説明

複合金属酸化物およびナトリウム二次電池

【課題】本発明の目的は、稀少金属元素を含有せず、しかも、資源豊富なFeを含有し、エネルギー密度の高いナトリウム二次電池を与えることのできる複合金属酸化物を提供することにある。
【解決手段】α−NaFeO型の結晶構造であり、(104)面の面間隔が2.16オングストローム以上2.18オングストローム未満である以下の式(1)で表される複合金属酸化物。
Na(FexNiyMn1-x-y)O2 (1)
(ここで、xは0.1以上0.6以下であり、yは0を越え0.9未満である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属酸化物およびこれを正極活物質として用いるナトリウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
複合金属酸化物は、二次電池の電極活物質として用いられている。二次電池の中で、リチウム二次電池は、携帯電話やノートパソコンなどの小型電源として既に実用化され、さらに、電気自動車、ハイブリッド自動車等の自動車用電源、または分散型電力貯蔵用電源など、大型電源として検討されている。従って、リチウム二次電池の需要の拡大が期待される。一方で、リチウム二次電池の電極を構成する材料には、稀少金属元素であるリチウムが多く含有されており、大型電源の需要の拡大に対応するためのリチウムの供給不足が懸念されている。
【0003】
これに対し、上記の供給懸念を解決することのできる二次電池として、ナトリウム二次電池が検討されている。ナトリウム二次電池を構成するナトリウムは、資源量が豊富でしかも安価な材料である。ナトリウム二次電池を実用化することにより、大型電源を大量に供給できることが期待される。
【0004】
ナトリウム二次電池用の正極活物質として、特許文献1には、Na、MnおよびCoの組成比(Na:Mn:Co)が、0.7:0.5:0.5の原料を焼成して得られるNa欠損型の正極活物質が具体的に記載されている。資源として豊富な元素であるFeとNaとの複合酸化物であるα−NaFeO2は非水電解質二次電池用の正極活物質として特許文献2に具体的に記載され、この正極活物質は、(104)面の面間隔が2.20Åであることが知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−287661号公報
【特許文献2】特開2005−317511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Coは資源量が少ないため高価である。それゆえ、Coより安価で、高いエネルギー密度を実現できる代替材料が求められている。特許文献2の正極活物質を用いたナトリウム二次電池は、放電容量が十分ではなく、エネルギー密度が低い。それゆえ、非水電解質二次電池用として十分に使用可能であるとは言い難い。本発明の目的は、LiおよびCo等の高価な稀少金属元素の含有量を減らし、資源量が豊富な元素であるFeを含有し、かつエネルギー密度の高いナトリウム二次電池を与えることのできる複合金属酸化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記を提供する。
<1> α−NaFeO型の結晶構造であり、(104)面の面間隔が2.16オングストローム以上2.18オングストローム未満である以下の式(1)で表される複合金属酸化物:
Na(FexNiyMn1-x-y)O2 (1)
(ここで、xは0.1以上0.6以下であり、yは0を越え0.9未満である。)
<2> xが0.2以上0.4以下である<1>の複合金属酸化物。
<3> BET比表面積が0.1〜5m2/gである<1>または<2>の複合金属酸化物。
<4> <1>〜<3>のいずれかの複合金属酸化物を含有する正極活物質。
<5> <4>の正極活物質を含有する正極。
<6> <5>の正極を有するナトリウム二次電池。
<7> セパレータを更に有する<6>のナトリウム二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、稀少金属元素であるLiおよびCoの使用量を抑制し、資源量が豊富なFeを最適な範囲で用いた複合金属酸化物が与えられる。本発明の複合金属酸化物を電極活物質として用いれば、エネルギー密度の高いナトリウム二次電池を提供することができる。本発明は工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】複合金属酸化物1におけるX線回折図形。
【図2】複合金属酸化物2におけるX線回折図形。
【図3】複合金属酸化物3におけるX線回折図形。
【図4】複合金属酸化物5におけるX線回折図形。
【図5】複合金属酸化物6におけるX線回折図形。
【図6】複合金属酸化物7におけるX線回折図形。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<複合金属酸化物>
複合金属酸化物は、α−NaFeO2型の結晶構造であり、(104)面の面間隔が2.16オングストローム以上2.18オングストローム未満であり、以下の式(1)で表される:
Na(FexNiyMn1-x-y)O2 (1)
(ここで、xは0.1以上0.6以下であり、yは0を越え0.9未満である。)
【0011】
xが0.6を超える場合、放電容量が小さくなる。xが0.1を下回る場合、単相のα−NaFeO型結晶構造が得られにくく、エネルギー密度が低くなる。単相のα−NaFeO型結晶構造を得て、エネルギー密度をより高めるために、xは、0.2以上が好ましく、放電容量を大きくするために、0.4以下がより好ましい。
【0012】
複合金属酸化物は、NiOなどの不純物相および不純物化合物を有する場合があるが、単相のα−NaFeO型結晶構造から構成されることが好ましい。複合金属酸化物の結晶構造およびα−NaFeO型結晶構造の(104)面の面間隔は、粉末X線回折測定により決定できる。α−NaFeO型結晶構造の(104)面の面間隔は、好ましくは2.163オングストローム以上2.175オングストローム以下であり、より好ましくは2.171オングストローム以上2.175オングストローム以下である。
【0013】
複合金属酸化物のBET比表面積は、0.1〜5m/gであることが好ましく、これにより特にエネルギー密度が高くなる傾向がある。BET比表面積はより好ましくは0.3m/g以上であり、さらにより好ましくは0.5m/g以上である。また、BET比表面積はより好ましくは4.5m/g以下であり、さらにより好ましくは4m/g以下である。
【0014】
複合金属酸化物に含まれるM(ここで、MはFe、NiおよびMnからなる群より選ばれる1種以上の元素である。)の一部を、M以外の金属元素で置換してもよい。置換により、ナトリウム二次電池の電池特性が向上する場合がある。M以外の金属としてはLi、K、Ag、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ga、In、Ti、V、Cr、Co、Cu、Zn、Sc、Y、Nb、Mo、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、YbおよびLu等の金属元素が挙げられる。
【0015】
<複合金属酸化物の製造方法>
複合金属酸化物は、複合金属酸化物となり得る組成を有する原料を焼成することによって、製造できる。該原料としては金属含有化合物の混合物が挙げられる。該混合物を焼成することによって、単相のα−NaFeO型結晶構造から構成される複合金属酸化物を製造できる。具体的には、対応する金属元素を含有する金属含有化合物をそれぞれ所定の組成となるように秤量し、それらを混合して、混合物を得る。得られた混合物を焼成することによって複合金属酸化物を製造できる。好ましい金属元素比の一つとしてNa:Mn:Fe:Ni=1:0.3:0.4:0.3の金属元素比を有する複合金属酸化物は、Na2CO3、MnO2、Fe34、Niの各原料を、Na:Mn:Fe:Niのモル比が1:0.3:0.4:0.3となるように秤量し、それらを混合し、得られた混合物を焼成することによって製造できる。
【0016】
前記金属含有化合物の例としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物およびシュウ酸塩などの高温で酸化物に変化し得る化合物が挙げられる。ナトリウム化合物の例としては、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、蓚酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上の化合物が挙げられ、これらの化合物は水和物であってもよい。取り扱い性の観点では吸湿性が低いために炭酸ナトリウムが好ましく、製造コストの観点では低温での反応性が高いために水酸化ナトリウムが好ましい。水酸化ナトリウムを用いれば、比較的低い焼成温度で焼成できる。マンガン化合物としてはMnO2が好ましく、鉄化合物としてはFe34が好ましく、ニッケル化合物としてはNiが好ましい。これらの化合物は、水和物であってもよい。
【0017】
金属含有化合物の混合物は、以下の共沈法により得られた金属含有化合物とナトリウム化合物とを混合して得ることもできる。
【0018】
具体的には、Mn、FeおよびNiそれぞれの化合物として、塩化物、硝酸塩、酢酸塩、蟻酸塩、蓚酸塩または硫酸塩等の化合物を用いて、これらを水に溶解し、混合水溶液を得る。該水溶液を沈殿剤と接触させることで、金属含有化合物を含有する沈殿物を得ることができる。これらの化合物の中でも、好ましくは塩化物または硫酸塩である。水に溶解し難い原料を用いる場合、例えば、酸化物、水酸化物、金属材料を用いる場合には、これらを、塩酸、硫酸、硝酸等の酸またはこれらの水溶液に溶解させて、水溶液を得ることができる。
【0019】
前記沈殿剤の例としては、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、Li2CO3(炭酸リチウム)、Na2CO3(炭酸ナトリウム)、K2CO3(炭酸カリウム)、(NH42CO3(炭酸アンモニウム)および(NH22CO(尿素)からなる群より選ばれる化合物が挙げられる。沈殿剤は前記化合物1種以上であってもよく、前記化合物の水和物1種以上であってもよく、化合物と水和物とが併用されてもよい。これらの沈殿剤は沈殿剤水溶液であることが好ましい。沈殿剤水溶液は、沈殿剤を水に溶かして、得られる。沈殿剤水溶液における沈殿剤の濃度は、0.5〜10モル/リットル程度、好ましくは、1〜8モル/リットル程度である。沈殿剤は好ましくはKOHまたはNaOHである。沈殿剤水溶液は好ましくはKOH水溶液またはNaOH水溶液である。沈殿剤水溶液として、アンモニア水を挙げることもできる。アンモニア水と沈殿剤水溶液とを併用してもよい。
【0020】
混合水溶液を沈殿剤と接触させる方法の例としては、混合水溶液に、沈殿剤(沈殿剤水溶液を含む。)を添加する方法、沈殿剤水溶液に、混合水溶液を添加する方法、水に、混合水溶液および沈殿剤(沈殿剤水溶液を含む。)を添加する方法が挙げられる。これらの添加は、攪拌を伴うことが好ましい。上記の方法の中では、沈殿剤水溶液に、混合水溶液を添加する方法が好ましい。この方法によれば、pHを保ちやすく、得られる沈殿物の粒径を制御しやすい。沈殿剤水溶液に、混合水溶液を添加していくに従い、pHが低下していく傾向にある。pHが9以上、好ましくは10以上となるように調節しながら、混合水溶液を添加することが好ましい。この調節は、沈殿剤水溶液の添加によって行うことができる。接触時の雰囲気は、不純物生成抑制のために、好ましくは窒素またはアルゴンである。
【0021】
上記の接触により、沈殿物を得ることができる。この沈殿物は、金属含有化合物を含有する。
【0022】
混合水溶液を沈殿剤と接触させた後は、通常、沈殿物を含有するスラリーが得られ、これを固液分離して、沈殿物を回収すればよい。固液分離はいかなる方法によってもよい。操作性の観点では、ろ過などの固液分離が好ましい。噴霧乾燥など、加熱して液体分を揮発させる方法を用いてもよい。回収された沈殿物を洗浄、乾燥してもよい。固液分離後に得られる沈殿物には、過剰な沈殿剤の成分が付着していることもあり、洗浄により当該成分を減らすことができる。洗浄に用いる洗浄液は、好ましくは水であり、アルコール、アセトンなどの水溶性有機溶媒でもよい。乾燥の例としては、加熱乾燥、送風乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥は、通常50〜300℃で行われ、好ましくは100〜200℃程度で行われる。洗浄、乾燥は2回以上行ってもよい。
【0023】
混合方法の例としては、乾式混合、湿式混合が挙げられる。簡便性の観点では、乾式混合が好ましい。混合装置の例としては、攪拌混合装置、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサーおよびボールミルが挙げられる。焼成温度は、用いるナトリウム化合物の種類に依存し、通常400〜1200℃程度の温度であり、好ましくは500〜1000℃程度である。また、前記焼成温度で保持する時間は、通常0.1〜20時間であり、好ましくは0.5〜10時間である。前記焼成温度までの昇温速度は、通常50〜400℃/時間であり、前記焼成温度から室温までの降温速度は、通常10〜400℃/時間である。焼成の雰囲気の例としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはそれらの混合ガスが挙げられる。雰囲気制御の容易さの観点では大気が好ましく、焼成後試料の安定性の観点では酸素、窒素、アルゴンまたはこれらの混合ガスが好ましい。
【0024】
金属含有化合物として、フッ化物、塩化物等のハロゲン化物を適量用いることによって、生成する複合金属酸化物の結晶性、複合金属酸化物を構成する粒子の平均粒径を制御することができる。ハロゲン化物は、反応促進剤(フラックス)としての役割を果たすこともある。フラックスとしては、例えばNaF、MnF3、FeF2、NiF2、CoF2、NaCl、MnCl2、FeCl2、FeCl3、NiCl2、CoCl2、Na2CO3、NaHCO3、NH4Cl、NH4I、B23およびH3BO3を挙げることができ、これらを混合物の原料(金属含有化合物)として、または、混合物に適量添加して用いることができる。これらのフラックスは、水和物であってもよい。
【0025】
複合金属酸化物を正極活物質として用いる場合、得られた複合金属酸化物を、任意にボールミル、ジェットミル、振動ミル等の工業的に通常用いられる装置を用いて、粉砕してもよいし、洗浄、分級してもよい。これらの操作により、複合金属酸化物の粒度を調節できることがある。焼成を2回以上行ってもよい。複合金属酸化物の粒子表面をSi、Al、Ti、Y等を含有する無機物質で被覆する等の表面処理をしてもよい。
【0026】
なお、上記の表面処理後、熱処理してもよい。熱処理の温度に依存して、熱処理後の粉末のBET比表面積が、複合金属酸化物のBET比表面積から変化することがある。
【0027】
複合金属酸化物は、正極活物質として用いることができる。正極活物質は、複合金属酸化物を含有する。複合金属酸化物をナトリウム二次電池の正極活物質に用いれば、得られるナトリウム二次電池は、従来に比し、エネルギー密度が高い。
【0028】
<正極およびその製造方法>
正極は、正極活物質を含有する。正極は、正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を、正極集電体に担持させて製造できる。
【0029】
導電材としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどの炭素材料が挙げられる。
【0030】
バインダーとしては、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂の例として、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;およびポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。これらの2種以上を用いてもよい。
【0031】
正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどが挙げられる。薄膜に加工しやすく、安価であるという観点で、Alが好ましい。正極集電体に正極合剤を担持させる方法の例としては、加圧成型する方法;有機溶媒などをさらに用いて正極合剤ペーストを得て、該ペーストを正極集電体に塗工し乾燥してシートを得て、得られたシートをプレスすることにより、正極合剤を集電体に固着する方法が挙げられる。正極合剤ペーストは、正極活物質、導電材、バインダーおよび有機溶媒を含有する。有機溶媒の例としては、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸メチル等のエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等(以下、NMPということがある。)のアミド系溶媒等が挙げられる。
【0032】
正極合剤を正極集電体へ塗工する方法としては、例えばスリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。以上により、正極を製造することができる。
【0033】
<ナトリウム二次電池>
ナトリウム二次電池は、通常、セパレータを有する。セパレータを有する場合には、ナトリウム二次電池は、正極、セパレータ、負極およびセパレータをこの順に積層する、または積層かつ巻回することにより得られる電極群を、電池缶などの電池ケース内に収納し、該ケース内に、電解質および有機溶媒を含有する電解液を注入することによって、製造できる。セパレータを有さない場合には、ナトリウム二次電池は、例えば、正極、固体電解質、負極および固体電解質をこの順に積層する、または積層かつ巻回することにより得られる電極群を、電池缶などの電池ケース内に収納して、製造できる。
【0034】
電極群の形状としては、例えば、電極群を巻回の軸に垂直に切断したときの断面または電極群を積層方向に平行に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形等となるような形状が挙げられる。電池の形状としては、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状が挙げられる。
【0035】
<ナトリウム二次電池−負極>
負極は、正極よりも低い電位で、ナトリウムイオンでドープされることができかつ脱ドープされることができる。負極としては、負極材料を含む負極合剤が負極集電体に担持された電極、または負極材料単独からなる電極が挙げられる。負極材料としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属または合金で、正極よりも低い電位で、ナトリウムイオンでドープされることができかつ脱ドープされることができる材料が挙げられる。これらの負極材料は混合されてもよい。
【0036】
負極材料の具体例を以下に示す。炭素材料の例として、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、高分子焼成体などの中で、正極よりも低い電位で、ナトリウムイオンでドープされることができかつ脱ドープされることができる材料が挙げられる。これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、併用してもよく、結晶質または非晶質のいずれでもよい。これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、主に、負極集電体に担持されて、負極として用いられる。金属の例として、具体的には、ナトリウム金属、シリコン金属、スズ金属が挙げられる。合金の例としては、Na−Al、Na−Ni、Na−Siなどのナトリウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金が挙げられる。これらの金属、合金は、主に、単独で電極として用いられる(例えば箔状で用いられる。)。さらに酸化物の例としては、LiTi12等の酸化物が挙げられる。
【0037】
負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂の例として、具体的には、PVDF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。電解液が後述のエチレンカーボネートを含有せず、かつ負極合剤がポリエチレンカーボネートを含有する場合、得られる電池のサイクル特性と大電流放電特性とが向上することがある。
【0038】
負極集電体の例としては、Cu、Ni、ステンレス、Alなどが挙げられる。ナトリウムと合金を作り難く、薄膜に加工しやすいという観点で、CuまたはAlが好ましい。負極集電体に負極合剤を担持させる方法は、正極と同様に、加圧成型する方法;有機溶媒などをさらに用いて負極合剤ペーストを得て、該ペーストを負極集電体に塗工し乾燥してシートを得て、得られたシートをプレスすることにより、負極合剤を集電体に固着する方法が挙げられる。
【0039】
<ナトリウム二次電池−セパレータ>
セパレータの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などが挙げられる。セパレータの形状としては、多孔質フィルム、不織布、織布などの形状が挙げられる。これらの材質を2種以上用いた単層または積層セパレータとしてもよい。セパレータとしては、例えば特開2000−30686号公報、特開平10−324758号公報等に記載のセパレータが挙げられる。セパレータの厚みは、電池の体積エネルギー密度が上がり、内部抵抗が小さくなる観点で、機械的強度が保たれる限り薄いことが好ましい。セパレータの厚みは、好ましくは5〜200μm程度であり、より好ましくは5〜40μm程度である。
【0040】
セパレータは、好ましくは、熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムを有する。二次電池は、正極−負極間の短絡等が原因で電池内に異常電流が流れた際に、電流を遮断して、過大電流が流れることを阻止する(シャットダウンする。)機能を有することが好ましい。二次電池は、通常の使用温度を越えた場合に、できるだけ低温でシャットダウンすることが好ましい。セパレータが熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムを有する場合には、シャットダウンは、多孔質フィルムの微細孔を閉塞することにより行われる。さらに、シャットダウンした後、ある程度の高温まで電池内の温度が上昇しても、セパレータは、その温度により破膜することなく、シャットダウンした状態を維持すること、換言すれば、耐熱性が高いことが好ましい。耐熱樹脂を含有する耐熱多孔層と熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムとが互いに積層された積層多孔質フィルムを有するセパレータを用いることにより、二次電池の熱破膜をより防ぐことが可能となる。耐熱多孔層は、多孔質フィルムの両面に積層されてもよい。
【0041】
<ナトリウム二次電池−セパレータ−積層多孔質フィルム>
以下、耐熱樹脂を含有する耐熱多孔層と熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムとが積層された積層多孔質フィルムを有するセパレータについて説明する。このセパレータの厚みは、通常40μm以下、好ましくは20μm以下である。耐熱多孔層の厚みをA(μm)、多孔質フィルムの厚みをB(μm)としたときには、A/Bの値が、0.1〜1であることが好ましい。このセパレータは、イオン透過性の観点から、ガーレー法による透気度において、透気度が50〜300秒/100ccであることが好ましく、50〜200秒/100ccであることがさらに好ましい。このセパレータの空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。
【0042】
(積層多孔質フィルムにおける耐熱多孔層)
積層多孔質フィルムにおいて、耐熱多孔層は、耐熱樹脂を含有する。イオン透過性をより高めるために、耐熱多孔層の厚みは、1〜10μm、さらには1〜5μm、特に1〜4μmという薄い耐熱多孔層であることが好ましい。また、耐熱多孔層は微細孔を有し、その孔のサイズ(直径)は通常3μm以下、好ましくは1μm以下である。さらに、耐熱多孔層は、後述のフィラーを含有することもできる。
【0043】
耐熱多孔層に含有される耐熱樹脂の例としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、ポリエーテルスルホンおよびポリエーテルイミドが挙げられ、耐熱性をより高めるためには、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドが好ましく、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドがより好ましい。さらにより好ましくは、耐熱樹脂は、芳香族ポリアミド(パラ配向芳香族ポリアミド、メタ配向芳香族ポリアミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド等の含窒素芳香族重合体であり、とりわけ好ましくは芳香族ポリアミドであり、特に好ましくはパラ配向芳香族ポリアミド(以下、パラアラミドということがある。)である。耐熱樹脂の例としては、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状オレフィン系重合体も挙げられる。これらの耐熱樹脂を用いることにより、耐熱性を高めること、すなわち熱破膜温度を高めることができる。
【0044】
積層多孔質フィルムの熱破膜温度は、耐熱樹脂の種類に依存する。積層多孔質フィルムの熱破膜温度は通常160℃以上である。含窒素芳香族重合体を用いる場合、熱破膜温度は最大400℃程度である。ポリ−4−メチルペンテン−1を用いる場合、熱破膜温度は最大250℃程度である。環状オレフィン系重合体を用いる場合、熱破膜温度は最大300℃程度である。
【0045】
パラアラミドは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとの縮重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、ビフェニレンにおける4,4’位、ナフタレンにおける1,5位、ナフタレンにおける2,6位)に位置する繰り返し単位から実質的になるものである。パラアラミドの例としては、パラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミド、具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体が挙げられる。
【0046】
芳香族ポリイミドとしては、芳香族の二酸無水物と芳香族のジアミンの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。ジアミンとしては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンソフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ナフタレンジアミンが挙げられる。溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの縮重合物であるポリイミドが挙げられる。
【0047】
芳香族ポリアミドイミドとしては、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジイソシアネートの縮重合から得られるもの、芳香族二酸無水物および芳香族ジイソシアネートの縮重合から得られるものが挙げられる。芳香族ジカルボン酸の具体例としてはイソフタル酸、テレフタル酸が挙げられる。芳香族二酸無水物の具体例としては、無水トリメリット酸が挙げられる。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリレンジイソシアネートおよびm−キシレンジイソシアネートが挙げられる。
【0048】
耐熱多孔層は、フィラーを含有してもよい。フィラーは、有機粉末、無機粉末またはこれらの混合物から選ばれる。フィラーを構成する粒子の平均粒子径は、好ましくは0.01〜1μmである。フィラーの形状の例としては、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状、繊維状が挙げられる。均一な孔を形成しやすいことから、略球状が好ましい。
【0049】
フィラーとしての有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独または2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート;等の有機物からなる粉末が挙げられる。有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0050】
フィラーとしての無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉末が挙げられ、具体的には、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、炭酸カルシウム等からなる粉末が挙げられる。無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。フィラーはアルミナ粉末であることがより好ましく、フィラーがアルミナ粉末であり、かつアルミナ粉末を構成する粒子の一部または全部が略球状であることがさらにより好ましい。
【0051】
耐熱多孔層におけるフィラーの含有量は、フィラーの材質の比重に依存する。フィラーを構成する粒子がアルミナ粒子である場合には、フィラーの重量割合は、耐熱多孔層の総重量100重量部に対して、通常20〜95重量部、好ましくは30〜90重量部である。フィラーの重量割合は、フィラーの材質の比重に依存して適宜設定できる。
【0052】
(積層多孔質フィルムにおける多孔質フィルム)
積層多孔質フィルムにおいて、多孔質フィルムは、熱可塑性樹脂を含有する。この多孔質フィルムの厚みは、通常3〜30μmであり、好ましくは3〜20μmである。多孔質フィルムは、上記耐熱多孔層と同様に、微細孔を有し、その孔のサイズは通常3μm以下、好ましくは1μm以下である。多孔質フィルムの空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。二次電池が通常の使用温度を越えた場合には、多孔質フィルムを構成する熱可塑性樹脂が軟化することにより、多孔質フィルムの微細孔が閉塞して、二次電池のシャットダウンが行われる。
【0053】
多孔質フィルムに含有される熱可塑性樹脂としては、80〜180℃で軟化するものが挙げられる。二次電池における電解液に溶解しないものを選択できる。熱可塑性樹脂の例として、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、熱可塑性ポリウレタンが挙げられる。これらの2種以上の混合物を用いてもよい。二次電池がより低温でシャットダウンするためには、多孔質フィルムにおける熱可塑性樹脂は、好ましくはポリエチレンである。ポリエチレンの例として、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン等のポリエチレンが挙げられ、超高分子量ポリエチレンも挙げられる。多孔質フィルムの突刺し強度をより高めるためには、熱可塑性樹脂は、超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。多孔質フィルムの製造の容易性の観点から、熱可塑性樹脂は、好ましくは低分子量(重量平均分子量1万以下)のポリオレフィンからなるワックスを含有する。
【0054】
<ナトリウム二次電池−電解液または固体電解質>
電解液は電解質および有機溶媒を含有する。電解液における電解質の例としては、NaClO4、NaPF6、NaAsF6、NaSbF6、NaBF4、NaCF3SO3、NaN(SO2CF32、低級脂肪族カルボン酸ナトリウム塩、NaAlCl4が挙げられる。これらの2種以上の混合物を使用してもよい。電解質は、NaPF6、NaAsF6、NaSbF6、NaBF4、NaCF3SO3およびNaN(SO2CF32からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素含有ナトリウム塩を含むことが好ましい。
【0055】
電解液における有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、イソプロピルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンスルトンなどの含硫黄化合物;または上記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができる。
【0056】
電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子、ポリオルガノシロキサン鎖およびポリオキシアルキレン鎖から選ばれる少なくとも1種以上を含む高分子などの高分子固体電解質が挙げられる。高分子に電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプの電解質を用いることもできる。固体電解質としては、例えば、Na2S−SiS2、Na2S−GeS2、Na2S−P25、Na2S−B23、Na2S−SiS2−Na3PO4、Na2S−SiS2−Na2SO4などの硫化物含有電解質、NaZr2(PO4)3などのNASICON型電解質などの無機固体電解質も挙げられる。固体電解質を用いると、二次電池の安全性をより高めることができることがある。二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【0057】
<ナトリウム二次電池の用途>
本発明のナトリウム二次電池は、エネルギー密度が高いことから、携帯電話、携帯オーディオ、ノートパソコン等の小型機器用電源である小型電池、自動車、自動二輪車、電動椅子、フォークリフト、電車、飛行機、船舶、宇宙船、潜水艦等の輸送機器用電源;耕運機等の機械用電源;キャンプ用途等の屋外電源;自動販売機用途等の屋外/屋内電源などの移動用電池である中・大型電池として好適である。
【0058】
また、本発明のナトリウム二次電池は、供給量が豊富で安価な原料を用いているため、工場、家屋用等の屋外/屋内設置電源;太陽電池用充電装置、風力発電用充電装置等の各種発電用の負荷平準化電源;冷蔵・冷凍倉庫内、極冷地等の低温環境用設置電源;砂漠等の高温環境用設置電源;宇宙ステーション用等の宇宙環境用設置電源などの定置型電池である中・大型電池として好適である。
【実施例】
【0059】
(1)粉末X線回折測定
測定は、株式会社リガク製の粉末X線回折測定装置RINT2500TTR型を用い、特に指定しない限り、以下の条件で行った。
【0060】
X線 :CuKα
電圧−電流 :40kV−140mA
測定角度範囲:2θ=10〜90°
ステップ :0.02°
スキャンスピード:4°/分
【0061】
(2)電極(正極)の作製
正極活物質としての複合金属酸化物、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)、およびバインダーとしてのPVDF(株式会社クレハ製)を、正極活物質:導電材:バインダー=85:10:5(重量比)の組成となるようにそれぞれ秤量した。その後、まず複合金属酸化物とアセチレンブラックをメノウ乳鉢で十分に混合し、この混合物に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP:東京化成工業株式会社製)を加え、さらにPVDFを加えて引き続き均一になるようにメノウ乳鉢で混合して、正極合剤ペーストを得た。正極合剤ペーストを、集電体である厚さ40μmのアルミ箔上に、アプリケータを用いて100μmの厚さで塗工した。塗工された集電体を乾燥機に入れ、NMPを除去しながら乾燥して、電極シートを得た。この電極シートを電極打ち抜き機で直径1.5cmに打ち抜いた後、ハンドプレスにて圧着し、正極を得た。
【0062】
(3)電池の作製
コインセル(宝泉株式会社製)の下側パーツの窪みに、アルミ箔を下に向けて正極を置き、これらと、電解液としての1MのNaClO4/プロピレンカーボネート、セパレータとしてのポリプロピレン多孔質フィルム(厚み20μm)、および負極としての金属ナトリウム(アルドリッチ社製)を組み合わせて、電池を作製した。なお、電池の組み立てはアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0063】
(4)ナトリウム二次電池の評価
充放電条件:充電はレストポテンシャルから4.0Vまで0.2Cレート(5時間で完全充電する速度)でCC(コンスタントカレント:定電流)充電を行った。放電は0.2Cレート(5時間で完全放電する速度)でCC(コンスタントカレント:定電流)放電を行い、電圧2.0Vでカットオフした。
【0064】
比較例1(Na:Fe:Ni:Mn=1:0.7:0.15:0.15)
(1)複合金属酸化物の製造
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水300mlに、水酸化カリウム44.88gを添加、攪拌により溶解し、水酸化カリウム水溶液(沈殿剤水溶液)を調製した。別のポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水300mlに、塩化鉄(II)四水和物27.83g、塩化ニッケル(II)六水和物7.13gおよび塩化マンガン(II)四水和物5.94gを添加、攪拌により溶解し、鉄、ニッケルおよびマンガンを含有する混合水溶液を得た。前記沈殿剤水溶液を攪拌しながら、これに前記混合水溶液を添加することにより、沈殿物が生成したスラリーを得た。次いで、該スラリーを、ろ過し、蒸留水で洗浄し、固形分を回収した。該固形分を100℃で乾燥して沈殿物を得た。沈殿物と炭酸ナトリウムとをモル比でFe:Na=0.7:1となるように秤量した後、メノウ乳鉢を用いてこれらを乾式混合して混合物を得た。次いで、該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中900℃で6時間保持することにより、該混合物を焼成し、室温まで冷却し、複合金属酸化物1を得た。
【0065】
(2)複合金属酸化物の評価
複合金属酸化物1の粉末X線回折測定の結果、複合金属酸化物1の結晶構造は、α−NaFeO2型の結晶構造に帰属し、また、不純物相は観測されず、単相であることがわかった(図1)。このα−NaFeO2型結晶構造の(104)面の面間隔は2.184Åであった。ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析により、複合金属酸化物1の組成を分析したところ、Na:Fe:Ni:Mnのモル比は1:0.7:0.15:0.15であった。複合金属酸化物1を0.5g秤量し、窒素気流中150℃で15分間乾燥した後、マイクロメリテックス製フローソーブII2300を用いて、複合金属酸化物1のBET比表面積を測定したところ、1.8m/gであった。
【0066】
(3)ナトリウム二次電池の評価
複合金属酸化物1を用いて電極を作製し、該電極を正極として用いて、ナトリウム二次電池1を作製した。上記充放電条件で、ナトリウム二次電池1の充放電性能評価を行ったところ、充放電可能であった。ナトリウム二次電池1の1サイクル目の放電容量(mAh/g)と放電電圧(V)の積から算出されたエネルギー密度を100とした。以下、実施例1〜6のそれぞれにおける電池のエネルギー密度は、比較例1のナトリウム二次電池1のエネルギー密度を100とした相対値(相対エネルギー密度)として示した。
【0067】
実施例1(Na:Fe:Ni:Mn=1:0.5:0.25:0.25)
(1)複合金属酸化物の製造
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水300mlに、水酸化カリウム44.88gを添加、攪拌により溶解し、水酸化カリウム水溶液(沈殿剤水溶液)を調製した。別のポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水300mlに、塩化鉄(II)四水和物19.9g、塩化ニッケル(II)六水和物11.9gおよび塩化マンガン(II)四水和物9.90gを添加、攪拌により溶解し、鉄、ニッケルおよびマンガンを含有する混合水溶液を得た。前記沈殿剤水溶液を攪拌しながら、これに前記混合水溶液を添加することにより、沈殿物が生成したスラリーを得た。次いで、該スラリーを、ろ過し、蒸留水で洗浄し、固形分を回収した。該固形分を100℃で乾燥して沈殿物を得た。沈殿物と炭酸ナトリウムとをモル比でFe:Na=0.5:1となるように秤量した後、メノウ乳鉢を用いてこれらを乾式混合して混合物を得た。次いで、該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中900℃で6時間保持することにより、該混合物を焼成し、室温まで冷却し、複合金属酸化物2を得た。
【0068】
(2)複合金属酸化物の評価
複合金属酸化物2の粉末X線回折測定の結果、複合金属酸化物2の結晶構造は、α−NaFeO2型の結晶構造に帰属し、また、不純物相は観測されず、単相であることがわかった(図2)。このα−NaFeO2型結晶構造の(104)面の面間隔は2.175Åであった。ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析により、複合金属酸化物2の組成を分析したところ、Na:Fe:Ni:Mnのモル比は1:0.5:0.23:0.27であった。複合金属酸化物2を0.5g秤量し、窒素気流中150℃で、15分間乾燥した後、マイクロメリテックス製フローソーブII2300を用いて、複合金属酸化物2のBET比表面積を測定したところ、1.1m/gであった。
【0069】
(3)ナトリウム二次電池の評価
複合金属酸化物2を用いて電極を作製し、該電極を正極として用いて、ナトリウム二次電池2を作製した。上記充放電条件で、ナトリウム二次電池2の充放電性能評価を行ったところ、充放電可能であり、相対エネルギー密度は143であった。
【0070】
実施例2(Na:Fe:Ni:Mn=1:0.4:0.3:0.3)
(1)複合金属酸化物の製造
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水300mlに、水酸化カリウム44.9gを添加、攪拌により溶解し、水酸化カリウム水溶液(沈殿剤水溶液)を調製した。別のポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水300mlに、塩化鉄(II)四水和物15.9g、塩化ニッケル(II)六水和物14.3gおよび塩化マンガン(II)四水和物11.9gを添加、攪拌により溶解し、鉄、ニッケルおよびマンガンを含有する混合水溶液を得た。前記沈殿剤水溶液を攪拌しながら、これに前記混合水溶液を添加することにより、沈殿物が生成したスラリーを得た。次いで、該スラリーを、ろ過し、蒸留水で洗浄し、固形分を回収した。該固形分を100℃で乾燥して沈殿物を得た。沈殿物と炭酸ナトリウムとをモル比でFe:Na=0.4:1となるように秤量した後、メノウ乳鉢を用いてこれらを乾式混合して混合物を得た。次いで、該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中900℃で4時間保持することにより、該混合物を焼成し、室温まで冷却し、複合金属酸化物3を得た。
【0071】
(2)複合金属酸化物の評価
複合金属酸化物3の粉末X線回折測定の結果、複合金属酸化物3の結晶構造は、α−NaFeO2型の結晶構造に帰属し、また、不純物相は観測されず、単相であることがわかった(図3)。このα−NaFeO2型結晶構造の(104)面の面間隔は2.171Åであった。ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析により、複合金属酸化物3の組成を分析したところ、Na:Fe:Ni:Mnのモル比は1:0.4:0.3:0.3であった。複合金属酸化物3を0.5g秤量し、窒素気流中150℃で、15分間乾燥した後、マイクロメリテックス製フローソーブII2300を用いて、複合金属酸化物3のBET比表面積を測定したところ、1.2m/gであった。
【0072】
(3)ナトリウム二次電池の評価
複合金属酸化物3を用いて電極を作製し、該電極を正極として用いて、ナトリウム二次電池3を作製した。上記充放電条件で、ナトリウム二次電池3の充放電性能評価を行ったところ、充放電可能であり、相対エネルギー密度は154であった。
【0073】
実施例3(Na:Fe:Ni:Mn=1:0.33:0.34:0.33)
(1)複合金属酸化物の製造
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水250mlに、水酸化ナトリウム20.0gを添加、攪拌により溶解し、水酸化ナトリウム水溶液(沈殿剤水溶液)を調製した。別のポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水200mlに、塩化鉄(II)四水和物10.0g、塩化ニッケル(II)六水和物12.2gおよび塩化マンガン(II)四水和物10.1gを添加、攪拌により溶解し、鉄、ニッケルおよびマンガンを含有する混合水溶液を得た。前記沈殿剤水溶液を攪拌しながら、これに前記混合水溶液を添加することにより、沈殿物が生成したスラリーを得た。次いで、該スラリーを、ろ過し、蒸留水で洗浄し、固形分を回収した。該固形分を100℃で乾燥して沈殿物を得た。沈殿物と炭酸ナトリウムとをモル比でFe:Na=0.33:1となるように秤量した後、メノウ乳鉢を用いてこれらを乾式混合して混合物を得た。次いで、該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中750℃で6時間保持して焼成を行い、室温まで冷却し、複合金属酸化物4を得た。
【0074】
(2)複合金属酸化物の評価
複合金属酸化物4の粉末X線回折測定の結果、複合金属酸化物4の結晶構造は、α−NaFeO2型の結晶構造に帰属したが、不純物相が観測され、単相ではないことがわかった。このα−NaFeO2型結晶構造の(104)面の面間隔は2.170Åであった。ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析により、複合金属酸化物4の組成を分析したところ、Na:Fe:Ni:Mnのモル比は1:0.33:0.34:0.33であった。複合金属酸化物4を0.5g秤量し、窒素気流中150℃で、15分間乾燥した後、マイクロメリテックス製フローソーブII2300を用いて、複合金属酸化物4のBET比表面積を測定したところ、8.6m/gであった。
【0075】
(3)ナトリウム二次電池の評価
複合金属酸化物4を用いて電極を作製し、該電極を正極として用いて、ナトリウム二次電池4を作製した。上記充放電条件で、ナトリウム二次電池4の充放電性能評価を行ったところ、充放電可能であり、相対エネルギー密度は109であった。
【0076】
比較例2(Na:Fe:Ni:Mn=1:0.05:0.475:0.475)
(1)複合金属酸化物の製造
炭酸ナトリウム(Na2CO3:和光純薬工業株式会社製:純度99.8%)、酸化マンガン(IV)(MnO2:株式会社高純度化学研究所製:純度99.9%)、酸化鉄(II、III)(Fe34:株式会社高純度化学研究所製:純度99%)および酸化ニッケル(II)(NiO:株式会社高純度化学研究所製:純度99%)を、Na:Fe:Ni:Mnのモル比が1:0.05:0.475:0.475となるように秤量し、これらを乾式ボールミルで4時間にわたって混合して、混合物を得た。混合物を、アルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中900℃で6時間保持することにより、該混合物を焼成し、室温まで冷却し、複合金属酸化物5を得た。
【0077】
(2)複合金属酸化物の評価
複合金属酸化物5の粉末X線回折測定の結果(ここでは測定角度範囲を10〜60°とした。)、複合金属酸化物5の結晶構造は、α−NaFeO2型の結晶構造に帰属したが、不純物相が観測され、単相ではないことがわかった(図4)。このα−NaFeO2型結晶構造の(104)面の面間隔は2.154Åであった。
【0078】
(3)ナトリウム二次電池の評価
複合金属酸化物5を用いて電極を作製し、該電極を正極として用いて、ナトリウム二次電池5を作製した。上記充放電条件で、ナトリウム二次電池5の充放電性能評価を行ったところ、充放電可能であることがわかった。しかしながら、ナトリウム二次電池5のエネルギー密度はナトリウム二次電池1のそれに比して小さかった。
【0079】
実施例4(Na:Fe:Ni:Mn=1:0.2:0.4:0.4)
(1)複合金属酸化物の製造
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水300mlに、水酸化カリウム44.9gを添加、攪拌により溶解し、水酸化カリウム水溶液(沈殿剤水溶液)を調製した。別のポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水300mlに、塩化鉄(II)四水和物7.95g、塩化ニッケル(II)六水和物19.0gおよび塩化マンガン(II)四水和物15.8gを添加、攪拌により溶解し、鉄、ニッケルおよびマンガンを含有する混合水溶液を得た。前記沈殿剤水溶液を攪拌しながら、これに前記混合水溶液を添加することにより、沈殿物が生成したスラリーを得た。次いで、該スラリーを、ろ過し、蒸留水で洗浄し、固形分を回収した。該固形分を100℃で乾燥して沈殿物を得た。沈殿物と炭酸ナトリウムとをモル比でFe:Na=0.2:1となるように秤量した後、メノウ乳鉢を用いてこれらを乾式混合して混合物を得た。次いで、該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中900℃で6時間保持することにより、該混合物を焼成し、室温まで冷却し、複合金属酸化物6を得た。
【0080】
(2)複合金属酸化物の評価
複合金属酸化物6の粉末X線回折分析の結果(ここでは測定角度範囲を10〜60°とした。)、複合金属酸化物6の結晶構造は、α−NaFeO2型の結晶構造に帰属し、また、不純物相は観測されず、単相であることがわかった(図5)。このα−NaFeO2型結晶構造の(104)面の面間隔は2.163Åであった。ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析により、複合金属酸化物6の組成を分析したところ、Na:Fe:Ni:Mnのモル比は1:0.2:0.4:0.4であった。複合金属酸化物6を0.5g秤量し、窒素気流中150℃で、15分間乾燥した後、マイクロメリテックス製フローソーブII2300を用いて、複合金属酸化物6のBET比表面積を測定したところ、1.1m/gであった。
【0081】
(3)ナトリウム二次電池の評価
複合金属酸化物6を用いて電極を作製し、該電極を正極として用いて、ナトリウム二次電池6を作製した。上記充放電条件で、ナトリウム二次電池6の充放電性能評価を行ったところ、充放電可能であり、相対エネルギー密度は144であった。
【0082】
実施例5(Na:Fe:Ni:Mn=1:0.4:0.3:0.3)
(1)複合金属酸化物の製造
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水700mlに、水酸化カリウム120gを添加、攪拌により溶解し、水酸化カリウム水溶液(沈殿剤水溶液)を調製した。別のポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水700mlに、硫酸鉄(II)七水和物100g、硫酸ニッケル(II)六水和物71.0gおよび硫酸マンガン(II)五水和物65.1gを添加、攪拌により溶解し、鉄、ニッケルおよびマンガンを含有する混合水溶液を得た。前記沈殿剤水溶液を攪拌しながら、これに前記混合水溶液を添加することにより、沈殿物が生成したスラリーを得た。次いで、該スラリーを、ろ過し、蒸留水で洗浄し、固形分を回収した。該固形分を100℃で乾燥して沈殿物を得た。沈殿物と水酸化ナトリウムとをモル比でFe:Na=0.4:1となるように秤量した後、メノウ乳鉢を用いてこれらを乾式混合して混合物を得た。次いで、該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて窒素雰囲気中850℃で12時間保持することにより、該混合物を焼成し、室温まで冷却し、複合金属酸化物7を得た。
【0083】
(2)複合金属酸化物の評価
複合金属酸化物7の粉末X線回折測定の結果、複合金属酸化物7の結晶構造は、α−NaFeO2型の結晶構造に帰属し、また、不純物相は観測されず、単相であることがわかった(図6)。このα−NaFeO2型結晶構造の(104)面の面間隔は2.173Åであった。ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析により、複合金属酸化物7の組成を分析したところ、Na:Fe:Ni:Mnのモル比は1:0.4:0.3:0.3であった。複合金属酸化物7を0.5g秤量し、窒素気流中150℃で、15分間乾燥した後、マイクロメリテックス製フローソーブII2300を用いて、複合金属酸化物7のBET比表面積を測定したところ、1.2m/gであった。
【0084】
(3)ナトリウム二次電池の評価
複合金属酸化物7を用いて電極を作製し、該電極を正極として用いて、ナトリウム二次電池7を作製した。上記充放電条件で、ナトリウム二次電池7の充放電性能評価を行ったところ、充放電可能であり、相対エネルギー密度は154であった。
【0085】
実施例6(Na:Fe:Ni:Mn=1:0.33:0.33:0.33)
(1)複合金属酸化物の製造
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水600mlに、水酸化カリウム40.4gを添加、攪拌により溶解し、水酸化カリウム水溶液(沈殿剤水溶液)を調製した。別のポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水250mlに、塩化鉄(II)四水和物8.20g、塩化ニッケル(II)六水和物9.81gおよび塩化マンガン(II)四水和物8.16gを添加、攪拌により溶解し、鉄、ニッケルおよびマンガンを含有する混合水溶液を得た。窒素雰囲気中で、前記沈殿剤水溶液200mlを攪拌しながら、これに前記混合水溶液200mlを添加することにより、沈殿物が生成したスラリーを得た。次いで、該スラリーを、ろ過し、蒸留水で洗浄し、固形分を回収した。該固形分を100℃で乾燥して沈殿物を得た。沈殿物と炭酸ナトリウムとをモル比でFe:Na=0.33:1となるように秤量した後、メノウ乳鉢を用いてこれらを乾式混合して混合物を得た。次いで、該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中900℃で6時間保持することにより、該混合物を焼成し、室温まで冷却し、複合金属酸化物8を得た。
【0086】
(2)複合金属酸化物の評価
複合金属酸化物8の粉末X線回折測定の結果(ここでは測定角度範囲を10〜60°とした。)、複合金属酸化物8の結晶構造は、α−NaFeO2型の結晶構造に帰属し、また不純物相は観測されず、単相であることがわかった。このα−NaFeO2型結晶構造の(104)面の面間隔は2.167Åであった。ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析により、複合金属酸化物8の組成を分析したところ、Na:Fe:Ni:Mnのモル比は1:33:33:34であった。複合金属酸化物8を0.5g秤量し、窒素気流中150℃で、15分間乾燥した後、マイクロメリテックス製フローソーブII2300を用いて、複合金属酸化物8のBET比表面積を測定したところ、1.3m/gであった。
【0087】
(3)ナトリウム二次電池の評価
複合金属酸化物8を用いて電極を作製し、該電極を正極として用いて、ナトリウム二次電池8を作製した。上記充放電条件で、ナトリウム二次電池8の充放電性能評価を行ったところ、充放電可能であり、相対エネルギー密度は154であった。
【0088】
製造例(積層多孔質フィルムの製造)
(1)耐熱多孔層用塗工液の製造
NMP4200gに塩化カルシウム272.7gを溶解し、さらにパラフェニレンジアミン132.9gを溶解した。得られた溶液に、テレフタル酸ジクロライド243.3gを徐々に添加して重合し、パラアラミドを得て、さらにNMPで希釈して、濃度2.0重量%のパラアラミド溶液を得た。得られたパラアラミド溶液100gに、第1のアルミナ粉末2g(日本アエロジル社製、アルミナC,平均粒子径0.02μm)と第2のアルミナ粉末2g(住友化学株式会社製スミコランダム、AA03、平均粒子径0.3μm)とをフィラーとして計4g添加して混合し、ナノマイザーで3回処理し、さらに1000メッシュの金網で濾過、減圧下で脱泡して、耐熱多孔層用の塗工スラリーを製造した。パラアラミドおよびアルミナ粉末の合計重量に対するアルミナ粉末(フィラー)の重量は、67重量%となる。
【0089】
(2)積層多孔質フィルムの製造および評価
多孔質フィルムとしては、ポリエチレン製多孔質フィルム(膜厚12μm、透気度140秒/100cc、平均孔径0.1μm、空孔率50%)を用いた。厚み100μmのPETフィルムの上に多孔質フィルムを固定し、テスター産業株式会社製バーコーターにより、該多孔質フィルムの上に前記塗工スラリーを塗工した。PETフィルムと塗工された多孔質フィルムを一体にしたまま、貧溶媒である水中に浸漬し、パラアラミド多孔質膜(耐熱多孔層)を析出させた後、溶媒を乾燥させて、PETフィルムをはがして、耐熱多孔層が多孔質フィルムに積層された積層多孔質フィルムを得た。積層多孔質フィルムの厚みは16μmであり、パラアラミド多孔質膜(耐熱多孔層)の厚みは4μmであった。積層多孔質フィルムの透気度は180秒/100cc、空孔率は50%であった。積層多孔質フィルムにおける耐熱多孔層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察をしたところ、0.03〜0.06μm程度の比較的小さな微細孔と0.1〜1μm程度の比較的大きな微細孔とを有することがわかった。なお、積層多孔質フィルムの評価は、以下の(A)〜(C)により行った。
【0090】
(A)厚み測定
積層多孔質フィルムの厚み、多孔質フィルムの厚みは、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。耐熱多孔層の厚みとしては、積層多孔質フィルムの厚みから多孔質フィルムの厚みを差し引いた値を用いた。
(B)ガーレー法による透気度の測定
積層多孔質フィルムの透気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社安田精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレー式デンソメータで測定した。
(C)空孔率
得られた積層多孔質フィルムのサンプルを一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量W(g)と厚みD(cm)を測定した。サンプル中のそれぞれの層の重量(Wi)(iは1からnの整数)を求め、Wiとそれぞれの層の材質の真比重(g/cm3)とから、それぞれの層の体積を求めて、次式より空孔率(体積%)を求めた。
空孔率(体積%)=100×{1−(W1/真比重1+W2/真比重2+・・+Wn/真比重n)/(10×10×D)}
【0091】
上記実施例において、セパレータとして、製造例により得られたような積層多孔質フィルムを用いれば、熱破膜をより防ぐことのできるナトリウム二次電池を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−NaFeO型の結晶構造であり、(104)面の面間隔が2.16オングストローム以上2.18オングストローム未満である以下の式(1)で表される複合金属酸化物。
Na(FexNiyMn1-x-y)O2 (1)
(ここで、xは0.1以上0.6以下であり、yは0を越え0.9未満である。)
【請求項2】
xが0.2以上0.4以下である請求項1に記載の複合金属酸化物。
【請求項3】
BET比表面積が0.1〜5m2/gである請求項1または2に記載の複合金属酸化物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の複合金属酸化物を含有する正極活物質。
【請求項5】
請求項4に記載の正極活物質を含有する正極。
【請求項6】
請求項5に記載の正極を有するナトリウム二次電池。
【請求項7】
セパレータを更に有する請求項6に記載のナトリウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−236117(P2011−236117A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88880(P2011−88880)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】