説明

複数の電動機の駆動装置及び該装置の制御方法

【課題】複数の電動機をそれぞれの制御手段により電気的に同期させつつ駆動制御する駆動装置において、ある制御手段に異常が発生した場合でも、健全な制御手段により前記複数の電動機を同期させるように駆動制御可能な複数の電動機の駆動装置を提供する。
【解決手段】複数の交流モータ1−A、1−Bと、前記各交流モータの回転速度/回転位置を検出するエンコーダ2−A、2−Bと、速度指令部5からの共通の速度指令によりそれぞれのエンコーダ信号をフィードバックしてそれぞれのモータを駆動する複数の制御装置A、Bと、が備えられる。かかる構成において、複数の制御装置A、Bのうちのある制御装置が異常になった場合、駆動回路を切り換えて、健全な制御装置で複数の交流モータ1−A、1−Bを同期駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電動機の駆動を制御する駆動装置及び該装置の制御方法に関する。より詳細には、各電動機に対応して設けられる各制御装置の何れかが故障等し異常が発生した場合の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば複数の電動機で負荷を駆動する装置において、各電動機に対応して設けられる制御装置や電力変換装置に異常等が生じた場合の制御技術として、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されているものがある。
特許文献1に記載されるものは、2つの電動機(6相誘導電動機)を備え、各電動機に対応してPWM制御回路及び電力変換器をそれぞれ備えたシステムにおいて、一方のPWM制御回路が故障等により異常となった場合、健全側のPWM制御回路を介して2つの電力変換装置及び電動機を同期させつつ駆動して、運転を継続しようとするものである。
【0003】
特許文献2に記載されるものは、一のインバータが故障等により異常となった場合、これを切り離し、健全側のインバータで複数の電動機を駆動し、運転を継続しようとするものである。
【0004】
【特許文献1】特開平7−315712号公報
【特許文献2】特開平7−194187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のものは、複数の電動機の駆動軸が機械的に回転連結されているような場合には有効であるが、複数のモータが機械的に回転連結されておらず、電気的にのみ接続されて同期をとって運転して負荷を駆動する装置へそのまま適用することは困難であるといった実情がある。
【0006】
また、特許文献2に記載のものにおいても、電気的にのみ接続されている複数モータを互いに同期をとって運転継続できるかどうかの保証はなされていないのが実情である。
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑みなされたもので、複数の電動機をそれぞれの制御手段により電気的に同期させつつ駆動制御する駆動装置において、ある制御手段に異常が発生した場合でも、健全な制御手段により前記複数の電動機を同期させるように駆動制御可能な複数の電動機の駆動装置及び当該装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本発明は、
相互に機械的に回転連結されていない複数の電動機と、
対応する電動機の運転状態(例えば、回転速度や回転位置など)に関連する情報を取得する情報取得手段と、
前記複数の電動機のそれぞれに対応して備えられ、駆動指令に基づいて対応する電動機を駆動制御すると共に、前記情報取得手段により取得される情報をフィードバック情報として利用して、前記複数の電動機の運転を同期させるように前記駆動指令に対して補正を与えるフィードバック機能を備えた複数の制御手段と、
を含んで構成される複数の電動機の駆動装置であって、
前記複数の制御手段のうちのある制御手段が異常になった場合に、対応する電動機の当該異常になった制御手段による駆動制御を停止すると共に、健全な制御手段を介して前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を同期させて運転することを特徴とする。
【0009】
本発明は、前記複数の制御手段のうちのある制御手段が異常になった場合に、駆動回路を切り換えることによって、対応する電動機の当該異常になった制御手段による駆動制御を停止すると共に、当該異常になった制御手段に対応する電動機を、前記健全な制御手段を介して駆動制御される電動機と並列接続することを特徴とすることができる。
【0010】
本発明は、前記複数の制御手段のうちのある制御手段が異常になった場合に、駆動回路を切り換えることによって、対応する電動機の当該異常になった制御手段による駆動制御を停止すると共に、当該異常になった制御手段に対応する電動機を、前記健全な制御手段を介して駆動制御される電動機と直列接続することを特徴とすることができる。
【0011】
本発明は、前記駆動指令と、前記情報取得手段により取得される電動機毎の運転状態に関連する情報と、の偏差が最大となる電動機の運転状態に関連する情報をフィードバック情報として利用して、前記健全な制御手段が、前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を駆動制御することを特徴とすることができる。
【0012】
本発明は、前記情報取得手段により取得される電動機毎の運転状態に関連する情報の平均値をフィードバック情報として利用して、前記健全な制御手段が、前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を駆動制御することを特徴とすることができる。
【0013】
本発明は、前記駆動指令と、前記情報取得手段により取得される電動機毎の運転状態に関連する情報と、の偏差に基づいて、当該偏差が最大となる電動機の運転状態に関連する情報をフィードバック情報として利用するか、或いは前記情報取得手段により取得される電動機毎の運転状態に関連する情報の平均値をフィードバック情報として利用するか、を選択し、選択されたフィードバック情報に基づいて、前記健全な制御手段が、前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を駆動制御することを特徴とすることができる。
【0014】
本発明において、前記健全な制御手段は、前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を駆動制御する際に、負荷を低減するように駆動制御に制限を加えることを特徴とすることができる。
【0015】
本発明において、前記複数の電動機は、車輪の駆動源として利用されることを特徴とすることができる。
本発明において、前記複数の電動機は、搬送装置の駆動源として利用されること特徴とすることができる。
【0016】
また、本発明に係る複数の電動機の駆動装置の制御方法は、
相互に機械的に回転連結されていない複数の電動機と、
対応する電動機の運転状態に関連する情報を取得する情報取得手段と、
前記複数の電動機のそれぞれに対応して備えられ、駆動指令に基づいて対応する電動機を駆動制御すると共に、前記情報取得手段により取得される情報をフィードバック情報として利用して、前記複数の電動機の運転を同期させるように前記駆動指令に対して補正を与えるフィードバック機能を備えた複数の制御手段と、
を含んで構成される複数の電動機の駆動装置の制御方法であって、
前記複数の制御手段のうちのある制御手段が異常になった場合に、対応する電動機の当該異常になった制御手段による駆動制御を停止すると共に、健全な制御手段を介して前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を同期させて運転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡単かつ安価な構成としながら、複数の電動機をそれぞれの制御手段により電気的に同期させつつ駆動制御する駆動装置において、ある制御手段に異常が発生した場合でも、健全な制御手段により前記複数の電動機を同期させるように駆動制御可能な複数の電動機の駆動装置及び当該装置の制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る複数の電動機の駆動装置の一例を示す実施の形態について、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る複数の電動機(例えば、交流モータ)の駆動装置の概略的な全体構成を示す。図1に示したように、本装置には、符号の末尾に符号−Aが付されるA系の装置と、符号の末尾に符号−Bが付されるB系の装置が備えられている。
【0020】
交流モータ1−Aと1−Bは、それぞれの制御装置Aと制御装置Bにより同期をとって運転される。交流モータ1−Aと1−Bには、各モータの回転速度や回転位置を検出するエンコーダ2−Aと2−Bがそれぞれ配設される。
【0021】
制御装置AとBは、速度指令部5から共通の速度指令を受ける。速度指令部5からの速度指令と、エンコーダ2−Aと2−Bによる速度検出信号は、それぞれ速度制御部4−Aと4−Bに入力される。
ここで、前記制御装置A、Bが本発明に係る制御手段に相当し、前記エンコーダ2−A、2−Bが本発明に係る情報取得手段に相当する。
【0022】
速度制御部4−Aと4−Bは、速度指令とそれぞれの速度検出信号の偏差に応じて働き、それぞれの系の変換器3−Aと3−Bを動作させる。変換器3−Aと3−Bとしては、例えば3相PWM(Pulse Width Modulation)インバータが利用される。
【0023】
変換器3−Aからの3相交流出力は、切換装置11−Aを介して交流モータ1−Aに入力される。同様に、変換器3−Bからの3相交流出力は、切換装置11−Bを介して交流モータ1−Bに入力される。また、交流モータ1−Aの端子と1−Bの端子は、切換装置21を介して互いに接続可能に構成される。
【0024】
状態監視制御部6は、速度指令部5やエンコーダ2−A、2−Bの信号が入力され、それぞれの指令信号と検出信号の偏差を監視する。また図示しないが、制御装置AとBの運転状態や異常状態を監視する信号も入力される。
【0025】
次に、図1に示した駆動装置の動作を説明する。
通常の運転状態、すなわち、制御装置AとBに異常がない場合には、図1で示した接続状態により本装置は運転される。
すなわち、切換装置11−Aと11−Bのスイッチは閉状態、切換装置21のスイッチは開状態で、交流モータ1−Aと1−Bはそれぞれの変換器3−Aと3−Bの出力に従って駆動される。このように、制御装置Aは速度指令部5からの速度指令に従って運転され、制御装置Bも制御装置Aと同じ速度指令に従って運転される。制御装置Aと制御装置Bは同一共通の速度指令で運転されるので、互いに電気的に同一速度の運転、すなわち、同期をとって運転される。なお、本例では制御装置AとBに共通の速度指令が入力されて運転されるとしたが、制御装置AとBとで別々の速度指令部を持っても、実質的に常時同じ速度指令が出るように構成されていれば共通の速度指令部を持つことと等価である。
【0026】
ここにおいて、制御装置AまたはBのどちらかに故障等により異常が生じた場合の運転を図2により説明する。
図2において、図1と同様の要素には同一の符号を付している。図2では、制御装置Bに異常が生じてこれを切り離し、健全(正常)な制御装置Aで2つのモータ1−Aと1−Bの運転を継続する例を示す。
【0027】
制御装置Aで運転するため、切換装置11−Aのスイッチは閉状態で図1の場合と同様であるが、切換装置11−Bのスイッチは開状態、切換装置21のスイッチは閉状態に切り換える。このようにすると変換器3−Aにより交流モータ1−Aと1−Bが並列駆動できる。
【0028】
図2に示した状態のとき、状態監視制御部6では、速度指令部5からの速度指令信号とエンコーダ2−Aからの速度検出信号の偏差と、速度指令部5からの速度指令信号とエンコーダ2−Bからの速度検出信号の偏差と、を比較し、より偏差の大きい側のエンコーダからの信号を速度検出信号として速度制御部4−Aに入力する。
【0029】
図3は、上述の状態監視制御部6の構成例を示す。
速度偏差部301−Aは、速度指令部5からの速度指令信号とエンコーダ2−Aからの速度検出信号の偏差を演算する。速度偏差部301−Bは、速度指令部5からの速度指令信号とエンコーダ2−Bからの速度検出信号の偏差を演算する。
【0030】
偏差判定部302は、これらの偏差を比較し、切換部303を動作させ、より偏差の大きい側を速度検出信号として選択すべく切換部303のスイッチを切り換える。図3では、例示としてエンコーダ2−A側(より偏差の大きい側)に切り換えられている。
【0031】
異常検出部305は、制御装置AまたはBの異常を判定し、異常ではない側の制御装置に速度検出信号を送るように切換部304のスイッチを切り換える。図3の例では、制御装置Bが異常なので、速度制御部4−Aに信号を送るように切り換えられている。
なお、上記説明で解るように、制御装置AまたはBに異常が生じていない場合は、エンコーダ2−Aと2−Bからの速度検出信号はそれぞれの速度制御部4−Aと4−Bにそのまま別ルートで送られる。
【0032】
ここで、異常検出は、例えば、各制御装置A、Bに入力される各種信号や制御用電源電圧、各制御装置A、Bから出力される出力信号等をモニタして、異常判定閾値等と比較することにより行なうことができる。また、各スイッチの切換は、異常検出部305の異常検出結果に基づく異常報知等に従い、例えば操作者によるマニュアル操作などにより行なわせることも可能である。
【0033】
上述した偏差判定部302での速度指令信号と速度検出信号の偏差の比較は、次のように行なうことができる。
例えば、瞬時瞬時の状態で比較してもよいし、ある時間間隔で行ってもよい。すなわち、所定の時間間隔で偏差の比較を行なうことができる。
また、定常状態に限らず、例えば速度指令の変更時や加減速時に偏差の比較を行なう構成とすることもできる。
【0034】
更に、図1の正常運転状態において監視、比較を行っておき、その結果(例えば偏差の大きさ)から、異常発生の際に用いるべきエンコーダを予め定めておくようにしてもよい(例えば、異常発生後、実際の偏差が求まるまでの間、フィードフォワード的な制御量として利用することができる)。このような監視、比較は、運転パターンや運転状態、あるいはモータの回転位置に応じて定めておくこともできる。
【0035】
なお、交流モータ1−Aの速度制御を行なう場合、本例を、その回転位置検出が必要な同期モータに適用するときには、エンコーダで検出した回転位置も上記の偏差判定部で選択したエンコーダに対応させて変更することができる。
【0036】
以上のように、本実施の形態では、一方の制御装置に異常が生じた場合、正常な制御装置で複数のモータを運転できるように接続し、さらに制御するための検出信号を選択するようにする。このようにすると、例えば、より負荷の大きい方のモータの状態に合わせて変換器3−Aを動作させるので2台のモータを確実に同期運転させることができる。
【0037】
図4は、状態監視制御部6の他の構成例を示す。
図4では、2台のモータの回転速度の平均値をとって速度検出信号としている。エンコーダ2−Aとエンコーダ2−Bの信号を平均演算部401に入力し、両者の平均値を演算する。平均演算部401の出力を速度検出信号として選択し、速度制御部4−Aまたは4−Bに送る。なお、交流モータ1−Aの速度制御を行なう場合、本例を、その回転位置検出が必要な同期モータに適用するときには、エンコーダで検出した回転位置も、上記同様、上記の偏差判定部で選択したエンコーダを介して得られる平均位置を回転位置検出信号として利用する。
このようにしても、一方の制御装置に異常が生じた場合、正常な制御装置で複数のモータを運転できるように接続し、さらに制御するための検出信号を選択するようにできる。このようにすると、2台のモータの平均状態で変換器を動作させるので2台のモータを確実に同期運転させることができる。
【0038】
ところで、上述した偏差判定部302により、一のモータの速度指令信号と速度検出信号の偏差と、他のモータの速度指令信号と速度検出信号の偏差と、を取得して、一方の偏差が所定以上大きい場合には、対応する一のモータの負荷が所定以上大きいと判断し、また両偏差に大きな相違が無い場合には、両モータの負荷が同じ程度であると判断できるように状態監視制御部6を構成し、その判断結果に応じて、一のモータの負荷が所定以上大きい場合には、図3で示したように負荷の大きい方のモータのエンコーダから得られる情報を用いて同期制御(フィードバック制御)を行なわせる一方、両モータの負荷が同じ程度である場合には、図4で示した平均値を用いて同期制御(フィードバック制御)を行なうように、偏差延いてはモータの負荷に応じて、エンコーダから取得される情報の処理の方法を自動的に選択可能な構成とすることもできる。
このように構成することで、一方の制御装置に異常が発生した場合において、両モータの負荷に応じて最適な駆動制御を行なえることになる。
【0039】
次に、異常状態運転では、同一の変換器から複数台のモータを駆動するので、正常時と同一パターンの運転をしていたのでは変換器の容量等が不足する惧れがある。これを防ぐため、図2のように、異常時は状態監視制御部6から速度指令部5に抑制信号を出すように構成することが考えられる。
【0040】
かかる場合において、速度指令部5では、この抑制信号を受けると、例えば速度指令を負荷を抑制するような指令値に変更したり、或いは/及び加減速時間を引き延ばすような指令を出す。なお、負荷を抑制するように、運転パターン全体に渡って指令を変更したり、所要箇所だけ指令を変更して運転を行なわせることもできる。
このようにして、モータの負荷(トルク)を制限する運転を行なわせることで、変換器に対する負荷を軽減し、容量不足に起因する損傷等から変換器を保護することができることになる。
【0041】
上記説明では状態監視制御部6が制御装置AとBの異常を監視して、どちらかに異常が生じた場合、上記のように制御系を切り換えて駆動する場合について示したが、制御装置の異常監視は他の装置で実施してもよい。また、異常が生じたこと、そして、制御系を切り換えることを上位の制御装置や表示装置などにより表示し、装置管理者に知らせるようにすることができる。
【0042】
ここでは、2台の複数モータからなる装置について説明したが、モータ数が3台以上の場合でも成立するものである。また、制御装置異常時に複数モータは同じ変換器から駆動されるので、基本的に同期運転を行なう交流モータとし、交流モータとしては誘導モータ、同期モータ、ステッピングモータ、リラクタンスモータが適用できる。なお、交流モータに限らず、エンコーダからの情報に基づいてフィードバック制御等により複数モータを同期させつつ駆動制御可能なモータであれば、例えば、変換器等の換わりに、速度制御部からのPWM信号等が入力される駆動回路等が備えられる直流サーボモータ等の直流モータにも適用可能である。
【0043】
更に、図1と2の例は、制御装置AとBは速度制御を行なう例について示したが、速度指令部5を位置指令部とし、速度制御部5−Aと5−Bをそれぞれ位置制御部に変更して、エンコーダ2−A、2−Bの回転位置信号を利用して系全体を位置制御する方式とする場合にも、本発明は適用可能である。この場合、状態監視制御部6での演算の偏差判定は位置偏差の判定であり、或いは、平均演算は位置の平均値の演算である。なお、位置制御系として構成するとき、交流モータの回転取付位置を電気的に一致させておいた方がよい。
【0044】
以上説明したように、複数台のモータが電気的に互いに同期をとって運転する装置であれば本発明の意図するところは適用できるが、図1の装置の例で言えば、A系とB系の装置構成仕様が同一であり、また、モータ1−Aと1−Bで駆動される負荷特性もほぼ同一特性である場合の方がより効果が発揮できる。
【0045】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る接続例を示す。図5において、図1と同様の要素には同一の符号を付している。
【0046】
異常判定後の主回路接続を図1では、図2のようにモータを並列接続して変換器に接続したが、図5では、図6のようにモータを直列接続して変換器に接続する。制御装置AまたはBの異常の際に、2台のモータ501−Aと501−Bを直列接続して運転するため、変換器3−Aからの3相交流出力は切換装置511−Aを介して交流モータ501−Aの一方に端子に接続される。同様に、変換器3−Bからの3相交流出力は切換装置511−Bを介して交流モータ501−Bの一方の端子に接続される。更に、交流モータ501−Aと501−Bの他端子は切換装置512に接続される。通常の運転、すなわち、正常時は図5のように各切換装置は接続されており、図1と全く同じ動作をし、2台のモータは同期をとって運転される。
【0047】
ここにおいて、制御装置AまたはBのどちらかに異常が生じた場合の主回路接続を図6により説明する。
図6は、制御装置Bに異常が生じてこれを切り離し、制御装置Aで2つのモータ501−Aと501−Bの運転を継続する例を示し、図5の主回路接続を異常の際における接続例として示したものである。
【0048】
切換装置511−Aの接続状態は図5と同様であるが、切換装置511−Bと切換装置512の接続状態を図6に示したように切り換える。このようにすると、変換器3−Aにより交流モータ501−Aと501−Bを直列駆動できる。制御装置の動作や、特に状態監視制御部6の動作は、図1と同様であるので説明を省略する。
このようにしても本発明の意図したところは実現でき、異常の際にも2台のモータを同期をとって運転することができる。なお、図6に示した異常の際の接続方法によれば、高速運転は制限されるが、低速時のトルクは確保される。
【0049】
上述した各実施の形態においては、3相モータを用いた場合を代表的に説明したが、単相でも多相モータでも適用可能であり、また、多巻線モータにも適用可能である。
【0050】
上述のように複数台のモータが電気的に互いに同期をとって運転する装置であれば本発明は適用できるが、より具体的な例として、以下に、2台のモータで構成され、A系とB系の装置構成の仕様が同一であり、また、2台のモータで駆動される負荷特性もほぼ同一特性である場合の例を、図7、図8に例示する。
【0051】
図7は、台車に適用した一例を示す。かかる例は、例えば、電気自動車、クレーン、鉄道車両の走行台車などの車輪を有する車両に適用できる。図7に示したように、図1と同様、符号の末尾に符号図面番号で−Aが付されるA系の装置と、符号の末尾に符号−Bが付されるB系の装置が備えられる。交流モータ71−A、71−Bにそれぞれ車輪72−A、72−Bが接続され、それらは台車枠73に装着される。通常の台車では2つの車輪は車軸で結ばれるが、クレーンで2つの車輪間の距離が長い場合や、鉄道の超低床式車両の場合には車軸設置が困難である。このような場合、車輪72−A、72−Bにそれぞれモータ71−A、71−Bを接続し、2つのモータを同期運転すれば2つの車輪は車軸で結ばれるのと同じ状態にできる。
【0052】
このような装置において、一方の制御装置が異常になった場合、上述した実施の形態において説明した運転方法が利用できる。なお、図示のものはモータと車輪は減速機を介さずに接続されるが、減速機や接続軸を用いて構成することもでき、モータの設置位置や場所も例示したものに限定されない。
【0053】
図8は、アームを用いた搬送装置或いはアクチュエータに適用した例を示す。図1と同様に、符号の末尾に符号−Aが付されるA系の装置と、符号の末尾に符号−Bが付されるB系の装置が備えられる。これらA系の装置とB系の装置の間は機械的、すなわち駆動力上では接続されていないが、電気的に同期をとって運転される。
【0054】
A系の装置の構成は、第1交流モータ81−Aは第1アーム83−Aを駆動し、第1アーム83−Aの先端にある第2交流モータ82−Aが第2アーム84−Aを駆動する。2つのアーム83−Aと84−Aの動きでハンド85−Aの位置が決められる。B系の装置の機構も同様である。
2つのハンド85−Aと85−Bにより図示しない搬送物が把持され輸送される。図8では、第1モータ81−Aと81−B同士が電気的に同期運転され、第2モータ82−Aと82−B同士が電気的に同期運転される。
したがって、A系の装置とB系の装置は電気的に同期運転され、同じ動作をする。このようにして、A系の装置とB系の装置が協働し連携して搬送を行なう。
【0055】
このような装置の一例として、プレスマシン間で加工物を運搬する搬送装置が想定される。かかる装置では、互いに同期運転されるモータ間で、上記説明した異常の際における運転が実施できる。なお、本例のように同期駆動されるモータが複数組ある装置では、制御装置に異常が生じた組の間で異常の際における運転を行なうが、当該の組に対してだけでなく、装置全体に対して速度/位置指令信号を、例えばモータの負荷を抑制するように変更して与えることができる。
【0056】
図8に例示したものにおいて、モータとアームの接続は減速機を介しても、或いは減速機レスの構造でもよく、モータの取付位置は図示に限定されない。また、図8では、第1アームと第2アームからなる2アーム型を示したが、搬送の形態により、1アーム型でも、3アーム型以上の装置に適用可能である。
更に、複数の装置間で同期をとって運転をする搬送装置であれば、アーム型でなくてもよいものである。このような装置の例として、例えば、上流プレスマシンで加工された加工物を両側からフィンガ等により挟み下流方向へ向けて搬送し下流プレスマシンに送った後、加工物を解放し原位置へ復帰して再び上記動作を繰り返すような装置、所謂トランスファ装置がある。
【0057】
また、電気的に同期をとってモータを運転する装置は上述した例だけでなく、ドア装置、コンベヤ、産業機械、各種アクチュエータ、産業用ロボットや歩行ロボット等の移動ロボットの他各種ロボットにも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る複数の電動機の駆動装置の概略構成(正常状態)を示すブロック図である。
【図2】同上実施の形態に係る駆動装置の異常発生の際における各部の接続状態を示すブロック図である。
【図3】同上実施の形態に係る駆動装置を構成する状態監視制御部の構成例を示すブロック図である。
【図4】同上実施の形態に係る駆動装置を構成する状態監視制御部の他の構成例を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る複数の電動機の駆動装置の概略構成(正常状態)を示すブロック図である。
【図6】同上実施の形態に係る駆動装置の異常発生の際における各部の接続状態を示すブロック図である。
【図7】本発明の適用例を示す駆動装置の一例である。
【図8】本発明の適用例を示す他の駆動装置の一例である。
【符号の説明】
【0059】
1−A、1−B 交流モータ
2−A、2−B エンコーダ
3−A、3−B 変換器
4−A、4−B 速度制御部
5 速度指令部
6 状態監視制御部
11−A、11−B 切換装置
21 切換装置
301−A、301−B 速度偏差部
302 偏差判定部
303 切換部
304 切換部
305 異常検出部
501−A、501−B 交流モータ
511−A、511−B 切換装置
512 切換装置
71−A、71−B 交流モータ
72−A,72−B 車輪
73 台車枠
81−A、81−B 第1交流モータ
82−A、82−B 第2交流モータ
83−A、83−B 第1アーム
84−A、84−B 第2アーム
85−A、85−B ハンド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に機械的に回転連結されていない複数の電動機と、
対応する電動機の運転状態に関連する情報を取得する情報取得手段と、
前記複数の電動機のそれぞれに対応して備えられ、駆動指令に基づいて対応する電動機を駆動制御すると共に、前記情報取得手段により取得される情報をフィードバック情報として利用して、前記複数の電動機の運転を同期させるように前記駆動指令に対して補正を与えるフィードバック機能を備えた複数の制御手段と、
を含んで構成される複数の電動機の駆動装置であって、
前記複数の制御手段のうちのある制御手段が異常になった場合に、対応する電動機の当該異常になった制御手段による駆動制御を停止すると共に、健全な制御手段を介して前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を同期させるように駆動制御することを特徴とする複数の電動機の駆動装置。
【請求項2】
前記複数の制御手段のうちのある制御手段が異常になった場合に、駆動回路を切り換えることによって、対応する電動機の当該異常になった制御手段による駆動制御を停止すると共に、当該異常になった制御手段に対応する電動機を、前記健全な制御手段を介して駆動制御される電動機と並列接続することを特徴とする請求項1に記載の複数の電動機の駆動装置。
【請求項3】
前記複数の制御手段のうちのある制御手段が異常になった場合に、駆動回路を切り換えることによって、対応する電動機の当該異常になった制御手段による駆動制御を停止すると共に、当該異常になった制御手段に対応する電動機を、前記健全な制御手段を介して駆動制御される電動機と直列接続することを特徴とする請求項1に記載の複数の電動機の駆動装置。
【請求項4】
前記駆動指令と、前記情報取得手段により取得される電動機毎の運転状態に関連する情報と、の偏差が最大となる電動機の運転状態に関連する情報をフィードバック情報として利用して、前記健全な制御手段が、前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を駆動制御することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の複数の電動機の駆動装置。
【請求項5】
前記情報取得手段により取得される電動機毎の運転状態に関連する情報の平均値をフィードバック情報として利用して、前記健全な制御手段が、前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を駆動制御することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の複数の電動機の駆動装置。
【請求項6】
前記駆動指令と、前記情報取得手段により取得される電動機毎の運転状態に関連する情報と、の偏差に基づいて、当該偏差が最大となる電動機の運転状態に関連する情報をフィードバック情報として利用するか、或いは前記情報取得手段により取得される電動機毎の運転状態に関連する情報の平均値をフィードバック情報として利用するか、を選択し、選択されたフィードバック情報に基づいて、前記健全な制御手段が、前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を駆動制御することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の複数の電動機の駆動装置。
【請求項7】
前記健全な制御手段は、前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を駆動制御する際に、負荷を低減するように駆動制御に制限を加えることを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1つに記載の複数の電動機の駆動装置。
【請求項8】
前記複数の電動機は、車輪の駆動源として利用されることを特徴とする請求項1〜請求項7の何れか1つに記載の複数の電動機の駆動装置。
【請求項9】
前記複数の電動機は、搬送装置の駆動源として利用されること特徴とする請求項1〜請求項7の何れか1つに記載の複数の電動機の駆動装置。
【請求項10】
相互に機械的に回転連結されていない複数の電動機と、
対応する電動機の運転状態に関連する情報を取得する情報取得手段と、
前記複数の電動機のそれぞれに対応して備えられ、駆動指令に基づいて対応する電動機を駆動制御すると共に、前記情報取得手段により取得される情報をフィードバック情報として利用して、前記複数の電動機の運転を同期させるように前記駆動指令に対して補正を与えるフィードバック機能を備えた複数の制御手段と、
を含んで構成される複数の電動機の駆動装置の制御方法であって、
前記複数の制御手段のうちのある制御手段が異常になった場合に、対応する電動機の当該異常になった制御手段による駆動制御を停止すると共に、健全な制御手段を介して前記異常になった制御手段に対応する電動機を含む複数の電動機を同期させるように駆動制御することを特徴とする複数の電動機の駆動装置の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−130990(P2009−130990A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301193(P2007−301193)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】