説明

角線被膜除去方法及び装置

【課題】角線の導通部の絶縁被膜層の剥離を行うと同時に、導通部の変形加工も行うことができ、角線の導通部同士を接合するための生産効率を向上させることができる角線被膜除去方法及び装置を提供すること。
【解決手段】絶縁被膜層82を除去するに当たっては、導通部84の第1側面801と荷重受部21の上面211との間に隙間Sを形成した状態で、プッシャー3によって角線8をダイス2に押さえ込む。そして、ダイス2にパンチ4を接近させて、角線8の導通部84において第1側面801に直交する互いに平行な一対の第2側面802の絶縁被膜層82を除去する。このとき、パンチ4によって、導通部84の第1側面801を荷重受部21の上面211に押し当てるように導通部84を隙間Sの分だけ変形させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体層の表面に絶縁被膜層を有する角線について、その導通部における絶縁被膜層を除去する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、回転電機のステータを構成するコイル導体においては、コイル導体がステータコアのスロットにおいて占める面積を増大させるために、断面略四角形状の角線が用いられることがある。この角線は、通常の丸線と同様に、導体層の表面に絶縁被膜層を形成してなる。
角線同士を結合する際には、この結合を行う導通部の絶縁被膜層を除去し、導通部の導体層同士を対面させて、溶接、半田付け等を行って接合している。
【0003】
例えば、特許文献1の被膜導体線の被膜剥離方法においては、略四角形の断面を有する被膜導体線の被膜を部分的に剥離する際に、一対の側面に対して切削刃を移動させることにより、被膜と導体線の一部を除去することが記載されている。そして、結合力の大きい被膜でも、被膜剥離後の導体表面に被膜が残ったり導体を削り過ぎたりしないようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−209319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、角線の導通部は、角線の端部において、リード端子、中性点端子等を設ける場合以外にも、角線同士を接合する場合に設けることもある。この場合、角線の導通部は、絶縁被膜層の除去を行った分だけ、他の一般部よりも細くなっている。そのため、絶縁被膜層の除去を行った後には、導通部同士を対面させるために、この導通部に変形加工を行う必要があった。従って、角線の導通部同士を接合するための生産効率を向上させるためには更なる工夫が必要とされる。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、角線の導通部の絶縁被膜層の剥離を行うと同時に、導通部の変形加工も行うことができ、角線の導通部同士を接合するための生産効率を向上させることができる角線被膜除去方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、導体層の表面に絶縁被膜層を有する断面略四角形状の角線について、その導通部における上記絶縁被膜層を除去する方法であって、
上記角線を載置するダイスと、該ダイスに対して上記角線を押さえ込むプッシャーと、上記ダイスに対して接近して該ダイスとともに上記角線の導通部における上記絶縁被膜層を除去するパンチとを用い、上記ダイスには、上記角線の導通部における第1側面に対向させる荷重受部を形成しておき、
上記第1側面と上記荷重受部の上面との間に隙間を形成した状態で、上記プッシャーによって上記角線を上記ダイスに押さえ込み、
上記ダイスに上記パンチを接近させて、上記角線の導通部において上記第1側面に直交する互いに平行な一対の第2側面の上記絶縁被膜層を除去するとともに、上記第1側面を上記荷重受部の上面に押し当てるように上記導通部を上記隙間分だけ変形させることを特徴とする角線被膜除去方法にある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、上記角線被膜除去方法に用いる装置であって、
上記ダイスに対して、上記プッシャーを接近させた後に上記パンチを接近させるよう構成してあり、
上記荷重受部は、上記ダイスにおいて陥没形成した一対の陥没空間の間に残された部分として形成してあり、
上記パンチは、上記荷重受部の両側において上記一対の陥没空間内に進入する一対の切刃角部を有していることを特徴とする角線被膜除去装置にある(請求項6)。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明の角線被膜除去方法においては、荷重受部を形成したダイス、プッシャー及びパンチを用いる。
そして、角線の導通部における一対の第2側面の絶縁被膜層を除去するに当たっては、角線の導通部における第1側面と荷重受部の上面との間に隙間を形成した状態で、プッシャーによって角線をダイスに押さえ込む。
次いで、ダイスにパンチを接近させて、角線の導通部において第1側面に直交する互いに平行な一対の第2側面の絶縁被膜層を除去する。このとき、角線の導通部は、パンチによる加圧力を受けて、導通部の第1側面と荷重受部の上面との間に形成された隙間の分だけ下方に変形することになる。そして、導通部の第1側面は、荷重受部の上面に押し当てられ、導通部は、この上面に沿って変形する。なお、導通部とは、絶縁被膜層を除去して、導体層を露出させる部分のことをいう。
【0010】
このように、本発明においては、導通部における一対の第2側面の絶縁被膜層を除去するときに、角線の一般部における第1側面に対する、導通部の第1側面の位置をオフセットさせることができる。そのため、角線の導通部同士を対面させて接合する際には、導通部の第1側面同士を対面させることにより、この接合を効率的に行うことができる。
【0011】
それ故、第1の発明の角線被膜除去方法によれば、角線の導通部の絶縁被膜層の剥離を行うと同時に、導通部の変形加工も行うことができ、角線の導通部同士を接合するための生産効率を向上させることができる。
【0012】
第2の発明の角線被膜除去装置によれば、上記荷重受部及び上記パンチの構成により、上記角線被膜除去方法による作用効果をより適切に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例における、2本の角線の導通部における第1側面同士を対面させた状態を示す斜視図。
【図2】実施例における、角線被膜除去装置を正面から見た状態で示す説明図。
【図3】実施例における、角線被膜除去装置を上面から見た状態で示す説明図。
【図4】実施例における、角線被膜除去装置を図3のA−A線矢視方向から見た状態で示す断面図。
【図5】実施例における、角線をダイスに載置した状態の角線被膜除去装置を、角線の導通部の周辺について拡大して示す断面図。
【図6】実施例における、ダイスの上面に形成した保持溝に対し、角線の一般部をプッシャーによって押さえ込んだ状態を示す断面図。
【図7】実施例における、他の角線被膜除去装置について、角線の導通部の周辺を拡大して示す断面図。
【図8】実施例における、プッシャーの下面が角線の一般部を押さえ込む状態を、角線の導通部の周辺について拡大して示す断面図。
【図9】実施例における、図8の状態を、正面から見た状態で示す断面図。
【図10】実施例における、パンチの一対の切刃角部が角線の導通部に接触する状態を、角線の導通部の周辺について拡大して示す断面図。
【図11】実施例における、パンチによって角線の導通部における一対の第2側面の絶縁被膜層を除去した状態を、角線の導通部の周辺について拡大して示す断面図。
【図12】実施例における、図11の状態を、正面から見た状態で示す断面図。
【図13】実施例における、角線の中間部を切断して、2本の角線の端部を形成した状態を示す断面図。
【図14】実施例における、他の角線被膜除去装置を、正面から見た状態で示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述した第1、第2の発明の角線被膜除去方法及び装置における好ましい実施の形態につき説明する。
第1の発明において、上記一対の第2側面の上記絶縁被膜層の除去は、上記第1側面と、該第1の側面と平行な第3の側面との上記絶縁被膜層を除去した後に行い、上記導通部を変形させる量は、上記第1側面の上記絶縁被膜層を除去する際に削り取った厚み分とすることが好ましい(請求項2)。
この場合には、2本の角線の導通部同士を接合する際に、角線の一般部における第1側面同士を対面させることにより、導通部の第1側面同士も対面させることができる。そのため、導通部同士の接合を一層簡単に行うことができる。
【0015】
なお、上記第1側面の上記絶縁被膜層を除去する際に削り取った厚み分は、第1側面の絶縁被膜層の厚みとほぼ同一とするだけでなく、絶縁被膜層の厚みに対して、第1側面の絶縁被膜層を除去する際に同時に除去された導体層の一部の厚み分を加算したものとすることができる。
また、上記導通部を変形させる量は、第1側面の絶縁被膜層を除去する際に削り取った厚み分として、0.05〜0.1mmとすることができる。
【0016】
また、上記一対の第2側面の上記絶縁被膜層を除去する際には、上記導通部における上記導体層の一部も同時に除去することが好ましい(請求項3)。
この場合には、導通部における一対の第2側面の絶縁被膜層をより確実に除去することができる。
【0017】
また、上記導通部は、上記角線の端部とすることができる(請求項4)。
この場合には、角線の端部に対して、変形加工を行った導通部を容易に形成することができる。
【0018】
また、上記導通部は、上記角線の長手方向の中間部とすることもできる(請求項5)。
この場合には、角線の長手方向の中間部に対して変形加工を行った導通部を形成し、その後、この中間部において角線を切断することにより、変形加工を行った導通部を2つの角線の端部に形成することができる。そのため、導通部を形成するための生産効率を向上させることができる。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明の角線被膜除去方法及び装置にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例の角線被膜除去方法は、図1に示すごとく、導体層81の表面に絶縁被膜層82を有する断面略四角形状の角線8について、その導通部84における絶縁被膜層82を除去する方法である。ここで、導通部84とは、絶縁被膜層82を除去して、導体層81を露出させる部分のことをいう。
この角線被膜除去方法においては、図2〜図4に示すごとく、角線8を載置するダイス2と、ダイス2に対して角線8を押さえ込むプッシャー3と、ダイス2に対して接近してダイス2とともに角線8の導通部84における絶縁被膜層82を除去するパンチ4とを備えた角線被膜除去装置1を用いる。ダイス2には、角線8の導通部84における第1側面801に対向させる荷重受部21を形成しておく。
【0020】
絶縁被膜層82を除去するに当たっては、図5、図6、図8、図9に示すごとく、導通部84の第1側面801と荷重受部21の上面211との間に隙間Sを形成した状態で、プッシャー3によって角線8をダイス2に押さえ込む。そして、図10〜図12に示すごとく、ダイス2にパンチ4を接近させて、角線8の導通部84において第1側面801に直交する互いに平行な一対の第2側面802の絶縁被膜層82を除去する。このとき、パンチ4によって、導通部84の第1側面801を荷重受部21の上面211に押し当てるように導通部84を隙間Sの分だけ変形させる。
【0021】
以下に、本例の角線被膜除去方法及び装置につき、図1〜図14を参照して詳説する。
図1は、2本の角線8の導通部84における第1側面801同士を対面させた状態を示す。同図に示すごとく、本例の角線8は、回転電機を構成するステータコアに配置するコイルを構成するものである。このコイルは、所定の形状及び長さに形成された角線8を、その導通部84において互いに接合して形成するものである。このコイルは、ステータコアのスロットに配置する部分を、ステータコアの軸方向端面の外方に配置する部分によって、所定のスロット数を空けてステータコアの軸方向の両側において交互に繋いで形成する波巻状のコイルである。
また、角線8は、角部にR部(曲面部)を有する四角断面形状を有するものである。
【0022】
図2は、角線被膜除去装置1を正面から見た状態で示し、図3は、角線被膜除去装置1を上面から見た状態で示し、図4は、角線被膜除去装置1を図3のA−A線矢視方向から見た状態の断面で示す。
各図に示すごとく、本例の角線被膜除去装置1は、ダイス2に対して、プッシャー3を接近させた後にパンチ4を接近させるよう構成してある。また、プッシャー3及びパンチ4は、ダイス2の上方に配設してあり、ダイス2に対して下降するよう構成してある。図4においては、パンチ4が下降したときの下降端を符号Xによって示す。
【0023】
図5は、角線8をダイス2に載置した状態の角線被膜除去装置1を、図4における角線8の導通部84の周辺について拡大して示す。
同図に示すごとく、本例の角線8の導通部84における第1側面801は、ダイス2に載置した角線8の導通部84における下面となり、角線8の導通部84における一対の第2側面802は、ダイス2に載置した角線8の導通部84における一対の側面となり、角線8の導通部84における第3側面803は、ダイス2に載置した角線8の導通部84における上面となる。
【0024】
図6は、ダイス2の上面に形成した保持溝22に対し、角線8の一般部80をプッシャー3によって押さえ込んだ状態を示す。
同図に示すごとく、ダイス2の上面には、角線8の一般部80を配置する保持溝22が直線状に形成してある。保持溝22は、底面221と、その両側に位置する一対の側面222とによって形成されている。保持溝22の底面221は、角線8の一般部80を載置する面となる。
【0025】
図3に示すごとく、本例のダイス2の荷重受部21は、保持溝22の形成方向における中間位置において、保持溝22の形成を分断するように形成してある。図4、図5に示すごとく、荷重受部21は、ダイス2において陥没形成した一対の陥没空間23の間に残された部分として形成してある。つまり、荷重受部21は、一対の陥没空間23の形成により、保持溝22における一対の側面222を除去して形成されている。荷重受部21において一対の陥没空間23に接する上方角部212が、角線8の導通部84における一対の第2側面802を位置させる部分となる。
【0026】
また、荷重受部21の上面211は、角線8の一般部80の第1側面(下面)801を受ける保持溝22の底面221と同じ高さに形成してある(図9参照)。
なお、荷重受部21の上面211は、保持溝22の底面221よりも若干低い位置(例えば、0.05〜1mm低い位置)に形成することもできる。この場合には、2本の角線8の一般部80における第1側面801同士の間に隙間を形成した状態で、導通部84における第1側面801同士を対面させることができる。
【0027】
図4、図5に示すごとく、パンチ4は、その下端部41に、一対の陥没空間23内に進入する一対の切刃角部42を有している。本例のパンチ4は、2つに分割して形成してある。一対の切刃角部42は、2つに分割したパンチ4の内側に位置する角部に形成してある。一対の切刃角部42は、ダイス2の荷重受部21において角線8の導通部84における一対の第2側面802が位置する側の上方角部212の形成ラインに沿って形成してある。図6に示すごとく、各切刃角部42は、荷重受部21の各上方角部212に近接する位置を下降して、導通部84における一対の第2側面802の絶縁被膜層82を除去するようになっている。
なお、パンチ4は、2つに分割する以外にも、下端部41に溝部を形成して、この溝部の左右両側に一対の切刃角部42を形成することもできる。
【0028】
図2〜図4に示すごとく、本例の角線被膜除去装置1は、ダイス2に対して、第1スプリング61を介してプッシャー3を配置し、プッシャー3に対して第2スプリング62を介してパンチ4を配置してなる。角線被膜除去装置1は、ダイス2、プッシャー3及びパンチ4をセットにして形成したものである。また、本例の角線被膜除去装置1は、角線8の長手方向Lにおける中間部83に、導体層81を露出させる導通部84を形成するものである。
【0029】
プッシャー3は、圧縮バネからなる一対の第1スプリング61によって、ダイス2から離れる上方へ付勢された状態で、ダイス2に対する上方位置に対向して配置してある。ダイス2の上面とプッシャー3の下面との間には、角線8の出し入れを可能にする第1隙間T1が形成されている。プッシャー3には、パンチ4を挿通させて配置する挿通穴31が形成してある。本例の挿通穴31は、2つに分割したパンチ4をそれぞれ挿通させるよう2つ隣接して形成してある。
【0030】
図2に示すごとく、パンチ4は、パンチベース51の下方に取り付けてある。パンチベース51は、圧縮バネからなる一対の第2スプリング62によって、プッシャー3から離れる上方へ付勢された状態で、プッシャー3の上方に対向して配置してある。図4に示すごとく、パンチ4は、パンチベース51に取り付けられた状態で、その下端側部分がプッシャー3の挿通穴31に挿通されている。パンチベース51の下面とプッシャー3の上面との間には、プッシャー3に対してパンチベース51及びパンチ4を下降可能にする第2隙間T2が形成されている。
【0031】
図2に示すごとく、ダイス2、プッシャー3及びパンチベース51には、これらに形成した配置穴に一対のガイドロッド52が挿通してある。そして、プッシャー3及びパンチベース51は、一対のガイドロッド52に案内されてダイス2に接近するよう構成されている。
第1スプリング61は、第2スプリング62よりもバネ強度が低くなっており、パンチベース51を下降させるときには、第2スプリング62よりも先に圧縮変形するようになっている。
【0032】
本例の角線被膜除去装置1においては、ダイス2の保持溝22に角線8を載置した状態で、パンチベース51を下降させると、第1スプリング61が先に圧縮変形して、第1隙間T1をなくすようにプッシャー3がダイス2に対して角線8を押さえ込む。次いで、パンチベース51の下降を継続すると、第2スプリング62が圧縮変形して、第2隙間T2をなくすようにパンチベース51及びパンチ4が下降する。これにより、パンチ4の一対の切刃角部42が角線8の導通部84における一対の第2側面802に当接し、荷重受部21によって導通部84を受けた状態で、一対の第2側面802の絶縁被膜層82を除去することができる。
【0033】
本例の絶縁被膜除去方法においては、角線8の導通部84における4つの側面の絶縁被膜層82を除去する。
本例の角線被膜除去装置1による一対の第2側面802(ダイス2に載置した状態で横方向に位置する一対の側面)の絶縁被膜層82の除去は、他の角線被膜除去装置1Aを用いて、一対の第2側面802と直交する第1側面801(ダイス2に載置した状態の下面)及び第3側面803(ダイス2に載置した状態の上面)の絶縁被膜層82を除去した後に行う。
本例の角線8は、角部をR形状にした長方形の断面に形成されており、第1側面801及び第3側面803は、長方形の断面の短辺を構成し、一対の第2側面802は、長方形の断面の長辺を構成する。
【0034】
図7は、他の角線被膜除去装置1Aについて、角線8の導通部84の周辺を拡大して示す。
同図に示すごとく、他の角線被膜除去装置1Aは、ダイス2の保持溝22における一対の側面222の幅、荷重受部21の幅、保持溝22の深さ、パンチ4における一対の切刃角部42の間の幅が、角線被膜除去装置1と異なっている。具体的には、他の角線被膜除去装置1Aは、ダイス2の保持溝22における一対の側面222の幅、荷重受部21の幅、パンチ4における一対の切刃角部42の間の幅が、角線被膜除去装置1の場合よりも広く、保持溝22の深さが、角線被膜除去装置1の場合よりも浅く形成されている。
【0035】
そして、他の角線被膜除去装置1Aにおいて、角線8の第1側面801及び第3側面803を横方向に向けてダイス2に載置し、この角線8をプッシャー3によって保持した状態で、パンチ4とダイス2の荷重受部21とによって、導通部84における第1側面801及び第3側面803の絶縁被膜層82を除去する。このとき、第1側面801及び第3側面803の導体層81の一部も同時に除去する。図7においては、パンチ4が下降したときの下降端を符号Xによって示す。
【0036】
次いで、角線8の導通部84における一対の第2側面802の絶縁被膜層82を除去するに当たっては、図5に示すごとく、第1側面801及び第3側面803の絶縁被膜層82を除去した角線8を、角線被膜除去装置1におけるダイス2に載置する。このとき、角線8は、その一対の第2側面802を横方向に向け、その導通部84の第1側面801がダイス2の荷重受部21の上に対向する状態でダイス2の保持溝22に載置する。また、このとき、角線8の導通部84における第1側面801が削り取られていることにより、この第1側面801と荷重受部21の上面211との間に隙間Sが形成される(図9参照)。この隙間Sは、導通部84の第1側面801を削り取った厚み分、すなわち、第1側面801の絶縁被膜層82の厚み分に第1側面801の導体層81を削り取った分を加算した間隔として形成される。
【0037】
次いで、パンチベース51を下降させることにより、パンチ4及びプッシャー3をダイス2に接近させる。このとき、図6に示すごとく、第1スプリング61が圧縮変形して、プッシャー3の下面が角線8の一般部80をダイス2の保持部の底面221に押さえ込む。
ここで、図8、図9は、プッシャー3の下面が角線8の一般部80を押さえ込む状態を、角線8の導通部84の周辺について拡大して示す。図9は、図8に直交する正面から見た断面を示す。
【0038】
次いで、パンチベース51をさらに下降させると、第2スプリング62が圧縮変形し、図10に示すごとく、パンチ4の一対の切刃角部42が、角線8の導通部84における左右両側に位置する部分に接触する。このとき、角線8の導通部84は、パンチ4による加圧力を受けて下方に押され、導通部84の第1側面801と荷重受部21の上面211との間に形成された隙間Sの分だけ下方に変形することになる。
ここで、図10は、パンチ4の一対の切刃角部42が角線8の導通部84に接触する状態を、角線8の導通部84の周辺について拡大して示す。
【0039】
そして、図11、図12に示すごとく、導通部84の第1側面801は、荷重受部21の上面211に押し当てられ、導通部84の第1側面801は、この上面211に沿った形状となる。導通部84の第1側面801は、角線8の一般部80の第1側面801と平行に、この一般部80の第1側面801よりも下方に位置する。なお、導通部84が変形する量は、導通部84の第1側面801を削り取った厚み分となる。各図においては、導通部84の変形を矢印Hによって示す。
【0040】
こうして、導通部84の第1側面801が荷重受部21の上面211によって受け止められた状態で、パンチ4の一対の切刃角部42が角線8の導通部84における一対の第2側面802の絶縁被膜層82を除去する。また、この除去を行う際には、導通部84における導体層81の一部も同時に除去する。
ここで、図11、図12は、パンチ4によって角線8の導通部84における一対の第2側面802の絶縁被膜層82を除去した状態を、角線8の導通部84の周辺について拡大して示す。図12は、図11に直交する正面から見た断面を示す。
【0041】
このように、本例においては、導通部84における一対の第2側面802の絶縁被膜層82を除去するときに、角線8の一般部80における第1側面801に対する、導通部84の第1側面801の位置を下方にオフセットさせることができる。
その後、図1に示すごとく、2本の角線8の導通部84同士を対面させて接合する際には、角線8の一般部80における第1側面801同士を対面させることにより、導通部84における第1側面801同士も対面させることができる。そのため、導通部84における第1側面801同士の間に隙間が形成されず、この第1側面801同士の接合を安定して行うことができる。
【0042】
図13は、角線8の中間部83を切断して、2本の角線8の端部を形成した状態を示す。
同図に示すごとく、本例においては、角線8の長手方向Lの中間部83に対して変形加工を行った導通部84を形成し、その後、この中間部83において角線8を切断する。これにより、変形加工を行った導通部84を2つの角線8の端部に形成することができる。
本例の角線被膜除去方法及び装置1によれば、角線8の導通部84の絶縁被膜層82の剥離を行うと同時に、導通部84の変形加工も行うことができ、2本の角線8の導通部84同士を接合するための生産効率を向上させることができる。
【0043】
なお、図14は、上述した角線被膜除去装置1とは構造が異なる他の角線被膜除去装置1Bを、図12に相当する図として示す。
同図に示すごとく、角線被膜除去装置1は、角線8の端部を導通部84として、この導通部84における一対の第2側面802の絶縁被膜層82の除去を行うこともできる。この場合の角線被膜除去装置1の構造は、ダイス2及びパンチ3の側方の端部において、一対の第2側面802の絶縁被膜層82を除去する構造となる。
【符号の説明】
【0044】
1 角線被膜除去装置
2 ダイス
21 荷重受部
23 陥没空間
3 プッシャー
4 パンチ
42 切刃角部
8 角線
80 一般部
801 第1側面
802 第2側面
803 第3側面
81 導体層
82 絶縁被膜層
83 中間部
84 導通部
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体層の表面に絶縁被膜層を有する断面略四角形状の角線について、その導通部における上記絶縁被膜層を除去する方法であって、
上記角線を載置するダイスと、該ダイスに対して上記角線を押さえ込むプッシャーと、上記ダイスに対して接近して該ダイスとともに上記導通部における上記絶縁被膜層を除去するパンチとを用い、上記ダイスには、上記導通部における第1側面に対向させる荷重受部を形成しておき、
上記第1側面と上記荷重受部の上面との間に隙間を形成した状態で、上記プッシャーによって上記角線を上記ダイスに押さえ込み、
上記ダイスに上記パンチを接近させて、上記導通部において上記第1側面に直交する互いに平行な一対の第2側面の上記絶縁被膜層を除去するとともに、上記第1側面を上記荷重受部の上面に押し当てるように上記導通部を上記隙間分だけ変形させることを特徴とする角線被膜除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載の角線被膜除去方法において、上記一対の第2側面の上記絶縁被膜層の除去は、上記第1側面と、該第1の側面と平行な第3の側面との上記絶縁被膜層を除去した後に行い、
上記導通部を変形させる量は、上記第1側面の上記絶縁被膜層を除去する際に削り取った厚み分とすることを特徴とする角線被膜除去方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の角線被膜除去方法において、上記一対の第2側面の上記絶縁被膜層を除去する際には、上記導通部における上記導体層の一部も同時に除去することを特徴とする角線被膜除去方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の角線被膜除去方法において、上記導通部は、上記角線の端部とすることを特徴とする角線被膜除去方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の角線被膜除去方法において、上記導通部は、上記角線の長手方向の中間部とすることを特徴とする角線被膜除去方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の角線被膜除去方法に用いる装置であって、
上記ダイスに対して、上記プッシャーを接近させた後に上記パンチを接近させるよう構成してあり、
上記荷重受部は、上記ダイスにおいて陥没形成した一対の陥没空間の間に残された部分として形成してあり、
上記パンチは、上記一対の陥没空間内に進入する一対の切刃角部を有していることを特徴とする角線被膜除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−210001(P2012−210001A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71763(P2011−71763)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】