説明

複合荷電粒子ビーム装置

【課題】集束イオンビームでTEM観察用の薄片化試料を作製し、低加速電圧の気体イオンビームで試料表面のダメージ層を除去する装置において、電子顕微鏡と試料とを最適な距離に配置すること。
【解決手段】集束イオンビーム鏡筒1と、走査電子顕微鏡筒2と、気体イオンビーム鏡筒3とを備えた複合荷電粒子ビーム装置であり、集束イオンビーム鏡筒1のビーム照射軸と、走査電子顕微鏡筒2のビーム照射軸と、気体イオンビーム鏡筒3のビーム照射軸とは1点で交わり、かつ、集束イオンビーム鏡筒1のビーム照射軸は、走査電子顕微鏡筒2のビーム照射軸と略直交するように配置し、気体イオンビーム鏡筒3のビーム照射軸は走査電子顕微鏡筒2のビーム照射軸と90度より小さい角度で交わるように配置する複合荷電粒子ビーム装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の荷電粒子ビーム装置を統合した、複合荷電粒子ビーム装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスのパターン微細化に伴い、半導体デバイスの特定微小部を透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)によって観察し、評価する技術の重要性が高まっている。このような特定微小部となる試料を作成するには、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置が広く用いられているが、FIBによる試料作製は試料の表面の厚さ数nm〜数十nmが変質してしまう。この変質層をダメージ層と称する。薄片化試料に要求される厚みが小さくなるにつれて、試料全体の厚みに占めるこのダメージ層の割合が相対的に大きくなり、TEM観察の支障となる。そのため、TEM観察用薄片化試料表面のダメージ層を除去するための方法が必要とされている。
【0003】
特許文献1においては、上述した状況の解決策として、例えば、アルゴンなどの化学的活性の低い元素をイオン種とするイオンビームを数キロボルト以下の低い加速電圧で照射する方法が提案されている。また、このダメージ除去のプロセスを確実に、効率よく行うために、FIB鏡筒の軸と走査電子顕微鏡の軸とがそれぞれ試料ステージのユーセントリックチルト軸と実質的に直交し、かつFIB鏡筒の軸と気体イオンビーム鏡筒の軸と前記ユーセントリックチルト軸とが実用上一つの平面内にある位置関係に配置することが有効であることが、特許文献2において開示されている。これによりFIBで加工した試料面を適当な角度だけ傾けることで気体イオンビームを浅い角度で照射することが可能になり、かつ加工中の試料面を走査電子顕微鏡で観察することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−221227号公報
【特許文献2】特開2007−164992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2で開示されている装置では、走査電子顕微鏡が試料と集束イオンビーム鏡筒に挟まれるように配置されているため、走査電子顕微鏡と試料との距離を短くできないという問題点がある。一般に走査電子顕微鏡は試料との距離が短いほど観察能力が向上する傾向がある。非常に微細な構造を含む極薄膜試料を確実に作製するためには、走査電子顕微鏡の観察能力の向上は非常に重要な課題である。
【0006】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、集束イオンビーム装置でTEM観察用の薄片化試料を作製し、低加速電圧の気体イオンビーム装置で試料表面のダメージ層を除去する装置において、一連の工程で薄片化試料の状態を高分解能で観察するために、電子顕微鏡と試料との距離を短く配置可能な複合荷電粒子ビーム装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置は、集束イオンビーム鏡筒と、走査電子顕微鏡筒と、気体イオンビーム鏡筒とを備えた複合荷電粒子ビーム装置であり、集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と、走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸と、気体イオンビーム鏡筒のビーム照射軸とは1点で交わり、かつ、集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸は、走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸と略直交するように配置し、気体イオンビーム鏡筒のビーム照射軸は走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸と90度より小さい角度で交わるように配置する。
【0008】
本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置は、気体イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸のなす角度が、60度以上かつ88度以下である。
本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置は、集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸の交点付近に試料を保持し、かつ、集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸の双方に略直交する回転軸により試料を傾斜させる第一の傾斜機構を備えている。
【0009】
本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置は、集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸の交点付近に試料を保持し、かつ、集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と略平行な回転軸により試料を傾斜させる第二の傾斜機構を備えている。
本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置は、2つ以上の気体イオンビーム鏡筒を備え、複数の方向から試料に気体イオンビームを照射可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子顕微鏡と試料との距離を短くしてTEM観察用の薄片化試料の状態を観察しながら、集束イオンビーム装置で薄片化試料を作製し、低加速電圧の気体イオンビーム装置で試料表面のダメージ層を除去する一連の工程を実施可能な装置が実現され、微小な構造を観察するためのTEM観察用薄片化試料を確実に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置の斜視図である。
【図2】本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置の(a)集束イオンビーム鏡筒の照射軸と気体イオンビーム鏡筒の照射軸を有する面の構成図、(b)集束イオンビーム鏡筒の照射軸と走査電子顕微鏡の照射軸を有する面の構成図である。
【図3】本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置の構成図である。
【図4】従来の複合荷電粒子ビーム装置の配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置の実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明は例示であり、本発明の構成は以下の説明に限定されない。
【0013】
<実施形態1>
図1に本発明の実施形態を説明する図を示す。試料4は薄片化される厚み方向が走査電子顕微鏡の軸8と平行な方向になるように、試料ステージを用いて配置される。試料設置方法は、試料4の厚み方向に突起物がないような設置にする。試料4表面に対して、走査電子顕微鏡2を走査電子顕微鏡の軸8が垂直方向になるように配置する。更に試料4の位置で集束イオンビーム鏡筒の軸7が走査電子顕微鏡の軸8と直角に交わるように集束イオンビーム鏡筒1を配置する。このような配置とすることで、図4に示した従来装置の構成と比較して試料と走査電子顕微鏡の距離10を大幅に縮めることができる。それに伴い、装置で処理できる試料の大きさは制限されることになるが、TEM試料用の薄片試料は一般的には直径3mmの円盤より小さいので大きな制約とはならない。
【0014】
図2(a)は、図1の複合荷電粒子ビーム装置の集束イオンビーム鏡筒の軸8と気体イオンビーム鏡筒の軸9を有する面の構成図である。また、図2(b)は、図1の複合荷電粒子ビーム装置の集束イオンビーム鏡筒の軸8と走査電子顕微鏡の軸8を有する面の構成図である。走査電子顕微鏡2は集束イオンビーム鏡筒1と試料4に挟まれることなく配置されるので、走査電子顕微鏡2の先端と試料4との距離を集束イオンビーム鏡筒1の先端や気体イオンビーム鏡筒3の先端よりも短くすることができる。
【0015】
図3は複合荷電粒子ビーム装置の構成図である。集束イオンビーム鏡筒1から集束イオンビーム21が、走査電子顕微鏡2から電子ビーム22が、気体イオンビーム鏡筒3から気体イオンビーム23が、それぞれ試料4に照射可能な位置に配置されている。試料4は、試料室30内の試料ステージ24に取り付けられている。また、試料4から発生する二次電子を検出する二次電子検出器26と、走査電子顕微鏡2から照射し試料4を透過する透過電子を検出する透過電子検出器25を備えている。それぞれの検出器で検出した検出信号は、制御部27に送られ、ビーム走査信号と組み合わせることにより観察像が形成される。観察像は表示部28に表示される。
【0016】
集束イオンビーム鏡筒1を使用して試料4を薄片形状に加工していく。集束イオンビーム21による薄片化が終了した時点では試料4の表面にはダメージ層が形成されている。このダメージ層を除去するために、気体イオンビーム鏡筒3を用いて、加速電圧1kVの気体イオンビーム23を照射する。多くの場合、イオン化させる気体としては希ガスが用いられ、この例示においてはアルゴンを用いた。従来の例では、試料を回転させて気体イオンビームの照射角度を調節していた。しかし、本発明による構成では、走査電子顕微鏡の軸と気体イオンビーム鏡筒の軸がなす角6が小さいため試料4を大きく回転させることは困難であるため、予め試料4に対して角度をつけた位置に気体イオンビーム鏡筒3を配置する。
【0017】
次に、取付けの角度の決定方法について以下に説明する。気体イオンビーム23を照射している面の変化を走査電子顕微鏡1で観察したいので走査電子顕微鏡の軸と気体イオンビーム鏡筒の軸がなす角6は90度より小さい必要がある。さらに、気体イオンビーム23の軌道が走査電子顕微鏡2の先端部に遮られない角度の範囲を選んで取り付ける必要がある。また、気体イオンビーム23の入射角度は照射面に対して大きすぎると、試料4の表面の平滑性を損ない、逆に角度が浅すぎると表面のダメージ層の除去に時間がかかりすぎる。そこで、走査電子顕微鏡の軸と気体イオンビーム鏡筒の軸がなす角6は60度以上かつ88度以下であることが好ましい。この例では走査電子顕微鏡の軸と気体イオンビーム鏡筒の軸がなす角6は60度で取り付けた。上記の理由から気体イオンビーム鏡筒3は、少なくとも走査電子顕微鏡の軸と気体イオンビーム鏡筒の軸がなす角6を気体イオンビーム鏡筒の軸と気体イオンビーム鏡筒の軸を走査電子顕微鏡の軸と垂直な面に投影した線分がなす角12よりも大きくなるように配置することが好ましい。
【0018】
ここまでの工程は、全て試料と走査電子顕微鏡の距離10は走査電子顕微鏡2にとって最適である短い距離で使用できるため、非常に微細な変化や構造を観察しながら行うことができ、本発明の課題を達成している。
【0019】
<実施形態2>
実施形態1においては、試料4に対しての気体イオンビーム23の入射角度は固定であったが、実際には試料の特性に応じて調節する必要がある場合もある。このような場合、集束イオンビーム鏡筒の軸7と走査電子顕微鏡の軸8の双方の交点付近に試料4を保持し、かつ双方に直交する軸によって試料を傾斜する第一の傾斜機構31を試料ステージ24に設けることで、気体イオンビーム23の試料4に対する入射角度を調節することができる。試料4を大きく傾けることは、走査電子顕微鏡2の観察能力に影響を及ぼすため、比較的小さな傾斜角度の範囲で実用的な入射角度を制御できることが望ましい。このような場合、実施形態1で説明したように予め角度をつけて気体イオンビーム鏡筒3を取り付けておくことで、比較的小さな角度の傾斜で実用的な範囲の角度を制御することができる。例として、気体イオンビーム鏡筒3と集束イオンビーム鏡筒1が走査電子顕微鏡2の方向から見た時に、60度の角度を持ち、かつ走査電子顕微鏡の軸と気体イオンビーム鏡筒の軸がなす角6を70度とすると、±10度の傾斜で入射角度をおよそ11度から29度の範囲で制御することができる。
これにより、実施形態1で説明した利点はそのままに、気体イオンビーム23の入射角度を制御することが可能となる。
【0020】
<実施形態3>
実施形態2と同様の目的で、集束イオンビーム鏡筒1と走査電子顕微鏡2のビームの交点付近に試料4を保持し、かつ集束イオンビーム鏡筒1の軸と平行な回転軸により試料を傾斜させる第二の傾斜機構32を試料ステージ24に備えることで、気体イオンビームの入射角度を制御することが可能となる。例として、気体イオンビーム鏡筒3と集束イオンビーム鏡筒1が走査電子顕微鏡2の方向から見た時に、30度の角度を持ち、かつ走査電子顕微鏡の軸と気体イオンビーム鏡筒の軸がなす角6を70度とすると、±10度の傾斜で入射角度をおよそ11度から29度の範囲で制御することができる。
【0021】
<実施形態4>
気体イオンビーム鏡筒3を複数備えることも好ましい。一般に、試料4が複数の材料で構成されている場合、気体イオンビーム23による試料表面のエッチング速度は同じではない。一部にエッチングが進行しにくい材質を含む場合、気体イオンビーム23の入射方向から見て、削れにくい材質の後側に筋を引いたようにエッチングの進行が遅い部分ができてしまう。そこで、気体イオンビーム鏡筒3を複数設けて、複数の方位から気体イオンビームを照射することで、このような現象を抑制することができる。この例においても、上述した条件の範囲内で気体イオンビーム鏡筒3を配置することで、本発明の課題は達成することができる。
【符号の説明】
【0022】
1…集束イオンビーム鏡筒
2…走査電子顕微鏡
3…気体イオンビーム鏡筒
4…試料
5…走査電子顕微鏡の軸と集束イオンビーム鏡筒の軸がなす角
6…走査電子顕微鏡の軸と気体イオンビーム鏡筒の軸がなす角
7…集束イオンビーム鏡筒の軸
8…走査電子顕微鏡の軸
9…気体イオンビームの軸
10…試料と走査電子顕微鏡の距離
11…気体イオンビーム鏡筒の軸を走査電子顕微鏡の軸と垂直な面に投影した線分
12…気体イオンビーム鏡筒の軸と気体イオンビーム鏡筒の軸を走査電子顕微鏡の軸と垂直な面に投影した線分がなす角
21…集束イオンビーム
22…電子ビーム
23…気体イオンビーム
24…試料ステージ
25…透過電子検出器
26…二次電子検出器
27…制御部
28…表示部
30…試料室
31…第一の傾斜機構
32…第二の傾斜機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビーム鏡筒と、走査電子顕微鏡筒と、気体イオンビーム鏡筒とを備えた複合荷電粒子ビーム装置において、
前記集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と、前記走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸と、前記気体イオンビーム鏡筒のビーム照射軸とは1点で交わり、かつ、
前記集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸は、前記走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸と略直交するように配置し、
前記気体イオンビーム鏡筒のビーム照射軸は前記走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸と90度より小さい角度で交わるように配置する複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
前記気体イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と前記走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸のなす角度が、60度以上かつ88度以下である請求項1に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と前記走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸の交点付近に試料を保持し、かつ、前記集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と前記走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸の双方に略直交する回転軸により試料を傾斜させる第一の傾斜機構を備えた請求項1または2に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前記集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と前記走査電子顕微鏡筒のビーム照射軸の交点付近に試料を保持し、かつ、前記集束イオンビーム鏡筒のビーム照射軸と略平行な回転軸により試料を傾斜させる第二の傾斜機構を備えた請求項1または2に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
2つ以上の気体イオンビーム鏡筒を備え、複数の方向から試料に気体イオンビームを照射可能である請求項1から4のいずれか一つに記載の複合荷電粒子ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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