説明

親水性と疎水性のバランスがとれた水溶性蛍光物質

骨格および該骨格にグラフトされた側鎖を含む両親媒性分子を提供する。少なくとも三つの骨格ユニットが疎水性かつ蛍光性であり、少なくとも一つの側鎖ユニットが親水性である。分子中の、親水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニット対疎水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニットの重量比は、約1:4から約4:1である。蛍光粒子を形成するため、水、有機溶媒、および該有機溶媒に溶解した両親媒性分子を含む溶液が提供される。溶液中の分子の濃度は約1から約1000CACであり、例えば約10CACから約100CACであり、ここでCACとは両親媒性分子の臨界凝集濃度である。溶液から有機溶媒を除去すると、両親媒性分子は外縁サイズ約10nmから約10ミクロンの粒子を形成することが可能となる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、蛍光物質、特に水溶性蛍光物質およびその形成法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
蛍光粒子は、種々の用途において有用である。例えば、フルオロフォアは、薬物および遺伝子の研究、細胞/微生物の画像化、病気の診断、分析物の検出等の多くの生化学系分野において、プローブ、ラベル、またはタグ等として有用である。水性環境が一般的な環境であるため、蛍光粒子は水溶性であることが望ましい。しかしながら、多くのフルオロフォアは水溶性でない。更に、フルオロフォアが環境にさらされると、その性能は該環境に影響される場合があり、不安定となり得る。従って、フルオロフォアを水溶性の外層を用いてカプセル封入することが望ましく、これにより、得られた粒子は水溶液中での溶解性が付与され、内部のフルオロフォアは環境から隔離される。
【0003】
従来の蛍光粒子には、疎水性の蛍光セグメントと、該疎水性セグメントをカプセル封入した親水性または両親媒水性のセグメントとを有するものがある。しかしながら、これらの粒子は、水性の環境においてこれらの粒子が凝集/沈殿または崩壊するいずれかの傾向があり、かつ不安定であるという欠点を有する。その結果、その性能は時間と共に減衰する。従って、両親媒性蛍光分子より形成される蛍光粒子の安定性を改善することが望ましい。両親媒性蛍光分子より形成される粒子の安定性は、その親水性と疎水性のバランスに影響される場合があることが知られている。しかしながら、安定な粒子を形成する上で、特定の種類の両親媒性蛍光ポリマーの親水性と疎水性のバランスがどの時点で十分となるのかを予測することは難しい。
【発明の概要】
【0004】
水中で安定であり続けることができる蛍光粒子を形成するための両親媒性分子を提供する。各分子は、骨格および該骨格にグラフトされた側鎖を含む。少なくとも三つの骨格ユニットが疎水性かつ蛍光性であり、少なくとも一つの側鎖ユニットが親水性である。分子中の、親水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニット対疎水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニットの重量比は、約1:4から約4:1である。蛍光粒子を形成するため、水、有機溶媒、および該有機溶媒に溶解した両親媒性分子を含む溶液が提供される。溶液中の分子の濃度は約1から約1000CACであり、例えば約10から約100CACであり、ここでCACとは両親媒性分子の臨界凝集濃度である。溶液から有機溶媒を除去すると、両親媒性分子は外縁サイズ約10nmから約10ミクロンの粒子を形成することが可能となる。粒子は、水中で6ヶ月よりも長く安定であり続けることができる。
【0005】
従って、本発明の第一の局面において、蛍光粒子を形成する方法が提供される。この方法は、水、有機溶媒、および該有機溶媒に溶解した両親媒性分子を含む溶液を提供する工程;ならびに、溶液から有機溶媒を除去し、それにより両親媒性分子が外縁サイズ約10nmから約10ミクロンの蛍光粒子を形成することを可能とする工程を含む。両親媒性分子は、分子骨格を形成する複数の骨格ユニットおよび該分子骨格にグラフトされた複数の側鎖を含み、その側鎖の各々が少なくとも一つの側鎖ユニットとして形成されている。この分子中の側鎖ユニットの少なくとも一つが親水性であり、骨格ユニットの少なくとも三つが疎水性かつ蛍光性である。分子中の、親水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニット対疎水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニットの重量比は、約1:4から約4:1であり、例えば約3:7から約7:3である。溶液中の両親媒性分子の濃度は約1から約1000CACであり、例えば約10から約100CACであり、ここでCACとは溶媒中の両親媒性分子の臨界凝集濃度である。水と、有機溶媒および両親媒性分子を含む前駆溶液とを混合することにより、上記溶液を調製してもよい。有機溶媒は、蒸発により溶液から除去してもよい。溶液のpHは約2から約12であってよく、温度は約0℃から約80℃、例えば約4℃から約70℃であってよい。
【0006】
本発明のもう一つの局面に基づき、上記方法に従って形成される水溶性蛍光粒子が提供される。粒子は選択された標的に対して特異的親和性を有するリガンドを含んでもよい。リガンドはアビジン、ビオチン、抗体、抗原、およびDNAより選択されてもよく、標的は標的分子、細胞、および生物より選択されてもよい。
【0007】
本発明の更なる一局面に基づき、分子骨格を形成する複数の骨格ユニットおよび該分子骨格にグラフトされた複数の側鎖を含む分子が提供され、該側鎖の各々が少なくとも一つの側鎖ユニットとして形成されている。この分子中の側鎖ユニットの少なくとも一つが親水性であり、骨格ユニットの少なくとも三つが疎水性かつ蛍光性である。分子中の、親水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニット対疎水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニットの重量比は、約1:4から約4:1であり、例えば約3:7から約7:3である。
【0008】
本発明のもう一つの局面に基づき、前段落記載の分子を含む水溶性蛍光粒子が提供される。該粒子は選択された標的に対して特異的親和性を有するリガンドを含んでもよい。リガンドはアビジン、ビオチン、抗体、抗原、およびDNAより選択されてもよく、標的は標的分子、細胞、および生物より選択されてもよい。
【0009】
上記4段落に記載の両親媒性分子に関して、骨格ユニットはフルオレンユニットを含んでいてもよく、側鎖は、ポリエチレングリコールを含んでもよい。骨格ユニットはアリーレン、ヘテロアリーレン、アリーレンビニレン、ヘテロアリーレンビニレン、アリーレンエチレン、もしくはヘテロアリーレンエチレンのユニット、またはこれらの誘導体を含んでもよい。骨格ユニットはアルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アルキルシリル、アリールシリルアリール、ヘテロアリール、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、アリールエーテル、ヘテロアリールエーテル、アリールチオエーテル、ヘテロアリールチオエーテル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、カルボニル、チオニル、スルホニル、もしくはパーフルオロアルキル基で置換された、またはヘテロアリール基を含むアミノ基で置換されたユニットを含んでもよい。骨格ユニットはフェニレン、チエニレン、スピロビフルオレニレン、インデノフルオレニレン、ピリジレン、ビピリジレン、カルバゾイレン、インデノカルバゾリレン、ベンゾチアゾリレン、もしくはオキサジアゾリレンのユニット、またはこれらの誘導体を含んでもよい。少なくとも一つの骨格ユニットは、ビニレン基またはエチレン基と結合していてもよい。少なくとも二つの骨格ユニットは、一つの炭素結合、メチレン基、またはO、S、N、Si、およびPより選択される原子を介して互いに結合していてもよい。骨格ユニットは、疎水性かつ蛍光性の骨格ユニット二つを連結する可動性の(flexible)基を含んでもよい。可動性の基は親水性または疎水性であり得る。側鎖は側鎖ユニットを含んでもよい。側鎖ユニットはポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリリジン、またはこれらの誘導体を含んでもよい。少なくとも一つの側鎖は、一つの炭素結合、一つのリン結合、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基、イミノ基、シリル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、またはイミド基を介して骨格に結合していてもよい。両親媒性分子は、式

を有していてもよく、式中、p、q、r、およびnは整数であり、pは1から10であり、qは1から200であり、rは0から20、例えば0であり、nは1から20である。両親媒性分子は、式

を有していてもよく、式中、p、q、およびnは整数であり、nは1から20であり、p+qは2から200、例えば4から10である。両親媒性分子は、式

を有していてもよく、式中、p、q、およびnは整数であり、nは1から20であり、p+qは2から200である。例えば、例示的な態様においては、n=1、p=q=1である。もう一つの態様においては、n=1、p=q=2である。両親媒性分子は、式

を有していてもよい。
【0010】
両親媒性分子は、以下の工程により形成されてもよい:骨格ユニット用の前駆体を形成する工程であって、前駆体は疎水性蛍光基を含む工程;前駆体に親水性基をグラフトし、グラフト化前駆体を形成する工程;および、グラフト化前駆体を結合し、両親媒性分子を形成する工程。結合は、カップリング反応による結合を含み得る。結合は、スズキカップリング反応、グリニャールカップリング反応、スティルカップリング反応、ヘックカップリング反応、ソノガシラカップリング反応、酸化重合反応、還元重合反応、または重縮合反応による結合を含み得る。
【0011】
本発明の他の局面および特徴は、添付図面と共に本発明の特定の態様の以下の説明を検討することにより、当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
添付の図面は、例示のみのために本発明の態様を説明する。
【図1】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図2】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図3】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図4】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図5】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図6】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図7】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図8】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図9】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図10】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図11】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図12】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図13】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図14】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図15】本発明の態様の例である特定化合物の各々の合成経路を示す化学反応模式図。
【図16】本発明の態様の例であるポリマーの一般的合成経路を示す化学反応模式図。
【図17】本発明の態様の例である、骨格に可動性のセグメントを持つポリマーの一般的合成経路を示す化学反応模式図。
【図18】異なる化合物により形成される粒径の測定値を示す棒グラフ。
【図19】異なる化合物により形成される粒径の測定値を示す棒グラフ。
【図20】異なる化合物により形成される粒径の測定値を示す棒グラフ。
【図21】細胞数の測定値の折れ線グラフ。
【図22】本発明の態様の例である試料化合物で形成された蛍光粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像。
【図23】本発明の態様の例であるもう一つの試料化合物で形成された蛍光粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
分子内の親水性ユニット対疎水性ユニットの重量比が約1:4から約4:1、例えば約3:7から約7:3である場合に、グラフト両親媒性蛍光分子を利用して、親水性と疎水性のバランスが十分にとれた安定なミセル粒子を形成できることが見出された。グラフト分子は分子骨格および該骨格にグラフトされた側鎖を有し、該骨格および該側鎖の各々は、それぞれ少なくとも一つの骨格ユニットまたは側鎖ユニットで形成される。当然のことながら、本明細書で用いるユニットとは特定の分子の構成要素を意味し、例えば、モノマーの重合により形成された分子の場合、ユニットとはモノマーユニットである。本発明の例示的な態様において、骨格は少なくとも三つの疎水性蛍光骨格ユニットを含み、少なくとも一つの側鎖が少なくとも一つの親水性側鎖ユニットを含む。一つの態様において、骨格は疎水性骨格ユニットしか含まない。別の態様において、骨格は一つまたは複数の親水性骨格ユニットも含み得る。蛍光粒子を形成するために、水、有機溶媒、および該有機溶媒に溶解した両親媒性分子を含む溶液が提供される。溶液中の分子の濃度は約1から約1000CACであって、例えば約10から約100CACであり、ここでCACとはこの両親媒性分子の臨界凝集濃度である。溶液から有機溶媒を除去すると、両親媒性分子が外縁サイズ約10nmから約10ミクロンのミセル粒子を形成することが可能となる。この粒子は、水中で6ヶ月よりも長く安定であり続けることができる。
【0014】
特定の理論に限定されるわけではないが、重量比が上記の範囲内の場合、分子内で親水性と疎水性の十分なバランスが達成されると考えられている。当然のことながら、親水性と疎水性のバランスは水中の粒子の安定性に影響を与える。分子の親水性が高すぎる場合、粒子は水中で崩壊する傾向がある。分子の疎水性が高すぎる場合、粒子は水中で凝集または沈殿する傾向がある。いずれの場合においても、粒子は水中で不安定である。分子内の親水性ユニットと疎水性ユニットの重量比が上記の範囲内にある場合、粒子内の様々なセグメントと水性環境との相互作用は動的平衡状態にある。従って、粒子は水または水性環境中で安定であり続けることができる。長期間にわたり、例えば一週間にわたり、または最大六ヶ月間、その粒径が実質的に同じであり続けた場合、粒子は安定と見なされる。粒子が使用される特定の用途に関してその粒径の差異が許容可能であれば、粒径は実質的に同じと見なされる。異なる用途について、許容可能な粒径の差異が異なっていても良い。
【0015】
水溶液中の粒子の安定性は、任意の適切な手法を用いて決定してもよい。例えば、溶液を経時的に目視検査して、透明なままであるかを観察してもよい。粒子が沈殿または凝集したら、沈殿物または不透明な溶液が観察され得る。溶液が透明なままであれば、溶液中の粒径を、適当な光学的手法、例えば光散乱法を使用して測定またはモニターしてもよい。例示的な粒径測定法は、例えば、Z. Yangら、Langmuir, 2003, vol.19, p.943、およびW. Brownら、J. Phys. Chem., 1991, vol.95, p.1850に記載され、それぞれの内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0016】
例示的な態様において、グラフト分子は、複合ポリマーまたは複合オリゴマーであり得る。骨格は骨格ユニットで形成されるが、これには、それぞれ疎水性かつ蛍光性である少なくとも三つのユニットが含まれる。疎水性かつ蛍光性のユニットは繰返しユニットであり得る。側鎖は親水性側鎖ユニットを含む。分子内に他の疎水性または親水性セグメントが全く存在しない場合、分子内の親水性側鎖ユニット対疎水性繰返しユニットの重量比は約1:4から約4:1であり得る。ある態様において、重量比は約3:7から約7:3であってもよい。
【0017】
骨格はアリーレン、ヘテロアリーレン、アリーレンビニレン、ヘテロアリーレンビニレン、アリーレンエチレン、もしくはヘテロアリーレンエチレンのユニット、またはこれらの誘導体を含んでもよい。前文または他の類似した内容における「または」「もしくは」という用語は、列挙された各項目そのものが考えられる選択肢であること、および列挙された項目の任意の二つ以上の任意の組み合わせもまた考えられる選択肢であることを示す。骨格ユニットはフェニレン、チエニレン、スピロビフルオレニレン、インデノフルオレニレン、ピリジレン、ビピリジレン、カルバゾイレン、インデノカルバゾリレン、ベンゾチアゾリレン、オキサジアゾリレン、またはこれらの誘導体であってもよい。本発明の一つの態様において、骨格内の繰返しユニットはフルオレンユニットを含んでもよい。一つの態様において、骨格ユニットはビニレン基またはエチレン基と結合していてもよい。骨格ユニットは、一つまたは二つのC-C三重結合に結合していてもよい。別の態様において、骨格ユニットは、一つの炭素結合、メチレン基、またはO、S、N、Si、およびPより選択される原子を介して互いに結合していてもよい。
【0018】
別の態様において、骨格ユニットは有機基で置換されたユニットを含み得る。この有機基は、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アルキルシリル、アリールシリルアリール、ヘテロアリール、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、アリールエーテル、ヘテロアリールエーテル、アリールチオエーテル、ヘテロアリールチオエーテル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、カルボニル、チオニル、スルホニル、もしくはパーフルオロアルキル基、またはヘテロアリール基を含むアミノ基であり得る。得られる分子の、選択された溶媒における溶解度が改善されるように、置換される基を選択してもよい。溶媒はテトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン等の有機溶媒であり得る。例えば、分子は、ヘキシル置換されたフルオレンブロックを含んでもよい。
【0019】
骨格は、骨格内の蛍光ユニットを連結する可動性の基をさらに含んでもよい。可動性の基は、親水性でも疎水性でもよい。例えば、可動性の基は、アルキル基、置換されたか置換されていないアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基、イミノ基、エステル基、チオエステル基、アミド基、イミド基、シリル基等であり得る。置換基は、上述の基のいずれか一つ、任意の置換されたか置換されていないアリールもしくはヘテロアリール基、任意のヘテロ原子、またはこれらの任意の組み合わせを含むことが可能である。
【0020】
側鎖は、側鎖ユニットを含んでいてもよく、これは親水性ユニットを含んでもよい。親水性ユニットは、側鎖または骨格のいずれにおいても、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンイミン、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、もしくはポリリジンのユニット、またはこれらの誘導体を含んでもよい。側鎖中の親水性ユニットは、一つの炭素結合もしくはリン結合、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基、イミノ基、シリル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、またはイミド基を介して骨格に結合していてもよい。親水性側鎖は、骨格の末端でも中間でも、骨格の任意の位置に結合してよい。
【0021】
特定の分子の化学構造または式から判断して、分子中の親水性および疎水性のユニット(セグメント)は当業者により容易に特定される。次に分子中のこれら二種類のユニット(セグメント)の重量比を、それぞれのユニット(セグメント)中に存在する元素の原子量に基づいて計算することができる。分子中の全親水性セグメントの総重量および全疎水性セグメントの総重量をそれぞれ計算して、これを用いてその比率を算出することができる。あるいは、モノマーユニットの繰返しで形成されたポリマーまたはオリゴマーについては、ポリマーの各モノマーユニットにおける二種類のセグメントの重量比を計算し、これを用いてポリマー全体の重量比を決定してもよい。重量比は、当業者に公知の別の適した様式で決定されてもよい。
【0022】
一つの態様において、グラフト分子は以下のように形成されてもよい。骨格ユニットの前駆体を調製するか、または利用可能な商業的供給源、例えばSigma-Aldrich(商標)、Fluka(商標)、Merck(商標)、TCL(商標)、Alfa Aesar(商標)より入手する。前駆体は、当業者に公知の任意の適した手法を用いて調製してもよい。少なくとも幾つかの前駆体は疎水性蛍光基を含む。親水性側鎖基を含む側鎖を、それぞれの前駆体にグラフトし、グラフト化前駆体を形成する。グラフト化前駆体は同一または異なる分子であってよい。次に、グラフト化前駆体を結合させて最終的なグラフト分子を形成する。側鎖対前駆体の比率は、親水性セグメント対疎水性セグメントの重量比が約1:4から約4:1、例えば約3:7から約7:3となるように選択される。グラフト化前駆体の各々は、モノマー、オリゴマー、またはポリマーであり得る。グラフト分子内の異なるグラフト化前駆体の化学量論的比率は異なっていてよく、望ましい骨格の大きさ、分子量、溶解度、生体適合性、光学特性、またはその他の関連する特徴に応じて選択されてもよい。グラフト化前駆体をカップリング反応により共に結合させてもよい。カップリング反応は、スズキカップリング反応、グリニャールカップリング反応、またはスティルカップリング反応であってよい。酸化重合反応、還元重合反応、重縮合反応、ヘック反応、ソノガシラ反応等により、グラフト化前駆体を結合させてグラフト化分子を形成してもよい。当業者に明らかなように、グラフト化前駆体を直接結合させてもよく、他の骨格ユニットにより間接的に結合させてもよい。グラフト化前駆体を結合させる結合用骨格ユニットは、側鎖が付いていないものでも、一つまたは複数の側鎖が付いたものであってもよい。例えば、結合用骨格ユニットは可動性の基であり得る。
【0023】
別の態様において、グラフト分子は他の手順を用いて形成されてもよい。例えば、ポリマー骨格を先ず調製してもよく、次に後重合化反応において側鎖を骨格にグラフトしてもよい。一例において、OH末端基またはアミノ基を有するPEGを、アルキルブロモ基、酸クロリド基、または無水物基を含むポリマー骨格にグラフトしてもよい。もう一つの例においては、酸クロリド基または無水物基を有する側鎖を、OH基またはアミノ基を含む骨格にグラフトしてもよい。例示的な後重合化技術は、Cuihua Xueら、 “Facile, versatile prepolymerization and postpolymerization functionalization approaches for well-defined fluorescent conjugated fluorene-based glycopolymers”, Macromolecules, 2006, vol.39, no.17, pp.5747-5752、K. Bugaら、“Postpolymerization grafting of aniline tetramer on polythiophene chain: Structural organization of the product and its electrochemical and spectroelectrochemical properties”, Chemistry Of Materials, 2005, vol.17, no.23, pp. 5754-5762、K. Bugaら、 “Poly(alkylthiophene) with pendant dianiline groups via postpolymerization functionalization: preparation, spectroscopic, and spectroelectrochemical characterization”, Macromolecules, 2004, vol. 37, no.3, pp.769-777、およびJ.S. Liu and R.D. McCullough, “End group modification of regioregular polythiophene through postpolymerization functionalization”, Macromolecules, 2002, vol.35, no.27, pp.9882-9889に開示されており、それぞれの内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0024】
本発明のいくつかの典型的な態様は、上述のグラフト分子より形成される水溶性蛍光粒子に関する。粒子は10nmから10ミクロンの外縁サイズを有していてもよい。粒子が球状の場合、外縁サイズは粒子の直径である。粒子が不ぞろいな形である場合や不均一な大きさである場合、外縁サイズは粒子の有効直径または平均直径を意味する。非球形粒子の有効直径は、非球形直径と同じ体積を有する球形粒子の直径である。粒径は、光学的または電子的な画像化技術を含む任意の適した手法により測定してもよい。例えば、粒径は光散乱法を用いて測定してもよい。
【0025】
上記粒子は、選択された標的に対して特定の親和性を有するリガンドを含んでもよい。例えば、リガンドは、アビジン、ビオチン、抗体、抗原、またはDNAであってもよく、標的は、分子、細胞、または生物であり得る。
【0026】
例示的な態様において、粒子は以下のように形成されうる。
【0027】
有機溶媒に溶解したグラフト分子を含む第一の溶液を得る。有機溶媒は、THF、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン等であり得る。第一の溶液はグラフト分子の形成工程より得られる生成物溶液であり得る。具体的事例に応じて、生成物溶液には更なる任意のまたは必要とされる処理を行ってもよい。第一の溶液は、グラフト分子を有機溶媒中に溶解することにより、別途調製されてもよい。第一の溶液を水と混合することにより、第二の溶液が形成される。第二の溶液の形成のためには、水または水性溶液を第一の溶液に添加してもよく、水または水性溶液に第一の溶液を添加してもよい。水性溶液は水を含み、かつ更にpH緩衝液を含み得る。第二の溶液中のグラフト分子の濃度は、調整する必要がある。特定のグラフト分子が第二の溶液中で臨界凝集濃度CACを有すると想定した場合、第二の溶液中のグラフト分子の濃度は、一つの態様において約1から約1000CACである必要があり、また別の態様において約10から約100CACである必要がある。所定の溶液中の所定のグラフト分子のCACは、グラフト分子の濃度を上昇させながら溶液から放射される光の強度をモニターすることにより、決定してもよい。溶液中のグラフト分子の濃度がCAC値またはそれに近い値の場合、発光強度の急激な増大が見られる。例えばK. Holmbergら、Handbook of applied surface and colloid chemistry, 2002, vol.2, Chapter13に開示される例示的な方法に従ってCACを測定してもよく、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0028】
次に、有機溶媒を第二の溶液から除去することにより、自己集合などによってグラフト分子が粒子を形成できるようになる。有機溶媒は、蒸発または別の手法により除去することができる。例えば、回転蒸発技術を利用してもよい。有機溶媒の蒸発は、第二の溶液を減圧に供するか、加熱するか、またはその両方により促進される。一部の態様において、少なくとも90%の有機溶媒を除去することが必要である。自己集合工程は、グラフト分子内の異なるセグメントおよび水の中での親水性および疎水性の相互作用により駆動される。一般的に、疎水性セグメントと水分子は互いに反発し合い、その一方で親水性セグメントと水分子は互いに引き合う。自己集合の過程を促進するために、第二の溶液は用途に応じてpH約2から約12を有していてもよい。蒸発および粒子形成の間、第二の溶液の温度は、約0℃から約80℃、例えば約4℃から約70℃に保たれていてもよい。
【0029】
得られる溶液およびその中に形成される粒子は、用途に応じて、任意の適した形成後処理、例えば抽出、精製、乾燥などに供されてもよい。
【0030】
別の態様において、上記粒子は別の手順を用いて形成されてもよい。例えば、両親媒性ブロックコポリマーを水と有機溶媒との混合物に溶解して混合溶液を形成することにより粒子を形成してもよく、別の工程において、有機溶媒を混合溶液から抽出する。例示的な工程(透析工程)においては、混合溶液を透析チューブに移し、これを水浴に浸してもよい。濃度差により、有機溶媒はチューブから水浴中へと拡散する。水浴は時々、例えば2時間ごとに新しく交換してもよい。この交換工程は有機溶媒がチューブ内の溶液から実質的に除去されるまで繰り返してもよい。一般的に、この工程は完了するまでに2〜3日かかり得る。チューブ内に残留した溶液は形成された粒子を含むであろう。透析手順は、有機溶媒があまり揮発性でない場合でも用いてよい。更に別の溶媒除去技術は超音波処理-注入工程であり、これは、有機溶媒が揮発性である場合、例えばTHFやアセトン等の場合に用いられうる。この技術において、混合溶液は、超音波処理下でゆっくりと大量の(純)水中に注入されうる。得られる溶液は一定時間、例えば約10分間、超音波処理されてもよい。超音波処理された溶液は、有機溶媒を蒸発により除去するため、例えば二日間室温で攪拌してもよい。
【0031】
上記の例示的な工程において調製されて得られた蛍光粒子は、水溶性であり、かつ水などの水性環境において比較的長期間、例えば最長6ヶ月間に渡り安定な蛍光発光を示すことが予想される(下記実施例13参照)。それに対し、同様の成分を有するが、粒子中の親水性セグメント対疎水性セグメントの重量比が1:4から4:1の範囲を外れている両親媒性分子を用いてナノサイズ粒子を形成した場合、この粒子は水中で不安定であり、蛍光プローブとしてのその性能は比較的短い期間で、例えば一日から一週間以内に低下することが予想される。例えば、両親媒性グラフトポリマーである2,7-ジブロモ-9,9(6'-ポリエチレングリコール-ヘキシル)フルオレンおよび2-ブロモ-9,9(6'-ポリエチレングリコール-ヘキシル)フルオレンは、水中で不安定であることが明らかにされている。これら二つの化合物における親水性セグメント対疎水性セグメントの重量比は約10:1である。それに対し、重量比が約1:4から約4:1の範囲内であって、第二の溶液中のグラフト分子の濃度が約1から約1000CAC、例えば約10から約100CACの場合、被験試料であるグラフト分子は、長期間、例えば水中で6ヶ月よりも長く安定であることが確認された蛍光粒子を形成することが、試験結果から明らかになった。
【0032】
一つの特定の態様において、グラフト分子骨格は、オリゴフルオレンまたはポリフルオレンを含み、側鎖はPEGを含む。PEGユニットは任意の適切な大きさまたは重量を有する。
【0033】
グラフト分子のためのグラフト化前駆体を、スズキカップリング反応により結合させてもよい。分子内のPEG対オリゴフルオレンまたはポリフルオレンの重量比は約1:4から4:1、または約3:7から約7:3である。第一の溶液において有機溶媒はトルエンまたはジクロロメタンであり得る。第一の溶液は、混合溶液を攪拌しながら水に滴下して加えてもよい。有機溶媒は蒸発により除去してもよい。得られる粒子は数ナノメートルから数マイクロメートルの外縁サイズを有していてもよい。第一の溶液は、および得られる粒子を水に拡散した場合、いずれも強い蛍光発光を示すであろう。蛍光は、蛍光分光計または共焦点分光計を用いて測定できる。
【0034】
これらの粒子が示す強い蛍光を、画像化または検出の用途に、例えば生物学的用途に利用してもよい。例えば、上記粒子は特定のリガンドに結合していてもよい。リガンドは、ヌクレオチド、一本鎖DNA、二本鎖DNA、一本鎖RNA、二本鎖RNA、ペプチド、タンパク質、ホルモン、抗体、受容体、抗原、エピトープ、核酸結合タンパク質、分子、酵素基質またはその類縁体、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、単糖、多糖等であり得る。特定リガンドを有する粒子を用いて、特定の細胞または生物を標的とすることができる。粒径が一般的にナノメートル範囲内である場合、これは細胞や生物体に容易に取り込まれうる。粒子を、選択された環境、例えば周辺細胞に適合するように調製することもできる。例えば、粒子の存在によって望ましくない効果がもたらされないように、例えば細胞に対して毒性とならないように、粒子の構成要素を選択してもよい。
【0035】
実施例
実施例1(化合物1の合成)
化合物1は、2,7-ジブロモ-(9,9-ジヘキシル)フルオレンであり、図1に示す反応に従って調製した。2,7-ジブロモフルオレン(9.72g、30mmol、Sigma-Aldrichより入手)を、水酸化ナトリウム水溶液(54.3ml、50%)、テトラブチルアンモニウムブロミド(1.82g、5.63mmol)および1-ブロモヘキサン(25.36ml、180mmol)の混合物に80℃で加えた。5時間攪拌した後、混合物を室温まで冷ました。混合物をジクロロメタンと混合し、反応生成物を抽出した。有機層を順次、水、HCl水溶液、水、ブラインで洗浄した。洗浄された層は無水MgSO4を用いて乾燥した。残存する溶媒および過剰の1-ブロモヘキサンを除去した。ヘキサンを溶出液として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、残渣を精製した。精製された生成物は、収率98.6重量%に相当する重量14.55gの白色固体を含むものであった。白色固体について測定したスペクトルは

であり、これによって生成物が化合物1、即ち2,7-ジブロモ-(9,9-ジヘキシル)フルオレンを含有することが確認された。
【0036】
実施例2(化合物2の合成)
化合物2は、2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)9,9-ジヘキシルフルオレンであり、図2に示す反応に従い、化合物1を用いて調製した。
【0037】
2.46g(5mmol)の化合物1をTHF(50ml)に加え、溶液を形成した。溶液を-78℃の温度まで冷却した。溶液に15ml(18mmol)のn-ブチルリチウム(1.2Mヘキサン溶液、Aldrich(商標)より入手)を加えて混合物を形成した。溶液の温度を-78℃に保ちながら、混合物を一時間攪拌した。次に、混合物に2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン(2.7ml、12.98mmol)を急速に加えた。得られた混合物を室温まで昇温させ、一晩攪拌した。混合物を水に注ぎ入れた。混合物中の反応生成物はエーテルを用いて抽出した。抽出工程は三回繰り返した。抽出した有機層を合わせてブラインで洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。残存する溶媒は、回転蒸発法により除去した。残渣は、シリコンカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:15)により精製した。精製された生成物は、1.823g(収率62重量%)の白色固体を含有した。白色固体について測定したスペクトルは

であり、これによって生成物が化合物2、即ち2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)9,9-ジヘキシルフルオレンであることが確認された。
【0038】
実施例3(化合物3の合成)
化合物3は、2-ブロモ-(9,9-ジヘキシル)フルオレンであり、図3に示す反応に従って合成した。2-ブロモフルオレン(12.25g、50mmol)を水酸化ナトリウム水溶液(91ml、50%)、テトラブチルアンモニウムブロミド(3.03g、9.38mmol)および1-ブロモヘキサン(42.3ml、300mmol)の混合物に80℃で加えた。4時間攪拌した後、混合物を室温まで冷却した。ジクロロメタンで抽出した後、合わせた有機層を順次、水、HCl水溶液、水、およびブラインで洗浄し、次に無水MgSO4を用いて乾燥した。残存する溶媒および過剰の1-ブロモヘキサンを、乾燥した層より除去した後、ヘキサンを溶出液に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、残渣を精製した。得られた生成物は、20.03g(収率97重量%)の淡黄色液体生成物を含有し、測定したスペクトルは

であった。この生成物は化合物3、即ち2-ブロモ-(9,9-ジヘキシル)フルオレンであった。
【0039】
実施例4(化合物4の合成)
化合物4は、2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)9,9-ジヘキシルフルオレンであり、化合物3を用いて図4に示す反応に従って調製した。6.2g(15mmol)の化合物3を100mlの無水THFと混合し、溶液を形成した。-78℃の溶液に22.5mlのn-BuLi(27mmol)を加えた。この溶液を一時間攪拌した後、それに2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン(3.9ml、18.75mmol)を加えた。得られた混合物を一晩攪拌した。次に、水を加えることにより、更なる反応を停止した。混合物中の反応生成物はジクロロメタン(100ml)を用いて三回抽出した。抽出した有機層をブラインで洗浄し、無水MgSO4を用いて乾燥し、減圧下で濃縮した。濃縮した層をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチル:ヘキサン=1:20)に供し、重量5.83g(収率84.5重量%)の生成物を産生した。測定したスペクトルは

であり、これによって生成物が化合物4、即ち2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9,9-ジヘキシルフルオレンであることが確認された。
【0040】
実施例5(化合物5の合成)
化合物5は、2,7-ジブロモ-9,9-ビス(6'-ブロモヘキシル)フルオレンであり、図5に示す反応に従って調製した。2,7-ジブロモフルオレン(0.972g、3mmol)を水酸化カリウム水溶液(60ml、50%)、テトラブチルアンモニウムブロミド(0.198g、0.6mmol)および1,6-ジブロモヘキサン(7.32g、30mmol)の混合物に75℃で加えた。15分間攪拌した後、混合物を室温まで冷却した。ジクロロメタンで抽出した後、合わせた有機層を順次、水、HCl水溶液、水、およびブラインで洗浄し、次に無水MgSO4を用いて乾燥した。残存する溶媒および過剰の1,6-ジブロモヘキサンを除去した後、得られた残渣は、ヘキサン:クロロホルム(v/v=9:1)を溶出液に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。得られた生成物は、1.47g(収率75重量%)の白色固体を含有し、測定したスペクトルは

であり、これによって生成物が化合物5、即ち2,7-ジブロモ-9,9-ビス(6'-ブロモヘキシル)フルオレンであることが確認された。
【0041】
実施例6(化合物6の合成)
化合物6は、2,7-ジブロモ-9,9(6'-ポリエチレングリコール-ヘキシル)フルオレンであり、化合物5を用いて図6に示す反応に従って調製した。アルゴン雰囲気下、150mL三口フラスコに水素化ナトリウム(0.96g、40mmol)および無水THF(30ml)を入れた。次にTHF(50ml)中のPEG(8g、4mmol)を室温で滴下して加えた。図6に示すように、使用されたPEGの分子量は2000Daであり、PEG2000またはPEG2000と表示される。しかしながら、PEG2000は試験目的で使用され、本発明の異なる態様において、PEGの分子量が異なっていてもよいことは言うまでもない。
【0042】
得られる混合物を4時間攪拌した。次に0.65g(1mmol)の化合物5をフラスコに加えた。フラスコ中の混合物は室温で約1週間攪拌した。次に、水を滴下して加えることにより、更なる反応を終了させた。混合物中の有機溶媒を蒸発させ、残渣を20mlのジクロロメタンおよび4mlのメタノールに溶解した。この溶液を500mlのエーテルと混合し、沈殿物を形成させた。溶媒を遠心分離にて除去し、沈殿物を回収した。沈殿物は、上記の工程を三回繰返すことにより更に精製し、次に減圧で乾燥させた。得られた生成物は化合物6であった。
【0043】
実施例7(化合物7の合成)
化合物7は、2-ブロモ-9,9-ビス(6'-ブロモヘキシル)フルオレンであり、図7に示す反応に従って調製した。2-ブロモフルオレン(4.9g、20mmol)を水酸化カリウム水溶液(400ml、50%)、テトラブチルアンモニウムブロミド(1.32g、4mmol)および1,6-ジブロモヘキサン(48.8g、200mmol)の混合物に75℃で加えた。15分間攪拌した後、混合物を室温まで冷却した。ジクロロメタンで抽出した後、合わせた有機層を順次、水、HCl水溶液、水、およびブラインで洗浄し、次に無水MgSO4を用いて乾燥した。残存する溶媒および過剰の1,6-ジブロモヘキサンを除去した後、ヘキサン/クロロホルム(v:v=9:1)を溶出液に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより残渣を精製した。生成物は、重量が8.6g(収率75重量%)の淡黄色液体であり、測定したスペクトルは

であり、これによって生成物が化合物7、即ち2-ブロモ-9,9-ビス(6'-ブロモヘキシル)フルオレンであることが確認された。
【0044】
実施例8(化合物8の合成)
化合物8は、2-ブロモ-9,9(6'-ポリエチレングリコール-ヘキシル)フルオレンであり、化合物7を用いて、図8に示す反応に従って合成した。
【0045】
アルゴン雰囲気下、150mL三口フラスコに水素化ナトリウム(0.96g、40mmol)および無水THF(30ml)を入れた。THF(50ml)中のPEG(8g、4mmol)を室温で滴下して加えた。得られた混合物を4時間攪拌した。次に0.57g(1mmol)の化合物7を混合物に加えた。混合物は室温で更に約1週間攪拌した。次に、水を滴下してフラスコに加えることにより、更なる反応を終了させた。溶液を蒸発させることによりTHFを除去した。残存した混合物を20mlのジクロロメタンおよび4mlのメタノールに溶解し、次に500mlのエーテルと混合し、沈殿物を形成した。混合物中の溶媒を遠心分離にて除去した。上記沈殿工程を三回繰返した。得られた沈殿物を減圧で乾燥させた。得られた生成物は化合物8であった。
【0046】
実施例9(化合物9の合成)
化合物9は図9に示す反応に従って調製された。
【0047】
p-ブロモフェノール2.63g(15mmol)、ジブロモヘキサン1.22g(5mmol)、および無水炭酸カリウム1.38g(10mmol)の混合物をアセトンに溶解し、加熱還流した。8時間還流した後、水を加えることにより、更なる反応を終了させた。混合物を50mlのエーテルと混合し(3回)、有機沈殿物を抽出した。沈殿物を順次、2M水酸化ナトリウム溶液、およびブラインで洗浄し、次に無水MgSO4を用いて乾燥した。残留溶媒を除去した後、粗生成物をエタノール中で再結晶させ、重量が1.15g(収率46重量%)でありかつ下記スペクトルが測定された、化合物9を生成した。

【0048】
実施例10(化合物10の合成)
化合物10は3F1-PEG2000と表され、化合物2、3および4を用いて図10に記載の反応に従って調製した。化合物2(0.15g、0.25mmol)、化合物4(1.103g、0.25mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(50mg、0.04mmol)、炭酸ナトリウム水溶液(2M、1.24ml)、およびトルエン(10.16ml)の混合物を脱酸素化した後、窒素下で加熱還流した。混合物を4時間攪拌した。0.103g(0.18mmol)の化合物3を1mlのトルエンに溶解した後、混合物に加えた。混合物を更に約2日間攪拌した後、室温まで冷ました。混合物中の有機溶媒を蒸発させた。残渣を4mlのジクロロメタンに溶解し、100mlのエーテルと混合することにより、沈殿物を形成させた。溶媒は遠心分離により除去した。沈殿工程は3回繰り返した。粗生成物をジクロロメタンに溶解し、8k透析チューブを用いて約一週間透析に供した。次に、この溶液を凍結乾燥することにより、化合物10である淡色の粉末生成物を形成した。合成工程の収率は24重量%であった。
【0049】
化合物10において、PEGセグメントは親水性であり、その他のセグメントは疎水性であった。化合物10の分子中の親水性ユニット対疎水性ユニットの重量比は、約4:1であった。水中での化合物10のCACは0.05mg/mLであった。
【0050】
化合物10から安定な粒子を調製するため、10mgの化合物10を10mlの水に溶解した(20CACに相当)。得られた溶液を、3日間攪拌した。ミセル粒子が溶液中で形成され、6ヶ月間の保存中安定を保った。
【0051】
実施例11(化合物11の合成)
化合物11は3F2-PEG2000であり、図11に記載の反応に従って、化合物4および6を用いて調製した。化合物4(0.46g、1mmol)、化合物6(1.123g、0.25mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(50mg、0.04mmol)、炭酸ナトリウム水溶液(2M、1.24ml)、およびトルエン(10.16ml)の混合物を脱酸素化した後、窒素下で加熱還流した。混合物を2日間攪拌した後、室温まで冷ました。混合物中の有機溶媒を蒸発させた。残渣を20mlのジクロロメタンに溶解し、800mlのエーテルと混合することにより、沈殿物を形成させた。溶媒は遠心分離により除去した。沈殿工程は3回繰り返した。粗生成物をジクロロメタンに溶解し、8k透析チューブを用いて約一週間透析に供した。この溶液を凍結乾燥することにより、化合物11である淡色の粉末生成物を形成させた。この工程の収率は50%であった。化合物10と同様に、化合物11中の親水性セグメント対疎水性セグメントの重量比は、約4:1であった。
【0052】
化合物11の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)をPEGを較正基準として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)解析に基づいて測定し、それぞれ4123および3969であることが分かった。GPCの結果は、化合物11の各分子が、PEG側鎖がフルオレニル基に結合したブロックを一つだけ含むことを示した。
【0053】
化合物11のCACは、水溶液中、室温で動的光散乱(DLS)技術を用いて測定し、0.1mg/mLであることが判明した。水中での化合物11のCACは0.10mg/mLである。
【0054】
化合物11から安定な粒子を調製するために、10mgの化合物11を10mLの水に溶解した(10CACに相当)。得られた溶液を3日間攪拌した。溶液中にミセル粒子が形成され、これは6ヶ月間の保存中安定を保った。
【0055】
実施例12(化合物12の合成)
化合物12は5F3-PEG2000であり、図12に記載の反応に従って、化合物2、3および6を用いて調製した。化合物2(0.23g、0.4mmol)、化合物3(0.25g、0.6mmol)、化合物6(0.45g、0.1mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(32mg、0.028mmol)、炭酸ナトリウム水溶液(2M、0.88ml)、およびトルエン(2.6ml)の混合物を脱酸素化した後、窒素下で加熱還流した。混合物を2日間還流した後、室温まで冷ました。混合物中の有機溶媒を蒸発させ、残渣を20mlのジクロロメタンに溶解した。溶液を800mlのエーテルと混合することにより、沈殿物を形成させた。溶媒は遠心分離により除去した。沈殿工程は3回繰り返した。粗生成物をジクロロメタンに溶解し、8k透析チューブを用いて約一週間透析に供した。溶液を凍結乾燥することにより、化合物12である淡色の粉末生成物を形成させた。本実施例における収率は46%であった。化合物12中の親水性ユニット対疎水性ユニットの重量比は、約2.4:1であった。
【0056】
化合物12の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を、PEGを較正基準として用いたGPC解析に基づいて測定し、それぞれ4409および3919であることが分かった。GPCの結果は、化合物12の各分子が、PEG側鎖がフルオレニル基に結合したブロックを一つだけ含むことを示した。
【0057】
化合物12のCACは、水溶液中、室温でDLS技術を用いて測定し、0.08mg/mLであることが判明した。
【0058】
化合物12から安定な粒子を調製するために、10mgの化合物12を10mLの水に溶解した(12.5CACに相当)。得られた溶液を3日間攪拌した。溶液中にミセル粒子が形成され、これは6ヶ月間の保存中安定を保った。
【0059】
実施例13(化合物13の合成)
化合物13(PF1-PEG2000)は、化合物1、2および6を用いて、図13に示した反応に従い調製した。ここで使用されるpおよびqという記号は、整数を表す。図13に示すとおり、p+q=19である。化合物1(0.089g、0.18mmol)、化合物2(0.117g、0.2mmol)、化合物6(0.0898g、0.02mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(2mg、0.002mmol)、炭酸ナトリウム水溶液(2M、0.284ml)、およびトルエン(1.15ml)の混合物を脱酸素化した後、窒素下で加熱還流させた。混合物を2日間還流した後、室温まで冷ました。混合物中の有機溶媒を蒸発させ、残渣を4mlのジクロロメタンに溶解した。溶液を100mlのエーテルと混合し、沈殿物を形成させた。溶媒は遠心分離により除去した。沈殿工程は3回繰り返した。粗生成物をジクロロメタンに溶解し、10k透析チューブを用いて約一週間透析に供した。次にこの溶液を凍結乾燥することにより、淡黄色の粉末生成物、即ち化合物13を形成した。得られた生成物の粒径は約85nmであった。本実施例における収率は14%であった。生成物の測定スペクトルは下記のとおりである

。化合物13中の親水性ユニット対疎水性ユニットの重量比は、約1:1.6であった。化合物13のCACは0.008mg/mLであることが分かった。
【0060】
化合物13の蛍光および安定性を検査した。この目的のためにBV-2細胞を2日間培養した。化合物13(PF1-PEG2000)より形成したナノ粒子0.3mg/gを含有する水溶液を以下のように調製した。3mgの化合物13を1.5mLのTHFに溶解し、最初の溶液を形成した。最初の溶液は、得られる溶液の総量が2mLとなるまでTHFで更に希釈した。得られた溶液に、8mLの脱イオン水をゆっくりと3時間かけて加えた。溶液をビンに入れた。ビンを一枚のKimwipe(商標)ティッシュペーパーで覆い、3日間にわたってTHFを蒸発させた。この3日間の後、ビンに水を加え、最終溶液の濃度を調節し、その総量を10mLとした。最終溶液は、約0.3mg/gの化合物13(約40CACに相当)を含有した。
【0061】
溶液を培養液に1:10(v:v)の比率で加えた。細胞を培養液中で6時間維持した。次に、細胞を4%パラホルムアルデヒドで2時間固定し、PBSで3回洗浄した。細胞を共焦点顕微鏡下で観察した。試験には化合物13を2バッチ使用した。化合物13の最初のバッチは新たに調製した。化合物13の第二のバッチは、水溶液中、室温で少なくとも6ヶ月保存した。いずれの場合も、固定した細胞は同様の強い蛍光を示した。
【0062】
別の試験においては、培養BV細胞を、二日間の培養の後、沈下させた。次に、上記化合物13で形成された粒子を含む水溶液を培養液に添加した。異なる試験を異なるバッチで実施し、ここで培養液中の水溶液の濃度はそれぞれ1%、2%、5%、10%、または20%(v/v)であった。各バッチにおいて、BV2細胞の細胞生存率を12時間間隔で4回測定した(即ち、添加12、24、48、および72時間後)。代表的な測定結果を図21に示す。粒子溶液の濃度が1%から5%の範囲内のバッチにおいては、培養液中で測定される細胞数は時間と共に有意に増加した。この増加は、より高濃度(10%および20%)のバッチについてはあまり明白ではなかった。粒子溶液の溶媒が水であったため、この結果は予想通りであった。細胞数の有意な増加から、化合物13の蛍光粒子が細胞に対して無毒であるか、または極めて低い毒性しか有さないことが示された。
【0063】
また、細胞が活性化された後、細胞は、化合物13で形成された蛍光粒子をより多く取り込むことが可能であることが観察された。これは、該粒子が薬物またはその他の物質を選択的に活性化された細胞/臓器へ送達するための担体として利用できることを示唆する。
【0064】
実施例14(化合物14の合成)
化合物14はPF2-PEG2000であり、化合物1、2、6および9を用いて、図14に示した反応に従い調製した。ここで用いる類似の記号「p」および「q」、および記号「n」も、整数を表す。図14において、nの値は1から100、例えば1から20であってよく、p+q=10である。化合物1(0.16g、0.32mmol)、化合物2(0.28g、0.48mmol)、化合物6(0.36g、0.08mmol)、化合物9(40mg、0.08mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(78mg、0.07mmol)、炭酸ナトリウム水溶液(2M、0.93ml)、およびトルエン(3.72ml)の混合物を脱酸素化した後、窒素下で加熱還流した。混合物を2日間還流した後、室温まで冷ました。有機溶媒を蒸発させ、残渣を10mlのジクロロメタンに溶解した。溶液を400mlのエーテルと混合することにより、沈殿物を形成させた。溶媒は遠心分離により除去した。沈殿工程は3回繰り返した。粗生成物をジクロロメタンに溶解し、10k透析チューブを用いて約一週間透析に供した。この溶液を凍結乾燥することにより、淡黄色の粉末生成物、即ち化合物14を形成させた。生成物の粒径は約154nmであった。収率は37重量%であった。化合物14中の親水性ユニット対疎水性ユニットの重量比は、約1:0.9である。化合物14のCACは0.00032mg/mLであることが分かった。
【0065】
化合物13を化合物14に置き換えることで化合物13に関して上述した工程と同じ工程を用いて、化合物14で形成された粒子を含む水溶液を調製した。最終水溶液は約0.3mg/mLの化合物14(約940CACに相当)を含有した。最終溶液中のミセル粒子は、6ヶ月間の保存中安定を保った。
【0066】
実施例15(化合物15の合成)
化合物15はPF3-PEG2000であり、化合物1、2、6および9を用いて、図15に示した反応に従い調製した。図15において、nは1から100、例えば1から20であってよく、p+q=4である。化合物1(0.16g、0.32mmol)、化合物2(0.28g、0.48mmol)、化合物6(0.36g、0.08mmol)、化合物9(40mg、0.08mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(64.1mg、0.055mmol)、炭酸ナトリウム水溶液(2M、0.88ml)、およびトルエン(3.5ml)の混合物を調製した。この混合物は実施例14に記載の方法で処理した。得られた生成物は、淡色の粉末生成物、すなわち化合物15であった。生成物の粒径は約178nmであった。収率は21重量%であった。化合物15中の親水性ユニット対疎水性ユニットの重量比は、約5:2であった。化合物15のCACは0.0004mg/mLであることが分かった。
【0067】
化合物13を化合物15に置き換えることで化合物13に関して上述した工程と同じ工程を用いて、化合物15で形成された粒子を含む水溶液を調製した。最終水溶液は約0.3mg/mLの化合物15(約750CACに相当)を含有した。最終溶液中のミセル粒子は、6ヶ月間の保存中安定を保った。
【0068】
実施例16
BV2細胞を2日間培養した後、刺激剤であるリポ多糖を様々な濃度で加えることにより24時間活性化させた。化合物13より形成された蛍光粒子を含む水溶液を実施例13に記載のとおり調製した。この溶液を細胞培養液に加えた。溶液対培養液の容積比は1:100であった。培養液からの蛍光は、共焦点イメージング技術を用いてモニターした。刺激強度が増大すると(刺激剤添加後)、細胞からの蛍光発光がより強くなることが観察され、これは活性化された細胞により多くの蛍光粒子が取り込まれたことを示す。
【0069】
理解されるように、上記の例示的合成経路は、本発明の局面に従い改変または一般化して他のグラフト分子を産生してもよい。例えば、水溶性蛍光ポリマーを、図16に示した反応にほぼ従って形成することができ、骨格内に可動性のセグメントを有するポリマーを、図17に示した反応に従って調製することができる。
【0070】
図16に記載の反応において、整数を示すx、y、z、p、q、およびnの値は異なっていてもよい。その和であるp+q(=x+y+z)も異なっていてもよい。理解されるように、化合物13を形成するためには、x=9、y=10、z=1であり;化合物13においては、p=1、q=19、およびn=1である。異なる態様において、p+qの値は2から200までなど様々であってよい。p+qの和が異なる分子は、反応混合物中に存在する反応物の相対的なモル比または重量比を調節することにより調製してもよい。
【0071】
一般的に、安定したナノサイズ粒子を形成できる蛍光ポリマーは、以下のように形成されてもよい。適当な量の化合物1、2、および6をテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、炭酸ナトリウム水溶液、およびトルエンと混合することにより混合物を形成する。混合物中の反応物の濃度は異なっていてもよい。一つの態様において、全反応物の濃度は0.1Mから1.0Mまでであってよい。混合物を脱酸素化し、その後、窒素下で加熱還流してもよい。混合物は、還流下で長期間、例えば2日間から1週間攪拌した後、より低い温度、例えば室温まで冷ましてもよい。混合物中の有機溶媒を蒸発させる。残渣は、最少量のジクロロメタンあるいはその他の適した溶媒に溶解してもよい。新たに得られた溶液を適切な量のエーテルと混合し、沈殿物を形成させる。新たな溶液対エーテルの容積比は1:100から1:500であり得る。溶媒は遠心分離等により除去されてもよい。沈殿工程は繰り返してもよく、例えば3回繰り返されてもよい。得られた粗生成物は、ジクロロメタンまたはその他の適切な低沸点溶媒に溶解されてもよく、これを長期間、例えば約3日間から1週間、例えば10k透析チューブを利用した、透析に供してもよい。溶液を凍結乾燥することにより、所望のグラフト分子で形成された粒子を含有する最終生成物を形成してもよい。粒径は、分子構造、分子量、または溶液濃度を変化させることにより制御してもよい。
【0072】
試料化合物は、図16中の反応および上記の工程に従って調製され、試薬濃度は、p=1、骨格ユニットの総数が18となるように選択された。得られる化合物のCACを、水溶液中、室温でDLS技術を用いて測定し、0.008mg/mLであることが判明した。この試料化合物の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を、PEGを較正基準として用いたGPC解析に基づいて測定し、それぞれ19585および9886であることが分かった。Mn値をNMR測定に基づいても計算し、9976であることが分かった。GPCの結果は、試料化合物の分子が、PEG側鎖がフルオレニル基に結合したブロックを一つだけ含むことを示した。
【0073】
図17に示した反応に従って化合物を調製するために、追加の化合物である化合物9が最初の混合物に含まれることを除いて、類似の工程に従ってもよい。図17中の記号a、b、c、d、およびrも整数を表す。化合物9対その他全ての構成成分のモル比は、1:100から1:2、例えば1:50から1:2であってよい。一般的にpは1から10であってよく、qは1から200であってよく、r(=d)は1から20であってよく、nは1から100、例えば1から20であってよい。a、b、c、およびdの値は、所望の最終生成物に応じて選択されてもよい。当然のことながら、r=0の場合、図17中の化合物は、図16に示した化合物と同じである。別の態様において、p+qの和は、例えば2から200まで変動してもよい。
【0074】
図10または図17に示した反応経路に従って調製された化合物で形成される粒子は所望の粒径分布を有することも可能である。例えば、図18、19、および20に示すように、水溶液中の化合物11、12、または13の粒径(有効径)は、約10から約300nmであった。粒径は、粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像に基づいて測定された。図22および23は、それぞれ化合物10および化合物11より形成された蛍光粒子の例示的なTEM像を示す。TEM画像法のための試料は次のように調製された。90μLの粒子水溶液を10μLの1%PTA水溶液とボルテックスにより混合させた。400メッシュの炭素被覆銅グリッド上にこの混合物を一滴のせ、一晩風乾させた。図22に示した粒子は、100〜200nmにわたる有効径を有し、図23に示した粒子は、10〜20nmおよび50〜80nmにわたる有効径を有していた。
【0075】
上述のとおり、本発明の態様に基づいて調製された粒子は、水性環境において優れた安定性を示すことができる。例えば、粒子は、水中で6ヶ月よりも長く安定であり続けることができる。
【0076】
本明細書において使用される一部の用語は、Pure Appl. Chem., 1996, vol.68, No.12, pp.2287-2311に発表されている「Glossary of basic terms in polymer science (IUPAC Recommendations 1996)」を参照することにより理解でき、その全ての内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0077】
理解されるように、本発明の態様は、異なる分野や産業において様々な用途をもつ。例えば、上記のグラフト分子および粒子は、生化学分野などの様々な分野において蛍光プローブ、ラベル、またはタグとして利用されてもよい。これらは、薬物および遺伝子の研究、細胞/微生物の画像化、病気の診断、分析物の検出等において有用である。
【0078】
上記で明確に言及されていない本明細書記載の態様の他の特徴、恩典、および利点は、本明細書および添付の図面から当業者に理解される。
【0079】
当然のことながら、上記の態様は例示のみを意図したものであり限定するものではない。記載された態様は、多くの形態の改変、成分の配置、操作の詳細や順番による影響を受けやすい。むしろ、添付の特許請求の範囲に定義されるように、本発明はその様な全ての改変を、その範囲内に含むことを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、有機溶媒、および該有機溶媒に溶解した両親媒性分子を含む溶液を提供する工程であって、該両親媒性分子が、分子骨格を形成する複数の骨格ユニットおよび該分子骨格にグラフトされた複数の側鎖を含み、該側鎖の各々が少なくとも一つの側鎖ユニットとして形成され、該分子中の該側鎖ユニットの少なくとも一つが親水性でありかつ該骨格ユニットの少なくとも三つが疎水性かつ蛍光性であり、該分子中の親水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニット対疎水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニットの重量比が約1:4から約4:1であり、該溶液中の該両親媒性分子の濃度が約1から約1000CACであり、該CACが該溶液中の該両親媒性分子の臨界凝集濃度である、工程;ならびに
該溶液から該有機溶媒を除去し、これにより、該両親媒性分子による外縁サイズ約10nmから約10ミクロンの該粒子の形成を可能にする工程
を含む、蛍光粒子を形成する方法。
【請求項2】
溶液中の両親媒性分子の濃度が約10から約100CACである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
水と、有機溶媒および両親媒性分子を含む前駆溶液とを混合することにより溶液を調製する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
除去工程が、蒸発により溶液から有機溶媒を除去することを含む、請求項1から3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
溶液のpHが約2から約12であり、温度が約0℃から約80℃である、請求項1から4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
重量比が約3:7から約7:3である、請求項1から5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
骨格ユニットがフルオレンユニットを含み、側鎖がポリエチレングリコールを含む、請求項1から6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
骨格ユニットがアリーレン、ヘテロアリーレン、アリーレンビニレン、ヘテロアリーレンビニレン、アリーレンエチレン、もしくはヘテロアリーレンエチレンのユニット、またはこれらの誘導体を含む、請求項1から6のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
骨格ユニットが、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アルキルシリル、アリールシリルアリール、ヘテロアリール、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、アリールエーテル、ヘテロアリールエーテル、アリールチオエーテル、ヘテロアリールチオエーテル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、カルボニル、チオニル、スルホニル、もしくはパーフルオロアルキル基で置換された、またはヘテロアリール基を含むアミノ基で置換されたユニットを含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
骨格ユニットがフェニレン、チエニレン、スピロビフルオレニレン、インデノフルオレニレン、ピリジレン、ビピリジレン、カルバゾイレン、インデノカルバゾリレン、ベンゾチアゾリレン、もしくはオキサジアゾリレンのユニット、またはこれらの誘導体を含む、請求項1から6のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
(1)少なくとも一つの骨格ユニットがビニレン基もしくはエチレン基と結合しているか、または(2)少なくとも二つの骨格ユニットが一つの炭素結合、メチレン基、またはO、S、N、Si、およびPより選択される原子を介して互いに結合している、請求項1から10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
骨格ユニットが、疎水性かつ蛍光性の骨格ユニット二つを連結する可動性の基を含み、該可動性の基が親水性または疎水性である、請求項1から11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
側鎖ユニットがポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリリジン、またはこれらの誘導体を含む、請求項1から12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
少なくとも一つの側鎖が、一つの炭素結合、一つのリン結合、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基、イミノ基、シリル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、またはイミド基を介して骨格に結合している、請求項1から13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
両親媒性分子が、式

を有し、式中、p、q、r、およびnは整数であり、pは1から10であり、qは1から200であり、rは0から20であり、nは1から20である、請求項1から5のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
r=0である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
両親媒性分子が、式

を有し、式中、p、q、およびnは整数であり、nは1から20であり、p+qは2から200である、請求項1から5のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
p+q=4または10である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
両親媒性分子が、式

を有し、式中、p、q、およびnは整数であり、nは1から20であり、p+qは2から200である、請求項1から5のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
n=1であり、p=q=1またはp=q=2である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
両親媒性分子が、式

を有する、請求項1から5のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
両親媒性分子が、
骨格ユニットの前駆体を形成する工程であって、前駆体が疎水性蛍光基を含む工程;
前駆体に親水性基をグラフトさせ、グラフト化前駆体を形成する工程;および
グラフト化前駆体を結合させ、それにより両親媒性分子を形成する工程
により形成される、請求項1から21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
結合が、カップリング反応を介した結合を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
結合が、スズキカップリング反応、グリニャールカップリング反応、スティルカップリング反応、ヘックカップリング反応、ソノガシラカップリング反応、酸化重合反応、還元重合反応、または重縮合反応を介した結合を含む、請求項22記載の方法。
【請求項25】
請求項1から24のいずれか一項記載の方法に従って形成された分子を含む水溶性蛍光粒子。
【請求項26】
分子骨格を形成する複数の骨格ユニット;および
側鎖の各々が少なくとも一つの側鎖ユニットとして形成されている、分子骨格にグラフトされた複数の側鎖
を含む分子であって、該分子中の側鎖ユニットの少なくとも一つが親水性であり、骨格ユニットの少なくとも三つが疎水性かつ蛍光性であり、該分子中の親水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニット対疎水性である骨格ユニットおよび側鎖ユニットの重量比が約1:4から約4:1である、分子。
【請求項27】
重量比が約3:7から約7:3である、請求項26記載の分子。
【請求項28】
骨格ユニットがフルオレンユニットを含み、側鎖がポリエチレングリコールを含む、請求項26または27記載の分子。
【請求項29】
骨格ユニットが、アリーレン、ヘテロアリーレン、アリーレンビニレン、ヘテロアリーレンビニレン、アリーレンエチレン、もしくはヘテロアリーレンエチレンのユニット、またはこれらの誘導体を含む、請求項26または27記載の分子。
【請求項30】
骨格ユニットが、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アルキルシリル、アリールシリルアリール、ヘテロアリール、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、アリールエーテル、ヘテロアリールエーテル、アリールチオエーテル、ヘテロアリールチオエーテル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、カルボニル、チオニル、スルホニル、もしくはパーフルオロアルキル基で置換された、またはヘテロアリール基を含むアミノ基で置換されたユニットを含む、請求項29記載の分子。
【請求項31】
骨格ユニットが、フェニレン、チエニレン、スピロビフルオレニレン、インデノフルオレニレン、ピリジレン、ビピリジレン、カルバゾイレン、インデノカルバゾリレン、ベンゾチアゾリレン、もしくはオキサジアゾリレンのユニット、またはこれらの誘導体を含む、請求項26または27記載の分子。
【請求項32】
(1)少なくとも一つの骨格ユニットがビニレン基もしくはエチレン基と結合している、または(2)少なくとも二つの骨格ユニットが一つの炭素結合、メチレン基、もしくはO、S、N、Si、およびPより選択される原子を介して互いに結合している、請求項26から31のいずれか一項記載の分子。
【請求項33】
骨格ユニットが、疎水性かつ蛍光性の骨格ユニット二つを連結する可動性の基を含み、該可動性の基が親水性または疎水性である、請求項26から32のいずれか一項記載の分子。
【請求項34】
側鎖ユニットがポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリリジン、またはこれらの誘導体を含む、請求項26から33のいずれか一項記載の分子。
【請求項35】
少なくとも一つの側鎖が、一つの炭素結合、一つのリン結合、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基、イミノ基、シリル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、またはイミド基を介して骨格に結合している、請求項26から34のいずれか一項記載の分子。
【請求項36】


を有し、式中、p、q、r、およびnは整数であり、pは1から10であり、qは1から200であり、rは0から20であり、nは1から20である、請求項26記載の分子。
【請求項37】
r=0である、請求項36記載の分子。
【請求項38】


を有し、式中、p、q、およびnは整数であり、nは1から20であり、p+qは2から200である、請求項26記載の分子。
【請求項39】
p+q=4または10である、請求項38記載の分子。
【請求項40】


を有し、式中、p、q、およびnは整数であり、nは1から20であり、p+qは2から200である、請求項26記載の分子。
【請求項41】
n=1であり、p=q=1またはp=q=2である、請求項40記載の分子。
【請求項42】


を有する、請求項26記載の分子。
【請求項43】
請求項26から42のいずれか一項記載の分子を含む、水溶性蛍光粒子。
【請求項44】
選択された標的に対して特異的親和性を有するリガンドを含む、請求項25または43記載の粒子。
【請求項45】
リガンドがアビジン、ビオチン、抗体、抗原、およびDNAより選択され、標的が標的分子、細胞、および生物より選択される、請求項44記載の粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2011−500916(P2011−500916A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529902(P2010−529902)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【国際出願番号】PCT/SG2007/000351
【国際公開番号】WO2009/051560
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(508305029)エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (36)
【出願人】(502152665)ナショナル ユニバーシティ オブ シンガポール (4)
【Fターム(参考)】