説明

補強材巻き付け装置

【課題】鋼管曲部に対する補強を行う補強材巻き付け装置に関し、その装置構成の簡素化を図る。
【解決手段】
鋼管Xの屈曲部の周囲に配置された複数の案内軸13と、鋼管が筒内に配置されるとともに、案内軸によって屈曲部の軸線方向に案内される筒状基部32と、鋼管曲部の周方向に回転可能な状態で筒状基部に取り付けられ、帯状補強材が巻き付けられるリング状の補強材保持部33と、鋼管曲部の外周面よりも外側を周回移動可能な状態で筒状基部に取り付けられ、補強材保持部から繰り出された帯状補強材Yを、鋼管の外周面に向けて案内するガイドローラ34と、筒状基部を鋼管の軸線方向に移動させる第1駆動機構と、ガイドローラの移動に伴って補強材保持部が回転されるように、ガイドローラの周回動作と前記補強材保持部の回転動作を制御する第2駆動機構を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強対象となる鋼管曲部の外周面に、帯状補強材を螺旋状に巻き付ける補強材巻き付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管の外周面に補強材を巻き付けて補強する技術が知られている。例えば、特許文献1には、強化繊維を接着剤に浸した後、構造材の表面に巻き付ける技術が記載されている。特許文献2には、鋼材からなる柱材の外周部分に、強化用繊維シートを2周回以上、柱材の長さ方向に巻き付ける技術が記載されている。特許文献3には、金属管の回りに乾燥繊維の層を配置し、この乾燥繊維の層を外部ライナーで覆う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−268775号公報
【特許文献2】特開2006−70668号公報
【特許文献3】特表2010−502911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の技術は何れも、強化繊維や乾燥繊維といった補強材を鋼管の外周面に巻き付けるものである。この補強材の巻き付けは、補強対象となる鋼管を軸回りに回すことで行われる(特許文献1,3)。鋼管を軸回りに回す方法は、人が持ち運べる程度の大きさの鋼管であれば好適に用いられるが、動力用蒸気配管といった大型の鋼管については装置が大掛かりになってしまうので用いることが困難である。特に、ほぼ90度に屈曲したエルボー部や円弧状に湾曲した湾曲部について補強材を巻き付けようとすると、装置構成が一層大掛かりになってしまう。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、鋼管曲部に対する補強を行う補強材巻き付け装置に関し、その装置構成の簡素化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の目的を達成するため、本発明は、補強対象となる鋼管曲部の外周面に、帯状補強材を螺旋状に巻き付ける補強材巻き付け装置であって、前記鋼管曲部の周囲に配置された複数の案内軸と、前記鋼管が筒内に配置されるとともに、前記案内軸によって前記鋼管曲部の軸線方向に案内される筒状基部と、前記鋼管曲部の周方向に回転可能な状態で前記筒状基部に取り付けられ、前記帯状補強材が巻き付けられるリング状の補強材保持部と、前記鋼管曲部の外周面よりも外側を周回移動可能な状態で前記筒状基部に取り付けられ、前記補強材保持部から繰り出された前記帯状補強材を、前記鋼管曲部の外周面に向けて案内するガイドローラと、前記筒状基部を前記鋼管曲部の軸線方向に移動させる第1駆動機構と、前記ガイドローラの周回方向への移動に伴って前記補強材保持部が回転されるように、前記ガイドローラの周回動作と前記補強材保持部の回転動作を制御する第2駆動機構と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、帯状補強材が巻き付けられる補強材保持部と、補強材保持部から繰り出された帯状補強材を鋼管曲部の外周面に向けて案内するガイドローラとを筒状基部に設け、第1駆動機構によって筒状基部を鋼管曲部の軸線方向に移動させるとともに、第2駆動機構によってガイドローラを鋼管曲部に対して周回させているので、補強材保持部から繰り出された帯状補強材を鋼管曲部の外周面に螺旋状に巻き付けることができる。このため、簡単な装置構成で鋼管の補強を行うことができる。
【0008】
前述の補強材巻き付け装置において、前記第1駆動機構は、前記筒状基部における、前記鋼管曲部の外側に位置する部分の移動速度が、前記鋼管曲部の内側に位置する部分の移動速度よりも高くなるように、前記筒状基部を移動させることが好ましい。このように構成すると、帯状補強材における鋼管曲部の外側位置での巻き付けピッチを、内側位置での巻き付けピッチよりも広げることができ、帯状補強材の巻き付けを適正に行うことができる。
【0009】
前述の補強材巻き付け装置において、前記第2駆動機構は、前記ガイドローラを第1速度で移動させるように駆動力を付与する第1回転モータと、前記補強材保持部が前記第1速度よりも低い速度で、前記ガイドローラの移動方向へ回転されるように駆動力を付与する第2回転モータとを有することが好ましい。このように構成すると、第1回転モータが付与する駆動力と第2回転モータが付与する駆動力の差によって、帯状補強材に対して張力を付与することができる。これにより、帯状補強材を密に巻き付けることができる。
【0010】
前述の補強材巻き付け装置において、前記ガイドローラは、前記補強材保持部の径方向外側に配置される第1ガイドローラと、前記第1ガイドローラよりも、前記帯状補強材の巻き付け位置側に配置される第2ガイドローラとを有することが好ましい。このように構成すると、補強材保持部から繰り出された帯状補強材を鋼管の外周面へと円滑に案内することができる。
【0011】
前述の補強材巻き付け装置において、前記補強材保持部には、前記鋼管への巻き付け方向とは反対方向に、前記帯状補強材が巻き付けられ、前記補強材保持部から繰り出された前記帯状補強材を、前記第1ガイドローラで折り返した後に前記第2ガイドローラで折り返して、前記鋼管の外周面に巻き付けることが好ましい。このように構成すると、補強材保持部から繰り出された帯状補強材に対し、各ガイドローラによって適切な張力を付与することができ、帯状補強材を密に巻き付けることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋼管曲部に対する補強を行う補強材巻き付け装置に関し、その装置構成の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】補強材巻き付け装置の斜視図である。
【図2】補強材巻き付け装置の平面図である。
【図3】補強材巻き付け装置の断面図である。
【図4】補強材保持部及びガイドローラを示す図である。
【図5】帯状補強材を補強材保持部に巻き付けている状態を示す図である。
【図6】帯状補強材を鋼管に巻き付けはじめた状態を示す図である。
【図7】帯状補強材を重ねて巻き付けている様子を示す図である。
【図8】ガイドローラを周回させている状態を示す図である。
【図9】帯状補強材を屈曲部分に巻き付けている様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態では、蒸気タービンにおける動力用蒸気用の配管など、高温高圧(例えば600℃以上、5MPa以上)に曝される鋼管を補強する場合について説明する。この鋼管は、9クロム鋼や12クロム鋼といった高クロム鋼(一般的なものよりもクロム含有率が高められたクロムモリブデン鋼)によって作製され、直径は600mm〜1000mmであり、板厚は30mm〜50mmである。また、本実施形態では、ほぼ直角に屈曲したエルボー部の補強を行う場合を例に挙げて説明する。
【0015】
図1〜図3に示すように、補強材巻き付け装置1(以下巻き付け装置1という)は、フレーム部2と可動部3とを有している。
【0016】
フレーム部2は、可動部3を移動可能な状態で支持する部分である。このフレーム部2は、第1止着フレーム11と、第2止着フレーム12と、4本の案内軸13とを有している。ここで、第1止着フレーム11は、補強対象の鋼管Xにおける或る位置に固定される第1固定部材に相当し、第2止着フレーム12は、この鋼管Xにおける別の位置に固定される第2固定部材に相当する。図1〜図3に示すように、第1止着フレーム11及び第2止着フレーム12は、それぞれベース板14,17と、ねじ取り付け片15,18と、止着ねじ16,19とを有している。
【0017】
図1及び図2に示すように、ベース板14,17は、鋼管Xを通すための空部が開設された略円形のリング状部14a,17aと、このリング状部14a,17aから90度間隔でリングの径方向外側に突出された4つの支持片部14b,17bとを有しており、厚さが10mm程度の鋼板によって作製されている。これらのベース板14,17は、2分割(半割り)されており、フランジ部14c,17cをねじ止めすることで一体化されている。これにより、既設の鋼管Xに対しても取り付け可能としている。各支持片部14b,17bは、リング状部14a,17aと一体に設けられている。そして、各支持片部14b,17bにおけるリング状部14a,17a側の部分は、リング状部14a,17aに近付く程に末広がりな形状とされ、必要な剛性が確保されている。
【0018】
また、各支持片部14b,17bにおける先端側の部分は矩形状に設けられており、案内軸13の端部を貫通させるための軸孔(図示せず)が開設されている。各案内軸13は、一対のナット20で挟まれることにより、対応する支持片部14b,17bに固定されている。
【0019】
4本の案内軸14は、可動部3を案内するためのガイド部材であり、本実施形態ではラックによって構成されており(図では歯の部分を省略している)、ギアボックス36内のピニオンギア(図示せず)が噛み合わされている。これらの案内軸13のうち、鋼管Xの屈曲方向内側に配置される2本の案内軸13(便宜上、内側案内軸13aという)と、屈曲方向外側に配置される2本の案内軸13(便宜上、外側案内軸13bという)は、それぞれエルボーの形状にあわせて曲げられている。ここで、内側案内軸13aと外側案内軸13bの曲率はそれぞれ異なっている。すなわち、外側案内軸13bは、内側案内軸13aよりも大きな曲率となるように曲げられている。
【0020】
そして、第1止着フレーム11は4本の案内軸13の一端側に取り付けられ、第2止着フレーム12は他端側に取り付けられている。これにより、鋼管Xにおける補強対象範囲が第1止着フレーム11と第2止着フレーム12の間に位置付けられる。また、第2止着フレーム12は、第1止着フレーム11に対して、面方向にほぼ直交する向きに取り付けられる。
【0021】
図1及び図2に示すように、ねじ取り付け片15,18は、止着ねじ16,19が取り付けられる矩形状板片であり、リング状部14a,17aの表面から垂直方向に取り付けられている。このねじ取り付け片15,18には、雌ねじが板厚方向を貫通する状態に設けられている。止着ねじ16,19は、この雌ねじに嵌め合わされることで、ねじ軸の突出量が調整される。すなわち、止着ねじ16,19を締め込み方向に回転させるほどに、ねじ軸のねじ取り付け片15,18からの突出量が増え、反対方向に回転させるほどにねじ軸の突出量が少なくなる。
【0022】
このねじ取り付け片15,18もまた90度間隔で4つ設けられており、何れの取り付け片15,18も、止着ねじ16,19のねじ軸が鋼管Xの軸心側を向くように角度が定められている。そして、各止着ねじ16,19が有するねじ軸は、リング状部14a,17aに位置付けられた鋼管Xまで十分に届く長さに定められている。このため、各止着ねじ16,19を締め込むことにより、補強対象の鋼管Xをリング状部14a,17aの内側空間に配置した状態で、各止着フレーム11,12を鋼管Xに固定することができる。また、各取り付け片15,18からのねじ軸の突出量を調整することで、リング状部14a,17aに対する鋼管Xの位置を調整することもできる。
【0023】
次に、可動部3について説明する。図1に示すように、可動部3は、第1止着フレーム11(第1固定部材)と第2止着フレーム12(第2固定部材)との間を案内軸13に沿って移動され、帯状補強材Yを鋼管Xの表面に巻き付ける部分である。可動部3は、ベースフレーム31と、筒状基部32と、補強材保持部33と、ガイドローラ34と、ガイドローラ支持部35とを有する。この可動部3もまた、既設の鋼管Xにも取り付け可能なように、分割(半割り)可能な構成とされている。
【0024】
ベースフレーム31は、各案内軸13に軸支される板状部材である。本実施形態のベースフレーム31は、前述した各止着フレーム11,12と同様に、鋼管Xを通すための空部が開設された略円形のリング状部31aと、このリング状部31aから90度間隔でリングの径方向外側に突出された4つの支持片部31bとを有しており、厚さが10mm程度の鋼板によって作製されている。
【0025】
ベースフレーム31もまた、ベース部14,17と同様に2分割されており、フランジ部31cをねじ止めすることで一体化されている。各支持片部31bには、対応する案内軸13が挿通されるギアボックス36が取り付けられている。このギアボックス36には、案内軸14に設けられた歯に噛み合うピニオンギア、及び、ピニオンギアを回転させる走行用モータが配置されている(何れも図示せず)。従って、ギアボックス36の走行用モータを動力源として、対応する支持片部31bが案内軸13の軸線方向に移動される。
【0026】
各支持片部31bの移動を適切に調整することで、ベースフレーム31を案内軸13に沿って移動させることができる。例えば、案内軸13における屈曲部分においては、外側案内軸13bに対応する支持片部31bの移動速度を、内側案内軸13aに対応する支持片部31bの移動速度よりも高くする。また、案内軸13の直線部分においては、各支持片部31bの移動速度を揃える。これにより、ベースフレーム31を案内軸13に沿って移動させることができる。
【0027】
ここで、筒状基部32は、ベースフレーム31に取り付けられており、補強材保持部33及びガイドローラ支持部35は、筒状基部32に取り付けられている。そして、ガイドローラ34は、ガイドローラ支持部35によって支持されている。このように可動部3を構成する各部がベースフレーム31を介して各案内軸13に取り付けられているため、4つのギアボックス36のそれぞれが有する走行用モータの回転を適切に制御することで、可動部3を鋼管Xの軸線方向に移動させることができる。従って、ギアボックス36(走行用モータ,ピニオンギア)と案内軸(ラック)の組は、可動部3(筒状基部32)を鋼管曲部の軸線方向に移動させる第1駆動機構に相当する。
【0028】
筒状基部32は、補強対象の鋼管Xを内側空間に挿通させる部材であり、かつ、補強材保持部33やガイドローラ支持部35を取り付けるための部材でもある。本実施形態の筒状基部32は、図1及び図4に示すように、内径が、鋼管Xの外径よりも一回り大きく定められた(ベースフレーム31の開口径に揃えられた)鋼製の円筒部材によって作製されている。そして、筒状基部32の基端は、ベースフレーム31に対し、溶接によって一体的に接合されている。その際、ベースフレーム31の開口縁と筒状基部32の内表面の位置が揃うように、位置があわせられている。なお、ベースフレーム31が2分割されている関係で、筒状基部32も2分割されている。そして、分割された筒状基部32は、ねじ止め等によって一体化するように構成されている。
【0029】
補強材保持部33は、帯状補強材Yを巻き取って保持する部分であり、鋼製の筒状部材で作製されている。図2及び図3に示すように、補強材保持部33は、リング状回転体33aと、一対のガイドリブ33bとを有している。なお、補強材保持部33も分割されており、筒状基部32の外周側に被せられた後に、ねじ止め等によって一体化される。
【0030】
リング状回転体33aは、筒状基部32に回転可能な状態で被せられるリング状(円筒状)部材であり、内径が筒状基部32の外径と同じか若干大きく定められている。このリング状回転体33aは、帯状補強材Yを巻き付けるための部材として用いられるとともに、ガイドローラ支持部35が取り付けられるための部材としても用いられている。本実施形態では、軸線方向の先端側(ベースフレーム31とは反対側)の位置に帯状補強材Yが巻き付けられる。また、中間位置にガイドローラ支持部35が取り付けられる。
【0031】
ガイドリブ33bは、リング状回転体33aの先端側において、半径方向外側に向けて立設された部材である。このガイドリブ33bは、帯状補強材Yをリング状回転体33aに巻き付ける際のガイドとして用いられる。このため、一方のガイドリブ33bと他方のガイドリブ33bは、鋼管Xの軸線方向に、帯状補強材Yの幅の分だけ間隔を空けて設けられている。なお、本実施形態の帯状補強材Yは、例えば厚さが0.2mm程度、幅が30mm〜50mm程度、長さが数m〜数10mとされたステンレス製の薄板である。
【0032】
ガイドローラ支持部35は、ガイドローラ34を回転可能な状態で保持する部分であり、図2に示すように、リング状基部35aと、L型ステー35bと、一対の側板35cとを有している。リング状基部35aは、リング状回転体33aに取り付けられる部分であり、内径がリング状回転体33aの外径と同じか若干大きく定められている。このリング状基部35aも分割されており、リング状回転体33aの外周側に被せられた後に、ねじ止め等によって一体化される。リング状回転体33aに取り付けられることで、リング状基部35aは、リング状回転体33aに対して回転可能な状態になる。L型ステー35bは、一端がリング状基部35aに接合され、他端が一方の側板35cに取り付けられている。このL型ステー35bによって、ガイドローラ34の位置を定めることができる。両側板35cは、ガイドローラ34を取り付けるための部材であり、ガイドローラ34用の回転軸によって連結されている。
【0033】
ガイドローラ34は、補強材保持部33から繰り出された帯状補強材Yを、鋼管Xの外周面に向けて案内する部材である。図1〜図4に示すように、本実施形態では一対のガイドローラ34a,34bを用いている。そして、図2に示すように、一方のガイドローラ34a(第1ガイドローラ34a)をガイドリブ33bの径方向外側の位置に配置し、他方のガイドローラ34b(第2ガイドローラ34b)を、第1ガイドローラ34aよりも、帯状補強材Yを巻き付ける位置の方へ(ベースフレーム31とは反対側へ)、位置をずらして配置している。
【0034】
これにより、ガイドローラ支持部35が回転すると、第1ガイドローラ34aはガイドリブ33bの回りを周方向へ移動することとなり、第2ガイドローラ34bは、鋼管Xの回りを周方向へ移動することとなる。その結果、補強材保持部33から繰り出された帯状補強材Yを鋼管Xの外周面へと円滑に案内することができる。
【0035】
図3に示すように、補強材保持部33は、張力調整用モータ及び駆動ギアの組37によって回転駆動され、ガイドローラ支持部35及びガイドローラ34は、繰り出し用モータ及び駆動ギアの組38によって回転駆動される。このとき、繰り出し用モータ(第1回転モータ)は、ガイドローラ34を或る速度(第1速度)で移動させるように駆動力を付与する。また、張力調整用モータ(第2回転モータ)は、補強材保持部33が第1速度よりも遅い速度(第2速度)で、ガイドローラ34の移動方向へ回転されるように駆動力を付与する。
【0036】
このように、補強材保持部33の回転速度がガイドローラ34の移動速度よりも低くなるように各モータの駆動力に差を付けると、ガイドローラ34の移動に伴って補強材保持部33が回転されて帯状補強材Yが繰り出される。このとき、帯状補強材Yがガイドローラ34で引っ張られるため、繰り出された帯状補強材Yに張力を付与することができる。その結果、帯状補強材Yを鋼管Xに対して密に巻き付けることができる。このような動作をする張力調整用モータ及び駆動ギアの組37と、繰り出し用モータ及び駆動ギアの組38は、ガイドローラ34の周回動作と補強材保持部33の回転動作を制御する第2駆動機構に相当する。
【0037】
次に、この巻き付け装置1を用いた鋼管Xの補強作業について説明する。この補強作業では、巻き付け装置1を補強対象の鋼管Xに固定する。例えば、補強対象となる既設の鋼管Xの周囲に、分割状態の第1止着フレーム11、第2止着フレーム12、及び可動部3を配置し、ねじ止めによってこれらを一体化することにより、既設の鋼管Xを筒状基部32の内側空間に位置付ける。その後、止着ねじ16,19を締め込むことにより、巻き付け装置1を鋼管Xに固定する。
【0038】
巻き付け装置1を固定したならば、図5に示すように、帯状補強材Yを補強材保持部33に巻き付ける。例えば、芯材に巻回された帯状補強材Yを別途用意し、この帯状補強材Yの端部を補強材保持部33(一対のガイドリブ33bで区画されたリング状回転体33aの表面)に固定した状態で、張力調整用モータを動作させる。張力調整用モータの駆動力が駆動ギアを介して伝達されるため、補強材保持部33が回転して帯状補強材Yが巻き取られる。なお、本実施形態では、鋼管Xへの巻き付け方向とは反対方向に帯状補強材Yを巻き取らせている。
【0039】
帯状補強材Yを補強材保持部33に巻き付けたならば、帯状補強材Yを各ガイドローラ34a,34bに架け渡す。本実施形態では、図6に示すように、補強材保持部33から繰り出された帯状補強材Yを第1ガイドローラ34aに沿って略V字状に折り返した後、第2ガイドローラ34bに沿って再度V字状に折り返している。そして、帯状補強材Yの先端を鋼管Xの補強開始位置に溶接する。帯状補強材Yを各ガイドローラ34a,34bで折り返すように架け渡すことで、帯状補強材Yを鋼管Xへ巻き付ける位置と帯状補強材Yを補強材保持部33から繰り出す位置とが鋼管Xの軸線方向にずれていても、帯状補強材Yを円滑に案内できる。
【0040】
帯状補強材Yの端部を鋼管Xに固定したならば、帯状補強材Yの鋼管Xへの巻き付けを開始する。このとき、ギアボックス36の走行用モータも駆動させる。これにより、可動部3が鋼管Xの軸線方向へ移動される。そして、図7に示すように、可動部3を一定速度で軸線方向へ移動させることにより、帯状補強材Yを鋼管Xの直線部分に対して螺旋状に巻き付けることができる。なお、本実施形態では、帯状補強材Yにおける幅方向の端部が重なるように、可動部3を移動させている。
【0041】
この場合、前述したように、補強材保持部33の回転速度がガイドローラ34の移動速度よりも低くなるように各モータの駆動力に差を付ける。これにより、図8(a)〜(c)に示すように、各ガイドローラ34a,34bが鋼管Xの外周面に沿って周方向に移動するときに、駆動力の差が帯状補強材Yへの張力になるため、帯状補強材Yは、各ガイドローラ34a,34bの間において適度に張られた状態になる。これにより、帯状補強材Yを鋼管Xへ密に巻き付けることができる。
【0042】
可動部3が鋼管Xの屈曲部分に到達したならば、ギアボックス36の走行用モータを制御して可動部3(筒状基部32)を屈曲部分の軸線方向に移動させる。その際、図9(a)〜(c)に示すように、可動部3における、外側案内軸13bに(屈曲部分の外側で)支持されている部分の移動速度が、内側案内軸13aに(屈曲部分の内側で)支持されている部分の移動速度よりも高くなるように、走行用モータの回転量を制御する。具体的には、外側案内軸13b側に位置する走行用モータの回転量を、内側案内軸13a側に位置する走行用モータの回転量よりも多くする。
【0043】
これにより、帯状補強材Yに関し、鋼管曲部における外側位置での巻き付けピッチを、内側位置での巻き付けピッチよりも広げることができ、帯状補強材Yの巻き付けを適正に行うことができる。例えば、鋼管曲部の外周面であっても帯状補強材Yを隙間なく巻き付けることができる。
【0044】
可動部3が一方の止着フレームの手前まで移動されたならば、その移動方向を反転させる。この反転は、走行用モータを逆回転させることで行う。そして、この場合においても、鋼管曲部への帯状補強材Yの巻き付けを行う際には、外側案内軸13b側に位置する走行用モータの回転量を、内側案内軸13a側に位置する走行用モータの回転量よりも多くする。
【0045】
以上の制御を行うことで、先に巻き付けられた帯状補強材Yの上に、次の帯状補強材Yを重ねて巻き付けることができる。その後は同様に、一方の止着フレームと他方の止着フレームとの間で可動部3を移動させつつ、帯状補強材Yを鋼管Xに巻き付ける。そして、帯状補強材Yによる補強層が所望の厚さになったならば、帯状補強材Yの巻き付けを終了する。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の巻き付け装置1によれば、帯状補強材Yが巻き付けられる補強材保持部33と、補強材保持部33から繰り出された帯状補強材Yを鋼管Xの外周面に向けて案内するガイドローラ34とを筒状基部32に設け、ギアボックス36の走行用モータやピニオンギアによって筒状基部32を鋼管Xの軸線方向に移動させるとともに、張力調整用モータや繰り出し用モータ等によってガイドローラ34を鋼管Xに対して周回させているので、鋼管Xの屈曲部分であっても、補強材保持部33から繰り出された帯状補強材Yを、鋼管Xの外周面に対して螺旋状に巻き付けることができる。このため、簡単な装置構成で鋼管Xの屈曲部分に対する補強を行うことができる。
【0047】
ここで、単にロール状(糸巻きのような状態)の帯状補強材Yを用いた場合、この補強材の保持部が重くなってしまい、鋼管Xの周りを回転させるためには、かなりの動力が必要になってしまう。また、重力も作用するため、回転速度にムラがでやすい。これらの点に関し、この巻き付け装置1では、帯状補強材Yを保持する補強材保持部33が、鋼管Xの外周側に、この鋼管Xと一定間隔を維持しているため、回転させるための動力を低減できるととともに、重力に起因する回転ムラが生じ難くなっている。
【0048】
また、この巻き付け装置1は、外側案内軸13b側に位置する走行用モータの回転量を、内側案内軸13a側に位置する走行用モータの回転量よりも多くしているので、鋼管曲部における外側位置での巻き付けピッチを、内側位置での巻き付けピッチよりも広げることができ、帯状補強材Yの巻き付けを適正に行うことができる。
【0049】
また、この巻き付け装置1では、ガイドローラ34を第1速度で移動させるように駆動力を付与する繰り出し用モータと、補強材保持部33が第1速度よりも遅い速度で、ガイドローラ34の移動方向へ回転されるように駆動力を付与する張力調整用モータとを設けているので、各モータの駆動力の差によって、帯状補強材Yに対して張力を付与することができる。これにより、帯状補強材Yを密に巻き付けることができる。
【0050】
また、この巻き付け装置1では、ガイドローラ34を、補強材保持部33の径方向外側に配置される第1ガイドローラ34aと、この第1ガイドローラ34aよりも、帯状補強材Yの巻き付け位置側に配置される第2ガイドローラ34bとによって構成しているので、補強材保持部33から繰り出された帯状補強材Yを鋼管Xの外周面へと円滑に案内することができる。
【0051】
また、補強材保持部33には、鋼管Xへの巻き付け方向とは反対方向に帯状補強材Yを巻き付け、この補強材保持部33から繰り出された帯状補強材Yを、第1ガイドローラ34aで折り返した後に第2ガイドローラ34bで折り返して、鋼管Xの外周面に巻き付けているので、補強材保持部33から繰り出された帯状補強材Yに対し、各ガイドローラ34a,34bによって適切な張力を付与することができ、帯状補強材Yを密に巻き付けることができる。
【0052】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0053】
補強対象の鋼管Xに関し、前述の実施形態では円筒状であって略直角に屈曲された鋼管Xのエルボー部を例に挙げたが、円弧状に湾曲された鋼管Xであってもよい。要するに曲部を有する鋼管Xであればよい。また、角筒状の鋼管Xであっても、筒状基部32の筒内に挿入可能なサイズであれば、同様に帯状補強材Yを巻き付けることができる。また、材質は高クロム鋼に限られない。
【0054】
帯状補強材Yに関し、前述の実施形態では、厚さが0.2mm程度、幅が30mm〜50mm程度、長さが数m〜数10mとされたステンレス製の薄板を例に挙げたが、他の種類の帯状金属であってもよい。また、樹脂製であってもよい。
【0055】
案内軸13に関し、前述の実施形態では4本の案内軸13を90度間隔で配置したが、この構成に限られない。180度間隔で2本配置してもよいし、120度間隔で3本配置してもよい。また、5本以上配置してもよい。要するに、補強対象の鋼管Xの周囲に複数本配置されていればよい。
【0056】
第1駆動機構に関し、前述の実施形態では、ギアボックス36(走行用モータ,ピニオンギア)と案内軸13(ラック)の組を例示したが、この構成に限定されない。鋼管Xの軸方向に可動部3を移動させることのできる機構であれば、どのような構成を採ってもよい。
【0057】
第2駆動機構に関し、前述の実施形態では、張力調整用モータ及び駆動ギアの組37と、繰り出し用モータ及び駆動ギアの組38とを例示したが、この構成に限定されない。例えば、張力調整用モータ及び駆動ギアの組37に代えて、油の粘性や摩擦によって回転抵抗を付与する軸受けを用いて、リング状回転体33aを筒状基部32に取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…補強材巻き付け装置,2…フレーム部,3…可動部,11…第1止着フレーム,12…第2止着フレーム,13…案内軸(ラック),13a…従動案内軸,13b…駆動案内軸,14…ベース板,14a…リング状部,14b…支持片部,14c…フランジ部,15…ねじ取り付け片,16…止着ねじ,17…ベース板,17a…リング状部,17b…支持片部,17c…フランジ部,18…ねじ取り付け片,19…止着ねじ,20…ナット,31…ベースフレーム,31a…リング状部,31b…支持片部,31c…フランジ部,32…筒状基部,33…補強材保持部,33a…リング状回転体,33b…ガイドリブ,34…ガイドローラ,34a…第1ガイドローラ,34b…第2ガイドローラ,35…ガイドローラ支持部,35a…リング状基部,35b…L型ステー,35c…側板,36…ギアボックス(走行用モータ,ピニオンギア),37…張力調整用モータ及び駆動ギアの組,38…繰り出し用モータ及び駆動ギアの組,X…鋼管,Y…帯状補強材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強対象となる鋼管曲部の外周面に、帯状補強材を螺旋状に巻き付ける補強材巻き付け装置であって、
前記鋼管曲部の周囲に配置された複数の案内軸と、
前記鋼管が筒内に配置されるとともに、前記案内軸によって前記鋼管曲部の軸線方向に案内される筒状基部と、
前記鋼管曲部の周方向に回転可能な状態で前記筒状基部に取り付けられ、前記帯状補強材が巻き付けられるリング状の補強材保持部と、
前記鋼管曲部の外周面よりも外側を周回移動可能な状態で前記筒状基部に取り付けられ、前記補強材保持部から繰り出された前記帯状補強材を、前記鋼管曲部の外周面に向けて案内するガイドローラと、
前記筒状基部を前記鋼管曲部の軸線方向に移動させる第1駆動機構と、
前記ガイドローラの周回方向への移動に伴って前記補強材保持部が回転されるように、前記ガイドローラの周回動作と前記補強材保持部の回転動作を制御する第2駆動機構と、
を有することを特徴とする補強材巻き付け装置。
【請求項2】
前記第1駆動機構は、
前記筒状基部における、前記鋼管曲部の外側に位置する部分の移動速度が、前記鋼管曲部の内側に位置する部分の移動速度よりも高くなるように、前記筒状基部を移動させることを特徴とする請求項1に記載の補強材巻き付け装置。
【請求項3】
前記第2駆動機構は、
前記ガイドローラを第1速度で移動させるように駆動力を付与する第1回転モータと、
前記補強材保持部が前記第1速度よりも低い速度で、前記ガイドローラの移動方向へ回転されるように駆動力を付与する第2回転モータと、
を有することを特徴とする請求項1または2に記載の補強材巻き付け装置。
【請求項4】
前記ガイドローラは、
前記補強材保持部の径方向外側に配置される第1ガイドローラと、
前記第1ガイドローラよりも、前記帯状補強材の巻き付け位置側に配置される第2ガイドローラとを有することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の補強材巻き付け装置。
【請求項5】
前記補強材保持部には、前記鋼管への巻き付け方向とは反対方向に、前記帯状補強材が巻き付けられ、
前記補強材保持部から繰り出された前記帯状補強材を、前記第1ガイドローラで折り返した後に前記第2ガイドローラで折り返して、前記鋼管の外周面に巻き付けることを特徴とする請求項4に記載の補強材巻き付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−87823(P2013−87823A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227133(P2011−227133)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(596133119)中電プラント株式会社 (101)
【Fターム(参考)】