説明

補強板付きキーシート及びその製造方法

【課題】補強板による補強構造を備えたキーシート、及びこれを効率良く製造する方法を提案する。
【解決手段】面内に複数の透孔(4a)を有する硬質樹脂製の補強板(4)と、周縁部が前記補強板の各透孔の周壁に接合されて各透孔を覆う熱可塑性エラストマー製の複数のパッド部材(5)とから成るキーパッド(3)と、パッド部材の上面に接合された硬質樹脂製の台座(6)とを有し、パッド部材の下面中央部からそれぞれスイッチ押圧突起(5b)が突出形成され、各台座の上面に、別に形成されたキートップ(2)をそれぞれ載置・接合してなる補強板付きキーシート(1)における、補強板と台座とを硬質樹脂による第一次射出成形により形成し、次いでパッド部材を熱可塑性エラストマーの第二次射出成形によって形成する、二色成型法に基づく製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、携帯情報端末(PDA)等モバイル機器に用いるキーシートに関し、特に補強板で補強され、狭ピッチキー構造を実現する上で好適なキーシート、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キーシートは、携帯電話、携帯情報端末(PDA)等モバイル機器を構成する部品の一種であって、多数のスイッチ操作用キー(押釦)を一枚のシート面に集合・配列したユニットである。1個のキーは、柔軟なゴム状弾性体からなるキーパッドの表面に固着された硬質樹脂製のキートップと、対応するキーパッド裏面のスイッチ押圧突起(いわゆる押し子)からなる。このように構成されるキーシートの下面にスイッチ要素を備えた回路基板を密着させれば、各キーに対応する位置にキースイッチが形成される。
【0003】
近時は携帯電話等の小型化が進んだ結果及びデザイン上の要求から、キー間を隔てるキー枠を省略してキーを直接隣接させ、キーの間隔(キーピッチ)を例えば 0.2mm以下にした、いわゆる狭ピッチキーシートが要求される。このようなキーシートでは、従来キーシートに形状保持性を与えていたキー枠を使用しないため、ゴム状弾性体からなるキーパッドの柔軟性を制限してキートップの横方向移動を防止できるようなキーパッド構造を備える必要がある。本出願人はそのような目的で、キーパッド中のキーの動作に関係がない部分(非作動部)を薄い硬質樹脂板又は金属板(「補強板」と総称)で置き換える構造を案出し、これを特許出願した(特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、上記の補強構造を実現するには、補強板をキーパッド成型用金型内へ予めセットするインサート成型法による必要があり、その際、ゴム状弾性体としてシリコーンゴムを用いる場合は、シリコーンゴムとの接着性が良くない樹脂製補強板に適宜な表面処理を施すなど、キーパッド成型前にかなりの準備工数を要している。
【0005】
また、成形効率の観点から、1つの成形用金型には一度に複数の成形品が成形できるようにする所謂複数個取りとするのが一般的である。上記インサート成形法を用いる場合、成形毎に金型内に多数のインサート物を正しくセットする必要があり、この工程が作業者にとって大きな負担となっていた。
【0006】
上記の補強構造を、手間の掛かるインサート成型法によらないで実現するには、二色成型という手法が考えられる。この手法は、例えば特許文献2に開示された携帯電話用キーシートの製造方法に含まれている可能性がある。しかし、ここに開示されたキーシートは上記の意味での補強構造と狭ピッチ構造を備えたものではなく、また、手法的にも「インサート2色成型」と表現されているところからインサート成形法の一種と考えられ、本発明の先行技術に位置づけられるものではない。
【特許文献1】特開2003−178639号公報
【特許文献2】特開2003−306562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記の補強構造を備えたキーシート、及びこのようなキーシートを効率良く製造する方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、以下に述べる補強板付きキーシートにより達成することができる。すなわち、
面内に複数の透孔を有する硬質樹脂製の補強板と、周縁部が前記補強板の各透孔の周壁に接合されて各透孔を覆う熱可塑性エラストマー製の複数のパッド部材からなるキーパッドと、前記パッド部材の上面に接合された硬質樹脂製の台座とを有し、
前記パッド部材の下面中央部からそれぞれスイッチ押圧突起が突出形成され、前記台座は各透孔の開口縁から一定距離を隔てる平面形状を有し、
前記各台座の上面に、別に形成されたキートップをそれぞれ載置・接合してなる補強板付きキーシートである。
【0009】
上記の補強板付きキーシートは、二色成型法に基づく下記製造方法により実現することができる。最初に、キーパッドの補強板と該補強板の透孔の開口縁から一定距離を隔てる平面形状を有する各台座とを硬質樹脂によって射出形成し、次に、補強板及び台座を成形装置内に存在させたまま金型の状態を変更し、熱可塑性エラストマーを金型内に射出して、補強板の各透孔の周壁に一体に接合されて各透孔を覆うと共に上面が台座に接合し、下面中央部からそれぞれスイッチ押圧突起が突出形成されたパッド部材を形成し、各台座の上面に、別に形成されたキートップをそれぞれ載置・接合する。
【0010】
なお、上記の製造方法において、キートップを事後的に台座に接合する理由は、通常はキートップの差し渡し寸法が台座のそれより大きく(特に狭ピッチキーシートに当てはまる)、キートップの周縁部が台座の外縁より外方に突き出るため、成型後の脱型が困難だからである。しかし、このような場合にも脱型が可能な所謂スライド型を用いれば、台座とキートップとを一体に成形することも不可能ではない。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果は、補強板を別製し、搬送し、金型内の所定位置へインサートする等の工数の全てが、本発明のキーパッド(補強板・パッド部材)形成工程に吸収・統合されて不要となる点、金型への補強板インサート手順によりキーパッド成型工程が中断されずに完全連続サイクルが実現される点、及びインサート不良が皆無になる点等である。これらにより生産性が飛躍的に向上すると共に、キーシートを従来よりも安価に製造することができる。
【0012】
さらに、本発明で採用する熱可塑性の硬質樹脂と熱可塑性のエラストマーとは、両者を熱融着した時の接合強度が大きいので、従来行っていた補強板の表面処理が不要になると共に、パッド部材の周縁部を補強板中の透孔の周壁に接合するための接合面積が小さくて済むため、補強板を薄くすることができる。
【0013】
なお、本発明の補強板付きキーシートは、台座すなわち、その上に載置・接合されるキートップの移動に関して、キーシート面に垂直な方向の移動のみ許し、水平方向の移動を制限する構造になっている(図1〜図5参照)ので、キートップが狭い間隙(例えば0.2mm以下)を隔てて隣り合う狭ピッチキーシートを構成する目的に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態を以下の実施例により説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は本発明の第1実施例としての補強板付きキーシート(以下、単に「キーシート」という。)1の構造を示す断面図である。図2(A)は本実施例に係る補強板付きキーシート1の構造を示す断面図、図2(B)はこれを斜め上から視た斜視図、図3は、図2(A)中のA−A矢視方向の断面図であって、3個のキーが連なる様子を示す。
【0016】
参照符号2は硬質樹脂製のキートップ、3はキーパッドである。該キーパッド3は、シリコーンゴムや熱可塑性エラストマー等のゴム状弾性体で全体が形成された一般的なキーパッドの非作動部分、即ち、キーの動作に関係がない部分を硬質樹脂で置き換えたものであり、面内に多数の透孔4a、4a、…を有する補強板4と、周縁部5aが各透孔4aの周壁に接合されて各透孔4aを覆う熱可塑性エラストマー製のパッド部材5を有する。
【0017】
図4(A)は、本実施例に係る補強板付きキーシートの裏面図、図4(B)はこれを斜め上から視た斜視図である。図4(A)に現れた長方形の中心にある3重円はスイッチ押圧突起4を示す。
【0018】
参照符号6、6、…は、各透孔4aに対応して、各透孔4aの開口縁から一定距離を隔てる平面形状を為し、各パッド部材5の上部中央に接合された台座である。各台座6は、上記補強板4と同じ材料である硬質樹脂によって形成されている。各パッド部材5の下面中央部からは、スイッチ押圧突起5bが下方に突出するように一体に形成されている。各台座6の上面にはそれぞれ、キートップ2が載置され、例えば、透明接着剤によって接合されている。なお、図1でキーパッド3は左右に分かれて描かれているが、その間が補強板4の透孔4aに当たる。
【0019】
図5(A)は、キートップ2、2、…を接合する以前の本実施例に係る補強板付きキーシートの構造を示す平面図、図5(B)はこれを斜め上から視た斜視図である。図5(A)に現れている2重の長方形のうち外側のものは補強板1の各透孔4aの開口縁、内側のものは各台座6の外周線、各台座6の中に描かれた4個の小円は各台座6表面にキートップ2の位置決め用に形成されたの凹部6a、6a、…を示す。
【0020】
以上のような構造を有するキーシート1において、キーパッド3の各部、即ち、補強板4、パッド部材5、5、…及び台座6、6、…は、硬質樹脂と熱可塑性エラストマーとの2種類の材料を用いる2色成形法によって成形される。成型型内において、例えば、最初の一次成形でポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂などの適宜な透明硬質樹脂によって補強板4及び台座6、6、…が成形され、次の二次成形で、ポリエステル系エラストマーやポリアミド形エラストマー等の適宜な熱可塑性エラストマーによってパッド部材5、5、…が成形される。
【0021】
図1に見られるように、台座6と補強板4の透孔4aとは大きさが異なるので、台座6の周囲には一定幅の隙間があり、その隙間をパッド部材5、5、…の膜状の部分5cがつなぐ。この膜状のつなぎ部分5cが撓むことにより、台座6が接合された部分であるパッド部材5の可動部5d及び台座3、すなわちその上に載置・接合されるキートップ2がキーパッド面に垂直な方向へ容易に移動でき、パッド部材5のスイッチ押圧突起5bによって図示しないメタルドームなどが押圧され接点がオンとなる。しかし、キートップ2が水平方向に移動しようとするとパッド部材5を引き伸ばすことになり、その延伸抵抗力によりキートップ2の水平方向移動が制限される。これにより、狭ピッチキーシートであるキーシート1において、キートップ2の相互干渉の原因となるキートップ2の横方向移動が有効に防止される。
【0022】
なお本実施例の場合は、図1及び図5に、キートップ2と台座6の位置合わせを助けるため、台座6の表面に凹部6aを、キートップ2の裏面に突起2aを設けて嵌合させる構造を例示している。この嵌合構造により、キートップ2を台座6に載置・接合する際の受け治具が不要になる。ただし、この構造は、図3に示すように必須ではない。また、キートップ2と台座6との嵌合構造は、上記構成に限定されるわけではなく、例えば、キートップ2の裏面に凹部、台座の表面に突起をそれぞれ設ける構成としても良く、さらに、キートップ2と台座6との位置合わせ行うことができるものであれば、その構造は特に限定されない。
【実施例2】
【0023】
図6は、本発明の第2実施例としての補強板付きキーシート1Aの断面図である。このキーシート1Aは、前記第1実施例におけるキーシート1の各台座6及びこれに載置・接合されるキートップ2に相当する部分を、熱可塑性エラストマーによりキーパッド3のパッド部材5と一体に形成したものである。したがって、本実施例のキーシート1Aの以下の説明において、前記第1実施例のキーシート1と同様の構成を有する部分についてはキーシート1の説明に使用した符号と同じ符号を用いることにより、その説明を省略する。
【0024】
キーシート1Aは、補強板4の透孔4a、4a、…の各周壁にパッド部材5、5、…の各周縁部5aが接合された構造を為すキーパッド3を有する。そして、補強板4の各透孔4a内に配置された各パッド部材5の可動部5dの厚みが前記キートップ1よりも更に上方に突出するように厚くされ、キートップ5eが熱可塑性エラストマーによって一体に成形されている。これにより、前記第1実施例における各台座にキートップを接合する工程が不要になる。本実施例では成形時の脱型を可能とするために、台座を含むキートップ部分の周壁に段差を設けず垂直に立ち上がる形状としている。なお、本実施例のものと同形の硬質樹脂製キートップを別に作成して置き、インサート成型法によりキーパッドに接合しても良い。この場合は、インサートするキートップの裏面に文字や記号等を含む加飾層を予め形成しておくことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、携帯電話、携帯情報端末(PDA)等モバイル機器に用いるキーシートに関するものであるから、これらモバイル機器を製造・販売する電子機器産業、モバイル機器の利用を促進する通信サービス産業等、多くの産業の発展に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施例としての補強板付きキーシートの構造を示す断面図である。
【図2】第1実施例に係る補強板付きキーシートの構造を示す平面図(A)及び斜視図(B)である。
【図3】第1実施例に係る補強板付きキーシートの3個のキーが連なる様子を示す断面図である。
【図4】第1実施例に係る補強板付きキーシートの裏面図(A)及び斜視図(B)である。
【図5】第1実施例に係る補強板付きキーシートにおいて、台座にキートップを接合する前の構造を示す平面図(A)及び斜視図(B)である。
【図6】本発明の第2実施例としての補強板付きキーシートの断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1、1A 補強板付きキーシート
2 キートップ
2a キートップ裏面の突起
3 キーパッド
4 補強板
4a 透孔
5 パッド部材
5a 周縁部
5b スイッチ押圧突起
5c つなぎ部分
5d 可動部
5e エラストマー製キートップ
6 台座
6a 台座表面の凹部
1A 補強板付きキーシート
7 キートップ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
面内に複数の透孔を有する硬質樹脂製の補強板と、周縁部が前記補強板の各透孔の周壁に接合されて各透孔を覆う熱可塑性エラストマー製の複数のパッド部材からなるキーパッドと、前記パッド部材の上面に接合された硬質樹脂製の台座とを有し、
前記パッド部材の下面中央部からそれぞれスイッチ押圧突起が突出形成され、前記台座は各透孔の開口縁から一定距離を隔てる平面形状を有し、
前記各台座の上面に、別に形成されたキートップをそれぞれ載置・接合してなることを特徴とする補強板付きキーシート。
【請求項2】
前記台座上面及びそこに載置・接合されるキートップの裏面のいずれかに、位置合わせ用突起を設け、前記いずれかの面に対向する面に当該突起が嵌合する凹部を形成することを特徴とする請求項1に記載の補強板付きキーシート。
【請求項3】
前記各台座及びこれに載置・接合されるキートップに相当する部分を、熱可塑性エラストマーにより、前記各パッド部材と一体に形成することを特徴とする請求項1に記載の補強板付きキーシート。
【請求項4】
面内に複数の透孔を有する硬質樹脂製の補強板と、前記補強板の各透孔を覆う熱可塑性エラストマー製の複数のパッド部材からなるキーパッドとを有し、前記各パッド部材の上面に硬質樹脂製の台座が配置され、各台座の上面にキートップが配置されてなる補強板付きキーシートの製造方法であって、
前記補強板と、該補強板の透孔の開口縁から一定距離を隔てる平面形状を有する各台座とを硬質樹脂により射出形成し、
次に、前記補強板及び台座を成形装置内に存在させたまま金型の状態を変更し、熱可塑性エラストマーを金型内に射出して、前記補強板の各透孔の周壁に一体に接合されて各透孔を覆うと共に上面が前記台座に接合し、下面中央部からそれぞれスイッチ押圧突起が突出形成されたパッド部材を形成し、
前記各台座の上面に、別に形成されたキートップをそれぞれ載置・接合することを特徴とする補強板付きキーシートの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−209989(P2006−209989A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16611(P2005−16611)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(390001487)サンアロー株式会社 (58)
【Fターム(参考)】