複合材の加工方法及び複合材の加工装置
【課題】厚板の複合材で構成された大型構造部材においても、加工部周辺の熱影響を抑えつつ、ワークに垂直な加工壁面や、垂直穴を形成できる複合材の加工装置および加工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】複合材の加工方法は、光源と、光源から発振されるレーザ光2を偏向させる偏向部3(3a、3b)と、偏向されたレーザ光2を集光させるfθレンズ4と、を備える加工装置を用い、fθレンズの中心線7と前記fθレンズで集光されたレーザ光の中心線8とのなす照射角度(φ)が、集光されたレーザ光2の収束角度(δ)以上となるようレーザ光2を被加工部材1の加工壁面が形成される箇所に照射する。
【解決手段】複合材の加工方法は、光源と、光源から発振されるレーザ光2を偏向させる偏向部3(3a、3b)と、偏向されたレーザ光2を集光させるfθレンズ4と、を備える加工装置を用い、fθレンズの中心線7と前記fθレンズで集光されたレーザ光の中心線8とのなす照射角度(φ)が、集光されたレーザ光2の収束角度(δ)以上となるようレーザ光2を被加工部材1の加工壁面が形成される箇所に照射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材の加工方法及び複合材の加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機の翼などの構造部材には、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの複合材が使用される。CFRPは、エポキシ系樹脂などのマトリクスを介して炭素繊維シートを多数枚積層したものである。炭素繊維は、ルツボに使用される黒鉛と同質であり、耐熱性が高く、難削材である。エポキシ系樹脂は、可燃性であり、軟化点が100℃程度と耐熱性が低い。
【0003】
複合材の切断・穴あけなどの加工は、現状、ドリル刃を用いた機械加工で実施されている。しかしながら、上記手法は、加工時の工具消耗が激しく、刃の再研磨や交換刃など消耗品費用が高額となる。そのため、加工時に工具等が消耗しない加工方法として、レーザを用いた加工方法の開発が行われている(特許文献1参照)。
【0004】
レーザを用いて穴をあける場合、通常、図12に示すように、大穴の中央に加工開始点の貫通穴あけ(ピアシング)を行った後、焦点位置は一定で、レーザ光を大穴の輪郭を円弧状に1周させて加工する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−334594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、レーザ加工装置では、レーザ発振器から発振されたレーザが、集光レンズを介して集光されてワーク(被加工材)面に照射される。そのため、加工形状は、レーザ光のエッジ形状(円錐形状)に依存し、テーパ形状となる。航空機の翼では、ボルト締め固定のために複合材に穴あけが行われるため、穴壁面が垂直壁であることが好ましい。そのため、テーパ角が大きい場合、ドリルなどで追加工を行い垂直壁を形成させる必要が生じる。
【0007】
特許文献1では、大穴中央のピアシングの後、焦点位置をワーク下面に設定して、円錐状の集光ビームエッジがワーク上面に垂直になるように、ワーク支持台を傾けて、穴壁面を垂直に加工する方法が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法は、ワ−クを傾けるために支持台の複数の支持点の高さを変えつつ、XY軸移動を行うため、制御が複雑である。また、ワークが航空機の翼のような大型の構造物である場合、ワークを動かすのが困難となる。また、ワークが厚板の場合、貫通させながらの円周加工ができない場合があるという課題がある。
【0008】
また、集光レンズで集光されたレーザ光は、断面のエネルギー分布がガウス分布である。図13及び図14に、このようなレーザ光を用いて穴あけした加工部の一例を示す。レーザ光の焦点位置をワーク内部に設定して照射すると、加工閾値以上のエネルギー領域で、除去加工が進行する(図13)。
【0009】
加工しながら焦点位置を下げていくと、ワーク上面に照射されるレーザ光の径は広がる(図13)。レーザ光の径が広がると、断面のエネルギー分布もブロードになる。そのため、レーザ光周縁部ではエネルギー密度が小さくなり、加工閾値に達しないケラレ部分が生じる。すなわち、レーザ光の焦点位置を下げていくと、ワーク上面では、レーザ光周縁部がケラレてしまい、集光されたレーザ光の中心部分のみが加工部内に入ることになる。加工部の上部内壁面は、レーザ照射方向となす角度が小さい。そのため、壁面に照射される単位面積当たりのレーザエネルギー密度が小さく、加工部上部の穴径は拡大されにくい。従って、加工部内に到達する光量が減少し、底の穴径が小さくなるため、加工が途中で進まなくなることがある。例えば、厚板の加工対象物の穴あけ加工の際に、ピアシングできない、または、ピアシングができたとしても、レーザ光を貫通させながら円周加工ができないという問題を生じる。
【0010】
また、加工部の上部は、レーザ光の焦点位置を下げている間も、レーザ光が照射され続けているため、熱影響を受け変質する。このとき、レーザパワーを増加しても、貫通に至ることなく加工部周辺の温度が上昇する場合がある。
【0011】
CFRPは、樹脂を含むため金属に比べて熱伝導性が低く、レーザ加工の際に、レーザ光からの熱が加工部周辺で蓄熱され、加工部周辺の温度が上昇しやすい。CFRPの厚板加工では、レーザ光からの入熱が大きくなるため、加工部周辺が溶融し、加工精度の悪化、層間剥離、樹脂の熱変質といった問題が発生する。また、CFRPの厚板加工では、加工部周辺が400℃以上となり、溶けた樹脂が炭素繊維シートの孔から噴出し、燃えることもある。これに対して、金属やセラミック板は不燃性であるため、溶融物の排出は問題とならない場合が多い。このように、CFRPのような複合材の厚板加工は、金属やセラミックの厚板加工に比べて難しい面が多い。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、厚板の複合材で構成された大型構造部材においても、加工部周辺の熱影響を抑えつつ、ワークに垂直な加工壁面や、垂直穴を形成できる複合材の加工装置および加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、光源と、光源から発振されるレーザ光を偏向させる偏向部と、前記偏向されたレーザ光を集光させるfθレンズと、を備える加工装置を用い、fθレンズの中心線と前記fθレンズで集光されたレーザ光の中心線とのなす照射角度(φ)が、前記集光されたレーザ光の収束角度(δ)以上となるようレーザ光を被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射する複合材の加工方法を提供する。
【0014】
上記発明によれば、fθレンズを用いることで、偏向部で偏向されたレーザ光を平らな像面に収束させ、容易に等速度スキャンすることができるため、高速でレーザ加工することができるようになる。照射角度(φ)と収束角度(δ)とを、φ≧δとして被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射することで、加工領域の中心における接線に垂直な線に平行な加工壁面を形成することができる。また、レーザ光の照射角度を偏向部で制御できるため、被加工部材を傾ける必要がなく、複雑なステージ制御や基板高さ制御は不要である。
【0015】
上記発明の一態様において、前記被加工部材にレーザ光を照射して、加工壁面が形成される箇所の上部から所定形状の溝を形成した後、前記レーザ光の照射位置を前記溝の幅よりも小さい距離だけ移動させて、同一焦点面内に、複数の別の溝を段階的に形成させ焦点面溝とすると良い。
【0016】
レーザ光の照射位置を溝の幅、言い換えると、レーザ光のスポット径よりも小さい距離だけ移動させることで、焦点面溝を構成する各溝同士が重なるため、凹凸の少ない焦点面溝を形成することができる。
【0017】
上記発明の一態様において、前記複数の別の溝を、前記加工壁面から離れる方向に、段階的に形成させると良い。
【0018】
そのようにすることで、加工壁面付近に長時間、継続してレーザ光が照射されないため、被加工部材の加工壁面付近への蓄熱が少なくなる。そのため、被加工部材(複合材)の加工壁面付近での温度上昇を抑制することができ、熱変質が生じにくくなる。
【0019】
上記発明の一態様において、前記溝と前記複数の別の溝とからなる焦点面溝を、その開口幅が所定距離となるよう形成した後、焦点面を前記溝の深さだけ下げ、開口幅が先の焦点面溝よりも狭い別の焦点面溝を形成する工程を繰り返し、前記加工壁面の下部に向かって近づくよう傾斜された側面を前記加工壁面に対向する側に有し、且つ、被加工部材を貫通する穴を形成すると良い。
【0020】
上記一態様によれば、ワークの上部に形成される焦点面溝の開口幅を広く、板厚方向下部にいくに従って開口幅が狭くなるような穴が形成される。それによって、焦点位置を下げながら加工しても、ワーク上部でレーザ光のケラレが生じない。従って、加工が止まることなく確実に被加工部材の切断や開溝ができるようになる。また、間口が広くなるため、加工部分に吹き付けられる空気などのアシストガスが深部まで入りやすくなる。それによって、加工部分を効率よく冷却することができ、加工壁面周辺の熱変質が抑制される。
【0021】
また、本発明は、光源と、光源から発振されるレーザ光を偏向させる偏向部、及び前記偏向されたレーザ光を集光させるfθレンズで構成された光学系と、fθレンズの中心線と前記fθレンズで集光されたレーザ光の中心線とのなす照射角度(φ)が、前記集光されたレーザ光の収束角度(δ)以上となるようレーザ光を被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射するよう前記光学系を制御する制御部とを備える複合材の加工装置を提供する。
【0022】
上記発明によれば、fθレンズを備えることで、偏向部で偏向されたレーザ光を平らな像面に集光させ、容易に等速度スキャンすることができるため、高速でレーザ加工することができる。制御部を備えることで、照射角度(φ)と収束角度(δ)とを、φ≧δとして被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射させることができるため、加工領域の中心における接線に垂直な線に平行な加工壁面を形成することができる。また、レーザ光の照射角度を光学系で制御できるため、被加工部材を傾ける必要がなく、複雑なステージ制御や基板高さ制御が不要となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、fθレンズを備えたレーザ加工装置を用い、照射角度≧収束角度となるようレーザ光を被加工部材に照射することで、加工壁面をワーク上面に垂直に加工することができる。航空機の翼や自動車ボンネットのような複合材を用いた大型構造物の穴あけや切断にも対応しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態で使用する加工装置を説明する図である。
【図2】fθレンズへの入射角度とレーザ光の照射角度との関係を説明する図である。
【図3】穴あけ加工を施した加工部分を説明する図である。
【図4】図3(b)の破線領域Zの拡大図である。
【図5】穴あけ加工を施した加工部分を説明する図である。
【図6】切断加工を施した加工部分を説明する図である。
【図7】残材のN側端部の加工方法を説明する図である。
【図8】溝加工後の被加工部材の斜視図である図である。
【図9】溝加工の一例を説明する図である。
【図10】溝加工の別の一例を説明する図である。
【図11】溝加工の更に別の一例を説明する図である。
【図12】従来の穴あけ加工方法を説明する図である。
【図13】レーザ光を用いて穴あけした加工部の一例を示す図である。
【図14】レーザ光を用いて穴あけした加工部の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係る複合材の加工方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第1実施形態〕
本実施形態で加工される被加工部材1は、複合材とされ、プリプレグなどの複合材料が複数積層された層を備える。複合材は、繊維で強化された樹脂からなる。繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド樹脂(ケブラー)等の樹脂繊維、ステンレス等の金属繊維、アルミナ等のセラミックス繊維、または木材チップなどが用いられる。樹脂としては、エポキシ系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、またはアクリル樹脂などが用いられる。複合材は、チタンなどの金属材料の上に複合材からなる層が形成された部材であっても良い。
【0026】
本実施形態で使用する加工装置を、図1を参照して説明する。
本実施形態で使用するレーザ加工装置は、レーザ光2を発振させる光源と、レーザ光2を偏向させる偏向部3、及び偏向されたレーザ光2が通過するfθレンズ4で構成された光学系とを備える。
光源は、図示しないが、紙面に垂直な方向にレーザ光2を発振するよう偏向部3aの紙面奥側に配置されている。
【0027】
偏向部3は、ガルバノミラー系またはポリゴンミラー系のいずれかとされる。本実施形態では、ガルバノミラー系を用いる。ガルバノミラー系は、第1ガルバノミラー3aと第2ガルバノミラー3bとを備えている。第1ガルバノミラー3aは、軸回転可能であり、光源から発信されたレーザ光2を第2ガルバノミラー3bに向けて偏向させることができる。第2ガルバノミラー3bは、第1ガルバノミラー3aの軸に対して垂直方向に軸回転可能であり、第1ガルバノミラー3aで偏向されたレーザ光2を偏向させ、所望の角度でfθレンズ4へ入射させることができる。
【0028】
fθレンズ4は、有効焦点距離fのfθレンズ4へレーザ光が入射角度θで入射された場合、fθレンズ系の中心線7の焦点位置6から中心線に対して垂直方向に、X=fθ離れた位置に焦点を結ぶように設計されたレンズである。fθレンズ4に入射されたレーザ光は、平らな焦点面(像面)5に集光される。fθレンズ4は、所望の焦点面5及び収束角度(δ)を得られるレンズが適宜選択される。fθレンズ4は、複数枚組み合わせられたfθレンズ系として使用されても良い。
なお、偏向部及びfθレンズを含む光学系は、上下方向に移動することができる。
【0029】
次に、上記加工装置を用いた複合材の加工方法を説明する。
上記構成の加工装置を、被加工部材の加工したい領域面の中心6における垂直線上に、fθレンズ4またはfθレンズ系の中心線7を合せて配置する。また、偏向部3及びfθレンズ4を含む光学系を、焦点面5が被加工部材2の上表面と略一致するような高さに配置する。
【0030】
上記加工装置において、光源からレーザ光2を発振すると、レーザ光2は、第1ガルバノミラー3aで第2ガルバノミラー3bに向けて偏向される。該偏向されたレーザ光2は、第2ガルバノミラー3bでfθレンズ4に向かって偏向される。このとき、照射角度(Φ)が、fθレンズ4で集光されたレーザ光2の収束角度(δ)と同等以上の大きさとなるように、光学系を制御する。具体的には、fθレンズ4へのレーザ光2の入射角度(θ)を設定する。
【0031】
収束角度(δ)とは、レーザ光2の中心線8とレーザ光2の外周線9(エッジライン)との間の角度である。照射角度(Φ)とは、fθレンズの中心線7とfθレンズ4で集光されたレーザ光の中心線8との間の角度である。図2では、中心線7を平行移動させた線7aを示す。Φは、焦点面からみたレーザ光2の仮想中心における振れ角でもある。入射角度(θ)とは、fθレンズの中心線7とレーザ光の中心線8との間の角度である。
【0032】
レーザ光2のfθレンズ4への入射角度とレーザ光の照射角度との関係を、図2を参照して説明する。
図2(a):
レーザ光2のfθレンズ4への入射角(θ)がθ=0のとき、照射角度(Φ)はΦ=0となる。すなわち、レーザ光の中心線8が、被加工部材1の加工したい面領域の中心における垂線と重なるとともに、焦点面5に対して垂直に照射される。
【0033】
図2(b)及び図2(c):
レーザ光2のfθレンズ4への入射角(θ)がθ>0のとき、照射角度(Φ)はΦ>0となる。ここで、照射角度(Φ)と収束角度(δ)とを、Φ=δとすると、レーザ光の一エッジライン9が、焦点面5に対して垂直な線と重なる(図2(b))。また、Φ>δとすると、図2(c)のように、被加工部材5の加工したい領域面の中心から離れる方向Xに向けて焦点を移動させることができる。このような角度のレーザ光2を用いて複合材を加工すると、複合材に垂直壁を形成することができる。
【0034】
上記のように、レーザ光の入射角度(θ)を変化させることにより、穴半径などの加工範囲を制御することができる。
例えば、レーザ光の焦点から有効焦点距離fだけ光源側にさかのぼった位置におけるレーザ光の径をdとする。f=180mm、d=12mm、のとき焦点のスポット径は30μmである。この値は、dに比べかなり小さいため、レーザ光の収束角度(δ)は、d/2fで近似できるものと仮定すると、δ=0.033rad(1.9°)となる。
【0035】
次に、穴あけ加工を例として、レーザ光2の照射手順を説明する。本実施形態のレーザ光の照射手順は、焦点面溝を形成する工程と、貫通穴を形成する工程とから構成される。図3は、穴あけ加工を施した加工部分を説明する図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のX−X線における断面図、(c)は上面図を示す。図4は、図3(b)の破線領域Zの拡大図である。
【0036】
焦点面溝を形成する工程では、まず、照射位置を加工壁面が形成される箇所の上部の加工開始点(C)に合わせたレーザ光2を所定の形状(輪郭)に沿って照射して図3(c)に示すように溝C1を形成させる。本実施形態における所定の形状は、ボルト締めするためのボルト孔を想定した円形(半径fθ)とされる。
レーザ光の照射条件(パルス周波数、パワー等)は、使用する加工装置や被加工部材の材質などによって適宜設定される。レーザ光の発振方式は、パルス発振または連続発振のいずれであっても良い。
【0037】
炭素繊維で強化されたエポキシ樹脂からなる複合材を被加工部材とする場合、例えば、パルス幅300f(フェムト)秒、波長532nmのレーザ加工装置を使用し、パルス周波数20kHz、パワー1.2wの条件でレーザ光を照射すると、加工深さ(Δt)が0.06mmの溝を形成することができる。
例えば、パルス幅1n(ナノ)秒、波長532nmのレーザを使用し、パルス周波数50kHz、パワー8wの条件でレーザ光を照射すると、加工深さ(Δt)が0.4mmの溝を形成することができる。
例えば、パルス幅400n秒、波長1065nmのレーザを使用し、パルス周波数50kHz、パワー35wの条件でレーザ光を照射すると、加工深さ(Δt)が1.5mmの溝を形成することができる。
【0038】
溝C1を形成後、レーザ光2の照射位置を同一焦点面内で半径方向内側に移動させる。このとき、レーザ光2の照射位置の移動幅は、レーザ光のスポット径と同じまたはスポット径よりも小さい幅とされる。次に、レーザ光2を照射しながらC1溝の円周に沿って一回転回させ、溝C1と同心円の溝C2を形成させる。次に、溝C2と同様にレーザ光2の照射位置を移動させ、半径を順に小さくしながら、段階的に溝C1と同心円の溝を溝Cnまで形成させ、第1の焦点面溝を加工する。焦点面溝の開口幅は、所定距離Lとされ、nは、開口幅(点Cから点Dまでの距離)が所定距離Lに達する整数とされる。
所定距離Lは、式(1)から算出される。
L=t・tan(φ+δ)・・・(1)
tは、被加工部材の厚さである。
【0039】
なお、「照射位置」とは、レーザ光2の焦点位置であることが好ましいが、少しデフォーカスして、加工点におけるスポット径を大きくして照射することも含む。
【0040】
貫通穴を形成する工程では、焦点面を溝の深さだけ下げ、開口幅が先の焦点面溝よりも狭い別の焦点面溝を形成する工程を繰り返し、被加工部材を貫通する穴を形成する。貫通穴は、加工壁面の下部に向かって近づくよう傾斜された側面を、加工壁面に対向する側に有する。
【0041】
点Cから点Dまで焦点面溝を形成した後、照射位置を点Dから半径方向外側に向けてΔLだけ移動させる。更に、焦点面5を被加工部材1の厚さ方向下側にΔtだけ移動させ、照射位置を点Eに合わせる。焦点面5の移動は、光学系を被加工部材に対して移動させることで行うと良い。ΔLは、式(2)から算出される。
ΔL=Δt・tan(φ+δ)・・・(2)
【0042】
レーザ光2を点Eに照射しながら一回転回させ、溝C1と同心円の溝E1を形成させる。レーザ照射条件は、溝C1の形成時と同様とする。続いて、レーザ光2の照射位置を半径方向外側に、スポット径と同じまたはスポット径よりも小さい幅だけ移動させる。次に、レーザを照射しながら、一回転回させ、溝C1と同心円の溝E2を形成させる。次に、溝E2と同様にレーザ光2の照射位置を移動させ、半径を順に大きくしながら、段階的に溝C1と同心円の溝を溝Emまで形成させ、第2の焦点面溝を加工する。mは、第2の焦点面溝の溝幅がL−ΔLの距離(点F)に達するのに必要な整数とされる。
【0043】
次に、焦点面5をΔtだけ下方向に平行移動させ、照射位置を点Gに合わせる。レーザ光2を照射しながら、一回転回させ、溝C1と同心円の溝G1を形成させる。続いて、溝C2〜溝Cnと同様に、半径を順に小さくしながら、点Hまで溝G2〜溝Goを形成させ、第3の焦点面溝を加工する。oは、第3の焦点面溝の溝幅(点Gから点Hまで)が、L−2ΔLの距離に達するのに必要な整数とされる。
【0044】
焦点壁面が被加工部材の下部(点B)に達するまで、溝E1〜Em、溝G1〜溝Goの加工工程を繰り返し行い、複数の焦点面溝を形成させる。このとき、各焦点面溝は、一側面が加工壁面と一致し、且つ、先の焦点面溝よりも開口幅が狭くなるように形成される。具体的には、焦点面溝の加工壁面から離れた側の端面が、焦点面を1つ下げるごとに、ΔLだけ加工壁面側に移動するように加工する。そうすることによって、被加工部材1の下部に向かって近づくよう角度(φ+δ)で傾斜された側面を有する楔状にくりぬかれた穴を加工することができる。焦点面が点Bに達したとき、上記穴が被加工部材5の板厚方向に貫通される。側面がテーパ上になった残材を除去すると、垂直壁面を有する穴が形成される。尚、加工開始点は、点Cではなく、点Dから点Cに向けて、同心円の半径を大きくするように行ってもよい。
【0045】
上記垂直壁面を有する穴はφ≧δとなる半径以上で形成可能である。φ=δのときが、最も加工除去量が少なくなる。通常、fθレンズスガルバノミラースキャン光学系は、トリミング(配線などの微小部分の膜を除去)やマーキング(刻印)などに使われており、焦点のスポット径は12〜50μm程度である。また、スポット径を小さくするためにレーザ光の径dは8〜30mmと大きい。しかし、複合材の穴あけ加工では、スポット径を小さく絞る必要はない。むしろ、加工速度を速くするためには、スポット径は大きいほうが良く、50〜300μmが好適である。そのため、dは1〜7mm程度でよい。dが小さいときビームの収束角度δが小さくなる。例えば、d=4mmのとき半径が3mm以上、d=2mmのとき半径が1.5mm以上(ただしφ/θ=0.65)の垂直穴あけ加工が可能である。また、半径50mmの大穴加工であっても、dが小さいほどδが小さくなり、加工除去量が少なくなる。
【0046】
〔第2実施形態〕
図5を参照して、穴あけ加工の別の一例を説明する。本実施形態において、被加工部材や使用する加工装置などは、第1実施形態と同様とする。図5は、穴あけ加工を施した加工部分を説明する図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のK−L線における断面図、(c)は(a)のI−J線における断面図を示す。本実施形態では、第1実施形態と同様に、まず、レーザ光2を加工面20上部の加工開始点に照射し、そのままレーザ光2を所定の形状(輪郭)に沿って照射して溝C1を形成させる。本実施形態における所定の形状は、正方形とされる。
【0047】
レーザ光2の照射手順は、所定距離Lの算出方法が異なる以外は、第1実施形態と同様とする。
図5(b)のK−L断面と図5(c)のI−J断面とでは所定距離Lが異なる。K−L断面、I−J断面(対角)における所定距離L1及び所定距離L2は、それぞれ式(3)及び式(4)から算出される。
L1=t・tan(φ1+δ)・・・(3)
L2=t・tan(φ2+δ)・・・(4)
L2=√2L1
φ2>φ1
φ1:K−L断面における照射角度(Φ)の最大必要な角度
φ2:I−J断面(対角)における照射角度(Φ)の最大必要な角度
【0048】
また、垂直壁を有する穴の形成には、K−L断面においてφ1≧δである必要がある。
【0049】
〔第3実施形態〕
図6を参照して、切断加工の一例を説明する。図6は切断加工を施した加工部分を説明する図であり(a)は上面図、(b)は(a)のA−A線の断面図である。図6(a)において、円形破線はレーザ照射可能範囲を示す。本実施形態において、被加工部材や使用する加工装置などは、第1実施形態と同様とする。
【0050】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、まず、レーザ光2を加工壁面30上部の加工開始点Cに照射し、そのままレーザ光2を所定の形状(輪郭)に沿って照射して溝C1を形成させる。本実施形態における所定の形状は、直線状とされる。
本実施形態では、加工したい領域がレーザ光の照射可能範囲よりも広いため、被加工部材21を移動させることで、所定の形状の溝C1を形成させる。例えば、前後左右に移動可能な保持台の上に被加工部材21を保持させる。被加工部材21の加工開始点Cに、レーザ光2の照射位置を合せ固定し、照射を開始する。保持台を切断方向S(片方向)に移動させることで被加工部材21に所定形状の溝C1を形成させる。
【0051】
溝C1を形成後、レーザ光2の照射位置を同一焦点面内で加工壁面30と離れる方向(点Mから点Nに向かう方向)に移動させる。このとき、レーザ光2の照射位置の移動幅は、レーザ光のスポット径と同じまたはスポット径よりも小さい幅とされる。レーザ光2を固定し、被加工部材21をSとは反対方向に移動させることで溝C1に平行な溝C2を形成させる。次に、溝C2と同様にレーザ光2の照射位置を切断方向S(先と反対方向)に移動させ、段階的に溝C1に平行な溝を溝Cpまで形成させて、第1の焦点面溝を加工する。pは、第1の焦点面溝の溝幅(点Mから点Nまで)が所定距離Lに達する整数とされる。所定距離Lは、第1実施形態と同様に算出する。
【0052】
貫通穴を形成する工程では、第1実施形態と同様に、焦点面を溝の深さだけ下げ、開口幅が先の焦点面溝よりも狭い別の焦点面溝を形成する工程を繰り返し、被加工部材を貫通する穴を形成する。
【0053】
本実施形態において、所定形状は直線状であるため、焦点面溝の開口幅を狭くするための照射位置の移動は、点Mから点Nに向かう方向、またはその逆方向で行われる。また、第2の焦点面溝以降の複数の焦点面溝の形成は、第1の焦点面溝の形成と同様に、レーザ光2は固定し、被加工部材21を移動させて行う。
【0054】
焦点面が被加工部材21の下部(点O)に達するまで、焦点面溝の形成を繰り返し行い、貫通穴を形成させる。このとき、各焦点面溝は、一側面が加工壁面30と一致し、且つ、先の焦点面溝よりも溝幅が狭くなるように形成される。具体的には、焦点面溝の加工壁面30から離れた側の端面が、焦点面を1つ下げるごとに、ΔLだけ加工壁面側に移動するように加工する。そうすることによって、被加工部材21の下部に向かって近づくよう角度(φ+δ)で傾斜された側面32を有する楔状にくりぬかれた穴を加工することができる。
【0055】
レーザ光2の照射位置を点Mと直径方向反対側に移動させることで、fθレンズの中心線7を挟んで対象な位置に上記と同様の加工を行うことができる。
【0056】
本実施形態の変形例として、残材の加工方法を説明する。図7に残材33のN側端部を示す。
まず、残材33のN側端部をfθレンズの中心線7を挟んで反対側移動させる。点Nを、fθレンズの中心線7を挟んで点Mと対象な位置に配置することが好ましい。所定距離Lは、各焦点面に含まれるテーパ部34の幅(加工壁面35から他端部までの距離)とされる。本変形例では、残材33の端部のテーパ部34を切除することで、残材33の端部を垂直壁面とする。端部の加工では、ケラレを回避できる。そのため、レーザ光2をΦ≧δとなるような角度で点Nに照射し、点Pまで照射位置を垂直下方向に移動させて加工しても良い。そうすることで、切削量を最小とすることができる。
【0057】
〔第4実施形態〕
図8〜図11を参照して、溝加工の一例を説明する。図8は、溝加工後の被加工部材の斜視図である。図9は、溝加工の一例を説明する図であり(a)は断面図、(b)は(a)の上面図である。図10は、溝加工の別の一例を説明する図であり(a)は断面図、(b)は(a)の上面図である。図11は、溝加工の更に別の一例を説明する図であり(a)は断面図、(b)は(a)の上面図である。図9(b)、図10(b)、図11(b)において、円形破線はレーザ照射可能範囲を示す。本実施形態において、被加工部材や使用する加工装置などは、第1実施形態と同様とする。
【0058】
本実施形態では、被加工部材は面内方向に移動可能な保持台で保持させ、被加工部材の予定する溝の幅の中心にfθレンズの中心線7を合せる。所定形状は、直線状とされる。
図9では、第3実施形態の第1の焦点面溝と同様に、レーザ光2の照射位置を所定の位置に固定し、被加工部材41を移動させて溝C1〜溝Cq(第1の焦点面溝)を形成させる。このとき、所定距離Lは開口幅L3とされる。開口幅L3は、点Qから、直径方向反対側に位置する点Rまでを指す。qは、第1の焦点面溝の開口幅が所定距離L3に達するのに必要な整数とされる。
本実施形態では、以降の焦点面溝の開口幅をすべてL3とし、所定深さに達するまで複数の焦点面溝を形成させる。
【0059】
図10では、被加工部材41を固定したまま、点Qから点Rまでレーザ光2を走査し、開口幅方向(点Qから点Rに向かう方向)に溝C1を形成させる。その後、被加工部材41を加工壁面40と平行な方向Uに移動させる。このとき、被加工部材41の移動幅(すなわち、レーザ光2の照射位置の移動幅)は、レーザ光のスポット径と同じまたはスポット径よりも小さい幅とされる。溝を形成して被加工部材を移動させる操作を繰り返して第1の焦点面溝(溝C1〜溝Cr)を形成させる。rは、第1の焦点面溝の長さ(加工壁面40と平行な方向の長さ)が所定距離L4に達するのに必要な整数とされる。
【0060】
図11では、被加工部材41を固定したまま、点Qから点Rまでレーザ光2を走査し、点Qから点Rに向かう方向に溝C1を形成させる。図10では、点Qと点Rとを結ぶ線は、加工壁面40に対して垂直としたが、図11では、点Qと点Rとを結ぶ線が加工壁面40に対して斜めになるようにした。それ以外は、図10と同様に第1の焦点面溝を形成させる。溝加工において、レーザ光2の収束角度(δ)が大きい場合、レーザ光2を加工面40に対して垂直方向に移動させると、開口幅(点Qから点Rまでの距離)が大きくなる。そのため、レーザ光2を加工面40に対して斜め方向に移動させることで、開口幅(加工壁面に垂直な方向の幅)を小さくすることが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1、11、21、41 被加工部材
2 レーザ光
3 偏向部
4 fθレンズ
5 焦点面
6 被加工部材の加工したい領域面の中心
7 fθレンズの中心線
8 レーザ光の中心線
9 レーザ光の外周線
10、20、30、35、40 加工壁面
32 傾斜された側面
33 残材
34 テーパ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材の加工方法及び複合材の加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機の翼などの構造部材には、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの複合材が使用される。CFRPは、エポキシ系樹脂などのマトリクスを介して炭素繊維シートを多数枚積層したものである。炭素繊維は、ルツボに使用される黒鉛と同質であり、耐熱性が高く、難削材である。エポキシ系樹脂は、可燃性であり、軟化点が100℃程度と耐熱性が低い。
【0003】
複合材の切断・穴あけなどの加工は、現状、ドリル刃を用いた機械加工で実施されている。しかしながら、上記手法は、加工時の工具消耗が激しく、刃の再研磨や交換刃など消耗品費用が高額となる。そのため、加工時に工具等が消耗しない加工方法として、レーザを用いた加工方法の開発が行われている(特許文献1参照)。
【0004】
レーザを用いて穴をあける場合、通常、図12に示すように、大穴の中央に加工開始点の貫通穴あけ(ピアシング)を行った後、焦点位置は一定で、レーザ光を大穴の輪郭を円弧状に1周させて加工する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−334594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、レーザ加工装置では、レーザ発振器から発振されたレーザが、集光レンズを介して集光されてワーク(被加工材)面に照射される。そのため、加工形状は、レーザ光のエッジ形状(円錐形状)に依存し、テーパ形状となる。航空機の翼では、ボルト締め固定のために複合材に穴あけが行われるため、穴壁面が垂直壁であることが好ましい。そのため、テーパ角が大きい場合、ドリルなどで追加工を行い垂直壁を形成させる必要が生じる。
【0007】
特許文献1では、大穴中央のピアシングの後、焦点位置をワーク下面に設定して、円錐状の集光ビームエッジがワーク上面に垂直になるように、ワーク支持台を傾けて、穴壁面を垂直に加工する方法が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法は、ワ−クを傾けるために支持台の複数の支持点の高さを変えつつ、XY軸移動を行うため、制御が複雑である。また、ワークが航空機の翼のような大型の構造物である場合、ワークを動かすのが困難となる。また、ワークが厚板の場合、貫通させながらの円周加工ができない場合があるという課題がある。
【0008】
また、集光レンズで集光されたレーザ光は、断面のエネルギー分布がガウス分布である。図13及び図14に、このようなレーザ光を用いて穴あけした加工部の一例を示す。レーザ光の焦点位置をワーク内部に設定して照射すると、加工閾値以上のエネルギー領域で、除去加工が進行する(図13)。
【0009】
加工しながら焦点位置を下げていくと、ワーク上面に照射されるレーザ光の径は広がる(図13)。レーザ光の径が広がると、断面のエネルギー分布もブロードになる。そのため、レーザ光周縁部ではエネルギー密度が小さくなり、加工閾値に達しないケラレ部分が生じる。すなわち、レーザ光の焦点位置を下げていくと、ワーク上面では、レーザ光周縁部がケラレてしまい、集光されたレーザ光の中心部分のみが加工部内に入ることになる。加工部の上部内壁面は、レーザ照射方向となす角度が小さい。そのため、壁面に照射される単位面積当たりのレーザエネルギー密度が小さく、加工部上部の穴径は拡大されにくい。従って、加工部内に到達する光量が減少し、底の穴径が小さくなるため、加工が途中で進まなくなることがある。例えば、厚板の加工対象物の穴あけ加工の際に、ピアシングできない、または、ピアシングができたとしても、レーザ光を貫通させながら円周加工ができないという問題を生じる。
【0010】
また、加工部の上部は、レーザ光の焦点位置を下げている間も、レーザ光が照射され続けているため、熱影響を受け変質する。このとき、レーザパワーを増加しても、貫通に至ることなく加工部周辺の温度が上昇する場合がある。
【0011】
CFRPは、樹脂を含むため金属に比べて熱伝導性が低く、レーザ加工の際に、レーザ光からの熱が加工部周辺で蓄熱され、加工部周辺の温度が上昇しやすい。CFRPの厚板加工では、レーザ光からの入熱が大きくなるため、加工部周辺が溶融し、加工精度の悪化、層間剥離、樹脂の熱変質といった問題が発生する。また、CFRPの厚板加工では、加工部周辺が400℃以上となり、溶けた樹脂が炭素繊維シートの孔から噴出し、燃えることもある。これに対して、金属やセラミック板は不燃性であるため、溶融物の排出は問題とならない場合が多い。このように、CFRPのような複合材の厚板加工は、金属やセラミックの厚板加工に比べて難しい面が多い。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、厚板の複合材で構成された大型構造部材においても、加工部周辺の熱影響を抑えつつ、ワークに垂直な加工壁面や、垂直穴を形成できる複合材の加工装置および加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、光源と、光源から発振されるレーザ光を偏向させる偏向部と、前記偏向されたレーザ光を集光させるfθレンズと、を備える加工装置を用い、fθレンズの中心線と前記fθレンズで集光されたレーザ光の中心線とのなす照射角度(φ)が、前記集光されたレーザ光の収束角度(δ)以上となるようレーザ光を被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射する複合材の加工方法を提供する。
【0014】
上記発明によれば、fθレンズを用いることで、偏向部で偏向されたレーザ光を平らな像面に収束させ、容易に等速度スキャンすることができるため、高速でレーザ加工することができるようになる。照射角度(φ)と収束角度(δ)とを、φ≧δとして被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射することで、加工領域の中心における接線に垂直な線に平行な加工壁面を形成することができる。また、レーザ光の照射角度を偏向部で制御できるため、被加工部材を傾ける必要がなく、複雑なステージ制御や基板高さ制御は不要である。
【0015】
上記発明の一態様において、前記被加工部材にレーザ光を照射して、加工壁面が形成される箇所の上部から所定形状の溝を形成した後、前記レーザ光の照射位置を前記溝の幅よりも小さい距離だけ移動させて、同一焦点面内に、複数の別の溝を段階的に形成させ焦点面溝とすると良い。
【0016】
レーザ光の照射位置を溝の幅、言い換えると、レーザ光のスポット径よりも小さい距離だけ移動させることで、焦点面溝を構成する各溝同士が重なるため、凹凸の少ない焦点面溝を形成することができる。
【0017】
上記発明の一態様において、前記複数の別の溝を、前記加工壁面から離れる方向に、段階的に形成させると良い。
【0018】
そのようにすることで、加工壁面付近に長時間、継続してレーザ光が照射されないため、被加工部材の加工壁面付近への蓄熱が少なくなる。そのため、被加工部材(複合材)の加工壁面付近での温度上昇を抑制することができ、熱変質が生じにくくなる。
【0019】
上記発明の一態様において、前記溝と前記複数の別の溝とからなる焦点面溝を、その開口幅が所定距離となるよう形成した後、焦点面を前記溝の深さだけ下げ、開口幅が先の焦点面溝よりも狭い別の焦点面溝を形成する工程を繰り返し、前記加工壁面の下部に向かって近づくよう傾斜された側面を前記加工壁面に対向する側に有し、且つ、被加工部材を貫通する穴を形成すると良い。
【0020】
上記一態様によれば、ワークの上部に形成される焦点面溝の開口幅を広く、板厚方向下部にいくに従って開口幅が狭くなるような穴が形成される。それによって、焦点位置を下げながら加工しても、ワーク上部でレーザ光のケラレが生じない。従って、加工が止まることなく確実に被加工部材の切断や開溝ができるようになる。また、間口が広くなるため、加工部分に吹き付けられる空気などのアシストガスが深部まで入りやすくなる。それによって、加工部分を効率よく冷却することができ、加工壁面周辺の熱変質が抑制される。
【0021】
また、本発明は、光源と、光源から発振されるレーザ光を偏向させる偏向部、及び前記偏向されたレーザ光を集光させるfθレンズで構成された光学系と、fθレンズの中心線と前記fθレンズで集光されたレーザ光の中心線とのなす照射角度(φ)が、前記集光されたレーザ光の収束角度(δ)以上となるようレーザ光を被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射するよう前記光学系を制御する制御部とを備える複合材の加工装置を提供する。
【0022】
上記発明によれば、fθレンズを備えることで、偏向部で偏向されたレーザ光を平らな像面に集光させ、容易に等速度スキャンすることができるため、高速でレーザ加工することができる。制御部を備えることで、照射角度(φ)と収束角度(δ)とを、φ≧δとして被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射させることができるため、加工領域の中心における接線に垂直な線に平行な加工壁面を形成することができる。また、レーザ光の照射角度を光学系で制御できるため、被加工部材を傾ける必要がなく、複雑なステージ制御や基板高さ制御が不要となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、fθレンズを備えたレーザ加工装置を用い、照射角度≧収束角度となるようレーザ光を被加工部材に照射することで、加工壁面をワーク上面に垂直に加工することができる。航空機の翼や自動車ボンネットのような複合材を用いた大型構造物の穴あけや切断にも対応しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態で使用する加工装置を説明する図である。
【図2】fθレンズへの入射角度とレーザ光の照射角度との関係を説明する図である。
【図3】穴あけ加工を施した加工部分を説明する図である。
【図4】図3(b)の破線領域Zの拡大図である。
【図5】穴あけ加工を施した加工部分を説明する図である。
【図6】切断加工を施した加工部分を説明する図である。
【図7】残材のN側端部の加工方法を説明する図である。
【図8】溝加工後の被加工部材の斜視図である図である。
【図9】溝加工の一例を説明する図である。
【図10】溝加工の別の一例を説明する図である。
【図11】溝加工の更に別の一例を説明する図である。
【図12】従来の穴あけ加工方法を説明する図である。
【図13】レーザ光を用いて穴あけした加工部の一例を示す図である。
【図14】レーザ光を用いて穴あけした加工部の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係る複合材の加工方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第1実施形態〕
本実施形態で加工される被加工部材1は、複合材とされ、プリプレグなどの複合材料が複数積層された層を備える。複合材は、繊維で強化された樹脂からなる。繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド樹脂(ケブラー)等の樹脂繊維、ステンレス等の金属繊維、アルミナ等のセラミックス繊維、または木材チップなどが用いられる。樹脂としては、エポキシ系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、またはアクリル樹脂などが用いられる。複合材は、チタンなどの金属材料の上に複合材からなる層が形成された部材であっても良い。
【0026】
本実施形態で使用する加工装置を、図1を参照して説明する。
本実施形態で使用するレーザ加工装置は、レーザ光2を発振させる光源と、レーザ光2を偏向させる偏向部3、及び偏向されたレーザ光2が通過するfθレンズ4で構成された光学系とを備える。
光源は、図示しないが、紙面に垂直な方向にレーザ光2を発振するよう偏向部3aの紙面奥側に配置されている。
【0027】
偏向部3は、ガルバノミラー系またはポリゴンミラー系のいずれかとされる。本実施形態では、ガルバノミラー系を用いる。ガルバノミラー系は、第1ガルバノミラー3aと第2ガルバノミラー3bとを備えている。第1ガルバノミラー3aは、軸回転可能であり、光源から発信されたレーザ光2を第2ガルバノミラー3bに向けて偏向させることができる。第2ガルバノミラー3bは、第1ガルバノミラー3aの軸に対して垂直方向に軸回転可能であり、第1ガルバノミラー3aで偏向されたレーザ光2を偏向させ、所望の角度でfθレンズ4へ入射させることができる。
【0028】
fθレンズ4は、有効焦点距離fのfθレンズ4へレーザ光が入射角度θで入射された場合、fθレンズ系の中心線7の焦点位置6から中心線に対して垂直方向に、X=fθ離れた位置に焦点を結ぶように設計されたレンズである。fθレンズ4に入射されたレーザ光は、平らな焦点面(像面)5に集光される。fθレンズ4は、所望の焦点面5及び収束角度(δ)を得られるレンズが適宜選択される。fθレンズ4は、複数枚組み合わせられたfθレンズ系として使用されても良い。
なお、偏向部及びfθレンズを含む光学系は、上下方向に移動することができる。
【0029】
次に、上記加工装置を用いた複合材の加工方法を説明する。
上記構成の加工装置を、被加工部材の加工したい領域面の中心6における垂直線上に、fθレンズ4またはfθレンズ系の中心線7を合せて配置する。また、偏向部3及びfθレンズ4を含む光学系を、焦点面5が被加工部材2の上表面と略一致するような高さに配置する。
【0030】
上記加工装置において、光源からレーザ光2を発振すると、レーザ光2は、第1ガルバノミラー3aで第2ガルバノミラー3bに向けて偏向される。該偏向されたレーザ光2は、第2ガルバノミラー3bでfθレンズ4に向かって偏向される。このとき、照射角度(Φ)が、fθレンズ4で集光されたレーザ光2の収束角度(δ)と同等以上の大きさとなるように、光学系を制御する。具体的には、fθレンズ4へのレーザ光2の入射角度(θ)を設定する。
【0031】
収束角度(δ)とは、レーザ光2の中心線8とレーザ光2の外周線9(エッジライン)との間の角度である。照射角度(Φ)とは、fθレンズの中心線7とfθレンズ4で集光されたレーザ光の中心線8との間の角度である。図2では、中心線7を平行移動させた線7aを示す。Φは、焦点面からみたレーザ光2の仮想中心における振れ角でもある。入射角度(θ)とは、fθレンズの中心線7とレーザ光の中心線8との間の角度である。
【0032】
レーザ光2のfθレンズ4への入射角度とレーザ光の照射角度との関係を、図2を参照して説明する。
図2(a):
レーザ光2のfθレンズ4への入射角(θ)がθ=0のとき、照射角度(Φ)はΦ=0となる。すなわち、レーザ光の中心線8が、被加工部材1の加工したい面領域の中心における垂線と重なるとともに、焦点面5に対して垂直に照射される。
【0033】
図2(b)及び図2(c):
レーザ光2のfθレンズ4への入射角(θ)がθ>0のとき、照射角度(Φ)はΦ>0となる。ここで、照射角度(Φ)と収束角度(δ)とを、Φ=δとすると、レーザ光の一エッジライン9が、焦点面5に対して垂直な線と重なる(図2(b))。また、Φ>δとすると、図2(c)のように、被加工部材5の加工したい領域面の中心から離れる方向Xに向けて焦点を移動させることができる。このような角度のレーザ光2を用いて複合材を加工すると、複合材に垂直壁を形成することができる。
【0034】
上記のように、レーザ光の入射角度(θ)を変化させることにより、穴半径などの加工範囲を制御することができる。
例えば、レーザ光の焦点から有効焦点距離fだけ光源側にさかのぼった位置におけるレーザ光の径をdとする。f=180mm、d=12mm、のとき焦点のスポット径は30μmである。この値は、dに比べかなり小さいため、レーザ光の収束角度(δ)は、d/2fで近似できるものと仮定すると、δ=0.033rad(1.9°)となる。
【0035】
次に、穴あけ加工を例として、レーザ光2の照射手順を説明する。本実施形態のレーザ光の照射手順は、焦点面溝を形成する工程と、貫通穴を形成する工程とから構成される。図3は、穴あけ加工を施した加工部分を説明する図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のX−X線における断面図、(c)は上面図を示す。図4は、図3(b)の破線領域Zの拡大図である。
【0036】
焦点面溝を形成する工程では、まず、照射位置を加工壁面が形成される箇所の上部の加工開始点(C)に合わせたレーザ光2を所定の形状(輪郭)に沿って照射して図3(c)に示すように溝C1を形成させる。本実施形態における所定の形状は、ボルト締めするためのボルト孔を想定した円形(半径fθ)とされる。
レーザ光の照射条件(パルス周波数、パワー等)は、使用する加工装置や被加工部材の材質などによって適宜設定される。レーザ光の発振方式は、パルス発振または連続発振のいずれであっても良い。
【0037】
炭素繊維で強化されたエポキシ樹脂からなる複合材を被加工部材とする場合、例えば、パルス幅300f(フェムト)秒、波長532nmのレーザ加工装置を使用し、パルス周波数20kHz、パワー1.2wの条件でレーザ光を照射すると、加工深さ(Δt)が0.06mmの溝を形成することができる。
例えば、パルス幅1n(ナノ)秒、波長532nmのレーザを使用し、パルス周波数50kHz、パワー8wの条件でレーザ光を照射すると、加工深さ(Δt)が0.4mmの溝を形成することができる。
例えば、パルス幅400n秒、波長1065nmのレーザを使用し、パルス周波数50kHz、パワー35wの条件でレーザ光を照射すると、加工深さ(Δt)が1.5mmの溝を形成することができる。
【0038】
溝C1を形成後、レーザ光2の照射位置を同一焦点面内で半径方向内側に移動させる。このとき、レーザ光2の照射位置の移動幅は、レーザ光のスポット径と同じまたはスポット径よりも小さい幅とされる。次に、レーザ光2を照射しながらC1溝の円周に沿って一回転回させ、溝C1と同心円の溝C2を形成させる。次に、溝C2と同様にレーザ光2の照射位置を移動させ、半径を順に小さくしながら、段階的に溝C1と同心円の溝を溝Cnまで形成させ、第1の焦点面溝を加工する。焦点面溝の開口幅は、所定距離Lとされ、nは、開口幅(点Cから点Dまでの距離)が所定距離Lに達する整数とされる。
所定距離Lは、式(1)から算出される。
L=t・tan(φ+δ)・・・(1)
tは、被加工部材の厚さである。
【0039】
なお、「照射位置」とは、レーザ光2の焦点位置であることが好ましいが、少しデフォーカスして、加工点におけるスポット径を大きくして照射することも含む。
【0040】
貫通穴を形成する工程では、焦点面を溝の深さだけ下げ、開口幅が先の焦点面溝よりも狭い別の焦点面溝を形成する工程を繰り返し、被加工部材を貫通する穴を形成する。貫通穴は、加工壁面の下部に向かって近づくよう傾斜された側面を、加工壁面に対向する側に有する。
【0041】
点Cから点Dまで焦点面溝を形成した後、照射位置を点Dから半径方向外側に向けてΔLだけ移動させる。更に、焦点面5を被加工部材1の厚さ方向下側にΔtだけ移動させ、照射位置を点Eに合わせる。焦点面5の移動は、光学系を被加工部材に対して移動させることで行うと良い。ΔLは、式(2)から算出される。
ΔL=Δt・tan(φ+δ)・・・(2)
【0042】
レーザ光2を点Eに照射しながら一回転回させ、溝C1と同心円の溝E1を形成させる。レーザ照射条件は、溝C1の形成時と同様とする。続いて、レーザ光2の照射位置を半径方向外側に、スポット径と同じまたはスポット径よりも小さい幅だけ移動させる。次に、レーザを照射しながら、一回転回させ、溝C1と同心円の溝E2を形成させる。次に、溝E2と同様にレーザ光2の照射位置を移動させ、半径を順に大きくしながら、段階的に溝C1と同心円の溝を溝Emまで形成させ、第2の焦点面溝を加工する。mは、第2の焦点面溝の溝幅がL−ΔLの距離(点F)に達するのに必要な整数とされる。
【0043】
次に、焦点面5をΔtだけ下方向に平行移動させ、照射位置を点Gに合わせる。レーザ光2を照射しながら、一回転回させ、溝C1と同心円の溝G1を形成させる。続いて、溝C2〜溝Cnと同様に、半径を順に小さくしながら、点Hまで溝G2〜溝Goを形成させ、第3の焦点面溝を加工する。oは、第3の焦点面溝の溝幅(点Gから点Hまで)が、L−2ΔLの距離に達するのに必要な整数とされる。
【0044】
焦点壁面が被加工部材の下部(点B)に達するまで、溝E1〜Em、溝G1〜溝Goの加工工程を繰り返し行い、複数の焦点面溝を形成させる。このとき、各焦点面溝は、一側面が加工壁面と一致し、且つ、先の焦点面溝よりも開口幅が狭くなるように形成される。具体的には、焦点面溝の加工壁面から離れた側の端面が、焦点面を1つ下げるごとに、ΔLだけ加工壁面側に移動するように加工する。そうすることによって、被加工部材1の下部に向かって近づくよう角度(φ+δ)で傾斜された側面を有する楔状にくりぬかれた穴を加工することができる。焦点面が点Bに達したとき、上記穴が被加工部材5の板厚方向に貫通される。側面がテーパ上になった残材を除去すると、垂直壁面を有する穴が形成される。尚、加工開始点は、点Cではなく、点Dから点Cに向けて、同心円の半径を大きくするように行ってもよい。
【0045】
上記垂直壁面を有する穴はφ≧δとなる半径以上で形成可能である。φ=δのときが、最も加工除去量が少なくなる。通常、fθレンズスガルバノミラースキャン光学系は、トリミング(配線などの微小部分の膜を除去)やマーキング(刻印)などに使われており、焦点のスポット径は12〜50μm程度である。また、スポット径を小さくするためにレーザ光の径dは8〜30mmと大きい。しかし、複合材の穴あけ加工では、スポット径を小さく絞る必要はない。むしろ、加工速度を速くするためには、スポット径は大きいほうが良く、50〜300μmが好適である。そのため、dは1〜7mm程度でよい。dが小さいときビームの収束角度δが小さくなる。例えば、d=4mmのとき半径が3mm以上、d=2mmのとき半径が1.5mm以上(ただしφ/θ=0.65)の垂直穴あけ加工が可能である。また、半径50mmの大穴加工であっても、dが小さいほどδが小さくなり、加工除去量が少なくなる。
【0046】
〔第2実施形態〕
図5を参照して、穴あけ加工の別の一例を説明する。本実施形態において、被加工部材や使用する加工装置などは、第1実施形態と同様とする。図5は、穴あけ加工を施した加工部分を説明する図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のK−L線における断面図、(c)は(a)のI−J線における断面図を示す。本実施形態では、第1実施形態と同様に、まず、レーザ光2を加工面20上部の加工開始点に照射し、そのままレーザ光2を所定の形状(輪郭)に沿って照射して溝C1を形成させる。本実施形態における所定の形状は、正方形とされる。
【0047】
レーザ光2の照射手順は、所定距離Lの算出方法が異なる以外は、第1実施形態と同様とする。
図5(b)のK−L断面と図5(c)のI−J断面とでは所定距離Lが異なる。K−L断面、I−J断面(対角)における所定距離L1及び所定距離L2は、それぞれ式(3)及び式(4)から算出される。
L1=t・tan(φ1+δ)・・・(3)
L2=t・tan(φ2+δ)・・・(4)
L2=√2L1
φ2>φ1
φ1:K−L断面における照射角度(Φ)の最大必要な角度
φ2:I−J断面(対角)における照射角度(Φ)の最大必要な角度
【0048】
また、垂直壁を有する穴の形成には、K−L断面においてφ1≧δである必要がある。
【0049】
〔第3実施形態〕
図6を参照して、切断加工の一例を説明する。図6は切断加工を施した加工部分を説明する図であり(a)は上面図、(b)は(a)のA−A線の断面図である。図6(a)において、円形破線はレーザ照射可能範囲を示す。本実施形態において、被加工部材や使用する加工装置などは、第1実施形態と同様とする。
【0050】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、まず、レーザ光2を加工壁面30上部の加工開始点Cに照射し、そのままレーザ光2を所定の形状(輪郭)に沿って照射して溝C1を形成させる。本実施形態における所定の形状は、直線状とされる。
本実施形態では、加工したい領域がレーザ光の照射可能範囲よりも広いため、被加工部材21を移動させることで、所定の形状の溝C1を形成させる。例えば、前後左右に移動可能な保持台の上に被加工部材21を保持させる。被加工部材21の加工開始点Cに、レーザ光2の照射位置を合せ固定し、照射を開始する。保持台を切断方向S(片方向)に移動させることで被加工部材21に所定形状の溝C1を形成させる。
【0051】
溝C1を形成後、レーザ光2の照射位置を同一焦点面内で加工壁面30と離れる方向(点Mから点Nに向かう方向)に移動させる。このとき、レーザ光2の照射位置の移動幅は、レーザ光のスポット径と同じまたはスポット径よりも小さい幅とされる。レーザ光2を固定し、被加工部材21をSとは反対方向に移動させることで溝C1に平行な溝C2を形成させる。次に、溝C2と同様にレーザ光2の照射位置を切断方向S(先と反対方向)に移動させ、段階的に溝C1に平行な溝を溝Cpまで形成させて、第1の焦点面溝を加工する。pは、第1の焦点面溝の溝幅(点Mから点Nまで)が所定距離Lに達する整数とされる。所定距離Lは、第1実施形態と同様に算出する。
【0052】
貫通穴を形成する工程では、第1実施形態と同様に、焦点面を溝の深さだけ下げ、開口幅が先の焦点面溝よりも狭い別の焦点面溝を形成する工程を繰り返し、被加工部材を貫通する穴を形成する。
【0053】
本実施形態において、所定形状は直線状であるため、焦点面溝の開口幅を狭くするための照射位置の移動は、点Mから点Nに向かう方向、またはその逆方向で行われる。また、第2の焦点面溝以降の複数の焦点面溝の形成は、第1の焦点面溝の形成と同様に、レーザ光2は固定し、被加工部材21を移動させて行う。
【0054】
焦点面が被加工部材21の下部(点O)に達するまで、焦点面溝の形成を繰り返し行い、貫通穴を形成させる。このとき、各焦点面溝は、一側面が加工壁面30と一致し、且つ、先の焦点面溝よりも溝幅が狭くなるように形成される。具体的には、焦点面溝の加工壁面30から離れた側の端面が、焦点面を1つ下げるごとに、ΔLだけ加工壁面側に移動するように加工する。そうすることによって、被加工部材21の下部に向かって近づくよう角度(φ+δ)で傾斜された側面32を有する楔状にくりぬかれた穴を加工することができる。
【0055】
レーザ光2の照射位置を点Mと直径方向反対側に移動させることで、fθレンズの中心線7を挟んで対象な位置に上記と同様の加工を行うことができる。
【0056】
本実施形態の変形例として、残材の加工方法を説明する。図7に残材33のN側端部を示す。
まず、残材33のN側端部をfθレンズの中心線7を挟んで反対側移動させる。点Nを、fθレンズの中心線7を挟んで点Mと対象な位置に配置することが好ましい。所定距離Lは、各焦点面に含まれるテーパ部34の幅(加工壁面35から他端部までの距離)とされる。本変形例では、残材33の端部のテーパ部34を切除することで、残材33の端部を垂直壁面とする。端部の加工では、ケラレを回避できる。そのため、レーザ光2をΦ≧δとなるような角度で点Nに照射し、点Pまで照射位置を垂直下方向に移動させて加工しても良い。そうすることで、切削量を最小とすることができる。
【0057】
〔第4実施形態〕
図8〜図11を参照して、溝加工の一例を説明する。図8は、溝加工後の被加工部材の斜視図である。図9は、溝加工の一例を説明する図であり(a)は断面図、(b)は(a)の上面図である。図10は、溝加工の別の一例を説明する図であり(a)は断面図、(b)は(a)の上面図である。図11は、溝加工の更に別の一例を説明する図であり(a)は断面図、(b)は(a)の上面図である。図9(b)、図10(b)、図11(b)において、円形破線はレーザ照射可能範囲を示す。本実施形態において、被加工部材や使用する加工装置などは、第1実施形態と同様とする。
【0058】
本実施形態では、被加工部材は面内方向に移動可能な保持台で保持させ、被加工部材の予定する溝の幅の中心にfθレンズの中心線7を合せる。所定形状は、直線状とされる。
図9では、第3実施形態の第1の焦点面溝と同様に、レーザ光2の照射位置を所定の位置に固定し、被加工部材41を移動させて溝C1〜溝Cq(第1の焦点面溝)を形成させる。このとき、所定距離Lは開口幅L3とされる。開口幅L3は、点Qから、直径方向反対側に位置する点Rまでを指す。qは、第1の焦点面溝の開口幅が所定距離L3に達するのに必要な整数とされる。
本実施形態では、以降の焦点面溝の開口幅をすべてL3とし、所定深さに達するまで複数の焦点面溝を形成させる。
【0059】
図10では、被加工部材41を固定したまま、点Qから点Rまでレーザ光2を走査し、開口幅方向(点Qから点Rに向かう方向)に溝C1を形成させる。その後、被加工部材41を加工壁面40と平行な方向Uに移動させる。このとき、被加工部材41の移動幅(すなわち、レーザ光2の照射位置の移動幅)は、レーザ光のスポット径と同じまたはスポット径よりも小さい幅とされる。溝を形成して被加工部材を移動させる操作を繰り返して第1の焦点面溝(溝C1〜溝Cr)を形成させる。rは、第1の焦点面溝の長さ(加工壁面40と平行な方向の長さ)が所定距離L4に達するのに必要な整数とされる。
【0060】
図11では、被加工部材41を固定したまま、点Qから点Rまでレーザ光2を走査し、点Qから点Rに向かう方向に溝C1を形成させる。図10では、点Qと点Rとを結ぶ線は、加工壁面40に対して垂直としたが、図11では、点Qと点Rとを結ぶ線が加工壁面40に対して斜めになるようにした。それ以外は、図10と同様に第1の焦点面溝を形成させる。溝加工において、レーザ光2の収束角度(δ)が大きい場合、レーザ光2を加工面40に対して垂直方向に移動させると、開口幅(点Qから点Rまでの距離)が大きくなる。そのため、レーザ光2を加工面40に対して斜め方向に移動させることで、開口幅(加工壁面に垂直な方向の幅)を小さくすることが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1、11、21、41 被加工部材
2 レーザ光
3 偏向部
4 fθレンズ
5 焦点面
6 被加工部材の加工したい領域面の中心
7 fθレンズの中心線
8 レーザ光の中心線
9 レーザ光の外周線
10、20、30、35、40 加工壁面
32 傾斜された側面
33 残材
34 テーパ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、光源から発振されるレーザ光を偏向させる偏向部と、前記偏向されたレーザ光を集光させるfθレンズと、を備える加工装置を用い、
fθレンズの中心線と前記fθレンズで集光されたレーザ光の中心線とのなす照射角度(φ)が、前記集光されたレーザ光の収束角度(δ)以上となるようレーザ光を被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射する複合材の加工方法。
【請求項2】
前記被加工部材にレーザ光を照射して、前記加工壁面が形成される箇所の上部から所定形状の溝を形成した後、前記レーザ光の照射位置を前記溝の幅よりも小さい距離だけ移動させて、同一焦点面内に、複数の別の溝を段階的に形成させ焦点面溝とする請求項1に記載の複合材の加工方法。
【請求項3】
前記複数の別の溝を、前記加工壁面から離れる方向に、段階的に形成させる請求項2に記載の複合材の加工方法。
【請求項4】
前記溝と前記複数の別の溝とからなる焦点面溝を、その開口幅が所定距離となるよう形成した後、
焦点面を前記溝の深さだけ下げ、開口幅が先の焦点面溝よりも狭い別の焦点面溝を形成する工程を繰り返し、
前記加工壁面の下部に向かって近づくよう傾斜された側面を前記加工壁面に対向する側に有し、且つ、被加工部材を貫通する穴を形成する請求項2または請求項3に記載の複合材の加工方法。
【請求項5】
光源と、
光源から発振されるレーザ光を偏向させる偏向部、及び前記偏向されたレーザ光を集光させるfθレンズで構成された光学系と、
fθレンズの中心線と前記fθレンズで集光されたレーザ光の中心線とのなす照射角度(φ)が、前記集光されたレーザ光の収束角度(δ)以上となるようレーザ光を被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射するよう前記光学系を制御する制御部と、
を備える複合材の加工装置。
【請求項1】
光源と、光源から発振されるレーザ光を偏向させる偏向部と、前記偏向されたレーザ光を集光させるfθレンズと、を備える加工装置を用い、
fθレンズの中心線と前記fθレンズで集光されたレーザ光の中心線とのなす照射角度(φ)が、前記集光されたレーザ光の収束角度(δ)以上となるようレーザ光を被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射する複合材の加工方法。
【請求項2】
前記被加工部材にレーザ光を照射して、前記加工壁面が形成される箇所の上部から所定形状の溝を形成した後、前記レーザ光の照射位置を前記溝の幅よりも小さい距離だけ移動させて、同一焦点面内に、複数の別の溝を段階的に形成させ焦点面溝とする請求項1に記載の複合材の加工方法。
【請求項3】
前記複数の別の溝を、前記加工壁面から離れる方向に、段階的に形成させる請求項2に記載の複合材の加工方法。
【請求項4】
前記溝と前記複数の別の溝とからなる焦点面溝を、その開口幅が所定距離となるよう形成した後、
焦点面を前記溝の深さだけ下げ、開口幅が先の焦点面溝よりも狭い別の焦点面溝を形成する工程を繰り返し、
前記加工壁面の下部に向かって近づくよう傾斜された側面を前記加工壁面に対向する側に有し、且つ、被加工部材を貫通する穴を形成する請求項2または請求項3に記載の複合材の加工方法。
【請求項5】
光源と、
光源から発振されるレーザ光を偏向させる偏向部、及び前記偏向されたレーザ光を集光させるfθレンズで構成された光学系と、
fθレンズの中心線と前記fθレンズで集光されたレーザ光の中心線とのなす照射角度(φ)が、前記集光されたレーザ光の収束角度(δ)以上となるようレーザ光を被加工部材の加工壁面が形成される箇所に照射するよう前記光学系を制御する制御部と、
を備える複合材の加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−71314(P2012−71314A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215937(P2010−215937)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]