説明

親水性官能基を有するフルオロカーボンポリマー組成物およびその調製方法

【課題】親水性が向上し科学的に安定である親水性基含有フルオロカーボンポリマー組成物が提供されることが望まれている。さらに、そのような組成物が、フルオロカーボンポリマー前駆物質から合成され、架橋されることが可能であることが望まれる。
【解決手段】式:−[R−T−CH−T−R”−T−CH−T−[R−の親水性官能基を有し、それぞれのR基を介して式:


のフルオロカーボンポリマー組成物のCYと共有結合している架橋フルオロカーボンポリマー組成物(Aは、フッ素含有重合性モノマー;nは0〜2の整数;mは1以上の整数;Yは水素又はフッ素であり;Tはカルボニルであり;Rはフルオロポリマー基であり親水性官能基を有する前記フルオロカーボンポリマー組成物の別の鎖と任意に結合する)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性官能基を有するフルオロカーボンポリマー組成物に関し、より詳細には親水性官能基を有する分岐フルオロカーボンポリマー組成物または親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物と、親水性官能基を有する分岐フルオロカーボンポリマー組成物または架橋フルオロカーボンポリマー組成物の生成方法とに関する。
【0002】
(従来技術の説明)
フルオロカーボンポリマー組成物から作製された物品は、化学的に不活性であるために多種多様の環境で有用である。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレン−プロピレンコポリマー(FEP)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフルオロカーボンポリマー組成物は、反応性の高い試薬が使用される用途でよく使用され、フィルム、膜、ビーズ、管、繊維、織物、中空繊維などの種々の形状に成形される。
【0003】
フルオロカーボンポリマー組成物の短所の1つは、ポリマー鎖上の親水性官能基が不足しているために表面エネルギーが比較的低くなり、そのため疎水性であることである。したがって、このようなポリマーから作製した物品は、水、水性流体、または物品の表面エネルギーよりも大きな表面張力を有するその他の流体に対して反発性を示す。この性質のために、物品と流体が密接に接触することが望ましい用途の場合に、物品表面と比較的高い表面張力を有する流体との間の接触不十分となる場合がある。このように接触が不十分であるか、あるいは表面と流体の間に密接な接触が起らなと、これらの用途に使用される場合の物品表面のぬれ性が望ましくないほど低くなりまたはぬれ性の欠除となることがある。
【0004】
化学的に不活性なフルオロカーボンポリマー組成物などの疎水性フルオロカーボンポリマー組成物の表面がより親水性とすることが望ましい。例えば、フルオロカーボンポリマー組成物の繊維から作製されたメッシュあるいは織物または不織布は、吸収性織物の作製に使用される場合など一部の用途では、より親水性であることが望ましい。さらに、電気分解、透析、燃料電池、または塩素アルカリ電池に使用される非多孔質イオン交換フィルム膜などに使用されるその他のフルオロカーボンポリマー組成物をイオン性にしてさらに親水性をより高くすることが望ましく、それによって、処理される水性媒体とフィルムまたは膜の表面との間の接触をより密接にすることができる。より親水性の高いフルオロカーボンポリマー組成物から作製したこの種のフィルム膜は、フィルム全体を通過するイオン輸送も促進され、処理がより効率的になる。
【0005】
モヤ(Moya)に付与された米国特許第5,928,792号、ベネズラ(Benezra)らに付与された第4,470,859号、およびマルーク(Mallouk)らに付与された第4,902,308号では、表面の親水性を高くするためにスルホン酸基含有パーフルオロカーボンコポリマー組成物を使用して基材表面を改質する方法が提案されている。表面の親水性は高くなるが、スルホン酸基含有パーフルオロカーボンコポリマー組成物の熱安定性が低下する。スルホン酸基含有パーフルオロカーボンコポリマー組成物は、約150℃で激しく分解し始める。
【0006】
ハウエルズ(Howells)らに付与された米国特許第5,874,616号は、二官能性フルオロアルキレンスルホンアミド化合物を二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンスルホニル化合物と反応させることによって線状ポリマーのビス(フルオロアルキレンスルホニル)イミドを合成する方法を開示している。この方法ではポリマーの合成に低分子量反応体を使用するため、最終線状ポリマー組成物の分子量分布の制御が困難であり、望ましくない。さらに、この線状ポリマービス(フルオロアルキレンスルホニル)イミドは架橋させることができない。
【0007】
デスマルトー(Desmarteau)に付与された米国特許第5,463,005号は、テトラフルオロエチレン(TFE)と、スルホンイミド含有不飽和モノマーのコポリマーの合成方法を開示しており、このモノマーはスルホンイミド含有試薬から誘導されるモノマーである。TFEは毒性試薬であるため、その使用は望ましくない。さらに、この方法では低分子量不飽和モノマーを使用するため、最終ポリマー組成物の分子量分布の制御が困難である。
【0008】
シマゾ(Shimazo)はJ.Electroanal.Chem.258(1998)pp.49−59において、ナフィオン(Nafion)(商標)フィルムなどのパーフルオロカーボンコポリマー組成物を高周波プラズマで架橋させる方法を提案している。プラズマによる架橋は、架橋基を導入せずに実施される。2つのポリマー鎖を連結する結合が生じることで架橋が起こる。残念ながら、パーフルオロカーボンコポリマー組成物はプラズマなどの電離放射線によって分解してしまう。
【0009】
グレソ(Greso)らはPOLYMER vol.38 No.6(1997),pp.1345−1356において、ナフィオン(商標)フィルムなどのパーフルオロカーボンコポリマー組成物をSi−O−Si架橋によって架橋させる方法を提案している。この生成物は結合した無機相を含み、これは化学的に不安定であるので、この方法は望ましくない。
【0010】
コビッチ(Covitch)らはPolymer Science and Technology Vol.16,pp.257−267(1982)において、エチレンジアミンを使用し加熱することによって、ナフィオン(商標)フィルムなどのパーフルオロカーボンコポリマー組成物を架橋させる方法を提案している。生成物化学的に不安定な非フッ素化エチレン部分を含有するため、この方法は望ましくない。
【0011】
国際特許出願PCT/CA99/38897号は、スルホニル基を含有するフッ素化架橋ポリマー組成物を開示している。
【0012】
親水性が向上し化学的に安定である親水性官能基含有フルオロカーボンポリマー組成物が提供されることが望まれている。さらに、そのようなポリマー組成物が、フルオロカーボンポリマー前駆物質から合成され、架橋させることが可能であることが望まれる。
【0013】
(発明の開示)
本発明は、(好ましくは過フッ素化された)フルオロカーボンポリマー前駆物質によって形成される親水性官能基を有する(好ましくは過フッ素化された)分岐フルオロカーボンポリマー組成物を提供する。さらに本発明は、フルオロカーボンポリマー前駆物質により形成されるフッ素化架橋基によって架橋し、熱的および化学的に安定であり、そのフルオロカーボンポリマー前駆物質よりも親水性を高くすることが可能な、親水性官能基を有する(好ましくは過フッ素化された)架橋フルオロカーボンポリマー組成物を初めて提供する。イオン性分岐フルオロカーボンポリマー組成物とイオン性架橋フルオロカーボンポリマー組成物も提供する。本発明は、フルオロカーボンポリマー前駆物質を化学修飾することによって、親水性が向上し化学的に安定である分岐または架橋フルオロカーボンポリマー組成物を合成することができるという発見が本発明の基礎となっている。
【0014】
実施形態の1つでは、本発明は、パーフルオロ架橋基によって架橋した、架橋パーフルオロカーボンポリマー組成物を提供する。これらの架橋パーフルオロカーボンポリマー組成物は、過フッ素化連結部分によって過フッ素化され架橋するため化学的に安定であり、水酸化アンモニウムなどの塩基、過酸化水素やオゾンなどの酸化剤、および水を含有しpHが約9を超える液体組成物、例えば電子部品の製造中に使用されるSC1などの特殊洗浄(SC)溶液などの反応性の高い試薬と接触することによって起こる分解に対して安定である。対照的に、非過フッ素化有機基を含有する架橋部分の場合は、これらの試薬と接触することによって分解し始め、これらの化学架橋が破壊され、それによって架橋ポリマーは本来の架橋度が失われる。
【0015】
本発明の態様の1つでは、親水性官能基を有する新規分岐フルオロカーボンポリマー組成物を提供する。この親水性官能基の少なくとも1つは、式:
【0016】
【化13】

のスルホニル含有基またはカルボニル含有基であり、この基は式:
【0017】
【化14】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基とR基を介して共有結合する分岐鎖または側基である(式中、Aは少なくとも1種類のフッ素含有重合性モノマーから誘導されるポリマー基であり、nは0、1、あるいは2以上となりうる整数であり;mは1以上の整数であり、Yは水素またはハロゲンであり少なくとも1つのYはフッ素であり;Tはカルボニル基またはスルホニル基であり;Rは、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、Zはプロトンあるいは有機または無機陽イオンであり、tは0または1となることができ;LはC、CH、またはNであり;EはR’T−またはR’−であり;GはR’T−またはRであり、式中、Rは水素あるいは置換または未置換アルキル基またはアリール基であり、R’は、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基である。)。
【0018】
本発明の態様の1つでは、親水性官能基を有する新規分岐フルオロカーボンポリマー組成物を提供する。この親水性官能基の少なくとも1つは、式:
【0019】
【化15】

(式中、L’はC−またはCHであり、L”はHまたは−TR”であり、R”は、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、T、Z、t、Rは前出の定義の通りである。)、または
【0020】
【化16】

で表される(この親水性官能基は式:
【0021】
【化17】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基とR基を介して共有結合する分岐鎖または側基であり、式中、A、Y、R、T、R、R’、Z、n、m、およびtは前出の定義の通りである。)。
【0022】
本発明の態様の1つでは、式:
【0023】
【化18】

のスルホンイミド組成物などの式(1c)の親水性官能基を有する分岐フルオロカーボンポリマー組成物は、式:
−[R−T−X (3)
(式中、Xはフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素などのハロゲンであり、TおよびRは前出の定義の通りである。)を有する少なくとも1つのハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、式:
’−T−NRR’ (4)
(式中、R’は水素あるいは置換または未置換アルキル基またはアリール基であり、T、R、およびR’は前出の定義の通りである。)の置換または未置換アミドまたはスルホンアミド含有反応体と反応させることによって調製される。あるいは、式:
【0024】
【化19】

(式中、T、R、R’、およびZは前出の定義の通りである。)のアミドまたはスルホンアミド含有反応体の有機または無機塩、または反応体(4)と(5)の混合物を使用することもできる。
【0025】
本発明の別の態様では、本発明の親水性官能基を有する分岐フルオロカーボンポリマー組成物は、式
−[R−T−NRR’ (6)
(式中、R、t、T、R’、およびR’は前出の定義の通りである。)を有する少なくとも1つの置換または未置換アミドまたはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を反応させることによって調製されるか、あるいは式:
【0026】
【化20】

(式中、R、t、T、R、およびZは前出の定義の通りである。)を有するアミドまたはスルホンアミド基の有機塩または無機塩、あるいはそれらの混合物を使用して、式:
−T−X (8)
(式中、T、R’、およびXは前出の定義の通りである。)のハロゲン化スルホニル含有またはハロゲン化カルボニル含有反応体と反応させることができる。アミドまたはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質は、ハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質のハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を無水アンモニアと反応させることによって調製することができる。
【0027】
本発明の別の態様では、スルホニルまたはカルボニル含有基を有する連結架橋または架橋がポリマー鎖と連結している(ポリマー鎖のループ連結部分を含んでもよい)本発明の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボン(例えばパーフルオロカーボン)ポリマー組成物が提供され、このような組成物としては、式:
【0028】
【化21】

が、式:
【0029】
【化22】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基とR基を介して共有結合した組成物が挙げられる(式中、Aは少なくとも1種類のフッ素含有重合性モノマーから誘導されるポリマー基であり、nは0、1、あるいは2以上となりうる整数であり;mは1以上の整数であり、Yは水素またはハロゲンであり少なくとも1つのYはフッ素であり;Tはカルボニル基またはスルホニル基であり;Rは、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、Zはプロトンあるいは有機または無機陽イオンであり;tは0または1となることができ;LはC、CH、またはNであり;E’は−TR”T−または−R’−であり;GはR’T−またはRであり;R’は、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり;R”は、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、任意に親水性官能基を有するフルオロカーボンポリマー組成物の別の鎖と結合し、Rは水素あるいは置換または未置換アルキル基またはアリール基である。)。
【0030】
本発明の別の態様では、連結架橋または架橋がポリマー鎖と連結している(ポリマー鎖のループ連結部分を含んでもよい)本発明の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボン(例えばパーフルオロカーボン)ポリマー組成物が提供される。このような組成物としては、式:
【0031】
【化23】

(式中、L’はC−またはCHであり、L”はHまたは−TR”であり、T、Z、t、R、およびR”は前述の通りである。)または
【0032】
【化24】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基と各R基で共有結合した組成物が挙げられる。
【0033】
【化25】

(式中、A、Y、n、m、R”およびR”’は同種でも異種でもよく、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基を表すことができ、親水性官能基を有するフルオロカーボンポリマー組成物の別の鎖と任意に結合することができ;T、t、R、およびRは前述の定義の通りである。)
【0034】
本発明の別の態様では、式:
【0035】
【化26】

のスルホンイミド組成物などの式(9c)の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物は、式:
−[R−T−X (3)
(式中、R、T、およびXは前述の定義の通りである。)を有する少なくとも1つのハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、式:
【0036】
【化27】

(式中、T、R、R’、R’、R”、R”’、n、およびZは前述の定義の通りである。)を有する反応体、またはそれらの混合物などの少なくとも2つの置換または未置換アミドまたはスルホンアミド基を含有する反応体と反応させることによって調製される。
【0037】
あるいは、反応体(3)の少なくとも1つのハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質は、前出の定義の反応体(6)または(7)の少なくとも1つのアミドまたはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質と反応させることもできる。
【0038】
本発明の別の態様では、本発明の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物は、式:
−[R−T−NRR’ (6)
(式中、R、t、R’、およびR’は前述の定義の通りである。)を有する少なくとも1つの置換または未置換アミドまたはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質、または式:
【0039】
【化28】

(式中、R、T、R、Z、およびtは前述の定義の通りである。)を有する上記アミドまたはスルホンアミド基の有機または無機塩を、式:
【0040】
【化29】

(式中、T、R”、R”’、n、X、およびZは前述の定義の通りである。)を有する組成物などの少なくとも2つのハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を含有する反応体と反応させることによって調製される。アミドまたはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質は、ハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質のハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を無水アンモニアと反応させることによって調製することができる。
【0041】
本発明の親水性官能基を有する分岐フルオロカーボンポリマー組成物は、重合中に制御が困難な重合性不飽和モノマーの使用を回避しながら、既存のフルオロカーボンポリマー前駆物質を修飾することによって調製される。さらに、本発明の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物は、アルコールなどの溶剤中での膨潤が未架橋ポリマーの場合よりも少なく、そのため、膜を介する望ましくない物質移動が実質的に減少したイオン特性を備えながら、膜を介する望ましいイオン移動は維持される燃料電池膜として有用となる。
【0042】
(具体的な実施形態の説明)
親水性官能基を有する分岐または架橋フルオロカーボンポリマー組成物の調製に使用される代表的なフルオロカーボン(好ましくは過フッ素化された)ポリマー前駆物質としては、一般にパーフルオロカーボンポリマー組成物として知られるポリマー組成物が挙げられ、例えば、E.I.デュポン・ド・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I.Dupont de Nemours and Company,Inc.)より商品名ナフィオン(NAFION)(登録商標)として、または旭硝子(Asahi Glass Company,Limited)より商品名フレミオン(FLEMION)(登録商標)として販売されている。
【0043】
本発明で有用なフルオロカーボンポリマー前駆物質は、式:
【0044】
【化30】

で定義される(式中のAは、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、トリフルオロスチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、テトラフルオロエチレン、CF=CF(OCF)OCFOやCF=CFOC(CFOなどの環状モノマー、およびそれらの混合物などの少なくとも1種類のフッ素含有重合性モノマーから誘導されるポリマー基である。Yは水素またはハロゲンであり、少なくとも1つのYはフッ素であり、すべてのYがフッ素であることが好ましい。Bはハロゲン化スルホニル官能基または基、あるいはハロゲン化カルボニル官能基または基であり、これはスルホン酸基またはその塩、アミド基またはスルホンアミド基、カルボン酸基またはその塩などのハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基に転化させることができ;nおよびpは0、1または2以上の整数であり;mは1以上の整数であり、Rは前出の定義の通りである。)。
【0045】
有用なフルオロカーボンポリマー前駆物質としては、フッ化スルホニル基を含有する1種類以上のモノマーを含有するポリマーを挙げることができ、これらは米国特許第3,282,875号、第3,041,317号、第3,560,568号、第3,718,627号に開示されており、これらの記載内容を本明細書に援用する。パーフルオロカーボンポリマー組成物の調製方法は、米国特許第3,041,317号、第2,393,967号、第2,559,752号、および第2,593,583号に開示されており、これらの記載内容を本明細書に援用する。これらのパーフルオロカーボンポリマー組成物は、SOFを主部分とするペンダント官能基を一般に有する。
【0046】
スルホニル系官能基を含有するパーフルオロカーボンポリマー組成物の例は、米国特許第3,282,875号、米国特許第3,560,568号、および米国特許第3,718,627号に開示されており、これらの記載内容を参照により本明細書中に取込む。
【0047】
好適なフッ化スルホニル含有モノマーの例としては、
【0048】
【化31】

が挙げられる。
【0049】
その他の好適なフルオロカーボンポリマー前駆物質は、ハロゲン化スルホニル官能基またはハロゲン化カルボニル官能基は存在しないが、ポリマーの生成前または後にハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を含有するように修飾することができる1種類以上のモノマーを含有するポリマーである。このような種類の好適なモノマーとしては、トリフルオロスチレン、トリフルオロスチレンスルホン酸などが挙げられる。
【0050】
カルボニル系ペンダント官能基を有するフルオロカーボンポリマー前駆物質は、米国特許第4,151,052号または日本国公開特許公報特開昭52−038486号(これらの記載内容を参照により本明細書中に取込む。)などに従って任意の好適な従来方法で調製することができるし、あるいは米国特許第4,151,051号(この記載内容を参照により本明細書中に取込む。)に示されるような方法によってスルホニル基含有モノマーから誘導されるモノマーを含有するカルボニル官能基から重合することもできる。カルボニル含有モノマーの例としては、
【0051】
【化32】

が挙げられる。
【0052】
好ましいカルボニル含有モノマーとしては、
【0053】
【化33】

が挙げられる。
【0054】
特に好適なフルオロカーボンポリマー前駆物質は、テトラフルオロエチレンと式:
【0055】
【化34】

を有するモノマーとのコポリマーである。
【0056】
スルホン酸の形態のフルオロカーボンポリマー前駆物質は、1段階または2段階の工程で、ハロゲン化スルホニルまたはハロゲン化カルボニルの形態のフルオロカーボンポリマー前駆物質に転化させることができる。1段階工程では、スルホン酸の形態のフルオロカーボンポリマー前駆物質をPClおよびPOClと反応させて、米国特許第4,209,367号(この記載内容を参照により本明細書中に取込む。)などに記載されるような塩化スルホニル形態のフルオロカーボンポリマー前駆物質を生成することができる。フッ化スルホニルの形態が望ましい場合は、塩化スルホニル形態をKFと反応させると、2段階でフッ化スルホニル形態のフルオロカーボンポリマー前駆物質が生成する。前述したように、塩化スルホニルとフッ化スルホニルの両方を本発明の方法に使用することができる。
【0057】
親水性官能基を有する分岐または架橋フルオロカーボンポリマー組成物を生成するための本発明の方法に使用されるフルオロカーボンポリマー前駆物質は、特定の当量に制限する必要はなく、任意の当量を有する任意のポリマー前駆物質を使用することができる。一般に、フルオロカーボンポリマー前駆物質の当量は約150〜約2000であり、より一般的には約280〜約1500である。フルオロカーボンポリマー前駆物質の当量は、ポリマーの式(13)の平均分子量をポリマー中に存在する官能基Bの総数で割った値である。
【0058】
本発明の態様の1つでは、親水性官能基を有する新規分岐フルオロカーボンポリマー組成物を提供する。この親水性官能基の少なくとも1つは、式:
【0059】
【化35】

のスルホニル含有基またはカルボニル含有基であり、この基は式:
【0060】
【化36】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基とR基を介して共有結合する分岐鎖または側基である(式中、Aは少なくとも1種類のフッ素含有重合性モノマーから誘導されるポリマー基であり、nは0、1、あるいは2以上となりうる整数であり;mは1以上の整数であり、Yは水素またはハロゲンであり少なくとも1つのYはフッ素であり;Tはカルボニル基またはスルホニル基であり;Rは、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、Zはプロトンあるいは有機または無機陽イオンであり、tは0または1となることができ;LはC、CH、またはNであり;EはR’T−またはR’−であり;GはR’T−またはRであり、R’は、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、Rは水素あるいは置換または未置換アルキル基またはアリール基である。)。
【0061】
式(1)の親水性官能基を有する代表的な分岐フルオロカーボンポリマー組成物としては、
【0062】
【化37】

(式中、L’はC−またはCHであり、L”はHまたは−TR”であり、T、Z、t、およびRは前出の定義の通りであり、R”は、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基である。)、
【0063】
【化38】

(式中、T、R、R’、R、Z、およびtは前出の定義の通りである)が挙げられる。
【0064】
式(1a)の化合物は、官能基(R’SO−2(Z+2)または(R’CO)−2(Z+2)を含有する化合物を、少なくとも1つのハロゲン化スルホニルまたはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質と反応させるか、あるいは式−[RSO−2(Z+2)SO’または−[RC(O)C−2(Z+2)COR’の化合物を、式R’SOXまたはR’COXの化合物と反応させることによって合成される。式(R’SO−2(Z+2)、(R’CO)−2(Z+2)、および−[RSO−2(Z+2)SO’、または−[RC(O)C−2(Z+2)COR’の化合物は、米国特許第2,732,398号(この記載内容を参照により本明細書中に取込む)に記載される方法によって、対応するビススルホニルメタンまたはカルボニルメタンをハロゲン化アルキルマグネシウムと反応させることによって調製することができる。好適な式(R’SO−2(Z+2)の化合物としては、(CFSO)[CF(CFSO]C−22MgCl、(CFSO−22MgClなどが挙げられる。好適な式(R’CO)−2(Z+2)の化合物としては、(CFCO)[CF(CFCO]C−22MgCl、(CFCO)−22MgClなどが挙げられる。
【0065】
式(1b)の化合物は、少なくとも1つのハロゲン化スルホニルまたはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、CF(CFNH、CFNHなどの式R’NHRを有する化合物と反応させることによって合成される。
【0066】
本発明の態様の1つでは、親水性官能基を有する新規分岐フルオロカーボンポリマー組成物を提供する。ここにおいて式(1d):
【0067】
【化39】

の少なくとも1つの親水性スルホニルイミド官能基は、式:
【0068】
【化40】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基とR基を介して共有結合する分岐鎖または側基である(式中、A、Y、n、m、R、R’、t、およびZは前出の定義の通りである。)。
【0069】
好適なR基の代表例としては、−[OCFCF]−、−[OCFCF(CF)OCFCF]−、−[(CFSO(Na)SO(CF]−などが挙げられる。好適なR’基の代表例としては、−CF、−C、−CH、−C、−C17、−[OCFCF(CF)O(CFSO(H)SOCF]、−CFCOF、−CFCOOHなどが挙げられる。代表的なイミドまたはスルホンイミド含有フルオロポリマー基、あるいはイミドまたはスルホンイミド基の有機または無機塩は、式(10)、(11)、および(12)の化合物から生成することができる。好適なZ基の代表レンとしては、プロトン、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属イオン、アンモにウ無機やトリエチルアンモニウム基などの有機陽イオンが挙げられる。
【0070】
本発明の態様の1つでは、本発明の親水性官能基を有する分岐フルオロカーボンポリマー組成物は、式:
−[R−T−X (3)
(式中、Xはフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素などのハロゲンであり、T、t、およびRは前出の定義の通りである。)を有する少なくとも1つのハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、式:
’−T−NRR’ (4)
(式中、RおよびR’は水素あるいは置換または未置換アルキル基またはアリール基であり、TおよびR’は前出の定義の通りである。)の置換または未置換アミドまたはスルホンアミド含有反応体、あるいはそれらの混合物と反応させることによって調製される。あるいは、式:
【0071】
【化41】

(式中、T、R、R’、およびZは前出の定義の通りである。)を有するアミドまたはスルホンアミド含有反応体の有機または無機塩、または反応体(4)と(5)の混合物を使用することもできる。
【0072】
フルオロカーボンポリマー前駆物質と、置換または未置換アミドまたはスルホンアミド含有反応体あるいはそれらの塩との反応は、フルオロカーボンポリマー前駆物質のハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基と、アミドまたはスルホンアミド含有反応体のアミド基またはスルホンアミド基との間の縮合機構によって進行し、それによってハロゲン化物含有副産物が遊離すると考えられる。ハロゲン化物含有副産物を捕捉し結合させるために一般に非求核性塩基が使用され、それによって親水性官能基を有する分岐フルオロカーボンポリマー組成物の生成反応を進行させることができる。式(4)の置換または未置換アミドまたはスルホンアミド含有反応体に関しては、以下のスキーム1に従って反応が進行すると考えられる。
【0073】
【化42】

式中、Qは非求核性塩基であり、RQおよびR’Qは非求核性塩基から誘導される陽イオンであり、T、R、R’、X、R、R’、およびtは前出の定義の通りである。
【0074】
ハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を有するフルオロカーボンポリマー前駆物質と、置換または未置換アミドまたはスルホンアミド含有反応体またはその塩との反応は、固体、溶媒膨潤形態、または溶液中のフルオロカーボンポリマー前駆物質と、固体、液体、または気体の状態の好適な反応体とを使用することによって実施することができる。フルオロカーボンポリマー前駆物質が固体の場合は、反応は無水条件において、フルオロカーボンポリマー前駆物質を、出発反応体に対して非反応性である溶媒中の置換または未置換アミドまたはスルホンアミド含有反応体あるいはそれらの塩と接触させことによって行われる。好適な溶媒の代表例としては、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの無水極性非プロトン性溶媒、クロロホルムなどのハロゲン化溶媒などが挙げられる。反応のハロゲン化物含有副産物を捕捉するために、有機非求核性塩基の存在下で反応が行われる。好適な非求核性塩基の代表例としては、トリエチルアミン、トリメチルアミンなどのアルキルアミン、ピリジン類、アルキルピリジン、アルキルピペリジン、N−アルキルピロリジンなどが挙げられる。非求核性塩基が反応媒体として機能する場合など反応体が互いに相互作用するのに十分な移動性を有する条件下では、溶媒を使用せずに反応を実施することができる。その他の好適なハロゲン化物含有副産物捕捉剤としては、KF、NaCO、Zn粉末、CsFなどが挙げられる。反応は、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気下などの無水条件下、容器またはグローブボックス内において、約0〜約200℃、好ましくは約25〜約125℃の温度で行われる。好適な反応時間は約5分間〜約72時間の間であり、好ましくは約1時間〜約24時間の間である。反応は混合しながら行うことができる。
【0075】
フルオロカーボンポリマー前駆物質が溶液である場合は、上記条件下で置換または未置換アミドまたはスルホンアミド含有反応体あるいはその塩と接触させる。生成物は、沈殿または溶媒除去などによって固体として回収される。フルオロカーボンポリマー前駆物質用の好適な溶媒の代表例としては、ハロカーボン(Halocarbon)(商標)油などのポリクロロトリフルオロエチレンや、フルオリナート(Fluorinert)(商標)FC−70などのパーフルオロアルキルアミンなどのハロゲン化溶媒などが挙げられる。
【0076】
本発明の別の態様では、本発明の親水性官能基を有する分岐フルオロカーボンポリマー組成物は、式:
−[R−T−NRR’ (6)
(式中、R、t、T、R’、およびRは前出の定義の通りである。)を有する少なくとも1つの置換または未置換アミドまたはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を反応させることによって調製される。好適なRおよびR’の代表例としては、水素、CH、C、CFHなどが挙げられる。あるいは式:
【0077】
【化43】

(式中、T、t、R、R、およびZは前出の定義の通りである。)を有するアミドまたはスルホンアミド基の有機塩または無機塩を使用して、式:
−T−X (8)
(式中、T、R’、およびXは前出の定義の通りである)のハロゲン化スルホニル含有またはハロゲン化カルボニル含有反応体あるいはそれらの混合物と反応させることができる。アミドまたはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質は、ハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を有するフルオロカーボンポリマー前駆物質のハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を無水アンモニアと反応させることによって調製することができる。無水アンモニアは、気体であっても液体であってもよい。このアミド化反応は約−78℃〜約100℃の間の温度で行うことができる。好適なアミド化反応時間は約1秒間〜約1時間の間であり、好ましくは約5秒間〜約15分間の間である。アミド基またはスルホンアミド基を有するフルオロカーボンポリマー組成物はアンモニウム塩の形態で回収され、酸と接触させることによって遊離アミドまたは遊離スルホンアミドの形態にさらに転化させることができる。得られたアミドまたはスルホンアミドまたはそれらの塩と、ハロゲン化スルホニル含有またはハロゲン化カルボニル含有反応体との反応は、上述の条件下で実施され、スキーム1に記載されるのと同様の方法で進行する。
【0078】
本発明の別の実施形態では、式(1c)のR’スルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基の鎖長は、2種類の方法のうちの1つで制御することができる。第1の方法では、式(3)のハロゲン化スルホニルまたはハロゲン化カルボニルペンダント基の少なくとも1つを含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、式(10)または(11)(nが0の場合)の二官能性フルオロアルキレンアミドまたはスルホンアミド試薬と反応させて、末端にアミド基またはスルホンアミド基を形成させる。次にこの末端アミド基またはスルホンアミド基を、式(12)(nが0の場合)の二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンスルホニル試薬または二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンカルボニル試薬と反応させて、末端ハロゲン化スルホニル基または末端ハロゲン化カルボニル基を形成させる。R’が所望の鎖長となるまでこれらの反応段階を繰り返す。生成物が末端ハロゲン化スルホニル基または末端ハロゲン化カルボニル基を含む場合は、このハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を従来方法で加水分解することができる。第2の方法では、式(6)または(7)のアミドまたはスルホンアミドペンダント基を少なくとも1つ含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、式(12)(nが0の場合)の二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンスルホニル試薬または二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンカルボニル試薬と反応させて、末端ハロゲン化スルホニル基または末端ハロゲン化カルボニル基を形成させる。次にこの末端ハロゲン化スルホニル基または末端ハロゲン化カルボニル基を、式(10)または(11)(nが0の場合)の二官能性フルオロアルキレンアミドまたはスルホンアミド試薬と反応させて、末端にアミド基またはスルホンアミド基を形成させる。R’基が所望の鎖長となるまでこれらの反応段階を繰り返す。生成物が末端ハロゲン化スルホニル基または末端ハロゲン化カルボニル基を含む場合は、このハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を従来方法で加水分解することができる。
【0079】
本発明の親水性官能基を有する分岐フルオロカーボンポリマー組成物は、フルオロカーボンポリマー前駆物質の出発ハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基、あるいはアミド基またはスルホンアミド基を、本発明によるイミド基またはスルホンイミド基に部分的または完全に転化して、合成することができる。希望するなら、部分的に転化させたポリマーの残留するハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基あるいはアミド基またはスルホンアミド基を、スルホン酸基またはその塩などの他の官能基に転化させることができる。
【0080】
本発明の別の態様では、スルホニルまたはカルボニル含有基を有する連結架橋または架橋がポリマー鎖と連結している(ポリマー鎖のループ連結部分を含んでもよい)本発明の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボン(例えばパーフルオロカーボン)ポリマー組成物が提供される。このような組成物としては、式:
【0081】
【化44】

が、式:
【0082】
【化45】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基とR基を介して共有結合した組成物が挙げられる(式中、Aは少なくとも1種類のフッ素含有重合性モノマーから誘導されるポリマー基であり、nは0、1、あるいは2以上となりうる整数であり;mは1以上の整数であり、Yは水素またはハロゲンであり少なくとも1つのYはフッ素であり;Tはカルボニル基またはスルホニル基であり;Rは、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、Zはプロトンあるいは有機または無機陽イオンであり;tは0または1となることができ;LはC、CH、またはNであり;E’は−TR”T−または−R’−であり;GはR’T−またはRであり;R’およびR”は、同種でも異種でもよく、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基となることができるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基となることができ、任意に親水性官能基を有するフルオロカーボンポリマー組成物の別の鎖と結合し、Rは水素あるいは置換または未置換アルキル基またはアリール基である。)。
【0083】
式(9)の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物の代表例としては、式:
【0084】
【化46】

(式中、L’はC−またはCHであり、L”はHまたは−TR”であり、T、Z、R、R”、およびtは前述の通りである。)または
【0085】
【化47】

が挙げられる。式中、T、R、R”、R、n、t、およびZは前出の定義の通りであり、R”’は、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル(好ましくはパーフルオロアルキル)基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、任意に親水性官能基を有するフルオロカーボンポリマー組成物の別の鎖と結合する。
【0086】
式(9a)の化合物は、少なくとも1つのハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、官能基C−2(SO”)SO”SO−2(SO”)(2Z+2)またはC−2(COR”)COR”C(O)C−2(COR”)(2Z+2)を含有する化合物と反応させるか、あるいは式−[RSO−2SO”SO−2SO[R−(2Z+2)または−[RCOC−2COR”C(O)C−2CO[R−(2Z+2)の化合物を、式R”SOXまたはR”COXの化合物と反応させるかすることによって生成する。C−2(SO”)SO”SO−2(SO”)(2Z+2)またはC−2(COR”)COR”C(O)C−2(COR”)(2Z+2)、ならびに−[RSO−2SO”SO−2SO[R−(2Z+2)または−[RCOC−2COR”C(O)C−2CO[R−(2Z+2)の化合物は、米国特許第2,732,398号(この記載内容を参照により本明細書中に取込む)に記載される方法によって、対応するスルホニルメタンをハロゲン化アルキルマグネシウムと反応させることによって調製することができる。好適な式C−2(SO”)SO”SO−2(SO”)(2Z+2)の化合物としては、CFSO−2SO(CFSO−2SOCF4MgCl、CFSO−2SOCFSO−2SOCF4MgClなどが挙げられる。好適な式C−2(COR”)COR”C(O)C−2(COR”)(2Z+2)の化合物としては、CFC(O)C−2CO(CFC(O)C−2C(O)CF4MgCl、CFC(O)C−2C(O)CFC(O)C−2C(O)CF4MgClなどが挙げられる。
【0087】
式(9b)の化合物は、少なくとも1つのハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、NH(CFNH、NHCFNHなどの式N(R)HR”NH(R)の化合物と反応させることによって合成される。
【0088】
本発明の別の態様では、少なくとも2つのスルホンイミド基を有する連結架橋または架橋がポリマー鎖と連結している(ポリマー鎖のループ連結部分を含んでもよい)本発明の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボン(例えばパーフルオロカーボン)ポリマー組成物が提供される。このような組成物としては、式(9d):
【0089】
【化48】

を有する組成物が、式:
【0090】
【化49】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基と各R基で共有結合した組成物が挙げられ、式中、A、Y、m、R、R”、R”’、n、t、およびZは前出の定義の通りである。好適なR”およびR”’の代表例としては、−(CF)−、−(CH)−、−[CFCF(CF)OCFCF]−、−(C)−、−(C)−、−[CFOCFCF(OCFSOF)CF]−、−(C16)−などが挙げられる。代表的なイミドまたはスルホンイミド含有フルオロポリマー基、あるいはイミドまたはスルホンイミド基の有機塩または無機塩は、式(10)、(11)、および(12)の化合物から調製することができる。
【0091】
本発明の態様の1つでは、本発明の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物は、式:
−[R−T−X (3)
(式中、T、t、X、およびRは前出の定義の通りである。)を有する少なくとも1つのハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、式:
【0092】
【化50】

(式中、T、R、R’、R”、R”’、n、およびZは前出の定義の通りである。)などの少なくとも2つの置換または未置換アミドまたはスルホニルアミド基を含有する反応体またはそれらの混合物と反応させることによって調製される。試薬(10)および(11)(nが0の場合)は、バットン(Button)らがJournal of Fluorine Chemistry Vol.60(1993),pp.93−100(この記載内容を参照により本明細書中に取込む)に開示された方法によって、試薬(10)および(11)(nが0の場合)に対する二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンスルホニル前駆物質または二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンカルボニル前駆物質をまず合成することによって合成することができる。この二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンスルホニルまたは二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンカルボニルを、前述の条件下で無水アンモニアと反応させることによって、試薬(10)および(11)(nが0の場合)の二官能性フルオロアルキレンアミドまたは二官能性フルオロアルキレンスルホンアミドに転化させることができる。nが1以上の場合は、試薬(10)および(11)は、米国特許第5,874,616号(この記載内容を参照により本明細書中に取込む)の方法によって、二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンスルホニルまたは二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンカルボニルを、二官能性フルオロアルキレンアミドまたは二官能性フルオロアルキレンスルホンアミドと反応させることによって調製することができるが、二官能性フルオロアルキレンアミドまたは二官能性フルオロアルキレンスルホンアミドが過剰量で使用されるため、末端基はアミド基またはスルホンアミド基を含む。
【0093】
あるいは、反応体(3)のハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を少なくとも1つ含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、前述の定義の反応体(6)または(7)のアミドペンダント基またはスルホンアミドペンダント基を少なくとも1つ含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質と反応させることもできる。この実施形態の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物の架橋部分は、少なくとも1つのイミド基またはスルホンイミド基を含有する。
【0094】
フルオロカーボンポリマー前駆物質と、置換または未置換アミドまたはスルホンアミド基あるいはそれらの塩を少なくとも2つ含有する反応体との反応は、フルオロカーボンポリマー前駆物質のハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基と、少なくとも2つのアミド基またはスルホンアミド基を含有する含有反応体のアミド基またはスルホンアミド基との間の縮合機構によって進行し、それによってハロゲン化物含有副産物が遊離すると考えられる。ハロゲン化物含有副産物を捕捉し結合させるために一般に非求核性塩基が使用され、それによって親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物の生成反応を進行させることができる。式(10)の置換または未置換アミドまたはスルホンアミド基を少なくとも2つ含有する反応体に関しては、この反応は以下のスキーム2に従って進行すると考えられる。
【0095】
【化51】

式中、Qは非求核性塩基であり、RQおよびR’Qは非求核性塩基から誘導される陽イオンであり、T、R、R”、R”’、X、R、R’、Z、n、およびtは前出の定義の通りである。
【0096】
ハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を有するフルオロカーボンポリマー前駆物質と、置換または未置換アミドまたはスルホンアミド基またはそれらの塩を少なくとも2つ含有する反応体との反応は、固体、溶媒膨潤形態、または溶液中のフルオロカーボンポリマー前駆物質と、固体、液体、または気体の状態の好適な反応体とを使用することによって実施することができる。フルオロカーボンポリマー前駆物質が固体の場合は、反応は無水条件において、フルオロカーボンポリマー前駆物質を、出発反応体に対して非反応性である溶媒中の置換または未置換アミドまたはスルホンアミドを少なくとも2つまたはそれらの塩を含有する反応体と接触させことによって行われる。好適な溶媒の代表例としては、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの無水極性非プロトン性溶媒、クロロホルムなどのハロゲン化溶媒などが挙げられる。反応のハロゲン化物含有副産物を捕捉するために、有機非求核性塩基の存在下で反応が行われ、有機非求核性塩基としてはトリエチルアミン、トリメチルアミンなどのアルキルアミン、ピリジン類、アルキルピリジン、アルキルピペリジン、N−アルキルピロリジンなどが挙げられる。非求核性塩基が反応媒体として機能する場合など反応体が互いに相互作用するのに十分な移動性を有する条件下では、溶媒を使用せずに反応を実施することができる。その他の好適なハロゲン化物含有副産物捕捉剤としては、KF、NaCO、Zn粉末、CsFなどが挙げられる。反応は、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気下などの無水条件下、容器またはグローブボックス内において、約0〜約200℃、好ましくは約25〜約125℃の温度で行われる。好適な反応時間は約5分間〜約72時間の間であり、好ましくは約1時間〜約24時間の間である。反応は混合しながら行うことができる。
【0097】
フルオロカーボンポリマー前駆物質が溶液である場合は、上記条件下で置換または未置換アミドまたはスルホンアミドまたはそれらの塩を少なくとも2つ含有する反応体と接触させる。架橋した生成物は回収される。フルオロカーボンポリマー前駆物質用の好適な溶媒の代表例としては、ハロカーボン(商標)油などのポリクロロトリフルオロエチレンや、フルオリナート(商標)FC−70などのパーフルオロアルキルアミンなどのハロゲン化溶媒などが挙げられる。
【0098】
反応体(3)のハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を少なくとも1つ含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質と、反応体(6)または(7)のアミドペンダント基またはスルホンアミドペンダント基を少なくとも1つ含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質との間で反応させる場合は、少なくとも2つの置換または未置換アミドまたはスルホンアミド基またはそれらの塩を含有する反応体に関して前述した条件と同一条件でこの反応を行うことができる。
【0099】
本発明の別の態様では、本発明の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物は、式:
−[R−T−NRR’ (6)
(式中、T、R、t、R’、およびRは前出の定義の通りである。)を有する少なくとも1つの置換または未置換アミドまたはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を反応させることによって調製される。あるいは、式:
【0100】
【化52】

を有するアミドまたはスルホンアミド基の有機塩または無機塩を使用することができ、ここで式(6)および(7)の基は、式:
【0101】
【化53】

(式中、A、Y、n、m、T、R、R、t、およびZは前出の定義の通りである。)のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基とR基によって結合した分岐鎖または側基を含み、これを、式:
【0102】
【化54】

(式中、T、R”、R、n、X、およびZは前出の定義の通りである。)を有する組成物などである少なくとも2つのハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基またはそれらの混合物を含有する反応体と反応させることができる。式(12)のハロゲン化フルオロアルキレンスルホニル試薬またはハロゲン化フルオロアルキレンカルボニル試薬のnが0の場合は、バットン(Button)らがJournal of Fluorine Chemistry Vol.60(1993),pp.93−100(この記載内容を参照により本明細書中に取込む)に開示した方法によって生成することができる。nが1以上の場合は試薬(12)は、米国特許第5,874,616号(この記載内容を参照により本明細書中に取込む)の方法によって、二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンスルホニルまたは二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンカルボニルを、二官能性フルオロアルキレンアミドまたは二官能性フルオロアルキレンスルホンアミドと反応させることによって調製することができるが、二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンスルホニルまたは二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンカルボニルが過剰量で使用されるため、末端基はハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を含む。
【0103】
アミドペンダント基またはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質は、ハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を有するフルオロカーボンポリマー前駆物質のハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を無水アンモニアと反応させることによって調製することができる。無水アンモニアは、気体であっても液体であってもよい。このアミド化反応は約−78℃〜約100℃の間の温度で行うことができる。好適なアミド化反応時間は約1秒間〜約1時間の間であり、好ましくは約5秒間〜約15分間の間である。アミドペンダント基またはスルホンアミドペンダント基を有するフルオロカーボンポリマー組成物はアンモニウム塩の形態で回収され、酸と接触させることによって遊離アミドまたは遊離スルホンアミドの形態にさらに転化させることができる。こうして得られたアミドまたはスルホンアミドペンダント基またはそれらの塩を少なくとも1つ含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質と、式(12)で表されるハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を少なくとも2つ含有する反応体との反応は、上述の条件下で実施され、スキーム2に記載されるのと同様の方法で進行する。
【0104】
本発明の別の実施形態では、式(9c)のnで表される鎖長は、末端ハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を含有する出発ポリマーと、末端アミド基またはスルホンアミド基を含有するポリマーとを最初に合成し、次に、これらを互いに反応させて所望のnを有する架橋を形成することによって制御することができる。末端ハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基を含有する出発ポリマーは、式(13)の少なくとも1つのハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質であってもよいし、あるいは、式(13)の少なくとも1つのハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を式(10)または(11)(nが0の場合)の二官能性フルオロアルキレンアミド試薬または二官能性フルオロアルキレンスルホンアミド試薬と反応させて、末端アミド基またはスルホンアミド基を形成することによって合成することもできる。次にこの末端アミド基またはスルホンアミド基を、式(12)(nが0の場合)の二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンスルホニル試薬または二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンカルボニル試薬と反応させて、末端ハロゲン化スルホニル基または末端ハロゲン化カルボニル基を形成させる。nで定義される所望の第1部分の鎖長が得られるまでこれらの反応段階を繰返し、式(12)(nが0の場合)の二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンスルホニル試薬または二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンカルボニル試薬で最終反応を行って、末端ハロゲン化スルホニル基または末端ハロゲン化カルボニル基を形成させる。末端アミド基またはスルホンアミド基を含有するポリマーは、式(6)または(7)の少なくとも1つのアミドペンダント基またはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質であってもよいし、あるいは、末端ハロゲン化スルホニル基または末端ハロゲン化カルボニル基を含有する出発ポリマーの場合で前述した方法と同様の方法で、nで定義される所望の第2部分の鎖長が得られるまで合成を行うことができ、そして式(10)または(11)(nが0の場合)の二官能性フルオロアルキレンアミドまたは二官能性フルオロアルキレンスルホンアミドと最終反応を行うことで、末端アミド基または末端スルホンアミド基が得られる。末端ハロゲン化スルホニル基または末端ハロゲン化カルボニル基を含有する出発ポリマーは、式(6)または(7)の少なくとも1つのアミドペンダント基またはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、式(12)(nが0の場合)の二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンスルホニル試薬または二官能性ハロゲン化フルオロアルキレンカルボニル試薬と反応させて、末端ハロゲン化スルホニル基または末端ハロゲン化カルボニル基を得ることによって生成することもできる。
【0105】
式9(C)(式中のnは1以上であり、好ましくは1を超える)に記載されるような架橋部分の鎖長を増大させることによって、最終架橋フルオロカーボンポリマー組成物の親水性官能基数を増加させることができる。nが1以上の場合、これはポリマー架橋部分となる。あるいは式9においてE’のR”はスルホニル含有またはカルボニル含有のいずれかのフルオロポリマー基であり、任意に親水性官能基を有するフルオロカーボンポリマー組成物の別の鎖と連結する。したがって、架橋部分中および最終架橋フルオロカーボンポリマー組成物中の親水性官能基数を制御することができる。
【0106】
フッ素化ポリマー前駆物質の出発ハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基あるいはアミド基またはスルホンアミド基を本発明による架橋部分に部分的または完全に転化させることができるように、本発明の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物を合成することができる。希望するなら、部分的に転化させたポリマーの残留するハロゲン化スルホニル基またはハロゲン化カルボニル基あるいはアミド基またはスルホンアミド基を、イミド基、スルホンイミド基、またはスルホン酸基あるいはそれらの塩などの他の官能基に転化させることができる。
【実施例1】
【0107】
この実施例では、スルホンアミドの形態のフッ化スルホニル基を有するフルオロカーボンポリマー前駆物質から作製された市販の非多孔質パーフルオロアイオノマーフィルムを転化させる方法を詳細に説明する。
【0108】
フッ化スルホニルの形態のパーフルオロアイオノマーから作製され、当量が980である市販のナフィオン(登録商標)NE−105Fフィルムを小型ステンレス性加圧容器に入れた。この容器を100mTorr以下の圧力まで少なくとも5分間減圧した。続いて、気体無水アンモニアを容器圧力が60psiに到達するまで加えた。60℃で30時間フィルムと無水アンモニアが接触するようにした。容器を室温まで戻してから、圧力を開放しアルゴンを5分間パージした。フィルムを容器から取り出し、水洗し、硝酸に曝露して、遊離スルホンアミドの形態に膜を転化させた。この膜をさらに水洗し、室温で乾燥させた。
【0109】
得られたフィルムは、出発フィルムよりもより強靭で靭性が高いように思われる。フィルムの全反射減衰FTIRから、スルホンアミド基が存在することが分かる。有意量のフッ化スルホニルはフィルム上に残存しないことから、スルホンアミド形態に完全に転化したことが分かる。
【実施例2】
【0110】
この実施例では、実施例1のスルホンアミド形態のフィルムをパーフルオロブタンスルホンイミド形態に転化させる方法を詳細に説明する。
【0111】
アルゴンを充填したグローブボックス中の絶対嫌気性および無水条件下で作業しながら、実施例1のスルホンアミド形態の乾燥フィルムを、小型加圧容器中の0.5mlのフッ化パーフルオロブタンスルホニルと5mlの無水トリエチルアミンとを含有する溶液に浸漬した。容器を閉じて、60psiまでアルゴンを充填した。容器を閉じ、100℃のオーブンに63時間入れた。オーブンから容器を取りだし、室温まで戻した。容器の圧力を開放し、周囲条件下で容器を開けた。容器からフィルムを取り出して、テトラヒドロフランで3回洗浄し、続いて3回水洗し、最後に硝酸と接触させてフィルムを遊離酸形態に転化させた。フィルムをさらに水洗し、室温で乾燥させた。
【0112】
得られたフィルムは、スルホンアミド形態のフィルムよりも機械的性質がより軟質であるように思われる。このフィルムを沸騰エタノール中で平衡化させ、膨潤度を測定すると64%であった。フィルムの全反射減衰FTIRからスルホンイミド基が存在することが分かる。膜上に有意量のスルホンアミド基が残存しないことから、スルホンイミド形態に完全に転化したことが分かる。
【実施例3】
【0113】
この実施例では、実施例1で得たスルホンアミド形態のフィルムをスルホンイミド結合を使用して架橋させる方法について詳細に説明する。
【0114】
アルゴンを充填したグローブボックス中の絶対嫌気性および無水条件下で作業しながら、実施例1のスルホンアミド形態の乾燥フィルムを、小型加圧容器中の0.5mlのフッ化パーフルオロブタン−1,4−ビス−スルホニルと5mlの無水トリエチルアミンとを含有する溶液に浸漬した。容器を閉じて、60psiまでアルゴンを充填した。容器を閉じ、100℃のオーブンに63時間入れた。オーブンから容器を取りだし、室温まで戻した。容器の圧力を開放し、周囲条件下で容器を開けた。容器からフィルムを取り出して、テトラヒドロフランで3回洗浄し、続いて3回水洗し、最後に硝酸と接触させてフィルムを遊離酸形態に転化させた。フィルムをさらに水洗し、室温で乾燥させた。
【0115】
得られたフィルムは、スルホンアミド形態のフィルムよりもより強靭で靭性が高いように思われる。このフィルムを沸騰エタノール中で平衡化させ、膨潤度を測定すると30%であった。フィルムの全反射減衰FTIRからスルホンイミド基が存在することが分かる。膜上に有意量のスルホンアミド基が残存しないことから、スルホンイミド結合によりフィルムが架橋したことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
−[R−T−CH−T−R”−T−CH−T−[R
の親水性官能基を有し、それぞれのR基を介して式:
【化1】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基と共有結合している架橋フルオロカーボンポリマー組成物(式中、Aは少なくとも1種類のフッ素含有重合性モノマーから誘導されるポリマー基であり、nは0、1、あるいは2以上となりうる整数であり;mは1以上の整数であり、Yは水素またはハロゲンであり少なくとも1つのYはフッ素であり;Tはカルボニル基またはスルホニル基であり少なくとも1つのTはカルボニル基であり;Rは、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、前記R基は同種でも異種でもよく;tは0または1となることができ;R”は、スルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、親水性官能基を有する前記フルオロカーボンポリマー組成物の別の鎖と任意に結合する。)。
【請求項2】
Aが、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、およびテトラフルオロエチレンからなる群より選択される請求項1に記載の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物。
【請求項3】
式:
−[R−T−N(R)R”N(R)−T−[R
の親水性官能基を有し、それぞれのR基を介して式:
【化2】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基と共有結合している架橋フルオロカーボンポリマー組成物(式中、Aは少なくとも1種類のフッ素含有重合性モノマーから誘導されるポリマー基であり、nは0、1、あるいは2以上となりうる整数であり;mは1以上の整数であり、Yは水素またはハロゲンであり少なくとも1つのYはフッ素であり;Tはカルボニル基またはスルホニル基であり少なくとも1つのTはカルボニル基であり;Rは、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、前記R基は同種でも異種でもよく;tは0または1となることができ;R”は、スルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり、親水性官能基を有する前記フルオロカーボンポリマー組成物の別の鎖と任意に結合する。)。
【請求項4】
Aが、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、およびテトラフルオロエチレンからなる群より選択される請求項3に記載の親水性官能基を有する架橋フルオロカーボンポリマー組成物。
【請求項5】
式:
【化3】

の分岐鎖を有し、前記分岐鎖がR基を介して式:
【化4】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基と共有結合している分岐フルオロカーボンポリマー(式中、Aは少なくとも1種類のフッ素含有重合性モノマーから誘導されるポリマー基であり、nは0、1、あるいは2以上となりうる整数であり;mは1以上の整数であり、Yは水素またはハロゲンであり少なくとも1つのYはフッ素であり;Tはカルボニル基またはスルホニル基であり;L’はC−またはCHであり、L”はHまたは−TR”であり;Rは、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり;R”は、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり;Zはプロトンあるいは有機または無機陽イオンであり;tは0または1となることができる。)。
【請求項6】
式:
−[R−T−N(R)R
の分岐鎖を有し、前記分岐鎖がR基を介して式:
【化5】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基と共有結合している分岐フルオロカーボンポリマー組成物(式中、Aは少なくとも1種類のフッ素含有重合性モノマーから誘導されるポリマー基であり、nは0、1、あるいは2以上となりうる整数であり;mは1以上の整数であり、Yは水素またはハロゲンであり少なくとも1つのYはフッ素であり;Tはカルボニル基またはスルホニル基であり;Rは、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり;R’は、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり;tは0または1となることができ;Rは水素あるいは置換または未置換アルキル基またはアリール基である。)。
【請求項7】
式:
【化6】

の分岐鎖を有し、前記分岐鎖がR基を介して式:
【化7】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基と共有結合している分岐フルオロカーボンポリマー(式中、Aは少なくとも1種類のフッ素含有重合性モノマーから誘導されるポリマー基であり、nは0、1、あるいは2以上となりうる整数であり;mは1以上の整数であり、Yは水素またはハロゲンであり少なくとも1つのYはフッ素であり;Tはカルボニル基またはスルホニル基であり;Rは、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり;R’は、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり;Zはプロトンあるいは有機または無機陽イオンであり;tは0または1となることができる。)であって、
式:
−[R−T−X
を有する少なくとも1つのハロゲン化スルホニルペンダント基またはハロゲン化カルボニルペンダント基を含有し、式:
【化8】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基とR基を介して共有結合している分岐鎖を含むフルオロカーボンポリマー前駆物質を、
【化9】

(式中、RとR’は、水素、あるいは置換または未置換アルキル基またはアリール基であり、Xはハロゲンである。)、およびそれらの混合物からなる群より選択される式を有する少なくとも1つの置換または未置換アミドペンダント基またはスルホンアミドペンダント基を含有する反応体と反応させる方法によって調製される分岐フルオロカーボンポリマー。
【請求項8】
式:
【化10】

の分岐鎖を有し、前記分岐鎖がR基を介して式:
【化11】

のフルオロカーボンポリマー組成物のCY基と共有結合している分岐フルオロカーボンポリマー(式中、Aは少なくとも1種類のフッ素含有重合性モノマーから誘導されるポリマー基であり、nは0、1、あるいは2以上となりうる整数であり;mは1以上の整数であり、Yは水素またはハロゲンであり少なくとも1つのYはフッ素であり;Tはカルボニル基またはスルホニル基であり;Rは、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり;R’は、1つ以上の酸素原子、窒素原子、塩素原子、リン原子、水素原子、および/または硫黄原子および/または1つ以上のスルホニル基またはカルボニル基を任意に含有するC〜C20線状、環状、または分岐フルオロアルキル基であるか、あるいはスルホニル含有またはカルボニル含有フルオロポリマー基であり;Zはプロトンあるいは有機または無機陽イオンであり;tは0または1となることができる。)であって、
【化12】

(RとR’は、水素、あるいは置換または未置換アルキル基またはアリール基である。)およびそれらの混合物からなる群より選択される式を有する少なくとも1つの置換または未置換アミドペンダント基またはスルホンアミドペンダント基を含有するフルオロカーボンポリマー前駆物質を、式:
’−T−X
(式中、Xはハロゲン化物である)
のハロゲン化スルホニル含有またはハロゲン化カルボニル含有反応体と反応させる方法によって調製される分岐フルオロカーボンポリマー。
【請求項9】
Aが、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、およびテトラフルオロエチレンからなる群より選択される請求項5、6、7、または8のいずれか1項に記載の分岐ポリマー。

【公開番号】特開2007−9223(P2007−9223A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241090(P2006−241090)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【分割の表示】特願2001−530384(P2001−530384)の分割
【原出願日】平成12年10月10日(2000.10.10)
【出願人】(506022865)インテグリス・インコーポレーテッド (21)
【Fターム(参考)】