説明

規則化金属間化合物を含む触媒を用いる水素添加方法

本発明は、水素添加、特に規則化金属間化合物を含む水素添加触媒を用いる不飽和炭化水素化合物の選択的水素添加のための方法に関する。規則化金属間化合物は、水素を活性化し得るA型の少なくとも1つの金属、及び水素を活性化し得ないB型の少なくとも1つの金属を含み、そして規則化金属間化合物の構造は、少なくとも1つの種類のA型金属がB型金属の原子により主に取り囲まれるようなものである。別の態様によれば、本発明は、担体、及び担体上に担持される上記規則化金属間化合物を含む触媒に関する。さらに別の態様によれば、本発明は、触媒としての二元性Pd−Ga規則化金属間化合物の使用に関する。本発明の水素添加方法及び触媒は、例えばエチレンへのアセチレンの選択的水素添加における標的化合物に対する選択度を達成し、これは従来技術より優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素添加、特に、特定の規則化金属間化合物を含む水素添加触媒を用いる不飽和炭化水素化合物の選択的水素添加のための方法、担体及びその上に担持される上記特定規則化金属間化合物を含む触媒、並びに触媒としての二元性Pd−Ga規則化金属間化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和炭化水素化合物の選択的水素添加は、高い産業的意義を有する。エテン、プロペン、ブタン、1,3−ブタジエン及び芳香族化合物の生産のためのナフサの熱分解は、現代石油化学産業における重要なプロセスである。C2、C3及びC4カットからのアルキン化合物のほぼ完全な除去のために、選択的水素添加が一般的に用いられる。
【0003】
例えばアセチレンの水素添加は、ポリエチレンの生産のためのエチレン供給における微量のアセチレンを除去するための重要な工業プロセスである。アセチレンはポリエチレンへのエチレンの重合のための触媒を害するため、エチレン供給におけるアセチレン含量は低ppm範囲に低減されなければならない。さらに、エチレンからエタンへの水素添加を防止するために、過剰量のエチレンの存在下でのアセチレン水素添加の高選択度を経済効率は要求する。
【0004】
典型的水素添加触媒は、金属酸化物上に分散されるパラジウムを含有する。パラジウム金属は、例えばアセチレンの水素添加において、高い活性を示すが、一方、それは、全体的水素添加によるエタンの生成、並びにオリゴマー化反応によるC4及びそれより高級な炭化水素の生成のため、限定された選択度しか保有しない。
【0005】
促進剤を添加するか又は他の金属と合金にすることによるパラジウム触媒の修飾は、アセチレン水素添加における選択度増大及び長期安定性を生じることが示されている。例えばアルキンの半水素添加における選択度増大は、Ag(米国特許第4,404,124号;及びD.C. Huang et al., Catal. Lett. 53, 155-159 (1998))、Sn(S. Verdier et al., J. Catal., 218, 288-295 (2003))、Au(T.V. Choudhary et al., Catal. Lett., 86, 1-8 (2003))、Ni(P. Miegge et al., J. Catal., 149, 404-413 (1994))及びPb(W. Palczewska et al., J. Mol. Catal., 25, 307-316 (1984))と組合されたPdに関して報告されている。しかしながらこれらの修飾Pd触媒の触媒性能は依然として不十分であり、選択度のさらなる改良はポリエチレンの生産のための経費を低減し得る。選択度のほかに、パラジウム触媒の長期安定性をさらに改良しなければならない。
【0006】
3カット(プロピレン)は一般的に、プロピン(メチルアセチレン)及びプロパジエン(アレン)の選択的水素添加により精製され、そして得られたプロピレンはさらにポリプロピレンに処理され得る。
【0007】
工業における別の重要な選択的水素添加は、その抽出分離後のC4分画からの微量の1,3−ブタジエンの除去である。Pd/Al23触媒は、この反応に一般に用いられる。さらに、Pd/Al23上でのシクロオクテンへの1,3−ブタジエンの環状二量体化、及びルテニウム触媒上でのシクロヘキセンへのベンゼンの環状二量体化により得られる、1,5−シクロオクタジエンの選択的水素添加が重要性を有する。
【0008】
これらの選択的水素添加のすべてにおいて、所望の生成物に対する選択度のさらなる改良並びに用いられる触媒の長期安定性増大が、強く望まれてきた。
【0009】
金属間化合物PdGa又はPd3Ga7は、E. Hellner et al. in Z. Naturforsch. 2a,177-183 (1947)により、そしてK. Khalaff et al. in J. Less-Common Met. 37, 129-140
(1974)により記載されている。しかしながらこれらの化合物の任意の触媒能力は今までのところ分かっていない。
【0010】
種々の異なる反応における触媒としての規則化金属間化合物の使用は、米国公開特許第2004/0126267号(A1)及び国際公開第WO2004/012290号(A2)に包括的に記載されている。しかしながらこれらの文献は、水素添加へのこの型の化合物の適用を開示しておらず、まして、選択的水素添加も開示していない。実際、これらの主眼は、燃料電池におけるそれらの使用にある。さらに、これらの特許出願は、本発明の特定のPdをベースとした金属間化合物を開示していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、上記のような従来技術の欠点を克服する、そして標的生成物に対する選択度改良を示すエテンを産出するための、不飽和炭化水素化合物の水素添加のための方法、特に大過剰量のエテン(エチレン)と混合状態でのエチン(アセチレン)の水素添加のための方法を提供することが、本発明の一目的である。選択的水素添加反応において、特にエチレンが過剰量で存在する場合にエチレンを提供するためのアセチレンの選択的水素添加において、上記の有益な特性を有する新規の触媒を提供することが、本発明の別の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的は、特定の規則化金属間化合物を含む水素添加触媒を用いる少なくとも1種の不飽和炭化水素化合物の水素添加方法により得られる。本発明の方法に用いられる規則化金属間化合物は、水素を活性化し得る少なくとも1種のA型金属、及び水素を活性化し得ない少なくとも1つのB型金属を含み、そして上記金属間化合物の構造はA型金属の少なくとも1つの種類が主にB型金属の原子により取り囲まれるようなものである。別の態様によれば、本発明は、担体及びその上に担持される上記規則化金属間化合物を含む触媒に関する。
【0013】
さらに別の態様によれば、本発明は、触媒としての二元性Pd−Ga規則化金属間化合物の使用に関する。
【0014】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項の対象である。
【0015】
[発明の詳細な説明]
本発明の水素添加方法の便益は、水素添加が選択的に進行する場合、優先的に達成され得る。
【0016】
水素添加触媒作用の分野で活動している人は誰でも、「選択的水素添加」という用語に精通している。一般的に、化学反応は、これが、反応混合物の分子中に存在する類似の反応性を有するいくつかの官能基のうちの1つと優先的に反応する場合、選択的であると言及されるが、一方、この型の残りの官能基は有意に低い程度に反応し、即ちそれらが高度に選択的な反応の場合にはほとんど反応しない。言い換えると、反応混合物において可能な種々の水素添加反応から或る種の水素添加反応(又は或る種の複数の水素添加反応)を選択する傾向にある場合、この水素添加は選択度が高いと言う。その結果として、「選択的水素添加」という用語は、それが本明細書中で用いられる場合、例えば以下の状況を包含する:(1)反応されるべき不飽和炭化水素化合物の不飽和(例えば二重及び/又は三
重結合)のうちのいくつかは優先して水素添加されるが、一方、他の不飽和は有意に低い程度に反応する、そして(2)反応されるべき不飽和炭化水素化合物の1つ又は複数の不飽和が2回水素添加され得る(例えば三重結合)場合、それらは1回だけ優先して水素添加され、そして第二の反応ステップはほとんど観察されない。本発明の目的のために、水素添加は、所望の標的化合物と所望でない標的化合物(単数又は複数)のモル比が1:1より大きく、好ましくは2:1より大きく、さらに好ましくは5:1より大きく、最も好ましくは10:1である場合、選択的であると言及される。
【0017】
状況(1)の典型例は、対応するアルカンへのアルケンの実質的反応を伴わずに好ましくはほぼ専ら対応するアルケンを主にもたらすためのアルカジエンの水素添加である。状況(2)は、アルキンを反応させて主に対応するアルケンを得ることにより例示され得るが、一方、アルカンを生じるためのアルケンの連続反応はほとんど起きない。上記から理解されるように、2つの状況は相互排他的でない。それは、上記状況の両方が特定分子の選択的水素添加において存在し得る、ということを意味する。状況(2)に対応する大過剰量のエチレンにおけるアセチレン反応の場合、エチレンは、その高濃度にかかわらず、ほとんどエタンに転化されない、ということが重要である。
【0018】
選択的水素添加の例は、本明細書中の背景技術の項に記載されている。
【0019】
本発明の選択的水素添加方法に用いられる不飽和炭化水素化合物は、これが、水素添加を受けやすい1つ又は複数の不飽和を含有し、そして上記で概説した選択度問題を保有する限り、種類で限定されない。例えば不飽和炭化水素化合物は、不飽和カルボニル化合物、例えば分子中にカルボニル部分及び炭素−炭素二重結合の両方を有する化合物であり得る。しかしながら不飽和炭化水素化合物は、好ましくは、水素添加を受け易い不飽和として、炭素−炭素二重及び/又は炭素−炭素三重結合を含有し、そして水素添加を受け易いさらなる不飽和、即ち水素添加可能基(単数又は複数)を含有しない。さらに好ましい実施形態によれば、不飽和炭化水素化合物は、アルカジエン、アルカトリエン及びアルカポリエン;アルキン、ジアルキン、トリアルキン及びポリアルキン;並びに芳香族化合物から成る群から選択される。アルカジエン、アルカトリエン及びアルカポリエン、並びにアルキン、ジアルキン、トリアルキン及びポリアルキンはともに、脂環式及び環式化合物を包含する。さらにより好ましくは、不飽和炭化水素化合物は、アルカジエン、シクロアルカジエン、アルキン及びベンゼンの群から選択される。
【0020】
アルカジエンは1,3−ブタジエンとすることができ、これは、本発明の選択的水素添加により、ブタンに完全に水素添加されることなく、有意な程度に主に1−ブテンに転化される。シクロアルカジエンは、例えば1,5−シクロオクタジエンであり、これは、本発明の選択的水素添加時にシクロオクテンをもたらすが、一方、完全水素添加に起因するシクロオクタンは少数生成物である。ベンゼンの選択的水素添加はシクロヘキセンを生じ、少量のシクロヘキサジエン及びシクロヘキサンを伴う。二重結合の存在下での三重結合の選択的水素添加の一例は、混合物中に存在するビニルアセチレンの水素添加による1,3−ブタジエンの精製工程である。選択的水素添加のさらに別の例は、ニトロベンゼンからアニリンへの反応である。
【0021】
アルキンは好ましいエチン(アセチレン)であり、これは、本発明の最も好ましい実施形態である。本発明の選択的水素添加のための方法により、エチンは優勢的にエテン(エチレン)に転化され、一方、エタンを生じるためのエテンの水素添加は取るに足りない量である。これは、エチンがエチンと関連して過剰量のエテンと混合状態で存在する反応条件化でエチンの選択的水素添加が実行される場合、等しくそのようであり、本発明による選択的エチン水素添加の特に好ましい実施形態である。最も好ましくは、エテンは、エチンに比して大過剰量で水素添加されるべき反応混合物中に存在する。本発明の選択的エチ
ン水素添加の出発混合物中のエチン対エテン重量比は、好ましくは1:10〜1:106、さらに好ましくは1:50〜1:103である。工業的プロセスにおいて、選択的水素添加後に得られる混合物中のエテン対エチン重量比は、典型的には>106という大きさである。
【0022】
過剰量のスチレン中でのスチレンへのフェニルアセチレンの選択的水素添加は、選択的水素添加の別の例である。理解されるように、その反応は、ポリエチレンの調製のために用いられる供給材料中の過剰量のエチレン中の選択アセチレン水素添加のポリスチレン同等物である。
【0023】
本明細書中で用いる場合、「規則化金属間化合物」という用語は、2つ以上の金属から成り、規則化結晶構造を有する化合物を指す。本発明の明細書の目的のために、ホウ素(B)、シリコン(Si)及び砒素(As)は、それらが金属間化合物を形成し得るため、「金属」とみなされる。規則化結晶構造中では、実質的にすべての単位セルは金属原子の同一配列を含む。
【0024】
本発明に用いるための触媒は、非担持又は担持触媒であり得る。それが非担持触媒である場合、規則化金属間化合物は、触媒の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも99%を作り上げ得る。100%にするための残余は、例えば非規則化金属間化合物の容積からなり、これは例えば規則化金属間化合物の調製方法のためであり得る。最も好ましくは、本発明の選択的水素添加方法に用いるための触媒は、完全に規則化金属間化合物から成る。
【0025】
実在結晶において通常は完全には回避され得ない欠陥が、規則化金属間化合物中に存在し得る、と理解される。このような欠陥により、規則化金属間化合物中の少数の単位セルが大多数の単位セルとは異なる金属原子配列を有することになり得る。欠陥の種類としては、例えば空孔、間隙、原子置換及びアンチサイト欠陥が挙げられる。
【0026】
欠陥の存在のための結晶不完全性は、一定均質性範囲の規則化金属間化合物をもたらす。しかしながら本発明の明細書中で用いられる式は、理想的結晶構造を指す。上記から理解されるように、式に用いられるような規則化金属間化合物を形成する金属の化学量論的比は、変化して上下し得る。一例を示すために、二元性規則化金属間化合物が一般式Axyにより表わされる場合には、x及びyは、独立して、1又はそれ以上の整数であり得る。本発明の明細書において、AB(即ち、x=y=1)及びA37は、構成金属の一定の化学量論比を有する規則化金属間化合物(例えばPdGa及びPd3Ga7)を表わす。上記の均質性範囲を考慮すると、x及びyの値は、式で示される全数よりわずかに大きいか又はわずかに小さいことがある。例えばAB(即ち、x=y=1)の場合、例えばPdGaでは、x又はyの実際値は、約0.9〜1.1であり得る。
【0027】
本発明の規則化金属間化合物は、種々の化学量論比を有し得る。好ましくは規則化金属間化合物は、二元性化合物、即ち2つの種類の金属を含むものであるが、しかしそれらは三元性又は多元性金属間化合物でもあり得る。本発明で用いるための三元性規則化金属間化合物の一例は、Pd2PtGa3である。
【0028】
本発明の意図内の規則化金属間化合物は、金属合金及び金属固体溶液と区別されるべきものである。合金及び固体溶液は、上記のような規則化原子構造を有さない。金属原子は、合金及び固体溶液の単位セル中に無作為に配列される。
【0029】
規則化金属間化合物はさらにまた、一般的には、合金及び固体溶液と比較して、より安定した原子配列を有する。これは、反応条件下で触媒の寿命増強を生じる。合金及び固体
溶液中では、原子は触媒性能の関連低減に伴って移動する傾向がある。
【0030】
本発明によるプロセスで用いるための規則化金属間化合物は、水素を活性化し得るA型の少なくとも1つの金属、及び水素を活性化し得ないB型の少なくとも1つの金属を含み、そして規則化金属間化合物の構造は、A型金属の少なくとも1つの種類、好ましくは全てのA型金属がB型金属の原子により主に取り囲まれるようなものである。この情況では、「主に」という用語は、1つ又は複数のA型金属原子も存在する第一配位球体において金属間化合物の結晶構造中のA型のいくつかの金属が存在し得るように、原子置換のための欠陥が存在し得る、という事実を説明する。A型金属のうちの少なくとも1つの種類の第一配位球体の少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは約100%がB型金属の原子により占められる場合に、主に取り囲まれているという上記の要件が満たされる。A型金属原子(Pd)が主に、より特定的にはB型金属原子(Ga)により専ら取り囲まれるという上記情況は、図1aではPdGaに関して、そして図1bではPd3Ga7に関して例証される。A型金属原子がB型金属原子により完全に取り囲まれる、即ちA型金属の少なくとも1つの種類の第一配位球体の約100%がB型金属の原子により占められる本発明のプロセスに用いるための規則化金属間化合物の実施形態は、しかしながら、欠陥の存在を排除しない。規則化金属間化合物の構造がA型金属の少なくとも1つの種類、好ましくはすべてのA型金属がB型金属の原子により主に取り囲まれるようなものである特徴は、A型金属の原子がB型金属の原子に対して優勢に配位される、即ち、B型金属の少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは約100%配位される、ということを示す。
【0031】
A及びB型の金属のモル比(A:B)は、20:1〜1:20であり得る。典型的には、それは2:1〜1:20、好ましくは1:1〜1:20、さらに好ましくは1:1〜1:5である。A型の金属は、これが水素を活性化し得る限り、種類を限定されない。しかしながらCr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag及びAuが好ましい。Cr、Mo、W、Fe、Co、Rh、Ni、Pd及びPtがより好ましい。B型の金属も特に限定されない。好ましい実施形態によれば、これらの金属は、B、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Zn、Cd及びHg、即ち、周期表の12、13、14及び15族から成る群から選択される。好ましい実施形態によれば、B型金属のような例えば周期表の12、13、14及び15族の言及された金属は、パラジウム及び/又は白金及び/又は別のA型金属と組合せて、規則化金属間化合物(さらに好ましくは二元性規則化金属間化合物である)を形成する。
【0032】
本発明のプロセスに用いるための金属間化合物は、さらに好ましくは、B、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn及びZnのうちの少なくとも1つを伴うPdの金属間化合物、Al、Ga、In、Tl、Sn及びZnのうちの少なくとも1つを伴うPtの金属間化合物、そしてAl、Ga、In、Tl及びSnのうちの少なくとも1つを伴う金属間Pd/Pt化合物、例えばPd2PtGa3から選択される。好ましくは規則化金属間化合物は、B、Al、Si、Ge、Zn又はGaと組合せたPdの二元性化合物であり、さらに好ましくはそれは、Ge、Zn又はGaと組合せたPdの二元性化合物である。さらにより好ましい実施形態によれば、本発明のプロセスに用いるための規則化金属間化合物は、規則化二元性Pd−Ga金属間化合物である。別の好ましい実施形態によれば、規則化金属間化合物は、Znと組合せたPtの二元性化合物である。上記の金属間化合物、特にPdを含む規則化二元性金属間化合物は、好ましくは炭素−炭素多重結合の選択的水素添加、特に炭素−炭素三重結合の選択的水素添加に用いて、対応するアルケンを得る。水素添加されるべき化合物は、好ましくは、炭素−炭素三重結合(単数又は複数)以外の水素添加に応じ得る任意の不飽和基を含有しない。
【0033】
本発明の選択的水素添加方法に用いられるべき特定の規則化金属間化合物は、好ましくはPd2Ga、PdGa、PdGa5、Pd3Ga7、PdSn、PdSn2、Pd2Ge、PdZn、PtGa又はPtZnであり;さらに好ましくはPdGa、Pd2Ga、PdGa5又はPd3Ga7であり;最も好ましくはPdGa、Pd2Ga又はPd3Ga7である。これら特定の金属間化合物は、任意の不飽和炭化水素の選択的水素添加、特に以下の反応に用いられ得る:(シクロ)アルカジエン→(シクロ)アルケン及びアルキン→アルケン(特に、エチン→エテン)。
【0034】
本発明の選択的水素添加方法の特に好ましい一実施形態では、少なくとも1つの不飽和炭化水素化合物はエチン(アセチレン)であり、そして金属間化合物は規則化二元性Pd−Ga金属間化合物、好ましくはPdGa又はPd3Ga7である。さらに好ましくは、エテンへのエチンの選択的水素添加は、エチン出発物質が、エテン(エテンはエチンに比して大過剰量で存在している)との混合状態で存在する反応条件下で上記の規則化金属間化合物を用いて実行される。
【0035】
意外にも、請求項1で言及されるような金属間化合物は選択的水素添加において、所望の生成物に対する選択度に関して、例えば従来技術の担持単量体触媒、例えば担持パラジウム触媒、白金触媒及びロジウム触媒を上回る、そして合金化又は促進化パラジウム触媒を上回る別個の利点を提供する、ということが本発明により見出された。理論に縛られずに考えると、選択度増強は、水素添加されるべき不飽和炭化水素化合物の一定の吸着幾何学配置のみを可能にする活性部位の限定構造によるものである、と推測される。規則化金属間化合物の構造中のA型の少なくとも1つの金属の原子、好ましくはすべてのA型原子は、B型原子により主に取り囲まれ、A型金属の個々の原子が単離される。これは活性化水素の過剰供給を回避するためと考えられ、そして選択度増強をもたらす。A型原子の単離により、反応体のいくつかの吸着幾何学配置のみが可能である。
【0036】
別の態様によれば、本発明は、本発明の水素添加方法と一緒に上記のような規則化金属間化合物を含む担持触媒に関する。
【0037】
触媒スクリーニング方法を用いて、規則化金属間化合物が特定の型の(選択的)水素添加を触媒するのに十分に適しているか否かを容易に確定し得る。適切なスクリーニング方法は、A. Hagemeyer, A. Strasser, P. Volpe, F. Anthony, High-throughput screening
in heterogeneous catalysis: Technologies, strategies and applications, Wiley-VCh, Weinheim, 2004に記載されている。
【0038】
水素添加触媒作用の技術分野における当業者は、或る種の選択的水素添加反応に関する反応パラメーターを容易に選択し、最適化する。例えば工業的選択的水素添加の温度範囲は、典型的には、10℃〜300℃、好ましくは20℃〜250℃、最も好ましくは30℃〜200℃である。圧力は一般的には、1bar〜100bar、好ましくは2bar〜75bar、最も好ましくは5bar〜50barである。さらなる詳細に関しては、国際公開第WO03/106020号を参照されたい。
【0039】
本発明者らは、特にエチレンへのアセチレンの選択的水素添加において、パラジウム及びガリウムを含む二元性規則化金属間化合物が特に有用な選択的水素添加触媒である、ということを見出した。したがって本発明は、別の態様において、触媒としての二元性Pd−Ga規則化金属間化合物の使用に向けられる。本発明者らは、この型の規則化金属間化合物が、触媒作用、特に選択的水素添加の分野において、特別な利点を提供する、ということを本発明は見出した。電気陰性度のそれらの比率(Pd:1.4;Ga:1.8)により、パラジウムは金属状態で保持されるが、しかし同時に、十分な強度を有する共有Pd−Ga結合が形成され得る。これらの電子的因子は、二元性Pd−Ga規則化金属間化
合物の高い構造安定性をもたらす、と考えられる。さらに、共有結合は、水素化物形成を抑制するか又は防止すると思われる。これは、選択度を低減する可能性のある活性水素の過剰供給を回避する。
【0040】
上記の理由のために、二元性Pd−Ga規則化金属間化合物は、それらの優れた選択性及び安定性のため、優れた水素添加触媒(特に選択的水素添加反応において)であることが判明した。当然のことながら、それらの突出した安定性のため、それらはさらなる型の反応のための触媒としての有望な候補でもある。
【0041】
本発明の規則化金属内化合物中のPd及びGaの化学量論比は、20:1〜1:20の範囲であり得る。Pd:Ga範囲は、好ましくは2:1〜1:20、さらに好ましくは1:1〜1:5である。二元性Pd−Ga規則化金属間化合物の例は、PdGa、PdGa5、Pd3Ga7、及びPd2Gaである。PdGa、Pd2Ga及びPd3Ga7が特に好ましい。これらの二元性Pd規則化金属間化合物、そしてPd2Ge及びPdZnも、例えばエチレンへのアセチレンの選択的水素添加において、供給物中のアセチレンが大過剰量のエチレンと混合されている場合でさえ、高選択的水素添加触媒であることが判明した。さらに、PdGa及びPd3Ga7は、種々の反応条件下で、例えば水素、種々の炭化水素、一酸化炭素及び酸素の反応性気体中で、特に典型的には工業的選択的水素添加において、例えば室温〜約500Kの温度で優れた構造安定性を有することを立証した。これは、概して、特に選択的水素添加のために、特に高選択度を有するエチレンを提供するための大過剰量のエチレンとの混合状態でのアセチレンの工業的水素添加のために、PdGa及びPd3Ga7(例えば非担持状態で)を非常に魅力的な触媒にさせる。
【0042】
本発明の方法に用いるための規則化金属間化合物は、例えば、金属間化合物を形成するのに適した量の構成金属を融解することにより製造され得る。熱処理に付される金属は、金属間化合物中のそれらのモル比に対応するモル比で存在する。好ましくは金属の融解は、不活性ガス雰囲気下で、例えばアルゴン及び窒素、好ましくはアルゴン雰囲気下で実行される。この製造方法は、固体状態化学における標準である。PdGa及びPd3Ga7の製造方法は、例えば本願の実施例、そしてさらに詳細には、R. Giedigkeit, Diploma thesis, Technische Universitaet Darmstadt (Germany), 1998(この記載内容は参照により本明細書中で援用される)に、記載されている。
【0043】
いくつかの規則化金属間化合物の調製は、例えばそれぞれの化合物が融解物から結晶化しないアニーリングステップを包含し得る。一例を挙げると、これは、調和融解挙動を示さないPd3Ga7に欠かせない。それぞれの金属間系の状態図を見れば、熱力学的に最も安定な修飾が形成されるように試料の熱力学的平衡を達成するためにアニーリングが必要な場合を、当業者は結論づける。アニーリングは、好ましくは、できるだけ大きな量の時間及び温度に関して実行される。
【0044】
上記のように、本発明のプロセスに用いるための規則化金属間化合物は、非担持触媒として、非合成形態で用いられ得る。この場合、比表面積(BET法、N2吸着、さらなる詳細に関しては、実施例を参照)は、典型的には、0.001m2/g〜0.1m2/gの範囲である。触媒の活性を増強するように触媒表面積を増大するために、規則化金属間化合物を細砕する(例えば粉砕する)ことが有益であることが分かった。例えば上記のような構成金属を融解することにより得られる規則化金属間化合物は、触媒活性の関連増大に伴って細砕され得る。規則化金属間化合物を細砕する(例えば粉砕する)ために用いられるべき手段は種類で限定されないし、そして、任意にアルゴン雰囲気中でのボールミル、スイングミル、低温ミル、遊星ミル等であり得る。代替形態では、規則化金属間化合物は、例えば粉砕器を用いて、手により粉砕され得る。上記の細砕処理は、典型的には0.05m2/g〜20m2/g、好ましくは0.1m2/g〜10m2/g、最も好ましくは0.
2m2/g〜5m2/gである規則化金属間化合物の比表面積を生じる。
【0045】
本発明の規則化金属間化合物の触媒活性を増大するために、それらの化合物が選択的水素添加における水素添加触媒として用いられる前に、それらの表面は表面エッチングに付され得る。表面エッチングは、細砕処理の前又は後に実行され得る;細砕処理後にエッチングを実行するのが好ましい。しかしながら規則化金属間化合物、例えば二元性Pd−Ga化合物は、好ましくは、エッチングしていない状態で触媒として用いられる。
【0046】
表面エッチングは、化学エッチングにより、例えばエッチングされるべき特定の規則化金属間化合物に応じて、アルカリ性エッチング溶液及び錯化アミン、例えばEDTA及び誘導体を用いることにより、達成され得る。有用なアルカリ性エッチング溶液は、例えば水酸化アルカリ水溶液(例えば水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム)、並びに水酸化アルカリ土類溶液、並びにアンモニア水溶液である。規則化金属間パラジウムガリウム化合物の場合、特にPdGa及びPd3Ga7の場合、8.0〜10.5の範囲のpHを有するアルカリ性エッチング溶液の使用は、優れた選択度及び触媒寿命を保持しながら、アセチレンの選択的水素添加において、より高い活性を示す水素添加触媒をもたらす。PdGaの場合は約9.0のpH、そしてPd3Ga7の場合は10.5のpHが、アセチレンの選択的水素添加における活性に関して最良の結果を生じる。
【0047】
規則化金属間化合物の触媒活性は表面エッチングにより増大され得るが、一方、例えばアセチレン反応における選択度は、エッチング時にわずかに低減され得る。エッチングしていない規則化金属間化合物の選択度を取り戻すために、パラジウム粒子の焼成を実行するための低温での焼き戻しが実行され得る。焼き戻しのための適切な温度は、50℃〜500℃、好ましくは80℃〜400℃、最も好ましくは100℃〜300℃である。
【0048】
本発明のプロセスに用いるための水素添加触媒の表面積は、沈殿方法、ゾル−ゲル化学及び不活性担体を用いることによっても増大され得る。
【0049】
別の態様によれば、本発明は、触媒としてのPdGa及びPd3Ga7の使用に関し、そして担体上に提供される請求項1に言及されるような規則化金属間化合物、又はこれらの混合物のいずれかを含む担持触媒に関する。担持触媒中の規則化金属間化合物の好ましい実施形態は、水素添加プロセスと結びつけて本明細書中に記載されるものと同一である。適切な担体は、触媒作用に一般に用いられるもの、例えば高表面積を有する化合物、例えば活性炭、アルミナ、シリカ、シリケート等である。
【0050】
以下の実施例は、本発明の例証のために示されるものであり、本発明を限定するものと解釈されるべきでない。
【0051】
[実施例]
触媒の調製
二元性パラジウムガリウム金属間化合物を、高周波誘導炉中で、アルゴン雰囲気下のガラス状炭素坩堝中で対応量のPd及びGaを融解することにより調製した。1.2083gのパラジウム(ChemPur(登録商標) 99.95%)及び0.7917gのガリウム(ChemPur(登録商標) 99.99%)を用いて、2gのPdGa(11.354 mmol)を得た。0.7909gのPd(7.432 mmol)及び1.2091gのGa(17.340 mmol)は、2gのPd3Ga7を生じた。Pd2Gaを、同様の方法で調製した。リニア−ポジション感知検出器による透過幾何形状並びに文献からの参照データとの比較において、STOE STADI P回析計(Cu Kα1放射線、湾曲Geモノクロメーター)を用いて、X線回析法により、得られた生成物の結晶構造を制御した。
【0052】
融解後、アルゴンを充填したシリカ管中に密封されたガラス状炭素坩堝中で673Kで800時間、Pd3Ga7をアニーリングした。真空排気すると共に密封した石英ガラスアンプル中で1073Kで170時間、Pd2Gaをアニーリングした。さらにアニーリングすることなく、PdGaを用いた。
【0053】
スイングミル(Retsch(登録商標) MM 200, 4 ml WC pot, 2 WC balls)中で、PdGaに関しては2×30分、Pd3Ga7に関しては2×10分、25Hzで、試料を粉末にした。粉砕器中での磨砕後に、又は2×30分間上記のスイングミルを用いてAr雰囲気中で微粉砕後に調製されたままのPd2Gaを用いた。
【0054】
高周波誘導炉中で、アルゴン雰囲気下のガラス状炭素坩堝中で対応する量のPd及びGeを融解することにより、Pd2Geを調製した。融解後、密封すると共に真空排気した石英ガラスアンプル中で1073Kで170時間、金属間化合物のインゴットをアニーリングした。
【0055】
真空排気した石英ガラスアンプル中での対応量の金属のアニーリングにより、PdZn及びPtZnを調製した。先ず、アンプルを873Kまで24時間加熱し、この温度でさらに24時間アニーリングした。次にアンプルを1173Kまで24時間加熱し、この温度で72時間アニーリングした。XRDによれば、PtZnはこのような温度処理の後は単一相であると思われたが、一方、PdZnはそうではなかった。したがって、PdZnを粉砕し、丸薬に圧縮し、さらに1173kで3日間アニーリングした。二次アニーリング後、単一相物質を得た。
【0056】
活性触媒表面を増大するために、種々のpHでのアンモニア溶液により、化学エッチングを実施した。市販のアンモニア溶液(Merck(登録商標), 25%p.a.)を、水で希釈して必要pH値とした。Knick pHメーター761Calimatic及び緩衝液(Merck centiPUR pH=7及びpH=9)で検量されるMettler−Toledo Inlab 422電極を用いて、pH測定を実施した。50mgのPdGa又はPd3Ga7を75mlの希釈アンモニア溶液に添加し、300Kで10分間撹拌した。溶液をアルゴン流下で濾過し、さらなる50mlの希釈アンモニア溶液で洗浄した。エッチングした試料をデシケーター中での120分間の真空排気により乾燥し、グローブボックス中でAr下で保存した。
【0057】
触媒の特性化
本発明の明細書では、BET方法(Quantachrome Quantasorb Jr.)に従って、金属間化合物の比表面積を測定した。ヘリウム流(20ml/分)中で393Kで一晩、試料(200mg)を処理し、そして3つの異なる窒素濃度を用いて、吸着された窒素の総量を確定することにより測定を実施した。
【0058】
二次モノクロメーター、シンチレーション・カウンター及びゴニオメーター上に載せられたBuehler製のHDK高温回析チャンバを装備したBragg Brentano幾何学配置でのSTOE回析計(Cu−Kα)で、in situX線回析(XRD)実験を実行した。Bronkhorst製の質量流制御装置によりガスを混合し、100ml/分の総流速で実験チャンバ中に導入した。質量分光分析計(QMS 200, Pfeiffer)で、排気ガス組成を継続的にモニタリングした。in situ実験のために、通常は50mgの試料をスチール・バンド上に分散させた。
【0059】
ヘリウム、He中20%酸素又はヘリウム中50%H2中で、PdGa及びPd3Ga7の熱安定性を試験した。0.02のステップ幅及び3秒/ステップの計数時間で、それぞ
れ35.5°〜48.5°及び22.5°〜52.5°の2θ範囲で、PdGa及びPd3Ga7に関するin situXRDパターンを測定した。PdGa及びPd3Ga7をそれぞれ323Kから723Kに、及び323Kから693Kに加熱し、そして50K毎に等温度で、XRDパターンを測定した。有効加熱率は、合計0.5K/分となった。
【0060】
PdGa及びPd3Ga7はともに、選択的水素添加のために一般に用いられる温度で、種々の反応ガス雰囲気中で、上記の熱処理時に顕著な安定性及び構造完全性を示した。これは、例えばin situX線回析(上記のような)により、並びに重量分析(TG及びDSC)により実証され得た。323K〜723Kでヘリウム中の50%水素中での熱処理中に測定される代表的XRDパターンを、図2に示す。図から分かるように、Pd金属、PdO又はGa23に対応する付加的回析線は検出されなかった。回析線がだんだん細くなっているのが観察されたが、これは、PdGa物質の結晶成長を示す。しかしながら選択的水素添加のために用いられる典型的温度である500Kまでは、結晶成長は小さい。
【0061】
触媒的測定
長さ300mm、内径7mmの石英管から成り、触媒床を支持するための焼成ガラスフリットを装備したプラグ流反応器で、触媒調査を実施した。温度制御のために、反応器の周囲に巻かれた電熱線のすぐ後に、熱電対を置いた。触媒床の温度を測定するために、二次熱電対を反応器の内側に配置した。反応体ガスを、Bronkhorst製の質量流制御装置(総流速30ml/分)で混合した。流出ガス分析のために、Varian CP 4900
Microガスクロマトグラフ(GC)及びPfeiffer omnistar quadropol質量分光分析計(MS)を用いた。Varian MicroGCは3つのモジュールを含有し、これは各々、個々のカラム及び熱伝導性検出器を有する。供給ガスの水素及びヘリウム、並びに組立における漏出のための考え得る酸素不純物及び窒素不純物を、分子篩カラム上で分離した。アセチレン、エチレン及びエタンを、アルミナカラム上で分離した。C4炭化水素(1−ブテン、1,3−ブタジエン、n−ブタン、トランス及びシス−2−ブテン)の総濃度を、シロキサン(ジメチルポリシロキサン)カラムを用いて確定した。高級炭化水素もシロキサンカラム上で分離したが、しかし多数の異なるC6及びC8炭化水素、並びにそれらの低総濃度(0.1%未満の絶対生成物流濃度)のため、さらに定量しなかった。分子篩カラムに関する、及びその他のカラムに関するキャリアガスとして、それぞれアルゴン(6.0)及びヘリウム(6.0)を用いた。安定化、サンプリング、注入及び分離を含めた測定サイクルを、4分〜5分の間に実行した。
【0062】
ヘリウム中の0.5%アセチレン、5%水素及び50%エチレンの条件下で、アセチレン水素添加実験を実行した。ガスはすべて、Westfalen Gas(Germany)から入手した。
【0063】
温度プログラム実験により、並びに恒温実験により、アセチレンの水素添加における材料の活性及び選択度を測定した。恒温方式で473Kで、実験を実施した。以下の方程式を用いて転化率を算定した:
【0064】
【数1】

【0065】
(式中、Cxは生成物流中のアセチレン濃度であり、そしてCbypassは反応前の供給物中のアセチレン濃度である)。以下の方程式(式中、Cbypassは反応器前のアセチレン濃度であり、Cxは反応器後のアセチレン濃度である)から、選択度を算定した:
【0066】
【数2】

【0067】
選択度の算定は、アセチレンは水素添加されてエチレン(これはさらに水素添加されてエタンになる)になるだけである、ということを推定する。生成されるC4炭化水素及び炭素沈着物の量は、無視できると仮定した。エタンへのアセチレンの水素添加のほかに、供給物からのエチレンは、水素添加されてエタンとなり、これは、選択度の方程式に含まれている。同一転化率でアセチレン水素添加における選択度を測定するために、前の実験で確定されたそれらの特定の活性に従って、異なる量の触媒を用いた。
【0068】
以下の方程式を用いて、試料の活性を算定した:
【0069】
【数3】

【0070】
(式中、Convは算定アセチレン転化率であり、Cfeedは供給物中のアセチレンの濃度
、即ち0.5%であり、mcatは使用触媒の量(g)であり、そして定数Cexpは1.904 g/hであり、実験パラメーター、例えば総ガス流量(30ml)、温度(300K)及び圧力(1013 mbar)を含有し、そして完全ガスモデルに基づいている)。
【0071】
試料を、50mgの窒化ホウ素(六方晶系、99.5%、325メッシュ、Aldrich)で希釈した。市販のアルミナ触媒上Pd(5重量%Pd、Aldrich)を、参照として用いた。さらに、非担持パラジウム銀合金を、水準点触媒として用いた。アルゴン下で電孤溶融装置中で3回、元素1.20405gのAg(99.995g ChemPur)及び0.30348gのPd(99.95g ChemPur)の対応する物理的混合物を融解することにより、Pd−Ag合金(Pd20.28Ag79.72、以下においてはPd20Ag80と呼ばれる)を調製した。その後、得られたレグルスを真空排気石英ガラスアンプル中に封入し、800℃で6日間加熱した。熱処理後、レグルスを粉末にして、得られたPd−Ag合金の相精製をX線粉末回析により確証した。
【0072】
Pd2Ge、PdZn及びPtZnの場合、金属間化合物を乳鉢中で磨砕し、90%より多くの転化率に達するように触媒の量を調整した。
【0073】
[実施例1及び実施例2、比較例1及び比較例2]
アセチレン水素添加における非処理Pd−Ga金属間化合物(PdGa(実施例1)及びPd3Ga7(実施例2))の活性、選択度及び長期安定性を過剰量のエチレン中で確定し(0.5%C22+5%H2+50%C24)、Pd/Al23(比較例1)及びPd20Ag80合金(比較例2)の触媒性能と比較した。
【0074】
ヘリウム中の非処理金属間化合物及び参照材料(PdGa:40mg、Pd3Ga7:100mg、Pd/Al23:0.15mg及びPd20Ag80:200mg)を473Kの反応温度に加熱し、その後、エチレン濃縮供給物に切り替えることにより、恒温触媒実験を実施した。
【0075】
アセチレン転化率並びに得られた対応する選択度を、図3a及び図3bにプロットする。20時間の間、Pd3Ga7流に関する時間は、99%の一定アセチレン転化率を示した。PdGaは、流れに関する時間で2時間後に約90%の一定アセチレン転化率に達した。Pd20Ag80は、85%のほぼ一定の転化率レベルを示したが、一方、Pd/Al23は流れに関する時間で20時間の間、100%から40%転化率への強い不活性化を示した。アセチレンの高転化率のほかに、非処理金属間化合物PdGa及びPd3Ga7は、Pd20Ag80の50%選択度、並びにPd/Al23の20%に過ぎない選択度と比較して、約70%の高い長期安定選択度を保有した(表1(「エッチング溶液のpH」の欄には「−」を示す行あり)も参照)。
【0076】
[実施例3及び実施例4]
ヘリウム中の化学エッチングした(アンモニア水溶液による)金属間化合物を473Kの反応温度に加熱し、その後、エチレン濃縮供給物に切り替えることにより、恒温触媒実験を実施した。以下の表1に結果を示すが、これは、上記の(比較)実施例1及び実施例2に関して得られたデータも含む。
【0077】
【表1】

【0078】
pH9.0でのPdGa(m=5mg)の化学エッチングは、流れに関する時間で20時間後に93%のアセチレン転化率及び64%の選択度を生じた。これは、非処理PdGa(m=40mg)と比較して、8倍高い活性に相当する。
【0079】
化学エッチングしたPd3Ga7も、アセチレン水素添加における活性増大を示した。pH10.5でエッチングした7mgのPd3Ga7は、100mgの非処理Pd3Ga7と同様のアセチレン転化率に達するのに十分であった。
【0080】
上記は、慣用的水素添加触媒より優れた選択度を保持しながら、選択的アセチレン水素添加におけるPdGa及びPd3Ga7の活性が化学的エッチングにより増大され得る、ということを示す。
【0081】
[実施例5及び実施例6、比較例3]
過剰量のエチレンを伴うアセチレン水素添加(0.5%C22+5%H2+50%C24)において、乳鉢中で磨砕後(実施例5)、並びに微粉砕後(実施例6)の調製したままの形態のPd2Ga金属間化合物の活性、選択度及び長期安定性を確定し、Pd/Al23(比較例3)の触媒性能と比較した。
【0082】
ヘリウム中の金属間Pd2Ga化合物及び参照材料(調製されたままのPd2Ga:10mg;スイングミルを用いて微粉砕されたPd2Ga:0.8mg;Pd/Al23:0.1mg)を473Kの反応温度に加熱し、その後、エチレン濃縮供給物に切り替えることにより、恒温触媒実験を実施した。
【0083】
図4a及び図4bは、上記の実験で得られたアセチレン転化率及び対応する選択度を示す。図から分かるように、Pd2Gaは、優れた活性、安定性及び選択性を示す。
【0084】
流れに関する時間で20時間後の触媒結果を、以下の表にまとめる。表から分かるように、Pd2Gaの活性は、高選択度を保持しながら、比表面積を増大するために、微粉砕(実施例6では、微粉砕Pd2Gaは0.8mgしか用いなかったことに留意)することにより、有意に増大され得る。
【0085】
【表2】

【0086】
[実施例7及び実施例8]
473Kで、過剰量のエチレンの存在下で、アセチレンの水素添加において規則化金属間化合物としてPd2Ge(0.5mg)及びPdZn(100mg)を用いて、触媒実験を実行した。実施例1及び実施例2と同様に、恒温触媒作用実験を実施した。結果を、図5a及び図5bに示す。
【0087】
図から分かるように、0.5mgだけの量で実施例7に用いられるPd2Geは、高度に活性である。さらに、Pd2Ge及びPdZnは、大過剰量のエチレンの存在下で、エチレンへのアセチレンの転化において、高選択度を示す。
【0088】
[実施例9]
触媒として100mgのPtZn規則化金属間化合物を用いて、473Kで、過剰量のエチレンの存在下で、アセチレンを水素添加した。実施例1及び実施例2と同様に、恒温触媒作用実験を実施した。図6に示したように、高転化率で所望のエチレンの高選択度が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1a】PdGa中のPd原子の配位を示す図である。
【図1b】Pd3Ga7中のPd原子の配位を示す図である。
【図2】323Kから723Kまでのヘリウム中の50%水素でのPdGaの熱処理中に測定されたin situXRDパターンの発生を示す図である。
【図3a】473Kでの過剰量のエチレンと混合しているアセチレンの水素添加におけるPdGa(40mg)、Pd3Ga7(100mg)、Pd/Al23(0.15mg)及びPd20Ag80(200mg)の転化率を示す図である。
【図3b】473Kでの過剰量のエチレンと混合しているアセチレンの水素添加におけるPdGa(40mg)、Pd3Ga7(100mg)、Pd/Al23(0.15mg)及びPd20Ag80(200mg)の選択度を示す図である。
【図4a】473Kでの過剰量のエチレンと混合しているアセチレンの水素添加における調製されたままのPd2Ga(10mg)、アルゴン中で粉砕されたPd2Ga(0.8mg)及びPd/Al23(0.1mg)の転化率を示す図である。
【図4b】473Kでの過剰量のエチレンと混合しているアセチレンの水素添加における調製されたままのPd2Ga(10mg)、アルゴン中で粉砕されたPd2Ga(0.8mg)及びPd/Al23(0.1mg)の選択度を示す図である。
【図5a】473Kでの過剰量のエチレンと混合しているアセチレンの水素添加におけるPd2Ge(0.5mg)及びPdZn(100mg)の転化率を示す図である。
【図5b】473Kでの過剰量のエチレンと混合しているアセチレンの水素添加におけるPd2Ge(0.5mg)及びPdZn(100mg)の選択度を示す図である。
【図6】触媒としてPtZnを用いて473Kで過剰量のエチレンの存在下でエチレンを生じるためのアセチレンの水素添加の転化率及び選択度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
規則化金属間化合物を含む水素添加触媒を用いる、少なくとも1種の不飽和炭化水素化合物への水素添加の方法であって、
該金属間化合物が、水素を活性化し得る少なくとも1種のA型金属、及び水素を活性化し得ない少なくとも1種のB型金属を含み、
そして該金属間化合物の構造が少なくとも1つの種類のA型金属が主にB型金属の原子により取り囲まれるようなものである、方法。
【請求項2】
前記水素添加が選択的水素添加である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
不飽和炭化水素化合物が、1つ又は複数の炭素−炭素二重及び/又は三重結合を有するが、他の水素添加可能な基を有さない、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
不飽和炭化水素化合物がアルカジエン、シクロアルカジエン、アルキン及びアリールから成る群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
不飽和炭化水素が選択的水素添加によりエテンに転化されるエチンである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
エチンが過剰量のエテンと混合状態で存在する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
規則化金属間化合物の前記構造が、A型金属の少なくとも1つの種類の一次配位圏の少なくとも80%がB型金属の原子により占められるようなものである、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
A型金属の少なくとも1つの種類の一次配位圏の100%がB型金属の原子により占められる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
A型金属がCr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag及びAuから成る群から選択される、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
B型金属がB、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Zn、Cd及びHgから成る群から選択される、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
A型金属及びB型金属のモル比(A:B)が20:1〜1:20である、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
金属間化合物がPd2Ga、PdGa、PdGa5、Pd3Ga7、PdSn、PdSn2、Pd2Ge、PdZn、PtZn及びPtGaから成る群から選択される、請求項1ないし11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
金属間化合物がPdGa、Pd2Ga又はPd3Ga7である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
金属間化合物が選択的水素添加における水素添加触媒としての使用の前に表面エッチングに付される、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
エッチングがアルカリ性エッチング溶液を用いて実行される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
金属間化合物がPdGa又はPd3Ga7であり、そして前記アルカリ性エッチング溶液のpHが8.0〜10.5の範囲である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
金属間化合物が選択的水素添加における水素添加触媒としての使用の前に微粉砕される、請求項1ないし16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
触媒としての二元性Pd−Ga規則化金属間化合物の使用。
【請求項19】
規則化金属間化合物中のPd及びGaのモル比が20:1〜1:20である、請求項18記載の使用。
【請求項20】
規則化金属間化合物がPdGa又はPd3Ga7である、請求項18又は19記載の使用。
【請求項21】
担体及びその上に担持される規則化金属間化合物を含む触媒であって、該金属間化合物が水素を活性化し得る少なくとも1種のA型金属、及び水素を活性化し得ない少なくとも1種のB型金属を含み、そして該金属間化合物の前記構造が少なくとも1つの種類のA型金属がB型金属の原子により主に取り囲まれるようなものである、触媒。
【請求項22】
規則化金属間化合物が二元性Pd−Ga規則化金属間化合物である、請求項21記載の触媒。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−529560(P2009−529560A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558727(P2008−558727)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際出願番号】PCT/EP2007/002325
【国際公開番号】WO2007/104569
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(505119966)マックス−プランク−ゲゼルシャフト ツール フェルデルング デア ヴィッセンシャフテン エー. ファオ. (3)
【氏名又は名称原語表記】MAX−PLANCK−GESELLSCHAFT ZUR FOERDERUNG DER WISSENSCHAFTEN E.V.
【Fターム(参考)】