説明

複合アーク溶解炉排ガスの改質方法および複合アーク溶解炉

【課題】複合アーク溶解炉を用いて冷鉄源を溶解した際に発生する排ガスを、カーボンやダスト等の堆積を招くことなく改質すること、および排ガスの潜熱分の増大を図ることのできる、複合アーク溶解炉排ガスの改質方法および複合アーク溶解炉を提案すること。
【解決手段】溶解室と、その上部に立設されて溶解室と連通するシャフト形の予熱室とからなるアーク溶解炉によって、該予熱室内を順次に降下する冷鉄源を、溶解室内で発生した高温排ガスを使って予熱すると共に、引き続き溶解室に導いてアーク溶解するようにしてなる複合アーク溶解炉において、前記冷鉄源が、予熱室内と溶解室内上部とに跨って存在する状態の下で、該溶解室内に補助熱源である炭材を吹き込む一方で、予熱室内にはアンモニアガスを吹き込むこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄のスクラップや直接還元鉄等の冷鉄源を、シャフト形予熱室を備える複合アーク溶解炉にて溶解する際に発生する排ガスの改質方法、およびその方法に用いる複合アーク溶解炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄スクラップ等の冷鉄源は、従来、各種アーク炉を使って加熱溶解して、精錬した後、溶鋼として再生させている。ただし、アーク炉によって冷鉄源を溶解するには、多くの電力が必要とされるため、近年では電力使用量の削減を目的として、アーク炉の溶解室から発生する高温の排ガスで冷鉄源を予熱しながら溶解する新規な方法が提案されている。
【0003】
その代表的なものとして、特許文献1では、溶解室と、この溶解室で発生する排ガスを導入するシャフト形予熱室とを備えた複合アーク溶解炉を提案している。この複合アーク溶解炉の操業では、装入される鉄スクラップが予熱室と溶解室とに跨って存在するようにすると共に、その鉄スクラップを溶解室内にてアーク熱によって加熱溶解し、該溶解室に少なくとも1ヒート分の溶湯が溜まった時点で、溶鋼を出湯することを特徴とする鉄スクラップの溶解方法である。
【0004】
また、特許文献2では、アーク溶解炉から発生する高温の排ガスの利用にあたり、転炉等の精錬設備から発生する二酸化炭素および/または水蒸気を含む高温の排ガス中に、炭化水素を含む気体および/または液体を供給して改質反応を導き、排ガス中の一酸化炭素と水素を増加させることにより、排ガスの潜熱分を増大させる、いわゆる「増熱」を図る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−292990号公報
【特許文献2】特開2000−212615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示の方法では、溶解室で発生する排ガスが未燃焼のまま排出されることになるので、排ガスの有効利用という点で課題が残る。また、特許文献2に開示の方法は、転炉排ガス中に天然ガス(炭化水素)を吹込んで、下記(1)式に示す改質反応を行った場合に、その反応の完了温度が800℃よりも低くなると、カーボンの生成が顕著となり、排ガス回収設備内にカーボンやダスト等の堆積を招くと共に、改質反応効率が低下し、二酸化炭素の転化率が低下するという点で課題がある。
CH+CO→2CO+2H ・・・ (1)
【0007】
本発明は、従来技術が抱えている前述のような事情に鑑みて開発された技術であって、その目的とするところは、複合アーク溶解炉を用いて冷鉄源を溶解した際に発生する排ガスを、カーボンやダスト等の堆積を招くことなく改質すること、および排ガスの潜熱分の増大を図ることのできる、複合アーク溶解炉排ガスの改質方法および複合アーク溶解炉を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ところで、アンモニアガスは、一酸化炭素や二酸化炭素と反応して、各種炭化水素やメタノール、ジメチルエーテルなどの含酸素化合物等や水素に改質されることが知られている。下記(2)式および(3)式にその化学反応式の一例を示す。
【0009】
2NH+CO→CH+HO+N ・・・ (2)
4NH+CO→2H+2HO+2N+CH ・・・ (3)
【0010】
なお、発明者らの研究によると、COとCOの混合ガスにアンモニアガス(NH)を吹き込んだラボ試験では、400℃以下の低温条件下においては、式(2)の改質反応が進み、一方、600℃以上の高温条件下においては、式(3)の改質反応が進むという結果が得られている。
【0011】
本発明は、このようなアンモニアガスと排ガス中に含まれるCOおよびCOとの改質反応に着目した技術である。即ち、本発明は、特許文献2で提案しているような炭化水素を含む気体および/または液体の導入に代えて、アンモニアガスを導入することと、このアンモニアガスと排ガス成分(CO、CO)との改質反応を、排ガスの温度レベルに応じて確実に行わせることにより、このときに発生する熱を冷鉄源の予熱に利用すると共に、排ガス中の水素および炭化水素を増加させて排ガスの潜熱分を増大させる(増熱)という、複合アーク溶解炉発生排ガスの改質方法とそのための溶解炉を提案するものである。
【0012】
つまり、本発明は、溶解室と、その上部に立設されて溶解室と連通するシャフト形の予熱室とからなるアーク溶解炉によって、該予熱室内を順次に降下する冷鉄源を、溶解室内で発生した高温排ガスを使って予熱すると共に、引き続き溶解室に導いてアーク溶解するようにしてなる複合アーク溶解炉において、前記冷鉄源が、予熱室内と溶解室内上部とに跨って存在する状態の下で、該溶解室内に補助熱源である炭材を吹き込む一方で、予熱室内にはアンモニアガスを吹き込むことを特徴とする複合アーク溶解炉発生排ガスの改質方法である。
【0013】
なお、上記複合アーク溶解炉排ガスの改質方法においては、
(1)前記溶解室内で発生する排ガスは、少なくとも5%の二酸化炭素を含むこと、
(2)前記アンモニアガスは、予熱室の溶解室内の湯面の位置から予熱室上部の冷鉄源の堆積層上端位置までの領域において、1もしくは複数箇所に設けられたアンモニアガス導入口から吹き込むこと
(3)前記溶解室から発生する排ガスの、予熱室の溶解室内の湯面位置における温度が600℃以上であり、その位置において前記アンモニアガスと排ガス中の二酸化炭素との改質反応を導いて、該排ガス中の水素濃度を増加させること、
(4)前記溶解室から発生する排ガスの、予熱室上部の冷鉄源の堆積層上端位置における温度が400℃以下であり、その位置において前記アンモニアガスと排ガス中の一酸化炭素との改質反応を導いて、該排ガス中の炭化水素化合物含有ガス濃度を増加させること、
(5)前記アンモニアガスの吹き込み量は、溶解室から発生する排ガス量の5〜25%とすること
(6)前記炭材の吹込み量は、溶解室内の冷鉄源に対して5kg/t以上とすること、
がより好ましい解決手段になる。
【0014】
また、本発明では、冷鉄源をアーク溶解するためのアーク電極および溶解室と、溶解室の上方に立設されていて該溶解室内とは連通し、装入し充填された冷鉄源を予熱するシャフト形予熱室とからなり、該溶解室に補助熱源を供給する補助熱源供給手段と酸素供給手段と、予熱室の溶解室内の湯面の位置から予熱室上部の冷鉄源の堆積層上端位置までの領域において、1もしくは複数箇所のアンモニアガス導入口と、前記溶解室内で発生した排ガスを回収するためのガス回収設備と、を有することを特徴とする複合アーク溶解炉を提案する。
【発明の効果】
【0015】
上記のように構成される本発明によれば、冷鉄源を溶解して溶鋼を製造する際に、溶解室内に補助熱源として炭材を供給することにより、溶解室内での冷鉄源の溶解をより促進することができる。ただし、このことによって、該冷鉄源の溶解時に発生する排ガス中に未燃焼のCOのみならずCOを発生するが、本発明では、予熱室にアンモニア(NH)ガスを導入して改質反応を起こさせ、前記排ガス成分(CO、COなど)をHや炭化水素に改質することができる。従って、本発明によれば、カーボンやダスト等の堆積を招くことなく、排ガスのもつ熱エネルギーを有効に利用することができると同時に、排ガスの増熱をも図ることができる。そして、このようにして増熱された排ガスは、製鉄所内の各種設備を稼動させるエネルギー源や、ボイラーによる排熱回収などに有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の複合アーク溶解炉の一実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本発明において用いる複合アーク溶解炉の一例を示す縦断面の概略図である。
【0018】
図示したように、本発明で用いる複合アーク溶解炉1は、溶解室2とその上部の一部から上方に立設したシャフト形予熱室3とからなり、その内部は、耐火物でライニングされている。溶解室2は、底部に炉底電極6を備え、上部には、該溶解室2内に連通する前記のシャフト形予熱室3および水冷構造の炉壁4とを有し、この炉壁4上部の開口部を覆うように炉蓋5が設けられている。その炉蓋5は、開閉可能な水冷構造を有し、溶解室2内に向けて上下動する黒鉛製上部電極7が配設されている。そして、この上部電極7と前記炉底電極6とが、炉内の冷鉄源を介して直流電源(図示せず)により通電されることで、その間にアーク19を発生させることができるようになっている。
【0019】
前記炉蓋5にはさらに、酸素吹き込みランス8と炭材吹き込みランス9とが取付けられており、酸素吹き込みランス8からは、冷鉄源15の溶解を補助するための酸素が供給され、炭材吹き込みランス9からは、空気や窒素等を介してコークスやチャー、石炭、木炭、黒鉛、バイオマス炭等の粉、もしくはこれらの混合物からなる炭材などの補助熱源が吹き込まれるようになっている。このことによって、発生排ガス中には、常に未燃焼分(COガス)ならびに二酸化炭素(CO)その他が含まれることになる。
【0020】
前記予熱室3の上方には、走行台車24に吊り下げられた底開き型の供給用バケット13が設けられており、この供給用バケット13からは、予熱室3の上部に設けた開閉可能な供給口20を介して、冷鉄源(例えば、鉄スクラップ等)15を予熱室3内に装入できる。
【0021】
上記のように構成されている複合アーク溶解炉において、予熱室3内に装入された冷鉄源15は、時間とともに順次に降下する間に予熱され、やがて溶解室2に達した後、上部電極7から発生したアーク19の熱によって溶解され、その冷鉄源15の溶解に際し、該溶解室2内には、高温の排ガスが発生する。この排ガスは、予熱室3上方に設けられたダクト21の上流に設けられたブロアー42や集塵機43によって、予熱室3を経てダクト21に吸引されるが、その過程で、予熱室3内の冷鉄源15が高温排ガスのもつ熱によって予熱されることになる。なお、予熱室3内の予熱された冷鉄源15は、溶解室2内で溶解される速度に応じ、自由落下して溶解室2内に順次に連続的または間欠的に移動する。
【0022】
本発明では、上記のように溶解室2内において冷鉄源15をアーク19の熱によって溶解する際に、前記溶解室2内に炭材吹き込みランス9を通して炭材を供給してこれを燃焼させることにより、溶解室2内での冷鉄源15の溶解を促進させるとともに、溶解室2で発生した高温の排ガスが予熱室3を通ってダクト21に吸引されていく過程において、該予熱室3内に吹き込ませるアンモニアガスと、予熱室3内を上昇する排ガス中のCOおよびCOとの間で改質反応を起こさせるところに特徴がある。
【0023】
このような構成によれば、特に、予熱室3内に吹込まれたアンモニアガスと、溶解室2内で発生する高温(400〜1000℃程度)の排ガス中に含まれるCOおよびCOガスとが、排ガスの温度に応じ上記(2)または(3)式に示した改質反応を起こすことになるので、排ガス中の炭化水素やHなどが増加して、排ガスの潜熱を増大させることができるようになる。
【0024】
溶解室2から発生する排ガス組成は、CO:2〜8%、CO:5〜15%、O:1〜15%、N:50〜80%、HO:0〜5%、H:0〜3%程度であり、このうちのCOおよびCOが、予熱室3内でアンモニアガスと反応して上記改質反応を起こすのである。
【0025】
なお、上記(2)式の反応、即ち、排ガス中のCOとアンモニアガスとの反応は、400℃以下の低温条件下において優先的に進み、排ガス中の炭化水素系ガス量の増加をもたらして、排ガス潜熱を増大させることができる。しかも、この反応は、発熱反応であるため、その反応熱を予熱室3内の冷鉄源の予熱に利用することができる。
【0026】
一方、上記(3)式の反応、即ち、排ガス中のCOとアンモニアガスとの反応は、600℃以上の高温条件下において優先的に進む。この反応は、吸熱反応であるため、改質反応時に排ガスの顕熱が奪われてしまうが、反応によって水素および炭化水素系ガス量が増加し、排ガスの潜熱を増大させることができる点で改質のメリットがある。この(3)式による反応を促進させるためには、溶解室2から発生する排ガス中に、少なくとも5%のCOが含まれていることが好ましい。
【0027】
このように上記(2)および(3)式の反応は、予熱室3内を通過する排ガスの温度によって選択的に進むため、排ガスの利用の目的に応じて、アンモニアガスの吹き込み位置を選定することが好ましく、例えば、冷鉄源の予熱を重視する場合には、アンモニアガスを、排ガス温度の低い、予熱室3内の冷鉄源15の堆積層上端位置近傍に吹き込んで上記(2)式の反応を優先的に起こさせ、一方、排ガス潜熱の増大を重視する場合には、アンモニアガスを排ガス温度の高い、予熱室3の溶解室2内の湯面位置近傍に吹き込んで、上記(3)式の反応を優先的に起こさせることが好ましい。
【0028】
本発明では、アンモニアガスを、予熱室3の側壁に設けられたアンモニアガス導入口25から吹き込む。この場合、このアンモニア導入口25を、溶解室2内の湯面位置から予熱室3内の冷鉄源15の堆積層上端位置までの領域における、側壁の周方向および縦方向の、1もしくは複数箇所に設けることが好ましい。これによれば、溶解室2から発生した排ガス中のCOおよびCOとアンモニアガスとの各反応を、それぞれの位置で確実に行わせることができ、また、アンモニア導入口25を複数箇所に設けることで、予熱室3内の冷鉄源15の温度が偏るようなことなくなるからである。
【0029】
上記のようにして予熱室3内でのアンモニアガスによる改質反応を終えた排ガスは、ブロアー42によって吸引され、ダクト21を通って冷却塔40で冷却された後、バグフィルターからなる集塵機43で集塵処理を行い、ガス流量切換弁44を介してフレア45から大気に放出されるか、ガスホルダーへ回収された後、製鉄所内の各種設備に送られ、燃料として有効に利用される。なお、冷却塔40の上流側には、ガス分析器やガス流量計を設置することが好ましく、ガス分析計では、排ガス中のCO、CO、O、H、CHガスの濃度を測定し、ガス流量計では、排ガスの流量を連続的に測定する。
【0030】
ところで、溶解室2の、予熱室3とは反対側の部位の炉底部には、扉22にて閉止されており、その内部側に詰め砂またはマッド剤を充填した出鋼口11を有し、また側壁部には、扉23にて閉止され、内側に詰め砂またはマッド剤を充填する出滓口12が設けられている。
【0031】
前記出鋼口11の上方に位置する炉蓋5には、バーナー10が取り付けられる。このバーナー10によって重油や灯油、微粉炭、プロパンガス、天然ガス等の化石燃料、バイオマス燃料などを、空気または酸素、もしくは酸素富化空気により、溶解室2内で燃焼させることで、出鋼する溶鋼の温度を上昇させることができる。
【0032】
以下、直流式のアーク炉1における冷鉄源の溶解手順について説明する。
先ず、供給用バケット13より予熱室3内に冷鉄源15を装入する。装入された冷鉄源15は、予熱室3を通って、まず溶解室2内に装入された後、次第に予熱室3内にまで充填される。なお、溶解室2内へ冷鉄源15を均一に装入するため、炉蓋5を開けた状態で、予熱室3が直結した側とは反対側の溶解室2内に冷鉄源15を装入することもできる。また、冷鉄源15の装入の際に、溶銑を溶解室2に装入してもよい。これによれば、溶銑の有する熱により電力使用量を大幅に削減することができるようになる。なお、溶銑は、供給用取鍋(図示せず)や溶解室2に連結する溶銑樋(図示せず)を介して溶解室2に装入される。
【0033】
次いで、溶解室2の炉底電極6と上部電極7との間に直流電流を給電しつつ、上部電極7を昇降させ、炉底電極6と上部電極7との間、または、装入された冷鉄源15と上部電極7との間でアーク19を発生させ、そのアーク19の熱によって冷鉄源15を溶解する。このとき、フラックスを溶解して溶融スラグ18を生成させることが好ましい。これは、溶融スラグ18によって生成される溶湯17を保温することができるからである。溶融スラグ18の生成量が多すぎる場合には、操業中でも出滓口12から溶融スラグ18を排滓してもよい。
【0034】
炉底電極6と上部電極7との通電後、溶解室2内に酸素吹き込みランス8および炭材吹き込みランス9の挿入が可能となったら、酸素吹き込みランス8から酸素を供給して冷鉄源15の溶解を補助する。一方、炭材吹き込みランス9からは、電力原単位の削減のために、溶融スラグ18中に炭材を補助熱源として吹き込む。
【0035】
前記酸素吹き込みランス8からの酸素の吹き込み量は、溶解開始から出湯までの間に溶解室2内に滞留する溶湯17のトン当たり15Nm以上とすることが好ましい。これは、酸素の吹き込み量が、溶湯のトン当たり15Nm未満では、冷鉄源15の溶解や炭材の酸化反応による電力原単位の削減の効果が小さいためである。
【0036】
また、溶解室2内への炭材吹き込みランス9による炭材の吹込み量は、酸素吹き込みランス8から吹き込まれる酸素量とは化学等量に等しいか、またはそれ以上となるようにすることが好ましく、5kg/t以上とする。これは、炭材の炭素量が、吹き込まれる酸素ガスに比べて少ないと、溶湯17が過剰に酸化したり、炭素濃度が低下してしまうからである。
【0037】
溶湯17中に溶解した炭材または溶融スラグ18中に懸濁した炭材は、酸素吹き込みランス8から吹き込まれた酸素と反応して脱炭してCOガスとなると共に、その反応熱は補助熱源となり、電力消費量の削減に寄与することになる。また、溶融スラグ18は、前記反応生成物であるCOガスによってフォーミングして膨張するため、該溶融スラグ18中に上部電極7の先端が埋没することになる。そのため、上部電極7から発生したアーク19は、溶融スラグ18によって包まれるようになり、アーク19の着熱効率が上昇する。また、大量に発生する高温のCOガスと、このCOガスが燃焼して生成するCOガスとが、予熱室3内の冷鉄源15を効率よく予熱する。
【0038】
上記のようにして冷鉄源15を溶融した際に発生する大量の高温排ガス中のCOおよびCOは、予熱室3に供給された後、予熱室3の側壁に設けられたアンモニアガス導入口25から吹き込まれたアンモニアガスと反応して、上記(2)および(3)式に示したように炭化水素およびHに改質される。
【0039】
なお、予熱室3内へのアンモニアガスの吹き込み量は、溶解室2から発生する排ガス流量の5〜25%であり、好ましくは8〜18%である。これは、アンモニアガスの吹き込み量が、排ガス流量の5%未満では、アンモニアガス量の不足によって改質反応が十分に生じないからであり、一方、25%超では、アンモニアガス量が過剰となり、未反応のまま放出されて、臭気の問題が起こるからである。
【0040】
予熱室3内の冷鉄源15は、溶解室2内の冷鉄源15の溶解量に応じて溶解室2内に自由落下して減少するので、この減少分は、供給用バケット13から予熱室3へ冷鉄源15を順次に装入することで補う。この冷鉄源15の予熱室3内への装入は、冷鉄源15が予熱室3と溶解室2とに跨って(連続して)存在する状態が保てるように、連続的または断続的に行う。その際に、予熱室3および溶解室2内に、1回の出湯量の50mass%以上の冷鉄源が残存していることが好ましい。この理由は、溶解室2から発生する高温の排ガスを、冷鉄源の予熱に効果的に利用するためである。
【0041】
以上、アーク炉1が直流式の場合について説明したが、交流式アーク炉を用いる場合であっても全く支障なく本発明を適用することができる。
【実施例】
【0042】
この実施例では、図1に示す溶解室(炉径7.2m、高さ4m)と予熱室(幅3m、長さ5m、高さ7m)とからなる炉容量が180トンの直流式の複合アーク溶解炉において、この炉の予熱室に、まず約70トンの常温の鉄スクラップを装入する。次いで、溶解室に70トンの常温の鉄スクラップを装入し、直径30インチの黒鉛製上部電極を用いて、最大750V、130KAの電源容量のアークを発生させて溶解室内の鉄スクラップの溶解を開始した。鉄スクラップの溶解操業中、予熱室の側壁に設けられたアンモニアガス導入口からアンモニアガスを表1の条件で吹き込み、予熱室下端入口(アンモニアガスによる改質反応前)および上端出口位置(アンモニアガスによる改質反応後)において排ガスのガス分析を測定すると共に、予熱室上部の排気ダクト入口において、排ガス温度を測定した。なお、アンモニアガス導入口は、A:溶解室内の湯面位置、C:予熱室上部の冷鉄源の上端位置、B:AとCの中間位置の3箇所に設けた。
【0043】
また、この実施例では、通電直後に、溶解室内に生石灰と蛍石とを添加すると共に、酸素吹き込みランスから酸素を6000Nm/hr、炭材吹き込みランスからコークスを80kg/min吹き込んだ。生石灰及び蛍石は、加熱されて溶融スラグとなった後、酸素とコークスの吹き込みによりフォーミングして、上部電極の先端が溶融スラグ中に埋没した状態を導くために用いられる。この時の電圧は550Vに、そして、鉄スクラップの溶解においては、酸素吹き込み量は30Nm/t、およびコークス吹き込み量は30kg/tの条件を採用した。
【0044】
本発明の結果を比較例(比較例1:アンモニアガスの吹き込みなし、比較例2:コークス(炭材)の吹き込みなし)とともに表1に示す。
この例において、アンモニアガス吹き込み時のアンモニアガス導入口温度は、Aは800〜1300℃、Bは500〜800℃、Cは300〜500℃であった。アンモニアガスの吹き込み量は、発明例1〜5では、排ガス流量の7%相当である38Nm/分、発明例6および比較例2では、15%相当である57Nm/分となった。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果から、発明例1〜6では、予熱室内にアンモニアガスを導入し、排ガスと反応させて改質を行ったことにより、予熱室内の鉄スクラップの予熱が効率よく行われ、電力原単位を低減できることが確認された。
また、発明例1〜6ではいずれも、排ガス中の炭化水素とH量が増加したのに対し、比較例1(アンモニア吹き込みを行わない場合)では、排ガス中に炭化水素は検出されず、H量は3%以下であった。また、比較例2(コークスの吹き込みを行わない場合)では、溶解室から発生する排ガス中のCOおよびCO量が少ないため、予熱室内においてCOおよびCOとアンモニアガスとの改質反応が生じず、そのため、排ガス中に炭化水素が検出されず、H量は3%以下であり、電力原単位も高くなってしまった。
そして、発明例3では、アンモニアガスを、排ガス温度が最も高温(800〜1300℃)のA位置から吹き込んだことにより、上記(3)式の反応が優先的に進み、Hを多く発生させることができ、また、発明例5では、アンモニアガスを、排ガス温度が低温(300〜500℃)のC位置から吹き込んだことにより、上記(2)式の反応が優先的に進み、その結果、Hの生成は少なかったが、代わりにCHを多く発生させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の係る技術は、例示した複合アーク溶解炉によって鉄スクラップや直接還元鉄など冷鉄源を溶解した際に発生する排ガスを有効に利用する方法として有用であるが、排ガスを発生する他の溶解炉にもその考え方を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 アーク炉
2 溶解室
3 予熱室
4 炉壁
5 炉蓋
6 炉底電極
7 上部電極
8 酸素吹き込みランス
9 炭材吹き込みランス
10 バーナー
11 出湯口
12 出滓口
13 供給用バケット
15 冷鉄源
17 溶湯
18 溶融スラグ
19 アーク
20 供給口
21 ダクト
22 扉
23 扉
24 走行台車
25 アンモニアガス導入口
40 冷却塔
42 ブロアー
43 集塵機
44 ガス流量切換弁
45 フレア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解室と、その上部に立設されて溶解室と連通するシャフト形の予熱室とからなるアーク溶解炉によって、該予熱室内を順次に降下する冷鉄源を、溶解室内で発生した高温排ガスを使って予熱すると共に、引き続き溶解室に導いてアーク溶解するようにしてなる複合アーク溶解炉において、前記冷鉄源が、予熱室内と溶解室内上部とに跨って存在する状態の下で、該溶解室内に補助熱源である炭材を吹き込む一方で、予熱室内にはアンモニアガスを吹き込むことを特徴とする複合アーク溶解炉発生排ガスの改質方法。
【請求項2】
前記溶解室内で発生する排ガスは、少なくとも5%の二酸化炭素を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合アーク溶解炉発生排ガスの改質方法。
【請求項3】
前記アンモニアガスは、予熱室の溶解室内の湯面の位置から予熱室上部の冷鉄源の堆積層上端位置までの領域において、1もしくは複数箇所に設けられたアンモニアガス導入口から吹き込むことを特徴とする請求項1または2に記載の複合アーク溶解炉発生排ガスの改質方法。
【請求項4】
前記溶解室から発生する排ガスの、予熱室の溶解室内の湯面位置における温度が600℃以上であり、その位置において前記アンモニアガスと排ガス中の二酸化炭素との改質反応を導いて、該排ガス中の水素濃度および炭化水素系ガス濃度を増加させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合アーク溶解炉発生排ガスの改質方法。
【請求項5】
前記溶解室から発生する排ガスの、予熱室上部の冷鉄源の堆積層上端位置における温度が400℃以下であり、その位置において前記アンモニアガスと排ガス中の一酸化炭素との改質反応を導いて、該排ガス中の炭化水素系ガス濃度を増加させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合アーク溶解炉発生排ガスの改質方法。
【請求項6】
前記アンモニアガスの吹き込み量は、溶解室から発生する排ガス量の5〜25%とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合アーク溶解炉発生排ガスの改質方法。
【請求項7】
前記炭材の吹込み量は、溶解室内の冷鉄源に対し5kg/t以上とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合アーク溶解炉発生排ガスの改質方法。
【請求項8】
冷鉄源をアーク溶解するためのアーク電極および溶解室と、溶解室の上方に立設されていて該溶解室内とは連通し、装入し充填された冷鉄源を予熱するシャフト形予熱室とからなり、該溶解室に補助熱源を供給する補助熱源供給手段と酸素供給手段と、予熱室の溶解室内の湯面の位置から予熱室上部の冷鉄源の堆積層上端位置までの領域において、1もしくは複数箇所のアンモニアガス導入口と、前記溶解室内で発生した排ガスを回収するためのガス回収設備と、を有することを特徴とする複合アーク溶解炉。

【図1】
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【公開番号】特開2012−158782(P2012−158782A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17367(P2011−17367)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】