説明

複合光触媒体

【課題】 本発明は、可視光により空気中の有害物質を浄化したり、汚れを分解除去したり、抗菌、防黴作用を発揮し、各種用途に適用可能な複合光触媒体に関するものである。
【解決手段】 380nm以上の可視光で励起する酸化チタン系光触媒Aと、420nm以上の可視光で励起する酸化タングステン系光触媒Bとを組み合わせたものであり、酸化タングステン系光触媒Bの含有率が5〜95重量%の範囲であることを特徴とする複合光触媒体により、上記課題を解決することができるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光を有効的に利用して室内の有害物質を浄化したり、汚れを分解除去したり、抗菌、防黴作用を発揮し、各種用途に適用可能な複合光触媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン等の光半導性を有した物質にバンドギャップ以上のエネルギーを有した光を照射すると電子と正孔が生成する。これによりスーパーオキサイドやOHラジカル等の強い酸化力を有した酸素種が光触媒の表面に生成して、接触する有害成分等を酸化分解することができる。そこで光触媒を建物の室内外に塗工して太陽光や蛍光灯の光を利用して大気や室内の環境浄化や脱臭、防汚、殺菌などへの応用が進められている。
【0003】
光半導性を有した物質としては、一般に光触媒活性が高く化学的に安定な酸化チタンが使用されている。しかしながら、アナターゼ形酸化チタンを励起するためには380nm以下の紫外線を照射する必要があり、例えば室内では十分な効果を期待することができなかった。
【0004】
酸化チタンは紫外線しか利用できないが、可視光を利用できる光半導性物質として硫化カドミウムや酸化タングステンを用いることは公知の技術である。しかしながら、これらバンドギャップの小さい光半導性物質は量子効率が低かったり、光溶解等の安定性に問題があることが知られている。
【0005】
例えば、可視光光活性を有していることが知られている酸化タングステンはバンドギャップが2.5eVであり480nmまでの可視光を利用することができる。しかしながら、酸化タングステンは、代表的な臭気物質であるアセトアルデヒドの光触媒分解反応を実施した際に、酸化チタンと比較して副生成物として酢酸を生成しやすい傾向があり、また、酢酸はアセトアルデヒドと比べると分解速度が遅いため光触媒粒子の表面に付着して反応速度の低下を招くという問題があった。そこで紫外線で励起する酸化チタンと可視光で励起する酸化タングステンを併用することが提案されている。例えば、酸化タングステンを担持した酸化チタン粒子と、酸化タングステンが担持されていない酸化チタン粒子とを配合する光触媒体が例示されている(特許文献1参照)。酸化タングステンを担持していない酸化チタン粒子を配合することで酢酸の分解は可能となるが、酸化チタンを励起するためには380nm以下の紫外線照射が必要であり、室内の微弱な光の下では効果は不十分であり、長期にわたり性能を維持することができなかった。
【0006】
また、光触媒の性能を向上するために、酸化チタンにPt,Pd,Rh,Ru,Ir等の白金族金属やFe,Co,Ni,Cu,Zn,Ag,Cr,V,W等の各種遷移金属を添加することが検討されている。特に白金族金属の添加は光触媒の活性を高める効果が得られることがよく知られている。例えば、酸化チタン等の異方性形状を有する光触媒粒子の表面にハロゲン化白金化合物を担持したことを特徴とする可視光応答型光触媒が例示されている(特許文献2参照)。白金族金属は高価であり微量担持するだけでも光触媒の製造コストアップを招くため好ましくない。
【0007】
更に酸化チタンに窒素や硫黄をドープした可視光応答型光触媒が提案され注目されている。例えばでは酸化チタン結晶に窒素を含有させたTi−O−N構成を有し、可視光領域において光触媒作用を発現する光触媒物質の形成方法や製造方法が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、これら光触媒物質を製造するためには(1)窒酸化チタン、酸化チタン、金属チタンのうち少なくとも一つをターゲット材料とし、これを窒素ガスを含む雰囲気中で蒸着又はイオンプレーティングした後、アンモニアガスを含む雰囲気中で400℃以上700℃以下の温度で熱処理することや(2)酸化チタンあるいは含水酸化チタンをアンモニアガスを含む雰囲気、あるいは窒素ガスを含む雰囲気、あるいは窒素ガスと水素ガスの混合雰囲気中で熱処理する等の方法が例示されており、特殊な製造装置や製造方法が必要であり適用性に問題があった。また酸化チタンドープタイプは420nm以上の可視光を有効的に利用することはできなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2003−135974号公報
【特許文献2】特開2004−73910号公報
【特許文献3】特許第3498739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みて、可視光照射下において優れたガス浄化や抗菌等の光触媒効果が得られ、かつその効果の持続性に優れた光触媒材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の複合光触媒体は、380nm以上の可視光で励起する酸化チタン系光触媒Aと、420nm以上の可視光で励起する酸化タングステン系光触媒Bとを組み合わせてなるものであり、この複合光触媒体において、酸化タングステン系光触媒Bの含有率が5〜95重量%の範囲にあるものである。
【0011】
上記複合光触媒体において酸化チタン系光触媒Aは、100質量部の酸化チタンに対して0.3〜5質量部の比率で酸化鉄を担持したものであることが好ましい。また、酸化タングステン系光触媒Bは、100質量部の疎水性ゼオライトに対して3〜100質量部の比率で酸化タングステンを担持したものであることが好ましい。
【0012】
そして、酸化タングステン系光触媒Bに用いる疎水性ゼオライトは、比表面積が300m/g以上で、SiO/Alのモル比が50〜90の範囲にある、ZSM5であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合光触媒体は、380nm以上の可視光と、更に長波長の420nm以上の可視光照射により励起できる2種類以上の可視光応答光触媒とが配合されており、室内照明下でホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等の各種有機化合物等を効率よく分解することができ、かつその効果を継続的に維持することができる。また、本発明の複合光触媒体は高価な原材料を用いず、複雑な製造装置や製造工程を要しないで簡易に工業的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
現在、光触媒として広く使用されている酸化チタンは光照射により生成した電子と正孔が再結合を起こしにくく優れた光半導性を有しているが、光触媒作用を発現するためには380nm以下の紫外線が必要であり室内の微弱な光では十分な効果が得られない。一方、酸化タングステンはバンドギャップから480nm以下の可視光に励起され、酸化チタンと比較すると室内や太陽光の光利用効率を大幅に高めることができる。ただし、酸化タングステンは、アセトアルデヒドの光触媒分解反応を実施すると時間経過と共に分解速度が徐々に低下が見られ、アセトアルデヒドの分解により酢酸やギ酸等の副生成物が生成することにより速度低下が起こることが判っている。
【0015】
本発明者らは、上記問題点に鑑みて、酸化タングステンの優れた可視光励起性能を利用すべく鋭意研究を進めた結果、酸化チタン系の可視光光触媒と酸化タングステン系の可視光光触媒とを特定の比率で配合した複合光触媒体は、可視光照射により長期にわたり優れた可視光応答性能を維持できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明の複合光触媒体は、380nm以上の可視光で励起する酸化チタン系光触媒Aと、420nm以上の可視光で励起する酸化タングステン系光触媒Bとを組み合わせてなるものであり、複合光触媒体における酸化タングステン系光触媒Bの含有率が5〜95重量%の範囲にあることを特徴とするものである。すなわち、本発明の複合光触媒体は、酸化チタン系可視光光触媒Aが有している高い酸化力及び安定性と、酸化タングステン系光触媒Bの優れた可視光応答性とを有効的に利用することにより実用性が高い光触媒を提供することができる。
【0017】
複合光触媒体における酸化タングステン系光触媒Bの含有率が5%以下である場合は、有効的に利用できる可視光の波長領域が狭くなり、従来の光触媒と比較した反応速度の差異が小さくなり好ましくない。また、95質量%を超える場合は副生成物の分解が律速となり反応速度の低下を招くケースがあるため好ましくない。より好ましい酸化タングステン系光触媒Bの含有率は20〜60重量%である。本発明の複合光触媒体は、酸化チタン系光触媒Aと酸化タングステン系光触媒Bとの少なくとも2種類の光触媒を含有しており、必要により上記2種の光触媒に加えて紫外線や可視光で応答する複数の光触媒を添加しても良い。
【0018】
本発明の380nm以上の可視光で励起する酸化チタン系光触媒Aと420nm以上の可視光で励起する酸化タングステン系光触媒Bとはニーダー、ブレンダーやミキサー等の粉体混合する方法、ボールミル等を用いた乾式または湿式の粉砕装置により混合する方法、塗料やコーティング剤の調製時に分散して混合する方法等により複合光触媒体を調製することができる。
【0019】
380nm以上の可視光で励起する酸化チタン系光触媒Aとしては、酸化チタンにクロム、バナジウム、銅、マンガン等の金属をイオン注入したもの、窒素、硫黄や炭素をドープしたものや、白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属や遷移金属酸化物をドープしたもの等の酸化チタンをベースとして380nm以上の近紫外の可視光により励起するものが使用可能である。蛍光灯を光源として利用する場合に380nm以下の紫外線が数%含まれているため、酸化チタンでも励起して光触媒効果が得られる。ただし、家庭用の室内照明においては、蛍光灯がプラスチックカバーで覆われている場合があるが、これにより380nm以下の紫外線はほぼカットされてしまい、酸化チタンではほとんど光触媒性能を発揮することができなくなる。従って、室内で光触媒効果を得るためには、380nm以上の可視光で励起される光触媒を複合光触媒体に含有せしめる必要がある。酸化チタン系可視光応答光触媒Aは、基本的に酸化チタンのバンド構造をベースとするため強い酸化力を有しており、酢酸等の副生成物の生成はほとんどなくアセトアルデヒドを二酸化炭素に酸化分解することができる。ただし、大幅な可視光化は困難であり、420nmの紫外線カット条件ではほとんど光触媒性能が得られないのが現状である。
【0020】
380nm以上の可視光で励起する酸化チタン系光触媒Aとしては、100質量部の酸化チタンに対して0.3〜5質量部の比率で酸化鉄を担持したものを使用することが好ましい。窒素ドープやイオン注入等の複雑な製造方法や大掛かりな製造装置を使用しなくても、酸化鉄を上記範囲で酸化チタンに担持することにより380nm以下の紫外線カット条件で良好な光触媒性能を発現し、アセトアルデヒドを二酸化炭素に酸化する高い酸化力を有している。酸化チタンに酸化鉄を担持する方法としては、含浸、蒸着、スパッタリング等の方法を用いることができる。特に、特開2004−283646号公報に示されているように酸化チタン粒子の表面に酸化鉄を沈着せしめたものを使用することが好ましい。
【0021】
次に、酸化タングステン系光触媒Bは、酸化タングステンやタングステン化合物を酸化チタン以外の多孔質無機酸化物に含浸して焼成したもの、タングステンと他の金属元素との複合酸化物、酸化タングステンに白金族金属や遷移金属酸化物をドープしたもの等の酸化タングステンを含有し420nm以上の可視光で励起するものが使用可能である。酸化タングステンは、使用原料や調製方法等により価数は2〜6価となりうるが、可視光光触媒としてはWO、W2573、W2058、W2468、W1849等の5〜6価の結晶形を有していることが好ましい。
【0022】
より好ましい酸化タングステン系光触媒Bは、100質量部の疎水性ゼオライトに対して3〜100質量部の比率で酸化タングステンが担持されているものである。通常の調製方法では、酸化タングステンは結晶性が高く比表面積が小さい巨大粒子となりやすいため前述のような副生成物の付着による性能低下を招きやすい傾向があった。そこで、疎水性ゼオライトに酸化タングステンを担持することにより酸化タングステン粒子がゼオライトの二次元、三次元の網目構造の中に分散され一次粒子径の小さい酸化タングステンが得ることが可能となる。しかも、酸化タングステン含有比率を非常に高くしてもポーラスな構造が維持できるため大幅な光触媒活性の向上が得られる。疎水性ゼオライトとしては、Y型、β型、モルデナイト、ZSM5等の各種構造のゼオライトが挙げられる。H(プロトン)型、Na型、NH型等のいずれのカチオンであっても使用可能である。また、SiO/Alのモル比が20以上であるハイシリカゼオライトを使用することが好ましい。また、疎水性ゼオライトに酸化タングステンを担持することにより、有害ガス成分等に対する吸着性が高まるだけではなく光触媒反応の速度も著しく向上し、しかも副生物の脱離が抑制され二酸化炭素への完全酸化が進行しやすくなる。疎水性ゼオライトの100質量部に対して担持する酸化タングステンが3質量部未満である場合は、光触媒Bの重量当たりの光触媒活性が不十分となり好ましくない。また、酸化タングステンの比率が100質量部を超える場合は、分散性の低下を招き前記ゼオライトへの担持効果が得られなくなる。
【0023】
酸化タングステン系光触媒Bは、酸化タングステンを疎水性ゼオライトに担持することが好ましいが、特に好ましい疎水性ゼオライトとして、比表面積が300m/g以上で、SiO/Alのモル比が50〜90の範囲にあるZSM5が挙げられる。上記特性のZSM5は、アセトアルデヒドやホルムアルデヒドの代表的な室内VOC成分に対する除去性能を著しく高めることが可能である。
【0024】
酸化タングステンのZSM5等の疎水性ゼオライトへの担持方法としては、含浸法、混練法、イオン交換法、イオン注入法、蒸着法等が使用できる。タングステン源は、金属タングステン、酸化タングステン、塩化タングステン、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、タングストイソプロピルオキシド等が担持方法に合わせて選択される。好ましい担持方法は含浸法であり、酸化タングステンの前駆体であるタングステン化合物溶液を疎水性ゼオライトに含浸して、乾燥、焼成することにより酸化タングステンをゼオライトに担持することができる。焼成温度としては、使用原料に合わせて適宜選択できるが、例えばタングステン化合物としてメタタングステン酸アンモニウム水溶液を用いて含浸して、空気中200〜600℃で焼成することにより酸化タングステンを疎水性ゼオライトに担持することができる。
【0025】
この際、特にタングステン酸化合物の溶液にシュウ酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、マレイン酸およびリンゴ酸等の有機酸を添加して酸化タングステン光触媒Bを調製することが好ましい。上記有機酸を添加することにより酸化タングステンの一部が還元されて5〜6価の価数を有した酸化タングステンが疎水性ゼオライト上に担持され、これにより前述のアセトアルデヒドからの副生成物の生成を抑制し二酸化炭素の生成率が高まる。
【0026】
本発明の複合光触媒体を室内外の建材等の表面に塗工することにより太陽光や室内光を利用して、大気中の有害物質や臭気物質を分解除去したり、廃水浄化、防汚、抗菌、防黴等の優れた機能を得ることができる。特にアセトアルデヒドやホルムアルデヒドの可視光による分解特性が優れており、シックハウス症候群や改正建築基準法への対応として天井材、壁紙、カーテン、絨毯、カーペット、床材、照明器具、家具、タイル等の室内建材用に利用することが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
比表面積が80m/gのアナターゼ型酸化チタン粉末を50gと尿素50gとをガラスビーカーに入れ混合した。そして、へらで十分攪拌混合しながら大気開放下でマントルヒータにより、混合物の温度が150℃に達するまで加熱した。次に、混合物をルツボに移して電気炉でアンモニアガス中350℃で30分間加熱し、窒素ドープされた酸化チタン系光触媒A1を得た。試薬の三酸化タングステン(和光純薬工業製)を酸化タングステン系光触媒B1とした。
【0028】
酸化チタン系光触媒A1(7g)と酸化タングステン系光触媒B1(3g)とを混合して複合光触媒体を得た。
(実施例2)
1.2質量%のアンモニア水80gに、実施例1と同じ酸化チタン粉末50gを添加して1時間撹拌した。その後、硝酸第二鉄5gを水30gに溶解した水溶液を徐々に滴下して酸化チタン粒子の表面に鉄化合物を沈着させた。静置後にろ過洗浄して150℃で乾燥してから350℃で30分間空気中で加熱して酸化鉄担持酸化チタン系光触媒A2を得た。光触媒A2は酸化チタン100質量部に対して酸化鉄が2質量部担持されていた。
【0029】
次に、市販のメタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算濃度50wt%)50gに純水30gで希釈した含浸液に、ZSM−5(水素型、比表面積が420m/g、SiO/Alモル比=80)50gを投入して混合して100℃で5時間乾燥してから、空気中で400℃で30分焼成して酸化タングステン系光触媒B2を得た。光触媒B2は、ZSM5の100質量部に対して三酸化タングステンとして50質量部担持されていた。
【0030】
酸化チタン系光触媒A2(7g)と酸化タングステン系光触媒B2(3g)とを混合して複合光触媒体を得た。
(実施例3)
0.6質量%のアンモニア水80gに、実施例1と同じ酸化チタン粉末50gを添加して1時間撹拌した。その後、硝酸第二鉄2.5gを水30gに溶解した水溶液を徐々に滴下して酸化チタン粒子の表面に鉄化合物を沈着させた。静置後にろ過洗浄して150℃で乾燥してから350℃で30分間空気中で加熱して酸化鉄担持酸化チタン系光触媒A3を得た。光触媒A3は酸化チタン100質量部に対して酸化鉄が1質量部担持されていた。
【0031】
次に、市販のメタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算濃度50wt%)30gおよびクエン酸20gを純水30gで溶解した含浸液にZSM−5(水素型、比表面積が400m/g、SiO/Alモル比=50)50gを投入して混合して100℃で5時間乾燥してから、SUSバットに入れてアルミホイルで蓋をして空気中で400℃で30分間焼成して酸化タングステン系光触媒B3を得た。光触媒B3はZSM5の100質量部に対して三酸化タングステンとして30質量部担持されていた。またX線回折で測定した結果、酸化タングステンはW2058(WO2.90)に同定される結晶形を有していた。
【0032】
酸化チタン系光触媒A3(5g)と酸化タングステン系光触媒B3(5g)とを混合して複合光触媒体を得た。
(比較例1)
実施例1において、酸化チタン系光触媒A1の代わりに、窒素ドープ処理をしていない酸化チタン(比表面積80m/g、アナターゼ型)をそのまま用いた以外は実施例1と同様にして比較例1の複合光触媒体を得た。
(比較例2)
酸化チタン(比表面積80m/g、アナターゼ型)7gとゼオライト(水素型ZSM−5、比表面積が420m/g、SiO/Alモル比=80)3gとを混合して複合光触媒体を得た。
(実施例4〜6)
実施例2において、酸化チタン系光触媒A2と酸化タングステン系光触媒B2の配合比率を変更した以外は実施例2と同様にして複合光触媒体を調製した。その構成については表1に示したとおりである。
(比較例3)
実施例1で得られた窒素ドープされた酸化チタン系光触媒A1を単独で用いた。
(比較例4)
実施例1で用いた酸化タングステン系光触媒B1を単独で用いた。
(実施例7)
実施例3の酸化タングステン系光触媒B3の調製においてクエン酸の代わりに酒石酸を用いた以外は実施例3と同様にして酸化タングステン系光触媒B4を得た。光触媒B4はZSM5の100質量部に対して三酸化タングステンとして30質量部担持されていた。また、X線回折で測定した結果は、酸化タングステンはW2468(WO2.83)に同定される結晶形を有していた。
【0033】
酸化チタン系光触媒A3(5g)と酸化タングステン系触媒B4(5g)とを混合して複合光触媒体を得た。
【0034】
【表1】

【0035】
<蛍光灯照射光触媒活性試験>
蛍光灯照射下における、光触媒によるアセトアルデヒド分解性能を以下に示す閉鎖系試験方法で測定した。実施例1〜6及び比較例1〜4の複合光触媒体をエタノールに分散させて塗布量20g/mとなるように150×70mmのガラス板の片面に塗布して60℃で乾燥し試験片を作成した。
【0036】
反応器としてテドラーバックを用い試験片を袋内に封じてから2Lの試験用ガスを挿入した。尚、試験用ガスはアセトアルデヒドが300ppmで25℃で相対湿度50%となるように調整したものを用いた。反応器の上方に光照射用蛍光灯ランプが設置されており、試料片面の照度が1000ルクスとなるようにセットした。
【0037】
光照射後の各試料のアセトアルデヒドの濃度減衰をガスクロマトグラフィで測定した。試験結果はアセトアルデヒド濃度が初期濃度の98%まで分解されるのに要する時間をアセトアルデヒド分解時間として表2に示した。また、光照射24時間経過後における二酸化炭素濃度を測定してアセトアルデヒドの分解により生成した二酸化炭素の生成率を表2に示した。
<可視光照射光触媒活性試験>
前記蛍光灯照射光触媒活性試験において反応器と光照射用蛍光灯ランプの間に5mm厚の透明アクリル板を設置して蛍光灯に含まれる380nm以下の紫外線をカットして評価した以外は同様にして可視光照射光触媒活性試験を実施した。試験結果は同様にアセトアルデヒド分解時間及び二酸化炭素生成率を表2に示した。
【0038】
【表2】

【0039】
本発明の複合光触媒体は、蛍光灯照射条件及び可視光照射条件において、比較用光触媒と比較して、優れたアセトアルデヒド分解速度と高い二酸化炭素の生成率を有していることは明らかである。一方、比較例の光触媒体は可視光照射条件においてアセトアルデヒドの分解速度が遅く、かつ二酸化炭素の生成率が低く酢酸等の副生成物が生成しているものと思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
380nm以上の可視光で励起する酸化チタン系光触媒Aと、420nm以上の可視光で励起する酸化タングステン系光触媒Bとを組み合わせた複合光触媒体であり、酸化タングステン系光触媒Bの含有率が5〜95重量%の範囲にあることを特徴とする複合光触媒体。
【請求項2】
酸化チタン系光触媒Aは、100質量部の酸化チタンに対して0.3〜5質量部の比率で酸化鉄を担持したものである請求項1記載の複合光触媒体。
【請求項3】
酸化タングステン系光触媒Bは、100質量部の疎水性ゼオライトに対して3〜100質量部の比率で酸化タングステンを担持したものである請求項1記載の複合光触媒体。
【請求項4】
疎水性ゼオライトは、比表面積が300m/g以上で、SiO/Alのモル比が50〜90の範囲にある、ZSM5である請求項3記載の複合光触媒体。

【公開番号】特開2007−98294(P2007−98294A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291995(P2005−291995)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】