説明

親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲル、キラリティー分離用ゲル、ゲルを用いた分析システムおよびゲルを用いた分析方法

【課題】 親水性/疎水性またはキラリティーによる分析を容易にかつ簡便に行うことができる親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルまたはキラリティー分離用ゲルを提供する。
【解決手段】 一般式
【化27】


(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲル、キラリティー分離用ゲル、ゲルを用いた分析システムおよびゲルを用いた分析方法に関し、例えば、タンパク質、核酸、多糖類、アミノ酸、糖、脂質、薬物、抗生物質等の各種化合物の分析に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゲルを用いた分析方法としては、ゲル電気泳動、ゲル濾過、ゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography,GPC)等が知られている。これらの分析方法は、ゲルの3次元網目構造のメッシュサイズを利用し、互いに大きさ(分子量)が異なる分子をその大きさによって分離するものである。例えば、水溶性タンパク質、DNA等の生体分子の分離に広く用いられているゲル電気泳動では、ゲルとして通常、ポリアクリルアミドゲルが用いられ、試料液中の分子の電荷密度の制御のために硫酸ドデシルナトリウム(SDS)を系に添加して電気泳動を行うSDS−PAGE法(Laemmli 法とも呼ばれる) が知られている(非特許文献1)。このゲル電気泳動の様子を図9に示す。図9に示すように、2枚の平板101、102の間にゲル103を詰め、陽極104と陰極105との間に電圧を印加して電気泳動を行い、互いに大きさが異なる分子106と分子107との移動速度が異なることを利用して分析を行う。
【非特許文献1】Laemmli, UK., Nature 227:680(1970)
【0003】
なお、特許文献1および非特許文献2〜4には、この発明による親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルおよびキラリティー分離用ゲルとほぼ同組成のゲル状発色組成物およびその合成方法が開示されている。
【特許文献1】特開平1−158011号公報
【非特許文献2】Kouichi Naitoh, Yasuo Ishii, Kaoru Tsujii, J. Phys. Chem, 1991, 95, 7915-7918
【非特許文献3】Masaki Hayakawa, Tomohiro Onda, Toyoichi Tanaka, Kaoru Tsujii, Langmuir, 1997, 13, 3595-3597
【非特許文献4】Kaoru Tsujii, Masaki Hayakawa, Tomohiro Onda, Toyoichi Tanaka, Macromolecules, 1997, 30, 7397-7402
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来のゲルを用いた分析方法では、大きさ以外の分子の特性、例えば親水性/疎水性、キラリティー等による分析を行うことはできなかった。
そこで、この発明が解決しようとする課題は、親水性/疎水性による分析を容易にかつ簡便に行うことができる親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルならびにこれを用いた分析システムおよび分析方法を提供することである。
この発明が解決しようとする他の課題は、キラリティーによる分析を容易にかつ簡便に行うことができるキラリティー分離用ゲルならびにこれを用いた分析システムおよび分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、上記の特許文献1に開示されたゲル状発色組成物とほぼ同組成のゲルにおいて、化合物が親水性であるか疎水性であるかによって移動速度が互いに異なり、あるいは、化合物のキラリティーの相違により移動速度が互いに異なり、従って親水性/疎水性あるいはキラリティーにより化合物の分析を行うことができることを発見し、この発明を案出するに至ったものである。
【0006】
すなわち、第1の発明は、
一般式
【化10】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られる親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルである。
【0007】
第2の発明は、
一般式
【化11】

または
【化12】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られるキラリティー分離用ゲルである。
【0008】
第3の発明は、
ゲルを用いた分析システムにおいて、
一般式
【化13】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られる親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルを用いることを特徴とするものである。
【0009】
第4の発明は、
ゲルを用いた分析システムにおいて、
一般式
【化14】

または
【化15】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られるキラリティー分離用ゲルを用いることを特徴とするものである。
【0010】
第5の発明は、
ゲルを用いた分析方法において、
一般式
【化16】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られる親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルを用いることを特徴とするものである。
【0011】
第6の発明は、
ゲルを用いた分析方法において、
一般式
【化17】

または
【化18】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られるキラリティー分離用ゲルを用いることを特徴とするものである。
【0012】
第1〜第6の発明の一般式中、Rとしては飽和または不飽和の直鎖または分岐鎖の炭素数8〜24の炭化水素基が挙げられるが、直鎖炭化水素基の好ましい例としてはラウリル基、ステアリル基、テトラデシル基等が挙げられ、分岐鎖炭化水素基の好ましい例としては、2−ヘキシルデシル基、2−デシルテトラデシル基、メチル分岐イソステアリル基等が挙げられる。また、炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換した基の好ましい例としては1H,1H,11H−エイコサフルオロウンデシル基、ヘプタフルオロデシル基、2−ペンタフルオロエチルペンタフルオロヘキシル基等が挙げられる。
【0013】
イオン性界面活性剤はアニオン性、カチオン性いずれでもよく特に制限はないが、アニオン性界面活性剤の具体例としては、硫酸ドデシルナトリウム、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、アルケニルコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸カリウム等が挙げられ、カチオン性界面活性剤の具体例としては、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、塩化ドデシルピリジニウム等が挙げられる。
さらに、有機アミン類としては、例えば、モノ、ジ、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、n−ブチルアミン等が挙げられる。
水溶性ビニルモノマーとしては、アクリルアミド、N−アセトアミドアクリルアミド、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等が挙げられ、架橋剤としては、メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコール、ジアクリレート等が挙げられる。
【0014】
この発明による親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルおよびキラリティー分離用ゲルは、上記のイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより合成される。
【0015】
ラジカル重合の開始方法については特に制限はなく、紫外線照射やアゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウム等の開始剤を用い、光または熱分解により重合を開始すればよい。重合反応は、例えば紫外線照射の場合5〜30分程度で終了し、この発明による親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルおよびキラリティー分離用ゲルが得られる。
【0016】
なお、この発明において使用されるイタコン酸ジエステルは、例えば、下記の反応式で示されるような2段階の反応で容易に合成される。
【化19】

【0017】
この発明による親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルおよびキラリティー分離用ゲルは、例えば塩化ナトリウム等の濃厚塩水溶液中に浸漬したり、低温、例えば−20℃程度に冷却したり、比較的高温、例えば80℃程度に加熱したりしても特に変化せず、非常に安定である。この安定性は、ゲル中においてイタコン酸ジエステルとイオン性界面活性剤および/または有機アミンとが形成するラメラ構造またはラメラ液晶が重合により固定化されているためであると考えられる。
第3〜第6の発明において、ゲルを用いた分析には、ゲル電気泳動、ゲル濾過、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等が含まれる。
【発明の効果】
【0018】
この発明による親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルまたはキラリティー分離用ゲルを用いてゲル電気泳動、ゲル濾過、ゲル浸透クロマトグラフィー等による分析を行うことにより、親水性化合物と疎水性化合物とを容易にかつ簡便に分離することができ、あるいは、互いにキラリティーが異なる化合物を容易にかつ簡便に分離することができ、これによってタンパク質、核酸、多糖類、アミノ酸、糖、脂質、薬物、抗生物質等の各種の化合物の分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
まず、この発明の一実施形態による親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルおよびキラリティー分離用ゲルの合成方法について説明する。以下においては、親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルを2分子膜固定化ゲル、キラリティー分離用ゲルをキラル2分子膜固定化ゲルと呼ぶ。
下記反応式に示すように、ドデカノールとイタコン酸無水物とを115℃で反応させ、ドデシルイタコン酸を得る。
【化20】

【0020】
次に、下記反応式に示すように、こうして得られたドデシルイタコン酸とグリシドールとをパラトルエンスルホン酸のピリジン塩触媒の存在下100〜105℃で反応させ、重合性界面活性剤であるイタコン酸n−ドデシル=グリセリル(DGI;n−C1225OCOCH2 C(=CH2 )COOCH2 CH(OH)CH2 −OH)を得る。
【化21】

【0021】
図1に示すように、こうして得られたイタコン酸n−ドデシル=グリセリルを水中に入れると2分子膜11が規則的に形成され、その規則的配列により可視光が回折されることで発色する。2分子膜11の各分子膜を構成するイタコン酸n−ドデシル=グリセリル分子は親水部と長い炭化水素鎖からなる疎水部とからなり、各分子膜の疎水部側が互いに対向している。
【0022】
次に、図2に示すように、この発色溶液に、アクリルアミドと架橋剤であるメチレンビスアクリルアミドと重合開始剤であるイルガキュア(Irgacure)2959とを共存させ、高圧水銀ランプによる紫外線を用いて光重合を行い、生成したゲル12中に発色構造、すなわち2分子膜11を固定化し、2分子膜固定化ゲルを合成する。
こうして得られた2分子膜固定化ゲルをゲル電気泳動、ゲル濾過、ゲル浸透クロマトグラフィー等の基材として用いて分析を行う。
【実施例1】
【0023】
2分子膜固定化ゲルを作製するための、重合性界面活性剤であるイタコン酸n−ドデシル=グリセリル(DGI)は、上記の非特許文献2〜4に従って次のように合成した。
まず、ドデカノール0.43モルをイタコン酸無水物0.44モルと、115℃で1時間反応させ、ドデシルイタコン酸を得た。さらに、このドデシルイタコン酸をシリカゲルカラム(Wakosil C-200,Wako)で精製し、減圧濃縮した。カラム溶媒としてヘキサン:アセトン=1 : 1 (重量比)を使用した。
次に、ドデシルイタコン酸0.017モルに脱水トルエン10ml、グリシドール0.051モル、パラトルエンスルホン酸のピリジン塩39.7μモルを触媒として加え、撹拌しながら100〜105℃で5時間反応させた。
【0024】
反応後、減圧濃縮によりトルエンを除去した。さらに、これをシリカゲルカラムを使って精製した。溶媒としてヘキサン:酢酸エチル=4: 6 (重量比)を使った。その後、減圧濃縮を行い、ヘキサン、酢酸エチルを除去して真空乾燥させてDGIを得た。
ゲル電気泳動に用いる2分子膜固定化ゲルは、以下のように作製した。アクリルアミドを12重量%、架橋剤としてメチレンビスアクリルアミド(BIS)を0.08重量%、Tris緩衝液を4.5重量%、DGIを1.9重量%、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)をDGIの0.5モル%(DGIが規則的な2分子膜構造を形成するために微量のイオン性界面活性剤が必要) 、光重合開始剤としてイルガキュア2959を微量添加し混合したもの(水の含有量は81.2重量%)を、アルゴンを通して脱気した後、50〜55℃の温浴に4時間置いて、規則的な2分子膜構造(ラメラ構造またはラメラ液晶)を得た。次に、この溶液に超音波照射(15分、20kHz)して溶液を均一にした。その後、このモノマー溶液を2枚の石英板(8.0×8.4cm、間隔1mm)の間に注ぎ、高圧水銀ランプ(500W、365nm)を使って紫外線(UV)を10分照射(UV装置一式:SEN LIGHTS Corporation)して重合させて、ゲル電気泳動に使用する2分子膜固定化ゲルを得た。
図3に、こうして得られた2分子膜固定化ゲルの走査型電子顕微鏡写真を示す。同図より、2分子膜が規則的に配列しているのが良く分かる。
【0025】
こうして得られた2分子膜固定化ゲルを使用し、以下の条件でゲル電気泳動を行った。ゲル電気泳動装置は、市販のBIO CRAFT 社製, BE-230型を使用した。電気泳動は定電圧(約150V)で行い、ランニングバッファーとして、Tris0.3%、グリシン0.146%のものを使用した。
3種類の色素にゲル電気泳動分析を適用した。使用した色素サンプルはBromphenol Blue (BPB)(青、C19105 Br4 S、分子量669.97)
【化22】

と、Disodium Fluorescein(黄色、C20105 Na2 ・2H2 O、分子量412.31)
【化23】

と、Sulforhodamine 640(ピンク、C31302 7 2 、分子量606.72)
【化24】

である。サンプルを作製するバッファーは、0.25M Tris−HCl5mlとスクロース1gとを混合して希釈し全量20mlにして、それぞれの色素を0.04%になるように添加した。また、電気泳動は1レーンにつき20μlずつ重層した。
図4に電気泳動を開始してから30分経過後および75分経過後の分析結果を示す。
【0026】
比較例1として、2分子膜を含まない、通常のゲル電気泳動を行うためのゲルを次のように作製した。アクリルアミドを1.8g、架橋剤としてBISを12mg、1.5MのTrisをHClでpH8.8に調節した緩衝液を3.75ml、SDSを15mg、重合開始剤として10%APSを60μl、重合促進剤としてTEMEDを20μl混合して全量を15mlにしてモノマー溶液を作製した。このモノマー溶液を、2枚の石英板(8.0×8.4cm、間隔1mm)の間に注ぎ、室温でゲルが固まるまで約1時間放置して重合させ、ゲル電気泳動に使用する通常のゲルを得た。
こうして得られたゲルを使用して、以下の条件でゲル電気泳動を行った。ゲル電気泳動装置は、市販のBIO CRAFT 社製, BE-230型を使用した。電気泳動は定電圧(約150V)で行い、ランニングバッファとして、Tris0.3%、グリシン0.146%、SDS0.1%を使用した。
実施例1と同様な3種類の色素にゲル電気泳動分析を適用した。
図5に電気泳動を開始してから30分経過後および75分経過後の分析結果を示す。
【0027】
図5より、比較例1で分析された色素は、アクリルアミドゲル中をDisodium Fluorescein、Sulforhodamine 640、Bromphenol Blue の順、すなわち分子量の小さい順に速く流れていくことが分かる。これに対し、図4より、2分子膜固定化ゲルを用いた実施例1の結果は、Disodium Fluorescein、Bromphenol Blue 、Sulforhodamine 640の順に速く流れており、比較例1の結果とは一致しない。また、実施例1の結果は、比較例1におけるアクリルアミドゲル電気泳動と比較して、分離のされ方が顕著であり分離能が高いことは明らかである。これらの結果は、従来のゲル電気泳動分析法では、分子の大きさあるいは分子量による分離のみが可能であったのに比較して、この2分子膜固定化ゲルを用いたゲル電気泳動分析法では、分子の親水性/疎水性という特性によって分離ができることを示している。具体的には、この場合、Disodium Fluorescein、Bromphenol Blue 、Sulforhodamine 640の順に親水性が高いと考えられる。
【実施例2】
【0028】
キラル2分子膜固定化ゲルを作製するための、キラル重合性界面活性剤である(R)−(+)−イタコン酸n−ドデシル=グリセリル((R)−(+)−DGI)
【化25】

および(S)−(−)−イタコン酸n−ドデシル=グリセリル((S)−(−)−DGI)
【化26】

は、次のように合成した。
【0029】
まず、ドデカノール0.43モルをイタコン酸無水物0.44モルと、115℃で1時間反応させ、粗ドデシルイタコン酸を得た。さらに、このドデシルイタコン酸をシリカゲルカラム(Wakosil C-200,Wako)で精製し、減圧濃縮した。カラム溶媒としてヘキサン:アセトン=1 : 1 (重量比)を使用した。
次に、ドデシルイタコン酸0.017モルに脱水トルエン10ml、光学活性体である(R)−(+)−グリシドールまたは(S)−(−)−グリシドール0.051モル、パラトルエンスルホン酸のピリジン塩39.7μモルを触媒として加え、撹拌しながら100〜105℃で5時間反応させた。
【0030】
反応後、上記2種の反応液の各々より、減圧濃縮によりトルエンを除去した。さらに、これをシリカゲルカラムを使って精製した。溶媒としてヘキサン:酢酸エチル=4: 6 (重量比)を使った。その後、減圧濃縮を行い、ヘキサン、酢酸エチルを除去して真空乾燥させてキラルDGI((R)−(+)−DGIおよび(S)−(−)−DGI)を得た。
ゲル電気泳動に用いるキラル2分子膜固定化ゲルは、以下のように作製した。アクリルアミドを700mM、架橋剤としてBISを10mM、DGIを1.0〜3.0重量%、SDSをDGIの0.5モル%、光重合開始剤としてイルガキュア2959または過酸化水素水を微量添加し混合したものを、アルゴンを通して脱気した後、55℃の温浴に5時間置いて、規則的な2分子膜構造を得た。その後、このモノマー溶液を、高圧水銀ランプ(500W、365nm)を使って紫外線を20分照射(UV装置一式:ウシオ電機株式会社)して重合させて、ゲル電気泳動に使用するキラル2分子膜固定化ゲルを得た。
【0031】
比較例としてのラセミ体であるDGI溶液(図6)と、キラルDGI溶液(図7)とでは、同濃度において色の違いが観察された。すなわち、1.8重量%DGI溶液において、ラセミ体の場合は青色であるのに対して、キラル体の場合は緑色を示した。この結果は、キラル体の場合、ラセミ体より二分子膜を形成している分子間距離が狭い、つまり密に二分子膜形成分子(DGI)が並んでいることによると考えられる。
【0032】
以上のように、この一実施形態による2分子膜固定化ゲルを基材としてゲル電気泳動、ゲル濾過、ゲル浸透クロマトグラフィー等により分析を行うことにより、分子の大きさに加えて親水性/疎水性により分析を行うことができる。このため、例えば、従来のゲル電気泳動分析では分析できなかった、水に不溶性または難溶性の生体分子、例えば膜タンパク質の分析を行うことが可能となる。また、キラル2分子膜固定化ゲルを基材としてゲル電気泳動、ゲル濾過、ゲル浸透クロマトグラフィー等により分析を行うことにより、分子のキラリティー、すなわち光学活性による分析が可能となる。そして、これらの分析方法により、タンパク質、核酸、多糖類、アミノ酸、糖、脂質、薬物、抗生物質等の各種の化合物の分析を行うことができる。
【0033】
これらの2分子膜固定化ゲルおよびキラル2分子膜固定化ゲルを用いた分析方法は各種用途に利用することができる。すなわち、ゲル電気泳動では、血液検査、生化学分析、家庭用診断キット、ゲノム解析等に利用することができる。ゲル浸透クロマトグラフィーでは、合成高分子分析、生体高分子分析等に利用することができる。ゲル濾過では、食品中のタンパク質の分析、香料のキラリティーによる分析に利用することができる。
【0034】
ここで、2分子膜固定化ゲル中を水に不溶性の膜タンパク質が移動する機構は現在解明中であるが、考えられる一つのモデルを図8に示す。図8に示すように、2分子膜固定化ゲル中の2分子膜に膜タンパク質分子の疎水部が埋め込まれ、その状態を保ちながら2分子膜中を移動するものと考えられる。言い換えると、膜タンパク質分子はいわば2分子膜に溶けて移動するものと考えられる。
【0035】
以上、この発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた数値、プロセス等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、プロセス等を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の一実施形態による2分子膜固定化ゲルに含まれる2分子膜を示す略線図である。
【図2】この発明の一実施形態による2分子膜固定化ゲルを示す略線図である。
【図3】この発明の実施例1による2分子膜固定化ゲルを示す図面代用写真である。
【図4】この発明の実施例1において行ったゲル電気泳動による分析結果を示す図面代用写真である。
【図5】比較例1において行ったゲル電気泳動による分析結果を示す図面代用写真である。
【図6】ラセミ体であるDGI溶液を示す図面代用写真である。
【図7】この発明の実施例2において得られたキラルDGI溶液を示す図面代用写真である。
【図8】膜タンパク質が2分子膜中を移動する機構のモデルを説明するための略線図である。
【図9】従来の電気泳動分析方法を説明するための略線図である。
【符号の説明】
【0037】
11…2分子膜、12…ゲル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られる親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲル。
【請求項2】
一般式
【化2】

または
【化3】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られるキラリティー分離用ゲル。
【請求項3】
ゲルを用いた分析システムにおいて、
一般式
【化4】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られる親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルを用いることを特徴とする、ゲルを用いた分析システム。
【請求項4】
ゲルを用いた分析システムにおいて、
一般式
【化5】

または
【化6】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られるキラリティー分離用ゲルを用いることを特徴とする、ゲルを用いた分析システム。
【請求項5】
ゲルを用いた分析方法において、
一般式
【化7】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られる親水性化合物/疎水性化合物分離用ゲルを用いることを特徴とする、ゲルを用いた分析方法。
【請求項6】
ゲルを用いた分析方法において、
一般式
【化8】

または
【化9】

(式中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基または炭素数8〜24の炭化水素基の水素の一部をフッ素で置換したものを示す)
で表されるイタコン酸ジエステルを0.5〜20重量%、イオン性界面活性剤および/または有機アミンを0.005〜0.2重量%、水溶性ビニルモノマーを0.5〜30重量%、架橋剤を0.05〜5重量%含有する水溶液において、ラジカル重合を行うことにより得られるキラリティー分離用ゲルを用いることを特徴とする、ゲルを用いた分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−56982(P2006−56982A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239904(P2004−239904)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】