説明

製品の性能を予測可能なシミュレーション方法

【課題】 粘弾性材料が含まれた製品の性能を解析する際に、製品の粘性を考慮して、精度の高い製品の性能を予測することができるシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】 粘弾性材料を含む製品と、該製品と衝突する衝突対象とが衝突した際の製品の性能を予測可能なシミュレーション方法であって、複数の層に分割された製品モデル10と、衝突対象モデル11を設定し、初期値として、製品と衝突対象との衝突速度を入力し、製品モデル10の入力値として、各層ごとのヤング率と、ポアソン比と、比重と、製品と衝突対象との衝突速度の値に応じて得られる応力緩和係数を用いて算出された各層ごとの応力緩和曲線とを入力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の性能を予測可能なシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、粘弾性材料からなる製品について、試作の費用と時間節約等のために、シミュレーションを用いた製品開発が多方面で行なわれている。例えば、特許第3466583号公報、特許第3466584号公報、特許第3466585号公報、特許第3466590号公報には、ゴルフボールの性能予測を行なうためのシミュレーション方法が記載されている。このシミュレーション方法においては、製品のモデルとして、弾性モデルを用いて製品の特性を予測しようとしている。
【特許文献1】特許第3466583号公報
【特許文献2】特許第3466584号公報
【特許文献3】特許第3466585号公報
【特許文献4】特許第3466590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、ゴルフボールのように粘弾性材料が含まれた製品は、粘性を有しており、このような製品の解析モデルとして、弾性モデルを選択したのでは、粘性が考慮されず、正確な製品の性能を予測することが困難であるという問題があった。また、応力緩和係数を考慮したシミュレーション方法においても、応力緩和係数を定数として算出した場合には、測定値と大きく差が生じるという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、粘弾性材料が含まれた製品の性能を解析する際に、製品の粘性を考慮して、精度の高い製品の性能を予測することができるシミュレーション方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る製品の性能を予測可能なシミュレーション方法は、1つの局面では、粘弾性材料を含む製品と、該製品と衝突する衝突対象とが衝突した際の製品の性能を予測可能なシミュレーション方法であって、複数の層に分割された製品モデルと、衝突対象モデルを設定し、初期値として、製品と衝突対象との衝突速度を入力し、製品モデルの入力値として、各層ごとのヤング率と、ポアソン比と、比重と、製品と衝突対象との衝突速度の値に応じて得られる応力緩和係数を用いて算出された各層ごとの応力緩和曲線とを入力する。好ましくは、製品の一部に応力を加えてからの経過時間の対数値と、製品の一部にかかる応力とを線形近似することで、応力緩和曲線を算出する。好ましくは、各種衝突速度における製品の反発係数を測定し、衝突速度を一定にし応力緩和係数を変化させた場合の各応力緩和係数に対する反発係数を演算し、演算された反発係数と、反発係数の測定値とに基づいて各測定値における各応力緩和係数を算出し、衝突速度と応力緩和係数との関係式を算出する。好ましくは、反発係数の演算結果を、反発係数−衝突速度座標系にプロットし、演算結果のうち、同一の応力緩和係数あるいはその近傍を通る基準線を反発係数−衝突速度座標系上に記述し、反発係数の各測定値を反発係数−衝突速度座標系上にプロットし、反発係数−衝突速度座標系上における各測定値と、各測定値の近傍の基準線との間の距離に応じて各測定値の応力緩和係数を算出する。好ましくは、製品に生じる応力値をSとし、製品と衝突対象とが接触してからの経過時間をtとし、応力緩和係数をaとし、製品と衝突対象との衝突速度をVとしたときに、応力緩和曲線を、S=−a×ln(t)−11.513×a+1とし、応力緩和係数を、a=0.0018×V+0.06とする。好ましくは、衝突速度は、30m/s以上60m/s以下とされ、応力緩和係数は、0.114以上0.168以下とされる。好ましくは、製品は、衝突対象に対して片面衝突する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る製品の性能を予測可能なシミュレーション方法よれば、粘弾性材料を含む製品の性能を精度高く予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る実施の形態を図1から図8を用いて、説明する。本実施の形態に係るシミュレーション方法は、粘弾性材料を含む製品と、衝突対象とが衝突した際の製品の性能を予測可能なシミュレーション方法である。ここで、粘弾性材料を含む製品としては、例えば、ゴルフボールがあり、衝突対象としては、ゴルフクラブヘッドがある。また、予測するゴルフボールの性能としては、ゴルフボールにゴルフクラブヘッド等が衝突した際におけるゴルフボールの反発係数が挙げられる。図1は、製品モデルと、衝突対象モデルとを示す正面図である。この図1に示されるように、製品としてのゴルフボールの製品モデルとしては、複数の層に分割されたゴルフボールモデル10が設定されている。このゴルフボールモデル10は、ムーニー材料モデルであり、衝突対象としてのゴルフクラブヘッドとしては、剛体壁モデル11が設定されている。ゴルフボールモデル10は、表面を覆うカバー層12と、このカバー層12の内側に配置された球体状のコア層13とを含み、球体状に形成されている。このゴルフボールモデル10の径は、43mmとされており、カバー層12の厚さは、2mmとされている。このカバー層12は、厚さ方向に2層構造とされている。また、ゴルフボールモデル10は、複数の要素10aから構成されている。さらに、このゴルフボールモデル10の総節点数は、449とされており、総要素数は、414とされている。また、図1に示されたゴルフボールモデル10は、二次元の軸対称要素を用いて作成されている。
【0008】
このようなモデルを用いて、ゴルフボール等の粘弾性材料を含む製品と、ゴルフクラブヘッドなどの衝突対象とが接触した際の製品の性能を予測する。まず、初期値として、ゴルフボール等の製品と、ゴルフクラブヘッド等の衝突対象との衝突速度Vを、ゴルフボールモデル10と、剛体壁モデル11との衝突速度として入力する。ここで、衝突速度Vとは、製品と、衝突対象との衝突直前の相対速度である。そして、ゴルフボールモデル10の入力値として、カバー層12の比重と、ポアソン比と、ヤング率と、応力緩和曲線と、コア層13の比重と、ポアソン比と、ヤング率と、応力緩和曲線とを入力する。なお、カバー層12およびコア層13のポアソン比は、いずれも、応力−ひずみ曲線(SSカーブ)より決定される。このカバー層12およびコア層13の応力−ひずみ曲線は、製品としてのゴルフボールの表面を覆うカバーおよびコアを構成する素材についてのそれぞれ純せん断試験により測定することにより得られる。
【0009】
また、カバー層12およびコア層13の応力緩和曲線は、いずれもS=−a×ln(t)−11.513×a+1とされ、カバー層12およびコア層13の応力緩和係数は、いずれも、a=0.0018×V+0.06とされている(ただし、製品としてのボルフボールと衝突対象としてのゴルフクラブとが衝突した際に、ゴルフボールに生じる応力値をSとする。また、ゴルフボールとゴルフクラブヘッドとが接触してからの経過時間をtとする。さらに、応力緩和係数をaとし、さらに、製品としてのゴルフボールと、衝突対象としてのゴルフクラブヘッドとの衝突速度をVとする。)。
【0010】
このように、衝突速度Vの値に応じて得られる応力緩和係数aを用いて算出される応力緩和曲線を、ゴルフボールモデル10のカバー層12と、コア層13の入力値として入力する。なお、本実施の形態においては、カバー層12と、コア層13との応力緩和曲線は、同一の応力緩和曲線を用いているが、カバー層12とコア層13ごとに応力緩和曲線を入力するようにしてもよい。
【0011】
応力緩和曲線は、一軸引張測定によって得られた応力緩和データをもとに算出される。図2は、B4604について、一軸引張測定を行なった結果を示すグラフである。このグラフの横軸は、対数表記された時間軸とされ、縦軸は、応力値を(Kg/mm)とされている。ここで、B4604に生じる応力と、応力を加えてからの経過時間の対数値とを線形近似して、入力値としての応力緩和曲線を算出する。具体的には、応力を加え始めたときからの経過時間において、経過時間1秒の応力値を規準として、1秒の時の応力値で他の時の応力値を割り算する。すなわち、経過時間1秒の時の応力値が相対応力値1となる。そして、応力値と、応力を加えてからの経過時間の対数値との線形関係は、0.00001秒程度の短い時間でも成立するとする。この結果得られた応力値Sと、時間tとの関係式は、S=−a×ln(t)−11.513×a+1となる。なお、上記一軸引張測定においては、装置KES−G1(カトーテック株式会社製)を用いており、あるひずみまで瞬時に伸長後、応力の時間変化を観察する。測定条件は、サンプル長さ:5.0cm、サンプル幅:0.30cm、厚さ:0.07cm、ひずみ:0.5%、測定温度:25℃(室温)とした。
【0012】
ここで、応力緩和係数aと、衝突速度Vとの関係式の算出方法について、説明する。まず、実験により、ゴルフボールについて、各種衝突速度における反発係数を実測する。図3は、ゴルフボールの反発係数を測定する反発係数測定装置50の概略構成を示す正面図である。この図3に示されるように、反発係数測定装置50は、空圧でゴルフボール60を打ち出すエアガン52と、打ち出されたゴルフボール60が当接する鉄板51と、ゴルフボール60の速度を測定する速度計測装置53とを備えている。ゴルフボール60としては、ブリヂストンスポーツ株式会社製の商品名「スカイウエイ:Skyway:SD432」が用いられている。このゴルフボール60は、ツーピースゴルフボールで、カバー材はアイオノマー樹脂、コア材はブタジェンラバーから構成されている。
【0013】
速度計測装置53は、ゴルフボール60を感知するセンサー55、56と、センサー55、56からの信号に基づいてゴルフボール60の速度を算出する演算部54とを備えている。センサー55と、センサー56とは、ゴルフボール60の進行方向に離間して配置されている。鉄板51は、重さ110Kg、たて寸法400mm、横寸法480mm、厚さ22mmとされており、剛体壁とみなすことができる。なお、本実施の形態においては、センサー55、56は、株式会社キーエンス製FS−M1Hが用いられ、演算部54としては、株式会社キーエンス製KZ−300(プログラマブルコントローラ)が用いられている。
【0014】
このように構成された反発係数測定装置50においては、まず、エアガン52からゴルフボール60が所定の速度で打ち出される。そして、ゴルフボール60は、センサー55およびセンサー56に順次感知される。この際、演算部54が、ゴルフボール60の鉄板51への入射速度を算出する。さらに、ゴルフボール60は、鉄板51に衝突して、跳ね返る。そして、跳ね返ったゴルフボール60は、センサー56およびセンサー55に順次感知される。また、演算部54が、ゴルフボール60の反射速度を算出する。このようにして検出されたゴルフボール60の入射速度Vinと、ボルフボール60の反射速度Voutから、ゴルフボール60の反発係数e(=Vout/Vin)が算出される。
【0015】
【表1】

【0016】
上記表1は、コア材として、B4604が用いられ、カバー材として424が用いられたゴルフボールについて、各種入射速度に対する反発係数を示したものである。そして、図8は、表1に示された測定結果を、グラフにより表示したものである。この図8は、横軸にゴルフボールの入射速度をとり、縦軸に反発係数をとったグラフである。このグラフから分かるように、ゴルフボールの入射速度と、反発係数は、線形関係にある。
【0017】
このように、ゴルフボールの各種衝突速度と、反発係数との関係を実測する一方で、衝突速度を一定とした場合の反発係数を演算する。具体的には、図1に示されたゴルフボールモデル10と、剛体壁モデル11とを設定して、MARCプログラムを用いて、衝突速度Vを一定とし、応力緩和係数aの値を順次変化させて、各応力緩和係数ごとに反発係数を算出する。なお、反発係数の算出は、有限要素法が用いられる。図4は、衝突速度Vを一定とし、応力緩和係数aの値を順次変化させて、反発係数Rと係数aとの関係を示したグラフである。具体的には、衝突速度を30(mm/ms)、35(mm/ms)、40(mm/ms)、45(mm/ms)、50(mm/ms)に固定し、各衝突速度において、応力緩和係数aを0.11、0.12、0.13、0.14、0.15としたときの反発係数Rを算出する。そして、図4に示されたグラフは、横軸が応力緩和係数aとされ、縦軸が反発係数Rとされ、算出された結果がプロットされている。そして、各衝突速度30(mm/ms)、35(mm/ms)、40(mm/ms)、45(mm/ms)、50(mm/ms)について、近似式を算出して、図4に示されたグラフには、各近似結果が表示されている。この図4に示された応力緩和係数a−反発係数R座標系を座標変換して、図5に示す衝突速度V−反発係数R座標系に変換する。図5は、応力緩和係数aを0.11、0.12、0.13、0.14、0.15に固定し、衝突速度Vを順次変化させたときに、衝突速度Vと反発係数Rとの関係を示したグラフである。この図5に示されるように、図4に示されたシミュレーション結果についても、図5に示されたグラフ上に表示されている。
【0018】
ここで応力緩和係数が0.11、衝突速度Vが30(mm/ms)における反発係数をR(0.11、30)とする。また、応力緩和係数が0.11、衝突速度Vが35(mm/ms)における反発係数をR(0.11、35)とする。さらに、応力緩和係数が0.11、衝突速度Vが40(mm/ms)における反発係数をR(0.11、40)とする。そして、応力緩和係数が0.11、衝突速度Vが45(mm/ms)における反発係数をR(0.11、45)とする。また、応力緩和係数が0.11、衝突速度Vが50(mm/ms)における反発係数をR(0.11、50)とする。そして、図5のグラフ上にプロットされた点a1(30mm/ms、R(0.11、30))、点a2(35mm/ms、R(0.11、35))、点a3(40mm/ms、R(0.11、40))、点a4(45mm/ms、R(0.11、45))、点a5(50mm/ms、R(0.11、50))から一次の近似式を算出する。そして、この求められた近似結果を図4に示されたグラフ上に記述して、基準線A1とする。
【0019】
また同様に、応力緩和係数aが0.12、0.13、0.14、0.15の場合においても、一次の近似式を算出する。そして、これら算出された近似結果を図4に示されたグラフ上に記述する。このようにして、応力緩和係数aを0.12に固定したときの近似結果である基準線A2と、応力緩和係数aを0.13に固定したときの近似結果である基準線A3と、応力緩和係数aを0.14に固定したときの近似結果である基準線A4と、応力緩和係数aを0.15に固定したときの近似結果である基準線A5とが図4に示されるグラフ上に記述される。
【0020】
そして、この図5に示されたグラフ上に、上記表1に示された測定値をプロットする。具体的には、グラフ上に(31.58、0.812)、(37.17、0.793)、(40.86,0.779)、(43.77,0.767)、(48.43,0.747)、(52.03,0.735)等の点をプロットする。
【0021】
そして、プロットされた測定値の近傍の基準線A1〜A5と、測定値との距離に基づいて、各測定値の応力緩和係数を算出する。具体的には、プロットされた測定値の直下に位置する基準線A1、A2、A3、A4、A5とプロットされた測定値との距離と、プロットされた点の直上に配置された基準線A1、A2、A3、A4、A5とプロットされた測定値との距離とから、プロットされた各測定値(31.58、0.812)、(37.17、0.793)、(40.86,0.779)、(43.77,0.767)、(48.43,0.747)、(52.03,0.735)の応力緩和係数aを比例計算から算出する。このようにして、実測の衝突速度Vが31.58m/s、37.17m/s、40.86m/s、43.77m/s、48.43m/s、52.03m/s、における応力緩和係数aが求められる。そして、実測の衝突速度に対応する応力緩和係数と、各実測の衝突速度とを線形近似する。これにより、衝突速度Vと、応力緩和係数aとの関係式が、a=0.0018×V+0.06と算出される。このように、本実施の形態においては、実測された反発係数にもとづいて、衝突速度Vと、応力緩和係数aとの関係式を算出している。なお、ゴルフボールとゴルフクラブヘッドとの衝突速度は、30m/s以上60m/s以下程度であり、このときの応力緩和係数は、0.114以上0.168以下程度となる。
【0022】
なお、ゴルフボールモデル10のムーニー材料の定数(C01、C02、C11)は、一軸伸長測定により得られた応力−伸長比曲線により得られた応力緩和データをもとに設定されている。なお、この一軸伸長測定においては、カトーテック株式会社製の装置KES−G2(改良型)を用いた。測定条件は、サンプルサイズ:10cm×10cm、チャック間距離:7.5cm、有効試料幅(応力を算出するための断面積算出に利用):6.5cm、ひずみ速度:100%/min(1分間に2倍にのばす)、測定温度:25℃(室温)とした。この結果により、ムーニー材料の定数(C01、C02、C11)を算出した。
【0023】
図6は、B4604、B5204、B5402のボルフボールのコアを構成する材料について、各種衝突速度について反発係数を測定した測定結果を示すグラフである。この図6においては、横軸が衝突速度とされ、縦軸が反発係数とされている。そして、この図6に示されるように、B4604、B5204、B5402のいずれにおいても、反発係数と、衝突速度との関係は近似している。具体的には、各衝突速度におけるB4604、B5204、B5402の反発係数が近似している。
【0024】
すなわち、一般的なゴルフボールであれば、各衝突速度における反発係数は、近似することが分かる。このため、上記衝突速度Vと応力緩和係数aとの関係を算出するために用いたゴルフボール以外のゴルフボールについても上記算出された衝突速度Vと、応力緩和係数aとの関係式、a=0.0018×V+0.06を用いることができる。
【0025】
そして、上記のようにして求められたゴルフボールモデル10の入力値を入力し、初期値を入力してゴルフボールの反発係数を算出する。図7は、上記ゴルフボール60について、種々の衝突速度に対する反発係数を実測したものと、本実施の形態に係るシミュレーション方法を用いて、種々の衝突速度に対する反発係数を表示したグラフである。なお、この図7において、実験値は□により示されており、本実施の形態に係るシミュレーション結果は、●により示されている。なお、○は、弾性のみを考慮し、粘性を無視したときのシミュレーション結果である。この図7に示されるように、本実施の形態に係るシミュレーション結果は、実験値に近似しており、非常に精度よく反発係数を予測することができることが分かる。
【0026】
本実施の形態に係るシミュレーション方法によれば、粘弾性材料を含むゴルフボール等の製品の性能を正確に予測するために、応力緩和曲線を考慮に入れてシミュレーションしており、さらに、衝突速度Vに応じて応力緩和係数aが変動するように設定されているため、より正確に反発係数R等の性能を算出することができる。また、この応力緩和係数aと衝突速度Vとの関係式、a=0.0018×V+0.06は、一般的なゴルフボールであれば適用することができるので、本実施の形態に係るシミュレーション方法は、汎用性がある。このため、ゴルフボールの種類ごとに応力緩和係数aと、衝突速度Vとの関係を算出する必要がなく、入力値の算出の労力を低減することができ、入力を簡易なものとすることができる。さらに、入力値である応力−歪み曲線は、静的な実験である純せん断試験により測定することができ、容易に計測することができる。そして、応力緩和曲線も、静的な実験である応力緩和試験により測定することができ、容易に応力緩和曲線を得ることができる。このように本実施の形態に係るシミュレーション方法においては、入力値の算出は、比較的容易な静的な実験から算出することができ、入力値の算出を容易にすることができる。なお、本実施の形態に係るシミュレーション方法は、ゴルフボールモデル10のカバー層12と、コア層13との入力値である応力緩和曲線は、いずれも同一の応力緩和曲線を用いているため、計算を迅速に行なうことができる。ここで、カバー層12を構成する材料と、コア層13を構成する材料とは、いずれも近似する素材から構成されている。このため、カバー層12と、コア層13との応力緩和曲線は、近似しており、カバー層12とコア層13との応力緩和曲線を同一の応力緩和曲線としても、算出される反発係数の精度に与える影響は小さく抑えられている。
【0027】
このように、本実施の形態に係るシミュレーション方法によれば、容易に入力値を求めることができ、迅速にゴルフボールの反発係数等を算出することができ、ゴルフボールの性能を予測することができる。なお、本実施の形態においては、ゴルフボールの反発係数を算出することとしているが、これに限られない。例えば、反発速度等も算出することができ、ゴルフボールがゴルフクラブヘッド等に衝突した際のゴルフボールの性能を予測することができる。また、本実施の形態においては、ゴルフボールの性能を測定する場合について適用しているが、これに限られない。すなわち、本実施の形態に係る製品の性能を予測可能なシミュレーション方法によれば、片面衝突する製品の性能を解析するものであれば、同様に製品の反発係数等の性能を予測することができる。例えば、野球用ボールやソフトボール用ボール、テニス用ボール、パークゴルフ用ボール、バドミントン用シャトルコック等が、バットやテニスラケットなどの衝突対象に衝突した際の反発係数を予測することができる。なお、片面衝突とは、拘束されていない状態の製品に対して衝突対象が一方の面からのみ衝突することを意味する。
【0028】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、粘弾性材料からなる製品と、衝突対象物とが衝突する際に、製品の性能を予測するシミュレーション方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】製品モデルと、剛体壁モデルを示す正面図である。
【図2】B4604について、一軸引張測定を行なった結果を示すグラフである。
【図3】ゴルフボールの反発係数を測定する反発係数測定装置の概略構成を示す正面図である。
【図4】応力緩和係数aを順次変化させたときの反発係数Rと係数aとの関係を示したグラフである。
【図5】応力緩和係数aを固定し、衝突速度Vを順次変化させた場合に、衝突速度Vと反発係数Rとの関係を示したグラフである。
【図6】種類のゴルフボールを用いて、衝突実験を行なった結果を示したグラフである。
【図7】反発係数を実測したものと、シミュレーション方法を用いて、種々の衝突速度に対する反発係数を表示したグラフである。
【図8】表1に示された測定結果を、グラフにより表示したものである。
【符号の説明】
【0031】
10 ゴルフボールモデル、10a 要素、11 剛体壁モデル、12 カバー層、13 コア層、50 反発係数測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘弾性材料を含む製品と、該製品と衝突する衝突対象とが衝突した際の前記製品の性能を予測可能なシミュレーション方法であって、
複数の層に分割された製品モデルと、衝突対象モデルを設定し、
初期値として、前記製品と前記衝突対象との衝突速度を入力し、
前記製品モデルの入力値として、
前記各層ごとのヤング率と、ポアソン比と、比重と、
前記製品と前記衝突対象との衝突速度の値に応じて得られる応力緩和係数を用いて算出された前記各層ごとの応力緩和曲線と、
を入力する、
前記製品の性能を予測可能なシミュレーション方法。
【請求項2】
前記製品の一部に応力を加えてからの経過時間の対数値と、前記製品の一部にかかる応力とを線形近似することで、前記応力緩和曲線を算出した、請求項1に記載の製品の性能を予測可能なシミュレーション方法。
【請求項3】
各種衝突速度における前記製品の反発係数を測定し、
前記衝突速度を一定にし前記応力緩和係数を変化させた場合の各応力緩和係数に対する反発係数を演算し、
前記演算された前記反発係数と、前記反発係数の測定値とに基づいて前記各測定値における各応力緩和係数を算出し、
前記衝突速度と前記応力緩和係数との関係式を算出した、請求項2に記載の製品の性能を予測可能なシミュレーション方法。
【請求項4】
前記反発係数の演算結果を、反発係数−衝突速度座標系にプロットし、
前記演算結果のうち、同一の前記応力緩和係数あるいはその近傍を通る基準線を前記反発係数−衝突速度座標系上に記述し、
前記反発係数の各測定値を前記反発係数−衝突速度座標系上にプロットし、
前記反発係数−衝突速度座標系上における前記各測定値と、前記各測定値の近傍の前記基準線との間の距離に応じて前記各測定値の前記応力緩和係数を算出した、請求項3に記載の製品の性能を予測可能なシミュレーション方法。
【請求項5】
前記製品に生じる応力値をSとし、前記製品と前記衝突対象とが接触してからの経過時間をtとし、前記応力緩和係数をaとし、前記製品と前記衝突対象との前記衝突速度をVとしたときに、
前記応力緩和曲線を、S=−a×ln(t)−11.513×a+1とし、
前記応力緩和係数を、a=0.0018×V+0.06とした、請求項1から請求項4のいずれかに記載の製品の性能を予測可能なシミュレーション方法。
【請求項6】
前記衝突速度は、30m/s以上60m/s以下とされ、前記応力緩和係数は、0.114以上0.168以下とされた、請求項1から請求項5のいずれかに記載の製品の性能を予測可能なシミュレーション方法。
【請求項7】
前記製品は、前記衝突対象に対して片面衝突する、請求項1から請求項6のいずれかに記載の製品の性能を予測可能なシミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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