位置を瞳とする共通光学系110bの像面上に設定される。ここで、第1の波面補正器1aは、変位セグメント数が多く高次の収差を補正するタイプであり、第2の波面補正器1bは、セグメント数が少なく低次の収差を補正するタイプである。また、波面センサ2で検出された値に基づき、情報処理装置150は波面収差を求め、波面収差を補正するための第1の波面補正器1a、第2の波面補正器1bの駆動値を算出する。求められたそれぞれの駆動値に基づいて、第1の波面補正器1a、第2の波面補正器1bが駆動される。
【0042】
本実施形態では、第1の波面補正器1aと第2の波面補正器1bは同程度の径であるとして、各入射ビーム径は同一としている。従って、共通光学系110a、110bは、図2の共通光学系10と同様のものである。もし両者に入射させるビーム径が異なる場合には、共通光学系110aと110bの焦点距離、瞳径をビーム径の比率に応じて設定すればよい。
【0043】
本実施形態によれば、複数種の波面補正器を用いることにより、波面収差をより精度よく補正することができる。
【0044】
また、光学系の残収差を十分に抑え、効率も維持したままで、コンパクトなサイズの補償光学系を実現することができる。
【0045】
(第3実施形態)
図7の参照により第3実施形態に係る補償光学系103の構成を説明する。本実施形態では共通の光学系として、凹面ミラー10cを用いた構成について説明する。図1、2と同様の構成には同じ番号を付して、その説明は省略する。
【0046】
図示されていない光源から光ファイバを介しコリメータレンズで平行化されたビームは、光学素子31(レンズ)で第1の中間像73を形成する。その後、ビームは、凹面ミラー10cで平行化されて、波面補正器1に入射する。波面補正器1で反射されたビームは、再度、凹面ミラー10cに入射する。その後、凹面ミラー10cで反射されたビームは、第2の中間像74を形成する。そして、ビームは光学素子34(レンズ)で平行化されて偏向素子5(スキャナ)に導かれる。このとき、波面センサ2に相当する位置、波面補正器1、偏向素子5(スキャナ)は、眼球瞳(図1の62)と光学的に共役な位置関係にある。また、網膜(図1の61)と共役な位置関係にある第1の中間像73と第2の中間像74は、波面補正器1の位置を瞳とした凹面ミラー10cからなる光学系の像面上に設定される。このように、共通の光学系として凹面ミラー10cを用いた場合でも、凹面ミラー10c上で入射、反射ビームを分離する必要がないため、波面補正器1への入射角を小さくすることができ、凹面ミラー10cの焦点距離は短く設定できる。
【0047】
本実施形態に拠れば、複雑な構成を必要とせず、コンパクトなサイズの補償光学系を実現することができる。
【0048】
(他の実施形態)
先の第1乃至第3実施形態で説明した補償光学系を画像生成装置に適用することが可能である。画像生成装置としては、例えば、網膜を面としての2次元像として取得するSLO(Scanning Laser Ophthalmoscope)が挙げられる。また、網膜の断層像を非侵襲で取得するOCT(Optical Coherence Tomography:光学的干渉断層計)も画像生成装置に適用することが可能である。画像生成装置は第1乃至第3実施形態で説明したいずれかの補償光学系と、補償光学系により収差が補正された被検物からの戻り光の強度を検出する検出部と、検出部の検出結果により被検物の画像を生成する生成部を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から被検物に向けて照射された光の反射光を受け、前記被検物の波面を検出する波面センサと、
前記波面センサに対して光学的に共役な位置に配置され、前記波面センサで検出された前記波面の検出結果に基づいて求められた波面収差を補正する反射型波面補正手段と、
前記光源から照射され、集光された第1の中間像からの光を第1の光路で伝搬させ、前記伝搬した光を前記波面補正手段に入射させ、前記波面補正手段で反射された光を前記第1の光路とは異なる第2の光路で伝搬させ、前記第1の中間像とは異なる第2の中間像として集光させる共通光学系と、を有し、
前記共通光学系の入射瞳の位置に前記波面補正手段が配置され、前記入射瞳を持つ前記共通光学系の像面に前記第1の中間像と前記第2の中間像とが集光されることを特徴とする補償光学系。
【請求項2】
前記共通光学系に用いられる光学素子は、単一の極値を持つ非球面形状を持つことを特徴とする請求項1に記載の補償光学系。
【請求項3】
前記共通光学系は、前記波面補正手段に入射される主光線の反射点を通り、前記波面補正手段に垂直な軸を光軸とする共軸光学系であることを特徴とする請求項1または2に記載の補償光学系。
【請求項4】
前記波面センサと前記波面補正手段とに対して光学的な位置に配置され、前記波面センサで検出された前記波面の検出結果に基づいて求められた波面収差を補正する第2の波面補正手段と、
第2の中間像からの光を第3の光路で伝搬させ、前記伝搬した光を前記第2の波面補正手段に入射させ、前記第2の波面補正手段で反射された光を前記第3の光路とは異なる第4の光路で伝搬させ、前記第2の中間像とは異なる第3の中間像として集光させる第2の共通光学系とを更に有し、
前記第2の共通光学系の像面に前記第2の中間像と前記第3の中間像とが集光されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の補償光学系。
【請求項5】
前記共通光学系と前記第2の共通光学系に入射されるそれぞれの光の径の比に基づいて、前記共通光学系と前記第2の共通光学系のそれぞれの焦点距離が設定されることを特徴とする請求項4に記載の補償光学系。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の補償光学系と、
前記補償光学系により波面収差が補正された被検物からの反射光の強度を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果により前記被検物の画像を生成する生成手段と、
を有することを特徴とする画像生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−239884(P2011−239884A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113423(P2010−113423)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】