説明

覆工コンクリート養生方法及び該方法に用いる養生材

【課題】既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートの内周面の曲率に合わせて可変可能な養生材を簡単かつ低コストで加工することができると共に、該二次覆工コンクリートを短時間でかつ確実に養生させることができる覆工コンクリート養生方法を提供する。
【解決手段】山岳トンネル11内の既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aを養生材20で覆って該二次覆工コンクリート12を養生させるようにした覆工コンクリート養生方法において、二次覆工コンクリート12の内壁面12aを、裏面側に設けた複数のスリット22の形状と深さを決定して表面側の形状を該二次覆工コンクリート12の内壁面12aの曲率に合うように可変させた複数の養生材20の各表面21aでシート30を介して覆い、次に、複数の養生材20の各裏面21bをアーチ状の保持材40で保持して覆工コンクリート養生構造10を完成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、山岳トンネル内の既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート等を初期養生させる際に使用して好適な覆工コンクリート養生方法及び該方法に用いる養生材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の覆工コンクリート養生構造として、図12に示すものがある。この覆工コンクリート養生構造は、図12に示すように、山岳トンネル内の既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート1内の所定箇所を区切る両側のアーチ状のバルーン2,2と、この両側のバルーン2,2間を密閉する密閉用シート3と、これら二次覆工コンクリート1の内壁面1aと両側のバルーン2,2及び密閉用シート3との間で形成される空間に空気を送風する送風管4とを備えている。
【0003】
そして、二次覆工コンクリート1の内壁面1aと両側のバルーン2,2及び密閉用シート3との間に空気層を作ることによってその内部を保温し、二次覆工コンクリート1を初期養生させるようになっている。
【0004】
しかしながら、前記従来の覆工コンクリート養生構造では、密閉用シート3をアーチ状に保持するために、アーチ形の風船等から成る両側のバルーン2,2の他に、図示しない鋼製等の架台が必要不可欠となり、その分、設備が大掛かりになるうえに、密閉用シート3の自重も大きくなり、全体の構造が複雑になると共に、コスト高になった。
【0005】
これに対処するに、本特許出願人は、既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートを簡単な構造で確実かつ低コストで養生させることができる覆工コンクリート養生構造を、例えば、特許文献1で開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−328869号公報
【特許文献2】特開2001−123794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1の覆工コンクリート養生構造では、二次覆工コンクリートの内周面の曲率に合わせて養生材を加工する作業が煩雑であり、また、養生材として発泡スチロール材を使用しているので、加工する際に脆くて折れたり、凹凸ができ易かった。そのため、養生材の加工に熟練と時間を要した。
【0008】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートの内周面の曲率に合わせて可変可能な養生材を簡単かつ低コストで加工することができると共に、該二次覆工コンクリートを短時間でかつ確実に養生させることができる覆工コンクリート養生方法及び該方法に用いる養生材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートの内周面を養生材で覆って該二次覆工コンクリートを養生させるようにした覆工コンクリート養生方法において、前記二次覆工コンクリートの内周面を、裏面側に設けた複数のスリットの形状と深さを決定して表面側の形状を該二次覆工コンクリートの内周面の曲率に合うように可変させた複数の養生材の各表面で覆い、次に、前記複数の養生材の各裏面をアーチ状の保持材で保持して覆工コンクリート養生構造を完成させることを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載の覆工コンクリート養生方法であって、前記複数の養生材の各表面をシートで被覆したものを用いることで該各養生材に復元力を持たせ、この各養生材の表面を被覆した前記シートを前記二次覆工コンクリートの内周面に圧接させることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1記載の覆工コンクリート養生方法であって、前記複数の養生材の各表面を不織布で被覆したものを用いることで該各養生材に保水性能を持たせ、この各養生材の表面を被覆した前記不織布を前記二次覆工コンクリートの内周面に圧接させることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1記載の覆工コンクリート養生方法であって、前記各養生材の裏面側に設けたスリットの間隔を異ならせたものを用い、前記二次覆工コンクリートの内周面の曲率が大きい場合には前記各スリットの間隔が狭い養生材を配置させると共に、該二次覆工コンクリートの内周面の曲率が小さい場合には前記各スリットの間隔が広い養生材を配置させることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1記載の覆工コンクリート養生方法であって、前記複数の養生材として合成樹脂発泡体を用いたことを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートの内周面を養生材本体で覆って該二次覆工コンクリートを養生させる際に用いる養生材において、前記養生材本体を板状に形成し、この板状の養生材本体の裏面側に所定方向に平行に延びる複数のスリットを所定の間隔を隔ててそれぞれ形成し、この複数のスリットの形状と深さを決定して前記養生材本体の形状を前記二次覆工コンクリートの内周面の曲率に合うように可変自在にしたことを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、請求項6記載の養生材であって、前記各スリットを楔形状に形成したことを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明は、請求項6記載の養生材であって、前記各スリットを矩形状に形成したことを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明は、請求項6記載の養生材であって、前記板状の養生材本体の周囲に係止凸部と係止凹部をそれぞれ形成し、これら係止凸部と係止凹部を介して相隣接する養生材本体同士を係止させるようにしたことを特徴とする。
【0018】
請求項10の発明は、請求項9記載の養生材であって、前記相隣接する養生材本体の各裏面にアーチ状の保持材を係合する係合凹部を形成したことを特徴とする。
【0019】
請求項11の発明は、請求項6記載の養生材であって、前記養生材本体が合成樹脂発泡体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートの内周面を、裏面側に設けた複数のスリットの形状と深さを決定して表面側の形状を該二次覆工コンクリートの内周面の曲率に合うように可変させた複数の養生材の各表面で覆い、次に、複数の養生材の各裏面をアーチ状の保持材で保持して覆工コンクリート養生構造を完成させることにより、既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートを簡単かつ短時間で確実に低コストで養生させることができる。また、アーチ状の保持材にて既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートの内周面に複数の養生材を均等に押し付けることができる。
【0021】
請求項2の発明によれば、複数の養生材の各表面をシートで被覆したものを用いることで、各養生材に復元力を持たせることができ、また、各養生材の表面を被覆したシートを二次覆工コンクリートの内周面に圧接させることができ、打設した後の二次覆工コンクリート面の保温効果をより一段と高めることができて、ひび割れのない高品質な二次覆工コンクリートを低コストで構築することができる。さらに、複数の養生材の各表面をシートで被覆したものを用いることにより、相隣接する養生材同士の繋ぎ部分をシートにより保護して、該相隣接する養生材同士の繋ぎ部分の隙間を確実に無くすことができ、保温効果をより一段と向上させることができる。
【0022】
請求項3の発明によれば、複数の養生材の各表面を不織布で被覆したものを用いることで、該各養生材に保水性能を持たせることができ、また、各養生材の表面を被覆した不織布を二次覆工コンクリートの内周面に圧接させることができ、打設した後の二次覆工コンクリート面の保湿効果及び断熱、保温効果をより一段と高めることができて、ひび割れのない高品質な二次覆工コンクリートを低コストで構築することができる。さらに、不織布に散水して保水することで、二次覆工コンクリートの養生中の保温効果をより一段と高めることができる。
【0023】
請求項4の発明によれば、各養生材の裏面側に設けたスリットの間隔を異ならせたものを用い、二次覆工コンクリートの内周面の曲率が大きい場合には各スリットの間隔が狭い養生材を配置させると共に、該二次覆工コンクリートの内周面の曲率が小さい場合には各スリットの間隔が広い養生材を配置させることにより、二次覆工コンクリートのあらゆる曲率の内周面に各養生材の表面側の形状を簡単かつ短時間で確実に低コストで合わせることができる。
【0024】
請求項5の発明によれば、複数の養生材として合成樹脂発泡体を用いたことにより、スリットの加工が容易にでき、アーチ状の二次覆工コンクリートの内周面の曲率に応じた形状に簡単かつ確実に加工できる。また、合成樹脂発泡体は軽量で断熱性に優れているので、養生中の保温効果をより一段と高めることができる。
【0025】
請求項6の発明によれば、養生材本体を板状に形成し、この板状の養生材本体の裏面側に所定方向に平行に延びる複数のスリットを所定の間隔を隔ててそれぞれ形成し、この複数のスリットの形状と深さを決定して養生材本体の形状を二次覆工コンクリートの内周面の曲率に合うように可変自在にしたことにより、既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートの内周面の曲率に応じた形状に養生材本体を簡単かつ短時間で確実に低コストで加工することができる。
【0026】
請求項7の発明によれば、各スリットを楔形状に形成したことにより、二次覆工コンクリートのあらゆる曲率の内周面に応じた形状に養生材本体を簡単かつ短時間で確実に低コストで加工することができる。
【0027】
請求項8の発明によれば、各スリットを矩形状に形成したことにより、二次覆工コンクリートのあらゆる曲率の内周面に応じた形状に養生材本体を簡単かつ短時間で確実に低コストで加工することができる。
【0028】
請求項9の発明によれば、板状の養生材本体の周囲に係止凸部と係止凹部をそれぞれ形成し、これら係止凸部と係止凹部を介して相隣接する養生材本体同士を係止させるようにしたことにより、相隣接する養生材同士の繋ぎ部分の隙間を簡単かつ確実に保護して遮蔽することができ、外気を確実かつ有効に遮断することができる。
【0029】
請求項10の発明によれば、相隣接する養生材本体の各裏面にアーチ状の保持材を係合する係合凹部を形成したことにより、複数の養生材の各裏面の係合凹部にアーチ状の保持材を確実に係合させることできると共に、複数の養生材の各表面を既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートの内周面に密着、或いは、微小の空気層を介して確実に当接させることができる。
【0030】
請求項11の発明によれば、養生材本体が合成樹脂発泡体であるので、スリットの加工が容易にでき、アーチ状の二次覆工コンクリートの内周面の曲率に応じた形状に簡単かつ確実に加工できる。また、合成樹脂発泡体は軽量で断熱性に優れているので、養生中の保温効果をより一段と高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態の覆工コンクリート養生構造を示す断面図である。
【図2】上記第1実施形態の養生構造に用いられる面材としてシートを使用した養生材の斜視図である。
【図3】(a)は上記養生材のスリット部分の拡大断面図、(b)は他の態様のスリット部分の拡大断面図である。
【図4】上記養生材を複数のスリットを介して円弧状に可変した状態を示す部分断面図である。
【図5】上記円弧状に可変した養生材を建て込んだ状態を示す斜視図である。
【図6】(a)〜(c)は上記養生構造ができるまでの手順を示す断面図である。
【図7】上記養生材に形成されるスリットの溝形状の相違やシートの有無による養生の評価を表にして比較した説明図である。
【図8】本発明の第2実施形態の覆工コンクリート養生構造を示す断面図である。
【図9】(a)は上記第2実施形態の養生構造に用いられる面材として不織布を使用した養生材の斜視図、(b)は同養生材のスリット部分の拡大断面図である。
【図10】上記第2実施形態の養生材を複数のスリットを介して円弧状に可変した状態を示す部分断面図である。
【図11】上記スリットの間隔を異ならせた養生材同士を連結した状態を示す斜視図である。
【図12】従来の覆工コンクリート養生構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
図1は本発明の第1実施形態の覆工コンクリート養生構造を示す断面図、図2は同養生構造に用いられる面材としてシートを使用した養生材の斜視図、図3(a)は同養生材のスリット部分の拡大断面図、図3(b)は他の態様のスリット部分の拡大断面図、図4は同養生材を複数のスリットを介して円弧状に可変した状態を示す部分断面図、図5は同円弧状に可変した養生材を建て込んだ状態を示す斜視図、図6(a)〜(c)は同養生構造ができるまでの手順を示す断面図、図7は同養生材に形成されるスリットの溝形状の相違やシートの有無による養生の評価を表にして比較した説明図である。
【0034】
図1,図6に示すように、覆工コンクリート養生構造10は、例えば、山岳トンネル11内の既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート(覆工コンクリート)12の内壁面(内周面)12aを複数の合成樹脂発泡体製のパネル(養生材)20のパネル本体(養生材本体)21で覆って該アーチ状の二次覆工コンクリート12を養生させるものである。即ち、既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aは、該アーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aの曲率に応じた形状に可変された複数の合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の各表面21aに貼付される面材としての熱可塑性樹脂製のシート30で覆われており、また、この複数の合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の各裏面21bはアーチ状の塩化ビニル製のパイプ(以下「塩ビ管」と略称する)40で保持されるようになっている。
【0035】
図2,図4,図5に示すように、各合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21は、矩形板状(板状)にそれぞれ形成してある。そして、各パネル本体21の各裏面21b側には長手方向に平行に延びる楔形状の複数のスリット(切り込み)22を所定の間隔を隔ててそれぞれ形成してあり、この複数のスリット22を介して該パネル本体21の形状をアーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aの曲率に沿うように可変自在にしてある。また、各パネル本体21の裏面21bの中央にはアーチ状の塩ビ管40が係合する係合凹部24を形成してある。さらに、各パネル本体21の上部と左側部には繋ぎ部としての係止凸部25aを形成してあると共に、各パネル本体21の右側部と下部には繋ぎ部としての係止凹部25bを形成してある。これら係止凸部25aと係止凹部25bを介して相隣接するパネル本体21が係止されるようになっている。
【0036】
図5に示すように、合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の幅(S)は例えば200cm、高さ(H)は例えば100cm、厚さ(T)は例えば10cm、にそれぞれ形成してある。また、図3(a)に示すように、楔形状(断面二等辺三角形)のスリット22の幅(s)は例えば5mmと10mm、その深さ(h)は例えば80mmと65mmと50mmのサイズの異なるものがそれぞれ用意されている。さらに、スリット22の間隔(L)は例えば10cmと5cmのものがそれぞれ用意されている。これらのスリット22,23により、アーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aの曲率に合うように合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21を円弧状に可変した場合に、その曲率(半径)は1500〜8000mmになるように形成してある。ここで、曲率とは、曲線が曲がっている度合いを表す数をいい、曲線上の隣接3点を通る円の半径、すなわち曲率半径の逆数として定められる。直線は曲率がゼロであり、曲線は曲率が大きいほど曲がり方が大きい。
【0037】
尚、スリット22の形状は、楔形状に限らず、図3(b)に示すように、矩形状(断面長方形)のスリット(切り込み)23でも良い。この矩形状のスリット23の幅(s)は例えば5mm、その深さ(h)は例えば65mmに形成したものが用意されている。
【0038】
さらに、図2,図4,図5に示すように、合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の表面21aには、面材としての熱可塑性樹脂製のシート30を接着剤等により貼付してある。この熱可塑性樹脂製のシート30は、パネル本体21の表面21aより一回り大きい矩形に形成してあり、図3(a)に示すように、相隣接するパネル本体21,21同士の繋ぎ部分(連結部分)の境部分に重ねられて隣接するパネル本体21,21同士の係止凸部25aと係止凹部25bの繋ぎ部分を保護するようになっている。そして、二次覆工コンクリート12を養生する際に、パネル本体21の表面21aに貼付された熱可塑性樹脂製のシート30が二次覆工コンクリート12の内壁面12aに圧接されるようになっている。
【0039】
次に、図6(a)〜図6(c)に沿って上記した構成の覆工コンクリート養生構造10ができるまでの手順を説明する。
【0040】
まず、図6(a)に示すように、山岳トンネル11内の地盤上の両側に支保調整材としての棒ジャッキ50を固定する。そして、この一対の棒ジャッキ50,50に保持材としての塩ビ管40の両端を差し込み、山岳トンネル11内の既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aに沿うように塩ビ管40をアーチ状に立てる。この際に、棒ジャッキ50は縮めておき、アーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aとアーチ状の塩ビ管40との間に合成樹脂発泡体製のパネル20を建て込む空間を作っておく。
【0041】
次に、図6(b)に示すように、アーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aとアーチ状の塩ビ管40との間に合成樹脂発泡体製のパネル20を挿入してアーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aに沿って周方向に合成樹脂発泡体製のパネル20を順次建て込んで行く。この際に、矩形板状の各合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の周囲に形成された係止凸部25aと係止凹部25bを介して相隣接するパネル本体21同士を係止させる。また、各パネル本体21の各裏面21bの中央の係合凹部24にアーチ状の塩ビ管40を係合させる。
【0042】
そして、図6(c)に示すように、アーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aに沿って周方向の全周に亘って合成樹脂発泡体製のパネル20を建て込んだ後に、棒ジャッキ50を伸ばしてアーチ状の塩ビ管40でアーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aに複数の合成樹脂発泡体製のパネル20を均等に押し付け、これら一連の作業をアーチ状の二次覆工コンクリート12の奥の最終位置まで順次行うことにより、図1及び図6(c)に示す覆工コンクリート養生構造10が完成する。
【0043】
この覆工コンクリート養生構造10では、図1に示すように、複数の合成樹脂発泡体製のパネル20の各パネル本体21の表面21aに貼付された熱可塑性樹脂製のシート30がアーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aに密着、もしくは微小の空気層を有して保持されることで、アーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aから逸脱する水分を封じ込むことができる。これにより、アーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aの付近の湿度は高く、湿潤な状態に保たれ、保湿効果がより一段と高められる。
【0044】
また、複数の合成樹脂発泡体製のパネル20の各パネル本体21の表面21aに貼付された熱可塑性樹脂製のシート30がアーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aに密着、もしくは微小の空気層を有して保持されることで、アーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aからの蒸発水を封じ込むことができる。これにより、アーチ状の二次覆工コンクリート12の内外の温度差を少なくすることができ、断熱、保温効果をより一段と高めることができる。
【0045】
以上実施形態の覆工コンクリート養生構造10によれば、山岳トンネル11内の既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aを、該アーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aの曲率に応じた形状(例えば、円弧状)に可変した複数の合成樹脂発泡体製のパネル20の各パネル本体21の表面21aに貼付される熱可塑性樹脂製のシート30で覆うと共に、該複数の合成樹脂発泡体製のパネル20の各パネル本体21の裏面21bをジャッキアップしたアーチ状の塩ビ管40で保持するようにしたことにより、アーチ状の二次覆工コンクリート12を簡単な構造で確実かつ低コストで養生させることができる。さらに、複数の合成樹脂発泡体製のパネル20の各パネル本体21の表面21aを熱可塑性樹脂製のシート30で被覆したものを用いることで、各パネル本体21に復元力(元に戻る力)を持たせることができると共に、各パネル本体21の表面21aを被覆した熱可塑性樹脂製のシート30を二次覆工コンクリート12の内周面12aに圧接させることができる。これらにより、打設した後の二次覆工コンクリート12の内壁面12aの保温効果をより一段と高めることができ、ひび割れのない高品質な二次覆工コンクリート12を短時間でかつ低コストで構築することができる。
【0046】
また、複数の合成樹脂発泡体製のパネル20の各パネル本体21を矩形板状にそれぞれ形成し、この矩形板状の各パネル本体21の周囲に係止凸部25aと係止凹部25bをそれぞれ形成して、これら係止凸部25aと係止凹部25bを介して相隣接する合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21,21同士を係止すると共に、相隣接するパネル本体21,21同士の係止凸部25aと係止凹部25bの繋ぎ部分(連結部分)の境部分を、各パネル本体21の表面21aに貼付された熱可塑性樹脂製のシート30の端部で重ねたことにより、相隣接する合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21,21同士の繋ぎ部分の隙間を簡単かつ確実に低コストで保護して遮蔽することができ、水分の逸散を確実かつ有効に遮断することができて、保湿効果をより一段と向上させることができる。
【0047】
さらに、複数の合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の各裏面21bの中央にアーチ状の塩ビ管40を係合する係合凹部24をそれぞれ形成したことにより、複数の合成樹脂発泡体製のパネル20の各パネル本体21の裏面21bの中央の係合凹部24にアーチ状の塩ビ管40を確実に係合させることできると共に、複数の合成樹脂発泡体製のパネル20の各パネル本体21の表面21aに貼付した熱可塑性樹脂製のシート30をアーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aに密着、或いは、微小の空気層を介して確実に当接させることができる。
【0048】
さらに、複数の養生材として、パネル本体21の裏面21b側に所定方向に平行に延びる複数の楔形状のスリット22を所定の間隔(L)を隔ててそれぞれ形成した合成樹脂発泡体製のパネル20を用いたことにより、アーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aの曲率に応じた形状に各合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の表面21a側を簡単かつ確実に低コストで可変することができ、養生材の加工ミスがなくなると共に、作業現場での養生材の加工が不要となる。
【0049】
また、合成樹脂発泡体製のパネル20は軽量なため、アーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aに沿って周方向の全周に亘って合成樹脂発泡体製のパネル20を簡単かつ確実に低コストで建て込むことができる。さらに、アーチ状の保持材として塩ビ管40と該塩ビ管40をジャッキアップする棒ジャッキ50を用いたことにより、このアーチ状の塩ビ管40にてアーチ状の二次覆工コンクリート12の内壁面12aに複数の合成樹脂発泡体製のパネル20を均等に押し付けることができる。
【0050】
このアーチ状の二次覆工コンクリート12の養生の際に、合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の裏面21b側に形成されるスリット22(23)の溝形状、間隔L、シート30の有無による可変性の評価を図7の表に示す。
【0051】
この図7に示す表から、スリット22の溝形状が楔形状で、それらの間隔Lが100mm、深さhが65mmと50mm、或いは、スリット22の溝形状が矩形状で、それらの間隔Lが50mm、深さhが62mmで、かつ、シート30が有る場合が最も高い復元性(表にて「◎」で示す)が得られることが判明した。
【0052】
図8は本発明の第2実施形態の覆工コンクリート養生構造を示す断面図、図9(a)は同養生構造に用いられる面材として不織布を使用した養生材の斜視図、図9(b)は同養生材のスリット部分の拡大断面図、図10は同養生材を複数のスリットを介して円弧状に可変した状態を示す部分断面図である。
【0053】
この第2実施形態の覆工コンクリート養生構造10′では、養生材としての合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の表面21aに、面材としての不織布31を接着剤等により貼付してあると共に、各パネル本体21の各裏面21b側に長手方向に平行に延びる矩形状(断面長方形)の複数のスリット(切り込み)23を所定の間隔Lを隔ててそれぞれ形成してある。他の構成は、前記第1実施形態と同様であるので、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0054】
この第2実施形態では、複数の合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の裏面21b側に長手方向に平行に延びる矩形状の複数のスリット23を所定の間隔(L)を隔ててそれぞれ形成したことにより、既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート12のあらゆる曲率の内壁面12aに応じた形状にパネル本体21を簡単かつ短時間で確実に低コストで可変することができる。
【0055】
また、各表面21aに接着剤等により不織布31を貼付した複数の合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21を用いることにより、各パネル本体21に保水性能を持たせることができ、さらに、不織布31に散水して保水することで、二次覆工コンクリート12の養生中の保温効果をより一段と高まることができる。
【0056】
さらに、複数のパネル本体21の各表面21aに貼付された不織布31を、二次覆工コンクリート12の内壁面12aにジャッキアップされたアーチ状の塩ビ管40で圧接させることにより、打設した後の二次覆工コンクリート12の内壁面12aの保湿効果及び断熱、保温効果をより一段と高めることができ、ひび割れのない高品質な二次覆工コンクリート12を構築することができる。
【0057】
図11はスリットの間隔を異ならせた養生材同士を連結した状態を示す斜視図である。
【0058】
図11に示すように、各合成樹脂発泡体製のパネル(養生材)のパネル本体21の裏面21b側に設けたスリット22の間隔Lが例えば10cmのものと5cmのものを、それらの係止凸部25aと係止凹部25bを介して連結すると共に、各パネル本体21の表面21aに熱可塑性樹脂製のシート30を接着剤等により貼付してある。
【0059】
そして、例えば、図1に示す既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート12から成る山岳トンネル11の場合では、その両側壁下側Aの内壁面12aの曲率が一番小さく、天井壁側B、天井両側壁側C、両側壁中央側Dの順に内壁面12aの曲率が大きくなっている(曲率:A<B<C<D)が、二次覆工コンクリート12の内壁面12aの曲率が一番大きい場所である両側壁中央側Dやその次に曲率が大きい天井両側壁側Cに、各スリット22の間隔Lが狭い例えば5cmの合成樹脂発泡体製のパネル20を配置させると共に、該二次覆工コンクリート12の内壁面12aの曲率が一番小さい場所である両側壁下側Aやその次に小さい天井壁側Bに、各スリット22の間隔Lが広い例えば10cmの合成樹脂発泡体製のパネル20を配置させることにより、アーチ状の二次覆工コンクリート12の曲率が異なる内壁面12aに、各合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の表面21a側の形状を簡単かつ短時間で確実に低コストで可変して合わせることができる。
【0060】
このように、既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート12の場所により曲率の異なる内周面12aを、裏面21b側に設けた複数のスリット22の形状と深さを決定して表面21a側の形状を該二次覆工コンクリート12の内周面12aの曲率に合うように可変させた複数の合成樹脂発泡体製のパネル20の各パネル本体21の表面21aに貼付された熱可塑性樹脂製のシート30で覆い、次に、複数の合成樹脂発泡体製のパネル20のパネル本体21の各裏面21bをジャッキアップしたアーチ状の塩ビ管40で保持して覆工コンクリート養生構造10を完成させることにより、既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート12を簡単かつ短時間で確実に低コストで養生させることができる。
【0061】
また、ジャッキアップしたアーチ状の塩ビ管40にて既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート12の場所により曲率の異なる内周面12aに複数の合成樹脂発泡体製のパネル20の各パネル本体21の表面21aに貼付された熱可塑性樹脂製のシート30を均等に簡単かつ確実に押し付けることができる。さらに、複数の合成樹脂発泡体製のパネル20の各パネル本体21の表面21aを熱可塑性樹脂製のシート30で被覆したものを用いることで、各パネル本体21に復元力を持たせることができると共に、各パネル本体21の表面21aを被覆した熱可塑性樹脂製のシート30を二次覆工コンクリート12の場所により曲率の異なる内周面12aに簡単かつ確実に圧接させることができる。これらにより、打設した後の二次覆工コンクリート12の場所により曲率の異なる内壁面12aの保温効果をより一段と高めることができ、ひび割れのない高品質な二次覆工コンクリート12を短時間でかつ低コストで構築することができる。
【0062】
尚、前記各実施形態によれば、山岳トンネル内の既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートを初期養生する場合について説明したが、養生対象は山岳トンネル内の既打設の二次覆工コンクリートに限られず、例えば、アーチカルバート等の他のアーチ状の二次覆工コンクリートに前記実施形態を適用しても良い。
【0063】
また、前記各実施形態によれば、養生材として合成樹脂発泡体製のパネルを用いたが、他の軽量な断熱材等を用いても良い。この養生材として好適な合成樹脂発泡体としては、ポリスチレン系樹脂発泡体、ポリエチレン系樹脂発泡体、ポリプロピレン系樹脂発泡体、ポリウレタン系樹脂発泡体等が挙げられ、特に加工性と強度に優れるポリスチレン系樹脂発泡体が好ましい。また、養生材に貼付する熱可塑性樹脂製のシートとしては、ポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンテレフタレートシート、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート等が挙げられ、特に加工性と強度に優れるポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンテレフタレートシートが好ましい。さらに、保持材として塩化ビニル製のパイプを用いたが、アール加工した鋼製山形鋼や復元力のあるグラスファイバーや空気を注入して膨らむゴム製でアーチ状のエアチューブ等を用いても良い。
【0064】
さらに、前記各実施形態によれば、スリットの間隔が10cmと5cmの養生材を用いたが、スリットの間隔は10cm以上でも5cm以下でも良く、また、長方形で板状の養生材を用いたが、正方形や菱形等の板状のものを用いても良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0065】
10,10′ 覆工コンクリート養生構造
12 既打設でアーチ状の二次覆工コンクリート
12a 内壁面(内周面)
20 合成樹脂発泡体製のパネル(養生材)
21 パネル本体(養生材本体)
21a 表面
21b 裏面
22 楔形状のスリット(スリット)
23 矩形状のスリット(スリット)
24 係合凹部
25a 係止凸部
25b 係止凹部
30 熱可塑性樹脂製のシート(面材)
31 不織布(面材)
40 アーチ状の塩化ビニル製のパイプ(アーチ状の保持材)
50 棒ジャッキ(支保調整材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートの内周面を養生材で覆って該二次覆工コンクリートを養生させるようにした覆工コンクリート養生方法において、
前記二次覆工コンクリートの内周面を、裏面側に設けた複数のスリットの形状と深さを決定して表面側の形状を該二次覆工コンクリートの内周面の曲率に合うように可変させた複数の養生材の各表面で覆い、次に、前記複数の養生材の各裏面をアーチ状の保持材で保持して覆工コンクリート養生構造を完成させることを特徴とする覆工コンクリート養生方法。
【請求項2】
請求項1記載の覆工コンクリート養生方法であって、
前記複数の養生材の各表面をシートで被覆したものを用いることで該各養生材に復元力を持たせ、この各養生材の表面を被覆した前記シートを前記二次覆工コンクリートの内周面に圧接させることを特徴とする覆工コンクリート養生方法。
【請求項3】
請求項1記載の覆工コンクリート養生方法であって、
前記複数の養生材の各表面を不織布で被覆したものを用いることで該各養生材に保水性能を持たせ、この各養生材の表面を被覆した前記不織布を前記二次覆工コンクリートの内周面に圧接させることを特徴とする覆工コンクリート養生方法。
【請求項4】
請求項1記載の覆工コンクリート養生方法であって、
前記各養生材の裏面側に設けたスリットの間隔を異ならせたものを用い、前記二次覆工コンクリートの内周面の曲率が大きい場合には前記各スリットの間隔が狭い養生材を配置させると共に、該二次覆工コンクリートの内周面の曲率が小さい場合には前記各スリットの間隔が広い養生材を配置させることを特徴とする覆工コンクリート養生方法。
【請求項5】
請求項1記載の覆工コンクリート養生方法であって、
前記複数の養生材として合成樹脂発泡体を用いたことを特徴とする覆工コンクリート養生方法。
【請求項6】
既打設でアーチ状の二次覆工コンクリートの内周面を養生材本体で覆って該二次覆工コンクリートを養生させる際に用いる養生材において、
前記養生材本体を板状に形成し、この板状の養生材本体の裏面側に所定方向に平行に延びる複数のスリットを所定の間隔を隔ててそれぞれ形成し、この複数のスリットの形状と深さを決定して前記養生材本体の形状を前記二次覆工コンクリートの内周面の曲率に合うように可変自在にしたことを特徴とする養生材。
【請求項7】
請求項6記載の養生材であって、
前記各スリットを楔形状に形成したことを特徴とする養生材。
【請求項8】
請求項6記載の養生材であって、
前記各スリットを矩形状に形成したことを特徴とする養生材。
【請求項9】
請求項6記載の養生材であって、
前記板状の養生材本体の周囲に係止凸部と係止凹部をそれぞれ形成し、これら係止凸部と係止凹部を介して相隣接する養生材本体同士を係止させるようにしたことを特徴とする養生材。
【請求項10】
請求項9記載の養生材であって、
前記相隣接する養生材本体の各裏面にアーチ状の保持材を係合する係合凹部を形成したことを特徴とする養生材。
【請求項11】
請求項6記載の養生材であって、
前記養生材本体が合成樹脂発泡体であることを特徴とする養生材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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