説明

複合産業廃棄物の無害化方法

【課題】土砂、ガラス、金属、プラスチック等を含有し、粒径も10mmから10μm以下にわたる広い粒度分布を有する、例えば、自動車のシュレッダーダストのような複合産業廃棄物を無害化する方法を提供する。
【解決手段】粒径1μmから10mmにわたる粒度分布を有し、30〜95重量%のガラス、5〜30重量%のプラスチック及び0.5〜10重量%の金属及び/又は金属化合物を含有する産業廃棄物を粘土と混練し、得られた塊状物を600〜1200℃に達するまで1.5〜5時間焼成し、放冷して無害な焼結塊を得、得られた焼成塊をそのまま或いは粉砕して埋め戻し材として使用し、或いは粉砕して骨材の一部としてセメントに配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂をはじめ、ガラス、金属、プラスチック等を含有し、粒径も1μmから10mmにわたる広い粒度分布を有する、例えば、自動車のシュレッダーダストのような複合産業廃棄物の無害化方法に関する。より詳しくは、複合産業廃棄物を、日本全国に広く分布する一般の粘土と混練して焼成することにより、微粒子も塊状化させ、有害金属も安定な金属鉱物とし、プラスチックも粘土成分と一体化して硬質の無害な焼成物を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘土を廃棄物の処理に利用する方法は種々開示されている。例えば、特許文献1には、焼却灰などの廃棄物を、粘土と混練し、熟成させ、成形し、乾燥し、乾燥後焼成する技術が開示されている。しかしながら、この技術は、7日以上にわたる長い熟成工程を必要とし、多くの手間と日時を要し、大量の複合産業廃棄物を処理するには適しない。
特許文献2には、自動車廃ガラスを100μm以下に粉砕処理した後、粘土と配合し、磁器質焼成品を得る技術が開示されている。しかしながら、この技術によれば、ガラスのみは利用され得るが、複合産業廃棄物において、同時に発生する土砂や金属やプラスチックは処理されずに残ることになる。
【0003】
特許文献3には、産業廃棄物並びに一般廃棄物の焼却灰を、陶磁器用粘土と共に焼成して、ガラス状焼成物を得る方法が開示されている。しかしながら、粘土は広く分布するが陶磁器用の粘土は特殊な成分組成を有し、それ自体が無限に存在するものではない。産出する粘土の品質により、得られる陶磁器の特徴、品質も異なり、萩焼き、備前焼き、清水焼き、益子焼き等、陶磁器用粘土を産出する地方の特色がかもしだされ、大量の産業廃棄物の処理に使用するにはもったいない資源である。また、本発明は焼却灰でなく、産業廃棄物自体を処理するものである。
特許文献4には、鉛、カドミウム、水銀、クロム、銅、ニッケル、亜鉛等の有害金属を含有する廃棄物の処理材として天然の粘土鉱物であって、その比表面積が150m2 /g以上、500m2 /g以下となるように加工されたものである。この技術は、有害金属の無害化に特化され、プラスチックやガラスや土砂が大量に含有されている産業廃棄物には適用しかねるものである。更に、この技術は特定の粘土鉱物を用いており、約75万トン/年以上も発生する複合産業廃棄物には適用しかねるものである。
【0004】
日本における自動車産業は隆盛であるが、同時に廃自動車の量も無視できない規模に膨張している。産業廃棄物の量を減少すべく、再使用可能な部品はすべて回収しているが、なお残った自動車のボディを千切れた導線、土砂等と共に粉砕処理している現状である。この粉砕物、すなわち、シュレッダーダストにはガラス片、土砂、プラスチック片、金属等が混ざり、年間約75万トンも発生している。現状では、産業廃棄物として処理されているが、処理場の提供が産業廃棄物の発生に追いつかず、先ずは無害化して土壌に還元できる状態にすることが急務である。
【0005】
ガラス片は鋭利な角を有するため、土壌に還元できず、プラスチックも腐敗せず、土壌に還元できない。金属片としては、鉄は鉄材回収後であるため少ないが、銅等の単体金属も混入し、これらが風雨に曝されると有害金属化合物を生じる。しかも、ボディの粉砕は機械的に行われるため、粒度分布が異常に広く、大きいものは径5〜10mmもあるが、細かい微粉も大量に混在する。微粉は水と接触すると水を汚濁させ、地下水の流れをせき止め、河川に流れ込むと水を汚濁させ、水中生物の生息に悪影響を及ぼす。
【特許文献1】特開2005−8459号公報
【特許文献2】特開2000−86326号公報
【特許文献3】特開平10−212154号公報
【特許文献4】特開平8−10739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車のシュレッダーダストのように、ガラス、プラスチック、土砂、金属等種々の成分を含有し、広い粒度分布を有し、日本国中で大量に発生する複合産業廃棄物を無害化する簡易な方法が求められていた。無害化するにあたっては、日本中の各地で得られる安価な素材を用いて行う必要がある。また、処理に長時間を要してはならない。更に、好ましくは、この無害化物が再利用価値を有することである。再利用としては、モルタル、コンクリートに配合する骨材として利用する方法がある。そのためには、骨材として利用できる硬度を有することが要件である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決することを目的とし、その構成は、粒径1μmから10mmにわたる粒度分布を有し、30〜95重量%のガラス、5〜30重量%のプラスチック及び0.5〜10重量%の金属及び/又は金属化合物を含有する産業廃棄物を粘土と混練し、得られた塊状物を600〜1200℃に達するまで、1.5〜5時間焼成し、放冷して無害な焼結塊を得ることを特徴とし、得られた焼成塊をそのまま或いは粉砕して埋め戻し材として使用し、或いは粉砕して骨材の一部としてセメントに配合することを特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明は自動車のシュレッダーダストをはじめとして、ガラス、土砂、プラスチック、金属のいずれかを含有し、広い粒度分布を有する複合産業廃棄物を無害化する簡易な方法である。日本全国に広く分布する粘土を利用し、単に粘土と混練して得られた塊をそのまま焼成するものである。そのままとは、熟成工程、成形工程、乾燥工程等の工程を経ないことを意味する。その結果、有害金属は溶融粘土鉱物や溶融プラスチックと反応して安定化し、粘土の粘着力により微細な粉末も固形化し、ガラスも溶融して粘土と反応し、不溶性の鉱物となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、大量に発生してその処理に窮していた自動車のシュレッダーダストをはじめ、種々の複合産業廃棄物が日本各地で得られる粘土と共に、無害な鉱物に変わり、埋め戻しは勿論、モルタルやコンクリートの骨材としても再利用可能になった。更に、水と接触することにより、水を浄化する作用があることも判明した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における複合産業廃棄物とは、ガラス、プラスチック、金属及び/又は金属化合物、土砂のいずれかが混合し、粒度分布も異常に広い廃棄物であり、土壌に還元することは勿論、埋め戻し材として使用しても土壌を汚染する廃棄物である。複合産業廃棄物に含有される各成分は産業廃棄物の種類、発生場所、時期により大きく変動する。
本発明が目的とする複合産業廃棄物は、例えば、自動車のシュレッダーダストを例にとれば、ガラス30〜95重量%、多くは50〜90重量%、より多くは60〜85重量%である。プラスチックは5〜30重量%、多くは7〜20重量%である。
【0011】
本発明の複合産業廃棄物には、鉄、アルミニウム、銅、ステンレス等の金属又は金属酸化物を含む金属化合物が含有されている。これら金属及び/又は金属化合物の含有量は、0.5〜10重量%、多くは1〜5重量%である。更に、自動車廃棄物には土砂も含有され、その量は0.5〜3重量%、多くは0.6〜2重量%である。更に、ハーネスと呼ばれる、配線ゴムの破片が0.01〜0.5重量%、多くは0.05〜0.3重量%含まれる。
本発明の複合産業廃棄物には上記の他、他の有害或いは無害な成分が含有されているものを含む。
【0012】
このような複合産業廃棄物の正確な粒度分布を示すことは不可能である。現実には、稀に径10mmもの大きいものもあるが、同時に径1μmないし径10μmの微粒子も存在し、この中間の粒径、すなわち、径10μm〜5mm、多くは径0.1mm〜1mmの粒子が存在する。一般的には、径10μm〜5mmの粒子が90重量%以上、より多くは95重量%以上を占める。そして、原料、再利用可能部材の回収程度、破砕機の種類等により発生する複合産業廃棄物の粒度分布も大きく変動する。
【0013】
本発明における粘土とは、我々が子供の頃から粘土と呼んでいた灰色の粘着性と可塑性を有する微細な鉱物粒子の集合体である。粘土の粒子径に関しては定義がなく、学会や学者により採用する値が異なっている。本発明においては、社会通念上、粘土と呼ばれるものはすべて包含する。
粘土の化学成分は、主として珪素、アルミニウム、鉄、マグネシウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び水である。その構成鉱物は1種又は2種以上の粘土鉱物で、普通は石英、水酸化鉄、酸化鉄、硫化鉄、更に、モンモロリナイト、カオリナイト、ベントナイト等と呼ばれる鉱物を混じえている。粘土は広く日本全土に分布しているため、どの地方であっても、産業廃棄物が発生した場所で処理することができて流通コストを削減することができる。更に、粘土層の深さを探知すれば、粘土層を使用し尽くした段階で、本発明の無害化廃棄物で地層を埋め戻すことができ、環境破壊を防止できるものである。
【0014】
粘土100重量部に対し、配合できる産業廃棄物の量は、個々の産業廃棄物により異なる。産業廃棄物の種類によっては50〜500重量部配合できるが、20重量部以下しか配合できない場合もある。一般には60〜300重量部、好ましくは80〜200重量部である。粘土と産業廃棄物の混練に当たっては、市販されている通常の混練機を用い、肉眼的に均等になったと思う時が混練の完了である。混練機のパワーと混練すべき粘土及び産業廃棄物の量にもよるが、一般には10分〜30分で混練作業は完了する。かくして、粘土と産業廃棄物が一体化した粘性の塊状物が得られる。
【0015】
この塊状物を、成形することなくそのまま焼成する。焼成炉は試験的に行う場合には、バッチ式の電気炉でもよい。焼成に用いるエネルギー源は特に限定がなく、電源の他、重油、灯油、軽油等の化石燃料や天然ガス等を用いて連続的に焼成することが好ましい。現実の実施にあたっては、焼成炉として、ロータリーキルン型式の回転しながら焼成する炉も使用できるし、長いベルトコンベアー上を移動させて焼成すべき部位を高温で加熱し、目的の温度に達した後、自然放冷する方法もある。或いは達成した最高温度を10分ないし1時間維持してもよく、特に限定はない。焼成するときの最高温度は600〜1200℃、好ましくは700〜1100℃、より好ましくは800〜1000℃である。
粘土の配合比が少なく、焼成温度が低い場合には赤味を帯びた焼成物が得られ、ガラス成分が球状に表面に点在する。一方、粘土の配合比が大きく、焼成温度が高い場合には黒っぽく、赤、青、白味を帯びた部位が散在する。いずれの場合も、硬質で内部には大小の空洞が散在する。
【0016】
本発明の焼成時間は、焼成温度、産業廃棄物の種類、粘土との配合比により異なるが、一般に、加熱を開始してから1.5〜5時間、好ましくは2〜4時間である。焼成温度が高温の場合には焼成時間は短く、低温の場合には焼成時間は長くなる傾向がある。加熱終了後、放冷時に発生する高温空気を焼成原料の予備加熱に利用することもできる。或いは、廃熱を温水の供給などにも利用できる。
【0017】
得られた焼成物は全く無害であり、はや、うぐい、あゆ等の清流を好む淡水魚を飼育する水槽の底部に敷いても、元気に病気を発生することなく成長していく。したがって、埋め戻し材として使用しても環境を汚染するおそれがない。
得られた焼成物は高い硬度を有する。これを粉砕すればモルタルやコンクリートの細骨材、粗骨材等の骨材としても使用できる。
【実施例1】
【0018】
産業廃棄物として自動車のシュレッダーダストを用いた。たまたま使用した産業廃棄物の成分組成は、
鉄 0.6%
アルミニウム 0.1%
銅 0.4%
ステンレス 0.3% ハーネス 0.1%
プラスチック 11.5%
土砂 9.0%
ガラス 77.9% であった。
【0019】
粒度は、径5〜8mmのガラス片、黒いプラスチック片、短い銅線等大きいものが上層に集まるが、下層は径1〜10μmの微粉末ないし0.1〜1mmの中間程度の大きさの粉末からなる。手で掴むと、微粉末が手に付着し、手触り感はざらざらして、やや痛みを感じた。
粘土は栃木県産の通常の灰褐色の粘土を用いた。粘土と産業廃棄物の比率は粘土100重量部に対しダスト100重量部用いた。混練機を用いて粘土と産業廃棄物を混練し、得られた塊状物を電気炉に入れ、加熱開始後2.5時間で1100℃に達した。その後自然放冷した。得られた焼成物は黒みがかった多孔質の硬い焼成体であった。
【0020】
焼成物は硬質であるが、切断面には肉眼で判別できる空洞を有する。外面は岩に触ったような感触を有し、風雨に曝されても有害物は一切放出せず、土壌の埋め戻し材、埋め立て材としてとして好適であった。
実施例1で得られた焼成物を底に敷きつめた水槽を用意し、この水槽内に、水槽に馴化させた天然のうぐい10尾を移して飼育した。うぐいは4週間後も元気に成長していた。病気の前兆である表面に斑点の見られるものは1尾もいなかった。更に水槽の水が浄化され、通常4週間も経過すると発生する水垢が見られなかった。
一方、水槽に未処理の産業廃棄物を厚さ15mmに敷きつめた水槽は直ちに水が濁ったが、この水槽に、水槽に馴化させた天然のうぐい10尾を移して飼育した。1週間後に7尾に斑点が現れ、4週間後には4尾が死亡した。残った6尾も実施例1と比して成長が遅かった。
【0021】
コンクリート用細骨材としての利用試験
以下の材料を用い、表1の配合でコンクリートを製造し、28日後の圧縮強度を測定した。
セメント: 太平洋セメント社製(密度3.16)
細骨材: 栃木県那須郡産、川砂(粒径5mm以下、密度2.55)
粗骨材: 栃木県那須郡産、川砂利(粒径5〜25mm、密度2.61)
混和剤: 減水剤(レオビルド8000〔商標名〕
水 : 栃木県那須郡の地下水
【0022】
【表1】

【0023】
実施例1で得られた焼成物を、粒径5mm以下に粉砕して密度約1.9の細骨材を得、この細骨材を表1で示した配合のコンクリートの細骨材の一部と置換した。細骨材の置換割合と28日後の圧縮強度との関係を表2に示した。
表2より、細骨材の一部を本発明で得られた焼成物の粉砕物で置換しても、使用に耐える圧縮強度のモルタル、コンクリートが得られることが判明した。
【0024】
【表2】

【実施例2】
【0025】
粘土100重量部に対し、実施例1の複合産業廃棄物250重量部配合した以外は実施例1と同様にして焼成物を得た。得られた焼成物を粉砕し、実施例1と同様にして細骨材の一部と置換して実験を行った。実験結果を表3に示した。
表3より、実施例2においても、コンクリート製造にあたり、細骨材の一部を本発明産業廃棄物処理物でちかんしても使用に耐えるコンクリートが得られることが判明した。
【0026】
【表3】

【実施例3】
【0027】
焼成温度を800℃にした以外は、実施例1と同様にして複合産業廃棄物を粘土と共に焼成した。800℃に達するまで約1.5時間を要したが、その後30分間約800℃に維持した。得られた焼成物は赤褐色の硬質の岩状塊であり、表面に直径1〜5mmのガラス半球状の突出物があった。このガラス半球状の突出物は白ないし緑色であった。この焼成物を実施例1と同様に、水槽の底に並べ、この水槽に、水槽に馴化させた天然のうぐいを移して飼育した。うぐいは4週間後も元気に成長していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径1μmから10mmにわたる粒度分布を有する産業廃棄物を粘土と混練し、得られた塊状物を、最高温度が600〜1200℃に達するまで加熱し、以後放冷して無害な焼結塊を得ることを特徴とする複合産業廃棄物の無害化方法。
【請求項2】
上記最高温度に達するまでの焼成時間が、1.5〜5時間であることを特徴とする請求項1記載の複合産廃棄物の無害化方法。
【請求項3】
複合産業廃棄物が30〜95重量%のガラスを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載する複合産業廃棄物の無害化方法。
【請求項4】
複合産業廃棄物が、5〜30重量%のプラスチックを含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載する複合産業廃棄物の無害化方法。
【請求項5】
複合産業廃棄物が、0.5〜10重量%の金属及び/又は金属化合物を含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載する複合産業廃棄物の無害化方法。
【請求項6】
複合産業廃棄物が、自動車から再使用可能な部材を回収した後のシュレッダーダストであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載する複合産業廃棄物の無害化方法。
【請求項7】
請求項1ないし6で得られた焼成塊を粉砕し、骨材の一部としてセメントに配合することを特徴とする無害化産業廃棄物の利用方法。
【請求項8】
請求項1ないし6で得られた焼成塊を、そのまま或いは粉砕して埋め戻し材として使用することを特徴とする無害化産業廃棄物の利用方法。

【公開番号】特開2007−175675(P2007−175675A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379981(P2005−379981)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(591021372)塩野目ブロック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】