説明

観察装置

【課題】培養されている観察対象物の位置、分布、及び種類の把握を容易に行うことができる観察装置を提供する。
【解決手段】照明光を照射する光源11と、照射された光を平行光に変換するコンデンサレンズ14と、開口部13sを有する開口絞り13と、試料Oを載置するステージ30と、試料Oを透過した光を集光する対物レンズ21と、位相変換部及び光強度変調部を有し第1絞り部材と共役な位置に設けられ、対物レンズを通過した光を制限する位相絞り22と、位相絞り22を通過した光をCCDカメラ35の撮像面に導いて、位相物体の像を結像させる結像レンズ23とを備え、開口部13sは、開口絞り13の中心に対して非対称に形成され、位相変換部は開口部13sを通過し対物レンズ21により集光された像が含まれるような円環状に形成され、光強度変調部は位相変換部の外周に設けられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生物標本等の無色透明な観察対象物(細胞等)を染色することなく生きたまま観察できる位相差顕微鏡においては、上記観察対象物を開口絞りで制限された照明光で照明し、対物レンズにより観察対象物を通過した光を集光させ、位相を変換する位相変換部及び透過する光の光量を変調する光量変調部を上記開口絞りと共役位置に備えるものが周知となっている(例えば、特許文献1を参照)。観察対象物を通過する光は、直接光と0次以外の回折光に変換され位相差が生じ、この位相差を像の明暗として可視化することによりコントラストを上げて観察対象物を観察できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3663920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような位相差顕微鏡においては、細胞等の観察対象物を付着させる無色透明な膜(メンブレンとも称する)を培養液に浸し、その培養液中で膜の表裏にそれぞれ異なった種類の観察対象物を付着させて培養する場合がある。このような観察対象物を観察する場合において、上述したような位相差顕微鏡により膜の表裏に付着された観察対象物を観察すると、コントラストを上げて観察することはできるものの、無色透明であるため、観察対象物が膜の表裏のどちらに付着しているか、すなわち、膜に付着している観察対象物の位置、分布、及び種類が容易に把握できないという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、培養されている観察対象物の位置、分布、及び種類の把握を容易に行うことができる観察装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するため、本発明に係る観察装置は、光を観察対象物に照射する照明部と、所定形状の第1光通過部を有した第1絞り部材と、前記観察対象物の像を形成する対物レンズ系と、前記第1絞り部材と共役な位置に設けられ、前記第1光通過部と所定倍率で相似な領域を含む形状の第2光通過部を有した第2絞り部材とを備え、前記第1絞り部材の前記第1光通過部は、前記対物レンズ系の光軸からずれた位置に形成され、前記光軸に関して非対称な形状を有し、前記第2絞り部材の前記第2光通過部は、光の位相の変換及び前記光の光量の調節を行って通過させる第1光変調部と、前記第1光変調部の周囲に隣接して設けられ、光の光量の調節を行って通過させる第2光変調部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る観察装置によれば、培養されている細胞の位置、分布、及び種類を、像のコントラストの違いによって、容易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る観察装置の一例である位相差顕微鏡の概略構成図である。
【図2】上記観察装置における開口絞りの正面図である。
【図3】上記観察装置における位相絞りの正面図であり、(a)は、位相変換部の内側に光強度変調部を有する場合、(b)は位相変換部の内側に光強度変換部を有しない場合を示す図である。
【図4】(a)は、コンデンサレンズを通過した平行光が試料を照射する様子を示した図、(b)は、上記試料が画像表示装置に表示された様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下で本発明に係る位相差顕微鏡1について、図面を参照しながら説明する。この位相差顕微鏡1は、培養液中においてメンブレンと称する孔部を有する膜の表裏にそれぞれ異なった種類の位相物体(細胞等)が付着され、このメンブレンに付着された位相物体を観察する装置である。位相差顕微鏡1は、無色透明な位相物体についても染色することなく観察できる装置であり、図1に示すように、照明光学系10、観察光学系20、CCDカメラ35、画像処理ユニット40、及び画像表示装置45を備えて構成されている。照明光学系10と観察光学系20の間にはステージ30が設けられ、メンブレンに付着した細胞等の位相物体である試料Oをステージ30に載置させた状態で観察できるようになっている。なお、位相差顕微鏡1では、いわゆるケーラー照明を採用しており、照明光学系10から試料Oに対してその面を均一に照明する構成となっている。
【0010】
照明光学系10は、光源側から順に、光源11と、コレクタレンズ12と、開口絞り13と、コンデンサレンズ14とを備えて構成されている。ステージ30及び試料Oには、コンデンサレンズ14から射出された平行光が照明されるようになっている。観察光学系20は、光源側から順に、対物レンズ21と、位相絞り22と、結像レンズ23とを備えて構成されている。光源11としては、例えば、ハロゲンランプや高圧水銀ランプを用いることができる。光源11からは発散光が照射されあらゆる方向に光を照射しているが、図1においては、後に詳述する開口絞り13の開口部13sを通過する光のみを表現しており、それ以外の光については省略している。
【0011】
光源11から射出された照明光は、コレクタレンズ12により集光され、コレクタレンズ12により集光された光は、円形状の開口絞り13によって制限される。開口絞り13は、その中心がコレクタレンズ12の光軸Aと一致する位置、及びコンデンサレンズ14の前側焦点位置に設けられている。開口絞り13を通過した光は、コンデンサレンズ14を透過し、コンデンサレンズ14を透過した光は平行光としてステージ30に載置された試料Oに照射されるようになっている。なお、ステージ30は、試料移動装置32により光軸Aの方向に移動可能となっている。
【0012】
試料Oを透過した照明光は、試料内部を直進する直接光(図1における実線を参照)と、位相物体である試料Oにより回折し直接光に対して位相がずれた0次以外の直接光に対して曲がって進行する回折光とに分かれる。この回折現象は屈折率に違いのある部位で発生するため、当該回折光は位相物体と培養液との境界部分、位相物体の内部構造等、位相物体の形状情報を含んでいる。上記直接光及び回折光は対物レンズ21を透過するが、直接光は対物レンズ21により集光され、回折光は対物レンズ21により平行光となり光軸Aに対して平行な方向に射出される。上記直接光は、後に詳述する位相絞り22の位相変換部22aに集光され、その位相がずれるようになっている(後に詳述)。なお、位相変換部22aとしては、例えば位相が1/4波長だけ進むようにずれる位相板を用いることができる。
【0013】
位相絞り22は、円形に構成されその中心が光軸Aと一致する位置、及び開口絞り13と共役な位置に設けられている。試料Oによって回折された回折光は、対物レンズ21にて上記光軸Aに対して平行な平行光に変換された後に位相絞り22の位相変換部22a以外の部分を透過する。そして、上記直接光と回折光は、結像レンズ23により結像されてCCDカメラ35の撮像面上で干渉する。これにより、撮像面上には試料Oの拡大像Iが形成されて、CCDカメラ35により撮像されることになる。
【0014】
拡大像Iでは、位相が進んだ直接光と位相が進んでいない回折光が干渉して弱め合う。これに対して、位相物体が無い部分では回折光が生じないため直接光の明るさの背景となる。これにより、試料Oの位相差を像の明暗として観察でき、試料Oの屈折力差や厚み等により生じる位相差を光の強弱であるコントラストに変換して像の明暗として可視化することで試料Oの像を観察することができるようになる。
【0015】
なお、本実施形態における位相差顕微鏡1では、CCDカメラ35に画像処理ユニット40が電気的に接続されており、CCDカメラ35は、上記拡大像Iを光電変換して画像信号を生成し、この画像信号を画像処理ユニット40に出力する。画像処理ユニット40は、当該画像信号に基づいて拡大像Iの画像を所定ビットのデジタル画像に変換し、拡大像Iの反対画像(デジタル画像)を生成することが可能となっている。生成された拡大像Iの反対画像は、モニターである画像表示装置45に出力表示され、これにより、試料Oを観察することが可能になる。
【0016】
ところで、本実施形態における位相差顕微鏡1では、図1及び図2に示すように、開口絞り13の形状がその中心に対して非対称となっており、図2に示すように、開口部13sが、半径が開口絞り13の半径の半分程度、弧の長さがその円周の1/4程度となっている円弧状に形成されている。従って、コレクタレンズ12により集光された光のうち上記円弧状に形成された開口部13sに照射されたもののみがコンデンサレンズ14に透過されるため、試料Oには、光軸Aに対して平行でない傾いた光(以下、斜め照明と称する)が照射されることになる。
【0017】
また、位相絞り22は、図3(a)に示すように、位相変換部22aと、光強度変調部22bと、無変調部22cとを備えて構成されている。位相変換部22a及び光強度変調部22bは、円環状に形成されており、光強度変調部22bは、位相変換部22aの外周に設けられている。位相変換部22aは、上述した入射光の位相を変化させる機能のほか、入射光の光量を低減させる機能を有しており、光強度変調部22bは、上記光量を低減させる機能のみを有している。無変調部22cは、位相を変化させる機能も光量を低減させる機能も有していない。なお、上述したように、位相変換部22a及び光強度変調部22bは共に光量を低減させ光の透過を制限しているが、その透過率は位相変換部22aが光強度変調部22bよりも低くなっている。例えば、位相変換部22aを透過する光の透過率は20%、光強度変調部22bを透過する光の透過率は50%となっている。
【0018】
なお、位相絞り22における位相変換部22aが形成されている位置と開口絞り13における開口部13sが形成されている位置の上記光軸Aからの距離は等しくなっており、図3(a)に示すように、開口部13sの光軸Aに関して対称な位置22sが位相変換部22aに含まれるようになっている。このため、図1に示すように、開口絞り13の開口部13sを通過した光のうち試料内部を直進する直進光は位相変換部22aを透過し、また試料Oにより曲がって進む回折光は、位相変換部22aを透過せず、回折角度の小さい回折光は光強度変調部22bを透過し、回折角度の大きい回折光は無変調部22cを透過する。
【0019】
以上のような開口絞り13及び位相絞り22を備えた位相差顕微鏡1において、図4に示すようなメンブレン100に付着した透明の位相物体(細胞)である試料O1及びO2の観察方法について説明する。メンブレン100としては、例えば、ポリエーテルスルホン(PES)製の厚さが数ミクロン程度のものを使用することができる。なお、試料O1と試料O2は異なった種類の位相物体であり、試料O1はメンブレン100のコンデンサレンズ14側の面、試料O2はメンブレン100の対物レンズ21側の面に付着している。まず、上記メンブレン100が培養容器(不図示)の内部の培養液(不図示)に浸されている状態で、培養容器をステージ30に載置する。そして、試料移動装置32によりステージ30の位置を調節した後、光源11により照明光を照射させる。照明光を照射すると、コレクタレンズ12により上記照明光が集光され、開口絞り13により上記照明光が制限される。
【0020】
図4(a)に示すように、開口絞り13の開口部13sを通過した光のみがコンデンサレンズ14により、メンブレン100の表面に対して傾いた平行光である斜め照明となり、メンブレン100及びメンブレン100に付着された試料O1及びO2に照射される。試料O1及びO2に上記斜め照明が照射されると、図4(b)に示すような、試料O1及びO2の画像が画像表示装置45に表示される。図4の例のように、メンブレン100に対して左側から右側への斜め照明が照射されたときは、メンブレン100のコンデンサレンズ14側に付着している試料O1は右側に、メンブレン100の対物レンズ21側に付着している試料O2は左側に、影がついた画像が表示される。なお、上述したように、位相変換部22a及び光強度変調部22bが環状に設けられていることにより、開口絞り13を回転させてメンブレン100、試料O1及びO2に照射される斜め照明の入射方向を変えることができるため、上記画像として表示される影の位置を変えることができるようになっている。
【0021】
上記のように、メンブレン100に付着した試料O1及びO2に対して斜め照明を照射することにより、試料O1の画像と試料O2の画像につく影の位置が互いに異なって見えるようになるため、画像のコントラストを上げることができるとともに、試料がコンデンサレンズ14側に付着しているか、それとも対物レンズ21側に付着しているかを容易に把握することが可能となる。また、上述したように、コンデンサレンズ14側(光源側)に付着する位相物体とその反対側に付着する位相物体とは種類が異なるため、どのような種類の位相物体がどの程度培養されているか(数、分布等)についても容易に把握することができる。
【0022】
以上、本実施形態における位相差顕微鏡1では、開口絞り13の開口部13sの形状を円周の1/4程度の円弧状にすることにより試料Oに斜め照明を照射する例について説明したが、開口部の形状はこれに限定されるものではなく、中心に対して非対称とすれば同様の効果を得ることができる。
【0023】
また、本実施形態における位相差顕微鏡1では、位相絞り22の形状が、図3(a)に示すように、位相変換部22aを円環状に設けその外周に光強度変調部22bが設けられている例について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図3(b)に示すように、位相変換部22aの外周及び内周に光強度変調部22bを設けるようにしてもよい。また、位相変換部22a及び光強度変調部22bそのものの形状についても、円環状でなければならないわけではなく、対物レンズを透過した光を受光できればどのような形状にしてもよい。
【0024】
なお、上記では、本発明に係る観察装置を位相差顕微鏡1に適用させた例について説明したが、本発明の適用対象は位相差顕微鏡に限定されることなく、他の種類の観察装置にも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0025】
O 試料(観察対象物)
1 位相差顕微鏡(観察装置) 11 光源(照明部)
13 開口絞り(第1絞り部材)
13s 開口部(第1光透過部)
21 対物レンズ(対物レンズ系)
22 位相絞り(第2絞り部材) 22a 位相変換部(第1光変調部)
22b 光強度変調部(第2光変調部) 23 結像レンズ(結像光学系)
30 ステージ(基材支持部) 35 CCDカメラ(撮像部)
100 メンブレン(観察物支持基材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を観察対象物に照射する照明部と、
所定形状の第1光通過部を有した第1絞り部材と、
前記観察対象物の像を形成する対物レンズ系と、
前記第1絞り部材と共役な位置に設けられ、前記第1光通過部と所定倍率で相似な領域を含む形状の第2光通過部を有した第2絞り部材とを備え、
前記第1絞り部材の前記第1光通過部は、前記対物レンズ系の光軸からずれた位置に形成され、前記光軸に関して非対称な形状を有し、
前記第2絞り部材の前記第2光通過部は、光の位相の変換及び前記光の光量の調節を行って通過させる第1光変調部と、前記第1光変調部の周囲に隣接して設けられ、光の光量の調節を行って通過させる第2光変調部とを備えることを特徴とする観察装置。
【請求項2】
前記第1絞り部材は、前記光軸を中心に回転自在に構成され、
前記第2絞り部材の前記第1光変調部は、前記第1絞り部材の回転に対応して前記第1光通過部を通過した光が前記第2絞りの第1光変調部を通過するように、前記光軸を中心に円環状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記第2光変調部は、前記第1光変調部の外周に前記第1光変調部を囲んで設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記第1絞り部材の前記第1光通過部が円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の観察装置。
【請求項5】
前記対物レンズ系による結像位置に設けられた撮像面を有する撮像部を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の観察装置。
【請求項6】
光を透過させる観察物支持基材の両面に前記観察対象物を付着させて前記観察物支持基材及び前記観察対象物を通過する光により前記観察対象物を観察することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の観察装置。
【請求項7】
前記観察物支持基材を支持する基材支持部を備えることを特徴とする請求項6に記載の観察装置。
【請求項8】
前記基材支持部は、前記光軸方向に移動可能に構成されていることを特徴とする請求項7に記載の観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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