説明

複数のキノコ類由来の抽出成分を含有する組成物、飲食物、医薬品、並びにその使用

【課題】生体における免疫機能の促進に有用である組成物として、複数のキノコ類由来の抽出成分を含有した組成物を提供すること。
【解決手段】キノコ類であるマツタケ菌糸体由来のものから抽出した成分と、キノコ類であり担子菌類由来のものから抽出した成分として、(1)アガリクス茸由来のものから抽出した成分、(2)マイタケ由来のものから抽出した成分、これら(1)又は/及び(2)とを含有する組成物などを提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のキノコ類由来の抽出成分を含有する組成物に関する。より詳しくは、マツタケ菌糸体由来抽出成分と、担子菌類であるアガリクス茸由来抽出成分又は/及びマイタケ由来抽出成分とを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣病や高齢化に伴う傷害の予防・治療のため、個人が生活習慣を改善し、病気を予防する「ヘルスケア(健康管理)」が求められている。このような社会的背景のもと、生体における免疫機能を高める医薬品や食品などは、前記ヘルスケア(健康管理)に貢献できるとともに、健康改善や健康維持にも有用である。
【0003】
そこで、前記免疫機能を促進するものとして、食用キノコ類が注目されている。該食用キノコ類は医食同源の機能性食材として古くから日本人の健康に貢献しており(例えば、特許文献1参照)、前記食用キノコ類には、多糖体(例えば、α‐グルカンやβ‐グルカン)、たんぱく質、ステロイド類、食物繊維及び不飽和脂肪酸などの生理活性物質が多様に含まれているからである。従って、食用キノコ類は免疫機能を促進する有用な食品の一つといえる。例えば、食用キノコ類であるマツタケの抽出物には癌細胞を抑制する抗腫瘍作用がみられる(例えば、特許文献1、及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−210695号公報。
【特許文献2】特開平9−266766号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、食用キノコ類であれば全て等しく免疫機能を促進するというわけではない。キノコの種類によって含有成分や含有量は異なるため、食用キノコが示す免疫機能に関する薬理作用もまちまちだからである。また、食用キノコの種類も数百種類と多いため、免疫機能に与える影響も多様である。その一方で、どの種類の食用キノコを併用すれば前記免疫機能がより有意に向上するかという「組み合わせ」についての十分な知見は得られていない。
【0005】
そこで、本発明は、免疫機能の促進に有用である、複数種類のキノコ由来抽出成分を含有した組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
まず、本発明者は、前記キノコ類のなかでも、マツタケ菌糸体由来抽出成分と、担子菌類であるアガリクス茸由来抽出成分又は/及びマイタケ由来抽出成分とを組み合わせることで、それぞれのリンパ球活性や抗腫瘍効果などの薬理活性をより促進することを見出した。従って、本発明では、マツタケ菌糸体由来抽出成分と、担子菌類に属するアガリクス茸由来抽出成分又は/及びマイタケ由来抽出成分とを含有する組成物を提供する。
【0007】
次に、本発明では、免疫機能促進のための有効成分である、マツタケ菌糸体由来抽出成分と、担子菌類に属するアガリクス茸由来抽出成分又は/及びマイタケ由来抽出成分とを含有する飲食物並びに医薬品を提供する。
【0008】
さらに、本発明では、マツタケ菌糸体由来抽出成分と、担子菌類に属するアガリクス茸由来抽出成分又は/及びマイタケ由来抽出成分とを組み合わせた免疫機能促進のための使用を提案する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マツタケ菌糸体由来抽出成分と、担子菌類に属するアガリクス茸由来抽出成分又は/及びマイタケ由来抽出成分とを含有した組成物を用いることで免疫機能をより促進することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、示される各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0011】
本発明に係る「マツタケ菌糸体由来抽出成分」とは、菌糸体(いわゆる地中の菌糸の部位)そのものからの抽出成分に限定せず、菌糸体由来のものからの抽出成分も含まれる意である。また、菌糸の集合状態についても限定されない。さらに、本発明において抽出の方法については特に限定されない。例えば、熱水抽出によってもよいし、アルコール抽出やアルカリ溶液抽出などによってもよい。好ましくは、熱水抽出であって、その抽出温度は90℃〜100℃であって、抽出時間は2〜3時間が望ましい。
【0012】
本発明に係る「アガリクス茸由来抽出成分」及び「マイタケ由来抽出成分」とは、アガリクス茸由来、あるいはマイタケ由来の抽出成分を含む意である。例えば、担子菌類の子実体(いわゆる地上に現れているキノコの形状の部位)、菌糸体あるいは胞子などからの直接抽出成分に限定せず、これら由来のものからの抽出成分も含まれる。また、前記同様に抽出の方法についても特に限定されない。例えば、熱水抽出によってもよいし、アルコール抽出やアルカリ溶液抽出などによってもよい。好ましくは、熱水抽出であって、その抽出温度は90℃〜100℃であって、抽出時間は2〜3時間が望ましい。
【0013】
また、本発明は、「マツタケ菌糸体由来抽出成分」と「アガリクス茸由来抽出成分」との2成分のみを、あるいは「マツタケ菌糸体由来抽出成分」と「マイタケ由来抽出成分」との2成分のみを含有するものに限定するものではない。例えば、「マツタケ菌糸体由来抽出成分」と「アガリクス茸由来抽出成分」と「マイタケ由来抽出成分」との3成分を含有したものであってもよい。
【0014】
そして、本発明に係る「組成物」には、前記マツタケ菌糸体由来抽出成分と、前記アガリクス茸由来抽出成分又は/及び前記マイタケ由来抽出成分とについてこれらを少なくとも含有するものが全て含まれる。
【0015】
また、本発明に係る「飲食物」には、免疫機能を促進する前記マツタケ菌糸体由来抽出成分と、前記アガリクス茸由来抽出成分又は/及び前記マイタケ由来抽出成分とについてこれらを少なくとも含有するものが全て含まれる。
【0016】
さらに、本発明に係る「飲食物」とは、その形態などについて限定するものではない。例えば、飲料、流動食、チューインガム、鼻から吸引させる吸入剤、うがい薬、あるいはカプセルに配合された形態などであってもよい。例えば、前記マツタケ菌糸体由来抽出成分と、前記アガリクス茸由来抽出成分又は/及び前記マイタケ由来抽出成分とを配合したキノコ抽出成分配合品を調製し、これに飲料水やほうじ茶などを添加してキノコエキス入りお茶とする「飲食物」なども可能である。
【0017】
加えて、本発明に係る「医薬品」とは、その形態などについて限定するものではない。例えば、散剤、錠剤などの剤形とすることも可能である。また、経口用剤、注射用剤として用いることも可能である。
【実施例1】
【0018】
実施例1では、食用キノコ類子実体の熱水抽出物の調製を行った。
【0019】
市販のマツタケ子実体250 gを凍結乾燥して水分を除去した。その後、粉砕して粉末35 gを得た。該粉末のうち20 gに純水800 mLを加えて攪拌した後に、93 ℃〜98 ℃のウォーターバス中で3 時間抽出した。抽出終了後、室温まで冷却し遠心分離(12000 rpm, 20 分間, 4 ℃)によって上清を回収し、抽出残さに純水500 mLを加え、再び同様の処理を行った。この操作を3 回行い、各操作で得られた上清を混合した後、分子量3500 分画の透析膜(Spectra/Por 3 Membrane; Spectrum)に入れ、水道水の流水中で2 日間透析した。その後、該透析膜内液を濃縮した後、凍結乾燥を行い、粉末1.12 gを得た。
【0020】
マツタケ以外の食用キノコ子実体19 種類についても前記同様の処理を行い、それぞれ粉末を得た。キノコの種類及びその収率(対乾燥菌体質量%)を表1に示す。
【0021】
【表1】

【実施例2】
【0022】
実施例2では、マツタケ菌糸体の熱水抽出物の調製を行った。
【0023】
株式会社クレハ・生物医学研究所で所有しているマツタケ菌糸体を滅菌済み培地(3 %グルコース, 0.3 %酵母エキス, pH 6.0)100 mLの入ったフラスコ10 本に接種し、22 ℃で250 rpmの振盪培養機で4週間培養を行った。得られた培養物をホモゲナイザーにかけた後、攪拌して93 ℃〜98 ℃のウォーターバス中で3 時間抽出した。抽出終了後、室温まで冷却し遠心分離(12000 rpm, 20分間, 4 ℃)によって上清を回収し、抽出残さに純水500 mLを加え、再び同様の処理を行った。この操作を3 回行い、各操作で得られた上清を混合した後、分子量3500 分画の透析膜(Spectra/Por 3 Membrane; Spectrum)に入れ、水道水の流水中で3 日間透析した。そして、該透析膜内液を濃縮した後、凍結乾燥を行い、粉末3.9 gを得た。
【実施例3】
【0024】
実施例3では、腫瘍移植マウスの腸管リンパ球活性に及ぼす影響について検討した。
【0025】
具体的には、実施例1及び実施例2で得られた抽出物を腫瘍移植マウスに経口投与して、前記腫瘍移植マウスの腸管リンパ球のキラー活性誘導に及ぼす影響を調べた。その手法は以下の手順で行った。
【0026】
<使用したマウス>
【0027】
雌性DBA/2マウス(日本エスエルシー製)を予備飼育して8 週齢で用いた。腫瘍細胞B7/P815細胞は10 %牛胎児血清(56 ℃で30 分間の熱処理済)添加RPMI1640培地中で、株式会社クレハ・生物医学研究所にて継代維持しているものを用いた。
【0028】
<エフェクター細胞の調製>
【0029】
エフェクター細胞は、以下の手順で調製した。前記マウスにペントハルビタール(大日本住友製薬製)50 mg/kgを腹腔内投与し、該マウスを麻酔状態にして固定した。そして、前記マウスの腹部を開腹して盲腸部を取り出し、腫瘍細胞B7/P815細胞(1×10個/50μL)を盲腸壁下に移植した後に閉腹した。その後、該マウスを通常の飼育環境下で飼育した。そして、腫瘍細胞移植翌日から、各サンプルを連日10 日間経口投与した(1群あたり5匹)。
【0030】
最終投与の翌日にマウスをと殺し、腸間膜リンパ節を無菌的に取り出し、ハンクス平衡塩類溶液を入れた無菌シャーレに移した。そして、はさみとピンセットで前記腸間膜リンパ節をほぐした後、メッシュを通してリンパ球の単細胞液を調整した。そして、10 %牛胎児血清(56 ℃で30 分間の熱処理済)添加RPMI1640培地で細胞を3 回洗浄した。その後、10 %牛胎児血清(56 ℃で30 分間の熱処理済)、2-メルカプトエタノール(5×10-5 mol/L)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(20 mmol/L)、及びゲンタマイシン(30 μg/mL)をそれぞれ添加したRPMI1640培地において細胞濃度を5×106cells/mLに調整し、これをエフェクター細胞として用いた。
【0031】
<刺激細胞の調製>
【0032】
刺激細胞は、以下の手順で調製した。P815又はB7/P815細胞を血清フリーのRPMI1640培地中に5×106 cells/mL濃度で懸濁し、マイトマイシンC(Sigma Aldrich製)を50 μg/mLになるように加えた。そして、5 %炭酸ガス培養器中で30 分間反応させた後、10 %牛胎児血清(56 ℃で30 分間の熱処理済)添加RPMI1640培地で細胞を3 回洗浄した。こうして得られた前記細胞の細胞濃度を1×105 個/mLに調整した。
【0033】
<MLR>
【0034】
第一に、混合リンパ球・腫瘍細胞反応(Mixed Lymphocyte Tumor cell Reaction; MLR)に対する効果について検討した。その手法は以下の手順で行った。
【0035】
96 ウエルの細胞培養平底マイクロプレート(Falcon(登録商標)3072, Becton Dickinson Labware製)に、前記エフェクター細胞又は前記刺激細胞を0.1 mLずつ加え、炭酸ガス培養器中で3 日間培養し、細胞をフィルター上に回収した。なお、エフェクター細胞と刺激細胞の両方を加える場合には、両者の細胞比(エフェクター細胞数/刺激細胞数)が12.5となるように設定した。本実施例では、前記エフェクター細胞が混合リンパ球・腫瘍細胞反応における「リンパ球」として機能し、前記刺激細胞が「腫瘍細胞」として機能するものである。
【0036】
そして、培養終了の24 時間前に、プレートの各ウエルにH−チミジン(Amersham製)37 kBqをマーカーとして加えた。そして、回収した細胞を5 %トリクロロ酢酸で十分に洗浄した後、前記トリクロロ酢酸を乾燥させて液体シンチレーションカウンターを用いて放射活性を測定した。
なお、本実施例で評価指標として用いたスティミュレーション・インデックス(Stimulation Index; S.I.)は、「数1」に示す式を用いて算出した。
【0037】
【数1】

【0038】
<MLR−CMC>
【0039】
第二に、混合リンパ球・腫瘍細胞の混合培養反応による細胞傷害活性誘導反応(Lymphocyte Tumor cell Mixed culture-induced Cytotoxicity; MLR-CMC)について検討した。その手法は以下の手順で行った。
【0040】
24 ウエルの細胞培養用マイクロプレート(Costar(登録商標) 3524, Corning Inc.製)に、前記エフェクター細胞及び前記刺激細胞(エフェクター細胞数/刺激細胞数=12.5)を1.0 mLずつ加え、5 %炭酸ガス培養器中で3日間培養した。培養終了後、細胞を回収して10 %牛胎児血清(56 ℃で30 分間の熱処理済)添加RPMI1640培地で3 回洗浄した。そして、顕微鏡を用いて細胞懸濁液中のエフェクター細胞数のみを計数し、エフェクター細胞濃度を2.5×106cells/mLに調整した。
【0041】
次に、別途用意したP815細胞を、放射性クロム標識である51Cr−クロム酸ナトリウム(Amersham製)とともに37 ℃で20 分間反応させた。未結合の放射性物質を10 %牛胎児血清(56 ℃で30 分間の熱処理済)添加RPMI1640培地で3 回洗浄することにより除去し、放射性クロム標識腫瘍細胞を5×104cells/mLになるよう調整した。
【0042】
前記エフェクター細胞又はその2 倍希釈系列と放射性クロム標識腫瘍細胞とを試験管に0.1 mLずつ加え、37 ℃の5 %炭酸ガス培養中で4 時間反応させた。反応終了後、10 %牛胎児血清(56 ℃で30 分間の熱処理済)添加RPMI1640培地をそれぞれの試験管に1.5 mLずつ加え、ミキサーでよく混合した後、遠心分離(1200 rpm, 5 分間, 4 ℃)して上清を分離し、その放射能をガンマカウンターにより測定した。
【0043】
なお、本実施例で評価指標として用いた特異的傷害率(Specific Lysis; S.L.)は、「数2」に示す式を用いて算出した。また、本実施例において、自然遊離群とは、放射性クロム標識腫瘍細胞単独培養群を意味し、最大遊離群とは、トリトン処置放射性クロム標識腫瘍細胞群を意味する。
【0044】
【数2】

【0045】
実施例1及び実施例2で調整したサンプルについて、MLR及びMLR−CMCについての結果を表2に示す。これらはいずれもエフェクター細胞数/腫瘍細胞数の細胞比が12.5のときの値である。なお、コントロール群には純水0.2 mLを経口投与した。また、表2において、「*」は前記コントロール群に対してp < 0.05で有意差のあることを示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2の結果から、マツタケ子実体抽出物及びマツタケ菌糸体抽出物のサンプル投与群(表2; No.17, No.21参照)において、MLR及びMLR−CMCのいずれについても有意の増強がみられた。従って、マツタケ子実体抽出物及びマツタケ菌糸体抽出物は、腫瘍移植マウスの腸管リンパ球活性に関して有用な影響を及ぼすことが示唆された。
【実施例4】
【0048】
実施例4では、キノコ類由来抽出物の混合物が腸管リンパ球キラー活性誘導に及ぼす影響について検討した。その手法は以下の手順で行った。
【0049】
BA/2マウスの盲腸壁にB7/P815腫瘍細胞を移植し、翌日からマツタケ菌糸体と各種キノコ子実体抽出物の混合物を連日10 日間経口投与した。その際、それぞれの投与量が500 mg/kg/日となるように前記混合物を調製した。そして、最終投与の翌日に腸管膜リンパ節細胞を取り出し、実施例3と同様に試験管内で腫瘍細胞と培養後、キラー活性を評価した。その結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
500 mg/kg及び1000 mg/kgのマツタケ菌糸体抽出物単独投与の活性値(コントロール群を100とした場合)は、それぞれ143 %,151 %であった(表3; No.1参照)。一方、キノコ類抽出物の混合物投与群のうち、マツタケ菌糸体抽出物単独投与(表3;No.1参照)に比して明らかな促進効果がみられたのは、アガリクス子実体抽出物併用群(表3; No.2: 169 %参照)、及びマイタケ子実体抽出物併用群(表3; No.17: 174 %参照)である。その他の混合物投与群の活性値は、139 %〜159 %の範囲であり、マツタケ菌糸体抽出物単独群(表3; No.1: 151 %参照)と比して特に有意な促進効果はみられなかった。
【実施例5】
【0052】
実施例5では、実施例4においてマツタケ菌糸体抽出物との併用効果がみられたアガリクス茸子実体抽出物とマイタケ子実体抽出物とについて、その配合比がキラー活性誘導に及ぼす影響について検討した。その手法は以下の手順で行った。
【0053】
マウス群の構成は、合計4 投与群とした。具体的には、盲腸壁にB7/P815腫瘍細胞を移植したDBA/2マウスに対し、移植翌日からサンプルを連日10 日間経口投与した(1 群当りマウス5 匹)。投与群の内訳は、「マツタケ菌糸体抽出物:キノコ子実体抽出物」=「500 mg/kg: 125 mg/kg」群、「500 mg/kg: 250 mg/kg」群、「500 mg/kg: 500 mg/kg」群、「500 mg/kg: 1000 mg/kg」群の合計4 投与群である(表4参照)。
【0054】
サンプル群には、合計4 種類のキノコ類を使用した。具体的には、マツタケ菌糸体抽出物単独(表4; No.1〜No.4参照)、アガリクス子実体抽出物併用(表4; No.5〜No.8参照)、マイタケ子実体抽出物併用(表4; No.9〜No.12参照)、及びハナビラタケ子実体抽出物併用(表4; No.13〜No.16参照)のサンプル群について、それぞれ前記4 投与群の有意な配合条件について検討した。その結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
マツタケ菌糸体抽出物単独投与群(表4; No.1〜No.4参照)のキラー活性値は140 %〜154 %であったが、投与量対効果などの観点から500 mg投与群のキラー活性値140 %(表4; No.1参照)を基準値として、以下の配合の効果について評価した(表4; No.5〜No. 16参照)。
【0057】
アガリクス茸子実体抽出物併用群(表4; No.5〜No.8参照)については、マツタケ菌糸体抽出物との配合比が「500 mg/kg: 250 mg/kg」の場合が最大のキラー活性値179 %(表4; No.6参照)が得られた。
【0058】
次に、マイタケ子実体抽出物併用群(表4; No.9〜No.12参照)についても、マツタケ菌糸体との配合比が「500 mg/kg: 250 mg/kg」である場合に最大のキラー活性値182 %(表4; No.10参照)が得られた。
【0059】
従って、これらの結果より、マツタケ菌糸体抽出物との重量比率が2: 1となる配合比が、アガリクス茸子実体抽出物及びマイタケ子実体抽出物ともに有効であることが示唆された(表4; No.6, No.10参照)。
【0060】
なお、陰性対照のハナビラタケ子実体抽出物群については、キラー活性の増強はほとんどみられなかった(表4; No.13〜No.16参照)。
【実施例6】
【0061】
実施例6では、実施例4及び実施例5においてマツタケ菌糸体抽出物との併用効果がみられたアガリクス茸子実体抽出物とマイタケ子実体抽出物について、これらを併用した際の抗腫瘍効果について検討した。その手法は以下の手順で行った。
【0062】
サンプル群として、マツタケ菌糸体抽出物とアガリクス茸子実体抽出物とを2: 1の重量比率で配合した混合物、及びマツタケ菌糸体抽出物とマイタケ子実体抽出物とを2: 1の重量比率で配合した混合物をそれぞれ用いた。そして、8 週齢のマウスに、MehA繊維肉腫細胞1×106 cellsを皮下移植し、翌日からサンプルを1500 mg/kg/日の投与量で連日42 日間経口投与した。続いて、45 日目に前記マウスから腫瘍結節を摘出してその重量を測定し、「数3」に示す式から増殖抑制率を算出した。その結果を表5に示す。
【0063】
【数3】

【0064】
【表5】

【0065】
マツタケ菌糸体抽出物、アガリクス茸子実体抽出物及びマイタケ子実体抽出物の各単独投与群の腫瘍増殖抑制率は、それぞれ25.2 %, 9.6 %, 19.3 %であった(表5; No.2, No.3, No.4参照)。一方で、マツタケ菌糸体抽出物とアガリクス茸子実体抽出物の併用群(表5; No.5参照)では51.8 %に達し、腫瘍増殖抑制は明らかに増強された。また、マツタケ菌糸体抽出物とマイタケ子実体抽出物の併用群(表5; No.6参照)でも60.0 %に達し、腫瘍増殖抑制は明らかに増強された。
【実施例7】
【0066】
次に、実施例7では、マツタケ菌糸体抽出物とアガリクス茸子実体抽出物(又はマイタケ子実体抽出物)との混合物における抗腫瘍活性について検討した。その手法は以下の手順で行った。
【0067】
サンプル群として、マツタケ菌糸体抽出物とアガリクス茸子実体抽出物とを2: 1の重量比率で配合した混合物、及びマツタケ菌糸体抽出物とマイタケ子実体抽出物とを2: 1の重量比率で配合した混合物をそれぞれ用いた。そして、雌性BALB/cマウス(n = 5)に、MehA繊維肉腫細胞1×106 cellsを皮下移植し、翌日から前記サンプルを1500 mg/kg/日の投与量で連日9 日間経口投与した。その後、10 日目に2 %澱粉溶液(和光純薬製)1 mLを腹腔内注射して、その2 日後に腹腔慘出細胞(peritoneal exudate cell; PEC)を回収した。該腹腔慘出細胞(PEC)をRPMI1640培地で3 回洗浄の後、10 %ウシ胎児血清加RPMI1640培地で細胞数を5×105cells/mLに調整した。そして、これを培養用シャーレに分注して、37 ℃の5 %炭酸ガス培養器中で1 時間培養した。シャーレ非付着細胞を除いた後、エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid; EDTA)+トリプシン加RPMI1640培地を加えて、シャーレ付着細胞(マクロファージ)を回収した。マクロファージ懸濁液とMehA繊維肉腫細胞(2×104cells/mL)とを、10: 1, 5: 1, 又は2.5: 1の比率で、96 ウエルの培養用プレートに最終液量200 μLになるように分注し、5 %炭酸ガス培養器中にて24 時間培養した。培養終了8 時間前に、プレートの各ウエルにH−チミジン(Amersham製)1.0 μCiを加えて、前記腫瘍細胞に取り込まれた放射能を、液体シンチレーションカウンターを用いて測定した。表6に、その結果を示す。
【0068】
【表6】

【0069】
前記サンプル群のうち、混合投与群(表6; No.5, No.6参照)のマクロファージの抗腫瘍活性は、コントロール群(表6; No.1参照)及び単独投与群(表6; No.2〜No.4参照)に比べて有意に増強された。
【実施例8】
【0070】
実施例8では、キノコ配合品投与によるPECの抗菌活性促進効果について検討した。抗菌活性促進効果としての評価実験は、貪食能、殺菌能、スーパーオキシド生産能について行った。それぞれの評価手法は以下の手順で行った。
【0071】
<サンプル群の調製>
【0072】
サンプル群の調製は以下の手順で行った。まず、マツタケ菌糸体抽出物とアガリクス茸菌糸体抽出物とを2: 1の重量比率で配合した混合物、及びマツタケ菌糸体抽出物とマイタケ子実体抽出物とを2: 1の重量比率で配合した混合物を、8 週齢の雌性BALB/cマウスに前記サンプルを1500 mg/kg/日の投与量で連日20 日間経口投与した。そして、投与21 日目に10 %Proteose Peptone(Difco Lab.製)1 mLをマウスに腹腔内投与し、4 時間後にマウスをと殺し、Netea et al.の方法(Netea, M.G., van Tits, L.J.H., Curfs, J.H.A.J., Amiot, F., Meis, J.F., et al., Increased susceptibility of TNF-α lymphotoxin-α-double knockout mice to systemic candidiasis through impaired recruitment of neutrophils and phagocytosis of Candida albicans. J. Immunol. 1999; 163: 1498-1505.)に準じて腹腔慘出細胞(PEC)を回収した。その後、該腹腔慘出細胞をエンドトキシンフリーのRPMI1640培地で3 回洗浄した後、細胞数を5×105 cells/mLとなるように調整した。続いて、前記腹腔慘出細胞1 mLと、別途調整した5×104CFU/mLのCandida albicans IFO1060株(以下、カンジダ菌という。)懸濁液1 mLとを、10: 1の比率で培養用試験管に混合して、37 ℃の5 %炭酸ガス培養器中で培養した。
【0073】
<貪食能評価実験>
【0074】
貪食能の評価実験では、まず、培養開始5 分後に、前記試験管を培養器から取り出し、リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline; PBS)で該細胞を2 回洗浄した。その際、細胞がカンジダ菌を貪食し、付着していないことを顕微鏡であらかじめ確認した後、0.01 %ウシ血清アルブミン(Sigma Aldrich製)含有溶液中で細胞を溶解させ、PBSの10 倍希釈系列を作成した。それぞれの希釈液をサブロー培地入りシャーレに蒔き、37 ℃で24 時間培養してその生成コロニーを計数した。
【0075】
<殺菌能評価実験>
【0076】
殺菌能の評価実験では、培養開始15 分後に試験管を培養器から取り出し、前記同様の方法でPBSの10 倍希釈系列を作成し、37 ℃で24 時間培養してその生成コロニーを計数した。
【0077】
<スーパーオキシド産生能評価実験>
【0078】
スーパーオキシド産生能の評価実験では、まず、2×105 PECと50 μMのCLM-phenyl(東京化成製)を試験管に分注し、0.25 %のヒト血清アルブミン含有のハンクス平衡塩類溶液で液量を175 μLに調整した。そして、400 ng/mLのphorbol 12-myristate 13-acetate(PMA、Sigma Aldrich製)溶液25μLを加え、20 ℃で反応させ、蛍光光度計(Aloka製)を用いて経時的に蛍光強度を測定した。表7に、各評価実験の結果を示す。
【0079】
【表7】

【0080】
前記サンプル混合物のうち、マツタケ菌糸体抽出物とアガリクス茸子実体抽出物の投与群(表7; No.5参照)、又はマツタケ菌糸体抽出物とマイタケ子実体抽出物の投与群(表7; No.6参照)では、貪食能評価、殺菌能評価及びスーパーオキシド生産能評価のいずれにおいてもコントロール群(表7; No.1参照)及び単独投与群(表7; No.2〜No.4参照)に比べて有意に増強された。
【0081】
従って、本実施例によって、マツタケ菌糸体抽出物とアガリクス茸子実体抽出物(又はマイタケ子実体抽出物)との併用が、PECの抗菌活性の増強に有用であることが示唆された(表7; No.5, No.6参照)。
【実施例9】
【0082】
実施例9では、キノコ配合品投与によるカンジダ菌感染防御の増強作用について検討した。その手法は以下の手順で行った。
【0083】
サンプルとして、マツタケ菌糸体抽出物とアガリクス茸菌糸体抽出物を2: 1の重量比率で配合した混合物、及びマツタケ菌糸体抽出物とマイタケ子実体抽出物を2: 1の重量比率で配合した混合物をそれぞれ用いた。そして、8 週齢の雌性BALB/cマウスに、前記サンプルを1500 mg/kg/日の投与量で連日20 日間経口投与した。続いて、21 日目に、株式会社クレハ・生物医学研究所にて維持しているカンジダ菌Candida albicans IFO1060株の1.0×106 cells/匹を静脈内接種し、その後の生死を経時的に観察した。表8に、その結果を示す。
【0084】
【表8】

【0085】
前記サンプル混合物のうち、マツタケ菌糸体抽出物とアガリクス茸子実体抽出物の投与群(表8; No.5参照)、又はマツタケ菌糸体抽出物とマイタケ子実体抽出物の投与群(表8; No.6参照)の生存期間は、コントロール群(表8; No.1参照)及び単独投与群(表8; No.2〜No.3参照)に比べて有意に延長された。
【0086】
従って、本実施例によって、マツタケ菌糸体抽出物とアガリクス茸子実体抽出物(又はマイタケ子実体抽出物)との併用が、カンジダ菌感染防御の増強作用に有用であることが示唆された(表8; No.5, No.6参照)。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、キノコ類由来の抽出成分を含有する組成物などであり免疫機能の促進に有用である。そして、本発明は、前記組成物並びに飲食物や医薬品などに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツタケ菌糸体由来抽出成分と、
次の(1)又は/及び(2)の担子菌類由来抽出成分とを含有する組成物。
(1)アガリクス茸由来抽出成分。
(2)マイタケ由来抽出成分。
【請求項2】
免疫機能促進のための有効成分である、マツタケ菌糸体由来抽出成分と、
次の(1)又は/及び(2)の担子菌類由来抽出成分とを含有する飲食物。
(1)アガリクス茸由来抽出成分。
(2)マイタケ由来抽出成分。
【請求項3】
免疫機能促進のための有効成分である、マツタケ菌糸体由来抽出成分と、
次の(1)又は/及び(2)の担子菌類由来抽出成分とを含有する医薬品。
(1)アガリクス茸由来抽出成分。
(2)マイタケ由来抽出成分。
【請求項4】
マツタケ菌糸体由来抽出成分と、
次の(1)又は/及び(2)の担子菌類由来抽出成分とを組み合わせた免疫機能促進のための使用。
(1)アガリクス茸由来抽出成分。
(2)マイタケ由来抽出成分。

【公開番号】特開2007−169227(P2007−169227A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370986(P2005−370986)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】