説明

補強性粒子、重合体組成物及びこれらの製造方法並びに加硫性ゴム組成物

【課題】 補強剤の分散性に優れ、基材重合体の本来有する特性、特に機械的強度及び耐摩耗性にも優れた重合体組成物、この重合体組成物を得るために適した補強性粒子、これらの製造方法及びこの重合体組成物からなる加硫性ゴム組成物を提供する。
【解決手段】 表面にシラノール基を有する補強性粒子100重量部を、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒中で、重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体0.3〜200重量部で被覆処理してなるアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子。基材重合体とアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子とを含有してなる重合体組成物。ゴム状重合体とアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子とからなる重合体組成物に加硫剤を配合してなる加硫性ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する補強性粒子、これを含有してなる重合体組成物、及びこれらの製造方法並びに加硫性ゴム組成物に関する。更に詳しくは、特定の構造を有する重合体で被覆してなる補強性粒子、これを含有してなる、補強性粒子の分散性に優れ、且つ、機械的特性及び耐摩耗性に優れた重合体組成物、これらの製造方法並びにこの重合体組成物と加硫剤とを含有してなる加硫性ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源や環境対策等が重視されるにつれて、自動車の低燃費化に対する要求は、ますます厳しくなり、自動車タイヤについても、転動抵抗を小さくすることにより、低燃費化に寄与することが求められている。
このため、補強剤として、従来のカーボンブラックに代えてシリカを配合することが行われる。タイヤ用ゴム組成物にシリカを配合すると、低発熱性が改良されて転動抵抗が小さくなる他、タイヤのウェット性能が向上するという特徴を有する。しかし、シリカはカーボンブラックと比較して、ゴム分子に対する親和性が小さいため、ゴムへの分散性が悪く耐破断性、耐摩耗性の改良効果(補強性)の点で劣るという問題があった。そこで、シリカとジエン系ゴムとの親和性を高めるための種々の方法が提案されている。
【0003】
その第一の手法は、各種の化合物でシリカの表面を改質する方法である。このような化合物として、シリル基含有スルフィド化合物等のシランカップリング剤があるが、多量の使用が必要であって経済的でない。また、ポリシロキサンも提案されているが、補強性の点で十分な効果が得られるとは言い難い。
【0004】
第二の手法は、シリカと親和性のある置換基のジエン系ゴムへの導入や極性基を有する単量体を共重合したジエン系ゴムの使用等の、ジエン系ゴムの改質である。
しかしながら、置換基を導入したジエン系ゴムの多くは、シリカと混合する際に、シリカと強く凝集してシリカの分散不良が起きるため、加工性に劣り、低発熱性、引張強度及び耐摩耗性等の特性も充分に改善されないという欠点を有している。
また、構造中に極性基を含有するために、ゲル化しやすく、高温時にムーニー粘度が上昇しやすいので、配合時に補強剤の混練が十分行えず、また、ゴムの粘度が高いので加工性が低下する等、取り扱いが困難になるという問題があった。
このように、上記二つの手法では、いずれも十分な効果が得られるとは言い難い。
【0005】
特許文献1では、溶液重合ジエン系ゴム、シリカ、シランカップリング剤及び特定範囲の分子量を有するポリアルキレングリコールを混練するに当たり、その混練時の最高温度を規定することにより、機械的強度、転動抵抗等を改善する試みがなされている。
【0006】
また、最近、シリカ、ポリシロキサン及び非イオン性界面活性剤を含有する水性懸濁液にゴムラテックスを添加して混合し、次いで、酸でゴムを凝固させ、乾燥してゴム粉末乃至ゴム顆粒を製造する方法が提案されている(特許文献2)。この方法によれば、加工性、低燃費性及び摩耗性に一定の改良が見られるが、十分ではない。
更に、特許文献3には、ゴムと充填剤とを混合するに際して、1,7−ジヒドロキシジプロピルエーテル等の特定のエーテル化合物を加工助剤として用いる方法が開示されている。
特許文献4には、ジエン系ゴム、シリカ、シランカップリング剤及び酸アミド構造を有するポリオキシアルキレングリコール化合物を含むゴム組成物が開示されている。これらの方法は、特定の化合物を添加することによって、各成分の混和性を向上すると共に、シリカの表面改質を行うことを狙ったものと思われる。
しかしながら、これらの手法によっても、まだ、十分な効果が得られているとはいえない。
【0007】
本出願人は、ポリエーテル系重合体が優れた帯電防止効果を有することに着目して研究を進めてきたが、このポリエーテル系重合体、ジエン系ゴム及びシリカからなるゴム組成物が優れた各種特性を有することを見出し(特許文献5)、更に研究を展開してきた(特許文献6、特許文献7)。
しかしながら、このゴム組成物は、優れた帯電防止性、発熱特性、機械的強度、反発弾性、加工性等を有するものの、耐摩耗性に課題を残していた。
【0008】
このように、基材である重合体の本来の特性を損なうことなく、種々の特性を改良するために種々の配合剤が添加されるが、これらの場合に、その配合剤の分散性が良好であることが求められ、また、得られる基材重合体/配合剤の複合体が基材重合体に本来備わっている良好な特性を損なわないことが重要である。
【0009】
【特許文献1】特開平9−3245号公報
【特許文献2】特開2003−160668号公報
【特許文献3】特開2003−119324号公報
【特許文献4】特開2002−265676号公報
【特許文献5】国際公開第97/39055号パンフレット
【特許文献6】特開2000−109555号公報
【特許文献7】特開2000−109675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、補強性粒子の分散性に優れ、基材重合体の本来有する特性、特に機械的強度及び耐摩耗性にも優れた重合体組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、この重合体組成物を得るために適した補強性粒子を提供することにある。本発明の更に他の目的は、この補強性粒子及び重合体組成物を製造する方法を提供することにある。更に本発明の目的は、機械的強度や耐摩耗性に優れた加硫性ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の溶媒中で特定のポリアルキレンエーテル構造含有重合体で被覆したシリカ等の補強性粒子と重合体とを含有してなる重合体組成物が、上記各特性において優れていることを見出し、この知見に基づいて更に鋭意研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
かくして本発明によれば、表面にシラノール基を有する補強性粒子100重量部を、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒中で、重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体0.3〜200重量部で被覆してなるアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子が提供される。
また、本発明によれば、表面にシラノール基を有する補強性粒子100重量部を、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒中で、重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体0.3〜200重量部及び下記一般式(I)[式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基である。]で表される構造を有する珪素化合物0.03〜100重量部で被覆してなるアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子が提供される。
≡Si−OR(I)
本発明において、前記アルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子は、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒の溶液の形態を有することができる。
【0013】
本発明によれば、表面にシラノール基を有する補強性粒子100重量部を、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒中で、重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体0.3〜200重量部と混合することを特徴とするアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、表面にシラノール基を有する補強性粒子100重量部を、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒中で、重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体0.3〜200重量部及び下記一般式(I)[式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基である。]で表される構造を有する珪素珪素化合物0.03〜100重量部と混合することを特徴とするアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子の製造方法が提供される。
≡Si−OR(I)
【0014】
また、本発明によれば、基材重合体100重量部と前記アルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子5〜200重量部とを含有してなる重合体組成物が提供される。
本発明において、基材重合体が、周期律表第15族又は第16族の原子を有する極性の官能基を有する重合体であることが好ましい。
また、基材重合体は、ゴム状重合体であることができる。
【0015】
更に本発明によれば、前記アルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子を基材重合体に配合する重合体組成物の製造方法が提供される。
本発明の重合体組成物の製造方法において、有機溶媒溶液の形態を有するアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子と、基材重合体を10.0〜18.8MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒に溶解してなる溶液と、を混合することが好ましい。
【0016】
更に、本発明によれば、基材重合体としてゴム状重合体を使用した前記重合体組成物と加硫剤とを含有してなる加硫性ゴム組成物が提供される。
本発明の加硫性ゴム組成物は、タイヤ用に好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、補強性粒子の分散性に優れ、基材重合体の本来有する特性、特に機械的強度及び耐摩耗性にも優れた重合体組成物及びそのために使用する補強性粒子を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子は、補強性粒子をアルキレン構造含有重合体で被覆してなる。
本発明で使用しうる補強性粒子は、補強性を重合体粒子に付与するために用いられるものであり、表面にシラノール基を有するものであれば、特に限定しないが、その具体例としては、珪酸質粒子を挙げることができる。
珪酸質粒子としては、乾式法シリカ;湿式法シリカ;アルミニウムシリケートやカルシウムシリケート等の合成珪酸塩系シリカ;等が挙げられる。これらの中でも、含水珪酸を主成分とする湿式法シリカが特に好ましい。
また、補強性粒子の他の具体例として、カーボンブラック、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の表面をシラン化合物と反応させる等の方法によって得られる、表面にシラノール基を有するものを挙げることができる。
これらの補強性粒子は、それぞれ単独で又は二種以上を組合せて使用することができる。
【0019】
珪酸質粒子の比表面積には、特に制限はないが、BET法による窒素吸着比表面積が50〜800m/gのものがよい。窒素吸着比表面積は、好ましくは80〜250m/g、更に好ましくは100〜200m/gである。比表面積がこの範囲内にあるとき、加工性、低発熱性及び耐摩耗性が特に優れた重合体組成物を得ることができる。珪酸質粒子のpHは特に限定されないが、酸性の珪酸質粒子がよく、pHが3〜6.9のものが好ましく、pHが5〜6.7のものが更に好ましい。
【0020】
本発明において表面にシラノール基を有する補強性粒子を被覆するためのアルキレンエーテル構造含有重合体は、下記一般式(II)で示される構造を分子内に有する重合体であって、そのポリスチレン換算重量平均分子量が5,000以上の重合体である。
【0021】
【化1】

【0022】
一般式(II)において、R〜Rは、水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子若しくは周期律表第15族若しくは第16族の原子を有する極性の官能基を有していてもよい炭化水素基を表す。なお、炭化水素基の炭素原子の一部が酸素、珪素、硫黄又は窒素原子で置換されたものであってもよい。炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、通常、1〜20である。mは、重量平均分子量が上記範囲を満たすような10〜100,000の整数である。
【0023】
アルキレンエーテル構造含有重合体は、オキシラン化合物を開環重合して得られるものである。オキシラン化合物は、特に限定されず、任意の置換基を有していてもよい。その具体例としては、アルキレンオキシド、エピハロヒドリン、不飽和エポキシド等を挙げることができる。これらのオキシラン重合体は、一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
また、アルキレンエーテル構造含有重合体における単量体の配列様式は、ランダム配列であってもブロック配列であってもよい。
【0024】
アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシ−イソブタン、2,3−エポキシブタン、アミレンオキシド、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシエイコサン、1,2−エポキシ−2−ペンチルプロパン、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロドデカン等が挙げられる。これらの中でも、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシ−イソブタン、2,3−エポキシブタン、アミレンオキシド等の低級アルキレンオキシドが好ましく、エチレンオキシドやプロピレンオキシドが特に好ましい。
【0025】
エピハロヒドリンとしては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、2,3−エポキシ−1,1,1−トリフルオロプロパン、1,2−エポキシ−1H,1H,2H,3H,3H−ヘプタデカフルオロウンデカン等が挙げられる。これらのうち、エピクロロヒドリンが好ましく用いられる。
【0026】
不飽和エポキシドは、分子内に少なくとも一つの炭素−炭素不飽和結合と少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されない。その具体例としては、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、オクテニルグリシジルエーテル等のアルケニルグリシジルエーテル;グリシジルフェニルエーテル等のアレニルグリシジルエーテル;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセン等のアルケニルエポキシド;スチレンエポキシド等のアリールエポキシド;(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジルエステル;等が挙げられる。これらの中でも、アルケニルグリシジルエーテルが好ましく、アリルグリシジルエーテルが特に好ましい。
その他のオキシラン化合物としては、例えば、1,2−エポキシ−1−メトキシ−2−メチルプロパン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0027】
アルキレンエーテル構造含有重合体の具体例としては、例えば、アルキレンオキシドの単独重合体、2種以上のアルキレンオキシドの共重合体、アルキレンオキシドとエピハロヒドリンとの共重合体、アルキレンオキシドと不飽和エポキシドとの共重合体、アルキレンオキシドとエピハロヒドリンと不飽和エポキシドとの共重合体、エピハロヒドリンの単独重合体、2種以上のエピハロヒドリンの共重合体、エピハロヒドリンと不飽和エポキシドとの共重合体、不飽和エポキシドの単独重合体、2種以上の不飽和エポキシドの共重合体等が挙げられる。
これらの中でも、2種以上のアルキレンオキシドの共重合体やアルキレンオキシドと不飽和エポキシドとの共重合体が好ましく、アルキレンオキシドと不飽和エポキシドとの共重合体が特に好ましい。
【0028】
アルキレンオキシドと不飽和エポキシドとの共重合体の具体例としては、エチレンオキシド−プロピレンオキシド−アリルグリシジルエーテル共重合体、エチレンオキシド−プロピレンオキシド−エピクロロヒドリン共重合体、プロピレンオキシド−エピクロロヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体等が挙げられる。
これらのうち、エチレンオキシド単位を含む共重合体が好ましい。エチレンオキシド単位の含有量は、通常、10モル%以上、好ましくは50モル%以上、更に好ましくは70モル%以上である。
共重合体中のアリルグリシジルエーテル単位の含有量は、通常、0〜20モル%、好ましくは1〜10モル%、更に好ましくは2〜8モル%である。アリルグリシジルエーテル単位の含有量がこの範囲であると、有効に補強性粒子の表面を被覆でき、本発明で得られる重合体組成物の強度特性や摩耗特性が特に優れたものとなる。
【0029】
アルキレンエーテル構造含有重合体のポリスチレン換算重量平均分子量は、5,000以上であることが必要である。上限は、通常、50,000,000である。重量平均分子量の範囲は、好ましくは10,000〜3,000,000、更に好ましくは50,000〜1,000,000である。重量平均分子量がこの範囲内にあるとき、補強性粒子の被覆、基材重合体との配合等の処理の間にアルキレンエーテル構造含有重合体が系外へ逸失してしまうことがない。また、重量平均分子量がこの範囲内にあると、溶媒中に十分に溶解するので、補強性粒子の被覆に時間が掛からない、補強性粒子の被覆率を高くできる等の利点がある。
【0030】
補強性粒子を被覆するためのアルキレンエーテル構造含有重合体の使用量は、補強性粒子100重量部に対して、0.3〜200重量部、好ましくは1〜100重量部、更に好ましくは1〜50重量部の範囲である。
【0031】
アルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子は、前記表面にシラノール基を有する補強性粒子100重量部を、前記重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体0.3〜200重量部と混合することにより製造することができる。
表面にシラノール基を有する補強性粒子と重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体との混合は、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒中で、両者を接触させることにより行う。溶解度パラメーター(以下、「SP値」ということがある。)は、好ましくは、16.8〜19.0MPa1/2、更に好ましくは18.0〜18.8MPa1/2の範囲である。
なお、有機溶媒の溶解度パラメーターは、ポリマーハンドブック(POLYMER HANDBOOK、JOHN WILEY & SONS社発行)に記載された方法により求めることができる。
【0032】
上記範囲のSP値を有する溶媒としては、ベンゼン(SP値=18.8MPa1/2。以下、本明細書において、SP値の単位を省略することがある。)、トルエン(同18.2)、キシレン(同18.0)、エチルベンゼン(同18.0)等の芳香族炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン(同18.6);シクロヘキサン(同16.8)、シクロペンタン(同17.8)等の環状脂肪族炭化水素溶媒;メチルエチルケトン(同19.0)、ジエチルケトン(同18.0)等のケトン溶媒;等を例示することができる。
これらのうち、芳香族炭化水素溶媒及び環状脂肪族炭化水素溶媒が好ましく、中でも、トルエン、キシレン及びシクロヘキサンが好ましく、トルエン、キシレンが最も好ましい。
有機溶媒は、上記範囲のSP値を有するものであれば、特に限定されず、単一の溶媒であっても、二種以上の溶媒からなる混合溶媒であってもよい。
【0033】
上記範囲のSP値を有する有機溶媒に、上記範囲外のSP値を有する有機溶媒を混合して使用することができる。この場合は、上記範囲のSP値を有する溶媒が混合溶媒の50重量%以上を占めることが好ましく、70重量%以上を占めることがより好ましく、80重量%以上を占めることが特に好ましい。
上記範囲外のSP値を有する有機溶媒としては、上記範囲より低いSP値を有するn−ペンタン(SP値14.3MPa1/2)、n−ヘキサン(同14.9)等の鎖状炭化水素溶媒等、及び、上記範囲より高いSP値を有するn−ブタノール(同23.3)、エタノール(同26.0)等のアルコール溶媒、アセトン(同20.3)等を挙げることができる。
SP値の高いアルコール溶媒等を用いると、アルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子の溶液を基材重合体溶液と混合した際に、基材重合体が析出する恐れがあるので、その使用量は少ない方が好ましい。また、SP値の低い鎖状炭化水素溶媒等を用いると、アルキレンエーテル構造含有重合体及び補強性粒子の溶液(分散液)の安定性が低下する恐れがあるので、その使用量は少ない方が好ましい。
【0034】
補強性粒子とアルキレンエーテル構造含有重合体との混合方法は、16.0〜20.0MPa1/2のSP値を有する有機溶媒中で、両者を接触させるものであれば、特に限定されないが、アルキレンエーテル構造含有重合体を有機溶媒に溶解して均一な溶液とし、これに、攪拌下、補強性粒子を徐々に添加するのが好ましい。
アルキレンエーテル構造含有重合体の有機溶媒溶液の濃度は、特に限定されないが、通常、0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜15重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である。濃度がこの範囲内にあると、得られる溶液の粘度は取り扱いやすい水準となり、補強性粒子の被覆率が適切な範囲となって、得られるアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子を基材重合体に配合したときに分散が良好となる。
【0035】
混合時の温度は、特に限定されないが、通常、5℃以上、200℃以下であり、好ましくは20℃以上、150℃以下、更に好ましくは30℃以上、130℃以下である。混合時の温度がこの範囲内にあると、均一な分散が容易であり、アルキレンエーテル構造含有重合体の分解や劣化の恐れがない。また、溶媒の沸点に近くなると、操業上・安全上の問題が生じるので、溶媒の沸点を考慮して、適切に設定するのが好ましい。
攪拌速度は、通常、10〜10,000回転/分で、好ましくは50〜5,000回転/分、更に好ましくは100〜1,000回転/分である。攪拌速度がこの範囲内にあると、補強性粒子が沈降することがなく反応効率がよい。攪拌翼の形状は、特に限定されず、平板、ヘリカル、ダブルヘリカル等を適宜組合せることができる。また、ホモジナイザー等を用いて高速で、且つ、せん断を与えながら混合してもよい。
混合時の雰囲気は、特に限定されないが、安全のために不活性雰囲気下で行うのが好ましい。混合時の系内の圧力も特に限定されない。また、混合時間は、攪拌速度等にも依るが、通常、5分〜3時間程度である。
【0036】
本発明のアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子は、アルキレンエーテル構造含有重合体に加えて、更に下記一般式(I)[式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基である。]で表される構造を有する珪素化合物で被覆されていてもよい。
≡Si−OR(I)
一般式(I)で表される構造を有する珪素化合物としては、比較的低分子量のものを用いることが好ましく、好ましくは分子量2,000以下、より好ましくは1,000以下のものである。
また、一般式(I)で表される構造を有する珪素化合物としては、下記一般式(III)で表されるものを用いることが特に好ましい。
(R4−nSi(OR (III)
[ここで、nは1〜4の整数である。Rは水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、エポキシ基、グリシドキシ基及び(メタ)アクリロキシ基並びにこれらの基を含有していてもよい炭化水素基からなる群から選ばれる基である。Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基である。]
一般式(III)で表される珪素化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
これらの珪素化合物は、一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0037】
珪素化合物の量は、補強性粒子100重量部当たり、0.03〜100重量部、好ましくは0.1〜50重量部、更に好ましくは1〜30重量部である。また、珪素化合物の量は、アルキレンエーテル構造含有重合体の量よりも少ないことが必要であり、好ましくはアルキレンエーテル構造含有重合体の量の40重量%以下、更に好ましくは25重量%以下である。珪素化合物の量がこの範囲内にあると、基材重合体溶液との混合溶液を脱溶媒し、乾燥させる場合に副反応が起らず、得られる重合体組成物の加工特性や流動特性が良好なものとなる。
【0038】
アルキレンエーテル構造含有重合体及び一般式(I)で表される構造を有する珪素化合物で被覆してなる補強性粒子は、前記表面にシラノール基を有する補強性粒子100重量部を、前記重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体0.3〜200重量部及び前記一般式(I)で表される構造を有する珪素化合物0.03〜100重量部と、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒中で、混合することにより製造することができる。
その方法は、上述した、前記重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体と補強性粒子とを混合する場合と同様である。
【0039】
このようにして、アルキレンエーテル構造含有重合体で被覆された又はアルキレンエーテル構造含有重合体及び珪素化合物で被覆された補強性粒子(特に断りのない限り珪素化合物の有無に拘らず、「アルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子」と、称する。)の透明な溶液を得ることができる。
アルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子は、この溶液から、蒸発乾固、遠心分離等の適切な方法で溶媒と分離して、固形粒子として得ることができるが、溶液の状態で使用してもよい。基材重合体との混合の均一性を考慮すると、溶液のまま使用するのが好ましい。
【0040】
本発明の重合体組成物は、基材重合体100重量部と上記本発明のアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子5〜200重量部、好ましくは10〜150重量部とを含有してなる。
本発明において使用し得る基材重合体の種類は特に限定されず、重合体組成物の用途や使用目的に応じて適宜選定すればよく、樹脂であってもゴム状重合体であってもよい。
樹脂の例としては、ポリスチレン等の芳香族ビニル重合体;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂;ジシクロペンタジエン重合体等の脂環式オレフィン重合体;アクリロニトリル重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂;ハロゲン化ビニル重合体;これらの水素添加重合体等の樹脂を挙げることができる。
ゴム状重合体の例としては、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム等のジエン系ゴム;ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム等のジエン系ゴム以外のゴム;等を挙げることができる。
【0041】
基材重合体は、補強性粒子と化学親和性の高い、周期律表第15族又は第16族の原子を有する極性の官能基を有していることが好ましい。このような極性の官能基の具体例としては、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、第四級アミノ基、これらの塩酸塩、水酸基、アルコキシ基、エーテル基、カルボニル基、シラノール基及びアミド基が挙げられる。
このような極性の官能基の量は、基材重合体1分子中に、平均で、少なくとも0.1個以上あることが好ましく、0.5個以上あることがより好ましく、1個以上あることが特に好ましい。
【0042】
基材重合体の分子量は、通常、20万〜300万、好ましくは35万〜200万、更に好ましくは40万〜150万である。分子量がこの範囲内にあると、得られる重合体組成物の摩耗特性が良好で、粘度が適切なものとなり、加工性に優れる。
【0043】
本発明の重合体組成物は、基材重合体にアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子を配合することにより得ることができる。
配合の方法は、特に限定されず、両者を固形状で混合する方法、いずれか一方を溶液として他方をこれに添加する方法等を採用してもよいが、両者を溶液の状態で混合すると、アルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子を基材重合体中に均一に分散させることができるので好ましい。
【0044】
本発明においては、基材重合体溶液を得るための溶媒として、SP値が10.0〜18.8MPa1/2の有機溶媒が好ましく、14.0〜18.6MPa1/2の有機溶媒がより好ましく、14.9〜18.2MPa1/2の有機溶媒が更に好ましい。SP値がこの範囲内の有機溶媒を用いると、基材重合体の溶解性が適切なものとなり、アルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子溶液との混和性が良好である。
【0045】
このようなSP値を有する有機溶媒としては、ベンゼン(SP値=18.8MPa1/2)、トルエン(同18.2)、キシレン(同18.0)、エチルベンゼン(同18.0)等の芳香族炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン(同18.6)、ジメチルエーテル(同18.0)、ジエチルエーテル(同15.1)等の環状もしくは鎖状エーテル溶媒;n−ブタン(同13.9)、n−ペンタン(同14.3)、n−ヘキサン(同14.9)、n−ヘプタン(同15.1)、n−オクタン(同15.6)、n−デカン(同13.5)等の鎖状脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン(同16.8)、メチルシクロヘキサン(同16.0)、エチルシクロヘキサン(同16.3)、シクロペンタン(同17.8)等の環状脂肪族炭化水素溶媒;メチルエチルケトン(同19.0)、ジエチルケトン(同18.0)等のケトン溶媒;等が挙げられる。
これらのうち、芳香族炭化水素溶媒、環状又は鎖状エーテル溶媒、鎖状脂肪族炭化水素溶媒及び環状脂肪族炭化水素溶媒が好ましく、芳香族炭化水素溶媒、鎖状脂肪族炭化水素溶媒、環状脂肪族炭化水素溶媒がより好ましい。
また、有機溶媒は、単一の溶媒であっても、二種以上の溶媒からなる混合溶媒であってもよい。
【0046】
また、本発明の効果を損なわない限り、SP値が18.8MPa1/2を超える有機溶媒又は有機溶媒以外の溶媒を併用することができる。このような混合溶媒を用いる場合は、上記10.0〜18.8MPa1/2の範囲のSP値を有する有機溶媒が混合溶媒の50重量%以上を占めることが好ましく、70重量%以上を占めることがより好ましく、80重量%以上を占めることが更に好ましい。
SP値が18.8MPa1/2を超える溶媒としては、水(SP値=47.9MPa1/2);ホルムアミド(同39.3)、N,N−ジメチルホルムアミド(同24.8)、メタノール(同29.7)、エタノール(同26.0)、イソプロピルアルコール(同23.5)、ピリジン(同21.9)、二硫化炭素(同20.5)、アセトン(同20.3)、クロロホルム(同19.0)、塩化メチレン(同19.8)等を挙げることができる。
【0047】
基材重合体溶液中の基材重合体濃度は、通常、1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、更に好ましくは10〜30重量%である。濃度がこの範囲内にあると、アルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子との混和性がよく、混和後の重合体組成物の回収に要するエネルギーが適切な範囲となり、また、回収効率もよい。また、基材重合体溶液の粘度が過度に高くならないので、混合が容易である。
【0048】
基材重合体溶液は基材重合体を有機溶媒中で溶解した溶液を用いても、溶液重合法で得られた基材重合体溶液をそのまま用いてもよいが、溶液重合で得られた溶液は、基材重合体が均一に溶解されているので好ましい。更に、溶液重合の溶液としては反応停止前の活性状態にある基材重合体溶液を用いると、得られる重合体組成物の物性が向上するので好ましい。
固形の基材重合体を有機溶媒に溶解する場合は、基材重合体を予め、ペレット状に加工し又は粉砕器等で大きさを5cm以下にしてから有機溶媒中に少しずつ添加していくのがよく、溶解槽を毎分10回転以上、好ましくは毎分50回転以上、更に好ましくは毎分100回転以上で攪拌しながら添加するのがよい。攪拌速度がこの範囲内にあると、基材重合体の溶解が良好で、固形分が沈降することがない。基材重合体を溶解した後、必要に応じて、ホモジナイザー等を用いて更に均一性をよくしてもよい。
【0049】
10.0〜18.8MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒に溶解してなる基材重合体溶液と16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒の溶液の形態を有する重合体被覆補強性粒子とを混合することによって、有機溶媒溶液の形態を有する、基材重合体とアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子とを含有してなる重合体組成物を得ることができる。
基材重合体溶液とアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子の溶液とを混合する方法は、特に限定されないが、基材重合体溶液にこれより比重の大きいアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子の溶液を添加する方法を採用すると、より均一に混合できるので好ましい。
混合時の攪拌条件等は特に限定されないが、通常、毎分10〜10,000回転、好ましくは毎分50〜5,000回転の攪拌下に混合する。また、攪拌機の種類等も特に限定されない。
混合時の添加方法は、特に限定されないが、均一な混合を達成するために、重合体被覆補強性粒子の溶液を徐々に添加することが好ましい。また、添加に要する時間は、混合する基材重合体溶液と重合体被覆補強性粒子の溶液の量によるが、5分〜1時間程度である。
混合温度は、通常、0〜200℃、好ましくは20〜150℃、更に好ましくは30〜120℃である。
【0050】
基材重合体とアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子とを含有してなる重合体組成物の溶液を、溶媒除去処理に付することによって、固形状態の重合体組成物を得ることができる。
溶媒除去の方法としては、例えば、貧溶媒との混合や電解質等の凝固剤の添加による凝固を行って重合体組成物をクラムとして溶媒と分離する方法、重合体組成物溶液を熱水中に注入し、溶媒を水蒸気とともに蒸留し、重合体組成物をクラム状で析出させるスチームストリッピング法、減圧蒸留による溶媒の除去等、従来公知の方法を採用することができる。
次に、溶媒を分離した重合体組成物を必要に応じて精製する。例えば、凝固やスチームストリッピングにより生じたクラムを水洗して乳化剤、電解質等を除去する。これは、重合や凝固に使用した乳化剤等が、酸等として製品重合体中に残存すると重合体組成物の特性の低下を招く恐れがあるので、これらを除去するのが目的である。次に、重合体組成物を乾燥することが好ましい。乾燥の方法としては、従来公知の方法を採用することができる。例えば、スクイザー等で水分を絞って脱水した後、バンド通風乾燥装置、ベント型押出乾燥装置、エクスパンジョン型押出乾燥装置等を用いて乾燥する方法が挙げられる。
【0051】
本発明の重合体組成物に、種々の配合剤を添加して各種用途に好適な組成物を得ることができる。
これら配合剤の添加は、重合体組成物が溶液状態にあるときに行ってもよく、また、固形状とした後で行ってもよい。
【0052】
本発明において、重合体組成物の基材重合体としてゴム状重合体を使用すると、これから、タイヤのほか、ホース、窓枠、ベルト、靴底、防振ゴム、自動車部品、スポンジ、マット等のゴム製品の原料として好適な加硫性ゴム組成物や、スチレン系樹脂の耐衝撃性改質用組成物を得ることができる。
本発明の加硫性ゴム組成物は、基材重合体としてゴム状重合体を含有する本発明の重合体組成物と加硫剤とを必須成分として含有してなる。
【0053】
加硫性ゴム組成物に用いるゴム状重合体としては、ジエン系ゴム及びジエン系ゴム以外のゴムを挙げることができる。
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、乳化重合スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、溶液重合スチレン−ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、乳化重合スチレン−ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、乳化重合スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、高ビニル・スチレン−ブタジエン共重合体−低ビニル・スチレン−ブタジエン共重合体ブロック共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体ゴム等が挙げられ、要求特性に応じて適宜選択できる。これらの中でも、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム等が特に好ましい。
これらのゴムは、それぞれ単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0054】
タイヤ用途に好適な加硫性ゴム組成物を得るには、ゴム状重合体として、ジエン系ゴムを用いるのが好ましい。また、そのジエン系ゴムのミクロ構造は、共役ジエン単位と芳香族ビニル化合物単位との含有量比(共役ジエン単位:芳香族ビニル化合物単位)が100:0〜50:50であり、結合芳香族ビニル化合物量をS、共役ジエン単位中のビニル結合量をVとするとき、通常、200>2S+V>0.1、好ましくは170>2S+V>55、更に好ましくは150>2S+V>100である。この値が上記範囲内にあるとき、強度特性や摩耗特性に優れ、湿潤時制動性にも優れたタイヤ用ゴム組成物を得ることができる。
ジエン系ゴムにおける各単量体単位の配列様式は、特に限定されず、ランダムであっても、ブロック構造でも、テーパ構造でもよいが、8連鎖以上の芳香族ビニル化合物単位を含む割合は少ないほうがよく、通常、全結合芳香族ビニル化合物量に対して、10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは1%以下である。また、共役ジエン単位が重合体鎖の少なくとも一つの末端にブロック状で含まれているのが好ましい。
【0055】
ゴム重合体として、通常の直鎖状重合体のほか、例えば、アニオン重合により得られる活性末端を有する直鎖状のゴム状重合体にテトラメトキシシラン等の3以上の反応点を有するカップリング剤を作用させること等により得られる分岐を有する重合体(分岐ポリマー)を用いてもよい。また、例えば、活性末端を有するゴム状重合体に、その活性末端との反応点となる官能基を側鎖として複数有する別の重合体(具体的には、側鎖に複数のエポキシ基を有するポリシロキサン等)を作用させること等により得られる重合体(櫛型ポリマー)を用いてもよい。ゴム状重合体として、このような分岐ポリマーや櫛型ポリマーを用いることにより、特に低発熱性に優れる加硫性ゴム組成物を得ることができる。
【0056】
加硫剤に特に限定はなく、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等の硫黄;一塩化硫黄、二塩化硫黄等のハロゲン化硫黄;ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物;p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等のキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4’−メチレンビス−o−クロロアニリン等の有機多価アミン化合物;メチロール基を持ったアルキルフェノール樹脂;等が挙げられる。これらの中でも、硫黄が好ましく、粉末硫黄が特に好ましい。これらの加硫剤は、それぞれ単独で又は2種以上を組合せて用いられる。
【0057】
加硫剤の配合割合は、ゴム成分100重量部に対して、通常、0.1〜15重量部、好ましくは0.3〜10重量部、更に好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。加硫剤の配合割合がこの範囲にあるときに、引張強度や耐摩耗性に優れるとともに、耐熱性や残留ひずみ等の特性にも特に優れる組成物を得ることができる。
【0058】
これらの加硫剤を配合するに際して、加硫促進剤や加硫活性化剤を併用することが好ましい。加硫促進剤としては、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジン、o−トリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤;チオカルボアニリド、ジ−o−トリルチオウレア、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア等のチオウレア系加硫促進剤;2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩、等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等のチウラム系加硫促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸亜鉛等のジチオカルバミン酸系加硫促進剤;イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、ブチルキサントゲン酸亜鉛等のキサントゲン酸系加硫促進剤;等の加硫促進剤が挙げられる。
【0059】
これらの加硫促進剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組合せて用いられるが、少なくともスルフェンアミド系加硫促進剤を含むものが特に好ましい。スルフェンアミド系加硫促進剤を含むものの中では、スルフェンアミド系加硫促進剤の割合が全加硫促進剤中の30重量%以上のものが好ましい。
加硫促進剤の配合割合は、ゴム成分100重量部に対して、通常、0.1〜15重量部、好ましくは0.3〜10重量部、更に好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0060】
加硫活性化剤としては、特に制限はないが、例えばステアリン酸等の高級脂肪酸や酸化亜鉛等を用いることができる。酸化亜鉛としては、例えば、表面活性の高い粒度5μm以下のものを用いるのが好ましく、かかる具体例としては、粒度が、例えば、0.05〜0.2μmの活性亜鉛華や0.3〜1μmの亜鉛華等を挙げることができる。また、酸化亜鉛は、アミン系の分散剤や湿潤剤で表面処理したもの等を用いることができる。
【0061】
これらの加硫活性化剤は、それぞれ単独で又は2種以上を併用して用いることができる。加硫活性化剤の配合割合は、加硫活性化剤の種類により適宜選択される。
高級脂肪酸を用いる場合、ゴム成分100重量部に対して、通常、0.05〜15重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部配合する。酸化亜鉛を用いる場合は、ゴム成分100重量部に対して、通常、0.05〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.5〜3重量部配合する。加硫活性化剤の配合割合がこの範囲にあるときに、組成物の加工性、引張強度及び耐摩耗性等の特性が高度にバランスされ好適である。
【0062】
本発明の加硫性ゴム組成物には、ゴム状重合体及びアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子に加えて、ゴム状重合体以外の重合体;シリカ、SAF,ISAF,HAF、FEF,アセチレンブラック、カーボン繊維、フラーレン等のカーボンブラック等の、アルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子以外の補強剤を、必要に応じて、配合することができる。
【0063】
また、本発明の加硫性ゴム組成物には、この分野で通常使用される各種添加剤を配合することができる。
このような添加剤としては、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、粉砕シリカ等の充填剤;ビス−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド、ビス−(トリエトキシシリルプロピル)モノスルフィド、ビス−(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス−(2−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス−(2−トリエトキシシリルプロピル)ペンタスルフィド、ビス−(2−トリエトキシシリルプロピル)ヘキサスルフィド、3−オクタチオ−1−プロピルエトキシシラン等のシランカップリング剤;ナフテン系、パラフィン系又はアロマ系プロセスオイル;ジオクチルフタレート等の可塑剤;鉱物系のプロセスオイル;ナタネ油、桐油、トール油、亜麻仁油、パーム油等の植物系オイル;牛脂等の動物系オイル;石油合成オイル;テルペン樹脂、石油樹脂類;老化防止剤;等を挙げることができる。これらの配合剤の量は、通常用いられる範囲でよい。
【0064】
本発明の加硫性ゴム組成物は、常法に従って各成分を配合することにより得ることができる。
本発明の加硫性ゴム組成物は、低発熱性に優れるので、低燃費タイヤのタイヤトレッドとして特に好適に用いられるが、その他にもオールシーズンタイヤ、高性能タイヤ、スタッドレスタイヤ等のタイヤトレッド、サイドウオール、アンダートレッド、カーカス、ビード部等の各種タイヤ用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0065】
以下に参考例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、各例中の部及び%は特に断りのない限り、質量基準である。
なお、各特性は、以下の方法により評価した。
また、本実施例において、SP値は、単位(MPa1/2)を省略して記載する場合がある。
【0066】
[重合体分子量]
高速液体クロマトグラフィによりポリスチレン換算分子量として求める。具体的には、東ソー社製HLC8220を用い、GMH−HR−Hカラム2本を用い、テトラヒドロフラン(THF)を使用し、40℃、1ml/minの速度で測定する。分子量の較正はポリマーラボラトリー社製の標準ポリスチレン(500から300万)の12点で実施する。
[重合体のミクロ構造]
NMRにより測定する。
[有機酸量]
重合に使用した乳化剤等に起因する有機酸の量を、JIS K6237に従い測定する。数値が小さいほどよい。
【0067】
[重合体組成物中の補強性粒子の量]
JIS K6226−1に準じて、熱重量分析計(TGA)を用いて測定する。試料(質量F0の補強性粒子を含有する重合体組成物)を、550℃で15分間維持して、全有機分が分解揮散した後に残存する補強性粒子の量(F)を測定する。重合体組成物中に取り込まれた補強性粒子の比率(取り込み比率)(%)は、
取り込み比率(%)=100×F/F0で表される。
【0068】
[ムーニー粘度(ML1+4,100℃)]
JIS K6300に従い、100℃で測定する。この測定値を、基準サンプルを100とする指数に換算して示す。指数の数値が小さいほど、加工性がよいといえる。
[引張試験]及び[伸び試験]:
JIS K6251:1993に従い、ダンベル状3号形を用いて測定する。単位は、それぞれ、MPa及び%である。これらの測定値を、基準サンプルを100とする指数に換算して示す。いずれも指数の数値が大きいほどよい。
【0069】
[シリカの分散性評価]
シリカの分散性の指標として、160℃、30分加硫後サンプルの1Hz、60℃で、0.3%から70%のG’(貯蔵弾性率)の歪依存性を、ラバープロセスアナライザーRPA2000(アルファテクノロジー社製)を用いて測定する。測定単位はMPaである。この測定値を、基準サンプルを100とする指数に換算して示す。指数の数値が小さいほど、シリカが良好に分散しているといえる。
[耐摩耗性試験]
160℃、30分加硫後サンプルについて、JIS K6242:1993に従いピコ摩耗試験機で実施する。測定単位はccである。測定値の逆数を、基準サンプルを100とする指数で示す。指数の数値が大きいほどよい。
【0070】
[参考例1]
(アルキレンエーテル構造含有重合体の製造)
エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びアリルグリシジルエーテルを、トリイソブチルアルミニウム、リン酸及びトリエチルアミンからなる触媒系を用いて、50℃のn−ヘキサン中でスラリー重合して、エチレンオキシド由来の単量体単位/プロピレンオキシド由来の単量体単位/アリルグリシジルエーテル由来の単量体単位=92/5/3の、ポリスチレン換算重量平均分子量70万の粉末状(大きさ約1mm)のアルキレンエーテル構造含有重合体(P1)の粉末を得た。
同様にして、エチレンオシキド/プロピレンオキシド共重合体((P2)単量体単位重量比=90/10、Mw=100,000)を得た。
【0071】
[参考例2]
(乳化重合スチレン−ブタジエン共重合体ゴムの製造)
スチレン及びブタジエンを、不均化ロジンカリウム及び脂肪酸ナトリウム混合乳化剤を用いて、クメンハイドロパーオキサイド/ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート/硫酸第二鉄からなるレドックス触媒系を用いて、チオール系連鎖移動剤の存在下に5℃で乳化重合し、凝固、水洗、乾燥を経て、ポリスチレン換算重量平均分子量48万、結合スチレン量40%、ブタジエン単位中のビニル結合量15%の乳化重合スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(以下、「ESBR」という。)を得た。
このESBR100部を1cm以下に裁断し、30℃において、毎分100回転の攪拌下にシクロヘキサン900部に溶解させ濃度10%の基材重合体溶液(Q1)を得た。
また、シクロヘキサンに代えてアセトンを用いて、同様の操作を行い、濃度10%の基材重合体溶液(Qc1)を得た。
【0072】
[参考例3]
(分岐を有する溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体ゴムの製造)
リチウム触媒を用いてスチレン及びブタジエンをシクロヘキサン/n−ヘキサン混合溶媒中で溶液重合して、結合スチレン量35%、ブタジエン単位中のビニル結合量40%の活性末端を有する直鎖状スチレン−ブタジエン共重合体ゴムを製造し、次いでこれをテトラメトキシシラン(TMOS)でカップリングさせて、ポリスチレン換算重量平均分子量110万の分岐ポリマーを生成させた。この分岐を有する溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(以下、「TMOSカップリングSSBR」という。)100部をシクロヘキサン/n−ヘキサン(9/1)混合溶媒400部に溶解して濃度20%の基材重合体溶液(Q2)を得た。
【0073】
[参考例4]
(櫛型スチレン−ブタジエン共重合体ゴムの製造)
リチウム触媒を用いてスチレン及びブタジエンをシクロヘキサン/n−ヘキサン混合溶媒中で溶液重合して、結合スチレン量35%、ブタジエン単位中のビニル結合量40%の活性末端を有する直鎖状スチレン−ブタジエン共重合体ゴムを製造し、次いで、これにエポキシ基含有ポリシロキサン(重量平均分子量70,000、ジメチルシロキサン単位:メチルグリシドキシプロピルシロキサン単位比率=2:1)の20%キシレン溶液を共重合体ゴムの活性末端1モルあたりエポキシ基量が1モルとなるように添加して、ポリスチレン換算重量平均分子量60万の櫛型スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(以下、「櫛型SSBR」という。)を得た。
この櫛型SSBRをシクロヘキサン/n−ヘキサン(9/1)混合溶媒400部に溶解して濃度20%の基材重合体溶液(Q3)を得た。
【0074】
[実施例1A]
(アルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子の製造)
参考例1で得た重合体(P1)の粉末5部を100部のトルエン(SP値18.2)中に溶解させた後、シクロへキサン(SP値16.8)400部を加えて均一な溶液を得た。30℃において、攪拌機を用いてこの溶液を毎分100回転で攪拌しながら、80部の湿式法シリカ(ローディア社製、窒素吸着比表面積(BET)165m/gの含水珪酸、商品名Z1165MP)を10分間掛けて徐々に添加して更に10分間混合を続け、アルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子の溶液(A1)を得た(表1上欄)。
【0075】
[実施例1B]
(重合体被覆シリカ粒子を用いた重合体組成物の製造)
実施例1Aで得た重合体被覆シリカ粒子85部を含有する溶液(A1)に、30℃で毎分100回転の攪拌下、ESBR100部を含有する基材重合体溶液(Q1)を10分間掛けて徐々に添加した。添加終了後、更に10分間攪拌を継続して、混合液を均一化して、重合体組成物溶液(BS1)を得た(表1中欄)。
得られた重合体組成物溶液(BS1)中に老化防止剤として2−メチル−4,6−ビス[(オクチルチオ)メチル]フェノールを0.1部添加した後、スチームストリッピング法により溶媒を除去して、固形の重合体組成物(B1)を得た。得られた重合体組成物は柔らかいゴム状であった(表1下欄)。
凝固水(スチームストリッピング後にクラムを分離した後の水相をいう。)の白濁はなく、重合体組成物(B1)を熱重量分析計(TGA)で分析したところ、含有シリカ量は80部であった。これは使用したシリカの全量が重合体組成物中に取り込まれた(取り込み比率=100%)ことを示している。また、重合体組成物(B1)中の有機酸量を測定したが、有機酸分は検出されなかった(表1下欄)。
【0076】
[実施例1C]
(重合体組成物の物性評価)
実施例1A及び実施例1Bと同様にして、重合体組成物185部を含有する重合体組成物溶液(BS1)を得た。これにアロマチックオイル40部、亜鉛華2.5部及び老化防止剤6C(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)2部及びワックス系老化防止剤(大内新興化学工業社製、サンノック)2部を添加して均一化し、スチームストリッピングにより脱溶媒、乾燥して組成物231.5部を得た。
得られた組成物にシランカップリング剤(ビス−(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、デグサ社製、Si75)を5部含浸させ、250ccのバンバリーミキサーを用いて120℃で、毎分70回転で混合した。2分後、ステアリン酸1.5部を添加して更に1分混合した。得られた組成物に硫黄2部、加硫促進剤DPG(1,3−ジフェニルグアニジン)1.8部及び同CBS(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)1.5部を50℃のロールにて添加して加硫性ゴム組成物(C1)を得た。
得られた加硫性ゴム組成物(C1)について、物性評価を行った。結果を表2に示す。なお、表中、加硫性ゴム組成物の各特性は、比較例2Cの数値を100として、指数化して示してある。
【0077】
【表1】

【0078】
表1の脚注
*1:エチレンオキシド−プロピレンオキシド−アリルグリシジルエーテル共重合体
*2:エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体
*3:テトラメトキシシラン
*4:ポリエチレングリコール(重量平均分子量4,000)
*5:SP値=18.2MPa1/2
*6:SP値=16.8MPa1/2
*7:SP値=47.9MPa1/2
*8:SP値=14.9MPa1/2
*9:SP値=20.3MPa1/2
【0079】
【表2】

【0080】
[実施例2A]
アルキレンエーテル構造含有重合体(P1)5部に代えて、アルキレンエーテル構造含有重合体(P1)4部とテトラメトキシシラン(TMOS)1部とを使用するほかは実施例1Aと同様にして、アルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子の溶液(A2)を得た。
【0081】
[実施例2B]
アルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子の溶液(A1)に代えて溶液(A2)を用いるほかは実施例1Bと同様にして、重合体組成物溶液(BS2)を得、更にこれから固形重合体組成物(B2)を得た。得られた重合体組成物(B2)は柔らかいゴム状であった。
また、凝固水の白濁はなく、重合体組成物(B2)をTGAで分析したところ、含有シリカ量は80部であった。これは使用したシリカの全量が重合体組成物中に取り込まれた(取り込み比率=100%)ことを示している。また、重合体組成物(B1)中の有機酸量を測定したが、有機酸分は検出されなかった。
【0082】
[実施例2C]
重合体組成物溶液(BS1)に代えて重合体組成物溶液(BS2)を用いるほかは、実施例1Cと同様にして、加硫性ゴム組成物(C2)を得た。加硫性ゴム組成物(C2)について、物性評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0083】
[実施例3A、3B、3C]
アルキレンエーテル構造含有重合体(P1)に代えて、アルキレンエーテル構造含有重合体(P2)を使用するほかは、実施例1Aと同様にしてアルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子の溶液(A3)を得た。
次いで、アルキレンエーテル構造含有重合体含有重合体被覆シリカ粒子の溶液(A1)に代えてアルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子の溶液(A3)を用いるほかは実施例1Bと同様に操作して、重合体組成物溶液(BS3)を得、更にこれから固形の重合体組成物(B3)を得た。得られた重合体組成物(B3)は柔らかいゴム状であった。
また、凝固水の白濁はなく、重合体組成物(B3)をTGAで分析したところ、含有シリカ量は80部であった。これは使用したシリカの全量が重合体組成物中に取り込まれた(取り込み比率=100%)ことを示している。また、重合体組成物(B3)中の有機酸量を測定したところ、有機酸分が0.2%検出された。
次いで、重合体組成物溶液(BS1)に代えて重合体組成物溶液(BS3)を用いるほかは、実施例1Cと同様にして、加硫性ゴム組成物(C3)を得た。加硫性ゴム組成物(C3)について、物性評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0084】
[実施例4A、4B、4C]
基材重合体溶液(Q1)に代えて基材重合体溶液(Q2)を使用するほかは実施例1Bと同様の操作を行って(但し、混合温度を70℃、回転数を毎分300回転とした。)重合体組成物溶液(BS4)を得、これから固形の重合体組成物(B4)を得た。得られた重合体組成物は柔らかいゴム状であった。
また、凝固水の白濁はなく、重合体組成物(B4)をTGAで分析したところ、含有シリカ量は80部であった。これは使用したシリカの全量が重合体組成物中に取り込まれた(取り込み比率=100%)ことを示している。また、重合体組成物(B4)中の有機酸量を測定したが、有機酸分は検出されなかった。
次いで、重合体組成物溶液(BS1)に代えて重合体組成物溶液(BS4)を用いるほかは、実施例1Cと同様にして、加硫性ゴム組成物(C4)を得た。加硫性ゴム組成物(C4)について、物性評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0085】
[実施例5]
基材重合体溶液(Q1)に代えて参考例4で得た基材重合体溶液(Q3)を使用するほかは実施例2Bと同様の操作を行って(但し、混合温度を70℃、回転数を毎分300回転とした。)重合体組成物溶液(BS5)を得、これから重合体組成物(B5)を得た。得られた重合体組成物は柔らかいゴム状であった。
凝固水の白濁はなく、重合体組成物(B5)をTGAで分析したところ、含有シリカ量は80部であった。これは使用したシリカの全量が重合体組成物中に取り込まれた(取り込み比率=100%)ことを示している。また、重合体組成物(B5)中の有機酸量を測定したが、有機酸分は検出されなかった。
重合体組成物溶液(BS1)に代えて重合体組成物溶液(BS5)を用いるほかは、実施例1Cと同様にして、加硫性ゴム組成物(C5)を得た。加硫性ゴム組成物(C5)について、物性評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0086】
[比較例1A、1B、1C]
アルキレンエーテル構造含有重合体(P1)のトルエン/シクロヘキサン溶液に代えてシクロヘキサン500部を用いるほかは、実施例1Aと同様の操作により、シリカをシクロヘキサンに分散させてシリカ分散液(Ac1)を得た。次いで、重合体被覆シリカ粒子の溶液(A1)に代えてシリカ分散液(Ac1)を用いるほかは、実施例1Bと同様にして、シリカ分散液(Ac1)と基材重合体溶液(Q1)とを混合したが、混合液(BSc1)は均一とならず、懸濁状態であった。更にこれからスチームストリッピング法により溶媒を除去して固形の重合体組成物(Bc1)を得た。得られた重合体組成物(Bc1)はゴム状であった。
凝固水は白く濁った状態であり、多量にシリカが検出された。重合体組成物(Bc1)をTGAで分析したところ、含有シリカ量は75部であった。即ち、取り込み比率は94%であり、残りの6%は、スチームストリッピング法によるポリマー凝固過程で水相に流出したものと考えられる。また、重合体組成物(B5)中の有機酸量を測定したところ、1.0%の有機酸分が検出された。
重合体組成物溶液(BS1)に代えて重合体組成物溶液(BSc1)を用いるほかは、実施例1Cと同様にして、加硫性ゴム組成物(Cc1)を得た。加硫性ゴム組成物(Cc1)について、物性評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0087】
[比較例2A、2B、2C]
アルキレンエーテル構造含有重合体(P1)5部を重量平均分子量4,000のポリエチレングリコール(国産化学社製、商品名「PEG4000」)3部に変更した以外は、実施例1Aと同様にして、ポリエチレングリコール被覆シリカ粒子の溶液(Ac2)を得た。
アルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子の溶液(A1)に代えてポリエチレングリコール被覆シリカ粒子の溶液(Ac2)を用いるほかは実施例1Bと同様にして、重合体組成物溶液(BSc2)を得、更にこれから固形の重合体組成物(Bc2)を得た。得られた重合体組成物(Bc2)は柔らかいゴム状であった。
また、凝固水には白濁があり、重合体組成物(Bc2)をTGAで分析したところ、含有シリカ量は77.5部であった。これは使用したシリカのうち、重合体組成物中に取り込まれたシリカの比率(取り込み比率)が97%であることを示している。従って、3%が重合体凝固過程で水相に流出したものと考えられる。また、重合体組成物(Bc2)中の有機酸量を測定したところ、0.8%の有機酸分が検出された。
次いで、重合体組成物溶液(BSc2)を用いて、実施例1Cと同様にして、加硫性ゴム組成物(Cc2)を得た。加硫性ゴム組成物(Cc2)について、物性評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0088】
[比較例3A、3B、3C]
アルキレンエーテル構造含有重合体(P1)のトルエン/シクロヘキサン溶液(A1)に代えて、アルコキシシランであるテトラメトキシシラン(TMOS)3部を溶解させたシクロヘキサン500部を用いるほかは、実施例1Aと同様にして、テトラメトシキシラン被覆シリカ粒子の溶液(Ac3)を得た。重合体被覆シリカ粒子の溶液(A1)に代えてテトラメトシキシラン被覆シリカ粒子の溶液(Ac3)を用いるほかは、実施例1Bと同様にして、重合体組成物溶液(BSc3)を得、更にこれから固形の重合体組成物(Bc3)を得た。得られた重合体組成物(Bc3)は、熱プレスしても、纏まらず粉末状であった。
なお、凝固水には、濁りが見られなかった。重合体組成物(Bc3)をTGAで分析したところ、残存物の重量が82部であり、使用したシリカの重量に対して3%重量が増加していた。これは、TMOSが凝固中に反応してシリカが形成されたための重量増加と考えられる。なお、重合体組成物(Bc3)中の有機酸量を測定したが、有機酸分は検出されなかった。
重合体組成物溶液(BSc3)を用いて、実施例1Cと同様にして、加硫性ゴム組成物(Cc3)を得た。加硫性ゴム組成物(Cc3)について、物性評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0089】
[比較例4A、4B]
アルキレンエーテル構造含有重合体(P1)をトルエン/シクロヘキサン溶液とする代わりに、水500部を用いて水膨潤液とした。実施例1Aと同様にして、この水膨潤液にシリカを添加したが、得られた混合液(Ac4)は均一とはならず、懸濁状態であった。なお、水のSP値は、47.9MPa1/2である。
次に、実施例1Bにおける、アルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子の溶液(A1)に代えて混合液(Ac4)に基材重合体溶液(Q1)を10分間掛けて徐々に添加したところ、底部に沈殿が生じ、完全に分離したため、操作を中止した。沈殿を分析したところESBRであった(表1)。
【0090】
[実施例6](比較例5Bに用いるアルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子の製造)
アルキレンエーテル構造含有重合体(P1)をトルエン/シクロヘキサン溶液とする代わりに、トルエン溶液とするほかは、実施例1Aと同様にしてアルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子のトルエン溶液(A6)を得た(表1上欄)。なお、トルエンのSP値は、18.2MPa1/2である。
【0091】
[比較例5B]
ESBRのシクロヘキサン溶液(Q1)に代えて、アセトン溶液(Qc1)(なお、アセトンのSP値は20.3MPa1/2である。)を使用するほかは、実施例1Bと同様の操作を行って重合体組成物溶液を得ようとしたが、投入したESBR片は膨潤しているものの、溶解している様子ではなかった。更に、この状態の混合液(BSc5)に、実施例1Cと同様にして、アルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子のトルエン溶液(A6)を添加した。ESBR片は更に膨潤したが、溶解状態ではなかった。この混合溶液について実施例1Cと同様にスチームストリッピング法を行って脱溶媒した。得られたクラムは、表面にシリカが付着した状態であり、シリカがESBR中に全く取り込まれていない様子であったので以後の評価は行わなかった。
また、凝固水は白濁しており、シリカが沈降していた(表1中下欄)。
【0092】
表1の結果から、本発明で規定する範囲を外れるSP値を有する溶媒をアルキレンエーテル構造含有重合体の溶媒として(比較例4A)又は基材重合体の溶媒として(比較例5B)用いると、所望の重合体組成物を得ることができないことが分かる。
また、表1及び表2の結果から、アルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子に代えて、無処理のシリカ粒子を使用した場合(比較例1A、1B)は、シリカの一部が系外に流失した重合体組成物となり、これから得られる加硫性ゴム組成物(比較例1C)は、ムーニー粘度が高く、引張強度、伸び及びシリカの分散性のいずれにも劣り、耐摩耗性は著しく劣ることが分かる。
【0093】
また、アルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子に代えて、分子量の低いポリエチレングリコール被覆シリカ粒子を使用した場合(比較例2A、2B、2C)は、重合体組成物を得る過程でシリカの一部が系外に流失し、最終的に得られる加硫性ゴム組成物は、ムーニー粘度は良好なものの、引張強度、伸び及びシリカの分散性のいずれにも劣り、耐摩耗性も低いことが分かる。
アルキレンエーテル構造含有重合体被覆シリカ粒子に代えて、テトラメトシキシラン処理シリカ粒子を使用した場合(比較例3A、3B、3C)は、シリカの損失は見られなかったものの、粉末状の重合体組成物となり、最終的に得られる加硫性ゴム組成物において、シリカの分散性及び耐摩耗性は良好であるものの、ムーニー粘度が著しく高く、引張強度及び伸びのいずれにも劣ることが分かる。
【0094】
これに対して、本発明のアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子(シリカ粒子)を用いるとゴム状の重合体組成物が得られ、これから得られる加硫性ゴム組成物は、ムーニー粘度、引張強度、伸び、シリカの分散性及び耐摩耗性のいずれにも優れていることが分かる。
また、シリカ粒子の被覆に際し、テトラメトキシシランのような珪素化合物を少量併用すると、より優れた特性が得られることが分かる(実施例1Cと2Cとの対比)。
TMOSカップリングSSBRを使用すると、強度、シリカの分散性及び摩耗特性が特に優れた加硫性ゴム組成物が得られることが分かる(実施例4C)。
また、櫛型SSBRを使用すると、各特性のバランスが特に優れた加硫性ゴム組成物が得られることが分かる(実施例5C)。
【0095】
このように、本発明によれば、補強性粒子の分散性に優れた重合体組成物を得ることができる。また、本発明によれば、この重合体組成物を得るために適した補強性粒子を得ることができる。更に本発明によれば、ムーニー粘度の上昇を抑制しながら、機械的強度及び耐摩耗性に優れた加硫性ゴム組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にシラノール基を有する補強性粒子100重量部を、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒中で、重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体0.3〜200重量部で被覆してなるアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子。
【請求項2】
表面にシラノール基を有する補強性粒子100重量部を、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒中で、重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体0.3〜200重量部及び下記一般式(I)[式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基である。]で表される構造を有する珪素化合物0.03〜100重量部で被覆してなるアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子。
≡Si−OR(I)
【請求項3】
16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒の溶液の形態を有する請求項1又は2に記載のアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子。
【請求項4】
表面にシラノール基を有する補強性粒子100重量部を、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒中で、重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体0.3〜200重量部と混合することを特徴とするアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子の製造方法。
【請求項5】
表面にシラノール基を有する補強性粒子100重量部を、16.0〜20.0MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒中で、重量平均分子量が5,000以上のアルキレンエーテル構造含有重合体0.3〜200重量部及び下記一般式(I)[式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基である。]で表される構造を有する珪素化合物0.03〜100重量部と混合することを特徴とするアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子の製造方法。
≡Si−OR(I)
【請求項6】
基材重合体100重量部と請求項1又は2に記載のアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子5〜200重量部とを含有してなる重合体組成物。
【請求項7】
基材重合体が、周期律表第15族又は第16族の原子を有する極性の官能基を有する重合体である請求項6に記載の重合体組成物。
【請求項8】
基材重合体がゴム状重合体である請求項6又は7に記載の重合体組成物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子を基材重合体に配合する請求項6に記載の重合体組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項3に記載の有機溶媒の溶液の形態を有するアルキレンエーテル構造含有重合体被覆補強性粒子と、基材重合体を10.0〜18.8MPa1/2の溶解度パラメーターを有する有機溶媒に溶解してなる溶液と、を混合することからなる請求項6に記載の重合体組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の重合体組成物及び加硫剤を含有してなる加硫性ゴム組成物。
【請求項12】
タイヤ用である請求項11に記載の加硫性ゴム組成物。

【公開番号】特開2006−96906(P2006−96906A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286153(P2004−286153)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】