説明

複合材料用ガラス繊維及び複合材料

【課題】高い破壊靭性を有し、高い耐トラッキング性を有するという2つの性能を満足する繊維強化複合材料と、この複合材料に使用されるガラス繊維とを提供する。
【解決手段】本発明のガラス繊維は、オルガノポリシロキサンを含む集束剤で被覆された複合材料用ガラス繊維であって、オルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位可能な位置の総mol数に対するメチル基のmol数が90%以上であることを特徴とする。また本発明の複合材料は、上記ガラス繊維を含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂強化用途で使用される複合材料用ガラス繊維と、そのガラス繊維によって強化した複合材料に関する。
【0002】
ガラス繊維強化複合材料は、樹脂単独では実現困難な機能が得られるため、種々の用途で利用されている。複合化の目的も、強度向上や軽量化といったものばかりでなく、電気絶縁性、加工性等、多岐に亘るものであり、表面処理や成形方法によって様々な改善が施されている。ガラス繊維が複合材として利用される形態には、種々のものがあるが、例えばガラス短繊維に分類されるチョップドストランドがある。ガラスチョップドストランドを10〜40質量%添加混合したGFRTP(ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック)は、弾性率等の機械的な性能に優れ、また結晶性プラスチックを使用するものは、荷重たわみ温度の改善が著しいという利点もあり、その用途は電子部品、自動車用部品、精密機器の構造強化ハウジング材料等の高い機能を要求される各種製品群に数多く使用されている。
【0003】
このようなガラス繊維強化複合材料とこの材料を構成するガラス繊維の製造方法として、ガラスチョップドストランドについて例示すれば、次のようなものとなる。即ち、予め所定組成となるように高温状態に加熱した溶融ガラスを、多数の引き出し孔を有する白金製ブッシング装置を利用して高速に引き出し成形し、その後にガラス繊維(ガラスモノフィラメント)表面に、噴霧等の各種の処理によって様々な集束剤を塗布し、数百から数千本単位で束ね、1本のストランドとする。次いで、このストランドを直接切断加工するか、あるいは一端巻き取ってロービングにし、その後ロービングからストランドを引き出して所定長に切断加工してガラスチョップドストランドとし、熱可塑性樹脂とガラスチョップドストランドを加熱しながら均一に混練して各種の成形法により所定形状に成形することによってガラス繊維で強化した複合材料としている。
【0004】
ガラス繊維強化複合材料は、機械的強度に関して高い目標値を実現するために多数の発明が行われてきた。例えば、特許文献1には、嵩高さ4cm3/g以上に開繊されたガラスロービングとガラスチョップドストランドと熱可塑性樹脂とからなるガラス繊維強化複合材料がJIS K7054の引張強度、JIS K7055の曲げ強度、JIS K7056の圧縮強度について所望の性質を有し、面内剪断強さの高い性能を実現できることが開示されている。また、特許文献2には、所定構造を有するエポキシポリマーが70質量%以上となるエポキシ樹脂を含む集束剤を塗布したガラス繊維とすることによって、ASTM D638に基づく引張強度が135MPa、ASTM D790Mに基づく曲げ強度215MPaという値を実現することのできるものとなることが提示されている。
【特許文献1】特開平8−27281号公報
【特許文献2】特開2001−172057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これまでの発明だけではガラス繊維強化複合材料に求められる様々な要求を充分に満足するものではない。本発明は、繊維強化複合材料と構成材料であるガラス繊維に求められる性能の中でも、機械的な強度性能について高い破壊靭性を有し、しかも電気的な性質に関して材料表面で電圧の印加によって容易に導電路が形成されにくい性質(トラッキング現象を起こしにくい性能)、すなわち高い耐トラッキング性を有するという主要な2つの性能を満足する繊維強化複合材料と、この複合材料に使用され、上記の性能を発現する主要構成材であるガラス繊維とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複合材料用のガラス繊維は、オルガノポリシロキサンを含む集束剤で被覆された複合材料用ガラス繊維であって、前記オルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位可能な位置(化1中のRの位置)の総mol数に対するメチル基のmol数の比率が、90%以上であることを特徴とする。
【0007】
ここで、オルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位可能な位置(化1中のRの位置)の総mol数に対するメチル基のmol数の比率が、90%以上であるとは、複合材料用ガラス繊維の表面を被覆するオルガノポリシロキサンの構成に関して、Si原子とO原子からなる骨格以外の置換基で置換可能な位置の総モルに対してオルガノポリシロキサンに配位した置換基であるメチル基のmol数の比率が90%以上であることを意味するものである。
【0008】
さらに具体的に説明すれば、本発明の複合材料用ガラス繊維については、その表面を被覆するオルガノシロキサンの構造が、例えば化1の構造式で表示できるものである。この構造式中では「R」で表記されるのは、置換基、原子群、又は原子を表すものであって同種のものであっても、異種のものであってもよい。また構造式中の「n」は任意の自然数を表すものである。そしてこれらの置換基、原子群、又は原子を例示すれば、メチル基、水酸基、フェニル基、炭素原子数2〜6の炭化水素基、炭素原子数1〜6のアルコキシル基、水素原子、アミノ基、エポキシ基が該当するものであるが、その内90モル%以上がメチル基である。ここで、メチル基のモル比はポリマーを合成するときのモノマーの配合比によって決められる。
【0009】
【化1】

【0010】
本発明の構成とすることによって、すなわちオルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位可能な位置(化1中のRの位置)の総mol数に対するメチル基のmol数が、90%以上とすることによって、オルガノポリシロキサンは他の集束剤と共に働き、複合材料を形成した時に複合材料中のマトリックス樹脂とガラス繊維の間に介在して界面を形成する。
【0011】
そして、ガラス繊維を使用したFRTP成形品は、特にその表面近傍にあるガラス繊維が耐トラッキング性に大きく寄与するものである。そこで、本発明のガラス繊維を使用すると、ガラス繊維の表面を被覆していたオルガノポリシロキサンの一部がFRTP成形品の表面に存在することとなり、成形体表面の性能に寄与できるため、成形体表面が汚染等の障害を受けにくくなるため、結果的に高い耐トラッキング性を有するものとなり、耐トラッキング性を表す比較トラッキング指数(CTI)の計測値が高い値となるものである。
【0012】
また、マトリックス樹脂とガラス繊維との間の界面部の性質は、複合材料全体の機械的な性質も左右するものであるが、オルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位可能な位置(化1中のRの位置)の総mol数に対するメチル基のmol数の比率が、90%以上とすることによって、界面部は外部からの急激な応力の印加に対し緩衝作用を有する状態、すなわち加えられた機械的なエネルギーを吸収する機能を獲得するものとなる。そして材料の靭性を表す目安として、材料に引き延ばす力を印加した時に、材料の破断時における材料の引き延ばされた寸法の計測によって、本発明の性能を評価することが可能である。
【0013】
上記の様な観点から、本発明の複合材料用ガラス繊維は、その機械的な性能を一層高い状態にする要望を満足するためには、より好ましくはオルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位可能な位置(図中のRの位置)の総mol数に対するオルガノポリシロキサンに配位したメチル基のmol数の比率が、93%以上とすることであり、さらに好ましくはオルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位可能な位置(化1中のRの位置)の総mol数に対するオルガノポリシロキサンに配位したメチル基のmol数の比率が、95%以上とすることである。
【0014】
また、オルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位可能な位置(化1中のRの位置)の総mol数に対するオルガノポリシロキサンに配位したメチル基のmol数の比率が、90%に満たないと外部からの急激な応力の印加に対して緩衝作用を有する性質、すなわち機械的なエネルギーを吸収する機能を充分に発現することができなくなるため好ましくない。
【0015】
本発明の複合材料用ガラス繊維に係るオルガノポリシロキサンは、オルガノシロキサンを界面活性剤、重合開始剤、重合抑制剤といった各種薬剤とともに、公知の装置を使用する公知の方法によって分散混合する方法や、加水分解縮合によって得ることが可能である。
【0016】
ここで、上記界面活性剤については、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタンモノエステル、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、テトラアルキルアンモニウム塩などの陽イオン性界面活性剤を使用することができる。これらの界面活性剤については、単独での使用であってもよく、複数の薬剤を適量混合することによって必要とされる機能を実現することができるものである。
【0017】
また上記の重合開始剤については、例えば強酸、強アルカリのほか、アルキルベンゼンスルホン酸、ポリエーテルアルキルフェノール硫酸エステル塩、アルキルナフタレン硫酸エステル塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩を単独あるいは複数、適量使用することが可能である。
【0018】
また、本発明に係る複合材料用ガラス繊維について、その集束剤を構成する他の成分については、必要に応じて例えば、被膜形成剤、カップリング剤、潤滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤等の各種薬剤を適量混合して利用することが可能である。
【0019】
具体的には、カップリング剤であれば、例えば以下のようなものを採用することができる。すなわち、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)プロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3、4エポキシクロロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、メタクリレートクロミッククロライド等がある。これらのカップリング剤は、単独に使用しても複数を併用しても差し支えない。
【0020】
また、被膜形成剤であれば、例えば各種のエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂あるいはポリエステル樹脂を適量、単独あるいは複数を混合併用で使用することが可能である。
【0021】
さらに、潤滑剤であれば、例えば脂肪酸アミド、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、あるいは各種ワックスを採用することができ、適量を単独あるいは複数を混合併用することもできる。
【0022】
また、帯電防止剤としては、例えば四級アンモニウム塩、無機塩、有機酸を使用することができ、これらの薬剤を必要量だけ単独あるいは複数種混合して使用することが可能である。
【0023】
また、本発明に係る集束剤については、上記以外に公知の酸化防止剤、着色剤、反応遅延剤、表面劣化防止剤、傷防止剤、重合禁止剤、重合抑制剤、重合促進剤といった各種の機能性添加剤を単独あるいは併用して使用することができるものである。
【0024】
本発明で集束剤をガラス繊維に付着させる量については、0.1質量%から2.0質量%の範囲とすることが好ましく、集束剤固形分の10%以上が該オルガノポリシロキサンであることが一層好適である。またガラス繊維の形態や寸法については特に限定されないが、モノフィラメント直径は3μmから40μmの範囲内とすることが好ましい。
【0025】
また、本発明の複合材料用ガラス繊維は、上述に加えオルガノポリシロキサンのシロキサン鎖が分岐状結合を含むものであることが好適である。
【0026】
ここで、オルガノポリシロキサンのシロキサン鎖が分岐状結合を含むものであるとは、オルガノポリシロキサンの主鎖に対して分岐した構造を有する分鎖が存在するような場合を意味するものである。
【0027】
さらに具体的に説明すれば、本発明の複合材料用ガラス繊維については、その表面を被覆するオルガノシロキサンの構造が、例えば化2、あるいは化3の構造式で表示できるものである。
【0028】
ここで、構造式中の「R」で表記されるのは、上記したと同様に置換基、原子群、又は原子を表すものであって同種のものであっても、異種のものであってもよい。また構造式中の「n」、「m」、「l」、「k」は任意の自然数を表すものである。そしてこれらの置換基、原子群、又は原子を例示すれば、メチル基、水酸基、炭素原子数2〜6の炭化水素基、炭素原子数1〜6のアルコキシル基、水素原子、アミノ基、エポキシ基が該当するものであるが、その内90モル%以上がメチル基である。ここで、メチル基のモル比はポリマーを合成するときのモノマーの配合比によって決められる。
【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

【0031】
オルガノポリシロキサンのシロキサン鎖が分岐状結合を鎖中に含むものであるならば、より高い耐トラッキング性が得られ、比較トラッキング指数(CTI)の計測値が高くなり、界面部は外部からの急激な機械的な応力の印加に対して、より高い緩衝作用を実現するものとなり、靭性を表す目安である材料破断時の引張伸び寸法の計測値が大きくなるものである。
【0032】
本発明の複合材料用ガラス繊維は、例えば次のような工程で製造することができる。まず所望の組成となるように各種のガラス原料を秤量して均質に混合した後に、この原料をセラミックス性あるいは耐熱金属性の耐火性基材よりなるガラス溶融炉内で溶融し、得られた溶融ガラスを数千のノズルを有する白金製加熱溶融装置よりなるブッシングから引き出し、冷却しながら集束剤を被覆する。この収束剤の被覆方法は各種の公知の方法を採用することができる。例えば噴霧法、ローラーアプリケーター法あるいはベルトアプリケーター法といった方法を採用することができる。このような被覆方法を採用することによって、ガラスモノフィラメントの表面に所望の集束剤を所定量被覆した後、1本から数本のストランドと呼ばれるガラス繊維束とし、筒形状のホルダー表面に巻き取ることでケーキ状構造物を形成する。そしてこのケーキ状構造物のガラス繊維束は、必要に応じてロービング、ロービングクロス、チョップドストランド、チョップドストランドマット、ミドルファイバー等の各種の形態として再加工することで利用できる。
【0033】
また、本発明の複合材料用ガラス繊維は、上述に加えガラス繊維の形態が、短繊維であることが好適である。
【0034】
ここで、ガラス繊維の形態が、短繊維であるとは、例えばガラスチョップドストランドのように所定長に調整した短繊維となるよう、切断加工したものを含むものであって、それ以外に吹き飛ばし加工等の成形方法で任意の短い寸法となるように加工されたものであってもよい。しかし、所定性能を実現して安定した強度を達成するためには、ガラスチョップドストランドとすることがより好適である。
【0035】
ガラスチョップドストランドであれば、そのガラス繊維の直径は前記したように3μmから40μmとし、その長手方向寸法は1mmから20mmの範囲とすることが好適である。
【0036】
ガラスチョップドストランドへと加工する方法としては、特に特定の方法を推奨するものではなく、所望の加工寸法を実現できるものであればどのような方法を採用するものであってもよい。その、加工法としては切断が好適ではあるが、他の方法であってもよい。また、切断方法としては、内周刃を有するドラムカッター、外周刃カッターを有するロールカッター、ハンマーミル等の装置を使用することで、ガラス繊維束を効率的に切断できれば支障はない。
【0037】
またチョップドストランドの集合形態についても特に限定しない。すなわち適切な長さに切断加工したガラス繊維を平面上に無方向に積層させて特定の結合剤で成形することもでき、あるいは3次元的に無方向に集積した状態とすることもでき、また1次元方向、つまり特定の軸方向に平行に揃え、そこに所定の薬剤、すなわち樹脂などにより固結状態としたもの(ガラスマスターバッチ(GMB)ペレット、樹脂柱状体、LFTPなどとも呼称する)であってもよい。
【0038】
また、本発明の複合材料用ガラス繊維は、他のガラス繊維の共存を妨げるものではない。すなわち、例えばガラスチョップドストランド以外の処理を施された他の短繊維や長繊維が存在してもよい。ただし、本発明の複合材料用ガラス繊維は、全ガラス繊維量に対する3割以上の構成とする方が所定機能を実現するには好都合であって好ましい。
【0039】
本発明の複合材料用ガラス繊維のガラス組成としては、Eガラス(無アルカリガラス組成)、Aガラス(耐アルカリガラス組成)、Cガラス(耐酸性のアルカリ石灰含有ガラスイ組成)、Dガラス(低誘電率を実現する組成)、Sガラス(高強度、高弾性率を実現する組成)、Tガラス(高強度、高弾性率を実現する組成)そしてHガラス(高誘電率を実現する組成)を適用することができるが、この内でもEガラスやHガラスは本発明に好適である。
【0040】
本発明の複合材料は、上記した(即ち、請求項1から請求項3の何れかの)複合材料用ガラス繊維を熱可塑性樹脂と複合化したことを特徴とする。
【0041】
ここで、上記した複合材料用ガラス繊維を熱可塑性樹脂と複合化したとは、オルガノポリシロキサンを含む集束剤で被覆された複合材料用ガラス繊維であって、そのオルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位可能な位置の総mol数に対するメチル基のmol数が90%以上であるガラス繊維であるか、あるいは上記に加えてオルガノポリシロキサンのシロキサン鎖が分岐状結合を含むガラス繊維を熱可塑性樹脂と複合化したものであることを意味している。
【0042】
本発明に係る複合材料を構成する熱可塑性樹脂としては、例えばガラス繊維との混合性が良好な樹脂という観点から、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニルレンサルファイド、液晶ポリエステル樹脂、変性ポリフェニレンオキサイドまたはこれら複数の樹脂からなるポリマーアロイを使用することが好ましい。
【0043】
また、本発明の複合材料は、上記の熱可塑性樹脂に対して添加されるガラス繊維の量は、複合材料全量を100とした時に質量百分率表示で4%から60%の範囲内となることが好ましい。4質量%よりガラス繊維の含有量が少ないと本来実現されるべき曲げ強度や引張強度などの強度性能が、高温多湿の所定の過酷環境下で実現し難くなるため好適ではない。また60質量%を越えると、本発明の複合材料が本来有する加工成形性が損なわれ、精密な部材を構成する用途、例えば電子部品や光機能材、精密高強度筐体等への適用が困難になる場合がある。以上のような観点から、本発明の複合材料中の複合材料用ガラス繊維は、その含有量が複合材料全体に対して質量%表示で4質量%から60質量%の範囲内とするのが好ましく、より好ましくは5質量%から50質量%の範囲内とすることであり、さらに好ましくは5質量%から45質量%の範囲内とすることであって、一層好ましくは5質量%から40質量%の範囲内とすることである。
【0044】
本発明の複合材料は、例えば上記したナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂またはこれらのポリマーアロイを各種形態を有するガラス繊維を混合して強化したものであるが、この混合方法としては、公知の各種の方法を採用することが可能である。例えば切断加工したチョップドストランドを樹脂ペレットや添加成分等に配合して射出成形することによって本発明の複合材料としてもよいし、一旦チョップドストランドと各種の樹脂ペレットとを共に加熱混練したものを押し出し成型機を使用して成形した複合体を冷却後に切断して複合ペレット化し、さらにその複合ペレットを射出成形機に供給して所望形状に成形してもよい。あるいは、ロービング中に熱可塑性樹脂を含浸処理する方法や、付着処理したものを切断して得られた複合ペレットを使用して射出成形する方法であってもよい。
【0045】
また、本発明の複合材料は、ガラス繊維以外の共存物質を必要に応じて許容するものである。例えば繊維以外の形態を有するものとして、ガラスビーズ、機械粉砕されたガラス粒子、ガラス以外のシリカやアルミナ等のセラミックス粒子、タルク等の天然鉱物類や各種有機繊維、有機物フィラー、炭素繊維を使用することが可能である。
【0046】
また本発明の複合材料は、産業界の種々の分野、用途で利用することができる。上記の有機系複合材料ばかりでなく、無機系の複合材料として利用したものであってもよい。例えば用途を限定すればコンクリートやモルタルを構成する各種成分と配合しても使用することができる。またその配合割合やセメントの種類については用途に応じて限定すればよい。フライアッシュ等も添加することができる。
【0047】
本発明の複合材料は、具体的に次のような用途での使用が可能である。例えば電子機器関連用途では、プリント配線基板、絶縁板、端子板、IC用基板、電子機器ハウジング材、ギアテープリール、各種収納ケース、光部品用パッケージ、電子部品用パッケージ、スイッチボックス、絶縁支持体などがあり、車載関連用途では、車体屋根材(ルーフ材)、窓枠材、車体フロント、カーボディ、ランプハウス、エアスポイラー、フェンダーグリル、タンクトロリー、ベンチレーター、水タンク、汚物タンク、座席、ノーズコーン、フェンダーグリル、カーテン、フィルター、エアコンダクト、マフラーフィルター、ダッシュパネル、ファンブレード、ラジエータータイヤ、タイミングベルトなどがあり、航空機関連用途ではエンジンカバー、エアダクト、シートフレーム、コンテナ、カーテン、内装材、サービストレイ、タイヤ、防振材、タイミングベルトなどがあり、造船、陸運海運関連用途ではモーターボート、ヨット、漁船、ドーム、ブイ、海上コンテナ、フローター、タンク、信号機、道路標識、カーブミラー、コンテナ、パレット、ガードレール、照明灯カバー、火花保護シートなどがあり、農業関連用途ではビニールハウス、サイロタンク、スプレーノズル、支柱、ライニング、土壌改良剤などがあり、建設・土木・建材関連ではバスタブ、バストイレユニット、便槽、浄化槽、水タンク、内装パネル、カプセル、バルブ、ノブ、壁補強材、プレキャストコンクリートボード、平板、並板、テント、シャッター、外装パネル、サッシ、配管パイプ、貯水池、プール、道路、構造物側壁、コンクリート型枠、ターポリン、防水ライニング、養生シート、防虫網などがあり、工業施設関連用途では、バグフィルター、下水道パイプ、浄水関連装置、妨振コンクリート補強材(GRC)、貯水槽、ベルト、薬品槽、反応槽、容器、ファン、ダクト、耐蝕ライニング、バルブ、冷蔵庫、トレー、冷凍庫、トラフ、機器部品、電動機カバー、絶縁ワイヤ、変圧器絶縁、ケーブルコード、作業服、カーテン、蒸発パネル、機器ハウジングなどがあり、レジャースポーツ関連用途では、釣竿、スキー、アーチェリー、ゴルフクラブ、プール、カヌー、サーフボード、カメラ筐体、ヘルメット、衝撃保護防具、植木鉢、表示ボードなどがあり、日用品関連用途では、テーブル、椅子、ベッド、ベンチ、マネキン、ゴミ箱、携帯端末保護材などがある。
【0048】
そして本発明の複合材料は、上述の用途の内でも特に各種電気コネクタ、自動車構造部品、自動車エンジン周り部品、精密機器ハウジング、電動工具ハウジングとして好適である。
【発明の効果】
【0049】
(1)以上のように、本発明の複合材料用ガラス繊維は、オルガノポリシロキサンを含む集束剤で被覆された複合材料用ガラス繊維であって、前記オルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位可能な位置の総mol数に対するメチル基のmol数が90%以上であるため、高い耐トラッキング性能と機械的な靭性を実現することができるものであって、各種の精密製品に使用することのできる複合材料である。
【0050】
(2)また、本発明の複合材料用ガラス繊維は、オルガノポリシロキサンのシロキサン鎖が分岐状結合を含むものであれば、より高い耐トラッキング性能、機械的な靭性が要求される用途であっても、安定した品位を実現することが可能となるものである。
【0051】
(3)また、本発明の複合材料用ガラス繊維は、ガラス繊維の形態が、短繊維であれば、これまで蓄積された製造技術を応用することで、欠点の少ない高機能なガラス製品を効率よく製造することが可能となるものである。
【0052】
(4)本発明の複合材料は、上記(即ち、請求項1から請求項3の何れか)の複合材料用ガラス繊維を熱可塑性樹脂と複合化したものであるため、FRTPとしての基本的な性能に加え、トラッキング性と破壊靭性についての突出した機能を有する複合材料であって、精密加工性、成形性についても良好な品位を実現する各種構成部材として利用することが可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に本発明の複合材料用ガラス繊維とそれを用いた複合材料について、実施例、比較例に基づいて具体的に説明する。
【実施例】
【0054】
まず、本発明の複合材料用ガラス繊維について、以下のAからCのガラス繊維の試料を準備し、それぞれ調整を行った。
【0055】
まず試料Aについては、オルガノポリシロキサン 4.5質量%、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン 0.3質量%、ウレタン 1.5質量%、純水 93.7質量%からなる集束剤を所定量調整した。そしてこの集束剤を使用して、直径13μmのEガラス組成を有するガラスモノフィラメント2000本を束ねてストランドとする紡糸工程において、ガラス表面に被覆されるように噴霧法によって表面処理を行った。このオルガノポリシロキサンは、繰り返し単位が2000であって、オルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位置可能な位置の総mol数に対するメチル基のmol数が93%の構造を有するものである。このことは、ガラス繊維を四重極質量分析計、NMR法、赤外線吸収スペクトル法などの各種計測方法によって特定することができる。
【0056】
次いで、表面処理されたガラスストランドをロールカッターを使用して3mmの長さのチョップドストランドに切断し、所定時間乾燥することによって本実施例の複合材料用ガラス繊維として、ガラスチョップドストランドの試料Aを得た。得られたチョップドストランドの集束剤の付着量をJIS R3420(1999)に規定された強熱減量の計測方法に基づいて調査したところ、その付着量は0.6質量%であることが判明した。
【0057】
試料Bについては、試料Aで使用したと同じオルガノポリシロキサンを1.0質量%、γ−アミノプロピルトリメトキシシランを0.3質量%、ウレタン 5.0質量%、純水 93.7質量%からなる集束剤を所定量調整した。そして試料Aと同様の手順で、ここで調整した集束剤が、直径13μmのEガラス組成を有するガラスモノフィラメント2000本を束ねてストランドとする紡糸工程で、ガラス表面に被覆されるように噴霧法によって表面処理を行った。このオルガノポリシロキサンも、繰り返し単位が2000であって、置換基が配位置可能な位置の総mol数に対するメチル基のmol数が93%の構造を有するものである。
【0058】
次いで、表面処理されたガラスストランドをロールカッターを使用して長さが3mmのチョップドストランドに切断し、所定時間乾燥することによって本発明の複合材料用ガラス繊維の実施例として、ガラスチョップドストランドの試料Bを得た。この試料Bについても、試料Aと同様の方法で集束剤の付着量を調べたところ、その付着量は0.6質量%であった。
【0059】
試料Cについては、試料A、試料Bとは異なり、繰り返し単位が2000であって、置換基が配位置可能な位置の総mol数に対するメチル基のmol数が96%の構造を有し、シロキサン鎖が分枝状構造であるオルガノポリシロキサンを使用した。このオルガノポリシロキサンを4.5質量%、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン 0.3質量%、ウレタン 1.5質量%、純水 93.7質量%からなる集束剤を所定量均質に混合して調整した。そして試料Aと同様の手順で、ここで調整した集束剤が、直径13μmのEガラス組成を有するガラスモノフィラメント2000本を束ねてストランドとする紡糸工程で、ガラス表面に被覆されるように噴霧法によって表面処理を行った。
【0060】
次いで、表面処理されたガラスストランドをロールカッターを使用して長さが3mmのチョップドストランドに切断し、所定時間乾燥することによって本発明の複合材料用ガラス繊維の実施例として、ガラスチョップドストランドの試料Cを得た。この試料Cについても、試料A同様の方法で集束剤の付着量を調べたところ、その付着量は0.6質量%であった。
【0061】
このようにして得られたチョップドストランドの試料Aから試料Cを、表1にその配合比の詳細を示すように、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリフェニレンサルフィド樹脂の3種類の樹脂と混合し、そのガラスの含有率が10質量%、あるいは30質量%、40質量%となるように公知の方法によって混練調整し、ガラスチョップドストランドを含有するペレットを作製した。そしてこのペレットを射出成形することによって、所望形状のガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形品の比較トラッキング指数計測用の試験試料片と破断時引伸寸法計測用の試験試料片を得た。
【0062】
そして、比較トラッキング指数については、IEC112に従い、25mm×50mm、厚み3.2mmの試験片を用いて計測を行った。また破断時の引伸寸法の計測用の試験については、ASTM D−638に従い、TYPE I形状の試料片を各5検体使用して測定を行った。以上の計測の結果を表1にまとめる。
【0063】
【表1】

【0064】
No.1からNo.12までの実施例の複合材料は、比較トラッキング指数が200から400であって、かつ破断時の引伸寸法の計測による引伸率が2.8%から19%までの値となり、両方の性質を満足することのできるものであることが明瞭となった。
【0065】
次いで比較例としてDとEのガラス繊維の試料を準備し、それぞれ調整を行った。
【0066】
まず、試料Dについては、繰り返し単位が2000であって、置換基が配位置可能な位置の総mol数に対するメチル基のmol数が80%の構造を有するオルガノポリシロキサンを使用した。このオルガノポリシロキサンを4.5質量%、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン 0.3質量%、ウレタン 1.5質量%、純水 93.7質量%からなる集束剤を所定量均質に混合して調整した。次いで、実施例と同様の操作によって、ガラスチョップドストランドの試料Dを得た。
【0067】
また、試料Eについては、オルガノポリシロキサンを使用せず、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン 0.3質量%、ウレタン 6.0質量%、純水 93.7質量%からなる集束剤を所定量調整した。次いで、実施例と同様の操作によって、ガラスチョップドストランドの試料Eを得た。
【0068】
このようにして得られたチョップドストランドの試料Dと試料Eを、実施例と同様に表1にその配合比の詳細を示すように、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリフェニレンサルフィド樹脂の3種類の樹脂と混合し、そのガラスの含有率が10質量%、あるいは30質量%、40質量%となるように実施例と同じ公知の方法によって混練調整し、ガラスチョップドストランドを含有するペレットを作製した。そしてこのペレットを射出成形することによって、実施例と同じ所望形状のガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形品の比較トラッキング指数計測用の試験試料片と破断時引伸寸法計測用の試験試料片を得た。
【0069】
得られた試験片を、実施例と同じ条件、すなわち比較トラッキング指数については、IEC112に従い、25mm×50mm、厚み3.2mmの試験片を用いて計測を行った。また破断時の引伸寸法の計測用の試験については、ASTM D−638に従い、TYPE I形状の試料片を各5検体使用して測定を行った。以上の計測の結果を表1にまとめる。
【0070】
No.13からNo.20までの比較例の複合材料は、比較トラッキング指数が150から325であって、かつ破断時の引伸寸法の計測による引伸率が1.3%から4%までの値となり、両方の性質を満足するものが得られないことが明瞭となった。
【0071】
以上のように、実施例と比較例とを比較することによって、本発明の複合材料用ガラス繊維を使用して得られた複合材料は、比較トラッキング指数(CTI)と破断時の引張伸度の計測値が、充分高い値であって、実使用上求められる性能を有するものであることが判明した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンを含む集束剤で被覆された複合材料用ガラス繊維であって、
前記オルガノポリシロキサンを構成する置換基が配位可能な位置の総mol数に対するメチル基のmol数が、90%以上であることを特徴とする複合材料用ガラス繊維。
【請求項2】
オルガノポリシロキサンのシロキサン鎖が、分岐状結合を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合材料用ガラス繊維。
【請求項3】
ガラス繊維の形態が、短繊維であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複合材料用ガラス繊維。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかの複合材料用ガラス繊維を熱可塑性樹脂と複合化したことを特徴とする複合材料。

【公開番号】特開2006−131877(P2006−131877A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202458(P2005−202458)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】