説明

観察用光学機器

【課題】画像表示部に要求されるフレームレートを抑制するとともに、広画角化を達成し、観察者の単眼内に複数の視差画像を呈示する超多眼表示を行うことが可能な観察用光学機器を提供する。
【解決手段】片方の目に複数の視差画像を入射させる観察用光学機器であって、開口が形成される領域を変更可能な開口形成手段(6)と、前記複数の視差画像を時系列で表示する画像表示手段(1)と前記開口形成手段との同期をとる信号同期手段(4,9,7,8)と、前記信号同期手段からの信号に基づいて、前記開口形成手段の前記開口が形成される領域と該開口の水平方向幅を制御する制御手段(7)と、観察者の視線を検出する視線検出手段(10〜12)と、を有し、前記制御手段は、前記視線検出手段により検出された結果に応じて、前記開口の水平方向幅を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察者の視覚疲労が少ない立体像を提供可能な観察用光学機器に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
両眼視差画像を観察者の左右眼に独立に呈示して立体画像を表示する装置は、様々な方式のものが提案されている。このうち観察者の左右眼の眼前に何らかの画像分離用メガネを装着させて観察者に両眼立体視を行わせる方式のものは、一般的に「メガネ式立体表示装置」と呼ばれる。さらに上記の画像分離用メガネの分離方法によっても方式分別され、色情報を利用して左右眼用画像を分離するものは「アナグリフ方式」、偏光を利用して分離するものは「偏光メガネ方式」と呼ばれる。また、時間交互に左右眼領域の透過と遮蔽を高速に切り替え、これと同期して左右眼用画像表示を行うものは「時分割シャッターメガネ方式」と呼ばれる。
【0003】
特許文献1には上記「時分割シャッターメガネ方式」のうち、「超多眼表示」を実現して視覚疲労を低減する新技術を適用した例が開示されている。「超多眼表示」とは、例えば非特許文献1に示されている表示方法のことである。非特許文献1では、立体像の視差画像の視差間隔を観察者の単眼内に複数の視差画像が同時に入射するほどに小さくしていくと、通常の両眼視差を用いた立体視では実現しない「立体像観察時の眼の調節と輻輳の一致」という現象が実現されるとされている。また、この現象により、観察者の視覚疲労が低減する可能性があるとされている。特許文献1では、観察者の単眼内に複数の視差画像を同時に入射させるために、複数の視差画像を高速に切り替える表示部と同期して各メガネ枠内にて時系列的に変位可能なスリットを有する画像分離用メガネを構成している。そして、特許文献1では、この画像分離用メガネを用いて、単眼内に複数の視差画像を呈示する「超多眼表示」を行い、観察者に自然な立体視を行わせる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11‐194299号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】梶木善裕:“超多眼領域を用いた3Dディスプレイ”,光技術コンタクト,36,pp.624‐631(1998)
【非特許文献2】鈴木謙二:“SLRカメラの視線入力オートフォーカス”,オプトロニクス、No.8,pp.101−105(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発明において観察者が広画角で画像観察を行えるようにするためには、上述したスリットの変位範囲が眼球の中心視野から周辺視野までをカバーするように構成する必要がある。しかしながら、そのような構成をとるとスリット数が増大し、ひいてはスリット形成に同期して観察者に呈示すべき視差画像数も増大してしまう。上述した「超多眼表示」を行うためには、上記のスリット形成と視差画像呈示の一連の動作は観察者の残像許容時間内に完了させる必要がある。したがって、観察者に呈示すべき視差画像数が増大すると、その分視差画像を呈示する表示部はより高速フレームレートでの画像切り替え表示が要求されるようになる。例えばスリット数が片眼あたり10、両眼あわせて20となる場合、表示部に要求されるフレームレートは通常ディスプレイの20倍となる。このような高速表示ディスプレイを用意することは容易ではない。
【0007】
そこで、本発明は、画像表示部に要求されるフレームレートを抑制するとともに、広画角化を達成し、観察者の単眼内に複数の視差画像を呈示する超多眼表示を行うことが可能な観察用光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面としての観察光学用光学機器は、片方の目に複数の視差画像を入射させる観察用光学機器であって、開口が形成される領域を変更可能な開口形成手段と、前記複数の視差画像を時系列で表示する画像表示手段と前記開口形成手段との同期をとる信号同期手段と、前記信号同期手段からの信号に基づいて、前記開口形成手段の前記開口が形成される領域と該開口の水平方向幅を制御する制御手段と、観察者の視線を検出する視線検出手段と、を有し、前記制御手段は、前記視線検出手段により検出された結果に応じて、前記開口の水平方向幅を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、画像表示部に要求されるフレームレートを抑制するとともに、広画角化を達成し、観察者の単眼内に複数の視差画像を呈示する超多眼表示を行うことが可能な観察用光学機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1における観察用光学機器の平面図である。
【図2】本発明の実施例1における画像分離用メガネの斜視図である。
【図3】図3(a)は、本発明の実施例1における画像分離用メガネの空間変調器上に形成される開口の正面図である。図3(b)は、本発明の実施例1における画像分離用メガネの空間変調器上に形成される開口の位置が時系列的に変化していく様子を示す図である。
【図4】図4(a)は、図3(b)の各開口の位置における可視光透過率を表すグラフである。図4(b)は、本発明の画像表示部上の画像表示タイミングを表すグラフである。
【図5】視差画像取得方法を説明するための図である。
【図6】図6(a)は、本発明の実施例1における画像分離用メガネを用いて観察者が領域2の開口を通して視差画像2を観察する様子を示す図である。図6(b)は、本発明の実施例1における画像分離用メガネを用いて観察者が領域3の開口を通して視差画像3を観察する様子を示す図である。
【図7】図7(a)は、画像分離用メガネの空間変調器上に形成される開口の幅がすべて小さい幅に統一された場合の光束指向性との関係を示す図である。図7(b)は、画像分離用メガネの空間変調器上に形成される開口の幅がすべて大きい幅に統一された場合の光束指向性との関係を示す図である。
【図8】画像分離用メガネの空間変調器上の開口の幅がすべて小さい幅に統一された場合の正面図である。
【図9】図9(a)は、観察者の瞳が正面を向いているときの視線を検出している様子を表す図である。図9(b)は、観察者の瞳が正面以外の方向を向いているときの視線を検出している様子を表す図である。
【図10】本発明のキャリブレーションモードでの呈示画像の一例を示す図である。
【図11】図11(a)は、本発明の実施例1における画像分離用メガネを用いて観察者が表示画像の中心点を注視している状態とその視線に追従して設けられた開口の状態を示す図である。図11(b)は、図11(a)における画像分離用メガネの空間変調器上に形成される開口の正面図である。
【図12】図12(a)は、本発明の実施例1における画像分離用メガネを用いて観察者が表示画像の周辺領域を注視している状態とその視線に追従して設けられた開口の状態を示す図である。図12(b)は、図12(a)における画像分離用メガネの空間変調器上に形成される開口の正面図である。
【図13】図13(a)は、本発明の実施例1における画像分離用メガネを用いて観察者が表示画像の中心点を注視している状態と開口の状態が観察者の視線に追従している場合の視差画像光が瞳に入射する様子を示す図である。図13(b)は、観察者が表示画像の周辺領域に視線を移したときに、開口の状態が観察者の視線に追従しなかった場合の視差画像光が瞳に入射する様子を示す図である。図13(c)は、観察者が表示画像の周辺領域に視線を移したときに、開口の状態が観察者の視線に追従した場合の視差画像光が瞳に入射する様子を示す図である。
【図14】図14(a)は、本発明の実施例2における画像分離用メガネを用いて観察者が表示画像の中心点を注視している状態とその視線に追従して設けられた開口の状態を示す図である。図14(b)は、図14(a)における画像分離用メガネの空間変調器上に形成される開口の正面図である。
【図15】図15(a)は、本発明の実施例2における画像分離用メガネを用いて観察者が表示画像の周辺領域を注視している状態とその視線に追従して設けられた開口の状態を示す図である。図15(b)は、図15(a)における画像分離用メガネの空間変調器上に形成される開口の正面図である。図15(c)は、図14(a)において観察者が表示画像の周辺領域に視線を移したときに、開口の状態が観察者の視線に追従しなかった場合の視差画像光が瞳に入射する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明を適用した観察用光学機器の第1実施例の平面図である。本装置は主要な構成として画像表示部1(画像表示手段)と画像分離用メガネ5とを有している。画像表示部1は画像表示部制御手段3に接続され、そこから送信される画像信号を画像情報光に変換して画面上に表示画像Iを表示する。画像表示部1は、後述するように複数の視差画像を時系列で表示することが可能である。画像表示部制御手段3は同期信号発生手段4とも接続されており、同期信号発生手段4が画像表示の同期信号を発生して同期用無線信号発信部9(信号同期手段)から無線の同期信号を発信する。
【0013】
一方、画像分離用メガネ5は以下のような構成を有している。メガネ装着者(観察者)の眼前にあたる部分に空間変調器6R,6L(開口形成手段)を有している。ここでは右眼用の空間変調器を6R、左眼用の空間変調器を6Lと記載している(以下、同様にして右眼用の部品には“R”、左眼用の部品には“L”の添字を用いる。)。これらの空間変調器6R,6Lは光を透過する領域(以下、光透過領域、又は、開口とも呼ぶ。)と非透過の領域とを入力される電気信号に応じて制御することが可能で、空間変調器駆動部7R,7L(制御手段)によって駆動される。空間変調器6R,6Lは、この空間変調器駆動部7R,7Lにより駆動されることで、開口が形成される領域を変更可能である。
【0014】
また、同期用無線信号受信部8(信号同期手段)を有しているので、前述した同期用無線信号発信部9から発せられる画像表示の同期無線信号を受信することができ、この信号を使用して空間変調器6R,6Lの同期駆動を行うことができる。この同期駆動について、図2〜4を用いて説明する。
【0015】
図2は画像分離用メガネ5において空間変調器6R上に形成される光透過領域の様子を示している。開口SL−6Rは水平方向に狭く縦方向に長いスリット形状となっており、開口SL−6R以外の領域は光を遮断する構造となっている。開口SL−6Rは前述の同期無線信号に同期して時系列的にその形成位置を変化させていく。
【0016】
図3(a)は開口形成領域を正面から観察した図である。空間変調器6R、6Lは複数の位置にスリット開口を形成することができるが、本実施例においてはそのうち、左右4つずつの開口形成領域を形成しており、時刻tの経過に応じて左右合計8つのうち1つの領域のみが透過状態となるよう制御される。
【0017】
1つの開口形成時間をΔとするとき、図3(a)の領域1〜8が順次透過状態となっていき、時間8Δで開口形成が一巡する。この様子をさらに詳しく図3(b)を用いて説明する。図3(b)において時刻t=0〜1Δのとき領域1が透過状態となり、その他の領域は非透過となっている。同様にして時刻t=1Δ〜2Δのときは領域2のみが、時刻t=2Δ〜3Δのときは領域3のみが・・・という要領で開口形成動作が時間8Δ周期で繰り返される。各領域の可視光透過率をグラフで表すと図4(a)のようになる。グラフ横軸の時刻tの変化に伴って、開口形成位置が順次切り替わっていくことが示されている。
【0018】
なお、空間変調器6R,6L上に形成される開口の幅は領域によって異なっている。この効果については後ほど詳しく述べる。ここではまず、開口形成と視差画像表示の同期表示について説明する。
【0019】
本発明においては上記空間変調器6R,6L上での開口形成のタイミングと画像表示部1における画像表示のタイミングを同期させる制御を行っている。図4(b)は画像表示部1上の画像表示タイミングのグラフである。領域1に開口が形成されるときは視差画像1が、領域2に開口が形成されるときは視差画像2が、領域3に開口が形成されるときは視差画像3が・・・という要領で開口位置に対応した視差画像表示が行われる。なお、これら一連の開口形成サイクルはすべて観察者の残像許容時間内(一般に、1/60秒以内といわれる。)に行われるため観察者は開口の変位を認識することができず、領域1〜4、領域5〜8がそれぞれ大きな開口として認識される。換言すれば、複数の視差画像の時系列的な順次表示の一周期と、開口の時系列的な順次形成の一周期とは、共に観察者の残像許容時間内で行っている。
【0020】
次に、上記視差画像1〜8の取得方法について説明する。図5は視差画像取得方法の説明図である。良好な立体画像を再生するためには、撮像時の空間と再生時の空間との相対的位置関係を一致させることが望ましい。つまり、撮像空間において、再生したい物体、再生時の画像表示部、観察者の視点の3者の相対的位置関係を仮想的に決めておき、観察者視点位置に撮像カメラを配置して物体を撮像する。その後、再生時の画像表示部の画面範囲でトリミングを行えば、適切な視差画像を取得することができる。
【0021】
図5で示す撮像空間においては仮想的な立体画像表示部位置を図中1’の位置に、仮想的な観察者視点位置をR1、R2、R3、R4、L1、L2、L3、L4に定めている。このとき、観察者視点R1〜4、L1〜4はそれぞれ、画像再生時の空間変調器6R、6Lの開口形成領域1〜8の中心点と対応している。
【0022】
したがって、前述した視差画像1〜8を取得するには上記観察者視点R1〜4、L1〜4に撮像カメラ31を配置して、それぞれの視点位置から物体32を撮像すればよい。ただし、再生時に画像表示部1の画面上に表示する画像範囲は、撮像時の仮想的な画像表示部1’の画面領域と一致していることが望ましいので、各視差画像を図中のクロスハッチング部で示された空間との共通領域に限定するトリミングをおこなうとよい。
【0023】
このようにして得られた8つの視差画像をそれぞれに対応する視点位置から独立に観察すれば観察者は立体視を行うことができる。図6はこの様子を説明する本装置の平面図である。図6(a)は、図3(b)、図4(a)、(b)における時刻t=1Δ〜2Δのときの状態を示している。空間変調器6R,6Lの各領域のうち領域2のみが光透過状態となっており観察者はこの領域2の開口を通して表示画像Iを観察できるが、このとき表示画像Iには領域2の中心点R2を視点として取得した視差画像2が表示される。同様にして、時刻t=2Δ〜3Δのときには図6(b)に示すように領域3のみが光透過状態となっており、観察者はこの領域3の開口を通して領域3の中心点R3を視点として取得した視差画像3を観察する。上記の所作を繰り返すと、観察者は領域1〜8の開口を通して、視差画像1〜8をそれぞれ独立に観察することができる。
【0024】
このとき例えば視差画像1〜4は右眼に呈示され視差画像5〜8は左眼に呈示されることになるが、このうち右眼用視差画像1枚と左眼用視差画像1枚のペア、例えば視差画像2と視差画像6を観察することで観察者は両眼視差による立体視を行うことができる。
【0025】
さらに視差画像1〜4はいずれも観察者の右眼のみに、視差画像5〜8はいずれも観察者の左眼のみにほぼ同時に表示されており、先に述べた単眼内視差呈示による「超多眼表示」の状態が達成されることになる。その結果「立体像観察時の眼の調節と輻輳の一致」という現象が実現して観察者の視覚疲労が低減するという効果が生まれる。
【0026】
次に空間変調器6R、6L上に形成される開口の幅と「超多眼表示」の効果の関係について図7を用いて説明する。図7(a)と図7(b)は、それぞれ本実施例の構成において、空間変調器6上に形成する開口の幅が小さい場合と大きい場合の観察者の単眼に入射する光束の状態を示した図である。
【0027】
図7(a)において表示画像I上に画素Aが表示されているときは開口Aが、画素Bが表示されているときは開口Bが形成される。各開口の幅は画素と同程度に小さく設定されているため、開口を通して観察者の単眼に入射する光束(図中、網掛けで表示)はいずれも指向性の高い光束となっている。上記の開口形成と画像表示は観察者の残像許容時間内にすべて完了するので、観察者からは指向性の高い2本の光束が同時に片眼に入射するように見える。このとき、2つの光束は図中の交点(1)の位置で交わっているが、光束の指向性が高いため交点(1)の断面積は画素A、画素Bの面積とほとんど変わらない。つまり観察者はこの光束の光源面がどこであるかを特定しにくい状態となっている。この状態で観察者が眼の水晶体22を調節して眼のピントを変化させると、画像表示面Piに合焦したときは二重像が観察されるのに対し、交点面Pcに合焦したときは1つの点像として認識される。そのため、観察者の眼の調節は光束の交点面Pcに誘導されるといわれている。
【0028】
一方、図7(b)のように開口の幅が画素の数倍程度に大きい場合を図7(a)と比較して見てみると、各開口を通して観察者の単眼に入射する光束(図中、網掛けで表示)は、図7(a)の場合よりもやや指向性の低い、拡散光気味の光束となっている。このとき、2つの光束は図中の交点(2)の位置で交わっているが、光束の指向性が低いため交点(2)の断面積は画素A、画素Bの面積よりも大きくなっている。この状態で観察者が眼の水晶体22を調節して眼のピントを変化させると、画像表示面Piに合焦したときよりも交点面Pcに合焦したときのほうが光束断面積は大きくなったように認識される。そのため、図7(a)の状態と比べて観察者の眼の調節は画像表示面Piに誘導されやすくなると推測できる。
【0029】
このように、空間変調器6上に形成する開口の幅が小さい方が、超多眼表示の効果である「立体像観察時の眼の調節と輻輳の一致」状態は、より発生しやすくなると考えられる。
【0030】
しかしながら、1個の開口の幅をより小さくすると形成すべき開口の数の増加を招く。なぜなら、空間変調器6上の開口形成領域は観察者が表示画像Iを観察する画角をカバーするものでなくてはならないため、開口形成可能範囲の面積は不変のまま開口幅が小さくなる分、分割割数が増加することを意味するからである。また、前述したように開口形成サイクル(=視差画像表示サイクル)は観察者の残像許容時間内に行われるべきなので、もし形成すべき開口の数が増加すると画像表示部1はより高いフレームレートで画像を表示しなくてはならなくなる。
【0031】
そこで、本実施例では形成される開口の幅を観察者の片眼の「中心視野」では小さく「周辺視野」では大きくなるよう設定して呈示する視差画像数を抑制し、画像表示部1に要求される表示フレームレートを低く抑えている。これは、一般に眼の中心視野ほど空間分解能は高く、眼の視線方向から2度ずれると視力は1/3ほどに低下するといわれているので、「超多眼表示」を行う対象範囲を「中心視野」優先としても問題ないと考えたからである。つまり、立体像の奥行き知覚に最も寄与すると思われる「中心視野」のみ指向性の高い光束を入射させ、「周辺視野」では入射する光束の指向性を低下させるという方法を本実施例では採用している。この方法は、既に図3でも示している。図3に示されるように、観察者左右眼の直前位置に相当する領域2、3、6、7の開口幅は小さく、その周辺部の領域1、4、5、8の開口幅は大きく設定されている。このように、本発明は、空間変調器6の片方の目に対応する領域2、3(6、7)の周辺部の領域1、4(5、8)に形成される開口の水平方向幅が、中心部の領域2、3(6、7)に形成される開口の水平方向幅よりも広い幅を持つ。したがって、本発明は例えば後述する図8に示されるように領域1〜6(7〜12)に形成される各開口の水平方向幅が物理的に等しい幅を有する構成であっても、空間変調器駆動部7によって開口が狭い幅や広い幅を持つように制御されることでも達成される。つまり、例えば、空間変調器駆動部7は、図8の領域1、2、5、6(7、8、11、12)に形成される開口の水平方向幅が領域3、4(9、10)に形成される開口の水平方向幅よりも広い幅を持つように制御するものであればよい。
【0032】
上記の本発明のような「不等開口幅」を適用した場合とそうでない場合とで、画像表示部1に要求される性能が大きく異なることを確認しておく。例えば図8のように形成する開口の幅がすべて等しく、片眼あたり6、両眼あわせて12の開口を形成する場合、画像表示部1に要求されるフレームレートは通常ディスプレイの12倍となる。通常ディスプレイの表示フレームレートは60Hz程度なので、特許文献1の発明を実施するには表示フレームレート720Hzのディスプレイデバイスが必要となる。一方、本実施例の場合図3(a)に示したように、観察者の画角は図8の場合と同じであるにもかかわらず、形成する開口数が片眼あたり4、両眼あわせて8となっている。したがって、画像表示部1に要求されるフレームレートは通常ディスプレイの8倍で済み、表示フレームレートが480Hz程度のディスプレイデバイスで実現可能となる。つまり「不等開口幅」を適用した場合、そうでない場合と比べて約33%も要求フレームレートを低減化することが出来た。
【0033】
次に、本実施例のもう一つの特徴である視線検出機能について説明する。図1において画像分離用メガネ5は装着者の視線を検出するための部品として瞳孔照明手段10(10R,10L)と瞳孔画像取得手段11(11R,11L)を有している。瞳孔画像取得手段11R,11Lで得られた瞳孔画像は視線検出処理部12R、12Lに送られ、画像処理によって観察者の視線方向を検出する。本発明では、これら瞳孔照明手段10、瞳孔画像取得手段11、視線検出処理部12が視線検出手段として機能している。視線検出方法については各種方法があるが、ここでは非特許文献2に示されている方法を用いている。瞳孔照明手段10は水平方向に並んだ2個の赤外LED(発光ダイオード)で構成されている。これらで眼を照明し、その時の瞳孔の様子を瞳孔画像取得手段11によって撮影する。瞳孔画像取得手段11は撮像光学系とCCDなどのエリアセンサで構成され、2次元の画像情報として瞳孔画像を取得することができる。
【0034】
図9(a)は眼が正面を向いているときの瞳孔画像、図9(b)は眼が正面以外の方向を向いているときの瞳孔画像を示している。これらの瞳孔画像は視線検出処理部12に送られ、画像情報から視線方向の情報を抽出するために画像処理される。瞳孔画像には眼の虹彩21と瞳孔22が異なる画像濃度で表現されているので、視線検出処理部12ではまず画像濃度差から瞳孔輪郭を抽出することができる。次に、視線検出処理部12では赤外LED光源の角膜面反射による虚像である「プルキンエ像」23を抽出する。こちらも画像濃度差が顕著なので画像処理によって抽出することができる。図9(a)と図9(b)を比較してみると、視線方向が変化し眼球が回転した場合に瞳孔22の位置は変化しているにもかかわらず、プルキンエ像23の位置は変化しない。したがって、瞳孔22とプルキンエ像23との相対的位置関係を求めれば眼球の回転量を導出でき、ひいては視線方向を検出することができる。
【0035】
ただし、眼球の形状などの個人差により視線方向と眼球回転量の関係も個人によってばらつく。つまり瞳孔22とプルキンエ像23との相対的位置関係を視線方向に変換するアルゴリズムは個人毎に変更しなくてはならない。そこで個人毎のキャリブレーションが必要となる。
【0036】
キャリブレーションは通常の画像表示とは別の動作モードで行う。モードの切り替え(識別)には同期用無線信号を用いるとよい。例えば、キャリブレーション用画像を5種類用意してキャリブレーションを行う場合、通常の同期用無線信号とは変調周波数の異なる5種類の信号を同期用無線信号発信部9から発信する。そして、それを受信した画像分離用メガネ側はそれぞれの「キャリブレーションモード」に移行して専用動作を行う。このように、本実施例では、複数のキャリブレーションモードの識別を信号同期手段8を使って行っている。具体的には、まず空間変調器6R,6Lの開口形成可能な領域すべてが「透過」状態となる。そして画像表示部制御手段3は画面内の右上、右下、左上、左下、中心の5つの位置を注視させる指標画像を画像表示部1に順次表示する。図10は「左上」を注視させるキャリブレーション用指標画像の例である。観察者には、画面に正対したまま首を動かさずに眼だけを動かして、それらの指標を注視した状態でキャリブレーションボタン13を押下してもらい、視線検出部12はそのときの瞳孔22とプルキンエ像23との相対的位置関係を順次取得する。視線検出部12内のCPUはそれらの情報を元に、その観察者用の視線方向変換アルゴリズムを構築して、その後の視線検出動作に活用すればよい。なお、こうした「キャリブレーションモード」は立体映像コンテンツの冒頭部などに設定するとよい。
【0037】
上記の通り本実施例では観察者の視線方向検出が可能であるが、この視線方向の情報に基づき観察者の視線方向に追従した開口形成を行う方法について図11及び図12を用いて説明する。なお、空間変調器6R,6Lはそれぞれ6つの領域に分割され、6RはRa、Rb、Rc、Rd、Re、Rfの6つの領域の光透過/遮蔽を制御できるものとする。また、6LはLa、Lb、Lc、Ld、Le、Lfの6つの領域の光透過/遮蔽を制御できるものとする。図11(a)、図11(b)は観察者が表示画像Iの中心点Oを注視している状態を示している。このとき観察者の視線は左右の眼球中心と点Oを結ぶ直線(図中の破線)で表現できる。これらの視線と空間変調器6R、6Lとの交点の水平方向位置をVX_R、VX_Lと表すと、VX_R、VX_Lはこの場合、図11(a)におけるRc領域とLd領域内に存在する。本実施例では、前述したとおり呈示すべき視差画像を8つのみとし、形成する開口数も8と定めている。したがって、「各眼前領域のうち、VX_RまたはVX_Lからの距離が近い少なくとも2つの領域を幅の小さい開口、それ以外の端部に至る領域を幅の大きい開口として形成する」というアルゴリズムで開口位置の制御を行うことにしている。したがって、この場合は図11(a)のRc、Rd領域とLc、Ld領域(第1の領域)には幅の小さい開口(第1の幅の開口)が形成され、その他の領域(第1の領域以外の第2の領域)は幅の広い開口(第1の幅よりも大きい第2の幅の開口)となる。そのため、RaとRb領域、ReとRf領域、LaとLb領域、LeとLf領域はそれぞれ一つのまとまった幅の広い開口として形成される。上記の要領で形成される開口を正面から見ると、図11(b)のようになる。
【0038】
次に観察者が表示画像Iの周辺領域の点Pを注視したときの本装置の視線追従動作について、図12を用いて説明する。このとき観察者の視線は左右の眼球中心と点Pを結ぶ直線(図12(a)中の破線)で表現できる。これらの視線と空間変調器6R,6Lとの交点の水平方向位置VX_R、VX_Lはこの場合、図12(a)におけるRb領域とLb領域内に存在する。前述したとおり本実施例では「各眼前領域のうち、VX_RまたはVX_Lからの距離が近い少なくとも2つの領域を幅の小さい開口、それ以外の端部に至る領域を幅の大きい開口として形成する」というアルゴリズムで開口位置の制御を行うことにしている。ただし、上記の「それ以外の端部に至る領域」が端部に寄っているときは開口幅を広く取ることができないので、幅の狭い開口として形成する。
【0039】
したがって、この場合は図12(a)のRa、Rb、Rc領域とLa、Lb、Lc領域には幅の狭い開口が形成され、その他の領域は幅の広い開口となる。そのため、RdとReとRf領域、LdとLeとLf領域がそれぞれ一つのまとまった幅の広い開口として形成される。上記の要領で形成される開口を正面から見ると、図12(b)のようになる。図11(b)と比較すると、観察者の視線方向変化に追従して開口形成範囲が変化しているのがわかる。
【0040】
上記の視線追従動作には「観察者の視線方向が変化しても質の高い超多眼表示状態が維持できる」という効果が存在する。図13を用いてこのことを説明する。図13(a)において観察者の視線は点Oで交差しており、空間変調器上に形成する開口位置は上記視線に正しく追従して配置されている。このとき両眼に入射する視差画像光の方向を図中太線の右矢印で示している。片眼あたり4つの視差画像光が開口を通過するが、観察者が注視している点O周辺からの光はいずれも観察者の瞳孔に入射するような角度となっている。なぜなら、上記の視線追従動作により開口形成範囲が常に観察者の瞳孔に最も近い位置に配置されるからである。
【0041】
一方、図13(b)では比較のために、観察者の視線は点Pで交差しているにもかかわらず、空間変調器上に形成する開口位置は図13(a)と同じ状態、つまり視線追従動作を行っていない状態を示している。このとき両眼に入射する視差画像光のうち観察者が注視している点P周辺からの光には、観察者瞳孔に入射しないものが発生する。特に図13(b)では右眼には視差画像光1しか入射しない。このことは単眼内に複数の視差画像が入射せず、「超多眼表示状態」を維持できないということを意味する。また、前述したとおり幅の狭い開口からは指向性の高い光束が、幅の広い開口からは指向性の低い光束が入射する。したがって、図13(b)の状態においては指向性の低い視差画像光1や視差画像光5が観察者の「中心視野」に入射しており、「超多眼表示状態」が比較的発生しにくい条件となってしまっている。
【0042】
図13(c)は上記の不具合を解消すべく空間変調器上に形成する開口位置を、点Pを注視する観察者の視線に正しく追従して配置した場合を示している。具体的には幅の狭い開口をRa、Rb、Rc領域とLa、Lb、Lc領域に形成している。この場合、観察者が注視している点P周辺からの視差画像光のうち指向性の高い光束はいずれも観察者の「中心視野」に入射するような角度となっている。上記より、本発明において観察者の視線に追従して開口形成範囲を変位させることは、単眼内に複数の視差画像が入射する状態を維持するだけでなく、常に最も効果的に「超多眼表示状態」を発生させる効果があることがわかる。
【実施例2】
【0043】
次に本発明の第2の実施例について説明する。本実施例においては、上記の発明をさらに拡張して、開口形成領域を右眼と左眼それぞれ2つずつにまで低減化している。本発明は単眼に複数の視差画像を呈示することで超多眼表示効果を狙っているので、呈示画像数が左右それぞれ2つというのは呈示すべき視差画像数の最小値となる。図14(a)、図14(b)はこの構成例の説明図である。図14(a)は、観察者が表示画像Iの中心点Oを注視しているときの開口形成の様子を示している。図14(b)は、形成される開口の様子を正面から見た図であるが、右眼側の開口は領域1、2の2つ、左眼側の開口は領域3、4の2つとなっている。図14(a)に平面図を示す。なお、この2つの開口の水平方向幅の和は開口形成手段6の開口形成可能範囲の全幅に等しくなるよう制御されている。
【0044】
なお上記の構成の場合、各開口の幅は表示画像Iの画素幅に対して大きくなってしまっている。そのため、図7(a)と図7(b)で説明した通り観察者単眼に入射する光束の指向性が低くなり、超多眼表示の効果である「立体像観察時の眼の調節と輻輳の一致」状態が、比較的発生しにくくなると推測される。ただし、眼の焦点調節機能は必ずしも光束の断面積のみから合焦判断されるわけではなく、複数呈示された視差画像同士が二重像に見えるか否かという、脳内の視覚画像処理も合焦判断の要因となる。したがって上記のように幅の広い2つの開口で単眼に2つの視差画像を入射させる構成でも、超多眼効果を発生させるのに有効であると考えられる。
【0045】
本実施例では実施例1で適用している「視線に追従した開口形成制御」を上記の開口数=2の構成において適用することで、良好な超多眼表示状態を維持するのに役立てている。
【0046】
図15はこのことを説明する図である。観察者が表示画像Iの中心点Oを注視している状態に最適化された開口形成の様子は既に図14(a)と図14(b)に示したので、ここでは観察者が表示画像Iの周辺点Pを注視しているときの開口形成の様子を示している。図15(a)においてVX_Rは領域1と領域2の境界と一致するように、VX_Lは領域3と領域4の境界と一致するように制御されている。このような制御を行えば、観察者の単眼に2つの視差画像光が同時に入射することがわかる。図15(b)はこのときの開口状態の正面図である。
【0047】
一方図15(c)では比較のために、観察者の視線は点Pで交差しているにもかかわらず、空間変調器上に形成する開口位置は図14(a)と同じ状態、つまり視線追従動作を行っていない状態を示している。このとき図15(c)では右眼には視差画像光1、左眼には視差画像光3しか入射しない。このことは単眼内に複数の視差画像が入射せず、「超多眼表示状態」を維持できないということを意味する。つまり、「開口形成領域を右眼と左眼それぞれ2つずつにまで低減化する構成例」において観察者の視線方向が変化しても「超多眼表示状態」を維持するためには、視線に追従した開口形成制御が必要であることがわかる。
【0048】
これまで述べた実施例1、2の構成によれば、従来技術とは異なる以下の効果が発生する。すなわち、画像表示部に要求されるフレームレートを抑制するとともに、広画角化を達成し、観察者の視線方向が変化しても、常に「単眼内に複数視差画像光が入射する状態」つまり「超多眼表示状態」を保つことができる。
【0049】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は立体画像を扱うすべての産業分野において利用可能であり、特に立体テレビ、立体映画、医療分野やデザイン分野などの産業用立体画像表示装置、イベントや教育現場での立体コンテンツ上映などへの応用が考えられる。
【符号の説明】
【0051】
1 画像表示部
4 同期信号発生手段
5 画像分離用メガネ
6 空間変調器
7 空間変調器駆動部
8 同期用無線信号受信部
9 同期用無線信号発信部
10 瞳孔照明手段
11 瞳孔画像取得手段
12 視線検知処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
片方の目に複数の視差画像を入射させる観察用光学機器であって、
開口が形成される領域を変更可能な開口形成手段と、
前記複数の視差画像を時系列で表示する画像表示手段と前記開口形成手段との同期をとる信号同期手段と、
前記信号同期手段からの信号に基づいて、前記開口形成手段の前記開口が形成される領域と該開口の水平方向幅を制御する制御手段と、
観察者の視線を検出する視線検出手段と、を有し、
前記制御手段は、前記視線検出手段により検出された結果に応じて、前記開口の水平方向幅を制御することを特徴とする観察用光学機器。
【請求項2】
前記制御手段は、前記視線検出手段により検出された前記視線と前記開口形成手段との交点を含む第1の領域の前記開口の水平方向幅を第1の幅に制御し、前記第1の領域以外の第2の領域の前記開口の水平方向の幅を前記第1の幅よりも大きい第2の幅に制御することを特徴とする請求項1に記載の観察用光学機器。
【請求項3】
前記制御手段は、前記開口形成手段に形成される開口の数を2つに制御し、前記視線検出手段により検出された視線と前記開口形成手段との交点を該2つの開口の境界と一致するように前記開口の水平方向幅を制御することを特徴とする請求項1に記載の観察用光学機器。
【請求項4】
前記制御手段は、前記視線検出手段により検出された結果に応じて、前記開口の形成位置を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の観察用光学機器。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第1の幅を前記画像表示手段に表示される前記複数の視差画像の画素の水平方向幅と同じ幅に設定することを特徴とする請求項2に記載の観察用光学機器。
【請求項6】
前記制御手段は、前記2つの開口の水平方向幅の和は前記開口形成手段の開口形成可能範囲の全幅に等しくなるよう制御することを特徴とする請求項3に記載の観察用光学機器。
【請求項7】
前記複数の視差画像の時系列的な順次表示の一周期と、前記開口の時系列的な順次形成の一周期とは、共に1/60秒以内であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の観察用光学機器。
【請求項8】
前記視線検出手段は、観察者の眼球回転量を視線方向に変換するためのアルゴリズムを導出するための動作モードとして複数のキャリブレーションモードを有し、
前記信号同期手段は、該複数のキャリブレーションモードの識別を行うことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の観察用光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−24910(P2013−24910A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156566(P2011−156566)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】