角層細胞間の微細構造の観察方法
【課題】透過型電子顕微鏡を用いて角層細胞間の微細構造の全体の詳細を簡便かつ明瞭に観察することができる角層細胞間の微細構造の観察方法を提供する。
【解決手段】透過型電子顕微鏡を用いた角層細胞間の微細構造の観察方法であって、皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出した皮膚試料4に対して、角層細胞間脂質の層構造14の面内方向に電子線10が照射されるように、透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上の、該皮膚試料を載せたグリッド1の向きを調整し皮膚試料の向きを調整する、角層細胞間の微細構造の観察方法。
【解決手段】透過型電子顕微鏡を用いた角層細胞間の微細構造の観察方法であって、皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出した皮膚試料4に対して、角層細胞間脂質の層構造14の面内方向に電子線10が照射されるように、透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上の、該皮膚試料を載せたグリッド1の向きを調整し皮膚試料の向きを調整する、角層細胞間の微細構造の観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層細胞間の微細構造の観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト、マウス等の哺乳動物の皮膚の角層は、皮脂、角層細胞を構成するケラチン線維、角層細胞間を分画する角層細胞間脂質等から構成される。この内、角層細胞間脂質に関して、正常な角層細胞間脂質は厚さ約20〜60nmの層構造(ラメラ構造)を形成する。この角層細胞間の微細構造は、肌のバリア機能や保水機能等に関与することが知られており、角層細胞間脂質に均一の層構造が形成されない場合、肌のバリア機能や保水機能等が低下すると考えられている。したがって、角層細胞間の微細構造は、肌性状に大きな影響を与えると考えられている。
【0003】
角層細胞間の微細構造の観察方法としては、透過型電子顕微鏡を用いた観察方法が挙げられる(例えば、非特許文献1〜3参照)。しかし、これらの方法は、観察視野を変えると画像間のバラツキが非常に大きく、定性的で主観的な判断になるという問題点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】G.Imokawa,Archives of Dermatological Research,1989,281,p.45−51
【非特許文献2】芋川、油化学、44、751-766頁、1995年
【非特許文献3】Warner R.R.,et al.,J.Am.Acad.Dermatol.,2001,p.897-903
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の点に鑑み、本発明は、透過型電子顕微鏡を用いて角層細胞間の微細構造の全体の詳細を簡便かつ明瞭に観察することができる角層細胞間の微細構造の観察方法の提供を課題とする。さらに、本発明は、前記観察方法による観察結果から定量的に肌性状を評価する、肌性状評価方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、本明細書において、「TEM」ともいう)は電子顕微鏡の一種であり、観察対象に電子線を照射し、それを透過した電子が作り出す透過像(干渉像)を拡大して観察するタイプの電子顕微鏡である。透過型電子顕微鏡を用いた従来の方法により角層細胞間の微細構造を観察しようとしても、観察視野を変えると画像間のバラツキが非常に大きい。そのため角層細胞間の微細構造の全体を捉えることができなかった。その結果、従来の方法による観察結果より肌性状を定量的に評価することもできなかった。
【0007】
上記問題点を解決すべく、本発明者等は鋭意検討を行った。その結果、図1に示すように、皮膚試料4の試料面11の法線ベクトル方向12と角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13が透過型電子顕微鏡の観察視野内のどの部位でも同じになるわけではない。そのため、照射する電子線の向き10と試料面11の法線ベクトル方向12が同一である従来の方法では角層細胞間の微細構造を観察しても観察視野内全体を明確に観察できる透過像が形成されない。したがって、角層細胞間の微細構造の全体を捉えることができない。しかしながら、皮膚試料4内の角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13と同じ向きに電子線10が照射されるように、傾斜軸3を中心に皮膚試料4を傾斜させる方法等により、透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上のグリッド1に載せた皮膚試料4の向きを調整することで、明確に観察できる透過像を形成することができ、その結果角層細胞間の微細構造の全体を捉えることを見い出した。本発明はこの知見に基づき完成するに至った。
【0008】
本発明は、透過型電子顕微鏡を用いた角層細胞間の微細構造の観察方法であって、皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出した皮膚試料に対して、角層細胞間脂質の層構造の面内方向に電子線が照射されるように、透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上の、該皮膚試料を載せたグリッドの向きを調整し皮膚試料の向きを調整する、角層細胞間の微細構造の観察方法に関する。
【0009】
さらに、本発明は、前記観察方法により角層細胞間の微細構造を観察し、観察した角層細胞間の微細構造に基づきヒトの肌性状を評価する、ヒトの肌性状評価方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の角層細胞間の微細構造の観察方法は、透過型電子顕微鏡を用いて角層細胞間の微細構造の全体の詳細を簡便かつ明瞭に観察することができる。さらに、本発明の肌性状評価方法は、観察方法による観察結果から定量的に肌性状を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電子線の照射方向、皮膚試料の試料面の法線ベクトル方向及び角層細胞間脂質の層構造の面内方向との関係を示す。
【図2】本発明における透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上のグリッドを、回転軸を中心に回転させる様子の実施態様の模式図(平面図)である。
【図3】図3(a)は、試料ホルダーの回転軸を中心としてグリッドを回転させる前の、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真である。図3(b)は、角層細胞間脂質の層構造の向き15が試料ホルダーの傾斜軸と同じ向きとなるように試料ホルダーの回転軸を中心としてグリッドを回転させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上のグリッドを、試料ホルダーの傾斜軸を中心に傾斜させる様子を示す模式図である。
【図5】角層細胞間の微細構造を示す。図5(a)はデスモゾームを示す。図5(b)は全層構造を示す。図5(c)は一部層構造を示す。図5(d)は欠損構造を示す。図5(a)〜(d)中の矢印は、各微細構造の長さを示す。
【図6】実施例1における、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率5,000倍)である。
【図7−1】図6の(a)の領域について、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを+20°傾斜させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図7−2】図6の(b)の領域について、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを+5°傾斜させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図7−3】図6の(c)の領域について、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを−15°傾斜させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図7−4】図6の(d)の領域について、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを+15°傾斜させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図7−5】図6の(g)の領域について、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを+10°傾斜させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図8】図8(a)は、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを傾斜させずに観察したヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率5,000倍)であり、図8(b)は、図8(a)中の領域Xの透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図9】実施例1における、グリッドの傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率を示す図である。
【図10】実施例1において、傾斜角度−7°において層構造(点線部分(a)〜(f))とデスモゾーム(実線矢印部分(g)〜(j))がそれぞれ観察された領域を示す図である。
【図11】図11(a)は、試料面に対して角層細胞間脂質の層構造の面内方向がほぼ垂直方向である皮膚試料について算出した層構造の傾きの分布率を模式的に示す図である。図11(b)は、試料面に対して角層細胞間脂質の層構造の面内方向が垂直から著しく傾斜した皮膚試料について算出した層構造の傾きの分布率を模式的に示す図である。
【図12】実施例2における、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率5,000倍)である。
【図13】実施例2における、グリッドの傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率を示す図である。
【図14】実施例3における、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率5,000倍)である。
【図15】実施例3における、グリッドの傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率を示す図である。
【図16】図16(a)は、ヒト前腕内側部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における全層構造率(%)との関係を示し、図16(b)は、ヒト頬部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における全層構造率(%)との関係を示す。
【図17】図17(a)は、ヒト前腕内側部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における一部層構造率(%)との関係を示し、図17(b)は、ヒト頬部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における一部層構造率(%)との関係を示す。
【図18】図18(a)は、ヒト前腕内側部の経皮水分蒸散量と角層細胞間におけるデスモゾーム率(%)との関係を示し、図18(b)は、ヒト頬部の経皮水分蒸散量と角層細胞間におけるデスモゾーム率(%)との関係を示す。
【図19】図19(a)は、ヒト前腕内側部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における欠損構造率(%)との関係を示し、図19(b)は、ヒト頬部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における欠損構造率(%)との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の観察方法において、皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出した皮膚試料において、角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13に電子線10が照射されるように、透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上のグリッド1に載せた皮膚試料4の向きを調整する。
図1に示すように、試料面11の法線ベクトル方向12と角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13はどの部位でも同じではない。したがって、照射する電子線10の向きに対して角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13が一定角度以上で傾いてしまうと、照射する電子線10が皮膚試料4を十分に透過することができず、電子線によって形成される透過像を明確に観測することができない。しかし、本発明によれば、従来の透過型電子顕微鏡を用いた観察方法では形成することができなかった、角層細胞間脂質の層構造の透過像を観測することができ、角層細胞間の微細構造を明瞭に観察することができる。
本発明の観察方法においては、照射する電子線10がグリッド1上の皮膚試料4を透過することができるように、前記面内方向13に対する電子線10の傾きが好ましくは7°以下、より好ましくは2°以下となるように、グリッド1上の皮膚試料4の向きを調整する。
【0013】
以下、本発明についてその好ましい実施形態を示し、図面に基づき詳細に説明する。しかし、本発明はこれに制限されるものではない。
本発明の観察方法において、透過型電子顕微鏡の電子線の光軸に平行な回転軸及び前記光軸に直交する傾斜軸を設けた試料ホルダーを含む透過型電子顕微鏡を用いて、角層細胞間の微細構造を観察することが好ましい。この観察に使用する透過型顕微鏡としては、一般に市販されているものを使用できる。また、回転軸及び傾斜軸を設けた透過型顕微鏡用試料ホルダーについても、一般に市販されているものを使用できる。例えば、日立ハイテク社製のH−7501RS(商品名)がある。
【0014】
本発明の観察方法において、まず、図1及び2に示すように、ヒト、マウス等の哺乳動物の皮膚から採取した皮膚試料4を回転軸2及び傾斜軸3を設けた試料ホルダーのグリッド1に載せる。このとき、例えば、図3(a)に示すように、観察視野内の角層細胞間脂質の層構造の向きが傾斜軸に対して任意の向きとなっている。本発明の観察方法においては、このように傾斜軸に対して任意の向きとなっている層構造の向き15を、図2に示すように回転軸2を中心としてグリッド1を回転させて、図3(b)に示すように観察視野内の角層細胞間脂質の層構造の向き15が傾斜軸3と同じ向きとなるように皮膚試料4の向きを調整する。その後、角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13と同じ向きに電子線10が照射されるように、図4に示すように傾斜軸3を中心にグリッド1を傾ける。
【0015】
前述した工程を行うことで、電子線10が観察視野内の角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13を透過することができ、明確に認識することができる透過像を形成することができる。したがって、本発明によれば、角層細胞間の微細構造の全体の詳細を簡便かつ明瞭に捉えることができる。
【0016】
本発明の観察方法において、角層細胞間の微細構造を観察しようとする部位の皮膚を採取する。皮膚の採取方法に特に制限はなく、通常の方法によりヒト、マウス等の皮膚を採取することができる。例えば、粘着テープをヒト、マウス等の皮膚に貼り、粘着テープを皮膚から剥離し皮膚を採取することができる。なお、採取する皮膚の厚さは、角層細胞間の微細構造が採取できる限り特に制限はないが、1μm〜2μmが好ましい。
【0017】
本発明の観察方法において、ヒト、マウス等の皮膚から採取した角層組織の皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように皮膚試料を切り出し、前記切断面を観察することが好ましい。角層組織の切断面の形成は、通常の透過型電子顕微鏡の切片調製用に用いられているナイフ等を用いて行うことができる。この場合、切断面は平滑に形成することが好ましく、そのためにナイフとしてはダイヤモンドナイフを使用することが好ましい。また、前記皮膚試料の厚さdは透過型電子顕微鏡で角層細胞間の微細構造を観察できる限り特に制限はないが、10〜150nmが好ましく、10〜100nmがより好ましく、30〜90nmがさらに好ましい。
【0018】
透過型電子顕微鏡観察は、観察対象に電子線を照射し、それを透過してきた電子が作り出す透過像を観察するものである。したがって、電子線が観察対象を透過するには、観察対象が超薄切片とすることが必要である。
本発明の観察方法において、皮膚から採取した角層組織の微細構造をできるだけ生体に近い状態に維持するために、皮膚から採取した角層組織を固定化することが好ましい。角層組織の固定化方法に特に制限はなく常法により行うことができる。固定化方法としては、グルタールアルデヒド水溶液を用いた方法、四酸化ルテニウム水溶液を用いた固定化方法、四酸化オスミウム水溶液を用いた固定化方法等がある。これらの方法は単独で用いても2種以上を組み合わせてもよい。
【0019】
角層組織の切断面は、電子顕微鏡観察を明瞭に行えるようにするため平滑に形成することが好ましく、そのために予め角層組織を樹脂に包埋し、その樹脂に包埋した角層組織を切断して皮膚試料を調製することが好ましい。
【0020】
角層組織を包埋する樹脂としては、角層組織と樹脂の硬さが同程度となり、切断する際に強度的に耐えられ、平滑な断面を形成し得る樹脂が挙げられる。このような樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、メタクリレート系樹脂等が挙げられる。より具体的には、エポキシ樹脂としては、例えば、三次元的に重合し、重合時の収縮が少ない、TAAB社のTAAB812(商品名)、Agar社のAgar812(商品名)、出来上がりの粒状性に優れたCiba−Geigy社のAraldite(商品名)、低粘度で浸透性に優れたTAAB社のSpurr(商品名)、日新EM社のQuetol651(商品名)等が挙げられる。アクリル系樹脂としては、例えば、低粘度で低温で紫外線重合のできる日新EM社のLowicryl(商品名)、日新EM社のLRホワイトレジン等が挙げられる。
樹脂への包埋の方法は、各樹脂の特性により、常法に従うことができる。
【0021】
本発明において、皮膚試料4を支持膜付グリッドに載せることが好ましい。支持膜付グリッドとしては一般に市販されているものを使用でき、例えば、銅グリッド(商品名:支持膜付グリッド50メッシュ、日本電子社製)、銅グリッド(商品名:支持膜付グリッド100メッシュ、応研商事社製)、銅グリッド(商品名:エラスチックカーボン支持膜100メッシュ、日本電子社製)、金グリッド(商品名:支持膜付グリッド100メッシュ、日本電子社製)がある。
【0022】
本発明の観察方法において、皮膚試料4を調製するとき、採取したヒト、マウス等の皮膚が包埋容器の底辺と平行になるように樹脂包埋したブロックを用い、包埋容器の底辺に対して垂直に切り出して超薄切片を作製すれば、傾斜軸を中心にグリッドを+90°〜−90°の範囲で傾斜させなくても角層細胞間の微細構造を捉えられることができる。下記の実施例で示すように、採取したヒトの皮膚が包埋容器の底辺と平行になるように樹脂包埋したブロックを用い、包埋容器の底辺に対して垂直に切り出して超薄切片を作製すれば、傾斜軸を中心にグリッドを例えば+56°〜−56°の範囲で傾斜させることで角層細胞間の微細構造の全体を観察することができる。したがって、観察に用いる試料ホルダーにおいて傾斜角度に制限がある場合であっても、角層細胞間の微細構造を観察することができる。なお、本明細書において、傾斜角度の符号(+(プラス)、−(マイナス))は、傾斜軸を中心に時計回りに傾斜させたときの傾斜角度の符号を「+」としたとき、反時計回りに傾斜させたときの傾斜角度の符号を「−」とする。または、この逆であってもよい。
【0023】
採取したヒト、マウス等の皮膚が包埋容器の底辺と平行になるように樹脂包埋したブロックを用いて超薄切片を作製する場合、角層細胞間の微細構造を観察する際のグリッドの傾斜角度は+90°〜−90°が好ましく、観察時間が短くてすむ+56°〜−56°がより好ましい。
【0024】
下記の実施例でも示すように、角層細胞間の微細構造と、ヒトの肌性状との間には相関関係がある。したがって、本発明によれば、角層細胞間の微細構造に基づき肌性状を評価することができる。
【0025】
以下に、本発明のヒトの肌性状評価方法の具体的態様を説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
肌性状を観察する部位において、予め、経皮水分蒸散量(TEWL)、皮膚水分量等の肌性状を常法により評価する。
次に、前記部位において、本発明の観察方法により角層細胞間の微細構造を観察する。このとき、観察視野内における角層細胞間全体の長さをA、観察視野内における角層細胞間にデスモゾームが観察された部分(本明細書において単にデスモゾームともいう。図5(a)参照)の角層細胞間の長さをB、観察視野内における角層細胞間に層構造が観察された部分(本明細書において単に全層構造ともいう。図5(b)参照)の角層細胞間の長さをC、観察視野内における角層細胞間に、層構造部分と層構造を形成しない部分の両方が観察された部分(本明細書において単に一部層構造ともいう。図5(c)参照)の角層細胞間の長さをD、B〜Dに該当しない部分(本明細書において単に欠損構造ともいう。図5(d)参照)の長さをEとしたとき、デスモゾーム率(%)、全層構造率(%)、一部層構造率(%)及び欠損構造率(%)を以下に示す式で算出する。
デスモゾーム率(%)=B/A×100
全層構造率(%)=C/A×100
一部層構造率(%)=D/A×100
欠損構造率(%)=E/A×100
E=(A−B−C−D)
上記方法により測定したデスモゾーム率、全層構造率、一部層構造率及び/又は欠損構造率と、肌性状との相関関係を定量的に求める。このように求めた相関関係に基づき、本発明の観察方法により観察した角層細胞間の微細構造から、肌性状を評価することができる。
このように、本発明によれば、角層細胞間の微細構造を本発明の観察方法により観察し、微細構造を定量的に扱うことで、ヒトの肌性状を正確に評価することができる。
【0026】
本発明において、「肌性状」とは、角層細胞間微細構造に関連する肌の機能を意味する。具体的には、バリア機能、保水機能等がある。
【0027】
本発明のヒトの肌性状の評価方法において、より正確に肌性状を評価するために、皮膚の最表面から評価したい角層細胞間の層数を決めて観察するのが好ましい。例えば、最表面から1層目の角層細胞と2層目の角層細胞との間の角層細胞間の微細構造を観察することがより好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
実施例1 角層細胞間の微細構造の観察
2mm角に切ったセロハンテープ(商品名:4051P−24、ニチバン株社製)を、被験者A(男性、36才)の前腕内側部に貼り付け、一定圧力(442g/cm2)を加えた後にテープを剥離して皮膚を採取した。
【0030】
採取した皮膚を2.5%グルタールアルデヒド/0.1mol/Lリン酸緩衝液に4℃で一晩浸漬させた後、0.25%四酸化ルテニウム/0.1mol/Lリン酸緩衝液に4℃で1時間浸漬させ、二重固定した。前記緩衝液で浸漬させた皮膚を、50%エタノール水溶液(脱水時間:10分、脱水回数:2回、温度:4℃)、70%エタノール水溶液(脱水時間:10分、脱水回数:1回、温度:4℃)、80%エタノール水溶液(脱水時間:10分、脱水回数:1回、温度:4℃)、90%エタノール水溶液(脱水時間:10分、脱水回数:1回、温度:4℃)、95%エタノール水溶液(脱水時間:10分、脱水回数:1回、温度:室温)、100%エタノール(脱水時間:10分、脱水回数:1回、温度:室温及び、脱水時間:30分、脱水回数:2回、温度:室温)をこの順に用いて脱水した。その後、プロピレンオキシド溶剤(置換時間:10分、置換回数:2回、温度:室温)、プロピレンオキシド/スパー樹脂(Spurr Resin)の混液(混合比:2:1、置換時間:2時間、置換回数:1回、温度:室温)、プロピレンオキシド/スパー樹脂の混液(混合比:1:1、置換時間:2時間、置換回数:1回、温度:室温)、プロピレンオキシド/スパー樹脂の混液(混合比:1:2、置換時間:3時間、置換回数:1回、温度:室温)で置換し、その後100%スパー樹脂(置換時間:一晩、温度:室温)で置換した。一晩置換した皮膚を新たな100%スパー樹脂に包埋させ、70℃で16時間スパー樹脂を重合させて、樹脂ブロックとした。包埋容器の底辺と平行に樹脂包埋された樹脂ブロックを用い、角層細胞エンベロープに垂直になるようにダイヤモンドナイフの刃を入れて、膜厚約70nmの超薄切片を作製し、切片を銅グリッド1(商品名:支持膜付グリッド50メッシュ、日本電子社製)上にすくい取り、乾燥させて皮膚試料4とした。
【0031】
傾斜軸3と回転軸2の2つの軸を設けた透過型電子顕微鏡の試料ホルダー(商品名:H−7501RS、日立ハイテク社製、以下、2軸試料ホルダーと略す)に前記グリッド1を載せ、2軸試料ホルダーを透過型電子顕微鏡装置(商品名:H−7650、日立ハイテク社製)内に挿入し、透過型電子顕微鏡装置に加速電圧(75kV)を印加した。
【0032】
皮膚試料4に含まれる皮膚最表面から1層目の角層細胞と2層目の角層細胞との間の脂質について、表示倍率5,000倍以下でTEM観察し、セロハンテープの粘着剤と角層細胞の位置関係から、角層の最外層(セロハンテープの粘着剤に接した層)が特定できた5つ以上の観察視野の中から、皮膚試料の代表的な観察視野を1つ抽出した。
【0033】
抽出した観察視野について、例えば、図3(a)に示すように層構造の向きが傾斜軸に対して任意の向きにある皮膚試料を、図3(b)に示すように層構造の向きが傾斜軸に対して同じ向きになるように、回転軸2を中心としてグリッド1を回転させた。
【0034】
観察視野内の角層細胞間の画像をTEMモニターの表示倍率5,000倍で取得後、図6で示すように、取得した画像の角層細胞間に該当する部分を長さ0.5μm程度の領域(a)〜(h)に区切った。
【0035】
TEMモニターに表示されている倍率を5,000倍から30,000倍にした後、図4に示すように、0.5μm程度に区切ったそれぞれの角層細胞間について、傾斜軸3を中心に7°毎に+56°〜−56°までグリッドを傾けて、角層細胞間の微細構造の観察を行い、画像を取得した。
【0036】
次に、図6中の領域(a)、(b)、(c)、(d)及び(g)について、皮膚試料4内の角層細胞間脂質の層構造14の向きが傾斜軸3と同じ向きにとなるように回転軸2を中心としてグリッドを回転させて皮膚試料4の向きを調整し、且つ皮膚試料4内の角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13と同じ向きに電子線10が照射されるように傾斜軸3を中心にグリッドをそれぞれ+20°、+5°、−15°、+15°及び+10°に傾斜させ、角層細胞間の層構造が明確に観察されたときのTEM画像をそれぞれ図7−1〜図7−5に示す。
その結果、角層細胞間の全長に対する約6割の長さにおいて層構造が明瞭に観察された。
【0037】
これに対して、傾斜軸を中心にグリッドを傾斜させずに観察したときのTEM画像を図8(a)及び(b)に示す。なお、図6に示す部位と図8に示す部位はほぼ同じである。グリッドを傾斜させずに観察すると、約4μm程度の長さのヒト角層細胞間において、図8(b)に示すように、層構造が観察された領域の長さは全体の角層細胞間長さの2割程度であった。
【0038】
上記に示すように、グリッドを傾斜させない従来のTEM観察では、皮膚試料を1方向(電子顕微鏡の光軸方向)から観察するのに対し、本発明のような傾斜観察では皮膚試料を傾斜させ複数の方向から観察する。これによって、皮膚試料を傾ける角度に依存して、TEM像が変化するような微細構造の確実な観察が可能となる。傾斜観察は、角層細胞間の層構造のような配向を持つ数ナノメートル程度の微細構造を確実に観察したい場合に特に有用である。
したがって、皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出した皮膚試料に対して角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13に電子線10が照射されるように、観察視野内の角層細胞間脂質の層構造の向き15が傾斜軸3と同じ向きになるように回転軸2を中心としてグリッドを回転させて皮膚試料の向きを調整し、角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13に電子線10が照射されるように傾斜軸3を中心にグリッドを傾斜させて観察することによって、角層細胞間の微細構造を簡便かつ明瞭に観察することができる。
【0039】
次に、図6の(a)〜(h)の領域について、角層細胞間脂質の層構造の向きが傾斜軸と同じ向きになるように回転軸を中心としてグリッドを回転させて皮膚試料の向きを調整し、皮膚試料内の角層細胞間脂質の層構造の面内方向に電子線が照射されるように、傾斜軸を中心にグリッドを傾斜させて観察し、傾斜角度ごとの層構造の傾きの分布率を算出した。その結果を図9に示す。図9において、横軸はグリッドの傾斜角度(°)を、縦軸は層構造の傾きの分布率(%)を示す。なお、層構造の傾きの分布率は、下記に示す方法及び計算式により算出した。
【0040】
図6の(a)〜(h)の各領域について、角層細胞間脂質の層構造の向きが傾斜軸と同じ向きになるように回転軸を中心としてグリッドを回転させ、その上で0°を中心としてグリッドの傾斜角度を+56°〜−56°の間で7°刻みに傾斜させて層構造を観察した。各領域、各傾斜角度において層構造が観察される角層細胞間の長さを測定した。各傾斜角度における図6の(a)〜(h)の各領域にて観察された層構造(全層構造及び一部層構造)の長さの合計、デスモゾームの長さを合計した。角層細胞間全体の長さからデスモゾームの長さの合計を差し引いた角層細胞間の長さに対する各傾斜角における層構造の長さの合計の割合を傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率(%)とした。傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率(%)は、以下に示す式で算出した。
傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率(%)=C/(A−B)×100
A:角層細胞間全体の長さ
B:角層細胞間にデスモゾームが観察された長さの合計
C:傾斜角度毎で角層細胞間に層構造(全層構造及び一部層構造)が観察された長さの合計
【0041】
図10の写真を用いて、傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率(%)の算出法を具体的に説明する。実線(k)の長さは角層細胞間の長さを示す。点線(a)〜(f)は-7°の傾斜角によって角層細胞間に層構造が観察された部分を示し、実線矢印(g)〜(j)は角層細胞間にデスモゾームが観察された部分を示している。
点線(a)〜(f)の長さ、実線矢印(g)〜(j)の長さ及び実線(k)の長さから、−7°の傾斜角度における層構造の傾きの分布率(%)は、下記の数式により求めることができる。
−7°の傾斜角度における層構造の傾きの分布率(%)=C/(A−B)×100
A:角層細胞間全体の長さ(実線(k)の長さ)
B:角層細胞間にデスモソームが観察された長さ(実線矢印(g)〜(j)の長さの合計)
C:−7°の傾斜角度によって角層細胞間に層構造が観察された長さ(点線(a)〜(f)の長さの合計)
【0042】
図9の結果から、本実施例で用いた皮膚試料の角層細胞間脂質の層構造は電子線に対して+21°から−35°の範囲で傾斜しており、定量的に角層細胞間の全体の微細構造を観察するためには角層細胞間脂質の層構造の向きが傾斜軸と同じ向きになるように回転軸を中心としてグリッドを回転させ、その上で傾斜角度を変え観察する必要のあることがわかった。
さらに、図9からわかるように、本実施例のように調製した皮膚試料については層構造の傾きの分布が+56°〜−56°の間において全て観察されることより、角層細胞間脂質の層構造の全体を捉えられることがわかった。
【0043】
上記のように、採取した皮膚が包埋容器の底辺と平行になるように樹脂包埋したブロック等を用い、包埋容器の底辺、すなわち皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように皮膚試料を調製し、角層細胞間の微細構造を観察した場合、図11(a)で模式的に示すように、角層細胞間脂質の層構造の全体を捉えることができる。
一方、図11(b)で模式的に示すように、皮膚試料の試料面が角層細胞脂質の層構造の面内方向と垂直とならない場合、角層細胞間脂質の層構造の全体を捉えることができない場合がある。このような場合は試料を再調製する必要がある。
【0044】
実施例2 角層細胞間の微細構造の観察
2mm角に切ったセロハンテープ(商品名:4051P−24、ニチバン株社製)を、被験者B(男性、29才)の前腕内側部に貼り付け、一定圧力(442g/cm2)を加えた後にテープを剥離して皮膚を採取した。採取した皮膚について、実施例1と同様の処理を行い、皮膚試料を調製し、TEMモニターの表示倍率5,000倍でTEM観察した(図12)。
【0045】
調製した皮膚試料について、実施例1と同様にTEM観察を行い、グリッドの傾斜角度ごとの角層細胞間脂質の層構造の傾きの分布率を算出した。その結果を図13に示す。
図13から明らかなように、本発明の角層細胞間の微細構造の観察方法により、角層細胞間脂質の層構造の全体を捉えることができ、角層細胞間の微細構造を正確に観察することができた。
【0046】
実施例3 角層細胞間の微細構造の観察
2mm角に切ったセロハンテープ(商品名:4051P−24、ニチバン株社製)を、被験者C(男性、45才)の前腕内側部に貼り付け、一定圧力(442g/cm2)を加えた後にテープを剥離して皮膚を採取した。採取した皮膚について、実施例1と同様の処理を行い、皮膚試料を調製し、TEMモニターの表示倍率5,000倍でTEM観察した(図14)。
【0047】
調製した皮膚試料について、実施例1と同様にTEM観察を行い、グリッドの傾斜角度ごとの角層細胞間脂質の層構造の傾きの分布率を算出した。その結果を図15に示す。
図15から明らかなように、本発明の角層細胞間の微細構造の観察方法により、角層細胞間脂質の層構造の全体を捉えることができ、角層細胞間の微細構造を正確に観察することができる。
【0048】
実施例4 ヒトの肌性状の評価
健常女性8名(20才〜40才)の前腕内側部及び頬部に花王製フェイスクリアマイルドウォッシュ(商品名、1円玉程度の大きさを手に取り十分に泡立てたもの)をつけ、皮膚になじませた後、水道水で30秒程すすぎ洗いをした。その後、タオルで軽く水分を除き、温度20℃、湿度50%の部屋で20分間馴化させた後、各被験者の前腕内側部及び頬部の2ヵ所の部位について、経皮水分蒸散量(TEWL)をTewameter@TM300(商品名、CM社製)を用いて測定した。
【0049】
次に、TEWLを測定した部位毎に、2mm角に切ったセロハンテープ(商品名:4051P−24、ニチバン株社製)を2枚貼り付け、一定圧力(442g/cm2)を加えた後にテープを剥離して皮膚を採取した。採取した皮膚について、実施例1と同様の処理を行い、皮膚試料を調製した。
【0050】
次に、実施例1と同様に、皮膚試料4内の角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13と同じ向きに電子線10が照射されるように、試料ホルダーの回転軸2を中心として皮膚試料4を載せたグリッド1を回転させ、さらに傾斜軸3を中心に+56°〜−56°の傾斜角の範囲を7°毎にグリッド1を傾斜させて、角層細胞間の微細構造を観察した(前腕内側部:8名×2サンプル、頬部:8名×2サンプル 計32サンプル)。
【0051】
層構造の傾きの分布率より適切に調製された試料の電子顕微鏡写真を用いて、上述の方法及び計算式によって、角層細胞間の全長に対する全層構造率、一部層構造率、デスモゾーム率および欠損構造率を算出した。
【0052】
図16〜19に、角層細胞間の微細構造と、ヒトの肌性状との相関関係を示す。具体的には、図16(a)及び(b)は、それぞれ、前腕内側部及び頬部の、経皮水分蒸散量(TEWL)と角層細胞間における全層構造率(%)との関係を示す。図17(a)及び(b)は、それぞれ、前腕内側部及び頬部の、TEWLと角層細胞間における一部層構造率(%)との関係を示す。図18(a)及び(b)は、それぞれ、前腕内側部及び頬部の、TEWLと角層細胞間におけるデスモゾーム率(%)との関係を示す。図19(a)及び(b)は、それぞれ、前腕内側部及び頬部の、TEWLと角層細胞間における欠損構造率(%)との関係を示す。
【0053】
図16に示すように、前腕内側部は、TEWLと角層細胞間の全層構造率との間に負の相関を示し、頬部は、TEWLと角層細胞間の全層構造率との間に負の相関の傾向を示した。また、図17に示すように、特に前腕内側部において、TEWLと角層細胞間の一部構造率との間に正の相関の傾向を示した。また、図18に示すように、特に頬部は、TEWLと角層細胞間のデスモゾーム率との間に正の相関を示した。
【0054】
以上の結果から、角層細胞間の微細構造とヒトの肌性状との関係に相関関係があることがわかった。したがって、本発明の角層細胞間の微細構造の観察方法により観察した微細構造に基づくことで、ヒトの肌性状を正確に評価することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 グリッド
2 回転軸
3 傾斜軸
4 皮膚試料
10 電子線
11 試料面
12 法線ベクトル
13 層構造の面内方向
14 角層細胞間脂質の層構造
d 試料の厚み
15 層構造の向き
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層細胞間の微細構造の観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト、マウス等の哺乳動物の皮膚の角層は、皮脂、角層細胞を構成するケラチン線維、角層細胞間を分画する角層細胞間脂質等から構成される。この内、角層細胞間脂質に関して、正常な角層細胞間脂質は厚さ約20〜60nmの層構造(ラメラ構造)を形成する。この角層細胞間の微細構造は、肌のバリア機能や保水機能等に関与することが知られており、角層細胞間脂質に均一の層構造が形成されない場合、肌のバリア機能や保水機能等が低下すると考えられている。したがって、角層細胞間の微細構造は、肌性状に大きな影響を与えると考えられている。
【0003】
角層細胞間の微細構造の観察方法としては、透過型電子顕微鏡を用いた観察方法が挙げられる(例えば、非特許文献1〜3参照)。しかし、これらの方法は、観察視野を変えると画像間のバラツキが非常に大きく、定性的で主観的な判断になるという問題点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】G.Imokawa,Archives of Dermatological Research,1989,281,p.45−51
【非特許文献2】芋川、油化学、44、751-766頁、1995年
【非特許文献3】Warner R.R.,et al.,J.Am.Acad.Dermatol.,2001,p.897-903
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の点に鑑み、本発明は、透過型電子顕微鏡を用いて角層細胞間の微細構造の全体の詳細を簡便かつ明瞭に観察することができる角層細胞間の微細構造の観察方法の提供を課題とする。さらに、本発明は、前記観察方法による観察結果から定量的に肌性状を評価する、肌性状評価方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、本明細書において、「TEM」ともいう)は電子顕微鏡の一種であり、観察対象に電子線を照射し、それを透過した電子が作り出す透過像(干渉像)を拡大して観察するタイプの電子顕微鏡である。透過型電子顕微鏡を用いた従来の方法により角層細胞間の微細構造を観察しようとしても、観察視野を変えると画像間のバラツキが非常に大きい。そのため角層細胞間の微細構造の全体を捉えることができなかった。その結果、従来の方法による観察結果より肌性状を定量的に評価することもできなかった。
【0007】
上記問題点を解決すべく、本発明者等は鋭意検討を行った。その結果、図1に示すように、皮膚試料4の試料面11の法線ベクトル方向12と角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13が透過型電子顕微鏡の観察視野内のどの部位でも同じになるわけではない。そのため、照射する電子線の向き10と試料面11の法線ベクトル方向12が同一である従来の方法では角層細胞間の微細構造を観察しても観察視野内全体を明確に観察できる透過像が形成されない。したがって、角層細胞間の微細構造の全体を捉えることができない。しかしながら、皮膚試料4内の角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13と同じ向きに電子線10が照射されるように、傾斜軸3を中心に皮膚試料4を傾斜させる方法等により、透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上のグリッド1に載せた皮膚試料4の向きを調整することで、明確に観察できる透過像を形成することができ、その結果角層細胞間の微細構造の全体を捉えることを見い出した。本発明はこの知見に基づき完成するに至った。
【0008】
本発明は、透過型電子顕微鏡を用いた角層細胞間の微細構造の観察方法であって、皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出した皮膚試料に対して、角層細胞間脂質の層構造の面内方向に電子線が照射されるように、透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上の、該皮膚試料を載せたグリッドの向きを調整し皮膚試料の向きを調整する、角層細胞間の微細構造の観察方法に関する。
【0009】
さらに、本発明は、前記観察方法により角層細胞間の微細構造を観察し、観察した角層細胞間の微細構造に基づきヒトの肌性状を評価する、ヒトの肌性状評価方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の角層細胞間の微細構造の観察方法は、透過型電子顕微鏡を用いて角層細胞間の微細構造の全体の詳細を簡便かつ明瞭に観察することができる。さらに、本発明の肌性状評価方法は、観察方法による観察結果から定量的に肌性状を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電子線の照射方向、皮膚試料の試料面の法線ベクトル方向及び角層細胞間脂質の層構造の面内方向との関係を示す。
【図2】本発明における透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上のグリッドを、回転軸を中心に回転させる様子の実施態様の模式図(平面図)である。
【図3】図3(a)は、試料ホルダーの回転軸を中心としてグリッドを回転させる前の、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真である。図3(b)は、角層細胞間脂質の層構造の向き15が試料ホルダーの傾斜軸と同じ向きとなるように試料ホルダーの回転軸を中心としてグリッドを回転させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上のグリッドを、試料ホルダーの傾斜軸を中心に傾斜させる様子を示す模式図である。
【図5】角層細胞間の微細構造を示す。図5(a)はデスモゾームを示す。図5(b)は全層構造を示す。図5(c)は一部層構造を示す。図5(d)は欠損構造を示す。図5(a)〜(d)中の矢印は、各微細構造の長さを示す。
【図6】実施例1における、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率5,000倍)である。
【図7−1】図6の(a)の領域について、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを+20°傾斜させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図7−2】図6の(b)の領域について、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを+5°傾斜させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図7−3】図6の(c)の領域について、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを−15°傾斜させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図7−4】図6の(d)の領域について、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを+15°傾斜させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図7−5】図6の(g)の領域について、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを+10°傾斜させたときの、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図8】図8(a)は、試料ホルダーの傾斜軸を中心にしてグリッドを傾斜させずに観察したヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率5,000倍)であり、図8(b)は、図8(a)中の領域Xの透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率30,000倍)である。
【図9】実施例1における、グリッドの傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率を示す図である。
【図10】実施例1において、傾斜角度−7°において層構造(点線部分(a)〜(f))とデスモゾーム(実線矢印部分(g)〜(j))がそれぞれ観察された領域を示す図である。
【図11】図11(a)は、試料面に対して角層細胞間脂質の層構造の面内方向がほぼ垂直方向である皮膚試料について算出した層構造の傾きの分布率を模式的に示す図である。図11(b)は、試料面に対して角層細胞間脂質の層構造の面内方向が垂直から著しく傾斜した皮膚試料について算出した層構造の傾きの分布率を模式的に示す図である。
【図12】実施例2における、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率5,000倍)である。
【図13】実施例2における、グリッドの傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率を示す図である。
【図14】実施例3における、ヒトの皮膚試料の透過型電子顕微鏡写真(TEMモニター表示倍率5,000倍)である。
【図15】実施例3における、グリッドの傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率を示す図である。
【図16】図16(a)は、ヒト前腕内側部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における全層構造率(%)との関係を示し、図16(b)は、ヒト頬部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における全層構造率(%)との関係を示す。
【図17】図17(a)は、ヒト前腕内側部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における一部層構造率(%)との関係を示し、図17(b)は、ヒト頬部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における一部層構造率(%)との関係を示す。
【図18】図18(a)は、ヒト前腕内側部の経皮水分蒸散量と角層細胞間におけるデスモゾーム率(%)との関係を示し、図18(b)は、ヒト頬部の経皮水分蒸散量と角層細胞間におけるデスモゾーム率(%)との関係を示す。
【図19】図19(a)は、ヒト前腕内側部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における欠損構造率(%)との関係を示し、図19(b)は、ヒト頬部の経皮水分蒸散量と角層細胞間における欠損構造率(%)との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の観察方法において、皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出した皮膚試料において、角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13に電子線10が照射されるように、透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上のグリッド1に載せた皮膚試料4の向きを調整する。
図1に示すように、試料面11の法線ベクトル方向12と角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13はどの部位でも同じではない。したがって、照射する電子線10の向きに対して角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13が一定角度以上で傾いてしまうと、照射する電子線10が皮膚試料4を十分に透過することができず、電子線によって形成される透過像を明確に観測することができない。しかし、本発明によれば、従来の透過型電子顕微鏡を用いた観察方法では形成することができなかった、角層細胞間脂質の層構造の透過像を観測することができ、角層細胞間の微細構造を明瞭に観察することができる。
本発明の観察方法においては、照射する電子線10がグリッド1上の皮膚試料4を透過することができるように、前記面内方向13に対する電子線10の傾きが好ましくは7°以下、より好ましくは2°以下となるように、グリッド1上の皮膚試料4の向きを調整する。
【0013】
以下、本発明についてその好ましい実施形態を示し、図面に基づき詳細に説明する。しかし、本発明はこれに制限されるものではない。
本発明の観察方法において、透過型電子顕微鏡の電子線の光軸に平行な回転軸及び前記光軸に直交する傾斜軸を設けた試料ホルダーを含む透過型電子顕微鏡を用いて、角層細胞間の微細構造を観察することが好ましい。この観察に使用する透過型顕微鏡としては、一般に市販されているものを使用できる。また、回転軸及び傾斜軸を設けた透過型顕微鏡用試料ホルダーについても、一般に市販されているものを使用できる。例えば、日立ハイテク社製のH−7501RS(商品名)がある。
【0014】
本発明の観察方法において、まず、図1及び2に示すように、ヒト、マウス等の哺乳動物の皮膚から採取した皮膚試料4を回転軸2及び傾斜軸3を設けた試料ホルダーのグリッド1に載せる。このとき、例えば、図3(a)に示すように、観察視野内の角層細胞間脂質の層構造の向きが傾斜軸に対して任意の向きとなっている。本発明の観察方法においては、このように傾斜軸に対して任意の向きとなっている層構造の向き15を、図2に示すように回転軸2を中心としてグリッド1を回転させて、図3(b)に示すように観察視野内の角層細胞間脂質の層構造の向き15が傾斜軸3と同じ向きとなるように皮膚試料4の向きを調整する。その後、角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13と同じ向きに電子線10が照射されるように、図4に示すように傾斜軸3を中心にグリッド1を傾ける。
【0015】
前述した工程を行うことで、電子線10が観察視野内の角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13を透過することができ、明確に認識することができる透過像を形成することができる。したがって、本発明によれば、角層細胞間の微細構造の全体の詳細を簡便かつ明瞭に捉えることができる。
【0016】
本発明の観察方法において、角層細胞間の微細構造を観察しようとする部位の皮膚を採取する。皮膚の採取方法に特に制限はなく、通常の方法によりヒト、マウス等の皮膚を採取することができる。例えば、粘着テープをヒト、マウス等の皮膚に貼り、粘着テープを皮膚から剥離し皮膚を採取することができる。なお、採取する皮膚の厚さは、角層細胞間の微細構造が採取できる限り特に制限はないが、1μm〜2μmが好ましい。
【0017】
本発明の観察方法において、ヒト、マウス等の皮膚から採取した角層組織の皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように皮膚試料を切り出し、前記切断面を観察することが好ましい。角層組織の切断面の形成は、通常の透過型電子顕微鏡の切片調製用に用いられているナイフ等を用いて行うことができる。この場合、切断面は平滑に形成することが好ましく、そのためにナイフとしてはダイヤモンドナイフを使用することが好ましい。また、前記皮膚試料の厚さdは透過型電子顕微鏡で角層細胞間の微細構造を観察できる限り特に制限はないが、10〜150nmが好ましく、10〜100nmがより好ましく、30〜90nmがさらに好ましい。
【0018】
透過型電子顕微鏡観察は、観察対象に電子線を照射し、それを透過してきた電子が作り出す透過像を観察するものである。したがって、電子線が観察対象を透過するには、観察対象が超薄切片とすることが必要である。
本発明の観察方法において、皮膚から採取した角層組織の微細構造をできるだけ生体に近い状態に維持するために、皮膚から採取した角層組織を固定化することが好ましい。角層組織の固定化方法に特に制限はなく常法により行うことができる。固定化方法としては、グルタールアルデヒド水溶液を用いた方法、四酸化ルテニウム水溶液を用いた固定化方法、四酸化オスミウム水溶液を用いた固定化方法等がある。これらの方法は単独で用いても2種以上を組み合わせてもよい。
【0019】
角層組織の切断面は、電子顕微鏡観察を明瞭に行えるようにするため平滑に形成することが好ましく、そのために予め角層組織を樹脂に包埋し、その樹脂に包埋した角層組織を切断して皮膚試料を調製することが好ましい。
【0020】
角層組織を包埋する樹脂としては、角層組織と樹脂の硬さが同程度となり、切断する際に強度的に耐えられ、平滑な断面を形成し得る樹脂が挙げられる。このような樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、メタクリレート系樹脂等が挙げられる。より具体的には、エポキシ樹脂としては、例えば、三次元的に重合し、重合時の収縮が少ない、TAAB社のTAAB812(商品名)、Agar社のAgar812(商品名)、出来上がりの粒状性に優れたCiba−Geigy社のAraldite(商品名)、低粘度で浸透性に優れたTAAB社のSpurr(商品名)、日新EM社のQuetol651(商品名)等が挙げられる。アクリル系樹脂としては、例えば、低粘度で低温で紫外線重合のできる日新EM社のLowicryl(商品名)、日新EM社のLRホワイトレジン等が挙げられる。
樹脂への包埋の方法は、各樹脂の特性により、常法に従うことができる。
【0021】
本発明において、皮膚試料4を支持膜付グリッドに載せることが好ましい。支持膜付グリッドとしては一般に市販されているものを使用でき、例えば、銅グリッド(商品名:支持膜付グリッド50メッシュ、日本電子社製)、銅グリッド(商品名:支持膜付グリッド100メッシュ、応研商事社製)、銅グリッド(商品名:エラスチックカーボン支持膜100メッシュ、日本電子社製)、金グリッド(商品名:支持膜付グリッド100メッシュ、日本電子社製)がある。
【0022】
本発明の観察方法において、皮膚試料4を調製するとき、採取したヒト、マウス等の皮膚が包埋容器の底辺と平行になるように樹脂包埋したブロックを用い、包埋容器の底辺に対して垂直に切り出して超薄切片を作製すれば、傾斜軸を中心にグリッドを+90°〜−90°の範囲で傾斜させなくても角層細胞間の微細構造を捉えられることができる。下記の実施例で示すように、採取したヒトの皮膚が包埋容器の底辺と平行になるように樹脂包埋したブロックを用い、包埋容器の底辺に対して垂直に切り出して超薄切片を作製すれば、傾斜軸を中心にグリッドを例えば+56°〜−56°の範囲で傾斜させることで角層細胞間の微細構造の全体を観察することができる。したがって、観察に用いる試料ホルダーにおいて傾斜角度に制限がある場合であっても、角層細胞間の微細構造を観察することができる。なお、本明細書において、傾斜角度の符号(+(プラス)、−(マイナス))は、傾斜軸を中心に時計回りに傾斜させたときの傾斜角度の符号を「+」としたとき、反時計回りに傾斜させたときの傾斜角度の符号を「−」とする。または、この逆であってもよい。
【0023】
採取したヒト、マウス等の皮膚が包埋容器の底辺と平行になるように樹脂包埋したブロックを用いて超薄切片を作製する場合、角層細胞間の微細構造を観察する際のグリッドの傾斜角度は+90°〜−90°が好ましく、観察時間が短くてすむ+56°〜−56°がより好ましい。
【0024】
下記の実施例でも示すように、角層細胞間の微細構造と、ヒトの肌性状との間には相関関係がある。したがって、本発明によれば、角層細胞間の微細構造に基づき肌性状を評価することができる。
【0025】
以下に、本発明のヒトの肌性状評価方法の具体的態様を説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
肌性状を観察する部位において、予め、経皮水分蒸散量(TEWL)、皮膚水分量等の肌性状を常法により評価する。
次に、前記部位において、本発明の観察方法により角層細胞間の微細構造を観察する。このとき、観察視野内における角層細胞間全体の長さをA、観察視野内における角層細胞間にデスモゾームが観察された部分(本明細書において単にデスモゾームともいう。図5(a)参照)の角層細胞間の長さをB、観察視野内における角層細胞間に層構造が観察された部分(本明細書において単に全層構造ともいう。図5(b)参照)の角層細胞間の長さをC、観察視野内における角層細胞間に、層構造部分と層構造を形成しない部分の両方が観察された部分(本明細書において単に一部層構造ともいう。図5(c)参照)の角層細胞間の長さをD、B〜Dに該当しない部分(本明細書において単に欠損構造ともいう。図5(d)参照)の長さをEとしたとき、デスモゾーム率(%)、全層構造率(%)、一部層構造率(%)及び欠損構造率(%)を以下に示す式で算出する。
デスモゾーム率(%)=B/A×100
全層構造率(%)=C/A×100
一部層構造率(%)=D/A×100
欠損構造率(%)=E/A×100
E=(A−B−C−D)
上記方法により測定したデスモゾーム率、全層構造率、一部層構造率及び/又は欠損構造率と、肌性状との相関関係を定量的に求める。このように求めた相関関係に基づき、本発明の観察方法により観察した角層細胞間の微細構造から、肌性状を評価することができる。
このように、本発明によれば、角層細胞間の微細構造を本発明の観察方法により観察し、微細構造を定量的に扱うことで、ヒトの肌性状を正確に評価することができる。
【0026】
本発明において、「肌性状」とは、角層細胞間微細構造に関連する肌の機能を意味する。具体的には、バリア機能、保水機能等がある。
【0027】
本発明のヒトの肌性状の評価方法において、より正確に肌性状を評価するために、皮膚の最表面から評価したい角層細胞間の層数を決めて観察するのが好ましい。例えば、最表面から1層目の角層細胞と2層目の角層細胞との間の角層細胞間の微細構造を観察することがより好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
実施例1 角層細胞間の微細構造の観察
2mm角に切ったセロハンテープ(商品名:4051P−24、ニチバン株社製)を、被験者A(男性、36才)の前腕内側部に貼り付け、一定圧力(442g/cm2)を加えた後にテープを剥離して皮膚を採取した。
【0030】
採取した皮膚を2.5%グルタールアルデヒド/0.1mol/Lリン酸緩衝液に4℃で一晩浸漬させた後、0.25%四酸化ルテニウム/0.1mol/Lリン酸緩衝液に4℃で1時間浸漬させ、二重固定した。前記緩衝液で浸漬させた皮膚を、50%エタノール水溶液(脱水時間:10分、脱水回数:2回、温度:4℃)、70%エタノール水溶液(脱水時間:10分、脱水回数:1回、温度:4℃)、80%エタノール水溶液(脱水時間:10分、脱水回数:1回、温度:4℃)、90%エタノール水溶液(脱水時間:10分、脱水回数:1回、温度:4℃)、95%エタノール水溶液(脱水時間:10分、脱水回数:1回、温度:室温)、100%エタノール(脱水時間:10分、脱水回数:1回、温度:室温及び、脱水時間:30分、脱水回数:2回、温度:室温)をこの順に用いて脱水した。その後、プロピレンオキシド溶剤(置換時間:10分、置換回数:2回、温度:室温)、プロピレンオキシド/スパー樹脂(Spurr Resin)の混液(混合比:2:1、置換時間:2時間、置換回数:1回、温度:室温)、プロピレンオキシド/スパー樹脂の混液(混合比:1:1、置換時間:2時間、置換回数:1回、温度:室温)、プロピレンオキシド/スパー樹脂の混液(混合比:1:2、置換時間:3時間、置換回数:1回、温度:室温)で置換し、その後100%スパー樹脂(置換時間:一晩、温度:室温)で置換した。一晩置換した皮膚を新たな100%スパー樹脂に包埋させ、70℃で16時間スパー樹脂を重合させて、樹脂ブロックとした。包埋容器の底辺と平行に樹脂包埋された樹脂ブロックを用い、角層細胞エンベロープに垂直になるようにダイヤモンドナイフの刃を入れて、膜厚約70nmの超薄切片を作製し、切片を銅グリッド1(商品名:支持膜付グリッド50メッシュ、日本電子社製)上にすくい取り、乾燥させて皮膚試料4とした。
【0031】
傾斜軸3と回転軸2の2つの軸を設けた透過型電子顕微鏡の試料ホルダー(商品名:H−7501RS、日立ハイテク社製、以下、2軸試料ホルダーと略す)に前記グリッド1を載せ、2軸試料ホルダーを透過型電子顕微鏡装置(商品名:H−7650、日立ハイテク社製)内に挿入し、透過型電子顕微鏡装置に加速電圧(75kV)を印加した。
【0032】
皮膚試料4に含まれる皮膚最表面から1層目の角層細胞と2層目の角層細胞との間の脂質について、表示倍率5,000倍以下でTEM観察し、セロハンテープの粘着剤と角層細胞の位置関係から、角層の最外層(セロハンテープの粘着剤に接した層)が特定できた5つ以上の観察視野の中から、皮膚試料の代表的な観察視野を1つ抽出した。
【0033】
抽出した観察視野について、例えば、図3(a)に示すように層構造の向きが傾斜軸に対して任意の向きにある皮膚試料を、図3(b)に示すように層構造の向きが傾斜軸に対して同じ向きになるように、回転軸2を中心としてグリッド1を回転させた。
【0034】
観察視野内の角層細胞間の画像をTEMモニターの表示倍率5,000倍で取得後、図6で示すように、取得した画像の角層細胞間に該当する部分を長さ0.5μm程度の領域(a)〜(h)に区切った。
【0035】
TEMモニターに表示されている倍率を5,000倍から30,000倍にした後、図4に示すように、0.5μm程度に区切ったそれぞれの角層細胞間について、傾斜軸3を中心に7°毎に+56°〜−56°までグリッドを傾けて、角層細胞間の微細構造の観察を行い、画像を取得した。
【0036】
次に、図6中の領域(a)、(b)、(c)、(d)及び(g)について、皮膚試料4内の角層細胞間脂質の層構造14の向きが傾斜軸3と同じ向きにとなるように回転軸2を中心としてグリッドを回転させて皮膚試料4の向きを調整し、且つ皮膚試料4内の角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13と同じ向きに電子線10が照射されるように傾斜軸3を中心にグリッドをそれぞれ+20°、+5°、−15°、+15°及び+10°に傾斜させ、角層細胞間の層構造が明確に観察されたときのTEM画像をそれぞれ図7−1〜図7−5に示す。
その結果、角層細胞間の全長に対する約6割の長さにおいて層構造が明瞭に観察された。
【0037】
これに対して、傾斜軸を中心にグリッドを傾斜させずに観察したときのTEM画像を図8(a)及び(b)に示す。なお、図6に示す部位と図8に示す部位はほぼ同じである。グリッドを傾斜させずに観察すると、約4μm程度の長さのヒト角層細胞間において、図8(b)に示すように、層構造が観察された領域の長さは全体の角層細胞間長さの2割程度であった。
【0038】
上記に示すように、グリッドを傾斜させない従来のTEM観察では、皮膚試料を1方向(電子顕微鏡の光軸方向)から観察するのに対し、本発明のような傾斜観察では皮膚試料を傾斜させ複数の方向から観察する。これによって、皮膚試料を傾ける角度に依存して、TEM像が変化するような微細構造の確実な観察が可能となる。傾斜観察は、角層細胞間の層構造のような配向を持つ数ナノメートル程度の微細構造を確実に観察したい場合に特に有用である。
したがって、皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出した皮膚試料に対して角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13に電子線10が照射されるように、観察視野内の角層細胞間脂質の層構造の向き15が傾斜軸3と同じ向きになるように回転軸2を中心としてグリッドを回転させて皮膚試料の向きを調整し、角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13に電子線10が照射されるように傾斜軸3を中心にグリッドを傾斜させて観察することによって、角層細胞間の微細構造を簡便かつ明瞭に観察することができる。
【0039】
次に、図6の(a)〜(h)の領域について、角層細胞間脂質の層構造の向きが傾斜軸と同じ向きになるように回転軸を中心としてグリッドを回転させて皮膚試料の向きを調整し、皮膚試料内の角層細胞間脂質の層構造の面内方向に電子線が照射されるように、傾斜軸を中心にグリッドを傾斜させて観察し、傾斜角度ごとの層構造の傾きの分布率を算出した。その結果を図9に示す。図9において、横軸はグリッドの傾斜角度(°)を、縦軸は層構造の傾きの分布率(%)を示す。なお、層構造の傾きの分布率は、下記に示す方法及び計算式により算出した。
【0040】
図6の(a)〜(h)の各領域について、角層細胞間脂質の層構造の向きが傾斜軸と同じ向きになるように回転軸を中心としてグリッドを回転させ、その上で0°を中心としてグリッドの傾斜角度を+56°〜−56°の間で7°刻みに傾斜させて層構造を観察した。各領域、各傾斜角度において層構造が観察される角層細胞間の長さを測定した。各傾斜角度における図6の(a)〜(h)の各領域にて観察された層構造(全層構造及び一部層構造)の長さの合計、デスモゾームの長さを合計した。角層細胞間全体の長さからデスモゾームの長さの合計を差し引いた角層細胞間の長さに対する各傾斜角における層構造の長さの合計の割合を傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率(%)とした。傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率(%)は、以下に示す式で算出した。
傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率(%)=C/(A−B)×100
A:角層細胞間全体の長さ
B:角層細胞間にデスモゾームが観察された長さの合計
C:傾斜角度毎で角層細胞間に層構造(全層構造及び一部層構造)が観察された長さの合計
【0041】
図10の写真を用いて、傾斜角度毎の層構造の傾きの分布率(%)の算出法を具体的に説明する。実線(k)の長さは角層細胞間の長さを示す。点線(a)〜(f)は-7°の傾斜角によって角層細胞間に層構造が観察された部分を示し、実線矢印(g)〜(j)は角層細胞間にデスモゾームが観察された部分を示している。
点線(a)〜(f)の長さ、実線矢印(g)〜(j)の長さ及び実線(k)の長さから、−7°の傾斜角度における層構造の傾きの分布率(%)は、下記の数式により求めることができる。
−7°の傾斜角度における層構造の傾きの分布率(%)=C/(A−B)×100
A:角層細胞間全体の長さ(実線(k)の長さ)
B:角層細胞間にデスモソームが観察された長さ(実線矢印(g)〜(j)の長さの合計)
C:−7°の傾斜角度によって角層細胞間に層構造が観察された長さ(点線(a)〜(f)の長さの合計)
【0042】
図9の結果から、本実施例で用いた皮膚試料の角層細胞間脂質の層構造は電子線に対して+21°から−35°の範囲で傾斜しており、定量的に角層細胞間の全体の微細構造を観察するためには角層細胞間脂質の層構造の向きが傾斜軸と同じ向きになるように回転軸を中心としてグリッドを回転させ、その上で傾斜角度を変え観察する必要のあることがわかった。
さらに、図9からわかるように、本実施例のように調製した皮膚試料については層構造の傾きの分布が+56°〜−56°の間において全て観察されることより、角層細胞間脂質の層構造の全体を捉えられることがわかった。
【0043】
上記のように、採取した皮膚が包埋容器の底辺と平行になるように樹脂包埋したブロック等を用い、包埋容器の底辺、すなわち皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように皮膚試料を調製し、角層細胞間の微細構造を観察した場合、図11(a)で模式的に示すように、角層細胞間脂質の層構造の全体を捉えることができる。
一方、図11(b)で模式的に示すように、皮膚試料の試料面が角層細胞脂質の層構造の面内方向と垂直とならない場合、角層細胞間脂質の層構造の全体を捉えることができない場合がある。このような場合は試料を再調製する必要がある。
【0044】
実施例2 角層細胞間の微細構造の観察
2mm角に切ったセロハンテープ(商品名:4051P−24、ニチバン株社製)を、被験者B(男性、29才)の前腕内側部に貼り付け、一定圧力(442g/cm2)を加えた後にテープを剥離して皮膚を採取した。採取した皮膚について、実施例1と同様の処理を行い、皮膚試料を調製し、TEMモニターの表示倍率5,000倍でTEM観察した(図12)。
【0045】
調製した皮膚試料について、実施例1と同様にTEM観察を行い、グリッドの傾斜角度ごとの角層細胞間脂質の層構造の傾きの分布率を算出した。その結果を図13に示す。
図13から明らかなように、本発明の角層細胞間の微細構造の観察方法により、角層細胞間脂質の層構造の全体を捉えることができ、角層細胞間の微細構造を正確に観察することができた。
【0046】
実施例3 角層細胞間の微細構造の観察
2mm角に切ったセロハンテープ(商品名:4051P−24、ニチバン株社製)を、被験者C(男性、45才)の前腕内側部に貼り付け、一定圧力(442g/cm2)を加えた後にテープを剥離して皮膚を採取した。採取した皮膚について、実施例1と同様の処理を行い、皮膚試料を調製し、TEMモニターの表示倍率5,000倍でTEM観察した(図14)。
【0047】
調製した皮膚試料について、実施例1と同様にTEM観察を行い、グリッドの傾斜角度ごとの角層細胞間脂質の層構造の傾きの分布率を算出した。その結果を図15に示す。
図15から明らかなように、本発明の角層細胞間の微細構造の観察方法により、角層細胞間脂質の層構造の全体を捉えることができ、角層細胞間の微細構造を正確に観察することができる。
【0048】
実施例4 ヒトの肌性状の評価
健常女性8名(20才〜40才)の前腕内側部及び頬部に花王製フェイスクリアマイルドウォッシュ(商品名、1円玉程度の大きさを手に取り十分に泡立てたもの)をつけ、皮膚になじませた後、水道水で30秒程すすぎ洗いをした。その後、タオルで軽く水分を除き、温度20℃、湿度50%の部屋で20分間馴化させた後、各被験者の前腕内側部及び頬部の2ヵ所の部位について、経皮水分蒸散量(TEWL)をTewameter@TM300(商品名、CM社製)を用いて測定した。
【0049】
次に、TEWLを測定した部位毎に、2mm角に切ったセロハンテープ(商品名:4051P−24、ニチバン株社製)を2枚貼り付け、一定圧力(442g/cm2)を加えた後にテープを剥離して皮膚を採取した。採取した皮膚について、実施例1と同様の処理を行い、皮膚試料を調製した。
【0050】
次に、実施例1と同様に、皮膚試料4内の角層細胞間脂質の層構造14の面内方向13と同じ向きに電子線10が照射されるように、試料ホルダーの回転軸2を中心として皮膚試料4を載せたグリッド1を回転させ、さらに傾斜軸3を中心に+56°〜−56°の傾斜角の範囲を7°毎にグリッド1を傾斜させて、角層細胞間の微細構造を観察した(前腕内側部:8名×2サンプル、頬部:8名×2サンプル 計32サンプル)。
【0051】
層構造の傾きの分布率より適切に調製された試料の電子顕微鏡写真を用いて、上述の方法及び計算式によって、角層細胞間の全長に対する全層構造率、一部層構造率、デスモゾーム率および欠損構造率を算出した。
【0052】
図16〜19に、角層細胞間の微細構造と、ヒトの肌性状との相関関係を示す。具体的には、図16(a)及び(b)は、それぞれ、前腕内側部及び頬部の、経皮水分蒸散量(TEWL)と角層細胞間における全層構造率(%)との関係を示す。図17(a)及び(b)は、それぞれ、前腕内側部及び頬部の、TEWLと角層細胞間における一部層構造率(%)との関係を示す。図18(a)及び(b)は、それぞれ、前腕内側部及び頬部の、TEWLと角層細胞間におけるデスモゾーム率(%)との関係を示す。図19(a)及び(b)は、それぞれ、前腕内側部及び頬部の、TEWLと角層細胞間における欠損構造率(%)との関係を示す。
【0053】
図16に示すように、前腕内側部は、TEWLと角層細胞間の全層構造率との間に負の相関を示し、頬部は、TEWLと角層細胞間の全層構造率との間に負の相関の傾向を示した。また、図17に示すように、特に前腕内側部において、TEWLと角層細胞間の一部構造率との間に正の相関の傾向を示した。また、図18に示すように、特に頬部は、TEWLと角層細胞間のデスモゾーム率との間に正の相関を示した。
【0054】
以上の結果から、角層細胞間の微細構造とヒトの肌性状との関係に相関関係があることがわかった。したがって、本発明の角層細胞間の微細構造の観察方法により観察した微細構造に基づくことで、ヒトの肌性状を正確に評価することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 グリッド
2 回転軸
3 傾斜軸
4 皮膚試料
10 電子線
11 試料面
12 法線ベクトル
13 層構造の面内方向
14 角層細胞間脂質の層構造
d 試料の厚み
15 層構造の向き
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型電子顕微鏡を用いた角層細胞間の微細構造の観察方法であって、皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出した皮膚試料に対して、角層細胞間脂質の層構造の面内方向に電子線が照射されるように、透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上の、該皮膚試料を載せたグリッドの向きを調整し皮膚試料の向きを調整する、角層細胞間の微細構造の観察方法。
【請求項2】
透過型電子顕微鏡の電子線の光軸に平行な回転軸及び前記光軸に直交する傾斜軸を設けた透過型電子顕微鏡の試料ホルダーに採取した皮膚試料を載せ、観察視野内の角層細胞間脂質の層構造の向きが前記傾斜軸と同じ向きとなるように回転軸を中心として前記試料ホルダー上のグリッドを回転させて皮膚試料の向きを調整し、かつ角層細胞間脂質の層構造の面内方向に電子線が照射されるように前記傾斜軸を中心に前記試料ホルダー上のグリッドを傾斜させ、角層細胞間の微細構造を観察する、請求項1に記載の角層細胞間の微細構造の観察方法。
【請求項3】
前記皮膚試料の厚みが10〜150nmとなるように皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出す、請求項1又は2に記載の角層細胞間の微細構造の観察方法。
【請求項4】
傾斜軸を中心に前記グリッドを傾斜させる角度が+90°〜−90°である請求項2又は3に記載の角層細胞間の微細構造の観察方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の観察方法により角層細胞間の微細構造を観察し、観察した角層細胞間の微細構造に基づきヒトの肌性状を評価する、ヒトの肌性状評価方法。
【請求項6】
前記観察視野内の角層細胞間における全層構造部分、一部層構造部分、デスモゾーム部分及び欠損構造部分の割合を算出し、全層構造部分、一部層構造部分、デスモゾーム部分及び欠損構造部分の割合を指標としてヒトの肌性状を評価する、請求項5に記載のヒトの肌性状評価方法。
【請求項1】
透過型電子顕微鏡を用いた角層細胞間の微細構造の観察方法であって、皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出した皮膚試料に対して、角層細胞間脂質の層構造の面内方向に電子線が照射されるように、透過型電子顕微鏡用試料ホルダー上の、該皮膚試料を載せたグリッドの向きを調整し皮膚試料の向きを調整する、角層細胞間の微細構造の観察方法。
【請求項2】
透過型電子顕微鏡の電子線の光軸に平行な回転軸及び前記光軸に直交する傾斜軸を設けた透過型電子顕微鏡の試料ホルダーに採取した皮膚試料を載せ、観察視野内の角層細胞間脂質の層構造の向きが前記傾斜軸と同じ向きとなるように回転軸を中心として前記試料ホルダー上のグリッドを回転させて皮膚試料の向きを調整し、かつ角層細胞間脂質の層構造の面内方向に電子線が照射されるように前記傾斜軸を中心に前記試料ホルダー上のグリッドを傾斜させ、角層細胞間の微細構造を観察する、請求項1に記載の角層細胞間の微細構造の観察方法。
【請求項3】
前記皮膚試料の厚みが10〜150nmとなるように皮膚面に対して垂直方向に切断面を有するように切り出す、請求項1又は2に記載の角層細胞間の微細構造の観察方法。
【請求項4】
傾斜軸を中心に前記グリッドを傾斜させる角度が+90°〜−90°である請求項2又は3に記載の角層細胞間の微細構造の観察方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の観察方法により角層細胞間の微細構造を観察し、観察した角層細胞間の微細構造に基づきヒトの肌性状を評価する、ヒトの肌性状評価方法。
【請求項6】
前記観察視野内の角層細胞間における全層構造部分、一部層構造部分、デスモゾーム部分及び欠損構造部分の割合を算出し、全層構造部分、一部層構造部分、デスモゾーム部分及び欠損構造部分の割合を指標としてヒトの肌性状を評価する、請求項5に記載のヒトの肌性状評価方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7−1】
【図7−2】
【図7−3】
【図7−4】
【図7−5】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【図2】
【図4】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7−1】
【図7−2】
【図7−3】
【図7−4】
【図7−5】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【公開番号】特開2011−252763(P2011−252763A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126008(P2010−126008)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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