説明

複合型粒子状光触媒およびその製造方法、並びにそれを用いたコーティング剤、光触媒活性部材

【課題】光触媒の有する環境汚染物質の分解除去、防臭、防汚、殺菌作用をより効果的に持続的に発揮しつつ、可視光領域の光も利用でき、工業的にも簡便に製造が可能な、優れた光触媒として機能する複合型粒子状光触媒およびその製造方法、を提供し、また、当該光触媒を容易に各種部材に適用し得るコーティング剤、およびそれを適用した光触媒活性部材を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛(ZnO)粒子表面に、それよりも小径の酸化チタン(TiO2)粒子を被覆してなることを特徴とする複合型粒子状光触媒およびその製造方法、並びにそれを用いたコーティング剤、光触媒活性部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規にして有用なる光触媒活性に優れた複合型粒子状光触媒組成物およびその製造方法、並びにそれを用いたコーティング剤、光触媒活性部材に関する。また、本発明は、可視光領域の光においても光触媒活性を示す光触媒として機能する複合型粒子状光触媒組成物およびその製造方法、並びにそれを用いたコーティング剤、光触媒活性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、紫外線領域の特定波長の光を照射することにより強力な酸化反応によって、環境汚染物質の分解除去、防臭、防汚、殺菌作用を発揮する。例えばアナターゼ型酸化チタンに380nmよりも波長の短い紫外線を照射すると水の酸化還元反応を起こすことは「本多−藤嶋効果」として知られている。この効果に基づき基材表面に酸化チタン膜を設けた種々の応用製品も試みられ、一部は実用化されている。
【0003】
しかしながら、この酸化チタンの光触媒活性は太陽光など自然光に含まれる僅かな紫外線を吸収して作用するものであり、利用できる光の波長は酸化チタンのバンドギャップ(約3.2eV)に基づく約380nm以下の波長の紫外線に限られる。
【0004】
近年、可視光応答型光触媒の作製が数多く試みられており、例えば酸化チタンにクロムや鉄などのイオンをドーピングした光触媒(例えば、特許文献1参照)、銅イオンドーピング法やイオン注入法などが研究されているが、その性能は十分なものとは言えず、現在のところ技術的に確立されているものではない(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、酸化チタン被覆法について、チタンアルコキシドの加水分解生成物を塗布する方法、即ちゾルゲル法が最も一般的であり、これに類する他の技術としては例えば特許文献2に示される、チタンアルコキシドにアミドおよび/またはグリコールを添加し、その反応生成物を利用する方法や、特許文献3に示されるようにチタンアルコキシドにアルコールアミン類を添加し、その反応生成物を塗料成分として用いる方法がある。
【0006】
しかし、上記ゾルゲルコーティングによる塗膜形成においては、コーティング剤の粘度、塗布条件により形成される被膜の均一さが保てず、薄い場合には触媒濃度が不足して十分な効果を出しきれず、厚塗り時は被膜収縮のため被膜−基材間での密着不良、クラックによる剥離の問題が生じる。さらに光触媒活性が高いとされるアナターゼ相を安定に形成させるには、一般的に大気中で500℃以上という焼成行程を経る必要があった。
【0007】
一方、酸化亜鉛は3.2eVのバンドギャップエネルギーを有する酸化物半導体であり、酸化チタンと同様に光触媒活性を有する。しかも酸化チタンに比べて低コストであり、電気化学的作製も容易であることから、水の浄化、脱臭、抗菌など新しい光触媒材料として期待されている。しかし、酸化亜鉛は化学的安定性が必ずしも十分で無く、UV光により自己溶解し、水溶液中では光触媒活性が低下するため、実用化はほとんどされていないのが現状である(例えば、非特許文献2)。
【0008】
これまで本発明者らは、種々の手法により酸化チタン被覆酸化亜鉛複合光触媒被膜を形成させ、その効果を検討してきた。即ち、安価ではあるが、化学的に不安定な酸化亜鉛光触媒を低温陰極析出法により形成させ、ドライ法であるスパッタリング法により酸化チタン光触媒でその表面を覆うことにより化学的、物理的安定性を飛躍的に高めたと同時に可視光活性化を実現させてきた(特許文献1参照)。しかし、これを工業化するにあたっては大規模な装置を必要とするため、簡便な手法とは言えない。
【0009】
【特許文献1】特開平9−192496号公報
【特許文献2】特開平4−83537号公報
【特許文献3】特開平7−100378号公報
【特許文献4】特開2004−25171号公報
【非特許文献1】表面化学、20巻、2号、60〜65頁(1999)
【非特許文献2】「ジャーナル オブ エレクトロアナリティカル ケミストリー(Jounal of Electroanalytical Chemistry)」 442巻、山口靖英,山崎正敏,吉原佐知雄,白樫高史著、「陽極酸化法により作製した酸化亜鉛光触媒被膜(Photocatalytic ZnO films prepared by anodizing)」、1〜3頁、(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであって、光触媒の有する環境汚染物質の分解除去、防臭、防汚、殺菌作用をより効果的に持続的に発揮しつつ、可視光領域の光も利用でき、工業的にも簡便に製造が可能な、優れた光触媒として機能する複合型粒子状光触媒およびその製造方法、を提供することを目的とする。また、本発明は、当該光触媒を容易に各種部材に適用し得るコーティング剤、およびそれを適用した光触媒活性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、化学的に不安定な酸化亜鉛表面に化学的に安定な酸化チタンをドライ法によりコーティングすることにより、作為的に光触媒酸化亜鉛/光触媒酸化チタン界面を形成させることで、可視光領域でも効果の高い光触媒として機能する複合型粒子状光触媒組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明の複合型粒子状光触媒は、酸化亜鉛粒子表面に、それよりも小径の酸化チタン粒子を被覆してなることを特徴とする。
本発明の複合型粒子状光触媒によれば、酸化亜鉛粒子表面に、酸化チタン粒子を被覆して積層して複合粒子状とすることで、酸化亜鉛自体の化学的安定性を確保し、かつ可視光活性を実現することができる。
【0013】
本発明において、前記酸化亜鉛粒子の粒径としては、前記酸化チタン粒子の粒径に対して5倍〜10000倍の範囲内であることが好ましく、具体的には、0.01μm〜70μmの範囲内であることが好ましい。
一方、前記酸化チタン粒子としては、光触媒活性の高いアナターゼ型の酸化チタンからなることが好ましい。また、前記酸化チタン粒子の被覆量としては、酸化亜鉛粒子の質量に対して10質量%〜100質量%の範囲内であることが好ましい。
【0014】
本発明の複合型粒子状光触媒は、酸化亜鉛粒子をホスト粒子とし、酸化チタン粒子をゲスト粒子として、乾式複合化装置により機械エネルギーを加えてメカノケミカル的に複合粒子を形成させることで、製造することができる。
【0015】
本発明の複合型粒子状光触媒は、そのままでも光触媒として用いることができるが、例えば、液状媒体に分散してコーティング剤とすることで、各種部材に容易に適用することができ、応用範囲が大きく広がる。特に、当該コーティング剤にバインダーを含有させることで、各種部材に塗布して塗膜を形成するだけで、本発明の優れた光触媒活性を有する光触媒を容易に適用することができる。
【0016】
上記の如きコーティング剤によるか否かを問わず、本発明の複合型粒子状光触媒を含む光触媒活性膜で被覆された光触媒活性部材は、可視光に対する触媒活性を有し、しかもその光触媒活性が極めて高い光触媒活性膜を表面に有した物となる。そのため、各種分野でその有用性が極めて高い。
【発明の効果】
【0017】
酸化チタン被覆酸化亜鉛による本発明の複合粒子状光触媒は、各種光触媒機能が活性で、効果的に持続的に発揮され、かつ酸化チタン単独、酸化亜鉛単独の光触媒よりも、より長い波長の光に対する光触媒活性が高い光触媒であり、可視光領域の光も利用できる。また、工業的にも簡便に製造が可能であり、その有用性は極めて高い。本発明の複合粒子状光触媒の製造方法は、その優れた特性を有する複合粒子状光触媒組成物を工業的にも簡便に製造することを可能とした。さらに、本発明によれば、当該光触媒を容易に各種部材に適用し得るコーティング剤、およびそれを適用した光触媒活性部材を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の複合型粒子状光触媒は、酸化亜鉛粒子表面に、それよりも小径の酸化チタン粒子を被覆してなるものである。複合粒子状とすることで、酸化亜鉛自体の化学的安定性を確保し、かつ可視光活性を実現することができた。
以下、本発明の複合型粒子状光触媒、その製造方法、並びにその適用品の順に説明する。
【0019】
<本発明の複合型粒子状光触媒>
(酸化亜鉛粒子)
本発明において用いる酸化亜鉛粒子は、特に制限されるものではなく、ごく一般的な酸化亜鉛(ZnO)の粒子をそのまま用いることができる。酸化亜鉛粒子は、市場においても一般に流通しており、これら市販品をそのまま用いることができる。一般に酸化チタン粒子は、それ自体そのままで光触媒活性を有するものである。
【0020】
ただし、本発明においては、その表面に被覆される粒子状の酸化チタンを保持する必要があるため、少なくとも後述する酸化チタン粒子よりも粒径が大きいことが必須となる。表面に被覆される酸化チタン粒子の粒径に対して、5倍〜10000倍の範囲内であることが好ましく、10倍〜2000倍の範囲内であることがより好ましく、100倍〜1000倍の範囲内であることがさらに好ましい。両粒子の粒径の関係がこの範囲内に入ることで、酸化チタン粒子の被膜が酸化亜鉛粒子表面に適切に被覆され保持される。5倍未満であると、機械的操作で酸化亜鉛粒子の表面に酸化チタン粒子を被覆することが困難であり、一方10000倍を超えると酸化亜鉛粒子の製造自体が困難となり、それぞれ好ましくない。
【0021】
具体的な酸化亜鉛粒子の粒径としては、0.01μm〜70μmの範囲であることが好ましく、0.1μm〜30μmの範囲であることがより好ましく、0.5μm〜10μmの範囲であることがさらに好ましい。0.01μm未満であると、機械的操作で酸化亜鉛粒子の表面に酸化チタン粒子を被覆することが困難であり、一方70μmを超えると酸化亜鉛粒子の製造自体が困難となり、それぞれ好ましくない。
【0022】
なお、本発明において、酸化亜鉛粒子および酸化チタン粒子の粒径は、単に「平均粒径」と記される部分について、いずれも個数平均粒径を以って論ずることとする。具体的な検証方法としては、各粒子100個を無作為にサンプリングし、それを電子顕微鏡等により粒径(粒子が球形で無い場合には、球相当とした場合の径)を直接測定した値を平均したものを個数平均粒径として用いる。
【0023】
(酸化チタン粒子)
本発明において用いる酸化チタン粒子は、光触媒活性を示す二酸化チタン(TiO2)の粒子を用いる。酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型とがあるが、本発明において用いる酸化チタン粒子には、高い光触媒活性を有するアナターゼ型の酸化チタンが望ましい。酸化チタン粒子は、市場においても一般に流通しており、これら市販品をそのまま用いることができる。
【0024】
ただし、本発明において酸化チタン粒子は、既述の通り、前記酸化亜鉛粒子の表面に被覆されて保持される必要があるため、少なくとも前記酸化亜鉛粒子よりも粒径が小さいことが必須となる。これら両粒子の粒径の好ましい比率は、既述の通りである。
【0025】
具体的な酸化チタン粒子の粒径としては、1nm〜100nmの範囲であることが好ましく、3nm〜50nmの範囲であることがより好ましく、5nm〜10nmの範囲であることがさらに好ましい。1nm未満であると、粒子同士の凝集が強固となり、酸化亜鉛粒子の表面に均質に被覆することが困難であり、一方100nmを超えると、機械的操作で酸化亜鉛粒子の表面に被覆することが困難となり、それぞれ好ましくない。
【0026】
当該好ましい粒径範囲および前記酸化亜鉛粒子の好ましい粒径範囲から、大まかには、前記酸化亜鉛粒子がミクロサイズ(ミクロ粒子)と言える程度の大きさであるのに対して、当該酸化チタン粒子はナノサイズ(ナノ粒子)と称することができる。勿論このことは、本発明において、両者が必ずミクロオーダーないしナノオーダーであることを意味するものではない。
【0027】
前記酸化チタン粒子の被覆量としては、前記酸化亜鉛粒子の質量に対して10質量%〜100質量%の範囲内であることが好ましく、25質量%〜90質量%の範囲であることがより好ましく、30質量%〜80質量%の範囲であることがさらに好ましい。前記酸化チタン粒子の被覆量が十分でないと、酸化チタンによる光触媒活性を享受することが困難となり、前記酸化チタン粒子の被覆量が多すぎると、酸化亜鉛粒子との複合型粒子状光触媒とすることによる特異の性質が発揮されにくくなってしまうため、それぞれ好ましくない。
【0028】
(複合型粒子状光触媒の構造)
図1に、本発明の複合型粒子状光触媒の一例を拡大断面図にて示す。本例の複合型粒子状光触媒は、図1に示されるように、5μmというミクロサイズの酸化亜鉛粒子の表面に、7nmというナノサイズの酸化チタン粒子が被覆されて複合粒子状に形成されている。
【0029】
酸化亜鉛は、一般的に図2に示されるように、バンドのエネルギー準位の位置は多少異なるが、バンドギャップは酸化チタンと同じ3.2eVであるとされている。ここで、図2は、代表的な半導体のエネルギーギャップを示すグラフである。
【0030】
しかし、酸化亜鉛/酸化チタン界面を有する本発明の複合型粒子状光触媒における可視光活性化は、図3に示されるような発現モデルによって起こるものと考えられる。なお、ここで図3は、酸化チタン粒子で被覆された酸化亜鉛粒子からなる本発明の複合型粒子状光触媒が、可視光活性化する作用を説明するためのモデル図である。
【0031】
すなわち、このような複合層においては、表面の酸化チタン層が光の吸収層の役目を果たし、表面の酸化チタン層とその下の酸化亜鉛層との界面に電位勾配(ショットキーバリヤー)が生じるとともに界面準位を形成し、その結果可視光線で励起可能なトラップ準位が形成された結果と考えられる。
【0032】
以上のようなメカニズムにより空間電位が生じた結果、可視光線領域の光を吸収し、励起された酸化亜鉛により発生した正孔(h+)が複層内を拡散し、最表面の水と反応することによりヒドロキシラジカル(OH・)を生じ、最表面に付着した有機物を酸化分解すると考えられる。
勿論、以上の説明はあくまで推測であり、本発明の複合型粒子状光触媒の可視光領域の光触媒活性が、上記の如き作用によって必ず発現していると断言するものではない。
【0033】
<本発明の複合型粒子状光触媒の製造方法>
上記本発明の複合型粒子状光触媒を製造するには、以下に示す本発明の複合型粒子状光触媒組成物の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある。)が簡便であり、最適である。
【0034】
すなわち、本発明の製造方法は、酸化亜鉛粒子をホスト粒子とし、酸化チタン粒子をゲスト粒子として、乾式複合化装置により機械エネルギーを加えて複合粒子を形成することを特徴とするものである。
本発明の製造方法において用いる、ホスト粒子としての酸化亜鉛粒子やゲスト粒子としての酸化チタン粒子については、既に<本発明の複合型粒子状光触媒組成物>の項で説明したとおりである。
【0035】
本発明の製造方法においては、乾式法の粒子複合化装置を用いている。これは、酸化亜鉛粒子表面に光活性な酸化チタン粒子の層を形成させるとき、湿式法により行うと、酸化亜鉛層を溶解、剥離、析出させてしまう懸念があるからである。したがって、そのような懸念のない乾式法を利用して酸化チタン粒子の層を形成させる。すなわち、機械的エネルギーを加える粒子複合化装置により、下層の酸化亜鉛光触媒層にダメージを与えることなく、酸化チタン層を積層させることにより、良好な複合層を形成することができる。
【0036】
上記乾式複合化装置として使用可能な装置としては、従来から複数の素材粒子に機械エネルギーを加えて新しい素材を製造する装置として用いられてきたものをそのまま利用することができる。すなわち、メカノケミカル的な力が作用するように乾式で粒子を混合することができる装置を、本発明の製造方法においては問題なく使用することができる。具体的な市販品としては、乾式複合化粒子製造装置としてホソカワミクロン株式会社より「ナノキュラ」「ノビルタ」「メカノフュージョン」として製造販売されている。例えば、「ノビルタNOB−130」の仕様は、下記表1に示すとおりである。
【0037】
【表1】

【0038】
なお、上記仕様は、あくまでも1つの例であり、本発明が当該仕様により制限されるものではない。乾式複合化装置により、粒子に加えるべき機械エネルギーの好ましい条件としては、この装置の仕様や設定のほか、ホスト粒子やゲスト粒子の投入量、種類、処理時間、処理温度等により適宜選択すればよい。逆に言えば、これら各条件は他の条件により相互に適切な範囲が変わってくるので、一律に好ましい条件を定義することはできない。
【0039】
本発明の製造方法は、市販品としても入手が可能なほど入手が容易な酸化亜鉛粒子および酸化チタン粒子を単に機械的に混合するだけという、簡便な製造方法であり、極めて有用である。その利点としては、比較的工程が容易である点の他、酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子との混合比率を任意の割合で調整することが可能である点も挙げられる。
【0040】
以上のような本発明の製造方法により、図1に例として示されるような本発明の複合型粒子状光触媒を容易に製造することができる。
なお、本発明の複合型粒子状光触媒の製造は、上記本発明の製造方法に限定されるものではなく、光活性な酸化亜鉛粒子を形成ないし入手し、これにダメージを与えることなくその表面に光活性な酸化チタン粒子の層を積層することができれば、他の手法により製造することができるのは言うまでもない。
【0041】
<本発明の複合型粒子状光触媒の適用品>
本発明の複合型粒子状光触媒は、既述の如く可視光に対する高い光触媒活性を有し、それ自身極めて有用性を有するものであるが、他の部材に適用することで当該他の部材の機能を高めること、あるいは当該他の部材に新たな機能を付与することができる。
以下に、本発明の複合型粒子状光触媒を他の部材に適用するのに適したコーティング剤と、本発明の複合型粒子状光触媒を他の部材に適用した光触媒活性部材について説明する。
【0042】
(コーティング剤)
本発明の複合型粒子状光触媒を他の部材に適用するのに適したコーティング剤としては、少なくとも、前記本発明の複合型粒子状光触媒を液状媒体に分散してなるものである。コーティング剤に前記本発明の複合型粒子状光触媒を分散・含有させることで、他の部材表面に本発明の複合型粒子状光触媒を容易に供給することができる。
【0043】
なお、ここで言う「供給」とは、文字通り本発明の複合型粒子状光触媒をその場に位置させることを指している。したがって、当該コーティング剤についても供給すれば足り、塗布の概念に含まれる供給方法としなくても構わない。具体的には、当該コーティング剤を凹部や容器に溜めておいて、液状媒体を蒸発等させることで分散されている本発明の複合型粒子状光触媒を供給する方法などが挙げられる。
【0044】
勿論、各種部材にコーティング剤を容易に供給するには、やはり塗布して供給することが好適である。適当な塗布方法(浸漬塗布、スプレー塗布、ロール塗布、スピンコート、カーテンコート、刷毛塗り等)により所望の部材の表面に塗布した後、液状媒体を蒸発等させることで、各種部材の表面に容易に本発明の複合型粒子状光触媒からなる膜を形成することができる。
【0045】
ただし、本発明の複合型粒子状光触媒は、個々が微細な粒子状であるため、単に各種部材表面に膜状に形成しても、比較的小さな外力によりすぐに脱落してしまう。したがって、前記コーティング剤には、最終的に結着樹脂となるバインダーを含ませることが好ましい。バインダーを含有するコーティング剤であれば、これを各種部材表面に塗布し、乾燥ないし硬化させることで、硬化したバインダー中に本発明の複合型粒子状光触媒が分散し、かつ保持された光触媒活性膜を形成することができる。本発明の複合型粒子状光触媒は、バインダーに保持されているため、部材表面から簡単に脱落することが無い。
【0046】
ただし、形成された光触媒活性膜において、本発明の複合型粒子状光触媒がバインダーの中に完全に埋め込まれた状態となっていると、光触媒活性があまり十分に得られなくなる虞があるので、バインダーの含有量はあまり多過ぎないようにすることが望ましい。
【0047】
なお、前記液状媒体が、バインダーとして機能する材料、すなわち、所望の部材表面に前記コーティング剤を供給した後に、乾燥ないし硬化させることで、前記液状媒体が硬化してバインダーとなり、本発明の複合型粒子状光触媒を前記部材表面に保持しうる材料を用いても構わない。
【0048】
かかるバインダーとしては、従来から各種バインダーとして用いられている各種樹脂材料を使用することができる。例えば、シリコーン樹脂、シリケート樹脂等の無機系樹脂や、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、およびこれらの乳化物、ポバール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン等の水溶性樹脂が挙げられる。また、一般的に接着剤として用いられている材料をバインダーとしても構わない。
なお、光触媒の強い酸化力を考慮した場合、耐久性の観点から有機系樹脂よりも無機系樹脂の方が有利であり、推奨される。
【0049】
一方、前記液状媒体としては、前記コーティング剤中に上記バインダーを含む場合には、用いるバインダーを溶解することができる各種有機溶剤を用いることが好ましい。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン等を挙げることができ、その目的等に応じて適宜選択すればよい。勿論、これらを複数種類混合して用いても構わない。また、前記バインダーが水溶性の場合には、水、メタノール、エタノール等の水系媒体を用いても構わない。さらに、上記有機溶剤が水溶性溶剤である場合には、当該水溶性溶剤と水系媒体とを混合して用いても構わない。
【0050】
前記コーティング剤中に上記バインダーを含まない場合には、本発明の複合型粒子状光触媒を分散することができる液体であれば、いずれも前記液状媒体として用いることができる。例えば、既に例示した各種有機溶剤や水系媒体をいずれも用いることができ、その目的に応じて適切なものを選択すればよい。
【0051】
前記コーティング剤中のバインダーの濃度としては、バインダーの種類、液状媒体の種類、本発明の複合型粒子状光触媒の大きさ等に応じて適宜選択すればよいが、コーティング剤を塗布した際に、含まれる本発明の複合型粒子状光触媒がその表面から現れるように、硬化膜が形成された時のバインダー自身の厚みが、本発明の複合型粒子状光触媒の径よりも小さくなるように設計することが望ましい。
前記コーティング剤には、塗料成分として従来から公知の各種材料が含まれていても構わない。具体的には、各種顔料、染料、蛍光剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、防黴剤、分散安定剤等を挙げることができる。
【0052】
(光触媒活性部材)
本発明の複合型粒子状光触媒を含む膜で所望の部材を被覆することで、当該部材を光触媒活性部材とすることができる。このとき、被覆されてなる膜は、光触媒活性を有するいわゆる光触媒活性膜となる。
【0053】
光触媒活性膜を形成するには、前記コーティング剤を用いて、これを塗布し、乾燥ないし硬化して得るのが簡便である。ただし、形成対象となる部材表面に接着剤を塗布しておき、本発明の複合型粒子状光触媒を塗すようにして直接供給して固定化させることで光触媒活性膜を形成しても構わないし。乾燥状態で本発明の複合型粒子状光触媒を供給した後に、バインダーとなる材料を滲み込ませた上でこれを乾燥・硬化させても構わない。
【0054】
また、個々の本発明の複合型粒子状光触媒が固定していなくても、光触媒活性膜全体として保持されていれば、その目的によっては全く問題ない。例えば、所望の部材表面に本発明の複合型粒子状光触媒を乾燥状態で積層し、通気性の対向基板で挟み込むことで、光触媒活性膜として固定化させても構わない。
【0055】
以上のようにして得られた光触媒活性部材は、本発明の複合型粒子状光触媒としての機能を併せ持つ、有用な部材となる。すなわち、例えば、環境汚染物質の分解除去、防臭、防汚、殺菌作用を可視光の光によって発揮する部材となる。そのため、屋内や日陰等紫外線強度が弱い場所でも、あるいは、太陽が沈んだ夜であっても、蛍光灯や白熱灯の光のみで上記優れた特性を発揮し得る部材となる。
【実施例】
【0056】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
(実施例1〜3および比較例1〜4)
まず、酸化チタンとして、石原産業(株)製商品名「ST−01」(光触媒用粉末状酸化チタン・平均粒径:7nm)を用意した。また、酸化亜鉛として、堺化学工業(株)製商品名「LPZINC−5」(顔料用粉末状酸化亜鉛・平均粒径:5μm)、および、同社製商品名「酸化亜鉛2種」(一般用粉末状酸化亜鉛・平均粒径:0.65μm)」を用意した。酸化チタンと酸化亜鉛の粒径差は約90倍〜700倍である。この粒径の異なる粒子を混合容器内で処理すると、ミクロオーダーの酸化亜鉛をナノオーダーの酸化チタンが被覆するような状態となる。
【0057】
上記酸化チタンおよびいずれかの酸化亜鉛を、精密混合・複合化処理装置「ノビルタ」(ホソカワミクロン社製・NOB−130)に配合比を変えて仕込み、処理した。ノビルタは、水平円筒状の混合容器内で攪拌翼が高速回転することにより、衝撃・圧縮・せん断の力を粒子個々に作用させることで、混合や表面改質などを行う装置である。製造条件を下記表2に示すように変えて、実施例および比較例の試料を作製した。なお、ノビルタ処理しない、上記酸化チタン(ST−01)および酸化亜鉛(LPZINC−5)そのものを比較例1および2としている。
【0058】
【表2】

【0059】
作製した試料は、光触媒活性測定直前に、ブラックライトを使用した紫外線照射を行い、表面の有機物類の除去などを行った。
【0060】
(粉末試料フォルダーの作製)
作製した試料は粉末のため、各種分析時には、ガラスフォルダーに粉末の固定化を行った。これは、ガラス基板に面積2.5×2.5cm2、深さ2〜3mm程度のくぼみを作製し、そのくぼみに試料を敷き詰め、ヘラを使用して表面を均したものである。また、光触媒活性測定時の試料へのアセトアルデヒドガス吸着作用を最小限に抑えるべく、試料使用量は0.1g以下とした。
【0061】
(試料の解析)
a)XRD
作製した試料の被膜の結晶構造解析を、X線回折装置(理学電気製、Rint2000AFC−7)を使用して行った。X線回折の条件は、銅管球、管電圧40kV、管電流40mA、走査速度4°/min.である。結果は、図4にチャートで示す通りである。
【0062】
酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造を有している。また、ブロードなピークとして現れていることから、酸化チタン粒子は、粒子径の非常に小さい単結晶であると考えられる。一方、酸化亜鉛は、ZnO(100),ZnO(002),ZnO(101)などの配向を有する多結晶であると考えられる。本発明に相当する実施例1および2の光触媒は、酸化チタンの含有量が増加するほど、TiO2Anatase(101)のピーク強度が強まった。また同様に、酸化亜鉛の増加量が増加するほどZnOのピーク強度が強まった。
【0063】
b)FE−SEM
作製した試料の表面モルフォロジー観察には、電界放射型走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−4500)を使用し、倍率10,000〜30,000倍で行った。観察時の加速電圧は5kV〜20kVの範囲に設定している。図5に実施例1〜2および比較例1〜2の、図6に実施例3の撮影写真を示す。
【0064】
実施例2および3の試料は、酸化亜鉛の粒子を酸化チタンが被覆していることが観察された。実施例1では酸化チタン含有量が実施例2より増した分だけ酸化亜鉛を被覆する酸化チタン粒子層が厚くなり、さらに酸化チタンナノ粒子は凝集して数十〜数百nmの二次粒子を形成することが観察できた。
【0065】
(光触媒活性の評価試験方法)
光触媒活性の評価は、悪臭物質の一つであるアセトアルデヒドガスを光触媒作用によって分解させ、アセトアルデヒドの一定時間あたりの分解量や、分解速度によって評価を行った。図7に光触媒活性を評価する実験装置の概略図を示す。
【0066】
密封したセル(窓部を除き硬質ガラス製、容量60.8cm3)に前記試料を入れ、アセトアルデヒドガスを濃度が約500ppmとなるように封入した。使用したアセトアルデヒドガスは、密封した容器内で飽和蒸気圧に達したガスである。セルの窓部分には紫外光の吸収が少ない石英ガラスを使用した。セルはアセトアルデヒドの濃度調整後、暗所にて吸着平衡に達するのを確認した後、キセノンランプ(紫外線+可視光線)、および420nm以下の波長をカットするカットフィルターレンズを装着したキセノンランプ(可視光のみ)を用いて、光照射を行った。なお、図7においては、カットフィルターレンズが装着されたキセノンランプが示されている。光源としてのキセノンランプ自体の光量は300mW/cm2で、カットフィルターレンズ装着時の光量は290mW/cm2であった。
【0067】
アセトアルデヒドの定量にはガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC−14B)を使用し、一定時間毎にセル内の気体をサンプリングして、セル内の残存アセトアルデヒド濃度を測定した。ガスクロマトグラフィーの設定条件は、カラム温度40℃、注入部温度200℃、検出器温度250℃とした。
【0068】
なお、暗条件下での光触媒活性測定(ブランクテスト)を行うことで、試料の光触媒作用以外によるアセトアルデヒドガスの分解作用および吸着作用に対する検証を行った上で、光触媒活性の評価試験を実施した。具体的には、光照射試験を行う前の30分間は暗状態下にセルを置いて、アセトアルデヒド濃度の経時変化を調査し、その後60分間、キセノンライトによる光照射(紫外線+可視光線)を実施して60分間光触媒活性の評価試験を実施した。このとき、試験開始前のアセトアルデヒドガスの初期濃度は約50ppmに調整した。以上の結果を図8にグラフにて示す。
【0069】
まず、図8を見てもわかる通り、いずれの試料も暗条件下での吸着作用や分解作用は示さないことがわかった。したがって、光触媒の活性試験を行うにあたり、セル自体のアセトアルデヒドガスの吸着やセルからのガス漏れ、アセトアルデヒドガスの熱分解、光触媒のアセトアルデヒドガスの吸着などはほとんど影響しないと考えられる。
【0070】
続く、カットフィルターレンズを装着しないキセノンランプ照射(紫外線+可視光線)下における光触媒活性測定の結果、比較例4以外のすべての試料においてアセトアルデヒドガス濃度の減少が確認できた。また、各試料の分解速度を比較したところ、酸化チタンの活性が最も高く、酸化チタンの含有率が高い試料ほど高い活性を示した。ノビルタ未処理酸化亜鉛(比較例2)は活性を示すが、ノビルタ処理した酸化亜鉛(比較例4)は活性をほとんど示さなかった。
【0071】
(可視光に対する光触媒活性評価試験結果)
実施例1〜2および比較例1〜2について、カットフィルターレンズが装着されたキセノンランプによる可視光照射0分〜60分における光触媒活性測定を行った結果は、図9にグラフにて示す。試験開始直後のアセトアルデヒドガスの初期濃度は、前記同様約50ppmである。図9の結果からわかるように、可視光に対しては、TiO2やZnO単独の比較例1および2には光触媒活性がほとんど見られなかったが、実施例1および実施例2では光触媒活性が見られ、特に実施例1では60分間でアセトアルデヒドガスが約33%減少するという比較的高い活性を示した。
【0072】
この効果を確認するために、可視光照射時間を60分から7時間に延長した結果を図10にグラフにて示す。比較例1および2では時間を延ばしても全くアセトアルデヒドガスを分解しないのに対し、実施例1および2では可視光エネルギーを取り入れて確実にアセトアルデヒドガスを分解しているのが確認された。
【0073】
この可視光に対する光触媒活性評価試験を、実施例1および2とは粒径比の異なる実施例3の試料(「酸化亜鉛2種」(0.65μm)/「ST−01」=70/30の組み合わせ)でも実施した。実施例3においては再現性を確認するため、同一の条件で3回試験を行った。結果を図11に示す。初期アセトアルデヒド濃度が異なるが、実施例1および2(LPZINC−5/ST−01)の結果と同様に、可視光エネルギーを取り入れて確実にアセトアルデヒドガスを分解していることが、再現性をもって確認された。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の複合型粒子状光触媒の一例を示す拡大断面図である。
【図2】代表的な半導体のエネルギーギャップを示すグラフである。
【図3】酸化チタン粒子で被覆された酸化亜鉛粒子からなる本発明の複合型粒子状光触媒が、可視光活性化する作用を説明するためのモデル図である。
【図4】実施例および比較例の光触媒のXRDの結果を示すチャートである。
【図5】実施例1〜2および比較例1〜2の光触媒の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例3の光触媒の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例において、光触媒活性を評価する実験装置を示す概略図である。
【図8】実施例および比較例の光触媒におけるブランクテストおよび紫外線+可視光線の光照射試験の結果を示すグラフである。
【図9】実施例および比較例の光触媒における可視光のみの光照射試験の結果(試験時間60分)を示すグラフである。
【図10】実施例1〜2および比較例1〜2の光触媒における可視光のみの光照射試験について、試験時間を7時間に延長した結果を示すグラフである。
【図11】実施例3の光触媒における可視光のみの光照射試験の結果(試験時間7時間)およびその再現性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛粒子表面に、それよりも小径の酸化チタン粒子を被覆してなることを特徴とする複合型粒子状光触媒。
【請求項2】
前記酸化亜鉛粒子の粒径が、前記酸化チタン粒子の粒径に対して5倍〜10000倍の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の複合型粒子状光触媒。
【請求項3】
前記酸化亜鉛粒子の粒径が、0.01μm〜70μmの範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合型粒子状光触媒。
【請求項4】
前記酸化チタン粒子が、アナターゼ型の酸化チタンからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合型粒子状光触媒。
【請求項5】
前記酸化チタン粒子の被覆量が、前記酸化亜鉛粒子の質量に対して10質量%〜100質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の複合型粒子状光触媒。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合型粒子状光触媒を製造するための製造方法であって、
酸化亜鉛粒子をホスト粒子とし、酸化チタン粒子をゲスト粒子として、乾式複合化装置により機械エネルギーを加えて複合粒子を形成することを特徴とする複合型粒子状光触媒の製造方法。
【請求項7】
少なくとも、請求項1〜5のいずれかに記載の複合型粒子状光触媒を液状媒体に分散してなることを特徴とするコーティング剤。
【請求項8】
さらに、バインダーを含むことを特徴とする請求項7に記載のコーティング剤。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合型粒子状光触媒を含む光触媒活性膜で被覆されたことを特徴とする光触媒活性部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−144403(P2007−144403A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287826(P2006−287826)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000101477)アトミクス株式会社 (16)
【Fターム(参考)】