説明

親水性膜およびそれを用いた熱交換素子部材

【課題】光の照射のない状態においても長期にわたり親水性を有する膜を提供し、さらに空調機、吸収冷却器、冷凍機器、蒸散機器、熱交換器、ヒートパイプ、ヒートポンプ等の熱交換素子に好適な金属部材を提供することを課題とする。
【解決手段】基材と、該基材上に設けられた親水性膜において、該親水性膜は膜中に分散されたフィロケイ酸塩を含む微粒子とバインダーから形成され、該バインダーが、前記微粒子同士、および、前記微粒子と基材とを接合していることを特徴とする親水性膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性微粒子とバインダーを有する親水性膜に関し、より詳しくは、親水性微粒子としてフィロケイ酸塩を用いる親水性膜に関する。当該親水性膜は、空調機、吸収冷却器、冷凍機器、蒸散機器、熱交換器、ヒートパイプ、ヒートポンプ等の熱交換素子に好適な金属部材に有用である。
【背景技術】
【0002】
一般に銅やアルミニウムなどの金属部材は、優れた伝熱性能を有しているため種々な分野の熱交換素子に用いられている。しかし、これら金属部材は水に対する接触角が高いために濡れ性は悪く、金属表面が均一に濡れることはない。
【0003】
熱交換素子には種々のものがあるが、基本的には素子表面で液冷媒(水も含む:以下冷媒と称する)を気化させることにより熱の交換を行う。例えば、吸収冷却器に用いられている蒸発伝熱管やフィンにおいては、表面に冷媒を滴下・散布させて気化蒸発させる。また、ヒートパイプでは、パイプ内の片端部(気化部)で冷媒が気化して熱を吸収して、逆端部(凝縮部)熱を放出して凝縮する。
【0004】
この素子は、冷媒の気化と凝縮の繰り返しにより大量の熱輸送が行われるため、冷媒の凝縮液を迅速に気化に帰還させるかが伝熱効率を増大させる重要なポイントとなる。
【0005】
ここで、一般的な金属表面では疎水性のため凝縮液の濡れ性が劣り、ある一定の水滴粒子にならないと重力による還流が期待できないため、ウイック等で毛管現象を利用したり、管内面を溝切加工等で凝縮水の移動を促進させる方法がとられていた。したがって、素子表面が熱媒体で濡れやすい場合は、水滴を形成せず水膜として還流するためにわずかな重力や毛管現象で冷媒の移動が容易になる、すなわち親水性の方が大量の熱移動が可能になる。
【0006】
しかし、上記のように、金属部材は優れた伝熱性能を有しているが、一般に濡れ性が劣る。このため、その濡れ性を改善するための種々の方法が提案されている。
【0007】
例えば、伝熱性能が高く、熱交換素子に良く使用されている銅に関しては、酸化銅被膜を形成する方法が提案されている。酸化膜表面は、酸化されていない表面よりも親水性を示す(特許文献1参照)。また、ゾルゲル法を用いて部材表面にアモルファスアルミナを成膜し、さらに温水に浸漬して表面に微細凹凸を形成して表面を親水化する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
アルミニウムに関しては、アルミニウムに親水化処理剤を塗布している方法が提案されている。親水化処理剤としては、水ガラス、ポリアクリルアミド、アクリル酸などがある(特許文献3及び4参照)。
【0009】
ステンレス鋼に関しては、酸洗、脱脂など、塗装前の処理技術として確立されている。また、クロメート処理によって他の金属を同様に処理することも可能である。
【0010】
さらに最近では、光触媒性の被覆層を成膜する方法も提案されている。この方法では、金属の種類を問わずに親水性を付与することが可能である(特許文献5参照)。
【0011】
塗膜への親水性付与については、ケイ素のアルコキシドを有機溶媒に溶解した溶液またはその加水分解物中に無機物質を含有させた塗布液を用い、その凹凸とともに微細な細孔またはクラックを設け親水性を発現せしめることが開示されている。(特許文献6)。
【特許文献1】特開平11―211376号公報
【特許文献2】特開2001―17907号公報
【特許文献3】特開昭63−171683号公報
【特許文献4】特開昭63−171684号公報
【特許文献5】国際公開96/29375号のパンフレット
【特許文献6】特開2002−161240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
銅部材表面の親水性改善法として上記の特許文献1(特開平11―211376号公報)記載の酸化銅被膜では、初期には親水化が発現するが、乾湿の繰り返しにより長期的には疎水性となる。また、特許文献2(特開2001―17907号公報)に記載のものは、部材表面にゾルゲル法でアモルファスアルミナを成膜し、さらに温水中に浸漬してアモルファスアルミナ表面に微細凹凸組織を形成させるものであるが、アルミニウムアルコキシドを加水分解して使用するため、加水分解後の溶液の長期保存が必ずしも容易でない、部材と物理的に付着しているので密着性が弱く、耐摩耗性に劣るという問題点がある。
【0013】
また、アルミニウムの親水性改善に関する特許文献3(特開昭63−171683号公報)及び特許文献4(特開昭63−171684号公報)に記載のものは、親水性が十分といえない。
【0014】
ステンレス鋼に関しては、酸洗、脱脂などは初期には良好な親水性を示すが、室内放置だけでも経時変化により急速に劣化し、酸洗前の水準に戻ってしまう。クロメート処理でも同じ問題があり、初期には良好な親水性を示すが、経時変化により徐々に劣化し、十分な親水性を持続できない。さらには近年の環境の規制から有害な6価クロムの使用が問題となっている。
【0015】
さらに、特許文献5(国際公開96/29375号のパンフレット)に記載されているような酸化チタンの光触媒効果を利用したコーティングでは、紫外線、可視光照射下でのみ親水性を発揮するものであり、屋内の使用には不向きであり、さらには熱交換器の伝熱管、ヒートパイプ等のパイプ内面等の密閉部または暗所においては親水性は発現できない。
【0016】
また、特許文献6記載の方法では、無機物質としては二酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄等の金属酸化物が主として開示されているのみで、フィロケイ酸塩を用いる親水膜が熱交換素子に有効であるか否かは判っていなかった。これらは表面の凹凸やクラック積極的に利用することを目的としため、粒子形状はむしろ球状が多く、アスペクト比の大きな扁平な粒子には着目していない。また本発明のような水酸基が起因の親水性にも記載がない。
【0017】
本発明は、光の照射のない状態においても長期にわたり親水性を有する膜を提供し、さらに空調機、吸収冷却器、冷凍機器、蒸散機器、熱交換器、ヒートパイプ、ヒートポンプ等の熱交換素子に好適な金属部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前述の問題点を解決解決するため鋭意検討したところ、基材と、該基材上に設けられた親水性膜において、特定のフィロケイ酸塩を含む微粒子が親水性を有し、特定のバインダーとの組み合わせにおいて初めて、前記微粒子が親水性を保ちつつ、かつ基材との密着性もよく接合できることを見出し、本発明の親水性膜に到達した。本発明は、さらに、親水性膜を熱交換素子に適応することを可能にした初めての発明である。
【0019】
すなわち、本発明は、基材と、該基材上に設けられた親水性膜において、該親水性膜は膜中に分散されたフィロケイ酸塩を含む微粒子とバインダーから形成され、該バインダーが前記微粒子と基材および前記微粒子同士とを接合していることを特徴とする親水性膜である。
【0020】
また、本発明は、バインダーとフィロケイ酸塩の重量比が10/90〜90/10からなる上記の親水性膜である。
【0021】
また、本発明は 膜厚が0.05〜50μmであることを特徴とする上記の親水性膜である。
【0022】
また、本発明は、フィロケイ酸塩が、雲母やモンモリロナイト、ハロサイト、カオリナイト、スメクタイト、タルク、バーミュキュライト、緑泥石、ガイロライト、ブレーナイト、珪孔雀石よりなる群より選ばれる少なくとも一つである上記の親水性膜である。
【0023】
また、本発明は、フィロ珪酸塩の微粒子のアスペクト比が、3以上である上記の親水性膜である。
【0024】
また、本発明は、バインダーが金属アルコキシド及びその加水分解により形成される金属酸化物を含む上記の親水性膜である。
【0025】
また、本発明は、金属アルコキシドが、シリカアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドよりなる群より選ばれる少なくとも一つである上記の親水性膜である。
【0026】
また、本発明は、親水膜表面での水との接触角が20°以下であることを特徴とする、上記の親水性膜である。
【0027】
また、本発明は、基材が銅、アルミニウム、黄銅、ステンレス鋼(SUS)、カーボン、鉄、チタン、ニッケル、マグネシウムまたは真鍮の少なくとも一つであることを特徴とする、上記の親水性膜である。
【0028】
更に本発明は、基材と、該基材上に設けられた親水性膜からなる熱交換素子部材であって、親水性膜が上記に記載の親水性膜であることを特徴とする熱交換素子部材である。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、光の照射のない状態においても、耐久性に優れた親水成膜が得られる。該親水成膜はを基材に設けることにより、優れた性能を持つ熱交換素子部材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、基材と、該基材上に設けられた親水膜おいて、該親水膜はフィロケイ酸塩を含む微粒子とバインダーから形成され、該バインダーが前記微粒子と基材とを接着していることを特徴とする親水性膜であり、さらに当該親水性膜を用いた熱交換素子部材である。
【0031】
膜表面が親水性を示すためには、一般には親水性材料が表面が膜表面に露出していることが望まれる。本発明では、親水膜がフィロケイ酸塩を含む微粒子を有するので、高い親水性を示す。また、該微粒子がバインダーにより基材と接着しているので、該微粒子が表面に露出される構造となっている。また、バインダーが微粒子同士及び微粒子を基材と接着させているので、基材への付着性も実用に問題ないレベルにできる。
【0032】
フィロケイ酸塩を含む微粒子は水酸基を含有するので、親水性機能が十分に発現することを鋭意研究の結果見出した。さらに、フィロケイ酸塩を含む微粒子は化学的に安定であるため、該微粒子による親水膜を具備した熱交換素子は、長期使用の信頼性に優れていると考えられる。
【0033】
フィロケイ酸塩は、アルミニウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等の金属イオンとケイ酸が連結して、四面体シート層状構造を形成することが特徴である。この四面体シート層状構造の隙間に金属イオン有機物等を交換する性質がありかつ、水を取り込む性質があるため、極めて良好な吸湿性を示すことが知られている。さらには、層状であることにより毛細管力、密着性、結束性の向上も期待できる。
【0034】
上記フィロケイ酸塩の微粒子は、モース硬度が小さい、微粉砕が容易、アスペクト比の大きな鱗片状、扁平状の微粒子が得られる、工業的に大量に安価に入手可能、塗工液として分散しやすく、安定なゾルを形成する等の特徴があり、材料として扱いやすいという長所がある。
【0035】
上記のように、本発明で用いられるフィロケイ酸塩は、鱗片状あるいは扁平状の微粒子であることが好ましい。扁平状微粒子を含む薬液を基板に塗布すると、扁平状粒子は、互いにほぼ平行に、かつ基板に平行に並らぶ形で配列し、積層するため、水酸基が表面に並んだ配列を維持できるため、親水性が保たれる。
【0036】
粒子が扁平状になるためには、アスペクト比が適当な範囲であることが必要であり、3以上、好ましくは10以上である。アスペクト比が3未満であると扁平状粒子を互いに、かつ基板にほぼ平行に配列することが困難になり、親水性が不十分となる。よって、好ましくは、10以上のアスペクト比を持つものが好ましい。
【0037】
上限については、扁平状微粒子がほぼ平行に配列できれば特に制限はないが、フィロケイ酸塩の場合、実質的には、大きくても80程度である。したがって、実質的にとりうる好ましい範囲としては、10〜20である。
【0038】
フィロケイ酸塩はモース硬度が小さいので、粉砕が比較的容易であり、乾式粉砕機等で粉砕分級分給することにより所望のアスペクト比のフィロケイ酸塩が得られる。
【0039】
フィロケイ酸塩微粒子の粒子径は、特に限定はされないが、0.05〜40μmが好ましい。一般に40μm以上の粗大な粉末では見かけ上アスペクト比が小さく、扁平状にならず、粒子同士の接点が少ないため耐摩耗性が著しく劣る。また、粒子系が0.05μmより小さいものは、扁平状微粒子が、互いに、かつ基板と平行に配列することが困難となり、充分な親水性を発現できなくなる。
【0040】
また、40μm以上の粒子径からなる粉末とバインダーを混合したゾル液から得られた親水膜は容易に膜厚が50μm以上になり、耐摩耗性が著しく劣る結果になる。それゆえ、好ましくは粒子径0.05〜40μmと微細で、扁平状な微粒子であれば、微粒子同士やバインダーと微粒子との接着に極めて優れ、耐摩耗性に優れた膜厚を与える。
【0041】
なお、ここでいう微粒子の粒径は所謂1次粒子の大きさを示し、微粒子同士が凝集した2次粒子の大きさを示しているのではない。親水膜においては、2次粒子の大きさは成膜に困難がなければ、特に限定されるものではない。
【0042】
本発明に用いられるフィロケイ酸塩として雲母、セピオライトやモンモリロナイト、ハロサイト、カオリナイト、スメクタイト、タルク、バーミュキュライト、緑泥石、ガイロライト、ブレーナイト、珪孔雀、石ブドウ石、魚眼石、タルク、パイロフィライト、緑泥石、ディッカイト、蛇紋石、ゼオライト等があげられる。これらフィロケイ酸塩の中でも、粒子径、アスペクト比、入手のしやすさ、およびコストを勘案すれば、雲母(マイカ)、タルク、カオリナイトがより好ましい。
【0043】
雲母としては、その形状や大きさによりさまざまな種類があり、例示するならば、白雲母、クロム白雲母、絹雲母、黒雲母、金雲母、フッ素金雲母、リチア雲母などが挙げられる。
【0044】
タルクは、滑石とも呼ばれ、ケイ酸マグネシウムの水和物(Mg3Si410(OH)2)である。
【0045】
また、カオリナイト(Al2Si25(OH)4、三斜晶系・単斜晶系 )はケイ酸アルミニウムの水和物であるが、類似のディク石(dickite)、ナクル石もカオリンに含むものとする。
【0046】
上記のように、これらフィロケイ酸塩の微粒子は扁平状でアスペクト比が大きく、粒子径0.05〜40μmと微細で粒子同士が強固に接着しやすいため好ましい。特に粒子径0.05〜40μmのカオリナイト、マイカの薄片状結晶が、本発明の親水性膜のフィロケイ酸塩微粒子として好適に用いられ、水接触角0〜20°の超親水性を発現するが認められた。
【0047】
しかし、このようなフィロケイ酸塩をその構造を保ったまま基材に親水膜として利用成膜することはなされていない。すなわち、フィロケイ酸塩の扁平状結晶は優れた親水性を示すも、そのままでは銅、アルミニウム、黄銅、ステンレス鋼、カーボン,鋳鉄、チタン、ニッケル、マグネシウム等の基板には強固に接着しない。
【0048】
雲母やタルク等のフェロケイ酸塩は、一般の塗料に添加され、メタリック塗料や耐熱塗料として一部実用化されているが、アクリルやエポキシ、ウレタン等の有機系樹脂に分散した、いわゆるペイントへのフィラーとしての利用であり、この方式では、親水性としての機能は期待できない。なぜならば、これらのペイントは主に樹脂分が造膜作用を発現するものの、その被膜は疎水性を示すからであり、フィラーとしてフィロケイ酸塩の扁平状結晶は樹脂被膜に覆われて本来の親水性が発現できない。
【0049】
本発明はフィロケイ酸塩を親水膜としての利用することに着目してなされたものであり、フィロケイ酸塩をバインダーに混合し分散させ安定した薬液組成を鋭意研究した結果、基材に成膜することが可能となった。
【0050】
すなわち、本発明は、親水膜がバインダーを含み、該バインダーが前記微粒子と基材とを接合することを特徴とする。
【0051】
バインダーとしては、金属酸化物が好ましく、かかる金属酸化物の金属元素としては、乾燥・焼成処理により実質的に酸化物を形成しうる金属化合物であればよく、チタン、ケイ素、ジルコニア、ホウ素、リン、鉄、スズ、アルミニウム等のが挙げられ、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、チタン酸化物、ジルコ二ウム酸化物、より選ばれる少なくとも一つの金属酸化物が好ましい。
【0052】
金属酸化物は、所謂ゾルゲル法により製造される。ゾルゲル法においては、原料として無機塩、有機金属錯体、有機金属カルボン酸塩、金属アルコキシドおよびその加水分解物、等の金属化合物、またはそれらの混合物よりなるゾルを用いる。
【0053】
それらの原料を乾燥・焼成工程にて加水分解、脱水、重縮合、酸化、熱分解等の反応を経て焼成処理により金属酸化物が形成される。
【0054】
フィロケイ酸塩の粒子の存在下、上記の金属化合物を含むゾルを基材に塗布し、加水分解させると、金属化合物の加水分解生成物が生成する。金属化合物のゾルおよび上記加水分解生成物は、フィロケイ酸塩微粒子表面の水酸基と反応できるので、重縮合によって粒子間を結合したり、粒子と基材を結合させたりする補強の働きがあり、その後、縮合反応が進行することにより、得られる膜の機械強度が向上する。その後、乾燥・焼成工程を経て被膜形成したりしてフィロケイ酸塩の粒子を、いわゆるバインダーの働きで基材に強固に接着させることができる。
【0055】
フィロケイ酸塩とバインダーとの混合比は、親水性の保持および、実用的な基材への接着性を保持する観点から決められる。フィロケイ酸塩微粒子とバインダーの重量比は、10:90〜90:10の範囲が好ましい。
【0056】
フィロケイ酸塩微粒子の量がこの範囲よりも少ないと充分な親水性が維持できなくなり、好ましくない。また、バインダー量が少ないと微粒子間の接着性及び微粒子と基板の接着性が低下して好ましくない。
【0057】
バインダーの原料となる加水分解可能な金属化合物としては、焼成処理により実質的に酸化物を形成しうる金属化合物であればよく、チタン、ケイ素、ジルコニア、ホウ素、リン、鉄、スズ、アルミニウム等の金属の、無機塩、有機錯体、有機カルボン酸塩、アルコキシドおよびその加水分解物、等が挙げられるが、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコ二ウムの無機塩、有機錯体、有機カルボン酸塩またはアルコキシドより選ばれる少なくとも一つの金属化合物が好適に用いられる。
【0058】
その中でも、金属アルコキシド及びその加水分解物を原料として用いた場合、得られる膜の強度や化学的安定性に優れるため、特に好ましい。
【0059】
好ましい態様としては、金属アルコキシド及びその加水分解を主原料とし、他の副原料として水酸化物、コロイド水酸化物(コロイダルシリカ、コロイダルアルミニウム、コロイダルジルコニウム)、リン酸塩等を混合した系が挙げられ、乾燥・焼成後に、機械的な強度に優れる金属酸化物が得られる。
【0060】
以下に、原料となる主な金属化合物について例示する。
【0061】
原料となるケイ素のアルコキシドは、一般式 Si(OR)4 (式中、Rはそれぞれ独立に、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、セカンダリブチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基またはフェニル基のいずれかを示す。)で表されるアルコキシ化合物またはそれらの加水分解物であって、特にテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラノルマルプロポキシシラン、テトラノルマルブトキシシラン、テトラターシャリブトキシシランなどまたはその加水分解物が好ましい。また、−ORの一部が、塩素原子等のハロゲン原子で置換したものでもよく、例えば、クロロトリエトキシシラン、ジクロロジノルマルブトキシシラン、トリクロロノルマルブトキシシラン等が挙げられる。
【0062】
また、アルコール類などの有機溶媒に分散するものはには、一般にコロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、コロイダルジルコニアの金属酸化物コロイドやリチウムシリケート、カリウムシリケート、ナトリウムシリケートなどのアルカリシリケートと称する物が著名であるが、その他無機塩やリン酸塩などのアルコール類に溶解させた場合に溶解するかもしくは均一に分散するものであればよい。
【0063】
Al原料として無機塩では塩化アルミニウム、もしくはポリ塩化アルミニウム、ベーマイトのような水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、、硝酸アルミニウム、蟻酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、クエン酸アルミニウムなどの無水物および水和物がある。
【0064】
有機カルボン酸塩ではラウリル酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、ナフテン酸アルミニウム、2−エチルヘキサン酸アルミニウム等のAl塩またはそれらの含水塩などがある。
【0065】
アルミニウムアルコキシドは 一般式 Al(OR)3 (式中、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、セカンダリブチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基またはフェニル基のいずれかを示す。)で表されるアルコキシ化合物であって、特にトリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリノルマルプロポキシアルミニウム、トリセカンダリブチルアルミニウムが挙げられる。
【0066】
また、−ORの一部が、塩素原子等のハロゲン原子で置換したものでもよく、例えばクロロジイソプロポキシアルミニウム、クロロジセカンダリブチルアルミニウム、ジクロロイソプロポキシアルミニウム、ジクロロセカンダリブチルアルミニウム等を用いることもできる。
【0067】
アルミニウム金属錯体は、一般式 Al(OR)3−n で表される。式中、ORはアルコキシド、Y:はキレートを示す。ここでnは0〜3の整数を示す。Rはそれぞれ独立にメチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、セカンダリブチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基またはフェニル基のいずれかを表す。また、キレートとしてはアセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸プロピル、トリフロロアセチルアセトン、メタンスルフォン酸、トリフロロメタンスルフォン酸などが挙げられる。さらに、アルミニウムアルコキシドとこれらアルミニウム金属錯体の縮重合した2〜3量体も用いることも可能である。
【0068】
Ti原料として四塩化チタン(TiCl)、三塩化チタン(TiCl)、チタニルクロライド(TiOCl2)、硝酸チタン(Ti(NO4)、オキシ硝酸チタン(TiO(NO32)等の無水塩またはそれらの含水塩、2−エチルヘキサン酸チタン、もしくはアルコキシドが挙げられる。Tiアルコキシドは、一般式 Ti(OR)4 (式中、Rは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、セカンダリブチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基またはフェニル基のいずれかを示す。)で表されるアルコキシ化合物が挙げられ、テトラエトキシチタン、テトラノルマルプロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラノルマルブトキシチタンが好適に用いられる。またそれらの縮重合した2〜10量体も用いられる。
【0069】
また−ORの一部が塩素原子等のハロゲン原子に置換したものでもよく、例えば、クロロトリエトキシチタン、ジクロロジノルマルブトキシチタン、トリクロロノルマルブトキシチタン等を用いることも可能である。
【0070】
またチタン金属錯体は、一般式 Ti(OR)4−n で表される。式中、ORはアルコキシ基、Y:はキレートを示す。n:0〜3の整数を示す。Rはそれぞれ独立に、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、セカンダリブチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基またはフェニル基のいずれかを示す。またキレートとしてはアセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸プロピル、トリフロロアセチルアセトン、メタンスルフォン酸、トリフロロメタンスルフォン酸などが挙げられる。
【0071】
またアルコキシドとキレートの混合としてジブトキシチタンビスアセチルアセトナート、イソプロポキシジチタンビスオクチレングリコレートが挙げられる。
【0072】
また、Zr原料として四塩化ジルコニウム(ZrCl)、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl)、硝酸ジルコニウム(Zr(NO4)、オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO32 、ステアリン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、2−エチルヘキサン酸ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトナート等のZr塩またはそれらの無水および含水塩、もしくは一般式 Zr(OR)4 (式中、Rは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、セカンダリブチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基またはフェニル基のいずれかを示す。)で表されるアルコキシ化合物が挙げられる。
【0073】
かかるZrアルコキシドとしては、テトラエトキシジルコニウム、テトラノルマルプロポキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラノルマルブトキシジルコニウムが好適に用いられる。
【0074】
また−ORが一部ハロゲンに置換したものでもよく、例えば、クロロトリエトキシジルコニウム、ジクロロジノルマルブトキシジルコニウム、トリクロロノルマルブトキシジルコニウム等が挙げられる。
【0075】
本発明においては、ケイ素を膜形成の主たる成分としているので造膜性、被膜の基材への付着性、膜の安定性に優れるが、必要に応じて焼成したときに対応する酸化物となるアルミニウム、ジルコニウム、リン酸塩化合物を添加することも有効である。
【0076】
親水性被膜形成に使用される塗布薬液の固形分濃度は0.2〜20wt%、が好ましいが0.5〜10wt%、がより好ましい。同濃度が0.2wt%よりも低いと1回の塗布操作において形成される膜が薄いものとなり、親水性微粒子同士や微粒子と基材との強固な接着が困難であり実用上好ましくない。一方20wt%より高い場合は被膜が厚すぎて、チョーキング(粉吹き現象)や極端な体積収縮のため膜に剥離の原因となる程の大きなクラックが生じることがあるため好ましくない。しかしながら、必ずしもこの濃度条件でなければならないという訳ではなく、添加物、溶媒の種類により調節は可能である。
【0077】
濃度調節用の溶媒には、水や有機溶媒や、両者の混合溶媒を用いるが特にアルコール類、酢酸エステル、ケトン類を用いるのがよく、メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、エチレングリコールなどが例示でき、これらの2種以上を組み合わせたり、少量のエステル、ケトン、炭化水素等も添加して使用することも可能である。
【0078】
この時、得られる親水性被膜の膜厚は、0.05〜50μmが好ましく、0.3〜10μmがより好ましい。膜厚が0.05μmよりも薄い膜では、フィロケイ酸塩を含む微粒子同士を固定させるには不十分でありまた、金属表面の親水性被膜の遮蔽性が劣り、充分な親水性は期待できない、一方、50μmよりも厚い膜ではフィロケイ酸塩の微粒子の表面全体を被覆したり、また被膜が厚すぎて乾燥時にクラックや剥離が生じやすく、脆弱な被膜しか得られないため好ましくない。親水性被膜は、1回の塗布で形成することも複数回で形成することも可能である。
【0079】
薬液の基板上への塗布は、浸漬法、スプレー法、ローラーコート法、フローコート法、スクリーン印刷法、刷毛塗り、インクジェット等の方法により行う。親水性表面を付与する金属の種類は、熱伝導性、化学的安定性、機械的強度などをもとに使用条件を考慮して選択されるが、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、鉄、真鍮、ステンレス、カーボンなどが好ましく、それらの形状は板状、曲面または球面、矩形、矩形中空体、パイプ、中空コイル状のものが一般的であるが、各種の金属を積層したものや複合したものやそれらの成形体に親水性を付与することも当然可能である。
【0080】
本発明の被覆方法においては基材の表面に各種の前処理を施すことは有用である。機械研磨、電気研磨、バフ研磨、ブラスト研磨、酸洗浄、ドライアイス洗浄、氷洗浄、アルカリ洗浄、水洗浄、蒸気洗浄、あるいは有機溶剤による脱脂洗浄などはいずれの金属にたいしても有効である。アルミニウムまたはアルミニウム合金の場合には当分野において周知の技術である、アルマイト処理、クロメート処理あるいは亜鉛、チタン、ジルコニウムなどの燐酸塩による化成処理などが耐蝕性、被膜の付着性の向上を目的として使用することもできる。さらに本発明の目的を逸脱しない範囲においては、有機高分子化合物による前処理を適用できる場合もある。
【0081】
各種方法により形成された塗膜は、50〜80℃で10分から6時間乾燥および仮焼成し、焼成炉により100〜500℃で30分〜6時間焼成することにより優れた親水性表面を有する金属を得ることができる。
【0082】
焼成温度の上限はとくに限定する必要はないが、基材が金属の場合には当該金属の酸化物が生成して親水性に影響を与える場合がある。一例を挙げるならば、基板として銅を用いた場合は、120℃よりも上の温度で焼成した場合、基板自体が酸化銅となり撥水性となるため好ましくない。したがって、焼成温度は基板の金属が酸化する温度以下であることが好ましい。
【0083】
親水性膜製造用の薬液には、更にコロイダルシリカを導入することができる。コロイダルシリカを導入することにより、バインダーである金属アルコキシドがより混合しやすく、安定でレオロジーコントロールが制御しやすいように調整できる。また層状化合物であるフィロケイ酸塩微粒子間の間隙にコロイダルシリカが充填され、粒子間や粒子と基材とのより密着性の向上が期待される。
【0084】
コロイダルシリカの導入量は特に限定されないが、親水性フィロケイ酸塩を含む微粒子に対して75重量%以下がより望ましい。コロイダルシリカの導入により成膜時にさらなる親水性、被膜の耐久性の向上が見られる。
【0085】
また、バインダー以外の添加剤として、たとえばアスペクト比の5以上の磁性酸化鉄や弁柄、ガラスフレークなどの層状や薄片状のものや、セピオライト(sepiolite)や珪灰石(wollastonite)チタン酸カリウム、イモゴライト、カルサイトなどの針状の粒子などを添加することにより、より強固な被膜形成が可能である。
【0086】
また、親水膜表面での水との接触角が20°以下であることが望ましい。接触角は、JIS R 3257(1999)に準拠にして得られる被膜表面と純水の水滴の接触角から定義されるものとする。熱交換素子としては、濡れ性が高いほど良いと考えられるので、接触角の下限は特に限定はされないが、例えば0.1°以上としてもよい。
【0087】
さらにまた、熱交換素子の基材は銅、アルミニウム、黄銅、ステンレス鋼、カーボン、鋳鉄、チタン、ニッケル、などが挙げられ、またマグネシウム、ベリリウム、スズ、亜鉛、コバルト、白金、金、銀、パラジウム等の金属やそれらの合金のいずれかであることが望ましい。熱交換素子の基材は、その用途から熱伝導性が高いことが望ましい。そのため、上記基材が好適であるが、本発明の微粒子はこれら基材との接着性も良好である。
【0088】
以下、実施例に基づき、説明する。
【実施例】
【0089】
[実施例1]
攪拌機を具えた1Lの三ツ口フラスコに、SiO2換算28wt%のテトラエトキシシラン100gとエタノール(和光純薬製)100gを入れ50〜60℃水浴上で1時間攪拌した(A液とする)。
【0090】
100ml滴下ロートに5N塩酸約10gとエタノール25g加え均一溶液とした(B液とする)
A液を約60℃に加温しつつ攪拌しながらB液を約1時間で滴下して60℃において3時間攪拌した。それにエタノール50%とメトキシエタノール50%の混合溶媒を308g加えて希釈し、さらに攪拌しながら平均粒子径3μmのマイカ(商品名 A−11 山口雲母社製)を16.8g投入しSiO2の濃度が5%の白色スラリー塗布溶液を調製した。
【0091】
上記塗布溶液を300gを500mlビーカーに取り、ついで、その中へ50×100×0.1mmの無酸素銅板(C1020P)の試料片を投入し、次いで試料片を4mm/secの一定速度で塗布用溶液から引き上げ、70℃で20分間乾燥し、さらに乾燥器で空気中120℃で1時間乾燥させし、その後、室温まで冷却した。
【0092】
銅板試料に厚さ約4μm白色の被膜が形成された。被覆処理を施した試料について次の評価試験を行い、膜の親水性と化学的安定性を確認した。
【0093】
耐水酸性試験: ガラス製の1Lビーカーに800mlの純水を入れ、その中に上記の親水膜処理した銅板試料を浸漬し、室温で24時間放置した。時間の経過後試料を水道水の流水により5分間洗浄し、60℃で1時間乾燥させた。室温まで冷却した後の表面状態の観察を目視により行った。評価は全く変化の見られない物を○、クラックや剥離を認められるものを×とし、中間を△とした。
【0094】
耐溶剤試験: ガラス製の1Lビーカーにアセトンをいれ、その中に試料を浸漬し、室温で24時間放置した。時間の経過後試料を水道水の流水により5分間洗浄し表面状態の観察を目視により行った。評価は全く変化の見られない物を○、クラックや剥がれの見られるものを×とし、中間を△とした。
【0095】
親水性試験:協和界面科学製接触角測定装置にて、親水膜の純水接触角を測定した。
【0096】
試料の表面にマイクロシリンジで25μlの蒸留水を静かに滴下し、5秒後における水滴の接触角を測定した。
【0097】
それぞれの測定結果は表1に示す。被膜の、耐水性、耐溶剤性、親水性試験において後述の比較例と比べ極めて優れた親水性を有することは明白である。
【0098】
[実施例2]
攪拌機を具えた1Lの三ツ口フラスコに、SiO2換算28wt%のテトラエトキシシラン100gとエタノール(和光純薬製)100gを入れ50〜60℃水浴上で1時間攪拌した(A液とする)。
【0099】
100ml滴下ロートに5N塩酸約10gとエタノール10g加え均一溶液とした(B液とする)
A液を約60℃に加温しつつ攪拌しながらB液を約1時間で滴下して60℃において3時間攪拌した。さらにIPA溶媒50gとSiO2換算で30%のコロイダルシリカ(日産化学製)を50g加えSiO2の濃度が15%のになるように、メトキシプロパノール547gを加えて無色透明の塗布溶液を得た。この溶液にカオリナイト43g(日本タルク製)を加えて白色スラリー溶液を調製した。
【0100】
この塗布用溶液300gを500ccガラス製ビーカーに取り、その中へ50×150×0.2mmのSUS304製の試料片を投入し、次いで試料片を4mm/secの一定速度で塗布用溶液から引き上げ、電気炉により空気中100℃で120分間乾燥させた。
【0101】
その後さらに5℃/minの速度で450℃に昇温し、20分間そのまま保持し、電気炉から取り出し放冷すると、SUS板試料に厚さ約16μm白色の被膜が形成された。
実施例1と同様の評価を行った。それぞれの評価結果を表1の各欄に示す。
【0102】
[実施例3]
攪拌機を具えた1Lの三ツ口フラスコに、TiO換算8wt%のチタンクロルアルコキシド:Ti(O−iPr)3Cl(セントラル硝子製)を100gにエタノール126g加え、攪拌しながら、SiO2換算で30%のコロイダルシリカ(日産化学製)を20g加え、TiO+SiOの濃度が5%になるように、エタノール70%とメトキシプロパノール30%の混合溶媒を126gと水20gを加えて希釈し2時間攪拌した。、それにフィロケイ酸塩微粒子としてタルク(商品名ナノエース 日本タルク製)を14g添加してを塗布用白色スラリー溶液を調製した。
【0103】
実施例1同様に真鍮板試料に厚さ約7μm白色の被膜が形成された。実施例1と同様の評価を行い、それぞれの評価結果を表1の各欄に示す。
【0104】
[実施例4]
攪拌機を具えた1Lの三ツ口フラスコに、SiO2換算28wt%のテトラエトキシシラン(和光純薬製)8gとエタノール100gを入れ、これにZrO2換算で10%のコロイダルジルコニア(日星産業製)10gを加えて50〜60℃で1時間攪拌した。(A液)
別に100ml滴下ロートに5N塩酸8gとエタノール10g加え均一溶液とした(B液とする)。
【0105】
A液を攪拌しながら60℃に保ちつつ、B液を徐々に1時間で滴下して3時間攪拌した。
【0106】
ついで、攪拌しながら平均粒子径2μmのマイカ(商品名 SJ−5 山口雲母製)を16.2g投入し、さらに、攪拌しながら172gのエタノールで希釈し、SiO2+ZrO2換算で1wt%の白色スラリー塗布溶液を調製した。
【0107】
この塗布用溶液300gを500ccガラス製ビーカーに取り、その中へ50x150x0.1mmのアルミニウム基板の試料片を投入し、次いで試料片を4mm/secの一定速度で塗布用溶液から引き上げ、空気中、70℃で20分間乾燥し、さらに電気炉により空気中200℃で120分間乾燥させた。
【0108】
乾燥機ら取り出し放冷すると、アルミニウム基板試料に厚さ約6μm白色の被膜が形成された。
実施例1と同様の評価を行った。それぞれの評価結果を表1の各欄に示す。
【0109】
[実施例5]
攪拌機を具えた1Lの三ツ口フラスコに、SiO2換算28wt%のテトラエトキシシラン(和光純薬製)120gとエタノール100gを入れ50〜60℃水浴上で1時間攪拌した(A液とする)。
【0110】
別に100ml滴下ロートに5N塩酸約12gとエタノール10g加え均一溶液とした(B液とする)。
【0111】
このB液をA液中に1時間で滴下して60℃において3時間攪拌した。さらに攪拌しながら平均粒子径1μmのタルク(商品名 ハイミクロン 竹原化学社製)を22.4g投入し、さらに、SiO2の濃度が3%になるように、イソプロパノール856gで希釈し、白色スラリー塗布用溶液を調製した。
【0112】
この塗布用溶液300gを500ccガラス製ビーカーに取り、その中へ50x150x0.1mmのCu基板の試料片を投入し、次いで試料片を4mm/secの一定速度で塗布用溶液から引き上げ、空気中、70℃で20分間乾燥し、さらに電気炉により空気中120℃で120分間乾燥させた。
【0113】
乾燥機ら取り出し放冷すると、Cu基板試料に厚さ約4μm白色の被膜が形成された。
実施例1と同様の評価を行った。それぞれの評価結果を表1の各欄に示す。
【0114】
[実施例6]
攪拌機を具えた1Lの三ツ口フラスコに、SiO換算28wt%のテトラエトキシシラン(和光純薬製)6gとエタノール100gを入れ50〜60℃水浴上で1時間攪拌した(A液とする)。
【0115】
別に50ml滴下ロートに5N塩酸約1glとエタノール20g加え均一溶液とした(B液とする)。
【0116】
このB液をA液中に1時間で滴下して60℃において3時間攪拌した。さらに攪拌しながら平均粒子径1μmのタルク(商品名 ミクロライト 竹原化学社製)を15.1g投入し、さらに、SiO2の濃度が0.5%になるように、イソプロパノール194gで希釈し、白色スラリー塗布用溶液を調製した。
【0117】
この塗布用溶液300gを500ccガラス製ビーカーに取り、その中へ50x150x0.1mmのSUS基板の試料片を投入し、次いで試料片を4mm/secの一定速度で塗布用溶液から引き上げ、空気中、70℃で20分間乾燥し、さらに電気炉により空気中350℃で120分間焼成した。乾燥機ら取り出し放冷すると、SUS基板試料に厚さ約2μm白色の被膜が形成された。
実施例1と同様の評価を行った。それぞれの評価結果を表1の各欄に示す。
【0118】
いずれの場合も被膜の、耐水性、耐溶剤性および親水性試験において優れた結果を示し、後述の比較例と比べ顕著な効果が認められた。
【0119】
これらの実験によれば、基材の濡れ性が向上し、熱交換素子部材の性能向上が可能になることは明白である。
【0120】
【表1】

【0121】
[比較例1]
実施例1同様にテトラエトキシシラン(和光純薬製)のエタノール溶液を5%濃度に調製し、フィロケイ酸塩を添加しなかった。実施例1と同様の方法で被膜形成をおこなった。Cu基板試料に厚さ約5μm白色の被膜が形成された。
実施例1と同様の評価を行った。それぞれの評価結果を表1の各欄に示す。
バインダーのみでフィロケイ酸塩を添加しないため親水性は劣るものであった。
【0122】

[比較例2]
実施例2と同様にSiO2換算で15%に調製した溶液に、フィロケイ酸塩の代わりに疎水性の粒子径6μmのZrB2(和光純薬製)を加えた溶液を用いて、実施例1と同様に真鍮基板試料に厚さ約25μm白色の被膜が形成された。
実施例1と同様の評価を行った。それぞれの評価結果を表1の各欄に示す。
フィロケイ酸塩の代わりにZrB2を添加したため、親水性に劣り、また被膜の耐水性に劣るものであった。
【0123】
[比較例3]
攪拌機を具えた1Lの三ツ口フラスコに、エタノール380gを入れ室温で攪拌しながら、平均粒子径3μmのマイカ(商品名 A−11 山口雲母社製)を5g投入した(A液とした)。
【0124】
これに200mlの滴下ロートに0.5gのCMC(カルボキシメチルセルロース)と50℃の純水100g加え均一溶液とした(B液とする)。
【0125】
B液をA液に室温で攪拌しながら約1時間で滴下して、白色スラリー塗布溶液を調製した。
【0126】
上記塗布溶液を300gをビーカーに取り、ついで、その中へ50×100×0.1mmのアルミニウム板試料を投入し、次いで試料片を4mm/secの一定速度で塗布用溶液から引き上げ、70℃で20分間乾燥し、さらに乾燥器で空気中200℃で2時間乾燥させし、その後、室温まで冷却した。
【0127】
アルミニウム基板試料に厚さ約3μm白色の被膜が形成された。
実施例1と同様の評価を行った。それぞれの評価結果を表1の各欄に示す。
実施例1と同様の方法により被膜を形成したが、バインダーがないため得られた被膜は容易に剥離し、安定性試験を行えなかった。
【0128】
[比較例4]
実施例1と同様にSiO2換算で5%に調製した溶液に、親水性粉末が0.2%になるように粒子径3μmのタルク(商品名 ミクロライト 竹原化学製)1.1gと希釈エタノール324gを添加して、実施例1同様にCu基板に被膜を形成した。Cu基板試料に厚さ約6μm白色の被膜が形成された。
【0129】
実施例1と同様の評価を行った。それぞれの評価結果を表1の各欄に示す。
得られた被膜は大半がSiO2であり、フィロケイ酸塩が不足のため、親水性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明によれば、光の照射のない状態においても、耐久性のある親水性膜が得られるため、当該親水性膜を塗布した基材は、熱交換素子部材のみならず、親水性の求められる広い範囲の分野において利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に設けられた親水性膜において、該親水性膜は膜中に分散されたフィロケイ酸塩を含む微粒子とバインダーから形成され、該バインダーが前記微粒子と基材および前記微粒子同士とを接合していることを特徴とする親水性膜。
【請求項2】
バインダーとフィロ珪酸塩鉱物の重量比が10/90〜90/10からなる請求項1に記載の親水膜。
【請求項3】
膜厚が0.05〜50μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の親水性膜。
【請求項4】
フィロケイ酸塩が、雲母やモンモリロナイト、ハロサイト、カオリナイト、スメクタイト、タルク、バーミュキュライト、緑泥石、ガイロライト、ブレーナイト、珪孔雀石よりなる群より選ばれる少なくとも一つである請求項1乃至3のいずれかに記載の親水性膜。
【請求項5】
フィロ珪酸塩の微粒子のアスペクト比が、3以上である請求項1乃至請求項4のいずれか記載の親水性膜。
【請求項6】
バインダーが金属アルコキシド及びその加水分解により形成される金属酸化物を含む請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の親水性膜。
【請求項7】
金属アルコキシドが、シリカアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドよりなる群より選ばれる少なくとも一つである請求項4に記載の親水性膜。
【請求項8】
親水膜表面での水との接触角が20°以下であることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の親水性膜。
【請求項9】
基材が銅、アルミニウム、黄銅、ステンレス鋼(SUS)、カーボン、鉄、チタン、ニッケル、マグネシウムまたは真鍮の少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の親水性膜。
【請求項10】
基材と、該基材上に設けられた親水性膜からなる熱交換素子部材であって、親水性膜が請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の親水性膜であることを特徴とする熱交換素子部材。

【公開番号】特開2010−90461(P2010−90461A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263852(P2008−263852)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】