説明

複合塗膜および複合塗膜形成方法、塗装物品

【課題】「半透明性」で、かつ塗膜を斜めから見ると「青味調」を呈する複合塗膜形成方法ならびに複合塗膜および塗装物品を提供すること。
【解決手段】基材上に、明度Vが1以上6未満のベース塗膜を形成した後、該ベース塗膜上に、平均粒子径が0.01μm以上1μm未満であり、かつ、その屈折率とクリヤー塗料による塗膜マトリックスの屈折率との差が0.05以上である中実ポリマー微粒子をクリヤー塗料に含有させた上塗り塗料により上塗り塗膜を形成する複合塗膜形成方法、ならびにこの方法により得られる複合塗膜および塗装物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は「半透明性」で、かつ塗膜外観が「青味調」を呈する意匠を発現する複合塗膜およびその形成方法、ならびにその塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
車体、モール等の自動車外装部品、インストルメントパネル、センターコンソール等の自動車内装部品、コンピュータ筐体等の弱電部品などの外観塗装は、高級感のある高い意匠性が求められる。そのような塗装の一例として従来、艶消し塗料による塗装が施されることがあり、樹脂粒子や無機粒子を含む塗料が、表面が凹凸の塗膜を形成して艶消し塗料となることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、平均粒径が1〜15μmの絹粉砕品、ポリエチレンワックス、タルク等である艶消し剤(A)、平均粒径が2〜30μmのアクリル樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子など樹脂粒子である艶消し剤(B)をそれぞれ特定量含有する艶消し塗料組成物を用いることにより、艶消し塗膜でありながら、傷による艶上がりが生ずることなく、汚れが付着しても簡単に除去できる意匠性の高い塗膜を形成することができる艶消し塗料組成物、艶消し塗膜及びそれにより得られる艶消し塗装物品を提供することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、所定量の平均粒径が5〜25μmのウレタン樹脂ビーズ(A)及び平均粒径が1〜20μmの絹粉砕品等有機系艶消し剤(B)を含有するアクリルポリオール含有樹脂溶液とポリイソシアネート含有硬化剤溶液とからなり、ソフト感、しっとり感及びさらさら感の性質が両立した良好な触感を有し、かつ、意匠性、塗膜強度、耐傷付き性、耐色落ち性等をも維持した塗膜を形成することができる2液硬化型ポリウレタン塗料組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1および2の方法では、艶消し塗膜として物性的に好ましいものが得られるが、意匠的には艶消し外観にとどまる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−298686号公報
【特許文献2】特開2005−139273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、自動車外装部品等の塗装に用いて、艶消し塗膜以上の高い意匠性の外観を有する塗膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題に鑑み鋭意研究した結果、特定の明度のベース塗膜を形成し、その上に、平均粒子径が0.01μm以上1μm未満であり、クリヤー塗料による塗膜マトリックスの屈折率との差が0.05以上である中実ポリマー微粒子をクリヤー塗料に含有させた上塗り塗料により上塗り塗膜を形成することにより、「半透明性」で、かつ塗膜外観が「青味調」という高級感のある意匠性を有する複合塗膜が得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)基材上に、明度Vが1以上6未満のベース塗膜を形成した後、該ベース塗膜上に、平均粒子径が0.01μm以上1μm未満であり、かつ、その屈折率とクリヤー塗料による塗膜マトリックスの屈折率との差が0.05以上である中実ポリマー微粒子をクリヤー塗料に含有させた上塗り塗料により上塗り塗膜を形成することにより形成される複合塗膜形成方法;
(2)上塗り塗料における中実ポリマー微粒子の含有量が、クリヤー塗料固形分100質量部に対して1〜30質量部である上記(1)の複合塗膜形成方法;
(3)ベース塗膜が、ソリッド塗料または光輝性塗料により形成されたものである上記(1)又は(2)の複合塗膜形成方法;
(4)基材に、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の複合塗膜形成方法により得られる複合塗膜;
(5)基材に、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の複合塗膜形成方法を施すことにより得られる塗装物品;
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定明度のベース塗膜上に特定のポリマー微粒子をクリヤー塗料に含有させた上塗り塗料による塗膜を形成することにより、「半透明性」で、かつ塗膜を斜めから見ると「青味調」を呈する複合塗膜からなる塗装物を得ることができる。
本発明の複合塗膜がかかる意匠性の外観を呈する機構は次のように推測される。
本発明の複合塗膜は、基材上に形成された明度Vが1以上6未満のベース塗膜上に、平均粒子径が0.01μm以上1μm未満の中実ポリマー微粒子をクリヤー塗料に含有させた上塗り塗料により上塗り塗膜を形成するため、明度が上記範囲より高い場合に比べて、ベース塗膜からの可視光の反射光が弱くなり、空が青く見えることで知られているレーリー散乱に近い現象が起きることにより「青味調」を呈するものと思われる。
【0011】
本発明により得られる複合塗膜は上記意匠を呈するため、自動車、二輪車等の乗物外板、容器外面、コイルコーティング、家電業界等の「半透明性」および「青味調」という高級な意匠外観が要求される分野において好ましく使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳述する。
【0013】
<上塗り塗料>
本発明に用いる上塗り塗料は、平均粒子径が0.01μm以上1μm未満であり、かつ、その屈折率とクリヤー塗料による塗膜マトリックスの屈折率との差が0.05以上である中実ポリマー微粒子をクリヤー塗料に含有させた塗料である。
【0014】
上記中実ポリマー微粒子は、平均粒子径およびクリヤー塗料による塗膜マトリックスの屈折率との差が上記範囲であり、中実のポリマー微粒子であれば、特に制限されず、重合性ビニルモノマーを通常の乳化重合法、分散重合法などにより重合させることで製造することができる。なお、塗膜の耐久性能の観点からは、架橋性ポリマー粒子であることが好ましく、高架橋性ポリマー粒子であることがより好ましい。
【0015】
架橋性の中実ポリマー微粒子は、架橋性ビニルモノマーと重合性ビニルモノマーとを乳化重合もしくは分散重合して得られる。
【0016】
上記架橋性ビニルモノマーとしては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート等が挙げられ、好ましくはジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレートを用いる。
【0017】
また上記架橋性ビニルモノマーと共に用いられる重合性ビニルモノマーとしては、例えばスチレン、α−メチルスチレン等の芳香族モノビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステルモノマー;ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステルモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のモノまたはジカルボン酸およびジカルボン酸の酸無水物;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド系モノマー;等を用いることができる。
【0018】
高架橋性ポリマー粒子を得るための重合方法としては、例えば、特開平3−79604号公報に記載されるように、第1工程で架橋性モノマーを多く含んだ高架橋性モノマー成分を重合させ、第2工程で非架橋性または低架橋性モノマー成分を添加して重合させるという重合方法が挙げられる。
【0019】
本発明における中実ポリマー微粒子の平均粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した粒子径から求める。該平均粒子径は0.01μm以上1μm未満である。0.01μm未満であると中実ポリマー微粒子の合成が困難で、また1μm以上であると青味発色するには粒子径が大き過ぎる粒子が多くなり青味発色が得られない。好ましくは、平均粒子径が0.1μm以上1μm未満である。
【0020】
また、上記中実ポリマー微粒子の屈折率は、クリヤー塗料による塗膜マトリックス(ビヒクルおよび添加剤)との屈折率差が0.05以上である。この屈折率差が0.05未満であると青味発色が得られない。好ましくは、この屈折率差が0.05以上1未満である。塗膜マトリックスの屈折率の測定は、乾燥フィルムにしてAbbe型屈折率計により行う。また、中実ポリマー微粒子の屈折率は計算値(ベッケ法)により求めた。
【0021】
上塗り塗料における前記中実ポリマー微粒子の含有量は、クリヤー塗料固形分100質量部に対して1〜30質量部であることが好ましい。1質量部未満であると、青味発色が得られない恐れがあり、また30質量部を超えると、塗膜の平滑性および塗膜外観が低下する恐れがある。より好ましくは、3〜20質量部である。
【0022】
本発明の上塗り塗料は、クリヤー塗料のビヒクル中に平均粒子径が0.01μm以上1μm未満であり、かつその屈折率とクリヤー塗料による塗膜マトリックスの屈折率との差が0.05以上である中空ポリマー微粒子を、好ましくは上記架橋性ビニルモノマーおよび重合成ビニルモノマーを重合させた中実ポリマー微粒子を分散させたものであって、ビヒクルは、塗膜形成用樹脂と必要に応じて用いられる架橋剤とから構成される。
【0023】
上記クリヤー塗料のビヒクルを構成する塗膜形成用樹脂としては、例えば、(a)アクリル樹脂、(b)ポリエステル樹脂、(c)アルキッド樹脂、(d)フッ素樹脂、(e)エポキシ樹脂、(f)ポリウレタン樹脂、(g)ポリエーテル樹脂等が挙げられ、特に、アクリル樹脂、およびポリエステル樹脂が、耐候性の点より好ましく用いられる。これらは、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
また、上記塗膜形成用樹脂には、硬化性を有するタイプと硬化性を有しないラッカータイプとがあるが、通常、硬化性を有するタイプのものが使用される。硬化性を有するタイプの場合には、アミノ樹脂や(ブロック)ポリイソシアネート化合物、アミン系、ポリアミド系、多価カルボン酸等の架橋剤と混合して使用に供され、加熱または常温で硬化反応を進行させることができる。また、硬化性を有しないタイプの塗膜形成用樹脂と硬化性を有するタイプとを併用することも可能である。
【0025】
上記(a)アクリル樹脂としては、アクリル系モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体が挙げられる。上記共重合に使用し得るアクリル系モノマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル等のエステル化物類、アクリル酸またはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物類、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびN−メチロールアクリルアミド、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらと共重合可能な上記他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0026】
上記(b)ポリエステル樹脂としては、飽和ポリエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂が挙げられ、例えば、多塩基酸と多価アルコールを加熱縮合して得られた縮合物が挙げられる。多塩基酸としては、飽和多塩基酸、不飽和多塩基酸が挙げられ、飽和多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸が挙げられ、不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸が挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、二価アルコール、三価アルコールが挙げられ、二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコールが挙げられ、三価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパンが挙げられる。
【0027】
上記(c)アルキッド樹脂としては、上記多塩基酸と多価アルコールにさらに油脂・油脂脂肪酸(大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸等)、天然樹脂(ロジン、コハク等)等の変性剤を反応させて得られたアルキド樹脂を用いることができる。
【0028】
上記(d)フッ素樹脂としては、フッ化ビニリデン樹脂、四フッ化エチレン樹脂のいずれかまたはこれらの混合体、フルオロオレフィンとヒドロキシ基含有の重合性化合物およびその他の共重合可能なビニル系化合物からなるモノマー混合物を共重合させて得られる各種フッ素系共重合体からなる樹脂が挙げられる。
【0029】
上記(e)エポキシ樹脂としては、ビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応によって得られる樹脂等が挙げられる。ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールA、Fが挙げられる。上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、エピコート828、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(いずれも商品名、シェルケミカル社製)が挙げられ、またこれらを適当な鎖延長剤を用いて鎖延長したものも用いることができる。
【0030】
上記(f)ポリウレタン樹脂としては、アクリル、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等の各種ポリオール成分とポリイソシアネート化合物との反応によって得られるウレタン結合を有する樹脂が挙げられる。上記ポリイソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、およびその混合物(TDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(4,4’−MDI)、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート(2,4’−MDI)、およびその混合物(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジシクロへキシルメタン・ジイソシアネート(水素化HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(HXDI)等が挙げられる。
【0031】
上記(g)ポリエーテル樹脂としては、エーテル結合を有する重合体または共重合体であり、ポリオキシエチレン系ポリエーテル、ポリオキシプロピレン系ポリエーテル、またはポリオキシブチレン系ポリエーテル、またはビスフェノールAもしくはビスフェノールFなどの芳香族ポリヒドロキシ化合物から誘導されるポリエーテル等の1分子当たりに少なくとも2個の水酸基を有するポリエーテル樹脂が挙げられる。また上記ポリエーテル樹脂とコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の多価カルボン酸類、あるいは、これらの酸無水物等の反応性誘導体とを反応させて得られるカルボキシル基含有ポリエーテル樹脂が挙げられる。
【0032】
上記ビヒクルが架橋剤を含む場合、塗膜形成用樹脂と架橋剤の割合としては、固形分換算で塗膜形成用樹脂が90〜50質量%、架橋剤が10〜50質量%であり、好ましくは塗膜形成用樹脂が85〜60質量%であり、架橋剤が15〜40質量%である。架橋剤が10質量%未満では塗膜中の架橋が十分でないことがある。一方、架橋剤が50質量%を超えると塗料組成物の貯蔵安定性が低下するとともに硬化速度が大きくなるため、塗膜外観が悪くなることがある。
【0033】
また上記ビヒクルとして、特公平8−19315号公報に記載されたカルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーとを組み合わせたものが、耐酸性雨対策という観点から好ましく用いられる。
【0034】
また、上記クリヤー塗料は、「半透明性」、かつ塗膜を斜めから見ると「青味調」を呈することを妨げない範囲で、必要に応じてアゾレーキ顔料、黄色酸化鉄等の着色顔料およびタルク等の体質顔料を配合することが可能である。
【0035】
さらに、上記クリヤー塗料は、上記成分の他に、ポリアミドワックス、ポリエチレンワックス、硬化触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコンや有機高分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤等を適宜添加することができる。これらの添加剤は、通常、上記ビヒクル100質量部(固形分基準)に対して15質量部以下の割合で配合することにより、塗料や塗膜の性能を改善することができる。
【0036】
上記クリヤー塗料は、上記構成成分を、通常、溶剤に溶解または分散した態様で提供される。溶剤としては、ビヒクルを溶解または分散するものであればよく、有機溶剤および/または水を使用し得る。有機溶剤としては、塗料分野において通常用いられるものを挙げることができる。例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ等のエステル類、アルコール類を例示できる。環境面の観点から有機溶剤の使用が規制されている場合には、水を用いることが好ましい。この場合、適量の親水性有機溶剤を含有させてもよい。
また上記クリヤー塗料は、有機溶剤型、水性または粉体型いずれの形態であってもよい。有機溶剤型および水性塗料としては、一液型であってもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型であってもよい。
【0037】
本発明の上塗り塗料においては、平均粒子径が0.01μm以上1μm未満であり、かつその屈折率とクリヤー塗料による塗膜マトリックスの屈折率との差が0.05以上である中空ポリマー微粒子を、好ましくは上記架橋性ビニルモノマーおよび重合成ビニルモノマーを含有する中実ポリマー微粒子をクリヤー塗料中によく分散させることが必要である。
【0038】
<複合塗膜形成方法>
本発明の複合塗膜形成方法は、基材に、まず第1の工程として、明度Vが1以上6未満のベース塗膜を形成した後、該ベース塗膜上に、上記上塗り塗料により上塗り塗膜を形成する。
【0039】
上記基材としては、限定されるものでなく、鉄、アルミニウム、銅またはこれらの合金等の金属類;ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂類や各種のFRP等のプラスチック材料;木材、繊維材料(紙、布等)等の天然または合成材料等が挙げられる。
【0040】
本発明の複合塗膜形成方法においては、上記基材に直接または下地塗膜を介して明度Vが1以上6未満のベース塗膜を形成するが、本発明の複合塗膜形成方法により塗装される基材が自動車車体および部品等の場合は、予め上記基材に化成処理、電着塗装等による下塗り塗装、必要によっては中塗り塗装等を施しておくのが好ましい。上記中塗り塗装は、下地の隠蔽、耐チッピング性の付与および上塗りとの密着性確保のために行われるものである。
【0041】
上記基材へのベース塗膜の形成には、ソリッド塗料または光輝性塗料が用いられる。
上記基材が下塗り、中塗り塗料等により下地塗装をしたものである場合には、得られた下地塗膜に対してウェットオンウェット(W/W)法、またはウェットオンドライ(W/D)法により上記ソリッド塗料または光輝性塗料を塗装することができる。
【0042】
上記W/W法とは下地塗装をした後、風乾等により乾燥し、未硬化状態または半硬化状態の下地塗膜に塗り重ねる塗装方法であり、これに対して、上記W/D法とは焼き付けて硬化させた下地塗膜に塗り重ねる塗装方法である。
【0043】
本発明のベース塗膜の明度Vは1以上6未満である。この範囲を外れると本発明の「半透明性」で、かつ塗膜を斜めから見ると「青味調」を呈することができない。好ましい明度Vは、1以上4未満である。
なお、明度Vは、マンセル値の明度(Value)で色差計(SMカラーコンピューターSM−T:スガ試験機)によって測定する。その際、膜厚は白黒隠ペイ試験での隠ペイ膜厚で測定した。
【0044】
上記ソリッド塗料または光輝性塗料は、塗料固形分中の含有量が0.1〜30質量%となる着色顔料および/または光輝性顔料を含むのが好ましい。
上記着色顔料および/または光輝性顔料の含有量が0.1質量%未満では、着色力が不十分となり、30質量%を超えるとベース塗膜及び複合塗膜の平滑性、さらに複合塗膜の塗膜外観が低下する恐れがある。より好ましい含有量は、塗料固形分中3〜20質量%である。
【0045】
上記ソリッド塗料には、従来から塗料用として常用されている着色顔料を配合する。このような着色顔料として、有機顔料としては、例えば、アゾレーキ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジコ系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等が挙げられ、また、無機顔料としては、例えば、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン、カーボンブラックが挙げられる。
【0046】
また、光輝性塗料に含有される光輝性顔料は、従来から塗料用として常用されているアルミニウムフレーク顔料、マイカフレーク顔料、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料、チタンフレーク顔料、ホログラム顔料等より選ばれた少なくとも一種の各種フレーク顔料、メタリック顔料を挙げられる。
【0047】
上記ソリッド塗料または光輝性塗料は、前記クリヤー塗料で用いるのと同様なビヒクル中に上記着色顔料および/または光輝性顔料を分散するものである。
上記ソリッド塗料または光輝性塗料は、上記成分の他に、上記クリヤー塗料で用いるのと同様な添加剤を配合することにより、塗料や塗膜の性能を改善することができる。
上記ソリッド塗料または光輝性塗料は、上記クリヤー塗料で用いるのと同様な溶剤に溶解または分散したワニスの態様で提供される。環境面の観点から有機溶剤の使用が規制されている場合には、水を用いることが好ましい。この場合、適量の親水性有機溶剤を含有させてもよい。
【0048】
また上記ソリッド塗料または光輝性塗料は、有機溶剤型、水性または粉体型いずれの形態であってもよい。有機溶剤型および水性塗料としては、一液型であってもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型であってもよい。
【0049】
上記ソリッド塗膜または光輝性塗膜を基材に対して形成する方法は特に限定されないが、スプレー法、ロールコーター法等が好ましい。上記ソリッド塗料または光輝性塗料を塗装したベース塗膜の乾燥膜厚は、1〜20μmが好ましく、この範囲の乾燥膜厚を維持することにより、「半透明性」で、かつ塗膜を斜めから見ると「青味調」を呈する複合塗膜を好適に得ることができる。
【0050】
本発明の複合塗膜形成方法では、次いで第2の工程として、明度Vが1以上6未満のベース塗膜を形成した後、上記ベース塗膜上に、好ましくはW/W法により、本発明の前記上塗り塗料組成物を用いて上塗り塗膜を形成する。上記上塗り塗料をスプレー法、ロールコーター法等のよく知られた方法により塗装することにより、上記上塗り塗膜が形成される。上塗り塗膜の乾燥膜厚は、5〜50μmが好ましく、この範囲の乾燥膜厚を維持することにより、「半透明性」で、かつ塗膜を斜めから見ると「青味調」を呈する複合塗膜を好適に得ることができる。
【0051】
本発明の好ましい態様であるW/W法による複合塗膜形成方法では、次いで第3の工程として、上記ベース塗膜、および上記上塗り塗膜を同時に硬化させることにより、「半透明性」で、かつ塗膜を斜めから見ると「青味調」を呈する複合塗膜を得ることができる。硬化させるための焼き付け条件として、好ましくは120〜160℃で5〜60分間焼き付ける。
【0052】
<複合塗膜および塗装物品>
本発明の複合塗膜および塗装物品は、自動車外板、容器外面等の基材上に、上記複合塗膜形成方法により、好ましくは2コート1ベーク方式(W/W法)で塗装されたものであって、基材に対して、明度Vが1以上6未満のベース塗膜を形成した後、上記ベース塗膜上に、前記上塗り塗料による上塗り塗膜が形成されている。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、配合量は特に断りのない限り質量部を表す。また、原材料、塗料、機器の名称は、特に断りのない限り商品名を表す。
【0054】
実施例1〜13、比較例1〜6
基材の調製
ダル鋼板(長さ300mm、幅100mmおよび厚さ0.8mm)を燐酸亜鉛処理剤(「サーフダインSD2000」、日本ペイント社製)を使用して化成処理した後、カチオン電着塗料(「パワートップU−50」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が25μmとなるように電着塗装した。次いで、160℃で30分間焼き付けた後、中塗り塗料(「オルガS−90シーラーグレー」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が40μmとなるようにエアースプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けて中塗り塗膜を形成し、基材とした。
【0055】
光輝性塗料およびソリッド塗料
アクリル樹脂と、メラミン樹脂(「ユーバン20SE」、三井化学社製、固形分60質量%)とを80:20の固形分質量比で配合して得た下記の塗料を、有機溶剤(トルエン/キシレン/酢酸エチル/酢酸ブチルの質量比=70/15/10/5)とともにディスパー攪拌機により塗装適正粘度になるように攪拌混合し、ベース塗膜形成のための光輝性塗料およびソリッド塗料とした。
ソリッド塗料A:「オルガTO650PZ」、日本ペイント社製、乾燥塗膜の明度Vが1(カーボンブラック顔料含有)
ソリッド塗料B:「オルガTO650調色#1」、日本ペイント社製、乾燥塗膜の明度Vが5(カーボンブラック、二酸化チタン顔料含有)
ソリッド塗料C:「オルガTO650調色#2」、日本ペイント社製、乾燥塗膜の明度Vが7(カーボンブラック、二酸化チタン顔料含有)
光輝性塗料A:「スーパーラックM−350調色#3」、日本ペイント社製、乾燥塗膜の明度Vが3(カーボンブラック、マイカフレーク顔料含有)
光輝性塗料B:「スーパーラックM−350調色#4」、日本ペイント社製、乾燥塗膜の明度Vが7(マイカフレーク顔料含有)
【0056】
上塗り塗料
カルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーとを含有するクリヤー塗料A (「マックフローO−520クリヤー」、日本ペイント社製)、アクリル/メラミン樹脂系のクリヤー塗料B(「スーパーラックO−130クリヤー」、日本ペイント社製)、またはアクリルウレタン樹脂系2液型のクリヤー塗料C(「naxアドミラクリヤー」、日本ペイント社製)の3種類のクリヤー塗料と、以下に示す各微粒子とを微粒子が表1に示す含有量となるよう混合し、各々、塗装適正粘度になるように粘度調整用溶剤有機溶剤(トルエン/キシレン/酢酸エチル/酢酸ブチルの質量比=70/15/10/5)を加えてディスパー攪拌機により攪拌混合して、上塗り塗料を調製した。別途、Abbe型屈折率計により測定した各クリヤー塗料の塗膜の屈折率は、クリヤー塗料Aの塗膜:1.52、クリヤー塗料Bの塗膜:1.54、クリヤー塗料Cの塗膜:1.51であった。
【0057】
微粒子
微粒子A:平均粒子径0.3μm、屈折率1.60のスチレン/ジビニルベンゼン/エチルビニルベンゼン/メタクリル酸の共重合体である中実ポリマー微粒子
微粒子B:平均粒子径0.8μm、屈折率1.60のスチレン/ジビニルベンゼン/エチルビニルベンゼン/メタクリル酸の共重合体である中実ポリマー微粒子
微粒子C:平均粒子径0.3μm、屈折率1.55のスチレン/ジビニルベンゼン/エチルビニルベンゼン/メタクリル酸の共重合体である中実ポリマー微粒子(微粒子Aに比べて、スチレンの含有割合が少ない)
微粒子D:平均粒子径0.3μm、屈折率1.60のスチレン/ジビニルベンゼン/エチルビニルベンゼン/メタクリル酸の共重合体である中空ポリマー微粒子
微粒子E:平均粒子径14μmのシリカ無機微粒子
【0058】
複合塗膜の形成
基材の被塗面に、表1に示すソリッド塗料または光輝性塗料を乾燥膜厚が15μmとなるように塗装して25℃で5分間セッティングし、その上に、表1に示す上塗り塗料を乾燥膜厚が35μmとなるように塗装して室温で10分間セッティングし、140℃の温度で30分間焼き付けた。
なお、比較例1および2は、上塗り塗料として、ポリマー微粒子を含有しないクリヤー塗料により上塗り塗膜を形成し、比較例3は、中空ポリマー微粒子を含有する上塗り塗料により上塗り塗膜を形成し、比較例4は、無機の微粒子を含有した上塗り塗料により上塗り塗膜を形成し、比較例5は、明度Vが7のソリッド塗料により形成したベース塗膜に中実ポリマー微粒子を含有した上塗り塗料により上塗り塗膜を形成し、また比較例6は、明度Vが7の光輝性塗料により形成したベース塗膜に中実ポリマー微粒子を含有した上塗り塗料により上塗り塗膜を形成した。
得られた複合塗膜が形成された試験板について透明性および青味調を目視で評価した。結果を表1に示す。
【0059】
評価方法
透明性:試験板を目視で評価した。
3…半透明塗膜として顕著に認められる
2…半透明塗膜として認められる
1…半透明塗膜として認められない
青味調:試験板を目視で評価した。
3…塗膜を斜めから見たときに青味感が顕著に認められる
2…塗膜を斜めから見たときに青味感が認められる
1…塗膜を斜めから見たときに青味感が認められない
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果から明らかなように、本実施例は、本発明の複合塗膜形成方法により複合塗膜を形成したもので、「半透明性」で、かつ塗膜を斜めから見ると「青味調」を呈する意匠を発現した。一方、比較例の複合塗膜は、「半透明性」で、かつ塗膜を斜めから見ると「青味調」を呈することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、明度Vが1以上6未満のベース塗膜を形成した後、該ベース塗膜上に、平均粒子径が0.01μm以上1μm未満であり、かつ、その屈折率とクリヤー塗料による塗膜マトリックスの屈折率との差が0.05以上である中実ポリマー微粒子をクリヤー塗料に含有させた上塗り塗料により上塗り塗膜を形成する複合塗膜形成方法。
【請求項2】
上塗り塗料における中実ポリマー微粒子の含有量が、クリヤー塗料固形分100質量部に対して1〜30質量部である請求項1に記載の複合塗膜形成方法。
【請求項3】
ベース塗膜が、ソリッド塗料または光輝性塗料により形成されたものである請求項1又は2に記載の複合塗膜形成方法。
【請求項4】
基材に、請求項1〜3のいずれかに記載の複合塗膜形成方法により得られる複合塗膜。
【請求項5】
基材に、請求項1〜3のいずれかに記載の複合塗膜形成方法を施すことにより得られる塗装物品。

【公開番号】特開2007−222734(P2007−222734A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45066(P2006−45066)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】