説明

複合中空糸膜

【課題】特に耐薬品性、疎水性の高い熱可塑性樹脂からなり、高い気体分離性に加えて、高い気体透過性、高い破断強伸度、高い耐熱性を併せ持った、気体分離用の複合中空糸膜を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂の球状構造からなる支持層と、非多孔質材料からなる分離層から構成される複合中空糸膜であって、複合中空糸膜の長手方向に垂直な断面写真において、支持層の分離層側の界面から支持層方向に深さ5μmの位置の空隙の大きさが2μm以下である複合中空糸膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体混合物の成分を選択分離するための複合中空糸膜に関する。さらに詳しくは、空気から酸素と窒素への分離、プラットフォーミング法のオフガスからの水素の分離回収、アンモニア合成時の水素の分離回収、火力発電やゴミ焼却の排ガスからの二酸化炭素の回収および窒素酸化物や硫黄酸化物の除去、油田のオフガスからの二酸化炭素の回収、メタンを主成分とする天然ガスからの硫化水素、二酸化炭素などの酸性ガスの除去やヘリウムの分離回収、精密機械用やオゾン発生機用の空気除湿、有機溶剤からの脱水など、多くの分野に適用される。
【背景技術】
【0002】
すべての高分子素材は、大なり小なり気体透過性を有し、その透過性は素材の種類と気体の種類により大きく異なることから、高分子膜を用いて気体混合物から特定の成分を分離濃縮できることが古くから知られている。膜による気体分離は、他の分離方法と比較して、エネルギー的に有利で、装置が小型軽量、機構が簡単でメンテナンスフリーなどの特徴を有するため、各種産業分野で活発に適用されている。特に近年は、省資源、省エネルギー、有用なガスの回収などの観点から注目を集めている。
【0003】
このような気体分離膜に対しては、混合気体から目的の気体成分を選択的に分離する性能と、効率良く目的の気体成分を透過する性能が高いことが要求される。すなわち気体分離性と気体透過性がともに高いことが重要である。一般に気体分離性は、緻密な膜の場合、本質的に膜素材固有の特性である。これに対して気体透過性は、均質の膜の場合、膜厚に反比例する。従って気体分離膜の製造に当たっては、いかに薄く、かつ緻密な膜を生成するかが重要な課題となるが、他方、膜厚の低下に伴い機械的強度が低下するので、実用化可能な膜厚には限界があった。
【0004】
また上述したように用途は様々であり、使用環境も様々である。そのため、混合気体を加圧するためにコンプレッサーを使用する場合や、温の混合気体をそのまま使用したりする場合には、高温での耐熱性が必要になる。しかしながら、従来の高分子膜は高温で使用すると、分離能の低下が起こるという問題があった。
【0005】
以上のような背景から、膜素材固有の気体分離性に加えて、気体透過性と機械的強度、さらに耐熱性を有する分離膜が必要であり、種々提案されている。
【0006】
その一つとして、高分子膜に、高い気体分離性を有する薄い緻密層と、比較的厚く、機械的強度と気体透過性を併せもつ多孔質層の二層を一体的に生成させた、いわゆる非対称分離膜がある。例えば、特許文献1に、フルオレン骨格を有するポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミドのうち少なくとも1種のポリマーを含むポリマーの混合体の溶液を用い、従来の湿式紡糸法により表層が緻密で、膜全体に渡って実質的にスポンジ構造からなる中空糸膜が報告されている。しかし、緻密層の気体透過性をある程度高くする必要性から、溶液のポリマー濃度を高くできず、またスポンジ構造からなるために、その機械的強度は十分ではなく、耐熱性も低いという問題がある。
【0007】
そこでさらに別の方法として、高分子体の緻密な薄膜を、多孔質体の支持基材の上に積層する、いわゆる複合膜化がある。例えば、特許文献2、3に耐薬品性が高く、疎水性が高いために、気体分離膜に適している、ポリフッ化ビニリデンを素材とする支持層に高い気体透過性を有する、ポリアセチレンあるいはシリコーンポリマーからなる薄い緻密層を積層した中空糸膜が報告されている。しかし、いずれの場合も非溶媒誘起相分離により支持層を形成していることから、マクロボイドと呼ばれる欠陥を有したスポンジ構造からなり、その機械的強度は必ずしも十分ではない。またこのような複合膜の耐熱性は低い。その原因として、緻密な薄膜が熱変形、熱劣化することがあるが、それ以上に支持層の熱変形による影響が大きいことがわかっている。
【特許文献1】特開平06−091145号公報
【特許文献2】特開昭63−315104号公報
【特許文献3】特開平09−066224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では上記のような問題点に鑑み、特に耐薬品性、疎水性の高い熱可塑性樹脂からなり、高い気体分離性に加えて、高い気体透過性、高い破断強伸度、高い耐熱性を併せ持った、気体分離用の複合中空糸膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、
(1)熱可塑性樹脂の球状構造からなる支持層と、非多孔質材料からなる分離層から構成される複合中空糸膜であって、複合中空糸膜の長手方向に垂直な断面写真において、支持層の分離層側の界面から支持層方向に深さ5μmの位置の空隙の大きさが2μm以下であることを特徴とする複合中空糸膜。
(2)支持層の分離層と反対側を形成する球状構造の平均直径D2が0.1μm以上2μm以下である請求項1記載の複合中空糸膜。
(3)支持層の分離層側を形成する球状構造の平均直径D1と前記平均直径D2が、D1<D2の関係を満たす請求項2に記載の複合中空糸膜。
(4)支持層の分離層側が三次元網目構造からなり、支持層の分離層と反対側が球状構造からなる請求項1または2に記載の複合中空糸膜。
(5)熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデン樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載の複合中空糸膜。
により構成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、気体分離性に加えて、気体透過性、破断強伸度、耐熱性、耐薬品性の高い中空糸膜を提供することができ、広範囲の気体分離用途に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の複合中空糸膜は、熱可塑性樹脂の球状構造からなる支持層と、非多孔質材料からなる分離層から構成される複合中空糸膜であって、複合中空糸膜の長手方向に垂直な断面写真において、支持層の分離層側の界面から支持層方向に深さ5μmの位置の空隙の大きさが2μm以下であることにより、高い破断強伸度、高い気体透過性、高い耐熱性を有することを特徴とする。すなわち複合中空糸膜が高性能を発現するためには、支持層の構造が非常に重要である。本発明の支持層は高い破断強伸度、高い気体透過性、高い耐熱性を有し、かつその上に形成される分離層を均一に形成させ、かつ分離層との接着性を高くすることができる。その結果、分離層は支持層上に薄く均一に形成させることができ、高い気体透過性を発現できる。
【0012】
本発明における重要である支持層の構造は、おもに熱可塑性樹脂の球状構造からなることが必要である。
【0013】
ここで熱可塑性樹脂とは、鎖状高分子物質からできており、加熱すると、外力によって変形・流動する性質が現れる樹脂のことをいう。この熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変成ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂およびこれらの混合物や共重合体が挙げられる。これらと混和可能な他の樹脂および多価アルコールや界面活性剤を50重量%以下含んでいてもよい。
【0014】
このうち本発明には、疎水性であり、耐薬品性、物理的強度が高いポリフッ化ビニリデン樹脂がより好ましく用いられる。ポリフッ化ビニリデン樹脂とはフッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂を意味し、複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有しても構わない。フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーであり、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマーなどとの共重合体である。かかる共重合体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上とフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。また、本発明の効果を損なわない程度に、前記フッ素系モノマー以外の例えばエチレンなどのモノマーが共重合されていても良い。
【0015】
次に球状構造とは支持層の長手方向に垂直な断面に見られる、球状の固形部が互いにその一部を共有することにより連結された構造である。比較的大きな固形部がその多くの部分を共有して連結された構造であることから物理的強度が高く、同時に空隙も大きくなることから気体透過性も高くなる。
【0016】
またその球状構造の平均直径は0.1μm以上2μm以下が好ましい。ここで球状構造の平均直径とは球状の固形部の平均直径(長径と短径の平均値)である。平均直径が0.1μm未満では、球状構造間の空隙も小さくなり気体透過性が低下してしまう。逆に2μmを超えると、球状の固形部間の連結が少なくなり、物理的強度が低下し、さらに高温下の熱収縮率が大きくなってしまうため耐熱性が低下する。また複合中空糸膜の気体透過性は、支持層より分離層の影響が大きいため、支持層の気体透過性を下げ、破断強伸度、耐熱性を高くする方が、気体分離膜として有効であることから、支持層の球状構造の平均直径は、より好ましくは0.1μm以上1.5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上0.7μm以下である。
【0017】
本発明では球状構造からなることが必要であるが、三次元網目構造などその他の構造を含んでいてもよい。
【0018】
また本発明の支持層は、複合中空糸膜の長手方向に垂直な断面写真において、支持層の分離層側の界面から支持層方向に深さ5μmの位置の空隙の大きさが2μm以下であることが必要である。この空隙とは支持層の孔であり、支持層の分離層側の界面からの連通孔であっても、孤立孔であってもよい。この位置に2μmより大きい孔を有すると、それが界面からの連通孔の場合、分離層が孔内に入り込むことで支持層上に均一に形成されずに欠陥を生じてしまい、孤立孔の場合、その分離層側には薄い固形部が存在し、その部分は物理的耐久性が低く、気体透過時に圧力によって破壊されてしまう。
【0019】
すなわち、支持層上に均一に薄い分離層を強固に形成させるためには、支持層の分離層側の界面は、気体透過性を著しく損なわない程度に、できるだけ孔の小さい緻密な構造であることが望ましい。ここで、支持層の分離層側の界面から支持層方向に深さ5μmの位置の空隙の大きさは実施例に記載のとおり測定するものとする。
【0020】
たまたま撮影した20μm四方の写真において空隙の大きさが2μmを超えることがなかったとしても、本発明の要件を満たすわけではなく、あらゆる箇所の写真において、同様に空隙の大きさを測定し、すべての箇所のすべての空隙の大きさが2μm以下である場合に、本発明の要件を満たすこととするが、逆に極めて低い確率で空隙の大きさが2μmを超えることがあったとしても、本発明の本質を損なうものではない。そこで、12箇所測定してすべての空隙の大きさが2μm以下であればよいものとする。
【0021】
このように、おもに球状構造からなる支持層の分離層側の界面を緻密な構造にするためには、球状構造の平均直径を小さくすること、あるいは支持層を凝固させる際にその表面の凝固速度を高くし緻密化を促進させることが好ましく採用される。
【0022】
またさらに好ましい方法としては、支持層を、支持層の分離層側を形成する球状構造の平均直径D1と支持層の分離層と反対側を形成する球状構造の平均直径D2が、D1<D2の関係を満たす構造にする方法である。
【0023】
すなわち支持層の分離層側は、支持層上に均一に薄い分離層を形成させるために、気体透過性を著しく損なわない程度に、球状構造の平均直径をできるだけ小さくして孔の小さい緻密な構造にし、もう一方側は高い気体透過性を持たせるために、物理的強度を著しく損なわない程度に、球状構造の平均直径をできるだけ大きくして孔の大きい疎な構造にすることが好ましい。孔の小さい緻密な構造と孔の大きい疎な構造は段階的に構成されても、連続的に構成されても構わない。
【0024】
具体的にはD1、D2はともに0.1μm以上2μm以下にすることが好ましく、より好ましくは、D1が0.1μm以上1.5μm以下、D2が0.8μm以上2μm以下であり、さらに好ましくはD1が0.1μm以上0.7μm以下、D2が1.2μm以上2μm以下である。
【0025】
ここで支持層の分離層側を形成する球状構造の平均直径D1および支持層の分離層と反対側を形成する球状構造の平均直径D2の測定方法については実施例のとおりである。
【0026】
また球状構造だけでなく、支持層の分離層側に三次元網目構造を形成させてもよい。ここで三次元網目構造とは、固形部が三次元的に網目状に広がっている構造のことをいう。この場合、三次元網目構造の分離層側の界面に緻密な構造を形成させることが必要である。また三次元網目構造は固形部が細く密度が小さいため、破断強伸度が低いので、球状構造の平均直径は、高い破断強伸度を持たせるために、0.1μm以上2μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以上1.5μm以下で、さらに好ましくは0.1μm以上0.7μm以下である。
【0027】
また支持層の厚みは、物理的強度と気体透過性を考慮して20〜1000μmが好ましく、より好ましくは30〜500μm、さらに好ましくは50〜350μmである。
【0028】
次に分離層は、支持層上に形成させ、非多孔質材料からなることが必要である。ここで非多孔質とは、電子顕微鏡で断面あるいは表面に孔が確認されない、直径10nm以上の孔を有さない構造である。分離層は支持層である中空糸膜の外表面側、内表面側のどちらに形成させてもよく、用途、操作性、製膜性を考慮して決めることが好ましい。
【0029】
分離層の素材としては、分離対象とする気体の種類、必要な気体透過性、気体分離性などに応じて種々の有機ポリマー、無機物、それらの混合物などが利用できる。有機ポリマーとしてはポリジメチルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリイミドシロキサンなどのポリシロキサン、ポリ−1−トリメチルシリル−2−プロピン、ポリ−1−トリメチルシリル−3−プロピン、ポリ−p−トリメチルシリルフェニルアセチレン、ポリビニルトリメチルシランなどのポリ置換アセチレンおよび有機ケイ素化合物、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリビニルクロリド、ポリビニルフルオリド、ポリビニルクロリド、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルアセテート、ポリビニルプロピオネート、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリビニルアルデヒド、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアミド、ポリビニルアミン、ポビニルウレタン、ポリビニルウレア、ポリビニルフォスフェート、ポリビニルスルフェート、ポリイソプレン、ポリアクリル酸およびそのエステル誘導体、ポリメタクリル酸およびそのエステル誘導体などのポリオレフィン、ポリフェニレンオキシド、ポリキシレンオキシド、ポリスチレンおよびその誘導体、メチルセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの炭化水素系樹脂、アリールポリアミド、アリールポリイミドを含むポリアミド、ポリイミド、などがあり、これらの単独重合体でも、共重合体でも、混合物であってもよい。
【0030】
また分離層の厚みは、欠陥のない層の完全性と気体透過性を考慮して0.05〜100μmが好ましく、より好ましくは0.1〜50μm、さらに好ましくは0.5〜20μmである。
【0031】
次に本発明の複合中空糸膜の製造方法について述べる。
【0032】
本発明の複合中空糸膜の支持層は球状構造からなることが必要であるが、球状構造は熱誘起相分離法を利用することにより形成させることができる。ここで熱誘起相分離とは、高温で溶解した樹脂溶液を冷却することにより固化せしめる相分離である。
【0033】
熱誘起相分離法には主に2種類の相分離機構がある。一つは高温時に均一に溶解した樹脂溶液が、降温時に溶液の溶解能力低下が原因で樹脂の濃厚相と希薄相に分離する液−液型、もう一つが高温時に均一に溶解した樹脂溶液が、降温時に樹脂の結晶が起こりポリマー固体相とポリマー希薄溶液相に相分離する固−液型である。おもに前者の機構では三次元網目構造が、後者の機構では球状構造が形成されるため、支持層を形成する際は後者の機構が利用される。固−液型熱誘起相分離を誘起させるためには、適切な溶媒および樹脂濃度を選択することが必要である。
【0034】
該溶媒としては、ポリフッ化ビニリデン樹脂の貧溶媒が好ましく、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、イソホロン、ジメチルスルホキシド等のアルキルケトン、エステル等の比較的樹脂の溶解度が高い貧溶媒が好ましく、より好ましくはγ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシドである。
【0035】
樹脂溶液中の樹脂濃度は、高いほど一次核を形成しやすく、結果的に球状構造の平均直径が小さくなる傾向にある。球状構造の平均直径を0.1μm以上2.0μm以下にするためには、30〜60重量%にすることが好ましい。
【0036】
このような組成で仕込み、高温で溶解した樹脂溶液を、二重管式口金の環状口から吐出した後、樹脂溶液の結晶化温度Tc以下に冷却し凝固させる前に、Tc+20℃以上Tc+55℃以下の温度で0.5分以上10分以下保持することが必要である。低い温度で長い時間保持することで、球状構造の一次核の生成数が増え、結果的に球状構造の平均直径が小さくなる。ここで樹脂溶液の結晶化温度Tcとは、示差走査熱量測定(DSC測定)装置を用いて、樹脂と溶媒など樹脂溶液と同組成の混合物を密封式DSC容器に密封し、昇温速度10℃/minで溶解温度まで昇温し30分保持して均一に溶解した後に、降温速度10℃/minで降温する過程で観察される結晶化ピークの立ち上がり温度とする。
【0037】
Tc+55℃より高い温度、または0.5分未満では球状構造の直径が2μm以下になりにくく、Tc+20℃より低い温度、または10分を超えると、樹脂溶液の粘度が高くなりすぎて、曳糸性がなくなり中空糸膜を形成できなくなったりする。
【0038】
次に吐出した溶液を冷却する際は、冷却浴を用いることが好ましく、支持層の樹脂溶液の溶媒と支持層の樹脂の非溶媒の混合溶媒が好ましい。この際、支持層の外表面側に分離層を形成させる場合、支持層の外表面を緻密な構造にするため、冷却浴の混合溶媒中の支持層の樹脂の非溶媒濃度を高くすることが好ましい。
【0039】
例えばポリフッ化ビニリデン樹脂の非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびその混合溶媒等が挙げられる。
【0040】
また二重管式口金の中心の管からも、支持層溶液の溶媒と支持層の樹脂の非溶媒の混合溶媒を吐出させることが好ましい。この際、冷却浴と同様に、支持層の内表面側に分離層を形成させる場合、支持層の内表面を緻密な構造にするため、混合溶媒中の支持層の樹脂の非溶媒濃度を高くすることが好ましい。
【0041】
支持層の分離層側を形成する球状構造の平均直径D1と支持層の分離層と反対側を形成する球状構造の平均直径D2が、D1<D2の関係を満たす構造にする方法としては、2つの樹脂溶液を用い、支持層を二層構造にする方法が好ましい。この際、二層構造を同時に形成させる方法と、順に形成させる方法がある。
【0042】
前者としては、三重管式口金を用いた複合紡糸法、後者としては一つの樹脂溶液で中空糸膜を形成した後、他方の樹脂溶液に浸漬後ノズルなどに通して掻き取り形成させる方法、あるいは他方の樹脂溶液をスプレーコーティングする方法などである。二層を形成する樹脂溶液がともに高粘度であり、また二層間の接着性を高める観点から、三重管式口金を用いた複合紡糸法のように同時に形成させる方法がより好ましく用いられる。すなわち三重管式口金の外側と内側の2つの環状口から2つの樹脂溶液を吐出する方法である。
【0043】
球状構造の平均直径は、前記した通り、おもに樹脂溶液中の樹脂濃度、樹脂溶液を凝固させる前の保持温度と保持時間によって制御できるので、2つの樹脂溶液をそれぞれに適切な条件に設定することが必要である。
【0044】
また支持層の分離層側が三次元網目構造からなり、支持層の分離層と反対側が球状構造からなる構造にする場合も同様に、2つの樹脂溶液を用い、支持層を二層構造にする方法が好ましい。三次元網目構造を形成する樹脂溶液は比較的樹脂濃度が低いため、前記した、二層を同時に形成させる方法と、順に形成させる方法がともに好ましく採用される。分離層側の表面に緻密な構造を有する三次元網目構造を形成させるためには、非溶媒誘起相分離法を利用することができる。ここで非溶媒誘起相分離とは、樹脂溶液を非溶媒に接触させることにより固化せしめる相分離である。
【0045】
非溶媒誘起相分離法を利用する場合、樹脂溶液の溶媒としては、樹脂の良溶媒が好ましく、例えばポリフッ化ビニリデン樹脂の良溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等およびその混合溶媒が挙げられる。このように三次元網目構造と球状構造は、形成する際に利用する相分離機構が異なるため、特に同時に形成させる方法では、冷却浴および口金の中心の管から吐出する溶媒中の樹脂の非溶媒濃度、あるいは三次元網目構造と球状構造の二層の厚さを適切に調整する。
【0046】
このようにして製造された支持層は、球状構造間の空隙を拡大し気体透過性を向上させるおよび破断強度を強化させるなどのために、延伸してもよい。さらに溶媒または非溶媒で湿潤しているため、水などの低沸点の樹脂の非溶媒で洗浄後、乾燥することが好ましく採用される。
【0047】
その後、本発明では支持層を、100℃以上支持層の融点未満の温度で熱処理し、支持層の長さ方向に収縮率10%以上30%以下で収縮させることが好ましい。ここで支持層の融点は、乾燥状態の支持層をDSC測定装置を用いて、速度10℃/minで昇温させたときに現れる、もっとも低い吸熱ピークのピークトップの温度である。ポリフッ化ビニリデンからなる中空糸膜の場合170℃付近である。球状構造からなる支持層にこのような処理を行うことにより、球状の固形部が優先的に収縮し、固形部間の大きな空隙はほとんど収縮しないために、支持層の気体透過性は維持しつつ、破断強伸度が著しく向上し、また処理温度以下での熱収縮が著しく抑制される。
【0048】
次に分離層を形成させる方法について述べる。
【0049】
分離層は支持膜の外表面側あるいは内表面側に形成させる。外表面側に形成させる方法としては、支持層を分離層を形成する樹脂あるいはモノマーの溶液中に浸漬し、その後乾燥あるいは架橋、重合させる方法、あるいはプラズマ蒸着およびそれに関連する方法も利用できる。内表面側に形成させる方法は、通常の例に倣って支持層の中空糸膜モジュールを形成した後、モジュールの一端側から他端側に、分離層を形成する樹脂あるいはモノマーの溶液を注入後、乾燥あるいは架橋、重合させる方法などが利用できる。
【実施例】
【0050】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。ここで本発明に関連するパラメーターは以下の方法で測定した。
【0051】
(1)支持層の分離層側の界面から支持層方向に深さ5μmの位置の空隙の大きさ
図1の模式図を用いて説明する。支持層2の長手方向に垂直な断面を電子顕微鏡を用いて、3000倍で、支持層2の分離層1側の界面3が写真の対向する辺のそれぞれに含まれるように20μm四方の写真を撮影する。次に写真中で、支持層2の分離層1側の界面3の写真の両端、すなわち界面3を形成する固形部の写真の両端の二点(A,C)からそれぞれ深さ方向(分離層1とは反対の方向)に5μmの距離にある二点(B、D)をとり、その二点(B、D)を結ぶ直線を引く。その直線中で空隙4を通る部分(線分)の長さを、支持層2の分離層1側の界面3から深さ5μmの位置の空隙の大きさ5とする。ここで2つの固形部が写真の奥行き方向に重なり合っている場合、写真奥の固形部は無視する。任意の12箇所の写真において、同様に空隙の大きさを測定し、すべての箇所のすべての空隙の大きさが2μm以下である(○)か、否(×)かを判定する。
【0052】
(2)支持層の分離層側を形成する球状構造の平均直径D1と支持層の分離層と反対側を形成する球状構造の平均直径D2
支持層の長手方向に垂直な断面を電子顕微鏡を用いて、3000〜6000倍で、支持層の分離層側の界面から支持層方向の深さ(分離層とは反対の方向)に10μmの距離にある任意の1点を中心として、10μm四方の写真を撮影する。該写真中の球状構造の平均直径をD1とする。次に支持層の長手方向に垂直な断面を電子顕微鏡を用いて、3000〜6000倍で、支持層の分離層と反対側の表面(さらに層が設けられている場合は界面となる)から深さ方向(分離層の方向)に10μmの距離にある任意の1点を中心として、10μm四方の写真を撮影する。該写真中の球状構造の平均直径をD2とする。

(3)中空糸膜の破断強度、破断伸度
引張試験機((株)東洋ボールドウィン製TENSILON/RTM100)を用いて、中空糸膜を試験長50mm、フルスケール5kgの加重でクロスヘッドスピード50mm/分にて測定し求めた。
【0053】
(4)中空糸膜の気体透過性
長さ約20cmの4本の中空糸膜を束ねてガラス製のミニモジュールに挿入し、両端をエポキシ樹脂でポッティングし、試験用膜モジュールを作製した。気体として酸素ガスを用いて、中空糸膜の分離層側から高圧をかけたとき、中空糸膜の支持層側に透過してくる気体の体積(単位はcmであり、透過量は25℃、1気圧を標準として換算)を測定時間(sec)、中空糸膜の両側の気体の圧力差(cmHg)、膜の表面積(cm)、および膜の厚さ(cm)で規格化して求めた。
【0054】
(5)中空糸膜の熱収縮率
乾燥した中空糸膜を、無張力状態で100℃の乾燥機中に10分保持(熱処理)し、次式に従い熱収縮率を求める。
【0055】
熱収縮率(%)=(初期試料長−熱処理後試料長)/初期試料長×100
(実施例1)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー36重量%とジメチルスルホキシド64重量%を130℃で溶解した。この樹脂溶液(Tc:32℃)を63℃で1.9分保持した後、二重管式口金の外側の環状口から吐出し、同時にジメチルスルホキシド60重量%の水溶液を二重管式口金の中心の管から吐出し、ジメチルスルホキシド85重量%の水溶液からなる温度10℃の浴中で固化させた後、水洗した。得られた支持層は球状構造からなり、支持層の融点は170℃であった。その後、回転速度が8m/分と7.6m/分の二つの駆動ロール間で、熱風により雰囲気を120℃にした乾熱雰囲気中を通過させて、中空糸膜の長さ方向に収縮率5%で収縮させた。
【0056】
得られた支持層8本を束ねてガラス製のミニモジュールに挿入し、両端をエポキシ樹脂でポッティングした。この支持層の中空部に、ポリジメチルシロキサンを主成分とする室温硬化型シリコーンポリマーの10重量%シクロヘキサン溶液を通液させた後、空気を通気し余分なシリコーンポリマーを除去して、支持層の内表面側に硬化薄膜を形成させた。
【0057】
得られた複合中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー38重量%とγ−ブチロラクトン62重量%を150℃で溶解した。この樹脂溶液(Tc:51℃)を97℃で0.7分保持した後、二重管式口金の外側の環状口から吐出し、同時にγ−ブチロラクトン75重量%の水溶液を二重管式口金の中心の管から吐出し、γ−ブチロラクトン85重量%の水溶液からなる温度5℃の浴中で固化させた後、水洗して90℃の水中で1.4倍に延伸した。得られた支持層は球状構造からなり、支持層の融点は173℃であった。その後、回転速度が8m/分と6.6m/分の二つの駆動ロール間で、熱風により雰囲気を160℃にした乾熱雰囲気中を通過させて、中空糸膜の長さ方向に収縮率17%で収縮させた。
【0059】
薄膜は実施例1と同様にして形成させた。
【0060】
得られた複合中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
【0061】
(実施例3)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー40重量%とγ−ブチロラクトン60重量%を150℃で溶解した。この樹脂溶液(Tc:55℃)を90℃で2.3分保持した後、二重管式口金の外側の環状口から吐出し、同時にγ−ブチロラクトン85重量%の水溶液を二重管式口金の中心の管から吐出し、γ−ブチロラクトン85重量%の水溶液からなる温度5℃の浴中で固化させた後、水洗して90℃の水中で1.2倍に延伸した。得られた支持層は球状構造からなり、支持層の融点は173℃であった。その後、回転速度が8m/分と7.4m/分の二つの駆動ロール間で、熱風により雰囲気を120℃にした乾熱雰囲気中を通過させて、中空糸膜の長さ方向に収縮率7%で収縮させた。
【0062】
薄膜は実施例1と同様にして形成させた。
【0063】
得られた複合中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
【0064】
(実施例4)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー34重量%とジメチルスルホキシド66重量%を130℃で溶解し樹脂溶液1とした。また重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー37重量%とジメチルスルホキシド63重量%を130℃で溶解し樹脂溶液2とした。この樹脂溶液1(Tc:28℃)を58℃で1.6分保持した後、三重管式口金の外側の環状口から吐出し、同時に樹脂溶液2(Tc:34℃)を62℃で2.1分保持した後、三重管式口金の内側の環状口から吐出し、さらにジメチルスルホキシド60重量%の水溶液を三重管式口金の中心の管から吐出し、ジメチルスルホキシド85重量%の水溶液からなる温度10℃の浴中で固化させた後、水洗した。得られた支持層は球状構造からなり、支持層の融点は170℃であった。その後、回転速度が8m/分と7.6m/分の二つの駆動ロール間で、熱風により雰囲気を120℃にした乾熱雰囲気中を通過させて、中空糸膜の長さ方向に収縮率5%で収縮させた。
【0065】
薄膜は実施例1と同様にして形成させた。
【0066】
得られた複合中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
【0067】
(実施例5)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー38重量%とγ−ブチロラクトン62重量%を150℃で溶解し樹脂溶液1とした。また重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー40重量%とγ−ブチロラクトン60重量%を150℃で溶解し樹脂溶液2とした。この樹脂溶液1(Tc:51℃)を99℃で0.6分保持した後、三重管式口金の外側の環状口から吐出し、同時に樹脂溶液2(Tc:55℃)を94℃で1.5分保持した後、三重管式口金の内側の環状口から吐出し、さらにγ−ブチロラクトン85重量%の水溶液を三重管式口金の中心の管から吐出し、γ−ブチロラクトン85重量%の水溶液からなる温度5℃の浴中で固化させた後、水洗して90℃の水中で1.4倍に延伸した。得られた支持層は球状構造からなり、支持層の融点は170℃であった。その後、回転速度が8m/分と6.9m/分の二つの駆動ロール間で、熱風により雰囲気を150℃にした乾熱雰囲気中を通過させて、中空糸膜の長さ方向に収縮率14%で収縮させた。
【0068】
薄膜は実施例1と同様にして形成させた。
【0069】
得られた複合中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
【0070】
(実施例6)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー38重量%とγ−ブチロラクトン62重量%を150℃で溶解し樹脂溶液1とした。また重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー40重量%とγ−ブチロラクトン60重量%を150℃で溶解し樹脂溶液2とした。この樹脂溶液1(Tc:51℃)を96℃で1.1分保持した後、三重管式口金の外側の環状口から吐出し、同時に樹脂溶液2(Tc:55℃)を90℃で3.2分保持した後、三重管式口金の内側の環状口から吐出し、さらにγ−ブチロラクトン85重量%の水溶液を三重管式口金の中心の管から吐出し、γ−ブチロラクトン85重量%の水溶液からなる温度5℃の浴中で固化させた後、水洗して90℃の水中で1.1倍に延伸した。得られた支持層は球状構造からなり、支持層の融点は172℃であった。その後、回転速度が8m/分と7.4m/分の二つの駆動ロール間で、熱風により雰囲気を120℃にした乾熱雰囲気中を通過させて、中空糸膜の長さ方向に収縮率7%で収縮させた。
【0071】
薄膜は実施例1と同様にして形成させた。
【0072】
得られた複合中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
【0073】
(実施例7)
球状構造からなる支持層を実施例1で三重管式口金の中心の管からジメチルスルホキシド85重量%の水溶液を吐出して得た。
【0074】
該支持層に、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマー13重量%、重量平均分子量2万のポリエチレングリコール5重量%、およびジメチルホルムアミド82重量%を溶解した溶液中に浸漬し、シリコーン樹脂製のノズルを用いて余分な溶液を掻き取り、水凝固し乾燥させた。得られた支持層は三次元網目構造と球状構造からなり、支持層の融点は168℃であった。
【0075】
得られた支持層をポリジメチルシロキサンを主成分とする室温硬化型シリコーンポリマーの10重量%シクロヘキサン溶液中に浸漬し、シリコーン樹脂製のノズルを用いて余分な溶液を掻き取り、乾燥させて支持層の外表面側に硬化薄膜を形成させた。
【0076】
得られた複合中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
【0077】
(実施例8)
球状構造からなる支持層を、実施例2で三重管式口金の中心の管からγ−ブチロラクトン85重量%の水溶液を吐出して得た以外は、実施例7と同様にして支持層が三次元網目構造と球状構造からなる複合中空糸膜を得た。
【0078】
得られた複合中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
【0079】
(実施例9)
球状構造からなる支持層を、実施例3と同様にして得た以外は、実施例7と同様にして支持層が三次元網目構造と球状構造からなる複合中空糸膜を得た。
【0080】
得られた複合中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
【0081】
(比較例1)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー32重量%とジメチルスルホキシド68重量%を130℃で溶解した。この樹脂溶液(Tc:26℃)を85℃で0.2分保持した後、二重管式口金の外側の環状口から吐出し、同時にジメチルスルホキシド85重量%の水溶液を二重管式口金の中心の管から吐出し、ジメチルスルホキシド85重量%の水溶液からなる温度10℃の浴中で固化させた後、水洗し乾燥させた。得られた支持層は球状構造であった。
【0082】
薄膜は実施例1と同様にして形成させた。
【0083】
得られた複合中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
【0084】
樹脂溶液を二重管式口金の外側の環状口から吐出する前の、保持温度が高く、保持時間が短かかったため、支持層の球状構造の平均直径が2μmより大きくなり、破断強伸度が低く、また中空糸膜の内表面に薄膜が均一に形成されておらず、球状構造がむき出しの部分がみられた。
【0085】
(比較例2)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー40重量%とγ−ブチロラクトン60重量%を150℃で溶解し樹脂溶液1とした。また重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー36重量%とγ−ブチロラクトン64重量%を150℃で溶解し樹脂溶液2とした。この樹脂溶液1(Tc:55℃)を90℃で2.3分保持した後、三重管式口金の外側の環状口から吐出し、同時に樹脂溶液2(Tc:48℃)を115℃で0.1分保持した後、三重管式口金の内側の環状口から吐出し、さらにγ−ブチロラクトン85重量%の水溶液を三重管式口金の中心の管から吐出し、γ−ブチロラクトン85重量%の水溶液からなる温度5℃の浴中で固化させた後、水洗して90℃の水中で1.4倍に延伸し乾燥させた。得られた支持層は球状構造であった。
【0086】
薄膜は実施例1と同様にして形成させた
得られた複合中空糸膜の構造と性能を表1に示す。
【0087】
樹脂溶液2を二重管式口金の内側の環状口から吐出する前の、保持温度が高く、保持時間が短かかったため、支持層の分離層側を形成する球状構造の平均直径が2μmより大きくなり、中空糸膜の内表面に薄膜が均一に形成されておらず、球状構造がむき出しの部分がみられた。
【0088】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明で規定する支持層の分離層側の界面から支持層方向に深さ5μmの位置の空隙の大きさの測定方法を表す模式図である。
【符号の説明】
【0090】
1 分離層
2 支持層
3 支持層の分離層側の界面
4 空隙
5 支持層の分離層側の界面から支持層方向に深さ5μmの位置の空隙の大きさ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の球状構造からなる支持層と、非多孔質材料からなる分離層から構成される複合中空糸膜であって、複合中空糸膜の長手方向に垂直な断面写真において、支持層の分離層側の界面から支持層方向に深さ5μmの位置の空隙の大きさが2μm以下であることを特徴とする複合中空糸膜。
【請求項2】
支持層の分離層と反対側を形成する球状構造の平均直径D2が0.1μm以上2μm以下である請求項1記載の複合中空糸膜。
【請求項3】
支持層の分離層側を形成する球状構造の平均直径D1と前記平均直径D2が、D1<D2の関係を満たす請求項2に記載の複合中空糸膜。
【請求項4】
支持層の分離層側が三次元網目構造からなり、支持層の分離層と反対側が球状構造からなる請求項1または2に記載の複合中空糸膜。
【請求項5】
熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデン樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載の
複合中空糸膜。

【図1】
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【公開番号】特開2008−173573(P2008−173573A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9868(P2007−9868)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】