説明

複合型両性荷電膜及びその製造方法

【課題】耐圧性等に優れ、大きな荷電分子の透過を充分に抑制し、性能劣化が生じ難い均質な両性荷電膜を製造する方法、及びこれらの特性を具備した両性荷電膜を提供する。
【解決手段】膜形成ポリマー、膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒及びイオン交換樹脂を混合し、ポリマー溶液aにイオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液Aを調製する工程、膜形成ポリマー及び膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒を混合し、均一なポリマー溶液Bを調製する工程、ポリマー分散液Aから両性荷電膜を形成し、ポリマー溶液Bから表面層を形成して、溶媒の除去及び洗浄がなされていない両性荷電膜の表面に表面層を設けて複合膜を製造する工程及び複合膜から溶媒を除去した後、洗浄する工程を行い、イオン交換樹脂が陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との組み合わせ又は両性イオン交換樹脂である、複合型両性荷電膜の製造方法、及びこれによる複合型両性荷電膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合型両性荷電膜及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、耐圧性、耐久性、イオン選択性等に優れ、特に塩透過性に優れるだけでなく、大きな荷電分子の透過を充分に抑制することが可能で、ファウリングによる性能劣化が極めて生じ難い均質な複合型両性荷電膜を、容易かつ安価に製造することができる方法、及び該方法にて製造される、例えば圧透析用膜、拡散透析用膜等に好適に使用し得る複合型両性荷電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
その構成高分子化合物に荷電基が導入されている荷電膜の中でも、膜内に正荷電基と負荷電基とが共存する両性荷電膜は、例えば圧透析や海水の淡水化、脱塩等の膜として利用されるほか、食品や医薬品の分野での応用も期待され、従来より開発が進められてきている。
【0003】
前記両性荷電膜の中でも、例えば、正荷電基及び負荷電基がイオン交換基として存在しており、膜の表裏を貫通し、かつ互いに隣接して存在しているイオンチャンネルを有するモザイク荷電膜等が、塩透過性やイオンに対する選択的透過性に優れることから、種々提案されている。
【0004】
例えばその代表例の1つとして、2種のイオン交換体が層状に存在したモザイク荷電膜及びその製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかるモザイク荷電膜は、陽イオン交換領域と陰イオン交換領域とが膜の厚さ方向に対して交互に層状に配列し、貫通している膜であり、陽イオン交換基を導入可能な高分子と陰イオン交換基を導入可能な高分子とイオン交換基を導入させない高分子とが連結した原多元ブロック共重合体、例えばスチレン、ブタジエン、4−ビニルベンジルジメチルアミンのブロックからなるブロック共重合体を合成し、スチレン部位をスルホン化、4−ビニルベンジルジメチルアミン部位を4級化、ブタジエン部位を架橋することによって製造することができる。
【0005】
前記のごとき方法にて得られるモザイク荷電膜は、確かに、その両面間に生じさせた塩の濃度差を駆動力として利用することができ、該モザイク荷電膜を用いて、有機化合物を含有した水溶液を効率よく脱塩することが可能である。しかしながら、前記製造方法では、ブロック共重合体の特定部位を変性させる等、非常に煩雑な操作かつ高度な技術が必要であり、しかも高コストであることから、目的とするモザイク荷電膜を簡易にかつ安価で得ることは困難であるといった問題がある。
【0006】
また前記のほかにも、2種のイオン交換体が無秩序に存在したモザイク荷電膜及びその製造方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。かかるモザイク荷電膜は、カチオン性重合成分、アニオン性重合成分及びマトリックス成分からなり、カチオン性重合成分及びアニオン性重合成分の少なくとも1成分が架橋した粒状重合体の膜であり、このように少なくともいずれか一方が架橋粒状重合体(平均粒子径が小さい架橋重合体微粒子:マイクロゲル)であるカチオン性重合成分及びアニオン性重合成分を、マトリックス成分の有機溶剤溶液に分散させた組成物を用いて製造することができる。
【0007】
前記のごとき方法にて得られるモザイク荷電膜も、イオンに対する良好な選択的透過性を有し、該モザイク荷電膜を用いて電解質の移動、分離、濃縮、吸着等を効率よく行うことが可能である。しかしながら、前記製造方法では、平均粒子径が小さい架橋重合体微粒子を調製しなければならず、高度な技術及び長時間を要するといった問題がある。しかも得られるモザイク荷電膜は、含水性の高いマイクロゲルで構成されているため、耐圧性が非常に低く、拡散透析用の膜としては使用可能であるものの、圧透析用の膜としての使用は困難であり、利用可能性が低いという欠点を有するものである。
【0008】
そこで、前記モザイク荷電膜の耐圧性を向上させる目的で、耐圧性を有する支持体の表面に該モザイク荷電膜を貼付する方法や、多孔性支持体の細孔内にイオン交換体を充填させてモザイク荷電膜を製造する方法も試みられている。しかしながら、これらの方法に用いる支持体と、貼付するモザイク荷電膜内の活性層や充填するイオン交換体とは、そもそも同質材料ではないため、支持体を用いたことによる耐圧性の向上はほとんど望めないにも係らず、コストが上昇してしまうといった問題がある。
【0009】
さらに、前記のごときモザイク荷電膜に代表される従来の両性荷電膜では、例えば有機酸やアミノ酸といった大きな荷電分子が吸着されて膜に沈着し、透過流束が低下する現象、いわゆるファウリングが起こり易く、性能劣化が著しいという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−203613号公報
【特許文献2】特開2000−70687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記背景技術に鑑みてなされたものであり、耐圧性、耐久性、イオン選択性等に優れ、特に塩透過性に優れるだけでなく、大きな荷電分子の透過を充分に抑制することが可能で、ファウリングによる性能劣化が極めて生じ難い均質な両性荷電膜を、容易かつ安価に製造することができる方法、及びこれらの特性を具備した両性荷電膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、
(A)複合型両性荷電膜の製造方法であって、以下の工程(1)〜(4):
(1)膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒及びイオン交換樹脂を混合し、ポリマー溶液(a)にイオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液(A)を調製する工程
(2)膜形成ポリマー及び該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒を混合し、均一なポリマー溶液(B)を調製する工程
(3)前記ポリマー分散液(A)から両性荷電膜を形成し、かつ前記ポリマー溶液(B)から表面層を形成して、溶媒の除去及び洗浄がなされていない該両性荷電膜の表面に該表面層を設けて複合膜を製造する工程
(4)複合膜から溶媒を除去した後、洗浄する工程
を行うことを特徴とし、
前記イオン交換樹脂が、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との組み合わせか、又は両性イオン交換樹脂である、複合型両性荷電膜の製造方法、並びに
(B)前記製造方法にて得られる複合型両性荷電膜
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、耐圧性、耐久性、イオン選択性等に優れ、特に塩透過性に優れるだけでなく、大きな荷電分子の透過を充分に抑制することが可能で、ファウリングによる性能劣化が極めて生じ難い均質な複合型両性荷電膜を、容易かつ安価に量産することができる。また該製造方法にて製造される本発明の複合型両性荷電膜は、これらの優れた特性を具備し、例えば圧透析用膜、拡散透析用膜等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の複合型両性荷電膜の製造方法を概略的に示すフローチャート
【図2A】本発明の複合型両性荷電膜の製造方法における工程(1)の一例を概略的に示すフローチャート
【図2B】本発明の複合型両性荷電膜の製造方法における工程(1)の一例を概略的に示すフローチャート
【図3】中空糸状両性荷電膜製造システムの概略図
【図4】紡糸ノズルの概略拡大図
【図5A】本発明の中空糸状の複合型両性荷電膜の一例を示す概略断面図
【図5B】本発明の中空糸状の複合型両性荷電膜の一例を示す概略断面図
【図6】本発明の複合型両性荷電膜の一例を示す概略断面図
【図7】荷電分子に対する透過阻止率の測定試験に用いる阻止率測定装置の概略図
【図8】表面層の荷電分子に対する透過阻止率の測定試験における、荷電分子の平均分子量に対する透過阻止率の変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る中空糸状両性荷電膜の製造方法では、以下の工程(1)〜(4):
(1)膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒及びイオン交換樹脂を混合し、ポリマー溶液(a)にイオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液(A)を調製する工程
(2)膜形成ポリマー及び該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒を混合し、均一なポリマー溶液(B)を調製する工程
(3)前記ポリマー分散液(A)から両性荷電膜を形成し、かつ前記ポリマー溶液(B)から表面層を形成して、溶媒の除去及び洗浄がなされていない該両性荷電膜の表面に該表面層を設けて複合膜を製造する工程
(4)複合膜から溶媒を除去した後、洗浄する工程
が行われる。図1に、本実施形態1に係る製造方法を概略的に表したフローチャートを示す。かかる図1において、膜形成ポリマーを原料1、溶媒を原料2、イオン交換樹脂を原料3として表す。
【0016】
まず工程(1)において、膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒及びイオン交換樹脂を混合し、ポリマー溶液(a)にイオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液(A)を調製する。
【0017】
本実施形態1の工程(1)では、溶媒に膜形成ポリマーが溶解したポリマー溶液(a)にイオン交換樹脂が分散した、均一なポリマー分散液(A)が得られる限り、これら膜形成ポリマー、溶媒及びイオン交換樹脂を添加する順序には限定がない。すなわち、例えば図2Aのフローチャートに示すように、膜形成ポリマーと溶媒とを混合して均一なポリマー溶液(a)を調製した後、イオン交換樹脂を該ポリマー溶液(a)に添加し、イオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液(A)を調製することができる。また例えば図2Bのフローチャートに示すように、溶媒とイオン交換樹脂とを混合し、イオン交換樹脂を溶媒に分散させて分散液を調製した後、膜形成ポリマーを該分散液に添加して溶解させ、ポリマー溶液(a)にイオン交換樹脂が分散した均一なポリマー分散液(A)を調製することもできる。
【0018】
ポリマー分散液(A)の調製に用いられる膜形成ポリマーは、後述するように、例えば平膜状の複合型両性荷電膜を形成する際に、加熱乾燥等により皮膜を形成することができるものや、例えば中空糸状の複合型両性荷電膜を形成する際に、押出成形等により紡糸することができるものであればよく、形成される複合型両性荷電膜に、耐薬品性、耐溶剤性、耐水性、耐久性等を付与し得るものが好ましい。かかる膜形成ポリマーとしては、例えばポリスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等があげられ、これらは単独で又は2種以上を同時に用いることができる。
【0019】
ポリスルホン系樹脂は、分子内にスルホニル結合(−SO2−)を有する重合体であり、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン等が例示される。
【0020】
ポリアリレート系樹脂は、分子内にエステル結合(−COO−)を有する重合体であり、例えば二価フェノールと芳香族ジカルボン酸とのポリエステル等が例示される。
【0021】
ポリアミド系樹脂は、分子内にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体であり、例えばジアミンと二塩基酸との重縮合、ラクタム開環重合、アミノカルボン酸の重縮合等によって得られる重合体が例示される。
【0022】
ポリイミド系樹脂は、分子内にイミド結合(−CONHCO−)を有する重合体であり、例えばビフェニルテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの縮重合等によって得られる重合体のほか、例えばポリエーテルイミド等も例示される。
【0023】
ポリアミドイミド系樹脂は、分子内にアミド結合とイミド結合とを併せ持つ重合体であり、例えば無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応や無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応によって得られる重合体が例示され、無水トリメリット酸とジフェニルアルキルジイソシアネート等との反応による芳香族ポリアミドイミドも含まれる。
【0024】
ポリウレタン系樹脂は、分子内にウレタン結合(−OCONH−)を有する重合体であり、例えば脂肪族ポリイソシアネート等のポリイソシアネートとテトラメチレングリコール等のポリオールとの反応によって得られる重合体のほか、ポリウレタン尿素樹脂も例示される。
【0025】
フッ素系樹脂は、例えばポリテトラフルオロエチレン等のアルキレン主鎖の水素原子がフッ素原子にて置換された重合体であり、ほかにも例えばそのスルホン化物等も例示される。
【0026】
シリコーン系樹脂は、分子内にシロキサン結合(−Si−O−Si−)を有する重合体であり、例えばポリメチルシロキサン等のポリアルキルシロキサン等が例示される。
【0027】
なお、ポリマー分散液(A)の調製に用いられる膜形成ポリマーの数平均分子量には特に限定がない。
【0028】
ポリマー分散液(A)の調製に用いられる溶媒は、前記膜形成ポリマーを溶解し得るものである限り特に限定がなく、膜形成ポリマーの種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0029】
膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド,N,N−ジエチルアセトアミド等の含チッ素系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤等があげられる。これらのなかでも、例えば膜形成ポリマーとしてポリスルホン系樹脂を用いた場合には、その溶解性の点から含チッ素系有機溶剤を用いることが好ましく、特にN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0030】
ポリマー分散液(A)の調製において、イオン交換樹脂として、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との組み合わせか、又は両性イオン交換樹脂が用いられる。
【0031】
前記陽イオン交換樹脂としては、分子中に例えば、スルホン酸基(−SO3H)、カルボン酸基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO32、−PO4H)、フェノール基(−C64OH)、スルホエチル基(−(CH22SO2OH)、ホスホメチル基(−CH2PO(OH)2)、カルボキシメチル基(−OCH2COOH)、イミノ二酢酸基(−N=C(CH2COOH)2)、イミノ二酢酸エステル基(−N=C(CH2COOR)2)等を有する酸性樹脂があげられる。該陽イオン交換樹脂の代表例としては、例えば
Amberlite IR−120B(商品名、オルガノ(株)製、イオン交換容量:1.9meq/mL)
等のスルホン酸基含有陽イオン交換樹脂等があげられる。また特に限定がないが、例えばイオン交換容量が1〜2.5meq/mL程度の陽イオン交換樹脂を好適に用いることができる。
【0032】
前記陰イオン交換樹脂としては、分子中に例えば、第4級アンモニウム基(−NR3)、第3級アミノ基(−NR2)、第2級アミノ基(−NHR)、第1級アミノ基(−NH2)、2−ヒドロキシプロピルアミノ基(−OC24N(C25)CH2CH(OH)CH3)、トリエチルアミノ基(−(CH22N(C253)、ポリエチレンイミノ基(−(CH2CH2NH)xCH2CH2NH2)、ジエチルアミノエチル基(−(CH22N(C252)、p−アミノベンジル基(−CH2−C64−NH2)、N−メチルグルカミン基(−CH2−N(CH3)−CH2−(C(OH)H)4−CH2OH)等を有する塩基性樹脂があげられる。該陰イオン交換樹脂の代表例としては、例えば
Amberlite IRA−410J(商品名、オルガノ(株)製、イオン交換容量:1.4meq/mL)
等の第4級アンモニウム基含有陰イオン交換樹脂等があげられる。また特に限定がないが、例えばイオン交換容量が1〜2.5meq/mL程度の陰イオン交換樹脂を好適に用いることができる。
【0033】
イオン交換樹脂として、前記陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との組み合わせを用いる場合、両者の組み合わせは、得られる複合型両性荷電膜の使用目的に応じて、例えば処理対象溶液における透過させようとするイオンの種類に応じて適宜変更することが好ましい。またこれらイオン交換樹脂の種類を考慮して、前記膜形成ポリマー及び溶媒を適宜選択することが好ましい。
【0034】
陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との使用割合は、各々が有するイオン交換容量に応じて適宜調整すればよいが、通常陽イオン交換樹脂/陰イオン交換樹脂(重量比)が40/60以上、さらには45/55以上、また60/40以下、さらには55/45以下であることが好ましい。
【0035】
前記両性イオン交換樹脂としては、分子中に例えば、スルホン酸基(−SO3H)、カルボン酸基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO32、−PO4H)、フェノール基(−C64OH)、スルホエチル基(−(CH22SO2OH)、ホスホメチル基(−CH2PO(OH)2)、カルボキシメチル基(−OCH2COOH)、イミノ二酢酸基(−N=C(CH2COOH)2)、イミノ二酢酸エステル基(−N=C(CH2COOR)2)等の陽イオン交換基と、第4級アンモニウム基(−NR3)、第3級アミノ基(−NR2)、第2級アミノ基(−NHR)、第1級アミノ基(−NH2)、2−ヒドロキシプロピルアミノ基(−OC24N(C25)CH2CH(OH)CH3)、トリエチルアミノ基(−(CH22N(C253)、ポリエチレンイミノ基(−(CH2CH2NH)xCH2CH2NH2)、ジエチルアミノエチル基(−(CH22N(C252)、p−アミノベンジル基(−CH2−C64−NH2)、N−メチルグルカミン基(−CH2−N(CH3)−CH2−(C(OH)H)4−CH2OH)等の陰イオン交換基とを両方有する樹脂があげられる。該両性イオン交換樹脂の代表例としては、例えば
Diaion AMP01(商品名、三菱化学(株)製、イオン交換容量:0.9meq/mL)
等の第4級アンモニウム基及びカルボン酸基含有両性イオン交換樹脂等があげられる。また特に限定がないが、例えばイオン交換容量が1〜2.5meq/mL程度の両性イオン交換樹脂を好適に用いることができる。
【0036】
ポリマー分散液(A)の調製において、イオン交換樹脂として、前記したように、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との組み合わせか又は両性イオン交換樹脂を、ポリマー溶液(a)に均一に分散させるが、ポリマー溶液(a)におけるイオン交換樹脂の分散性を向上させ、得られる複合型両性荷電膜の耐圧性等の特性をさらに向上させたり、より均質な複合型両性荷電膜を得るには、これらイオン交換樹脂がいずれも、例えば粉砕イオン交換樹脂、超微粒イオン交換樹脂等の粒子径が小さいイオン交換樹脂であることが好ましい。一般的なイオン交換樹脂としては、その種類によっても異なるものの、通常700〜900μm程度の平均粒子径を有する樹脂が多い。イオン交換樹脂のポリマー溶液(a)における分散性や、複合型両性荷電膜の耐圧性及び均質性を考慮すると、その平均粒子径は小さいほど好ましく、例えば45μm以下、さらには40μm以下であることが好ましい。また例えば粉砕イオン交換樹脂を用いる場合に、イオン交換樹脂を粉砕する際の作業性や、イオン交換樹脂からポリマー分散液(A)を調製する際の作業性を考慮すると、該イオン交換樹脂の平均粒子径は0.1μm以上、さらには1μm以上であることが好ましい。なお、これらイオン交換樹脂の粒子径によって、得られる複合型両性荷電膜の塩透過性を変化させることも可能であるので、複合型両性荷電膜の使用目的、すなわち該複合型両性荷電膜にて処理しようとする対象溶液中のイオンの種類に応じて、適した粒子径を有する粉砕イオン交換樹脂、超微粒イオン交換樹脂等のイオン交換樹脂を適宜選択して用いることが好ましい。またイオン交換樹脂として粉砕イオン交換樹脂を用いようとする場合、イオン交換樹脂の粉砕方法には特に限定がなく、イオン交換樹脂の種類に応じて適宜粉砕方法を選択することが好ましい。
【0037】
ポリマー分散液(A)の調製において、分散させるイオン交換樹脂の量T1は、用いる膜形成ポリマーの量T2Aも考慮して決定することが好ましい。該イオン交換樹脂の量T1があまりにも多い場合には、逆に膜形成ポリマーの量T2Aが少なくなり、複合型両性荷電膜を製造する際の製膜性が低下する恐れがあるので、イオン交換樹脂の量T1の、該T1と膜形成ポリマーの量T2Aとの総量Tに対する割合(イオン交換樹脂の含有量)
(T1/T)×100
は、90重量%以下、さらには85重量%以下、特に80重量%以下であることが好ましい。またイオン交換樹脂の量T1があまりにも少ない場合には、特に得られる複合型両性荷電膜の塩透過性が低下する恐れがあるので、イオン交換樹脂の量T1の、該T1と膜形成ポリマーの量T2Aとの総量Tに対する割合は、5重量%以上、さらには10重量%以上、特に20重量%以上であることが好ましい。なお、例えば前記範囲にてイオン交換樹脂の含有量を変更することにより、得られる複合型両性荷電膜の塩透過性を変化させることもできる。
【0038】
またポリマー分散液(A)の調製において、イオン交換樹脂の量T1と膜形成ポリマーの量T2Aとの総量Tと、溶媒の量Vとの割合は、イオン交換樹脂の分散性、作業性や、複合型両性荷電膜を製造する際の製膜性、目的とする複合型両性荷電膜の特性等を考慮して決定することが好ましい。該総量Tがあまりにも少ない場合には、複合型両性荷電膜を製造する際の製膜性や目的とする複合型両性荷電膜の特性が低下する恐れがあるので、総量Tの、溶媒の量Vに対する割合
T/V
は、0.2g/mL以上、さらには0.25g/mL以上、特に0.3g/mL以上であることが好ましい。また総量Tがあまりにも多い場合には、ポリマー分散液(A)を調製する際のイオン交換樹脂の分散性や作業性が低下する恐れがあるので、総量Tの、溶媒の量Vに対する割合は、1.4g/mL以下、さらには0.8g/mL以下、特に0.7g/mL以下であることが好ましい。
【0039】
ポリマー分散液(A)の調製において、溶媒や、イオン交換樹脂が溶媒に分散した分散液に膜形成ポリマーを溶解させる際の、溶解温度、攪拌時間といった条件は、これら膜形成ポリマー、溶媒及びイオン交換樹脂の種類に応じ、膜形成ポリマーが充分に溶解するように適宜変更すればよいが、例えば通常50〜70℃程度に加熱することが好ましい。
【0040】
またイオン交換樹脂をポリマー溶液(a)や溶媒に分散させるには、適宜両者を混合、攪拌すればよいが、この際の系の温度、攪拌時間といった条件は、これらイオン交換樹脂、膜形成ポリマー及び溶媒の種類に応じ、イオン交換樹脂がポリマー溶液(a)に充分に分散した均一なポリマー分散液(A)となるように適宜変更することが好ましい。例えば膜形成ポリマー及び溶媒を加熱攪拌してポリマー溶液(a)を得た場合には、引き続きこのポリマー溶液(a)にイオン交換樹脂を添加し、そのままの温度で、又は適宜温度を調整して攪拌混合してもよい。また溶媒及びイオン交換樹脂を加熱攪拌して分散液を得た場合には、引き続きこの分散液に膜形成ポリマーを添加し、そのままの温度で、又は適宜温度を調整して攪拌混合してもよい。
【0041】
さらに本実施形態1では、工程(1)において、前記イオン交換樹脂とともに、無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせ、及び無機両性イオン交換体の少なくともいずれかを用い、ポリマー分散液(A)を調製することも可能である。この場合、イオン交換樹脂が有する分散性と、無機イオン交換体が有する熱的安定性とを併せ持つ複合型両性荷電膜を製造することができるという利点がある。
【0042】
前記無機陽イオン交換体としては、例えば
AMD−Erba(商品名、無水二酸化マンガン、Corlo Erba社製)、
HMD−Erba(商品名、含水二酸化マンガン、Corlo Erba社製)
等のマンガン系無機陽イオン交換体;
IXE−300(商品名、結晶性アンチモン酸、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:4.0meq/g)、
HAP−Erba(商品名、含水五酸化アンチモン、Corlo Erba社製)
等のアンチモン系無機陽イオン交換体;
Zerwat(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Dia−Prosim社製)、
Decalsco(F,Y)(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Permit Co.,Ltd.社製)、
Ionac C 100(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Ionac.Chem.Comp.社製)、
Ionac C 101(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Ionac.Chem.Comp.社製)、
Ionac C 102(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Ionac.Chem.Comp.社製)、
Allasion Z(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Dia−Prosim社製)
等のケイ酸塩系無機陽イオン交換体;
IXE−400(商品名、リン酸チタン、東亜合成化学工業(株)製)、
IXE−100(商品名、リン酸ジルコニウム、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:6.6meq/g)、
ZPH−Erba(商品名、リン酸ジルコニウム、Corlo Erba社製)、
Bio−Rad ZP−1(商品名、リン酸ジルコニウム、Bio−Rad.Laboratories社製)、
FC(FTC)(商品名、リン酸ジルコニウム)、
TDO−Erba(商品名、リン酸スズ(IV)、Corlo Erba社製)
等のリン酸塩系無機陽イオン交換体;
Bio−Rad ZM−1(商品名、モリブデン酸ジルコニウム、Bio−Rad.Laboratories社製)、
Bio−Rad ZT−1(商品名、タングステン酸ジルコニウム、Bio−Rad.Laboratories社製)、
COX−Erba(商品名、シュウ酸セリウム(III)、Corlo Erba社製)、
Bio−Rad AMP(商品名、モリブドリン酸アンモニウム、Bio−Rad.Laboratories社製)、
Bio−Rad KCF−1(商品名、ヘキサシアノ鉄(III)コバルト(II)カリウム、Bio−Rad.Laboratories社製)、
Zeo−Dur(商品名、天然グリーンサンド、Permit Co.,Ltd.社製)、
Zerolite グリーンサンド(商品名、安定化グリーンサンド、Permit Co.,Ltd.社製)、
Ionac M−50(商品名、Mn2+型にしたグリーンサンド、Ionac.Chem.Comp.社製)
等があげられる。
【0043】
前記無機陰イオン交換体としては、例えば
IXE−500(商品名、含水酸化ビスマス、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:3.9meq/g)、
IXE−530(商品名、含水酸化ビスマス、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:3.7meq/g)、
IXE−550(商品名、含水酸化ビスマス、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:4.1meq/g)
等のビスマス系無機陰イオン交換体;
IXE−700F(商品名、マグネシウム・アルミニウム系、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:4.5meq/g)
IXE−800(商品名、ジルコニウム系、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:1.0meq/g)
IXE−1000(商品名、水酸化リン酸鉛、東亜合成化学工業(株)製)
等があげられる。
【0044】
前記無機両性イオン交換体としては、例えば
OC(商品名、酸化ジルコニウム)、
Bio−Rad HZO−1(商品名、含水酸化ジルコニウム、Bio−Rad.Laboratories社製)
等のジルコニウム系無機両性イオン交換体;
Bio−Rad HTO−1(商品名、含水酸化チタン、Bio−Rad.Laboratories社製)
等のチタン系無機両性イオン交換体;
IXE−600(商品名、アンチモン酸+含水酸化ビスマス、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:2.0meq/g(陽イオン交換基)及び2.0meq/g(陰イオン交換基))、
IXE−633(商品名、アンチモン酸+含水酸化ビスマス、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:1.3meq/g(陽イオン交換基)及び2.8meq/g(陰イオン交換基))
等のアンチモン−ビスマス系無機両性イオン交換体
等があげられる。
【0045】
なお、イオン交換樹脂とともに、前記無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせを用いる場合、各々の組み合わせにおける両者の種類や使用割合は、得られる複合型両性荷電膜の使用目的に応じ、適宜選択し、調整することが好ましい。
【0046】
また、ポリマー分散液(A)を後述する工程(3)に供する前に、目的とする複合型両性荷電膜の均質性をより向上させるために、例えば減圧脱泡法、超音波脱泡法、静置脱泡法等にてポリマー分散液(A)に脱泡処理を施すことが好ましい。
【0047】
前記のごとく工程(1)において均一なポリマー分散液(A)を調製すると共に、工程(2)において、膜形成ポリマー及び該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒を混合し、均一なポリマー溶液(B)を調製する。
【0048】
ポリマー溶液(B)の調製に用いられる膜形成ポリマーも、ポリマー分散液(A)の調製に用いられる膜形成ポリマーと同様に、例えば平膜状の複合型両性荷電膜を形成する際に、加熱乾燥等により皮膜を形成することができるものや、例えば中空糸状の複合型両性荷電膜を形成する際に、押出成形等により紡糸することができるものであればよく、形成される複合型両性荷電膜に、耐薬品性、耐溶剤性、耐水性、耐久性等を付与し得るものが好ましい。かかる膜形成ポリマーとしては、例えばポリマー分散液(A)の調製に用いられる膜形成ポリマーと同様のものが例示され、これらは単独で又は2種以上を同時に用いることができる。
【0049】
なお、ポリマー溶液(B)の調製に用いられる膜形成ポリマーの数平均分子量にも特に限定がない。
【0050】
また、ポリマー溶液(B)の調製に用いる膜形成ポリマーは、前記ポリマー分散液(A)の調製に用いる膜形成ポリマーと同一であってもよく、異なってもよいが、ポリマー分散液(A)から形成される両性荷電膜とポリマー溶液(B)から形成される表面層との接着性がより向上するという点から、両液の調製に用いる膜形成ポリマーは同一であることが好ましい。
【0051】
ポリマー溶液(B)の調製に用いられる溶媒は、前記膜形成ポリマーを溶解し得るものである限り特に限定がなく、膜形成ポリマーの種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0052】
膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒としては、例えばポリマー分散液(A)の調製に用いられる溶媒と同様のものが例示される。これらのなかでも、例えば膜形成ポリマーとしてポリスルホン系樹脂を用いた場合には、その溶解性の点から含チッ素系有機溶剤を用いることが好ましく、特にN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0053】
ポリマー溶液(B)の調製において、膜形成ポリマーの量T2Bと溶媒の量Vとの割合は、膜形成ポリマーの溶解性、作業性や、複合型両性荷電膜を製造する際の製膜性、目的とする複合型両性荷電膜の特性等を考慮して決定することが好ましい。該膜形成ポリマーの量T2Bがあまりにも少ない場合には、複合型両性荷電膜を製造する際の製膜性や目的とする複合型両性荷電膜の特性が低下する恐れがあるので、膜形成ポリマーの量T2Bの、溶媒の量Vに対する割合
2B/V
は、0.05g/mL以上、さらには0.07g/mL以上、特に0.1g/mL以上であることが好ましい。また膜形成ポリマーの量T2Bがあまりにも多い場合には、ポリマー溶液(B)を調製する際の膜形成ポリマーの溶解性や作業性が低下する恐れがあるので、膜形成ポリマーの量T2Bの、溶媒の量Vに対する割合は、0.3g/mL以下、さらには0.25g/mL以下、特に0.2g/mL以下であることが好ましい。
【0054】
ポリマー溶液(B)の調製において、溶媒に膜形成ポリマーを溶解させる際の、溶解温度、攪拌時間といった条件は、これら膜形成ポリマー及び溶媒の種類に応じ、膜形成ポリマーが充分に溶解するように適宜変更すればよいが、例えば通常50〜70℃程度に加熱することが好ましい。
【0055】
また、ポリマー溶液(B)を後述する工程(3)に供する前に、目的とする複合型両性荷電膜の均質性をより向上させるために、例えば減圧脱泡法、超音波脱泡法、静置脱泡法等にてポリマー溶液(B)に脱泡処理を施すことが好ましい。
【0056】
次に、工程(3)において、工程(1)で得られたポリマー分散液(A)から両性荷電膜を形成し、かつ工程(2)で得られたポリマー溶液(B)から表面層を形成して、両性荷電膜からの溶媒の除去及び洗浄を行うことなく、該両性荷電膜の表面に表面層を設けて複合膜を製造する。
【0057】
このように工程(3)では、両性荷電膜の表面に表面層が設けられるように、ポリマー分散液(A)から両性荷電膜を形成し、かつポリマー溶液(B)から表面層を形成して複合膜とする。
【0058】
ここで、工程(3)における両性荷電膜及び表面層の形成方法、すなわち複合膜の製造方法は、目的とする複合型両性荷電膜の形状に応じて適宜選択される。以下に、本発明の複合型両性荷電膜の一例である、平膜状の複合型両性荷電膜及び中空糸状の複合型両性荷電膜について、各々詳細に説明する。
【0059】
まず、平膜状の複合型両性荷電膜について説明する。平膜状の複合型両性荷電膜を製造する際には、工程(3)において、基材上にポリマー分散液(A)を塗布及び延伸した後、延伸したポリマー分散液(A)上にポリマー溶液(B)を塗布及び延伸し、純水中に浸漬して凝固させ、両性荷電膜の表面に表面層を設けて複合膜を製造する。
【0060】
具体的には、例えば前記のごとく脱泡処理を施したポリマー分散液(A)を、表面が平滑な基材上に、例えばバーコート法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法等によって塗布及び延伸させる。この後、延伸したポリマー分散液(A)上に、ポリマー溶液(B)を、やはり例えばバーコート法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法等によって塗布及び延伸させる。
【0061】
前記基材としては、所望の膜質及び均一な厚さを有する膜が形成され得る限り特に限定がなく、例えばガラスプレート、ステンレススチールプレート、アルミニウムプレートのほか、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の高分子フィルムやシート等を好適に使用することができる。
【0062】
基材上に形成させる膜の厚さにも特に限定がないが、最終的に得られる目的とする複合型両性荷電膜の厚さが、例えば後述する範囲となるように、両性荷電膜及び表面層各々の厚さを適宜調整することが好ましい。
【0063】
かくして基材上に形成した両性荷電膜及び該両性荷電膜上に形成した表面層からなる複合膜を、例えば純水中に浸漬して凝固させる。浸漬させる純水の温度及び浸漬時間には特に限定がなく、得られた平膜状の複合膜から、後述する工程(4)にて溶媒が除去されて、均質な複合型両性荷電膜となるように適宜調整すればよいが、例えば純水の温度は、通常10〜100℃程度であることが好ましい。
【0064】
次に、中空糸状の複合型両性荷電膜について説明する。中空糸状の複合型両性荷電膜を製造する際には、工程(3)において、ポリマー分散液(A)及びポリマー溶液(B)を紡糸して得られた中空糸状溶融物を、空気と接触させた後に純水中に浸漬し、両性荷電膜の表面に表面層を設けて複合膜を製造する。
【0065】
具体的には、例えば前記のごとく脱泡処理を施したポリマー分散液(A)及びポリマー溶液(B)を、例えば中空糸製造装置を用い、その紡糸ノズルから中空糸状溶融物として押出す。この際、押出装置内の温度や、紡糸ノズルの各外部流路(ポリマー分散液(A)及びポリマー溶液(B)の各流入路)へのポリマー分散液(A)及びポリマー溶液(B)の流量、内部流路への純水等の流量といった条件は、例えばポリマー分散液(A)を構成するイオン交換樹脂の種類や膜形成ポリマー及び溶媒からなるポリマー溶液(a)の種類、ポリマー溶液(B)を構成する膜形成ポリマー及び溶媒の種類、紡糸ノズルのサイズ、押出し後の空気との接触時間等を考慮し、適宜調整することが好ましい。また紡糸ノズルのサイズ(外径、内径、各外部流路径)は、目的とする複合型両性荷電膜の膜厚(両性荷電膜厚及び表面層厚)、外径、内径に応じて適宜決定すればよい。
【0066】
中空糸製造装置としては、例えば、図3の概略図に示す中空糸状両性荷電膜製造システムを用いることができる。かかる中空糸状両性荷電膜製造システムにおいて、中空糸製造装置100は温度コントロール装置101を備えており、紡糸ノズル102が設置されている。紡糸ノズル102へのポリマー分散液(A)及びポリマー溶液(B)の注入は、ポンプ103a、103bにて調整され、紡糸ノズル102への液槽104内の純水の注入は、ポンプ105にて調整される。また、紡糸ノズル102の押出口102dからの押出物は、水浴槽106内の純水に浸漬される。なお、水浴槽106内の純水の上面から紡糸ノズル102の押出口102dまでの高さhが、中空糸状溶融物が空気と接触している距離である。
【0067】
紡糸ノズル102には、図4の概略拡大図に示すように、注入口102a、102b、102cが設けられており、注入口102a及び102bは、ポリマー分散液(A)又はポリマー溶液(B)の流入路(外部流路)102a1及び102b1への注入口で、注入口102cは、純水流入路(内部流路)102c1への注入口である。なお、図4において、raは紡糸ノズル102の外径、rbは紡糸ノズル102の内径を示す。
【0068】
なお、中空糸状の複合型両性荷電膜では、表面層は、大きな荷電分子を含む処理対象溶液を通液させる側に設けられていればよい。すなわち、中空糸状の複合型両性荷電膜の内部に処理対象溶液を通液させる場合には、図5Aの概略断面図に示すように、両性荷電膜2の内表面に表面層3を形成すればよく、逆に中空糸状の複合型両性荷電膜の外部に処理対象溶液を通液させる場合には、図5Bの概略断面図に示すように、両性荷電膜2の外表面に表面層3を形成すればよい。このように、中空糸状の複合型両性荷電膜の場合、両性荷電膜の表面とは、内表面(中空糸の内部側)及び外表面(中空糸の外部側)のいずれであってもよい。
【0069】
図5Aに示される複合型両性荷電膜を製造する場合には、例えば前記図4に示す紡糸ノズル102において、注入口102aからポリマー分散液(A)を、注入口102bからポリマー溶液(B)を、注入口102cから純水をそれぞれ注入して紡糸すればよい。一方、図5Bに示される複合型両性荷電膜を製造する場合には、図4に示す紡糸ノズル102において、注入口102aからポリマー溶液(B)を、注入口102bからポリマー分散液(A)を、注入口102cから純水をそれぞれ注入して紡糸すればよい。
【0070】
紡糸ノズルの内部流路へは、通常、前記のごとき純水を注入することが好ましいが、純水の他にも、例えば空気、チッ素ガス、前記ポリマー分散液(A)を得る際に用いた溶媒と水との混合液等を用いることも可能である。また、内部流路への純水等の注入と、各外部流路へのポリマー分散液(A)及びポリマー溶液(B)の注入との順序には特に限定がないが、押出される溶融物の中空糸としての形状が安定し易いことから、内部流路への純水等の注入を開始し、次いで各外部流路へポリマー分散液(A)及びポリマー溶液(B)を注入することが好ましい。
【0071】
紡糸ノズルから押出した中空糸状溶融物を、所定時間、温度にて空気と接触させた後に純水中に浸漬する。中空糸状溶融物を空気と接触させる際の時間や温度等の条件は、該中空糸状溶融物の表層(中空糸の外側)付近が、空気との接触によって凝固した状態で純水中に浸漬されるように、適宜調整することが好ましい。また、このように表層付近が凝固した状態の中空糸状溶融物を浸漬させる純水の温度及び浸漬時間には特に限定がなく、得られた中空糸状の複合膜から、後述する工程(4)にて溶媒が除去されて、充分かつ均質に凝固した状態となるように適宜調整すればよいが、例えば純水の温度は、通常10〜100℃程度であることが好ましい。
【0072】
次に、工程(4)において、前記工程(3)で得られた複合膜から溶媒を除去した後、洗浄することにより、目的とする複合型両性荷電膜を製造することができる。
【0073】
例えば平膜状の複合型両性荷電膜の場合、得られた複合膜から溶媒を除去し、例えば蒸留水等にて洗浄処理を行って、目的とする複合型両性荷電膜を得ることができる。また、例えば中空糸状の複合型両性荷電膜の場合、得られた複合膜から溶媒を除去して凝固させた後、適宜乾燥し、例えば蒸留水等にて洗浄処理を行って、目的とする複合型両性荷電膜を得ることができる。
【0074】
複合型両性荷電膜の膜厚(乾燥)は、その使用目的に応じて適宜変更すればよいが、通常、ポリマー分散液(A)からの両性荷電膜の厚さが0.05〜1mm程度、好ましくは0.1〜0.5mm程度であることが望ましく、ポリマー溶液(B)からの表面層の厚さが0.005〜1mm程度、好ましくは0.01〜0.5mm程度であることが望ましい。なお、中空糸状の複合型両性荷電膜の場合、その外径及び内径にも特に限定がなく、やはりその使用目的に応じて適宜決定すればよいが、通常外径が0.15〜10mm程度、内径が0.05〜9.9mm程度であることが望ましい。また複合型両性荷電膜の含水率(乾燥重量に対する含まれる水の重量比)にも特に限定がなく、やはりその使用目的に応じて適宜調整すればよいが、通常0.1〜5程度であることが望ましい。
【0075】
さらに、中空糸状の複合型両性荷電膜の場合、該中空糸状の複合型両性荷電膜を、その使用目的に応じた量で、例えば数十本集束してケーシング(内筒)に充填収容し、該中空糸状の複合型両性荷電膜間及び集束物とケーシングとの間を、例えばケーシング端部において接着剤等で封止固定することによって、単位体積当たりの膜表面積が大きく、小型化及び低コスト化が図られたモジュールを得ることが可能である。
【0076】
このように、本実施形態1に係る製造方法では、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との組み合わせか又は両性イオン交換樹脂であるイオン交換樹脂を用いて両性荷電膜を製造し、なおかつ該両性荷電膜の表面に表面層を設けているので、耐圧性、耐久性、イオン選択性等に優れ、特に塩透過性に優れるだけでなく、大きな荷電分子の透過を充分に抑制することが可能で、ファウリングによる性能劣化が極めて生じ難い均質な複合型両性荷電膜を、容易かつ安価に量産することができる。
【0077】
図6に本発明の複合型両性荷電膜の概略断面図を示す。図6において、複合型両性荷電膜1は、両性荷電膜2及び表面層3からなり、該両性荷電膜2の表面に該表面層3が設けられている。両性荷電膜2内には、陽イオン交換領域2cと陰イオン交換領域2aとが存在しており、表面層3には孔3pが存在している。
【0078】
図6に示すように、Na+やCl-といった小さな荷電分子(イオン)は、表面層3の孔3pを透過し、次いで、Na+は両性荷電膜2の陽イオン交換領域2cを、Cl-は両性荷電膜2の陰イオン交換領域2aを各々透過する。これに対して、有機酸やアミノ酸といった大きな荷電分子や、例えばスクロース等の非電解質は、表面層3の孔3pを透過することができないので、本発明の複合型両性荷電膜では、これら大きな荷電分子や非電解質の吸着に起因したファウリングが起こらず、性能劣化が極めて生じ難い。
【0079】
なお、本発明の複合型両性荷電膜によって透過を充分に抑制することが可能な大きな荷電分子とは有機酸やアミノ酸であり、例えば飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸等の有機酸や、例えばベンゼン環を有する芳香族アミノ酸等のアミノ酸を例示することができる。
【0080】
本発明の複合型両性荷電膜は、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化カルシウムといった低分子量電解質の脱塩等に好適に使用することができ、例えば飲料用水、工業用水、純水等の水処理工業における脱塩;化学工業、金属工業等の工業排水の脱塩や有害金属イオンの除去;海洋深層水におけるミネラル成分の分離;海水の濃縮製塩、淡水化;医薬・食品工業における脱塩、イオン成分の分離精製といった幅広い分野にて有用なものである。
【0081】
次に本発明の複合型両性荷電膜及びその製造方法を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
調製例1〜2(ポリマー分散液(A)及びポリマー溶液(B)の調製)
以下に示す原料1〜3を準備した。原料3は、各々表1に示す平均粒子径となるように粉砕し、粉砕イオン交換樹脂として用いた。
・原料1(膜形成ポリマー):
ポリスルホン(アルドリッチ(Aldrich)社製、数平均分子量:約22000)
・原料2(溶媒):
N−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業(株)製)
・原料3(イオン交換樹脂):
(ア)陽イオン交換樹脂(Amberlite IR−120B(商品名)、オルガノ(株)製、スルホン酸基含有、イオン交換容量:1.9meq/mL)
(イ)陰イオン交換樹脂(Amberlite IRA−410J(商品名)、オルガノ(株)製、第4級アンモニウム基含有、イオン交換容量:1.4meq/mL)
【0083】
表1に、ポリマー分散液(A)の調製に用いた原料1〜3の使用量及び原料3の平均粒子径を示す。また表2に、ポリマー溶液(B)の調製に用いた原料1〜2の使用量を示す。
【0084】
【表1】

【表2】

【0085】
<ポリマー分散液(A)の調製>
まず原料1及び原料2を、ヒーター付きスターラーを用いて約60℃で均一なポリマー溶液となるまで充分に加熱攪拌した。得られたポリマー溶液(a)を60℃に保持したまま、これに粉砕して粒子径を調整した原料3を添加し、原料3がポリマー溶液(a)中に分散するまで充分に加熱攪拌して均一なポリマー分散液(A)を得た。得られたポリマー分散液(A)を、液中に気泡がなくなるまで脱泡した。
【0086】
<ポリマー溶液(B)の調製>
原料1及び原料2を、ヒーター付きスターラーを用いて約60℃で加熱攪拌し、均一なポリマー溶液(B)を得た。得られたポリマー溶液(B)を、液中に気泡がなくなるまで脱泡した。
【0087】
実施例1〜2(平膜状の複合型両性荷電膜の製造)
脱泡したポリマー分散液(A)をガラスプレート上にキャストし、バーコート法にて均一な厚さとなるように延伸した。さらにその表面に、脱泡したポリマー溶液(B)をキャストし、バーコート法にて均一な厚さとなるように延伸して、両性荷電膜と該両性荷電膜上の表面層とからなる複合膜を、純水(約23℃)中に浸漬して凝固させた。この後、得られた複合膜から原料2である溶媒を除去し、蒸留水にて洗浄して平膜状の複合型両性荷電膜を得た。平膜状の複合型両性荷電膜の膜厚(乾燥)、並びにこれを構成する両性荷電膜及び表面層の厚さを表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
試験例1(荷電分子に対する透過阻止率)
図7の概略図に示す阻止率測定装置にて、表面層I〜II(有効膜面積:9.62cm2)について荷電分子に対する透過阻止率を測定した。なお、表面層I〜IIは、調製例1〜2で調製したポリマー溶液(B)のみを用い、実施例1〜2と同様の方法で製造した表面層である。また、図7において、3は表面層、41、42は液槽を示す。
【0090】
荷電分子に対する透過阻止性能の指標となるポリエチレングリコール(HO−(C24O)n−H、以下PEGという)として、平均分子量が200、400、1000、2000、8000及び20000の6種類の溶液(以下、供給液という)を用意し、これら供給液のPEG濃度を糖度計(ポケット糖度計、型番:PAL−1、(株)アタゴ製)にてあらかじめ測定した。
【0091】
供給液500mLを液槽41内に入れ、これに0.25MPaの圧力を30分間かけ、表面層3を介してもう一方の液槽42内へと透過させた。液槽42内の透過液について、前記糖度計にてPEG濃度を測定した。なお、液槽41、42内の液温は、いずれも約25℃とした。また、表面層IIの試験において、平均分子量が8000及び20000の供給液に対しては、0.5MPaの圧力を30分間かけた。
【0092】
得られた測定値から、用いた表面層の荷電分子に対する透過阻止率を以下の式にしたがって算出した。
R(%)=[1−(Cp/Cf)]×100
(ここで、
R:荷電分子に対する透過阻止率
p:透過液のPEG濃度
f:供給液のPEG濃度
である)
得られた値を、供給液のPEG濃度及び透過液のPEG濃度と併せて表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
表面層I〜IIについて、用いたPEGの平均分子量と荷電分子に対する透過阻止率Rとの関係を図8のグラフに示す。図8において、各表面層と対応するグラフの種類は、それぞれ凡例に示す通りである。
【0095】
図8に示されるように、表面層Iは、平均分子量が200のPEGに対して約90%の透過阻止率を示し、平均分子量が1000以上のPEGに対しては100%近い透過阻止率を示しており、T2B/Vが0.18g/mLと比較的高い条件で製造された表面層は、広範囲の分子量の荷電分子に対してより優れた透過阻止性能を発揮することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の製造方法により、複合型両性荷電膜を製造する際の工程の簡素化、所要時間の短縮化及びコストの低減化が図られ、生産効率の向上が実現される。また本発明の複合型両性荷電膜は、種々のイオンを含有した溶液の透析に使用が可能であり、例えば化学工業、金属工業、医薬・食品工業等の各種産業分野にて有用なものである。
【符号の説明】
【0097】
1 複合型両性荷電膜
2 両性荷電膜
2a 陰イオン交換領域
2c 陽イオン交換領域
3 表面層
41、42 液槽
100 中空糸製造装置
101 温度コントロール装置
102 紡糸ノズル
102a、102b、102c 注入口
102a1、102b1 外部流路
102c1 内部流路
102d 押出口
103a、103b ポンプ
104 液槽
105 ポンプ
106 水浴槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合型両性荷電膜の製造方法であって、以下の工程(1)〜(4):
(1)膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒及びイオン交換樹脂を混合し、ポリマー溶液(a)にイオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液(A)を調製する工程
(2)膜形成ポリマー及び該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒を混合し、均一なポリマー溶液(B)を調製する工程
(3)前記ポリマー分散液(A)から両性荷電膜を形成し、かつ前記ポリマー溶液(B)から表面層を形成して、溶媒の除去及び洗浄がなされていない該両性荷電膜の表面に該表面層を設けて複合膜を製造する工程
(4)複合膜から溶媒を除去した後、洗浄する工程
を行うことを特徴とし、
前記イオン交換樹脂が、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との組み合わせか、又は両性イオン交換樹脂である、複合型両性荷電膜の製造方法。
【請求項2】
ポリマー分散液(A)の調製に用いる膜形成ポリマーと、ポリマー溶液(B)の調製に用いる膜形成ポリマーとが同一である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(3)において、基材上にポリマー分散液(A)を塗布及び延伸した後、延伸したポリマー分散液(A)上にポリマー溶液(B)を塗布及び延伸し、乾燥して凝固させ、両性荷電膜の表面に表面層を設けて複合膜を製造する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(3)において、ポリマー分散液(A)及びポリマー溶液(B)を紡糸して得られた中空糸状溶融物を、空気と接触させた後に純水中に浸漬し、両性荷電膜の表面に表面層を設けて複合膜を製造する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の製造方法にて得られる複合型両性荷電膜。
【請求項6】
請求項3に記載の製造方法にて得られる平膜状の複合型両性荷電膜。
【請求項7】
請求項4に記載の製造方法にて得られる中空糸状の複合型両性荷電膜。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−40562(P2012−40562A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241489(P2011−241489)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【分割の表示】特願2008−17180(P2008−17180)の分割
【原出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】