複合磁気部品及びそれを用いたスイッチング電源装置
【課題】リアクトルとトランスが必要な回路において部品数を削減する。
【解決手段】リアクトル用コア16と、リアクトル用コア16に巻回されたリアクトル巻線18とを含むリアクトル部と、リアクトル用コア16の両端部と磁気的ギャップ20を介して配置され、周回磁気回路を構成するトランス用コア10と、リアクトル用コア16に対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されてトランス用コア10に巻回されたトランスの一次側巻線12と、リアクトル用コア16に対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されてトランス用コア10に巻回されたトランスの二次側巻線14とを含むトランス部と、を備える複合磁気部品100とする。
【解決手段】リアクトル用コア16と、リアクトル用コア16に巻回されたリアクトル巻線18とを含むリアクトル部と、リアクトル用コア16の両端部と磁気的ギャップ20を介して配置され、周回磁気回路を構成するトランス用コア10と、リアクトル用コア16に対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されてトランス用コア10に巻回されたトランスの一次側巻線12と、リアクトル用コア16に対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されてトランス用コア10に巻回されたトランスの二次側巻線14とを含むトランス部と、を備える複合磁気部品100とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合磁気部品及びそれを用いたスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源装置等に用いられるトランス及びリアクトルを構成する磁気部品を集積化された複合磁気部品に関する技術が開示されている。
【0003】
特許文献1には、トランスを構成する一次側巻線及び二次側巻線をE型のコアの中央脚部に巻回し、E型のコアと磁気的ギャップを介して配置されたI型のコアにトランスの一次側巻線を延長してなるリアクトル巻線を巻回して構成される複合磁気部品が開示されている。特許文献2には、リアクトルとトランスとを複合的に集積化させた複合型変圧器が開示されている。リアクトルを構成する2つの巻線は磁束方向が互いに打ち消し合うように巻回され、トランス用コアにおいて互いに交互に重なるように巻回されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−59995号公報
【特許文献2】特開2009−284647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、リアクトルを構成する巻線の磁気的結合について考慮されておらず、リアクトルとトランスとを独立したものして扱うことが困難である。すなわち、特許文献1に記載の技術では、リアクトルを構成する巻線からみてE型のコアは磁気的な分岐路が多く、リアクトルとトランスとを独立したものして扱うことができない。また、特許文献2に記載の技術では、密結合リアクトルと2つのリアクトルとを集積化することができるが、トランス構造を得るための構成が開示されていない。
【0006】
また、特許文献1に記載の技術では、E型のコアとI型のコアを組み合わせて磁気回路を形成しているので、トランスの一次側巻線と二次側巻線とを貫く磁束が2つのコアの間の磁気的なギャップを通ることになり、一次側巻線と二次側巻線との磁気的な結合が弱くなる。
【0007】
また、特許文献1及び2のいずれにおいても、トランスにセンタタップを設けて利用する構成については記載がない。仮に、トランスを構成するコイルにセンタタップを設け、そこから電流を流した場合にはリアクトルとトランスとの独立動作を維持することができない。すなわち、センタタップから見て巻線の長さが異なるため、それぞれの抵抗値が異なるものとなり、電流のバランスが崩れる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リアクトル用コアと、前記リアクトル用コアに巻回されたリアクトル巻線と、を含むリアクトル部と、前記リアクトル用コアの両端部と磁気的ギャップを介して配置され、周回磁気回路を構成するトランス用コアと、前記リアクトル用コアに対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されて前記トランス用コアに巻回されたトランスの一次側巻線と、前記リアクトル用コアに対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されて前記トランス用コアに巻回されたトランスの二次側巻線と、を含むトランス部と、を備えることを特徴とする複合磁気部品である。
【0009】
ここで、前記リアクトル巻線は、第1リアクトル巻線と、前記第1リアクトル巻線によって前記リアクトル用コアに形成される磁束と逆方向の磁束を前記リアクトル用コアに形成するように巻回された第2リアクトル巻線と、を含むことが好適である。
【0010】
また、前記リアクトル巻線は、第1リアクトル巻線と、前記第1リアクトル巻線によって前記リアクトル用コアに形成される磁束と同方向の磁束を前記リアクトル用コアに形成するように巻回された第2リアクトル巻線と、を含むことが好適である。
【0011】
また、前記リアクトル用コアは、前記第1リアクトル巻線と前記第2リアクトル巻線との間に磁気的ギャップを有することが好適である。
【0012】
また、前記リアクトル部を複数備えることが好適である。
【0013】
また、前記一次側巻線及び前記二次側巻線の少なくとも一方には、巻線の中点で分割したセンタタップが設けられていることが好適である。
【0014】
また、上記複合磁気部品を用いてスイッチング電源装置を実現することも好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リアクトルとトランスが必要な回路において部品数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成の別例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成の別例を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成の別例を示す斜視図である。
【図6】磁気回路モデルを説明するための図である。
【図7】磁気回路モデルを説明するための図である。
【図8】磁気回路モデルを説明するための模式図である。
【図9】磁気回路モデルを説明するための等価回路図である。
【図10】磁気回路モデルを説明するための模式図である。
【図11】磁気回路モデルを説明するための等価回路図である。
【図12】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための等価回路図である。
【図13】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための模式図である。
【図14】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための等価回路図である。
【図15】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための模式図である。
【図16】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための等価回路図である。
【図17】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための模式図である。
【図18】本発明の実施の形態における複合磁気部品の使用例であるマルチポート電源回路を示す図である。
【図19】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成の別例を示す斜視図である。
【図20】積層鋼板により複合磁気部品を構成する場合の作用について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<複合磁気部品の構成>
本発明の実施の形態における複合磁気部品100は、図1に示すように、トランス用コア10、トランスの一次側巻線12(12a,12b)、トランスの二次側巻線14(14a,14b)、リアクトル用コア16及びリアクトル巻線18(18a,18b)を含んで構成される。なお、図2は、図1に斜視図として示した複合磁気部品100の構成を模式的に示すものである。
【0018】
トランス用コア10は、磁性材料であって、一次側巻線12及び二次側巻線14を貫く磁束が通る磁気回路を形成する。トランス用コア10は、周回磁気回路を構成するように、途中に磁気的なギャップを持たないループ状の磁性部材とすることが好適である。例えば、トランス用コア10は、図1に示すように、4辺を有するループ状の矩形形状とすることが好適である。途中に磁気的なギャップを持たないトランス用コア10を用いることによって、後述するトランスの一次側巻線12及び二次側巻線14相互間の磁気結合率を100%に近づけることができ、電圧変換の効率を高めることができる。
【0019】
トランスの一次側巻線12及び二次側巻線14は、複合磁気部品100においてトランス用コア10と組み合わされてトランスを構成するために設けられる。すなわち、一次側巻線12と二次側巻線14とはその巻回数の比に応じて電圧を変換するために設けられる。一次側巻線12及び二次側巻線14は、導体をトランス用コア10に巻回して構成される。一次側巻線12及び二次側巻線14としては、例えば銅線を用いることが好適である。
【0020】
一次側巻線12は、トランス用コア10の2箇所に一次側巻線12a,12bとして分割して巻回される。本実施の形態では、一次側巻線12a,12bは、トランス用コア10の左右の辺にそれぞれがトランス用コア10内に同一方向の磁束を形成するように巻回される。ここで、磁束を対称的に発生させるために、一次側巻線12a,12bの巻回数は等しくすることが好適である。また、二次側巻線14は、トランス用コア10の2箇所に二次側巻線14a,14bとして分割して巻回される。本実施の形態では、二次側巻線14a,14bは、トランス用コア10の左右の辺にそれぞれがトランス用コア10内に同一方向の磁束を形成するように巻回される。ここで、磁束を対称的に発生させるために、二次側巻線14a,14bの巻回数は等しくすることが好適である。
【0021】
リアクトル用コア16は、リアクトル巻線18を貫く磁束が通る磁気回路を形成する磁性部材である。リアクトル用コア16は、トランス用コア10に対して磁気的に結合し、少なくとも両端とトランス用コア10との間に磁気的ギャップ(空隙)20が形成されるように配置される。また、リアクトル用コア16は、二箇所に分割して巻回されている一次側巻線12a,12bの間と二箇所に分割して巻回されている二次側巻線14a,14bの間とに跨るように、一次側巻線12a,12b及び二次側巻線14a,14bに対して対称的な位置に配置することが好適である。
【0022】
例えば、リアクトル用コア16は、図1に示すように、矩形状のトランス用コア10の側面10aにおける一次側巻線12a,12bの間と二次側巻線14a,14bの間とに跨るように配置される。トランス用コア10とリアクトル用コア16との磁気的結合については後述する。
【0023】
リアクトル巻線18a,18bは、複合磁気部品100においてリアクトル用コア16と組み合わされてリアクトルを構成するために設けられる。リアクトル巻線18a,18bは、導体をリアクトル用コア16に巻回して構成される。リアクトル巻線18a,18bとしては、例えば銅線を用いることが好適である。
【0024】
リアクトル巻線18a,18bは、リアクトル用コア16に自由な巻数比で巻回することで磁気結合率を任意の値に調整することができる。これにより、電流方向に応じたインダクタンスの変化を利用して電流平滑を行うことができる。
【0025】
なお、図3の模式図に示すように、必要によりリアクトル用コア16の途中にも磁気的ギャップ20を設けてもよい。また、リアクトル用コア16は、トランス用コア10に対して対称的な位置であればどこに配置してもよい。例えば、図4に示すように、トランス用コア10の両側及び中央部にリアクトル用コア16を3つ設ける構成としてもよい。また、図5に示すように、図1及び図4のリアクトル用コア16に対して90°ずらした方向にリアクトル用コア16を設けてもよい。また、これらの配置を複数組み合わせてもよい。
【0026】
また、図1及び図2に示したリアクトル巻線18a,18bは、互いに磁束を打ち消し合う方向に巻回されているので同相方向に結合する。ただし、これに限定されるものではなく、リアクトル巻線18a,18bを互いに磁束を強める方向に巻回すれば逆相方向に結合するものとなる。また、リアクトル巻線18a,18bのいずれか一方のみを巻回してもよい。この場合もトランスと磁気結合がないリアクトルが得られる。
【0027】
<磁気回路モデル>
図6は、逆相電流の磁束モデルを示す。図6において、磁気抵抗をRとすると、巻線によりコア内に発生する磁束密度B=φ/Sは数式(1)及び(2)で示される。ここで、Nはターン数、Iは電流、Sはコア断面積、Lはコア長、μ0は真空陶透磁率及びμrは比透磁率である。
B×S = 1/R ×N×I (1)
R = L/(μr×μo×S) (2)
【0028】
磁束φは磁気抵抗が小さい経路を通りやすく、高い経路を通りにくい性質がある。図7のようにコアにギャップを設けた場合、磁気抵抗をRaとすると、巻線によりコア内に発生する磁束密度Ba=φa/Sは数式(3)及び(4)で示される。ここで、Lgはギャップ長である。
Ba×S = 1/Ra ×N×I (3)
Ra = 1/[[(μo×S)/Lg] + [(μr×μo×S)/L]] (4)
【0029】
従って、コアにμrが大きい磁性材を用いた場合、磁気抵抗Raはほとんどギャップ部分に集中することになり、ギャップ長を調整することで磁気抵抗Raを設計可能となる。このとき、磁束密度Baがコアの最大磁束密度Bmaxを超えないように注意する必要がある。
【0030】
巻線が形成するインダクタンスは、その巻線に鎖交する磁束密度によって決定され、ギャップ無の場合のインダクタンスLは数式(5)で示される。
L = N×N / R (5)
【0031】
ギャップ有の場合のインダクタンスLaは数式(6)で示される。
La= N×N / Ra (6)
【0032】
また、一般的に、トランスを設計する場合には磁気抵抗を小さくしてインダクタンスLが大きくなるように設計することで、できるだけ小さい励磁電流で大きな磁束を発生させるように設計する必要がある。すなわち、励磁電流が大きくなると、銅損や鉄損などの損失が増え、トランスの変換効率や結合率の悪化につながるからである。また、最大電圧Vmax印加時に発生する磁束密度Bpeak(T)がトランス用コア10の最大飽和磁束密度Bmaxを超えないように数式(7)に基づいてトランスの一次側巻線12及び二次側巻線14の巻回数およびトランス用コア10の断面積Sを設計する必要がある。ここで、fはトランスの動作周波数である。
Bpeak(T) = Vmax / (4×N×f×S) (7)
【0033】
図8及び図9は、結合インダクタの原理を示す。上記数式(1)〜数式(6)に基づいて、コアの長さ、断面積、ギャップ長等に基づいて、巻線30,32(4ターン)の鎖交磁束に応じて巻線30,32により形成されるインダクタ38a,38bが決定する。ここで、巻線32によって発生する磁束36が巻線30と鎖交することによって生ずるインダクタの値をL(30)とする。実際には、巻線30と巻線32には同値の電流が流れるので、磁束34と磁束36とは相殺し、巻線30,32と鎖交する磁束が減少してインダクタ38a,38bは低下する。巻線32が発生する磁束36のうち巻線30と鎖交する磁束の割合をa(0<a<1)とすると、図9に示す各インダクタ38a,38bの値Lb1(逆相電流通流時)は数式(8)で示される。
Lb1 = (1-a)×L(30) (8)
【0034】
また,図10及び図11のように、巻線30,32に同相の電流を通流したときにも類似の現象が発生する。すなわち、同相電流通流時には磁束34と磁束36とは強め合い、図11の各インダクタ39a,39bの値Lb2(同相電流通流時)は数式(9)で示される。
Lb2 = (1+a)×L(30) (9)
【0035】
このように、電流方向に応じてインダクタンスが変化するインダクタとして用いることができる。また,この時にコア内に発生する磁束密度Bpeak(Lb)がコアの最大飽和磁束密度Bmaxを超えないように、数式(10)を満たすように巻線の巻回数およびコアの形状、ギャップ長などを設計する必要がある。
Bpeak(Lb) = (a×N×Imax)/(Ra×S) (10)
【0036】
<複合磁気部品の作用>
図12及び図13は、本実施の形態における複合磁気部品100のトランスの一次側巻線12に励磁電流を流して励磁した場合の動作例を示す。励磁用の電源40から負荷41に電流を流すと、一次側巻線12には図13に示すように励磁電流が流れる。これにより、励磁磁束が発生し、二次側巻線14と鎖交する。一次側巻線12により発生される磁束の経路として、リアクトル用コア16を介した経路44,46も考えられるが、トランス用コア10にはギャップ20がなく経路42の磁気抵抗が非常に小さく設計されており、トランス用コア10とリアクトル用コア16との間のギャップ20により経路44,46の磁気抵抗は極端に大きく設計されているので、発生したほぼ全ての磁束が経路42を流れる。
【0037】
また、リアクトル用コア16に磁束が微量に漏れたとしても、一次側巻線12a(左側)と一次側巻線12a(左側)との巻数比が等しいので、一次側巻線12a(左側)が発生する磁束48aと一次側巻線12b(右側)が発生する磁束48bがリアクトル用コア16内で打ち消し合い、リアクトル巻線18a,18bには影響が及ばない。
【0038】
図14及び図15に示すように、二次側巻線14から励磁した場合にも同様に作用する。すなわち、トランス側の作用は、リアクトル側に干渉しない。
【0039】
図16及び図17は、リアクトル巻線18a,18bを結合インダクタとして作用させた場合の例を示す。励磁用の電源40から負荷41へ電流を流すと、リアクトル巻線18aには図17に示すように励磁電流が流れる。これにより、経路50及び52に磁束が発生する。経路50は、ギャップ20を介してトランス用コア10の左右側に分かれ、そこに均等に磁束が生成される。経路50を通った磁束は、リアクトル巻線18a,18bと鎖交する。すなわち、経路50の磁束とリアクトル巻線18a,18bは磁気的に結合する。また、経路52は、ギャップ20などの磁気的抵抗部を通ってリアクトル巻線18aの周りを周回する。したがって、リアクトル巻線18aの巻回数と、トランス用コア10とリアクトル用コア16とのギャップ20の長さ、及び経路52を通る漏れ磁束を調整することで、インダクタ54,56の値および相互間の結合率を定めることができる。なお、図16の回路の場合、リアクトル巻線18bにも電流が流れ磁束が発生するが、経路中の磁気抵抗が等しいため図17と同様の作用となる。
【0040】
ここで、リアクトル巻線18a,18bにおいて一方が発生させる磁束と他方のリアクトルとが鎖交する磁束(例えば、経路50を通る磁束)は、トランス用コア10を通るのでトランス用の一次側巻線12,二次側巻線14とも鎖交する。しかしながら、経路50を通る磁束の成分のうち、一次側巻線12aと鎖交する成分と一次側巻線12bと鎖交する磁束の成分は等しくなり、一次側巻線12a,12bのそれぞれが発生する電圧は相殺され、経路50を通る磁束はトランスの動作には影響を及ぼさない。同様に、経路50を通る磁束の成分のうち、例えば二次側巻線14aと鎖交する成分と二次側巻線14bと鎖交する磁束の成分は等しくなり、二次側巻線14a,14bのそれぞれが発生する電圧は相殺され、経路50を通る磁束はトランスの動作には影響を及ぼさない。
【0041】
このように、本実施の形態における複合磁気部品100によれば、構成の一部を共通コアとして用いることでトランスとリアクトルとを1つの磁気部品として構成することができ、リアクトルとトランスが必要な回路において部品数を削減することができる。これにより、磁気デバイスをより安価に製造することができるようになる。また、複合磁気部品100によれば、トランス部分とリアクトル部分との相互の磁気的な影響を小さくすることができ、トランスとリアクトルとを独立したものして扱うことができる。また、複合磁気部品100のトランス用コア10には磁気的なギャップ等はなく、トランスの一次側巻線12と二次側巻線14との磁気的な結合を強めることができ、トランス作用による電圧変換の効率を高めることができる。
【0042】
<具体的な利用例>
図18は、本発明の実施の形態における複合磁気部品100をマルチポート電源回路200に適用した例を示す。マルチポート電源回路200は、スイッチング電源回路の一種であり、ポートA〜ポートDの電圧及び電力を制御可能である。複合磁気部品100は、センタタップ60,62が設けられたトランス102、同相結合されたリアクトル104及び106を備える。
【0043】
図19は、マルチポート電源回路200に適用される複合磁気部品100の構成を示す図である。図19に示すように、複合磁気部品100のトランス用の一次側巻線12a,12bの間、及び、二次側巻線14a,14bの間にはセンタタップ60,62が設けられる。また、トランス用コア10の2分割点にギャップ20を介して配置されたリアクトル用コア16a,16bには、それぞれリアクトル巻線18a,18b,18c,18dが巻回される。上記のようにマルチポート電源回路200において、リアクトル巻線18a,18bがリアクトル104を構成し、リアクトル巻線18c,18dがリアクトル106を構成する。なお、図19において、矢印は巻線の巻回方向を示している。
【0044】
ギャップ20を介して配置することによって、トランス用コア10とリアクトル用コア16a,16bとの間の磁気抵抗が大きくなり、トランス用の一次側巻線12a,12b又は二次側巻線14a,14bが発生した磁束がリアクトル用コア16a,16bへ流入することを抑制することができ、これにより上記の相殺効果をより確実に得ることができる。
【0045】
また、リアクトル用コア16a,16bは、上記数式(10)で示したようにリアクトル巻線18a,18b,18c,18dにより発生される磁束で磁気飽和しないように形状、大きさ、材料等を決定する。トランス用コア10は、一次側巻線12a,12b及び二次側巻線14a,14bにより発生される磁束とリアクトル巻線18a,18b,18c,18dにより発生される磁束との経路となるため、上記数式(7)及び数式(10)に基づいて形状、大きさ、材料等を決定する。
【0046】
このように、トランスとリアクトルとが独立した(磁気的に結合しない)構成とすることができるので、トランス102及びリアクトル104,106を1つの複合磁気部品100として構成することができる。
【0047】
なお、トランス用コア10及びリアクトル用コア16を鋼板74を積層して構成する場合、図20に示すように、鋼板74の積層方向(矢印70)の磁束に対しては磁気抵抗が高く、この方向に磁束が通った場合には鋼板74の面内の渦電流の発生要因となる。したがって、トランス用コア10の鋼板74の積層方向(矢印70)に対して垂直な方向(矢印72)に沿って端部が延設されるようにリアクトル用コア16a,16bを配置することが好適である。これにより、リアクトル巻線18a,18b,18c,18dから発生する磁束が鋼板74の積層方向(矢印70)に対して垂直な方向(矢印72)に沿ってトランス用コア10へ流入するので、磁束に対する磁気抵抗を小さくすることができ、鋼板74の面内の渦電流の発生も抑制することができる。これにより、複合磁気部品100の損失を低減することができる。
【0048】
圧粉磁性材のように、磁束方向によって磁気的な特性が変化しないコアを用いる場合にはトランス用コア10とリアクトル用コア16との相対的な配置の自由度を上げることができる。
【符号の説明】
【0049】
10 トランス用コア、10a 側面、12(12a,12b) 一次側巻線、14(14a,14b) 二次側巻線、16(16a,16b) リアクトル用コア、18(18a,18b,18c,18d) リアクトル巻線、30,32 巻線、34,36 磁束、38a,38b インダクタ、39a,39b インダクタ、40 電源、41 負荷、42,44,46 経路、48a,48b 磁束、50,52 経路、54,56 インダクタ、60,62 センタタップ、70,72 矢印、74 鋼板、100 複合磁気部品、102 トランス、104,106 リアクトル、200 マルチポート電源回路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合磁気部品及びそれを用いたスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源装置等に用いられるトランス及びリアクトルを構成する磁気部品を集積化された複合磁気部品に関する技術が開示されている。
【0003】
特許文献1には、トランスを構成する一次側巻線及び二次側巻線をE型のコアの中央脚部に巻回し、E型のコアと磁気的ギャップを介して配置されたI型のコアにトランスの一次側巻線を延長してなるリアクトル巻線を巻回して構成される複合磁気部品が開示されている。特許文献2には、リアクトルとトランスとを複合的に集積化させた複合型変圧器が開示されている。リアクトルを構成する2つの巻線は磁束方向が互いに打ち消し合うように巻回され、トランス用コアにおいて互いに交互に重なるように巻回されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−59995号公報
【特許文献2】特開2009−284647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、リアクトルを構成する巻線の磁気的結合について考慮されておらず、リアクトルとトランスとを独立したものして扱うことが困難である。すなわち、特許文献1に記載の技術では、リアクトルを構成する巻線からみてE型のコアは磁気的な分岐路が多く、リアクトルとトランスとを独立したものして扱うことができない。また、特許文献2に記載の技術では、密結合リアクトルと2つのリアクトルとを集積化することができるが、トランス構造を得るための構成が開示されていない。
【0006】
また、特許文献1に記載の技術では、E型のコアとI型のコアを組み合わせて磁気回路を形成しているので、トランスの一次側巻線と二次側巻線とを貫く磁束が2つのコアの間の磁気的なギャップを通ることになり、一次側巻線と二次側巻線との磁気的な結合が弱くなる。
【0007】
また、特許文献1及び2のいずれにおいても、トランスにセンタタップを設けて利用する構成については記載がない。仮に、トランスを構成するコイルにセンタタップを設け、そこから電流を流した場合にはリアクトルとトランスとの独立動作を維持することができない。すなわち、センタタップから見て巻線の長さが異なるため、それぞれの抵抗値が異なるものとなり、電流のバランスが崩れる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リアクトル用コアと、前記リアクトル用コアに巻回されたリアクトル巻線と、を含むリアクトル部と、前記リアクトル用コアの両端部と磁気的ギャップを介して配置され、周回磁気回路を構成するトランス用コアと、前記リアクトル用コアに対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されて前記トランス用コアに巻回されたトランスの一次側巻線と、前記リアクトル用コアに対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されて前記トランス用コアに巻回されたトランスの二次側巻線と、を含むトランス部と、を備えることを特徴とする複合磁気部品である。
【0009】
ここで、前記リアクトル巻線は、第1リアクトル巻線と、前記第1リアクトル巻線によって前記リアクトル用コアに形成される磁束と逆方向の磁束を前記リアクトル用コアに形成するように巻回された第2リアクトル巻線と、を含むことが好適である。
【0010】
また、前記リアクトル巻線は、第1リアクトル巻線と、前記第1リアクトル巻線によって前記リアクトル用コアに形成される磁束と同方向の磁束を前記リアクトル用コアに形成するように巻回された第2リアクトル巻線と、を含むことが好適である。
【0011】
また、前記リアクトル用コアは、前記第1リアクトル巻線と前記第2リアクトル巻線との間に磁気的ギャップを有することが好適である。
【0012】
また、前記リアクトル部を複数備えることが好適である。
【0013】
また、前記一次側巻線及び前記二次側巻線の少なくとも一方には、巻線の中点で分割したセンタタップが設けられていることが好適である。
【0014】
また、上記複合磁気部品を用いてスイッチング電源装置を実現することも好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リアクトルとトランスが必要な回路において部品数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成の別例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成の別例を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成の別例を示す斜視図である。
【図6】磁気回路モデルを説明するための図である。
【図7】磁気回路モデルを説明するための図である。
【図8】磁気回路モデルを説明するための模式図である。
【図9】磁気回路モデルを説明するための等価回路図である。
【図10】磁気回路モデルを説明するための模式図である。
【図11】磁気回路モデルを説明するための等価回路図である。
【図12】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための等価回路図である。
【図13】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための模式図である。
【図14】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための等価回路図である。
【図15】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための模式図である。
【図16】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための等価回路図である。
【図17】本発明の実施の形態における複合磁気部品の作用を説明するための模式図である。
【図18】本発明の実施の形態における複合磁気部品の使用例であるマルチポート電源回路を示す図である。
【図19】本発明の実施の形態における複合磁気部品の構成の別例を示す斜視図である。
【図20】積層鋼板により複合磁気部品を構成する場合の作用について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<複合磁気部品の構成>
本発明の実施の形態における複合磁気部品100は、図1に示すように、トランス用コア10、トランスの一次側巻線12(12a,12b)、トランスの二次側巻線14(14a,14b)、リアクトル用コア16及びリアクトル巻線18(18a,18b)を含んで構成される。なお、図2は、図1に斜視図として示した複合磁気部品100の構成を模式的に示すものである。
【0018】
トランス用コア10は、磁性材料であって、一次側巻線12及び二次側巻線14を貫く磁束が通る磁気回路を形成する。トランス用コア10は、周回磁気回路を構成するように、途中に磁気的なギャップを持たないループ状の磁性部材とすることが好適である。例えば、トランス用コア10は、図1に示すように、4辺を有するループ状の矩形形状とすることが好適である。途中に磁気的なギャップを持たないトランス用コア10を用いることによって、後述するトランスの一次側巻線12及び二次側巻線14相互間の磁気結合率を100%に近づけることができ、電圧変換の効率を高めることができる。
【0019】
トランスの一次側巻線12及び二次側巻線14は、複合磁気部品100においてトランス用コア10と組み合わされてトランスを構成するために設けられる。すなわち、一次側巻線12と二次側巻線14とはその巻回数の比に応じて電圧を変換するために設けられる。一次側巻線12及び二次側巻線14は、導体をトランス用コア10に巻回して構成される。一次側巻線12及び二次側巻線14としては、例えば銅線を用いることが好適である。
【0020】
一次側巻線12は、トランス用コア10の2箇所に一次側巻線12a,12bとして分割して巻回される。本実施の形態では、一次側巻線12a,12bは、トランス用コア10の左右の辺にそれぞれがトランス用コア10内に同一方向の磁束を形成するように巻回される。ここで、磁束を対称的に発生させるために、一次側巻線12a,12bの巻回数は等しくすることが好適である。また、二次側巻線14は、トランス用コア10の2箇所に二次側巻線14a,14bとして分割して巻回される。本実施の形態では、二次側巻線14a,14bは、トランス用コア10の左右の辺にそれぞれがトランス用コア10内に同一方向の磁束を形成するように巻回される。ここで、磁束を対称的に発生させるために、二次側巻線14a,14bの巻回数は等しくすることが好適である。
【0021】
リアクトル用コア16は、リアクトル巻線18を貫く磁束が通る磁気回路を形成する磁性部材である。リアクトル用コア16は、トランス用コア10に対して磁気的に結合し、少なくとも両端とトランス用コア10との間に磁気的ギャップ(空隙)20が形成されるように配置される。また、リアクトル用コア16は、二箇所に分割して巻回されている一次側巻線12a,12bの間と二箇所に分割して巻回されている二次側巻線14a,14bの間とに跨るように、一次側巻線12a,12b及び二次側巻線14a,14bに対して対称的な位置に配置することが好適である。
【0022】
例えば、リアクトル用コア16は、図1に示すように、矩形状のトランス用コア10の側面10aにおける一次側巻線12a,12bの間と二次側巻線14a,14bの間とに跨るように配置される。トランス用コア10とリアクトル用コア16との磁気的結合については後述する。
【0023】
リアクトル巻線18a,18bは、複合磁気部品100においてリアクトル用コア16と組み合わされてリアクトルを構成するために設けられる。リアクトル巻線18a,18bは、導体をリアクトル用コア16に巻回して構成される。リアクトル巻線18a,18bとしては、例えば銅線を用いることが好適である。
【0024】
リアクトル巻線18a,18bは、リアクトル用コア16に自由な巻数比で巻回することで磁気結合率を任意の値に調整することができる。これにより、電流方向に応じたインダクタンスの変化を利用して電流平滑を行うことができる。
【0025】
なお、図3の模式図に示すように、必要によりリアクトル用コア16の途中にも磁気的ギャップ20を設けてもよい。また、リアクトル用コア16は、トランス用コア10に対して対称的な位置であればどこに配置してもよい。例えば、図4に示すように、トランス用コア10の両側及び中央部にリアクトル用コア16を3つ設ける構成としてもよい。また、図5に示すように、図1及び図4のリアクトル用コア16に対して90°ずらした方向にリアクトル用コア16を設けてもよい。また、これらの配置を複数組み合わせてもよい。
【0026】
また、図1及び図2に示したリアクトル巻線18a,18bは、互いに磁束を打ち消し合う方向に巻回されているので同相方向に結合する。ただし、これに限定されるものではなく、リアクトル巻線18a,18bを互いに磁束を強める方向に巻回すれば逆相方向に結合するものとなる。また、リアクトル巻線18a,18bのいずれか一方のみを巻回してもよい。この場合もトランスと磁気結合がないリアクトルが得られる。
【0027】
<磁気回路モデル>
図6は、逆相電流の磁束モデルを示す。図6において、磁気抵抗をRとすると、巻線によりコア内に発生する磁束密度B=φ/Sは数式(1)及び(2)で示される。ここで、Nはターン数、Iは電流、Sはコア断面積、Lはコア長、μ0は真空陶透磁率及びμrは比透磁率である。
B×S = 1/R ×N×I (1)
R = L/(μr×μo×S) (2)
【0028】
磁束φは磁気抵抗が小さい経路を通りやすく、高い経路を通りにくい性質がある。図7のようにコアにギャップを設けた場合、磁気抵抗をRaとすると、巻線によりコア内に発生する磁束密度Ba=φa/Sは数式(3)及び(4)で示される。ここで、Lgはギャップ長である。
Ba×S = 1/Ra ×N×I (3)
Ra = 1/[[(μo×S)/Lg] + [(μr×μo×S)/L]] (4)
【0029】
従って、コアにμrが大きい磁性材を用いた場合、磁気抵抗Raはほとんどギャップ部分に集中することになり、ギャップ長を調整することで磁気抵抗Raを設計可能となる。このとき、磁束密度Baがコアの最大磁束密度Bmaxを超えないように注意する必要がある。
【0030】
巻線が形成するインダクタンスは、その巻線に鎖交する磁束密度によって決定され、ギャップ無の場合のインダクタンスLは数式(5)で示される。
L = N×N / R (5)
【0031】
ギャップ有の場合のインダクタンスLaは数式(6)で示される。
La= N×N / Ra (6)
【0032】
また、一般的に、トランスを設計する場合には磁気抵抗を小さくしてインダクタンスLが大きくなるように設計することで、できるだけ小さい励磁電流で大きな磁束を発生させるように設計する必要がある。すなわち、励磁電流が大きくなると、銅損や鉄損などの損失が増え、トランスの変換効率や結合率の悪化につながるからである。また、最大電圧Vmax印加時に発生する磁束密度Bpeak(T)がトランス用コア10の最大飽和磁束密度Bmaxを超えないように数式(7)に基づいてトランスの一次側巻線12及び二次側巻線14の巻回数およびトランス用コア10の断面積Sを設計する必要がある。ここで、fはトランスの動作周波数である。
Bpeak(T) = Vmax / (4×N×f×S) (7)
【0033】
図8及び図9は、結合インダクタの原理を示す。上記数式(1)〜数式(6)に基づいて、コアの長さ、断面積、ギャップ長等に基づいて、巻線30,32(4ターン)の鎖交磁束に応じて巻線30,32により形成されるインダクタ38a,38bが決定する。ここで、巻線32によって発生する磁束36が巻線30と鎖交することによって生ずるインダクタの値をL(30)とする。実際には、巻線30と巻線32には同値の電流が流れるので、磁束34と磁束36とは相殺し、巻線30,32と鎖交する磁束が減少してインダクタ38a,38bは低下する。巻線32が発生する磁束36のうち巻線30と鎖交する磁束の割合をa(0<a<1)とすると、図9に示す各インダクタ38a,38bの値Lb1(逆相電流通流時)は数式(8)で示される。
Lb1 = (1-a)×L(30) (8)
【0034】
また,図10及び図11のように、巻線30,32に同相の電流を通流したときにも類似の現象が発生する。すなわち、同相電流通流時には磁束34と磁束36とは強め合い、図11の各インダクタ39a,39bの値Lb2(同相電流通流時)は数式(9)で示される。
Lb2 = (1+a)×L(30) (9)
【0035】
このように、電流方向に応じてインダクタンスが変化するインダクタとして用いることができる。また,この時にコア内に発生する磁束密度Bpeak(Lb)がコアの最大飽和磁束密度Bmaxを超えないように、数式(10)を満たすように巻線の巻回数およびコアの形状、ギャップ長などを設計する必要がある。
Bpeak(Lb) = (a×N×Imax)/(Ra×S) (10)
【0036】
<複合磁気部品の作用>
図12及び図13は、本実施の形態における複合磁気部品100のトランスの一次側巻線12に励磁電流を流して励磁した場合の動作例を示す。励磁用の電源40から負荷41に電流を流すと、一次側巻線12には図13に示すように励磁電流が流れる。これにより、励磁磁束が発生し、二次側巻線14と鎖交する。一次側巻線12により発生される磁束の経路として、リアクトル用コア16を介した経路44,46も考えられるが、トランス用コア10にはギャップ20がなく経路42の磁気抵抗が非常に小さく設計されており、トランス用コア10とリアクトル用コア16との間のギャップ20により経路44,46の磁気抵抗は極端に大きく設計されているので、発生したほぼ全ての磁束が経路42を流れる。
【0037】
また、リアクトル用コア16に磁束が微量に漏れたとしても、一次側巻線12a(左側)と一次側巻線12a(左側)との巻数比が等しいので、一次側巻線12a(左側)が発生する磁束48aと一次側巻線12b(右側)が発生する磁束48bがリアクトル用コア16内で打ち消し合い、リアクトル巻線18a,18bには影響が及ばない。
【0038】
図14及び図15に示すように、二次側巻線14から励磁した場合にも同様に作用する。すなわち、トランス側の作用は、リアクトル側に干渉しない。
【0039】
図16及び図17は、リアクトル巻線18a,18bを結合インダクタとして作用させた場合の例を示す。励磁用の電源40から負荷41へ電流を流すと、リアクトル巻線18aには図17に示すように励磁電流が流れる。これにより、経路50及び52に磁束が発生する。経路50は、ギャップ20を介してトランス用コア10の左右側に分かれ、そこに均等に磁束が生成される。経路50を通った磁束は、リアクトル巻線18a,18bと鎖交する。すなわち、経路50の磁束とリアクトル巻線18a,18bは磁気的に結合する。また、経路52は、ギャップ20などの磁気的抵抗部を通ってリアクトル巻線18aの周りを周回する。したがって、リアクトル巻線18aの巻回数と、トランス用コア10とリアクトル用コア16とのギャップ20の長さ、及び経路52を通る漏れ磁束を調整することで、インダクタ54,56の値および相互間の結合率を定めることができる。なお、図16の回路の場合、リアクトル巻線18bにも電流が流れ磁束が発生するが、経路中の磁気抵抗が等しいため図17と同様の作用となる。
【0040】
ここで、リアクトル巻線18a,18bにおいて一方が発生させる磁束と他方のリアクトルとが鎖交する磁束(例えば、経路50を通る磁束)は、トランス用コア10を通るのでトランス用の一次側巻線12,二次側巻線14とも鎖交する。しかしながら、経路50を通る磁束の成分のうち、一次側巻線12aと鎖交する成分と一次側巻線12bと鎖交する磁束の成分は等しくなり、一次側巻線12a,12bのそれぞれが発生する電圧は相殺され、経路50を通る磁束はトランスの動作には影響を及ぼさない。同様に、経路50を通る磁束の成分のうち、例えば二次側巻線14aと鎖交する成分と二次側巻線14bと鎖交する磁束の成分は等しくなり、二次側巻線14a,14bのそれぞれが発生する電圧は相殺され、経路50を通る磁束はトランスの動作には影響を及ぼさない。
【0041】
このように、本実施の形態における複合磁気部品100によれば、構成の一部を共通コアとして用いることでトランスとリアクトルとを1つの磁気部品として構成することができ、リアクトルとトランスが必要な回路において部品数を削減することができる。これにより、磁気デバイスをより安価に製造することができるようになる。また、複合磁気部品100によれば、トランス部分とリアクトル部分との相互の磁気的な影響を小さくすることができ、トランスとリアクトルとを独立したものして扱うことができる。また、複合磁気部品100のトランス用コア10には磁気的なギャップ等はなく、トランスの一次側巻線12と二次側巻線14との磁気的な結合を強めることができ、トランス作用による電圧変換の効率を高めることができる。
【0042】
<具体的な利用例>
図18は、本発明の実施の形態における複合磁気部品100をマルチポート電源回路200に適用した例を示す。マルチポート電源回路200は、スイッチング電源回路の一種であり、ポートA〜ポートDの電圧及び電力を制御可能である。複合磁気部品100は、センタタップ60,62が設けられたトランス102、同相結合されたリアクトル104及び106を備える。
【0043】
図19は、マルチポート電源回路200に適用される複合磁気部品100の構成を示す図である。図19に示すように、複合磁気部品100のトランス用の一次側巻線12a,12bの間、及び、二次側巻線14a,14bの間にはセンタタップ60,62が設けられる。また、トランス用コア10の2分割点にギャップ20を介して配置されたリアクトル用コア16a,16bには、それぞれリアクトル巻線18a,18b,18c,18dが巻回される。上記のようにマルチポート電源回路200において、リアクトル巻線18a,18bがリアクトル104を構成し、リアクトル巻線18c,18dがリアクトル106を構成する。なお、図19において、矢印は巻線の巻回方向を示している。
【0044】
ギャップ20を介して配置することによって、トランス用コア10とリアクトル用コア16a,16bとの間の磁気抵抗が大きくなり、トランス用の一次側巻線12a,12b又は二次側巻線14a,14bが発生した磁束がリアクトル用コア16a,16bへ流入することを抑制することができ、これにより上記の相殺効果をより確実に得ることができる。
【0045】
また、リアクトル用コア16a,16bは、上記数式(10)で示したようにリアクトル巻線18a,18b,18c,18dにより発生される磁束で磁気飽和しないように形状、大きさ、材料等を決定する。トランス用コア10は、一次側巻線12a,12b及び二次側巻線14a,14bにより発生される磁束とリアクトル巻線18a,18b,18c,18dにより発生される磁束との経路となるため、上記数式(7)及び数式(10)に基づいて形状、大きさ、材料等を決定する。
【0046】
このように、トランスとリアクトルとが独立した(磁気的に結合しない)構成とすることができるので、トランス102及びリアクトル104,106を1つの複合磁気部品100として構成することができる。
【0047】
なお、トランス用コア10及びリアクトル用コア16を鋼板74を積層して構成する場合、図20に示すように、鋼板74の積層方向(矢印70)の磁束に対しては磁気抵抗が高く、この方向に磁束が通った場合には鋼板74の面内の渦電流の発生要因となる。したがって、トランス用コア10の鋼板74の積層方向(矢印70)に対して垂直な方向(矢印72)に沿って端部が延設されるようにリアクトル用コア16a,16bを配置することが好適である。これにより、リアクトル巻線18a,18b,18c,18dから発生する磁束が鋼板74の積層方向(矢印70)に対して垂直な方向(矢印72)に沿ってトランス用コア10へ流入するので、磁束に対する磁気抵抗を小さくすることができ、鋼板74の面内の渦電流の発生も抑制することができる。これにより、複合磁気部品100の損失を低減することができる。
【0048】
圧粉磁性材のように、磁束方向によって磁気的な特性が変化しないコアを用いる場合にはトランス用コア10とリアクトル用コア16との相対的な配置の自由度を上げることができる。
【符号の説明】
【0049】
10 トランス用コア、10a 側面、12(12a,12b) 一次側巻線、14(14a,14b) 二次側巻線、16(16a,16b) リアクトル用コア、18(18a,18b,18c,18d) リアクトル巻線、30,32 巻線、34,36 磁束、38a,38b インダクタ、39a,39b インダクタ、40 電源、41 負荷、42,44,46 経路、48a,48b 磁束、50,52 経路、54,56 インダクタ、60,62 センタタップ、70,72 矢印、74 鋼板、100 複合磁気部品、102 トランス、104,106 リアクトル、200 マルチポート電源回路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアクトル用コアと、
前記リアクトル用コアに巻回されたリアクトル巻線と、
を含むリアクトル部と、
前記リアクトル用コアの両端部と磁気的ギャップを介して配置され、周回磁気回路を構成するトランス用コアと、
前記リアクトル用コアに対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されて前記トランス用コアに巻回されたトランスの一次側巻線と、
前記リアクトル用コアに対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されて前記トランス用コアに巻回されたトランスの二次側巻線と、
を含むトランス部と、
を備えることを特徴とする複合磁気部品。
【請求項2】
請求項1に記載の複合磁気部品であって、
前記リアクトル巻線は、第1リアクトル巻線と、前記第1リアクトル巻線によって前記リアクトル用コアに形成される磁束と逆方向の磁束を前記リアクトル用コアに形成するように巻回された第2リアクトル巻線と、を含むことを特徴とする複合磁気部材。
【請求項3】
請求項1に記載の複合磁気部品であって、
前記リアクトル巻線は、第1リアクトル巻線と、前記第1リアクトル巻線によって前記リアクトル用コアに形成される磁束と同方向の磁束を前記リアクトル用コアに形成するように巻回された第2リアクトル巻線と、を含むことを特徴とする複合磁気部材。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の複合磁気部品であって、
前記リアクトル用コアは、前記第1リアクトル巻線と前記第2リアクトル巻線との間に磁気的ギャップを有することを特徴とする複合磁気部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の複合磁気部品であって、
前記リアクトル部を複数備えることを特徴とする複合磁気部品。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の複合磁気部品であって、
前記一次側巻線及び前記二次側巻線の少なくとも一方には、巻線の中点で分割したセンタタップが設けられていることを特徴とする複合磁気部品。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の複合磁気部品を用いたスイッチング電源装置。
【請求項1】
リアクトル用コアと、
前記リアクトル用コアに巻回されたリアクトル巻線と、
を含むリアクトル部と、
前記リアクトル用コアの両端部と磁気的ギャップを介して配置され、周回磁気回路を構成するトランス用コアと、
前記リアクトル用コアに対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されて前記トランス用コアに巻回されたトランスの一次側巻線と、
前記リアクトル用コアに対して空間的に対称的な複数の箇所に分割されて前記トランス用コアに巻回されたトランスの二次側巻線と、
を含むトランス部と、
を備えることを特徴とする複合磁気部品。
【請求項2】
請求項1に記載の複合磁気部品であって、
前記リアクトル巻線は、第1リアクトル巻線と、前記第1リアクトル巻線によって前記リアクトル用コアに形成される磁束と逆方向の磁束を前記リアクトル用コアに形成するように巻回された第2リアクトル巻線と、を含むことを特徴とする複合磁気部材。
【請求項3】
請求項1に記載の複合磁気部品であって、
前記リアクトル巻線は、第1リアクトル巻線と、前記第1リアクトル巻線によって前記リアクトル用コアに形成される磁束と同方向の磁束を前記リアクトル用コアに形成するように巻回された第2リアクトル巻線と、を含むことを特徴とする複合磁気部材。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の複合磁気部品であって、
前記リアクトル用コアは、前記第1リアクトル巻線と前記第2リアクトル巻線との間に磁気的ギャップを有することを特徴とする複合磁気部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の複合磁気部品であって、
前記リアクトル部を複数備えることを特徴とする複合磁気部品。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の複合磁気部品であって、
前記一次側巻線及び前記二次側巻線の少なくとも一方には、巻線の中点で分割したセンタタップが設けられていることを特徴とする複合磁気部品。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の複合磁気部品を用いたスイッチング電源装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−134266(P2012−134266A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283966(P2010−283966)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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