説明

補正下着及びその製造方法

【課題】身に着けるだけで美しいバランスのとれた体型へ補正することが可能な下着の縫製技術に関し、下着の必要な場所、必要な方向及び必要な補正力を得ることができ、且つ、低コストに製造可能な補正下着を提供する。
【解決手段】人の体型に補正力を与える引き締め部4を形設するための引き締め用生地3を用いる補正下着1の製造方法であって、該引き締め用生地は伸縮性のある単一素材とし、該引き締め用生地3において、補正力を与えたい箇所及び補正力を与えたい方向に多重に折り返して帯状体を形成し、これを縫製して前記引き締め部を形設する方法、又は、前記引き締め用生地において、前記引き締め部4を二以上設け、該引き締め部の本数、幅、ピッチ、折り返し数を変更することで、目的に応じた補正力を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身に着けるだけで美しいバランスのとれた体型へ補正することが可能な下着の縫製技術に関する。
【背景技術】
【0002】
1998年にWHO(世界保健機関)が「メタボリック症候群」という名称でその診断基準を発表したあたりから、日本においても中年太り等の形容として「メタボ」などと言われるようになり、近年では男性も自己の容姿を気にする人が増えている。また、女性にとって、美しくしなやかなボディラインを保ちたいと願うことは永遠のテーマであり、補正下着(ファンデーション)を身に着けることで外見的な印象を良く見せたいと願う女性は多い。そこで、肥満等による腹部の贅肉や産後のいわゆる妊娠脂肪を気にする人はウエストを細く見せることができるウエストニッパーを、臀部の垂れや太ももを気にする人はヒップアップ等可能なガードルを、胸の大きさや位置を気にする人はバストアップ等可能な補正ブラジャーやボディスーツといった補正下着が求められている。
【0003】
このような多くの要望に応えるべく、近年における我が国の下着製造企業の技術開発には目覚ましいものがあり、種々の補正下着に係る技術が提案されている。具体的には、例えば、ショーツ本体の前身頃に強浮き編み部及び弱浮き編み部を腹部を押えるように編成し、上記ショーツ本体の後身頃に弱・中・強の各浮き編み部をヒップアップするように編成したことを特徴とするショーツがある(特許文献1参照)。しかし、補正力を求める部位毎に形状が異なるため製作容易性に欠ける問題がある。また、前身頃と後ろ身頃で形成される身頃部分が、前身頃の体側部に沿う片縁部から後ろ身頃の左半分が延設され他縁部から後ろ身頃の右半分が延設されてなる一枚の身頃生地で形成されており、上記身頃に用いられる生地の経方向が、身頃の左右方向になっていることを特徴とするボディスーツがある(特許文献2参照)。しかし、係る技術では各構成生地の全体に均一な補正力が発生してしまい、一部分のみに補正力を働かすことはできないという問題がある。またさらに、本体を構成する各部が異なる組織で編まれており、縦の伸び率と横の伸び率を変えて部分的に必要な方向及び必要な補正力を得ることができる技術が提案されている(特許文献3参照)。しかし、係る技術では各部毎に異なる編組織で製作するためコスト高となる問題がある。さらにまた、腹部パーツの上にカップ台パーツを重ねた重合部を設けた姿勢矯正用衣類がある(特許文献4参照)。しかし、重複部の面積によって補正力を得ているため、細部の特定や補正力を掛けたい方向を特定しにくいという問題がある。
【0004】
前記以外にも補正下着に係る種々の技術が提案されているが、これらの補正下着は伸縮力の異なる複数の生地素材を用いていたり、多数のパーツから構成されているため、裁断行程・縫製行程が増加し、生産過程の複雑化から高価格となっている問題点がある。また、体型の気になる部分は個人差があり、例えば、ウエストが気になる場合において、同じウエストサイズであっても脂肪量は人によって異なり、強い補正力を必要とする場合もあれば、弱い補正力で足りる場合もある。更に、位置的な問題として下腹部が気になる人もいれば側腹部が気になる人もいる。従って、多くのパーツから構成しないと補正力を与えられないこれらの技術では、前記コストの問題点を解決できず、また、補正力及び補正位置を細かく変更し難いという問題点を解決するには至っていない。
【0005】
【特許文献1】実開平7−6206号公報
【特許文献2】特開2001−123302号公報
【特許文献3】特開2006−37255号公報
【特許文献4】実用新案登録第3147553号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、係る問題点を解決すべく、下着の必要な場所に、必要な方向及び必要な補正力を得ることができ、且つ、低コストで製造可能な補正下着の技術提供を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、人の体型に補正力を与える引き締め部を形設するための引き締め用生地を用いる補正下着の製造方法であって、該引き締め用生地は伸縮性のある単一素材とし、該引き締め用生地において、補正力を与えたい箇所及び補正力を与えたい方向に多重に折り返して帯状体を形成し、これを縫製して前記引き締め部を形設する方法を用いる補正下着の製造方法とした。
【0008】
また、請求項2の発明は、前記引き締め用生地において、前記引き締め部を二以上設け、該引き締め部の本数、幅、ピッチ、折り返し数を変更することで、目的に応じた補正力を得ることができる引き締め部を形設する方法を用いる構成とした。
【0009】
さらに、請求項3の発明は、前記請求項1又は請求項2に記載の補正下着の製造方法を用いて製造される補正下着とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る補正下着及びその製造方法によれば、必要に応じた補正力を与えることができるため、着心地を良くしたままでも高い引き締め効果や姿勢矯正効果を得ることができる。
【0011】
また、本発明に係る補正下着及びその製造方法によれば、引き締め手段が下着に用いられる単一素材のみで構成できるため、材料コストの軽減を図ることができるという優れた効果を奏する。
【0012】
さらに、本発明に係る補正下着及びその製造方法によれば、体型の気になる部分や脂肪量の個人差に対応して、補正力及び補正位置を細かく変更し易い補正下着を提供できるという優れた効果を奏する。
【0013】
さらにまた、本発明に係る補正下着及びその製造方法によれば、引き締め用生地の伸縮力がさほど高くなくても、引き締め部の幅や本数を調整することで、強い補正力を得ることができるという優れた効果を奏する。
【0014】
そしてまた、本発明に係る補正下着及びその製造方法によれば、デザイン性を損なうこともなく、却って機能美ともいえる美観を創出できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、補正力により引き締めたい部位を構成する引き締め用生地3の目的所要箇所に、多重に折り返して帯状体を形成し、これを縫製して引き締め部4を形設する方法を用いたことを最大の特徴とする。以下、図面に基づいて説明する。なお、これらはあくまでも例示であって、図示された物品に限定されるものではない。
【0016】
図1は本発明に係る補正下着1及びその製造方法の実施例を示す説明斜視図であり、図1(a)は本発明に係る技術をショーツに用いた場合の実施例を示し、図1(b)は本発明に係る技術をウエストニッパーに用いた場合の実施例を示している。
【0017】
図1(a)に示す補正下着1は、腰回りについた脂肪による膨らみを補正したい目的に用いられる女性用ショーツであり、本体用生地2及び引き締め用生地3から構成され、必要に応じてストレッチレース等の装飾素材Rが所定個所に縫着等される。ショーツの場合、本体用生地2は、前布、クロッチ及び後布を1枚の一体構成としてもよいし、別体素材を縫着した構成のものでもよい。また、ウエストゴムやクロッチ等の不可避な構成部材については従来からの縫製技術を用いればよい。そして、該本体用生地2の左右両側部に引き締め用生地3がそれぞれ縫着等される構成である。また、図示はしていないが、男性用のショーツであれば、例えばハイウエストライン型のショーツとし、ハイウエスト部分に引き締め用生地3を用いて、引き締め部4が腹部の出っ張りを補正するように構成することもできる。
【0018】
図1(b)に示す補正下着1は、ウエスト周りの脂肪による膨らみを補正したい目的に用いられるウエストニッパーであり、本体用生地2及び引き締め用生地3から構成され、必要に応じてストレッチレース等の装飾素材Rが縫着等される。係る実施例では、前身ごろ及び後見ごろとなる本体用生地2の左右両側部に引き締め用生地3がそれぞれ縫着等される構成である。
【0019】
図2は、本発明に係る補正下着及びその製造方法の実施例を示す裁断構成の説明図であり、図2(a)は本発明に係る技術をショーツに用いた場合の裁断例を示し、図2(b)は本発明に係る技術をガードルに用いた場合の着用状態例を示している。なお、これらはあくまでも例示であって、図示された物品に限定されるものではない。
【0020】
引き締め用生地3は伸縮性を有する単一素材生地のみで構成され、縫着される本体用生地2に対して、引き締め部4を形成するのに必要な分だけ大きく裁断される。そして、補正力を必要とする部分に、補正力を働かせたい方向に多重折りし、これを縫製して引き締め部4を形成する。形状がシンプルなショーツやウエストニッパー等であれば、平面裁断であっても十分に本発明に係る技術を利用できるが、ガードルやボディスーツ、ブラジャーのように立体縫製が望ましいものは、ドレーピングやCADによって展開図を作成する。
【0021】
図2(b)に示すガードルのように、本体用生地2がなく、全て引き締め用生地3から構成される場合もある。下腹のたるみが目立たないように補正するための引き締め部4aは、人体Jの腸骨上部付近から体の中心に向かうよう斜め下方向に多重に折り畳んで縫製し、左右併せて略V字形状の引き締め部4を形成することも可能である。脇腹のたるみを補正するための引き締め部4b及び太もものたるみを補正するための引き締め部4cは、横方向に多重に折り畳んで縫製して引き締め部4を形成する。また、図示はしていないが、膝上または膝下までのスポーツ用下着として、筋肉や靱帯に沿って引き締め部4を形成するようにすることも有効である。係る構成を採用した場合には引き締め部4の補正力により筋肉や靱帯をサポートでき、人間本来の自然治癒力を促進させたり、痛み等の障害を和らげたりすることもできる。
【0022】
図3は、本発明に係る引き締め部4の縫製状態を示す説明図である。図3(a)及び(b)に示すように、引き締め用生地3の所定箇所を三重状に折り畳み、幅Hとなるように縫着部Nを縫着する。幅Hは、その大きさによって得られる補正力が変化するので、使用する素材の伸縮力との関係から決定する。また、引き締め部4を複数設ける場合には、補正力を働かせたい面積に応じて、引き締め部4同士のピッチPや本数も考慮して決定する。
【0023】
図3(c)は、引き締め用生地3における引き締め部4を複数設ける場合の配置例をしめしている。引き締め用生地3の端部に、強い補正力の引き締め部4を形成してしまうと、人体Jとの境界部分に却って段差を生じてしまうこともあり得る。そこで、並列する引き締め部4の各ピッチPを変化させて人体Jとの境界部分は素材の伸縮力のみとし、最も補正したい部分の中心付近に向かうにつれて補正力が高まる構成とすることで美しいボディラインの創出を可能としている。
【0024】
また、ピッチPの変化でなく、図3(d)のように折り返し量によっても、前記同様の補正力の変化を与えることができ、この場合、P6間は引き締め用生地3の素材自体が有する伸縮性から生じる補正力のみが働き、P5間にはそれよりも大きな補正力が働き、P4間が最大となる。
【0025】
図4は本発明に係る補正下着及びその製造方法の実施例を示す説明図であり、図4(a)は本発明に係る技術をボディスーツに用いた場合の斜視図を示し、図4(b)は本発明に係る技術をボディスーツに用いた場合の背面図を示している。図に示すように、本発明に係る引き締め部4は、縦・横・斜めといったあらゆる方向に形成することが可能である。また、図中では、ウエスト部分の最も細く補正したいくびれ部分に、幅Hの大きな引き締め部4を配置し、その上下に配置する引き締め部4は幅Hを細くし、更にその上下に配置する引き締め部4までのピッチPを大きく取った実施形態を示した。このような配置構成にすることで、ウエストの美しいくびれを形成しつつ、この中心から遠ざかるにつれて補正力を弱めることで、段差のない自然なボディラインを作り出すとともに、不必要な締め付けによる窮屈感の軽減を図ることを可能としている。
【0026】
また、背中上部からバストカップ下側にかけて斜めにかかっている引き締め部4は、引き締め用生地3に引き締め部4を形成した帯状体を本体用生地2または引き締め用生地3に縫着等した状態を示している。このような構成で使用することにより、補正力の強いゴムバンドの代りとしての姿勢矯正効果を図りながらも、同一素材であるため、素材の色の違いが出ることもなく、肌触りも同じにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る補正下着及びその製造方法の実施例を示す説明斜視図。
【図2】本発明に係る補正下着及びその製造方法の実施例を示す裁断構成説明図。
【図3】本発明に係る引き締め部の縫製状態を示す説明図。
【図4】本発明に係る補正下着及びその製造方法の実施例を示す説明図。
【符号の説明】
【0028】
1 補正下着
2 本体用生地
3 引き締め用生地
4 引き締め部
R 装飾素材
N 縫着部
J 人体
H 幅
P ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の体型に補正力を与える引き締め部を形設するための引き締め用生地を用いる補正下着の製造方法であって、該引き締め用生地は伸縮性のある単一素材とし、該引き締め用生地において、補正力を与えたい箇所及び補正力を与えたい方向に多重に折り返して帯状体を形成し、これを縫製して前記引き締め部を形設する方法を用いたことを特徴とする補正下着の製造方法。
【請求項2】
前記引き締め用生地において、前記引き締め部を二以上設け、該引き締め部の本数、幅、ピッチ、折り返し数を変更することで、目的に応じた補正力を得ることができる引き締め部を形設する方法を用いたことを特徴とする請求項1に記載の補正下着の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の補正下着の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする補正下着。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−65371(P2010−65371A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2009−230742(P2009−230742)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(506264454)株式会社小林縫製工業 (2)
【Fターム(参考)】