説明

複合糸及び織編物

【課題】芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いた環境考慮型の複合糸を提供する。更にこのような複合糸を用いて、イラツキ感が少なく風合いや耐湿熱性、耐乾熱性、染色堅牢度に優れた環境考慮型の織編物を提供する。
【解決手段】芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を含んでなる複合糸。この複合糸では、上記バイオマスポリマーとしてポリ乳酸が、石油系ポリマーとしてポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、複合糸中に仮撚加工糸が含まれることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造から廃棄に至る段階で発生する二酸化炭素を低減しうる複合糸、並びにこの複合糸を用いて、優れた耐湿熱性、耐乾熱性及び染色堅牢度を有する織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、合成繊維が汎用性の点から広く用いられており、様々な分野で利用されている。
【0003】
しかしながら、合成繊維は石油などの限りある貴重な化石資源を原料としたものが主であり、将来の資源不足が懸念されている。また、自然環境下ではほとんど分解されず、燃焼した場合は高熱を発し、焼却炉の損傷が激しいなどの問題が生じることに加え、二酸化炭素排出量が増大するため、廃棄処理が問題となっている。そのため、産業界では石油系合成繊維の使用量を低減すること自体が環境保護になるという思想が広まっている。
【0004】
近年、原料たる植物を調達する段階で二酸化炭素を吸収し、燃焼時に二酸化炭素が発生しても相殺されるというカーボンニュートラルの点でバイオマスポリマーが注目されている。そこで、バイオマスポリマーを用いた繊維製品の開発が大々的に行われている。
【0005】
一例として、特許文献1にポリ乳酸繊維を用いてなる仮撚加工糸が開示されている。
【特許文献1】特開2006−257600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の理由から、様々な用途にバイオマスポリマー使いの合成繊維(バイオマスポリマー繊維)が使用されている。しかしながら、洗濯やアイロンなどを使用する際に織編物の物性や染色堅牢度が低下するという問題がある。
【0007】
一般に繊維には、用途を問わず、実用上問題のない高レベルな引裂強力及び破裂強力、耐摩耗性、寸法安定性などが要求される。しかしながら、バイオマスポリマー繊維使いの織編物の場合、精練や染色などの湿熱処理及び乾燥やヒートセットなどの乾熱処理の影響により強力低下が起こるという問題がある。すなわち、バイオマスポリマー繊維使いの織編物は、石油系合成繊維よりも機械的物性が劣ると共に摩擦堅牢度などの染色堅牢度にも劣るという欠点があるのである。
【0008】
また、湿潤状態で太陽光に晒す、もしくは車中や屋外等の高温環境下に放置する、あるいはタンブラー乾燥を繰り返すことにより、次第に繊維が劣化し強力低下を起こすという問題がある。
【0009】
その一方で、バイオマスポリマー繊維と他の繊維とを含む織編物も提案されている。一般にこのような織編物は、同ポリマーの劣化を防止する観点から、比較的低温で染色される。そのため、発色性が十分でないばかりか、バイオマスポリマー繊維と他の繊維との染着差に起因して、イラツキ感が発生するという欠点がある。また、バイオマスポリマー繊維は、熱水収縮率が大きく、織編物の風合いが硬くなる傾向にあるという欠点がある。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決するものであって、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いた環境考慮型の複合糸を提供することを課題とし、このような複合糸を用いて、イラツキ感が少なく風合いや耐湿熱性、耐乾熱性、染色堅牢度に優れた環境考慮型の織編物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を含有する複合糸を用いれば、風合い、耐熱性及び堅牢性に優れる織編物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を含んでなることを特徴とする複合糸。
(2)前記石油系ポリマーがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする上記(1)記載の複合糸。
(3)前記石油系ポリマーがイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール及びシクロヘキサンジカルボン酸からなる群より選ばれた一種以上の成分を合計5〜20モル%共重合したポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする上記(1)記載の複合糸。
(4)前記バイオマスポリマーがポリ乳酸であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の複合糸。
(5)熱水収縮率が10%以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の複合糸。
(6)ポリエステルフィラメントを含んでなることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の複合糸。
(7)仮撚加工糸を含んでなることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の複合糸。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の複合糸を用いてなる織編物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合糸は、芯部にバイオマスポリマーを配してなる芯鞘型複合繊維を使用している。そのため、環境考慮型であるばかりでなく、従来のバイオマスポリマー繊維で構成された織編物に比べ、耐湿熱性、耐乾熱性及び染色堅牢度に優れている。また、この複合糸を用いることにより、バイオマスポリマー繊維と他の繊維とを含む従来の織編物と比べ、イラツキ感を抑制して良好な風合いを具現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明における芯鞘型複合繊維は、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーよりなる。
【0016】
本発明におけるバイオマスポリマーとしては、溶融紡糸が可能なものであれば特に限定されるものでない。具体的には、ポリ乳酸(PLA)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)やポリブチレンサクシネート(PBS)などバイオマス由来モノマーを化学的に重合してなるポリマー類、ポリヒドロキシ酪酸などのポリヒドロキシアルカノエート(PHA)などの微生物産生系ポリマーなどがあげられる。中でも安定した耐熱性を有し、比較的量産化が進んでいるポリ乳酸が好ましい。ポリ乳酸としては、ホモポリマー、共重合ポリマー(以下、このポリマーを共重合ポリ乳酸ということがある)のいずれも使用可能である。このうちホモポリマーとしては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)などがあげられる。一方、共重合ポリ乳酸としては、ポリD−乳酸とポリL−乳酸とを共重合させたポリDL−乳酸、D−乳酸及び/又はL−乳酸とヒドロキシカルボン酸とを共重合させた共重合ポリ乳酸、D−乳酸及び/又はL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを共重合させた共重合ポリ乳酸、あるいはこれらのブレンド体などがあげられる。
【0017】
本発明におけるポリ乳酸として、D−乳酸及び/又はL−乳酸とヒドロキシカルボン酸と共重合させた共重合ポリ乳酸を採用する場合、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などがあげられる。中でもコストの点でグリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0018】
また、本発明におけるポリ乳酸として、D−乳酸及び/又はL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを共重合させた共重合ポリ乳酸を採用する場合、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどがあげられる。
【0019】
上記ポリ乳酸の物性としては、融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましい。ポリ乳酸のホモポリマーたるポリL−乳酸やポリD−乳酸の融点は、約180℃である。これに対し、上記のように共重合ポリ乳酸を採用する場合においては、D−乳酸及び/又はL−乳酸を80モル%以上共重合させた共重合ポリマーを用いることが好ましい。D−乳酸及び/又はL−乳酸が80モル%未満であると、共重合ポリマーの結晶性が低くなり、融点120℃未満、融解熱10J/g未満となりやすい傾向にあり、好ましくない。
【0020】
また、D−乳酸とL−乳酸とを共重合させた共重合ポリ乳酸においても同様のことがいえる。つまり、いずれかの成分の割合が10モル%程度になると、融点はおよそ130℃程度となる。さらに、いずれかの成分の割合を18モル%以上にすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となり、その結果、ほぼ完全に非晶性の状態となる。このような非晶性の状態は、高強度の繊維を得る上で不利に作用する。具体的には、熱延伸し難くなり、耐熱性や耐摩耗性などに影響を及ぼす場合がある。したがって、L−乳酸とD−乳酸の含有比(ラクチドを原料として重合する際のL−乳酸、D−乳酸間のモル比)たるL/D又はD/Lとしては、85/15以上が好ましく、90/10以上がより好ましく、95/5以上が特に好ましい。特に融点を考慮すれば、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)が最も好ましい。この場合、融点は200〜230℃となる。ポリ乳酸の融点が高くなると、織編物にした後の工程通過性が良好となり、例えばアイロン処理も可能となる。
【0021】
また、本発明におけるポリ乳酸の分子量の指標(メルトフローレート)としては、1〜100g/10分が好ましく、5〜50g/10分がより好ましい。メルトフローレートをこの範囲に設定することにより、ポリ乳酸の強度、湿熱分解性及び耐摩耗性を向上させることができる。ここで、メルトフローレートとしては、分子量の指標として用いられるASTMD−1238法に準じ、温度210℃、荷重2160gの条件で測定した値を採用する。
【0022】
この他、ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸中に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物又はエポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。
【0023】
一方、本発明における石油系ポリマーとしては、溶融紡糸が可能なものであれば特に限定されるものでない。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素系ポリマー、ポリ4フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマー、あるいはこれらのブレンド体などがあげられる。中でもコストの点でポリエステルやポリアミドが好ましい。本発明においてはバイオマスポリマーとしてポリ乳酸が好ましいが、ポリ乳酸を採用する際は、相溶性を考慮し石油系ポリマーとしてポリエステルが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートを採用することが好ましい。
【0024】
上記のポリエステルとしては、ホモポリマー、共重合ポリマー(以下、このポリマーを共重合ポリエステルということがある)のいずれも使用可能である。ポリエステルとして共重合ポリエステルを採用する場合、共重合成分の種類、使用量を適宜設定することにより、ポリ乳酸との相溶性や熱的特性、又は粘度などを容易に変更することができる。
【0025】
用いうる共重合成分としては、エステル形成能を有するものであればどのようなものでもよい。具体的には、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオール、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどがあげられる。中でもイソフタル酸(IPA)、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)が好ましい。
【0026】
そして、共重合ポリエステルを用いる場合、上記共重合成分を好ましくは5〜20モル%、より好ましくは5〜10モル%共重合させた共重合ポリエステルを用いることが好ましい。
【0027】
共重合ポリエステルを用いると、重縮合反応時の反応温度を下げることができる場合がある。そうすると、紡糸温度を下げることができる。このことは、特に繊維の芯部に配されるバイオマスポリマーの融点がポリエチレンテレフタレートより低い場合において、紡糸時に生じる芯部バイオマスポリマーの熱分解を抑制することができるので有利である。さらに、共重合ポリエステルを採用することにより、50℃×95%RHのような高湿度環境における強力低下も抑制することができる場合がある。
【0028】
また、共重合ポリエステルとして、溶融重合したポリエステル(プレポリマー)のチップを減圧下又は不活性ガス流通下にポリエステルの融点以下の温度で加熱し、固相重合して得た高重合度の共重合ポリエステルを採用すると、高強度の繊維が得られる場合もある。
【0029】
さらに、本発明の目的を損なわない範囲において、上記石油系ポリマー及び/又はバイオマスポリマーに、充填剤、増粘剤、結晶核剤などの添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、ケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、ベヘン酸アミドなどの脂肪族アミド系化合物、脂肪族尿素系化合物、ベンジリデンソルビトール系化合物、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩や、ガラス繊維、ウィスカーなどがあげられる。中でも価格、物性を考慮し、無機系の充填剤が好ましい。
【0030】
上記ポリマーにおける添加剤の含有態様としては、添加剤がそのままの形状で含有している態様、ナノコンポジットとして含有している態様などがあげられる。
【0031】
また、本発明の目的を損なわない範囲において、上記石油系ポリマー及び/又はバイオマスポリマーに、可塑剤を含有させてもよい。ポリマー中に可塑剤を含有することで、加熱加工時の溶融粘度を低下させると共に剪断発熱などによる分子量の低下を抑制することができ、ひいては、結晶化速度の向上も期待できる。可塑剤としては、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤などがあげられ、中でもポリエステルとの相溶性を考慮し、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤が好ましい。ここで、エーテル系可塑剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコールなどがあげられる。一方、エステル系可塑剤としては、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類などがあげられる。脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸などがあげられる。脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコールなどの1価アルコール、エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコールなどの2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストールなどの多価アルコールなどがあげられる。この他、可塑剤として、上記ポリオキシアルキレングリコールとポリエステルとからなる共重合体や、その化学構造としてジ−コポリマー、トリ−コポリマー、テトラ−コポリマーといった構造を呈するもの、あるいはこれらのブレンド体も使用しうる。また、本発明における可塑剤として、上記化合物がエステル化されたヒドロキシカルボン酸系化合物、あるいはその誘導体も使用しうる。本発明における可塑剤としては、上記化合物を単独で、又は複数同時に使用する。
【0032】
さらに、本発明の目的を損なわない範囲において、上記石油系ポリマー及び/又はバイオマスポリマーに、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライトなどの臭気吸収剤、バニリン、デキストリンなどの香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤その他の副次的添加剤を含有させてもよい。
【0033】
また、本発明の目的を損なわない範囲において、上記石油系ポリマー及び/又はバイオマスポリマーに、鞘部と芯部との複合界面における相溶性を向上させる目的で相溶化剤を含有させてもよい。
【0034】
相溶化剤としては、バイオマスポリマー及び石油系ポリマーに相溶性のある物質を用いることができる。例えば、界面活性剤コポリマーやブロックコポリマーなどがあげられる。さらに、両ポリマーと反応する架橋剤を用いることもできる。例えば、両末端にエポキシ基を有するエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物やそれらのコポリマー、カルボジイミド化合物やそれらのコポリマーなどがあげられる。
【0035】
本発明における芯鞘型複合繊維は、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーよりなるものであり、その芯鞘比率(質量比率)として、芯/鞘=20/80〜80/20であることが好ましい。芯鞘比率が20/80未満になると、芯部バイオマスポリマーの比率が少なくなり二酸化炭素の低減効果などが低減する傾向にあり、好ましくない。一方、芯鞘比率が80/20を超えると、複合糸の強力保持性が低減する傾向にあり、好ましくない。
【0036】
さらに、芯鞘型複合繊維の繊維断面形状としては、任意の形状でよく、丸断面の他、楕円断面、三角断面、凹凸断面などの異型断面が採用できる。
【0037】
芯鞘型複合繊維の形態としては、特に限定されるものでなく、ステープル、ショートカットファイバー、フィラメントのいずれでもよく、フィラメントについてはモノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。
【0038】
本発明の複合糸は、上記の芯鞘型複合繊維を含んで複合糸の形態を呈するものである。つまり、本発明の複合糸の概念としては、芯鞘型複合繊維のみからなる複合糸と、芯鞘型複合繊維と他の繊維とからなる複合糸とを包含する。本発明の複合糸は、実用的には、後者のような態様が好ましいが、当然ながらこれ限定されるのではなく、例えば、3種類以上の糸条からなるものでもよいのである。
【0039】
また、複合糸中に含まれる芯鞘型複合繊維の質量比率としては、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が特に好ましい。
【0040】
本発明においては、いずれの場合においても、複合糸を構成する繊維(構成繊維)は、互いに全くの別工程を経て得られたものである必要はなく、工程の一部に条件や手段の相違点があれば足りる。例えば、紡糸条件が異なる以外全て同一工程を経て得られたもの、特定の工程を付加する以外全て同一工程を経て得られたものであってもよい。
【0041】
また、複合糸の物性としては、熱水収縮率が10%以下であることが好ましく、9%以下がより好ましく、7%以下が特に好ましい。熱水収縮率が10%を超えると、織編物の風合いが損なわれる傾向にあり、好ましくない。なお、熱水収縮率の測定は、JIS L1013 8.18.1A法(かせ収縮率)に準ずるものとし、熱水処理は、95℃で30分間行うものとする。
【0042】
本発明の複合糸において、芯鞘型複合繊維以外の繊維を含ませる場合、他の繊維としては、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維、キュプラ、ポリノジックなどの再生繊維、綿、麻、絹、ウール、竹などの天然繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル、又はポリアクリロニトリル、ポリウレタンなどの合成繊維があげられる。中でも、強度、耐熱性の観点からポリエステルが好ましい。
【0043】
当該他の繊維の形態としては、特に限定されるものでなく、ステープル、ショートカットファイバー、フィラメントのいずれでもよいが、フィラメントが好ましい。したがって、本発明においては、他の繊維としてポリエステルフィラメントが最も好ましいことになる。
【0044】
また、織編物のふくらみ感やソフト感をより向上させる観点から、複合糸中に仮撚加工糸を含ませることが好ましい。
【0045】
仮撚加工糸の物性としては、熱水処理後の伸長率が80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましく、100%以上が特に好ましい。なお、熱水処理後の伸長率の測定は、JIS L1013 8.11B法に準ずるものとし、熱水処理は、95℃で30分間行うものとする。
【0046】
複合糸中に仮撚加工糸が含まれていると、複合糸に一定以上の伸長率を付与することができるため、織編物の曲げ剛性やぬめり感を低減させることができる。さらに、構成繊維間に微細な空間を形成することもできるため、織編物にソフト感、ふくらみ感、ストレッチ感をも付与することができるのである。
【0047】
複合糸中に仮撚加工糸を含ませるとは、仮撚加工された繊維を含むということに他ならないが、この場合、構成繊維の少なくとも一部に仮撚加工された繊維が用いられていればよく、中でも仮撚加工された芯鞘型複合繊維を含む態様が最も好ましい。これは、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維からなる糸条を仮撚加工すると、高い断面変形率及び伸長率を有する仮撚加工糸が得られるからである。この理由は定かではないが、一般にバイオマスポリマーが、石油系ポリマーよりも熱の影響を受けやすいので、仮撚加工における熱により芯部が変形したところに鞘部が追随するような形でもって、繊維の断面変形が進行するためと考えられる。仮撚加工された芯鞘型複合繊維を用いると、上記した特性がより促進される傾向にあるため、好ましい。
【0048】
仮撚加工された芯鞘型複合繊維の断面変形率としては、下記式を同時に満足することが好ましい。
【0049】
【数1】

【0050】
平均断面変形率(CS)とは、繊維の断面を撮影し、全繊維の断面変形率を各々測定し、その平均値を算出することにより求められる数値である。ただし、繊維数が80本を超える場合には、ランダムに選んだ80本の断面変形率を各々測定し、その平均値を算出する。各繊維の断面変形率は、断面における外接円と内接円との直径比で表わされるものである。
【0051】
そして、S1.5、S1.8、S2.0とは、各繊維の断面変形率を上記の方法に準じて測定し、上記各式により算出される数値である。
【0052】
また、芯鞘型複合繊維は、バイオマスポリマーのみからなる繊維と比べ毛羽の少ない仮撚加工糸を得る上で有利に作用効果する。これは、熱の影響を受けやすく毛羽立ちやすいバイオマスポリマーを繊維芯部に閉じ込め、仮撚加工におけるヒーター処理やねじり作用などがもたらす毛羽発生要因を繊維鞘部へ向かわせることができるためである。
【0053】
本発明の複合糸は、織編物用として好適であり、一般に織編物は染色して用いられる。それため、複合糸の耐熱性、特に耐湿熱性の指標として、本発明の複合糸を用いてなる織編物(以下、「本発明の織編物」ということがある)を130℃の浴に30分間浸漬した後、複合糸の強力保持率が70%以上保持されていることが好ましい。強力保持率とは、浸漬後の織編物から取り出した糸条の切断強さが、浸漬前の織編物から取り出した糸条の切断強さに対しどの程度のレベルにあるかを数値化したものである。
【0054】
本発明の複合糸には、芯鞘型複合繊維が含まれており、当該繊維においては芯部と鞘部とに異なるポリマーが配されていることから、それぞれに最適な染色条件が存在する。例えば、ポリ乳酸の場合は、100〜110℃で15〜60分間染色することが好ましい。一方、ポリエチレンテレフタレートの場合は、125〜135℃で15〜60分間染色することが好ましい。
【0055】
織編物の染色温度として、一般に高くなるほど繊維に与えるダメージが大きくなる傾向にある。したがって、本発明においては、あまり染色温度を上げないことが好ましい。染色温度を上げすぎると、芯鞘型複合繊維の脆化が懸念され、染色時に繊維の強力が低下する場合がある。一方、染色温度を下げすぎると、織編物の発色性が乏しくなることに加えイラツキ感も生ずる場合がある。この傾向は、特に複合糸中に芯鞘型複合繊維以外の繊維が含まれている場合に顕著である。
【0056】
本発明では、発色性向上やイラツキ感低減の観点から、織編物を130℃程度の浴で染色するのが通常であり、それゆえ、130℃の浴に30分間浸漬した後、複合糸の強力保持率が70%以上保持されていることが好ましいのである。
【0057】
また、本発明の織編物は、50℃×95%RH環境下500時間処理後の強力保持率が75%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上が特に好ましい。ここで、強力保持率とは、50℃×95%RH環境下500時間処理後の織編物から取り出した糸条の切断強さが、500時間処理前の織編物から取り出した糸条の切断強さに対しどの程度のレベルにあるかを数値化したものである。具体的には、500時間処理の前後で織編物から糸条を取り出し、JIS L−1013に準じてそれぞれの糸条強力を測定し、下記式に準じて強力保持率を算出する。
【0058】
【数2】

【0059】
強力保持率が75未満になると、繰り返し洗濯・乾燥する過程で芯鞘型複合繊維が次第に脆化する傾向にあるばかりでなく、湿潤状態や乾燥状態で熱がかかる態様、例えば、湿潤状態で太陽光に曝す、車中や屋外などの高温環境下に放置する、タンブラー乾燥機で乾燥することなどにより、芯鞘型複合繊維が次第に脆化し、織編物の強力が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0060】
また、本発明の織編物は、摩擦に対する染色堅牢度が4級以上であることが好ましい。ここでいう摩擦に対する染色堅牢度とは、JIS L−0849に準じて測定される数値をいう。具体的には、摩擦試験機2形に試験片(220×30mm)として、織編物を試験片台上にセットすると共に摩擦用白綿布を摩擦子の先端に取り付け、2Nの荷重で試験片100mm間を毎分30回往復の速度で100回往復摩耗させ、摩擦用白綿布の着色の程度をグレースケールと比較することで織編物の堅牢度を判定する。なお、本発明では、7.1乾燥試験及び7.2湿潤試験の両者について、共に4級以上であることが好ましい。これは、本発明の織編物が、様々な用途に供しうるものであるから、乾燥状態だけでなく湿潤状態においても摩擦堅牢度が高いことが好ましいからである。
【0061】
バイオマスポリマーからなる繊維でのみ構成された織編物の場合、その織編物の摩擦堅牢度は一般に悪くなる。具体的には、L*値50未満の濃色に染色した場合、乾燥状態における摩擦堅牢度が2−3級レベルとなり、実用には適さない。それに対し、本発明の織編物においては、上記のように特定の芯鞘型複合繊維を用いることにより、乾燥状態及び湿潤状態の摩擦に対する染色堅牢度を4級以上にすることができるのである。
【0062】
また、本発明の織編物を構成する糸条としては、上記複合糸のみでもよいが、必要に応じて他の糸を含ませてもよい。他の糸としては、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維、キュプラ、ポリノジックなどの再生繊維、綿、麻、絹、ウール、竹などの天然繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル、又はポリアクリロニトリル、ポリウレタンなどの合成繊維があげられる。織編物中に含まれる当該複合糸の質量比率としては、特に限定されるものではないが、二酸化炭素の発生量を抑制するには、織編物中にバイオマスポリマーが、20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上含有されるようにする。ただし、バイオマスポリマーの含有量が増えすぎると、織編物の強度が低下する傾向にあるため、含有量の上限としては80質量%が好ましい。
【0063】
次に、本発明の複合糸を製造する方法について説明する。
【0064】
一例として、まず、バイオマスポリマー及び石油系ポリマーを同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給し、バイオマスポリマーを芯部へ、石油系ポリマーを鞘部へ配して溶融紡糸することにより、高配向未延伸糸を得る。次いで、この高配向未延伸糸を所定の倍率で延伸して、芯鞘型複合繊維からなる糸条を得る。なお、仮撚加工は、延伸糸ではなく高配向未延伸糸に対し行うのが好ましい。
【0065】
次に、この芯鞘型複合繊維からなる糸条同士、又は芯鞘型複合繊維からなる糸条と予め準備した他の糸条とを、インターレース加工、タスラン加工などの混繊手段や合撚手段などを採用して、複合糸となす。複合糸となした後は、そのまま製織編工程に供してもよいが、さらに複合技術を適用して新たな複合糸としてもよい。なお、上記混繊手段を採用する際は、糸条間に供給率差(オーバーフィード差)を設けることが好ましい。また、既述のように、上記他の糸条は仮撚加工糸であることが好ましい。
【0066】
また、本発明の織編物を製造する方法については、一例として、まず、上記複合糸を用いて製織編の後、精練・リラックスし、プレセット、アルカリ減量、染色を経てファイナルセットすればよい。ファイナルセット後は、必要に応じて適宜付帯加工してもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
バイオマスポリマーとして、相対粘度1.850、融点168℃、L−乳酸単位98.8モル%、D−乳酸単位1.2モル%のポリ乳酸を用い、石油系ポリマーとして、相対粘度1.336、融点230℃の、イソフタル酸を8モル%共重合した共重合ポリエステルを用いた。それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸した。このときの紡糸条件としては、ポリ乳酸を芯部に、共重合ポリエステルを鞘部に配し、芯鞘比率(質量比率)を芯/鞘=50/50とした。紡糸温度は260℃、紡糸速度は3050m/分とした。このような溶融紡糸により、140dtex48fの高配向未延伸糸を得た。
【0069】
そして、この高配向未延伸糸を90℃の熱ローラを介して1.49倍に延伸し、さらに、150℃のヒートプレートで熱処理した後に巻き取り、95dtex48fの延伸糸を得た。この延伸糸の熱水収縮率は、7.8%であった。
【0070】
次に、この延伸糸同士を用い、一方のオーバーフィード率を2.6%とし、他方を5.0%としつつエアー圧を0.687MPaに設定してインターレース加工し、197dtex96fたる本発明の複合糸を得た。
【0071】
この複合糸を経緯糸に用い、ウォータージェットルームにて、経糸密度110本/2.54cm、緯糸密度70本/2.54cmの2/2ツイル組織を有する生機を得た。
【0072】
次いで、液流染色機を用いて上記生機をソーダ灰5g/L及びノニオン系活性剤1g/Lを含む水溶液中で80℃×20分間生機を精練・リラックスした。その後、シュリンクサーファー型乾燥機にて、130℃で乾燥した後、150℃で1分間プレセットした。続いて、得られた織物を下記染色処方1にて130℃で30分間染色した。そして、染色した織物をソーダ灰5g/L、ハイドロサルファイト1g/L、ノニオン界面活性剤(サンモールFL:日華化学株式会社製)1g/Lを含む水溶液中で80℃×20分間還元洗浄した。その後、130℃で乾燥し、140℃×1分間ファイナルセットして、本発明の織編物を得た。
【0073】
得られた織物の織物密度は、経糸密度117本/2.54cm、緯糸密度75本/2.54cmであった。
【0074】
〈染色処方1〉
分散染料 3%omf(ダイスタージャパン株式会社製「Dianix Navy S−G 200%(商品名)」)
分散均染剤 0.5g/L(日華化学株式会社製「ニッカサンソルトSN−130(商品名)」)
酢酸(濃度48質量%) 0.2cc/L
【0075】
(実施例2)
高オーバーフィード側の糸条を芯鞘型複合繊維からなる延伸糸に代えてPET単独からなる95dtex48fの延伸糸(熱水収縮率:7.0%)にする以外は、実施例1と同様の手段にて経糸密度117本/2.54cm、緯糸密度75本/2.54cmの本発明の織編物を得た。
【0076】
(比較例1)
芯鞘型複合繊維からなる延伸糸に代えてポリ乳酸単独からなる95dtex48fの延伸糸(熱水収縮率:14.1%)を用いること以外は、実施例2と同様の手段にて197dtex96fの複合糸を得た。
【0077】
次に、製織の後、乾燥を120℃とすること、プレセットを130℃で1分間とすること、染色を110℃で30分間とすること、還元洗浄を65℃で20分間とすること、並びにファイナルセットを130℃で1分間とすること以外は、実施例1と同様の加工手段にて経糸密度117本/2.54cm、緯糸密度75本/2.54cmの織物を得た。
【0078】
(比較例2)
実施例2で用いたPET単独からなる延伸糸同士を用いること以外は、実施例1と同様の手段にて197dtex96fの複合糸を得た。
【0079】
次に、製織の後、乾燥を150℃とすること、プレセットを180℃で1分間とすること、並びにファイナルセットを170℃で1分間とすること以外は、実施例1と同様の手段にて経糸密度117本/2.54cm、緯糸密度75本/2.54cmの織物を得た。
【0080】
(実施例3)
実施例1における高配向未延伸糸を供給糸として、速度100m/m、ヒーター温度120℃、延伸倍率1.38倍、仮撚数2900回の条件にてZ方向に仮撚加工し、100dtex48fの仮撚加工糸を得た。この仮撚加工糸の断面変形率を測定したところ、平均断面変形率(CS)=1.72、S1.5=70.8%、S1.8=33.3%、S2.0=14.6%であった。また、この仮撚加工糸の熱水収縮率は、4.3%であった。
【0081】
次に、この仮撚加工糸と、実施例1で用いたものと同一の芯鞘型複合繊維からなる延伸糸とを用い、前者のオーバーフィード率を3.2%とし、後者を2.8%としつつエアー圧を0.687MPaに設定してインターレース加工し、203dtex96fたる本発明の複合糸を得た。
【0082】
そして、生機密度を経糸密度108本/2.54cm、緯糸密度68本/2.54cmとする以外は、実施例1と同様の手段にて生機を得た。その後、染色処方を下記染色処方2に変更する以外は、実施例1と同様の加工手段にて経糸密度114本/2.54cm、緯糸密度72本/2.54cmの本発明の織編物を得た。
【0083】
〈染色処方2〉
分散染料 4%omf(ダイスタージャパン株式会社製「Dianix Black S−R 200%(商品名)」)
分散均染剤 0.5g/L(日華化学株式会社製「ニッカサンソルトSN−130(商品名)」)
酢酸(濃度48質量%) 0.2cc/L
【0084】
(実施例4)
低オーバーフィード率側の糸条を芯鞘型複合繊維からなる延伸糸に代えて実施例2で用いたPET単独からなる延伸糸を用いる以外は、実施例3と同様の手段にて203dtex96fたる本発明の複合糸を得た。その後、製織し、実施例3と同様の加工手段にて経糸密度114本/2.54cm、緯糸密度72本/2.54cmの本発明の織編物を得た。
【0085】
(比較例3)
芯鞘型複合繊維からなる高配向未延伸糸に代えてポリ乳酸単独からなる140dtex48fの高配向未延伸糸を用いること及びヒーター温度を100℃とすること以外は、実施例3と同様の手段にて100dtex48fの仮撚加工糸を得た。この仮撚加工糸の断面変形率を測定したところ、平均断面変形率(CS)=1.45、S1.5=47.9%、S1.8=2.1%、S2.0=0.0%であった。また、この仮撚加工糸の熱水収縮率は、11.5%であった。
【0086】
次に、高オーバーフィード率側の糸条を芯鞘型複合繊維からなる仮撚加工糸に代えて上記ポリ乳酸単独からなる仮撚加工糸を用いる以外は、実施例4と同様の手段にて203dtex96fの複合糸を得た。その後、製織し、比較例1と同様の加工手段にて経糸密度114本/2.54cm、緯糸密度72本/2.54cmの織編物を得た。
【0087】
(比較例4)
芯鞘型複合繊維からなる高配向未延伸糸に代えてPET単独からなる150dtex48fの高配向未延伸糸を用いること、ヒーター温度を200℃とすること、並びに延伸倍率を1.49倍とすること以外は、実施例3と同様の手段にて100dtex48fの仮撚加工糸を得た。この仮撚加工糸の断面変形率を測定したところ、平均断面変形率(CS)=1.89、S1.5=79.2%、S1.8=45.8%、S2.0=33.3%であった。また、この仮撚加工糸の熱水収縮率は、3.0%であった。
【0088】
次に、高オーバーフィード率側の糸条を芯鞘型複合繊維からなる仮撚加工糸に代えて上記PET単独からなる仮撚加工糸を用いる以外は、実施例4と同様の手段にて203dtex96fの複合糸を得た。その後、製織し、比較例2と同様の加工手段にて経糸密度114本/2.54cm、緯糸密度72本/2.54cmの織編物を得た。
【0089】
上記実施例及び比較例にかかる織編物の各種特性を測定し、その結果を表1に示す。なお、表中、強力保持率については、50℃×95%RH環境下500時間処理後のものを指すものとし、摩擦に対する染色堅牢度については、「乾」が乾燥試験の結果を、「湿」が湿潤試験の結果を指すものとする。
【0090】
【表1】

【0091】
表1から明らかのように、実施例1〜4にかかる織編物は、芯部にポリ乳酸を、鞘部に共重合ポリエステルを配した芯鞘型複合繊維を使用しているため、環境考慮型であるばかりでなく、従来のバイオマスポリマー繊維で構成された織編物に比べ、耐湿熱性、耐乾熱性及び染色堅牢度に優れていた。また、イラツキ感を少なく良好な風合いを具備するものであった。特に実施例3、4にかかる織編物は、仮撚加工された芯鞘型複合繊維を含むため、織編物の曲げ剛性やぬめり感が少なく、ソフト感、ふくらみ感、ストレッチ感に富むものであった。
【0092】
一方、比較例1、3にかかる織編物は、ポリ乳酸単独からなる繊維を使用しているため、環境考慮型ではあるものの、発色性に乏しいものであった。また、織編物を構成する複合糸の熱水収縮率が10%を超えたため、風合いの硬い織編物となった。そして、比較例2、4にかかる織編物は、耐湿熱性、耐乾熱性及び染色堅牢度に優れてはいるものの、バイオマスポリマーが含まれていないため、製造から廃棄に至る段階で発生する二酸化炭素量を低減するという本発明の基本的な効果が奏されないものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を含んでなることを特徴とする複合糸。
【請求項2】
前記石油系ポリマーがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載の複合糸。
【請求項3】
前記石油系ポリマーがイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール及びシクロヘキサンジカルボン酸からなる群より選ばれた一種以上の成分を合計5〜20モル%共重合したポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載の複合糸。
【請求項4】
前記バイオマスポリマーがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合糸。
【請求項5】
熱水収縮率が10%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の複合糸。
【請求項6】
ポリエステルフィラメントを含んでなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の複合糸。
【請求項7】
仮撚加工糸を含んでなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の複合糸。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の複合糸を用いてなる織編物。


【公開番号】特開2008−214832(P2008−214832A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57369(P2007−57369)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】