説明

製鉄用非焼成塊成鉱

【課題】少ないバインダー添加量で高い強度を有し、且つ特別な成型方法などを用いることなく製造することが可能な製鉄用非焼成塊成鉱を提供する。
【解決手段】製鉄用鉄原料(A)にバインダー(B)を配合した原料を塊状に固化させた非焼成塊成鉱であって、粒径d(mm)以上の原料の累積体積率P(%)が、100×(d/D)0.1≦P≦100×(d/D)0.4 (但し、D:原料粒子中の最大粒子径(mm))を満足する。原料の粒度分布を調整して原料内の空隙率を最適化することにより、原料粒子間に働くバインダーの効率が高められ、少ないバインダー量で高い強度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉などの製鉄炉で鉄原料として用いられる製鉄用非焼成塊成鉱に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉などの堅型製鉄炉(以下、高炉を例に説明する)を用いて行われる銑鉄製造プロセスでは、炉内の原料充填層内に還元ガスを流通させるために、原料充填層内の空隙率を一定値以上に保つことが重要である。このため鉄原料などの炉内装入物は粒度分布が大きいことが望ましく、装入後に粉化するおそれがある装入物は、その強度を高めて粉化を抑制する必要がある。このため、特に大型高炉においては、粉鉱石を炭材の燃焼熱により焼き固めた焼結鉱や、粉鉱石をペレタイザーなどで球状に成形した後、1000℃以上で高温加熱硬化させた焼成ペレットなどが広く用いられている。
【0003】
一方において、特に省エネルギーを目的として、高温加熱処理しない非焼成塊成鉱に関する検討も進められてきた。この非焼成塊成鉱は、高炉への搬送中及び高炉内での衝撃に耐え得る強度が必要であり、従来はセメントなどをバインダーとして加えることで強度を発現させている。すなわち、この種の非焼成塊成鉱は、焼結鉱粉や鉄鉱石粉などの酸化鉄原料にセメントなどの水硬性バインダーを加えて塊状に造粒し、これを常温または廃熱などを利用した数百℃以下の比較的低温の条件で一定期間養生することにより製造される。この塊成鉱の造粒方法としては、ペレタイジングやブリケッティングなどの方法がある。
【0004】
一方、特許文献1には、鉄鉱石を主体とした粉粒鉱石にバインダーと必要であれば水分を加えて団塊化する非焼成塊成鉱の製造方法に関して、ブリケッティングで問題となる粒内の充填密度の粗密を解消するため、0.3kg/cm以上の成形圧力を加え、適当な振動を与えつつ成型を行う技術が開示されている。
また、特許文献2には、返鉱及び焼結篩下粉の1種又は2種と、これよりも相対的に細かいダストの混合粉を1〜6mass%の糖蜜又はその希釈液と混練し、室温下で所定時間養生した後、成形機で1mm以上の粒径に塊成化する技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭58−37137号公報
【特許文献2】特開平7−224329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、焼結鉱粉や鉄鉱石粉などの酸化鉄原料にセメントなどのバインダーを加えて造粒・養生して得られる従来の非焼成塊成鉱は、少ないバインダー量で所定の強度を確保することが難しく、強度を確保するには多量のバインダーを加える必要がある。このため製造コストが高く、また、高炉のスラグ量が増大するなどの問題があった。
また、特許文献1の方法は、原料を成形ロールでブリケッティングする場合に成形ロールの磨耗が生じるため、製造コストに問題がある。また、特許文献2の方法は、塊成鉱に所定の強度を付与するためには一定量のバインダーを加える必要があり、このため製造コストが高くなり、また、高炉のスラグ量が増大するなどの問題がある。
【0006】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、少ないバインダー添加量で高い強度を有し、且つ特別な成型方法などを用いることなく製造することが可能な製鉄用非焼成塊成鉱を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、製鉄用鉄原料にバインダーを配合した原料をペレタイジングやブリケッティングなどで塊成化できる方法を前提に、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、原料の粒度分布を調整して原料内の空隙率を最適化することにより、原料粒子間に働くバインダーの効率を高め、少ないバインダー量で高い強度を有する製鉄用非焼成塊成鉱が得られることを見出した。
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0008】
[1]製鉄用鉄原料(A)にバインダー(B)を配合した原料を塊状に固化させた非焼成塊成鉱であって、
粒径d(mm)以上の原料の累積体積率P(%)が下記(1)式を満足することを特徴とする製鉄用非焼成塊成鉱。
100×(d/D)0.1≦P≦100×(d/D)0.4 …(1)
但し D:原料粒子中の最大粒子径(mm)
[2]上記[1]の製鉄用非焼成塊成鉱において、dを0.001〜0.2mm、Dを2〜5mmとすることを特徴とする製鉄用非焼成塊成鉱。
[3]上記[1]又は[2]の製鉄用非焼成塊成鉱において、原料中のバインダー(B)の配合量が10mass%以下であることを特徴とする製鉄用非焼成塊成鉱。
【0009】
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの製鉄用非焼成塊成鉱において、塊成鉱が造粒物の固化体、成型物の固化体、固化体の破砕物のいずれかであることを特徴とする製鉄用非焼成塊成鉱。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの製鉄用非焼成塊成鉱において、製鉄用鉄原料(A)が細粒焼結鉱又は/及び細粒鉄鉱石であることを特徴とする製鉄用非焼成塊成鉱。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの製鉄用非焼成塊成鉱において、原料中に、さらに、粒径10μm以下の割合が90mass%以上の酸化鉄含有粉(C)(但し、粉体が酸化鉄のみからなる場合を含む。)を配合したことを特徴とする記載の製鉄用非焼成塊成鉱。
[7]上記[6]の製鉄用非焼成塊成鉱において、原料中の酸化鉄含有粉(C)の配合量が酸化鉄換算量で1〜30mass%であることを特徴とする製鉄用非焼成塊成鉱。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製鉄用非焼成塊成鉱は、少ないバインダー添加量で高い強度を有し、しかも、特別な成型方法などを用いることなく、一般のペレタイジングやブリケッティングなどの方法で製造することができる。このため、高炉への搬送中や高炉内での衝撃による粉化を抑えることができるとともに、バインダー添加量が少ないため、従来の非焼成塊成鉱に較べて製造コストが低く、且つ高炉のスラグ量の低減化にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の製鉄用非焼成塊成鉱は、製鉄用鉄原料(A)にバインダー(B)を配合した原料を塊状に固化させた非焼成塊成鉱であって、粒径d(mm)以上の原料の累積体積率P(%)が下記(1)式を満足するものである。
100×(d/D)0.1≦P≦100×(d/D)0.4 …(1)
但し D:原料粒子中の最大粒子径(mm)
前記製鉄用鉄原料(A)としては、細粒焼結鉱、細粒鉄鉱石などが挙げられるが、これに限定されるものではなく、製鉄炉用の鉄原料となり得るものであって、そのままでは竪型製鉄炉(以下、高炉を例に説明する)に装入できない細粒状のものであればよい。
【0012】
前記細粒焼結鉱の代表例は、鉄鉱石の焼結プロセスで返鉱と呼ばれる焼結鉱粉であり、従来の一般的な焼結プロセスでは、この焼結鉱粉は焼結工程に送り返され、焼結原料として使用されている。この焼結鉱粉の大部分は、成品焼結鉱を得る際の粒度選別工程で発生するが、高炉への輸送工程や高炉周辺で発生するものもある。従来の焼結プロセスでは、成品歩留まりは70〜80%程度であり、残りの20〜30%程度が返鉱(焼結鉱粉)として焼結工程に返送されている(すなわち、成品焼結鉱になることなくプロセス内で循環している)。したがって、本発明の非焼成塊成鉱の製鉄用鉄原料(A)として、そのような焼結鉱粉を利用できることにより、焼結鉱を含めた塊成鉱のトータル歩留まりを大きく向上させることができる。
前記細粒鉄鉱石には鉄鉱石粉も含まれる。また、元々粒度の小さい鉄鉱石、整粒工程で生じた粒度の小さい鉄鉱石などのいずれを用いてもよい。
製鉄用鉄原料(A)は、異なる種類のものを2種以上用いてもよい。この製鉄用鉄原料(A)の粒径は、一般には5mm未満である。
【0013】
前記バインダー(B)は、水和硬化や水の蒸発に伴う水素結合などによって固化し、原料粒子どうしを結合するバインダー機能を発揮できるものであればよい。具体的には、水硬性バインダー、有機系バインダー(有機物)などを用いることができる。水硬性バインダーとしては、例えば、セメント(高炉セメント、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメントなど)、高炉水砕スラグ微粉末、石膏などが挙げられ、また、有機系バインダーとしては、でんぷんなどの多糖類、ポリアクリルアマイドなどのような強い水素結合を持つ水素結合性高分子物質(有機物)などが挙げられる。
バインダー(B)の配合量が多いほど非焼成塊成鉱の強度を高めることができるが、配合量が多くなるほど製造コストが増大するとともに、製鉄用鉄原料(A)の割合が減少して生産性が低下する。一方、バインダー(B)の配合量が少なすぎると冷間での十分な強度が得られず、非焼成塊成鉱の粉化を生じてしまう。本発明は、少ないバインダー配合量で高い強度(冷間高度)を確保すること狙いとしている。
【0014】
下記(a)式は、粉粒状の原料の充填度が最も高い状態(原料内の空隙率が最も少ない状態)を表す式として知られている。
P=100×(d/D) …(a)
但し P:累積体積率(%)
:原料粒子径(mm)
D:原料粒子中の最大粒子径(mm)
q:定数
本発明者らは、この(a)式中のqを種々変化させて塊成鉱の製造試験を行った結果、qが0.1〜0.4の範囲において非焼成塊成鉱の強度が顕著に高まることを見出した。
【0015】
上記(a)式のqが大きいということは、原料中で粗粒の割合が比較的多いことを意味する。粗粒が多い場合には原料粒子間の空隙が大きくなり、また原料粒子どうしの接触が少なくなって、塊成鉱の強度は低下する。そのため、所定の強度を得るためには原料粒子間のバインダー量を増加させる必要が生じる。
しかし、上記のように(a)式のqが0.1〜0.4の範囲となるように粒度構成を調整することにより、図1に模式的に示すように、粗粒の粒子間の空隙を中間の粒径の粒子が、また中間の粒径の粒子間を細粒の粒子が、さらにその粒子間をさらに細粒の粒子が埋めることによって全体としての空隙が極めて小さくなり、添加するバインダー量が少なくても大きな強度が得られることが判った。
【0016】
図2は、上記(a)式のqと非焼成塊成鉱の冷間強度との関係を調べた結果を示している。この試験では、粒径4mm未満の鉄鉱石、粒径0.1mm未満の鉄鉱石粉、バインダー(セメント)およびヘマタイト粉を混合した原料に水分を添加し、ペレタイザーにより造粒した後、1日間養生して非焼成塊成鉱を製造した。その際、鉄鉱石および鉄鉱石粉の割合を変えてqを変化させた。バインダーの配合量は5mass%、10mass%の2水準とし、上記(a)式のd,Dは、それぞれd=0.01mm,D=5mmとした。
【0017】
図2によれば、qが0.1〜0.4の範囲において高い冷間強度が得られていることが判る。このため本発明ではqを0.1〜0.4とし、粒径d(mm)以上の原料の累積体積率P(%)が下記(1)式を満足することを要件とした。
100×(d/D)0.1≦P≦100×(d/D)0.4 …(1)
但し D:原料粒子中の最大粒子径(mm)
【0018】
前記(1)式において、dは0.001〜0.2mm程度とすることが望ましい。dが0.001mm以上であることが好ましいのは、0.001mm未満の粒径のものは、原料内の空隙形成にほとんど影響しないためである。また、dをあまり大きくすると、原料内の空隙形成に大きく影響する粒径のものを(1)式の対象から外してしまうことになるため好ましくない。このためdは0.001〜0.2mm程度とすることが望ましい。
また、原料粒子中の最大粒子径Dは、2〜5mm程度とすることが望ましい。Dが2mm未満では粗粒の空隙率が小さすぎ、細粒による強度向上が小さくなる。一方、Dが5mmを超えると粒子が大きくなりすぎて強度が急激に低下する。
【0019】
非焼成塊成鉱の原料粒度を上記(1)式を満足するように調整するには、例えば、図3に示すような異なる粒度分布を持つ原料の配合割合を適宜調整すればよい。すなわち、粒度分布全体としてqを小さくするには、図3の(a)のような粒度分布を持つ原料の割合を増やし、逆にqを大きくするには図3の(c)のような粒度分布を持つ原料の割合を増やせばよいので、それらの割合を調整することにより、上記(1)式を満足する粒度分布が得られる。
また、目標粒度分布に対して一部の粒度分布を調整したい場合には、過不足のある粒度分布を持つ原料を増減配合すればよい。すなわち、例えば、サブミクロンの粒度を増加したい場合には、図3の(a)のような粒度分布を持つ原料の割合を増やし、或いは数十ミクロンの粒度を減少させたい場合には図3の(c)のような粒度分布を持つ原料の割合を減らせばよい。また、それらの粒度構成の代替として、図3の(b)のような粒度分布を持つ原料を増減させてもよい。
【0020】
本発明の目的は、なるべく少ないバインダー配合量で非焼成塊成鉱に所定の強度を付与することにあるが、本発明では、バインダー(B)の種類に関わりなく原料中のバインダーの配合量が10mass%以下でも十分な強度(バインダーの種類の応じた強度)を確保することができる。但し、バインダー配合量が極端に少ないと十分な強度が確保できないため、バインダー配合量の下限は5mass%程度とすることが好ましい。
本発明の非焼成塊成鉱の粒径(常温雰囲気下での球換算粒径)は8〜30mm程度が好ましい。非焼成塊成鉱の粒径が8mm未満では、高炉に装入した際の原料充填層の通気性が悪化するおそれがあり、一方、粒径が30mmを超えると還元性が低下するおそれがある。
【0021】
また、本発明の非焼成塊成鉱は、原料として製鉄用鉄原料(A)とバインダー(B)以外のものを配合してもよい。例えば、後述する酸化鉄含有粉(C)のほか、各種分散剤、硬化促進剤、石灰石微粉、フライアッシュ、シリカ微粉、コークス粉その他の還元材などの1種以上を適量配合することもできる。
本発明の非焼成塊成鉱は、高炉に代表される竪型製鉄炉において鉄原料として用いられる。
【0022】
本発明の非焼成塊成鉱は、通常、造粒物の固化体、成型物の固化体、固化体(例えば、成型固化体や不定形固化体)の破砕物などとして得られる。
造粒物の固化体の場合には、原料と水を混合・撹拌(混練)した後、造粒を行い、得られた造粒物を一定期間養生させることにより、非焼成塊成鉱の成品を得る。造粒方法は任意であるが、代表的な方法としては、ディスクペレタイザーやドラム型造粒機を用いる転動造粒法(ペレタイジング)、ブリケット成形機を用いる圧縮造粒法(ブリケッティング)などがあり、いずれを用いてもよい。
【0023】
また、成型物の固化体の場合には、原料と水を混合・撹拌(混練)したものを型に流し込んで成型し、その後、一定期間養生させることにより、非焼成塊成鉱の成品を得ることができる。
また、固化体の破砕物の場合には、上記成型物と同じような方法で得られた成型固化体や、原料と水を混合・撹拌したものを湿式吹き付けし、これを一定期間養生させることにより得られた不定形固化体を、適当な破砕手段で破砕して非焼成塊成鉱の成品を得ることができる。
【0024】
ところで、非焼成塊成鉱のバインダーとしてセメントや有機物などを用いると、炉内高温域においてセメント水和物が熱分解し、或いは有機物が溶融して強度が低下し、高炉中部および下部で粉化を生じるおそれがある。このような問題に対して本発明者らは、炉内高温雰囲気を利用して焼結する物質を非焼成塊成鉱に添加しておけば、炉内高温域において焼結による結合が新たに生じ、高温強度を発現できるのではないという着想の下に、以下のような検討を行った。
【0025】
焼結反応については、多くの基礎的研究がなされているが、例えば、荒井康夫著,粉体の材料化学,培風館(1987),p143には、下記(2)式及び下記(3)式が提案されている。
【数1】

【数2】

但し r:粒子半径
x:焼結により生成される接合部の長さ
L:焼結する2粒子の直径の和
ΔL:収縮量
K:定数
D:拡散係数
γ:表面エネルギー
a:イオン間距離
k:ボルツマン定数
T:温度
t:焼結時間
【0026】
上記(2)式は、焼結により生成される接合部の長さを粒子半径で規格化したものを温度、粒子半径及び焼結時間により定式化したものであり、上記(3)式は、収縮率(ΔL/L)を同様に定式化したものである。ΔL及びLの定義は図9に示した。
上記(2)式より、接合部の成長は拡散係数Dが大きいほど、焼結時間tが長いほど、粒子半径rが小さいほど大きいことが判る。拡散係数Dは物質によっても異なるが、結晶格子の欠陥濃度が少ない(不純物が少ない)ほど大きくなる。同様に上記(3)式より、焼結による収縮率(ΔL/L)は拡散係数Dが大きいほど、焼結時間tが長いほど、粒子半径rが小さいほど大きいことが判る。
【0027】
以上のことから、高純度で微粒の粒子を添加すれば、この粒子の焼結により高温域での非焼成塊成鉱の強度を高めることができるものと推定し、具体的な材料について実験と検討を重ねた結果、所定の粒径以下の酸化鉄粉を用いることが有効であることが判明した。すなわち、そのような酸化鉄粉を適量添加した非焼成塊成鉱は、セメントなどのバインダーによる結合強度の低下が始まる数百℃から酸化鉄粉が焼結をはじめ、この焼結により十分な熱間強度が確保できることが判った。また、このような鉄系の材料(酸化鉄粉)を用いることができることは、製鉄用塊成鉱としても望ましいことである。
このような本発明の非焼成塊成鉱は、原料中にさらに、粒径10μm以下の割合が90mass%以上の酸化鉄含有粉(C)(但し、粉体が酸化鉄のみからなる場合を含む。)を配合した製鉄用非焼成塊成鉱である。この非焼成塊成鉱は、炉内高温域においては添加した酸化鉄含有粉(C)の焼結による強度(熱間強度)が発現する。
【0028】
図4は、以上のような非焼成塊成鉱の基本構造と昇温時の挙動を示しており、xは非焼成塊成鉱である。この非焼成塊成鉱xの基本構造は、図4(イ)に示すように製鉄用鉄原料aとバインダーbの混合層と、この混合層内に散在する酸化鉄含有粉c(粒径10μm以下の割合が90mass%以上の酸化鉄含有粉)からなる。このような非焼成塊成鉱xが高炉内に装入されて昇温されると、温度が概ね500℃を超えたあたりから、酸化鉄含有粉cが焼結し始め、図4(ロ)に示すように、径を縮小させつつ、焼結した酸化鉄含有粉cがバインダー機能を発現した非焼成塊成鉱x′になる。
【0029】
図5は、酸化鉄含有粉cの粒子どうしの焼結挙動を模式的に示している。高温雰囲気下で粒子どうしが接触すると、界面で物質の拡散、移動が生じ接合する。この反応については、さきに挙げた(2)式および(3)式に従うことになる。前記非焼成塊成鉱xの場合には、図6に示すように、酸化鉄含有粉cと製鉄用鉄原料aとの接触・接合を考えればよい。一般に製鉄用鉄原料aは酸化鉄に様々な不純物を含んだものとなっており、また、その粒径もミリオーダーのものが多い。このため上記(2)式で示したように焼結速度は遅い。したがって、製鉄用鉄原料aから酸化鉄含有粉cへの拡散は遅いが、酸化鉄含有粉cから製鉄用鉄原料aへの拡散は速い。これによって、酸化鉄含有粉cが製鉄用鉄原料aを接合する“のり”の役割を果たすことになる。
【0030】
前記酸化鉄含有粉(C)は、酸化鉄を含有し、粒径10μm以下の粉を90mass%以上含むものであれば特別な制限はなく、実質的に酸化鉄のみからなる粉体であってもよい。また、酸化鉄含有粉(C)が酸化鉄以外の物質(例えば、SiO、Alなど)を含む場合には、当該物質は酸化鉄とともに粒子の一部として含まれていてもよいし、酸化鉄を含まない粒子として含まれてもよい。また、酸化鉄はFe(へマタイト)に限らず、Fe(マグネタイト)、FeOであってもよい。
なお、この酸化鉄含有粉(C)の粒径の測定方法としては、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた測定法を適用することができる。この測定方法は、粒子にレーザービームを照射した場合、その回折・散乱光の強度および分布が粒子の粒度分布に依存することを利用するものであり、粒度分布を極めて精度良く測定することができる。
【0031】
図6に示すような焼結に有効な酸化鉄含有粉の粒度を決定するために、以下に示すような基礎試験を行った。図7に示すような非常に狭い粒度分布に整粒された酸化鉄粉(Fe)を錠剤状に成形し、電気炉で焼成した後の収縮率を測定した。酸化鉄粉の粒径は6.5μm以下が99.3mass%、5.5μm以下が16.1mass%であり、これを6μmで代表させた。高炉内でセメント水和物の分解が始まり、従来のセメントボンド型非焼成塊成鉱の強度が低下し始める温度は500〜700℃の領域であるため、酸化鉄粉の錠剤成形体の焼成温度を700℃とし、高炉内で500〜700℃の滞留時間を考慮して焼成時間を1時間として焼結反応させた。このときの収縮率(ΔL/L)が0.0715であったことから、上記(3)式の未知数を決定し、粒径と収縮率の関係を求めて図8に示した。同図から、700℃で収縮する最大の粒径を作図により決定した。図示した2つの直線(破線)は、粒径が小なる部分及び大なる部分における曲線の“直線に近い部分”を仮想的に延長したものであり、これらの交点をもって700℃で収縮を開始する最大の粒径を求めると、収縮する最大の粒径は10μmと見積もられ、この粒径以下の粒子は収縮、すなわち焼結に寄与するものと推定される。以上の理由から、酸化鉄含有粉(C)は粒径10μm以下のものが好ましく、このため本発明では粒径10μm以下の割合が90mass%以上の酸化鉄含有粉(C)を用いる。
【0032】
粒径10μm以下の割合が90mass%以上の酸化鉄含有粉(C)としては、例えば、鋼材酸洗ライン回収粉(いわゆるルスナー酸化鉄など)、鉄鋼製造プロセスで生じる精錬ダスト、鉄鉱石微粉などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
ここで、鋼材酸洗ライン回収粉とは、次のようなものである。鋼板などの鋼材製造プロセスの冷間圧延工程では、圧延前に表面の酸化鉄層を酸洗(塩酸溶液による酸洗)することにより除去している。この酸洗液中に鉄は塩化鉄として溶出するが、この塩化鉄を焙焼などの方法で処理することにより、高純度且つ微粉の酸化鉄粉(ヘマタイト粉)が回収される。この酸化鉄粉は非常に高純度(通常、酸化鉄含有率:95mass%以上)で微粉のものであり、酸化鉄含有粉(C)として好適なものである。
【0033】
また、鋼製造プロセスで生じる精錬ダストには、溶銑予備処理工程で生じる精錬ダスト、転炉脱炭工程で生じる精錬ダスト(転炉OGダスト)などが含まれる。これらの精錬ダストは、精錬工程で発生した排ガスから集塵することにより回収されたものである。これらのダストは、酸化鉄粉の含有量が高く且つ微粉のものであり、酸化鉄含有粉(C)として好適なものである。
非焼成塊成鉱中での酸化鉄含有粉(C)の含有量は、酸化鉄換算量で1〜30mass%、特に5〜30mass%とすることが好ましい。酸化鉄含有粉(C)の含有量が酸化鉄換算量で1mass%未満では、酸化鉄含有粉(C)の焼結によるバインダー作用が十分でなく、一方、30mass%を超えると、製鉄用鉄原料(A)の量が少なくなるため生産性が低下する。
【0034】
図10に、本発明の非焼成塊成鉱の製造フローの一例を示す。この製造フローは、製鉄用鉄原料(A)、バインダー(B)及び酸化鉄含有粉(C)を原料として非焼成塊成鉱を製造する場合を示している。
図において、1a〜1cは、製鉄用鉄原料(A)、バインダー(B)及び酸化鉄含有粉(C)をそれぞれ貯留した原料貯留槽であり、これら原料貯留槽1a〜1cから定量切り出し装置などを用いて、製鉄用鉄原料(A)、バインダー(B)及び酸化鉄含有粉(C)を所定量切り出し、原料搬送装置2により加湿混合機3(例えば、ドラムミキサー、アイリッヒミキサーなど)へ導入する。なお、製鉄用鉄原料(A)、バインダー(B)及び酸化鉄含有粉(C)は予め混合し、1つの原料貯留槽から切り出すようにしてもよい。また、図示しないが、必要に応じて事前に粒度を調整するための粉砕工程や、異物を取り除く工程などがあってもよい。
【0035】
前記加湿混合機3では原料に水が添加され、混合・撹拌される。加湿混合機3の機能などに特別な制限はないが、混合攪拌能力の高いものが望ましい。混合攪拌能力の低いものを採用した場合は、混合時間を長く取る必要が生じ、生産性が低下する。
前記加湿混合機3で加湿混合された原料は原料搬送装置4により造粒機5に移送され、ここで造粒される。図10では造粒機5として皿型転動造粒機(ディスクペレタイザー)を用いているが、さきに述べたように他の形式の造粒機を用いてもよい。
【0036】
図10のような皿型転動造粒機を用いた場合には、球形に近い塊成鉱(造粒物)が製造される。一方、圧縮造粒機を用いた場合には、アーモンド形、豆炭形など、使用する型によりさまざまな形状のものが製造可能である。但し、さきに述べたように常温雰囲気下での球換算粒径が8〜30mm程度であれば、どのような形状でもよい。
造粒機5で得られた造粒物(塊成化物)は原料搬送装置6により静置ヤード7へ搬送され、この静置ヤード7で所定時間養生されることにより、高炉で使用可能な非焼成塊成鉱xとなる。
【実施例】
【0037】
製鉄用鉄原料(A)である鉄鉱石(鉄鉱石粉)に、バインダー(B)であるポルトランドセメントと、酸化鉄含有粉(C)であるへマタイト粉を加えた原料を、図10に示すような製造フローを用いて造粒し、一定期間養生して非焼成塊成鉱を製造した。ここで、へマタイト粉としては鋼材酸洗ライン回収粉を用いた。
使用した原料の成分組成を表1に、また粒度分布を図11に示す。鉄鉱石(1),(2)は成分は同じであるが、鉄鉱石(1)は粒度がやや細かく、粒径20μm以下が10mass%以下のものである。一方、鉄鉱石(2)は粒度がやや粗く、粒径40μm以下が10mass%以下のものである。
また、へマタイト粉(1)は酸化鉄含有率が極めて高く、且つ微細粒のものであり、粒径10μm以下の割合が90mass%以上のものである。一方、へマタイト粉(2)は、粒度分布はへマタイト粉(1)とほぼ同じであるが、酸化鉄含有率が低いもの、へマタイト粉(3)は酸化鉄含有率は極めて高いが、粒度は粗く粒径10μm超の割合が40mass%近くあるものである。
【0038】
各実施例(本発明例、比較例)の原料について、図12に示すように横軸に粒子径、縦軸に累積質量比率をとった粒度分布の曲線xを求め、粒径dからDの範囲において、前記各曲線xが下記(a)式の2つの曲線で囲まれようにqの最小値と最大値を選んだとき、その最小のqをq1、最大のqをq2とした。
P(%)=100×(d/D) …(a)
したがって、q1〜q2が0.1〜0.4の範囲にあれば、本発明が規定する前記(1)式を満足することになる。
【0039】
各実施例の非焼成塊成鉱を他の鉄原料とともに高炉に装入し、非焼成塊成鉱の冷間強度と高炉操業状況の変化を調査した。その結果を、原料の粒度分布やバインダー配合量とともに表2に示す。なお、高炉への鉄原料の配合割合は、非焼成塊成鉱:12mass%、焼結鉱:79mass%、塊鉱石:9mass%とした。
非焼成塊成鉱の冷間強度については、ヤードにおける粉率と高炉炉頂における粉率を測定し、その差(輸送時粉化率)で評価した。塊成鉱が5mm以上の粒径であれば高炉の原料として使用可能であるため、−5mm(=粒径5mm未満)の粒子を粉と定義し、その質量割合を−5mmの粉率とした。
【0040】
また、表2中に示した吹き抜け回数の「吹き抜け現象」とは、高炉内の圧力損失が増大することで還元性ガスの流れが止められ、炉内の圧力が上昇し、一定の圧力に達したとき、爆発的に還元性ガスの上昇が再開される現象を指す。この場合、ガス流れの再開と同時に炉内の装入物がガスに同伴されて移動するため、層状に堆積された装入物の分布が乱れることになる。装入物の分布が乱れると、通気性がさらに悪化したり、酸化鉄の還元不良等の問題を生じるため、還元材比が上昇するなど高炉操業に極めて悪い影響を与えるのみならず、圧力の上昇により炉体への機械的ダメージを与えたり、急激に高温ガスが噴出することによる諸設備への熱的悪影響も懸念される。
【0041】
表2によれば、本発明例の非焼成塊成鉱は、比較例の非焼成塊成鉱に比べて高炉への搬送中の粉化量が極めて小さいことが判る。また、高炉の操業を見ると、出銑量も多く還元材比も低く、吹き抜け現象も起きていない。これらの結果から、本発明の非焼成塊成鉱は、同一のバインダー量の比較例に対して高炉操業を格段に改善できること、また、バインダー量を低下させた場合でもなお優位であることが判る。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の非焼成塊成鉱の原料の充填状態を模式的に示す説明図
【図2】(a)式中のqと非焼成塊成鉱の冷間強度との関係の示すグラフ
【図3】塊成鉱の原料粒度を(1)式を満足するように調整するために用いる原料の粒度分布を示す説明図
【図4】酸化鉄含有粉(C)が配合された本発明の非焼成塊成鉱の基本構造と昇温時の挙動を示す説明図
【図5】酸化鉄含有粉(C)が配合された本発明の非焼成塊成鉱における、酸化鉄含有粉の粒子どうしの焼結挙動を模式的に示す説明図
【図6】酸化鉄含有粉(C)が配合された本発明の非焼成塊成鉱中での酸化鉄含有粉と製鉄用鉄原料の接触・接合状態を模式的に示す説明図
【図7】基礎試験に用いた酸化鉄粉の粒度分布を示すグラフ
【図8】基礎試験に用いた酸化鉄粉の粒径と酸化鉄粉による錠剤の収縮率との関係を示すグラフ
【図9】粒子の焼結による収縮率(ΔL/L)のΔLおよびLの定義を示す説明図
【図10】本発明の非焼成塊成鉱を製造フローの一例を示す説明図
【図11】実施例で使用した原料の粒度分布を示すグラフ
【図12】実施例における各原料配合のq1、q2の求め方を示したグラフ
【符号の説明】
【0045】
x,x′ 非焼成塊成鉱
a 製鉄用鉄原料
b バインダー
c 酸化鉄含有粉
1a〜1c 原料貯留槽
2,4,6 原料搬送装置
3 加湿混合機
5 造粒機
7 静置ヤード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄用鉄原料(A)にバインダー(B)を配合した原料を塊状に固化させた非焼成塊成鉱であって、
粒径d(mm)以上の原料の累積体積率P(%)が下記(1)式を満足することを特徴とする製鉄用非焼成塊成鉱。
100×(d/D)0.1≦P≦100×(d/D)0.4 …(1)
但し D:原料粒子中の最大粒子径(mm)
【請求項2】
dを0.001〜0.2mm、Dを2〜5mmとすることを特徴とする請求項1に記載の製鉄用非焼成塊成鉱。
【請求項3】
原料中のバインダー(B)の配合量が10mass%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製鉄用非焼成塊成鉱。
【請求項4】
塊成鉱が造粒物の固化体、成型物の固化体、固化体の破砕物のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製鉄用非焼成塊成鉱。
【請求項5】
製鉄用鉄原料(A)が細粒焼結鉱又は/及び細粒鉄鉱石であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製鉄用非焼成塊成鉱。
【請求項6】
原料中に、さらに、粒径10μm以下の割合が90mass%以上の酸化鉄含有粉(C)(但し、粉体が酸化鉄のみからなる場合を含む。)を配合したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製鉄用非焼成塊成鉱。
【請求項7】
原料中の酸化鉄含有粉(C)の配合量が酸化鉄換算量で1〜30mass%であることを特徴とする請求項6に記載の製鉄用非焼成塊成鉱。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate