角度データ作成方法
【課題】 初期化操作時の回転軸のセンサモジュールへの挿入による軸ずれの影響が少ない角度データを作成し、実使用時に発生する角度誤差を抑えるようにすること。
【解決手段】 初期化環境においてセンサモジュール保持部にセンサモジュールを取り付け(S1)、回転軸をセンサモジュールに抜き差しして、回転角0度でのYホール素子の出力値とAD変換値BzY(0)を取得し、90度回転でのXホール素子の出力値とAD変換値BzX(90)を取得し(S2)、これらのベクトル(BzY(0)、BzX(90))の分布から軸ずれを評価して適切な配位ベクトル範囲を決定して取得候補を決め(S3)、再度、回転軸をセンサモジュールに挿入して(S4)、配位ベクトル範囲内の配位ベクトル点におけるホール素子の出力値を複数取得し(S5)、取得データに対して平均化処理をすることで軸ずれの影響のない角度データルを作成する(S6)。
【解決手段】 初期化環境においてセンサモジュール保持部にセンサモジュールを取り付け(S1)、回転軸をセンサモジュールに抜き差しして、回転角0度でのYホール素子の出力値とAD変換値BzY(0)を取得し、90度回転でのXホール素子の出力値とAD変換値BzX(90)を取得し(S2)、これらのベクトル(BzY(0)、BzX(90))の分布から軸ずれを評価して適切な配位ベクトル範囲を決定して取得候補を決め(S3)、再度、回転軸をセンサモジュールに挿入して(S4)、配位ベクトル範囲内の配位ベクトル点におけるホール素子の出力値を複数取得し(S5)、取得データに対して平均化処理をすることで軸ずれの影響のない角度データルを作成する(S6)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角度データ作成方法に関し、より詳細には、磁石の回転による回転磁場を複数の磁気センサを用いて回転角度を求める回転角度センサにおいて、初期化操作により角度データを作成し、実測時には、その角度データを用いて高精度に回転角度を求める方式での角度データ作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回転角度センサとして、磁気回路を構成するN極とS極の磁石を有する回転体と、磁気の強さを検出する磁気センサとを組み合わせて、この回転体を磁気センサに対して回転させることにより回転角度を検出するものが多く提案されている。特に、磁気センサとしてホール素子を使用し、これと高精度な磁気回路を組み合わせることで、回転体の回転角度に対するアナログ信号を出力できるように構成した非接触式の回転角度センサが知られている。
【0003】
しかしながら、このような従来の回転角度センサは、この回転角度センサの円板磁石の生成する磁場強度がもっとも強い、円板磁石の周縁部に磁気センサが設置されているため、円板磁石の回転軸に磁石の半径方向の応力が加わると、磁気センサの配置の基準点に対する磁石の回転中心線の変位(以下、「軸ずれ」という)により、測定角度の角度誤差が生じてしまうという問題がある。
【0004】
ここで、「軸ずれ」について以下に説明する。
回転角度センサモジュール(以下、単にセンサモジュールという)を固定し、別の固定系である回転系から回転動力を回転軸によりセンサモジュールに伝えるときに、2つの固定系の理想機械的位置からのずれ(2つの固定系の回転軸方向の中心線のずれ)の分が、回転軸に直交する方向(ラジアル方向)への力として働き、回転軸が回転支持部をシフトさせ、更に、それがハウジング、XYホール素子の位置に影響する。結局、回転磁石に対するXYホール素子の位置や感ずる磁束密度が加わる力によって変化する。回転軸が挿入される方向、すなわちスラスト方向については、ラジアル方向より受ける影響が小さいモジュール構成を想定している。この説明では、その変化を回転軸系を固定と考え、XYホール素子の位置が軸ずれベクトルだけ変位するという見方をとっている。
【0005】
このような軸ずれを解決するために、磁石の回転角度に応じた値を出力する1対のホール素子を備え、この1対のホール素子が、磁石の円板面に平行な平面上に、この平面と磁石の回転中心線との交点とほぼ一致する基準点から対称的な位置に配置され、基準点からホール素子の中心までの距離が磁石の半径と異なるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。つまり、この特許文献1のものは、軸ずれにより角度誤差が発生するため、これに対処するために、ホール素子を2個ずつペアで使い、軸ずれによる磁場変動を2個でキャンセルする方式のものである。
【0006】
また、磁気センサのヒステリシス特性を考慮し、ヒステリシスに起因する誤差を低減し、大きな誤差の発生を防ぐようにするために、回転角度検出装置で、右回りと左回りでヒステリシスの影響を受けた角度を求め、その検出誤差の平均値を角度補正データ値とする初期設定方式のものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−240602号公報
【特許文献2】特開2004−77133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1及び2のものであっても、軸ずれによる磁場変動を充分に補償できないという問題が依然として残っている。これらの問題を解消させるために、初期化時に初期化での操作による軸ずれの影響のない角度データを作成することが考えられる。
【0009】
このような回転角度センサの初期化(角度データ作成)を行う際にも、回転軸の挿入具合により軸ずれが発生する。この初期化をした回転角度センサを実使用時に組み付けると、再度、回転軸の挿入による軸ずれが発生する。初期化時の軸ずれ方向と逆の場合は、角度誤差が倍以上になる可能性がある。何度か、角度データを作成し、平均値をとることが考えられるが、一方向だけに偏った軸ずれになっている可能性がある。また、データをとる回数は少ないほうがよい。角度データを作るために、数度おきで360度にわたって磁石を回転させてデータを取得する作業は時間がかかる。そのため、何らかのデータの評価方法が必要とされている。
【0010】
本発明の回転角度センサにおける角度データ作成方法では、軸ずれが起こる要因が右回りや左回りだけに限られるわけではなく、補正のための初期値を求める方法としては、本発明に固有のものである。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、初期化操作時の回転軸の挿入による軸ずれの影響が少ない角度データを作成し、実利用時に発生する角度誤差を抑えるようにした角度データ作成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、回転角度センサ内に設けられ、互いに90度離れて配置された第1及び第2の磁気センサの出力値から角度データを取得するための角度データ作成方法において、前記角度データを初期化操作によって決定するに際し、角度データ取得用の回転部材を回転角度センサモジュールに挿入して回転させ、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値とからなる配位ベクトルを、前記回転部材の前記回転角度センサモジュールへの抜き差し操作により求める第1のステップと、該第1のステップにおいて求められた配位ベクトルの2次元ベクトル分布を調べ、該ベクトル分布から前記角度データ作成用の回転データを取得するのに適切な配位ベクトルの選択範囲を決定する第2のステップとを有し、角度データ作成のための実測操作において、前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内にあるときの回転データに基づいて前記角度データを作成することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記実測操作は、前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入して回転させ、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値とからなる配位ベクトルを求める第3のステップと、該第3のステップにおいて求められた配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内にあるかどうかを判断し、前記選択範囲にあるときの回転データを取得する第4のステップと、該第4のステップにおいて取得された回転データに基づいて角度データを作成する第5のステップとを有することを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲の中心に位置するときは、その位置で角度データ用の回転データを取得して角度データを作成することを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内の円周上に位置するときは、複数の角度データ用の回転データを取得し、該複数の角度データ用の回転データに基づいて角度データを作成することを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記複数の角度データ用の回転データについて平均化処理を行って角度データを作成することを特徴とする。
【0017】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記平均化処理は、前記配位ベクトル点の分布状況により重み付けすることを特徴とする。
【0018】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明において、前記角度データは、前記第1の磁気センサデータ及び前記第2の磁気センサデータの比と、該比を求めた時点の角度に対応づけられてデータ化したことを特徴とする。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1のステップと前記第2のステップを同時並行的に実施することを特徴とする。
【0020】
また、請求項9に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記初期化操作における第1のステップと、前記実測操作における第3及び第4のステップとを同時並行的に実施することを特徴とする。
【0021】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第2のステップにおいて、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値との空間をメッシュ化し、前記第1のステップで求められた配位ベクトルがどのメッシュにあるかを調べることによりベクトル分布を調べることを特徴とする。
【0022】
また、請求項11に記載の発明は、請求項1乃至10のいずれかに記載の発明において、前記磁気センサとしてホール素子を用いたことを特徴とする。
【0023】
また、請求項12に記載の発明は、請求項1乃至11のいずれかに記載の発明において、前記角度データは、ROMテーブルとして記憶されることを特徴とする。
【0024】
このように、本発明は、初期化環境に回転角度センサモジュールを取り付け、回転角0度で、Yホール素子の出力値であるADC(変換)値BzY(0)を取得し、回転軸を90度回転してXホール素子の出力値であるAD変換値BzX(90)を取得し、この2つのベクトル(BzY(0)、BzX(90))の分布から軸ずれを評価し、これに基づき角度データ作成のためのデータを複数取得し、これらにデータに対して平均化処理をすることで軸ずれの影響のない角度データを作成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、回転角度センサ内に設けられ、互いに90度離れて配置された第1及び第2の磁気センサの出力値から角度データを取得するための角度データ作成方法において、角度データを初期化操作によって決定するに際し、角度データ取得用の回転部材を回転角度センサモジュールに挿入して回転させ、基準設定角度0度のときの第1の磁気センサの出力値と、基準設定角度から90度回転させたときの第2の磁気センサの出力値とからなる配位ベクトルを、回転部材の回転角度センサモジュールへの抜き差し操作により求める第1のステップと、この第1のステップにおいて求められた配位ベクトルの2次元ベクトル分布を調べ、このベクトル分布から角度データ作成用の回転データを取得するのに適切な配位ベクトルの選択範囲を決定する第2のステップとを有し、角度データ作成のための実測操作において、回転部材を回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、第2のステップにおける前記選択範囲内にあるときの回転データに基づいて角度データを作成するので、初期化時の回転軸の挿入による軸ずれの影響が少ない角度データが作成でき、実利用時に発生する角度誤差を抑えることができる。また、初期化の環境に依存せずに角度データの取得が可能である。さらに、軸ずれの影響の少ない角度データを取得する時間が短縮化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
まず、センサモジュールの構成及び組み立てについて説明する。
図1は、本発明に係るセンサモジュールを説明するための構成図で、図中符号1はセンサ基板、2はリング磁石、3は回転体支持部、4はハウジング、5はホールドアーム、5aは取付穴、10はセンサモジュール、11は回転軸を示している。
【0027】
センサモジュール10は、ホールドアーム5を両側部に有するハウジング4と、このハウジング4内で回転可能な回転体支持部3と、この回転体支持部3内に嵌め込み固定されるリング磁石2と、このリング磁石2と位置合わせされてハウジング4に固定されるセンサ基板1とからなり、このセンサ基板1の下面には、図2に示すように、XYホール素子7a,7bがリング状磁石2のエッジ上方に固定配置されている。
【0028】
組み立て基準に従って組み立てると、ハウジング4のXY座標、リング磁石2のSN方向、XYホール素子7a,7bの位置、センサ基板1のXY軸が一意に決定される。設計値からのずれが発生するが、後述するように大きな問題にはならない。
【0029】
リング磁石2は、回転体支持部3の溝に嵌められて固定され、ハウジング4の下方から挿入されて回転支持部の挿入穴に至る回転軸11の回転により、回転体支持部3とともに回転させられる。
【0030】
図2は、リング磁石とXYホール素子の配置関係を示す図である。
XYホール素子7a,7bは、センサ基板1のX軸及びY軸上の所定の位置に配置されている。例えば、リング磁石2の円周上のエッジ付近に互いに90度の角度を持って配置され、感磁面はZ軸方向となっている。また、センサ基板1には、ハウジング4に設置されるときに位置決め用のマークが設けられている。
【0031】
図3は、回転体支持部とリング磁石の極性を説明するための図である。
まず、回転体支持部3にリング磁石2を装着固定して回転部(ローター)を組み立てる。リング磁石2上にSN磁極方向と、それに直交する方向にマークを付してある。回転体支持部3にも外側にXY軸方向を示すマークを付してあり、組み立て時には、その両者の直交するマークを一致させて組み立てる。また、回転体支持部3は、ハウジング4内に収納するときの位置決めマークを備えている。
【0032】
次に、回転部をハウジング4内に組み付ける。
回転体支持部3は、基本的にハウジング4の中で、外部から回転軸11により回転するので、回転方向の自由度がある。回転体支持部3とハウジング4の両方が、初期組み立て用のマークを有し、初期組み立てでは、このマークを一致させ、内部のリング磁石2の極性やXYホール素子7a,7bの位置が初期設定となるようにする。
【0033】
ハウジング4のXY座標系は、例えば、ハウジング4のホールドアーム5(円筒状のハウジング4の側部から突出した部分で、センサモジュール10をセンサモジュール保持部に固定するための取付穴が設けられている部分)の方向をX軸とし、ハウジング4の中心を通ってX軸と直交する方向をY軸とする。
【0034】
次に、ハウジング4にセンサ基板1を取り付ける。
センサ基板1とハウジング4との位置合わせが、それぞれが有する初期組み立て用マークを一致させることで行われる。センサ基板1の原点及びXY軸と、ハウジング4のXY座標とを一致させる。
【0035】
以上の組み立てにより、ハウジング4と回転体支持部3とリング磁石2とXYホール素子7a,7bは、相関をもつ座標原点とXY軸を有する。実際には各種のずれが発生し、そのずれに応じた値が初期値に加算される。
【0036】
次に、初期化(角度データの作成)環境について説明する。
図4は、角度データ作成装置の概要を示す構成図で、図中符号12は回転系支持部、13は回転軸駆動部、14はセンサモジュール保持部、15は装置基板を示している。なお、図1と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
【0037】
装置基板15上には、回転系支持部12とセンサモジュール保持部14が設定された配置で設けられている。センサモジュール保持部14にセンサモジュール10をホールドアーム5に設けられた取付け穴5aを用いて固定されるとともに、例えば、センサモジュール保持部14にセンサモジュール10が嵌め込まれる窪みと位置合わせ用の突起受け穴(図4では3点)が設けられている。
【0038】
図5は、センサモジュールの位置決め手段を説明するための図である。
センサモジュール10にも、図5に示すように、センサモジュール保持部14に設けられた突起受け穴に対応した位置決め手段としての複数の突起部16が設けられており、双方の位置が一致するように、センサモジュール10は、センサモジュール保持部14に取り付けられている。例えば、センサモジュール10の取付け穴(ボルト留め穴)5aの近傍に位置決め用の複数の突起部16を設けるようにしても良い。センサモジュール保持部14には、センサモジュール10の突起部16に対応する突起受け穴が設けられているが、この突起受け穴を位置指定マーカーとして利用してもよい。
【0039】
センサモジュール10の内部のリング磁石2の極性は、組み立て時に位置合わせ突起部16とホールドアーム5に対して角度が決定されている。回転系支持部12には、回転軸11を回転させる回転軸駆動部13と回転軸11が取り付けられている。角度データ作成時には、回転軸11が伸びて、センサモジュール10に挿入される。回転軸11の挿入方法は、回転軸駆動部13自体が、図4に示す矢印方向に、装置基板15に設けられたガイド溝(図示せず)に従って移動する方法でもよい。
【0040】
図6は、回転軸をセンサモジュールに挿入する様子を示す図である。
回転軸駆動部13の回転角度は、回転軸11のセンサモジュール10への挿入時に、角度0度となるように設定されている。これはセンサモジュール10への挿入時の回転軸11の先端の突起と、装置基板15の座標との関係で分かるようにできる。角度0度は、センサ基板1上のX軸にあるXホール素子7aの位置が、センサモジュール10の内部のリング磁石2の磁極SN方向と一致している角度(N極がXホール素子7aを向く方向)となるように設定する。
【0041】
回転軸11をセンサモジュール10に挿入する時に、回転軸11の中心と、センサモジュール保持部14及びセンサモジュール10の回転軸11の中心位置とが一致するように、回転系支持部12と回転軸駆動部13とセンサモジュール保持部14が位置合わせされるように設計されている。
【0042】
回転軸11をセンサモジュール10に挿入すると、このセンサモジュール10の回転体支持部3は、回転軸11に一体化され、回転軸駆動部13による回転軸11の挿入具合により、センサ基板1とハウジング4に対して相対位置変化をする。センサモジュール10の内部の回転軸11の中心位置は、設計中心値のまわりに同心円的にばらつくが、この調整により、ばらつきの大きさは一定範囲に制御されうる。
【0043】
ラジアル方向のばらつきについては、1回の挿入ごとにばらつきが大きいことが望ましい。このばらつきが特定方向に偏りを持つ場合は、作成される角度データ自体が、偏りをもったものとなる。初期化操作後に、角度センシングのために別の取り付け環境に取り付けられたとき、その取り付け具合による軸ずれが初期化時の偏りと逆方向となると、発生する角度誤差は倍になる。XYホール素子から出力されるアナログ信号は、次にAD変換をかけられデジタル値となる。
【0044】
回転軸11をセンサモジュール10に挿入したときが、角度0度であり、回転軸駆動部13を0度位置から90度回転させたとき、センサモジュール10の内部のリング磁石2のN極がセンサ基板1上のYホール素子7bを向く。角度データ作成のためのデータは、この回転軸11を1度、もしくは、2度ステップで360度回転させ、回転角度毎に、XYホール素子7a,7bからの出力をAD変換して信号処理系に取り込む。AD変換は、磁場の最大、最小範囲に対応する。
【0045】
本発明の角度データ作成方法では、角度データ作成のためのデータを取得するに際して、軸ずれ状態を評価する。この評価では、回転角度0度のときのYホール素子の出力値と、回転角度90度のときのXホール素子の出力値を利用する。これらの出力値は、ホール素子が、磁束密度Bzがゼロ付近にあり、プラスからマイナス、またはマイナスからプラスにゼロクロスし大きく変化する領域にある。ホール素子からのアナログ信号は、増幅され、AD変換されるが、この軸ずれ状態の評価の際には、その増幅度は、このゼロクロス付近の変化を明確に区別できるように調整される。
【0046】
次に、本発明の角度データ作成方法について説明する。
図7は、本発明の角度データの作成方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
まず、センサモジュール10を角度データ作成装置のセンサモジュール保持部14に取り付ける(S1)。次に、角度データを初期化操作によって決定するに際し、角度データ取得用の回転軸11をセンサモジュール10に挿入して回転させ、基準設定角度0度のときのYホール素子7bの出力値と、基準設定角度から90度回転させたときのXホール素子7aの出力値とからなるベクトルを、回転軸11のセンサモジュール10への抜き差し操作により求める(S2)。
【0047】
次に、求められたベクトルの2次元ベクトル分布を調べ、このベクトル分布から角度データ作成用の候補回転データを取得するのに適切な配位ベクトル点の選択範囲を決定する(S3)。円周上の選択範囲の場合は、その範囲の複数の配位ベクトル点のホール素子の出力値を角度データ取得候補とし、中心選択範囲の場合は、単独の角度データ取得候補とする。
【0048】
次に、上述した初期化操作の終了後に、角度データ作成のための実測定操作において、再度、回転軸11をセンサモジュール10に挿入する(S4)。次に、決定された選択範囲内の配位ベクトル点におけるXYホール素子7a,7bの出力値を、角度データ作成用の候補回転データとして選択・取得する(S5)。最後に、選択・取得された候補回転データに基づいて角度データを作成する(S6)。
【0049】
以下、角度データの作成手法についてさらに具体的に説明する。
従来の角度データの作成方法では、センサモジュール10をセンサモジュール保持部14に取り付け、回転軸駆動部13の回転軸11をセンサモジュール10に挿入し、回転軸11を1度、もしくは2度ステップで360度回転させ、回転角度毎のX、Yホール素子の出力値を信号処理系に取り込んで角度データを作成していた。この場合、操作は1回行われていた。
【0050】
本発明では、回転軸11の挿入による軸ずれ効果をなくすために、この回転軸11の挿入を何度か繰り返して軸ずれを評価し、その評価に基づき角度データ作成用データを取得し、軸ずれ効果の少ない角度データを作成するものである。
【0051】
以下、具体的な各手順に沿って説明する。
手順1:まず、センサモジュール10をセンサモジュール保持部14に取り付け、0度位置で回転軸11をセンサモジュール10に挿入し、ホール素子7a,7bの出力値を取得する。次に、回転軸11を90度回転させ、ホール素子7a,7bの出力値を取得する。次に、回転軸11を一度、センサモジュール10より抜き取る。
【0052】
再度、回転軸11をセンサモジュール10に挿入し、回転角度0度と90度のときのホール素子7a,7bの出力値を取得する。これを何度か繰り返す。角度0度で、そのときのYホール素子7bの出力値をBzY(0)とする。また、90度回転させたときのXホール素子7aの出力値をBzX(90)とする。
【0053】
手順2:この2つのデータのペアである配位ベクトル(BzY(0),BzX(90))を2次元表示させてその分布を見る。その分布点で、図8及び図9に示すように、円周上に位置する3点(図8)、もしくは4点(図9)があれば、その初期化環境が適切と考え、その円周上に配位ベクトル(BzY(0),BzX(90))が位置する場合は、その配位ベクトル点におけるホール素子7a,7bの出力値を角度データ作成用候補配位とする。また、その円周の中心位置に配位ベクトル点が位置する場合は、単独の角度データ作成用候補配位とする。
【0054】
手順3:上述した手順1と同様に、回転軸11をセンサモジュール10に挿入し、回転角度0度、90度でホール素子7a,7bの出力値を取得し、その配位ベクトル(BzY(0),BzX(90))が、上述した手順2で述べた円周上近傍である場合、また、円の中心近傍である場合は、そのセッティング状態で、角度データ作成用の候補データとして取得を行う。
【0055】
つまり、この回転軸11の配位で、回転角度0度から、1度、もしくは2度ステップで360度回転させ、角度毎のXYホール素子7a,7bのデータを取得する。これを何度か繰り返し、候補回転データを取得する。
【0056】
手順4:複数の候補回転データについて選別を行う。円周上に位置する候補回転データの3点、もしくは4点について、その重心が円の中心付近に位置すると考えられる点を選択する。
【0057】
図10は、円周上に位置する配位ベクトル点から3点を選択する場合を示す図である。縦横の軸は、AD変換した量子化値を示している。菱形が6個の候補データ点で、そのうち丸印3個の配位ベクトル点の回転データを使う。重心位置が四角で示してある。
【0058】
図11は、円周上に位置する配位ベクトル点から4点を選択する場合を示す図である。菱形が6個の候補データ点で、そのうち丸印4個の配位ベクトル点の回転データを使う。重心位置が四角である。
【0059】
円周上への配位ベクトル点の分布を見て、その重心と思われる位置に新たなベクトルがきた場合には、そのベクトル点のデータを角度データ作成用のデータ点としてもよい(前述した中心評価ベクトル点)。
【0060】
手順5:上述した手順4で選択された配位ベクトル点の回転データについて平均化処理をして1つの角度データ作成用データとする。例えば、各データは、2度ステップで、Xホール素子データやYホール素子データをもっているので、角度毎に、各回転データの対応するXホール素子データやYホール素子データを加算平均して、その角度のX,Yホール素子データとする。
【0061】
これにより作成された1つの角度データ作成用データは、Xホール素子データとYホール素子データの比がとられ、この比と、そのときの角度が対応づけられて角度データ化される。この平均化処理の方法には各種の重み付けの方法がある。利用する配位ベクトル点の分布具合により、そのベクトルデータ自体に重みをかけ加算することも可能である。また、各配位ベクトル点が、角度誤差に与える影響が、回転角度にも依存するので、回転角度の領域ごとに、各ベクトル点のデータの重みを変えることも可能である。
【0062】
上述した手順1と手順2は、同時並行的に実施することが可能である。また、上述した手順3と手順4も、同時並行的に実施することが可能である。上述した手順2〜4では、円周上に配位ベクトル点が位置することを利用して角度データ作成用の候補データを選択したが、ADC値を更に粗くして、BzY(0)−BzX(90)空間をメッシュ化し、そのメッシュに入る配位ベクトル点から角度データ作成用回転データを作ると、より高速にデータ取得が可能となる。図12において、斜線部に配位ベクトルが入れば、その4つの領域の配位ベクトルの回転データを角度データ作成用とすることが可能である。
【0063】
また、このメッシュを細かくし、対称性のよい4つのブロックを決め、そのブロック内に位置する配位ベクトル点となったときのみ回転データを取得すれば、より高精度の軸ずれの影響のない角度データが作成できる。
【0064】
次に、本発明における角度データ作成方式についての原理的な説明を行なう。
ここでは、回転軸11のセンサモジュール10への挿入によるラジアル方向のXYホール素子7a,7bとリング磁石2の間の相対変位を、磁石−回転系を固定し、センサ系が変位するとして以下の説明を行う。
【0065】
図13は、センサ系の変位の様子を示す図である。
XYホール素子の設計位置は、それぞれX軸上、Y軸上のm点である。円板が磁石を示し、ホール素子は、円板磁石のZ軸方向上方にあり、磁石の作るZ軸方向磁束密度Bzをセンスする。この図13では、XYホール素子の位置mは、X、Y軸上の設計位置にあり、ずれはないとしている。また、円板磁石のSN磁極もX、Y軸に対してずれていない。更に、磁石の中心位置と回転軸の中心も一致している場合を想定している。
【0066】
表1は、回転軸11のセンサモジュール10への挿入時のホール素子のラジアル方向の位置ずれをa、b、c、d、e、f、g、hで表したものである。例えば、m点からX軸、Y軸方向にそれぞれ100μずれたところにある。位置ずれは、m点から、XYのホール素子が、例えば、a点にシフトする。横向きの矢印は、角度0度の時の円板磁石のSN磁極の方向を示す。縦向きの矢印は、回転角度90度のときの円板磁石の磁極の方向を示す。
【0067】
回転角度0度と90度の2つの角度でXYホール素子の出力値をみる。表1で、HX、HYがそれぞれXホール素子、Yホール素子の出力値に対応している。簡単のために、出力値はAD変換された値を、更に閾値を設定して、マイナス、ゼロ、プラス、ドントケア(X)の4つに分類している。
【0068】
回転角0度:XY軸中心とXHホール素子を結ぶ方向が磁石のSNと一致する。
回転角90度:回転ステージを90度回転させる。
【0069】
【表1】
【0070】
閾値の設定例:
ADC値: 0 level −50 to +50
+ level +80 to 200
− level −80 to −200
【0071】
表1で0度のときのHY値、90度のときのX値(前述のBzY(0)、BzX(90))のペアは、軸ずれ配位a〜hで異なっている。
【0072】
図13で、回転角度0度のときは、磁石のSN磁気モーメント方向に対してYホール素子で、配位a、d、fの3点は、磁束密度Bzがマイナス側であり、配位b、m、gの3点は磁束密度Bzがゼロ付近、配位c、e、hの3点は磁束密度Bzがプラスにでてくる。Xホール素子の出力は、磁場強度が最大付近で、素子周辺の磁場がフラットな状況にあり、そのためm点よりずれた位置での磁場強度の変化を利用するのは容易でない。
【0073】
なお、ここで、磁場分布、つまり、磁石の回転角度が0度でのXホール素子、Yホール素子の感ずる磁束密度Bzについて説明する。
図16は、Xホール素子位置付近の磁場Bzの様子を示す図である。
(X,Y)=(13.0,0.0)のところがホール素子の位置である。X軸動径方向にパラボリックな変化をし、円周方向にフラットになっている。中心から、±100μ以内の領域では全体にフラットな領域であることが分かる。
【0074】
図17は、Yホール素子位置付近の磁場Bzの様子を示す図である。
(X,Y)=(0.0,13.0)がホール素子の位置である。X軸、磁石円周方向に沿って、リニアな磁場変化を示していることがわかる。動径方向にはフラットである。
【0075】
図13において、回転角度90度のときは、SN磁気モーメント方向に対して直交する位置にあるXホール素子で、配位a、b、cは磁束密度Bzがマイナス側にあり、配位d、m、eの3点は、ゼロ付近、配位f、g、hの3点はプラスとなる。BzY(0)−BzX(90)を軸として、上述した各配位a〜hを図14に示す。
【0076】
軸の単位は、ホール素子出力のAD変換値である。軸ずれ量と磁束密度の変化が線形な領域を使っているので、AD変換値と軸ずれ量は比例関係にある。原点に対して、対称的な分布となる。同心円的な回転軸中心のラジアル方向ずれの場合は、図14のような四角形ではなく、円形となる。円の大きさは、ラジアル方向にかかるずれの力に依存し、小さければ、小さな円となる。
【0077】
図14からわかるように、回転軸を挿入し、配位ベクトル(BzY(0)、BzX(90))を求めると、その配位ベクトルの位置により、どの配位の軸ずれがあるか判断できる。
【0078】
次に、ホール素子の位置が設計位置よりずれた場合、磁石中心が回転軸の中心からずれた場合、回転角度0度で、磁石のSN軸がX軸からずれた場合などを考えてみる。これらのずれは、回転軸の挿入によるXHホール素子と磁石との位置ずれと関係なく、センサモジュール自体の組み付けに起因するずれと考えられる。
【0079】
これらのずれは、前述の説明を拡張して考えると、中心であるm点がBzY(0)−BzX(90)平面上で、原点からずれる効果として見えてくる。そして、図15に示すように、そのシフトしたm点を中心として回転軸の挿入による位置ずれの点が分布することになる。シフトの方向、大きさは、そのモジュールの組み立て方に依存する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係るセンサモジュールを説明するための構成図である。
【図2】リング磁石とXYホール素子の配置関係を示す図である。
【図3】回転体支持部とリング磁石の極性を説明するための図である。
【図4】角度データ作成装置の概要を示す構成図である。
【図5】センサモジュールの位置決め手段を説明するための図である。
【図6】回転軸をセンサモジュールに挿入する様子を示す図である。
【図7】本発明の角度データの作成手法を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図8】回転軸をセンサモジュールに挿入した時の、回転角度0度と90度のときのホール素子の出力値の配位ベクトル(BzY(0),BzX(90))を2次元表示した図(その1)である。
【図9】回転軸をセンサモジュールに挿入した時の、回転角度0度と90度のときのホール素子の出力値の配位ベクトル(BzY(0),BzX(90))を2次元表示した図(その2)である。
【図10】円周上に位置する配位ベクトル点から3点を選択する場合を示す図である。
【図11】円周上に位置する配位ベクトル点から4点を選択する場合を示す図である。
【図12】4つの領域の配位ベクトルの回転データを角度データ作成用とすることを示す図である。
【図13】センサ系の変位の様子を示す図である。
【図14】軸ずれのBzY(0)−BzX(90)平面での配位を示す図である。
【図15】各種のずれによる配位の変化を示す図である。
【図16】Xホール素子位置付近の磁場Bzの様子を示す図(その1)である。
【図17】Yホール素子位置付近の磁場Bzの様子を示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0081】
1 センサ基板
2 磁石
3 回転体支持部
4 ハウジング
5 ホールドアーム
5a 取付け穴
7a,7b ホール素子
10 センサモジュール
11 回転軸
12 回転系支持部
13 回転軸駆動部
14 センサモジュール保持部
15 装置基板
16 突起部
【技術分野】
【0001】
本発明は、角度データ作成方法に関し、より詳細には、磁石の回転による回転磁場を複数の磁気センサを用いて回転角度を求める回転角度センサにおいて、初期化操作により角度データを作成し、実測時には、その角度データを用いて高精度に回転角度を求める方式での角度データ作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回転角度センサとして、磁気回路を構成するN極とS極の磁石を有する回転体と、磁気の強さを検出する磁気センサとを組み合わせて、この回転体を磁気センサに対して回転させることにより回転角度を検出するものが多く提案されている。特に、磁気センサとしてホール素子を使用し、これと高精度な磁気回路を組み合わせることで、回転体の回転角度に対するアナログ信号を出力できるように構成した非接触式の回転角度センサが知られている。
【0003】
しかしながら、このような従来の回転角度センサは、この回転角度センサの円板磁石の生成する磁場強度がもっとも強い、円板磁石の周縁部に磁気センサが設置されているため、円板磁石の回転軸に磁石の半径方向の応力が加わると、磁気センサの配置の基準点に対する磁石の回転中心線の変位(以下、「軸ずれ」という)により、測定角度の角度誤差が生じてしまうという問題がある。
【0004】
ここで、「軸ずれ」について以下に説明する。
回転角度センサモジュール(以下、単にセンサモジュールという)を固定し、別の固定系である回転系から回転動力を回転軸によりセンサモジュールに伝えるときに、2つの固定系の理想機械的位置からのずれ(2つの固定系の回転軸方向の中心線のずれ)の分が、回転軸に直交する方向(ラジアル方向)への力として働き、回転軸が回転支持部をシフトさせ、更に、それがハウジング、XYホール素子の位置に影響する。結局、回転磁石に対するXYホール素子の位置や感ずる磁束密度が加わる力によって変化する。回転軸が挿入される方向、すなわちスラスト方向については、ラジアル方向より受ける影響が小さいモジュール構成を想定している。この説明では、その変化を回転軸系を固定と考え、XYホール素子の位置が軸ずれベクトルだけ変位するという見方をとっている。
【0005】
このような軸ずれを解決するために、磁石の回転角度に応じた値を出力する1対のホール素子を備え、この1対のホール素子が、磁石の円板面に平行な平面上に、この平面と磁石の回転中心線との交点とほぼ一致する基準点から対称的な位置に配置され、基準点からホール素子の中心までの距離が磁石の半径と異なるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。つまり、この特許文献1のものは、軸ずれにより角度誤差が発生するため、これに対処するために、ホール素子を2個ずつペアで使い、軸ずれによる磁場変動を2個でキャンセルする方式のものである。
【0006】
また、磁気センサのヒステリシス特性を考慮し、ヒステリシスに起因する誤差を低減し、大きな誤差の発生を防ぐようにするために、回転角度検出装置で、右回りと左回りでヒステリシスの影響を受けた角度を求め、その検出誤差の平均値を角度補正データ値とする初期設定方式のものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−240602号公報
【特許文献2】特開2004−77133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1及び2のものであっても、軸ずれによる磁場変動を充分に補償できないという問題が依然として残っている。これらの問題を解消させるために、初期化時に初期化での操作による軸ずれの影響のない角度データを作成することが考えられる。
【0009】
このような回転角度センサの初期化(角度データ作成)を行う際にも、回転軸の挿入具合により軸ずれが発生する。この初期化をした回転角度センサを実使用時に組み付けると、再度、回転軸の挿入による軸ずれが発生する。初期化時の軸ずれ方向と逆の場合は、角度誤差が倍以上になる可能性がある。何度か、角度データを作成し、平均値をとることが考えられるが、一方向だけに偏った軸ずれになっている可能性がある。また、データをとる回数は少ないほうがよい。角度データを作るために、数度おきで360度にわたって磁石を回転させてデータを取得する作業は時間がかかる。そのため、何らかのデータの評価方法が必要とされている。
【0010】
本発明の回転角度センサにおける角度データ作成方法では、軸ずれが起こる要因が右回りや左回りだけに限られるわけではなく、補正のための初期値を求める方法としては、本発明に固有のものである。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、初期化操作時の回転軸の挿入による軸ずれの影響が少ない角度データを作成し、実利用時に発生する角度誤差を抑えるようにした角度データ作成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、回転角度センサ内に設けられ、互いに90度離れて配置された第1及び第2の磁気センサの出力値から角度データを取得するための角度データ作成方法において、前記角度データを初期化操作によって決定するに際し、角度データ取得用の回転部材を回転角度センサモジュールに挿入して回転させ、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値とからなる配位ベクトルを、前記回転部材の前記回転角度センサモジュールへの抜き差し操作により求める第1のステップと、該第1のステップにおいて求められた配位ベクトルの2次元ベクトル分布を調べ、該ベクトル分布から前記角度データ作成用の回転データを取得するのに適切な配位ベクトルの選択範囲を決定する第2のステップとを有し、角度データ作成のための実測操作において、前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内にあるときの回転データに基づいて前記角度データを作成することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記実測操作は、前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入して回転させ、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値とからなる配位ベクトルを求める第3のステップと、該第3のステップにおいて求められた配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内にあるかどうかを判断し、前記選択範囲にあるときの回転データを取得する第4のステップと、該第4のステップにおいて取得された回転データに基づいて角度データを作成する第5のステップとを有することを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲の中心に位置するときは、その位置で角度データ用の回転データを取得して角度データを作成することを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内の円周上に位置するときは、複数の角度データ用の回転データを取得し、該複数の角度データ用の回転データに基づいて角度データを作成することを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記複数の角度データ用の回転データについて平均化処理を行って角度データを作成することを特徴とする。
【0017】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記平均化処理は、前記配位ベクトル点の分布状況により重み付けすることを特徴とする。
【0018】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明において、前記角度データは、前記第1の磁気センサデータ及び前記第2の磁気センサデータの比と、該比を求めた時点の角度に対応づけられてデータ化したことを特徴とする。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1のステップと前記第2のステップを同時並行的に実施することを特徴とする。
【0020】
また、請求項9に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記初期化操作における第1のステップと、前記実測操作における第3及び第4のステップとを同時並行的に実施することを特徴とする。
【0021】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第2のステップにおいて、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値との空間をメッシュ化し、前記第1のステップで求められた配位ベクトルがどのメッシュにあるかを調べることによりベクトル分布を調べることを特徴とする。
【0022】
また、請求項11に記載の発明は、請求項1乃至10のいずれかに記載の発明において、前記磁気センサとしてホール素子を用いたことを特徴とする。
【0023】
また、請求項12に記載の発明は、請求項1乃至11のいずれかに記載の発明において、前記角度データは、ROMテーブルとして記憶されることを特徴とする。
【0024】
このように、本発明は、初期化環境に回転角度センサモジュールを取り付け、回転角0度で、Yホール素子の出力値であるADC(変換)値BzY(0)を取得し、回転軸を90度回転してXホール素子の出力値であるAD変換値BzX(90)を取得し、この2つのベクトル(BzY(0)、BzX(90))の分布から軸ずれを評価し、これに基づき角度データ作成のためのデータを複数取得し、これらにデータに対して平均化処理をすることで軸ずれの影響のない角度データを作成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、回転角度センサ内に設けられ、互いに90度離れて配置された第1及び第2の磁気センサの出力値から角度データを取得するための角度データ作成方法において、角度データを初期化操作によって決定するに際し、角度データ取得用の回転部材を回転角度センサモジュールに挿入して回転させ、基準設定角度0度のときの第1の磁気センサの出力値と、基準設定角度から90度回転させたときの第2の磁気センサの出力値とからなる配位ベクトルを、回転部材の回転角度センサモジュールへの抜き差し操作により求める第1のステップと、この第1のステップにおいて求められた配位ベクトルの2次元ベクトル分布を調べ、このベクトル分布から角度データ作成用の回転データを取得するのに適切な配位ベクトルの選択範囲を決定する第2のステップとを有し、角度データ作成のための実測操作において、回転部材を回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、第2のステップにおける前記選択範囲内にあるときの回転データに基づいて角度データを作成するので、初期化時の回転軸の挿入による軸ずれの影響が少ない角度データが作成でき、実利用時に発生する角度誤差を抑えることができる。また、初期化の環境に依存せずに角度データの取得が可能である。さらに、軸ずれの影響の少ない角度データを取得する時間が短縮化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
まず、センサモジュールの構成及び組み立てについて説明する。
図1は、本発明に係るセンサモジュールを説明するための構成図で、図中符号1はセンサ基板、2はリング磁石、3は回転体支持部、4はハウジング、5はホールドアーム、5aは取付穴、10はセンサモジュール、11は回転軸を示している。
【0027】
センサモジュール10は、ホールドアーム5を両側部に有するハウジング4と、このハウジング4内で回転可能な回転体支持部3と、この回転体支持部3内に嵌め込み固定されるリング磁石2と、このリング磁石2と位置合わせされてハウジング4に固定されるセンサ基板1とからなり、このセンサ基板1の下面には、図2に示すように、XYホール素子7a,7bがリング状磁石2のエッジ上方に固定配置されている。
【0028】
組み立て基準に従って組み立てると、ハウジング4のXY座標、リング磁石2のSN方向、XYホール素子7a,7bの位置、センサ基板1のXY軸が一意に決定される。設計値からのずれが発生するが、後述するように大きな問題にはならない。
【0029】
リング磁石2は、回転体支持部3の溝に嵌められて固定され、ハウジング4の下方から挿入されて回転支持部の挿入穴に至る回転軸11の回転により、回転体支持部3とともに回転させられる。
【0030】
図2は、リング磁石とXYホール素子の配置関係を示す図である。
XYホール素子7a,7bは、センサ基板1のX軸及びY軸上の所定の位置に配置されている。例えば、リング磁石2の円周上のエッジ付近に互いに90度の角度を持って配置され、感磁面はZ軸方向となっている。また、センサ基板1には、ハウジング4に設置されるときに位置決め用のマークが設けられている。
【0031】
図3は、回転体支持部とリング磁石の極性を説明するための図である。
まず、回転体支持部3にリング磁石2を装着固定して回転部(ローター)を組み立てる。リング磁石2上にSN磁極方向と、それに直交する方向にマークを付してある。回転体支持部3にも外側にXY軸方向を示すマークを付してあり、組み立て時には、その両者の直交するマークを一致させて組み立てる。また、回転体支持部3は、ハウジング4内に収納するときの位置決めマークを備えている。
【0032】
次に、回転部をハウジング4内に組み付ける。
回転体支持部3は、基本的にハウジング4の中で、外部から回転軸11により回転するので、回転方向の自由度がある。回転体支持部3とハウジング4の両方が、初期組み立て用のマークを有し、初期組み立てでは、このマークを一致させ、内部のリング磁石2の極性やXYホール素子7a,7bの位置が初期設定となるようにする。
【0033】
ハウジング4のXY座標系は、例えば、ハウジング4のホールドアーム5(円筒状のハウジング4の側部から突出した部分で、センサモジュール10をセンサモジュール保持部に固定するための取付穴が設けられている部分)の方向をX軸とし、ハウジング4の中心を通ってX軸と直交する方向をY軸とする。
【0034】
次に、ハウジング4にセンサ基板1を取り付ける。
センサ基板1とハウジング4との位置合わせが、それぞれが有する初期組み立て用マークを一致させることで行われる。センサ基板1の原点及びXY軸と、ハウジング4のXY座標とを一致させる。
【0035】
以上の組み立てにより、ハウジング4と回転体支持部3とリング磁石2とXYホール素子7a,7bは、相関をもつ座標原点とXY軸を有する。実際には各種のずれが発生し、そのずれに応じた値が初期値に加算される。
【0036】
次に、初期化(角度データの作成)環境について説明する。
図4は、角度データ作成装置の概要を示す構成図で、図中符号12は回転系支持部、13は回転軸駆動部、14はセンサモジュール保持部、15は装置基板を示している。なお、図1と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
【0037】
装置基板15上には、回転系支持部12とセンサモジュール保持部14が設定された配置で設けられている。センサモジュール保持部14にセンサモジュール10をホールドアーム5に設けられた取付け穴5aを用いて固定されるとともに、例えば、センサモジュール保持部14にセンサモジュール10が嵌め込まれる窪みと位置合わせ用の突起受け穴(図4では3点)が設けられている。
【0038】
図5は、センサモジュールの位置決め手段を説明するための図である。
センサモジュール10にも、図5に示すように、センサモジュール保持部14に設けられた突起受け穴に対応した位置決め手段としての複数の突起部16が設けられており、双方の位置が一致するように、センサモジュール10は、センサモジュール保持部14に取り付けられている。例えば、センサモジュール10の取付け穴(ボルト留め穴)5aの近傍に位置決め用の複数の突起部16を設けるようにしても良い。センサモジュール保持部14には、センサモジュール10の突起部16に対応する突起受け穴が設けられているが、この突起受け穴を位置指定マーカーとして利用してもよい。
【0039】
センサモジュール10の内部のリング磁石2の極性は、組み立て時に位置合わせ突起部16とホールドアーム5に対して角度が決定されている。回転系支持部12には、回転軸11を回転させる回転軸駆動部13と回転軸11が取り付けられている。角度データ作成時には、回転軸11が伸びて、センサモジュール10に挿入される。回転軸11の挿入方法は、回転軸駆動部13自体が、図4に示す矢印方向に、装置基板15に設けられたガイド溝(図示せず)に従って移動する方法でもよい。
【0040】
図6は、回転軸をセンサモジュールに挿入する様子を示す図である。
回転軸駆動部13の回転角度は、回転軸11のセンサモジュール10への挿入時に、角度0度となるように設定されている。これはセンサモジュール10への挿入時の回転軸11の先端の突起と、装置基板15の座標との関係で分かるようにできる。角度0度は、センサ基板1上のX軸にあるXホール素子7aの位置が、センサモジュール10の内部のリング磁石2の磁極SN方向と一致している角度(N極がXホール素子7aを向く方向)となるように設定する。
【0041】
回転軸11をセンサモジュール10に挿入する時に、回転軸11の中心と、センサモジュール保持部14及びセンサモジュール10の回転軸11の中心位置とが一致するように、回転系支持部12と回転軸駆動部13とセンサモジュール保持部14が位置合わせされるように設計されている。
【0042】
回転軸11をセンサモジュール10に挿入すると、このセンサモジュール10の回転体支持部3は、回転軸11に一体化され、回転軸駆動部13による回転軸11の挿入具合により、センサ基板1とハウジング4に対して相対位置変化をする。センサモジュール10の内部の回転軸11の中心位置は、設計中心値のまわりに同心円的にばらつくが、この調整により、ばらつきの大きさは一定範囲に制御されうる。
【0043】
ラジアル方向のばらつきについては、1回の挿入ごとにばらつきが大きいことが望ましい。このばらつきが特定方向に偏りを持つ場合は、作成される角度データ自体が、偏りをもったものとなる。初期化操作後に、角度センシングのために別の取り付け環境に取り付けられたとき、その取り付け具合による軸ずれが初期化時の偏りと逆方向となると、発生する角度誤差は倍になる。XYホール素子から出力されるアナログ信号は、次にAD変換をかけられデジタル値となる。
【0044】
回転軸11をセンサモジュール10に挿入したときが、角度0度であり、回転軸駆動部13を0度位置から90度回転させたとき、センサモジュール10の内部のリング磁石2のN極がセンサ基板1上のYホール素子7bを向く。角度データ作成のためのデータは、この回転軸11を1度、もしくは、2度ステップで360度回転させ、回転角度毎に、XYホール素子7a,7bからの出力をAD変換して信号処理系に取り込む。AD変換は、磁場の最大、最小範囲に対応する。
【0045】
本発明の角度データ作成方法では、角度データ作成のためのデータを取得するに際して、軸ずれ状態を評価する。この評価では、回転角度0度のときのYホール素子の出力値と、回転角度90度のときのXホール素子の出力値を利用する。これらの出力値は、ホール素子が、磁束密度Bzがゼロ付近にあり、プラスからマイナス、またはマイナスからプラスにゼロクロスし大きく変化する領域にある。ホール素子からのアナログ信号は、増幅され、AD変換されるが、この軸ずれ状態の評価の際には、その増幅度は、このゼロクロス付近の変化を明確に区別できるように調整される。
【0046】
次に、本発明の角度データ作成方法について説明する。
図7は、本発明の角度データの作成方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
まず、センサモジュール10を角度データ作成装置のセンサモジュール保持部14に取り付ける(S1)。次に、角度データを初期化操作によって決定するに際し、角度データ取得用の回転軸11をセンサモジュール10に挿入して回転させ、基準設定角度0度のときのYホール素子7bの出力値と、基準設定角度から90度回転させたときのXホール素子7aの出力値とからなるベクトルを、回転軸11のセンサモジュール10への抜き差し操作により求める(S2)。
【0047】
次に、求められたベクトルの2次元ベクトル分布を調べ、このベクトル分布から角度データ作成用の候補回転データを取得するのに適切な配位ベクトル点の選択範囲を決定する(S3)。円周上の選択範囲の場合は、その範囲の複数の配位ベクトル点のホール素子の出力値を角度データ取得候補とし、中心選択範囲の場合は、単独の角度データ取得候補とする。
【0048】
次に、上述した初期化操作の終了後に、角度データ作成のための実測定操作において、再度、回転軸11をセンサモジュール10に挿入する(S4)。次に、決定された選択範囲内の配位ベクトル点におけるXYホール素子7a,7bの出力値を、角度データ作成用の候補回転データとして選択・取得する(S5)。最後に、選択・取得された候補回転データに基づいて角度データを作成する(S6)。
【0049】
以下、角度データの作成手法についてさらに具体的に説明する。
従来の角度データの作成方法では、センサモジュール10をセンサモジュール保持部14に取り付け、回転軸駆動部13の回転軸11をセンサモジュール10に挿入し、回転軸11を1度、もしくは2度ステップで360度回転させ、回転角度毎のX、Yホール素子の出力値を信号処理系に取り込んで角度データを作成していた。この場合、操作は1回行われていた。
【0050】
本発明では、回転軸11の挿入による軸ずれ効果をなくすために、この回転軸11の挿入を何度か繰り返して軸ずれを評価し、その評価に基づき角度データ作成用データを取得し、軸ずれ効果の少ない角度データを作成するものである。
【0051】
以下、具体的な各手順に沿って説明する。
手順1:まず、センサモジュール10をセンサモジュール保持部14に取り付け、0度位置で回転軸11をセンサモジュール10に挿入し、ホール素子7a,7bの出力値を取得する。次に、回転軸11を90度回転させ、ホール素子7a,7bの出力値を取得する。次に、回転軸11を一度、センサモジュール10より抜き取る。
【0052】
再度、回転軸11をセンサモジュール10に挿入し、回転角度0度と90度のときのホール素子7a,7bの出力値を取得する。これを何度か繰り返す。角度0度で、そのときのYホール素子7bの出力値をBzY(0)とする。また、90度回転させたときのXホール素子7aの出力値をBzX(90)とする。
【0053】
手順2:この2つのデータのペアである配位ベクトル(BzY(0),BzX(90))を2次元表示させてその分布を見る。その分布点で、図8及び図9に示すように、円周上に位置する3点(図8)、もしくは4点(図9)があれば、その初期化環境が適切と考え、その円周上に配位ベクトル(BzY(0),BzX(90))が位置する場合は、その配位ベクトル点におけるホール素子7a,7bの出力値を角度データ作成用候補配位とする。また、その円周の中心位置に配位ベクトル点が位置する場合は、単独の角度データ作成用候補配位とする。
【0054】
手順3:上述した手順1と同様に、回転軸11をセンサモジュール10に挿入し、回転角度0度、90度でホール素子7a,7bの出力値を取得し、その配位ベクトル(BzY(0),BzX(90))が、上述した手順2で述べた円周上近傍である場合、また、円の中心近傍である場合は、そのセッティング状態で、角度データ作成用の候補データとして取得を行う。
【0055】
つまり、この回転軸11の配位で、回転角度0度から、1度、もしくは2度ステップで360度回転させ、角度毎のXYホール素子7a,7bのデータを取得する。これを何度か繰り返し、候補回転データを取得する。
【0056】
手順4:複数の候補回転データについて選別を行う。円周上に位置する候補回転データの3点、もしくは4点について、その重心が円の中心付近に位置すると考えられる点を選択する。
【0057】
図10は、円周上に位置する配位ベクトル点から3点を選択する場合を示す図である。縦横の軸は、AD変換した量子化値を示している。菱形が6個の候補データ点で、そのうち丸印3個の配位ベクトル点の回転データを使う。重心位置が四角で示してある。
【0058】
図11は、円周上に位置する配位ベクトル点から4点を選択する場合を示す図である。菱形が6個の候補データ点で、そのうち丸印4個の配位ベクトル点の回転データを使う。重心位置が四角である。
【0059】
円周上への配位ベクトル点の分布を見て、その重心と思われる位置に新たなベクトルがきた場合には、そのベクトル点のデータを角度データ作成用のデータ点としてもよい(前述した中心評価ベクトル点)。
【0060】
手順5:上述した手順4で選択された配位ベクトル点の回転データについて平均化処理をして1つの角度データ作成用データとする。例えば、各データは、2度ステップで、Xホール素子データやYホール素子データをもっているので、角度毎に、各回転データの対応するXホール素子データやYホール素子データを加算平均して、その角度のX,Yホール素子データとする。
【0061】
これにより作成された1つの角度データ作成用データは、Xホール素子データとYホール素子データの比がとられ、この比と、そのときの角度が対応づけられて角度データ化される。この平均化処理の方法には各種の重み付けの方法がある。利用する配位ベクトル点の分布具合により、そのベクトルデータ自体に重みをかけ加算することも可能である。また、各配位ベクトル点が、角度誤差に与える影響が、回転角度にも依存するので、回転角度の領域ごとに、各ベクトル点のデータの重みを変えることも可能である。
【0062】
上述した手順1と手順2は、同時並行的に実施することが可能である。また、上述した手順3と手順4も、同時並行的に実施することが可能である。上述した手順2〜4では、円周上に配位ベクトル点が位置することを利用して角度データ作成用の候補データを選択したが、ADC値を更に粗くして、BzY(0)−BzX(90)空間をメッシュ化し、そのメッシュに入る配位ベクトル点から角度データ作成用回転データを作ると、より高速にデータ取得が可能となる。図12において、斜線部に配位ベクトルが入れば、その4つの領域の配位ベクトルの回転データを角度データ作成用とすることが可能である。
【0063】
また、このメッシュを細かくし、対称性のよい4つのブロックを決め、そのブロック内に位置する配位ベクトル点となったときのみ回転データを取得すれば、より高精度の軸ずれの影響のない角度データが作成できる。
【0064】
次に、本発明における角度データ作成方式についての原理的な説明を行なう。
ここでは、回転軸11のセンサモジュール10への挿入によるラジアル方向のXYホール素子7a,7bとリング磁石2の間の相対変位を、磁石−回転系を固定し、センサ系が変位するとして以下の説明を行う。
【0065】
図13は、センサ系の変位の様子を示す図である。
XYホール素子の設計位置は、それぞれX軸上、Y軸上のm点である。円板が磁石を示し、ホール素子は、円板磁石のZ軸方向上方にあり、磁石の作るZ軸方向磁束密度Bzをセンスする。この図13では、XYホール素子の位置mは、X、Y軸上の設計位置にあり、ずれはないとしている。また、円板磁石のSN磁極もX、Y軸に対してずれていない。更に、磁石の中心位置と回転軸の中心も一致している場合を想定している。
【0066】
表1は、回転軸11のセンサモジュール10への挿入時のホール素子のラジアル方向の位置ずれをa、b、c、d、e、f、g、hで表したものである。例えば、m点からX軸、Y軸方向にそれぞれ100μずれたところにある。位置ずれは、m点から、XYのホール素子が、例えば、a点にシフトする。横向きの矢印は、角度0度の時の円板磁石のSN磁極の方向を示す。縦向きの矢印は、回転角度90度のときの円板磁石の磁極の方向を示す。
【0067】
回転角度0度と90度の2つの角度でXYホール素子の出力値をみる。表1で、HX、HYがそれぞれXホール素子、Yホール素子の出力値に対応している。簡単のために、出力値はAD変換された値を、更に閾値を設定して、マイナス、ゼロ、プラス、ドントケア(X)の4つに分類している。
【0068】
回転角0度:XY軸中心とXHホール素子を結ぶ方向が磁石のSNと一致する。
回転角90度:回転ステージを90度回転させる。
【0069】
【表1】
【0070】
閾値の設定例:
ADC値: 0 level −50 to +50
+ level +80 to 200
− level −80 to −200
【0071】
表1で0度のときのHY値、90度のときのX値(前述のBzY(0)、BzX(90))のペアは、軸ずれ配位a〜hで異なっている。
【0072】
図13で、回転角度0度のときは、磁石のSN磁気モーメント方向に対してYホール素子で、配位a、d、fの3点は、磁束密度Bzがマイナス側であり、配位b、m、gの3点は磁束密度Bzがゼロ付近、配位c、e、hの3点は磁束密度Bzがプラスにでてくる。Xホール素子の出力は、磁場強度が最大付近で、素子周辺の磁場がフラットな状況にあり、そのためm点よりずれた位置での磁場強度の変化を利用するのは容易でない。
【0073】
なお、ここで、磁場分布、つまり、磁石の回転角度が0度でのXホール素子、Yホール素子の感ずる磁束密度Bzについて説明する。
図16は、Xホール素子位置付近の磁場Bzの様子を示す図である。
(X,Y)=(13.0,0.0)のところがホール素子の位置である。X軸動径方向にパラボリックな変化をし、円周方向にフラットになっている。中心から、±100μ以内の領域では全体にフラットな領域であることが分かる。
【0074】
図17は、Yホール素子位置付近の磁場Bzの様子を示す図である。
(X,Y)=(0.0,13.0)がホール素子の位置である。X軸、磁石円周方向に沿って、リニアな磁場変化を示していることがわかる。動径方向にはフラットである。
【0075】
図13において、回転角度90度のときは、SN磁気モーメント方向に対して直交する位置にあるXホール素子で、配位a、b、cは磁束密度Bzがマイナス側にあり、配位d、m、eの3点は、ゼロ付近、配位f、g、hの3点はプラスとなる。BzY(0)−BzX(90)を軸として、上述した各配位a〜hを図14に示す。
【0076】
軸の単位は、ホール素子出力のAD変換値である。軸ずれ量と磁束密度の変化が線形な領域を使っているので、AD変換値と軸ずれ量は比例関係にある。原点に対して、対称的な分布となる。同心円的な回転軸中心のラジアル方向ずれの場合は、図14のような四角形ではなく、円形となる。円の大きさは、ラジアル方向にかかるずれの力に依存し、小さければ、小さな円となる。
【0077】
図14からわかるように、回転軸を挿入し、配位ベクトル(BzY(0)、BzX(90))を求めると、その配位ベクトルの位置により、どの配位の軸ずれがあるか判断できる。
【0078】
次に、ホール素子の位置が設計位置よりずれた場合、磁石中心が回転軸の中心からずれた場合、回転角度0度で、磁石のSN軸がX軸からずれた場合などを考えてみる。これらのずれは、回転軸の挿入によるXHホール素子と磁石との位置ずれと関係なく、センサモジュール自体の組み付けに起因するずれと考えられる。
【0079】
これらのずれは、前述の説明を拡張して考えると、中心であるm点がBzY(0)−BzX(90)平面上で、原点からずれる効果として見えてくる。そして、図15に示すように、そのシフトしたm点を中心として回転軸の挿入による位置ずれの点が分布することになる。シフトの方向、大きさは、そのモジュールの組み立て方に依存する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係るセンサモジュールを説明するための構成図である。
【図2】リング磁石とXYホール素子の配置関係を示す図である。
【図3】回転体支持部とリング磁石の極性を説明するための図である。
【図4】角度データ作成装置の概要を示す構成図である。
【図5】センサモジュールの位置決め手段を説明するための図である。
【図6】回転軸をセンサモジュールに挿入する様子を示す図である。
【図7】本発明の角度データの作成手法を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図8】回転軸をセンサモジュールに挿入した時の、回転角度0度と90度のときのホール素子の出力値の配位ベクトル(BzY(0),BzX(90))を2次元表示した図(その1)である。
【図9】回転軸をセンサモジュールに挿入した時の、回転角度0度と90度のときのホール素子の出力値の配位ベクトル(BzY(0),BzX(90))を2次元表示した図(その2)である。
【図10】円周上に位置する配位ベクトル点から3点を選択する場合を示す図である。
【図11】円周上に位置する配位ベクトル点から4点を選択する場合を示す図である。
【図12】4つの領域の配位ベクトルの回転データを角度データ作成用とすることを示す図である。
【図13】センサ系の変位の様子を示す図である。
【図14】軸ずれのBzY(0)−BzX(90)平面での配位を示す図である。
【図15】各種のずれによる配位の変化を示す図である。
【図16】Xホール素子位置付近の磁場Bzの様子を示す図(その1)である。
【図17】Yホール素子位置付近の磁場Bzの様子を示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0081】
1 センサ基板
2 磁石
3 回転体支持部
4 ハウジング
5 ホールドアーム
5a 取付け穴
7a,7b ホール素子
10 センサモジュール
11 回転軸
12 回転系支持部
13 回転軸駆動部
14 センサモジュール保持部
15 装置基板
16 突起部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転角度センサ内に設けられ、互いに90度離れて配置された第1及び第2の磁気センサの出力値から角度データを取得するための角度データ作成方法において、
前記角度データを初期化操作によって決定するに際し、角度データ取得用の回転部材を回転角度センサモジュールに挿入して回転させ、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値とからなる配位ベクトルを、前記回転部材の前記回転角度センサモジュールへの抜き差し操作により求める第1のステップと、
該第1のステップにおいて求められた配位ベクトルの2次元ベクトル分布を調べ、該ベクトル分布から前記角度データ作成用の回転データを取得するのに適切な配位ベクトルの選択範囲を決定する第2のステップとを有し、
角度データ作成のための実測操作において、前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内にあるときの回転データに基づいて前記角度データを作成することを特徴とする角度データ作成方法。
【請求項2】
前記実測操作は、
前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入して回転させ、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値とからなる配位ベクトルを求める第3のステップと、
該第3のステップにおいて求められた配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内にあるかどうかを判断し、前記選択範囲にあるときの回転データを取得する第4のステップと、
該第4のステップにおいて取得された回転データに基づいて角度データを作成する第5のステップと
を有することを特徴とする請求項1に記載の角度データ作成方法。
【請求項3】
前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲の中心に位置するときは、その位置で角度データ用の回転データを取得して角度データを作成することを特徴とする請求項1又は2に記載の角度データ作成方法。
【請求項4】
前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内の円周上に位置するときは、複数の角度データ用の回転データを取得し、該複数の角度データ用の回転データに基づいて角度データを作成することを特徴とする請求項1又は2に記載の角度データ作成方法。
【請求項5】
前記複数の角度データ用の回転データについて平均化処理を行って角度データを作成することを特徴とする請求項4に記載の角度データ作成方法。
【請求項6】
前記平均化処理は、前記配位ベクトル点の分布状況により重み付けすることを特徴とする請求項5に記載の角度データ作成方法。
【請求項7】
前記角度データは、前記第1の磁気センサデータ及び前記第2の磁気センサデータの比と、該比を求めた時点の角度に対応づけられてデータ化したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の角度データ作成方法。
【請求項8】
前記第1のステップと前記第2のステップを同時並行的に実施することを特徴とする請求項1に記載の角度データ作成方法。
【請求項9】
前記初期化操作における第1のステップと、前記実測操作における第3及び第4のステップとを同時並行的に実施することを特徴とする請求項2に記載の角度データ作成方法。
【請求項10】
前記第2のステップにおいて、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値との空間をメッシュ化し、前記第1のステップで求められた配位ベクトルがどのメッシュにあるかを調べることによりベクトル分布を調べることを特徴とする請求項1に記載の角度データ作成方法。
【請求項11】
前記磁気センサとしてホール素子を用いたことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の角度データ作成方法。
【請求項12】
前記角度データは、ROMテーブルとして記憶されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の角度データ作成方法。
【請求項1】
回転角度センサ内に設けられ、互いに90度離れて配置された第1及び第2の磁気センサの出力値から角度データを取得するための角度データ作成方法において、
前記角度データを初期化操作によって決定するに際し、角度データ取得用の回転部材を回転角度センサモジュールに挿入して回転させ、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値とからなる配位ベクトルを、前記回転部材の前記回転角度センサモジュールへの抜き差し操作により求める第1のステップと、
該第1のステップにおいて求められた配位ベクトルの2次元ベクトル分布を調べ、該ベクトル分布から前記角度データ作成用の回転データを取得するのに適切な配位ベクトルの選択範囲を決定する第2のステップとを有し、
角度データ作成のための実測操作において、前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内にあるときの回転データに基づいて前記角度データを作成することを特徴とする角度データ作成方法。
【請求項2】
前記実測操作は、
前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入して回転させ、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値とからなる配位ベクトルを求める第3のステップと、
該第3のステップにおいて求められた配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内にあるかどうかを判断し、前記選択範囲にあるときの回転データを取得する第4のステップと、
該第4のステップにおいて取得された回転データに基づいて角度データを作成する第5のステップと
を有することを特徴とする請求項1に記載の角度データ作成方法。
【請求項3】
前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲の中心に位置するときは、その位置で角度データ用の回転データを取得して角度データを作成することを特徴とする請求項1又は2に記載の角度データ作成方法。
【請求項4】
前記回転部材を前記回転角度センサモジュールに挿入したときの配位ベクトルが、前記第2のステップにおける前記選択範囲内の円周上に位置するときは、複数の角度データ用の回転データを取得し、該複数の角度データ用の回転データに基づいて角度データを作成することを特徴とする請求項1又は2に記載の角度データ作成方法。
【請求項5】
前記複数の角度データ用の回転データについて平均化処理を行って角度データを作成することを特徴とする請求項4に記載の角度データ作成方法。
【請求項6】
前記平均化処理は、前記配位ベクトル点の分布状況により重み付けすることを特徴とする請求項5に記載の角度データ作成方法。
【請求項7】
前記角度データは、前記第1の磁気センサデータ及び前記第2の磁気センサデータの比と、該比を求めた時点の角度に対応づけられてデータ化したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の角度データ作成方法。
【請求項8】
前記第1のステップと前記第2のステップを同時並行的に実施することを特徴とする請求項1に記載の角度データ作成方法。
【請求項9】
前記初期化操作における第1のステップと、前記実測操作における第3及び第4のステップとを同時並行的に実施することを特徴とする請求項2に記載の角度データ作成方法。
【請求項10】
前記第2のステップにおいて、基準設定角度0度のときの前記第1の磁気センサの出力値と、前記基準設定角度から90度回転させたときの前記第2の磁気センサの出力値との空間をメッシュ化し、前記第1のステップで求められた配位ベクトルがどのメッシュにあるかを調べることによりベクトル分布を調べることを特徴とする請求項1に記載の角度データ作成方法。
【請求項11】
前記磁気センサとしてホール素子を用いたことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の角度データ作成方法。
【請求項12】
前記角度データは、ROMテーブルとして記憶されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の角度データ作成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−47199(P2006−47199A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231162(P2004−231162)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
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