説明

複合メタン発酵による有機廃棄物の処理方法及び処理装置

【課題】本発明の目的は、液体画分と固体画分を含有し、該液体画分は上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれていない有機廃棄物に対して、効率的且つ簡便に処理するための方法及び装置を提供することである。
【解決手段】(1)液体画分と固体画分を含有し、該液体画分は上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれていない有機廃棄物を固液分離する工程、(2)分離された固形分画分をメタン発酵処理に供する工程、(3)(2)で得られたメタン発酵汚泥に対し、可溶化処理及びアンモニア除去処理を行う工程、並びに(4)得られた液体画分と、(3)で除去されたアンモニアと、必要に応じて可溶化処理物と、可溶化処理物とを、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理に供する工程を、実施すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体画分と固体画分を含有し、該液体画分は上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれていない有機廃棄物を、効率的且つ簡便に処理するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固形状及び溶解性有機物の両方を含有する廃棄物をメタン発酵処理することにより、メタンを回収しながら廃棄物中の有機物を分解する方法において、全量を従来型メタン発酵処理により処理すると、従来型メタン発酵に必要な滞留時間が20〜30日と長いため、巨大なメタン発酵槽が必要となるという課題があった。そこで、主として固形状有機物を含有する固形分と、主として溶解性有機物を含有する液状分に固液分離し、固形分は従来型メタン発酵により処理し、液状分は上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵法(通称UASB法)により処理する「複合メタン発酵法」が開発された(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところが、複合メタン発酵法では、従来型メタン発酵処理による固形分の分解性能が不十分なため、全体として目標とする処理性能を得られない廃棄物が存在するという課題があることが明らかとなった。そのような廃棄物としては、例えば、固形分にはメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれるが、液状分には上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれない有機廃棄物が挙げられる。
【0004】
このような課題に対し、固体画分の処理を従来型メタン発酵処理と75〜90℃の可溶化処理との組合せ処理とすることで、固形分の分解性能を向上させ、結果として全体の処理性能を向上させることが試みられた(例えば、特許文献2)。
【0005】
しかしながら、廃棄物の種類によっては、可溶化槽のアンモニア濃度が上昇し、微生物の活性が低下してしまうという課題があることが明らかとなった。また、廃棄物の種類によっては、液体画分に含まれる窒素分が不十分なため、UASB法による液体画の処理が不十分になり、全体として目標とする処理性能を得られない廃棄物が存在するという課題があることもわかってきている。
【特許文献1】特開2003−326237号公報
【特許文献2】特開2005−144361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、液体画分と固体画分を含有し、該液体画分は上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれていない有機廃棄物を効率的且つ簡便に処理することができる処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、液体画分と固体画分を含有し、該液体画分は上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれていない有機廃棄物の処理において、(1)有機廃棄物を固液分離して、固体画分と液体画分に分離する、(2)当該(1)で得られた固体画分をメタン発酵処理に供する、(3)当該(2)で得られたメタン発酵汚泥に対し、可溶化処理及びアンモニア除去処理を行う、及び(4)当該(1)で得られた液体画分と、当該(3)で除去されたアンモニアとを、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理に供することによって、当該(3)で除去されたアンモニアを当該(4)におけるメタン発酵処理における養分として活用することができ、結果として全体の処理性能を向上させることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる処理方法及び装置である:
項1. 液体画分と固体画分を含有する有機廃棄物の処理方法であって、該有機廃棄物に含有される液体画分は上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれていないものであり、下記工程を含むことを特徴とする、有機廃棄物の処理方法:
有機廃棄物を固液分離して、固体画分と液体画分に分離する第1工程、
第1工程で得られた固体画分をメタン発酵処理に供する第2工程、
第2工程で得られたメタン発酵汚泥に対し、可溶化処理及びアンモニア除去処理を行う第3工程、及び
第1工程で得られた液体画分と、第3工程で除去されたアンモニアとを、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理に供する第4工程。
項2. さらに、上記第3工程において、気相へ除去されたアンモニアを液相へ回収し、得られたアンモニア水を、第1工程で得られた液体画分とともに上記第4工程に供する、項1に記載の処理方法。
項3. さらに、上記第4工程において、第1工程で得られた液体画分と、第3工程で除去されたアンモニアとともに、第3工程で得られる可溶化処理物をも上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理に供する、項1または2に記載の処理方法。
項4. 第3工程で得られる可溶化処理物の一部を、再度、第2工程におけるメタン発酵処理に供する、項1〜3のいずれかに記載の処理方法。
項5. 第2工程における可溶化処理が、70〜95℃の温度条件下での加熱処理である、項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
項6. 液体画分と固体画分を含有し、該液体画分は上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれていない有機廃棄物の処理装置であって、
有機廃棄物を固体画分と液体画分に分離する固液分離装置と、
固液分離装置により分離された固体画分に対してメタン発酵を行うメタン発酵槽と、
メタン発酵槽から排出されるメタン発酵汚泥を可溶化処理する可溶化槽と、
当該可溶化槽から回収したアンモニアを気相から液相へ移行させるアンモニア移行装置と、
固液分離装置から排出される液体画分とアンモニア除去装置から排出されるアンモニアに対して、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵を行う上向流メタン発酵処理槽と、
を備える、前記有機廃棄物の処理装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の処理方法及び処理装置によれば、複合メタン発酵法における従来の問題点を解決し、液状分に含まれる窒素源が不十分な有機廃棄物でも、複合メタン発酵の利点を十分に活かして処理することが可能であり、結果として、極めて効率よく且つ簡便に有機廃棄物を処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
I. 処理方法
本発明は、液体画分と固体画分を含有し、該液体画分は上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれていない有機廃棄物(以下、単に「対象有機廃棄物」と表記することもある)を浄化処理する方法であって、当該有機廃棄物を固液分離して、固体画分と液体画分に分離する工程(第1工程)、第1工程で得られた固体画分をメタン発酵処理に供する工程(第2工程)、第2工程で得られたメタン発酵汚泥に対し、可溶化処理及びアンモニア除去処理を行う工程(第3工程)、及び第1工程で得られた液体画分と、第3工程で回収されたアンモニアを、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理に供する工程(第4工程)を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明において対象有機廃棄物とは、前述の通り「液体画分と固体画分を含有し、液体画分には上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれない有機廃棄物」を指す。ここで、液体画分における「上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれない」とは、窒素源の濃度が、液体画分1Lあたり、窒素原子に換算して40mg−N程度以下、より具体的には0〜40mg−N程度であることを指す。また、有機廃棄物に含まれる固体画分中の窒素源量は、特に制限されないが、メタン発酵菌の生育を可能にする量の窒素源が含まれていることが望ましい。このように固体画分において窒素源が含まれていることにより、第2工程のメタン発酵処理で窒素源を添加する必要がなく、更には、固体画分に含まれる窒素源を最終的にアンモニアとして回収して第4工程のメタン発酵処理において利用することが可能になる。ここで、固体画分における「メタン発酵菌の生育に必要な窒素源の量が含まれる」とは、固体物に含まれる窒素源量がメタン発酵菌の生育を可能にする範囲であればよく、具体的には、固体画分の乾燥重量1kg当たり、窒素源が100mg−N程度以上、より具体的には100〜2000mg−N程度以上となる量が例示される。本発明において、対象有機廃棄物の具体例としては、ジュース製造工場、コーヒー製造工場、醤油・味噌工場、食品工場、製菓工場、乳製品工場、肉製品工場、あん工場、酒(日本酒、焼酎)工場、水産系製品工場などの各洗浄廃水などが挙げられ、特に、返品された商品と一緒に処理する場合に有効である。また窒素源を含まない工場に周辺工場等から窒素源を含む固形廃棄物を受け入れて処理するケースも考えられる。
【0012】
以下、本発明の処理方法について、工程毎に詳説する。
【0013】
第1工程
本発明の処理方法では、まず、対象有機廃棄物を固液分離する工程に供する(第1工程)。固液分離方法としては、廃棄物の固液分離に従来使用されている方法を使用でき、例えばスクリーン分離、沈殿分離、膜分離、遠心分離等が挙げられる。
【0014】
このように固液分離された固体画分は、後述するメタン発酵処理(第2工程)に供され、更に固液分離された液体画分は、後述する可溶化処理物及び回収されたアンモニアと混合されて向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理(第4工程)に供される。なお、第2工程に供される固体画分は、上記固液分離方法により分離された状態であればよく、必ずしも水分が完全に除去されておらず液状を呈するものであってもよい。
【0015】
第2工程
次いで、上記第1工程で得られた固体画分をメタン発酵処理に供する(第2工程)。即ち、本第2工程は、嫌気性雰囲気下で、上記第1工程で得られた固体画分に対してメタン発酵を行うことによって実施される。本第2工程のメタン発酵処理によって、上記第1工程で得られた固体画分中の有機物の内、メタン発酵菌により利用可能な有機物が、メタンと二酸化炭素に分解される。
【0016】
本第2工程で実施されるメタン発酵処理において、嫌気性雰囲気の調製・維持は、二酸化炭素、窒素、アルゴン、水素、天然ガス、メタン、都市ガス等を用いて行うことができる。また、必要に応じて、硫化ナトリウムなどの酸素除去剤を使用してもよい。
【0017】
また、本第2工程におけるメタン発酵の温度条件は、用いるメタン発酵菌の種類に応じて広い温度範囲から適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、一般には20〜60℃程度であればよく、例えば、35℃程度のいわゆる中温でも、55℃程度のいわゆる高温でもよい。
【0018】
本第2工程におけるメタン発酵の形式については、上記第1工程で得られた固体画分をメタン発酵できることを限度として特に制限されないが、例えば、回分式、連続式、固定床式等の形式が例示される。
【0019】
本第2工程におけるメタン発酵の処理時間としては、処理対象となる固体画分の量、使用するメタン発酵菌の種類、発酵温度、発酵形態等によって異なり、一律に規定することはできないが、通常10〜30日、好ましくは10〜20日、更に好ましくは10〜14日を挙げることができる。
【0020】
このようにメタン発酵処理を行うことによって、メタン発酵汚泥が得られる。得られたメタン発酵汚泥は、後述する第3工程の可溶化処理に供される。
【0021】
第3工程
次いで、上記第2工程で得られたメタン発酵汚泥に対し、可溶化処理及びアンモニア除去処理を行う(第3工程)。
【0022】
本第3工程の可溶化処理によって、上記第2工程で得られたメタン発酵汚泥に残存する有機物(即ち、メタン発酵により分解されなかった有機物)が、低分子化される。
【0023】
本第3工程における可溶化処理としては、アンモニアを気相へ移行させやすい条件でメタン発酵汚泥に残存する有機物を低分子化できる限り、特に制限されず、廃棄物処理において従来採用されている可溶化処理を使用することができる。本第3工程における可溶化処理の具体例として、加熱処理、アルカリ処理、メタン発酵菌以外の微生物による分解処理、超音波処理等が例示される。これらの可溶化処理は、廃棄物処理において通常用いられている処理条件を採用すればよいが、その具体的条件の一例を以下に例示する。
【0024】
加熱処理の具体的条件としては、上記第2工程で得られたメタン発酵汚泥に対して、例えば60℃以上、好ましくは70〜95℃程度、更に好ましくは70〜80℃程度の温度条件下で、例えば1〜96時間、好ましくは12〜72時間、更に好ましくは24〜48時間処理する方法が挙げられる。本加熱処理において、加熱温度の維持には、重油、都市ガス、電力等をエネルギー源として利用してもよいが、上記第2工程及び後述する第4工程で発生するメタンガスを用いて、熱と電力を得るコジェネレーション手段(ガスエンジン、燃料電池等)により得られる排熱を利用することが望ましい。なお、加熱処理の際、加熱温度、加熱時間、及び可溶化槽からメタン発酵槽への返送量等を適宜調整することで、固形物の可溶化力が高い微生物、例えばThermotoga属細菌を優占的に増殖させることにより、より高い可溶化効率を得ることができる。Thermotoga属細菌量の測定は、Real Time PCR法により測定することができる。
【0025】
アルカリ処理の具体的条件としては、上記第2工程で得られたメタン発酵汚泥に対して、例えば、pH9〜14、好ましくは10〜12の条件下で、1日程度以下、好ましくは1時間程度処理する方法が挙げられる。
【0026】
これらの可溶化処理の中でも、簡便性、及び残存する有機物の可溶化率(低分子化率)を高めるという観点から、加熱処理が好ましい。
【0027】
また、本第3工程においては、さらに有機廃棄物に含まれているアンモニア及び生物学的処理汚泥による分解で生じたアンモニアの回収を実施する。このアンモニア除去処理は、上記可溶化処理と同時に行ってもよいし、可溶化処理後に行ってもよい。
【0028】
上記可溶化処理では、60℃以上の温度条件が採用されるため、有機性廃棄物に含まれているアンモニア及び生物学的処理汚泥の作用によって生じたアンモニアが格段に揮発され易くなっている(Journal of Hazardous Materials 37 (1994)191-206)。そのため、当該可溶化処理において、該処理雰囲気内に気体を吹き込み、アンモニアストリッピング法によりアンモニアを揮発させて回収することが可能である。このように、アンモニアを回収することにより、可溶化された有機性廃棄物からアンモニアを気相へ除去でき、これをメタン発酵に供する場合には、アンモニアによるメタン発酵への悪影響を回避することが可能になる。
【0029】
さらに、本発明の処理方法は、上記第3工程で気相へ除去されたアンモニアを液相へ回収する工程を含んでいてもよい。アンモニアを液相に回収するには、具体的には、アンモニアを含む気相を冷却する方法、アンモニアを含む気相を液体と接触させてアンモニアを液相に移行させる方法等が例示される。
【0030】
このように第3工程を実施することによって、可溶化処理物とアンモニアが得られる。斯くして得られた可溶化処理物は、有機物濃度が減じられている。それ故、得られた可溶化処理物の有機物濃度が、環境に悪影響を及ぼさない程度であれば、下水道や河川に放流してもよい。また、得られた可溶化処理物に含まれる有機物濃度をより低減させるために、後述する上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理(第4工程)に供してもよい。得られた可溶化処理物を第4工程に供する場合、当該可溶化処理物に固形分がほとんど含まれていなければ、そのまま上記第1工程で得られた液体分と共に、後述する上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理に供することができる。また、得られた可溶化処理物を第4工程に供する場合、該可溶化処理物に固形分が残存していれば、当該可溶化処理物を固液分離して、得られた液体分を記第1工程で得られた液体分と共に、後述する上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理に供することができる。なお、固液分離により得られた固形分は、埋め立て、焼却などによっては外部処分することができる。
【0031】
また、得られた可溶化処理物の一部を、再度上記第2工程に供してもよく、これによって有機物の残存量の一層の低減化を図ることができる。
【0032】
一方、回収されたアンモニアは、窒素源として、後述の上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理(第4工程)に供される。
【0033】
第4工程
次いで、上記第1工程で得られた液体画分と、上記第3工程で除去/回収されたアンモニアと、必要に応じて上記第3工程で得られ可溶化処理物とを、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理に供する(第4工程)。本第4工程のメタン発酵処理によって、上記第1工程で得られた液体画分に含まれる有機物と、アンモニアを養分とするメタン発酵によってメタンと二酸化炭素に分解され、最終的に排出される排水の有機物濃度を下水道放流が可能な程度にまで低減させることができる。また、本第4工程において、上記第3工程で得られ可溶化処理物についても処理する場合、当該可溶化処理物中の有機物も、メタンと二酸化炭素に分解することができる。
【0034】
本第4工程において、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理に供される混合液は、上記第1工程で得られた液体画分と、上記第3工程で除去/回収されたアンモニアと、必要に応じて上記第3工程で得られた可溶化処理物とを混合したものであればよいが、更に、他の排水や水道水等が混合されていてもよい。本第4工程において、上記第3工程で除去/回収されたアンモニアと第1工程で得られた液体画分との混合比、更に上記第3工程で得られ可溶化処理物についても処理する場合には当該可溶化処理物の混合比などについては、特に制限されず、それぞれの発生量に応じて適宜決定する。
【0035】
本第4工程において、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理は、排水処理において従来採用されている方法に従って実施される。上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理の具体例として、メタン発酵菌を含むグラニュール汚泥を投入し、処理対象物(上記第1工程で得られた液体画分と、上記第3工程で除去/回収されたアンモニアと、必要に応じて上記第3工程で得られた可溶化処理物)の混合液を、滞留時間が1〜24時間、好ましくは4〜8時間となるように通水させる方法が例示される。また、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理における温度条件についても、グラニュール汚泥に含まれるメタン発酵菌の種類に応じて広い温度範囲から適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、一般には20〜60℃程度であればよく、例えば、30〜35℃程度のいわゆる中温でも、50〜55℃程度のいわゆる高温でもよい。
【0036】
このようにして処理された後に排出される排水は、有機物濃度が低減され、下水道放流が可能であり、環境に悪影響を及ぼさない程度に浄化されている。
【0037】
II. 処理装置
本発明は、さらに、上記処理方法を実施するための有機廃棄物の処理装置をも提供する。
【0038】
本発明の処理装置は、有機廃棄物1を固体画分と液体画分に分離する固液分離装置2と、固液分離装置2により分離された固体画分に対してメタン発酵処理を行うメタン発酵処理槽5と、メタン発酵処理槽5で得られたメタン発酵汚泥に対して可溶化処理を行うと共にアンモニアを気相へ移行させる機能を備えた可溶化槽7と、可溶化槽から回収したアンモニアを気相から液相へ移行させるアンモニア移行装置11と、固液分離装置2により分離された液体画分とアンモニア移行装置11から排出されるアンモニアとを上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理する上向流メタン発酵処理槽13とを備えることを特徴とする。更に、本発明の処理装置では、上向流メタン発酵処理槽13は、可溶化槽7から排出される可溶化処理物についても、固液分離装置2により分離された液体画分とアンモニア移行装置11から排出されるアンモニアと共に、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理を行い得るように構成されていてもよい。本発明の処理装置の一実施形態を図1に示す。
【0039】
固液分離装置2は、有機廃棄物1が供給され、固液分離された固体画分と液体画分をそれぞれ排出可能であるように構成されている。また、本発明の処理装置において、固液分離装置2から固液分離された固体画分と液体画分が各々メタン発酵槽5と上向流メタン発酵処理槽13に搬送可能にするために、固液分離装置2で固液分離された固体画分をメタン発酵槽5に供給する供給手段4と、固液分離装置2で固液分離された液体画分を上向流メタン発酵処理槽13に供給する液体画分供給手段3を備えていればよい。
【0040】
メタン発酵槽5は、固体画分供給手段4によって有機廃棄物の固体画分が供給され、当該固体画分のメタン発酵が可能であり、メタン発酵処理後に生じるメタン発酵汚泥を排出可能であるように構成されている。また、本発明の処理装置において、メタン発酵汚泥を可溶化槽7に搬送可能にするために、メタン発酵槽5から排出されるメタン発酵汚泥を可溶化槽7に供給する供給手段6を備えていればよい。
【0041】
可溶化槽7は、メタン発酵汚泥供給手段6によってメタン発酵汚泥が供給され、当該メタン発酵汚泥の可溶化処理が可能であり、可溶化処理後に生じる可溶化処理物を排出可能であるように構成されている。さらに可溶化槽7はアンモニア除去手段を備えている(図1には示さず)。また、本発明の処理装置において、可溶化処理物を上向流メタン発酵処理槽13に搬送可能にするために、可溶化槽7から排出される可溶化処理物を上向流メタン発酵処理槽13に供給する可溶化処理物供給手段9を備えていればよい。また、本発明の処理装置は、可溶化槽7から回収された気相のアンモニアをアンモニア移行装置11に供給する気相アンモニア供給手段10を備えている。更に、本発明の処理装置において、可溶化槽7から排出される可溶化処理物の一部をメタン発酵槽5に返送するための可溶化処理物返送手段8を備えていてもよく、これによって、可溶化処理物の一部を再度メタン発酵処理に供することができ、有機物の分解効率を向上せしめることが可能になる。
【0042】
アンモニア移行装置11には、気相アンモニア供給手段10によって可溶化槽から回収されたアンモニアが供給される。アンモニア移行装置11は気相のアンモニアを液相に移行させる手段を備える。液相のアンモニアは、液相アンモニア供給手段12によって、固液分離装置2で固液分離された液体画分を上向流メタン発酵処理槽13に供給する液体画分供給手段3に合流し、上向流メタン発酵処理槽13に供給される。
【0043】
上向流メタン発酵処理槽13には、液体画分供給手段3によって固液分離装置2で固液分離された液体画分とアンモニア移行装置から排出される液相のアンモニアとの混合液が供給され、さらに必要に応じて可溶化処理物供給手段9によって上向流メタン発酵処理槽13から可溶化処理物が供給される。また、必要に応じて、上向流メタン発酵処理槽13から可溶化処理物を後述する処理物貯留槽15に供給するための可溶化処理物供給手段9'を備えていてもよい。上向流メタン発酵処理槽13は、これらの供給物の上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理が可能であり、メタン発酵処理後に生じる排水を排出可能であるように構成されている。上向流メタン発酵処理槽13から排出されるメタン発酵処理物は、メタン発酵処理物供給手段14によって最終処理物を一時的に貯留する処理物貯留槽15に送り、その後処理物貯留槽15に備えられた排出手段16により下水道に放流してもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0045】
<生ゴミの作製>
以下の材料をそれぞれ5mm角に切り、各材料をよく攪拌し、これを模擬生ゴミとした。
【0046】
・果実類 リンゴ 2.5%
オレンジ(皮) 7.5%
バナナ(皮) 10%
・野菜類 キャベツ 10%
ジャガイモ 10%
ニンジン 10%
大根 10%
白菜 10%
・肉 挽肉 2.5%
・魚介類 魚 3.5%
骨 1.5%
・卵類 卵 2.5%
・残飯類 米飯 10%
パン 2.5%
麺類 7.5%
模擬生ゴミの組成の単位「%」は重量%を示す。
【0047】
参考例1
上記生ごみ1kg/日を滞留時間20日間、温度55℃のメタン発酵槽(嫌気)と滞留時間1日、温度80℃の可溶化槽とを有する処理システムで処理し、前記可溶化槽で、アンモニアストリッピング法によってアンモニアを液相から気相へ移行させる操作を行ったところ、アンモニア回収量は0.75g/日であった。
【0048】
参考比較例1
上記生ごみ1kg/日を滞留時間20日間、温度55℃のメタン発酵槽(嫌気)で処理し、別途温度55℃の槽でアンモニアを液相から気相へ移行させる操作を行ったところ、アンモニア回収量は0.075g/日であった。
【0049】
参考例1と参考比較例1の比較から、温度80℃の槽でアンモニアを液相から気相へ移行させる操作を行うことにより、55℃で同様の操作を行う場合と比較して約10倍量のアンモニアが回収できることが明らかとなった。
【0050】
実施例1
1.メタン発酵及び可溶化
40L容のメタン発酵槽(嫌気、55℃)に、上記生ゴミ1L/日を投入してメタン発酵を行った。メタン発酵槽内部からメタン発酵汚泥2L/日抜き取り、2L容の可溶化槽に投入し、80℃で加熱して可溶化処理を行った。その後、可溶化槽から1L/日抜き取って、下記の上向流メタン発酵に供するため、UASB(上向流嫌気性スラッジブランケット)装置に投入し、さらに1L/日をメタン発酵槽に戻した。
【0051】
これらのメタン発酵処理(嫌気、55℃)と可溶化処理(80℃条件下での加熱)は連続的に実施した。
【0052】
2.アンモニア回収
上記可溶化槽において生成したアンモニアを、アンモニアストリッピング法により回収し、回収したアンモニア含有ガスを、15℃の冷却水で約20℃にまで冷却した。その後、気液分離器によってアンモニア水とアンモニア含有ガスに分離し、それぞれを気液向流式スクラバーによって、アンモニア水(約200mL/日)とアンモニアが除去されたガスに分けることにより、アンモニア水を得た。
【0053】
3.上向流メタン発酵(高速メタン発酵)
上記1で得られた可溶化処理物1Lと、50,000mg/Lの酢酸ナトリウム溶液4Lと、上記2で得られたアンモニア水200mL(アンモニア 0.75g含有)とを混合して、槽体積1.4LのUASB(上向流嫌気性スラッジブランケット)装置(35℃)を用いて、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理を行った。
【0054】
その結果、UASB装置から排出される処理後の酢酸ナトリウム濃度は6,000mg/Lとなっていた。
【0055】
比較例1
50,000mg/Lの酢酸ナトリウム溶液4Lを液体画分として、これらと参考比較例1で得られたアンモニア水70mL(アンモニア 0.075g含有;参考比較例1におけるアンモニア回収量1日分に相当)とを混合して、槽体積1.4LのUASB(上向流嫌気性スラッジブランケット)装置(35℃)を用いて、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理を行った。
【0056】
その結果、UASB装置から排出される処理後の酢酸ナトリウム濃度は41,500mg/Lとなっていた。
【0057】
この結果から、高温可溶化処理を実施しないと、アンモニアの回収量が減り、有機物分解の効率が下がることがわかった。すなわち、本発明の処理方法によれば、10倍量のアンモニアを添加して処理することができるため、有機物の分解速度が大幅に改善することが明らかとなった。
【0058】
以上のように、固形物をメタン発酵処理しながら80℃の槽からアンモニアを回収し、それを、窒素源を含まない有機物含有溶液に添加してメタン発酵処理することで、有機物含有溶液のメタン発酵速度が大幅に向上することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の概要を示すフローシートである。
【符号の説明】
【0060】
1 有機廃棄物
2 固液分離装置
3 液体画分供給手段
4 固体画分供給手段
5 メタン発酵槽
6 メタン発酵汚泥供給手段
7 可溶化槽
8 可溶化処理物返送手段
9 可溶化処理物供給手段
9’ 可溶化処理物供給手段
10 気相アンモニア供給手段
11 アンモニア移行装置
12 液相アンモニア供給手段
13 上向流メタン発酵処理槽
14 メタン発酵処理物供給手段
15 処理物貯留槽
16 排出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体画分と固体画分を含有する有機廃棄物の処理方法であって、該有機廃棄物に含有される液体画分は上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれていないものであり、下記工程を含むことを特徴とする、有機廃棄物の処理方法:
有機廃棄物を固液分離して、固体画分と液体画分に分離する第1工程、
第1工程で得られた固体画分をメタン発酵処理に供する第2工程、
第2工程で得られたメタン発酵汚泥に対し、可溶化処理及びアンモニア除去処理を行う第3工程、及び
第1工程で得られた液体画分と、第3工程で除去されたアンモニアとを、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理に供する第4工程。
【請求項2】
さらに、上記第3工程において、気相へ除去されたアンモニアを液相へ回収し、得られたアンモニア水を、第1工程で得られた液体画分とともに上記第4工程に供する、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
さらに、上記第4工程において、第1工程で得られた液体画分と、第3工程で除去されたアンモニアとともに、第3工程で得られる可溶化処理物をも上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵処理に供する、請求項1または2に記載の処理方法。
【請求項4】
第3工程で得られる可溶化処理物の一部を、再度、第2工程におけるメタン発酵処理に供する、請求項1〜3のいずれかに記載の処理方法。
【請求項5】
第2工程における可溶化処理が、70〜95℃の温度条件下での加熱処理である、請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
液体画分と固体画分を含有し、該液体画分は上向流嫌気性汚泥床法のメタン発酵菌の生育に必要な量の窒素源が含まれていない有機廃棄物の処理装置であって、
有機廃棄物を固体画分と液体画分に分離する固液分離装置と、
固液分離装置により分離された固体画分に対してメタン発酵を行うメタン発酵槽と、
メタン発酵槽から排出されるメタン発酵汚泥を可溶化処理する可溶化槽と、
当該可溶化槽から回収したアンモニアを気相から液相へ移行させるアンモニア移行装置と、
固液分離装置から排出される液体画分とアンモニア除去装置から排出されるアンモニアに対して、上向流嫌気性汚泥床法によるメタン発酵を行う上向流メタン発酵処理槽と、
を備える、前記有機廃棄物の処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−142691(P2010−142691A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319923(P2008−319923)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】