説明

解凍装置及び凍結保存装置

【課題】生体試料が封入された凍結保存用チューブに対して均一に解凍処理が行えると共に、確実にその識別符号を管理する。
【解決手段】解凍処理室1は、解凍処理ゾーン11と、加温ユニット部12に大きく分けられる。解凍処理ゾーン11には、バーコードラベルBLが貼られた凍結保存用チューブ7が固定されるチューブ固定治具111aと、そのバーコードラベルBLを読み取るための解凍処理用バーコードリーダー112とが備えられている。加温ユニット部12は、露点−40℃以下の乾燥ガスを解凍処理室1に導入するための乾燥ガス導入口GH1と、管路121aと、乾燥ガス導入口GH1から導入された乾燥ガスを管路121aに送り込むための送風機122と、その送風機122の吹出口に設けられ、送り込まれる乾燥ガスを暖めるためのヒータ123と、管路121aを流れる乾燥ガスの温度を測定する温度センサー124とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解凍装置及び凍結保存装置に関し、特に、識別符号が付された凍結保存用チューブに封入された凍結生体試料の解凍装置及び凍結保存装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬・バイオ関連分野の基礎研究や畜産業界の現場においては、動物の精子、受精卵、細胞などの生体試料を凍結保存用チューブに封入した状態で凍結保存している。そのとき、大量の凍結保存試料を確実に管理する目的で、凍結保存用チューブにバーコードラベルを貼付するとともに当該バーコードラベルを読み取るためのバーコードリーダーを近接して設置した凍結保存装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。これによると、数千個程度の凍結保存用チューブを取り扱う場合であってもその取り違えを解消し、かつ凍結保存用チューブの特定が短時間で実行可能となる。
【0003】
ところで、凍結保存用チューブ内に保存された凍結保存試料の解凍は、通常、凍結保存装置から取り出した凍結保存用チューブを一定温度に保持された温水に浸漬したり、ヒータなどで一定温度に加温されたアルミ製金属ブロックに凍結保存用チューブを直接接触させることによって行われている。
【0004】
なお、血液の液状成分である血漿パックの解凍装置として、温風を利用した装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−094359号公報
【特許文献2】特開2001−218817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術のうち、凍結保存試料を温水中にて解凍する技術においては、解凍処理中に凍結保存用チューブのキャップ部が緩み、凍結保存用チューブ内へ温水が混入するおそれがあり、試料の安全性や衛生面での懸念が生じる。また、凍結保存用チューブに貼り付けたバーコードラベルが温水中で剥がれることがあるため、試料の管理面においても問題がある。
【0007】
また、アルミ製金属ブロックへ直接接触させて解凍する方法では、凍結保存用チューブの形状毎に異なるブロックを使用する必要があった。凍結保存用チューブ形状によっては、ブロック面と凍結保存用チューブ表面の接触面に隙間が生じるために均一な解凍処理が出来ないことや、バーコードラベルの貼付ムラが原因で金型への挿入時に、ラベルを破損することがある。
【0008】
さらに、特許文献2に開示された装置では大気中での解凍のためバーコードラベル表面に大気中の水分が凝縮して水滴を生じ、バーコードラベル読み取り時に不具合を生じやすい。また、バッグの解凍に関する技術であり、凍結保存用チューブ等の少量容器内に入った凍結保存試料を個別に解凍する方法については記述がない。
【0009】
本発明は上述のような事情から為されたものであり、本発明の目的は、生体試料が封入された凍結保存用チューブに対して均一に解凍処理が行えると共に、確実にその識別符号を管理することができる解凍装置と、かかる解凍装置を備えた凍結保存装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、識別符号が付された凍結保存用チューブに封入された凍結生体試料の解凍装置であって、露点−40℃以下の乾燥ガスを加熱して温風を生成し、生成した温風が、前記凍結保存用チューブの周囲を均一に暖める温風生成吹付け手段と、前記識別符号を読み取る識別符号読み取り手段と、を備えることを特徴とする解凍装置である。
【0011】
請求項2にかかる発明は、前記温風生成吹付け手段が、前記凍結保存用チューブが載置されるベース部と、前記ベース部に回転同軸で固定された羽根車とを有するチューブ固定治具と、前記羽根車に吹き付けられる第一の温風と、前記凍結保存用チューブに吹き付けられる第二の温風とを生成する温風生成手段と、を備え、前記羽根車の回転により前記凍結保存用チューブは回転されつつ、前記第二の温風が吹き付けられることを特徴とする請求項1に記載の解凍装置である。
【0012】
請求項3にかかる発明は、前記温風生成吹付け手段が、前記凍結保存用チューブが載置されるベース部と、載置された凍結保存用チューブを所定のクリアランスを持って囲う透明固定筒と、前記ベース部に回転同軸で固定された羽根車と、を有するチューブ固定治具と、前記羽根車に吹き付けられる温風を生成する温風生成手段と、を備え、前記羽根車の回転により前記凍結保存用チューブは回転されつつ、前記羽根車を回転させた前記温風が、前記クリアランスを通過することを特徴とする請求項1に記載の解凍装置である。
【0013】
請求項4にかかる発明は、前記温風生成吹付け手段が、前記凍結保存用チューブが載置されると共に、導入した温風を旋回流として出力する旋回流発生部材とを有するチューブ固定治具と、載置された凍結保存用チューブを所定のクリアランスを持って囲う透明固定筒と、を有するチューブ固定治具と、前記前回流発生部材に導入される前記温風を生成する温風生成手段と、を備え、前記旋回流としての温風が、前記クリアランスを通過することを特徴とする請求項1に記載の解凍装置である。
【0014】
請求項5にかかる発明は、前記温風生成吹付け手段が、前記凍結保存用チューブが載置されるベース部を有するチューブ固定治具と、前記チューブ固定治具を回転させるためのモータと、前記凍結保存用チューブに吹き付けられる温風を生成する温風生成手段と、を備え、前記モータにより前記凍結保存用チューブは回転されつつ、前記温風が吹き付けられることを特徴とする請求項1に記載の解凍装置である。
【0015】
請求項6にかかる発明は、前記温風生成手段が、管路と、前記管路に乾燥ガスを導入させる送風機と、前記管路に導入された乾燥ガスを暖めて前記第一の温風及び第二の温風又は前記温風を生成するヒータと、を備えたことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の解凍装置である。
【0016】
請求項7にかかる発明は、凍結生体試料が封入されると共に識別符号が付された少なくとも1つの凍結保存用チューブを収容する凍結保存容器と、乾燥ガスで充満され、前記凍結保存容器に対する前記凍結保存用チューブの搬入出作業空間となる搬送移送室と、外部環境と前記搬送移送室との間に設けられ、前記凍結保存用チューブの受け渡しを行うためのパスボックスと、前記凍結保存用チューブに対する解凍処理を行うための解凍処理室と、を備えた凍結保存装置であって、前記解凍処理室は、露点−40℃以下の乾燥ガスを加熱して温風を生成し、生成した温風が、前記凍結保存用チューブの周囲を均一に暖める温風生成吹付け手段と、前記識別符号を読み取る識別符号読み取り手段とを有することを特徴とする凍結保存装置である。
【0017】
請求項8にかかる発明は、箱体を仕切り板で分割することにより、前記パスボックスと前記解凍処理室とが構成されていることを特徴とする請求項7に記載の凍結保存装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の解凍装置及び凍結保存装置によれば、生体試料が封入された凍結保存用チューブに対して均一に解凍処理が行えると共に、着霜しにくい乾燥ガス雰囲気下で識別符号読み取りを実行するため、確実にその識別符号を管理することができる。また、温水ではなく温風を使用しているので、識別符号が損傷を受けることなく、確実に読み取れ、また、温水が凍結保存用チューブ内に混入することがなく、安全かつ衛生的である。また、温風は、温水と比較して熱容量が小さいので、温度制御が容易で応答性もよく、生体試料の特性に応じた解凍処理条件の変更が容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(a)は、本発明の凍結保存装置における第1実施形態の概略側面図であり、同図(b)は、その概略平面図である。
【図2】第1実施形態における解凍処理室及びパスボックスの詳細構成の斜視図である。
【図3】第1実施形態における、凍結保存用チューブを均一に効率的に解凍するための詳細構成を示す図であり、同図(a)は、正面図であり、同図(b)は、同図(a)におけるチューブ固定治具のb−b’線についての断面図である。
【図4】第2実施形態における、凍結保存用チューブを均一に効率的に解凍するための詳細構成を示す図であり、同図(a)は、正面図であり、同図(b)は、同図(a)におけるチューブ固定治具のb−b’線についての断面図である。
【図5】第3実施形態における、凍結保存用チューブを均一に効率的に解凍するための詳細構成を示す図であり、同図(a)は、正面図であり、同図(b)は、同図(a)におけるチューブ固定治具のb−b’線についての断面図である。
【図6】第4実施形態における、凍結保存用チューブを均一に効率的に解凍するための詳細構成を示す図であり、同図(a)は、正面図であり、同図(b)は、同図(a)におけるチューブ固定治具のb−b’線についての断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した一実施形態である解凍装置について、これを備えた凍結保存装置と併せて、図面を用いて詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
<第1実施形態>
図1(a)は、本発明の凍結保存装置における第1実施形態の概略側面図であり、同図(b)は、その概略平面図である。図1(a)に示すように、凍結保存装置は、下部に凍結保存容器3が収納されており、上部は乾燥窒素ガスで充満された搬送移動室8が形成されている。試料が保存された凍結保存用チューブ7は、カップ状収納部6(図1には示さず、図2参照)に収納された状態でケーン(保持具)5に保持される。凍結保存用チューブ7を保持したケーン5は、三軸ロボット4により、任意の水平方向(xy軸方向)に移動制御される(凍結保存容器3内での保存箇所の選択)と共に、鉛直方向(z軸方向)に移動制御される(凍結保存容器3への挿入/取出し)(詳細には、例えば特許文献1参照)。
【0022】
ここで、凍結保存用チューブ7としては、容量1.8cc程度のキャップ付円筒容器などのチューブやバイアルなど、凍結保存可能であり、内部を密閉できる容器であればいかなるものでも利用できる。凍結保存用チューブ7の胴部72には、識別管理番号等の情報を記録したバーコードラベル(識別符号)BLが貼付されている(図2参照)。
【0023】
また、搬送移動室8内には、外部環境に接して設けられ、凍結された凍結保存用チューブ7の解凍処理を行うための解凍処理室1と、外部環境に接して設けられ、凍結保存用チューブ7の受け渡しを行うためのパスボックス2とが並設されている。また、後に詳述するが、解凍処理室1及びパスボックス2は、凍結保存用チューブ7を外部環境に取り出すための共通の扉92を有している。また、解凍処理室1の外部環境に面する外壁面には、解凍処理操作盤10が設けられている。
【0024】
図2は、解凍処理室1及びパスボックス2の詳細構成の斜視図である。
同図に示す通り、解凍処理室1及びパスボックス2は、物理的に、直方体形状の箱体9で一体的に構成され、仕切板91により画定されて構成されている。仕切板91は、解凍処理室1内の加温窒素ガスが、低温のパスボックス2へ侵入することを防ぐ役目を担っている。また、前述のように、解凍処理室1及びパスボックス2は、共通に、扉92を有しており、その扉92を開くと、それぞれの開口部PO1及びPO2が露呈する。また、前述のように、解凍処理室1の外部環境に面する外壁面には、解凍処理の開始や終了を指示入力するための各種スイッチが配置された解凍処理操作盤10が配されている。そこで、当該各種スイッチがオペレータにより操作されると、加温窒素ガスを解凍処理室ゾーン11へ供給するための開始信号や、加温窒素ガスの供給を停止するための終了信号が、制御部(図示略)に送られる。
【0025】
パスボックス2は、凍結前の凍結保存用チューブ7をケーン5のカップ状チューブ収納部6へセットする作業や、凍結後の凍結保存用チューブ7のカップ状チューブ収納部6からの取り外し作業を行うための内部空間を有すると共に、ケーン5をパスボックス2に対して入出庫させるための入出庫作業用孔WHと、凍結保存用チューブ7の保持/取り出し作業中にケーン5下部を凍結保存容器3内に一時的に保持するための挿入孔IHと、挿入孔IHの開口縁部に位置付けされた凍結保存用チューブ7に貼られたバーコードラベルBLを読み取るための凍結保存試料管理用バーコードリーダー21と、パスボックス2内に乾燥窒素ガスを導入するための乾燥ガス導入口GH2とを少なくとも備えている。
【0026】
一方、解凍処理室1は、解凍処理ゾーン11と、加温ユニット部12に大きく分けられる。解凍処理ゾーン11には、バーコードラベルBLが貼られた凍結保存用チューブ7が固定されるチューブ固定治具111aと、そのバーコードラベルBLを読み取るための解凍処理用バーコードリーダー(識別符号読み取り手段)112とが備えられている。また、詳細には、解凍処理用バーコードリーダー112は、凍結保存用チューブ7の解凍間違え防止や、どの凍結保存用チューブ7に対して解凍処理を行ったかの情報を蓄積するために設けられている。
【0027】
また、加温ユニット部12は、露点−40℃以下の乾燥ガスを解凍処理室1に導入するための乾燥ガス導入口GH1と、管路121aと、乾燥ガス導入口GH1から導入された乾燥ガスを管路121aに送り込むための送風機122と、その送風機122の吹出口に設けられ、送り込まれる乾燥ガスを暖めるためのヒータ123と、管路121aを流れる乾燥ガスの温度を測定する温度センサー124とを備えている。ここで、温度センサー124により測定された温度の情報をヒータ123に送られ、乾燥ガスの温度がフィードバック制御されるようになっている。なお、その具体的温度は、試料により最適とされる温度(例えば、35〜40℃程度)とする。また、乾燥ガスとしては、凍結保存容器3の冷熱用の窒素ガスを利用することが好適であるが、露点−40℃以下であれば特に制限はなく、乾燥空気等も利用できる。
【0028】
ここで、少なくとも管路121a、送風機122、及びヒータ123とで、温風生成手段を構成しており、その温風生成手段と、チューブ固定治具111aとで、温風生成吹付け手段を構成している。
【0029】
次に、図3を参照して、凍結保存用チューブ7を均一に効率的に解凍するための詳細構成を説明する。同図(a)は、正面図であり、同図(b)は、同図(a)におけるチューブ固定治具111aのb−b’線についての断面図である。
【0030】
図3(a)に詳細に示すように、凍結保存用チューブ7は、キャップ71と、チューブ胴部72とで構成されている。チューブ固定治具111aは、凍結保存用チューブ7が載置されるベース部1111と、そのベース部1111に載置された凍結保存用チューブ7の外周に当接してそれを支持する複数の固定ピン1112と、メッシュ状の固定筒1113と、固定筒1113の解凍処理用バーコードリーダー112に対向した部分に開けられた開口FOと、ベース部1111の下方に延設された回転軸に同軸で設けられた羽根車1114と、を少なくとも備えている。ここで、複数の固定ピン1112は、その高さが、チューブ7が倒れない程度(例えば10〜25mm)であり、その直径が、バーコードを識別するのに支障がない程度(例えばφ0.5〜1mm)であり、本数は、例えば6〜12本である。また、固定筒1113のメッシュの線径は、例えばφ0.5〜1mmであり、開口率は例えば60〜80%とする。同図に示すように、凍結保存用チューブ7は、その上部が固定筒1113からある程度突出した状態で、チューブ固定治具111aに収納される。
【0031】
一方、管路121aは内部で分岐し、チューブ固定治具111aに対向する側の端部において、羽根車1114の部分に対向した一の開口と、固定筒1113に対向した他の開口を形成している。なお、管路121aとチューブ固定治具111aとは、図3(a)に示すように離れていてもよいし、あるいは接触又は連結していてもよい。引き続く実施形態についても同様である。
【0032】
そこで、送風機122により管路121a内を搬送されてきた乾燥ガスのうち、上記一の開口から排出された乾燥ガスは羽根車1114部分に導入され、上記他の開口から排出された乾燥ガスは、固定筒1113のメッシュを介して、凍結保存用チューブ7のチューブ胴部72の部分に吹き付けられる。
【0033】
羽根車1114部分に導入された乾燥ガスは、羽根車1114を回転軸について回転させるので、その回転軸を介して連結したベース部1111も回転することとなり、ひいては凍結保存用チューブ7が回転することとなる。つまり、凍結保存用チューブ7が回転している状態で、管路121aの他の開口から排出された乾燥ガスが、固定筒1113のメッシュを介して、それに吹き付けられることとなる。なお、本実施形態におけるメッシュ状の固定筒1113は、凍結保存用チューブ7が乾燥ガスの風力によりベース部1111及び固定ピン1112から離脱してチューブ固定治具111aから脱落してしまうのを防止する機能を有する一方で、乾燥ガスが均一にチューブ胴部72に吹き付けられるようにする機能を有している。
【0034】
本実施形態においては、管路121a及びチューブ固定治具111aを上述のような構成としたことにより、凍結保存用チューブ7のチューブ胴部72の全体をムラなく加熱し、故に凍結保存用チューブ7内の凍結保存試料を均一に解凍処理できる。また、後述のモータを採用した場合と比較すると、その設置スペースが不要となるので、解凍処理室1の高さを低く抑えることができる。
【0035】
次に、図1乃至図3を参照しつつ、上述の第1実施形態の凍結保存装置の解凍処理室による解凍処理の手順について説明する。
【0036】
まず、オペレータは、凍結保存容器3に凍結保存された所望の凍結保存用チューブ7をパスボックス2内に呼び出す。具体的には、まず、図示しない入力装置に対して、その所望の凍結保存用チューブ7の識別管理番号を入力する。入力された識別管理番号は、図示しない制御装置に送られる。制御装置は、入力した識別管理番号に基づき、三軸ロボット4の把持ヘッドを、所望の凍結保存用チューブ7を含むケーン5の直上まで水平移動させ、次いで、下降させる。更に、制御装置は、把持ヘッドにより当該ケーン5の頭部を把持し、その後、把持ヘッドを上昇させるように制御する。かかる一連の動作により、所望の凍結保存用チューブ7を含むケーン5が、凍結保存容器3から引き抜かれる。
【0037】
引き続き、制御装置は、所望のケーン5を把持した把持ヘッドをパスボックス2の入出庫作業用孔WHの直上まで移動させる。次に、その所望のケーン5を入出庫作業用孔WHに挿入し始める。そこで、制御装置は、所望の凍結保存用チューブ7が収納されたカップ状チューブ収納部6が、パスボックス2の挿入孔IHの開口縁部まで降下したとき、ケーン5の挿入を停止させる。停止後、パスボックス2内の凍結保存試料管理用バーコードリーダー21が、所望の凍結保存用チューブ7のチューブ胴部72に貼り付けられたバーコードラベルBLのバーコード情報を読み取り、その識別管理番号を制御装置に送る。
【0038】
次に、オペレータは、解凍処理室1及びパスボックス2の扉92を開け、所望の凍結保存用チューブ7をパスボックス2から取り出し、解凍処理室1に設置されたチューブ固定治具111aへ取り付ける。扉92が閉められると、解凍処理用バーコードリーダー112は、バーコードラベルBLのバーコード情報を読み取り、その識別管理番号を制御装置に送る。制御装置は、当該識別管理番号を、これから解凍処理を施す試料であることを示す情報として、図示しない記憶部に記憶させるとともに、チューブ固定治具111aにセットされた試料が適切か否かを照合する。これにより、例えばチューブ取り違えなどにより、所望のものでない試料に誤って解凍処理を施すようなことがなくなる。
【0039】
次に、解凍処理操作盤10を操作することにより、解凍処理を開始する。具体的には、例えば、前述の機構によりチューブ固定治具111aを風力で回転させながら、+37℃に温度制御された窒素ガス(乾燥ガス)をチューブ胴部72へ風速30m/s以下、例えば容量1.8mlの凍結保存用チューブ7が吹き飛ばされることを防ぐ観点では好ましくは5〜7m/sで送風接触させ、解凍処理を行う。
【0040】
所定時間経過後、オペレータは、解凍処理操作盤10に終了操作を行い、送風及び加温を停止させる。その後、再度、解凍処理用バーコードリーダー112は、バーコードラベルBLのバーコード情報を読み取り、その識別管理番号を制御装置に送る。制御装置は、当該識別管理番号を、先に記憶した識別管理番号と照合すると共に、解凍処理を完了した試料であることを示す情報として、記憶部に記憶させる。このように、解凍の前後それぞれにおいて、解凍処理用バーコードリーダー112による識別管理を行うことにより、試料に対して解凍処理を行ったか否かを確実に管理できる。また、万一、解凍処理中にチューブ固定治具111aから凍結保存用チューブ7が外れて解凍処理が完了しなかった場合、制御装置は、その情報を把握することができる。
【0041】
解凍処理完了後、オペレータは、扉92を開け、チューブ固定治具111aから凍結保存用チューブ7を外して取り出す。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の解凍装置及び凍結保存装置によれば、生体試料が封入された凍結保存用チューブ7に対して均一に解凍処理が行えると共に、着霜しにくい乾燥ガス雰囲気下で識別符号読み取りを実行するため、確実にその識別符号を管理することができる。また、温水ではなく温風を使用しているので、識別符号が損傷を受けることなく、確実に読み取れ、また、温水が凍結保存用チューブ7内に混入することがなく、安全かつ衛生的である。また、温風は、温水と比較して熱容量が小さいので、温度制御が容易で応答性もよく、生体試料の特性に応じた解凍処理条件の変更が容易に行える。
【0043】
<第2実施形態>
次に、本発明における第2実施形態を説明する。第2実施形態においては、管路とチューブ固定治具のみが、第1実施形態と異なる。凍結保存装置における他の構成は、第1実施形態と同じである。図4は、図3に対応する図であり、同図(a)は、正面図であり、同図(b)は、同図(a)におけるチューブ固定治具111bのb−b’線についての断面図である。この第2実施形態においては、羽根車1114を回転させるための乾燥ガスを凍結保存用チューブ7の解凍にも用いるところが、第1実施形態と概して異なる点である。以下、異なる点のみ説明する。
【0044】
チューブ固定治具111bは、凍結保存用チューブ7が載置されるベース部1111と、そのベース部1111に載置された凍結保存用チューブ7の外周に当接してそれを支持する複数の固定ピン1112と、透明固定筒1115と、ベース部1111の下方に延設された回転軸に同軸で設けられた羽根車1114と、を少なくとも備えている。透明固定筒1115は、羽根車1114の外周部分から凍結保存用チューブ7の側面を所定のクリアランスをもって囲っており、バーコードラベル読み取りのためアクリル樹脂等の透明材料からなる。所定のクリアランスは、例えば、1〜2mm程度とする。
【0045】
一方、管路121bは、チューブ固定治具111bに対向する側の端部において、羽根車1114の部分に対向した開口を形成している。
【0046】
そこで、管路121bの上記開口から排出された乾燥ガスは羽根車1114部分に導入され、第1実施形態と同様、羽根車1114を回転させ、それにより凍結保存用チューブ7を回転させる。更に、この第2実施形態においては、羽根車1114を回転させた乾燥ガスが、更に上記クリアランス部分を上昇する。つまり、凍結保存用チューブ7は、回転しつつ、クリアランス部分を上昇してきた乾燥ガスにより暖められる。
【0047】
従って、この第2実施形態においても、第1実施形態と同様、凍結保存用チューブ7のチューブ胴部72の全体をムラなく加熱し、故に凍結保存用チューブ7内の凍結保存試料を均一に解凍処理できる。また、後述のモータを採用した場合と比較すると、その設置スペースが不要となるので、解凍処理室1の高さを低く抑えることができる。
【0048】
なお、凍結保存装置の解凍処理室による解凍処理の手順については、第1実施形態と同様である。
【0049】
第2実施形態においては、少なくとも管路121b、送風機122、及びヒータ123とで、温風生成手段を構成しており、その温風生成手段と、チューブ固定治具111bとで、温風生成吹付け手段を構成している。
【0050】
<第3実施形態>
次に、本発明における第3実施形態を説明する。第3実施形態においても、管路とチューブ固定治具のみが、第1実施形態と異なる。凍結保存装置における他の構成は、第1実施形態と同じである。図5は、図3に対応する図であり、同図(a)は、正面図であり、同図(b)は、同図(a)におけるチューブ固定治具111cのb−b’線についての断面図である。この第3実施形態においては、凍結保存用チューブ7を回転させることなく、旋回流を発生させて凍結保存用チューブ7を解凍させることが、第1実施形態及び第2実施形態とは概して異なる点である。以下、異なる点のみ説明する。
【0051】
チューブ固定治具111cは、凍結保存用チューブ7が載置される台としての機能を有すると共に、外部から流入する気体を旋回流として排出する機構(外周に沿って設けられ、鉛直方向に対して傾斜した複数の貫通孔)を有する旋回流発生部材1116と、透明固定筒1115と、を少なくとも備えている。透明固定筒1115は、第2実施形態のものと同じである。なお、凍結保存用チューブ7を回転させないので、第1実施形態や第2実施形態のような固定ピンは必須ではないが、あってもよい。
【0052】
一方、管路121cは、第2実施形態の管路121bと同一構成であり、チューブ固定治具111cに対向する側の端部において、旋回流発生部材1116の部分に対向した開口を形成している。
【0053】
そこで、管路121cの上記開口から排出された乾燥ガスは旋回流発生部材1116部分に導入され、上記複数の貫通孔に導かれる。その複数の貫通孔は、上述のように、旋回流発生部材1116の外周部に設けられ、鉛直方向に対して所定の傾斜を有しているので、それらの孔を通過した乾燥ガスは、クリアランス部分を渦状に上昇し(その上昇角度は、例えば、10〜45度)、凍結保存用チューブ7を暖める。このように、本実施形態においては、乾燥ガスが渦状に旋回して上昇するので、第1及び第2実施形態のように、凍結保存用チューブ7を回転させる必要はない。
【0054】
上述のように、この第3実施形態においても、第1及び第2実施形態と同様、凍結保存用チューブ7のチューブ胴部72の全体をムラなく加熱し、故に凍結保存用チューブ7内の凍結保存試料を均一に解凍処理できる。また、後述のモータを採用した場合と比較すると、その設置スペースが不要となるので、解凍処理室1の高さを低く抑えることができる。
【0055】
なお、凍結保存装置の解凍処理室による解凍処理の手順については、第1実施形態と同様である。
【0056】
第3実施形態においては、少なくとも管路121c、送風機122、及びヒータ123とで、温風生成手段を構成しており、その温風生成手段と、チューブ固定治具111cとで、温風生成吹付け手段を構成している。
【0057】
<第4実施形態>
次に、本発明における第4実施形態を説明する。第4実施形態においては、管路とチューブ固定治具のみが、第1実施形態と異なる。凍結保存装置における他の構成は、第1実施形態と同じである。図6は、管路とチューブ固定治具の部分の正面図である。この第4実施形態においては、第1実施形態と比較して、チューブ固定治具111d(凍結保存用チューブ7)を回転させるための羽根車1114の代わりに、モータ113を採用した点が概して異なる。
【0058】
ベース部1111、複数の固定ピン1112、メッシュ状の固定筒1113、及び開口FOについては、第1実施形態のチューブ固定治具111aと同一である。しかしながら、ベース部1111は、回転軸を介してモータ113が取り付けられている。
【0059】
一方、管路121dについては、チューブ固定治具111dに対向する側の端部において、その端部全体に開口を有している。
【0060】
そこで、送風機122により管路121d内を搬送されてきた乾燥ガスは、全て、固定筒1113のメッシュを介して、凍結保存用チューブ7のチューブ胴部72の部分に吹き付けられる。
【0061】
モータ113の回転によりチューブ固定治具111dが回転することとなり、それにより凍結保存用チューブ7が回転することとなる。つまり、凍結保存用チューブ7が回転している状態で、管路121dの開口から排出された乾燥ガスが、固定筒1113のメッシュを介して、それに吹き付けられることとなる。なお、固定筒1113のメッシュの機能は、第1実施形態と同様である。
【0062】
上述のように、この第4実施形態においても、第1乃至第3実施形態と同様、凍結保存用チューブ7のチューブ胴部72の全体をムラなく加熱し、故に凍結保存用チューブ7内の凍結保存試料を均一に解凍処理できる。
【0063】
なお、凍結保存装置の解凍処理室による解凍処理の手順については、第1実施形態と同様である。
【0064】
第4実施形態においては、少なくとも管路121d、送風機122、及びヒータ123とで、温風生成手段を構成しており、その温風生成手段と、チューブ固定治具111dとで、温風生成吹付け手段を構成している。
【0065】
なお、以上の各実施形態における説明では、凍結保存装置の一部としての解凍処理室1を例として説明したが、同様の構成及び機能を有する、凍結保存装置とは、別体の独立した解凍装置であってもよい。
【0066】
また、識別管理番号等を示す符号としてバーコードを採用しているが、これに限らず、他の識別符号であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の解凍装置及び凍結保存装置は、動物の精子、受精卵、細胞などの生体試料の凍結保存及び解凍に採用できる。
【符号の説明】
【0068】
1・・・解凍処理室
11・・・解凍処理ゾーン
111a〜111d・・・チューブ固定治具
112・・・解凍処理用バーコードリーダー(識別符号読み取り手段)
12・・・加温ユニット部
121a〜121d・・・管路
2・・・パスボックス
21・・・凍結保存試料管理用バーコードリーダー
3・・・凍結保存容器
4・・・三軸ロボット
5・・・ケーン
6・・・カップ状収納部
7・・・凍結保存用チューブ
8・・・搬送移動室
9・・・箱体
10・・・解凍処理操作盤
BL・・・バーコードラベル(識別符号)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
識別符号が付された凍結保存用チューブに封入された凍結生体試料の解凍装置であって、
露点−40℃以下の乾燥ガスを加熱して温風を生成し、生成した温風が、前記凍結保存用チューブの周囲を均一に暖める温風生成吹付け手段と、
前記識別符号を読み取る識別符号読み取り手段と、を備えることを特徴とする解凍装置。
【請求項2】
前記温風生成吹付け手段は、
前記凍結保存用チューブが載置されるベース部と、前記ベース部に回転同軸で固定された羽根車とを有するチューブ固定治具と、
前記羽根車に吹き付けられる第一の温風と、前記凍結保存用チューブに吹き付けられる第二の温風とを生成する温風生成手段と、を備え、
前記羽根車の回転により前記凍結保存用チューブは回転されつつ、前記第二の温風が吹き付けられることを特徴とする請求項1に記載の解凍装置。
【請求項3】
前記温風生成吹付け手段は、
前記凍結保存用チューブが載置されるベース部と、載置された凍結保存用チューブを所定のクリアランスを持って囲う透明固定筒と、前記ベース部に回転同軸で固定された羽根車と、を有するチューブ固定治具と、
前記羽根車に吹き付けられる温風を生成する温風生成手段と、を備え、
前記羽根車の回転により前記凍結保存用チューブは回転されつつ、前記羽根車を回転させた前記温風が、前記クリアランスを通過することを特徴とする請求項1に記載の解凍装置。
【請求項4】
前記温風生成吹付け手段は、
前記凍結保存用チューブが載置されると共に、導入した温風を旋回流として出力する旋回流発生部材とを有するチューブ固定治具と、載置された凍結保存用チューブを所定のクリアランスを持って囲う透明固定筒と、を有するチューブ固定治具と、
前記前回流発生部材に導入される前記温風を生成する温風生成手段と、を備え、
前記旋回流としての温風が、前記クリアランスを通過することを特徴とする請求項1に記載の解凍装置。
【請求項5】
前記温風生成吹付け手段は、
前記凍結保存用チューブが載置されるベース部を有するチューブ固定治具と、
前記チューブ固定治具を回転させるためのモータと、
前記凍結保存用チューブに吹き付けられる温風を生成する温風生成手段と、を備え、
前記モータにより前記凍結保存用チューブは回転されつつ、前記温風が吹き付けられることを特徴とする請求項1に記載の解凍装置。
【請求項6】
前記温風生成手段は、
管路と、
前記管路に乾燥ガスを導入させる送風機と、
前記管路に導入された乾燥ガスを暖めて前記第一の温風及び第二の温風又は前記温風を生成するヒータと、を備えたことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の解凍装置。
【請求項7】
凍結生体試料が封入されると共に識別符号が付された少なくとも1つの凍結保存用チューブを収容する凍結保存容器と、
乾燥ガスで充満され、前記凍結保存容器に対する前記凍結保存用チューブの搬入出作業空間となる搬送移送室と、
外部環境と前記搬送移送室との間に設けられ、前記凍結保存用チューブの受け渡しを行うためのパスボックスと、
前記凍結保存用チューブに対する解凍処理を行うための解凍処理室と、を備えた凍結保存装置であって、
前記解凍処理室は、露点−40℃以下の乾燥ガスを加熱して温風を生成し、生成した温風が、前記凍結保存用チューブの周囲を均一に暖める温風生成吹付け手段と、前記識別符号を読み取る識別符号読み取り手段とを有することを特徴とする凍結保存装置。
【請求項8】
箱体を仕切り板で分割することにより、前記パスボックスと前記解凍処理室とが構成されていることを特徴とする請求項7に記載の凍結保存装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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