複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法及び簡易的換気風量推定装置
【課題】風量の推定精度を向上させることのできる簡易的換気風量推定方法及び装置を提供する。
【解決手段】本発明の換気風量推定方法は、複数のゾーンから成る建物で、ゾーン毎に異なる種類のトレーサーガスを放散して期間平均放散量を測定し、各ゾーンの期間平均ガス濃度を測定することで、ゾーン間及び外気との間の複数の風量qを推定する方法であり、全ゾーン連立のガス質量収支式を、ゾーン数以上のガス種各々について、1以上の測定期間各々で、また各ゾーンで1以上の位置でのガス濃度測定値各々で構成し、さらに全ゾーン連立の風量収支式を行方向に追加してなる長方行列により、期間,ガス種,測定位置に関して三重総和して作る方程式誤差評価関数を定め、非負最小二乗法を用いてqを推定することで、本統計的方法は従来の確定論的方法に比べ、推定精度の向上と推定誤差評価も可能にする。
【解決手段】本発明の換気風量推定方法は、複数のゾーンから成る建物で、ゾーン毎に異なる種類のトレーサーガスを放散して期間平均放散量を測定し、各ゾーンの期間平均ガス濃度を測定することで、ゾーン間及び外気との間の複数の風量qを推定する方法であり、全ゾーン連立のガス質量収支式を、ゾーン数以上のガス種各々について、1以上の測定期間各々で、また各ゾーンで1以上の位置でのガス濃度測定値各々で構成し、さらに全ゾーン連立の風量収支式を行方向に追加してなる長方行列により、期間,ガス種,測定位置に関して三重総和して作る方程式誤差評価関数を定め、非負最小二乗法を用いてqを推定することで、本統計的方法は従来の確定論的方法に比べ、推定精度の向上と推定誤差評価も可能にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーサーガスを用いて複数ゾーンの換気風量を簡易的に推定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレーサーガスを用いた換気風量推定方法のひとつとして、PFT(Perfluorocarbon Tracer)法が知られている。このPFT法は、フッ素系の揮発性有機化合物をトレーサーガスとして建物の室内空間に放散させて、測定箇所のトレーサーガス吸着量と吸着速度から空間内のトレーサーガスの濃度を測定し、トレーサーガスの放散量と測定されたトレーサーガス濃度とから、簡易的に風量を推定する方法である(例えば、特許文献1を参照)。ここに簡易的とは、数学モデルにおいてはトレーサーガス濃度の時間変化項を省略し、測定装置においてはトレーサーガス濃度も放散量も期間積分値しか測れない簡便な器具を用いることを意味する。
【0003】
このPFT法は、従来単室モデルで行われてきたが、近年、トレーサーガスの種類を2〜3種類にすることで、2〜3室モデルでの室間の風量も推定できるとした報告が為されている(非特許文献1を参照)。さらに最近では4種類のガスを用いて4室モデルに適用した報告も為されている(非特許文献2を参照)。
【0004】
ここで、PFT法の一例として、3室モデルでの室間の風量を推定する手順について説明する。なお、以下の説明では、測定対象となる建物を区分けした室を「ゾーン」と呼ぶことにする。また、本明細書では、各ゾーン間の空気の交換量と、各ゾーンと外気(屋外)との間の空気の交換量の双方を「換気風量」と呼び、以下の説明では、「換気風量」を省略して単に「風量」と呼ぶことにする。
【0005】
図15は、適用対象となる住宅の各階平面図であり、図16は、室内の空気の交換「量を示す建物の概略断面図である。図15及び16に示すように、測定対象となる住宅は3階建ての建物であり、各階をそれぞれゾーン1、ゾーン2、ゾーン3とし、各ゾーンにそれぞれ異なる種類の放散源を設置する。図16に示す矢印は、各ゾーン間の空気の流れと、各ゾーンと外気との間の空気の流れを示すものであり、各ゾーン間、及び、各ゾーンと外気との間の風量をQ1,0〜Q3,2とする。
【0006】
図15に示すように、トレーサーガスの放散源と、トレーサーガスを捕集するパッシブガスチューブとを各ゾーン内に配置し、所定の期間(1日〜1ヶ月)放置することにより、放散源からのトレーサーガスの放散量と、トレーサーガスの捕集量を測定する。
【0007】
放散源は、C6F6、C7F8、C7F14の3種類のPFTを使用する。この放散源は、クリンプバイアル瓶等の放散容器内に液体のPFTを充填し、容器開口を透過膜で蓋をしたものであり、透過膜を介してPFTのガスを放散させるようにしたものである。図15に示すように、ゾーン1にはC6F6の放散源を、ゾーン2にはC7F8の放散源を、ゾーン3にはC7F14の放散源を、それぞれ複数本ずつ設置する。
【0008】
パッシブガスチューブ(以下、これを「サンプラー」という)は、チューブ内に活性炭等の吸着材を収容したものであり、この吸着材にトレーサーガスを吸着させることによって、放散源から放散されたトレーサーガスを捕集する。このサンプラーをゾーン1及びゾーン2に各3本、ゾーン3に4本設置する。なお、サンプラーは、放散源を設置してから所定時間経過して各ゾーン内のトレーサーガスの気中濃度が定常状態となった後に設置するものとする。サンプラーを回収後、吸着材の溶媒抽出を行い、ガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)によって、吸着したガス成分を同定、定量する。
【0009】
吸着材の分析結果から求められたトレーサーガスの吸着量と、予め知られているトレーサーガスの吸着速度から、各ゾーンにおける各トレーサーガスの気中濃度を求める。また、測定期間中に各放散源から放散されたガスの量は、放散源の容器の質量減少分を計ることにより得られる。
【0010】
ゾーン1、ゾーン2、ゾーン3における3種類のトレーサーガスの質量収支と、各ゾーンにおける風量の収支とからなる連立方程式を以下に示す。
【数1】
【0011】
なお、上記(数1)式のCHxn,COcn,CPenは、ゾーンnにおける各トレーサーガスの気中濃度を示しているが、これらは、各ゾーンの複数の測定位置の代表濃度、すなわち、各ゾーンの複数の測定位置での気中濃度の平均をとったものである。上記の測定により得られた各ゾーンにおける各トレーサーガスの気中濃度を、(数1)式のCHx1,COc1,CPe1,CHx2,COc2,CPe2,CHx3,COc3,CPe3にそれぞれ代入し、各ゾーンにおけるトレーサーガスの放散量を、MHx,MOc,MPeにそれぞれ代入し、(数1)式を解くことによって、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量Q1,0〜Q3,2を算出することができる。
【0012】
上述した従来の方法では、未知数である風量の数に等しい本数の方程式を立てて風量を算出する。すなわち、上記の例のようにゾーン数が3の場合、トレーサーガスの種類数はゾーン数と等しく3種類となるから、トレーサーガスの質量収支について、ゾーン数×ガス種類数すなわち9本の方程式が成り立つ。さらに、ゾーン数分の風量収支式3本が成立するから、合計で12本の方程式(数1式)が得られる。一方、図16に示すように、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量(Q1,0〜Q3,2)の個数は12個存在するから、未知数と方程式数が一致し、風量は確定した解として得られる。以下、上述した従来の風量推定方法を「決定論的方法(deterministic method)」と呼ぶことにする。
【0013】
【特許文献1】特開2007−10363号公報
【非特許文献1】田辺新一等,“パッシブ測定法を用いた室内空気質評価 その19 PFT法を用いた換気量簡易測定法検討実測”,日本建築学会大会学術講演梗概集 pp.913-914,2005年9月
【非特許文献2】三原邦彰,吉野博,熊谷一清,野口美由貴,柳沢幸雄,4種類のパッシブトレーサーガスを用いた換気性能評価−実験及び数値計算による測定精度検証−,日本建築学会大会学術講演梗概集(関東),講演番号41336 頁689-690,2006年9月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の測定法ではその前提が成り立つ測定が実施されたかどうか分からなかった。従って条件を修正して再測定すべきかどうかの判断ができなかった。簡易的測定法なので、比較的に多くの前提を必要としている。この前提はトレーサーガスの質量収支に関する基本数式モデルの制約に大きく依存する。まずガス濃度の非定常項を無視している。また期間での風量の変動も小さいとしている。さらに各ゾーン内での短絡流れ等は無くガス濃度の均一性を必要としている。これらの前提は10日から数週間という長期間の測定をすることで近似的に満たされると期待される前提である。測定中のガス濃度の様子も発生量も、さらに換気の状況も、人間が知覚できるものではないので、測定データ分析法によって、これら前提成立の妥当性検討が必要である。
【0015】
また、従来の測定法では誤差評価と信頼性の検定ができなかった。従来の測定法では未知数の風量の個数に等しい本数のトレーサーガスの質量収支に関する基本式と風量収支の式により決定論的(deterministic)に風量を定める方法である。従って測定誤差の影響を考慮できない方法である。誤差評価のためには測定機器の誤差の統計的性質が既知で、推定風量への誤差伝搬が確定していなければならない。しかし上述した様に、誤差伝搬の方程式構造自体が不確定で変動する。また測定機器の誤差よりは、上述した様々な前提が成り立たないことに多くの誤差原因があると考えられる。誤差評価は統計的(statistic)な方法によらない限り行うことができない。
【0016】
従来の測定法では不合理な負の風量が求められることが多い。上述したように、実現象と方程式モデルの間にはかなり大きな違いが発生し得るからである。この従来法の問題を解決するためには、方程式モデルの右辺と左辺の誤差の存在は認め、この誤差を最小にする風量を正の範囲で求めるという最適化問題の考え方に改めなければならない。
【0017】
従来のデータ分析法の方程式モデルと添え字番号の記号定義は、汎用的で一般適用性のある計算プログラムを組み上げるためには適していない。決定論的にせよ統計論的にせよ、解を求め誤差評価も行うためには線形代数を応用することになる。しかし(数1)式で分かるように、従来の方法における風量の添え字番号とガス種類の記号の定義の仕方では、必要な行列を構成するための合理的なアルゴリズムとデータ構造が作れない。
【0018】
本発明は上記の点に鑑み、複数ゾーンでの風量の推定精度を向上させることのできる測定データ分析方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の請求項1の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する方法において、総ゾーン数以上の種類のトレーサーガスを別々のゾーンで一定発生させ、各ゾーン内における1以上の測定箇所で前記トレーサーガスの期間平均濃度を測定することを1以上の測定期間で実施し、得られた複数の期間平均濃度とトレーサーガスの期間平均放散量とから、統計的手法を用いて前記風量を推定し、推定した風量の誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項2の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項1において、前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量のうち、実在する風量のみを未知数として、前記統計的手法により各未知数を推定することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項3の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項1又は2において、前記統計的手法として、推定風量が非負であるという拘束条件付きの最小二乗法を適用することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の請求項4の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項1から3のいずれか一つにおいて、前記測定の信頼性の判定として、前記期間平均濃度と前記期間平均放散量の測定誤差から求めた風量の誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた推定風量の誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性の判定を行うことを特徴とする。
【0023】
また、本発明の請求項5の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する方法であって、1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定し、前記期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出し、全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定し、推定した風量qの誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の請求項6の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項5において、全ゾーンの前記期間平均濃度及び前記期間平均放散量を、総和型の条件式で前記長方行列へ取り込むことにより、前記長方行列の定式化を行うことを特徴とする。
【0025】
また、本発明の請求項7の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項5において、前記測定期間の数が複数である場合に、全測定期間の前記期間平均濃度及び前記期間平均放散量を同時に用いることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の請求項8の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項5において、前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から前記風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うことを特徴とする。
【0027】
また、本発明の請求項9の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項5において、前記測定の信頼性の判定として、前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差の二乗和から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項6の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする。
【0028】
また、本発明の請求項10の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項5において、前記測定の信頼性の判定として、請求項5に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法によって風量qをそれぞれ算出し、
前記3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、
前記3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項5の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする。
【0029】
また、本発明の請求項11の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する装置であって、1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定する期間平均濃度測定手段と、前記期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出する条件式演算手段と、全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定する風量演算手段と、前記風量演算手段によって推定された風量qの誤差評価を行う推定誤差評価手段と、前記風量演算手段によって推定された風量qの測定の信頼性の判定を行う信頼性判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0030】
また、本発明の請求項12の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記風量演算手段は、全ゾーンの前記期間平均濃度及び期間平均放散量を、総和型の条件式で前記長方行列へ取り込むことにより、前記長方行列の定式化を行うことを特徴とする。
【0031】
また、本発明の請求項13の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記条件式演算手段は、前記測定期間の数が複数である場合に、全測定期間の前記期間平均濃度及び期間平均放散量を同時に用いることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の請求項14の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記推定誤差評価手段は、前記風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から前記風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うことを特徴とする。
【0033】
また、本発明の請求項15の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記推定誤差評価手段は、前記風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、前記信頼性判定手段は、前記推定誤差評価手段によって算出された方程式残差から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項12の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする。
【0034】
また、本発明の請求項16の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記信頼性判定手段は、前記期間平均濃度と前記期間平均放散量の測定誤差から求めた風量qの誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた風量qの誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性を判定することを特徴とする。
【0035】
また、本発明の請求項17の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記風量演算手段は、請求項11に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法により風量qをそれぞれ算出し、前記信頼性判定手段は、前記3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、前記3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項11の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明の請求項1の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、建物内の空間を複数のゾーンと見なし、総ゾーン数以上の種類のトレーサーガスを別々のゾーンで一定発生させ、各ゾーン内における1以上の測定箇所で前記トレーサーガスの期間平均濃度を測定することを1以上の測定期間で実施し、得られた複数の期間平均濃度とトレーサーガスの期間平均放散量とから、統計的手法(statistical method)を用いて前記風量を推定し、推定した風量の誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うようにしたことで、従来の確定的方法によって風量を算出する場合と比較して、風量の推定精度を向上させることができる。また、推定した風量の誤差評価及び測定の信頼性の判定を適切に行うことで、方程式モデルと実現象との違いを把握することが可能となる。
【0037】
また、本発明の請求項2の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量のうち、実在する風量のみを未知数として、統計的手法により各未知数を推定するようにしたことで、従来の確定的方法のように存在しない不要な未知風量を導入することがなくなる分、風量の推定精度を向上させることができる。
【0038】
また、本発明の請求項3の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、統計的手法として、推定風量が非負であるという拘束条件付きの最小二乗法を適用したことで、負の風量が推定されるといった不合理な問題を解決することができる。
【0039】
また、本発明の請求項4の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、測定の信頼性の判定として、期間平均濃度と期間平均放散量の測定誤差から求めた風量の誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた推定風量の誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性の判定を行うようにしたことで、実験者は、推定された風量を採用すべきか否かを判断することができるようになる。すなわち、方程式モデルと実現象との違いがないという判定がなされた場合には、推定された風量を採用し、方程式モデルと実現象の違いが大きいという判定がなされた場合には、モデルを再設定して測定のやり直しを行うことができる。
【0040】
また、本発明の請求項5の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定し、この期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出し、全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定し、推定した風量qの誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うようにしたことで、従来の確定的方法のように存在しない不要な未知風量を導入することなく、また負の風量が推定されるといった不合理な結果が得られることがなく、合理的な解が得られるようになることから、風量の推定精度を向上させることができる。
【0041】
また、本発明の請求項6の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法では、請求項5において、全ゾーンの期間平均濃度及び前記期間平均放散量を、総和型の条件式で前記長方行列へ取り込むことにより、長方行列の定式化を行うようにした。すなわち、トレーサーガスの連立質量収支式に最小二乗法を適用して得られた式(風量qを解くための条件式)に、風量収支式を加えて二重に最小二乗化を行うようにしており、方程式誤差を最小化する長方行列の定式化は、全ゾーンの期間平均濃度及び期間平均放散量について、その長方行列の行方向に増やしていくという定式化ではなく、総和するという定式化である。これにより、トレーサーガスの質量収支条件と風量収支条件を均一な重みで考慮することになるから、風量の推定精度のさらなる向上に寄与することができる。
【0042】
また、本発明の請求項7の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、請求項5において、測定期間の数が複数である場合に、全測定期間の期間平均濃度及び期間平均放散量を同時に用いるようにしたことで、風量の推定精度のさらなる向上に寄与することができる。
【0043】
また、本発明の請求項8の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、請求項5の方法により各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から風量qの誤差分散共分散行列を算出し誤差評価を行うようにしたことで、推定された風量の誤差を的確に評価することができる。
【0044】
また、本発明の請求項9の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、測定の信頼性の判定として、請求項5の方法により前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差の二乗和から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項5の方法により得られた風量の妥当性を判定するようにしたことで、推定された風量を採用すべきか否かの判断の指標とすることができる。
【0045】
また、本発明の請求項10の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、測定の信頼性の判定として、請求項5に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法によって風量qをそれぞれ算出し、この3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項5の方法により得られた風量の妥当性を判定するようにしたことで、実験者は、推定された風量を採用すべきか否かを判断することができるようになる。すなわち、方程式モデルと実現象との違いがないという判定がなされた場合には、推定された風量を採用し、方程式モデルと実現象の違いが大きいという判定がなされた場合には、モデルを再設定して測定のやり直しを行うことができる。
【0046】
また、本発明の請求項11の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する装置であって、1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定する期間平均濃度測定手段と、前記期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出する条件式演算手段と、全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定する風量演算手段と、前記風量演算手段によって推定された風量qの誤差評価を行う推定誤差評価手段と、前記風量演算手段によって推定された風量qの測定の信頼性の判定を行う信頼性判定手段と、を備えたことで、従来の確定的方法のように存在しない不要な未知風量を導入することなく、また負の風量が推定されるといった不合理な結果が得られることがなく、合理的な解が得られるようになることから、風量の推定精度を向上させることができる。
【0047】
また、本発明の請求項12の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された風量演算手段が、全ゾーンの前記期間平均濃度及び期間平均放散量を、総和型の条件式で長方行列へ取り込むことにより長方行列の定式化を行うように構成したことで、トレーサーガスの質量収支条件と風量収支条件を均一な重みで考慮することになり、風量の推定精度のさらなる向上に寄与することができる。
【0048】
また、本発明の請求項13の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された条件式演算手段が、測定期間の数が複数である場合に全測定期間の期間平均濃度及び期間平均放散量を同時に用いるように構成したことで、風量の推定精度のさらなる向上に寄与することができる。
【0049】
また、本発明の請求項14の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された推定誤差評価手段が、風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から前記風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うように構成したことで、推定された風量の誤差を的確に評価することができる。
【0050】
また、本発明の請求項15の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された推定誤差評価手段が、風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、請求項11に記載された信頼性判定手段が、推定誤差評価手段によって算出された方程式残差から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項11の方法により得られた風量の妥当性を判定するように構成したので、推定された風量を採用すべきか否かの判断の指標とすることができる。
【0051】
また、本発明の請求項16の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された信頼性判定手段が、期間平均濃度と期間平均放散量の測定誤差から求めた風量qの誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた風量qの誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性を判定するように構成したことで、実験者は、推定された風量を採用すべきか否かを判断することができるようになる。すなわち、方程式モデルと実現象との違いがないという判定がなされた場合には、推定された風量を採用し、方程式モデルと実現象の違いが大きいという判定がなされた場合には、モデルを再設定して測定のやり直しを行うことができる。
【0052】
また、本発明の請求項17の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された風量演算手段が、請求項11に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法により風量qをそれぞれ算出し、請求項11に記載された信頼性判定手段が、3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、この3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項11の方法により得られた風量の妥当性を判定するように構成したことで、実験者は、推定された風量を採用すべきか否かを判断することができるようになる。すなわち、方程式モデルと実現象との違いがないという判定がなされた場合には、推定された風量を採用し、方程式モデルと実現象の違いが大きいという判定がなされた場合には、モデルを再設定して測定のやり直しを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に、添付図面を参照して、本発明の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法及び簡易的換気風量推定装置をPFT法に適用した場合の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、「簡易的」という言葉は、後述するようにトレーサーガスの濃度の時間変化を考慮せず、ガス放散量も濃度も期間平均値しか知り得ない器具を用いる簡易的な測定を行うという意味であり、濃度の時間変化を考慮する本格的な測定と区別するために用いている。以下の説明では、単に「換気風量推定方法」、「換気風量推定装置」と呼ぶことにする。
【0054】
[基本数式モデル]
まず、トレーサーガスの質量収支の基本数式モデルについて説明する。建物をnゾーンに区分けした場合に、そのi番目のゾーンにおける、ある種のトレーサーガスの収支式を下記(数2)式のように記述する。ここに、外気も一種のゾーンとみなし、ゾーン番号はn+1とする。ゾーンjからゾーンiへ流れる風量はqijとして記号定義する。ゾーンiのガス濃度はci、ガス発生流率はgi、ゾーン容積はviと記号定義する。これらのゾーン番号の付け方、風量qの添え字番号の付け方は、後述する(数8)式(マトリックスの方程式)を合理的に記述し、構築するアルゴリズムのために工夫されたものである。
【数2】
【0055】
PFT法の場合を例にとると、まず、サンプラーの活性炭に吸着されたトレーサーガスの量と、予め知られているトレーサーガスの吸着速度特性から、ゾーン空気中の長期平均的なトレーサーガス濃度を推定する。トレーサーガスの吸着量は吸着速度を一定とすると、濃度の期間積分値に比例する。またトレーサーガスの期間平均放散流率(期間平均放散量)は、放散源のPFTの質量減少分を計ることから推定される。従って、(数2)式の両辺を時刻0から経過時間Tまでの期間で時間積分することにより、濃度の時間積分項と放散流率の時間積分項を作る。
【数3】
【0056】
この期間における平均的な換気量と有効混合容積を推定することにし、これらは期間で一定と見なしバーを上部に付けて表すことにする。すると(数3)式の各項の積分から括りだすことができ、次の(数4)式になる。
【数4】
【0057】
(数4)式の左辺の濃度の積分は、最終濃度から初期濃度を引いたものになる。さらに両辺を期間長さTで除して、次式を得る。
【数5】
【0058】
放散源を設置してから所定時間経過して各ゾーン内のトレーサーガスの気中濃度が定常状態となった後に濃度測定を開始するようにし、さらに十分な期間Tをとった場合、(数5)式の左辺は0に近似できる。右辺の濃度の時間積分をTで除したものが期間平均濃度である。ガス放散量についても期間平均放散量となる。これらは同様にバーを付けて表す。以下に示す近似式がトレーサーガスの質量収支の基本数式モデルである。
【数6】
【0059】
単一ゾーンの場合、推定すべき風量は1個であるが、複数ゾーンの場合には、推定すべき風量の個数はそのゾーン数の二乗に比例して増えてくる。一般に、ゾーン数がnの場合、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量の個数はn×(n+1)となる。もし風量が変化しなければ、n組の連立方程式を得るために、1番のゾーンだけでトレーサーガスを発生させる条件で長期間測定し、次に2番のゾーンでトレーサーガスを発生させる条件で長期間測定し、・・・という手順を繰返し、1種類のトレーサーガスだけで必要データを得ることができる。しかし実際には何度も長い測定期間を繰り返すことは困難であるし、長期間に亘って一定の風量である前提も成り立ち難い。従って、本実施の形態では、測定期間をなるべく短くするために、各ゾーンでお互いに異なったガスを放散させ、並行して同じ測定期間で実施することとする。
【0060】
さらに本実施の形態では、最小二乗法を用いて風量を推定するので、推定精度を高めることと推定誤差の評価のために、各ゾーンにおけるトレーサーガスの期間平均濃度の測定位置によるばらつきと、測定期間によるばらつきも考慮する。1つの測定期間は、扇風機による人為的な攪拌等を行う場合には1日、通常の居住状態で測定を行う場合には10日間から数週間である。なお1つの測定期間が1ヶ月を超える場合、季節の変化が平均化されて入ってくるため、適切なデータが得られなくなり好ましくない。なお、測定期間を複数とした場合には、1回の測定期間ごとに放散源と吸着剤の両方を取り換えるか、又は、吸着剤のみを取り換えることとする。
【0061】
ここで、一般にnp個の測定期間があるものとし、期間番号をpとする。トレーサーガスの種類は全部でnk個あるとし、ガス番号をkとする。さらに各ゾーン内にnl個の濃度測定位置(すなわちサンプラー設置箇所)があるものとし、その位置番号をlとする。ここで、上記の測定期間の数npは1以上である。また、ガスの種類数nkと、濃度測定位置数はnlは複数である。このnp,nk,nlの数はできるだけ多くすることが好ましく、ゾーン内の設置位置のばらつきを積極的に活用することで、後述する推定誤差の最小化に寄与することができる。
【0062】
なお、ゾーンの大小により各ゾーンでの濃度測定位置数が異なる場合には、最も大きいゾーンの濃度測定位置数に合わせて、これより少ない数のゾーンでは同じ測定濃度を重複して用いるようにし、全てのゾーンにおいて濃度測定位置数が同じになるようにする。これは最小二乗法へ適切なデータを与えるために必要なことである。以上のように、測定期間、ガスの種類、濃度測定位置の条件を考慮すると、(数6)式は以下のように表すことができる。
【数7】
【0063】
上記(数7)式が、本実施の形態において適用するトレーサーガスの質量収支の基本数式モデル(方程式モデル)である。
【0064】
[換気風量推定装置]
次に、上述した(数7)式を基に複数ゾーンの風量を推定する換気風量推定装置について説明する。図1は、本実施の形態である換気風量推定装置10の構成を示したブロック図である。ここで例示する換気風量推定装置10は、パーソナルコンピュータ等の数値演算装置30にプログラムを読み込ませることによって具現化されるものであり、期間平均濃度演算手段31と、条件式演算手段32と、風量演算手段33と、推定誤差評価手段34、信頼性判定手段35とを備えている。
【0065】
期間平均濃度演算手段31は、キーボード等の入力装置20から入力されたトレーサーガスの吸着量から、上述した期間平均濃度を算出するものである。より具体的には、この期間平均濃度演算手段31は、吸着剤の分析結果から求められたトレーサーガスの吸着量を吸着速度と測定時間で割ることにより期間平均濃度p,k,lcを求めるものである。
【0066】
条件式演算手段32は、期間平均濃度演算手段31で得られた期間平均濃度から風量qを解くための条件式を算出するものである。この条件式演算手段32には、トレーサーガスの質量収支式である(数7)式や、トレーサーガスの期間平均放散量p,kgが記憶されている。条件式演算手段32は、期間平均濃度演算手段31から期間平均濃度p,k,lcを受け取り、これを(数7)式に代入する。次に、この(数7)式に最小二乗法を適用することにより、換気量qを解くための条件式である(数15)式を算出する。なお、この(数15)式については後述する。
【0067】
風量演算手段33は、条件式演算手段32で得られた条件式(数15)式に、全ゾーンにおける風量収支式(数16)式を行方向に追加して長方行列(数21)式をつくり、この(数21)式を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、換気量qを算出するものである。なお、(数16)式及び(数21)式については後述する。
【0068】
推定誤差評価手段34は、風量演算手段33により算出された風量qの推定誤差を評価する手段であり、推定値の誤差分散を算出するものである。具体的には、推定誤差評価手段34は、(数21)式における方程式残差(数26)式を算出し、この方程式残差(数26)式から風量qの誤差分散共分散行列(数31)式を算出する。なお、(数26)式、(数31)式については後述する。
【0069】
信頼性判定手段35は、風量演算手段33により算出された風量qの信頼性を判定する手段であり、後述する決定係数COD(数35式)、モデル前提の不適合率β(数51式)、推定された風量の符号不適合率Ra(数56式)を算出するものである。なお、(数35)式、(数51)式、(数56)式については後述する。
【0070】
なお、風量演算手段33で算出された風量q、推定誤差評価手段34で算出された誤差分散共分散行列、信頼性判定手段35で算出された決定係数COD、モデル前提の不適合率β、推定パラメータの符号不適合率Raは、ディスプレイやプリンタ等の出力装置40を通じて出力を行うことが可能である。
【0071】
[風量の推定]
図2は、上述した換気風量推定装置10が実施する演算処理の手順を示したフローチャートである。以下、このフローチャートに沿って、複数ゾーンの風量推定方法について説明をする。
【0072】
まず、換気風量推定装置10は、期間平均濃度演算手段31を通じて、吸着剤の分析結果から求められたトレーサーガスの吸着量と、予め知られているガスの吸着速度から、上述した期間平均濃度p,k,lcを求める(ステップS01)。
【0073】
次に、換気風量推定装置10は、条件式演算手段32を通じて、上記(数7)式に、期間平均濃度と、期間平均放散量の数値を代入し、全ゾーンにおけるトレーサーガスの連立質量収支式をつくる(ステップS02)。次いで、換気風量推定装置10は、以下に説明するように、このトレーサーガスの連立質量収支式に最小二乗法を適用することによって、換気量qを解くための条件式を算出する(ステップS03)。
【0074】
トレーサーガスの連立収支式を行列の形式で表示すると、(数7)式は下記の(数8)のように表すことができる。(数8)式の左辺第1項の正方行列は風量行列と呼ぶが、上記の段落(0025)での記号定義により,このi行j列要素は行列要素記法と一致しqijとなる.ただし対角要素には,これに対応するゾーンから流出する風量の総和が入る。次に、(数8)式の左辺第2項は外気濃度境界条件を表すが、外気濃度をn+1番ゾーンとして定義したことにより、前述の正方行列の右のn+1列目に追加した長方行列で記述できる。こうして(数8)式を構築するアルゴリズムは簡潔で合理的なものになる。
【数8】
【0075】
(数8)式は、複数の風量について求めるものであるので、これを含むベクトルqを次式のように定義する。
【数9】
【0076】
(数8)式を、以下のようにqに関する式に変形する。ベクトルqに係るn×nqの行列Zの中身は、次の様にして定められる。ここにnqは未知数の風量の個数である。ベクトルq内のm番目の要素がqi,jとすれば、この行列内のi行m列目にはcjがくる。また、j行m列目には−cjがくる。ただし、iやjがnを超える場合は除外する。
【数10】
【0077】
ガス放散流率のベクトルgを次式の様に定義する。
【数11】
【0078】
(数10)式を次のような行列の形式で表示する。
【数12】
【0079】
ここに(数12)式の行列Zを測定濃度行列と呼ぶことにする。この(数12)式を最小二乗法の回帰式とする。以下、(数12)式に最小二乗法を適用する。
【0080】
(数12)式の方程式誤差eを次式のように示す。
【数13】
【0081】
方程式誤差の二乗和をすべての条件、すなわち、ガスの種類による条件k、ゾーン内の濃度測定位置による条件l、測定期間による条件pで総和した値をJmとおく。
【数14】
【0082】
このJmを最小化するqを求めるために、Jmをqで微分して0と置く(数15式)。この(数15)式が、qに関して解くための総和型の条件式である。
【数15】
【0083】
次に、換気風量推定装置10は、風量演算手段33を通じて、全ゾーンにおける風量収支という拘束条件を考慮して風量qを算出する。まず、以下に説明するように、(数15)式に、全ゾーンにおける風量収支式を行方向に追加して長方行列をつくる(ステップS04)。i番ゾーンにおける風量収支式は次式で表される。
【数16】
【0084】
全ゾーンでこれを記述し、この式を風量のベクトルqによって次式のように書き直す。qに係るn×nqの行列Cの中身は次の(数17)式のようにして定められる。q内のm番目の要素がqi,jとすれば、この行列内のi行m列目には1がくる。またj行m列目には−1がくる。但し、iやjがnを超える場合は除外する。
【数17】
【0085】
(数17)式を次のような形で示す。
【数18】
【0086】
(数15)式と(数18)式を同時に満たすqに関する方程式を、次のような行列Aとベクトルbにより、続く(数21)式のような長方行列で表す。
【数19】
【数20】
【数21】
【0087】
次いで、換気風量推定装置10は、以下に説明するように、この(数21)式を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、換気量qを算出する(ステップS05)。(数19)式のAと(数20)式のbは、風量収支式の拘束条件を考慮したことで、qに関して過剰決定(over determined)の方程式系を与えるから、ここで、再度最小二乗法を適用する。(数21)式の方程式誤差を次式のように示す。
【数22】
【0088】
この方程式の残差二乗和Jを、次式の様に展開する。
【数23】
【0089】
このJをqで微分しゼロと置く(数24式)。
【数24】
【0090】
(数24)式をqについて解き、次の解式を得る。
【数25】
【0091】
上記(数25)式は通常の最小二乗法から得られた解である。しかしながら、上述したように、方程式モデルと実際の現象との間には構造的な違いがあるから、推定値には誤差が生じる。従って、(25)式を解くことにより算出された換気量は、負の値となり得る。そこで、(数21)式について、非負最小二乗法を適用し、非負の拘束条件を付けて解くことによって、非負の範囲内でJを最小にする最適の換気量qを算出する。
【0092】
なお、この非負最小二乗法のアルゴリズムについては、「Solving Least Squares Problems, ISBN0-89871-356-0(pbk.)」Charls L. Lawson(米国ジェット推進研究所),Richard J. Hanson (Visual Numerics Inc.), Society for Industrial and Applied Mathematics Philadelphia, pp.158-173に記載されたアルゴリズムを適用するものとする。より具体的には、上記参考文献における160頁〜165頁に記載された(23.10)式〜(23.26)式を適用するものとする。
【0093】
方程式モデルと実現象の構造的な違いや測定誤差が無ければ、非負最小二乗法と最小二乗法いずれの解法を適用した場合であっても同じ推定結果となる。しかし、方程式モデルと実現象との違いや測定誤差が大きいほど、両者は異なった結果になる。
【0094】
[推定された風量の誤差評価]
次に、換気風量推定装置10は、推定誤差評価手段34を通じて、上記解法により得られた風量の推定値における誤差評価を行う(ステップS06)。誤差評価は、以下に述べる推定誤差分散共分散行列の算出により行う。
【0095】
(推定誤差分散共分散行列の算出)
推定された風量の誤差を評価することは、信頼性確認のためにも必要である。その手掛かりの一つが方程式残差である。なぜならば、トレーサーガスの気中濃度や放散量の測定誤差だけではなく、方程式モデルと実際の現象の構造的な違いなど様々な誤差要因は、結局のところ、方程式残差に表れるからである。残差を計算する場合に、普通の最小二乗法で負の風量がいくつか発生した場合には注意を要する。負の風量のままで残差を計算すれば、推定誤差が過少評価されるからである。濃度の高いゾーンから低いゾーンに流れる負の風量は、濃度の低いゾーンの濃度を高めずに、逆に薄めてしまう不合理を生じる。よく行われている方法として、負の風量は逆向きの流れとして見なしてしまうことがある。確かにこの扱い方で風量収支は満たされるが、各ゾーンでのトレーサーガスの質量収支は満たされなくなり、方程式残差も大きく計算される。しかし、不合理な負の風量の誤差は然るべく評価されるべきであるから、負の風量は逆向きとして残差計算を行うことにする。方程式残差vは、次式で計算する。ここに記述の簡単化のために行列Fとベクトルdを次式の様に定義する。
【数26】
【0096】
(26)式で表した残差を方程式誤差e’とみなせば,この式から最小二乗の解式を導いておくこともできる。この場合の評価関数は、以下の(27)式のようにJ’と表すことにする。
【数27】
【0097】
最小二乗解はJ’をqで微分して0とおいた次の(数28式)から導かれる。
【数28】
【0098】
この(28)式から最小二乗解は次式で計算される。
【数29】
【0099】
(数29)式は(数25)式と本質的に同じであるから同じ解を与える。しかし残差による分散共分散行列を導くためには、この(数29)式から演繹した方が適切である。なぜならば方程式残差から出発するとすれば(数26)式が適切だからである。(数22)式による方程式残差では、残差ベクトルの上半分には、転置された行列Zが左から乗じられていて、本来の方程式残差とは異なる.次に方程式残差の期待値行列を次式で定義する。ここにntは、p,k,lによる様々なすべての条件総数である。
【数30】
【0100】
風量の推定誤差分散共分散行列は、この誤差の期待値行列からの誤差伝搬として次の(数31)式で記述できる。この行列の対角要素が風量の誤差分散であり、非対角要素が共分散である。
【数31】
【0101】
[測定の信頼性の判定]
次に、換気風量推定装置10は、信頼性判定手段35を通じて、上記解法により得られた風量の推定値の信頼性の判定を行う(ステップS07)。この推定風量の信頼性を判定する方法は、以下に述べる決定係数(COD)の算出、モデル前提の不適合率βの算出、及び、推定風量の符号不適合率Raの算出の3通りの方法により行われる。
【0102】
(決定係数の算出)
決定係数(COD)の計算法について説明する。すべての条件p,k,lについて残差二乗和を総和し、これをs(q)とする。
【数32】
【0103】
この大小を比較する基準になるのが次式で定義するガス放散量ベクトルyである。ガス放散量は期間p,ガスの種類kによって変化すると見なされるが,ガス吸着位置lとは無関係と見なされる.しかし(数32)式で残差二乗和を定義するので,総和の個数を一致させるために,lの違いについてはgは同じものを用いると約束して次式のyを定義する。
【数33】
【0104】
このガス放散量ベクトルyと、期間平均との差をとって、すべての条件p,k,lについて二乗和をとった値を、総変動syとする。
【数34】
【0105】
(数32)式の残差二乗和と(数34)式の総変動から、決定係数CODを次の(数35)式で計算する。CODの値が大きいほど推定誤差が小さいことを意味し、最大は1である。
【数35】
【0106】
(モデル前提の不適合率β)
トレーサーガスの期間平均放散量と期間平均濃度の測定誤差から、推定風量の信頼性の判定を行う。この誤差は実際より過少評価されるが、上述した方程式残差からの推定誤差と比較することで、様々なモデル前提の適合性が評価できる。ここで測定データのベクトルと、これらが持つ誤差および誤差分散ベクトルを次のように定義する。p,kc,p,kgはそれぞれ二重バー付きの真値に誤差p,ksc,p,ksgが加わったものと見なす。
【数36】
【数37】
【数38】
【数39】
【数40】
【数41】
【数42】
【数43】
【0107】
風量から構成される行列Q(n×(n+1))を、(数8)式から変形し、次式の様に定義する。ここにシステムパラメータの推定誤差原因はトレーサーガスの期間平均放散量と期間平均濃度の測定誤差だけとし、これによる方程式誤差p,kεuを持つとする。
【数44】
【0108】
(数26)式に対応し、期間平均濃度と期間平均放散量の真値は方程式誤差を0にすることを考慮すれば、次式が導かれる。
【数45】
【0109】
ここでベクトルの下半分は風量収支の拘束条件を表している。またこのベクトルの下半分は測定誤差には関係ないので0と見なすことができる。
【数46】
【0110】
(数44)式の誤差が測定誤差だけに起因するとすれば、この方程式誤差p,kεuの期待値行列は次式で計算される。
【数47】
【0111】
ここに誤差p,ksc,p,ksgの間での共分散は0であることと、これら2つのベクトル内の要素間の共分散も0である性質を用いた。またdiagはこの( )の中の行列の対角要素だけによって構成される行列を表す。これにより下半分のベクトルも加わったp,kεの期待値行列は次式で計算される。
【数48】
【0112】
この(数48)式による方程式誤差の期待値行列を、(数30)式のそれの代わりに用いることで、(数31)式と同様な次の(数49)式により計算される推定パラメータの分散共分散行列mΛqを計算する。
【数49】
【0113】
実際の多くの場合は、(数49)式による誤差推定は,誤差を過小に推定することになるので適切ではないと考えられる。誤差の大きな要因は測定誤差よりも数学モデルの前提と実現象の差異であると考えられるからである。しかし数学モデルの前提が、どの程度実現象で成り立っているかの判断を、このmΛqに対してΛqの大きさを比較することによって行うことができる。ここでmΛqのj番目の対角要素をmσλ2jjで、Λqのj番目の対角要素をσλ2jjで表す。これらの対角要素の平方根をとって、次式の比率βを定義する。
【数50】
【0114】
全ての対角要素についてのβを平均化したものを次式で表し、これをモデル前提の不適合率と呼ぶことにする。
【数51】
【0115】
(数51)式に示されるモデル前提の不適合率がかなり大きい場合には、測定の条件やモデルに不適切なところがあると考えられるので、測定をやり直す必要がある。この場合に、分母のmσλは最も妥当な推定結果を出すと思われる非負最小二乗法によるFを用い、分子のσλの計算では、普通の最小二乗法のF、負の風量は逆向きと見なしたFの各々を用いる。
【0116】
(推定風量の符号不適合率Ra)
3種類の風量推定方法により得られた推定結果を比較することにより、採用した方程式モデルが適切であるか否か、また、上述した短絡流れやゾーン内の濃度不均一等の問題がなかったか否かの判断を行うことができる。3種類の風量推定方法とは、上述した非負最小二乗法により風量qを推定する方法、(数21)式で示す長方行列を、非負の拘束条件を付けない普通の最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量qを推定する方法、(数21)式で示す長方行列を、非負の拘束条件を付けない普通の最小二乗法のアルゴリズムを用いて解き、負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法である。これらの3種類の方法により得られた推定結果を比較することにより、推定された風量の妥当性を検証する。推定結果に差がないと判定した場合には、方程式モデルの仮定が正しいと見なし、上述した非負最小二乗法の推定結果を採用する。一方、3種の推定結果の違いが大きいと判定した場合には、上述した非負最小二乗法の推定結果を採用しない。この場合、方程式モデルの仮定が実現象と食い違っているものと見なし、諸条件を変えて測定をやり直すことになる。
【0117】
3種類の推定結果の違いの判断は、例えば以下の手順により行うことができる。まず、各推定結果における各風量の平均値を求める。ある一つの風量qi,jについて,3種の推定方法のうちm番目の推定結果をmqi,jとして、3種間での平均値を(数52)式から求める。
【数52】
【0118】
この個々の風量に関する3種推定結果間の平均値に基づいて、次の(数53)式から3種間のばらつきである分散σqij2を求める。
【数53】
【0119】
(数53)式で求めた風量の分散について、次の(数54)式から全ての風量にわたる平均値σq2を求める.ここにnqは風量の個数,nは建物内の総ゾーン数,n+1番は外気のゾーン番号である。
【数54】
【0120】
また、全風量の平均値は、非負最小二乗解について次式で計算する。
【数55】
【0121】
推定風量の符号不適合率Raは次式で表すことができる。この符号不適合率Raが0.5より小さければ、非負最小二乗法の結果を採用する。一方、符号不適合率Raが0.5以上であれば、測定条件がモデルの仮定と大きく異なるものと見なし、条件を改善した上で再度測定するものとする。
【数56】
【実施例】
【0122】
以下、上述した換気風量推定方法及び換気風量推定装置をPFT法に適用して住宅の換気量の推定を行った実施例について説明する。
【0123】
[測定条件]
図3は、本実施例において適用対象となる住宅の各階平面図であり、図4は、図3の住宅の室内の空気の移動量を示す概略断面図である。この住宅は、図15に示した従来の確定的方法の手順を説明するために用いた住宅と同一であり、放散源及びサンプラーの設置位置及び設置個数も図15と同一である。
【0124】
図3に示すように、適用対象となる住宅は3階建ての建物であり、1階、2階、3階をそれぞれゾーン1、ゾーン2、ゾーン3とする。また、屋外もひとつのゾーンとみなし、これをゾーン4とする。図4に示す矢印は、各ゾーン間の空気の流れと、各ゾーンと屋外(外気)との間の空気の流れを示すものであり、本実施例で推定する風量を示すものである。すなわち、q2,1はゾーン1からゾーン2への風量であり、q1,2はゾーン2からゾーン1への風量であり、q3,2はゾーン2からゾーン3への風量であり、q2,3はゾーン3からゾーン2への風量であり、q3,1はゾーン1からゾーン3への風量であり、q1,3はゾーン3からゾーン1への風量であり、q4,1は、ゾーン1からゾーン4への風量であり、q1,4はゾーン4からゾーン1への風量であり、q4,2はゾーン2からゾーン4への風量であり、q2,4はゾーン4からゾーン2への風量であり、q4,3はゾーン3からゾーン4への風量であり、q3,4はゾーン4からゾーン3への風量を示す。
【0125】
図3に示すように、放散源として、ゾーン1にC6F6を4本、ゾーン2にC7F8を4本、ゾーン3にC7F14を5本設置した。また、図3に示すように、ゾーン1にサンプラーA,B,Cを、ゾーン2にサンプラーD,E,Fを、ゾーン3にサンプラーG,H,I,Jをそれぞれ設置した。
【0126】
測定期間は1回であり、測定時間は24時間とした。なお、本実施例では測定時間が短いため、トレーサーガスが均一に拡散するように扇風機を用いて各ゾーン内を攪拌した。但し、上述したように、扇風機による攪拌等を行わずに通常の居住状態で測定を行う場合には、トレーサーガス濃度のばらつきや系の変化を平均化するために最低10日程度放置する必要があると考えられる。
【0127】
なお、本実施例では測定期間を単一期間としたが、換気量が様々な条件変化により変化するという観点から、複数の期間に分けて、これらの期間でのばらつきを考慮できるようにするのが好ましい。複数の期間に分けて測定を行う場合、サンプラーの吸着剤と放散源を期間ごとに取り替えるか、少なくとも吸着剤は期間ごとに取り替えるようにする。
【0128】
なお、上述した基本数式モデルではトレーサーガス濃度の立ち上がりの過渡状態が考慮されていない。従って、本実施例では、トレーサーガス濃度の立ち上がり期間経過後、すなわち、各ゾーン内のトレーサーガスの気中濃度が定常状態となった後にサンプラーA〜Jを設置し、測定を開始するようにした。測定期間経過後の、各トレーサーガスの放散量(放散速度)を表1に示す。なお、各ゾーン内には複数の放散源が設置されているが、表1に示す放散量は、各ゾーン中のすべての放散源における放散量(放散速度)の総和を示している。測定期間終了後、サンプラーA〜Jを回収し、サンプラーの吸着剤をガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)によって定性・定量分析して各トレーサーガスの吸着量を求めた。
【表1】
【0129】
[期間平均濃度の測定]
測定して得られたトレーサーガスの吸着量と予め知られている各トレーサーガスの吸着速度から、各ゾーン空気中の各トレーサーガスの期間平均濃度を求めた。各ゾーンの測定位置における期間平均濃度を表2に示す。なお、後述するように、実施例1、2、及び比較例においては、各測定位置における期間平均濃度を用いずに、これらの平均値を用いて演算を行った。平均化する際には、部屋面積で重み付けした。重み付け平均の面積比は図3に示すようにゾーン1ではA:B:C=2:5:7、ゾーン2ではD:E:F=32:14:19,ゾーン3ではG:H:I:J=15:8:14:16とした。例えば、ゾーン1の場合には、重み付け平均値は、(2×273.0+5×256.2+7×240.5)/(2+5+7)=250.8と算出される。
【表2】
【0130】
なお、本発明の換気風量推定方法では、各ゾーンにおける期間平均濃度の個数が同じである必要がある。従って、本実施例では、ゾーン1及びゾーン2における期間平均濃度の数を、ゾーン3の個数に合わせることとした。すなわち、ゾーン1及びゾーン2では、それぞれ重み付け平均値を加えて、各トレーサーガスにつき4個の期間平均濃度を採用した。なお、重み付け平均値を加える替りに、例えばゾーン1でサンプラーAの値を重複して用いるなど、同じデータを繰り返し用いることによって、各ゾーンの期間平均濃度個数を同数に揃えるようにしてもよい。
【0131】
[風量の算出]
表2に示す期間平均濃度p,k,lcを用いて、以下の実施例1〜実施例4及び比較例の5通りの条件で風量qを算出した。
(実施例1)
ゾーン1とゾーン3との間の風量、すなわちq3,1及びq1,3は実在しない風量であるが、こうした換気量も存在し得るとして未知数qを12個とした。各ゾーンの期間平均濃度は、各濃度測定位置のばらつきを考慮せず、各トレーサーガスにつき重み付け平均値1個のみを用いた。すなわち、各ゾーンにつき採用した期間平均濃度の個数は3個である。これらを(数7)式に代入し、上述した手順で演算を行って(数21)式を得、非負最小二乗法のアルゴリズムを適用することによって最適値を得た。換気量の算出結果を図5−1及び図5−2に示す。
【0132】
(実施例2)
ゾーン間の幾何的状況から、ゾーン1とゾーン3の間では、直接的に結びつく風量は存在しないと考えられるから、精度向上のために未知数の個数を12個から10個に減らした。各ゾーンにおける期間平均濃度は、実施例1と同様に、各トレーサーガスにつき重み付け平均値1個のみを用いた。実施例1と同様に、非負最小二乗法のアルゴリズムを適用することによって最適値を得た。風量の算出結果を図6−1及び図6−2に示す。
【0133】
(実施例3)
未知数qについては、実施例1と同様に12個とした。各ゾーンの期間平均濃度については、各トレーサーガスにつき各4個ずつ用いた。すなわち、各ゾーンにつき採用した期間平均濃度は12個である。実施例1と同様に、非負最小二乗法のアルゴリズムを適用することによって最適値を得た。風量の算出結果を図7−1及び図7−2に示す。
【0134】
(実施例4)
未知数qについては、実施例2と同様に10個とした。各ゾーンの期間平均濃度については、実施例3と同様に、各トレーサーガスにつき各4個ずつ、すなわち、各ゾーンにつき12個の期間平均濃度を用いた。実施例1と同様に、非負最小二乗法のアルゴリズムを適用することによって最適値を得た。風量の算出結果を図8−1及び図8−2に示す。
【0135】
(比較例)
未知数qについては、実施例1と同様に12個とした。各ゾーンの期間平均濃度についても、実施例1と同様に、各トレーサーガスにつき重み付け平均値1個のみを用いた。これらを用いて連立方程式を立て、従来の確定的方法によって風量を算出した。風量の算出結果を図9−1及び図9−2に示す。この確定的方法については従来技術の説明で述べたとおりであるので、説明を省略する。
【0136】
[換気量の誤差分散の算出]
上記の実施例及び比較例で得られた風量の誤差分散共分散行列を算出した。計算式は(数26)式から(数31)式に示される。各行列を図10〜図14に示す。図10〜図14において、対角要素が分散であり、非対角要素が共分散である。各マトリックスの行・列番号には、図5−1〜図9−1に示した表の左段上から下へ、次に右段上から下への順番(すなわち、q4,1,q4,2,・・・,q3,1,q1,3)が対応する。
【0137】
図10〜図14に示した行列においては、対角要素の分散が重要である。分散の平方根が標準偏差であり、もし誤差が正規分布するとするならば、誤差は標準偏差の3倍以内に99.7%の確率で発生する。図10〜図14より、実施例1〜4の推定結果から算出した分散が、比較例の分散よりも小さいことが分かる。すなわち、非負最小二乗法のアルゴリズムを適用して算出した風量は、従来の確定的方法により算出した風量よりも推定誤差が小さいといえる。
【0138】
[決定係数の算出]
上記の実施例及び比較例で得られた風量の決定係数CODを算出した。計算式は(数32)式〜(数35)式に示される。算出結果を表3に示す。
【表3】
【0139】
図9−1及び図9−2に示すように、従来の確定的方法によって得られた風量の推定結果では、ゾーン1からゾーン4への風量q4,1や、ゾーン2からゾーン4への風量q4,2に負の値が発生している。これらの負の風量は熱力学的に不合理である。つまりガス濃度の比較的高いゾーンから低いゾーンに負の風量が流れれば、低いゾーンの濃度を高めず、さらに低くしてしまう。こうした負の風量でも、風量収支だけは成立させるため、従来は便宜的に負の風量を逆向きの風量として扱ってきた。しかし、この扱いでガスの質量収支が成立しなくなり、大きな方程式残差を持つようになる。比較例の決定係数CODが実施例1〜4と比較して悪いのはこのためである。これに対し、実施例1〜4の推定結果から算出した決定係数CODはいずれも高い値が得られた。
【0140】
[モデル前提の不適合率の算出]
方程式モデルと実現象の構造的な違いなどによって生じる誤差と、濃度や放散量の測定時における誤差との比較及びモデル前提の不適合率βを算出した。計算式は(数36)式〜(数51)式に示される。結果を表4に示す。なお、表4は、実施例2(風量10個推定、期間平均濃度の個数:1個、非負最小二乗法)についての結果のみを示している。測定誤差標準偏差は測定値で現れた平均的最大値に対して3%と仮定した。
【表4】
【0141】
[推定風量の符号不適合率の算出]
また、3種類の風量推定方法により得られた推定結果の違いを検証し、採用した方程式モデルが適切であるか否かの評価を行った。3種類の風量推定方法を以下に示す。
(1)上述した実施例4(非負最小二乗法を適用)
(2)実施例4において、非負最小二乗法を用いずに、非負の拘束条件を付けない最小二乗法を適用する。
(3)実施例4において、非負最小二乗法を用いずに、非負の拘束条件を付けない最小二乗法を適用する。負の風量が推定された場合にはこれを逆向きの正の風量と見なす。
【0142】
上記の3種の推定方法により得られた推定結果、(数52)式から求めた3種の推定結果間における個々の風量の平均値、(数53)式から求めた3種間における個々の風量の分散を求めた。これを表5に示す。
【表5】
【0143】
(数54)式から、表4に示した個々の風量の分散の平均値を求め、(数55)式から、表4に示した全風量の平均値を求めた。分散の平均値は376.1であり、風量の平均値は49.7であった。これらの演算結果を(数56)式の右辺に代入して符号不適合率Raが0.391という結果を得た。この数値は0.5以下である。以上より、上記実施例4における方程式モデルの仮定が正しく、非負最小二乗法の結果を採用してもよいという結論が得られた。
【0144】
以上説明したように、本実施の形態の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法及び装置によれば、統計的手法として、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,kgと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出し、全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定するようにしたことで、従来の確定的方法のように存在しない不要な未知風量を導入することなく、また負の風量が推定されるといった不合理な結果が得られることがなく、合理的な解が得られるようになることから、風量の推定精度を向上させることができる。
【0145】
また、本実施の形態の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法及び装置によれば、トレーサーガスの連立質量収支式に最小二乗法を適用して得られた式(すなわち上記の風量qを解くための条件式)に、風量収支式を加えて二重に最小二乗化を行うようにした。つまり、本発明では、方程式誤差を最小化する長方行列の定式化は、全ゾーンの期間平均濃度及び期間平均放散量について、その長方行列の行方向に増やしていくという定式化ではなく、総和するという定式化である。これにより、トレーサーガスの質量収支条件と風量収支条件を均一な重みで考慮することになるから、風量の推定精度のさらなる向上に寄与することができる。
【0146】
また、本実施の形態の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法及び装置によれば、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うようにしたことで、推定された風量の誤差を的確に評価することができる。
【0147】
さらに、本実施の形態の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法及び装置では、測定の信頼性の判定の指標として、決定係数COD、モデル前提の不適合率β、推定風量の符号不適合率Raを定義した。従来の確定論的方法を用いた風量推定方法では、測定条件や方法が適切でないために測定をやり直さなければならないような結果が得られた場合であっても、その結果が妥当であるか否かを判断することができなかった。本実施の形態の簡易的換気風量推定方法及び装置によれば、上記の指標を用いることにより、実験者が推定された風量を採用すべきか否かを判断することができるようになる。すなわち、方程式モデルと実現象との違いがないという判定がなされた場合には、推定された風量を採用し、方程式モデルと実現象の違いが大きいという判定がなされた場合には、モデルを再設定して測定のやり直しを行うことができる。
【0148】
なお、上記実施例では、測定期間の数を1、トレーサーガスの種類数を3、各ゾーンに設置するサンプラーの数を3,4個としたが、これらの数が多いほど誤差評価の信頼性が高くなる。例えば、各ゾーンに2種類以上のガスを放散させることによりトレーサーガスの種類数をゾーン数よりも多くした場合、各ゾーンに配置するサンプラーの数(期間平均濃度p,k,lcの個数)をさらに増やした場合には、上記実施例よりも推定精度を向上させることができ、誤差評価の信頼性をさらに高めることができる。
【0149】
また、上記実施の形態では、トレーサーガスとしてPFTを適用したが、これに限定されず、他のガスを適用して換気量の推定を行うこともできる。つまり、上記実施の形態で適用したフッ素系の揮発性有機化合物と同様に、測定期間中に放散量がほぼ一定となるガス、又は、吸着材に吸着する速度が気中濃度と明確な関数関係を持つガスであれば、本発明の換気風量推定方法に適用することができる。
【0150】
[風量推定と誤差評価理論の検算]
上記の実施の形態はフィールド実験であるから真の風量の値が分からない。従って風量推定と誤差評価の理論と計算プログラムが妥当かどうかも分からない。そこでこうした検算を行うために、多数室モデルにおいて風量を仮定したトレーサーガス濃度予測計算モデルを作り、トレーサーガス濃度を予測計算し、このトレーサーガス濃度の解と条件のガス発生量に、正規分布の誤差を乱数発生によって加えて、模擬的な測定値を生成した。そしてこの模擬測定値により風量推定と誤差評価を行った。
【0151】
(模擬測定値生成のための計算モデル)
図17に示すように4ゾーンで風量分布を仮定した多数室ガス流動モデルを仮定した。それぞれのゾーンで異なった合計4種類のトレーサーガスを毎時10mgで放散するものとした。ガス濃度の予測計算では,定常状態を仮定した計算を行うので、ゾーン容積は関係しないが、ゾーン1からゾーン4まで、それぞれ100m3,25m3,62.5m3,62.5m3とした。ゾーン2とゾーン4の間には風量が存在しないものとした。風量推定では,これらの風量が存在し得る場合と存在しない場合の二通りを計算した。なお予測計算プログラムでは風量はm3/secなので、これらのm3/hの風量を3600で割って数値入力する関係上、桁落ち的な誤差が生じている。この結果、後で説明する表8や表9に真の風量の値として示す様にわずかにこれらの数値と違っている。
【0152】
(乱数発生的誤差を加えた模擬測定値)
トレーサーガス発生量はその測定誤差の標準偏差が1を、トレーサーガス濃度は測定誤差の標準偏差が0.001で正規分布する誤差を、乱数発生を元にして生成し、これらのガス発生量とガス濃度に加えた。トレーサーガス濃度は各ゾーン内で4箇所測定するものとし同様な誤差加算を行った。表6のその1及び表7のその2に、これらの模擬測定値を示す。データの記号はgがガス発生流率、xがガス濃度を表し、左添え字番号と右添え字番号は、上記実施の形態と同様である。右添え字番号はゾーン番号を表す。左添え字は、ハイフンを挟んで左から期間番号、ガス種類番号、ゾーン内の位置番号を表す。
【表6】
【表7】
【0153】
(風量の推定結果)
風量の推定は、ゾーン2とゾーン4の間の風量が存在しえるかどうかで、風量個数が16個のモデルと14個のモデルの二種類について行った。また風量の推定方法としては三種類とし、普通の最小二乗法で負の風量をそのままとした結果、普通の最小二乗法で負の風量を逆向きとした結果、そして非負最小二乗法の結果を真値と比べたのが表8と表9である。さらに表10では、従来法の場合には未知風量の個数は20個として推定することになるので、これとの比較を行った。
【表8】
【表9】
【表10】
【0154】
(誤差評価)
誤差評価のための各種指標を示す。表11は風量が16個と14個の場合の決定係数、図18と図19はそれぞれ風量が16個と14個の場合における風量の推定誤差分散共分散マトリックス、表12と表13は予測誤差分散と実際の誤差の比較、表14は三種の推定結果間の違いからの誤差評価指標である。
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【0155】
(考察)
風量の推定結果は表8と表9に示されるように真の風量と比べて概ね一致している。風量16個で推定した場合の表8で分かるように、通常の最小二乗法では負の風量が1個発生している。しかし、誤差が理想的な正規分布であるからか、三種いずれの結果の推定精度にも大差は見られない。表11に示す決定係数もいずれの推定方法でも殆ど1である。推定された風量の誤差分散共分散マトリックスの図18と図19から対角要素の分散を取り出し、それぞれの風量の推定値と真値とこれらの誤差を予測誤差分散と比較した表が、風量個数16個と14個のそれぞれについて、表12と表13である。分散の平方根が標準偏差である。もし風量の誤差が正規分布するとすれば、標準偏差の3倍以内にほとんどの誤差の出現が発生することになる。幾つかこれを超える誤差も見られるが、ほぼ誤差の大きさを予測できていると考えられる。表14に示す、三種の推定結果の違いから様々な発生誤差の妥当性を評価する指標では、風量14個の推定の方が16個の場合に比べて三種間のばらつきが小さく、従って良い結果であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】本発明の実施の形態である換気風量推定装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態である換気風量推定装置の演算処理の概略フローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態である換気風量推定方法の実施例に用いた住宅の平面図である。
【図4】本発明の実施の形態である換気量推定方法の実施例に用いた住宅の換気量を示す概念図である。
【図5−1】実施例1の風量の算出結果を示す図表である。
【図5−2】実施例1の風量の算出結果を示す図である。
【図6−1】実施例2の風量の算出結果を示す図表である。
【図6−2】実施例2の風量の算出結果を示す図である。
【図7−1】実施例3の風量の算出結果を示す図表である。
【図7−2】実施例3の風量の算出結果を示す図である。
【図8−1】実施例4の風量の算出結果を示す図表である。
【図8−2】実施例4の風量の算出結果を示す図である。
【図9−1】比較例の風量の算出結果を示す図表である。
【図9−2】比較例の風量の算出結果を示す図である。
【図10】実施例1で得た風量の誤差分散共分散行列を示す図である。
【図11】実施例2で得た風量の誤差分散共分散行列を示す図である。
【図12】実施例3で得た風量の誤差分散共分散行列を示す図である。
【図13】実施例4で得た風量の誤差分散共分散行列を示す図である。
【図14】比較例で得た風量の誤差分散共分散行列である。
【図15】従来の換気風量推定方法に用いる住宅の平面図である。
【図16】従来の換気風量推定方法に用いる住宅の風量を示す概念図である。
【図17】上記実施の形態で得られた風量推定の検算において仮定した多数室ガス流動モデルを示す図である。
【図18】上記検算により得られた風量の誤差分散共分散行列である。
【図19】上記検算により得られた風量の誤差分散共分散行列である。
【符号の説明】
【0157】
10 換気風量推定装置
20 入力装置
30 演算装置
31 期間平均濃度演算手段
32 条件式演算手段
33 風量演算手段
34 推定誤差評価手段
35 信頼性判定手段
40 出力装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーサーガスを用いて複数ゾーンの換気風量を簡易的に推定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレーサーガスを用いた換気風量推定方法のひとつとして、PFT(Perfluorocarbon Tracer)法が知られている。このPFT法は、フッ素系の揮発性有機化合物をトレーサーガスとして建物の室内空間に放散させて、測定箇所のトレーサーガス吸着量と吸着速度から空間内のトレーサーガスの濃度を測定し、トレーサーガスの放散量と測定されたトレーサーガス濃度とから、簡易的に風量を推定する方法である(例えば、特許文献1を参照)。ここに簡易的とは、数学モデルにおいてはトレーサーガス濃度の時間変化項を省略し、測定装置においてはトレーサーガス濃度も放散量も期間積分値しか測れない簡便な器具を用いることを意味する。
【0003】
このPFT法は、従来単室モデルで行われてきたが、近年、トレーサーガスの種類を2〜3種類にすることで、2〜3室モデルでの室間の風量も推定できるとした報告が為されている(非特許文献1を参照)。さらに最近では4種類のガスを用いて4室モデルに適用した報告も為されている(非特許文献2を参照)。
【0004】
ここで、PFT法の一例として、3室モデルでの室間の風量を推定する手順について説明する。なお、以下の説明では、測定対象となる建物を区分けした室を「ゾーン」と呼ぶことにする。また、本明細書では、各ゾーン間の空気の交換量と、各ゾーンと外気(屋外)との間の空気の交換量の双方を「換気風量」と呼び、以下の説明では、「換気風量」を省略して単に「風量」と呼ぶことにする。
【0005】
図15は、適用対象となる住宅の各階平面図であり、図16は、室内の空気の交換「量を示す建物の概略断面図である。図15及び16に示すように、測定対象となる住宅は3階建ての建物であり、各階をそれぞれゾーン1、ゾーン2、ゾーン3とし、各ゾーンにそれぞれ異なる種類の放散源を設置する。図16に示す矢印は、各ゾーン間の空気の流れと、各ゾーンと外気との間の空気の流れを示すものであり、各ゾーン間、及び、各ゾーンと外気との間の風量をQ1,0〜Q3,2とする。
【0006】
図15に示すように、トレーサーガスの放散源と、トレーサーガスを捕集するパッシブガスチューブとを各ゾーン内に配置し、所定の期間(1日〜1ヶ月)放置することにより、放散源からのトレーサーガスの放散量と、トレーサーガスの捕集量を測定する。
【0007】
放散源は、C6F6、C7F8、C7F14の3種類のPFTを使用する。この放散源は、クリンプバイアル瓶等の放散容器内に液体のPFTを充填し、容器開口を透過膜で蓋をしたものであり、透過膜を介してPFTのガスを放散させるようにしたものである。図15に示すように、ゾーン1にはC6F6の放散源を、ゾーン2にはC7F8の放散源を、ゾーン3にはC7F14の放散源を、それぞれ複数本ずつ設置する。
【0008】
パッシブガスチューブ(以下、これを「サンプラー」という)は、チューブ内に活性炭等の吸着材を収容したものであり、この吸着材にトレーサーガスを吸着させることによって、放散源から放散されたトレーサーガスを捕集する。このサンプラーをゾーン1及びゾーン2に各3本、ゾーン3に4本設置する。なお、サンプラーは、放散源を設置してから所定時間経過して各ゾーン内のトレーサーガスの気中濃度が定常状態となった後に設置するものとする。サンプラーを回収後、吸着材の溶媒抽出を行い、ガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)によって、吸着したガス成分を同定、定量する。
【0009】
吸着材の分析結果から求められたトレーサーガスの吸着量と、予め知られているトレーサーガスの吸着速度から、各ゾーンにおける各トレーサーガスの気中濃度を求める。また、測定期間中に各放散源から放散されたガスの量は、放散源の容器の質量減少分を計ることにより得られる。
【0010】
ゾーン1、ゾーン2、ゾーン3における3種類のトレーサーガスの質量収支と、各ゾーンにおける風量の収支とからなる連立方程式を以下に示す。
【数1】
【0011】
なお、上記(数1)式のCHxn,COcn,CPenは、ゾーンnにおける各トレーサーガスの気中濃度を示しているが、これらは、各ゾーンの複数の測定位置の代表濃度、すなわち、各ゾーンの複数の測定位置での気中濃度の平均をとったものである。上記の測定により得られた各ゾーンにおける各トレーサーガスの気中濃度を、(数1)式のCHx1,COc1,CPe1,CHx2,COc2,CPe2,CHx3,COc3,CPe3にそれぞれ代入し、各ゾーンにおけるトレーサーガスの放散量を、MHx,MOc,MPeにそれぞれ代入し、(数1)式を解くことによって、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量Q1,0〜Q3,2を算出することができる。
【0012】
上述した従来の方法では、未知数である風量の数に等しい本数の方程式を立てて風量を算出する。すなわち、上記の例のようにゾーン数が3の場合、トレーサーガスの種類数はゾーン数と等しく3種類となるから、トレーサーガスの質量収支について、ゾーン数×ガス種類数すなわち9本の方程式が成り立つ。さらに、ゾーン数分の風量収支式3本が成立するから、合計で12本の方程式(数1式)が得られる。一方、図16に示すように、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量(Q1,0〜Q3,2)の個数は12個存在するから、未知数と方程式数が一致し、風量は確定した解として得られる。以下、上述した従来の風量推定方法を「決定論的方法(deterministic method)」と呼ぶことにする。
【0013】
【特許文献1】特開2007−10363号公報
【非特許文献1】田辺新一等,“パッシブ測定法を用いた室内空気質評価 その19 PFT法を用いた換気量簡易測定法検討実測”,日本建築学会大会学術講演梗概集 pp.913-914,2005年9月
【非特許文献2】三原邦彰,吉野博,熊谷一清,野口美由貴,柳沢幸雄,4種類のパッシブトレーサーガスを用いた換気性能評価−実験及び数値計算による測定精度検証−,日本建築学会大会学術講演梗概集(関東),講演番号41336 頁689-690,2006年9月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の測定法ではその前提が成り立つ測定が実施されたかどうか分からなかった。従って条件を修正して再測定すべきかどうかの判断ができなかった。簡易的測定法なので、比較的に多くの前提を必要としている。この前提はトレーサーガスの質量収支に関する基本数式モデルの制約に大きく依存する。まずガス濃度の非定常項を無視している。また期間での風量の変動も小さいとしている。さらに各ゾーン内での短絡流れ等は無くガス濃度の均一性を必要としている。これらの前提は10日から数週間という長期間の測定をすることで近似的に満たされると期待される前提である。測定中のガス濃度の様子も発生量も、さらに換気の状況も、人間が知覚できるものではないので、測定データ分析法によって、これら前提成立の妥当性検討が必要である。
【0015】
また、従来の測定法では誤差評価と信頼性の検定ができなかった。従来の測定法では未知数の風量の個数に等しい本数のトレーサーガスの質量収支に関する基本式と風量収支の式により決定論的(deterministic)に風量を定める方法である。従って測定誤差の影響を考慮できない方法である。誤差評価のためには測定機器の誤差の統計的性質が既知で、推定風量への誤差伝搬が確定していなければならない。しかし上述した様に、誤差伝搬の方程式構造自体が不確定で変動する。また測定機器の誤差よりは、上述した様々な前提が成り立たないことに多くの誤差原因があると考えられる。誤差評価は統計的(statistic)な方法によらない限り行うことができない。
【0016】
従来の測定法では不合理な負の風量が求められることが多い。上述したように、実現象と方程式モデルの間にはかなり大きな違いが発生し得るからである。この従来法の問題を解決するためには、方程式モデルの右辺と左辺の誤差の存在は認め、この誤差を最小にする風量を正の範囲で求めるという最適化問題の考え方に改めなければならない。
【0017】
従来のデータ分析法の方程式モデルと添え字番号の記号定義は、汎用的で一般適用性のある計算プログラムを組み上げるためには適していない。決定論的にせよ統計論的にせよ、解を求め誤差評価も行うためには線形代数を応用することになる。しかし(数1)式で分かるように、従来の方法における風量の添え字番号とガス種類の記号の定義の仕方では、必要な行列を構成するための合理的なアルゴリズムとデータ構造が作れない。
【0018】
本発明は上記の点に鑑み、複数ゾーンでの風量の推定精度を向上させることのできる測定データ分析方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の請求項1の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する方法において、総ゾーン数以上の種類のトレーサーガスを別々のゾーンで一定発生させ、各ゾーン内における1以上の測定箇所で前記トレーサーガスの期間平均濃度を測定することを1以上の測定期間で実施し、得られた複数の期間平均濃度とトレーサーガスの期間平均放散量とから、統計的手法を用いて前記風量を推定し、推定した風量の誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項2の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項1において、前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量のうち、実在する風量のみを未知数として、前記統計的手法により各未知数を推定することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項3の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項1又は2において、前記統計的手法として、推定風量が非負であるという拘束条件付きの最小二乗法を適用することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の請求項4の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項1から3のいずれか一つにおいて、前記測定の信頼性の判定として、前記期間平均濃度と前記期間平均放散量の測定誤差から求めた風量の誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた推定風量の誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性の判定を行うことを特徴とする。
【0023】
また、本発明の請求項5の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する方法であって、1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定し、前記期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出し、全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定し、推定した風量qの誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の請求項6の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項5において、全ゾーンの前記期間平均濃度及び前記期間平均放散量を、総和型の条件式で前記長方行列へ取り込むことにより、前記長方行列の定式化を行うことを特徴とする。
【0025】
また、本発明の請求項7の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項5において、前記測定期間の数が複数である場合に、全測定期間の前記期間平均濃度及び前記期間平均放散量を同時に用いることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の請求項8の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項5において、前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から前記風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うことを特徴とする。
【0027】
また、本発明の請求項9の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項5において、前記測定の信頼性の判定として、前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差の二乗和から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項6の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする。
【0028】
また、本発明の請求項10の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法は、上記請求項5において、前記測定の信頼性の判定として、請求項5に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法によって風量qをそれぞれ算出し、
前記3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、
前記3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項5の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする。
【0029】
また、本発明の請求項11の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する装置であって、1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定する期間平均濃度測定手段と、前記期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出する条件式演算手段と、全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定する風量演算手段と、前記風量演算手段によって推定された風量qの誤差評価を行う推定誤差評価手段と、前記風量演算手段によって推定された風量qの測定の信頼性の判定を行う信頼性判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0030】
また、本発明の請求項12の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記風量演算手段は、全ゾーンの前記期間平均濃度及び期間平均放散量を、総和型の条件式で前記長方行列へ取り込むことにより、前記長方行列の定式化を行うことを特徴とする。
【0031】
また、本発明の請求項13の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記条件式演算手段は、前記測定期間の数が複数である場合に、全測定期間の前記期間平均濃度及び期間平均放散量を同時に用いることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の請求項14の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記推定誤差評価手段は、前記風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から前記風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うことを特徴とする。
【0033】
また、本発明の請求項15の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記推定誤差評価手段は、前記風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、前記信頼性判定手段は、前記推定誤差評価手段によって算出された方程式残差から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項12の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする。
【0034】
また、本発明の請求項16の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記信頼性判定手段は、前記期間平均濃度と前記期間平均放散量の測定誤差から求めた風量qの誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた風量qの誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性を判定することを特徴とする。
【0035】
また、本発明の請求項17の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置は、上記請求項11において、前記風量演算手段は、請求項11に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法により風量qをそれぞれ算出し、前記信頼性判定手段は、前記3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、前記3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項11の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明の請求項1の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、建物内の空間を複数のゾーンと見なし、総ゾーン数以上の種類のトレーサーガスを別々のゾーンで一定発生させ、各ゾーン内における1以上の測定箇所で前記トレーサーガスの期間平均濃度を測定することを1以上の測定期間で実施し、得られた複数の期間平均濃度とトレーサーガスの期間平均放散量とから、統計的手法(statistical method)を用いて前記風量を推定し、推定した風量の誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うようにしたことで、従来の確定的方法によって風量を算出する場合と比較して、風量の推定精度を向上させることができる。また、推定した風量の誤差評価及び測定の信頼性の判定を適切に行うことで、方程式モデルと実現象との違いを把握することが可能となる。
【0037】
また、本発明の請求項2の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量のうち、実在する風量のみを未知数として、統計的手法により各未知数を推定するようにしたことで、従来の確定的方法のように存在しない不要な未知風量を導入することがなくなる分、風量の推定精度を向上させることができる。
【0038】
また、本発明の請求項3の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、統計的手法として、推定風量が非負であるという拘束条件付きの最小二乗法を適用したことで、負の風量が推定されるといった不合理な問題を解決することができる。
【0039】
また、本発明の請求項4の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、測定の信頼性の判定として、期間平均濃度と期間平均放散量の測定誤差から求めた風量の誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた推定風量の誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性の判定を行うようにしたことで、実験者は、推定された風量を採用すべきか否かを判断することができるようになる。すなわち、方程式モデルと実現象との違いがないという判定がなされた場合には、推定された風量を採用し、方程式モデルと実現象の違いが大きいという判定がなされた場合には、モデルを再設定して測定のやり直しを行うことができる。
【0040】
また、本発明の請求項5の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定し、この期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出し、全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定し、推定した風量qの誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うようにしたことで、従来の確定的方法のように存在しない不要な未知風量を導入することなく、また負の風量が推定されるといった不合理な結果が得られることがなく、合理的な解が得られるようになることから、風量の推定精度を向上させることができる。
【0041】
また、本発明の請求項6の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法では、請求項5において、全ゾーンの期間平均濃度及び前記期間平均放散量を、総和型の条件式で前記長方行列へ取り込むことにより、長方行列の定式化を行うようにした。すなわち、トレーサーガスの連立質量収支式に最小二乗法を適用して得られた式(風量qを解くための条件式)に、風量収支式を加えて二重に最小二乗化を行うようにしており、方程式誤差を最小化する長方行列の定式化は、全ゾーンの期間平均濃度及び期間平均放散量について、その長方行列の行方向に増やしていくという定式化ではなく、総和するという定式化である。これにより、トレーサーガスの質量収支条件と風量収支条件を均一な重みで考慮することになるから、風量の推定精度のさらなる向上に寄与することができる。
【0042】
また、本発明の請求項7の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、請求項5において、測定期間の数が複数である場合に、全測定期間の期間平均濃度及び期間平均放散量を同時に用いるようにしたことで、風量の推定精度のさらなる向上に寄与することができる。
【0043】
また、本発明の請求項8の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、請求項5の方法により各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から風量qの誤差分散共分散行列を算出し誤差評価を行うようにしたことで、推定された風量の誤差を的確に評価することができる。
【0044】
また、本発明の請求項9の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、測定の信頼性の判定として、請求項5の方法により前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差の二乗和から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項5の方法により得られた風量の妥当性を判定するようにしたことで、推定された風量を採用すべきか否かの判断の指標とすることができる。
【0045】
また、本発明の請求項10の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法によれば、測定の信頼性の判定として、請求項5に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法によって風量qをそれぞれ算出し、この3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項5の方法により得られた風量の妥当性を判定するようにしたことで、実験者は、推定された風量を採用すべきか否かを判断することができるようになる。すなわち、方程式モデルと実現象との違いがないという判定がなされた場合には、推定された風量を採用し、方程式モデルと実現象の違いが大きいという判定がなされた場合には、モデルを再設定して測定のやり直しを行うことができる。
【0046】
また、本発明の請求項11の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する装置であって、1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定する期間平均濃度測定手段と、前記期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出する条件式演算手段と、全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定する風量演算手段と、前記風量演算手段によって推定された風量qの誤差評価を行う推定誤差評価手段と、前記風量演算手段によって推定された風量qの測定の信頼性の判定を行う信頼性判定手段と、を備えたことで、従来の確定的方法のように存在しない不要な未知風量を導入することなく、また負の風量が推定されるといった不合理な結果が得られることがなく、合理的な解が得られるようになることから、風量の推定精度を向上させることができる。
【0047】
また、本発明の請求項12の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された風量演算手段が、全ゾーンの前記期間平均濃度及び期間平均放散量を、総和型の条件式で長方行列へ取り込むことにより長方行列の定式化を行うように構成したことで、トレーサーガスの質量収支条件と風量収支条件を均一な重みで考慮することになり、風量の推定精度のさらなる向上に寄与することができる。
【0048】
また、本発明の請求項13の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された条件式演算手段が、測定期間の数が複数である場合に全測定期間の期間平均濃度及び期間平均放散量を同時に用いるように構成したことで、風量の推定精度のさらなる向上に寄与することができる。
【0049】
また、本発明の請求項14の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された推定誤差評価手段が、風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から前記風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うように構成したことで、推定された風量の誤差を的確に評価することができる。
【0050】
また、本発明の請求項15の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された推定誤差評価手段が、風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、請求項11に記載された信頼性判定手段が、推定誤差評価手段によって算出された方程式残差から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項11の方法により得られた風量の妥当性を判定するように構成したので、推定された風量を採用すべきか否かの判断の指標とすることができる。
【0051】
また、本発明の請求項16の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された信頼性判定手段が、期間平均濃度と期間平均放散量の測定誤差から求めた風量qの誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた風量qの誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性を判定するように構成したことで、実験者は、推定された風量を採用すべきか否かを判断することができるようになる。すなわち、方程式モデルと実現象との違いがないという判定がなされた場合には、推定された風量を採用し、方程式モデルと実現象の違いが大きいという判定がなされた場合には、モデルを再設定して測定のやり直しを行うことができる。
【0052】
また、本発明の請求項17の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置によれば、請求項11に記載された風量演算手段が、請求項11に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法により風量qをそれぞれ算出し、請求項11に記載された信頼性判定手段が、3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、この3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項11の方法により得られた風量の妥当性を判定するように構成したことで、実験者は、推定された風量を採用すべきか否かを判断することができるようになる。すなわち、方程式モデルと実現象との違いがないという判定がなされた場合には、推定された風量を採用し、方程式モデルと実現象の違いが大きいという判定がなされた場合には、モデルを再設定して測定のやり直しを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に、添付図面を参照して、本発明の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法及び簡易的換気風量推定装置をPFT法に適用した場合の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、「簡易的」という言葉は、後述するようにトレーサーガスの濃度の時間変化を考慮せず、ガス放散量も濃度も期間平均値しか知り得ない器具を用いる簡易的な測定を行うという意味であり、濃度の時間変化を考慮する本格的な測定と区別するために用いている。以下の説明では、単に「換気風量推定方法」、「換気風量推定装置」と呼ぶことにする。
【0054】
[基本数式モデル]
まず、トレーサーガスの質量収支の基本数式モデルについて説明する。建物をnゾーンに区分けした場合に、そのi番目のゾーンにおける、ある種のトレーサーガスの収支式を下記(数2)式のように記述する。ここに、外気も一種のゾーンとみなし、ゾーン番号はn+1とする。ゾーンjからゾーンiへ流れる風量はqijとして記号定義する。ゾーンiのガス濃度はci、ガス発生流率はgi、ゾーン容積はviと記号定義する。これらのゾーン番号の付け方、風量qの添え字番号の付け方は、後述する(数8)式(マトリックスの方程式)を合理的に記述し、構築するアルゴリズムのために工夫されたものである。
【数2】
【0055】
PFT法の場合を例にとると、まず、サンプラーの活性炭に吸着されたトレーサーガスの量と、予め知られているトレーサーガスの吸着速度特性から、ゾーン空気中の長期平均的なトレーサーガス濃度を推定する。トレーサーガスの吸着量は吸着速度を一定とすると、濃度の期間積分値に比例する。またトレーサーガスの期間平均放散流率(期間平均放散量)は、放散源のPFTの質量減少分を計ることから推定される。従って、(数2)式の両辺を時刻0から経過時間Tまでの期間で時間積分することにより、濃度の時間積分項と放散流率の時間積分項を作る。
【数3】
【0056】
この期間における平均的な換気量と有効混合容積を推定することにし、これらは期間で一定と見なしバーを上部に付けて表すことにする。すると(数3)式の各項の積分から括りだすことができ、次の(数4)式になる。
【数4】
【0057】
(数4)式の左辺の濃度の積分は、最終濃度から初期濃度を引いたものになる。さらに両辺を期間長さTで除して、次式を得る。
【数5】
【0058】
放散源を設置してから所定時間経過して各ゾーン内のトレーサーガスの気中濃度が定常状態となった後に濃度測定を開始するようにし、さらに十分な期間Tをとった場合、(数5)式の左辺は0に近似できる。右辺の濃度の時間積分をTで除したものが期間平均濃度である。ガス放散量についても期間平均放散量となる。これらは同様にバーを付けて表す。以下に示す近似式がトレーサーガスの質量収支の基本数式モデルである。
【数6】
【0059】
単一ゾーンの場合、推定すべき風量は1個であるが、複数ゾーンの場合には、推定すべき風量の個数はそのゾーン数の二乗に比例して増えてくる。一般に、ゾーン数がnの場合、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量の個数はn×(n+1)となる。もし風量が変化しなければ、n組の連立方程式を得るために、1番のゾーンだけでトレーサーガスを発生させる条件で長期間測定し、次に2番のゾーンでトレーサーガスを発生させる条件で長期間測定し、・・・という手順を繰返し、1種類のトレーサーガスだけで必要データを得ることができる。しかし実際には何度も長い測定期間を繰り返すことは困難であるし、長期間に亘って一定の風量である前提も成り立ち難い。従って、本実施の形態では、測定期間をなるべく短くするために、各ゾーンでお互いに異なったガスを放散させ、並行して同じ測定期間で実施することとする。
【0060】
さらに本実施の形態では、最小二乗法を用いて風量を推定するので、推定精度を高めることと推定誤差の評価のために、各ゾーンにおけるトレーサーガスの期間平均濃度の測定位置によるばらつきと、測定期間によるばらつきも考慮する。1つの測定期間は、扇風機による人為的な攪拌等を行う場合には1日、通常の居住状態で測定を行う場合には10日間から数週間である。なお1つの測定期間が1ヶ月を超える場合、季節の変化が平均化されて入ってくるため、適切なデータが得られなくなり好ましくない。なお、測定期間を複数とした場合には、1回の測定期間ごとに放散源と吸着剤の両方を取り換えるか、又は、吸着剤のみを取り換えることとする。
【0061】
ここで、一般にnp個の測定期間があるものとし、期間番号をpとする。トレーサーガスの種類は全部でnk個あるとし、ガス番号をkとする。さらに各ゾーン内にnl個の濃度測定位置(すなわちサンプラー設置箇所)があるものとし、その位置番号をlとする。ここで、上記の測定期間の数npは1以上である。また、ガスの種類数nkと、濃度測定位置数はnlは複数である。このnp,nk,nlの数はできるだけ多くすることが好ましく、ゾーン内の設置位置のばらつきを積極的に活用することで、後述する推定誤差の最小化に寄与することができる。
【0062】
なお、ゾーンの大小により各ゾーンでの濃度測定位置数が異なる場合には、最も大きいゾーンの濃度測定位置数に合わせて、これより少ない数のゾーンでは同じ測定濃度を重複して用いるようにし、全てのゾーンにおいて濃度測定位置数が同じになるようにする。これは最小二乗法へ適切なデータを与えるために必要なことである。以上のように、測定期間、ガスの種類、濃度測定位置の条件を考慮すると、(数6)式は以下のように表すことができる。
【数7】
【0063】
上記(数7)式が、本実施の形態において適用するトレーサーガスの質量収支の基本数式モデル(方程式モデル)である。
【0064】
[換気風量推定装置]
次に、上述した(数7)式を基に複数ゾーンの風量を推定する換気風量推定装置について説明する。図1は、本実施の形態である換気風量推定装置10の構成を示したブロック図である。ここで例示する換気風量推定装置10は、パーソナルコンピュータ等の数値演算装置30にプログラムを読み込ませることによって具現化されるものであり、期間平均濃度演算手段31と、条件式演算手段32と、風量演算手段33と、推定誤差評価手段34、信頼性判定手段35とを備えている。
【0065】
期間平均濃度演算手段31は、キーボード等の入力装置20から入力されたトレーサーガスの吸着量から、上述した期間平均濃度を算出するものである。より具体的には、この期間平均濃度演算手段31は、吸着剤の分析結果から求められたトレーサーガスの吸着量を吸着速度と測定時間で割ることにより期間平均濃度p,k,lcを求めるものである。
【0066】
条件式演算手段32は、期間平均濃度演算手段31で得られた期間平均濃度から風量qを解くための条件式を算出するものである。この条件式演算手段32には、トレーサーガスの質量収支式である(数7)式や、トレーサーガスの期間平均放散量p,kgが記憶されている。条件式演算手段32は、期間平均濃度演算手段31から期間平均濃度p,k,lcを受け取り、これを(数7)式に代入する。次に、この(数7)式に最小二乗法を適用することにより、換気量qを解くための条件式である(数15)式を算出する。なお、この(数15)式については後述する。
【0067】
風量演算手段33は、条件式演算手段32で得られた条件式(数15)式に、全ゾーンにおける風量収支式(数16)式を行方向に追加して長方行列(数21)式をつくり、この(数21)式を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、換気量qを算出するものである。なお、(数16)式及び(数21)式については後述する。
【0068】
推定誤差評価手段34は、風量演算手段33により算出された風量qの推定誤差を評価する手段であり、推定値の誤差分散を算出するものである。具体的には、推定誤差評価手段34は、(数21)式における方程式残差(数26)式を算出し、この方程式残差(数26)式から風量qの誤差分散共分散行列(数31)式を算出する。なお、(数26)式、(数31)式については後述する。
【0069】
信頼性判定手段35は、風量演算手段33により算出された風量qの信頼性を判定する手段であり、後述する決定係数COD(数35式)、モデル前提の不適合率β(数51式)、推定された風量の符号不適合率Ra(数56式)を算出するものである。なお、(数35)式、(数51)式、(数56)式については後述する。
【0070】
なお、風量演算手段33で算出された風量q、推定誤差評価手段34で算出された誤差分散共分散行列、信頼性判定手段35で算出された決定係数COD、モデル前提の不適合率β、推定パラメータの符号不適合率Raは、ディスプレイやプリンタ等の出力装置40を通じて出力を行うことが可能である。
【0071】
[風量の推定]
図2は、上述した換気風量推定装置10が実施する演算処理の手順を示したフローチャートである。以下、このフローチャートに沿って、複数ゾーンの風量推定方法について説明をする。
【0072】
まず、換気風量推定装置10は、期間平均濃度演算手段31を通じて、吸着剤の分析結果から求められたトレーサーガスの吸着量と、予め知られているガスの吸着速度から、上述した期間平均濃度p,k,lcを求める(ステップS01)。
【0073】
次に、換気風量推定装置10は、条件式演算手段32を通じて、上記(数7)式に、期間平均濃度と、期間平均放散量の数値を代入し、全ゾーンにおけるトレーサーガスの連立質量収支式をつくる(ステップS02)。次いで、換気風量推定装置10は、以下に説明するように、このトレーサーガスの連立質量収支式に最小二乗法を適用することによって、換気量qを解くための条件式を算出する(ステップS03)。
【0074】
トレーサーガスの連立収支式を行列の形式で表示すると、(数7)式は下記の(数8)のように表すことができる。(数8)式の左辺第1項の正方行列は風量行列と呼ぶが、上記の段落(0025)での記号定義により,このi行j列要素は行列要素記法と一致しqijとなる.ただし対角要素には,これに対応するゾーンから流出する風量の総和が入る。次に、(数8)式の左辺第2項は外気濃度境界条件を表すが、外気濃度をn+1番ゾーンとして定義したことにより、前述の正方行列の右のn+1列目に追加した長方行列で記述できる。こうして(数8)式を構築するアルゴリズムは簡潔で合理的なものになる。
【数8】
【0075】
(数8)式は、複数の風量について求めるものであるので、これを含むベクトルqを次式のように定義する。
【数9】
【0076】
(数8)式を、以下のようにqに関する式に変形する。ベクトルqに係るn×nqの行列Zの中身は、次の様にして定められる。ここにnqは未知数の風量の個数である。ベクトルq内のm番目の要素がqi,jとすれば、この行列内のi行m列目にはcjがくる。また、j行m列目には−cjがくる。ただし、iやjがnを超える場合は除外する。
【数10】
【0077】
ガス放散流率のベクトルgを次式の様に定義する。
【数11】
【0078】
(数10)式を次のような行列の形式で表示する。
【数12】
【0079】
ここに(数12)式の行列Zを測定濃度行列と呼ぶことにする。この(数12)式を最小二乗法の回帰式とする。以下、(数12)式に最小二乗法を適用する。
【0080】
(数12)式の方程式誤差eを次式のように示す。
【数13】
【0081】
方程式誤差の二乗和をすべての条件、すなわち、ガスの種類による条件k、ゾーン内の濃度測定位置による条件l、測定期間による条件pで総和した値をJmとおく。
【数14】
【0082】
このJmを最小化するqを求めるために、Jmをqで微分して0と置く(数15式)。この(数15)式が、qに関して解くための総和型の条件式である。
【数15】
【0083】
次に、換気風量推定装置10は、風量演算手段33を通じて、全ゾーンにおける風量収支という拘束条件を考慮して風量qを算出する。まず、以下に説明するように、(数15)式に、全ゾーンにおける風量収支式を行方向に追加して長方行列をつくる(ステップS04)。i番ゾーンにおける風量収支式は次式で表される。
【数16】
【0084】
全ゾーンでこれを記述し、この式を風量のベクトルqによって次式のように書き直す。qに係るn×nqの行列Cの中身は次の(数17)式のようにして定められる。q内のm番目の要素がqi,jとすれば、この行列内のi行m列目には1がくる。またj行m列目には−1がくる。但し、iやjがnを超える場合は除外する。
【数17】
【0085】
(数17)式を次のような形で示す。
【数18】
【0086】
(数15)式と(数18)式を同時に満たすqに関する方程式を、次のような行列Aとベクトルbにより、続く(数21)式のような長方行列で表す。
【数19】
【数20】
【数21】
【0087】
次いで、換気風量推定装置10は、以下に説明するように、この(数21)式を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、換気量qを算出する(ステップS05)。(数19)式のAと(数20)式のbは、風量収支式の拘束条件を考慮したことで、qに関して過剰決定(over determined)の方程式系を与えるから、ここで、再度最小二乗法を適用する。(数21)式の方程式誤差を次式のように示す。
【数22】
【0088】
この方程式の残差二乗和Jを、次式の様に展開する。
【数23】
【0089】
このJをqで微分しゼロと置く(数24式)。
【数24】
【0090】
(数24)式をqについて解き、次の解式を得る。
【数25】
【0091】
上記(数25)式は通常の最小二乗法から得られた解である。しかしながら、上述したように、方程式モデルと実際の現象との間には構造的な違いがあるから、推定値には誤差が生じる。従って、(25)式を解くことにより算出された換気量は、負の値となり得る。そこで、(数21)式について、非負最小二乗法を適用し、非負の拘束条件を付けて解くことによって、非負の範囲内でJを最小にする最適の換気量qを算出する。
【0092】
なお、この非負最小二乗法のアルゴリズムについては、「Solving Least Squares Problems, ISBN0-89871-356-0(pbk.)」Charls L. Lawson(米国ジェット推進研究所),Richard J. Hanson (Visual Numerics Inc.), Society for Industrial and Applied Mathematics Philadelphia, pp.158-173に記載されたアルゴリズムを適用するものとする。より具体的には、上記参考文献における160頁〜165頁に記載された(23.10)式〜(23.26)式を適用するものとする。
【0093】
方程式モデルと実現象の構造的な違いや測定誤差が無ければ、非負最小二乗法と最小二乗法いずれの解法を適用した場合であっても同じ推定結果となる。しかし、方程式モデルと実現象との違いや測定誤差が大きいほど、両者は異なった結果になる。
【0094】
[推定された風量の誤差評価]
次に、換気風量推定装置10は、推定誤差評価手段34を通じて、上記解法により得られた風量の推定値における誤差評価を行う(ステップS06)。誤差評価は、以下に述べる推定誤差分散共分散行列の算出により行う。
【0095】
(推定誤差分散共分散行列の算出)
推定された風量の誤差を評価することは、信頼性確認のためにも必要である。その手掛かりの一つが方程式残差である。なぜならば、トレーサーガスの気中濃度や放散量の測定誤差だけではなく、方程式モデルと実際の現象の構造的な違いなど様々な誤差要因は、結局のところ、方程式残差に表れるからである。残差を計算する場合に、普通の最小二乗法で負の風量がいくつか発生した場合には注意を要する。負の風量のままで残差を計算すれば、推定誤差が過少評価されるからである。濃度の高いゾーンから低いゾーンに流れる負の風量は、濃度の低いゾーンの濃度を高めずに、逆に薄めてしまう不合理を生じる。よく行われている方法として、負の風量は逆向きの流れとして見なしてしまうことがある。確かにこの扱い方で風量収支は満たされるが、各ゾーンでのトレーサーガスの質量収支は満たされなくなり、方程式残差も大きく計算される。しかし、不合理な負の風量の誤差は然るべく評価されるべきであるから、負の風量は逆向きとして残差計算を行うことにする。方程式残差vは、次式で計算する。ここに記述の簡単化のために行列Fとベクトルdを次式の様に定義する。
【数26】
【0096】
(26)式で表した残差を方程式誤差e’とみなせば,この式から最小二乗の解式を導いておくこともできる。この場合の評価関数は、以下の(27)式のようにJ’と表すことにする。
【数27】
【0097】
最小二乗解はJ’をqで微分して0とおいた次の(数28式)から導かれる。
【数28】
【0098】
この(28)式から最小二乗解は次式で計算される。
【数29】
【0099】
(数29)式は(数25)式と本質的に同じであるから同じ解を与える。しかし残差による分散共分散行列を導くためには、この(数29)式から演繹した方が適切である。なぜならば方程式残差から出発するとすれば(数26)式が適切だからである。(数22)式による方程式残差では、残差ベクトルの上半分には、転置された行列Zが左から乗じられていて、本来の方程式残差とは異なる.次に方程式残差の期待値行列を次式で定義する。ここにntは、p,k,lによる様々なすべての条件総数である。
【数30】
【0100】
風量の推定誤差分散共分散行列は、この誤差の期待値行列からの誤差伝搬として次の(数31)式で記述できる。この行列の対角要素が風量の誤差分散であり、非対角要素が共分散である。
【数31】
【0101】
[測定の信頼性の判定]
次に、換気風量推定装置10は、信頼性判定手段35を通じて、上記解法により得られた風量の推定値の信頼性の判定を行う(ステップS07)。この推定風量の信頼性を判定する方法は、以下に述べる決定係数(COD)の算出、モデル前提の不適合率βの算出、及び、推定風量の符号不適合率Raの算出の3通りの方法により行われる。
【0102】
(決定係数の算出)
決定係数(COD)の計算法について説明する。すべての条件p,k,lについて残差二乗和を総和し、これをs(q)とする。
【数32】
【0103】
この大小を比較する基準になるのが次式で定義するガス放散量ベクトルyである。ガス放散量は期間p,ガスの種類kによって変化すると見なされるが,ガス吸着位置lとは無関係と見なされる.しかし(数32)式で残差二乗和を定義するので,総和の個数を一致させるために,lの違いについてはgは同じものを用いると約束して次式のyを定義する。
【数33】
【0104】
このガス放散量ベクトルyと、期間平均との差をとって、すべての条件p,k,lについて二乗和をとった値を、総変動syとする。
【数34】
【0105】
(数32)式の残差二乗和と(数34)式の総変動から、決定係数CODを次の(数35)式で計算する。CODの値が大きいほど推定誤差が小さいことを意味し、最大は1である。
【数35】
【0106】
(モデル前提の不適合率β)
トレーサーガスの期間平均放散量と期間平均濃度の測定誤差から、推定風量の信頼性の判定を行う。この誤差は実際より過少評価されるが、上述した方程式残差からの推定誤差と比較することで、様々なモデル前提の適合性が評価できる。ここで測定データのベクトルと、これらが持つ誤差および誤差分散ベクトルを次のように定義する。p,kc,p,kgはそれぞれ二重バー付きの真値に誤差p,ksc,p,ksgが加わったものと見なす。
【数36】
【数37】
【数38】
【数39】
【数40】
【数41】
【数42】
【数43】
【0107】
風量から構成される行列Q(n×(n+1))を、(数8)式から変形し、次式の様に定義する。ここにシステムパラメータの推定誤差原因はトレーサーガスの期間平均放散量と期間平均濃度の測定誤差だけとし、これによる方程式誤差p,kεuを持つとする。
【数44】
【0108】
(数26)式に対応し、期間平均濃度と期間平均放散量の真値は方程式誤差を0にすることを考慮すれば、次式が導かれる。
【数45】
【0109】
ここでベクトルの下半分は風量収支の拘束条件を表している。またこのベクトルの下半分は測定誤差には関係ないので0と見なすことができる。
【数46】
【0110】
(数44)式の誤差が測定誤差だけに起因するとすれば、この方程式誤差p,kεuの期待値行列は次式で計算される。
【数47】
【0111】
ここに誤差p,ksc,p,ksgの間での共分散は0であることと、これら2つのベクトル内の要素間の共分散も0である性質を用いた。またdiagはこの( )の中の行列の対角要素だけによって構成される行列を表す。これにより下半分のベクトルも加わったp,kεの期待値行列は次式で計算される。
【数48】
【0112】
この(数48)式による方程式誤差の期待値行列を、(数30)式のそれの代わりに用いることで、(数31)式と同様な次の(数49)式により計算される推定パラメータの分散共分散行列mΛqを計算する。
【数49】
【0113】
実際の多くの場合は、(数49)式による誤差推定は,誤差を過小に推定することになるので適切ではないと考えられる。誤差の大きな要因は測定誤差よりも数学モデルの前提と実現象の差異であると考えられるからである。しかし数学モデルの前提が、どの程度実現象で成り立っているかの判断を、このmΛqに対してΛqの大きさを比較することによって行うことができる。ここでmΛqのj番目の対角要素をmσλ2jjで、Λqのj番目の対角要素をσλ2jjで表す。これらの対角要素の平方根をとって、次式の比率βを定義する。
【数50】
【0114】
全ての対角要素についてのβを平均化したものを次式で表し、これをモデル前提の不適合率と呼ぶことにする。
【数51】
【0115】
(数51)式に示されるモデル前提の不適合率がかなり大きい場合には、測定の条件やモデルに不適切なところがあると考えられるので、測定をやり直す必要がある。この場合に、分母のmσλは最も妥当な推定結果を出すと思われる非負最小二乗法によるFを用い、分子のσλの計算では、普通の最小二乗法のF、負の風量は逆向きと見なしたFの各々を用いる。
【0116】
(推定風量の符号不適合率Ra)
3種類の風量推定方法により得られた推定結果を比較することにより、採用した方程式モデルが適切であるか否か、また、上述した短絡流れやゾーン内の濃度不均一等の問題がなかったか否かの判断を行うことができる。3種類の風量推定方法とは、上述した非負最小二乗法により風量qを推定する方法、(数21)式で示す長方行列を、非負の拘束条件を付けない普通の最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量qを推定する方法、(数21)式で示す長方行列を、非負の拘束条件を付けない普通の最小二乗法のアルゴリズムを用いて解き、負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法である。これらの3種類の方法により得られた推定結果を比較することにより、推定された風量の妥当性を検証する。推定結果に差がないと判定した場合には、方程式モデルの仮定が正しいと見なし、上述した非負最小二乗法の推定結果を採用する。一方、3種の推定結果の違いが大きいと判定した場合には、上述した非負最小二乗法の推定結果を採用しない。この場合、方程式モデルの仮定が実現象と食い違っているものと見なし、諸条件を変えて測定をやり直すことになる。
【0117】
3種類の推定結果の違いの判断は、例えば以下の手順により行うことができる。まず、各推定結果における各風量の平均値を求める。ある一つの風量qi,jについて,3種の推定方法のうちm番目の推定結果をmqi,jとして、3種間での平均値を(数52)式から求める。
【数52】
【0118】
この個々の風量に関する3種推定結果間の平均値に基づいて、次の(数53)式から3種間のばらつきである分散σqij2を求める。
【数53】
【0119】
(数53)式で求めた風量の分散について、次の(数54)式から全ての風量にわたる平均値σq2を求める.ここにnqは風量の個数,nは建物内の総ゾーン数,n+1番は外気のゾーン番号である。
【数54】
【0120】
また、全風量の平均値は、非負最小二乗解について次式で計算する。
【数55】
【0121】
推定風量の符号不適合率Raは次式で表すことができる。この符号不適合率Raが0.5より小さければ、非負最小二乗法の結果を採用する。一方、符号不適合率Raが0.5以上であれば、測定条件がモデルの仮定と大きく異なるものと見なし、条件を改善した上で再度測定するものとする。
【数56】
【実施例】
【0122】
以下、上述した換気風量推定方法及び換気風量推定装置をPFT法に適用して住宅の換気量の推定を行った実施例について説明する。
【0123】
[測定条件]
図3は、本実施例において適用対象となる住宅の各階平面図であり、図4は、図3の住宅の室内の空気の移動量を示す概略断面図である。この住宅は、図15に示した従来の確定的方法の手順を説明するために用いた住宅と同一であり、放散源及びサンプラーの設置位置及び設置個数も図15と同一である。
【0124】
図3に示すように、適用対象となる住宅は3階建ての建物であり、1階、2階、3階をそれぞれゾーン1、ゾーン2、ゾーン3とする。また、屋外もひとつのゾーンとみなし、これをゾーン4とする。図4に示す矢印は、各ゾーン間の空気の流れと、各ゾーンと屋外(外気)との間の空気の流れを示すものであり、本実施例で推定する風量を示すものである。すなわち、q2,1はゾーン1からゾーン2への風量であり、q1,2はゾーン2からゾーン1への風量であり、q3,2はゾーン2からゾーン3への風量であり、q2,3はゾーン3からゾーン2への風量であり、q3,1はゾーン1からゾーン3への風量であり、q1,3はゾーン3からゾーン1への風量であり、q4,1は、ゾーン1からゾーン4への風量であり、q1,4はゾーン4からゾーン1への風量であり、q4,2はゾーン2からゾーン4への風量であり、q2,4はゾーン4からゾーン2への風量であり、q4,3はゾーン3からゾーン4への風量であり、q3,4はゾーン4からゾーン3への風量を示す。
【0125】
図3に示すように、放散源として、ゾーン1にC6F6を4本、ゾーン2にC7F8を4本、ゾーン3にC7F14を5本設置した。また、図3に示すように、ゾーン1にサンプラーA,B,Cを、ゾーン2にサンプラーD,E,Fを、ゾーン3にサンプラーG,H,I,Jをそれぞれ設置した。
【0126】
測定期間は1回であり、測定時間は24時間とした。なお、本実施例では測定時間が短いため、トレーサーガスが均一に拡散するように扇風機を用いて各ゾーン内を攪拌した。但し、上述したように、扇風機による攪拌等を行わずに通常の居住状態で測定を行う場合には、トレーサーガス濃度のばらつきや系の変化を平均化するために最低10日程度放置する必要があると考えられる。
【0127】
なお、本実施例では測定期間を単一期間としたが、換気量が様々な条件変化により変化するという観点から、複数の期間に分けて、これらの期間でのばらつきを考慮できるようにするのが好ましい。複数の期間に分けて測定を行う場合、サンプラーの吸着剤と放散源を期間ごとに取り替えるか、少なくとも吸着剤は期間ごとに取り替えるようにする。
【0128】
なお、上述した基本数式モデルではトレーサーガス濃度の立ち上がりの過渡状態が考慮されていない。従って、本実施例では、トレーサーガス濃度の立ち上がり期間経過後、すなわち、各ゾーン内のトレーサーガスの気中濃度が定常状態となった後にサンプラーA〜Jを設置し、測定を開始するようにした。測定期間経過後の、各トレーサーガスの放散量(放散速度)を表1に示す。なお、各ゾーン内には複数の放散源が設置されているが、表1に示す放散量は、各ゾーン中のすべての放散源における放散量(放散速度)の総和を示している。測定期間終了後、サンプラーA〜Jを回収し、サンプラーの吸着剤をガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)によって定性・定量分析して各トレーサーガスの吸着量を求めた。
【表1】
【0129】
[期間平均濃度の測定]
測定して得られたトレーサーガスの吸着量と予め知られている各トレーサーガスの吸着速度から、各ゾーン空気中の各トレーサーガスの期間平均濃度を求めた。各ゾーンの測定位置における期間平均濃度を表2に示す。なお、後述するように、実施例1、2、及び比較例においては、各測定位置における期間平均濃度を用いずに、これらの平均値を用いて演算を行った。平均化する際には、部屋面積で重み付けした。重み付け平均の面積比は図3に示すようにゾーン1ではA:B:C=2:5:7、ゾーン2ではD:E:F=32:14:19,ゾーン3ではG:H:I:J=15:8:14:16とした。例えば、ゾーン1の場合には、重み付け平均値は、(2×273.0+5×256.2+7×240.5)/(2+5+7)=250.8と算出される。
【表2】
【0130】
なお、本発明の換気風量推定方法では、各ゾーンにおける期間平均濃度の個数が同じである必要がある。従って、本実施例では、ゾーン1及びゾーン2における期間平均濃度の数を、ゾーン3の個数に合わせることとした。すなわち、ゾーン1及びゾーン2では、それぞれ重み付け平均値を加えて、各トレーサーガスにつき4個の期間平均濃度を採用した。なお、重み付け平均値を加える替りに、例えばゾーン1でサンプラーAの値を重複して用いるなど、同じデータを繰り返し用いることによって、各ゾーンの期間平均濃度個数を同数に揃えるようにしてもよい。
【0131】
[風量の算出]
表2に示す期間平均濃度p,k,lcを用いて、以下の実施例1〜実施例4及び比較例の5通りの条件で風量qを算出した。
(実施例1)
ゾーン1とゾーン3との間の風量、すなわちq3,1及びq1,3は実在しない風量であるが、こうした換気量も存在し得るとして未知数qを12個とした。各ゾーンの期間平均濃度は、各濃度測定位置のばらつきを考慮せず、各トレーサーガスにつき重み付け平均値1個のみを用いた。すなわち、各ゾーンにつき採用した期間平均濃度の個数は3個である。これらを(数7)式に代入し、上述した手順で演算を行って(数21)式を得、非負最小二乗法のアルゴリズムを適用することによって最適値を得た。換気量の算出結果を図5−1及び図5−2に示す。
【0132】
(実施例2)
ゾーン間の幾何的状況から、ゾーン1とゾーン3の間では、直接的に結びつく風量は存在しないと考えられるから、精度向上のために未知数の個数を12個から10個に減らした。各ゾーンにおける期間平均濃度は、実施例1と同様に、各トレーサーガスにつき重み付け平均値1個のみを用いた。実施例1と同様に、非負最小二乗法のアルゴリズムを適用することによって最適値を得た。風量の算出結果を図6−1及び図6−2に示す。
【0133】
(実施例3)
未知数qについては、実施例1と同様に12個とした。各ゾーンの期間平均濃度については、各トレーサーガスにつき各4個ずつ用いた。すなわち、各ゾーンにつき採用した期間平均濃度は12個である。実施例1と同様に、非負最小二乗法のアルゴリズムを適用することによって最適値を得た。風量の算出結果を図7−1及び図7−2に示す。
【0134】
(実施例4)
未知数qについては、実施例2と同様に10個とした。各ゾーンの期間平均濃度については、実施例3と同様に、各トレーサーガスにつき各4個ずつ、すなわち、各ゾーンにつき12個の期間平均濃度を用いた。実施例1と同様に、非負最小二乗法のアルゴリズムを適用することによって最適値を得た。風量の算出結果を図8−1及び図8−2に示す。
【0135】
(比較例)
未知数qについては、実施例1と同様に12個とした。各ゾーンの期間平均濃度についても、実施例1と同様に、各トレーサーガスにつき重み付け平均値1個のみを用いた。これらを用いて連立方程式を立て、従来の確定的方法によって風量を算出した。風量の算出結果を図9−1及び図9−2に示す。この確定的方法については従来技術の説明で述べたとおりであるので、説明を省略する。
【0136】
[換気量の誤差分散の算出]
上記の実施例及び比較例で得られた風量の誤差分散共分散行列を算出した。計算式は(数26)式から(数31)式に示される。各行列を図10〜図14に示す。図10〜図14において、対角要素が分散であり、非対角要素が共分散である。各マトリックスの行・列番号には、図5−1〜図9−1に示した表の左段上から下へ、次に右段上から下への順番(すなわち、q4,1,q4,2,・・・,q3,1,q1,3)が対応する。
【0137】
図10〜図14に示した行列においては、対角要素の分散が重要である。分散の平方根が標準偏差であり、もし誤差が正規分布するとするならば、誤差は標準偏差の3倍以内に99.7%の確率で発生する。図10〜図14より、実施例1〜4の推定結果から算出した分散が、比較例の分散よりも小さいことが分かる。すなわち、非負最小二乗法のアルゴリズムを適用して算出した風量は、従来の確定的方法により算出した風量よりも推定誤差が小さいといえる。
【0138】
[決定係数の算出]
上記の実施例及び比較例で得られた風量の決定係数CODを算出した。計算式は(数32)式〜(数35)式に示される。算出結果を表3に示す。
【表3】
【0139】
図9−1及び図9−2に示すように、従来の確定的方法によって得られた風量の推定結果では、ゾーン1からゾーン4への風量q4,1や、ゾーン2からゾーン4への風量q4,2に負の値が発生している。これらの負の風量は熱力学的に不合理である。つまりガス濃度の比較的高いゾーンから低いゾーンに負の風量が流れれば、低いゾーンの濃度を高めず、さらに低くしてしまう。こうした負の風量でも、風量収支だけは成立させるため、従来は便宜的に負の風量を逆向きの風量として扱ってきた。しかし、この扱いでガスの質量収支が成立しなくなり、大きな方程式残差を持つようになる。比較例の決定係数CODが実施例1〜4と比較して悪いのはこのためである。これに対し、実施例1〜4の推定結果から算出した決定係数CODはいずれも高い値が得られた。
【0140】
[モデル前提の不適合率の算出]
方程式モデルと実現象の構造的な違いなどによって生じる誤差と、濃度や放散量の測定時における誤差との比較及びモデル前提の不適合率βを算出した。計算式は(数36)式〜(数51)式に示される。結果を表4に示す。なお、表4は、実施例2(風量10個推定、期間平均濃度の個数:1個、非負最小二乗法)についての結果のみを示している。測定誤差標準偏差は測定値で現れた平均的最大値に対して3%と仮定した。
【表4】
【0141】
[推定風量の符号不適合率の算出]
また、3種類の風量推定方法により得られた推定結果の違いを検証し、採用した方程式モデルが適切であるか否かの評価を行った。3種類の風量推定方法を以下に示す。
(1)上述した実施例4(非負最小二乗法を適用)
(2)実施例4において、非負最小二乗法を用いずに、非負の拘束条件を付けない最小二乗法を適用する。
(3)実施例4において、非負最小二乗法を用いずに、非負の拘束条件を付けない最小二乗法を適用する。負の風量が推定された場合にはこれを逆向きの正の風量と見なす。
【0142】
上記の3種の推定方法により得られた推定結果、(数52)式から求めた3種の推定結果間における個々の風量の平均値、(数53)式から求めた3種間における個々の風量の分散を求めた。これを表5に示す。
【表5】
【0143】
(数54)式から、表4に示した個々の風量の分散の平均値を求め、(数55)式から、表4に示した全風量の平均値を求めた。分散の平均値は376.1であり、風量の平均値は49.7であった。これらの演算結果を(数56)式の右辺に代入して符号不適合率Raが0.391という結果を得た。この数値は0.5以下である。以上より、上記実施例4における方程式モデルの仮定が正しく、非負最小二乗法の結果を採用してもよいという結論が得られた。
【0144】
以上説明したように、本実施の形態の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法及び装置によれば、統計的手法として、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,kgと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出し、全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定するようにしたことで、従来の確定的方法のように存在しない不要な未知風量を導入することなく、また負の風量が推定されるといった不合理な結果が得られることがなく、合理的な解が得られるようになることから、風量の推定精度を向上させることができる。
【0145】
また、本実施の形態の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法及び装置によれば、トレーサーガスの連立質量収支式に最小二乗法を適用して得られた式(すなわち上記の風量qを解くための条件式)に、風量収支式を加えて二重に最小二乗化を行うようにした。つまり、本発明では、方程式誤差を最小化する長方行列の定式化は、全ゾーンの期間平均濃度及び期間平均放散量について、その長方行列の行方向に増やしていくという定式化ではなく、総和するという定式化である。これにより、トレーサーガスの質量収支条件と風量収支条件を均一な重みで考慮することになるから、風量の推定精度のさらなる向上に寄与することができる。
【0146】
また、本実施の形態の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法及び装置によれば、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うようにしたことで、推定された風量の誤差を的確に評価することができる。
【0147】
さらに、本実施の形態の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法及び装置では、測定の信頼性の判定の指標として、決定係数COD、モデル前提の不適合率β、推定風量の符号不適合率Raを定義した。従来の確定論的方法を用いた風量推定方法では、測定条件や方法が適切でないために測定をやり直さなければならないような結果が得られた場合であっても、その結果が妥当であるか否かを判断することができなかった。本実施の形態の簡易的換気風量推定方法及び装置によれば、上記の指標を用いることにより、実験者が推定された風量を採用すべきか否かを判断することができるようになる。すなわち、方程式モデルと実現象との違いがないという判定がなされた場合には、推定された風量を採用し、方程式モデルと実現象の違いが大きいという判定がなされた場合には、モデルを再設定して測定のやり直しを行うことができる。
【0148】
なお、上記実施例では、測定期間の数を1、トレーサーガスの種類数を3、各ゾーンに設置するサンプラーの数を3,4個としたが、これらの数が多いほど誤差評価の信頼性が高くなる。例えば、各ゾーンに2種類以上のガスを放散させることによりトレーサーガスの種類数をゾーン数よりも多くした場合、各ゾーンに配置するサンプラーの数(期間平均濃度p,k,lcの個数)をさらに増やした場合には、上記実施例よりも推定精度を向上させることができ、誤差評価の信頼性をさらに高めることができる。
【0149】
また、上記実施の形態では、トレーサーガスとしてPFTを適用したが、これに限定されず、他のガスを適用して換気量の推定を行うこともできる。つまり、上記実施の形態で適用したフッ素系の揮発性有機化合物と同様に、測定期間中に放散量がほぼ一定となるガス、又は、吸着材に吸着する速度が気中濃度と明確な関数関係を持つガスであれば、本発明の換気風量推定方法に適用することができる。
【0150】
[風量推定と誤差評価理論の検算]
上記の実施の形態はフィールド実験であるから真の風量の値が分からない。従って風量推定と誤差評価の理論と計算プログラムが妥当かどうかも分からない。そこでこうした検算を行うために、多数室モデルにおいて風量を仮定したトレーサーガス濃度予測計算モデルを作り、トレーサーガス濃度を予測計算し、このトレーサーガス濃度の解と条件のガス発生量に、正規分布の誤差を乱数発生によって加えて、模擬的な測定値を生成した。そしてこの模擬測定値により風量推定と誤差評価を行った。
【0151】
(模擬測定値生成のための計算モデル)
図17に示すように4ゾーンで風量分布を仮定した多数室ガス流動モデルを仮定した。それぞれのゾーンで異なった合計4種類のトレーサーガスを毎時10mgで放散するものとした。ガス濃度の予測計算では,定常状態を仮定した計算を行うので、ゾーン容積は関係しないが、ゾーン1からゾーン4まで、それぞれ100m3,25m3,62.5m3,62.5m3とした。ゾーン2とゾーン4の間には風量が存在しないものとした。風量推定では,これらの風量が存在し得る場合と存在しない場合の二通りを計算した。なお予測計算プログラムでは風量はm3/secなので、これらのm3/hの風量を3600で割って数値入力する関係上、桁落ち的な誤差が生じている。この結果、後で説明する表8や表9に真の風量の値として示す様にわずかにこれらの数値と違っている。
【0152】
(乱数発生的誤差を加えた模擬測定値)
トレーサーガス発生量はその測定誤差の標準偏差が1を、トレーサーガス濃度は測定誤差の標準偏差が0.001で正規分布する誤差を、乱数発生を元にして生成し、これらのガス発生量とガス濃度に加えた。トレーサーガス濃度は各ゾーン内で4箇所測定するものとし同様な誤差加算を行った。表6のその1及び表7のその2に、これらの模擬測定値を示す。データの記号はgがガス発生流率、xがガス濃度を表し、左添え字番号と右添え字番号は、上記実施の形態と同様である。右添え字番号はゾーン番号を表す。左添え字は、ハイフンを挟んで左から期間番号、ガス種類番号、ゾーン内の位置番号を表す。
【表6】
【表7】
【0153】
(風量の推定結果)
風量の推定は、ゾーン2とゾーン4の間の風量が存在しえるかどうかで、風量個数が16個のモデルと14個のモデルの二種類について行った。また風量の推定方法としては三種類とし、普通の最小二乗法で負の風量をそのままとした結果、普通の最小二乗法で負の風量を逆向きとした結果、そして非負最小二乗法の結果を真値と比べたのが表8と表9である。さらに表10では、従来法の場合には未知風量の個数は20個として推定することになるので、これとの比較を行った。
【表8】
【表9】
【表10】
【0154】
(誤差評価)
誤差評価のための各種指標を示す。表11は風量が16個と14個の場合の決定係数、図18と図19はそれぞれ風量が16個と14個の場合における風量の推定誤差分散共分散マトリックス、表12と表13は予測誤差分散と実際の誤差の比較、表14は三種の推定結果間の違いからの誤差評価指標である。
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【0155】
(考察)
風量の推定結果は表8と表9に示されるように真の風量と比べて概ね一致している。風量16個で推定した場合の表8で分かるように、通常の最小二乗法では負の風量が1個発生している。しかし、誤差が理想的な正規分布であるからか、三種いずれの結果の推定精度にも大差は見られない。表11に示す決定係数もいずれの推定方法でも殆ど1である。推定された風量の誤差分散共分散マトリックスの図18と図19から対角要素の分散を取り出し、それぞれの風量の推定値と真値とこれらの誤差を予測誤差分散と比較した表が、風量個数16個と14個のそれぞれについて、表12と表13である。分散の平方根が標準偏差である。もし風量の誤差が正規分布するとすれば、標準偏差の3倍以内にほとんどの誤差の出現が発生することになる。幾つかこれを超える誤差も見られるが、ほぼ誤差の大きさを予測できていると考えられる。表14に示す、三種の推定結果の違いから様々な発生誤差の妥当性を評価する指標では、風量14個の推定の方が16個の場合に比べて三種間のばらつきが小さく、従って良い結果であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】本発明の実施の形態である換気風量推定装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態である換気風量推定装置の演算処理の概略フローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態である換気風量推定方法の実施例に用いた住宅の平面図である。
【図4】本発明の実施の形態である換気量推定方法の実施例に用いた住宅の換気量を示す概念図である。
【図5−1】実施例1の風量の算出結果を示す図表である。
【図5−2】実施例1の風量の算出結果を示す図である。
【図6−1】実施例2の風量の算出結果を示す図表である。
【図6−2】実施例2の風量の算出結果を示す図である。
【図7−1】実施例3の風量の算出結果を示す図表である。
【図7−2】実施例3の風量の算出結果を示す図である。
【図8−1】実施例4の風量の算出結果を示す図表である。
【図8−2】実施例4の風量の算出結果を示す図である。
【図9−1】比較例の風量の算出結果を示す図表である。
【図9−2】比較例の風量の算出結果を示す図である。
【図10】実施例1で得た風量の誤差分散共分散行列を示す図である。
【図11】実施例2で得た風量の誤差分散共分散行列を示す図である。
【図12】実施例3で得た風量の誤差分散共分散行列を示す図である。
【図13】実施例4で得た風量の誤差分散共分散行列を示す図である。
【図14】比較例で得た風量の誤差分散共分散行列である。
【図15】従来の換気風量推定方法に用いる住宅の平面図である。
【図16】従来の換気風量推定方法に用いる住宅の風量を示す概念図である。
【図17】上記実施の形態で得られた風量推定の検算において仮定した多数室ガス流動モデルを示す図である。
【図18】上記検算により得られた風量の誤差分散共分散行列である。
【図19】上記検算により得られた風量の誤差分散共分散行列である。
【符号の説明】
【0157】
10 換気風量推定装置
20 入力装置
30 演算装置
31 期間平均濃度演算手段
32 条件式演算手段
33 風量演算手段
34 推定誤差評価手段
35 信頼性判定手段
40 出力装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する方法において、
総ゾーン数以上の種類のトレーサーガスを別々のゾーンで一定発生させ、各ゾーン内における1以上の測定箇所で前記トレーサーガスの期間平均濃度を測定することを1以上の測定期間で実施し、
得られた複数の期間平均濃度とトレーサーガスの期間平均放散量とから、統計的手法を用いて前記風量を推定し、推定した風量の誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うことを特徴とする複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項2】
前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量のうち、実在する風量のみを未知数として、前記統計的手法により各未知数を推定することを特徴とする請求項1に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項3】
前記統計的手法として、推定風量が非負であるという拘束条件付きの最小二乗法を適用することを特徴とする請求項1又は2に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項4】
前記測定の信頼性の判定として、
前記期間平均濃度と前記期間平均放散量の測定誤差から求めた風量の誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた推定風量の誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性の判定を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項5】
建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する方法であって、
1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定し、
前記期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出し、
全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定し、
推定した風量qの誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うことを特徴とする複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項6】
全ゾーンの前記期間平均濃度及び前記期間平均放散量を、総和型の条件式で前記長方行列へ取り込むことにより、前記長方行列の定式化を行うことを特徴とする、請求項5に記載の簡易的換気風量推定方法。
【請求項7】
前記測定期間の数が複数である場合に、全測定期間の前記期間平均濃度及び前記期間平均放散量を同時に用いることを特徴とする請求項5に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項8】
前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から前記風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うことを特徴とする請求項5に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項9】
前記測定の信頼性の判定として、
前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差の二乗和から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項5の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする請求項5に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項10】
前記測定の信頼性の判定として、
請求項5に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法によって風量qをそれぞれ算出し、
前記3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、
前記3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項5の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする請求項5に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項11】
建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する装置であって、
1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定する期間平均濃度測定手段と、
前記期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出する条件式演算手段と、
全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定する風量演算手段と、
前記風量演算手段によって推定された風量qの誤差評価を行う推定誤差評価手段と、
前記風量演算手段によって推定された風量qの測定の信頼性の判定を行う信頼性判定手段と、
を備えたことを特徴とする複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【請求項12】
前記風量演算手段は、
全ゾーンの前記期間平均濃度及び期間平均放散量を、総和型の条件式で前記長方行列へ取り込むことにより、前記長方行列の定式化を行うことを特徴とする、請求項11に記載の簡易的換気風量推定装置。
【請求項13】
前記条件式演算手段は、
前記測定期間の数が複数である場合に、全測定期間の前記期間平均濃度及び期間平均放散量を同時に用いることを特徴とする請求項11に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【請求項14】
前記推定誤差評価手段は、
前記風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から前記風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うことを特徴とする請求項11に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【請求項15】
前記推定誤差評価手段は、
前記風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、
前記信頼性判定手段は、
前記推定誤差評価手段によって算出された方程式残差から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項11の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする請求項11に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【請求項16】
前記信頼性判定手段は、
前記期間平均濃度と前記期間平均放散量の測定誤差から求めた風量qの誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた風量qの誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性を判定することを特徴とする請求項11に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【請求項17】
前記風量演算手段は、
請求項11に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法により風量qをそれぞれ算出し、
前記信頼性判定手段は、
前記3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、
前記3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項11の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする請求項11に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【請求項1】
建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する方法において、
総ゾーン数以上の種類のトレーサーガスを別々のゾーンで一定発生させ、各ゾーン内における1以上の測定箇所で前記トレーサーガスの期間平均濃度を測定することを1以上の測定期間で実施し、
得られた複数の期間平均濃度とトレーサーガスの期間平均放散量とから、統計的手法を用いて前記風量を推定し、推定した風量の誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うことを特徴とする複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項2】
前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量のうち、実在する風量のみを未知数として、前記統計的手法により各未知数を推定することを特徴とする請求項1に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項3】
前記統計的手法として、推定風量が非負であるという拘束条件付きの最小二乗法を適用することを特徴とする請求項1又は2に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項4】
前記測定の信頼性の判定として、
前記期間平均濃度と前記期間平均放散量の測定誤差から求めた風量の誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた推定風量の誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性の判定を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項5】
建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する方法であって、
1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定し、
前記期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出し、
全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定し、
推定した風量qの誤差評価及び測定の信頼性の判定を行うことを特徴とする複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項6】
全ゾーンの前記期間平均濃度及び前記期間平均放散量を、総和型の条件式で前記長方行列へ取り込むことにより、前記長方行列の定式化を行うことを特徴とする、請求項5に記載の簡易的換気風量推定方法。
【請求項7】
前記測定期間の数が複数である場合に、全測定期間の前記期間平均濃度及び前記期間平均放散量を同時に用いることを特徴とする請求項5に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項8】
前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から前記風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うことを特徴とする請求項5に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項9】
前記測定の信頼性の判定として、
前記各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量qを算出した後に、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差の二乗和から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項5の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする請求項5に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項10】
前記測定の信頼性の判定として、
請求項5に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項5に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法によって風量qをそれぞれ算出し、
前記3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、
前記3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項5の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする請求項5に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定方法。
【請求項11】
建物内の空間を複数のゾーンと見なし、ゾーンごとに異なるトレーサーガスを放散させ、各ゾーン内のトレーサーガス濃度を測定することにより各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量を推定する装置であって、
1つ以上の測定期間を設け、各ゾーンにおいて複数個の濃度測定箇所を設け、総ゾーン数以上のトレーサーガスを用い、測定期間pでの、各ゾーンにおけるトレーサーガスの濃度測定箇所lにおける、種類kのトレーサーガスの期間平均濃度p,k,lcを測定する期間平均濃度測定手段と、
前記期間平均濃度p,k,lcと、測定期間pでの各ゾーンにおける種類kのトレーサーガスの期間平均放散量p,k,gと、各ゾーン間及び各ゾーンと外気との間の風量q、との間に成り立つ全ゾーンのトレーサーガス連立質量収支式に、最小二乗法を適用することにより、風量qを解くための条件式を算出する条件式演算手段と、
全ゾーンにおける風量qの収支条件を前記条件式に行方向に追加して成る、最小二乗化するための長方行列を、非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことによって、風量qを推定する風量演算手段と、
前記風量演算手段によって推定された風量qの誤差評価を行う推定誤差評価手段と、
前記風量演算手段によって推定された風量qの測定の信頼性の判定を行う信頼性判定手段と、
を備えたことを特徴とする複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【請求項12】
前記風量演算手段は、
全ゾーンの前記期間平均濃度及び期間平均放散量を、総和型の条件式で前記長方行列へ取り込むことにより、前記長方行列の定式化を行うことを特徴とする、請求項11に記載の簡易的換気風量推定装置。
【請求項13】
前記条件式演算手段は、
前記測定期間の数が複数である場合に、全測定期間の前記期間平均濃度及び期間平均放散量を同時に用いることを特徴とする請求項11に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【請求項14】
前記推定誤差評価手段は、
前記風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、この方程式残差から前記風量qの誤差分散共分散行列を算出して誤差評価を行うことを特徴とする請求項11に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【請求項15】
前記推定誤差評価手段は、
前記風量演算手段により算出された前記風量qを用いて、前記最小二乗化するための長方行列における方程式残差を算出し、
前記信頼性判定手段は、
前記推定誤差評価手段によって算出された方程式残差から前記風量qの決定係数を算出し、この決定係数から請求項11の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする請求項11に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【請求項16】
前記信頼性判定手段は、
前記期間平均濃度と前記期間平均放散量の測定誤差から求めた風量qの誤差分散に対する、方程式モデルの方程式残差から求めた風量qの誤差分散の比率によって定義されるモデル前提の不適合率を用いて、方程式モデルの妥当性を判定することを特徴とする請求項11に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【請求項17】
前記風量演算手段は、
請求項11に記載の長方行列を非負最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて解くことにより風量を推定する方法、請求項11に記載の長方行列を最小二乗法のアルゴリズムを用いて風量を推定し、かつ負の風量が推定された場合にこれを逆向きの正の風量と見なす方法、の3種類の方法により風量qをそれぞれ算出し、
前記信頼性判定手段は、
前記3種類間の個々の風量の分散σqij2の全風量にわたる平均値σq2を算出し、
前記3種類の方法によって得られた全風量の平均値に対する、σq2の平方根の比率によって定義される符号不適合率を用いて、請求項11の方法により得られた風量の妥当性を判定することを特徴とする請求項11に記載の複数ゾーンの簡易的換気風量推定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5−1】
【図5−2】
【図6−1】
【図6−2】
【図7−1】
【図7−2】
【図8−1】
【図8−2】
【図9−1】
【図9−2】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5−1】
【図5−2】
【図6−1】
【図6−2】
【図7−1】
【図7−2】
【図8−1】
【図8−2】
【図9−1】
【図9−2】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−52922(P2009−52922A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217674(P2007−217674)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】
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