説明

複合材料用炭素繊維及びその製造方法

【課題】炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性(界面接着性)を適度で適正なものとすることによって、特に耐衝撃性に優れた複合材料を製造するための炭素繊維を提供すること。
【解決手段】炭素繊維の繊維軸方向において、表面酸素濃度(O/C)の相対的に高い部分と低い部分が、規則性を持って繰返された表面特性を有する複合材料用炭素繊維である。
O/Cが相対的に高い部分と低い部分の差が少なくとも3%で、繰返しの数(ピッチ数)が炭素繊維10mm当たり1〜10回の範囲にあるものが好ましい。かかる炭素繊維は、好ましくは、第1の表面処理工程、例えば、電解処理で炭素繊維の表面を均一に処理し、次いで、第2の表面処理工程、例えば、パルス波を用いる電解処理で表面を繊維軸方向に不連続に処理することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性に優れた複合材料を製造するのに適した、炭素繊維とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維を強化繊維として用いた複合材料は、軽く、高強度等の優れた機械的特性を有するので、航空機、自動車等の部材として多く用いられるようになってきている。これらの複合材料は、例えば、強化繊維にマトリックス樹脂が含浸された中間製品であるプリプレグから、加熱・加圧といった成形・加工工程を経て成形される。
【0003】
炭素繊維とマトリックス樹脂との複合化において、高性能化を追求するためには、炭素繊維そのもの自体の強度や弾性率等の機械的物性の他、マトリックス樹脂との接着性に関与する炭素繊維の表面特性を向上させることが必要不可欠である。つまり、炭素繊維表面とマトリックス樹脂との接着性が高いもの同士を複合化し、マトリックス樹脂と炭素繊維をより均一に分散することで、より高性能のコンポジット特性(高強度、高弾性、高耐衝撃性等)を有する複合材料を得ることができると期待される。
【0004】
一方、炭素繊維の表面状態と複合材料の強度との関係は、一般的に表面が平坦な炭素繊維ではマトリクス樹脂との接着性が低いため複合材料としての強度が十分に発現されず、また表面の凹凸が大きな炭素繊維ではマトリクス樹脂との接着性は高いが、大きすぎる表面の凹凸が繊維欠陥となり複合材料の強度低下につながるといわれている。従って、炭素繊維表面に、表面処理によって適度な凹凸を適当な量、形成させることが重要であると考えられる。表面処理の方法・手段しては、薬液を用いる液相酸化、電解液溶液中で炭素繊維を陽極として処理する電解酸化、及び気相状態でのプラズマ処理などによる気相酸化等がある。表面処理方法としては、比較的取り扱い性が良く、コスト的に有利な電解酸化処理法が好適に採用されている。
【0005】
電解酸化による表面処理によって、炭素繊維表面にカルボキシル基や水酸基等の官能基が生成され、これもマトリックス樹脂との接着性を高めるのに寄与すると考えられる。かかる点に着目して、炭素繊維の表面状態を改善させる方法が提案されている。例えば、パルス的に炭素繊維トウを印加して陽極酸化し、トウ内部への電解質の拡散効率を上げる方法が提案されている(例えば、特許文献1と2参照)。また、炭素繊維トウとマトリックス樹脂との接着力を向上させるために、炭素繊維トウに対して陽極酸化と陰極還元を周期的に繰り返して、その表面処理を行う方法も提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平7−189113号公報
【特許文献2】特開平7−207573号公報
【特許文献3】特開平10−266066号公報
【0006】
ところで炭素繊維を用いた複合材料の耐衝撃性は、衝撃後圧縮強度(CAI)の値で評価されるが、CAIは一般に、炭素繊維が高弾性になるにつれて低下する傾向がある。そして、CAIに寄与する因子として炭素繊維のマトリクス樹脂との接着性(界面接着性)が挙げられるが、高弾性の炭素繊維の場合、界面接着性が強いと衝撃が分散できずに炭素繊維自身が損傷していまい、界面接着性が弱いと界面での剥離が広範囲で起こってしまうので、制御が非常に難しいという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性(界面接着性)を適度で適正なものとすることによって、特に耐衝撃性に優れた複合材料を製造するための炭素繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
炭素繊維の界面接着性の制御は、一般的に表面処理工程にて行われている。そこで、本発明では、表面処理工程において、炭素繊維表面に意図的に接着性の強い部分と弱い部分を作り、弱い部分で衝撃を吸収させるように工夫したものである。
【0009】
本発明の請求項1に記載された発明は、炭素繊維の繊維軸方向において、表面酸素濃度(O/C)の相対的に高い部分と低い部分が、規則性を持って繰返された表面特性を有する複合材料用炭素繊維である。
【0010】
請求項2に記載された発明は、表面酸素濃度(O/C)が相対的に高い部分と低い部分の差が少なくとも3%で、繰返しの数(ピッチ数)が炭素繊維10mm当たり1〜10回の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の複合材料用炭素繊維である。
【0011】
請求項3に記載された発明は、表面酸素濃度(O/C)が相対的に低い部分のO/Cが8%以上、表面酸素濃度(O/C)が比較的高い部分のO/Cが30%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の複合材料用炭素繊維である。
【0012】
請求項4に記載された発明は、炭素繊維の繊維軸方向において、表面酸素濃度(O/C)の相対的に高い部分と低い部分が、規則性を持って繰返された表面特性を有する複合材料用炭素繊維を製造する方法であって、炭素繊維の表面を均一に処理する表面処理工程と、表面を繊維軸方向に不連続に処理する表面処理工程とを含む複合材料用炭素繊維の製造方法である。なお、本発明において、「表面を繊維軸方向に不連続に処理する」とは、走行する炭素繊維にパルス波等による不連続な表面処理を行い、その結果、繊維表面にO/Cの高い部分と低い部分を形成させる処理を意味する。
【0013】
請求項5に記載された発明は、炭素繊維の繊維軸方向において、表面酸素濃度の相対的に高い部分と低い部分が、規則性を持って繰返された表面特性を有する複合材料用炭素繊維を製造する方法であって、第1の表面処理工程で炭素繊維の表面を均一に処理し、次いで、第2の表面処理工程で表面を繊維軸方向に不連続に処理することからなる請求項4記載の複合材料用炭素繊維の製造方法である。
【0014】
そして、請求項6に記載された発明は、第1の工程で、炭素繊維の表面を表面電解処理によって均一に処理し、次いで、第2の工程で、パルス波を用いる表面電解処理によって不連続に処理することからなる請求項5記載の複合材料用炭素繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、表面状態が改善された、具体的には、炭素繊維の繊維軸方向において、表面酸素濃度の相対的に高い部分と低い部分が、規則性を持って繰返された表面特性を有する炭素繊維を、表面電解処理法の簡単な条件設定で効率良く製造することができる。そして、得られた炭素繊維は、表面酸素濃度が低くマトリックス樹脂との接着性(界面接着性)が低い部分で衝撃を吸収するが、損傷面積は大きくなる。一方、表面酸素濃度が高くマトリックス樹脂との接着性(界面接着性)が高い部分では、損傷面積は少ない。本発明の炭素繊維、そしてそれとマトリックス樹脂とから得られる複合材料は、これらのバランスが取れているので、全体的に優れた耐衝撃性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
炭素繊維は、通常、その前駆体繊維の耐炎化処理、炭素化処理、あるいは更に炭化・黒鉛化処理を経て得られた炭素繊維に、更に表面処理やサイジング処理が行われる。本発明においては、かかる工程のうち表面処理工程、好ましくは電解処理工程で炭素繊維を処理することによって、表面酸素濃度の相対的に高い部分と低い部分が、規則性を持って繰返された炭素繊維が得られる。そのための具体的な手段として、表面電解処理に際し、一定周期で電荷を変化させる表面処理が実施される。
【0017】
なお、炭素繊維の表面電解処理において、前記特許文献1〜3に、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着力を向上させるために、例えば、炭素繊維に電流をパルス的に印加する方法や、炭素繊維に対して陽極酸化と陰極還元を周期的に繰り返して行う方法が提案されている。しかしながら、前駆体繊維の耐炎化処理、炭素化処理、あるいは更に炭化・黒鉛化処理を経て得られた炭素繊維は、その表面には凹凸や繊維欠陥がランダムに形成されている。従って、かかる表面を単にパルス的に電流を印加して電解酸化してみても、本発明のような、表面酸素濃度の相対的に高い部分と低い部分が、規則性を持って繰返された表面特性を有する炭素繊維は得られない。
【0018】
本発明の炭素繊維は、その繊維軸方向において、表面酸素濃度の相対的に高い部分と低い部分が、規則性を持って繰返された表面特性を有するものである。本発明において表面酸素濃度とは、X線光電子分光器により測定される炭素繊維のO/C値を意味する。本発明において好ましいのは、表面酸素濃度が相対的に高い部分と低い部分の差が少なくとも3%で、繰返しの数(ピッチ数)が炭素繊維10mm当たり1〜10回の範囲にある場合である。より好ましいのは、差が3〜10%のものである。炭素繊維のO/C値としては、一般的に、8〜30%の範囲にあるものが好ましい。O/C値が8%未満の場合は、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が劣り、得られる複合材料の物性低下の原因になる。一方、O/C値が30%を超える場合は、樹脂との接着性が高すぎ、界面での柔軟性が失われるため、複合材料の物性が低下する傾向にあるので不適当である。
【0019】
本発明の炭素繊維は、好ましくは、炭素繊維の表面処理工程において、第1の表面処理工程で炭素繊維の表面を均一に処理し、次いで、第2の表面処理工程で表面を繊維軸方向に不連続に処理する方法によって得られる。しかし、第1の表面処理工程と第2の表面処理工程は、必ずしも連続して行う必要はない。表面処理の方法としては、薬液を用いる液相酸化、電解液溶液中で炭素繊維を陽極として処理する電解酸化(電解処理)、及び気相状態でのプラズマ処理などによる気相酸化等があるが、いずれの方法でもかまわない。
【0020】
本発明の製造方法として好ましいのは、表面電解処理法であり、特に、第1の工程で、炭素繊維の表面を表面電解処理によって均一に処理し、次いで、第2の工程で、パルス波を用いる表面電解処理によって不連続に処理することからなる方法が好ましい。
【0021】
炭素繊維の電解処理においては、通常、電解酸化と電解還元が行われる一対の陽極槽と陰極槽を用いて表面電解が行われる。その際、陽極槽では、電解酸化による炭素繊維表面のエッチングが行われ、カルボキシル基や水酸基等の官能基が生成されると考えられる。そして、陰極槽では、電解還元により、精製した官能基の一部は還元除去されると考えられる。電解酸化によるエッチングの程度は、使用する電気量に依存し、電気量が高いほど繊維表面が強くエッチングされるが、過度な処理を行うと、逆に、削れ過ぎた部分が新たな欠陥となるため好ましくない。クラックやボイドなどの物理的欠陥(結晶性が高く配向度が低い構造部分)は、炭素繊維の破断開始点となる。従って、最適な表面状態を形成させるためには、適度なエッチングが必要である。
【0022】
本発明においては、炭素繊維の表面電解処理を一対(陽極槽と陰極槽)の処理浴を少なくとも二つ用いて実施し、第1の一対の処理浴(第1の工程)で、炭素繊維の表面を表面電解処理によって均一に処理し、次いで、第2の一対の処理浴(第2の工程)で、パルス波を用いる表面電解処理によって不連続に処理する方法が好ましい。かかる方法・装置によって、炭素繊維、例えば、炭素繊維のトウに対して、電解質溶液を介して間接給電して、陽極酸化による電解表面処理と陰極還元による電解表面処理が交互に連続して行われる。
【0023】
本発明において、電解処理浴は、陽極槽と陰極槽とが別々に構成されており、電解液を介して印加する装置であればどのようなものでもかまわないが、電解液を、炭素繊維、例えば、トウの下方から噴出させることによって供給するのが好ましい。
【0024】
本発明の第1の工程の均一表面処理においては、一定の処理電流を用いて電解処理が行われる。印加される電気量は、5〜500クーロン/g(炭素繊維1g当たりのクーロン数)、好ましくは5〜200クーロン/gである。500クーロン/gを超えると炭素繊維自体の強度が低下することがあるので好ましくない。電気量を大きくすると、エッチング量が増えるが、電気量が大きすぎると表面の凹凸が表面欠陥となり、繊維強度が低下するため好ましくない。また、電気量が小さすぎると、エッチングが十分でないため好ましくない。なお、炭素繊維1g当たりのクーロン数とは、下記式で計算される値である。
炭素繊維1g当たりのクーロン数(クーロン/g)=3.6×10×A/((炭素繊維のストランド数)×S×Y×(フィラメント数))
ここで、A(電流値:A)、S(速度:m/hr)、Y(繊度:dtex)である。
【0025】
本発明の第2の工程の不均一表面処理においては、パルス電流を用いて電解処理行われる。パルス電流とは、処理電流波形が強度の異なる2種類の電流の印可時間から構成される矩形波の電流である。2種類の電流はその印可電流の強度差が、例えば、0.1A以上あり、周期的に切り替わっている。また、弱い電流を印可する替りに電流を休止させてもよい。この工程において、炭素繊維は強い電流が印加されている時にはより酸化され、弱い電流が印加されるか、若しくは電流が休止している時には酸化されにくいため、電流を切り替える間隔を制御することで、表面酸素濃度の相対的に高い部分と低い部分が、所望の間隔で規則性を持って繰返された炭素繊維を得ることができる。印加される電気量は、5〜500クーロン/g、好ましくは5〜200クーロン/gである。
【0026】
一般に、炭素繊維の表面の電解酸化によるエッチングによって、炭素繊維の表面欠陥となる焼成工程で生じた脆弱部が、エッチングにより取り除かれ炭素繊維自体の強度が向上する。また、脆弱部の除去に伴い繊維表面に細かな凹凸が生じ、炭素繊維の表面積が広がり、炭素繊維とマトリックス樹脂間に十分な接触を得ることができるようになる。更に、マトリックス樹脂との親和性を向上させる効果を有する、カルボキシル基や水酸基等の官能基が導入される。それらの結果、アンカー効果により炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が向上し、得られた複合材料のコンポジット特性が向上すると推測される。
【0027】
本発明の第1の工程では、比較的小さな電流を印加することによって、前記のような作用効果が、炭素繊維表面に均一に行われる。そして、第2の工程では、パルス波を用いる表面電解処理によって、前記のような作用効果が、炭素繊維表面に不連続に且つ規則的に行われる。その結果、炭素繊維表面には、表面酸素濃度の相対的に高い部分、即ち界面接着性の高い部分と、表面酸素濃度の相対的に低い部分、即ち界面接着性の低い部分が、規則性を持って繰返されて形成される。
【0028】
表面処理に際しての炭素繊維の処理量は、特に制限はないが、例えば、トウの場合には、単位幅当たりのフィラメント数が5000フィラメント/mm以下、好ましくは2000フィラメント/mm以下が好ましい。5000フィラメント/mmを超えると、電解液の拡散が不十分になり、単繊維間の接着力のバラツキが大きくなることがあるので好ましくない。
【0029】
表面処理で用いる電解液の電解質については、特に制限はないが、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、マレイン酸等の有機酸、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸水素アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等のアンモニウム塩又はアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水産かバリウム等のアルカリ水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等の無機塩、マレイン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸ナトリウム等の有機塩を単独または2種類以上の混合物として用いることができる。
【0030】
以上のようにして表面処理が施された炭素繊維は、通常、サイジング剤が付与される。サイジング剤としては、複合材料に用いるマトリックス樹脂に合わせて選択することが好ましく、例えばエポキシ樹脂、エポキシ変性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等を単独であるいは2種類以上を混合して用いることができる。サイジング剤を炭素繊維へ付与するに際しては、サイジング剤をその溶媒に溶解した溶液又はその溶液中に分散させた分散液(サイジング液)に、炭素繊維を浸漬し、次いで乾燥する方法によるのが一般的である。
【0031】
本発明の炭素繊維を強化繊維として用い、これとマトリックス樹脂とから種々の公知の手段・方法により複合材料が得られる。
【0032】
炭素繊維は、通常、シート状の強化繊維材料として用いられる。シート状の材料とは、繊維材料を一方向にシート状に引き揃えたもの、これらを、例えば、直交に積層したもの、繊維材料を織編物や不織布等の布帛に成形したもの、ストランド状のもの、多軸織物等を全て含む。繊維の形態としては、長繊維状モノフィラメントあるいはこれらを束にしたものが好ましく使用される。
【0033】
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が用いられる。熱硬化性マトリックス樹脂の具体例として、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂、ビスマレイミド樹脂、アセチレン末端を有するポリイミド樹脂及びポリイソイミド樹脂、ナジック酸末端を有するポリイミド樹脂等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上の混合物として用いることもできる。中でも、耐熱性、弾性率、耐薬品性に優れたエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が、特に好ましい。これらの熱硬化性樹脂には、硬化剤、硬化促進剤以外に、通常用いられる着色剤や各種添加剤等が含まれていてもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリベンズイミダゾール等が挙げられる。複合材料中に占める樹脂組成物の含有率は、10〜90重量%、好ましくは20〜60重量%、更に好ましくは25〜45重量%である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例における各種物性値の測定方法は下記のとおりである。
【0036】
<炭素繊維の樹脂含浸ストランド強度及び弾性率測定>
JIS・R・7608に規定された方法により測定した。
【0037】
<炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)測定>
XPS(ESCA)によって次の手順に従って求めた。炭素繊維をカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて1センチ角に並べ、繊維方向軸に垂直となるよう0.5mのスリットを設けたステンレス板で覆った後、光電子脱出角度を90度に設定し、X線源としてMgKαを用い、試料チャンバー内を1×10−6Paの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値B.E.を284.6eVに合わせる。O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、C1sピーク面積は、282〜292eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。炭素繊維表面の表面酸素濃度O/Cは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比で計算して求められる。O/Cの最大と最小については、ステンレス板で覆う位置を替えランダムに5点測定し、その最大値と最小値を用いた。
【0038】
<炭素繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度(CAI)及び損傷面積測定>
一方向に引きそろえた炭素繊維に、東邦テナックス社製エポキシ樹脂組成物(#135)をホットメルト法により含浸し作成したプリプレグを、(+45/0/−45/90)3sの構成で積層し、オートクレーブにて、昇温速度1.5℃/分の条件で、120℃の温度で1時間保持した後、180℃の温度で2時間、0.59MPaの圧力下の条件で成形して炭素繊維強化複合材料を作製した。このようにして得られた炭素繊維強化複合材料について、JIS・K・7089(1996)に従い、0°方向が6インチ、90°方向が4インチの長方形に切り出し、その中央に落下高さ571mmで、270インチ・ポンドの落錘衝撃を与え、超音波探傷装置を用いて損傷面積を算出した後、衝撃後圧縮強度測定した。この衝撃後圧縮強度は、5個の試料について測定し、その平均衝撃後圧縮強度を求めた。また、測定については、室温乾燥状態(温度25℃±2℃、相対湿度50%)で行った。
【0039】
[実施例1]
アクリロニトリル95質量%/アクリル酸メチル4質量%/イタコン酸1質量%よりなる共重合体紡糸原液を、常法により湿式紡糸し、水洗・乾燥後、トタール延伸倍率が14倍になるようにスチーム延伸を行い、0.65デニールの繊度を有するフィラメント数24,000の前駆体繊維を得た。
【0040】
得られた前駆体繊維を加熱空気中で延伸しながら、240〜250℃の温度範囲内で耐炎化処理を行い、次いで窒素雰囲気中、300〜2000℃の温度範囲内で第一及び第二炭素化処理を行い、未電解処理炭素繊維を得た。
【0041】
前記未電解処理炭素繊維を、二組の処理浴を使用して非接触電解処理を行った。電解質溶液として10質量%の硫酸アンモニウム水溶液を用いた。第1の処理浴では印加する電流を一定にして、電気量を10C/gとし電解酸化処理を行った。第2の処理浴では、印加する電流をパルス電流とし、連続的に通過する炭素繊維が10mm通過する間に、強電流印加時間と弱電流印加時間が5回ずつ切り替わるよう切り替え間隔を調節し、8C/gの電気量で電解酸化処理を行った。強電流印加時には繊維束1本あたり0.4Aの電流を、弱電流印加時には繊維束1本あたり0.1Aの電流を印加した。その後、常法によりサイジング処理を行い、乾燥して密度1.80g/cm、繊維直径5.1μmの炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の物性値はまとめて表1に示したとおりであった。
【0042】
[実施例2〜5及び比較例1〜2]
電解処理の電気量とパルス電流の切り替え間隔を表1に示した条件となるように変更した以外は実施例1と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の物性値の測定値は、表1に示したとおりであった。
【0043】
[比較例3]
実施例1と同様にして得た未電解処理炭素繊維に、二組の処理浴を使用し、電解質溶液として10質量%の硫酸アンモニウム水溶液を用いて、どちらの処理浴でも印加する電流を一定にして、電気量を10C/gとして電解酸化処理を行った。得られた炭素繊維の物性値の測定値は、表1に示したとおりであった。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維の繊維軸方向において、表面酸素濃度(O/C)の相対的に高い部分と低い部分が、規則性を持って繰返された表面特性を有する複合材料用炭素繊維。
【請求項2】
表面酸素濃度(O/C)が相対的に高い部分と低い部分の差が少なくとも3%で、繰返しの数(ピッチ数)が炭素繊維10mm当たり1〜10回の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の複合材料用炭素繊維。
【請求項3】
表面酸素濃度(O/C)が相対的に低い部分のO/Cが8%以上、表面酸素濃度(O/C)が比較的高い部分のO/Cが30%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の複合材料用炭素繊維。
【請求項4】
炭素繊維の繊維軸方向において、表面酸素濃度(O/C)の相対的に高い部分と低い部分が、規則性を持って繰返された表面特性を有する複合材料用炭素繊維を製造する方法であって、炭素繊維の表面を均一に処理する表面処理工程と、表面を繊維軸方向に不連続に処理する表面処理工程とを含む複合材料用炭素繊維の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維の繊維軸方向において、表面酸素濃度(O/C)の相対的に高い部分と低い部分が、規則性を持って繰返された表面特性を有する複合材料用炭素繊維を製造する方法であって、第1の表面処理工程で炭素繊維の表面を均一に処理し、次いで、第2の表面処理工程で表面を繊維軸方向に不連続に処理することからなる請求項4記載の複合材料用炭素繊維の製造方法。
【請求項6】
第1の工程で、炭素繊維の表面を表面電解処理によって均一に処理し、次いで、第2の工程で、パルス波を用いる表面電解処理によって不連続に処理することからなる請求項5記載の複合材料用炭素繊維の製造方法。



【公開番号】特開2010−133033(P2010−133033A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307003(P2008−307003)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】