説明

複合型電解質膜の製造方法と製造装置

【課題】より短時間でかつより簡単な装置を用いて、補強膜として機能する多孔質材料20中に電解質樹脂(溶液)30が均一に含浸した複合型電解質膜を製造する。
【解決手段】補強膜として機能する多孔質材料20に電解質樹脂が含浸している複合型電解質膜を製造する方法において、多孔質材料20を圧縮する工程と、圧縮後に多孔質材料20に生じる復元力Pを利用して多孔質材料20に電解質樹脂(溶液30)を含浸させる工程とを少なくとも含むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の発電部である膜電極接合体を構成する電解質膜であって、特に補強膜として機能する多孔質材料に電解質樹脂が含浸している複合型電解質膜を製造する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一形態として固体高分子形燃料電池が知られている。固体高分子形燃料電池は他の形態の燃料電池と比較して作動温度が低く(−30℃〜120℃程度)、低コスト、コンパクト化が可能なことから、自動車の動力源等として期待されている。
【0003】
図4に示すように、固体高分子形燃料電池Aは、発電部である膜電極接合体(MEA)4を主要な構成要素とし、それを、ガス流路5を備えたセパレータ6、6で挟持して、単セルと呼ばれる1つの燃料電池Aを形成している。膜電極接合体4は、イオン交換膜である固体高分子電解質膜1の両側に、触媒層2とガス拡散層3からなる2つの電極を積層した構造を持つ。
【0004】
固体高分子型燃料電池において、電解質膜1としては、フッ素系電解質樹脂(イオン交換樹脂)であるパーフルオロスルホン酸ポリマーの薄膜(米国、デュポン社、ナフィオン膜)が主に用いられる。電解質樹脂単独の薄膜では十分な強度が得られないことから、補強膜としての機能を果たす適宜の多孔質材料に電解質樹脂を含浸させ乾燥させた複合型電解質膜が用いられることがある(特許文献1、2等参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−253147号公報
【特許文献2】特開平9−194609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した複合型電解質膜を製造するにあたって、多孔質材料中に電解質樹脂を短い時間でかつ均一に含浸させることは容易でない。前記特許文献1では、そのための手段として、電解質樹脂溶液中に多孔質材料を浸漬した状態で、減圧操作を行う、もしくは超音波を照射する処理を行うことによって、多孔質材料中への電解質樹脂の迅速かつ均一な含浸を可能としている。しかし、減圧処理や超音波処理を行うには、そのための複雑な装置を必要とする。特に、ウエブ状である多孔質材料を用いて連続した複合型電解質膜を製造するような場合には、減圧を行うための設備を設置することは容易でない。また、多孔質材料中に均一に電解質樹脂が含浸した複合型電解質膜を得るためには、多孔質材料中に存在する空気と電解質樹脂とをより完全に置換することが求められるが、超音波処理では多孔質材料中の空気を抜き出すのに長い時間を必要とする。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、より短時間でかつより簡単な装置を用いることで、補強膜として機能する多孔質材料中に電解質樹脂が均一に含浸した複合型電解質膜を製造することのできる、より改良された製造方法と製造装置を開示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明による複合型電解質膜の製造方法は、多孔質材料を圧縮する工程と、圧縮後に多孔質材料に生じる復元力を利用して前記多孔質材料に電解質樹脂を含浸させる工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0009】
また、上記の課題を解決するための本発明による複合型電解質膜の製造装置は、基本的に、多孔質材料を圧縮する圧縮手段と、少なくとも圧縮手段による圧縮から解放されて多孔質材料が元厚みに復元する領域内に電解質樹脂を供給する手段と、を少なくとも備えることを特徴とする。
【0010】
上記の各発明では、補強膜として機能する多孔質材料は、電解質樹脂の含浸前に圧縮される。それにより、多孔質材料中の空気を短時間でかつ効果的に排除することができる。圧縮され脱気された多孔質材料は、圧縮力であった負荷が開放されることにより、自己の持つ復元力で迅速に元の厚みまで戻ろうとする。その復元力を利用して電解質樹脂を多孔質材料中に含浸させるので、圧縮前に多孔質材料中に存在していた空気と電解質樹脂との置換は、多孔質材料の全域に亘り迅速にかつ均一に進行する。
【0011】
本発明において、前記多孔質材料は、従来の複合型電解質膜において用いられている材料をすべて用いることができる。圧縮と圧縮後の迅速な復元力を考慮すると、厚み方向に拘束された多孔質材料、例えば、ポリイミド多孔質膜、ポリエーテルイミド多孔質膜等は、より好ましい材料である。しかし、PTFE薄膜のように、延伸することにより多孔質化した材料やポリエチレンを延伸した多孔質膜も使用することもできる。
【0012】
本発明による複合型電解質膜の製造方法は、枚様化された多孔質材料を用いてバッチ式に実施することもでき、ウエブ状である多孔質材料を用いて連続的に実施することもできる。後者の態様を採用することにより、高い生産効率を上げることができる。
【0013】
本発明による複合型電解質膜の製造装置において、前記圧縮手段は、平板プレスのようなバッチ式の圧縮手段であってもよいが、好ましくは、ウエブ状である多孔質材料の送り手段を兼ねた一対のロールであり、該一対のロール間を通過することによりウエブ状の多孔質材料は連続して圧縮を受ける。この態様では、生産効率の更なる向上を図ることができる。
【0014】
上記圧縮手段として一対のロールを持つ態様の装置において、前記多孔質材料に電解質樹脂を供給する手段は、前記一対のロールにおける多孔質材料の送り出し側の位置に電解質樹脂を供給する手段であってもよい。あるいは、前記多孔質材料に電解質樹脂を供給する手段は、電解質樹脂溶液が満たされた液槽であり、前記液槽内に前記圧縮手段が配置されている態様であってもよい。いずれの態様でも、圧縮手段である一対のロール間から圧縮されたウエブ状である多孔質材料が送り出され、圧縮力である負荷から解放された時点で、多孔質材料の復元と多孔質材料内への電解質樹脂の含浸が、速やかに開始する。
【0015】
多孔質材料に電解質樹脂を供給する手段が電解質樹脂溶液が満たされた液槽である態様において、液槽内に配置する前記圧縮手段は1つであっても所期の目的は達成できる。しかし、好ましくは、少なくとも2組以上の前記圧縮手段を、ウエブ状である多孔質材料の送り方向に配置する。そして、ウエブ状である多孔質材料が各圧縮手段を連続して通過するように構成する。この態様の装置では、気泡をより完全に排除した複合型電解質膜を連続して製造することができる。
【0016】
上記態様である複合型電解質膜の製造装置において、さらに好ましくは、前記液槽内の電解質樹脂溶液に存在する気泡を除去するための脱泡手段と、脱泡後の電解質樹脂溶液を液槽に戻す送液手段をさらに備える。これにより、電解質樹脂溶液内に存在する気泡が電解質樹脂と共に多孔質材料中に入り込んでしまうのを阻止することができる。
【0017】
好ましい態様において、前記送液手段は、その吐出口を多孔質材料の送り方向上流側から2つ目あるいはそれ以降に位置する圧縮手段の近傍にそれぞれ位置させる。この態様とすることにより、電解質樹脂溶液内に存在する気泡が電解質樹脂と共に多孔質材料中に含浸するのをさらに効果的に阻止することができる。
【0018】
本発明による複合型電解質膜の製造装置の好ましい態様において。ウエブ状である多孔質材料の送り方向下流側に、多孔質材料に余分に付着している電解質樹脂溶液を除去するための除去手段がさらに備えられる。それにより、厚みがより均一化した複合型電解質膜を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明による複合型電解質膜の製造方法および製造装置によれば、より短時間でかつより簡単な装置によって、補強膜として機能する多孔質材料中に電解質樹脂が均一に含浸した複合型電解質膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は、本発明による複合型電解質膜の製造方法および装置の一実施の態様を説明する図であり、図2および図3はさらに他の2つの態様を説明する図である。
【0021】
図1に示す装置Aおいて、10は液槽、20は多孔質材料、30は電解質樹脂溶液である。
【0022】
多孔質材料20としては、特に限定されるものではないが、前記したように、ポリイミド多孔質膜、ポリエーテルイミド多孔質膜、延伸PTFE薄膜、ポリエチレン多孔質膜、のような多孔質薄膜を例として挙げることができる。耐圧縮性と負荷解除後の良好な復元性から、厚み方向に拘束された多孔質材料であるポリイミド多孔質膜は、特に好適である。多孔質材料20の空孔率は、製造する膜電極接合体に求められる発電特性等によって最適値が設定されるが、通常、40〜70%程度であることが好ましい。
【0023】
電解質樹脂溶液30を構成する電解質樹脂としては、特に限定されるものではないが、具体的には、プロトン交換基として、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などを有するものが例示され、この中で、スルホン酸基が、燃料電池性能を発現する上で好ましく用いられる。一例として、例えば、デュポン社製ナフィオン(商標名)が挙げられる。また、電解質樹脂は、プロトン伝導性を備えるH型電解質樹脂であってもよく、F型電解質樹脂、すなわち、側鎖末端がF型でありプロトン伝導性を備えないが、加水分解処理により側鎖末端をF型からH型に変換することでプロトン伝導性を備えるようになる電解質前駆体樹脂であってもよい。さらに、プロトン伝導性を有するポリマーを構成するモノマーであってもよい。
【0024】
図1(a)に示すように、液槽10に電解質樹脂溶液30の溶液を入れ、その中に適宜の大きさに裁断した多孔質材料20を無負荷(無圧縮)の状態で浸漬する。次に、図1(b)に示すように、平板プレスのような圧縮手段40(図では矢印で示す)により、多孔質材料20を圧縮する。圧縮により、多孔質材料20中の空気は気泡21となって電解質樹脂溶液30中に排出される。どの程度まで圧縮するかは、多孔質材料20に物理的な破壊が生じない限度において、できるだけ高い圧縮率とする。空孔率が大きい多孔質材料20の場合には高い圧縮率とすることができ、空孔率の小さい多孔質材料20の場合には比較して圧縮率を小さくする。
【0025】
圧縮した状態を所定時間保持して多孔質材料20からの脱気を確実にした後、図1(c)に示すように、負荷(圧縮力)を開放する。それにより、圧縮されていた多孔質材料20は、自己の復元力Pにより元の厚さに復帰しようとする。その復元力Pにより体積が増大した分だけ、電解質樹脂溶液30は多孔質材料20中に含浸する。含浸に要する時間は短時間であり、かつ電解質樹脂溶液30は多孔質材料20中に均一に含浸する。
【0026】
復帰力が完全に消滅するまで、多孔質材料20を溶液中に置き、電解質樹脂溶液30が含浸した多孔質材料20を液槽10から取り出す。その後、電解質樹脂の種類に応じて、乾燥処理を行うか(H型電解質樹脂の場合)、加水分解処理等を行う(F型電解質樹脂の場合)。電解質樹脂として、プロトン伝導性を有するポリマーを構成するモノマーを用いる場合には、加熱による重合処理も行う。このような処理を行うことにより、補強膜として機能する多孔質材料20に電解質樹脂が含浸した複合型電解質膜を得ることができる。なお、図1に示した装置Aでは、電解質樹脂溶液30が満たされた液槽10が、本発明でいう、「多孔質材料に電解質樹脂を供給する手段」を構成する。
【0027】
図2は、本発明による複合型電解質膜の製造方法および装置の他の実施の態様を示している。この装置A1では、多孔質材料として、ウエブ状である多孔質材料20Aを用いている。多孔質材料を構成する素材は前記したものと同じであってよい。図2で41,41は、ウエブ状である前記多孔質材料20Aの送り手段を兼ねた一対のロールであり、本発明でいう「圧縮手段40」を構成する。一対のロール41,41間の最小クリアランスは、前記したように、多孔質材料20Aの厚みと空孔率に応じて、最適値を設定する。
【0028】
図2に示すように、ウエブ状の多孔質材料20Aを一対のロール41,41間に通過させながら、下から上に向けて連続的に送り出す。ウエブ状の多孔質材料20Aは一対のロール41,41を通過する過程で次第に圧縮され、最小クリアランスの場所を通過した後は、負荷(圧縮力)が開放されることにより次第に元厚みに復帰する。図2に示す装置A1は、多孔質材料20Aが元厚みに次第に復元する領域22(点線で囲まれている領域)に電解質樹脂溶液30を供給する手段を備えており、前記領域22には常時電解質樹脂溶液30が存在している。そのために、圧縮によりウエブ状の多孔質材料20Aから放出される空気は、圧縮の過程で、ウエブ状の多孔質材料20Aの送り方向の上流側に放出される。
【0029】
一対のロール41,41間に通過することで圧縮され、かつ内部の空気を放出したウエブ状の多孔質材料20Aは、前記領域22を通過する過程で、自己の復元力により次第に膨張し、体積が増大した分だけ、前記領域22に存在する電解質樹脂溶液30はウエブ状の多孔質材料20A中に連続して含浸していく。ここでも、含浸に要する時間は短時間であり、かつ電解質樹脂溶液30は多孔質材料20A中に均一に含浸する。
【0030】
図2に示すように、上記の装置A1において、電解質樹脂溶液30が含浸したウエブ状の多孔質材料20Aが上方に移動していくときに、前記領域22中の電解質樹脂溶液30が表面張力等の作用により多孔質材料20Aの表面に余分に付着して引きずられていくことが起こる。このような電解質樹脂溶液の引きずりが起こると、電解質樹脂溶液30が含浸したウエブ状の多孔質材料20Aの厚さが不規則となり、また設計値を越えたものとなる。それを回避するために、装置A1は、多孔質材料20Aに余分に付着している電解質樹脂溶液30を除去するための除去手段として、ブレード42を備える。ブレード42の種類は任意であり、先鋭な先端を持つ板状のブレードであってもよく、空気を噴射するエアブレード等であってもよい。
【0031】
ブレード42で余分な電解質樹脂溶液を除去したウエブ状の多孔質材料20Aは、図1に基づき説明したと同様な乾燥処理あるいは重合処理等を受けることにより、補強膜として機能するウエブ状の多孔質材料20Aに電解質樹脂溶液30が連続的に含浸している複合型電解質膜とされる。上記の装置A1によれば、ウエブ状の複合型電解質膜を高い生産効率で、迅速かつ連続的に製造することができる。
【0032】
図3は、本発明による複合型電解質膜の製造方法および装置のさらに他の実施の態様を示す。この装置A2でも、多孔質材料として、ウエブ状の多孔質材料20Aが用いられる。この装置A2は、電解質樹脂溶液30が収容された液槽10と、ウエブ状の多孔質材料20Aを案内するための上流側ガイドロール11および下流側ガイドロール12と、2つのガイドロール11,12の間に配置された第1の圧縮手段40Aと第2の圧縮手段40Bを備える。2つの圧縮手段40A,40Bは、共に、前記ウエブ状である多孔質材料20Aの送り手段を兼ねた一対のロール41,41で構成されており、その具体的構成は、図2に基づき説明した圧縮手段40を構成する一対のロール41,41と同じである。
【0033】
液槽10は、さらに、液槽10内に収容した電解質樹脂溶液30を循環させるための循環路13を備えており、該循環路13には循環用ポンプ14が配置され、さらに、循環用ポンプ14の吐出側における循環路13には脱泡機15が取り付けてある。循環路13の流入口16は、前記した上流側ガイドロール11の近傍において電解樹脂溶液30の液面レベルに近接した部位に位置しており、循環路13の吐出口17は、下流側ガイドロール12に近い方の圧縮手段40Bの近傍に位置している。
【0034】
この装置A2において、ウエブ状である多孔質材料20Aは、液槽10の外から液槽10内に収容された電解質樹脂溶液30内に入り込み、上流側ガイドロール11に沿って案内された後、第1の圧縮手段40Aおよび第2の圧縮手段40Bのそれぞれロール41,41の間を通過し、さらに下流側ガイドロール12に案内されて電解質樹脂溶液30の外に引き出される。その間に、第1の圧縮手段40Aおよび第2の圧縮手段40Bによる送りと圧縮を受ける。
【0035】
送り方向上流側である第1の圧縮手段40Aにおける一対のロール41,41間を通過するときに、ウエブ状である多孔質材料20Aは所要の圧縮を受けて押し潰され、同時に内部の空気を気泡21として放出する。一対のロール41,41間を通過した後、負荷(圧縮力)は開放され、多孔質材料20Aは自己の復元力により次第に膨張する。その過程で、体積が増大した分だけ、液槽10内の電解質樹脂溶液30は、ウエブ状の多孔質材料20A中に連続して含浸する。
【0036】
一度、膨張しかつ電解質樹脂溶液30が含浸したウエブ状の多孔質材料20Aは、再度、送り方向下流側である第2の圧縮手段40Bにおける一対のロール41,41間を通過する。そのときに、ウエブ状の多孔質材料20Aには再度の圧縮と負荷開放による膨張が生じる。第2の圧縮手段40Bを通過して、再び電解質樹脂溶液30が含浸したウエブ状の多孔質材料20Aは、下流側ガイドロール12に案内されて電解質樹脂溶液30の外に引き出される。
【0037】
ウエブ状の多孔質材料20Aが液槽10内を通過しているときに、前記循環用ポンプ14を作動させ、液槽10内の電解質樹脂溶液30を循環させる。電解質樹脂溶液30中に気泡21が含まれている場合に、気泡21は脱泡機15により除去され、気泡のない電解質樹脂溶液30が再び液層10内に戻される。
【0038】
上記の装置A2において、上流側である第1の圧縮手段40Aの近傍には、そこを通過するウエブ状の多孔質材料20Aから放出された気泡21が存在する可能性が高い。そのために、第1の圧縮手段40Aを通過した直後のウエブ状の多孔質材料20A内に含浸した電解質樹脂溶液30には気泡が含まれる場合がある。上記の装置A2において、送り方向下流側に第2の圧縮手段40Bを配置したのは、その気泡を排除するためである。さらに、前記循環路13の吐出口17を、第2の圧縮手段40Bの近傍に位置させたことにより、充分に脱泡された電解質樹脂溶液30が第2の圧縮手段40Bの近傍に供給されるようになり、一層完全に気泡を含まない電解質樹脂溶液30をウエブ状の多孔質材料20A中に均一に含浸させることができる。
【0039】
この装置A2においても、電解質樹脂溶液30を含浸したウエブ状の多孔質材料20Aが液槽10の外に移動していくときに、液槽10中の電解質樹脂溶液30が表面張力等の作用により多孔質材料20Aの表面に余分に付着して引きずられていくことが起こる。それを除去するために、この装置A2においても、図2に基づく装置A1で説明したと同様のブレード42が、好ましくはさらに備えられる。ここでも、ブレード42は、板状のブレードであってもよく、空気を噴射するエアブレード等であってもよい。
【0040】
その後の乾燥処理、加水分解処理あるいは重合処理等は、図2に基づく装置A1で説明したウエブ状の多孔質材料20Aと同様であり、説明は省略する。
【0041】
なお、上記の装置A2において、所要の高脱気率が複合型電解質膜に得られる場合には、前記圧縮手段40は、上流側の圧縮手段10Aのみであってもよい。また、図示しないが、3組以上の圧縮手段を直列に配置して、より完全な脱気を図るようにしてもよい。その際に、前記循環路13の吐出口17をそれぞれの圧縮手段の近傍に配置することが推奨される。さらに、所要の脱気率である複合型電解質膜が得られる場合には、前記した循環路13や脱泡機15等を省略することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明による複合型電解質膜の製造方法および装置の一実施の態様を説明するための図。
【図2】本発明による複合型電解質膜の製造方法および装置の他の実施の態様を説明するための図。
【図3】本発明による複合型電解質膜の製造方法および装置のさらに他の実施の態様を説明するための図。
【図4】燃料電池の単セルを説明するための図。
【符号の説明】
【0043】
A,A1,A2…複合型電解質膜の製造装置、P…圧縮された多孔質材料の自己復元力、10…液槽、11…上流側ガイドロール、12…下流側ガイドロール、13…電解質樹脂溶液の循環路、14…循環用ポンプ、15…脱泡機、16…循環路の流入口、17…循環路の吐出口、20…多孔質材料、20A…ウエブ状である多孔質材料、21…気泡、22…多孔質材料が元厚みに次第に復元する領域、30…電解質樹脂溶液、40…圧縮手段、40A…第1の圧縮手段、40B…第2の圧縮手段、41,41…圧縮手段を構成する一対のロール、42…余分な電解質樹脂溶液を除去する手段としてのブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強膜として機能する多孔質材料に電解質樹脂が含浸している複合型電解質膜を製造する方法であって、多孔質材料を圧縮する工程と、圧縮後に多孔質材料に生じる復元力を利用して前記多孔質材料に電解質樹脂を含浸させる工程と、を少なくとも含むことを特徴とする複合型電解質膜の製造方法。
【請求項2】
補強膜として機能する多孔質材料に電解質樹脂が含浸している複合型電解質膜を製造する装置であって、多孔質材料を圧縮する圧縮手段と、少なくとも圧縮手段による圧縮から解放されて多孔質材料が元厚みに復元する領域内に電解質樹脂を供給する手段と、を少なくとも備えることを特徴とする複合型電解質膜の製造装置。
【請求項3】
前記圧縮手段はウエブ状である前記多孔質材料の送り手段を兼ねた一対のロールであり、該ロール間を通過することにより多孔質材料は圧縮を受けることを特徴とする請求項2に記載の複合型電解質膜の製造装置。
【請求項4】
前記多孔質材料に電解質樹脂を供給する手段は、前記一対のロールにおける多孔質材料の送り出し側の位置に電解質樹脂を供給する手段であることを特徴とする請求項3に記載の複合型電解質膜の製造装置。
【請求項5】
前記多孔質材料に電解質樹脂を供給する手段は、電解質樹脂溶液が満たされた液槽であり、前記圧縮手段は前記液槽内に配置されていることを特徴とする請求項2または3に記載の複合型電解質膜の製造装置。
【請求項6】
少なくとも2組の前記圧縮手段がウエブ状である多孔質材料の送り方向に配置されており、ウエブ状である多孔質材料は各圧縮手段を連続して通過するようになっていることを特徴とする請求項5に記載の複合型電解質膜の製造装置。
【請求項7】
前記液槽内の電解質樹脂溶液に存在する気泡を除去するための脱泡手段と、脱泡後の電解質樹脂溶液を液槽に戻す送液手段をさらに備えることを特徴とする請求項5または6に記載の複合型電解質膜の製造装置。
【請求項8】
前記送液手段はその吐出口を多孔質材料の送り方向上流側から2つ目あるいはそれ以降に位置する圧縮手段の近傍に位置させていることを特徴とする請求項7に記載の複合型電解質膜の製造装置。
【請求項9】
ウエブ状である前記多孔質材料の送り方向下流側に、多孔質材料に余分に付着している電解質樹脂溶液を除去するための除去手段をさらに備えることを特徴とする請求項3〜8のいずれか一項に記載の複合型電解質膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−211808(P2009−211808A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50273(P2008−50273)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】