説明

製鉄方法

【課題】 既存の製鉄プロセスを利用しながら、更なる鉄鋼の生産効率の向上、二酸化炭素排出量及び製造コストの低減を図ることが可能な製鉄方法を提供する。
【解決手段】 高炉の羽口のブローパイプ20に設けられたランス16から、粒径が500μm以下の炭材、及び粒径100μm以下の酸化鉄微粒子等の混合複合物原料をブローパイプ20内に供給し、ブローパイプ20内を流れる熱風を利用した気相搬送により、混合複合物原料を高炉10内に羽口14から投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄方法に係り、特に製鉄に要するエネルギーの低減、低品位原料でも効率的に鉄鋼生産を行うことが可能な製鉄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼の製造は、鉄鉱石から銑鉄を生産する高炉、転炉によるもの、鉄くずなどスクラップを利用する電気炉による方法があるが、このうち、高炉、転炉による生産量が全体の約7割を占めている。近年では、近隣諸国の経済的な急成長などに伴って、世界における鉄鋼の生産量が飛躍的に増加し、原料となる鉄鉱石や石炭などの価格が急激に高騰するとともに、鉄鋼生産に伴って多くのエネルギー(日本全体の約12パーセントを消費している)、鉄鋼生産時に排出される二酸化炭素は地球温暖化の原因にもなるため、鉄鋼生産におけるエネルギーの低減化、二酸化炭素排出削減、低質原燃料の有効利用は喫緊の課題である。
【0003】
現行の高炉製鉄法では、高炉内に装入される主たる原料及び燃料は、鉄鉱石、コークスであるが、特に資源のない我が国の場合、効率的な製鉄方法の開発が求められている。このような背景の下、溶銑コストの削減を究極の目的として、我が国で稼動している高炉では、羽口からの微粉炭の吹き込み(PCI)を実施し、出銑比の向上と、コークス消費量の節減を図るとともに、コークス炉寿命の延命化を図っている。この微粉炭吹き込みは、吹き込まれた微粉炭が羽口の先端に形成されるレースウェイの内部での燃焼を促進し、炉内の通気性を保持しつつ、安定した銑鉄の製造が可能である。
【0004】
ところで、鉄鋼生産に際し、鉄鉱石は、ヘマタイト(Hemaitite、以下「H」とする)、マグネタイト(Magnetite、以下「M」とする)、ウスタイト(Wustite、以下「W」とする)の各段階を経て、鉄に還元されるが、その際の還元反応は次式の通りである。
H→M :3Fe+CO=2Fe+CO
M→W :Fe+CO=3FeO +CO
W→Fe:FeO +CO= Fe +CO
つまり、鉄鋼を生産する場合、上式の3種類の還元反応を経て鉄が作られ、同時に固体炭素との反応(浸炭)によって銑鉄が作られ、転炉によって鋼が生産されるわけであるが、その際に、還元反応の各段階で排出される二酸化炭素は膨大な量となり、各工程における二酸化炭素の削減という問題は避けて通ることのできない課題である。
【0005】
このような状況に鑑み、本発明者の一人は、従来、特開2004-35997号公報に記載されている製鉄用原料等に関する発明を提案している。同公報記載の発明は、粒径500μm〜100nmの炭材と、炭材の内部に粒径100μm〜10nmの酸化鉄微粒子を複合化した製鉄用原料、並びにその製鉄用原料を使用した製鉄方法に関するものであり、省エネルギー、省資源を目的としてなされた。同発明によれば、還元反応速度を上昇させるとともに、反応開始温度を低下させることが可能であり、前述した微粉炭吹き込みと同様に、銑鉄の生産効率の向上に寄与する発明であるが、同発明は主として鉄鉱石の予備処理を行う焼結工程での使用を想定したものであった。
【特許文献1】特開2004-359997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した微粉炭吹き込みの場合、吹き込み可能な微粉炭の量には限界があり、微粉炭を多量に吹き込むと、レースウェイ周辺に固着層が形成され、高炉内の通気性が悪化する結果、操業が不安定化し、逆に出銑比の低下を招くという課題があった。また、焼結鉱製造のエネルギーを節約し、低品位低廉な鉱石の使用を目的に、アルミニウム、マグネシウム等の発熱性粉体を、微粉炭とは個別に高炉羽口から吹き込む提案(特開昭60−43410号公報参照)もなされているが、発熱性粉体を吹き込む際に、吹き込みランスの損耗が激しく、実用化には至っていない。
一方、特開2004-35997号公報記載の製鉄用原料等に関する発明の場合、確かに高炉内での反応効率の向上に寄与することは確かであるが、炭材に酸化鉄微粒子を複合化させるための作業にエネルギーを要する。
【特許文献2】特開昭60−43410号公報
【0007】
本発明は、このような諸事情に対処するために提案されたものであって、既存の製鉄プロセスを利用しながら、更なる鉄鋼の生産効率の向上、二酸化炭素排出量及び製造コストの低減を主たる目的としている。具体的には、本発明により高炉に装入される鉄鉱石などの鉄原料、並びに還元剤として、高品位の鉄鉱石、コークスのみならず、低品位の微粉鉄鉱石や微粘結炭、バイオマスなどを使用することを可能とし、このような低品位な原料を用いた場合でも、効率的な製鉄を可能とする画期的な製鉄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、製鉄時の還元剤として機能する粒径が500μm以下の炭材等、及び製鉄時の鉄原料として機能する粒径100μm以下の酸化鉄微粒子等の混合複合物原料を、製鉄時に製鉄反応器に投入することを特徴とする。即ち、還元剤としての炭材並びに、鉄原料は、その粒径100μm以下としたサブミクロン乃至ナノオーダーの混合複合物原料を用いている。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1において、前記混合複合物原料が投入される製鉄反応器として羽口、またはブローパイプ等を有する高温反応容器を使用し、該反応容器の羽口のブローパイプ等に設けられたランスから該混合複合物原料を該ブローパイプ等に供給し、ブローパイプ等を流れる熱風を利用した気相搬送により、該混合複合物原料を反応容器内に投入することを特徴とする。高温反応容器としては、例えば高炉が代表的であるが、羽口、ブローパイプを有する電気炉、シャフト炉、ロータリーキルン、キュポラ、溶融還元炉なども含まれる。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2において、前記ブローパイプには、複数のランスが配設され、各ランスから混合複合物原料をブローパイプ内に供給することを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3において、前記混合複合物原料は、ボールミル、テーブルミル等の各種粉砕装置によって、炭材、並びに微粉鉄鉱石などの鉄原料をサブミクロン乃至ナノオーダーまで微粉化することによって製造することを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4において、前記酸化鉄微粒子等の鉄原料として各種鉄鉱石、スクラップ、ダスト類を用いることを特徴とする。各種鉄鉱石としては、酸化水酸化鉄(FeO(OH))などを主体とする難還元性鉱石およびアルミナ、シリカ等の不純物を多く含む低品位鉱石などが該当する。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5において、前記混合複合物を構成する還元剤としてバイオマス、廃プラスチック等のリサイクル原料、各種炭材を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上述のように、請求項1乃至6記載の発明によれば、製鉄時の還元剤として粒径が500μm以下の炭材等、及び製鉄時の鉄原料として粒径100μm以下の酸化鉄微粒子等の混合複合物原料を高炉などの製鉄反応器に投入している。つまり、投入される混合複合物原料は、ボールミル、テーブルミル等によってサブミクロン乃至ナノオーダーまで微粉化されたものを用いている。このため、炭材及び鉄原料は反応容器内で急速に昇温され、カップリング反応の機構によって、低温且つ高速で還元反応とガス化反応が同時に生起するため、鉄原料を効率よく還元し、浸炭することにより溶銑を生産することが可能である。つまり、製鉄エネルギーを低減するには、還元反応と、ガス化反応との相互活性化現象であるカップリング反応を利用して、還元反応の高速化を図ることが必須であるが、サブミクロン乃至ナノオーダーまで微粉化された混合複合物原料を投入することによって還元反応が高速化され、効率的に溶銑を生産することができるようになった。
【0015】
特に、請求項2記載の発明によれば、粒径が500μm以下の炭材、及び粒径100μm以下の酸化鉄微粒子等の鉄原料の双方からなる複合混合複合物原料をランスからブローパイプへ供給するようにしているため、鉄原料によるブローパイプ内壁への摩擦・衝撃を炭材によって吸収すると同時に、炭材自身の潤滑作用により軽減することができ、これにより、ブローパイプの損耗を少なくすることができる。
【0016】
さらに、請求項3記載の発明によれば、ブローパイプに複数のランスを配設し、各ランスから混合複合物原料をブローパイプ内に供給しているので、ブローパイプ内で、混合複合物原料が均一な粒子濃度となるため、ブローパイプ内の酸素を有効に利用することができ、理想的なレースウェイが高炉の羽口近傍に形成される。
【0017】
特に、請求項5記載の発明によれば、酸化鉄微粒子等の鉄原料として、酸化水酸化鉄(FeO(OH))などを主体とする難還元性鉱石およびアルミナ、シリカ等の不純物を多く含む低品位鉱石、スクラップ、ダスト類を用いているので、製鉄原料全体のコストの削減を図ることができ、ローコストでの製鉄が可能となる。
【0018】
また、請求項6記載の発明によれば、混合複合物を構成する還元剤としてバイオマス、廃プラスチック等のリサイクル原料、各種炭材を用いることができるので、低廉な製鉄原料の使用が可能である。また、各種炭化水素を前記混合複合物と同時に吹き込んだ場合には(たとえば、メタンの場合は、CH4(g)=C+2H2(g)の反応により)、炭素が前記混合複合物に付着するため、急速に昇温され、カップリング反応の機構によって、低温且つ高速で還元反応とガス化反応が同時に生起する。これにより、鉄原料を効率よく還元し、浸炭することによって溶銑を生産することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る製鉄方法の好適な実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係る製鉄方法が適用される高炉の概略図である。同図に示されるように、高炉10には、本体12の下部周囲に設けられた羽口14と、炭材及び鉄原料の混合複合物原料を供給するランス(供給管)16と、混合複合物原料投入装置18と、ブローパイプ20等とを備えて構成されている。
【0021】
高炉10の上部には、装入ベル22が設けられており、装入ベル22によって鉄鉱石並びにコークスを高炉12の内部に交互に装入するようになっている。
高炉10には、ガス温度が900°C〜1300°Cの熱風(ホットブラスト)を流速100〜250〔m/s〕で送り込むための複数のブローパイプ20が高炉10の下部周囲に設けられている複数の羽口14から挿入され、各ブローパイプ20から供給される熱風によって後述する混合複合物原料を気相搬送によって羽口14から高炉10内へ供給するようになっている。ブローパイプ20の途中には、ランス16の図示しないノズルが接続され、混合複合物原料投入装置18からランス16を介してブローパイプ20内へ混合複合物原料を投入する。投入された混合複合物原料は、ブローパイプ20内の熱風によって羽口14から高炉10内へ気相搬送され、高炉10内の羽口14の前方において急速に燃焼反応が進行し、レースウェイが形成される。
【0022】
ランス16から投入される混合複合物原料は、粒径が500μm以下の炭材、及び粒径100μm以下の酸化鉄微粒子等の鉄原料であり、炭材は、高炉10内にて、製鉄時の還元剤として機能するとともに、酸化鉄微粒子等は、鉄原料として機能する。混合複合物を構成する炭材、並びに微粉鉄鉱石などの鉄原料は、ボールミル、テーブルミル等によってサブミクロン乃至ナノオーダーまで微粉化されたものを用いる。ブローパイプ20へ投入された混合複合物は、前述したように熱風によって運ばれ、羽口を通過して、レースウェー内で急速に反応し還元を終了する。従来の微粉炭吹き込みでは、ランス16から微粉炭のみを投入していたが、本実施形態では、粒径が500μm以下の炭材、及び粒径100μm以下の酸化鉄微粒子等の鉄原料の双方からなる混合複合物をランス16から供給する点が相違している。このように、サブミクロン乃至ナノオーダーの混合複合物を供給するようにしたことで、鉄原料をランス16から供給した場合でも、ランス16やブローパイプ20の損耗を少なくすることが可能となったのである。つまり、炭材の粒径を鉄原料よりも大きくし、且つ炭材とともに混合した状態で供給することで、炭材による衝撃吸収・潤滑効果とも相まって鉄原料によるランス16やブローパイプ20に与える損耗を小さくすることが可能となった。
【0023】
次に、前述した混合複合物を使用した場合の作用について説明する。
【0024】
図2はブローパイプとランスとの関係を示した概略図であり、このうち、図2(A)は単一のランスを使用した場合を示しており、図2(B)は複数のランスを使用した場合である。
図2(A)に示されるように、ブローパイプ20Aに単一のランス16Aから混合複合物24Aを吹き込んだ際は、混合複合物24Aは収束した流れとなり、供給された酸素の一部が有効に利用されない場合もある。
そこで、図2(B)に示されるように、ブローパイプ20Bに複数のランス16Bを設けた場合には、ブローパイプ20Bの断面内で、混合複合物24Bの分散が進み均一な粒子濃度となるため、高炉12のレースウェイ内での燃焼効率が向上し、理想的なレースウェイが形成される。
【0025】
図3は、本実施形態の製鉄方法、並びに従来の製鉄方法におけるレースウェイ内反応を模式的に比較した概念図で、図3(A)が本実施形態に係る製鉄方法に使用される高炉10を示しており、図3(B)が従来の高炉を示し、中央部のグラフは各高炉の高さに対応する部分の内部温度を示している。
本実施形態の製鉄方法は前述したように、従来から行われている羽口からの微粉炭(PCI)吹き込み技術を応用したものであり、微粉炭に替えて、粒径が500μm以下の炭材、及び粒径100μm以下の酸化鉄微粒子等の鉄原料からなる混合複合物を吹き込み、これによってレースウェイ内部での燃焼反応と同時に還元反応を生起させ、羽口内製錬を超高速で行い、鉄原料を従来に比較して低温下で溶融しながら高速還元による高炉操業を可能とするものである。つまり、ブローパイプ20から熱風によって混合複合物を高炉10内に気相搬送し、低品位の鉄原料を使用可能とし、且つ低温での還元反応による環境負荷の低減を図っている。
【0026】
図3に示されるように、本実施形態の製鉄方法では、高炉10全体の高さを低くできるとともに、グラフの曲線X(本実施形態の製鉄方法)及び曲線Y(従来の製鉄方法)に示すように、リザーブゾーン温度を従来の高炉100の約1000°Cから、約700°Cに低下させることができる。また、鉄鉱石の溶解温度を従来の1550°Cから、1350°Cへと低下させることが可能となっている。従来の一般的な高炉100では約1000°Cのリザーブゾーンまでに、ヘマタイトからマグネタイト、マグネタイトからウスタイトへの還元反応が生起するが、この段階での還元率は30%前後であり、温度が1000°Cを超えてウスタイトから鉄への還元反応が活発となる。
なお、従来の高炉と同様になるが、コークス充填層を残し、熱交換用として用いた場合、混合複合物を焼結鉱と一緒に装入すること(特開2004-359997号公報)によって、充填層内の反応を促進、低温化出来る。
【0027】
一方、本実施形態の製鉄方法では、羽口内製錬を主体とするが、前期記載の充填層を併用することで、図3(A)に示す高さの低い超高速反応型低炉を実現すると同時に、熱効率を従来の高炉と同レベルに維持することが可能となったのである。
【0028】
図4は本実施形態の製鉄方法を実施した場合における温度、時間、並びに反応比との関係を示すグラフである。図4のグラフは、左横軸が高炉内の温度(°C)、横軸が経過時間(ms)、右縦軸が反応速度(reaction rate、1/s、投入された混合複合物が、1秒間当たりに反応する割合)を示している。同図に示されるように、発明者が行ったシミュレーションの結果、反応時間は27(μs)、溶融開始温度が1300°Cとなり、従来の高炉内の反応時間が約8時間、溶融開始温度が1550°Cであったのと比較すると、大幅な反応時間の短縮、溶融開始温度の低温化が図られていることが理解できる。つまり、低温下においても鉄原料の溶融が可能となる結果、コークスの使用量を劇的に減らすことができるとともに、排出される二酸化炭素を大幅に減少させることが可能となる。
【0029】
このように、溶融温度の低温化並びに超高速反応が可能となるのは、粒径が500μm以下の炭材、及び粒径100μm以下の酸化鉄微粒子等の鉄原料の双方からなる混合複合物による還元反応−ガス化反応が低温下で効率よく行われるためであると推測される。つまり、還元反応は、
FeO+C=FeOx−1+CO
一方、還元ガスの再生をつかさどるブドワー(Boudouard)反応は、
C+CO=2CO
であるが、炭材並びに鉄原料をナノ化した混合複合物によれば、還元剤であるサブミクロン乃至ナノオーダーの炭材から発生する還元ガスと、やはりサブミクロン乃至ナノオーダーの酸化鉄微粒子等の鉄原料との接触状態が長時間に亘って維持できる結果カップリング反応による促進効果が助長され、通常のガス化反応律速から脱却し、従来の製鉄方法では1000°C以上で起きていたブドワー反応を600°Cまで低温化することが可能となり、低温・超高速反応で鉄原料を還元することができるようになる。このように還元ガスの再生が低温下で行われるため、鉄原料に関しては低品位な微粉鉄鉱石のほか、粉砕されたスクラップやダスト類、又、還元剤としては、バイオマス、廃プラスチック等のリサイクル原料、各種炭材などを使用することも可能である。また、各種炭化水素を前記混合複合物と同時に吹き込むことによって、(たとえば、メタンの場合は、CH4(g)=C+2H2(g)の反応により)炭素を混合複合物に付着させることで、炭素供給量が増加し、還元反応並びに、ガス化反応の高速化、効率化に資する。
【0030】
図5は本実施形態の製鉄方法によるエネルギー低減効果等をシミュレーションによって算出した結果を示すグラフである。
図5(A)は炭素排出量、図5(B)は消費エネルギー、図5(C)は生産コストを示し、グラフの横軸は混合複合物の投入割合(鉱石+炭材の投入量に対しての割合)を示している。
図5に示されるように、混合複合物の投入割合が0%の時の出銑比が2(トン/day/m)を基準とすると、混合複合物の投入割合を75%としたときは、出銑比が10(トン/day/m)に向上するとともに、炭素排出量が11%、消費エネルギーが8%、生産コスト(固定費、人件費等)が25%の低減効果があることが明らかとなった。つまり、焼結鉱製造に要するエネルギー、コークス製造に要するエネルギー等を大幅に低減することが可能である。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の製鉄方法によれば、高炉に装入される鉄鉱石などの鉄原料並びに還元剤として、高品位の鉄鉱石、コークスのみならず、低品位の微粉鉄鉱石や微粘結炭、バイオマスなどを使用することが可能となり、かかる低品位な原料を用いた場合でも低温下での高速還元により、効率的に溶銑を行なうことができる。
【0032】
なお、本実施形態では、混合複合物を構成する鉄原料として、酸化鉄微粒子を、還元剤として炭材を用いた場合について説明したが、鉄原料には粉砕されたスクラップ、還元剤にはバイオマス等の炭化水素類を用いることが可能である。
また、各種炭化水素を前記混合複合物と同時に吹き込むことにより、より高速な還元反応が生起できる。例えば、メタンの場合は、CH4(g)=C+2H2(g)の反応により)炭素を前記混合複合物に付着させることで、炭素供給量が増加し、還元反応、ガス化反応の高速化、効率化に資する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、既存の製鉄プロセスを利用しながら、鉄鋼の生産効率の向上を図ることができるとともに、二酸化炭素排出量及び製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る製鉄方法が適用される高炉の概略図である。
【図2】同じく、本実施形態に係る羽口から高炉に挿入されるブローパイプと、ランスとの関係を示した概略図である。
【図3】同じく、本実施形態に係る製鉄方法、並びに従来の製鉄方法における高炉内のレースウェイ内反応を模式的に比較した概念図である。
【図4】同じく、本実施形態に係る製鉄方法を実施した場合における温度、時間、並びに反応比との関係を示すグラフである。
【図5】同じく、本実施形態の製鉄方法によるエネルギー低減効果等をシミュレーションによって算出した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
10 高炉
14 羽口
16 ランス
18 混合複合物原料供給装置
20 20A 20B ブローパイプ
22 装入ベル
24A 24B 混合複合物原料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄時の還元剤として機能する粒径が500μm以下の炭材等、及び製鉄時の鉄原料として機能する粒径100μm以下の酸化鉄微粒子等の混合複合物原料を、製鉄時に製鉄反応器に投入することを特徴とする製鉄方法。
【請求項2】
前記混合複合物原料が投入される製鉄反応器として羽口、またはブローパイプ等を有する高温反応容器を使用し、該反応容器の羽口のブローパイプ等に設けられたランスから該混合複合物原料を該ブローパイプ等に供給し、ブローパイプ等を流れる熱風を利用した気相搬送により、該混合複合物原料を反応容器内に投入することを特徴とする請求項1に記載の製鉄方法。
【請求項3】
前記ブローパイプには、複数のランスが配設され、各ランスから混合複合物原料をブローパイプ内に供給することを特徴とする請求項2に記載の製鉄方法。
【請求項4】
前記混合複合物原料は、ボールミル、テーブルミル等の各種粉砕装置によって、炭材、並びに微粉鉄鉱石などの鉄原料をサブミクロン乃至ナノオーダーまで微粉化することによって製造することを特徴とする請求項1〜3に記載の製鉄方法。
【請求項5】
前記酸化鉄微粒子等の鉄原料として各種鉄鉱石、スクラップ、ダスト類を用いることを特徴とする請求項1〜4に記載の製鉄方法。
【請求項6】
前記混合複合物を構成する還元剤としてバイオマス、廃プラスチック等のリサイクル原料、各種炭材を用いることを特徴とする請求項1〜5に記載の製鉄方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−274309(P2008−274309A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236786(P2005−236786)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】