説明

親水化剤、その製造方法およびその用途

【課題】 酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを含有するものでありながら、粒子の凝集が抑制されて固液分離を起こしにくい親水化剤を提供する。
【解決手段】 本発明の親水化剤は、酸化チタン粒子、酸化タングステン粒子、リン酸(塩)および分散媒を含み、前記リン酸(塩)の含有量が、前記酸化チタン粒子に対して0.001〜0.2モル倍である。かかる親水化剤の製造方法は、リン酸(塩)を溶解させた分散媒中に酸化チタン粒子を分散させ、得られた酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子とを混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の有無に拘わらず高い親水作用を示す膜を簡便に形成しうる親水化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、酸化チタン等の光触媒成分が発揮する光触媒作用を利用して各種材料の表面を親水化する方法が注目されており、酸化チタンを光触媒成分とする方法で使用しうる酸化チタン粒子の単独分散液については市販もされている。
さらに、近年では、光触媒成分として酸化チタンとともに酸化タングステンを併用する技術が提案されている。具体的には、基材表面に酸化チタン粒子の層を形成した後、その上にタングステン酸含有溶液を塗布して固化させることにより親水性膜を形成するか、もしくは、酸化チタン粒子とタングステン酸とを含む溶液を用いて基材表面を被覆した後、固化させることにより親水性膜を形成する方法(特許文献1)や、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを分散媒中に分散させたものである酸化タングステン含有酸化チタンゾルを用いて、基材表面に親水性膜を形成する方法(特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−114545号公報
【特許文献2】特開2005−231935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術によれば、タングステン酸を酸化タングステンとするのに高温度で焼成する必要があり、加えて、酸化チタン粒子の層を形成した後、酸化タングステンからなる層を形成する場合には、少なくとも二工程以上を要することになるため、基材表面に対する成膜工程が煩雑であるという問題があった。
【0005】
他方、特許文献2記載の技術によれば、基材表面に対して一工程で膜を形成することができるものの、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とは互いに凝集し易い傾向があるため、ここで用いられるゾルは、例えば輸送や保管時に固液分離してしまうことがあった。固液分離が生じると、均一に塗布することができないので膜形成自体が困難になり、また、たとえ膜を形成できたとしても、膜中の酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とが偏って存在することになるため、充分な親水性を発現させることができない、といった問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明の課題は、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを含有するものでありながら、粒子の凝集が抑制されて固液分離を起こしにくい親水化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた。その結果、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子を分散媒中に分散させた分散液において、酸化チタン粒子に対して特定量のリン酸(塩)を共存させると、粒子の凝集が抑制されることを見出した。さらに、その際、リン酸(塩)は酸化チタン粒子近傍に存在させることが、粒子の凝集を抑制するうえで有効であり、そのように酸化チタン粒子近傍にリン酸(塩)が存在する分散液を得るには、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との混合に先立ち、リン酸(塩)溶液中に酸化チタン粒子を分散させておけばよいことを見出した。本発明は、これらの知見に基づき完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明の親水化剤は、酸化チタン粒子、酸化タングステン粒子、リン酸(塩)および分散媒を含み、前記リン酸(塩)の含有量が、前記酸化チタン粒子に対して0.001〜0.2モル倍であることを特徴とする。
本発明の親水化剤の製造方法は、リン酸(塩)を溶解させた分散媒中に酸化チタン粒子を分散させ、得られた酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子とを混合することを特徴とする。
本発明の親水機能製品は、表面に親水性膜を備える親水機能製品であって、前記親水性膜が本発明の親水化剤を用いて形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを含有するものでありながら、粒子の凝集が抑制されて固液分離を起こしにくい親水化剤を提供することができる。そして、この親水化剤を用いれば、光の有無に拘わらず(例えば、遮光下や、紫外線を含まない可視光線の照射下などにおいても)、高い親水作用を示す膜を簡便に形成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で用いた光照射装置を説明するための概略図である。
【図2】実施例1、実施例2および比較例2で得られた親水化剤の条件(1)における親水性評価の結果を示すグラフである。
【図3】実施例1、実施例2および比較例2で得られた親水化剤の条件(2)における親水性評価の結果を示すグラフである。
【図4】実施例1、実施例2および比較例2で得られた親水化剤の条件(3)における親水性評価の結果を示すグラフである。
【図5】実施例1、実施例2および比較例2で得られた親水化剤の条件(4)における親水性評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(親水化剤)
本発明の親水化剤は、酸化チタン粒子、酸化タングステン粒子、リン酸(塩)および分散媒を含むものである。つまり、本発明の親水化剤は、親水化作用を示す酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子が、リン酸(塩)の存在下で分散媒中に分散したものである。このとき、酸化チタン粒子近傍に存在しているリン酸(塩)は、酸化チタン粒子の表面に吸着した状態になる。この状態の酸化チタン粒子が酸化タングステン粒子と凝集しにくいため、本発明の親水化剤は、粒子の凝集が抑制されたものとなるのである。なお、リン酸(塩)が酸化チタン粒子近傍に存在した親水化剤は、例えば、後述する本発明の親水化剤の製造方法により容易に得られる。
【0012】
本発明の親水化剤を構成する酸化チタン粒子は、親水化作用を示す粒子状の酸化チタンであれば、特に制限はされないが、例えば、メタチタン酸粒子、結晶型がアナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型などである二酸化チタン〔TiO2〕粒子等が挙げられる。なお、酸化チタン粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
メタチタン酸粒子は、例えば、硫酸チタニルの水溶液を加熱して加水分解させる方法により得ることができる。
二酸化チタン粒子は、例えば、(i)硫酸チタニルまたは塩化チタンの水溶液を加熱することなく、これに塩基を加えることにより沈殿物を得、得られた沈殿物を焼成する方法、(ii)チタンアルコキシドに水、酸の水溶液または塩基の水溶液を加えて沈殿物を得、得られた沈殿物を焼成する方法、(iii)メタチタン酸を焼成する方法、などによって得ることができる。これらの方法で得られる二酸化チタン粒子は、焼成する際の焼成温度や焼成時間を調整することにより、アナターゼ型、ブルッカイト型またはルチル型など、所望の結晶型にすることができる。
【0014】
また、本発明の親水化剤を構成する酸化チタン粒子は、チタン化合物と塩基とを反応させ、得られた生成物にアンモニアを添加し、熟成した後、固液分離し、固形分を焼成する方法などでも得られる。この方法では、チタン化合物として、例えば、三塩化チタン〔TiCl3〕、四塩化チタン〔TiCl4〕、硫酸チタン〔Ti(SO42・mH2O、0≦m≦20〕、オキシ硫酸チタン〔TiOSO4・nH2O、0≦n≦20〕、オキシ塩化チタン〔TiOCl2〕等を用いることができる。チタン化合物と反応させる塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、モノエタノールアミン、非環式アミン化合物、環式脂肪族アミン化合物等を用いることができる。
【0015】
本発明の親水化剤を構成する酸化チタン粒子としては、上記の他にも、特開2001−72419号公報、特開2001−190953号公報、特開2001−316116号公報、特開2001−322816号公報、特開2002−29749号公報、特開2002−97019号公報、WO01/10552パンフレット、特開2001−212457公報、特開2002−239395号公報)、WO03/080244パンフレット、WO02/053501パンフレット、特開2007−69093号公報、Chemistry Letters, Vol.32, No.2, P.196-197(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.4, P.364-365(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.8, P.772-773(2003)、Chem. Mater., 17, P.1548-1552(2005)等に記載の酸化チタン粒子を用いてもよい。また、特開2001−278625号公報、特開2001−278626号公報、特開2001−278627号公報、特開2001−302241号公報、特開2001−335321号公報、特開2001−354422号公報、特開2002−29750号公報、特開2002−47012号公報、特開2002−60221号公報、特開2002−193618号公報、特開2002−249319号公報などに記載の方法により得られる酸化チタン粒子を用いることもできる。
【0016】
前記酸化チタン粒子の粒子径は、特に制限されないが、親水化作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常20〜150nm、好ましくは40〜100nmである。
前記酸化チタン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、親水化作用の観点からは、通常100〜500m2/g、好ましくは300〜400m2/gである。
【0017】
本発明の親水化剤を構成する酸化タングステン粒子は、親水化作用を示す粒子状の酸化タングステンであれば、特に制限はされないが、例えば、三酸化タングステン〔WO3〕粒子等が挙げられる。なお、酸化タングステン粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
三酸化タングステン粒子は、例えば、(i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、得られたタングステン酸を焼成する方法、(ii)メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法、などによって得ることができる。
【0019】
前記酸化タングステン粒子の粒子径は、特に制限されないが、親水化作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常50〜200nm、好ましくは80〜130nmである。
前記酸化タングステン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、親水化作用の観点からは、通常5〜100m2/g、好ましくは20〜50m2/gである。
【0020】
本発明の親水化剤において、前記酸化チタン粒子と前記酸化タングステン粒子との比率(酸化チタン粒子:酸化タングステン粒子)は、質量比で、通常1:4〜4:1、好ましくは2:3〜3:2である。
【0021】
本発明の親水化剤を構成するリン酸(塩)としては、リン酸、もしくはそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、これらの中でも特に、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のリン酸アンモニウム塩が好ましい。なお、リン酸(塩)は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明の親水化剤においては、前記リン酸(塩)の含有量は、前記酸化チタン粒子に対して0.001〜0.2モル倍である。好ましくは、0.01モル倍以上、0.05モル倍以下である。リン酸(塩)の含有量が0.001モル倍未満であると、分散液中の粒子の凝集を充分に抑制することができず、一方、0.2モル倍を超えて用いても、その量に見合っただけのさらなる効果は得られないので、経済的に不利となる。
【0023】
本発明の親水化剤を構成する分散媒は、前記リン酸(塩)を溶解する溶媒であれば特に制限はなく、通常、水を主成分とする水性溶媒が用いられる。具体的には、分散媒は、水単独であってもよいし、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒であってもよい。水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いる場合には、水の含有量が50質量%以上であることが好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの水溶性アルコール溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。なお、分散媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記分散媒の含有量は、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の合計量に対して、通常5〜200質量倍、好ましくは10〜100質量倍である。分散媒が5質量倍未満であると、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子が沈降し易くなり、一方、200質量倍を超えると、容積効率の点で不利となるので、いずれも好ましくない。
【0025】
本発明の親水化剤は、電子吸引性物質またはその前駆体をも含有することが好ましい。電子吸引性物質とは、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の表面に担持されて電子吸引性を発揮しうる化合物であり、電子吸引性物質の前駆体とは、これら粒子の表面で電子吸引性物質に遷移しうる化合物(例えば、光照射により電子吸引性物質に還元されうる化合物)である。電子吸引性物質がこれらの表面に担持されて存在すると、光の照射により伝導帯に励起された電子と価電子帯に生成した正孔との再結合が抑制され、親水化作用をより高めることができる。
【0026】
前記電子吸引性物質またはその前駆体は、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoからなる群より選ばれる1種以上の金属原子を含有してなるものであることが好ましい。より好ましくは、Cu、Pt、AuおよびPdのうちの1種以上の金属原子を含有してなるものである。例えば、前記電子吸引性物質としては、前記金属原子からなる金属、もしくは、これらの金属の酸化物や水酸化物等が挙げられ、電子吸引性物質の前駆体としては、前記金属原子からなる金属の硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩等が挙げられる。
【0027】
電子吸引性物質の好ましい具体例としては、Cu、Pt、Au、Pd等の金属が挙げられる。また、電子吸引性物質の前駆体の好ましい具体例としては、Cuを含む前駆体として、硝酸銅〔Cu(NO3)2〕、硫酸銅〔CuSO4〕、塩化銅〔CuCl2、CuCl〕、臭化銅〔CuBr2、CuBr〕、沃化銅〔CuI〕、沃素酸銅〔CuI26〕、塩化アンモニウム銅〔Cu(NH4)2Cl4〕、オキシ塩化銅〔Cu2Cl(OH)3〕、酢酸銅〔CH3COOCu、(CH3COO)2Cu〕、蟻酸銅〔(HCOO)2Cu〕、炭酸銅〔CuCO3)、蓚酸銅〔CuC24〕、クエン酸銅〔Cu2647〕、リン酸銅〔CuPO4〕等が;Ptを含む前駆体として、塩化白金〔PtCl2、PtCl4〕、臭化白金〔PtBr2、PtBr4〕、沃化白金〔PtI2、PtI4〕、塩化白金カリウム〔K2(PtCl4)〕、ヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕、亜硫酸白金〔H3Pt(SO3)2OH〕、酸化白金〔PtO2〕、塩化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4Cl2〕、炭酸水素テトラアンミン白金〔C21446Pt〕、テトラアンミン白金リン酸水素〔Pt(NH3)4HPO4〕、水酸化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4(OH)2〕、硝酸テトラアンミン白金〔Pt(NO3)2(NH3)4〕、テトラアンミン白金テトラクロロ白金〔(Pt(NH3)4)(PtCl4)〕等が;Auを含む前駆体として、塩化金〔AuCl〕、臭化金〔AuBr〕、沃化金〔AuI〕、水酸化金〔Au(OH)2〕、テトラクロロ金酸〔HAuCl4〕、テトラクロロ金酸カリウム〔KAuCl4〕、テトラブロモ金酸カリウム〔KAuBr4〕、酸化金〔Au23〕等が;Pdを含む前駆体として、例えば、酢酸パラジウム〔(CH3COO)2Pd〕、塩化パラジウム〔PdCl2〕、臭化パラジウム〔PdBr2〕、沃化パラジウム〔PdI2〕、水酸化パラジウム〔Pd(OH)2〕、硝酸パラジウム〔Pd(NO3)2〕、酸化パラジウム〔PdO〕、硫酸パラジウム〔PdSO4〕、テトラクロロパラジウム酸カリウム〔K2(PdCl4)〕、テトラブロモパラジウム酸カリウム〔K2(PdBr4)〕、テトラアンミンパラジウム硝酸塩〔Pd(NH3)4(NO3)2〕、テトラアンミンパラジウムテトラクロロパラジウム酸〔(Pd(NH3)4)(PdCl4)〕、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム〔(NH4)2PdCl4〕、テトラアンミンパラジウム塩化物〔Pd(NH3)4Cl2〕、テトラアンミンパラジウム臭化物〔Pd(NH3)4Br2〕等が;それぞれ挙げられる。なお、電子吸引性物質またはその前駆体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、1種以上の電子吸引性物質と1種以上の前駆体とを併用してもよいことは勿論である。
【0028】
前記電子吸引性物質またはその前駆体をも含有させる場合、その含有量は、金属原子換算で、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の合計量100質量部に対して、通常0.005〜0.6質量部、好ましくは0.01〜0.4質量部である。電子吸引性物質またはその前駆体が0.005質量部未満であると、電子吸引性物質による親水化活性の向上効果が充分に得られないおそれがあり、一方、0.6質量部を超えると、却って親水化作用が低下するおそれがある。
【0029】
本発明の親水化剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種添加剤を含んでいてもよい。なお、添加剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記添加剤としては、例えば、親水性を向上させる目的で添加されるものが挙げられる。このような親水性向上効果を目的とした添加剤としては、具体的には、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、オルガノポリシロキサンなどの珪素化合物;非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物;ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物またはアルカリ度類金属水酸化物、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂;等が挙げられる。
さらに、前記添加剤としては、本発明の親水化剤を用いて基材表面に塗膜を形成する際に酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子をより強固に基材の表面に保持させるためのバインダー等を用いることもできる(例えば、特開平8−67835号公報、特開平9−25437号公報、特開平10−183061号公報、特開平10−183062号公報、特開平10−168349号公報、特開平10−225658号公報、特開平11−1620号公報、特開平11−1661号公報、特開2004−059686号公報、特開2004−107381号公報、特開2004−256590号公報、特開2004−359902号公報、特開2005−113028号公報、特開2005−230661号公報、特開2007−161824号公報など参照)。
【0031】
本発明の親水化剤は、その水素イオン濃度が、通常pH2.0〜pH7.0、好ましくはpH3.0〜pH6.0である。水素イオン濃度がpH2.0未満であると、酸性が強すぎて取扱いが面倒であり、一方、pH7.0を超えると、酸化タングステン粒子が溶解するおそれがあるので、いずれも好ましくない。親水化剤の水素イオン濃度は、通常、酸を加えることにより調整すればよい。水素イオン濃度の調整に用いることのできる酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、ギ酸、酢酸、蓚酸等が挙げられる。
【0032】
(親水化剤の製造方法)
本発明の親水化剤の製造方法は、リン酸(塩)を溶解させた分散媒中に酸化チタン粒子を分散させ、得られた酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子とを混合するものである。このように、酸化チタン粒子を、酸化タングステン粒子と混合する前にあらかじめリン酸(塩)を溶解させた分散媒に分散させておくことにより、酸化チタン粒子の表面はリン酸(塩)が吸着した状態となる。この状態の酸化チタン粒子は酸化タングステン粒子と凝集しにくいため、本発明の製造方法により得られた親水化剤は、粒子の凝集が抑制されたものとなる。
【0033】
リン酸(塩)を溶解させた分散媒中に酸化チタン粒子を分散させて酸化チタン粒子分散液を得る際には、両者を混合した後さらに分散処理を施すことが好ましい。分散処理には、例えば、媒体撹拌式分散機を用いるなど、従来公知の方法を採用することができる。なお、酸化チタン粒子を分散させるリン酸(塩)含有分散媒を調製するに際しては、リン酸(塩)の使用量は(親水化剤)の項で前述したリン酸(塩)の含有量の範囲とすればよい。
【0034】
前記酸化タングステン粒子は、そのまま前記酸化チタン粒子分散液に混合してもよいが、分散媒中に分散させて酸化タングステン粒子分散液としたのちに前記酸化チタン粒子分散液と混合することが好ましい。酸化タングステン粒子を分散媒に分散させる際には、両者を混合した後さらに分散処理を施すことが好ましい。分散処理には、例えば、媒体撹拌式分散機を用いるなど、従来公知の方法を採用することができる。
なお、酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子分散液とを混合する場合、両分散液に用いる分散媒の種類は、混合後の分散媒が(親水化剤)の項で前述した分散媒の通りとなる限り、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、両分散液における分散媒の使用量も、最終的に得られる親水化剤における分散媒の含有量が(親水化剤)の項で前述した通りとなる範囲であれば、特に制限されない。
【0035】
酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子とを混合するに際しては、両者の使用量は、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との比率が(親水化剤)の項で前述した範囲となるようにすればよい。
【0036】
本発明の親水化剤の製造方法は、電子吸引性物質またはその前駆体を添加する工程を含むことが好ましい。ここで、電子吸引性物質またはその前駆体の添加は、前記酸化チタン粒子分散液に対して行ってもよいし、前記酸化タングステン粒子分散液に対して行ってもよいし、前記酸化チタン粒子分散液と前記酸化タングステン粒子分散液もしくは酸化タングステン粒子とを混合した後の分散液に対して行ってもよいが、高い親水化作用を得る観点からは、電子吸引性物質またはその前駆体は前記酸化タングステン粒子分散液に添加するのが好ましい。
なお、電子吸引性物質またはその前駆体を添加する場合、その添加量は、最終的に得られる親水化剤における電子吸引性物質またはその前駆体の含有量が(親水化剤)の項で前述した範囲となるようにすればよい。
【0037】
前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、その添加後に光照射を行うことが好ましい。照射する光としては、特に制限はなく、可視光線でもよいし、紫外線でもよい。光照射を行うことにより、光励起によって生成した電子によって前駆体が還元されて電子吸引性物質となり、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の表面に担持される。なお、前記前駆体を添加した場合に、たとえ光照射を行なわなくても、得られた親水化剤により形成された親水性膜に光が照射されると、その時点で電子吸引性物質へ変換されることになるので、充分に高い親水性を期待することができる。
【0038】
前記光照射は、前記前駆体の添加後であれば、どの段階で行なってもよいが、好ましくは、酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子との混合前に行なうのがよい。
また、前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、より効率よく電子吸引性物質を得る目的で、光照射の前に、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜、メタノールやエタノールや蓚酸等を加えることもできる。
【0039】
なお、本発明の親水化剤の製造方法においては、(親水化剤)の項で前述した各種添加剤を添加することもできる。その場合、それら添加剤の添加はどの段階で行なってもよいが、例えば、酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子分散液もしくは酸化タングステン粒子との混合後に行なうことが好ましい。
【0040】
(親水機能製品)
本発明の親水機能製品は、前記本発明の親水化剤を用いて形成された親水性膜を表面に備えるものである。ここで、親水性膜は、親水化剤中の酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子からなる。そして、本発明の親水化剤が電子吸引性物質またはその前駆体を含む場合には、当該電子吸引性物質またはその前駆体は、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の表面に担持される。なお、担持された前駆体は、例えば光が照射されることなどによって、電子吸引性物質に遷移する。
【0041】
前記親水性膜は、例えば、本発明の親水化剤を基材(製品)の表面に塗布した後、分散媒を揮発させるなど、従来公知の成膜方法によって形成することができる。親水性膜の膜厚は、特に制限されるものではなく、通常、その用途等に応じて、数百nm〜数mmまで適宜設定すればよい。親水性膜は、基材(製品)の内表面または外表面であれば、どの部分に形成されていてもよいが、例えば、光(可視光線)が照射される面に形成されていることが好ましい。なお、基材(製品)の材質は、形成される親水性膜を実用に耐えうる強度で保持できる限り、特に制限されるものではなく、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、木材、コンクリート、紙など、あらゆる材料からなる製品を対象にすることができる。
【0042】
本発明の親水機能製品の具体例としては、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床等の建築資材、自動車内装材(自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材)、衣類やカーテン等の繊維製品などが挙げられる。
【0043】
本発明の親水化剤を用いて形成された親水性膜は、暗所(遮光下)でも高い親水性を示すものであり、紫外線や可視光線などの光が照射される環境ではさらに高い親水性を示すものである。そのため、本発明の親水機能製品は、屋外においては勿論のこと、時に遮光状態となり、光が照射されても蛍光灯やナトリウムランプのような可視光源からの光しか受けないような屋内環境においても、充分な親水性を発揮する。したがって、本発明の親水化剤を、例えば病院の天井材、タイル、ガラスなどに塗布して乾燥させると、その屋内照明の有無に拘わらず常に良好な親水性を発現し、その結果、防曇性を発現するだけでなく、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
なお、実施例および比較例における各物性の測定については、以下の方法で行った。
【0046】
<結晶型>
X線回折装置(リガク社製「RINT2000/PC」)を用いてX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから結晶型を決定した。
【0047】
<BET比表面積>
比表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製「モノソーブ」)を用いて窒素吸着法により測定した。
【0048】
<平均分散粒子径>
サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製「N4Plus」)を用いて粒度分布を測定し、この装置に付属のソフトにより自動的に単分散モード解析して得られた結果を、平均分散粒子径(nm)とした。
【0049】
(製造例1−酸化チタン粒子分散液の調製)
リン酸二水素アンモニウム(和光特級試薬)20.7gを水5.39kgに溶解させ、得られたリン酸二水素アンモニウム水溶液に、硫酸チタニルの加熱加水分解により得られたメタチタン酸の固形物(ケーキ)(TiO2として固形分濃度46.2質量%)1.49kgを混合した。このとき、リン酸二水素アンモニウムの量は、メタチタン酸1モルに対して0.02モルであった。得られた混合物を、媒体攪拌式分散機(寿工業(株)製「ウルトラアペックスミル UAM−1 1009」)を用いて下記の条件で分散処理して、酸化チタン粒子分散液を得た。
分散媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg
攪拌速度:周速8.1m/秒
流速:0.25L/分
処理温度:20℃
合計処理時間:約76分
【0050】
得られた酸化チタン粒子分散液中の酸化チタン粒子の平均分散粒子径は96nmであり、分散液のpHは8.2であった。また、この分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、得られた固形分のBET比表面積は330m2/gであった。なお、分散処理の前の混合物についても同様に真空乾燥して固形分を得、分散処理前の混合物の固形分と分散処理後の分散液の固形分について、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、どちらも結晶型はアナターゼ型であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。この時点で、得られた分散液を20℃で12時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
【0051】
(製造例2−酸化タングステン粒子分散液の調製)
イオン交換水4kgに、粒子状の酸化タングステン粉末(日本無機化学製)1kgを加えて混合して混合物を得た。この混合物を、媒体攪拌式分散機(寿工業(株)製「ウルトラアペックスミル UAM−1 1009」)を用いて下記の条件で分散処理して、酸化タングステン粒子分散液を得た。
分散媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg
攪拌速度:周速12.6m/秒
流速:0.25L/分
処理温度:20℃
合計処理時間:約50分
【0052】
得られた酸化タングステン粒子分散液における酸化タングステン粒子の平均分散粒子径は118nmであった。また、この分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、得られた固形分のBET比表面積は40m2/gであった。なお、分散処理の前の混合物についても同様に真空乾燥して固形分を得、分散処理前の混合物の固形分と分散処理後の分散液の固形分について、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、どちらも結晶型はWO3であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。この時点で、得られた分散液を20℃で3時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
【0053】
(実施例1)
製造例2で得た酸化タングステン粒子分散液に、ヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)の水溶液を、ヘキサクロロ白金酸が白金原子換算で酸化タングステン粒子の使用量100質量部に対して0.12質量部となるように加え、ヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を得た。この分散液100質量部中に含まれる固形分(酸化タングステン粒子の量)は10.1質量部(固形分濃度10.1質量%)であった。
【0054】
次に、図1に示すように、ローラーチューブポンプ1を用いて、内部に水中殺菌灯(三共電気製「GLD15MQ」)2を設置したガラス管(内径37mm、高さ360mm)3の下部から上部に向けて液4を流通させるようにした光照射装置を用い、該装置内に上記ヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液500gを毎分1Lの速度で流通させることにより、光照射(紫外線照射)を20分間行った。次いで、光照射を施したヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液にメタノールを、その濃度が分散液全体の1質量%となるように加えた後、得られた分散液を上記と同様の光照射装置内に毎分1Lの速度で流通させることにより、さらに光照射を20分間行い、白金含有酸化タングステン粒子分散液を得た。この分散液100質量部中に含まれる固形分(酸化タングステン粒子の量)は10.0質量部(固形分濃度10.0質量%)であった。
【0055】
次に、上記白金含有酸化タングステン粒子分散液と、製造例1で得た酸化チタン粒子分散液とを、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との比率が1:1(質量比)となるように混合して(これにより、分散液中の白金の含有量は、白金原子換算で、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計使用量100質量部に対して0.06質量部となった)、本発明の親水化剤を得た。この親水化剤100質量部中に含まれる固形分(酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計量)は5質量部(固形分濃度5質量%)であり、pHは4.2であった。
得られた親水化剤を20℃で12時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
【0056】
得られた親水化剤を用いて形成した塗膜を有する試験片を下記の方法で作製し、下記(1)〜(4)の条件下における親水性の経時変化を、水滴の接触角を測定することにより評価した。測定結果は、横軸に経過時間を、縦軸に水滴の接触角をプロットしたグラフとして表した。条件(1)における結果を図2に、条件(2)における結果を図3に、条件(3)における結果を図4に、条件(4)における結果を図5に、それぞれ示す。
なお、水滴の接触角の測定は、いずれの場合も、接触角計(協和界面科学製「CA−A型」)を用い、水滴(約0.4μL)を試験片の塗膜上に設置してから5秒後に行なった。
【0057】
<試験片の作製(塗膜形成)>
得られた親水化剤を、縦80mm、横80mm、厚さ3mmのガラス板上に塗布し、スピンコーター(ミカサ製「1H−D3」)を用いて、300rpmで5秒間、次いで500rpmで30秒間回転させることにより過剰の分散液を取り除き、その後、110℃で60分間乾燥して、試験片を作製した。得られた試験片は、5日間、室温、大気中、遮光下で保管した後、各試験に供した。
【0058】
<親水性評価試験条件(1)>
試験片の水滴の接触角を測定した後、該試験片を、室温、大気中、遮光下で保管し、所定時間経過ごとに水滴の接触角を測定した。
【0059】
<親水性評価試験条件(2)>
まず、試験片に塗膜の上から、市販のブラックライトを光源として、室温、大気中で、2日間紫外線を照射した。このとき、塗膜近傍での紫外線強度が約1mW/cm2(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)となるようにした。
次いで、紫外線照射後の試験片の水滴の接触角を測定した後、該試験片を、室温、大気中、遮光下で保管し、所定時間経過ごとに水滴の接触角を測定した。
【0060】
<親水性評価試験条件(3)>
試験片の水滴の接触角を測定した後、該試験片を、室温、大気中、可視光照射下で保管し、所定時間経過ごとに水滴の接触角を測定した。
なお、保管時の可視光の照射は、市販の白色蛍光灯を光源とし、アクリル樹脂板(日東樹脂工業製「N169」)を通して、試験片に塗膜の上から蛍光灯に含まれる可視光が照射されるようにして行った。このとき、塗膜近傍での照度が1000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)となるようにした。
【0061】
<親水性評価試験条件(4)>
まず、試験片に塗膜の上から、市販のブラックライトを光源として、室温、大気中で、2日間紫外線を照射した。このとき、塗膜近傍での紫外線強度が約1mW/cm2(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)となるようにした。
次いで、紫外線照射後の試験片の水滴の接触角を測定した後、該試験片を、室温、大気中、可視光照射下で保管し、所定時間経過ごとに水滴の接触角を測定した。
なお、保管時の可視光の照射は、市販の白色蛍光灯を光源とし、アクリル樹脂板(日東樹脂工業製「N169」)を通して、試験片に塗膜の上から蛍光灯に含まれる可視光が照射されるようにして行った。このとき、塗膜近傍での照度が1000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)となるようにした。
【0062】
図2および図3から、実施例1の親水化剤により形成された塗膜は、遮光下でも高い親水性を示し、しかもその親水性を長期間維持しうることがわかる。また、図4および図5から、実施例1の親水化剤により形成された塗膜は、蛍光灯中の可視光を照射することにより、より高い親水性を示すことがわかる。
【0063】
(実施例2)
製造例1で得た酸化チタン粒子分散液と、製造例2で得た酸化タングステン粒子分散液とを、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との比率が1:1(質量比)となるように混合して、本発明の親水化剤を得た。この親水化剤100質量部中に含まれる固形分(酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計量)は5質量部(固形分濃度5質量%)であり、pHは4.4であった。
得られた親水化剤を20℃で12時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
この親水化剤を用いて形成した塗膜を有する試験片を実施例1と同様にして作製し、実施例1と同様にして(1)〜(4)の条件下における親水性の経時変化を評価した。条件(1)における結果を図2に、条件(2)における結果を図3に、条件(3)における結果を図4に、条件(4)における結果を図5に、それぞれ示す。
【0064】
図2および図3から、実施例2の親水化剤により形成された塗膜は、遮光下でも高い親水性を示し、しかもその親水性を長期間維持しうることがわかる。また、図4および図5から、実施例2の親水化剤により形成された塗膜は、蛍光灯中の可視光を照射することにより、より高い親水性を示すことがわかる。
【0065】
(比較例1)
製造例1で得た酸化チタン粒子分散液に代えて、市販の酸化チタン粒子分散液(石原産業社製「STS−01」、硝酸含有、平均分散粒子径:50nm)を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作して、リン酸(塩)を含有しない比較用の親水化剤を得た。この親水化剤100質量部中に含まれる固形分(酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計量)は5質量部(固形分濃度5質量%)であり、pHは1.9であった。
得られた親水化剤を20℃で3時間保管したところ、保管中に凝集粒子が生成し、固液分離が起こった。そのため、この親水化剤を用いて実施例1と同様に塗膜を形成することはできなかった。
【0066】
(比較例2)
市販の酸化チタン粒子分散液(石原産業社製「STS−01」、硝酸含有、平均分散粒子径:50nm)を単独で比較用の親水化剤とした。この親水化剤を用いて形成した塗膜を有する試験片を実施例1と同様にして作製し、実施例1と同様にして(1)〜(4)の条件下における親水性の経時変化を評価した。条件(1)における結果を図2に、条件(2)における結果を図3に、条件(3)における結果を図4に、条件(4)における結果を図5に、それぞれ示す。
【0067】
図2〜図5から、遮光下および可視光照射下のいずれの場合にも、比較例2の親水化剤により形成された塗膜は、実施例1および実施例2の親水化剤により形成された塗膜に比べ親水性に劣り、しかも、実施例と比較例の親水性の差は、時間の経過とともに大きくなる傾向があることがわかる。
【0068】
(参考例1)
実施例1で得た親水化剤を天井材に塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、屋内照明による光照射により、天井材の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0069】
(参考例2)
実施例1で得た親水化剤をタイルに塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、屋内照明による光照射により、タイルの表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0070】
(参考例3)
実施例1で得た親水化剤をガラスに塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、屋内照明による光照射により、ガラスの表面が親水化し、防曇性を発現するだけでなく、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0071】
(参考例4)
実施例1で得た親水化剤をガラスに塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、屋内照明による光照射により、ガラスの表面が親水化し、防曇性を発現するだけでなく、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、更に帯電を防止できる。
【0072】
(参考例5)
実施例1で得た親水化剤を壁紙に塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、屋内照明による光照射により、壁紙の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0073】
(参考例6)
実施例1で得た親水化剤を床に塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、屋内照明による光照射により、床の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0074】
(参考例7)
実施例1で得た親水化剤を自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車天井材などの自動車内装材の表面に塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、車内照明による光照射により、自動車内装材の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【符号の説明】
【0075】
1 ローラーチューブポンプ
2 水中殺菌灯
3 ガラス管
4 液
5 マグネチックスターラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン粒子、酸化タングステン粒子、リン酸(塩)および分散媒を含み、前記リン酸(塩)の含有量が、前記酸化チタン粒子に対して0.001〜0.2モル倍であることを特徴とする親水化剤。
【請求項2】
電子吸引性物質またはその前駆体をも含む、請求項1記載の親水化剤。
【請求項3】
前記電子吸引性物質またはその前駆体は、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoからなる群より選ばれる1種以上の金属原子を含有してなる、請求項2記載の親水化剤。
【請求項4】
リン酸(塩)を溶解させた分散媒中に酸化チタン粒子を分散させ、得られた酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子とを混合することを特徴とする親水化剤の製造方法。
【請求項5】
前記酸化タングステン粒子は、分散媒中に分散させて酸化タングステン粒子分散液としたのちに前記酸化チタン粒子分散液と混合する、請求項4記載の親水化剤の製造方法。
【請求項6】
電子吸引性物質またはその前駆体を添加する工程を含む、請求項4または5記載の親水化剤の製造方法。
【請求項7】
前記電子吸引性物質またはその前駆体は、前記酸化タングステン粒子分散液に添加する、請求項6記載の親水化剤の製造方法。
【請求項8】
前記電子吸引性物質の前駆体を添加したのちに、光照射を行う、請求項6または7記載の親水化剤の製造方法。
【請求項9】
前記光照射は、酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子との混合前に行なう、請求項8記載の親水化剤の製造方法。
【請求項10】
表面に親水性膜を備える親水機能製品であって、前記親水性膜が請求項1〜3のいずれかに記載の親水化剤を用いて形成されていることを特徴とする親水機能製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−180303(P2010−180303A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23893(P2009−23893)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】