説明

複合材料

【課題】鋼から構成された部材における水素脆化を抑制する。
【解決手段】複合材料は、鋼材101と、鋼材101の表面に形成された金属めっき膜102とから構成されている。ここで、金属めっき膜102は、鉄よりも水素との結合エネルギーが小さく、表面における水素イオンが水素分子になる化学反応の交換電流密度が鉄より小さい金属から構成されている。なお、鋼材101は、例えば、よく知られた炭素鋼である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリートの鉄筋などに用いられる、鋼を用いた複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物などの構造物では、遅れ破壊が問題となる。遅れ破壊とは、静的な付加を受けているある条件下で使用している鋼材などが、ある時間の経過後、外見上ではほぼ塑性変形を伴うことなく、突然脆性的に破壊する現象である。この遅れ破壊のメカニズムは十分に解明されていないが、環境中に存在している水素が金属に侵入して延性が失われることによる水素脆性によるものと考えられている(非特許文献1参照)。
【0003】
この水素脆化に関しては、水素脆化に強い鋼の開発(非特許文献2,非特許文献3参照)、および、水素脆化を引き起こす水素量を測定するための表面処理技術の開発(非特許文献4参照)など、多くの研究・開発がなされている。また、水素と金属との間の結合力(M−H)についても調査されている(非特許文献5参照)。
【0004】
水素脆化のもととなる水素の金属への侵入の過程には、複数の種類があるものとされている。例えば、図3に示すように、気体の水素分子301は、金属302の表面への水素303の吸着過程を経て、金属の内部に侵入すると報告されている(非特許文献6参照)。また、非特許文献6では、図3に示すように、溶液中の水素イオン304、もしくは水分が金属302の表面で還元されて生成した水素イオン304がもととなり、金属302の表面に水素303が吸着し、この吸着した水素303が、金属302の内部に侵入するという過程についても報告されている。水素は、空気中にはほとんど存在していないので、水素脆化は、付着している水の還元などにより鋼の表面で発生した水素が吸着する過程から始まるものと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】南雲道彦、「鋼の力学的挙動に及ぼす水素の影響」、鉄と鋼、Vol.0、No.10、pp.766−775、2004年。
【非特許文献2】並村 裕一、他、「耐遅れ破壊特性に優れた高強度ボルト用鋼」、神戸製鋼技報、Vol.50、No.1、pp.41−44,2000年4月。
【非特許文献3】高橋 稔彦、他、「耐水素脆化特性に優れた高強度鋼」、物質材料研究アウトルック、第3部 物質・材料研究における今後の研究動向、第5章 環境・エネルギー材料、pp.351−355,2006年。
【非特許文献4】中山 武典、他、「カドミウム代替水素逃散防止めっきの開発」、材料とプロセス、第13巻、第6号、p.1376、2000年。
【非特許文献5】大堺利行、加納健司、桑畑進 著、「ベーシック電気化学」、株式会社化学同人発行、pp.153,153、2,007年。
【非特許文献6】南雲道彦 著、「水素脆性の基礎 水素の振るまいと脆化機構」、株式会社 内田老鶴圃 発行、pp.107〜109,117〜119、2008年。
【非特許文献7】浅原 照三、 他著、「金属表面技術講座6 電気メッキ技術」、金属表面技術協会編、株式会社朝倉書店 発行、 pp.150−171、昭和47年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した水素脆性を抑制するために、水素が侵入しても金属組織内に強く束縛されて金属組織に影響しない材料の検討、また、鉄鋼の合金組成を検討するなど、種々の水素脆性対策技術が模索されている。しかしながら、いずれにしても鋼を用いている場合、環境によっては、鋼の表面で水素が発生し、これが鋼に吸着し、水素脆性を引き起こす発端となり得る。このように、鉄鋼自体の組成の検討では、鋼表面での水素の発生や鋼に対する水素の吸着が抑制できないため、水素脆性が引き起こされてしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、鋼から構成された部材における水素脆化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る複合材料は、鋼材と、この鋼材の表面に形成された金属めっき膜とから構成され、金属めっき膜は、鉄よりも水素との結合エネルギーが小さく、表面における水素イオンが水素分子になる化学反応の交換電流密度が鉄より小さい金属から構成されているようにしたものである。
【0009】
上記複合材料において、複合材料は、コンクリートの中に配設されて用いられるものであり、例えば、鋼材は、鉄筋コンクリートの鉄筋である。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、鋼材の表面に形成する金属めっき膜を、鉄よりも水素との結合エネルギーが小さく、表面における水素イオンが水素分子になる化学反応の交換電流密度が鉄より小さい金属から構成したので、鋼から構成された部材における水素脆化が抑制できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における複合材料の一部構成を示す断面図である。
【図2】図2は、「2H++2e-→H2の化学反応の交換電流密度」および「水素との結合エネルギー」の関係を示す特性図である。
【図3】図3は、水素の金属への侵入の過程を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における複合材料の一部構成を示す断面図である。この複合材料は、鋼材101と、鋼材101の表面に形成された金属めっき膜102とから構成されている。ここで、金属めっき膜102は、鉄よりも水素との結合エネルギーが小さく、表面における水素イオンが水素分子になる化学反応の交換電流密度が鉄より小さい金属から構成されている。なお、鋼材101は、例えば、よく知られた炭素鋼である。
【0013】
上述した構成とした本実施の形態における複合材料によれば、複合材料の表面は、金属めっき膜102で覆われているため、この表面における水素ガスの発生および水素の吸着が、鋼材101の表面より抑制できるようになるので、鋼材101における水素脆化が抑制できるようになる。
【0014】
以下、より詳細に説明する。鋼材101における水素脆化は、水素が金属表面で発生し、発生した水素が金属に吸着する過程から始まるものと考えられる。
【0015】
従って、第1に「水素ガス(H2)を発生させる2H++2e-→H2の化学反応の交換電流密度が小さい金属」の表面では、水素ガスの発生がおきにくいので、気相からの水素侵入が抑制できるものと考えられる。また、第2に「水素との結合エネルギーが小さい金属」の表面では、表面における水素(例えば水素イオン)の吸着がおきにくいので、液相からの水素侵入が抑制できるものと考えられる。
【0016】
上述した「2H++2e-→H2の化学反応の交換電流密度」および「水素との結合エネルギー」の関係は、図2に示すようになる。図2において、横軸が、「水素との結合エネルギー」を示し、縦軸が「2H++2e-→H2の化学反応の交換電流密度」を示している。図2から明らかなように、鉄(Fe)よりも「2H++2e-→H2の化学反応の交換電流密度」が小さく、「水素との結合エネルギー」が小さい金属は、例えば、インジウム(In)およびスズ(Sn)などの、Feを通る直交する2つの直線で区画される4つの象限の左下の象限の金属となる。これらの金属の金属めっき膜102を鋼材101の表面に形成することで、鋼から構成された鋼材101における水素脆化が抑制できるようになる。上述した2つの上面を満たす金属としては、図2から明らかなように、Inが最適である。また、Snであっても、上記2条件が満たされるため、同様の効果が期待できる。
【0017】
例えば、Snの金属めっき膜102を形成する場合、鈴酸カリウム80〜320g/l、水酸化カリウム15〜45g/lとしためっき液を用意し、これを65〜90°の温度としためっき浴中に、陰極とした鋼材101を浸漬する。この状態で、3〜10A/dm2の電流を流す。この電解めっきにより、陰極とされている鋼材101の表面にSnが析出し、鋼材101の表面にSnからなる金属めっき膜102が形成できる(非特許文献7参照)。
【0018】
また、硫酸亜鉛360g/l、塩化アンモニウム30g/l、グルコース120g/lとしためっき液を用意し、これを30℃としためっき浴中に、陰極とした鋼材101を浸漬する。この状態で、電流密度2〜4A/dm2の電流を流す。この電解めっきにより、鋼材101の表面にZnからなる金属めっき膜102が形成できる。
【0019】
上述した2つの条件を満たす金属であれば、水素発生反応が起きにくく、かつ水素が表面に吸着しにくいので、水素脆化をより起こしにくいものとなる。しかしながら、このような金属には鋼材のような強度がなく、鉄の代替として用いるのは非常に困難である。ここで、高い強度の鋼材101の表面に、上述した2つの条件を満たす金属めっき膜102を形成した複合材料にすることで、鋼材101中への水素の侵入を抑え、さらに強度も得られるようにしたところに、本発明の特徴がある。
【0020】
以上のように、本発明によれば、鋼材の表面を、鉄よりも水素との結合エネルギーが小さく、表面における水素イオンが水素分子になる化学反応の交換電流密度が鉄より小さい金属でめっきしたので、表面で発生する水素や表面に吸着する水素を減らすことができ、鋼材中に水素が侵入する量(速度)を抑制することができる。この結果、本発明によれば、鋼材が遅れ破壊に至る時間を大幅に延長することができると期待でき、本発明による複合材料は、建造物の建築要素(固定構造体)の部材として好適である。
【0021】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、金属めっき膜は、SnおよびZnに限らず、ビスマス(Bi)から構成してもよい。また、Sn−Biの合金から金属めっき膜を構成してもよい。また、上述した複合材料は、鉄筋コンクリートの鉄筋など、コンクリートの中に配設されて用いる場合に有用である。コンクリート内部に配設される鉄筋は、交換することが困難であり、場合によっては、鉄筋が破断した時点が、鉄筋コンクリートによる建造物の寿命となる。これに対し、本発明によれば、脆性破壊が抑制でき、鉄筋の破断が防止できるので、例えば、鉄筋コンクリートによる建造物などの寿命を延ばすことが可能となる。
【符号の説明】
【0022】
101…鋼材、102…金属めっき膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、この鋼材の表面に形成された金属めっき膜とから構成され、
前記金属めっき膜は、鉄よりも水素との結合エネルギーが小さく、表面における水素イオンが水素分子になる化学反応の交換電流密度が鉄より小さい金属から構成されている
ことを特徴とする複合材料。
【請求項2】
請求項1記載の複合材料において、
前記複合材料は、コンクリートの中に配設されて用いられることを特徴とする複合材料。
【請求項3】
請求項2記載の複合材料において、
前記鋼材は、鉄筋コンクリートの鉄筋であることを特徴とする複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−246737(P2011−246737A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118076(P2010−118076)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】