説明

複合織物及びプリント配線基板

【課題】半導体素子の高速高周波化にともなうプリント配線基板の問題点である、低誘電率化および低誘電正接化、および低線膨張率化を達成し得るプリント配線基板およびその基材として好適に用いられる複合織物を提供する。
【解決手段】石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維とを含む複合織物であって、該複合織物に占める石英ガラス繊維の割合が10体積%以上90体積%以下であるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子・電気分野で使用されるプリント配線基板に好適に用いられる複合織物及びプリント配線基板に関し、特に、高周波用プリント配線基板および高多層用プリント配線基板に好適に用いられる複合織物およびそれを用いたプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子の高速化に伴うコンピュータや周辺機器に用いられる多層プリント配線基板の高速化が進み、さらにインターネットや携帯電話の急速な普及に伴い、通信機器や放送機器の高速大容量伝送の要求が高まっているために、これらの多層プリント配線基板においても、高周波特性の改良が必要になってきており、特に1GHzを超える高周波領域に用いられる高多層プリント配線基板において伝送損失や回路遅延の問題が注目されてきている。
【0003】
従来、プリント配線基板に用いられる基材は、Eガラス繊維を用いたガラスクロスを使用するのが一般的であり、このガラスクロスにエポキシ樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させ、加熱加圧成形した積層板が作られている。
しかし、高速半導体素子が実装される高周波用プリント配線基板では低誘電率および低誘電正接であることが求められることから、従来のEガラス繊維とエポキシ樹脂もしくはフェノール樹脂などではなく、電気特性に優れたDガラス繊維(特許文献1)や熱硬化性PPE樹脂などが使用されるようになってきている。
しかし、Dガラス繊維は、溶融温度が高いために生産性が悪く、さらにSiO含有量が高いためにプリント配線基板とした際にドリル加工性が悪いという問題点があり、現在ではほとんど使用されておらず、低誘電率および低誘電正接でありながらドリル加工性がEガラス繊維と同等であるNEガラス繊維が開発されている。しかし、更なる高周波数化が進められており、NEガラス繊維よりも電気特性の優れたプリント配線基板用基材が求められている。
【0004】
また、従来、高周波用プリント配線基板は、フッ素系樹脂によるプリント配線基板を用いることが多く、フッ素系樹脂基板は多層化が困難であるため片面板もしくは両面板で使用されることがほとんどであったが、最近では高周波用においても多層化の要求が強まっている。
【0005】
ガラス繊維のなかで最も比誘電率および誘電正接が小さな石英ガラス繊維がプリント配線基板用基材として期待され、導入が検討されたが、非常に硬いため多層プリント配線基板のドリルでの穴あけや切削加工が困難であるという問題があり、ドリル加工性を改善するための提案がなされているが(特許文献2)、高価であるため一部の特殊用途での使用にとどまっている。
【0006】
また、Eガラス、Dガラス、およびシリカ繊維と、ポリテトラフルオロエチレン繊維からなるプリント配線基板用織物についての発明が開示されている(特許文献3)。しかし、この織物に用いるポリテトラフルオロエチレン繊維は、誘電特性にすぐれ、耐熱性が高いが、高価であるため、石英ガラスクロス同様に汎用のプリント配線基板に用いるには制限があり、一部の特殊用途に使用されるにとどまる。
【0007】
プリント配線基板に実装される半導体素子においても、その高速化とともに実装方法も変化してきており、従来はワイヤーボンディング法が使用されてきたが、配線の狭ピッチ化、電極の微細化、情報の高速処理化が進み、ワイヤーボンディング法では対応が困難となってきている。この方法に代わって、バンプと呼ばれる突起電極を用いて、素子と基板とを接合するフリップチップ法が使用されるようになってきた。
フリップチップ法による実装では、素子とプリント配線基板の線膨張率に顕著な差があると、配線不良の原因となることが想定され、フリップチップ法に対応した低線膨張率プリント配線基板の開発が期待されている。
【0008】
低線膨張率プリント配線基板は、一般的にはシリカ系のフィラーを高い割合で混合することで低線膨張率を達成しているが、ドリルによる加工などにより、加工部分からフィラーが脱落する粉落ちと呼ばれる現象が生じ、問題となっているため、プリント配線基板用基材での低線膨張率化が求められている。
低線膨張率な基材としては石英ガラス繊維が挙げられるが、上記の理由によりその課題の解決が求められている。
またさらに、従来技術としてEガラスと特定組成のガラス繊維を特定の割合で混織することで線膨張率を改良したガラスクロスも提案されているが(例えば、特許文献4)、十分な特性が得られていない。
【特許文献1】特開昭63−2831号公報
【特許文献2】特開2004−99377号公報
【特許文献3】特開平2−61131号公報
【特許文献4】特開平10−310967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、半導体素子の高速高周波化にともなうプリント配線基板の問題点である、低誘電率化および低誘電正接化、および低線膨張率化を達成し得るプリント配線基板およびその基材として好適に用いられる複合織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、発明者らは鋭意研究を行った結果、石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維を混繊又は交織することで、電気特性および熱的特性に優れる複合織物が得られ、また該複合織物を用いて、低誘電率化および低誘電正接化、および低線膨張率化を達成し得るプリント配線基板を得ることができることを見出した。
即ち、本発明の複合織物は、石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維とを含む複合織物であって、該複合織物に占める石英ガラス繊維の割合が10体積%以上90体積%以下であることを特徴とする。
【0011】
前記石英ガラス繊維のフィラメント径が直径3μm以上16μm以下であり、前記複合織物の厚さが200μm以下であり、前記複合織物の単位面積当たり重さが200g/m以下であることが好ましい。
【0012】
前記石英ガラス繊維が石英ガラスロッドを加熱延伸して作成した石英ガラス繊維であることが好ましい。また、前記石英ガラス繊維の1MHzおよび1GHzの比誘電率がそれぞれ3.9以下および4.0以下であり、前記石英ガラス繊維の1MHzおよび1GHzの誘電正接がそれぞれ1.5×10−4以下および2.0×10−4以下であることが好適である。
【0013】
前記ポリオレフィン繊維がポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維又はポリスチレン繊維であることが好ましい。また、前記ポリオレフィン繊維の1MHzにおける比誘電率が3.0以下、誘電正接が3×10−3以下であることが好適である。
【0014】
前記複合織物が石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維との混繊糸により製織されることが好ましい。
前記複合織物が石英ガラス繊維糸とポリオレフィン繊維糸との交織であることが好ましい。
前記複合織物が石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維との混繊糸と、石英ガラス繊維糸及び/又はポリオレフィン繊維糸との交織であることが好ましい。
【0015】
本発明の複合織物は、プリント配線基板用として特に好適に用いられる。
前記複合織物は、1MHzから10GHzまでの比誘電率が4.0以下、誘電正接が3×10−3以下であることが好適である。
【0016】
本発明のプリント配線基板は、本発明の複合織物を用いて得られるプリント配線基板である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の複合織物は、電気特性及び熱的特性に優れており、特に、プリント配線基板用として好適である。また、本発明によれば、低コストで、ドリル加工性に優れ、低誘電率化、低誘電正接化及び低線膨張率化を達成し得るプリント配線基板を得ることができる。さらに、本発明によれば、プリント配線基板の多層化、軽量化及びコスト低減が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、図示例は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0019】
図1〜図5は本発明の複合織物の第1〜第5の例を示す概略説明図である。図1〜図5において、10a,10b,10c,10d及び10eはそれぞれ本発明の複合織物、12は石英ガラス繊維からなる石英ガラス繊維糸、14はポリオレフィン繊維からなるポリオレフィン繊維糸、16は石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維との混繊糸である。
【0020】
本発明の複合織物は、石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維とを含む複合織物であって、該複合織物に占める石英ガラス繊維の割合が10体積%以上90体積%以下である複合織物であり、プリント配線基板用として好適に用いられる。
なお、本願発明において、複合織物に占める石英ガラス繊維の割合は、用いた石英ガラス繊維及びポリオレフィン繊維の体積値から計算したものであり、使用する石英ガラス繊維及びポリオレフィン繊維の割合を調整することにより、所望の含有割合の複合織物を得ることができる。
【0021】
本発明で使用される石英ガラス繊維としては、天然鉱物である水晶を加熱溶融した天然石英ガラスまたは四塩化珪素等の珪素化合物を加水分解することで得られた合成石英ガラスを加熱延伸して得られた石英ガラス繊維が好適である。
また、本発明に用いる石英ガラス繊維の紡糸時もしくは撚糸時にシランカップリング剤をサイジング剤として使用することが好ましい。一般的に、プリント配線基板用織物は、表面処理剤としてシランカップリング剤により処理を行うことで複合化する熱硬化性樹脂との接着強度を増加させるが、その前処理としてガラス繊維に付着しているサイジング剤除去を目的としたヒートクリーニング等が行われる。本発明の複合織物は、融点が低いポリオレフィン繊維を含むため、ヒートクリーニング処理は好ましくないが、サイジング剤としてシランカップリング剤を用いることにより、ヒートクリーニング処理を不要とすることができる。
【0022】
石英ガラス繊維の比誘電率及び誘電正接は低いことが好ましく、具体的には、1MHzにおける比誘電率が3.9以下、1GHzにおける比誘電率が4.0以下、1MHzにおける誘電正接が1.5×10−4以下、1GHzにおける誘電正接が2.0×10−4以下であることが好ましい。比誘電率及び誘電正接は低い程好ましく、下限値に特に制限はないが、現在、1MHzから1GHzでの比誘電率3.0以上、1MHzから1GHzでの誘電正接0.5×10−4以上のものが入手可能である。
石英ガラスのOH基濃度は特に限定されないが、OH基濃度が小さいほうが比誘電率および誘電正接が小さくなるため、OH基濃度が小さい石英ガラス繊維が好ましい。
【0023】
本発明で使用されるポリオレフィン繊維に用いられるポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、スチレン等のオレフィン系炭化水素の重合体、該オレフィン系炭化水素を主成分とする共重合体、もしくはそれらの混合物が挙げられる。
前記ポリオレフィン繊維は、単一繊維及び複合繊維のいずれも使用可能である。複合繊維を用いる場合、繊維組成に関して特に制限はなく、例えば、芯成分と鞘成分の組成が異なるシース・コア型複合繊維や2成分が接合されたサイドバイサイド型複合繊維を用いることができる。前記ポリオレフィン繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、及びポリスチレン繊維が好ましい。
【0024】
ポリオレフィン繊維の比誘電率及び誘電正接は低いことが好ましく、具体的には、1MHzにおける比誘電率が3.0以下、1MHzにおける誘電正接が3×10−3以下であることが好ましい。比誘電率及び誘電正接は低い程好ましく、下限値に特に制限はないが、現在、1MHzにおける比誘電率1.5以上、1MHzにおける誘電正接0.5×10−4以上のものが入手可能である。
【0025】
なお、本願発明において、比誘電率および誘電正接の測定は、石英ガラスおよびポリオレフィンのバルク体においてJIS R1641「ファインセラミックス基板のマイクロ波誘電特性の試験方法」に準拠し、空洞共振器法により測定を行った。
【0026】
本発明の複合織物に用いられる糸の太さ、糸の本数、糸の撚り数等は特に限定されず、必要に応じて適宜選択可能である。複合織物の織密度や、寸法、織り方は特に限定されないが、織り方としては平織、綾織、朱子織、からみ織等が挙げられ、特に平織が好適である。
【0027】
本発明の複合織物において、石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維の混用の形態は混繊、交織等、特に限定されず、複合織物における石英ガラス繊維の割合が体積比で10〜90%となる範囲内で適宜選択可能である。例えば、図1に示した如く、石英ガラス繊維及びポリオレフィン繊維を混繊させた混繊糸16を用いて製織された複合織物10aや、図2〜図5に示した如く、石英ガラス繊維からなる石英ガラス繊維糸12とポリオレフィン繊維からなるポリオレフィン繊維糸14との交織織物10b〜10e、その他に図示は省略したが、前記混繊糸16と石英ガラス繊維糸12との交織織物、前記混繊糸16とポリオレフィン繊維糸14との交織織物、及び前記混繊糸16と石英ガラス繊維糸12とポリオレフィン繊維糸14との交織織物が挙げられ、前記混繊糸16による複合織物10aが織易さの点から好ましい。
【0028】
石英ガラス繊維糸12及びポリオレフィン繊維糸14を用いて製織する場合、縦糸及び横糸の配列に特に制限はなく、縦糸及び横糸の一方を石英ガラス繊維糸12から構成し他方をポリオレフィン繊維糸14から構成してもよく、縦糸及び横糸共に石英ガラス繊維糸12及びポリオレフィン繊維糸14から構成してもよく、縦糸及び横糸の一方を石英ガラス繊維糸12とポリオレフィン繊維糸14とから構成し他方を石英ガラス繊維糸12又はポリオレフィン繊維糸14から構成してもよいが、図2〜図5に示した如く、縦糸・横糸共に石英ガラス繊維糸12及びポリオレフィン繊維糸14を含むことが好ましい。
図2は、縦糸・横糸ともに石英ガラス繊維糸12とポリオレフィン繊維糸14の割合が同じである複合織物10bの模式図、図3は、縦糸・横糸ともにポリオレフィン繊維糸14の割合が石英ガラス繊維糸12の割合よりも多い複合織物10cの模式図、図4は、縦糸は石英ガラス繊維糸12の割合が多く、横糸はポリオレフィン繊維糸14の割合が多い複合織物10dの模式図、図5は、縦糸はポリオレフィン繊維糸14の割合が多く、横糸は石英ガラス繊維12の割合が多い複合織物10eの模式図を示したが、縦糸及び横糸における各繊維糸の割合は、複合織物における石英ガラス繊維の割合が体積比で10〜90%となる範囲内で適宜選択可能である。
【0029】
本発明の複合織物の厚さは特に制限はないが、多層基板を作成するためには200μm以下であることが好ましく、高多層化を行う場合には100μm以下であることがより好ましい。また、プリント配線基板製造工程における変形を防ぐために、複合織物の厚さは10μm以上であることが好ましい。
本発明の複合織物は、基板の軽量化の点から軽い方が好ましく、具体的には、200g/m以下であることが好ましい。
【0030】
石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維のフィラメントは、作成する織物の厚さ及び密度により任意に選択することが可能であるが、200μm以下の厚さを有する織物を作成するのに適当なフィラメント径およびフィラメント本数を選択することが好ましく、石英ガラス繊維のフィラメントは直径3μm以上16μm以下、ポリオレフィン繊維のフィラメントは直径3μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0031】
石英ガラス繊維糸とポリオレフィン繊維糸を用いて交織する場合、各糸(ストランド)の太さを同等とすることが好ましい。太さが同等のストランドを用いることにより、作成される織物の厚さの均一性を確保することができる。フィラメント径と本数が同等で構成されたストランドがより好ましいが、直径15μm以下の細径のポリオレフィン繊維を入手することが比較的困難な為、ストランドの太さが同等であれば所望の特性を有する織物を得ることができる。
また、混繊の場合には石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維が1本のストランド中に混在することとなるため、所定の割合でそれぞれを入れることができる。
【0032】
本発明の複合織物における石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維の割合は、石英ガラス繊維が体積比で10%〜90%の範囲である。
石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維の割合を調整することにより、本発明の複合織物の線膨張係数を調整することができる。石英ガラスは線膨張係数が非常に小さいため、ポリオレフィン繊維がかなりの割合をしめることとなっても、プリント配線基板として好適な線膨張係数の基材を得ることが可能である。
本発明の複合織物の線膨張係数は、プリント配線基板の用途や素子の実装方法にもよるが、銅箔と同等程度もしくはそれ以下であることが好適であり、プリント配線基板を作成するために織物と複合される熱硬化性樹脂の特性により異なるが、プリント配線基板としての線膨張率が許容できる範囲で石英ガラス繊維の割合を調整することができる。
【0033】
本発明のプリント配線基板は、本発明の複合織物を用いて製造される。本発明のプリント配線基板の製造方法は特に限定されず、本発明の複合織物を基材として用いて、常法により製造することができる。例えば、(1)本発明の複合織物からなる基材に、熱硬化性樹脂及び溶媒等を含むワニスを含浸させ、加熱乾燥させ、プリプレグを作成するプリプレグ製造工程、(2)前記プリプレグを単数または複数枚積層し、必要に応じて片面又は両面に銅箔等の金属箔を重ね、加熱加圧して硬化させた積層板、好ましくは銅張積層板を作製する積層体作製工程、(3)前記積層板の金属泊にフォトリソグラフィーおよびエッチング又はメッキ等によって回路パターンを形成するプリント配線板作製工程、によりプリント配線基板を製造することができる。
【0034】
プリント配線基板に用いる熱硬化性樹脂としては、プリプレグに用いられる公知の熱硬化性樹脂が使用可能であり、例えば、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等が挙げられるが、高周波用のプリント配線基板とする場合は、熱硬化性樹脂についても電気特性、特に比誘電率と誘電正接に優れるものであるものが好ましく、例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂やビスマレイミドトリアジン樹脂などが挙げられる。
【0035】
前述のプリント配線基板をコア基材とし、前述のプリプレグを用いて多層プリント配線基板を作製することができる。例えば、前記両面プリント配線基板をコア基板とし、さらにその表層に前記プリプレグを単数または複数枚重ねあわせて両面に銅箔を重ねる又はコア基板とプリプレグを交互に配置して、加熱加圧して硬化接着させるビルドアップ工程を行うことが好ましい。
【0036】
前述したプリント配線基板を用いて常法によりプリント回路を得ることができる。プリント回路を得る方法としては、例えば、前記多層プリント配線基板にドリルまたはレーザーによりスルーホールを形成し、無電解銅メッキ等の公知の工程により両面の電気的接続を確保する加工工程を行った後、素子等の部品を実装することにより、プリント回線基板を製造することができる。
【0037】
本発明の複合織物は、他のガラスに比べ比重が小さな石英ガラスと、さらに軽量なポリオレフィンを用いる為、極めて軽量であり、プリント配線基板の軽量化に有効である。
【0038】
ポリオレフィンは、電気特性に優れるが、それ自体は融点が低いためにプリント配線基板用織物としては使用することができないが、石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維とを混繊若しくは交織して得られた本発明の複合織物では、プリプレグ製造工程での加熱乾燥や実装工程での半田のリフローにおいても、表面が熱硬化性樹脂に覆われたプリント配線基板となっているため、ポリオレフィンが熱分解することなくプリント配線基板用基材として使用可能である。
また、積層工程やビルドアップ工程での加熱加圧処理において、ポリオレフィンが溶融しても石英ガラス繊維を含有することから、熱硬化性樹脂とともに流動することがなく、寸法安定性に優れるプリント配線基板を得ることができる。
【0039】
さらに、プリント配線基板はドリル加工によりスルーホール等の作成を行うが、従来の石英ガラスクロスは非常に硬いためドリル加工性が悪く、ドリルの消耗も早いため生産コストを押し上げる要因となっていたが、本発明の複合織物はポリオレフィンを一定割合含むことから石英ガラス繊維の割合が低く、ドリル加工性もかなり改善することができ、プリント配線基板作成のトータルコストを低減することができる。さらに、100μm以下の薄物織物はレーザーによる加工にも好適に使用することが可能であり、プリント配線基板の更なるコスト低減を可能なものとすることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0041】
(実施例1)
直径9μmのフィラメント200本からなる石英ガラス繊維糸と直径20μmのフィラメント30本からなるポリプロピレン繊維糸を1インチ当たり縦糸40本、横糸40本となるように製織した。石英ガラス繊維の1MHおよび1GHzでの比誘電率は3.8および3.9、誘電正接は0.9×10−4および1.0×10−4、ポリプロピレン繊維の1MHzの比誘電率は2.6、誘電正接は5.0×10−4であるものを用いた。比誘電率および誘電正接の測定は、石英ガラスおよびポリプロピレンのバルク体においてJIS R1641「ファインセラミックス基板のマイクロ波誘電特性の試験方法」に準拠し、空洞共振器法により測定を行った。
【0042】
前記作成した織物を、JIS R3420「ガラス繊維一般試験方法」に準拠して、織物の厚さと重さを測定した。織物中の石英ガラス繊維の含有割合は、織物に使用した石英ガラス繊維及びポリオレフィン繊維の体積値より計算で求めた。結果を表1に示した。
【0043】
上記織物をKBM603(信越化学工業(株)製:商品名)により表面処理を行い、次いで熱硬化性樹脂ワニスに含浸乾燥することでプリプレグ(Bステージ)を得た。
熱硬化性樹脂ワニスは、ポリフェニレンエーテル変性物75重量部、無水マレイン酸1.5重量部、2,5−ジメチル−2,5−ジヘキサン1.0重量部、トリアリルイソシアヌレート25重量部、ブチルパーオキシ−メタ−イソプロピルベンゼン2.0重量部、デカブロモジフェニルエタン20重量部により調整を行った。
上記プリプレグを4枚重ね、真空プレス機により加熱加圧成型することでプリント配線基板を作成した。
【0044】
前記作製したプリント配線基板について、JIS C6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠して、線膨張率、比誘電率、誘電正接の測定を行った。なお、比誘電率及び誘電正接の測定周波数は1MHzから10GHzで行った。結果を表2に示した。
また、前記作製したプリント配線基板に対しドリル加工による穴あけを2000回行い、ドリル先端の摩耗状態を顕微鏡で観察した。結果を表2に示した。表2におけるドリル加工性の評価基準は下記の通りである。
◎:ドリル磨耗がほとんどなし、○:ドリル磨耗が少しあり、△:ドリル磨耗がある、×:ドリル磨耗が激しい。
【0045】
(実施例2)
直径9μmの石英ガラスフィラメント80本と直径20μmのポリプロピレンフィラメント30本を1インチ当たりの撚り数が1.0となるように合撚糸し、得られた混繊糸を用いて1インチ当たり縦糸40本、横糸40本となるように製織し、実施例1と同様にプリプレグおよびプリント配線基板を作成し、各種測定を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0046】
(実施例3)
直径9μmのフィラメント400本からなる石英ガラス繊維糸を横糸とし、直径9μmの石英ガラスフィラメント250本と直径20μmのポリプロピレンフィラメント30本の混繊糸を縦糸として、1インチ当たり縦糸44本、横糸31本となるように製織し、実施例1と同様にプリプレグおよびプリント配線基板を作成し、各種測定を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0047】
(実施例4)
直径9μmの石英ガラスフィラメント40本と直径20μmのポリプロピレンフィラメント60本を1インチ当たりの撚り数が1.0となるように合撚糸し、得られた混繊糸を用いて1インチ当たり縦糸44本、横糸31本となるように製織し、実施例1と同様にプリプレグおよびプリント配線基板を作成し、各種測定を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0048】
(実施例5)
直径4μmのフィラメント200本からなる石英ガラス繊維糸と直径10μmのフィラメント30本からなるポリプロピレン繊維糸を1インチ当たり縦糸75本、横糸75本となるように製織し、実施例1と同様にプリプレグおよびプリント配線基板を作成し、各種測定を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0049】
(実施例6)
直径14μmのフィラメント200本からなる石英ガラス繊維糸と直径20μmのフィラメント100本からなるポリプロピレン繊維糸を1インチ当たり縦糸39本、横糸30本となるように製織し、実施例1と同様にプリプレグおよびプリント配線基板を作成し、各種測定を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0050】
(実施例7)
ポリプロピレン繊維の代わりに、1MHzでの比誘電率が2.4、誘電正接が4.0×10−4であるポリエチレン繊維を使用した以外は実施例1と同様に実験を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0051】
(実施例8)
ポリプロピレン繊維の代わりに、1MHzでの比誘電率が2.4、誘電正接が5.0×10−4であるポリスチレン繊維を使用した以外は実施例1と同様に実験を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0052】
(比較例1)
直径9μmのフィラメント200本からなる石英ガラス繊維糸を用い、1インチ当たり縦糸40本、横糸40本となるように製織し、実施例1と同様にプリプレグおよびプリント配線基板を作成し、各種測定を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0053】
(比較例2)
直径30μmのフィラメント30本からなるポリプロピレン繊維を1インチ当たり1.0回加撚し、得られたポリプロピレン繊維糸を用いて1インチ当たり縦糸40本、横糸40本となるように製織し、実施例1と同様にプリプレグを作成した。得られたプリプレグを真空プレス機により加熱加圧成形したところ、ポリプロピレン繊維が融解し、プリント配線基板を得ることができなかった。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の複合織物の第1の例を示す概略説明図である。
【図2】本発明の複合織物の第2の例を示す概略説明図である。
【図3】本発明の複合織物の第3の例を示す概略説明図である。
【図4】本発明の複合織物の第4の例を示す概略説明図である。
【図5】本発明の複合織物の第5の例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0057】
10a,10b,10c,10d,10e:本発明の複合織物、12:石英ガラス繊維糸、14:ポリオレフィン繊維糸、16:混繊糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維とを含む複合織物であって、該複合織物に占める石英ガラス繊維の割合が10体積%以上90体積%以下であることを特徴とする複合織物。
【請求項2】
前記石英ガラス繊維のフィラメント径が直径3μm以上16μm以下であり、前記複合織物の厚さが200μm以下であることを特徴とする請求項1記載の複合織物。
【請求項3】
前記石英ガラス繊維が石英ガラスロッドを加熱延伸して作成した石英ガラス繊維であり、前記石英ガラス繊維の1MHzおよび1GHzの比誘電率がそれぞれ3.9以下および4.0以下、前記石英ガラス繊維の1MHzおよび1GHzの誘電正接がそれぞれ1.5×10−4以下および2.0×10−4以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の複合織物。
【請求項4】
前記ポリオレフィン繊維がポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維又はポリスチレン繊維であり、前記ポリオレフィン繊維の1MHzにおける比誘電率が3.0以下、誘電正接が3×10−3以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の複合織物。
【請求項5】
前記複合織物が前記石英ガラス繊維と前記ポリオレフィン繊維との混繊糸により製織されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の複合織物。
【請求項6】
前記複合織物が石英ガラス繊維糸とポリオレフィン繊維糸との交織であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の複合織物。
【請求項7】
前記複合織物が石英ガラス繊維とポリオレフィン繊維との混繊糸と、石英ガラス繊維糸及び/又はポリオレフィン繊維糸との交織であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の複合織物。
【請求項8】
前記複合織物がプリント配線基板用であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の複合織物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の複合織物を用いたプリント配線基板。
【請求項10】
1MHzから10GHzまでの比誘電率が4.0以下、誘電正接が3×10−3以下であることを特徴とする請求項9記載のプリント配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−121146(P2008−121146A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306465(P2006−306465)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】