説明

複合化材料の製造方法

【課題】無機微粒子を有機材料中に均一に分散させることにより、光透過性が低下することのない光学材料用の複合化材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】疎水性の高い有機溶媒3に、塩化物、臭化物等の水溶性かつ潮解性を有する無機微粒子1および脂肪酸塩よりなる界面活性剤2を混合する。界面活性剤が微粒子表面に付着して溶媒中での分散性を向上させるので、無機微粒子を凝集させることなく均一分散させた分散液4が調整できる。さらに分散液に母材となる有機材料5を混合した後に溶媒を除去することで、複合化材料を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂に無機化合物の微粒子が分散された光学用の複合化材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジー技術の進展に伴い、樹脂等の有機材料(母材)中にナノメートルサイズもしくはサブミクロンサイズの無機微粒子を混合することによって得られ、無機材料の粗粒子や固体結晶では得られなかった特異な物性を示す微粒子複合化材料、いわゆるナノコンポジット材料が注目を集めている。とりわけ、光学材料の分野では、無機微粒子の粒子径を光の波長よりも小さくすることにより、通常では光を透過できなかった物質が光を透過できるようになるので、レンズや窓材としての利用が期待できる。樹脂と無機微粒子とからなるナノコンポジット材料は、ガラス材料等の従来の光学材料に比べて成型加工がし易く、一般的に安価である。また、ナノコンポジット材料の透過波長も紫外線領域から遠赤外線領域まで多様であるので、光学素子の用途に応じて最適な材料を選択することが可能である。
【0003】
無機微粒子と有機材料とを複合化する方法の1つとして、微粒子を均一に分散させた分散液と有機材料とを混合する方法が知られている。この方法によれば、各微粒子が分散した状態で有機材料と混合されるので、微粒子を有機材料内に均一に分布させることができる。
【0004】
無機微粒子を分散させた分散液は、一般に、水または有機溶媒に微粒子を混合し、必要に応じて、微粒子に対して数重量%の界面活性剤(分散剤とも呼ばれる)を添加することで調製される。
【0005】
また、無機材料微粒子を光学材料に用いる場合には、粒径をナノメートル若しくはサブミクロンサイズにする必要があるので、分散液の調製後に、ボールミル、ビーズミル等を用いて微粒子の湿式粉砕を行うこともある。
【0006】
特許文献1は、微粒子を非水系溶媒に分散させた分散液に関するものであり、微粒子表面に油溶性の界面活性剤を吸着させることにより、水不溶性の有機溶媒中における微粒子の分散性を向上させることが記載されている。また、特許文献2は、塗料のような重合体微粒子分散液の製造方法に関するものであり、溶解パラメータが異なる2種類の有機溶媒よりなる混合溶媒中で高極性の分散安定剤を用いた共重合反応を行った後、溶媒の極性を高めることによって重合体微粒子の分散性を向上させることが記載されている。
【特許文献1】特開昭57−144028号公報
【特許文献2】特開昭62−250001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光学材料用のナノコンポジット材料に用いる無機微粒子としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化銀等の塩化物、臭化カリウム、臭化タリウム等の臭化物がある。ただし、これらの物質は水溶性かつ潮解性であるため、微粒子の分散液を調製する場合には、含水率の小さい有機溶媒を用いる必要がある。
【0008】
仮に、有機溶媒中に僅かでも水分が含有されていると、微粒子表面が溶解し、無機成分が分散液中に溶出する。その後、ナノコンポジット材料の作製工程において、調製した無機微粒子分散液と有機材料とを混合し、有機溶媒を除去して混合物を固化させると、溶出していた無機成分が析出して微粒子同士を付着させ、微粒子の凝集を引き起こしてしまう。この場合、ナノコンポジット材料の中を光が透過できないので、得られた固化物は、光透過材料として使用することができない。
【0009】
また、特許文献1及び2に記載されるような、スルホン酸系やアクリルポリマー系の界面活性剤は、吸光性が高く、光透過材料用途には適していない。
【0010】
本発明は、塩化物、臭化物等の水溶性かつ潮解性の無機微粒子を有機材料中に均一に分散させることができ、かつ、光透過性の低下を生じることのない光学材料用の複合化材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、樹脂中に無機材料の微粒子が分散した光学用の複合化材料の製造方法に関するものあって、疎水性の高い有機溶媒に、潮解性を有する無機材料の微粒子と、脂肪酸塩よりなる界面活性剤とを混合して、微粒子の分散液を作製し、有機溶媒に溶解する樹脂材料を分散液に混合して、溶解した樹脂と微粒子とを均一化し、均一化した分散液中の有機溶媒を除去して、微粒子と樹脂とを複合化することで複合化材料を製造する。
【0012】
このように疎水性の高い有機溶媒に無機材料の微粒子を混合することによって、溶媒中での微粒子表面が溶解しないため、溶媒除去後に無機成分が析出して微粒子同士が凝集することが防止される。また、界面活性剤が微粒子表面に付着して溶媒中での分散性を向上させるので、無機材料の一次粒子の粒子径を維持したまま、樹脂と複合化させることができる。したがって、樹脂中に無機材料微粒子が均一に分布した複合化材料を製造できる。更に、界面活性剤として作用する脂肪酸塩は、光吸収性の官能基がカルボニル基のみであるので、複合化材料に含有されていても、光透過性を損なうことがない。
【0013】
また、無機材料は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウムのいずれかであることが好ましい。
【0014】
これらの無機材料を用いることにより、300nm〜15μmの広範囲の波長の光を透過可能な複合化材料を作製できる。
【0015】
微粒子、有機溶媒の含水率は0.01重量%であることが好ましい。
【0016】
界面活性剤の主成分がオレイン酸ナトリウムまたはリノレン酸ナトリウムであることが好ましい。
【0017】
これらの物質は、微粒子表面への吸着性が良く、また、微粒子表面で適度に立体障害を引き起こすことができる炭素鎖長を有するので、微粒子同士の接触を抑制し、微粒子の分散性を向上させることが可能となる。また、安価に入手できるので、複合化材料の製造コストを低減できる。
【0018】
有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサンを用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る製造方法によれば、無機微粒子と界面活性剤による光の吸収を防止することができるので、高い光透過性を有し、安価な光学用複合化材料を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る複合化材料(ナノコンポジット材料)の模式図である。
【0021】
図1に示される複合化材料は、樹脂5と、樹脂5に均一に分散された無機材料の微粒子1と界面活性剤2とから構成されている。樹脂5としては、ポリエチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエステル等を利用できる。また、本実施の形態においては、微粒子1は塩化ナトリウムであり、界面活性剤2はオレイン酸ナトリウムである。
【0022】
図2は、本発明の実施の形態1に係る複合化材料の製造に用いられる無機微粒子分散液の模式図である。
【0023】
複合化材料を作製するために、まず、無機材料微粒子の分散液4を作製する。分散液4は、複合化材料の母材となる樹脂を溶解させる非水溶性の有機溶媒3に、脱水した微粒子1と界面活性剤2とを混合することにより調製される。本実施形態では、有機溶媒3としてトルエンが使用されている。界面活性剤2の一部は、微粒子1の表面に付着して微粒子1を負に帯電させ、各微粒子1の間に斥力を発生させる。また同時に、界面活性剤2が微粒子1の表面に立体的な凹凸を生じさせることにより、微粒子1同士が接近しても、表面が直接接触することを防いでいる。これらの界面活性剤2の作用により、微粒子間に一定の間隔を維持することができる。
【0024】
尚、微粒子1の作成方法は特に限定されず、乾式粉砕、湿式粉砕またはこれらを組み合わせて無機物質を微粒子化することで作製できる。
【0025】
次に、調製した分散液4に、複合化材料の母材となる樹脂5を混合して混合液を作製する。樹脂5は有機溶媒3に溶解するので、樹脂5と、微粒子1と、界面活性剤2とが均一に混合された状態となる。
【0026】
その後、有機溶媒3を除去することにより、図1に示されるように、樹脂5内に微粒子1及び界面活性剤2が均一に分散した複合化材料が得られる。
【0027】
本実施の形態では、上述した界面活性剤の作用により、水溶性かつ潮解性の塩化ナトリウム微粒子(一次粒子)がその粒子径を維持した状態で分散された分散液を得ることができる。この分散液と樹脂とを混合することにより、塩化ナトリウム微粒子が均一に分布した複合化材料を作製することができる。
【0028】
また、水溶性かつ潮解性の塩化ナトリウム微粒子を、含水率が極めて少ないトルエンに混合させることで、大気中からの吸湿等により臭化カリウムが溶解することを防止できる。この結果、樹脂混合後の溶媒除去時における塩化ナトリウムが析出することがなく、複数の塩化ナトリウム微粒子同士が固結した塊(二次粒子)の発生が防止される。
【0029】
更に、本実施の形態では、界面活性剤として、光の吸収が少ないオレイン酸ナトリウムが用いることで、臭化カリウム微粒子の凝集を防止できるだけでなく、複合化材料の光透過性の低下を回避することができる。
【0030】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係る複合化材料(ナノコンポジット材料)の模式図である。
【0031】
図4に示される複合化材料は、樹脂10と、樹脂10に均一に分散された無機材料の微粒子6と界面活性剤7とから構成されている。樹脂10としては、ポリエチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエステル等を利用できる。本実施の形態においては、微粒子6は臭化カリウムであり、界面活性剤7はオレイン酸ナトリウムである。
【0032】
図5は、本発明の実施の形態2に係る複合化材料の製造に用いられる無機微粒子分散液の模式図である。
【0033】
本実施の形態では、脱水した臭化カリウムの微粒子6とオレイン酸ナトリウムからなる界面活性剤7とが有機溶媒8(トルエン)に混合されて、分散液9が調製されている。界面活性剤7の一部は、臭化カリウムの微粒子6の表面に付着して微粒子6を負に帯電させ、各微粒子間に斥力を発生させる。また同時に、界面活性剤7が臭化カリウム微粒子6の表面に立体的な凹凸を生じさせる。これらの界面活性剤7の作用により、微粒子6間に一定の間隔が維持され、微粒子5同士が接着することが防止されている。
【0034】
次に、実施の形態1と同様に、調製した分散液9に、複合化材料の母材となる樹脂10を混合して混合液を作製し、溶解した樹脂10中に、微粒子6と界面活性剤7とを均一に分散させる。
【0035】
その後、有機溶媒8を除去することにより、図4に示されるように、樹脂10内に微粒子6及び界面活性剤7が均一に分散した複合化材料が得られる。
【0036】
尚、微粒子6の作成方法は特に限定されず、乾式粉砕、湿式粉砕またはこれらを組み合わせて無機材料を微粒子化することで作製できる。ただし、臭化ナトリウムのように、強い潮解性を有する無機物質を微粒子6の材料として使用する場合は、分散液が大気に接触する時間を可能な限り短くするため、湿式粉砕の時間を短くすることが好ましい。例えば、予め乾式粉砕によって無機材料を可能な限り微細化し、粉砕処理時に無機材料に吸着した水分を脱水してから溶媒に混合し、その後に湿式粉砕を行えば、湿式粉砕に要する時間を短縮することができる。
【0037】
本実施の形態でも、上述した界面活性剤の作用により、水溶性かつ潮解性の臭化カリウム微粒子(一次粒子)がその粒子径を維持した状態で分散された分散液を得ることができる。この分散液と樹脂とを混合することにより、臭化カリウム微粒子が均一に分布した複合化材料を作製することができる。
【0038】
また、水溶性かつ潮解性の臭化カリウム微粒子を、含水率が極めて少ないトルエンに混合させることで、大気中からの吸湿等により臭化カリウム微粒子が溶解することを防止できる。この結果、樹脂混合後の溶媒除去時における塩化ナトリウムが析出することがなく、複数の臭化カリウム微粒子同士が固結した塊(二次粒子)の発生が防止される。
【0039】
更に、本実施の形態では、界面活性剤として、光の吸収が少ないオレイン酸ナトリウムが用いることで、臭化カリウム微粒子の凝集を防止できるだけでなく、複合化材料の光透過性の低下を回避することができる。
【0040】
尚、上記の各実施の形態では、水溶性かつ潮解性を有する無機材料微粒子として、塩化ナトリウムまたは臭化カリウムを用いたが、塩化カリウムを用いても、同様に高い光透過特性を有する光学材料用の複合化材料を実現することができる。
【0041】
また、上記の各実施の形態では、有機溶媒としてトルエンを用いたが、疎水性の高い有機溶媒であれば良く、トルエン以外に、ベンゼン、キシレン、シクロヘキサンを用いても良い。
【0042】
更に、分散液中において水溶性の微粒子表面の溶解を防ぐために、有機溶媒の含水率は、0.01重量%以下とすることが好ましい。また、有機溶媒に混合前の無機材料微粒子の含水率も同様に0.01重量%以下とすることが好ましい。
【0043】
更に、上記の各実施の形態では、界面活性剤として、オレイン酸ナトリウムを用いたが、これ以外の脂肪酸ナトリウム若しくは脂肪酸カリウムを用いても、同様に高い光透過性を維持することができる。ただし、微粒子を一次粒子の状態で均一に分散させるという点では、界面活性剤を構成する脂肪酸の炭素数が少ないものや、逆に多いものは好ましくない。オレイン酸ナトリウム以外では、リノレン酸ナトリウムを用いた場合に良好な微粒子の分散効果が得られる。また、脂肪酸塩よりなる界面活性剤は、安価かつ入手が容易であり、安価に複合化材料を製造できる点でも利点がある。
【0044】
更に、微粒子分散液と樹脂との混合物から有機溶媒を除去する方法としては、無機微粒子を凝集させることなく有機溶媒を揮発させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、真空乾燥法によって有機溶媒を除去しても良いし、乾燥空気の吹き付けやバブリングによって徐々に有機溶媒を揮発させて除去しても良い。
【0045】
更に、実施の形態2で説明したように、潮解性の強い無機材料を用いる場合には、湿式粉砕の回数・時間を減らすことが好ましい。湿式粉砕の回数・時間を減らすためには、硬度の低い無機材料を選択することが有効であり、塩化物と比べて臭化物がより好適である。
【実施例】
【0046】
以下、実施の形態1及び2に係る複合化材料の製造方法を具体的に実施した実施例を説明する。
【0047】
(実施例1)
まず、平均粒子径100μmの塩化ナトリウム粒子を耐熱性のガラス容器に入れ、容器ごと真空加熱装置に封入して、装置内の真空度が1×10-3Paになるまで室温で排気した。
【0048】
次に、装置内の真空度が1×10-3Paに達した段階で、排気を継続しながら装置内に設置されているヒータの電源を入れ、塩化ナトリウム粒子を入れた容器の温度が350℃に達するまで加熱した。このとき、塩化ナトリウムの粒子から水分が放出されることで真空度が低下し、1×10-3Pa以上となった。
【0049】
温度が350℃に到達した後、真空度が再び1×10-3Paに達するまで、加熱を継続して350℃を維持した。真空度が再び1×10-3Paに達すると、塩化ナトリウム粒子に含まれる水分はほぼ脱水されるので、この段階でヒータを停止し、排気を継続しながら温度を下げた。温度が50℃以下に達した段階で装置内の排気を停止し、装置内に乾燥窒素を流入させて圧力を大気圧に戻してから、塩化ナトリウム粒子が入った容器を取り出した。取り出した塩化ナトリウム粒子は、大気中の水分を再吸収しないように、デシケータ中にて保管し、含水量を0.01重量%以下に維持した。
【0050】
以上の加熱・脱水工程を経ることにより、塩化ナトリウム粒子の内部に含有される水分が除去され、塩化ナトリウムに含まれる水分による粒子の凝集が抑えられる。
【0051】
尚、上記の例では、脱水終了時の真空度を1×10-3Pa、脱水温度を350℃としたが、真空度は1Pa以下、温度は300℃以上であれば、塩化ナトリウム粒子中の水分の脱水は可能である。ただし、純度が高くない塩化ナトリウム粒子を使用した場合には、温度が500℃を超えると、粒子が結合して結晶成長を起こすことがあるので、脱水温度は500℃以下とするのが好ましい。
【0052】
次に、含水率0.002重量%のトルエン950gに対し、オレイン酸ナトリウム1.0gを混合し、トルエンとオレイン酸ナトリウムの混合液を作製した。
【0053】
次に、真空加熱処理により脱水した塩化ナトリウム粒子(平均粒子径100μm)を、トルエン950gに対して50gの割合となるように、トルエンとオレイン酸ナトリウムの混合液に混合した。
【0054】
次に、トルエン、オレイン酸ナトリウム及び塩化ナトリウム粒子の混合液をボールミル(ボール径φ5mm)に投入し、周速毎分10mで、1時間の粉砕と分散を行った。これにより、平均粒子径5μmの塩化ナトリウム微粒子が分散した分散液を得た。更に、ボールミルから取り出した分散液を、ビーズミル(ビーズ径φ0.1mm)に投入し、周速毎分10mで、3時間の粉砕と分散を行った。これにより、平均粒子径0.15μmの塩化ナトリウムの微粒子が分散した分散液を得た。塩化ナトリウムの粒子径が0.15μmとなることで、光の波長よりも小さくなり、光を透過できるようになる。
【0055】
次に、トルエンに溶解する樹脂材料(有機母材)を塩化ナトリウム50gに対して75gの割合で、調製した分散液に混合した。樹脂材料は、溶解して分散液内に均一に分布するので、塩化ナトリウム微粒子と樹脂とが均一に混合された状態となった。
【0056】
次に、得られた混合物をシャーレ状の広口ガラス容器に入れ、溶媒キャスト法により、トルエンを揮発させて混合物を固化させた。固化後、混合物を真空乾燥炉に入れ、炉内を排気して真空状態に保ち、残留しているトルエンを完全に揮発させて固化物を乾燥させた。
【0057】
以上の工程を経て、図1に示したような、平均粒子径0.15μmの塩化ナトリウムの微粒子1が樹脂5の内部に均一に分布した複合化材料を得た。
【0058】
図3は、本発明の実施例1に係る複合化材料の光透過率を示すグラフであって、赤外波長が2〜12μmの範囲の光透過率をプロットしたものである。図中の「A」は、本実施例に従って作製された複合化材料の光透過率を示し、「B」は、樹脂のみの光透過率を示したものである。
【0059】
図3から把握されるように、本実施例に係る複合化材料は、樹脂単体と比べて高い光透過性を示し、特に、3μm付近と4〜6μmの波長領域において、60%程度の透過率を示した。尚、他の波長領域で透過率が低かったり、あるいは、光を透過しなかったりするのは、これらの領域の光に対する樹脂の光透過性が低い、あるいは、光透過性がないためであり、塩化ナトリウム微粒子の光の吸収によるものではない。
【0060】
このように、本実施例によれば、高い光透過特性を有する光学材料用の複合化材料が得られた。
【0061】
(実施例2)
まず、平均粒子径100μmの臭化カリウムの粒子を耐熱性のガラス容器に入れ、容器ごと真空加熱装置に封入して、装置内の真空度が1×10-3Paになるまで室温で排気した。装置内の真空度が1×10-3Paに達した段階で、排気を継続しながら、装置内に設置されているヒータの電源を入れ、臭化カリウム粒子を入れた容器の温度が350℃に達するまで加熱した。このとき、臭化カリウム粒子から水分が放出されることで真空度が低下し、1×10-3Pa以上になった。
【0062】
温度が350℃に到達した後、真空度が再び1×10-3Paに達するまで加熱を継続して350℃を維持した。真空度が再び1×10-3Paに達すると、臭化カリウム粒子に含まれる水分はほぼ脱水されるので、この段階でヒータを停止し、排気を継続しながら温度を下げた。温度が50℃以下に達した段階で、装置内の排気を停止し、装置内に乾燥窒素を流入させて圧力を大気圧に戻し、臭化カリウム粒子が入った容器を取り出した。
【0063】
以上の加熱・脱水工程を経ることにより、塩化ナトリウム粒子の内部に含有される水分が除去され、塩化ナトリウムに含まれる水分による粒子の凝集が抑えられる。
【0064】
尚、上記の例では、脱水終了時の真空度を1×10-3Pa、脱水温度を350℃としたが、真空度は1Pa以下、温度は300℃以上であれば、臭化カリウム粒子中の水分の脱水は可能である。ただし、温度が600℃を超えると、臭化カリウム粒子の表面が融けて焼結するので、脱水温度は600℃以下とするのが好ましい。
【0065】
次に、真空加熱処理により脱水した臭化カリウム粒子を、ジェットミルにより粉砕し、平均粒子径3μmの臭化カリウム微粒子を作製した。
【0066】
次に、粉砕後の臭化カリウム微粒子を再度耐熱性のガラス容器に入れ、容器ごと真空加熱装置に封入して、装置内を1×10-3Paの真空度になるまで室温で排気した。装置内の真空度が1×10-3Paに達した段階で、排気を継続しながら、装置内に設置されているヒータの電源を入れ、臭化カリウム粒子を入れた容器の温度が350℃に達するまで加熱した。真空度が再び1×10-3Paに達するまで350℃を維持し、その後ヒータを停止し、排気を継続しながら温度を下げた。温度が50℃以下に達した段階で、装置内の排気を停止し、装置内に乾燥窒素を流入させて圧力を大気圧に戻し、臭化カリウム粒子が入った容器を取り出した。取り出した臭化カリウム微粒子は、大気中の水分を再吸収しないように、真空デシケータ中にて保管した。
【0067】
次に、含水率0.002重量%のトルエン950gに対し、オレイン酸ナトリウム1.0gを混合し、トルエンとオレイン酸ナトリウムとの混合液を作製した。
【0068】
次に、前述の粉砕処理及び真空加熱脱水処理を行った臭化カリウム微粒子(平均粒子径3μm)を、トルエン950gに対して50gの割合で、トルエン及びオレイン酸ナトリウムの混合液に混合した。
【0069】
次に、混合液をビーズミル(ビーズ径φ0.1mm)に投入し、周速毎分10mで、3時間の粉砕と分散を行った。これにより、平均粒子径0.1μmの臭化カリウム微粒子が分散した分散液を得た。臭化カリウムの微粒子の粒子径が0.1μmとなることで、光の波長よりも小さくなり、光を透過できるようになる。
【0070】
尚、本実施例では、臭化カリウム粒子を、2回目の真空加熱脱水処理前に粉砕しているので、分散液中での粉砕はビーズミルを用いて一度だけ行った。
【0071】
次に、トルエンに溶解する樹脂材料(有機母材)を、臭化カリウム50gに対して75gの割合で調製した分散液に混合した。樹脂材料はトルエンに溶解して分散液内に均一に分布するので、臭化カリウム微粒子と樹脂とが均一に混合された状態となった。
【0072】
次に、得られた混合物をシャーレ状の広口ガラス容器に入れ、溶媒キャスト法により、トルエンを揮発させて前記混合物を固化させた。固化後、混合物を真空乾燥炉に入れ、炉内を排気して真空状態に保ち、残留しているトルエンを完全に揮発させて混合物を乾燥させた。
【0073】
以上の工程を経て、図4に示したような、平均粒子径0.1μmの臭化カリウムの微粒子6が樹脂5の内部に均一に分布した複合化材料を得た。
【0074】
また、本実施例によって作製した複合化材料は、実施例1(図3)に係るものと同様に、良好な光透過性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば、カメラ、光ピックアップ装置等のレンズや窓材等の光学材料の製造方法として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の形態1に係る複合化材料(ナノコンポジット材料)の模式図
【図2】本発明の実施の形態1に係る複合化材料の製造に用いられる無機微粒子分散液の模式図
【図3】本発明の実施例1(実施の形態1)に係る複合化材料の光透過率を示すグラフ
【図4】本発明の実施の形態2に係る複合化材料(ナノコンポジット材料)の模式図
【図5】本発明の実施の形態2に係る複合化材料の製造に用いられる無機微粒子分散液の模式図
【符号の説明】
【0077】
1 微粒子
2 界面活性剤
3 有機溶媒
4 分散液
5 樹脂
6 微粒子
7 界面活性剤
8 有機溶媒
9 分散液
10 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂中に無機材料の微粒子が分散した光学用の複合化材料の製造方法であって、
疎水性の高い有機溶媒に、潮解性を有する無機材料の微粒子と、脂肪酸塩よりなる界面活性剤とを混合して、前記微粒子の分散液を作製し、
前記有機溶媒に溶解する樹脂材料を前記分散液に混合して、溶解した樹脂と前記微粒子とを均一化し、
前記均一化した分散液中の有機溶媒を除去して、前記微粒子と前記樹脂とを複合化する、複合化材料の製造方法。
【請求項2】
前記無機材料は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウムのいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の複合化材料の製造方法。
【請求項3】
前記微粒子の含水率が0.01重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合化材料の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒の含水率が0.01重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合化材料の製造方法。
【請求項5】
前記界面活性剤の主成分がオレイン酸ナトリウムまたはリノレン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の複合化材料の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒がベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサンのいずれかであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の複合化材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−202725(P2010−202725A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47743(P2009−47743)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】