説明

複合体、機能性構造体及びコーティング剤

【課題】セルフクリーニング性及びNOx除去性が良好であり、しかも基材上に保護層を設けることなく直接形成しても基材の劣化を招かない複合体を提供すること。
【解決手段】無機酸化物粒子(A)が空隙を有する連続相を形成し、樹脂組成物粒子(B)と光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)とが前記連続相中に分散している構造を有し、前記無機酸化物粒子(A)を35〜75質量%、前記樹脂組成物粒子(B)を10〜60質量%、前記金属酸化物粒子(C)を4〜20質量%含有する膜状の複合体であって、前記複合体の空隙率X(単位:体積%)が10〜40%であり、且つ、前記複合体の膜厚Dと前記金属酸化物粒子(C)の含有量RC(単位:質量%)との関係が下記式(1)で表される条件を満たす複合体。
3/RC<D<54/RC (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルフクリーニング性を有し、NOx除去性及び下地保護性に優れた膜状の複合体、その複合体を備えた機能性構造体、並びにその複合体を製造するためのコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物外装に被覆することで、太陽光の照射により親水化して降雨によるセルフクリーニング機能を有する材料として光触媒材料が注目されている。また、光触媒材料は、NOx等の有害ガスを除去する環境上好ましい材料としても注目されている。
なかでも、作業環境、周辺への影響、臭いなどの観点から、最近では溶剤系塗料よりも水系塗料(水性塗料)を用いる傾向が高まりつつある。そのため、上記建物外装等に塗布するための光触媒の水性コート剤も提案されている。
光触媒とパーフルオロコポリマーをエマルジョンの状態で配合する塗料組成物が開示されており(特許文献1参照)、光触媒とフルオロ基が含有されているシリコーンエマルジョンのコーティング組成物が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の水性塗料は、屋外での使用を想定した場合、塗装直後の水との接触角が大きく、降雨によるセルフクリーニング機能を使用直後から享受することができなかった。特に、太陽光が当たり難い部分は十分なセルフクリーニング性が得られなかった。
【0003】
そこで、塗装直後から水との接触角が小さく、降雨によるセルフクリーニング機能を使用直後から享受することができる例として、特許文献3が開示されている。
【0004】
このような光触媒は、紫外線が当たると汚れ以外にほとんどすべての有機物を分解してしまう。そのため、プラスチックなどの有機基材や、有機塗料を塗装した基材の表面に光触媒塗料を塗装した場合、有機基材や基材表面の有機塗料を分解してしまい、その結果、光触媒塗料を用いた商品の寿命が非常に短くなるという問題がある。この問題を解消することが必須となっている。そのための代表的な方法として、光触媒塗料を塗装する前に、光触媒によって分解されない成分で構成される保護層を基材に形成し、その上に光触媒塗料を塗装する方法が知られている(特許文献4参照)。
【0005】
特許文献4に開示されるような保護層を使用する方法においては、保護層及び光触媒塗膜が透明であるため、基材の意匠を損なうことなく光触媒機能を基材に付与できる利点が挙げられるが、この方法は保護層形成作業及びその材料に多くのコストと時間を必要とする。また、保護層の硬化の程度によって、光触媒層の性能(密着性、分解性等)が大きく左右されてしまうことがあり、塗装が難しいという問題点もある。特に、既存の建築物に現場で塗装しようとする場合においては、保護層を塗装した後に、光触媒塗料を塗装するまでに必要とする時間間隔が気温や湿度によって影響を受け易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−195369号公報
【特許文献2】特開平10−279886号公報
【特許文献3】特開2003−170516号公報
【特許文献4】特許第2756474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、セルフクリーニング性が良好であり、しかも基材上に保護層を設けることなく直接形成しても基材の劣化を抑制する複合体、その複合体を備えた機能性構造体、並びにその複合体を製造するためのコーティング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕無機酸化物粒子(A)が空隙を有する連続相を形成し、樹脂組成物粒子(B)と光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)とが前記連続相中に分散している構造を有し、前記無機酸化物粒子(A)を35〜75質量%、前記樹脂組成物粒子(B)を10〜60質量%、前記金属酸化物粒子(C)を4〜20質量%含有する膜状の複合体であって、前記複合体の空隙率X(単位:体積%)が10〜40%であり、且つ、前記複合体の膜厚Dと前記金属酸化物粒子(C)の含有量RC(単位:質量%)との関係が下記式(1)で表される条件を満たす複合体。
3/RC<D<54/RC (1)
〔2〕前記樹脂組成物粒子(B)が重合体エマルジョン粒子(B1)を含有する、〔1〕の複合体。
〔3〕前記重合体エマルジョン粒子(B1)が、水及び乳化剤の存在下で加水分解性珪素化合物(s)とビニル単量体(m)とをそれぞれ重合させて得られた重合体エマルジョン粒子を含む、〔2〕の複合体。
〔4〕前記ビニル単量体(m)が、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)を含む、〔3〕の複合体。
〔5〕前記重合体エマルジョン粒子(B1)が、コア/シェル構造の重合体エマルジョン粒子を含む、〔2〕〜〔4〕のいずれか一つの複合体。
〔6〕前記金属酸化物粒子(C)が、ルチル型酸化チタンを含む、〔1〕〜〔5〕のいずれか一つの複合体。
〔7〕基材と、該基材上に設けられた〔1〕〜〔6〕のいずれか一つの複合体と、を備える機能性構造体。
〔8〕前記基材が有機基材である、〔7〕の機能性構造体。
〔9〕建築外装用の機能性構造体である、〔7〕又は〔8〕の機能性構造体。
〔10〕〔1〕〜〔6〕のいずれか一つの複合体を製造するためのコーティング剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合体は、これを形成した直後から水との接触角が低く良好なセルフクリーニング性を有し、NOx除去性にも優れ、基材上に保護層を設けることなく直接形成しても耐候性が良好であり基材の劣化を抑制する。また、本発明は、成膜性、柔軟性、透明性、帯電防止性等にも優れた複合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
本実施形態の複合体は、無機酸化物粒子(A)と、樹脂組成物粒子(B)と、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)とを含む。
無機酸化物粒子(A)は、その粒子表面に存在する水酸基の親水性により、本実施形態の複合体にセルフクリーニング性を付与する。樹脂組成物粒子(B)は、上記複合体に柔軟性を付与し、その複合体を形成する過程における亀裂の発生を抑制し、膜厚1μm以上の膜状の上記複合体を形成することを可能とする。また、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)は、上記複合体のセルフクリーニング性の維持及び上記複合体によるNOx等の有害物の除去に寄与する。
【0012】
本実施形態の複合体は、無機酸化物粒子(A)が空隙を有する連続相を形成し、樹脂組成物粒子(B)と光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)とが連続相中に分散している構造を有する。その複合体は、無機酸化物粒子(A)を35〜75質量%、樹脂組成物粒子(B)を10〜60質量%、金属酸化物粒子(C)を4〜20質量%の範囲で含有する膜状の複合体であって、複合体の空隙率X(単位:体積%)が10〜40%の範囲にあり、且つ、複合体の膜厚Dと金属酸化物粒子(C)の含有量RC(単位:質量%)との関係が下記式(1)
3/RC<D<54/RC (1)
で表される条件を満たすようことが必要である。
このような条件を満たすことで、膜状の複合体の表面近傍のみならず、その内部に存在する金属酸化物粒子(C)にも外部からの水や酸素が接触でき、金属酸化物粒子(C)による光触媒反応の効率を高めることができる。
【0013】
本実施形態の複合体が上記の条件を満たすことにより、金属酸化物粒子(C)の含有量が比較的少ない場合でも、セルフクリーニング性を維持することが可能となり、複合体の透明性や耐クラック性が良好となる。
本実施形態の複合体が、無機酸化物粒子(A)が空隙を有する連続相を形成し、樹脂組成物粒子(B)及び光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)がその連続相中に分散している構造を有するためには、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)及び光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の成分比率が重要である。具体的には、本実施形態の複合体は、無機酸化物粒子(A)を35〜75質量%、樹脂組成物粒子(B)を10〜60質量%、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)を4〜20質量%の範囲で含有していることが必要となる。無機酸化物粒子(A)の含有量が35質量%よりも少ない場合には、膜状複合体の連続相を形成し難くなり、75質量%よりも含有量が多い場合には膜状の形状を形成し難くなり好ましくない。また、樹脂組成物粒子(B)の含有量が10質量%よりも少ない場合には膜状の形状を形成し難くなり、60質量%よりも含有量が多い場合には連続相の空隙率が形成され難くなり好ましくない。光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の含有量が4質量%よりも少ない場合には、複合体のセルフクリーニング性の維持及び上記複合体によるNOx等の有害物の除去性能が低下し、20質量%よりも含有量が多い場合には、基材に対し亀裂発生などの悪影響を与えるので好ましくない。
本実施形態の複合体の空隙率X(単位:体積%)は、10〜40%の範囲にあることが必要である。空隙率が10〜40%の範囲にあることにより、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の性能が向上し、その含有量が少量でも効果を示すことになる。空隙率が10%よりも少ない場合には、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の性能が低下し、40%よりも多い場合には膜状の複合体強度が低下するとともに、膜状の形状を形成し難くなり好ましくない。
空隙率Xは、複合体の屈折率を測定することによって求められる。複合体の屈折率Nは、反射分光膜厚計又はエリプソメーターを用いて測定される。
【0014】
複合体を構成する無機酸化物粒子(A)と、樹脂組成物粒子(B)と、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)との平均屈折率NAVは、無機酸化物粒子(A)の屈折率NA及び体積%VAと、樹脂組成物粒子(B)の屈折率NB及び体積%VBと、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の屈折率NC及び体積%VCとから、下記式(2)により求めることができる。なお、上記各構成成分の体積%は、無機酸化物粒子(A)と樹脂組成物粒子(B)と光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)との合計体積を基準とするものである。
AV=(VA・NA+VB・NB+VC・NC)/100 (2)
ここで、複合体の実測された屈折率をNとすると、空隙率X(すなわち空気の体積%)は、下記式(3)により求めることができる。
X=(NAV−N)/(NAV−1)×100 (3)
【0015】
複合体の各構成成分の屈折率としては以下の値を用いることができる。無機酸化物粒子(A)がシリカ粒子の場合、NA=1.45、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)がルチル型酸化チタン粒子の場合、NC=2.76、アナターゼ型酸化チタン粒子の場合、NC=2.52、酸化亜鉛粒子の場合は、NC=2.0である。なお、各構成成分が上記以外である場合、その屈折率としては、反射分光膜厚計又はエリプソメーターにより測定されたものを用いればよい。あるいは、例えばフィラー研究会編「フィラー活用辞典(大成社、1994年刊)」に記載の屈折率を用いてもよい。
【0016】
例えば、樹脂組成物粒子(B)の屈折率NBは、単独で均一な皮膜を形成することができる場合、樹脂組成物粒子(B)のみから形成された皮膜の屈折率を求める。一方、樹脂組成物粒子(B)単独では均一な皮膜を形成できない場合、樹脂組成物粒子(B)がアクリル樹脂エマルジョン粒子の場合は、NB=1.5を用いてもよい。
【0017】
また、各構成成分の屈折率が不明である場合、空隙率Xを求めるその他の方法として、下記方法を採用してもよい。まず、面積及び質量が既知の複合体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して、複合体の厚みを求め、その厚みに複合体の膜面積を乗じて見掛け体積を求める。そして、複合体の質量を上記見掛け体積で除して、複合体の見掛け密度DFを算出する。一方、複合体の平均密度DAVを、無機酸化物粒子(A)の密度DA及び体積%VA、樹脂組成物粒子(B)の密度DB及び体積%VB、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の密度DC及び体積%VCから、下記式(4)より求める。
AV=(VA・DA+VB・DB+VC・DC)/100 (4)
複合体の見掛け密度DFと平均密度DAVから下記式(5)より空隙率Xを算出することができる。
X=(1−DF/DAV)×100 (5)
【0018】
また、SEMによる複合体の断面観察が困難であったり、各構成成分の密度や体積%が不明である場合、複合体の超薄切片を作成し、断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することによって、空隙の面積比を直接求め、空隙率Xを算出することも可能である。
【0019】
本実施形態では、複合体の膜厚Dと複合体中の光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の含有量Rc(質量%)とが下記式(1)で表される条件を満たすことが必要である。
3/RC<D<54/RC (1)
【0020】
複合体が上記式(1)で表される関係を満たせば、その透明性を損なうことなく、セルフクリーニング性やNOx除去性を高めることができる。本実施形態の複合体は、より好ましくは、下記式(1A)で表される条件を満たす。
5/RC<D<25/RC (1A)
【0021】
本実施形態の複合体が3/RC<Dの条件を満たすことにより、セルフクリーニング性の維持やNOx除去に必要な光触媒活性を発現させることができ、D<54/RCの条件を満たすことにより、透明性が良好で、耐クラック性も良好なものとなる。
本実施形態の複合体が上記式(1)で表される関係を満たすとセルフクリーニング性及びNOx除去性に優れる要因は、現在のところ詳細には明らかにされていないが、本発明者らはその要因を下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。すなわち、本実施形態の複合体は、空隙率Xが10〜40%の範囲にあることから、NOxが複合体内部まで拡散しやすいと考えられる。これによって、複合体内部の金属酸化物粒子(C)も光触媒活性の発現に寄与し、膜厚が厚いほど光触媒活性が高くなる傾向がある。つまり、金属酸化物粒子(C)の含有量Rcと膜厚Dとの積が大きいほど光触媒活性が高くなり、上記式(1)で表される関係を満たすことで、市場で求められるNOx除去性を達成できるものと考えられる。また、セルフクリーニング性を維持するために必要な有機物分解性能も発現するもの考えられる。
【0022】
本実施形態において、無機酸化物粒子(A)は、光触媒活性を有しない無機酸化物の粒子である。
本実施形態に好適に使用できる無機酸化物粒子(A)としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム及びそれらの複合酸化物が挙げられる。それらの中でも、表面水酸基の多い酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、及びそれらの複合酸化物が好ましく、二酸化ケイ素を基本単位とするシリカの水又は水溶性溶媒の分散体であるコロイダルシリカがより好ましい。
【0023】
コロイダルシリカは、ゾル−ゲル法で調製して使用することもでき、市販品を利用することもできる。ゾル−ゲル法で調製する場合には、Werner Stober etal;J.Colloid and Interface Sci.,26,62−69(1968)、Rickey D.Badley et al;Lang muir 6,792−801(1990)、色材協会誌、61[9]488−493(1988)などを参照することができる。
【0024】
無機酸化物粒子(A)の粒子径は1〜400nmであることが好ましく、より好ましくは、1〜100nm、更に好ましくは5〜50nm、最も好ましくは8〜20nmである。粒子径が1nm以上の場合、複合体の原料となるコーティング剤の貯蔵安定性が良好となり、400nm以下の場合、透明性が良好となる。なお、本発明において、粒子径とは、湿式粒度分布計を用いて測定される数平均粒子径をいう。
【0025】
無機酸化物粒子(A)としてコロイダルシリカを用いる場合、上記範囲の粒子径のコロイダルシリカは、水性分散液の状態で、酸性、塩基性のいずれであっても用いることができる。樹脂組成物粒子(B)及び/又は光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)との配合安定性の観点から、酸性のコロイダルシリカが好ましい。
【0026】
水を分散媒体とする酸性のコロイダルシリカとしては、例えば、市販品として日産化学工業(株)製スノーテックス(商標)−O、スノーテックス−OS、旭電化工業(株)製アデライト(商標)AT−20Q、クラリアントジャパン(株)製クレボゾール(商標)20H12、クレボゾール30CAL25などが利用できる。
【0027】
塩基性のコロイダルシリカとしては、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アミンの添加で安定化したシリカがあり、例えば、日産化学工業(株)製スノーテックス−20、スノーテックス−30、スノーテックス−C、スノーテックス−C30、スノーテックス−CM40、スノーテックス−N、スノーテックス−N30、スノーテックス−K、スノーテックス−XL、スノーテックス−YL、スノーテックス−ZL、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−Lなど;旭電化工業(株)製アデライトAT−20、アデライトAT−30、アデライトAT−20N、アデライトAT−30N、アデライトAT−20A、アデライトAT−30A、アデライトAT−40、アデライトAT−50など;クラリアントジャパン(株)製クレボゾール30R9、クレボゾール30R50、クレボゾール50R50など、デュポン社製ルドックス(商標)HS−40、ルドックスHS−30、ルドックスLS、ルドックスSM−30が挙げられる。
【0028】
また、水溶性溶媒を分散媒体とするコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学工業(株)製MA−ST−M(粒子径が20〜25nmのメタノール分散タイプ)、IPA−ST(粒子径が10〜15nmのイソプロピルアルコール分散タイプ)、EG−ST(粒子径が10〜15nmのエチレングリコール分散タイプ)、EG−ST−ZL(粒子径が70〜100nmのエチレングリコール分散タイプ)、NPC−ST(粒子径が10〜15nmのエチレングリコールモノプロピルエーテール分散タイプ)が挙げられる。
【0029】
また、これらコロイダルシリカは一種又は二種類以上組み合わせてもよい。少量成分として、アルミナ、アルミン酸ナトリウムなどを含んでいてもよい。また、コロイダルシリカは、安定剤として無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニアなど)や有機塩基(テトラメチルアンモニウムなど)を含んでいてもよい。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物粒子(B)として、重合体エマルジョン粒子(B1)を含有する組成物を用いると、セルフクリーニング性、NOx除去性、耐候性等が良好となり好ましい。重合体エマルジョン粒子(B1)は、溶媒中に乳化分散した重合体粒子であればよく、特に限定はない。
【0031】
本実施形態において、重合体エマルジョン粒子(B1)として、乳化重合等の方法で得られた重合体粒子を用いることができる。重合体エマルジョン粒子を構成するポリマーとしては、水性媒体中でのラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などによって得られる従来公知のポリ(メタ)アクリレート系、ポリビニルアセテート系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、シリコーン系、フッ素系、ポリブタジエン系、スチレンブタジエン系、NBR系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、塩化ビニリデン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系、スチレン−無水マレイン酸系に代表される単重合体又は共重合体、シリコーン変性アクリル系、フッ素−アクリル系、アクリル−シリコン系、エポキシ−アクリル系に代表される変性共重合体が挙げられる。これらは水分散体の状態にあり、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。その好適な例としては、アクリル樹脂エマルジョン、アクリル−シリコン樹脂エマルジョンが挙げられる。重合体エマルジョン粒子は、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の単量体の乳化重合等で得られる。
更に、重合体エマルジョン粒子(B1)は、無機酸化物粒子(A)及び光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)との相互作用を高めるような官能基を有することが好ましい。
【0032】
相互作用としては、例えば、重合体エマルジョン粒子(B1)が水酸基を有する場合は、無機酸化物粒子(A)及び金属酸化物粒子(C)が有する水酸基との縮合や水素結合が挙げられる。重合体エマルジョン粒子(B1)が加水分解性基を有する場合は、無機酸化物粒子(A)及び金属酸化物粒子(C)が有する水酸基と加水分解性基との間の縮合が挙げられる。これらの相互作用により、耐候性に優れた複合体を形成できる。また、重合体エマルジョン粒子(B1)が、2級及び/又は3級アミド基や水酸基等、水素結合形成可能な官能基を有する場合は、それらの官能基と、無機酸化物粒子(A)の水酸基との間の水素結合が挙げられる。
【0033】
重合体エマルジョン粒子(B1)の製造には、加水分解性珪素化合物(s)を用いることが好ましい。加水分解性珪素化合物(s)としては、下記式(7)で表される化合物やその縮合生成物、シランカップリング剤を例示することができる。
SiWxy (7)
式(7)中、Wは炭素数1〜20のアルコキシ基、水酸基、炭素数1〜20のアセトキシ基、ハロゲン原子、水素原子、炭素数1〜20のオキシム基、エノキシ基、アミノキシ基、アミド基から選ばれた少なくとも1種の基を表す。Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30個のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、及び、置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基若しくはハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭化水素基を表す。xは1以上4以下の整数であり、yは0以上3以下の整数である。
また、x+y=4である。
【0034】
ここでシランカップリング剤とは、ビニル重合性基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、イソシアネート基等の有機物と反応性を有する官能基が分子内に存在する、加水分解性珪素化合物を表す。
【0035】
上記式(7)で表される加水分解性珪素化合物(s)の一態様である珪素アルコキシド及びシランカップリング剤の具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン類が挙げられる。
また、これらの珪素アルコキシドやシランカップリング剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0036】
上記珪素アルコキシドやシランカップリング剤が縮合生成物として使用されるとき、該縮合生成物のポリスチレン換算重量平均分子量は、好ましくは200〜5000であり、さらに好ましくは300〜1000である。
上記珪素アルコキシドの中では、四官能の珪素アルコキシドを用いることが好ましく、中でも加水分解速度が速い、テトラメトキシシラン、テトラメトキシシランを用いることがより好ましい。
また、フェニル基を有する珪素アルコキシド、例えばフェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等が、水及び乳化剤の存在下における重合安定性に優れるため非常に好ましい。
【0037】
シランカップリング剤の中で、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテル等のビニル重合性基を有するシランカップリング剤や、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤は、後述する2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)等との共重合又は連鎖移動反応により化学結合を生成することが可能である。
【0038】
このため、加水分解性珪素化合物(s)として、ビニル重合性基やチオール基を有するシランカップリング剤を、単独で又は上述した珪素アルコキシド、他のシランカップリング剤、それらの縮合生成物と混合若しくは複合化させて用いると、重合体エマルジョン粒子(B1)を構成する、加水分解性珪素化合物(s)の重合生成物と2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)の重合生成物とは、水素結合に加えて化学結合により複合化できる。このような加水分解性珪素化合物(s)の重合生成物と2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)の重合生成物とが化学結合により複合化した重合体エマルジョン粒子(B1)を用いると、耐候性、耐薬品性、光学特性、強度等に優れた複合体を形成することができるため、非常に好ましい。
【0039】
したがって、本実施形態において、加水分解性珪素化合物(s)としてビニル重合性基を有するシランカップリング剤又はチオール基を有するシランカップリング剤を用いることが耐候性の面から特に好ましく、特にビニル重合性基を有するシランカップリング剤が好ましい。その配合量は重合体エマルジョン粒子(B1)100質量部に対して0.01以上20質量部以下であることが重合安定性の面から好ましい。さらに好ましくは、0.1以上10質量部以下である。
【0040】
また、加水分解性珪素化合物(s)としてビニル重合性基を有するシランカップリング剤を用いる場合、そのビニル重合性基を有するシランカップリング剤の配合量は、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)100質量部に対して0.1以上100質量部以下であることが重合安定性の面から好ましく、さらに好ましくは、0.5以上50質量部以下である。
【0041】
本実施形態においては、加水分解性珪素化合物(s)として、上述したものに加えて、環状シロキサンオリゴマーを併用して用いることができる。環状シロキサンオリゴマーの併用により、柔軟性等に優れた複合体を形成することができる。
上記環状シロキサンオリゴマーとしては、下記式(8)で表される化合物を例示することができる。
(R’2SiO)m (8)
式中、R’は、水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30個のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、及び、置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基若しくはハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。mは整数であり、2≦m≦20である。
上記環状シロキサンオリゴマーの中で、反応性等の点からオクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状ジメチルシロキサンオリゴマーが好ましい。
【0042】
また、本実施形態において、重合体エマルジョン粒子(B1)を製造する際に、加水分解性珪素化合物(s)と共に、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、それらの縮合生成物、又は、それらのキレート化物を併用して用いることもできる。これらの化合物の併用により、耐水性、硬度等に優れた複合体を形成することができる。
【0043】
上記チタンアルコキシドの具体例としては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−tert−ブトキシチタンが挙げられる。
上記チタンアルコキシドが縮合生成物として使用されるとき、該縮合生成物のポリスチレン換算重量平均分子量は、好ましくは200〜5000、さらに好ましくは300〜1000である。
【0044】
また、上記ジルコニウムアルコキシドの具体例としては、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラ−i−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−sec−ブトキシジルコニウム、テトラ−tert−ブトキシジルコニウムが挙げられる。
上記ジルコニウムアルコキシドが縮合生成物として使用されるとき、該縮合生成物のポリスチレン換算重量平均分子量は、好ましくは200〜5000、さらに好ましくは300〜1000である。
【0045】
重合体エマルジョン粒子(B1)を製造する際に、加水分解性珪素化合物(s)と共に、遊離の金属化合物に配位してキレート化物を形成するキレート化剤を併用することもできる。
遊離の金属化合物に配位させてキレート化物を形成するのに好ましいキレート化剤としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;アセチルアセトン;アセト酢酸エチルなどであって分子量1万以下のものを例示することができる。これらのキレート化剤を用いることにより、加水分解性金属化合物(s)の重合速度を制御することができ、水及び乳化剤の存在下における重合安定性を向上させるため非常に好ましい。この際、キレート化剤は、これを配位させる遊離の金属化合物の金属原子1モル当たり、0.1モル〜2モルの割合で用いると効果が大きく好ましい。
【0046】
重合体エマルジョン粒子(B1)の好ましい製造方法としては、水及び乳化剤の存在下で、加水分解性珪素金属化合物(s)とビニル単量体(m)とを、それぞれ重合させる方法が挙げられる。
重合体エマルジョン粒子(B1)を製造する際に用いるビニル単量体(m)としては、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)が好ましい。このようにして製造された重合体エマルジョン粒子(B1)を用いると、重合体エマルジョン粒子(B1)のアミド基と無機酸化物粒子(A)の水酸基との間に水素結合が形成され、得られる複合体の機械的強度が向上する。また、アミド基は親水性が高く、複合体の水接触角を下げる効果もあることから、防汚性を重視する場合に特に有効である。
【0047】
この際、加水分解性珪素化合物(s)に対するビニル単量体(m1)の質量比(m1)/(s)は、5/95〜95/5であることが好ましく、より好ましくは10/90〜90/10である。
【0048】
このようにして得られる重合体エマルジョン粒子(B1)は、加水分解性珪素化合物(s)の重合生成物が有するシラノール基と、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)の重合生成物のアミド基とが、水素結合を形成し、これにより複合化されたものとなる。
【0049】
2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)としては、N−アルキル又はN−アルキレン置換(メタ)アクリルアミドを例示することができ、具体的には、例えば、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチルメタアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルメタアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタアクリルアミド、N−n−プロピルメタアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N−アクリロイルモルホリン、N−メタクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタアクリルアミドが挙げられる。
【0050】
2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)の中でも3級アミド基を有するビニル単量体は、3級アミド基と加水分解性珪素化合物(s)のシラノール基との間の水素結合性が強いため好ましい。
【0051】
また、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)の中で、特にN,N−ジエチルアクリルアミドは、水及び乳化剤の存在下における重合安定性に非常に優れるとともに、加水分解性珪素化合物(s)の重合生成物の水酸基や無機酸化物粒子(A)の水酸基と強固な水素結合を形成することが可能であるため、非常に好ましい。
【0052】
2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)の使用量は、得られる重合体エマルジョン粒子(B1)に対する質量比[(m1)/(B1)]として0.1以上0.5以下であることが好ましく、また、無機酸化物粒子(A)との質量比(m1)/(A)が0.1以上1.0以下であることが好ましい。
この範囲で(m1)が存在した場合、水素結合力と、無機酸化物粒子(A)との配合安定性が両立して好ましい。
【0053】
また、本実施形態において、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)の重合を、これと共重合可能な他のビニル単量体(m2)と共に行うと、生成する重合生成物の特性(例えば、ガラス転移温度、分子量、水素結合力、極性、分散安定性、耐候性、加水分解性珪素化合物(s)の重合生成物との相溶性等)を制御することが可能となり好ましい。
このようなビニル単量体(m2)としては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル類の他、カルボキシル基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル系単量体、エポキシ基含有ビニル単量体、カルボニル基含有ビニル単量体、アニオン型ビニル単量体のような官能基を含有する単量体が挙げられる。
【0054】
上記(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アルキル部の炭素数が1〜50の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコールが挙げられる。
なお、本明細書中で、「(メタ)アクリル」とは「メタクリル」及び「アクリル」の両方を含む概念である。
(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合の使用量は、1種又は2種以上の混合物として、反応系内の全ビニル単量体の合計量に対し好ましくは0質量%超99.9質量%以下、より好ましくは5〜80質量%である。
【0055】
上記カルボキシル基含有ビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、無水マレイン酸、又はイタコン酸、マレイン酸、フマール酸などの2塩基酸のハーフエステルが挙げられる。カルボン酸基含有ビニル単量体を用いると、重合体エマルジョン粒子(B1)にカルボキシル基を導入することができ、エマルジョンとしての安定性を向上させ、外部からの分散破壊作用に抵抗力を持たせることが可能となる。この際、導入したカルボキシル基は、その一部又は全部を、アンモニアやトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン類やNaOH、KOH等の塩基で中和することもできる。
カルボキシル基含有ビニル単量体は、1種又は2種以上の混合物として使用することができ、その使用量(2種以上用いる場合はその合計)は、反応系内の全ビニル単量体の合計量に対して0質量%超50質量%以下であることが耐水性の面から好ましい。より好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。
【0056】
また、上記水酸基含有ビニル単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピリ(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピリ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルや、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、モノ−2−ヒドロキシエチルモノブチルフマレート、アリルアルコールやエチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、さらには、「プラクセルFM、FAモノマー」(ダイセル化学(株)製の、カプロラクトン付加モノマーの商品名)や、その他のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類が挙げられる。
【0057】
上記(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコールが挙げられる。
また、(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコールが挙げられる。
【0058】
2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)と共重合可能なビニル単量体(m2)として、水酸基含有ビニル単量体を用いると、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)との重合生成物の水素結合力を制御することが可能となるとともに、重合体エマルジョン粒子(B1)の水分散安定性を向上させることが可能となる。
上述した水酸基含有ビニル単量体は、1種又は2種以上の混合物として使用することができ、その使用量(2種以上用いる場合はその合計)は、反応系内の全ビニル単量体の合計量に対して0質量%超80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1〜50質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。
【0059】
また、上記グリシジル基含有ビニル単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、アリルジメチルグリシジルエーテルが挙げられる。
グリシジル基含有ビニル単量体や、カルボニル基含有ビニル単量体を使用すると、重合体エマルジョン粒子(B1)が反応性を有し、ヒドラジン誘導体やカルボン酸誘導体、イソシアネート誘導体等により架橋させて耐溶剤性等の優れた複合体の形成が可能となる。
グリシジル基含有ビニル単量体や、カルボニル基含有ビニル単量体の使用量は、好ましくは、反応系内の全ビニル単量体の合計量に対して0質量%超50質量%以下である。
【0060】
また、上記以外の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)と共重合可能なビニル単量体(m2)の具体例としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類;ブタジエン等のジエン類、塩化ビニル、塩化ビニリデンフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン等のハロオレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類;酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニル等のカルボン酸イソプロペニルエステル類;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物、酢酸アリル、安息香酸アリル等のアリルエステル類;アリルエチルエーテル、アリルフェニルエーテル等のアリルエーテル類;さらに4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6,−ペンタメチルピペリジン、パーフルオロメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピロメチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリルが挙げられ、これらを併用してもよい。
【0061】
本実施形態においては、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)(及び、必要に応じてこれと共重合可能な上記ビニル単量体(m2))の重合生成物の分子量を制御する目的で、連鎖移動剤を使用してもよい。
かかる連鎖移動剤の一例としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンのようなアルキルメルカプタン類;ベンジルメルカプタン、ドデシルベンジルメルカプタンのような芳香族メルカプタン類;チオリンゴ酸のようなチオカルボン酸又はそれらの塩若しくはそれらのアルキルエステル類、又はポリチオール類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジ(メチレントリメチロールプロパン)キサントゲンジスルフィド及びチオグリコール、さらにはα−メチルスチレンのダイマー等のアリル化合物が挙げられる。
これら連鎖移動剤の使用量は、反応系内の全ビニル単量体の合計量に対して、好ましくは0.001〜30質量%、さらに好ましくは0.05〜10質量%の範囲である。
【0062】
本実施形態において、重合体エマルジョン粒子(B1)の合成に用いることができる乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤、酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K等)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、脂肪酸石鹸等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレート等の四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型のカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル等のノニオン型界面活性剤;ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤を例示することができる。
これらの乳化剤の中で、ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤を選択すると、重合体エマルジョン粒子(B1)の水分散安定性が非常に良好になると共に、耐水性、耐薬品性、光学特性、強度等に優れた複合体を形成することができるため、非常に好ましい。
【0063】
上記ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体、硫酸エステル基を有するビニル単量体やそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、ポリオキシエチレン等のノニオン基を有するビニル単量体、4級アンモニウム塩を有するビニル単量体が挙げられる。
【0064】
上記ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤のうち、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体の塩は、例えば、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、炭素数6又は10のアリール基及びコハク酸基からなる群から選ばれる置換基を有する化合物であるか、スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物である。
硫酸エステル基を有するビニル単量体は、例えば、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつ硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基及び炭素数6又は10のアリール基からなる群から選ばれる置換基を有する化合物である。
【0065】
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換されたコハク酸基を有する化合物の具体例としては、アリルスルホコハク酸塩が挙げられる。これらの具体例として、例えば、エレミノールJS−2(商品名)(三洋化成(株)製)、ラテムルS−120、S−180A又はS−180(商品名)(花王(株)製)が挙げられる。
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物の具体例としては、例えば、アクアロンHS−10又はKH−1025(商品名)(第一工業製薬(株)製)、アデカリアソープSE−1025N又はSR−1025(商品名)(旭電化工業(株)製)が挙げられる。
その他、スルホネート基により一部が置換されたアリール基を有する化合物の具体例としては、例えば、p−スチレンスルホン酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物として例えば、2−スルホエチルアクリレート等のアルキルスルホン酸(メタ)アクリレートやメチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、アリルスルホン酸等のアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
【0066】
また、上記硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩により一部が置換された炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキエーテル基を有する化合物としては、例えば、スルホネート基により一部が置換されたアルキルエーテル基を有する化合物が挙げられる。
【0067】
また、ノニオン基を有するビニル単量体の具体例としては、例えば、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(商品名:アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40等、旭電化工業(株)製)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(商品名:アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50等、第一製薬工業(株)製)が挙げられる。
【0068】
上記乳化剤の使用量としては、重合体エマルジョン粒子(B1)100質量部に対して、10質量部以下となる範囲内が適切であり、なかでも、0.001〜5質量部となる範囲内が好ましい。
【0069】
また、上記乳化剤以外に、重合体エマルジョン粒子(B1)の水分散安定性を向上させる目的で分散安定剤を使用することもできる。該分散安定剤としては、ポリカルボン酸及びスルホン酸塩からなる群から選ばれる各種の水溶性オリゴマー類や、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性又は水分散性アクリル樹脂などの合成又は天然の水溶性又は水分散性の各種の水溶性高分子物質が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。
これらの分散安定剤を使用する場合、その使用量としては、重合体エマルジョン粒子(B1)100質量部に対して、10質量部以下となる範囲内が適切であり、なかでも、0.001〜5質量部となる範囲内が好ましい。
【0070】
本実施形態において、加水分解性珪素化合物(s)と2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)との重合は、重合触媒存在下で実施するのが好ましい。
ここで、加水分解性珪素化合物(s)の重合触媒としては、塩酸、フッ酸等のハロゲン化水素類;酢酸、トリクロル酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸等のカルボン酸類;硫酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類;アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤類;酸性又は弱酸性の無機塩、フタル酸、リン酸、硝酸のような酸性化合物類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、酢酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン類;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシランのような塩基性化合物類;ジブチル錫オクチレート、ジブチル錫ジラウレートのような錫化合物が挙げられる。
これらの中で、重合触媒のみならず乳化剤としての作用を有する酸性乳化剤類、特に炭素数が5〜30のアルキルベンゼンスルホン酸(ドデシルベンゼンスルホン酸等)が非常に好ましい。
【0071】
一方、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)の重合触媒としては、熱又は還元性物質などによってラジカル分解してビニル単量体の付加重合を起こさせるラジカル重合触媒が好適であり、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物が好ましく使用される。その例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ヒドロクロリド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が挙げられ、その使用量は、全ビニル単量体100質量部に対して、0.001〜5質量部であることが好ましい。
なお、重合速度の促進や70℃以下での低温の重合を望むときには、例えば、重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
【0072】
上述したように、重合体エマルジョン粒子(B1)は、水及び乳化剤の存在下で、加水分解性珪素化合物(s)とビニル単量体(m)(必要に応じてこれと共重合可能な他のビニル単量体(m2))とを、好ましくは重合触媒存在下でそれぞれ重合させることにより得ることができる。
ここで、加水分解性珪素化合物(s)とビニル単量体(m)との重合は、別々の系で実施することも可能であるが、同じ系で同時に実施することにより、両重合生成物間の水素結合等による複合化をミクロなレベルで達成できるので好ましい。
【0073】
また、本実施形態において、重合体エマルジョン粒子(B1)の粒子径が10〜800nmであることが好ましい。重合体エマルジョン粒子(B1)の粒子径をこのような範囲に調整し、さらに、粒子径が1〜400nmの無機酸化物粒子(A)と組み合わせることにより、耐候性、耐薬品性、光学特性、更には防汚性、防曇性、帯電防止性等に優れた複合体を形成することが可能となる。
重合体エマルジョン粒子(B1)の粒子径は50〜300nmであると、得られる塗膜の透明性が向上し、より好ましい。
【0074】
このような粒子径の重合体エマルジョン粒子(B1)を得る方法としては、乳化剤がミセルを形成するのに十分な量の水の存在下で、加水分解性珪素化合物(s)とビニル単量体(m)とを、それぞれ重合させる、いわゆる乳化重合が最も適した方法である。
【0075】
乳化重合の具体的な方法としては、例えば、加水分解性珪素化合物(s)とビニル単量体(m)(必要に応じてこれと共重合可能な他のビニル単量体(m2))を、そのまま、又は乳化した状態で、一括で若しくは分割して、又は連続的に反応容器中に滴下し、前記重合触媒の存在下、好ましくは大気圧から必要により10MPaの圧力下で、約30〜150℃の反応温度で重合させればよい。場合によっては、これ以上の圧力で、又はこれ以下の温度条件で重合を行っても差し支えない。
重合体エマルジョン粒子(B1)を製造する際に使用する加水分解性珪素化合物(s)及び全ビニル単量体量の合計量と水との比率は、最終的に生成する固形分量が0.1〜70質量%、より好ましくは1〜55質量%の範囲になるように設定するのが好ましい。
【0076】
また、乳化重合をするにあたり、重合体エマルジョン粒子(B1)の粒子を成長させるため又は粒子径を制御させるために、予め水相中にエマルジョン粒子を存在させて重合させるシード重合法を採用してもよい。重合系中のpHは、好ましくは1.0〜10.0、より好ましくは1.0〜6.0の範囲で進行させればよい。pHは、燐酸二ナトリウムやボラックス、又は、炭酸水素ナトリウム、アンモニアなどのpH緩衝剤を用いて調節することが可能である。
【0077】
また、重合体エマルジョン粒子(B1)を得る方法として、加水分解性珪素化合物(s)を重合させるのに必要な水及び乳化剤の存在下で、加水分解性金属化合物(s)及びビニル単量体(m)を、必要により溶剤存在下で重合した後、重合生成物がエマルジョンとなるまで水を添加する手法も適用できる。ただし、この方法と比べて、上記乳化重合による方法の方が、得られた重合体エマルジョン粒子(B1)の粒子径制御が容易である点で好ましい。
【0078】
本実施形態において、重合体エマルジョン粒子(B1)が、シェルが1層又は2層以上の層から形成されるコア/シェル構造であると、機械的物性(強度と柔軟性のバランス等)に優れた複合体を形成することが可能となり好ましい。特に、そのコアにおいて、加水分解性珪素化合物(s)の重合生成物に対するビニル単量体(m)の重合生成物の質量比(m)/(s)が1.0以下であり、かつ、シェルの最外層において、(m)の重合生成物と(s)の重合生成物との質量比(m1)/(s)が0.1以上5.0以下であると、得られる複合体は耐候性、機械的物性が共に特に良好であり好ましい。
【0079】
上記コア/シェル構造の重合体エマルジョン粒子(B1)を製造する方法としては、多段乳化重合が非常に有用である。
ここで、多段乳化重合とは、加水分解性珪素化合物(s)やビニル単量体(m)(必要に応じてこれと共重合可能な他のビニル単量体(m2))を含む組成の異なる2種類以上の反応溶液を調製し、これらを別々の段階に分けて重合することを意味する。
【0080】
以下に、多段乳化重合の中で最も単純で有用な2段乳化重合による重合体エマルジョン粒子(B1)の合成を例に、多段乳化重合による重合体エマルジョン粒子(B1)の合成について説明する。
本実施形態において、2段乳化重合による重合体エマルジョン粒子(B1)の合成として、例えば、水及び乳化剤の存在下で、ビニル単量体(m)、これと共重合可能なビニル単量体(m2)、加水分解性珪素化合物(s)のうち少なくとも1つを重合して得られるシード粒子を存在させ、加水分解性珪素化合物(s)とビニル単量体(m)とをそれぞれ重合させる方法を例示できる。
【0081】
上記2段乳化重合による重合体エマルジョン粒子(B1)の合成は、ビニル単量体(m)及び/又は加水分解性珪素化合物(s)を供給し、乳化重合させてコアとなるシード粒子を形成する第1段の重合と、第1段に引き続き、加水分解性珪素化合物(s)とビニル単量体(m)(必要に応じてこれと共重合可能な他のビニル単量体(m2)))とを供給し、水性媒体中においてそれぞれを乳化重合させシェルを形成する第2段の重合とからなる、2段階の重合行程により行われる。この際、第1段の重合反応系中の固形分質量(M1)と第2段の重合反応系中の固形分質量(M2)との質量比((M1)/(M2))は、好ましくは9/1〜1/9、より好ましくは8/2〜2/8である。
【0082】
このような多段階乳化重合の特徴は、第1段の重合で得られたシード粒子(コア)の粒子径や粒径分布(体積平均粒子径/数平均粒子径)が大きく変化することなく(好ましくは単分散の状態で)、第2段の重合によって重合体エマルジョン粒子(B1)が大きくなる(粒子径の増大)点を挙げることができる。
また、コア/シェル構造の確認は、例えば、透過型電子顕微鏡等による形態観察や粘弾性測定による解析等により実施することが可能である。
【0083】
重合体エマルジョン粒子(B1)を、水及び乳化剤の存在下で、予め加水分解性珪素化合物(s)を重合して得られたシード粒子を存在させ、加水分解性珪素化合物(s)とビニル単量体(m)とを、それぞれ重合させることは、重合安定性に優れており好ましい。
また、上述したコア/シェル構造の重合体エマルジョン粒子(B1)において、コア相のガラス転移温度(Tg)が0℃以下、すなわち上記シード粒子のガラス転移温度が0℃以下のものは、室温における柔軟性に優れ、割れ等が生じにくい複合体を形成することが可能となり、好ましい。
【0084】
本実施形態において、3段以上の多段乳化重合を実施する場合は、上述した2段重合による重合体エマルジョン粒子(B1)の合成例と同様にして、重合の段数を増加させればよい。
【0085】
重合体エマルジョン粒子(B1)を製造するに際して好ましく用いることのできる2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)以外のビニル単量体(m)の具体例としては、水酸基含有ビニル単量体やカルボキシル基含有ビニル単量体が挙げられる。これらは、無機酸化物粒子(A)と水素結合が形成可能なビニル単量体であり、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0086】
得られた重合体エマルジョン粒子(B1)は、必要に応じて、その製造に用いられた水や乳化剤と共に濾過された後、さらに水等の溶媒中に分散されて、その分散体を形成してもよい。
本実施形態の樹脂組成物粒子(B)は、重合体エマルジョン粒子(B1)の他、コーティング剤におけるバインダーや粘度向上剤として機能する公知の樹脂を、本発明の目的の達成を阻害しない範囲において含有してもよい。
【0087】
本実施形態の複合体は、セルフクリーニング機能を維持するため及びNOx分解性を発現させるために、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)を含む。
【0088】
ここで、光触媒とは、光照射によって酸化、還元反応を起こす物質のことを言う。すなわち伝導帯と価電子帯との間のエネルギーギャップよりも大きなエネルギー(すなわち短い波長)の光(励起光)を照射したときに、価電子帯中の電子の励起(光励起)が生じて、伝導電子と正孔を生成しうる物質であり、このとき、伝導帯に生成した電子の還元力及び/又は価電子帯に生成した正孔の酸化力を利用して、種々の化学反応を行うことができる。
【0089】
また、光触媒活性とは、光照射によって酸化、還元反応を起こすことをいう。これらの光触媒活性は、例えば、材料表面の光照射時における色素等の有機物の分解性を測定することにより判定することができる。光触媒活性を有する表面は、優れた汚染有機物質の分解活性や耐汚染性を発現する。
さらに、本発明において、親水性とは、好ましくは20℃での水の接触角が60゜以下である場合をいう。特に、水の接触角が30゜以下の親水性を有する表面は、降雨等の水による自己浄化能(セルフクリーニング)による耐汚染性を発現するので好ましい。さらに優れた耐汚染性発現や防曇性発現の点からは表面の水の接触角は20゜以下であることが好ましく、更に好ましくは10゜以下であり、よりさらに好ましくは5°以下である。
【0090】
光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)は特に限定されない。
光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)における金属酸化物として有用に使用できる金属酸化物としては、バンドギャップエネルギーが好ましくは1.2〜5.0eV、更に好ましくは1.5〜4.1eVの半導体化合物を挙げることができる。バンドギャップエネルギーが1.2eV以上であると光照射による酸化、還元反応を起こす能力が高いので好ましい。バンドギャップエネルギーが5.0eV以下であると、正孔と電子とを生成させるのに必要な光のエネルギーがさほど大きくないため好ましい。
【0091】
上記金属酸化物の具体例としては、例えば、TiO2、ZnO、SrTiO3、BaTiO3、BaTiO4、BaTi49、K2NbO3、Nb25、Fe23、Ta25、K3Ta3Si23、WO3、SnO2、Bi23、BiVO4、NiO、Cu2O、RuO2、CeO2等、さらにはTi、Nb、Ta、Vから選ばれた少なくとも1種の元素を有する層状酸化物(例えば、特開昭62−74452号公報、特開平2−172535号公報、特開平7−24329号公報、特開平8−89799号公報、特開平8−89800号公報、特開平8−89804号公報、特開平8−198061号公報、特開平9−248465号公報、特開平10−99694号公報、特開平10−244165号公報等参照)が挙げられる。
これらの中で、TiO2(酸化チタン)は無害であり、化学的安定性にも優れるため好ましい。酸化チタンとしては、アナターゼ、ルチル、ブルッカイトのいずれも使用できる。
【0092】
本実施形態の複合体は、空隙率Xと膜厚Dとを制御し、光触媒反応の効率を飛躍的に向上させている。これにより、比較的光触媒活性の低いルチル型酸化チタンを使用しても、実用上十分なセルフクリーニング性及びNOx除去性を発現することが可能である。ただし、本実施形態の複合体を有機基材上に形成させる場合、光触媒反応により基材が劣化しやすくなることから、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)としてルチル型酸化チタン粒子を用いることが好ましい。
【0093】
また、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)として、可視光(例えば、約400〜800nmの波長)の照射により光触媒活性及び/又は親水性を発現することができる可視光応答型光触媒を選択すると、本実施形態の複合体は、室内等の紫外線が十分に照射されない場所等における環境浄化効果や防汚効果が非常に大きなものとなるため好ましい。これらの可視光応答型光触媒のバンドギャップエネルギーは、好ましくは1.2〜3.1eV、より好ましくは1.5〜2.9eV、更に好ましくは1.5〜2.8eVである。
【0094】
上記可視光応答型光触媒は、可視光で光触媒活性及び/又は親水性を発現するものであれば全て使用することができるが、例えば、TaON、LaTiO2N、CaNbO2N、LaTaON2、CaTaO2N等のオキシナイトライド化合物(例えば、特開2002−66333号公報参照);Sm2Ti227等のオキシサルファイド化合物(例えば、特開2002−233770号公報参照);CaIn24、SrIn24、ZnGa24、Na2Sb26等のd10電子状態の金属イオンを含む酸化物(例えば、特開2002−59008号公報参照);アンモニアや尿素等の窒素含有化合物存在下でチタン酸化物前駆体(オキシ硫酸チタン、塩化チタン、アルコキシチタン等);高表面酸化チタンを焼成して得られる窒素ドープ酸化チタン(例えば、特開2002−29750号公報、特開2002−87818号公報、特開2002−154823号公報、特開2001−207082号公報参照);チオ尿素等の硫黄化合物存在下にチタン酸化物前駆体(オキシ硫酸チタン、塩化チタン、アルコキシチタン等)を焼成して得られる硫黄ドープ酸化チタン;酸化チタンを水素プラズマ処理したり真空下で加熱処理したりすることによって得られる酸素欠陥型の酸化チタン(例えば、特開2001−98219号公報参照);さらには光触媒粒子をハロゲン化白金化合物で処理したり(例えば、特開2002−239353号公報参照)、タングステンアルコキシドで処理(特開2001−286755号公報参照)することによって得られる表面処理光触媒が好適に挙げられる。
上記可視光応答型光触媒の中で、オキシナイトライド化合物、オキシサルファイド化合物は可視光による光触媒活性が大きく、特に好適に使用することができる。
【0095】
本実施形態において特に好適に使用できるオキシナイトライド化合物は、遷移金属を含むオキシナイトライドであり、光触媒活性が大きいものとして、好ましくは、遷移金属がTa、Nb、Ti、Zr、Wからなる群から選択される少なくとも1つであるオキシナイトライドであり、より好ましくは、アルカリ、アルカリ土類及びIIIB族の金属からなる群から選択される少なくとも1つの元素を更に含むオキシナイトライドであり、更に好ましくは、Ca、Sr、Ba、Rb、La、Ndからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素を更に含むオキシナイトライドである。
【0096】
上記遷移金属を含むオキシナイトライドの具体例としては、例えば、LaTiO2N、LavCawTiO2N(v+w=3)、LavCawTaO2N(v+w=3)、LaTaON2、CaTaO2N、SrTaO2N、BaTaO2N、CaNbO2N、CaWO2N、SrWO2N等の一般式AMOxNy(A=アルカリ金属、アルカリ土類金属、IIIB族金属;M=Ta、Nb、Ti、Zr、W;x+y=3)で表される化合物やTaON、NbON、WON、Li2LaTa26Nが挙げられる。
これらの中で、LaTiO2N、LavCawTiO2N(v+w=3)、LavCawTaO2N(v+w=3)、TaONが、可視光での光触媒活性が非常に大きいため好ましい。
【0097】
本実施形態において特に好適に使用できるオキシサルファイド化合物は、遷移金属を含むオキシサルファイドであり、光触媒活性が大きいものとして、好ましくは、遷移金属がTa、Nb、Ti、Zr、Wからなる群から選択される少なくとも1つであるオキシサルファイドであり、より好ましくは、アルカリ、アルカリ土類及びIIIB族の金属からなる群から選択される少なくとも1つの元素を更に含むオキシサルファイドであり、更に好ましくは、希土類元素を更に含むオキシサルファイドである。
【0098】
上記遷移金属を含むオキシサルファイドの具体例としては、例えば、Sm2Ti225、Nd2Ti225、La6Ti285、Pr2Ti225、Sm3NbS34が挙げられる。
これらの中で、Sm2Ti225、Nd2Ti225が可視光での光触媒活性が非常に大きいため非常に好ましい。
【0099】
光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)は、Pt、Rh、Ru、Nb、Cu、Sn、Ni、Feなどの金属及び/又はこれらの酸化物を添加又は固定化したり、シリカや多孔質リン酸カルシウム等で被覆したり(例えば、特開平10−244166号公報参照)したものであってもよい。
光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の形状に限定はないが、比表面積の観点及び粒子の配向効果の観点から、一次粒子の粒子長(l)と粒子直径(d)の比(l/d)が、1/1から20/1の範囲にあることが好ましい。より好ましい(l/d)は、1/1から15/1の範囲であり、さらに好ましい(l/d)は、1/1から10/1の範囲である。なお、粒子長(l)及び粒子直径(d)は、金属酸化物(C)の粒子の希薄な水分散体をメッシュ上に滴下し、乾燥して得られた複数の粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、その相加平均値を求めることにより求められる。
【0100】
本実施形態において、透明性、強度、耐候性等に優れた複合体を形成するために、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)として、1次粒子及び/又は2次粒子の混合物(1次粒子、2次粒子何れかのみでもよい)の数平均分散粒子径が1〜400nmの金属酸化物粒子(C)分散液を用いることが望ましい。ここで、金属酸化物粒子の数平均分散粒子径は、TEM又は湿式粒度分布計によって測定される。
特に、数平均分散粒子径が1〜100nmの金属酸化物粒子(C)の分散液を使用した場合、透明性に優れた複合体を得ることができるため非常に好ましい。好ましくは数平均分散粒子径が1〜100nm、より好ましくは5〜50nm、更に好ましくは10〜30nmの金属酸化物粒子(C)の分散液が選択される。
【0101】
光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の形態としては、粉体、分散液のいずれでも用いることができる。ここで、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液とは、光触媒粒子が水及び/又は親水性有機溶媒中に0.01〜80質量%、好ましくは0.1〜50質量%で、一次粒子及び/又は二次粒子として分散されたものである。
【0102】
ここで、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液に使用される親水性有機溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ブチルセロソルブ、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エタノール、メタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、ニトロベンゼン、さらにはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0103】
本実施形態の複合体を形成するためのコーティング剤は、無機酸化物粒子(A)と、樹脂組成物粒子(B)と、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)とを含み、無溶媒の状態であっても上記各構成成分が水等の溶媒に分散した状態であってもよく、特に制限はない。ただし、コーティング剤として用いる場合は、粘度調整の観点から水等の溶媒に分散した状態が好ましく、水に分散した状態がより好ましい。この際、コーティング剤の固形分は、好ましくは0.01〜60質量%、より好ましくは1〜40質量%である。その時の粘度は、好ましくは20℃において0.1〜100000mPa・s、好ましくは1〜10000mPa・sである。
【0104】
また、本実施形態の複合体を形成するためのコーティング剤には、無機酸化物粒子(A)、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)と重合体エマルジョン粒子(B1)との間の水素結合等による相互作用を制御する目的で、アルコール類を添加することもできる。アルコール類の添加により、貯蔵安定性等が非常に向上する。
【0105】
上記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2―ブタノール、変性エタノール、グリセリン、アルキル鎖の炭素数が3〜8のモノアルキルモノグリセリルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル又はジないしテトラエチレングリコールモノフェニルエーテルが挙げられ、これらが好ましい。これらの中で、エタノールが環境上最も好ましい。
【0106】
本実施形態の複合体及びその複合体を形成するためのコーティング剤には、紫外線吸収剤として、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる少なくとも1種、光安定剤として、ヒンダードアミン系光安定剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。紫外線吸収剤及び/又は光安定剤の添加量は、重合体エマルジョン粒子(B1)の質量に対して0.1質量%〜5質量%であることが好ましい。また、紫外線吸収剤として、分子内にラジカル重合性の二重結合を有するラジカル重合性紫外線吸収剤、光安定剤として、分子内にラジカル重合性の二重結合を有するラジカル重合性光安定剤を用いることもできる。また、紫外線吸収剤と光安定剤を併用した方が、耐候性に優れるため好ましい。
これらの紫外線吸収剤、光安定剤は、無機酸化物粒子(A)や光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)と重合体エマルジョン粒子(B1)と単に配合することもでき、重合体エマルジョン粒子(B1)を合成する際に共存させることもできる。
【0107】
本実施形態において使用できるベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ステアリルオキシベンゾフェノンなどがある。ラジカル重合性ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として具体的には、2−ヒドロキシ−4−アクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メタクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−アクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−メタクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(アクリロキシ−エトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタクリロキシ−エトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタクリロキシ−ジエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(アクリロキシ−トリエトキシ)ベンゾフェノンが挙げられる。
【0108】
本実施形態において使用できるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、具体的には、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール)、メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量300)との縮合物(日本チバガイギー(株)製、商品名:TINUVIN1130)、イソオクチル−3−〔3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート(日本チバガイギー(株)製、商品名:TINUVIN384)、2−(3−ドデシル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(日本チバガイギー(株)製、商品名:TINUVIN571)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(日本チバガイギー(株)製、商品名:TINUVIN900)が挙げられる。ラジカル重合性ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、具体的には、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学(株)製、商品名:RUVA−93)、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチル−3−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリリルオキシプロピル−3−tert−ブチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、3−メタクリロイル−2−ヒドロキシプロピル−3−〔3’−(2’’−ベンゾトリアゾリル)−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチル〕フェニルプロピオネート(日本チバガイギー(株)製、商品名:CGL−104)が挙げられる。
【0109】
本実施形態において使用できるトリアジン系紫外線吸収剤としては、具体的には、TINUVIN400(商品名、日本チバガイギー(株)製)が挙げられる。
本実施形態において、紫外線吸収剤としては、紫外線吸収能の高いベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤が好ましい。
【0110】
本実施形態において使用できるヒンダードアミン系光安定剤としては、具体的には、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、1−〔2−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕エチル〕−4−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−セバケートの混合物(日本チバガイギー(株)製、商品名:TINUVIN292)、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、TINUVIN123(商品名、日本チバガイギ(株)製)などが挙げられる。ラジカル重合性ヒンダードアミン系光安定剤としては、具体的には、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルアクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−イミノピペリジルメタクリレート、2,2,6,6,−テトラメチル−4−イミノピペリジルメタクリレート、4−シアノ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、4−シアノ−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレートが挙げられる。
本実施形態において、ヒンダードアミン系光安定剤としては、塩基性が低いものが好ましく、具体的には塩基定数(pKb)が8以上のものが好ましい。
【0111】
また、本実施形態の複合体を形成するためのコーティング剤には、その用途及び使用方法などに応じて、通常、塗料や成型用樹脂に添加配合される成分、例えば、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、顔料、硬化触媒、架橋剤、充填剤、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、成膜助剤、防錆剤、染料、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は帯電調整剤等をそれぞれの目的に応じて選択し、組み合わせて配合することができる。
【0112】
本実施形態において光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)は光触媒活性を有するので複合体の水接触角を長期間にわたり低く保つことができる。
【0113】
本実施形態の複合体は、それに含まれる光触媒(光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C))のバンドギャップエネルギーよりも高いエネルギーの光を照射することにより優れた汚染有機物質の分解活性や耐汚染性、さらには光電変換機能を示す。
ここで、光触媒のバンドギャップエネルギーよりも高いエネルギーの光の光源としては、太陽光や室内照明灯等の一般住宅環境下で得られる光の他、ブラックライト、キセノンランプ、水銀灯、LED等の光が利用できる。
【0114】
本実施形態においては、無機酸化物粒子(A)が重合体エマルジョン粒子(B1)の硬化剤として有効に働いた状態で複合体を形成しているのが好ましい。このような好ましい複合体の例として、無機酸化物粒子(A)が、重合体エマルジョン粒子(B1)と相互作用しながら重合体エマルジョン粒子(B1)の粒子間に連続層を形成して存在している形態を挙げることができる。このような形態の複合体は、特に耐薬品性、光学特性等に優れたものになる。
【0115】
本実施形態において、複合体の最も好ましい形態は、重合体エマルジョン粒子(B1)がコア/シェル構造であり、そのシェル相が無機酸化物粒子(A)と相互作用した状態で連続層を形成し、粒子状のコア相が該連続層中に存在するものである。このような形態の複合体は、耐薬品性、光学特性に優れるばかりか、機械的特性(強度と柔軟性のバランス等)にも優れたものになる。
【0116】
本実施形態の別の態様においては、基材と、その基材上に設けられた上記複合体とを備える機能性構造体が提供される。
【0117】
本実施形態の機能性構造体を得るのに用いられる基材としては、特に限定はなく、例えば、本明細書で開示した用途に使用される基材はいずれも用いることができる。
本実施形態の機能性構造体を得るのに用いられる基材の具体例としては、例えば、合成樹脂、天然樹脂等の有機基材;金属、セラミックス、ガラス、石、セメント、コンクリート等の無機基材;それらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0118】
上記有機基材としては、例えば、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂;ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂;ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリフェニレンサルファイド系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルイミド系樹脂;セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材が挙げられる。
また、窯業系建材ボードなどの外壁材であって、上塗り塗料がアクリル樹脂系塗料、アクリルシリコン樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料であるものも有機基材に含まれる。これらの中でも、上塗り塗料がアクリルシリコン樹脂系塗料のものを基材として用いる場合、密着性や耐候性が優れた機能性複合体を得ることができる。
【0119】
本実施形態の機能性構造体は、複合体を形成するためのコーティング剤を基材に塗布し、乾燥した後、所望により好ましくは20℃〜500℃、より好ましくは40℃〜250℃での熱処理や紫外線照射等を行い、基材上に膜状の複合体を形成することにより得ることができる。
上記塗布方法としては、例えば、スプレー吹き付け法、フローコーティング法、ロールコート法、刷毛塗り法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等が挙げられる。
【0120】
なお、本実施形態の複合体は、必ずしも連続膜の態様である必要はなく、不連続膜、島状分散膜等の態様であってもよい。また、本実施形態の機能性構造体は、シート状、繊維状又は成形体などいかなる態様であってもよい。
【0121】
本実施形態の機能性構造体は、基材上に本実施形態に係るコーティング剤を塗布して膜状の複合体を形成することによって製造することができるが、製造方法はこれに限定されない。例えば、基材と本実施形態の複合体を同時に成形、例えば、一体成形してもよい。また、本実施形態の複合体を成形後、基材の成形を行ってもよい。また、本実施形態の複合体と基材とを個別に成形後、接着、融着等によりそれらを接合して機能性構造体を形成してもよい。
【0122】
本実施形態の複合体又は機能性構造体であって、20℃における水との接触角が60゜以下(好ましくは30゜以下)である親水性のもの(親水性膜、及び該親水性膜で被覆された基材等)は、鏡やガラスの曇りを防止する防曇技術、さらには建築外装等に対する防汚技術や帯電防止技術等への応用が可能である。
【0123】
本実施形態の複合体又は機能性構造体の防汚技術分野への応用例としては、例えば、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、住宅等建築設備、特に便器、浴槽、洗面台、照明器具、照明カバー、台所用品、食器、食器洗浄器、食器乾燥器、流し、調理レンジ、キッチンフード、換気扇が挙げられる。本実施形態の複合体又は機能性構造体は、また、乗物の外装及び塗装、用途によってはその内装にも使用でき、車両用照明灯のカバー、窓ガラス、計器、表示盤等透明性が要求される部材での使用に効果があり、また、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、表示機器、そのカバー、交通標識、各種表示装置、広告塔等の表示物、道路用、鉄道用等の遮音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー等外部で使用される電子、電気機器の外装部、特に透明部材、ビニールハウス、温室等の外装、特に透明部材、また、室内にあっても汚染のおそれのある環境、たとえば医療用や体育用の施設、装置等にも用いることができる。
【0124】
本実施形態の複合体又は機能性構造体の防曇技術分野への応用例としては、例えば、鏡(車両用後方確認ミラー、浴室用鏡、洗面所用鏡、歯科用鏡、道路鏡等)、レンズ(眼鏡レンズ、光学レンズ、照明用レンズ、半導体用レンズ、複写機用レンズ、車両用後方確認カメラレンズ等)、プリズム、建物や監視塔の窓ガラス、乗物の窓ガラス(自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、ロープウェイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船等)、乗物の風防ガラス(自動車、オートバイ、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、スノーモービル、ロープウェイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船等)、防護用ゴーグル、スポーツ用ゴーグル、防護用マスクのシールド、スポーツ用マスクのシールド、ヘルメットのシールド、冷凍食品陳列ケースのガラス、保温食品の陳列ケースのガラス、計測機器のカバー、車両用後方確認カメラレンズのカバー、レーザー歯科治療器等の集束レンズ、車間距離センサー等のレーザー光検知用センサーのカバー、赤外線センサーのカバー、カメラ用フィルターが挙げられる。
【0125】
本実施形態の複合体又は機能性構造体の帯電防止技術分野への応用例としては、例えば、ブラウン管、磁気記録メディア、光記録メディア、光磁気記録メディア、オーディオテープ、ビデオテープ、アナログレコード、家庭用電気製品のハウジングや部品や外装及び塗装、OA機器製品のハウジングや部品や外装及び塗装、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装の用途が挙げられる。
【0126】
本実施形態の複合体又は機能性構造体は、光触媒作用により抗菌、防カビ技術分野への応用が可能である。例えば、建材、建物外装、建物内装、窓枠、構造部材、住宅等建築設備、特に便器、浴槽、洗面台、照明器具、照明カバー、台所用品、食器、食器洗浄器、食器乾燥器、流し、調理レンジ、キッチンフード、換気扇、食器棚、飾り棚、浴室や洗面所の壁、天井、ドアノブ、さらには医療用や公共施設等、例えば、病院内の部材、救急車の各種部材又は食品・医薬品工場、学校・体育館・駅などの公共施設、公衆浴場、公衆トイレ、旅館、ホテル、その他、における衛生管理のために、壁面、床面や天井面、各所の什器、備品、ドアノブなどの用途が挙げられる。特に、院内感染防止方法として病院内の部材に広範囲に用いることが可能である。該病院内の部材としては、例えば、病室、診察室、廊下、階段、エレベーター、待合室、洗面所等、不特定多数のものが接触する場所における床、壁、天井、手すり、ドア把手、水道蛇口、各種診療機器が挙げられる。また、病院内に限らず、救急車や食品保管室、食品調理室等の衛生を必要とする場所の各種部材に対しても効果的に抗菌性や防カビ性を付与することができる。
【0127】
本実施形態の複合体又は機能性構造体であって、有機物分解等の光触媒活性を有するものは、抗菌、防汚、防臭、NOx除去等の様々な機能を発現し、大気、水等の環境浄化等の用途に使用することができる。
【0128】
本実施形態の複合体又は機能性構造体であって、光電変換機能を有するものは、太陽エネルギーの電力変換等の機能を発現することが可能であり、(湿式)太陽電池等に用いる光半導体電極等の用途に使用することができる。
【0129】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0130】
以下、実施例、参考例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0131】
実施例、参考例及び比較例中において、各種の物性は以下に示す方法で測定した。
1.固形分濃度
調製した試料約2gをアルミ皿にとり、150℃で1時間加熱した。加熱前後の試料の質量を測定し、その差から固形分濃度を計算した。
2.数平均粒子径
試料中の固形分含有量が1〜20質量%となるよう適宜溶媒を加えて希釈し、湿式粒度分析計(日本国日機装製マイクロトラックUPA−9230)を用いて測定した。
3.膜厚
アクリル板(商品名「デラグラスK」、旭化成ケミカルズ(株)製、厚み2mm)に、コーティング剤をスプレー塗装し、膜状の複合体を形成した試験板を用いて評価を行った。大塚電子製反射分光膜厚計FE−3000を用いて、複合体の膜厚を求めた。
【0132】
4.空隙率
アクリル板(商品名「デラグラスK」、旭化成ケミカルズ(株)製、厚み2mm)に、コーティング剤をスプレー塗装し、膜状の複合体を形成した試験板を用いて評価を行った。大塚電子製反射分光膜厚計FE−3000を用いて、複合体の屈折率Nを測定し、上記式(3)より、複合体の空隙率X(単位:体積%)を求めた。なお、複合体の平均屈折率NAVは、シリカの比重=2.1g/cm3、シリカの屈折率NA=1.45、重合体エマルジョン粒子の比重=1.19g/cm3、重合体エマルジョン粒子の屈折率NB=1.50、酸化チタンの比重=3.8g/cm3、ルチル型酸化チタンの屈折率NC=2.76、アナターゼ型酸化チタンの屈折率NC=2.52の各値を用い、式(2)より求めた。
5.透明性
アクリル板(商品名「デラグラスK」、旭化成ケミカルズ(株)製、厚み2mm)に、コーティング剤をスプレー塗装し、膜状の複合体を形成した試験板を用いて評価を行った。日本国日本電色工業製濁度計NDH2000を用いて、JIS−K7105に準じて複合体のヘイズを測定して、透明性を評価した。ヘイズの値が小さいほど透明性が高いことを意味する。
6.水接触角
トップコートとしてアクリルシリコーン塗料を使用した黒色の窯業系建材ボード基材に、コーティング剤をスプレー塗装し、膜状の複合体を形成した試験板を用いて評価を行った。複合体の表面に脱イオン水の滴を乗せ、20℃で10秒間放置した後、日本国協和界面科学製CA−X150型接触角計を用いてその接触角を測定した。なお、複合体に対する水の接触角(以下、水接触角という)が小さいほど、皮膜表面は親水性が高く、セルフクリーニング性が良好であることを示す。
【0133】
7.耐候性
トップコートとしてアクリルシリコーン塗料を使用した黒色の窯業系建材ボード基材に、コーティング剤をスプレー塗装し、膜状の複合体を形成した試験板を用いて評価を行った。スガ試験器製サンシャインウェザーメーターを使用して複合体の曝露試験(ブラックパネル温度63℃、降雨18分/2時間)を行った。曝露2000時間後、4000時間後の色差変化ΔEをBYK Gardrer製カラーガイドを用いて測定した。基材のみで評価した結果は、曝露2000時間後ΔE=1.5、4000時間後ΔE=2.2であり、この値よりもΔEが小さい場合、耐候性は良好であることを示す。また、ΔEの値が小さいほど、下地保護性が良好であることを示す。
8.耐候性試験後の水接触角
トップコートとしてアクリルシリコーン塗料を使用した黒色の窯業系建材ボード基材に、コーティング剤をスプレー塗装し、膜状の複合体を形成した試験板を用いて評価を行った。スガ試験器製サンシャインウェザーメーターを使用して曝露試験(ブラックパネル温度63℃、降雨18分/2時間)を行った。曝露2000時間後の水接触角を上記6.と同様にして測定した。水の接触角が小さいほど、セルフクリーニング性の維持性能が高いことを示す。
9.耐汚染性
トップコートとしてアクリルシリコーン塗料を使用した白色の窯業系建材ボード基材に、コーティング剤をスプレー塗装し、膜状の複合体を形成した試験板を用いて評価を行った。試験板を一般道路(トラック通行量500〜1000台/日程度)に面したフェンスに6ケ月間、1年間貼りつけた後、汚染の度合いを目視にて下記のように評価した。なお、複合体を形成せず、基材のみで評価した結果は、6ケ月間、1年間共に×の判定であった。
○:ほとんど汚れがなく良好。
△:多少の汚れがある。
×:雨筋汚れがみられ、悪い。
【0134】
10.湿式分解性能
アクリル板(商品名「デラグラスK」、旭化成ケミカルズ(株)製、厚み2mm)に、コーティング剤をスプレー塗装し、膜状の複合体を形成した試験板を用いて評価を行った。JIS R 1703−2 ファインセラミックス−光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法−第2部:湿式分解性能に準拠して試験を行い、複合体の色素分解活性指数を求めた。色素分解活性指数が高いほど、セルフクリーニング性が良好であることを示す。
11.NOx除去性能
アクリル板(商品名「デラグラスK」、旭化成ケミカルズ(株)製、厚み2mm)に、コーティング剤をスプレー塗装し、膜状の複合体を形成した試験板を用いて評価を行った。JIS R 1701−1 ファインセラミックス−光触媒材料の空気浄化性能試験方法−第1部:窒素酸化物の除去性能試験法に準拠し、NOガス流速:0.5リットル/min、測定時間:1時間の条件で、複合体のNOx分解量(μmol/50cm2/1時間)を測定した。
【0135】
[参考例1]
重合体エマルジョン粒子(B−1)の水分散体の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水500g、ドデシルベンゼンスルホン酸1gを投入した後、撹拌下で温度を80℃に加温した。これに、ジメチルジメトキシシラン50g、フェニルトリメトキシシラン50gの混合液を反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて滴下し、その後、反応容器中の温度が80℃の状態で約1時間撹拌を続行した。次にアクリル酸ブチル40g、フェニルトリメトキシシラン50g、テトラエトキシシラン130g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5gの混合液とジエチルアクリルアミド90g、アクリル酸3g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25%水溶液)8g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液40g、イオン交換水1000gの混合液とを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。さらに反応容器中の温度が80℃の状態で約2時間撹拌を続行した後、室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過した後、イオン交換水で固形分を10.0質量%に調整し、数平均粒子径130nmの重合体エマルジョン粒子(B−1)の水分散体を得た。
【0136】
[参考例2]
重合体エマルジョン粒子(B−2)の水分散体の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水500g、ドデシルベンゼンスルホン酸1gを投入した後、撹拌下で温度を80℃に加温した。これに、ジメチルジメトキシシラン50g、フェニルトリメトキシシラン50gの混合液を反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて滴下し、その後、反応容器中の温度が80℃の状態で約1時間撹拌を続行した。次にアクリル酸ブチル12g、フェニルトリメトキシシラン15g、テトラエトキシシラン30g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1gの混合液とジエチルアクリルアミド25g、アクリル酸1g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25%水溶液)4g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液30g、イオン交換水500gの混合液とを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。さらに反応容器中の温度が80℃の状態で約2時間撹拌を続行した後、室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過した後、イオン交換水で固形分を10.0質量%に調整し、数平均粒子径128nmの重合体エマルジョン粒子(B−2)の水分散体を得た。
【0137】
[参考例3]
重合体エマルジョン粒子(B−3)の水分散体の合成
ドデシルベンゼンスルホン酸の量を1gから5gに変更した以外は、参考例1と同様に合成を行い、固形分10.0質量%、数平均粒子径60nmの重合体エマルジョン粒子(B−3)の水分散体を得た。
【0138】
[参考例4]
重合体エマルジョン粒子(B−4)の水分散体の合成
ドデシルベンゼンスルホン酸の量を1gから5gに変更した以外は、参考例2と同様に合成を行い、固形分10.0質量%、数平均粒子径57nmの重合体エマルジョン粒子(B−4)の水分散体を得た。
【0139】
[参考例5]
重合体エマルジョン粒子(B−5)の水分散体の合成
攪拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応器に、イオン交換水609質量部、反応性乳化剤(商品名「ラテムルS−180A」、花王(株)製)の25%水溶液10質量部、メタクリル酸シクロヘキシル26質量部、メタクリル酸n−ブチル8質量部、メタクリル酸メチル14質量部、アクリル酸ブチル2.5質量部、メタクリル酸0.8質量部、アクリル酸0.8質量部、アクリルアミド0.4質量部をそれぞれ投入し、反応容器中の温度を80℃に加温してから、過硫酸アンモニウムの2%水溶液5質量部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1質量部、メチルトリメトキシシラン68質量部、ジメチルジメトキシシラン27質量部をそれぞれ反応容器中へ投入した。重合開始による発熱が確認されてから反応容器中の温度を85℃に加温して30分間保った。次に、反応容器中の温度を80℃に保持した状態で、イオン交換水45質量部、反応性乳化剤(商品名「ラテムルS−180A」、花王(株)製)の25%水溶液10質量部、メタクリル酸シクロヘキシル26質量部、メタクリル酸n−ブチル8質量部、メタクリル酸メチル14質量部、アクリル酸ブチル2.5質量部、メタクリル酸0.8質量部、アクリル酸0.8質量部、アクリルアミド0.4質量部、過硫酸アンモニウムの2%水溶液5質量部からなる混合液と、メチルトリメトキシシラン46質量部、ジメチルジメトキシシラン18質量部からなる混合液とを反応容器中へ別々の滴下槽より30分かけて注入し、さらに80℃で2時間保持した。次に、反応容器中の温度を80℃に保持した状態で、イオン交換水130質量部、反応性乳化剤(商品名「ラテムルS−180A」、花王(株)製)の25%水溶液50質量部、メタクリル酸シクロヘキシル123質量部、メタクリル酸n−ブチル37質量部、メタクリル酸メチル4質量部、アクリル酸ブチル79質量部、メタクリル酸4質量部、過硫酸アンモニウムの2%水溶液12質量部からなる混合液と、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2質量部、メチルトリメトキシシラン170質量部、ジメチルジメトキシシラン68質量部からなる混合液とを反応容器中へ別々の滴下槽より2時間かけて注入し、さらに80℃で1.5時間保持した。室温まで冷却後、反応容器中の液の水素イオン濃度を測定したところpH2.8であった。25%アンモニア水溶液を反応容器中に添加して液のpHを8に調整した後、100メッシュの金網で濾過した。イオン交換水で固形分を10.0質量%に調整し、数平均粒子径127nmの重合体エマルジョン粒子(B−5)の水分散体を得た。
【0140】
[参考例6]
重合体エマルジョン粒子(B−6)水分散体の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水500g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25%水溶液)8.0g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15gをそれぞれ投入した後、撹拌下で温度を80℃に加温した。この反応器中に、メタクリル酸メチル400g、メタクリル酸シクロヘキシル250g、アクリル酸n−ブチル300g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20g、メタクリル酸30g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25%水溶液)40g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液50g、イオン交換水700gからなる混合液を、反応器中の温度を80℃に保った状態で約4時間かけて滴下した。その後、反応器中の温度を80℃に維持して2時間撹拌を続けた。室温まで冷却後、反応容器中の液の水素イオン濃度を測定したところpH2.1であった。25%アンモニア水溶液を反応容器中に添加して液のpHを8に調整した後、100メッシュの金網で濾過した。イオン交換水で固形分を10.0質量%に調整し、数平均粒子径130nmの重合体エマルジョン粒子(B−1)の水分散体を得た。
【0141】
[実施例1〜30]
無機酸化物粒子(A)として、日産化学(株)製コロイダルシリカ(A−1)(商品名「スノーテックス−O」、平均粒子径13nm、固形分20%)、又は日産化学(株)製コロイダルシリカ(A−2)(商品名「スノーテックス−OS」、平均粒子径9nm、固形分20%)を用いた。また、樹脂組成物粒子(B)の水分散体として、参考例1〜6で製造した重合体エマルジョン粒子(B−1)、(B−2)、(B−3)、(B−4)、(B−5)(B−6)の水分散体を用いた。光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液として、石原産業(株)製シリカ被覆アナターゼ型酸化チタン水分散体(C−1)(商品名「MPT−422」、一次粒子の粒子直径(d)の相加平均値:30nm、酸化チタン100質量部に対するシリカ被覆量15質量部、固形分20%)を用いた。また、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液として、シリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル(C−2)(酸化チタン100質量部に対するシリカ被覆量12質量部、固形分30%、ロッド状一次粒子、粒子長(l)の相加平均値:35nm、粒子直径(d)の相加平均値:6nm)を用いた。
【0142】
表1〜4に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜11.の物性を評価した。結果を表1〜4に示す。
【0143】
[比較例1]
表1に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3〜11の物性を評価した。結果を表1に示す。無機酸化物粒子(A)の含有量、樹脂組成物粒子(B)の含有量及び空隙率が本発明に係る条件を満たさないため、ΔEが高く耐候性が実施例よりも劣る結果となった。セルフクリーニング性及びNOx除去性も実施例よりも劣る結果となった。
【0144】
[比較例2]
表1に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜11.の物性を評価した。結果を表1に示す。上記式(1)で表される条件を満たさないため、NOx分解性が実施例よりも劣る結果となった。
【0145】
[比較例3]
表1に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜11.の物性を評価した。結果を表1に示す。空隙率が本発明に係る条件を満たさないため、ΔEが高く耐候性が実施例よりも劣る結果となった。
【0146】
[比較例4]
表1に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜11.の物性を評価した。結果を表1に示す。光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)を含まないため、セルフクリーニング性及びNOx除去性が実施例よりも劣る結果となった。
【0147】
[比較例5]
表5に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜11.の物性を評価した。結果を表5に示す。光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)を含まないため、セルフクリーニング性及びNOx除去性が実施例よりも劣る結果となった。
【0148】
[比較例6]
表5に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜11.の物性を評価した。結果を表5に示す。光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の含有量が本発明に係る条件を満たさないため、セルフクリーニング性及びNOx除去性が実施例よりも劣る結果となった。
【0149】
[比較例7]
表5に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜11.の物性を評価した。結果を表2に示す。無機酸化物粒子(A)の含有量が本発明に係る条件を満たさないため、ΔEが高く耐候性が実施例よりも劣る結果となった。
【0150】
[比較例8]
表5に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜11.の物性を評価した。結果を表5に示す。光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の含有量が本発明に係る条件を満たさないため、ΔEが高く耐候性が実施例よりも劣る結果となった。
【0151】
[比較例9〜11]
表5に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜11.の物性を評価した。結果を表5に示す。上記式(1)で表される条件を満たさないため、NOx除去性が実施例よりも劣る結果となった。
【0152】
[比較例12〜16]
表6に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜6.の物性を評価した。結果を表2に示す。上記式(1)で表される条件を満たさないため、透明性が実施例よりも劣る結果となった。上記7.〜11の物性評価は行わなかった。
【0153】
[比較例17]
表6に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜11.の物性を評価した。結果を表6に示す。無機酸化物粒子(A)の含有量、樹脂組成物粒子(B)の含有量及び空隙率が本発明に係る条件を満たさないため、ΔEが高く耐候性が実施例より劣る結果となった。セルフクリーニング性及びNOx除去性も実施例よりも劣る結果となった。
【0154】
[比較例18]
表6に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜11.の物性を評価した。結果を表6に示す。無機酸化物粒子(A)の含有量が本発明に係る条件を満たさないため、ΔEが高く耐候性が実施例よりも劣る結果となった。
【0155】
[比較例19]
表6に示した配合比で、水、エタノール、無機酸化物粒子(A)、樹脂組成物粒子(B)の水分散体、光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)の分散液の順に攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた複合体について上記3.〜4.の物性を評価した。無機酸化物粒子(A)の含有量、樹脂組成物粒子(B)の含有量が本発明に係る条件を満たさないため、得られた複合体にはクラックがあった。上記5.〜11.の物性評価は行わなかった。
【0156】
【表1】

【0157】
【表2】

【0158】
【表3】

【0159】
【表4】

【0160】
【表5】

【0161】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の複合体は、セルフクリーニング性、NOx除去性、成膜性、柔軟性、透明性、帯電防止性及び下地保護性に優れ、建築外装、外装表示、自動車等のコーティング剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物粒子(A)が空隙を有する連続相を形成し、樹脂組成物粒子(B)と光触媒活性を有する金属酸化物粒子(C)とが前記連続相中に分散している構造を有し、前記無機酸化物粒子(A)を35〜75質量%、前記樹脂組成物粒子(B)を10〜60質量%、前記金属酸化物粒子(C)を4〜20質量%含有する膜状の複合体であって、前記複合体の空隙率X(単位:体積%)が10〜40%であり、且つ、前記複合体の膜厚Dと前記金属酸化物粒子(C)の含有量RC(単位:質量%)との関係が下記式(1)で表される条件を満たす複合体。
3/RC<D<54/RC (1)
【請求項2】
前記樹脂組成物粒子(B)が重合体エマルジョン粒子(B1)を含有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記重合体エマルジョン粒子(B1)が、水及び乳化剤の存在下で加水分解性珪素化合物(s)とビニル単量体(m)とをそれぞれ重合させて得られた重合体エマルジョン粒子を含む、請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
前記ビニル単量体(m)が、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(m1)を含む、請求項3に記載の複合体。
【請求項5】
前記重合体エマルジョン粒子(B1)が、コア/シェル構造の重合体エマルジョン粒子を含む、請求項2〜4のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項6】
前記金属酸化物粒子(C)が、ルチル型酸化チタンを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項7】
基材と、該基材上に設けられた請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合体と、を備える機能性構造体。
【請求項8】
前記基材が有機基材である、請求項7に記載の機能性構造体。
【請求項9】
建築外装用の機能性構造体である、請求項7又は8に記載の機能性構造体。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合体を製造するためのコーティング剤。

【公開番号】特開2010−5613(P2010−5613A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123722(P2009−123722)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】