複合材料およびその製造方法
【課題】本発明は、燃焼合成法で得られたチタン−アルミ金属間化合物を含む複合材料であって、優れた耐熱性、および耐摩耗性を有すると共に、優れた靭性をも発揮する複合材料、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、金属チタン粉末5およびセラミックス粉末6と、溶融アルミ7とを燃焼合成反応させてチタン−アルミ金属間化合物2を主成分とする複合層3が形成された複合材料であって、前記複合層にはセラミックス繊維4が分散していることを特徴とする。
【解決手段】本発明は、金属チタン粉末5およびセラミックス粉末6と、溶融アルミ7とを燃焼合成反応させてチタン−アルミ金属間化合物2を主成分とする複合層3が形成された複合材料であって、前記複合層にはセラミックス繊維4が分散していることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン−アルミ金属間化合物を含む複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼合成反応で生じる生成熱でこの反応を連鎖的に生じさせる燃焼合成法(SHS:Self-propagating High-Temperature Synthesis)は、省エネルギーの観点からも注目されている。しかしながら、燃焼合成法は、急激な温度上昇を伴うために反応の制御が難しく、得られる複合材料に気泡等が発生して膨張する問題がある。
【0003】
従来、燃焼合成法を使用した複合材料の製造方法としては、(1)燃焼合成反応と同時に加圧操作を組み合わせて、緻密でかつ接合性に優れた特性を複合材料に付与する技術(例えば、特許文献1および特許文献2参照)、(2)アルミ複合材料からなる基材の上に、燃焼合成が可能な粉末層を設け、この粉末層を燃焼合成反応によってセラミックス化(複合化)する技術(例えば、特許文献3参照)、および(3)溶融アルミを使用してアルミナイド金属間化合物を含んだ複合材料を得る技術(例えば、特許文献4から特許文献7参照)が知られている。
【特許文献1】特開平9−71479号公報
【特許文献2】特開平11−172351号公報
【特許文献3】特開平5−148614号公報
【特許文献4】特開2004−211109号公報
【特許文献5】特開2004−346368号公報
【特許文献6】特開2004−307883号公報
【特許文献7】特開2004−353087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されている技術では、複合材料の構成材料の間で収縮率が異なるために、割れや剥離が生じやすいという問題がある。さらに、複合材料への加圧操作が不可欠となるために、製造設備が大規模化し、複雑形状やニアネットシェープの成形が難しいという問題がある。
【0005】
また、特許文献3に開示されている技術では、燃焼合成反応により放出される反応熱が基材で冷やされるために、基材と粉末層との間に充分な接合強度が得られない問題がある。
【0006】
また、特許文献4から特許文献7に開示されている技術では、得られる複合材料に金属アルミが多く残存するために、摺動部材として使用した際に耐熱性および耐摩耗性が不充分となる問題がある。
そして、本発明者らは、これらの特許文献1から特許文献7の技術の問題を解決した複合材料を先に提案している(特願2006−253087(未公開))。その一方で、この複合材料は、耐熱性および耐摩耗性が優れてはいるものの、靭性が更に優れるものが望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、燃焼合成法で得られたチタン−アルミ金属間化合物を含む複合材料であって、優れた耐熱性および耐摩耗性を有すると共に、優れた靭性をも発揮する複合材料、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の複合材料は、金属チタン粉末およびセラミックス粉末と、溶融アルミとを燃焼合成反応させてチタン−アルミ金属間化合物を主成分とする複合層が形成された複合材料であって、前記複合層にはセラミックス繊維が分散していることを特徴とする。
また、この複合材料においては、前記セラミックス繊維の体積率が、1.74〜6.35vol%であることが望ましい。
また、この複合材料においては、前記セラミックス繊維が、SiCからなる繊維およびAl2O3からなる繊維の少なくともいずれかであることが望ましい。
そして、前記課題を解決する本発明の複合材料の製造方法は、金属チタン粉末、セラミックス粉末、およびセラミックス繊維を含む混合物を得る混合工程と、前記金属チタン粉末および前記セラミックス粉末と、溶融アルミとを燃焼合成反応させる反応工程と、を有するチタン−アルミ金属間化合物を主成分とした複合材料の製造方法であって、前記金属チタン粉末に対する前記セラミックス粉末のモル比が7.5〜20であり、かつ前記金属チタン粉末に対する前記セラミックス繊維のモル比が0.5〜2.5であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃焼合成法で得られたチタン−アルミ金属間化合物を含む複合材料であって、優れた耐熱性および耐摩耗性を有すると共に、優れた靭性をも発揮する複合材料、およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。ここで参照する図面において、図1は、実施形態に係る複合材料を模式的に説明する構成説明図である。
本発明の複合材料は、燃焼合成反応によって得られたチタン−アルミ金属間化合物を主成分とする複合層に、セラミックス繊維を含むことを主な特徴とする。ちなみに、本発明の複合材料に使用するセラミックス繊維としては、SiC(炭化ケイ素)、Al2O3(アルミナ)等からなる繊維を挙げることができるが、この実施形態では、セラミックス繊維としてSiCからなる繊維を使用したものについて説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る複合材料1は、その複合層3にチタン−アルミ金属間化合物2としてのAl3Tiと、セラミックス粉末6としてのTiNと、セラミックス繊維4としてのSiCと、AlNとを含んでいる。この複合材料1は、セラミックス繊維4の体積率が、後記するように1.74〜6.35vol%であるものが望ましい。
【0012】
本実施形態に係る複合材料1は、チタン−アルミ金属間化合物2を主成分として含んでおり、従来のアルミ金属基複合材料(Al−MMC)と異なって、残存する金属アルミ成分が極めて少ない。つまり、この複合材料1は、後記するように、原料の配合量を最適化することで金属アルミ成分の含有率が極めて少なくなって、優れた耐熱性および耐摩耗性を発揮することとなる。
【0013】
本実施形態に係る複合材料1は、セラミックス繊維4が複合層3中でアンカ効果を発揮することによって、複合層3でのクラックの発生や進展を防止する。その結果、この複合材料1は、靭性や耐衝撃性に優れる。また、この複合材料1は、冷熱の繰返し疲労によるクラックの発生や進展をも防止するので高温特性を改善することができる。
【0014】
本実施形態に係る複合材料1は、セラミックス繊維4を含むので、これを含まないチタン−アルミ金属間化合物2からなるものと比較して低密度となる。その結果、この複合材料1は、重量の低減化を図ることができる。
【0015】
したがって、以上のような特性を有する複合材料1は、例えば、ブレーキロータ等の摺動部材として好適に使用することができる。
【0016】
次に、本実施形態に係る複合材料1の製造方法について説明する。
この製造方法は、金属チタン粉末、セラミックス粉末、およびセラミックス繊維を含む混合物を得る混合工程と、前記金属チタン粉末および前記セラミックス粉末と溶融アルミとを燃焼合成反応させる反応工程と、を有している。
【0017】
混合工程では、Ti粉末(金属チタン粉末)と、このTi粉末1モルに対して7.5〜20モルのTiN粉末(セラミックス粉末)と、このTi粉末1モルに対して0.5〜2.5モルのSiCからなる繊維(セラミックス繊維)との混合物(以下、これを単に「混合物」ということがある)が調製される。
【0018】
そして、次の反応工程では、混合物に溶融アルミを浸透させることによって、Ti粉末(金属チタン粉末)およびTiN粉末(セラミックス粉末)と、溶融アルミとを燃焼合成反応させる。この反応工程は、例えば、所定の坩堝内に投入した混合物の上にアルミインゴットを配置し、この坩堝を焼成炉内でアルゴン等の不活性雰囲気下に加熱することによって行う。焼成炉内での加熱条件は、連鎖的な燃焼合成反応が安定的に進行するように、混合物の到達温度が、Al3Ti(チタン−アルミ金属間化合物)の溶融温度以下であって、かつアルミインゴットの溶融温度以上となるように設定される。ちなみに、900℃で焼成中の反応系では、断熱燃焼温度が1048〜1172℃の範囲となるように設定することが望ましい。
【0019】
ここで参照する図2(a)から(c)は、金属チタン粉末、セラミックス粉末、およびセラミックス繊維を含む混合物に、溶融アルミが浸透して燃焼合成反応が進行する様子を模式的に示す反応工程図である。
【0020】
図2(a)に示すように、この反応工程では、所定の温度に達した図示しない坩堝内で、金属チタン粉末5とセラミックス粉末6とセラミックス繊維4とを含む混合物に、溶融アルミ7が接触する。
【0021】
そして、図2(b)に示すように、溶融アルミ7と金属チタン粉末5とが燃焼合成反応することによって、符号2で示されるチタン−アルミ金属間化合物(Al3Ti)が生成する。ちなみに、この燃焼合成反応は、次式(1)に示すように、146kJの発熱(チタン−アルミ金属間化合物の生成熱)を伴う反応である。
3Al + Ti → Al3Ti + 146kJ (1)
また、この反応が開始すると、この反応は、溶融アルミ7が金属チタン粉末5、セラミックス粉末6、およびセラミックス繊維4の間に浸透しながら連鎖的に伝播していく。
【0022】
また、浸透する溶融アルミ7は、図2(c)に示すように、符号6で示されるセラミックス粉末(TiN)と反応してAlNと金属チタン(Ti)を生成する。つまり、次式(2)で示す反応が進行する。ちなみに、この反応は、20kJの吸熱を伴う反応である。
Al + TiN + 20kJ → AlN + Ti (2)
【0023】
そして、前記式(2)に示す反応で生成した金属チタン(Ti)は、前記式(1)に示すように、溶融アルミ7と反応してチタン−アルミ金属間化合物(Al3Ti)を生成する。
【0024】
したがって、この反応工程では、前記式(1)および前記式(2)で示すように、混合物中の金属チタン粉末5およびセラミックス粉末6のそれぞれが溶融アルミ7と反応してチタン−アルミ金属間化合物2を生成する。その結果、この反応工程を経ることで、チタン−アルミ金属間化合物2を主成分とし、セラミックス繊維4を体積率で1.74vol%以上含む複合層3を有する複合材料1(図1参照)が形成される。
【0025】
次に、実施形態に係る複合材料1の製造方法の作用効果について説明する。
この製造方法では、前記した反応工程で混合物に浸透した溶融アルミ7は、チタン−アルミ金属間化合物2の生成に消費されるので、得られる複合材料1中の金属アルミの残存量が極めて少なくなる。その結果、この製造方法で得られた複合材料1は、前記したように、優れた耐熱性および耐摩耗性を発揮することとなる。
【0026】
また、この製造方法では、前記したように、溶融アルミ7を浸透させる混合物におけるTi粉末(金属チタン粉末5)に対するTiN粉末(セラミックス粉末6)のモル比が7.5以上となっているので、前記式(1)に示すTi粉末と溶融アルミ7との発熱反応によって、反応系全体の温度が急激に上昇しようとするところ、前記式(2)に示すTiN粉末と溶融アルミ7との吸熱反応によって、複合材料1を得ようとする反応系全体の温度が急激に上昇することが抑制される。その結果、この製造方法は、前記式(1)に示す反応で得られるAl3Ti(チタン−アルミ金属間化合物2)の融点以下となるように、反応系全体の温度を制御することができる。
したがって、この製造方法によれば、気泡等によって複合材料1が膨張することがなく緻密な複合材料1を得ることができる。
【0027】
また、この製造方法では、前記式(1)および前記式(2)で示す反応に直接的に関与しないSiCからなる繊維(セラミックス繊維4)がTi粉末(金属チタン粉末5)に対するモル比で0.5以上となるように混合物に含まれているので、前記式(1)の発熱反応に寄与するTi粉末の混合率が低くなる。その結果、この製造方法では、反応系全体の温度が急激に上昇することが抑制されるので、気泡等のない緻密な複合材料1を得ることができる。
【0028】
また、この製造方法では、前記式(1)および前記式(2)で示す反応に直接的に関与しないSiCからなる繊維(セラミックス繊維4)がTi粉末(金属チタン粉末5)に対するモル比で0.5以上となるように混合物に含まれているので、得られる複合材料1中に、体積率で1.74vol%以上のセラミックス繊維4を含むこととなる。その結果、この製造方法で得られた複合材料1は、前記したように、靭性や耐衝撃性に優れると共に複合材料1の高温特性を改善し、その重量の低減化を図ることができる。
【0029】
また、この製造方法では、前記したように、溶融アルミ7を浸透させる混合物におけるTi粉末(金属チタン粉末5)に対するTiN粉末(セラミックス粉末6)のモル比が20以下であり、かつTi粉末(金属チタン粉末5)に対するSiCからなる繊維(セラミックス繊維4)のモル比が2.5以下となっているので、溶融アルミ7とTi粉末(金属チタン粉末5)との燃焼合成反応が安定的に進行する。したがって、この製造方法によれば、燃焼合成反応が完結した均質な複合材料1を得ることができる。
【0030】
また、この製造方法は、燃焼合成法(SHS)によって複合材料1を得るので、例えば、従来のアルミ金属基複合材料(Al−MMC)の製造方法と異なって、溶融アルミをセラミックスマトリックスに充填する特別な設備の必要もなく、簡単な工程で複合材料1を得ることができる。
【0031】
本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、セラミックス粉末6としてTiN粉末を使用するものについて説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、他のセラミックス粉末6を使用するものであってもよい。
TiN以外のセラミックス粉末6としては、例えば、Fe4N、Ca3N2、Mo2N、TiO2、NiO、SiO2、Nb2O3、B2O3、MnO、FeO、Fe2O3、CuO、Cu2O、ZnO等からなる粉末が挙げられる。
【0032】
前記実施形態では、セラミックス繊維4として、SiC(炭化ケイ素)、Al2O3(アルミナ)からなる繊維を挙げたが、本発明はこれに限定されることなく、他のセラミックス繊維4を使用してもよい。ちなみに、セラミックス繊維4としては、溶融アルミ7との反応性が殆どなく、前記した反応工程での熱的安定性に優れていることから、SiC(炭化ケイ素)およびAl2O3(アルミナ)が望ましいことを本発明者らは確認している。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を示しながら本発明をさらに具体的に説明する。ここでは先ず複合材料の製造試験を行った。
(複合材料の製造試験)
この製造試験では、まず金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)をxモル(x=2〜40)含むと共に、セラミックス繊維(SiC)をyモル(y=0.0〜5.0)含む混合物(Ti−xTiN−ySiC)を調製した。
具体的には、後記する表1に示すように、金属チタン粉末(Ti)のモル数とセラミックス粉末(TiN)のモル数との比(1/x)が、1/2、1/5、1/7.5、1/10、1/12.5、1/15、1/17.5、1/20、および1/40となるように、そして、金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス繊維(SiC)のモル比(y)が、0.0、0.5、1.0、2.5、および5.0となるように、45種類の混合物が調製された。ちなみに、セラミックス繊維(SiC)のモル比(y)が0.5のとき混合物(複合化前)中のセラミックス繊維(SiC)の体積率(v)が3.2vol%となり、モル比(y)が1.0のとき体積率(v)が6.2vol%となり、モル比(y)が2.5のとき体積率(v)が14.3vol%となり、モル比(y)が3.0のとき体積率(v)が16.7vol%となり、モル比(y)が5.0とき体積率(v)が25.0vol%となる。
【0034】
【表1】
【0035】
これらの混合物の調製においては、予めセラミックス繊維(SiC)がエタノールと共にマグネチックスターラで60分間解砕混合された。次いで、これに金属チタン粉末(Ti)およびセラミックス粉末(TiN)が投入されて更に15分間混合された。そして、エタノールを吸引ろ過にて除去すると共に、分離された固形分を乾燥炉にて100℃で1時間乾燥した後、これを強制通篩にて造粒することによって各混合物が得られた。
【0036】
次に、この製造試験では、略円筒形の坩堝内に混合物を投入し、この混合物の上にアルミインゴットを配置した。次いで、この坩堝を焼成炉内でアルゴン雰囲気下に900℃まで昇温した後に、焼成炉内に配置したままで室温まで冷却した。
そして、冷却後に坩堝からその焼成物を取り出して焼成物の断面を観察した。次いで、その断面の状態を次の基準で判定した。その結果を表1に示す。
【0037】
なお、焼成物の断面の状態についての判定は、溶融アルミが混合物に浸透して燃焼合成反応が正常に完結しており、セラミックス繊維(SiC)が分散した緻密な複合層を有する複合材料1が形成されたものを「◎」と判定した。また、溶融アルミが混合物に浸透せずに燃焼合成反応が正常に完結しておらず、固化した金属アルミが混合物の上で相分離したものを「×」と判定した。また、溶融アルミが混合物に浸透して燃焼合成反応が部分的に進行しているが、燃焼合成反応が正常に完結しておらず、焼成物にチタン−アルミ金属間化合物(Al3Ti)が部分的に形成されているものを「△」と判定した。また、燃焼合成反応が激しく生じたために、複合材料に気泡が形成されて多孔質となったものを「●」と判定した。
【0038】
(製造試験の判定結果について)
表1から明らかなように、Ti−xTiN−ySiCで示される混合物において、xが7.5〜20であり、かつyが0.5〜2.5である混合物を反応工程に供することで、「◎」と判定される健全な複合材料1が得られることが確認された。つまり、このようなモル比でセラミックス粉末(TiN)およびセラミックス繊維(SiC)を含む混合物から得られた複合材料は、溶融アルミが混合物に浸透して燃焼合成反応が正常に完結しており、セラミックス繊維(SiC)が分散した緻密な複合層を有するものとなることが確認された。
【0039】
ここで参照する図3(a)は、Ti−15TiN−0.5SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、図3(b)は、図3(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。図4(a)は、Ti−15TiN−1.0SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、図4(b)は、図4(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。図5(a)は、Ti−15TiN−2.5SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、図5(b)は、図5(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。図6は、Ti−15TiN−5.0SiCの割合の混合物から得られた前記焼成物の表面の状態を示す図面代用写真である。図7は、Ti−5TiN−2.5SiCの割合の混合物から得られた前記焼成物の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。図8は、Ti−2TiN−0.5SiCの割合の混合物から得られた前記焼成物の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。なお、図3(a)、図4(a)、図5(a)、および図6は、溶融アルミが接触した側の様子を示す図面代用写真である。
【0040】
金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)を15モル含む混合物からは、図3(a)および(b)、図4(a)および(b)、ならびに図5(a)および(b)に示すように、セラミックス繊維(SiC)のモル比をそれぞれ、0.5(図3参照)、1.0(図4参照)、および2.5(図5参照)とすることで、金属アルミがほとんど残存しない緻密な組織中に、セラミックス繊維4(図3(b)、図4(b)、および図5(b)参照)が分散した複合材料1が得られた。ちなみに、図3から図5で示されるような複合材料1となった焼成物は、前記した判定基準の「◎」に相当する。
【0041】
その一方で、金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)を15モル含む混合物であって、セラミックス繊維(SiC)のモル比が5.0の混合物からは、図6に示すように、溶融アルミが混合物に浸透せずに燃焼合成反応が正常に進行しておらず、例えば図3(a)に示すものと異なって、得られた焼成物に複合材料1が形成されていない。ちなみに、図6で示されるような焼成物は、前記した判定基準の「×」に相当する。
【0042】
また、表1には示さないが、金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)を15モル含む混合物であって、セラミックス繊維(SiC)のモル比が3.0の混合物からも、「×」と判定される焼成物が得られている。
【0043】
そして、金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)を5モル含み、セラミックス繊維(SiC)のモル比を2.5とした混合物からは、図7に示すように、溶融アルミが消費されずに金属アルミ7´として残存すると共に、チタン−アルミ金属間化合物2が部分的に形成されている焼成物が得られた。ちなみに、図7で示されるような焼成物は、前記した判定基準の「△」に相当する。
【0044】
また、金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)を2モル含み、セラミックス繊維(SiC)のモル比を0.5とした混合物からは、図8に示すように、気泡Bを発生して膨張した焼成物が得られた。ちなみに、図8で示されるような焼成物は、前記した判定基準の「●」に相当する。
【0045】
表1に示すように、「◎」と判定された健全な複合材料からなる焼成物であって、かつセラミックス繊維を含むものは、金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス粉末(TiN)のモル比が7.5〜20であり、かつ金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス繊維のモル比が0.5〜2.5である混合物から得られることが確認された。
後記する表2に、表1中、「◎」と判定された健全な複合材料からなる焼成物におけるセラミックス繊維(SiC)の体積率(vol%)を示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、「◎」と判定された健全な複合材料からなる焼成物であって、かつセラミックス繊維を含むものは、焼成物(複合材料)中のセラミックス繊維の体積率が1.33〜12.95vol%であることが確認された。
【0048】
(実施例1から実施例5)
この実施例1から実施例5では、後記する表3に示すように、金属チタン粉末(Ti)、セラミックス粉末(TiN)、およびセラミックス繊維(SiC)を配合した混合物(Ti/TiN/SiC)を使用した以外は、前記した「複合材料の製造試験」と同様にして焼成物を得た。ちなみに、実施例1から実施例5における金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス粉末(TiN)のモル比は、前記した7.5〜20の範囲内であり、かつ金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス繊維のモル比は、前記した0.5〜2.5の範囲内であった。そして、実施例1から実施例5で得られた焼成物は、前記した判定基準で「◎」に相当する健全な複合材料であった。
【0049】
【表3】
【0050】
そして、この実施例1から実施例5で得られた複合材料の密度および複合材料中のセラミックス繊維の体積率を測定した。その結果を表1に示す。なお、セラミックス繊維の体積率は、表3中、単に「体積率」として記した。
【0051】
次に、実施例1から実施例5で得られた複合材料の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びがJIS Z 2241に準拠して測定された。これらの測定には、島津製作所社製の「AG−I 100kNオートグラフ」が使用された。そして、試験片には、実施例1から実施例5で得られた複合材料より切り出した、図9に示す形状のものが使用された。図9は、複合材料の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びの測定に使用された試験片の平面図である。ちなみに、図9に示す数字の単位はmmであり、この試験片は板体であって、その厚さは3±0.05mmである。
【0052】
これらの抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びの測定結果を表3および図10に示す。図10は、実施例で得られた複合材料の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びの測定結果を示すグラフであり、左側の縦軸が抗張力(TS:MPa)および耐力(YS:MPa)を表し、右側の縦軸が伸び(%)を表し、上側の横軸が混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)を表し、下側の横軸が複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率(vol%)を表す。なお、図10中、「実施例」は、単に「実」と略記する。
【0053】
そして、実施例1から実施例5で得られた複合材料の衝撃値をJIS B 7722に準じて測定した。この測定には、米倉製作所社製の「シャルピ式衝撃試験機 100J」が使用された。そして、試験片には、実施例1から実施例5で得られた複合材料より切り出した40mm×5mm×5mmの四角柱のものが使用された。
衝撃値の測定結果を表3および図11に示す。図11は、実施例で得られた複合材料の衝撃値の測定結果を示すグラフであり、左側の縦軸が衝撃値(シャノピ:J/cm2)を表し、上側の横軸が混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)を表し、下側の横軸が複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率(vol%)を表す。なお、図11中、「実施例」は、単に「実」と略記する。
【0054】
(比較例1から比較例3)
この比較例1から比較例3では、表3に示す材料、つまり、鋳鉄(表3中、「FC150HC」と記す)、アルミ金属基複合材料(表3中、「Al−MMC(アルミナ22%)」と記す)、および金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス粉末(TiN)のモル比が15であって、かつセラミックス繊維を含まない混合物から得られた複合材料(表3中、「Ti/15TiN(AR2)」と記す)のそれぞれについて、実施例1から実施例5と同様にして、密度、抗張力(TS)、耐力(YS)、伸び、および衝撃値を測定した。その結果を表3に示す。そして、比較例1および比較例3の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びについては、図10にも併記し、比較例1および比較例3の衝撃値については、図11にも併記した。なお、図10および図11中、「比較例」は「比」と略記する。
【0055】
(実施例1から実施例5で得られた複合材料の評価結果)
表3に示すように、実施例1から実施例5で得られた複合材料は、ブレーキロータ等の摺動部材として使用されている比較例1の鋳鉄よりも、密度が低くなっている。そして、抗張力(TS)および耐力(YS)については、実施例1から実施例5で得られた複合材料は、比較例2のアルミ金属基複合材料と比較しても遜色がないことが確認された。
【0056】
また、図10に示すように、混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)が2モル(mol)以下、つまり、複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率が6.35vol%以下である実施例1から実施例4での複合材料では、抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びが、比較例1の鋳鉄と同等かそれ以上であった。そして、混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)が1モル(mol)となる実施例2の複合材料の伸びがピーク値(3.5%)を示した。
【0057】
また、図11に示すように、混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)が0.5モル(mol)以上、つまり、複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率が1.74vol%以上である実施例1から実施例5での複合材料では、比較例1の鋳鉄、および比較例3のセラミックス繊維(SiC)を含まない複合材料よりも高い衝撃値を示すことが確認された。そして、混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)が0.7モル(mol)〜1モル(mol)の範囲で衝撃値が最も大きくなることが確認された。
【0058】
以上のことから、セラミックス繊維(SiC)を含む実施例1から実施例5の複合材料は、セラミックス繊維(SiC)を含まない複合材料(比較例3)と比較して靭性に優れるとともに、従来、ブレーキロータ等の摺動部材として使用されている比較例1の鋳鉄よりも靭性に優れていることが確認された。
【0059】
(クラック発生試験)
このクラック発生試験では、実施例2で得られた複合部材、比較例1の鋳鉄(FC150HC)、比較例2のアルミ金属基複合材料(Al−MMC(アルミナ22%))、および比較例3のセラミックス繊維を含まない複合材料(Ti/15TiNの混合物から得られたもの)のそれぞれから、径が25mmで厚さが15mmの円盤を切り出した。これらの円盤の表面をエメリー研磨で♯1000まで研磨したものをそれぞれ試験片とした。
そして、このクラック発生試験では、各試験片を、鋳鉄(FC25)製で径が180mmの回転板にトルク3kg・mとなるように押し付けてクラックの発生状況を観察した。
ちなみに、クラック発生試験では、1700rpmで回転する回転板に試験片を前記したトルクとなるように押し付けて、その回転速度を755rpmまで減速させる工程を1サイクルとし、このサイクルが繰り返えされた。
【0060】
クラックの発生状況の判定は、円盤に対する試験片の押付けのサイクル数が、50回、100回、140回、200回、および270回となった際に、次に説明するクラックレベルC1からC10で規定される基準で行われた。その結果を図12に示す。図12は、クラック発生試験の結果を示すグラフであり、左側の縦軸がクラック最大長さ(mm)を表し、右側の縦軸がクラックレベルを表し、横軸が繰返しサイクル数(押付けサイクル数(回))を表す。なお、図12中、「実施例」は「実」と略記し、「比較例」は「比」と略記する。
【0061】
クラックレベルC1からC10は、次の基準で規定された。クラックの発生が無いものは「C10」と規定された。カラーチェックでのクラックの発生は確認できるが、目視では確認できないものは「C9」と規定された。目視でクラックの発生がやっと確認できるものは「C8」と規定された。目視でクラックの発生が部分的にはっきりと確認できるものは「C7」と規定された。試験片の半分の領域にクラック長さが5mm以内のヘヤークラックが確認できるものは「C6」と規定された。試験片の全面にクラック長さが10mm以内のヘヤークラックが確認できるものは「C5」と規定された。クラック長さが10mmを超えているものは「C4」と規定された。口を開いたクラックが部分的に確認できるものは「C3」と規定された。口を開いたクラックが全面に確認できるものは「C2」と規定された。クラックが試験片の外周にまで貫通しているもの、クラックで破損したものは「C1」と規定された。ちなみに、前記した「カラーチェック」とは、浸透探傷試験を意味する。
なお、図12中の一点鎖線で示す基準レベルSLは、サイクルが140回でクラックレベルがC5以上となるものであって、摺動部材として使用することができる程度にクラックの発生が少ない材料を判別するレベルである。
【0062】
(クラックの発生状況の判定)
図12に示すように、セラミックス繊維を含まない比較例3の複合材料は、繰返しサイクル数が140回を超えることで、図12中の基準レベルSLを満たさないものとなった。
一方、摺動部材として使用されている比較例1の鋳鉄は、繰返しサイクル数が270回に達しても図12中の基準レベルSL内に収まっている。ちなみに、比較例1の鋳鉄は、繰返しサイクル数が100回のときに、目視でクラックの発生が認められている。
比較例2のアルミ金属基複合材料は、クラックの発生が極めて少なくなっている。
そして、実施例2の複合材料は、この比較例2のアルミ金属基複合材料よりも更にクラックの発生が少なくなっている。
以上のことから、実施例2の複合材料は、クラックの発生が最も少なく、摺動部材として最適であることが確認された。
【0063】
ここで繰返しサイクル数が270回となった実施例2での試験片の図面代用写真、および比較例3での試験片の図面代用写真を図13に示す。図13(a)は、実施例2で得られた複合部材の試験片についてクラック発生試験(270サイクル経過後の浸透探傷試験)を行った後の様子を示す図面代用写真であり、図13(b)は、比較例3で得られた複合部材の試験片についてクラック発生試験(270サイクル経過後の浸透探傷試験)を行った後の様子を示す図面代用写真である。ちなみに、図13(b)の試験片には、クラックCが多数発生しているのに対し、図13(a)の試験片には、クラックCが殆ど発生していない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施形態に係る複合材料を模式的に説明する構成説明図である。
【図2】(a)から(c)は、金属チタン、セラミックス粉末、およびセラミックス繊維を含む混合物に、溶融アルミが浸透して燃焼合成反応が進行する様子を模式的に示す反応工程図である。
【図3】(a)は、Ti−15TiN−0.5SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、(b)は、(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。
【図4】(a)は、Ti−15TiN−1.0SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、(b)は、(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。
【図5】(a)は、Ti−15TiN−2.5SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、(b)は、(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。
【図6】Ti−15TiN−5.0SiCの割合の混合物から得られた焼成物の表面の状態を示す図面代用写真である。
【図7】Ti−5TiN−2.5SiCの割合の混合物から得られた焼成物の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。
【図8】Ti−2TiN−0.5SiCの割合の混合物から得られた焼成物の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。
【図9】複合材料の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びの測定に使用された試験片の平面図である。
【図10】実施例で得られた複合材料の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びの測定結果を示すグラフであり、左側の縦軸が抗張力(TS:MPa)および耐力(YS:MPa)を表し、右側の縦軸が伸び(%)を表し、上側の横軸が混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)を表し、下側の横軸が複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率(vol%)を表す。
【図11】実施例で得られた複合材料の衝撃値の測定結果を示すグラフであり、左側の縦軸が衝撃値(シャノピ:J/cm2)を表し、上側の横軸が混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)を表し、下側の横軸が複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率(vol%)を表す。
【図12】クラック発生試験の結果を示すグラフであり、左側の縦軸がクラック最大長さ(mm)を表し、右側の縦軸がクラックレベルを表し、横軸が繰返しサイクル数(押付けサイクル数(回))を表す。
【図13】(a)は、実施例2で得られた複合部材の試験片についてクラック発生試験(270サイクル経過後の浸透探傷試験)を行った後の様子を示す図面代用写真であり、(b)は、比較例3で得られた複合部材の試験片についてクラック発生試験(270サイクル経過後の浸透探傷試験)を行った後の様子を示す図面代用写真である。
【符号の説明】
【0065】
1 複合材料
2 チタン−アルミ金属間化合物
3 複合層
4 セラミックス繊維
6 セラミックス粉末
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン−アルミ金属間化合物を含む複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼合成反応で生じる生成熱でこの反応を連鎖的に生じさせる燃焼合成法(SHS:Self-propagating High-Temperature Synthesis)は、省エネルギーの観点からも注目されている。しかしながら、燃焼合成法は、急激な温度上昇を伴うために反応の制御が難しく、得られる複合材料に気泡等が発生して膨張する問題がある。
【0003】
従来、燃焼合成法を使用した複合材料の製造方法としては、(1)燃焼合成反応と同時に加圧操作を組み合わせて、緻密でかつ接合性に優れた特性を複合材料に付与する技術(例えば、特許文献1および特許文献2参照)、(2)アルミ複合材料からなる基材の上に、燃焼合成が可能な粉末層を設け、この粉末層を燃焼合成反応によってセラミックス化(複合化)する技術(例えば、特許文献3参照)、および(3)溶融アルミを使用してアルミナイド金属間化合物を含んだ複合材料を得る技術(例えば、特許文献4から特許文献7参照)が知られている。
【特許文献1】特開平9−71479号公報
【特許文献2】特開平11−172351号公報
【特許文献3】特開平5−148614号公報
【特許文献4】特開2004−211109号公報
【特許文献5】特開2004−346368号公報
【特許文献6】特開2004−307883号公報
【特許文献7】特開2004−353087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されている技術では、複合材料の構成材料の間で収縮率が異なるために、割れや剥離が生じやすいという問題がある。さらに、複合材料への加圧操作が不可欠となるために、製造設備が大規模化し、複雑形状やニアネットシェープの成形が難しいという問題がある。
【0005】
また、特許文献3に開示されている技術では、燃焼合成反応により放出される反応熱が基材で冷やされるために、基材と粉末層との間に充分な接合強度が得られない問題がある。
【0006】
また、特許文献4から特許文献7に開示されている技術では、得られる複合材料に金属アルミが多く残存するために、摺動部材として使用した際に耐熱性および耐摩耗性が不充分となる問題がある。
そして、本発明者らは、これらの特許文献1から特許文献7の技術の問題を解決した複合材料を先に提案している(特願2006−253087(未公開))。その一方で、この複合材料は、耐熱性および耐摩耗性が優れてはいるものの、靭性が更に優れるものが望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、燃焼合成法で得られたチタン−アルミ金属間化合物を含む複合材料であって、優れた耐熱性および耐摩耗性を有すると共に、優れた靭性をも発揮する複合材料、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の複合材料は、金属チタン粉末およびセラミックス粉末と、溶融アルミとを燃焼合成反応させてチタン−アルミ金属間化合物を主成分とする複合層が形成された複合材料であって、前記複合層にはセラミックス繊維が分散していることを特徴とする。
また、この複合材料においては、前記セラミックス繊維の体積率が、1.74〜6.35vol%であることが望ましい。
また、この複合材料においては、前記セラミックス繊維が、SiCからなる繊維およびAl2O3からなる繊維の少なくともいずれかであることが望ましい。
そして、前記課題を解決する本発明の複合材料の製造方法は、金属チタン粉末、セラミックス粉末、およびセラミックス繊維を含む混合物を得る混合工程と、前記金属チタン粉末および前記セラミックス粉末と、溶融アルミとを燃焼合成反応させる反応工程と、を有するチタン−アルミ金属間化合物を主成分とした複合材料の製造方法であって、前記金属チタン粉末に対する前記セラミックス粉末のモル比が7.5〜20であり、かつ前記金属チタン粉末に対する前記セラミックス繊維のモル比が0.5〜2.5であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃焼合成法で得られたチタン−アルミ金属間化合物を含む複合材料であって、優れた耐熱性および耐摩耗性を有すると共に、優れた靭性をも発揮する複合材料、およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。ここで参照する図面において、図1は、実施形態に係る複合材料を模式的に説明する構成説明図である。
本発明の複合材料は、燃焼合成反応によって得られたチタン−アルミ金属間化合物を主成分とする複合層に、セラミックス繊維を含むことを主な特徴とする。ちなみに、本発明の複合材料に使用するセラミックス繊維としては、SiC(炭化ケイ素)、Al2O3(アルミナ)等からなる繊維を挙げることができるが、この実施形態では、セラミックス繊維としてSiCからなる繊維を使用したものについて説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る複合材料1は、その複合層3にチタン−アルミ金属間化合物2としてのAl3Tiと、セラミックス粉末6としてのTiNと、セラミックス繊維4としてのSiCと、AlNとを含んでいる。この複合材料1は、セラミックス繊維4の体積率が、後記するように1.74〜6.35vol%であるものが望ましい。
【0012】
本実施形態に係る複合材料1は、チタン−アルミ金属間化合物2を主成分として含んでおり、従来のアルミ金属基複合材料(Al−MMC)と異なって、残存する金属アルミ成分が極めて少ない。つまり、この複合材料1は、後記するように、原料の配合量を最適化することで金属アルミ成分の含有率が極めて少なくなって、優れた耐熱性および耐摩耗性を発揮することとなる。
【0013】
本実施形態に係る複合材料1は、セラミックス繊維4が複合層3中でアンカ効果を発揮することによって、複合層3でのクラックの発生や進展を防止する。その結果、この複合材料1は、靭性や耐衝撃性に優れる。また、この複合材料1は、冷熱の繰返し疲労によるクラックの発生や進展をも防止するので高温特性を改善することができる。
【0014】
本実施形態に係る複合材料1は、セラミックス繊維4を含むので、これを含まないチタン−アルミ金属間化合物2からなるものと比較して低密度となる。その結果、この複合材料1は、重量の低減化を図ることができる。
【0015】
したがって、以上のような特性を有する複合材料1は、例えば、ブレーキロータ等の摺動部材として好適に使用することができる。
【0016】
次に、本実施形態に係る複合材料1の製造方法について説明する。
この製造方法は、金属チタン粉末、セラミックス粉末、およびセラミックス繊維を含む混合物を得る混合工程と、前記金属チタン粉末および前記セラミックス粉末と溶融アルミとを燃焼合成反応させる反応工程と、を有している。
【0017】
混合工程では、Ti粉末(金属チタン粉末)と、このTi粉末1モルに対して7.5〜20モルのTiN粉末(セラミックス粉末)と、このTi粉末1モルに対して0.5〜2.5モルのSiCからなる繊維(セラミックス繊維)との混合物(以下、これを単に「混合物」ということがある)が調製される。
【0018】
そして、次の反応工程では、混合物に溶融アルミを浸透させることによって、Ti粉末(金属チタン粉末)およびTiN粉末(セラミックス粉末)と、溶融アルミとを燃焼合成反応させる。この反応工程は、例えば、所定の坩堝内に投入した混合物の上にアルミインゴットを配置し、この坩堝を焼成炉内でアルゴン等の不活性雰囲気下に加熱することによって行う。焼成炉内での加熱条件は、連鎖的な燃焼合成反応が安定的に進行するように、混合物の到達温度が、Al3Ti(チタン−アルミ金属間化合物)の溶融温度以下であって、かつアルミインゴットの溶融温度以上となるように設定される。ちなみに、900℃で焼成中の反応系では、断熱燃焼温度が1048〜1172℃の範囲となるように設定することが望ましい。
【0019】
ここで参照する図2(a)から(c)は、金属チタン粉末、セラミックス粉末、およびセラミックス繊維を含む混合物に、溶融アルミが浸透して燃焼合成反応が進行する様子を模式的に示す反応工程図である。
【0020】
図2(a)に示すように、この反応工程では、所定の温度に達した図示しない坩堝内で、金属チタン粉末5とセラミックス粉末6とセラミックス繊維4とを含む混合物に、溶融アルミ7が接触する。
【0021】
そして、図2(b)に示すように、溶融アルミ7と金属チタン粉末5とが燃焼合成反応することによって、符号2で示されるチタン−アルミ金属間化合物(Al3Ti)が生成する。ちなみに、この燃焼合成反応は、次式(1)に示すように、146kJの発熱(チタン−アルミ金属間化合物の生成熱)を伴う反応である。
3Al + Ti → Al3Ti + 146kJ (1)
また、この反応が開始すると、この反応は、溶融アルミ7が金属チタン粉末5、セラミックス粉末6、およびセラミックス繊維4の間に浸透しながら連鎖的に伝播していく。
【0022】
また、浸透する溶融アルミ7は、図2(c)に示すように、符号6で示されるセラミックス粉末(TiN)と反応してAlNと金属チタン(Ti)を生成する。つまり、次式(2)で示す反応が進行する。ちなみに、この反応は、20kJの吸熱を伴う反応である。
Al + TiN + 20kJ → AlN + Ti (2)
【0023】
そして、前記式(2)に示す反応で生成した金属チタン(Ti)は、前記式(1)に示すように、溶融アルミ7と反応してチタン−アルミ金属間化合物(Al3Ti)を生成する。
【0024】
したがって、この反応工程では、前記式(1)および前記式(2)で示すように、混合物中の金属チタン粉末5およびセラミックス粉末6のそれぞれが溶融アルミ7と反応してチタン−アルミ金属間化合物2を生成する。その結果、この反応工程を経ることで、チタン−アルミ金属間化合物2を主成分とし、セラミックス繊維4を体積率で1.74vol%以上含む複合層3を有する複合材料1(図1参照)が形成される。
【0025】
次に、実施形態に係る複合材料1の製造方法の作用効果について説明する。
この製造方法では、前記した反応工程で混合物に浸透した溶融アルミ7は、チタン−アルミ金属間化合物2の生成に消費されるので、得られる複合材料1中の金属アルミの残存量が極めて少なくなる。その結果、この製造方法で得られた複合材料1は、前記したように、優れた耐熱性および耐摩耗性を発揮することとなる。
【0026】
また、この製造方法では、前記したように、溶融アルミ7を浸透させる混合物におけるTi粉末(金属チタン粉末5)に対するTiN粉末(セラミックス粉末6)のモル比が7.5以上となっているので、前記式(1)に示すTi粉末と溶融アルミ7との発熱反応によって、反応系全体の温度が急激に上昇しようとするところ、前記式(2)に示すTiN粉末と溶融アルミ7との吸熱反応によって、複合材料1を得ようとする反応系全体の温度が急激に上昇することが抑制される。その結果、この製造方法は、前記式(1)に示す反応で得られるAl3Ti(チタン−アルミ金属間化合物2)の融点以下となるように、反応系全体の温度を制御することができる。
したがって、この製造方法によれば、気泡等によって複合材料1が膨張することがなく緻密な複合材料1を得ることができる。
【0027】
また、この製造方法では、前記式(1)および前記式(2)で示す反応に直接的に関与しないSiCからなる繊維(セラミックス繊維4)がTi粉末(金属チタン粉末5)に対するモル比で0.5以上となるように混合物に含まれているので、前記式(1)の発熱反応に寄与するTi粉末の混合率が低くなる。その結果、この製造方法では、反応系全体の温度が急激に上昇することが抑制されるので、気泡等のない緻密な複合材料1を得ることができる。
【0028】
また、この製造方法では、前記式(1)および前記式(2)で示す反応に直接的に関与しないSiCからなる繊維(セラミックス繊維4)がTi粉末(金属チタン粉末5)に対するモル比で0.5以上となるように混合物に含まれているので、得られる複合材料1中に、体積率で1.74vol%以上のセラミックス繊維4を含むこととなる。その結果、この製造方法で得られた複合材料1は、前記したように、靭性や耐衝撃性に優れると共に複合材料1の高温特性を改善し、その重量の低減化を図ることができる。
【0029】
また、この製造方法では、前記したように、溶融アルミ7を浸透させる混合物におけるTi粉末(金属チタン粉末5)に対するTiN粉末(セラミックス粉末6)のモル比が20以下であり、かつTi粉末(金属チタン粉末5)に対するSiCからなる繊維(セラミックス繊維4)のモル比が2.5以下となっているので、溶融アルミ7とTi粉末(金属チタン粉末5)との燃焼合成反応が安定的に進行する。したがって、この製造方法によれば、燃焼合成反応が完結した均質な複合材料1を得ることができる。
【0030】
また、この製造方法は、燃焼合成法(SHS)によって複合材料1を得るので、例えば、従来のアルミ金属基複合材料(Al−MMC)の製造方法と異なって、溶融アルミをセラミックスマトリックスに充填する特別な設備の必要もなく、簡単な工程で複合材料1を得ることができる。
【0031】
本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、セラミックス粉末6としてTiN粉末を使用するものについて説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、他のセラミックス粉末6を使用するものであってもよい。
TiN以外のセラミックス粉末6としては、例えば、Fe4N、Ca3N2、Mo2N、TiO2、NiO、SiO2、Nb2O3、B2O3、MnO、FeO、Fe2O3、CuO、Cu2O、ZnO等からなる粉末が挙げられる。
【0032】
前記実施形態では、セラミックス繊維4として、SiC(炭化ケイ素)、Al2O3(アルミナ)からなる繊維を挙げたが、本発明はこれに限定されることなく、他のセラミックス繊維4を使用してもよい。ちなみに、セラミックス繊維4としては、溶融アルミ7との反応性が殆どなく、前記した反応工程での熱的安定性に優れていることから、SiC(炭化ケイ素)およびAl2O3(アルミナ)が望ましいことを本発明者らは確認している。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を示しながら本発明をさらに具体的に説明する。ここでは先ず複合材料の製造試験を行った。
(複合材料の製造試験)
この製造試験では、まず金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)をxモル(x=2〜40)含むと共に、セラミックス繊維(SiC)をyモル(y=0.0〜5.0)含む混合物(Ti−xTiN−ySiC)を調製した。
具体的には、後記する表1に示すように、金属チタン粉末(Ti)のモル数とセラミックス粉末(TiN)のモル数との比(1/x)が、1/2、1/5、1/7.5、1/10、1/12.5、1/15、1/17.5、1/20、および1/40となるように、そして、金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス繊維(SiC)のモル比(y)が、0.0、0.5、1.0、2.5、および5.0となるように、45種類の混合物が調製された。ちなみに、セラミックス繊維(SiC)のモル比(y)が0.5のとき混合物(複合化前)中のセラミックス繊維(SiC)の体積率(v)が3.2vol%となり、モル比(y)が1.0のとき体積率(v)が6.2vol%となり、モル比(y)が2.5のとき体積率(v)が14.3vol%となり、モル比(y)が3.0のとき体積率(v)が16.7vol%となり、モル比(y)が5.0とき体積率(v)が25.0vol%となる。
【0034】
【表1】
【0035】
これらの混合物の調製においては、予めセラミックス繊維(SiC)がエタノールと共にマグネチックスターラで60分間解砕混合された。次いで、これに金属チタン粉末(Ti)およびセラミックス粉末(TiN)が投入されて更に15分間混合された。そして、エタノールを吸引ろ過にて除去すると共に、分離された固形分を乾燥炉にて100℃で1時間乾燥した後、これを強制通篩にて造粒することによって各混合物が得られた。
【0036】
次に、この製造試験では、略円筒形の坩堝内に混合物を投入し、この混合物の上にアルミインゴットを配置した。次いで、この坩堝を焼成炉内でアルゴン雰囲気下に900℃まで昇温した後に、焼成炉内に配置したままで室温まで冷却した。
そして、冷却後に坩堝からその焼成物を取り出して焼成物の断面を観察した。次いで、その断面の状態を次の基準で判定した。その結果を表1に示す。
【0037】
なお、焼成物の断面の状態についての判定は、溶融アルミが混合物に浸透して燃焼合成反応が正常に完結しており、セラミックス繊維(SiC)が分散した緻密な複合層を有する複合材料1が形成されたものを「◎」と判定した。また、溶融アルミが混合物に浸透せずに燃焼合成反応が正常に完結しておらず、固化した金属アルミが混合物の上で相分離したものを「×」と判定した。また、溶融アルミが混合物に浸透して燃焼合成反応が部分的に進行しているが、燃焼合成反応が正常に完結しておらず、焼成物にチタン−アルミ金属間化合物(Al3Ti)が部分的に形成されているものを「△」と判定した。また、燃焼合成反応が激しく生じたために、複合材料に気泡が形成されて多孔質となったものを「●」と判定した。
【0038】
(製造試験の判定結果について)
表1から明らかなように、Ti−xTiN−ySiCで示される混合物において、xが7.5〜20であり、かつyが0.5〜2.5である混合物を反応工程に供することで、「◎」と判定される健全な複合材料1が得られることが確認された。つまり、このようなモル比でセラミックス粉末(TiN)およびセラミックス繊維(SiC)を含む混合物から得られた複合材料は、溶融アルミが混合物に浸透して燃焼合成反応が正常に完結しており、セラミックス繊維(SiC)が分散した緻密な複合層を有するものとなることが確認された。
【0039】
ここで参照する図3(a)は、Ti−15TiN−0.5SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、図3(b)は、図3(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。図4(a)は、Ti−15TiN−1.0SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、図4(b)は、図4(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。図5(a)は、Ti−15TiN−2.5SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、図5(b)は、図5(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。図6は、Ti−15TiN−5.0SiCの割合の混合物から得られた前記焼成物の表面の状態を示す図面代用写真である。図7は、Ti−5TiN−2.5SiCの割合の混合物から得られた前記焼成物の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。図8は、Ti−2TiN−0.5SiCの割合の混合物から得られた前記焼成物の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。なお、図3(a)、図4(a)、図5(a)、および図6は、溶融アルミが接触した側の様子を示す図面代用写真である。
【0040】
金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)を15モル含む混合物からは、図3(a)および(b)、図4(a)および(b)、ならびに図5(a)および(b)に示すように、セラミックス繊維(SiC)のモル比をそれぞれ、0.5(図3参照)、1.0(図4参照)、および2.5(図5参照)とすることで、金属アルミがほとんど残存しない緻密な組織中に、セラミックス繊維4(図3(b)、図4(b)、および図5(b)参照)が分散した複合材料1が得られた。ちなみに、図3から図5で示されるような複合材料1となった焼成物は、前記した判定基準の「◎」に相当する。
【0041】
その一方で、金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)を15モル含む混合物であって、セラミックス繊維(SiC)のモル比が5.0の混合物からは、図6に示すように、溶融アルミが混合物に浸透せずに燃焼合成反応が正常に進行しておらず、例えば図3(a)に示すものと異なって、得られた焼成物に複合材料1が形成されていない。ちなみに、図6で示されるような焼成物は、前記した判定基準の「×」に相当する。
【0042】
また、表1には示さないが、金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)を15モル含む混合物であって、セラミックス繊維(SiC)のモル比が3.0の混合物からも、「×」と判定される焼成物が得られている。
【0043】
そして、金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)を5モル含み、セラミックス繊維(SiC)のモル比を2.5とした混合物からは、図7に示すように、溶融アルミが消費されずに金属アルミ7´として残存すると共に、チタン−アルミ金属間化合物2が部分的に形成されている焼成物が得られた。ちなみに、図7で示されるような焼成物は、前記した判定基準の「△」に相当する。
【0044】
また、金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)を2モル含み、セラミックス繊維(SiC)のモル比を0.5とした混合物からは、図8に示すように、気泡Bを発生して膨張した焼成物が得られた。ちなみに、図8で示されるような焼成物は、前記した判定基準の「●」に相当する。
【0045】
表1に示すように、「◎」と判定された健全な複合材料からなる焼成物であって、かつセラミックス繊維を含むものは、金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス粉末(TiN)のモル比が7.5〜20であり、かつ金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス繊維のモル比が0.5〜2.5である混合物から得られることが確認された。
後記する表2に、表1中、「◎」と判定された健全な複合材料からなる焼成物におけるセラミックス繊維(SiC)の体積率(vol%)を示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、「◎」と判定された健全な複合材料からなる焼成物であって、かつセラミックス繊維を含むものは、焼成物(複合材料)中のセラミックス繊維の体積率が1.33〜12.95vol%であることが確認された。
【0048】
(実施例1から実施例5)
この実施例1から実施例5では、後記する表3に示すように、金属チタン粉末(Ti)、セラミックス粉末(TiN)、およびセラミックス繊維(SiC)を配合した混合物(Ti/TiN/SiC)を使用した以外は、前記した「複合材料の製造試験」と同様にして焼成物を得た。ちなみに、実施例1から実施例5における金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス粉末(TiN)のモル比は、前記した7.5〜20の範囲内であり、かつ金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス繊維のモル比は、前記した0.5〜2.5の範囲内であった。そして、実施例1から実施例5で得られた焼成物は、前記した判定基準で「◎」に相当する健全な複合材料であった。
【0049】
【表3】
【0050】
そして、この実施例1から実施例5で得られた複合材料の密度および複合材料中のセラミックス繊維の体積率を測定した。その結果を表1に示す。なお、セラミックス繊維の体積率は、表3中、単に「体積率」として記した。
【0051】
次に、実施例1から実施例5で得られた複合材料の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びがJIS Z 2241に準拠して測定された。これらの測定には、島津製作所社製の「AG−I 100kNオートグラフ」が使用された。そして、試験片には、実施例1から実施例5で得られた複合材料より切り出した、図9に示す形状のものが使用された。図9は、複合材料の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びの測定に使用された試験片の平面図である。ちなみに、図9に示す数字の単位はmmであり、この試験片は板体であって、その厚さは3±0.05mmである。
【0052】
これらの抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びの測定結果を表3および図10に示す。図10は、実施例で得られた複合材料の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びの測定結果を示すグラフであり、左側の縦軸が抗張力(TS:MPa)および耐力(YS:MPa)を表し、右側の縦軸が伸び(%)を表し、上側の横軸が混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)を表し、下側の横軸が複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率(vol%)を表す。なお、図10中、「実施例」は、単に「実」と略記する。
【0053】
そして、実施例1から実施例5で得られた複合材料の衝撃値をJIS B 7722に準じて測定した。この測定には、米倉製作所社製の「シャルピ式衝撃試験機 100J」が使用された。そして、試験片には、実施例1から実施例5で得られた複合材料より切り出した40mm×5mm×5mmの四角柱のものが使用された。
衝撃値の測定結果を表3および図11に示す。図11は、実施例で得られた複合材料の衝撃値の測定結果を示すグラフであり、左側の縦軸が衝撃値(シャノピ:J/cm2)を表し、上側の横軸が混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)を表し、下側の横軸が複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率(vol%)を表す。なお、図11中、「実施例」は、単に「実」と略記する。
【0054】
(比較例1から比較例3)
この比較例1から比較例3では、表3に示す材料、つまり、鋳鉄(表3中、「FC150HC」と記す)、アルミ金属基複合材料(表3中、「Al−MMC(アルミナ22%)」と記す)、および金属チタン粉末(Ti)に対するセラミックス粉末(TiN)のモル比が15であって、かつセラミックス繊維を含まない混合物から得られた複合材料(表3中、「Ti/15TiN(AR2)」と記す)のそれぞれについて、実施例1から実施例5と同様にして、密度、抗張力(TS)、耐力(YS)、伸び、および衝撃値を測定した。その結果を表3に示す。そして、比較例1および比較例3の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びについては、図10にも併記し、比較例1および比較例3の衝撃値については、図11にも併記した。なお、図10および図11中、「比較例」は「比」と略記する。
【0055】
(実施例1から実施例5で得られた複合材料の評価結果)
表3に示すように、実施例1から実施例5で得られた複合材料は、ブレーキロータ等の摺動部材として使用されている比較例1の鋳鉄よりも、密度が低くなっている。そして、抗張力(TS)および耐力(YS)については、実施例1から実施例5で得られた複合材料は、比較例2のアルミ金属基複合材料と比較しても遜色がないことが確認された。
【0056】
また、図10に示すように、混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)が2モル(mol)以下、つまり、複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率が6.35vol%以下である実施例1から実施例4での複合材料では、抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びが、比較例1の鋳鉄と同等かそれ以上であった。そして、混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)が1モル(mol)となる実施例2の複合材料の伸びがピーク値(3.5%)を示した。
【0057】
また、図11に示すように、混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)が0.5モル(mol)以上、つまり、複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率が1.74vol%以上である実施例1から実施例5での複合材料では、比較例1の鋳鉄、および比較例3のセラミックス繊維(SiC)を含まない複合材料よりも高い衝撃値を示すことが確認された。そして、混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)が0.7モル(mol)〜1モル(mol)の範囲で衝撃値が最も大きくなることが確認された。
【0058】
以上のことから、セラミックス繊維(SiC)を含む実施例1から実施例5の複合材料は、セラミックス繊維(SiC)を含まない複合材料(比較例3)と比較して靭性に優れるとともに、従来、ブレーキロータ等の摺動部材として使用されている比較例1の鋳鉄よりも靭性に優れていることが確認された。
【0059】
(クラック発生試験)
このクラック発生試験では、実施例2で得られた複合部材、比較例1の鋳鉄(FC150HC)、比較例2のアルミ金属基複合材料(Al−MMC(アルミナ22%))、および比較例3のセラミックス繊維を含まない複合材料(Ti/15TiNの混合物から得られたもの)のそれぞれから、径が25mmで厚さが15mmの円盤を切り出した。これらの円盤の表面をエメリー研磨で♯1000まで研磨したものをそれぞれ試験片とした。
そして、このクラック発生試験では、各試験片を、鋳鉄(FC25)製で径が180mmの回転板にトルク3kg・mとなるように押し付けてクラックの発生状況を観察した。
ちなみに、クラック発生試験では、1700rpmで回転する回転板に試験片を前記したトルクとなるように押し付けて、その回転速度を755rpmまで減速させる工程を1サイクルとし、このサイクルが繰り返えされた。
【0060】
クラックの発生状況の判定は、円盤に対する試験片の押付けのサイクル数が、50回、100回、140回、200回、および270回となった際に、次に説明するクラックレベルC1からC10で規定される基準で行われた。その結果を図12に示す。図12は、クラック発生試験の結果を示すグラフであり、左側の縦軸がクラック最大長さ(mm)を表し、右側の縦軸がクラックレベルを表し、横軸が繰返しサイクル数(押付けサイクル数(回))を表す。なお、図12中、「実施例」は「実」と略記し、「比較例」は「比」と略記する。
【0061】
クラックレベルC1からC10は、次の基準で規定された。クラックの発生が無いものは「C10」と規定された。カラーチェックでのクラックの発生は確認できるが、目視では確認できないものは「C9」と規定された。目視でクラックの発生がやっと確認できるものは「C8」と規定された。目視でクラックの発生が部分的にはっきりと確認できるものは「C7」と規定された。試験片の半分の領域にクラック長さが5mm以内のヘヤークラックが確認できるものは「C6」と規定された。試験片の全面にクラック長さが10mm以内のヘヤークラックが確認できるものは「C5」と規定された。クラック長さが10mmを超えているものは「C4」と規定された。口を開いたクラックが部分的に確認できるものは「C3」と規定された。口を開いたクラックが全面に確認できるものは「C2」と規定された。クラックが試験片の外周にまで貫通しているもの、クラックで破損したものは「C1」と規定された。ちなみに、前記した「カラーチェック」とは、浸透探傷試験を意味する。
なお、図12中の一点鎖線で示す基準レベルSLは、サイクルが140回でクラックレベルがC5以上となるものであって、摺動部材として使用することができる程度にクラックの発生が少ない材料を判別するレベルである。
【0062】
(クラックの発生状況の判定)
図12に示すように、セラミックス繊維を含まない比較例3の複合材料は、繰返しサイクル数が140回を超えることで、図12中の基準レベルSLを満たさないものとなった。
一方、摺動部材として使用されている比較例1の鋳鉄は、繰返しサイクル数が270回に達しても図12中の基準レベルSL内に収まっている。ちなみに、比較例1の鋳鉄は、繰返しサイクル数が100回のときに、目視でクラックの発生が認められている。
比較例2のアルミ金属基複合材料は、クラックの発生が極めて少なくなっている。
そして、実施例2の複合材料は、この比較例2のアルミ金属基複合材料よりも更にクラックの発生が少なくなっている。
以上のことから、実施例2の複合材料は、クラックの発生が最も少なく、摺動部材として最適であることが確認された。
【0063】
ここで繰返しサイクル数が270回となった実施例2での試験片の図面代用写真、および比較例3での試験片の図面代用写真を図13に示す。図13(a)は、実施例2で得られた複合部材の試験片についてクラック発生試験(270サイクル経過後の浸透探傷試験)を行った後の様子を示す図面代用写真であり、図13(b)は、比較例3で得られた複合部材の試験片についてクラック発生試験(270サイクル経過後の浸透探傷試験)を行った後の様子を示す図面代用写真である。ちなみに、図13(b)の試験片には、クラックCが多数発生しているのに対し、図13(a)の試験片には、クラックCが殆ど発生していない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施形態に係る複合材料を模式的に説明する構成説明図である。
【図2】(a)から(c)は、金属チタン、セラミックス粉末、およびセラミックス繊維を含む混合物に、溶融アルミが浸透して燃焼合成反応が進行する様子を模式的に示す反応工程図である。
【図3】(a)は、Ti−15TiN−0.5SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、(b)は、(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。
【図4】(a)は、Ti−15TiN−1.0SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、(b)は、(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。
【図5】(a)は、Ti−15TiN−2.5SiCの割合の混合物から得られた複合材料の表面の状態を示す図面代用写真であり、(b)は、(a)の複合材料の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。
【図6】Ti−15TiN−5.0SiCの割合の混合物から得られた焼成物の表面の状態を示す図面代用写真である。
【図7】Ti−5TiN−2.5SiCの割合の混合物から得られた焼成物の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。
【図8】Ti−2TiN−0.5SiCの割合の混合物から得られた焼成物の断面を部分的に拡大した図面代用写真である。
【図9】複合材料の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びの測定に使用された試験片の平面図である。
【図10】実施例で得られた複合材料の抗張力(TS)、耐力(YS)、および伸びの測定結果を示すグラフであり、左側の縦軸が抗張力(TS:MPa)および耐力(YS:MPa)を表し、右側の縦軸が伸び(%)を表し、上側の横軸が混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)を表し、下側の横軸が複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率(vol%)を表す。
【図11】実施例で得られた複合材料の衝撃値の測定結果を示すグラフであり、左側の縦軸が衝撃値(シャノピ:J/cm2)を表し、上側の横軸が混合物中のセラミックス繊維(SiC)の添加量(mol)を表し、下側の横軸が複合材料中のセラミックス繊維(SiC)の体積率(vol%)を表す。
【図12】クラック発生試験の結果を示すグラフであり、左側の縦軸がクラック最大長さ(mm)を表し、右側の縦軸がクラックレベルを表し、横軸が繰返しサイクル数(押付けサイクル数(回))を表す。
【図13】(a)は、実施例2で得られた複合部材の試験片についてクラック発生試験(270サイクル経過後の浸透探傷試験)を行った後の様子を示す図面代用写真であり、(b)は、比較例3で得られた複合部材の試験片についてクラック発生試験(270サイクル経過後の浸透探傷試験)を行った後の様子を示す図面代用写真である。
【符号の説明】
【0065】
1 複合材料
2 チタン−アルミ金属間化合物
3 複合層
4 セラミックス繊維
6 セラミックス粉末
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属チタン粉末およびセラミックス粉末と、溶融アルミとを燃焼合成反応させてチタン−アルミ金属間化合物を主成分とする複合層が形成された複合材料であって、
前記複合層にはセラミックス繊維が分散していることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記セラミックス繊維の体積率が、1.74〜6.35vol%であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記セラミックス繊維が、SiCからなる繊維およびAl2O3からなる繊維の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
金属チタン粉末、セラミックス粉末、およびセラミックス繊維を含む混合物を得る混合工程と、
前記金属チタン粉末および前記セラミックス粉末と、溶融アルミとを燃焼合成反応させる反応工程と、
を有するチタン−アルミ金属間化合物を主成分とした複合材料の製造方法であって、
前記金属チタン粉末に対する前記セラミックス粉末のモル比が7.5〜20であり、かつ前記金属チタン粉末に対する前記セラミックス繊維のモル比が0.5〜2.5であることを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項1】
金属チタン粉末およびセラミックス粉末と、溶融アルミとを燃焼合成反応させてチタン−アルミ金属間化合物を主成分とする複合層が形成された複合材料であって、
前記複合層にはセラミックス繊維が分散していることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記セラミックス繊維の体積率が、1.74〜6.35vol%であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記セラミックス繊維が、SiCからなる繊維およびAl2O3からなる繊維の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
金属チタン粉末、セラミックス粉末、およびセラミックス繊維を含む混合物を得る混合工程と、
前記金属チタン粉末および前記セラミックス粉末と、溶融アルミとを燃焼合成反応させる反応工程と、
を有するチタン−アルミ金属間化合物を主成分とした複合材料の製造方法であって、
前記金属チタン粉末に対する前記セラミックス粉末のモル比が7.5〜20であり、かつ前記金属チタン粉末に対する前記セラミックス繊維のモル比が0.5〜2.5であることを特徴とする複合材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【図2】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【公開番号】特開2009−167490(P2009−167490A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8946(P2008−8946)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)2007年9月19日に社団法人日本金属学会により発行された「2007年秋期(第141回)大会・日本金属学会講演概要」にて発表 (2)2007年9月21日に社団法人日本金属学会が主催した「2007年秋期(第141回)大会」において文書をもって発表
【出願人】(501327156)
【出願人】(501327145)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)2007年9月19日に社団法人日本金属学会により発行された「2007年秋期(第141回)大会・日本金属学会講演概要」にて発表 (2)2007年9月21日に社団法人日本金属学会が主催した「2007年秋期(第141回)大会」において文書をもって発表
【出願人】(501327156)
【出願人】(501327145)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]