説明

製缶用鋼板の製造方法

【課題】鋼板コイルの長手方向での板厚変動を抑制するとともに、高強度でかつ製缶加工に必要な延性を備えた缶用鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】C:0.005%以下、Mn:0.05〜0.5%、Al:0.01〜0.10%、N:0.0010〜0.0070%、B:0.15×N〜0.75×N(B/Nとして0.15〜0.75)を含み、さらに、Nb:4×C〜20×C(Nb/Cとして4〜20)、Ti:2×C〜10×C(Ti/Cとして2〜10)の1種または2種を含み、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる。Ar3変態点未満の温度で仕上げ圧延での全圧下量の5%以上50%未満の熱間圧延を施し、640〜750℃の巻取り温度で巻取り、酸洗した後、88〜96%の圧下率で冷間圧延し、400℃超〜(再結晶温度-20)℃の温度域で焼鈍する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度でかつ板厚精度の優れた製缶用鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料缶、食品缶、18リットル缶、ペール缶などの缶は、その製法(工程)から2ピース缶と3ピース缶に大別できる。
2ピース缶は、錫めっき、クロームめっき、金属酸化物被覆処理、化成処理、無機皮膜被覆処理、有機樹脂皮膜被覆処理、塗油などの処理を施した表面処理鋼板に、浅い絞り加工、DWI加工、DRD加工等の加工を施して缶底と缶胴を一体成形し、これに蓋を取りつけた2部品からなる缶である。
3ピース缶は、表面処理鋼板を円筒状または角筒状に曲げて端部同士を接合して缶胴を形成したのち、これに天蓋と底蓋を取りつけた3部品からなる缶である。
【0003】
これらの缶は、缶コストに占める素材コストの割合が比較的高い。そのため、缶コスト低減にあたっては鋼板のコスト低減への要求が強い。特に、近年の鋼板価格の高騰のため、製缶分野においては従来よりも板厚の薄い鋼板を用いることで素材コストを低減する試みがなされている。この際、板厚の低減に伴って低下する缶体の強度を行うため、強度の高い鋼板が求められる。
例えば、板厚0.14〜0.15mmの極薄の鋼板を用いる場合、3ピース缶の缶胴や天蓋、底蓋、また2ピース缶の缶底の耐圧強度を確保するためには、少なくとも引張強度(TS)で600MPa〜850MPa程度の強度が必要である。
現在、極薄で高強度の缶用鋼板は、焼鈍後に二次冷延を施すDuble Reduce法(以下、DR法と称す)で製造されている。DR法で主に製造されている鋼板の強度は、TSで550〜620MPaのレベルである。つまり、DR法は上記の0.14〜0.15mm程度の板厚で必要とされる600MPa〜850MPaの強度に対し、やや低いレベルの強度で実用化されている。
これは、以下の理由による。つまり、DR法は二次冷延による加工硬化で鋼板を強化しているため、鋼の組織的な特徴として転位密度が高い。そのために延性が乏しく、550MPa程度の材料では全伸び(El)が約4%以下、620MPa程度の材料では約2%以下である。一部、700MPa程度の強度を備えた鋼板の製造例があるが、Elが約1%以下と延性が非常に劣るため、加工の求められない極限られた用途にのみ用いられている。つまり、これらは3ピース缶、2ピース缶の缶胴、あるいは天蓋、底蓋といった缶用鋼板の主要な用途には適用されていない。
また、DR法による鋼板は、熱間圧延−冷間圧延−焼鈍−二次冷延という工程を経て製造される。すなわち、焼鈍までで終了する通常の工程に比べて工程が多く、製造コストが高くなる。このように、DR法で得られる鋼板は強度が十分でない上、延性にも劣り、かつ製造コストが高い。
そのため、こうした従来のDR材の欠点を解決する方法が検討されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には極低炭素鋼に炭窒化物形成元素であるNbを添加し、熱間圧延をAr3点以下のいわゆるα領域で行い、冷間圧延した後、焼鈍を行わないことを特徴とする缶用鋼板の製造方法が開示されている。しかし、特許文献1の技術で得られる鋼板は冷間圧延ままの状態であるため延性に劣り、用途によっては十分な加工性を備えない。
【0005】
こうした点を改善する技術として、特許文献2には極低炭素鋼に炭窒化物形成元素であるNb、Tiを添加し、熱間圧延をAr3点以下で行い、冷間圧延した後、低温焼鈍を行うことで延性を改善する技術が開示されている。ここでいう低温焼鈍とは再結晶が生じない温度で行うものであるため、加熱のためのエネルギーコストは低減される。
また、特許文献3では極低炭素鋼に炭窒化物形成元素であるNb、Ti、Zr、V、Bを添加し、熱間圧延をAr3点以下で行い、冷間圧延した後、再結晶温度以下の温度で焼鈍を行う技術が開示されている。
【特許文献1】特開平4−280926号広報
【特許文献2】特開平8−41549号広報
【特許文献3】特開平6−248339号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1から3の背景技術で共通する特徴は、鋼に極低炭素鋼を用いる、さらには炭窒化物形成元素を添加する、熱間圧延をAr点以下の温度で行うことである。しかし、こうした条件で製造した鋼板では、鋼板コイル長手方向での板厚均一性が劣るという問題がある。
また、特許文献2と特許文献3では再結晶を伴わない焼鈍を行うことで、高い強度の鋼板を得るものだが、これらで行われている熱間圧延は、Ar点以下で40%または50%以上の圧延を行うものであり、この場合、再結晶を伴わない焼鈍でも本発明で目標とするTS600MPa〜850MPaの強度が得られない。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、鋼板コイルの長手方向での板厚変動を抑制するとともに、高強度でかつ製缶加工に必要な延性を備えた缶用鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]成分組成として、質量%で、C:0.005%以下、Mn:0.05〜0.5%、Al:0.01〜0.10%、N:0.0010〜0.0070%、B:0.15×N〜0.75×N(B/Nとして0.15〜0.75)を含み、さらに、Nb:4×C〜20×C(Nb/Cとして4〜20)、Ti:2×C〜10×C(Ti/Cとして2〜10)の1種または2種を含み、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる鋼を、連続鋳造によりスラブとし、粗圧延の後、仕上げ圧延を行うにあたり、Ar3変態点未満の温度で、仕上げ圧延での全圧下量の5%以上50%未満の熱間圧延を施し、次いで、640〜750 ℃の巻取り温度で巻取り、酸洗した後、88〜96%の圧下率で冷間圧延し、次いで、400℃超〜(再結晶温度-20)℃の温度域で焼鈍することを特徴とする製缶用鋼板の製造方法。
【0009】
なお、本発明において、鋼の成分を示す%は、すべて質量%である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高強度でかつ製缶加工に必要な延性を備え、鋼板コイルの長手方向での板厚変動を抑制した鋼板が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明者らは、炭窒化物形成元素を添加した極低炭素鋼をAr3点以下の温度で熱間圧延しさらに冷間圧延した際の鋼板コイル長手方向での板厚変動について検討を行うことで、本発明を完成するに至った。以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
まず、鋼成分の限定理由についてそれぞれ述べる。
C:0.005%以下
本発明は再結晶を伴わない焼鈍を行うことで高強度を備えつつ延性を備えた鋼板を得る缶用鋼板の製造方法である。そのために、鋼成分として延性を劣化させる炭素を低減した極低炭素鋼を用いる必要がある。Cが0.005%超えると延性に劣る状態となり、製缶加工に適さない。よって、Cの含有量は0.005%以下とする。好ましくは、0.003%以下である。尚、Cの含有量は低いほど望ましいが、Cの含有量を低減するためには脱炭操作に時間を要して製造コストの上昇をまねく。よって、C含有量の下限は0.0005%以上が好ましく、より好ましくは0.0015%以上である。
Mn:0.05〜0.5%
Mn含有量が0.05%未満では、S含有量を低下させたとしてもいわゆる熱間脆性を回避することが困難で、表面割れ等の問題を生ずることがある。一方、0.5%を超えると、変態点が低下しすぎて、変態点以下の圧延を行った場合に望ましい組織を得ることが困難となる。従って、Mn含有量は0.05%以上0.5%以下とする。なお、加工性を特に重要視する場合は0.20%以下とするのが好ましい。
S:0.008%以下(好適条件)
Sは特に本発明の鋼板特性に影響を及ぼすことはない。しかし、S量が0.008%超えになると、N量が0.0044%を超えて添加される場合、多量に発生したMnSを析出核にして窒化物および炭窒化物であるBN、Nb(C、N)、AlNが析出し熱間延性を低下させる。したがって、S量は0.008%以下とすることが望ましい。
Al:0.01〜0.10%
Al量が0.01%未満では脱酸効果が十分に得られない。また、NとAlNを形成することにより鋼中の固溶Nを減少させる効果も十分に得られなくなる。一方、0.10%を超えるとこれらの効果が飽和するのに加え、アルミナ等の介在物を生じやすくなる。よって、Al量は0.01%以上0.10%以下とする。
N:0.0010〜0.0070%
Nを0.0010%未満にすると、鋼板の製造コストが上昇し、安定的な製造も困難になる。また、本発明では、後述のようにBとNの比が重要であり、N量が少ないと、BとNの比を一定範囲に保つためのB量の制御が困難になる。一方、Nが0.0070%超えでは、鋼の熱間延性が劣化する。これは、N量が0.0070%より大きくなると、BN、Nb(N、C)、AlNなどの窒化物および炭窒化物が析出することで脆化が起るためで、特に連続鋳造時にスラブ割れが発生する危険性が増す。スラブ割れが発生すると、スラブ割れの部分についてコーナー部の切断やグラインダーでの研削作業の工程が必要となり、多くの労力とコストがかかるために生産性を大きく阻害する。よって、N量は0.0010%以上0.0070%以下とする。好ましくは、0.0044%以下である。
B:0.15×N〜0.75×N
Bは、本発明において鋼板の特性に対して大きな影響力をもつ重要な元素である。
本発明では、(1)鋼に極低炭素鋼を用い、(2)炭窒化物形成元素を添加し、(3)熱間圧延をAr点以下の温度で行う。しかし、こうした条件で製造した鋼板では、鋼板コイル長手方向での板厚均一性が劣るという問題があった。そこで、本発明では、この現象に関して詳細に検討した結果、鋼にBを適量添加することで、鋼板コイル長手方向での板厚均一性を良好に保てるとの知見を得た。これは、以下の機構に基づくものであると考えられる。まず、鋼板コイル長手方向での板厚の不均一性は、熱間圧延鋼板の段階で発生していた。これは、炭窒化物形成元素を添加した極低炭素鋼は、Ar点においてオーステナイトからフェライトに変態する際に変形抵抗が不連続に変化するため、熱間圧延スタンド間で変態が生じると、スタンド間張力、圧延荷重の変動が生じ、結果、板厚の変動をもたらすと考えられる。Bを添加することでこのような変形抵抗の不連続な変化が抑制され、板厚均一性が改善すると考えられる。つまり、本発明で重要な点は、Bの添加量を適切に規定し変形抵抗の不連続な変化が抑制することにある。検討の結果、Bの添加量はBNを形成するNの添加量と適切な関係で添加することが必要で、こうした効果を得るためには質量比で0.15×N以上のBの添加が必要であることがわかった。一方、質量%で0.75×N以上のBを添加すると上記の効果が飽和することに加え、コストの上昇を招く。よって、Bの添加量は0.15×N〜0.75×Nとする。
Nb:4×C〜20×C、Ti:2×C〜10×Cの1種または2種
Nbは炭窒化物形成元素であり、鋼中のC、Nを析出物として固定することで固溶C、Nを低減し、後述の焼鈍での回復を促進させる効果がある。その効果を十分に発揮させるために、質量比で4×C以上の添加量が必要である。一方、Nb添加量が多すぎると、固溶Cを減少させる働きが飽和することに加え、Nbは高価であることから生産コストも上昇する。そのため、Nb量を20×C以下に抑える必要がある。よって、Nb量は質量比で4×C〜20×Cの範囲とする。
Tiは炭窒化物形成元素であり、鋼中のC、Nを析出物として固定することで固溶C、Nを低減し、後述の焼鈍での回復を促進させる効果がある。その効果を十分に発揮させるために、質量比で2×C以上の添加量が必要である。一方、Ti添加量が多すぎると、固溶Cを減少させる働きが飽和することに加え、Tiは高価であることから生産コストも上昇する。そのため、Ti量を10×C以下に抑える必要がある。よって、Ti量は質量比で2×C〜10×Cの範囲とする。
【0013】
なお、上記以外の残部はFe及び不可避的不純物からなる。不可避的不純物として、例えば、以下の元素を本発明の作用効果を害さない範囲で含有してもよい。
Si:0.020 %以下
Si含有量が0.020 %を超えると、鋼板の表面性状が劣化し、表面処理鋼板として望ましくないばかりでなく、鋼が硬化して熱間圧延工程が困難化する。従って、Si含有量は0.020 %以下が好ましい。
P:0.020 %以下
P含有量の低減により、加工性の改善と耐食性の改善効果が得られるが、過度の低減は、製造コストの増加につながるため、これらの兼ね合いから、P含有量は0.020 %以下が好ましい。
上記成分の他に、Cr、Cu等の不可避的不純物が含まれるが、これらの成分は特に本発明の鋼板特性に影響を及ぼすことがないため、その他の特性に影響がない範囲で適宜含むことができる。また、鋼板の特性に悪影響を及ぼさない範囲で、上記以外の元素の添加を行なうこともできる。
【0014】
次に、製造条件についての限定理由について述べる。
本発明の製缶用鋼板は、上記化学成分範囲に調整された鋼を、連続鋳造によりスラブとし、粗圧延した後、仕上げ圧延を行うにあたり、Ar3 変態点未満の温度で、仕上げ圧延での全圧下量の5%以上50%未満の熱間圧延を行う。次いで、640〜750 ℃の巻取り温度で巻取り、酸洗した後、88〜96%の圧下率で冷間圧延し、400℃超〜(再結晶温度-20)℃の温度域で焼鈍する。これらについて以下に詳細に説明する。
熱間圧延条件:Ar3変態点未満の温度で、仕上げ圧延での全圧下量の5%以上50%未満
熱間圧延の条件は本発明において重要な要件である。本発明では冷間圧延後の最終的な板厚を0.14〜0.15mm程度を目標とし、少なくとも0.18mm以下とする。そのため、熱延鋼板の板厚は、冷間圧延での負荷を考慮すると3.0mm以下とすることが望ましい。この程度の熱延鋼板の板厚の場合、熱延鋼板の幅方向の全てにおいて仕上げ温度をAr3変態点以上に確保しようとすると、場合により温度の低下しやすい板巾エッジ部と、比較的温度が低下し難い板幅中央部とで温度差が生じ、均一な材質が得にくい。その点、比較的温度の低いAr3変態点未満とすると、相対的に幅方向での温度差は低減でき、材質も均一化される。ただし、Ar3 変態点未満の熱間圧延では、鋼板コイル長手方向での板厚均一性が劣るという問題があった。しかし、本発明では前述のとおりBを適量添加することでこの問題を解決する。
また、本発明では、仕上げ圧延において、Ar3 変態点未満の温度で、仕上げ圧延での全圧下量の5%以上50%未満の熱間圧延を行う。これは、本発明の目標が冷間圧延および再結晶を伴わない焼鈍の後のTSを600〜850MPaとするためである。仕上げ圧延においてAr3変態点未満の熱間圧延を行うと、熱延鋼板の粒径は粗大化し、熱延鋼板の強度は低下する傾向にある。そのため、冷間圧延後、また、再結晶と伴わない焼鈍の後の強度も低下することになる。仕上げ圧延において、Ar3変態点未満の温度で、仕上げ圧延での全圧下量の50%以上とした場合、この傾向が特に顕著で、本発明の目標とするTS600〜850MPaが得られない。これは、Ar3変態点未満の温度で仕上げ圧延での全圧下量の50%以上の仕上げ圧延では熱間圧延後のα相が比較的高い圧延率によって導入された歪みを駆動力として完全に再結晶、粒成長したα相となるためであると考えられる。Ar変態点未満で、仕上げ圧延での全圧下量の50%未満とすることで、この歪みに誘起された再結晶と粒成長が抑制され、熱延鋼板の粒径の粗大化、硬度低下が抑制される。そして、冷間圧延後、また、再結晶と伴わない焼鈍の後の強度の低下も抑制され、本発明の目標とする強度が得られることになる。
一方、Ar 変態点未満での圧延は、仕上げ圧延における全圧下量の少なくとも5%以上とする。5%未満の圧下量では、Ar 変態点以上の高温での圧下が全圧下量の95%以上で行われることになり、板巾方向ので温度の不均一が生じた際に板厚、材質の不均一が生じる。
ここで、仕上げ圧延での全圧下量の5%以上50%未満の熱間圧延とは、例えば、以下のとおりである。連続鋳造で製造したスラブの厚さを250mmとし、加熱炉でスラブを再加熱した後、粗圧延で厚さ35mmの粗バーとし、その後に仕上げ圧延を行う場合、仕上げ圧延後の板厚を2.0mmとすれば、仕上げ圧延の全圧下量は35mmから2.0mmとなり、このうちAr変態点未満で行う全圧下量の50%未満の熱間圧延とは、18.5mm未満の板厚から仕上げ圧延後の板厚である2.0mmまでの圧延を行うことに相当する。また、Ar変態点未満で行う全圧下量の5%以上の熱間圧延とは、3.5mm以上の板厚から仕上げ圧延後の板厚である2.0mmまでの圧延を行うことに相当する。
なお、Ar3変態点は、熱間圧延時の加工および熱履歴を再現した加工熱処理試験を実施した際の、Ar3変態に伴う体積変化が生じる温度として求めることができる。本発明で規定した鋼成分のAr3変態点は概ね900℃付近であり、仕上温度はこれより低い温度であればよいが、確実にこれを達成するには860℃以下とすることが望ましい。
尚、仕上圧延機入側温度は950 ℃以下とすることにより、熱間圧延を確実にAr3 変態点以下とすることができる上、組織の均一化を図ることができるため、本発明においてはより好ましい。詳細な機構については十分に解明できていないが、仕上げ圧延開始直前のオーステナイト粒径が関係しているものと推定される。スケール疵発生防止の観点から、920 ℃以下にすることがさらに望ましい。
巻取温度:640 〜 750℃
巻取温度は、次工程である酸洗・冷間圧延に支障をきたさないように設定することが必要である。即ち、750 ℃を超える温度で巻き取った場合は、鋼板のスケール厚みが顕著に増大し、酸洗時の脱スケール性が悪化することに加え、鋼板自身の高温強度の低下に伴い、コイルの変形などの問題が生ずる。一方、640 ℃未満だと、NbCが析出しなくなり、延性を劣化させる固溶Cの低減が図れない。以上より、巻取り温度は640℃以上750℃未満とする。
酸洗
巻取後の熱延鋼板は、冷間圧延を行う前にスケール除去のため、酸洗を施す。酸洗は常法にしたがって行えばよい。
酸洗後の冷間圧延条件:圧下率88〜96%
酸洗後の冷間圧延は、圧下率を88〜96%とする。圧下率が88%未満だと、熱延鋼板の板厚を1.6mm以下とする必要があり、本発明のその他の条件を満たしても熱延鋼板の温度均一性を確保することが困難となる。また、上限は、必要とされる製品の強度と厚み、熱間圧延・冷間圧延の設備能力に依存するものであるが、96%を超えて圧延すると延性の劣化を回避することが困難となる。
冷間圧延後の焼鈍:400℃越え〜(再結晶開始温度−20)℃以下
熱処理(焼鈍)は、400℃越え〜再結晶開始温度−20℃以下の温度域で行う。
本発明における焼鈍の目的は、冷間圧延で導入した歪を開放することで、延性を回復させることである。400℃以下では、十分に歪みが解放されず、延性の回復が十分ではない。一方、再結晶温度以上になると、再結晶粒が形成されて発明の目標とする強度が得られない。また、再結晶温度の直下では、強度が温度に対して急激に変化するため、鋼板の全体に渡り均一な強度が得られにくくなる。そのため、均一な材質が得られる上限の温度として(再結晶開始温度−20℃)とする。なお、再結晶した粒と回復しただけの粒は、光学あるいは電子顕微鏡による観察で識別可能である。強度確保の観点からより好ましい上限温度は、再結晶開始温度−30℃である。
なお、本発明の鋼板組成および冷間圧延条件において再結晶開始温度は概ね650〜690℃である。焼鈍時の均熱時間は10s以上、90s以下とすることで、本発明の目標とする温度が得られる。こうした均熱時間で焼鈍を行うため、本発明では連続焼鈍炉で焼鈍することが好ましい。
【実施例1】
【0015】
以下、実施例について説明する。
【0016】
表1に示す成分を含有する種々の鋼を溶製して厚さ250mmのスラブとし、加熱温度1100〜1250℃で加熱した後、粗圧延で厚さ35mmの粗バーとした後、表2に示す熱間圧延条件、すなわち仕上げ温度、Ar 変態点未満での圧下量(仕上げ圧延における全圧下量に対する割合)、巻取り温度で熱間圧延を行った。次いで、酸洗した後、表2に示した圧延率で冷間圧延し、焼鈍温度で均熱時間10sから45sの焼鈍をおこなった。
【0017】
【表1】

【0018】
以上により得られた鋼板に対して、まず、板厚変動を評価した。
板厚変動は、冷間圧延後の板厚を冷間圧延設備に設置したX線板厚計により鋼板コイル長手の全長について測定し、平均板厚に対する変動率で評価し、変動率が製品として許容できる±3%以下のものを合格として○で示し、±3%超えのものを不合格として×で示した。さらに、板圧変動が3%以下であるものに対して、JIS Z 2241に準じて、引張試験を行って引張強度:TSおよび全伸び:Elを評価した。ここで、引張強度については本発明の目的である600MPa以上850以下のものを合格として○とし、それ以外を×とした。全伸び:Elについては、本発明の目的とする4%以上のものを合格として○とし、それ以外を×とした。
以上の結果を製造条件と併せて表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
表2より、本発明例で規定した条件を満たすことで板圧変動が抑制され、かつ目的の強度と延性を備えた鋼板を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成として、質量%で、C:0.005%以下、Mn:0.05〜0.5%、Al:0.01〜0.10%、N:0.0010〜0.0070%、B:0.15×N〜0.75×N(B/Nとして0.15〜0.75)を含み、さらに、Nb:4×C〜20×C(Nb/Cとして4〜20)、Ti:2×C〜10×C(Ti/Cとして2〜10)の1種または2種を含み、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる鋼を、連続鋳造によりスラブとし、粗圧延の後、仕上げ圧延を行うにあたり、Ar3変態点未満の温度で、仕上げ圧延での全圧下量の5%以上50%未満の熱間圧延を施し、次いで、640〜750 ℃の巻取り温度で巻取り、酸洗した後、88〜96%の圧下率で冷間圧延し、次いで、400℃超〜(再結晶温度-20)℃の温度域で焼鈍することを特徴とする製缶用鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2010−150571(P2010−150571A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327064(P2008−327064)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】